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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B62D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B62D
管理番号 1353202
異議申立番号 異議2019-700282  
総通号数 236 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-08-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-11 
確定日 2019-06-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6417053号発明「タイロッドエンド」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6417053号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1.手続の経緯
特許第6417053号の請求項1,2に係る特許についての出願は,2016年(平成28年)10月21日(優先権主張 2015年10月23日)を国際出願日とする出願であって,平成30年10月12日にその特許権の設定登録がされ,平成30年10月31日に特許掲載公報が発行された。これらの請求項1,2に係る特許について,特許異議申立人 吉田精孝(以下「異議申立人」という。)は,平成31年4月11日に特許異議の申立てを行った。

第2.本件発明
特許第6417053号の請求項1,2の特許に係る発明は,それぞれ,その特許請求の範囲の請求項1,2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
曲部を有しつつ棒状に延びた胴部と,前記胴部における一方の端部に設けられたタイロッドとの係合部と,前記胴部における他方の端部に設けられたナックルアームとの連結部と,を備え,車両を操舵する際に用いられる車両用操舵装置の一部を構成するタイロッドエンドにおいて,
前記胴部はアルミニウム温間鍛造材よりなり,
前記胴部は,前記車両に取り付けられた状態で,前記曲部の外側が当該車両の前方側を指向するように備わっており,前記胴部における車高方向の寸法は,前記曲部の外側と比べて前記曲部の内側の方が厚くなると共に,前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の内側の方が厚くなるように設定されている
ことを特徴とするタイロッドエンド。
【請求項2】
請求項1に記載のタイロッドエンドであって,
前記胴部における車高方向の寸法は,前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の外側の方が厚くなるように設定されている
ことを特徴とするタイロッドエンド。」

