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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 C22C 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C |
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管理番号 | 1353425 |
審判番号 | 不服2018-6049 |
総通号数 | 237 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-09-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-05-01 |
確定日 | 2019-07-30 |
事件の表示 | 特願2014-216550「耐食性に優れた船舶用溶接継手」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 5月19日出願公開、特開2016- 84489、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本件は、平成26年10月23日の出願であって、平成29年6月29日付けで拒絶理由通知がされ、同年8月21日付けで意見書が提出され、平成30年1月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、同年5月1日に拒絶査定不服審判の請求と同時に手続補正がされ、平成31年1月29日付けで審尋がされ、同年4月8日付けで回答書が提出されたものである。 第2 原査定の概要 原査定(平成30年4月6日付け拒絶査定)の概要は、以下のとおりである。 1 理由1(進歩性違反) 本件請求項1?6に係る発明は、その出願前に日本国内において頒布された下記の引用文献1?4に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <引用文献等一覧> 1.特開2012-135817号公報 2.特開2012-1810号公報(周知技術を示すために引用する文献) 3.特開2010-43342号公報(周知技術を示すために引用する文献) 4.特開2009-82948号公報(周知技術を示すために引用する文献) 2 理由2(サポート要件違反) 本件請求項1?6に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 第3 本件発明 本件請求項1?6に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明6」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、平成30年5月1日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「 【請求項1】 質量%で、C:0.04?0.30%、Si:0.05?1.0%、Mn:0.1?2.0%、P:0.04%以下(0%を含まない)、S:0.04%以下(0%を含まない)、Al:0.010?0.061%、Cu:0.10?1.0%、Cr:0.01?0.5%、N:0.010%以下(0%を含まない)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる厚鋼板を突き合わせ溶接してなる船舶用溶接継手であって、 溶接金属におけるCuおよびCrの含有量が下記式(1)および(2)を満足すると共に、前記溶接金属におけるCu、Cr以外の化学成分含有量が、質量%で、C:0.04?0.30%、Si:0.05?1.0%、Mn:0.1?2.0%、P:0.04%以下(0%を含まない)、S:0.04%以下(0%を含まない)、Al:0.010?0.10%、N:0.010%以下(0%を含まない)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、 更に、溶接された厚鋼板の圧延面と平行な板厚の1/2位置の断面における前記溶接金属の最大幅Wmaxと最小幅Wminの差が下記式(3)を満足することを特徴とする耐食性に優れた船舶用溶接継手。 [Cu]b×0.5と0.10%のうち大きい方≦[Cu]w≦[Cu]b×1.5・・・式(1) [Cr]b×0.5と0.01%のうち大きい方≦[Cr]w≦[Cr]b×1.5・・・式(2) Wmax-Wmin≦5mm・・・式(3) 但し、式(1)において、[Cu]wは溶接金属におけるCuの含有量(質量%)、[Cu]bは母材におけるCuの含有量(質量%)であり、式(2)において、[Cr]wは溶接金属におけるCrの含有量(質量%)、[Cr]bは母材におけるCrの含有量(質量%)である。 【請求項2】 前記厚鋼板が、更に、質量%で、Co:0.01?1.0%、Ni:0.01?1.0%、Mo:0.01?1.0%、W:0.01?1.0%の1種または2種以上を含有する請求項1に記載の耐食性に優れた船舶用溶接継手。 