第3.申立理由の概要
1.特許異議申立人は,主たる証拠として,特開2004-210063号公報(「甲第1号証」,以下「甲1」という。)及び従たる証拠として,特開2012-223793号公報(「甲第2号証」,以下「甲2」という。),特開2015-182101号公報(「甲第3号証」,以下「甲3」という。),中国登録特許公報第103963566号(「甲第4号証」,以下「甲4」という。),及び,米国特許第6196563号明細書(「甲第5号証」,以下「甲5」という。)を提出し,請求項1に係る発明は,甲1発明に甲2,甲3の記載事項を適用することにより,請求項2に係る発明は,甲1発明に甲2から甲5の記載事項を適用することにより,当業者が容易に想到し得るものであるから,請求項1,2に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから,請求項1,2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。
2.特許異議申立人は,証拠として,特開2013-67317号公報(「甲第6号証」,以下「甲6」という。),特開2013-208986号公報(「甲第7号証」,以下「甲7」という。)を提出し,特許請求の範囲の記載が,特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから,請求項1,2に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4.甲各号証の記載
1.甲1の記載事項,甲1発明
(下線部は,当審で付した。以下同様。)
・「【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は,例えば自動車の懸架装置及び操舵装置等に使用されるアーム部材に関する。」
・「【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の如き形状のアーム部材101は,軸部102の両端部104,107の中心部O’1,O’2を繋ぐ作用線Sとは中心部O’3が一致しない異軸部103を有しているため,軸部102が直線状のアーム部材と比較して座屈強度が低くなっている。そのため,車輌走行中にタイヤが縁石にぶつかったりすると,タイヤから軸線方向の荷重がタイロッド53のアーム部材101に付与されるが,アーム部材101に座屈現象が起こると想定される荷重より低い荷重でアーム部材101が座屈してしまうということがあった。このとき,アーム部材101の異軸部103は湾曲しているため,異軸部103が作用線Sから離間する方向へ変形していた。ここで,座屈強度を高くするために軸部の径を大きくすることが考えられるが,アーム部材の重量が増加してしまう。
【0006】
従って本発明は上述の如き課題を解決し,軸部両端中心を結ぶ作用線と軸部中心が一致しない異軸部を有するアーム部材であっても,重量が増加することなく,軸線方向からの荷重に対して容易に変形しない,座屈強度が高いアーム部材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は以下の如き構成である。
【0008】
1 鍛造或いは鋳造により製造され,両端に各々一方端部及び他方端部を有する軸部が形成されるアーム部材であって,軸部には,両端部の中心部を結ぶ作用線に対して中心が不一致となる異軸部が形成され,異軸部の軸線垂直方向断面は,断面中心より作用線側の面積が断面中心より反作用線側の面積より大きい。」
・「【0011】
4 異軸部の軸線垂直方向断面形状は,断面中心より作用線側の面積が断面中心より反作用線側の面積より大きい略三角形である。」
・「【0013】
図1は車両(自動車)のステアリングのジョイント装置51及びその周辺の装置を表し,61は車輪71を支持する車輪支持体64とその車輪支持体64と車両の車体を連結・支持するアッパーアーム62及びロアアーム63とを備えるサスペンション装置である。また,車輪支持体64はタイロッド53及びタイロッド53に連結されるラックエンドを介してラック組立体52のラックの軸(図示せず)に接続される。そしてラックの軸のラック歯に,ステアリングホイール55から延びるステアリングシャフト54の端部に設けられるステアリングギア(図示せず)が噛合される。このようなステアリングによれば,ステアリングホイール55を回す回転運動がステアリングギア及びラック歯により,車幅方向の直進運動に変換され,車輪支持体64を引っぱり及び押圧して車輪71の向きを変える。
【0014】
上記の如きステアリング装置に使用されているタイロッド53には,アーム部材1が使用されている。このアーム部材1について,図を基に説明する。
【0015】
図2及び図5に示されるアーム部材1は金属製で,軸部2の一方端部4には軸線垂直方向に貫通する貫通孔6が形成される円筒部5を有し,他方端部7には図4に示す如く内側に雌螺子部8が形成されている。この軸部2は,一方端部4に形成される円筒部5の中心部O1と他方端部7に形成される雌螺子部8の中心部O2とを繋ぐ作用線Sとは中心部O3が不一致となる湾曲する異軸部3がアーム部材1に形成されている。円筒部5の貫通孔6には,図6に示す如く球状の球頭部74と球頭部74から突出する柄部73とを有するボールスタッド72と,球頭部74を揺動回動自在に包持するベアリング75とよりなるボールジョイント組立体71が,円筒部5の他方開口6bから挿入されて,一方開口6aからボールスタッド72の柄部73が突出し,他方開口6bには金属製の閉止板76がかしめ固定され,ボールジョイント部となる。また,他方端部7に形成された雌螺子部8には図示せぬラック軸部の雄螺子部が螺合される。」
・「【0018】
よって上記の如き形状のアーム部材1を使用したステアリング装置においては,アーム部材1の異軸部3が,中心部O3より作用線S側の面積の方が中心部O3より反作用側の面積より大きくなるように成形されているので,異軸部3における作用線S側の耐荷重性が反作用線側の耐荷重性より高くなっているので,異軸部3の耐荷重性が高くなり,座屈しにくくなる。」
・「【0020】
続いて,本発明によるアーム部材1の更に他の実施例を説明する。更に他の実施例におけるアーム部材1の異軸部3の軸線垂直方向断面は図3の(ウ)に示す如く略三角形で,異軸部3の中心部O3より作用線S側の面積が異軸部3の中心部O3より反作用線側の面積より大きい形状となっている。この場合も前記二つの実施例の場合と同様に重量の増加はない。
【0021】
よって以上のように本発明によれば,鍛造或いは鋳造により製造され,両端に各々一方端部3及び他方端部7を有する軸部2が形成されるアーム部材1であって,軸部2には,両端部3,7の中心部O1,O2を結ぶ作用線Sに対して中心部O3が不一致となる異軸部3が形成され,異軸部3の軸線垂直方向断面は,中心部O3より作用線S側の面積が反作用線側の面積と比較して大きいので,異軸部3においては中心部O3より作用線S側の部分が中心部O3より反作用線側の部分より高い荷重を受けることができる。」
・「【0026】
更にまた,異軸部の軸線垂直方向断面形状は,断面中心部より作用線側の面積が断面中心部より反作用線側の面積より大きい略三角形とすることにより,容易に本発明を実現できる。」
・「【図2】本発明の実施例によるアーム部材の部分断面平面図である。」
・「【図3】本発明の実施例によるアーム部材のA-A断面図であり,それぞれ異なる実施例を表す。」

・図2には,「軸部2は,湾曲する異軸部3の外側が図の上側に指向していること」が図示されている。

・段落【0013】の「車輪支持体64はタイロッド53及びタイロッド53に連結されるラックエンドを介してラック組立体52のラックの軸(図示せず)に接続される。」,段落【0015】の「軸部2の一方端部4には軸線垂直方向に貫通する貫通孔6が形成される円筒部5を有し,他方端部7には図4に示す如く内側に雌螺子部8が形成されている。」,「円筒部5の貫通孔6には,・・・ボールジョイント組立体71が,円筒部5の他方開口6bから挿入されて,・・・ボールジョイント部となる。」,「他方端部7に形成された雌螺子部8には図示せぬラック軸部の雄螺子部が螺合される。」の記載事項からみて,「軸部2の一方端部4に設けられ車輪支持体64とのボールジョイント部となる円筒部5の貫通孔6と,軸部2の他方端部7に形成されラック軸部の雄螺子部が螺合される雌螺子部8」が理解できる。

・段落【0015】の「この軸部2は,・・・湾曲する異軸部3がアーム部材1に形成されている。」の記載事項と図2の図示内容からみて,「湾曲する異軸部3が形成され棒状に延びたアーム部材1の軸部2」が理解できる。

・段落【0013】の「車両(自動車)のステアリング」,「このようなステアリングによれば,ステアリングホイール55を回す回転運動がステアリングギア及びラック歯により,車幅方向の直進運動に変換され,車輪支持体64を引っぱり及び押圧して車輪71の向きを変える。」,段落【0014】の「上記の如きステアリング装置に使用されているタイロッド53には,アーム部材1が使用されている。」の記載事項と図1の図示内容からみて,「車両の車輪71の向きを変える際に使用される車両のステアリング装置の一部を構成するタイロッド53」が理解できる。

・図2は平面図であるから図示されたタイロッド53のアーム部材1は,車輪支持体64側に接続される円筒部5の位置から車両の左前輪に用いられることが理解できる。
そうすると,図2の図示内容からみて「軸部2は,車両に取り付けられた状態で,前記湾曲する異軸部3の外側が当該車両の前方側を指向するように備わっていること」が理解できる。

そうすると,甲1には,以下の発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「湾曲する異軸部3が形成され棒状に延びたアーム部材1の軸部2と,前記軸部2の一方端部4に設けられ車輪支持体64とのボールジョイント部となる円筒部5の貫通孔6と,前記軸部2の他方端部7に形成されラック軸部の雄螺子部が螺合される雌螺子部8と,を備え,車両の車輪71の向きを変える際に使用される車両のステアリング装置の一部を構成するタイロッド53において,
前記軸部2が形成されるアーム部材1は,金属製であって,鍛造により製造され,
前記軸部2は,車両に取り付けられた状態で,前記湾曲する異軸部3の外側が当該車両の前方側を指向するように備わっており,前記軸部2における異軸部3の軸線垂直方向断面は略三角形で,異軸部3の中心部O3より作用線S側の面積が異軸部3の中心部O3より反作用線側の面積より大きい形状となっている,
タイロッド53。」

2.甲2の記載事項
・「【技術分野】
【0001】
本発明は,自動車などの車両に用いられるステアリング装置の一部を構成するタイロッドエンドの製造方法および同タイロッドエンドに関する。」
・「【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので,その目的は,より少ない種類の加工工程によって製造時間および製造コストを抑えて効率的にタイロッドエンドを製造することができるタイロッドエンドの製造方法および簡易な製造工程によっても必要な機械的強度を確保できるタイロッドエンドを提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するため,請求項1に係る本発明の特徴は,曲部を有しつつ棒状に延びる胴部と,胴部における一方の端部にボールスタッドのボール部を収容する筒状のソケット部とを有したタイロッドエンドの製造方法であって,直線状に延びる金属材料における一方の端部にソケット部を塑性加工により成形して中間成形体を得るソケット部成形工程と,中間成形体に対して,曲部およびソケット部から所定の距離を介した中間成形体の外表面の一部に長手方向に沿って圧縮変形させた圧縮変形部をそれぞれ塑性加工により成形して胴部を成形する胴部成形工程とを含むことにある。」
・「【0018】
・・・このタイロッドエンド100は,自動車などの車両(図示せず)におけるステアリング(操舵)機構において,タイロッドの先端部に設けられてステアリングギアボックス(ハンドルの回転変位を操舵輪の操舵方向に変換する歯車装置)とナックルアーム(操舵輪を保持する部品)とを連結して車両を操舵するための棒状の部品である。
【0019】
(タイロッドエンド100の構成)
タイロッドエンド100は,主として,胴部101とソケット部106とで構成されている。これらのうち,胴部101は,図示上側に凸状に屈曲した曲部102を有しつつ図示左右方向に延びる棒状の部分であり,一方(図示右側)の端部にソケット部106が設けられるとともに他方(図示左側)の端部に雌ネジ接続部103が設けられて構成されている。これらのうち,雌ネジ接続部103は,胴部101,すなわち,タイロッドエンド100を図示しないタイロッドの先端部に接続するための部分であり,タイロッドの先端部に設けられた図示しない雄ネジに噛み合う雌ネジで構成されている。」
・「【0024】
これら胴部101およびソケット部106によって構成されたタイロッドエンド100は,塑性加工可能な素材によって一体的に成形されている。本実施形態においては,タイロッドエンド100は,炭素含有量が0.25重量%の炭素鋼であるS25C(SC材)材で構成されている。なお,タイロッドエンド100は,塑性加工可能な材料で構成されていれば,S25C材以外の材料,例えば,軟鋼やステンレス材などの各種合金鋼またはアルミニウム材などの金属材料で構成することができる。」
・「【0026】
・・・本実施形態においては,鍛造機は,所謂冷間鍛造機を想定しているが,熱間鍛造機であってもよいことは,当然である。」
・「【0030】
次に,作業者は,製造工程3にて,曲部102および圧縮変形部104を成形して胴部101を仕上げ成形する。この胴部101の仕上げ成形工程においては,鍛造機は,図4(D)に示すように,曲部・圧縮変形部金型94を用いて曲部102および圧縮変形部104を成形する。」
・「【0035】
なお,このように製造されたタイロッドエンド組付体300は,ステアリング機構を構成する一部品として図示しないタイロッドの端部に連結され固定される。具体的には,タイロッドエンド組付体300は,タイロッドの端部に形成された雄ねじがタイロッドエンド100における胴部101の端部に形成された雌ネジ接続部103に噛合わされてねじ込まれることにより固定されてステアリング機構の一部となる。
【0036】
(タイロッドエンド100の作動)
このように構成されたタイロッドエンド100の作動について説明する。タイロッドエンド100を備えるタイロッドエンド組付体300は,図示しない車両におけるステアリング機構においてステアリングギアボックスとナックルアームとを連結する部材として用いられる。」

3.甲3の記載事項
・「【技術分野】
【0001】
この発明は,自動車などの車両に用いられるステアリング装置の一部を構成するタイロッドエンドを製造するタイロッドエンドの鍛造金型及びタイロッドエンドの製造方法並びにタイロッドエンドに関する。」
・「【0007】
この発明は,このような実情に鑑みてなされたもので,その目的は,製造コストを抑えて効率的に高品質のタイロッドエンドを製造することができるタイロッドエンドの鍛造金型及びタイロッドエンドの製造方法並びに必要な機械的強度を確保できるタイロッドエンドを提供することにある。」
・「【0029】
(タイロッドエンドの鍛造金型)
第1の実施の形態のタイロッドエンドの鍛造金型10は,炭素鋼またはアルミニウム合金等の金属からなる円柱の金属素材1に対して閉塞鍛造によりタイロッドエンド2を鍛造品として成形する鍛造金型である。

4.甲4の記載事項
({}内は当審による仮訳である。)
・「【0002】汽・前・又名前・梁,其截面分・采用工字形及矩形以提高抗弯及抗・・度」(簡略体で日本語にない漢字については「・」と表記した。)
{車の前車軸,又は,フロントアクスルビームは,その断面をI型及び長方形にすることで,曲げ及びねじりに対する強度を高めている。}

5.甲5の記載事項
({}内は当審による仮訳である。)
「1. Field of the Invention
The present invention relates to an apparatus and method for reducing moments of a reversible steering axle while substantially increasing ground clearance and strength of the reversible steering axle.」(明細書1欄8行?12行)
{1.発明の分野
本発明は,可逆的なステアリング車軸の地上高及び強度を実質的に増加させながら,可逆的なステアリング車軸のモーメントを低減するための装置および方法に関するものである。}
・「FIG. 5 illustrates how each curved region 34 has a substantially T-shaped cross section. Such a combination of predetermined relative widths W1, W2 and W3 and the varying of the third width W3 substantially increases the strength of steering axle 20 to compensate for any moments acting thereon.
As illustrated in FIG. 3, the cross-section of the central beam section is substantially I-shaped. On the other hand, as illustrated in FIGS. 4-5, the predetermined first, second and third widths W1, W2, and W3 have a magnitude such that the cross section of the steering axle 20 in the support pad regions 28 has substantially a T-shaped cross section. These cross sectional shapes of the steering axle 20 contribute to both the strength and stability of the steering axle 20 so that the steering axle 20 can endure the harsh forces that are often experienced in off-road environments.」(明細書6欄38?54行)
{図5は,湾曲領域34は,実質的にT字形の断面を有しているかを示している。このような組み合わせの所定の相対幅W1,W2およびW3と第3幅W3の変化は実質的にステアリング車軸20の強度は,その上に作用するあらゆるモーメントを補償するために増加する。
図3に示すように,中央ビーム・セクションの断面は実質的にI字形である。一方,図4,5に示されているように,第1,第2および第3の幅W1,W2,W3は,支持パッド領域28に,ステアリング車軸20の断面が実質的にT字型の断面の大きさを有する。ステアリング車軸20のこの断面形状は,ステアリング車軸20の安定性の両方に寄与するステアリング車軸20は,オフロード環境でしばしば経験される強力な力に耐えることができる。}

第5.当審の判断
1.特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
ア.対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると,後者の「湾曲する異軸部3」は前者の「曲部」に相当し,以下同様に,「軸部2」は「胴部」に,「一方端部4」は「他方の端部」に,「車輪支持体64」は「ナックルアーム」に,「ボールジョイント部となる円筒部5の貫通孔6」は「連結部」に,「他方端部7」は「一方の端部」に,「雌螺子部8」は「係合部」に,「車両の車輪71の向きを変える際」は「車両を操舵する際」に,「車両のステアリング装置」は「車両用操舵装置」に,それぞれ相当する。
後者の「湾曲する異軸部3が形成され棒状に延びたアーム部材1の軸部2」は前者の「曲部を有しつつ棒状に延びた胴部」に相当する。
後者の「前記軸部2の一方端部4に設けられ車輪支持体64とのボールジョイント部となる円筒部5の貫通孔6と,前記軸部2の他方端部7に形成されラック軸部の雄螺子部が螺合される雌螺子部8と」と前者の「前記胴部における一方の端部に設けられたタイロッドとの係合部と,前記胴部における他方の端部に設けられたナックルアームとの連結部と」とは,「前記胴部における一方の端部に設けられたステアリング機構の一部材との係合部と,前記胴部における他方の端部に設けられたナックルアームとの連結部と」である点において共通する。
後者の「タイロッド53」と前者の「タイロッドエンド」とは,「タイロッド構成部材」であることにおいて共通するから,後者の「車両の車輪71の向きを変える際に使用される車両のステアリング装置の一部を構成するタイロッド53」と前者の「車両を操舵する際に用いられる車両用操舵装置の一部を構成するタイロッドエンド」とは,「車両を操舵する際に用いられる車両用操舵装置の一部を構成するタイロッド構成部材」である点において共通する。
後者の「前記軸部2が形成されるアーム部材1は,金属製であって,鍛造により製造され」ることと前者の「前記胴部はアルミニウム温間鍛造材よりな」ることとは,「前記胴部は金属製鍛造材よりな」ることにおいて共通する。
後者の「前記軸部2は,車両に取り付けられた状態で,前記湾曲する異軸部3の外側が当該車両の前方側を指向するように備わって」いることは,前者の「前記胴部は,車両に取り付けられた状態で,前記曲部の外側が当該車両の前方側を指向するように備わって」いることに相当する。
甲1の図2,図3(ウ)の図示内容からみて,後者の「前記軸部2における異軸部3の軸線垂直方向断面は略三角形で,異軸部3の中心部O3より作用線S側の面積が異軸部3の中心部O3より反作用線側の面積より大きい形状となっている」ことと前者の「前記胴部における車高方向の寸法は,前記曲部の外側と比べて前記曲部の内側の方が厚くなると共に,前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の内側の方が厚くなるように設定されている」こととは,「前記胴部の一部における車高方向の寸法は,前記曲部の外側と比べて前記曲部の内側の方が厚くなると共に,前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の内側の方が厚くなるように設定されている」ことにおいて共通する。
そうすると,両者は,
「曲部を有しつつ棒状に延びた胴部と,前記胴部における一方の端部に設けられたステアリング機構の一部材との係合部と,前記胴部における他方の端部に設けられたナックルアームとの連結部と,を備え,車両を操舵する際に用いられる車両用操舵装置の一部を構成するタイロッド構成部材において,
前記胴部は金属製鍛造材よりなり,
前記胴部は,車両に取り付けられた状態で,前記曲部の外側が当該車両の前方側を指向するように備わっており,前記胴部の一部における車高方向の寸法は,前記曲部の外側と比べて前記曲部の内側の方が厚くなると共に,前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の内側の方が厚くなるように設定されている,
タイロッド構成部材。」
の点で一致し,以下の点で相違する。
<相違点1>
本件発明1では,係合部が「タイロッドとの係合部」である「タイロッドエンド」であるのに対して,引用発明は,係合部が「ラック軸部の雄螺子部が螺合される雌螺子部8」である「タイロッド53」である点。
<相違点2>
前記胴部は金属製鍛造材よりなることに関して,金属製鍛造材が,本件発明1では,「アルミニウム温間鍛造材」であるのに対して,引用発明では,それ以上の特定はなされていない点。
<相違点3>
「車高方向の寸法は,前記曲部の外側と比べて前記曲部の内側の方が厚くなると共に,前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の内側の方が厚くなる」ように設定されている部分が,本件発明1では,「前記胴部」であるのに対して,引用発明は,「軸部2における異軸部3」である点。
イ.相違点の検討
事案に鑑み,先に相違点2について検討する。
甲2の記載事項を検討すると,甲2には,タイロッドエンドを塑性加工可能なアルミニウム材で構成すること(段落【0024】の下線部参照。)や,塑性加工を冷間鍛造や熱間鍛造で行うこと(段落【0026】の下線部参照。)は記載されているものの,タイロッドエンドの胴部を温間鍛造で形成した「アルミニウム温間鍛造材」とすることは,記載されていない。
また,タイロッドエンドの胴部を温間鍛造で形成した「アルミニウム温間鍛造材」とすることは,異議申立人が提出した甲3ないし甲5のいずれにも記載されていない。
そして,相違点2に係る本件発明1の構成により,本件発明1は,「本発明の実施形態(変形例を含む)に係るタイロッドエンド29,29Aは,タイロッドエンド29の製造方法(アルミニウム温間鍛造技術)を用いたアルミニウム温間鍛造材により一体成形されるため,軽量かつ表面硬さの優れたタイロッドエンド29,29Aを得ることができる。特に,タイロッドエンド29の製造方法(アルミニウム温間鍛造技術)によれば,断面の肉厚が薄い部位では圧縮代が大きいため組織としてより高強度になる。要するに,車両前方側(外曲部61)の表面硬さをより硬くすることができるため,車両前方からの飛び石等による耐性を飛躍的に向上することができる。」(本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の段落【0045】参照。)という効果を奏するものである。
そうすると,その他の相違点を検討するまでもなく,本件発明1は,甲1発明に甲2ないし甲3記載の事項を適用しても,あるいは,甲1発明に甲2ないし甲5記載の事項を適用しても,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2について
本件発明2は,本件発明1の発明特定事項を全て含み,さらに発明特定事項を付加した発明であるから,本件発明1と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.特許法第36条第6項第2号について
特許異議申立人は,申立ての理由として,「本件の特許請求の範囲の請求項1第1行に『曲部』なる記載があるが,この曲部がどのような形状をしているか不明である。このため,『曲部の外側』や『曲部の内側』がどのような部位を示すのか不明である。
例えば,甲6号証や甲7号証には,『曲部を有しつつ棒状に延びた胴部』を備えたタイロッドエンドが開示されている。しかし,どこが『曲部の外側』であり,どこが『曲部の内側』となるのかが特定できない。
さらに,本件の特許請求の範囲の請求項1第8行に,『曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分』なる記載があるが,この『中央の部分』が具体的にどの部分を指すのかが発明の詳細な説明及び図面を参照しても不明である。
したがって,本件特許請求の範囲の記載は,特許を受けようとする発明が明確であるとはいえない。
請求項1を引用する請求項2についても同様である。
さらに,請求項2第2行にも『曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分』なる記載がある。しかし,この『中央の部分』が具体的にどの部分を指すのかが発明の詳細な説明及び図面を参照しても不明である。」(異議申立書11ページ下から7行?12ページ12行)と主張する。
しかしながら,「曲部」とは文字通り「曲がった部分」を意味し,本件明細書の段落【0024】に「胴部53は,図3A及び図4A?図4Cに示すように,曲部51及び棒状部52からなる。」と記載されており,「曲部51」と明記されると共に,図3A及び図4A?図4Cに「曲部51」が図示されていることから,「曲部」がどのような形状であるのかは,当業者には明確である。
また,本件明細書の段落【0025】には「タイロッドエンド29は,図2及び図3Aに示すように,曲部51の外側(凸側)である外曲部61が車両の前方側を指向するように配設される。外曲部61には,図3A及び図4A,図4Cに示すように,外曲部61に沿って延びるようにリブ部65が設けられている。要するに,本発明の実施形態に係るタイロッドエンド29では,図3B及び図5Bに示すように,車両に取り付けられた状態で,胴部53のうち曲部51における車高方向の寸法は,外曲部61と比べて曲部の内側である内曲部63の方が厚くなるように設定されている。」と記載されており,「曲部51の外側(凸側)である外曲部61」,「曲部の内側である内曲部63」と明記されると共に,「外曲部61」,「内曲部63」は図3A及び図4A,図4C,図3B及び図5Bに図示されており,「曲部」の「外側」,「曲部」の「内側」の語意どおりのものである。そうすると,「曲部の外側」や「曲部の内側」は語意どおりに理解されるものであって,どのような部位を示すのかは当業者には明確である。
さらに,図3B,図5Bからみて,外曲部61と内曲部63をつなぐ部分が,内曲部63や外曲部61より薄くなった部分となっており,当該部分が外曲部61と内曲部63との「中央の部分」といえる。そして,そのように解することは,本件発明1の「前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の内側の方が厚くなるように設定されている」という発明特定事項及び本件発明2の「前記曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分と比べて前記曲部の外側の方が厚くなるように設定されている」という発明特定事項に整合している。
したがって,「曲部の外側と内側とをつなぐ中央の部分」なる記載の「中央の部分」が具体的にどの部分を指すのかは,当業者には明確である。
そうすると,甲6,甲7を参照したところで,本件特許は,特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしており,異議申立人の上記申立ての理由は成り立たない。

第6.結び
以上のとおりであるから,特許異議申立書に記載した異議申立ての理由及び証拠によっては,本件請求項1,2に係る特許を取り消すことはできない。
また,他に本件請求項1,2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-19 
出願番号 特願2017-545830(P2017-545830)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B62D)
P 1 651・ 537- Y (B62D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 飯島 尚郎  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 岡▲さき▼ 潤
藤井 昇
登録日 2018-10-12 
登録番号 特許第6417053号(P6417053)
権利者 本田技研工業株式会社
発明の名称 タイロッドエンド  
代理人 特許業務法人磯野国際特許商標事務所  
代理人 斎藤 美晴  

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