【請求項3】 前記厚鋼板が、更に、質量%で、Ti:0.001?0.05%、Zr:0.001?0.05%、Nb:0.001?0.05%の1種または2種以上を含有する請求項1または2に記載の耐食性に優れた船舶用溶接継手。 【請求項4】 前記厚鋼板が、更に、質量%で、Mg:0.0003?0.005%、Ca:0.0003?0.005%の1種または2種を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の耐食性に優れた船舶用溶接継手。 【請求項5】 前記厚鋼板が、更に、質量%で、Sn:0.005?0.20%、Sb:0.005?0.20%、Se:0.005?0.20%の1種または2種以上を含有する請求項1乃至4のいずれかに記載の耐食性に優れた船舶用溶接継手。 【請求項6】 前記厚鋼板が、更に、質量%で、B:0.0001?0.005%、V:0.001?0.1%の1種または2種を含有する請求項1乃至5のいずれかに記載の耐食性に優れた船舶用溶接継手。」 第4 理由1(進歩性違反)についての当審の判断 1 引用文献及び引用発明 (1)引用文献1について ア 引用文献1の記載事項 本件出願前に公知となった上記引用文献1には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。 (1a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、耐食性に優れた溶接継手および該溶接継手を含む溶接構造体に関する。本発明の溶接構造体は、例えば、石油類タンカー、貨物船、貨客船、客船、軍艦などの船舶や、石油類の貯蔵や輸送などの容器として用いられる石油類タンクなどに好適に用いられる。」 (1b)「【実施例】 【0116】 実施例1(本発明による第1の溶接継手の検討) 本実施例では、本発明による第1の溶接継手において、S値([AAl]/[BAl])、T値([ACu]/[BCu])、U値([ACr]/[BCr])と、耐食性との関係を調べた。なお、本実施例および後記する実施例では、いずれも、以下のようにして作製された試験片Bから試験片Dを用い、下記の腐食試験を行って評価した。 【0117】 (継手試験片Bの作製) 図1に示す継手試験片Bは、以下のようにして作製した。 【0118】 まず、表1に示す種々の成分組成(残部:Feおよび不可避不純物)を有する鋼材(母材)M1からM8を転炉で溶製し、連造鋳造および熱間圧延によって各種鋼板(サイズ約300mm×約300mm×約25mm)を作製した。得られた鋼板を2つに切断し、表面を研削することによって、図1に示す試験片A(サイズ約300mm×約150mm×約25mm)を2個作製した。 【0119】 このようにして得られた2個の試験片Aに対し、表2に示す種々の成分組成(残部:Feおよび不可避不純物)を有する溶接材料W1からW14を用いてサブマージアーク溶接を行い、継手試験片Bを得た。溶接材料W1からW14のワイヤ径は、すべて約4.8mmであり、開先形状はV型とした。入熱量は1kJ/mmから10kJ/mmの範囲内で適宜調整した。このようにして得られた溶接部分の溶接金属の組成を表3に示す。表3に示すNo.1?14の母材および溶接継手材料の詳細は、後記する表5に示すとおりである。」 (1c)「【0120】 【表1】 」 (1d)「【0121】 【表2】 」 (1e)「【0122】 【表3】 」 (1f)「【0141】 【表5】 」 イ 引用発明 上記記載事項(1c)?(1e)における鋼材(母材)M8及び溶接材料W11の組合せである溶接金属No.11に着目すると、同(1a)?(1e)には、以下の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。 <引用発明> 「質量%で、C:0.09%、Si:0.19%、Mn:1.04%、P:0.009%、S:0.002%、Al:0.08%、Cu:0.89%、Cr:0.12%、Ni:0.02%、Co:0.01%、Ti:0.005%の成分組成(残部:Feおよび不可避不純物)を有する鋼材(母材)を転炉で溶製し、連造鋳造および熱間圧延によって鋼板(サイズ約300mm×約300mm×約25mm)を作製し、得られた鋼板を2つに切断して作製した2個の試験片A(サイズ約300mm×約150mm×約25mm)に対し、 質量%で、C:0.10%、Si:0.21%、Mn:1.01%、Al:0.05%、Cu:0.09%、Cr:0.025%、P:0.008%、S:0.008%の成分組成(残部:Feおよび不可避不純物)を有する溶接材料を用いてサブマージアーク溶接を行って得られ、 溶接部分の溶接金属の組成が、質量%で、C:0.09%、Si:0.20%、Mn:1.02%、P:0.008%、S:0.005%、Al:0.073%、Cu:0.579%、Cr:0.114%、Co:0.01%、Ti:0.005%である、 船舶に用いられる耐食性に優れた 継手試験片B。」 (2)引用文献2の記載事項 本件出願前に公知となった上記引用文献2には、以下の事項が記載されている。 (2a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、鋼材を溶接して形成される原油タンカーの油槽や原油を輸送あるいは貯蔵するためのタンク(以下、「原油タンク」と総称する)に関するものであり、具体的には、上記原油タンクにおける局部腐食(孔食)を軽減した溶接継手と、その溶接継手を有する原油タンクに関するものである。なお、本発明の原油タンクに用いられる鋼材には、厚鋼板、薄鋼板および形鋼が含まれる。」 (2b)「【0018】 まず、本発明の原油タンクに用いる鋼材の成分組成について説明する。 ・・・ 【0024】 N:0.008mass%以下 Nは、靭性を低下させる有害な元素であり、できる限り低減するのが望ましい。特に、0.008mass%を超えて添加すると、靭性の低下が大きくなるので、上限は0.008mass%とする。好ましくは0.006mass%以下、より好ましくは0.004mass%以下である。」 (3)引用文献3の記載事項 本件出願前に公知となった上記引用文献3には、以下の事項が記載されている。 (3a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、溶接構造により形成され、原油タンカーの油槽や、地上または地下原油タンク等、原油を輸送または貯蔵する鋼製油槽の原油腐食環境中において、母材部から溶接金属までを含めて、また、原油が貯蔵される側の面のみならず、バラストタンク面においても優れた耐食性を有する、原油油槽用溶接継手に関する。加えて、原油タンカー等、衝突事故などの万一の事故により油槽が破壊して原油が流出した場合に、人的及び環境的被害が甚大となるようなものにおいて、高い耐延性破壊特性が備えられることにより、油槽の破壊の危険性を減じてより安全性が高められてなる、耐食性と耐延性破壊特性に優れた原油油槽用溶接継手に関するものである。」 (3b)「【0026】 <化学成分組成> 以下に、本発明における鋼材の化学成分組成の限定理由を説明する。 ・・・ 【0034】 「N:窒素」0.001?0.010質量% Nは、固溶状態では延性及び靭性に悪影響を及ぼすため、好ましくないが、V、AlやTiと結びついてオーステナイト粒微細化や析出強化に有効に働くため、微量であれば機械的特性の向上に有効である。また、工業的に鋼中のNを完全に除去することは不可能であり、必要以上に低減することは、製造工程に過大な負荷をかけるため好ましくない。このため、延性、靭性への悪影響が許容できる範囲で、かつ、工業的に制御が可能で、製造工程への負荷が許容できる範囲として、N含有量の下限を0.001%とする。また、Nを過剰に含有すると、固溶Nが増加し、延性や靭性に悪影響を及ぼす可能性があるため、許容できる範囲として上限を0.010%とする。」 (4)引用文献4の記載事項 本件出願前に公知となった上記引用文献4には、以下の事項が記載されている。 (4a)「【技術分野】 【0001】 本発明は、YP460鋼等の降伏強度が460N/mm^(2)以上の鋼材をエレクトロガスアーク溶接法により溶接した溶接継手に関する。」 (4b)「【0017】 以下、本発明の溶接金属の組成規定理由について、説明する。 ・・・ 【0027】 「N:0.0075質量%以下」 溶接金属のN量が高いと、靱性は劣化するので、Nを0.0075質量%以下に規制する。」 2 対比・判断 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「鋼板(サイズ約300mm×約300mm×約25mm)」及び「船舶に用いられる耐食性に優れた継手試験片B」は、本件発明1における「厚鋼板」及び「耐食性に優れた船舶用溶接継手」にそれぞれ相当する。 また、引用発明の溶接金属組成における残部については記載されていないが、鋼材(母材)及び溶接材料のいずれも「残部:Feおよび不可避不純物」であることから、溶接金属においても、「残部:Feおよび不可避不純物」であると認められる。 してみると、本件発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点1?3を有する。 <一致点> 質量%で、C:0.09%、Si:0.19%、Mn:1.04%、P:0.009%、S:0.002%、Cu:0.89%、Cr:0.12%、Ni:0.02%、Feおよび不可避的不純物を含有する厚鋼板を突き合わせ溶接してなる船舶用溶接継手であって、 溶接金属が、質量%で、Cu、Cr、C:0.09%、Si:0.20%、Mn:1.02%、P:0.008%、S:0.005%、Al:0.073%、Feおよび不可避的不純物を含有する、 耐食性に優れた船舶用溶接継手。 <相違点1> 厚鋼板の成分組成について、本件発明1は、「Al:0.010?0.061%」及び「N:0.010%以下(0%を含まない)」を含有し、Ni、Co及びTiを含有しないものであるのに対し、引用発明は、「Al:0.08%」及び「Ni:0.02%、Co:0.01%、Ti:0.005%」を含有するものであって、Nの含有量が不明である点。 <相違点2> 溶接金属の成分組成について、本件発明1は、「CuおよびCrの含有量が下記式(1)および(2)を満足」し(「[Cu]b×0.5と0.10%のうち大きい方≦[Cu]w≦[Cu]b×1.5・・・式(1) [Cr]b×0.5と0.01%のうち大きい方≦[Cr]w≦[Cr]b×1.5・・・式(2)」、「但し、式(1)において、[Cu]wは溶接金属におけるCuの含有量(質量%)、[Cu]bは母材におけるCuの含有量(質量%)であり、式(2)において、[Cr]wは溶接金属におけるCrの含有量(質量%)、[Cr]bは母材におけるCrの含有量(質量%)である。」)、「N:0.010%以下(0%を含まない)」を含有し、Co及びTiを含有しないものであるのに対し、引用発明は、「CuおよびCrの含有量」を鋼材(母材)における含有量との関係により特定しておらず、「Co:0.01%、Ti:0.005%」を含有するものであって、Nの含有量が不明である点。 <相違点3> 本件発明1は、「溶接された厚鋼板の圧延面と平行な板厚の1/2位置の断面における前記溶接金属の最大幅Wmaxと最小幅Wminの差が下記式(3)を満足する」、「Wmax-Wmin≦5mm・・・式(3)」ものであるのに対し、引用発明は、溶接された厚鋼板の圧延面と平行な板厚の1/2位置の断面における溶接金属の幅の差が不明な点。 イ 相違点についての判断 (ア)事案に鑑み、相違点2から検討すると、相違点2は、溶接金属の成分におけるCo及びTiについて、本件発明1は含有しないが、引用発明は含有するものである点も含むものである。 (イ)一般に合金は、所定の含有量を有する合金元素の組合せが一体のものとして技術的意義を有するのであって、所与の特性が得られる組合せについては、実施例に示された実際に作製された具体的な合金組成を考慮して初めて理解できるという技術常識があると認められる。 (ウ)さらに、引用文献1の【0051】には、母材の鋼中成分に関するものであるが、Co及びTiについて、「これらの元素は、いずれも、表面に緻密な錆の被膜を形成し、耐食性を高める。更に、Tiは、すきま内部における腐食を抑制し、耐すきま腐食性も向上させる。」とされている。 (エ)してみると、引用発明の溶接金属において、Co及びTiを含有しないものとする動機付けがあると認めることはできない。 (オ)なお、上記記載事項(2a)?(4b)のとおり、引用文献2?4は、溶接継手におけるN含有量に関するものであるから、上記(エ)の判断に影響するものではない。 (カ)そして、本件発明1は、溶接金属にCo及びTiのような耐食性を高める元素を加えることがなくても、腐食がより厳しい環境における良好な耐食性を発揮することができるという顕著な効果を奏するものと認められる。 ウ 小括 したがって、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 (2)本件発明2?6について 本件発明2?6は、本件発明1を引用するものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明2?5は、当業者であっても、引用発明及び引用文献2?6に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。 (3)中括 以上のとおりであるから、本件発明1?6は、引用発明及び引用文献2?4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものとはいえない。 第5 理由2(サポート要件違反)についての当審の判断 1 サポート要件を検討する観点 特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 2 発明の詳細な説明の記載について (1)発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 (ア)「【発明が解決しようとする課題】 【0009】 本発明は、上記従来の問題を解決せんとしてなされたもので、油タンカー、バラ積み船、自動車運搬船、コンテナ船、LNG船、客船、軍艦等の各種船舶の構造部材としては勿論のこと、無塗装で使用されることが多い原油タンクやバルカー船倉などの腐食がより厳しい環境において用いても、良好な耐食性を発揮することができる耐食性に優れた船舶用溶接継手を提供することを課題とするものである。」 (イ)「【課題を解決するための手段】 【0010】 本発明は、質量%で、C:0.04?0.30%、Si:0.05?1.0%、Mn:0.1?2.0%、P:0.04%以下(0%を含まない)、S:0.04%以下(0%を含まない)、Al:0.010?0.10%、Cu:0.10?1.0%、Cr:0.01?0.5%、N:0.010%以下(0%を含まない)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる厚鋼板を突き合わせ溶接してなる船舶用溶接継手であって、溶接金属におけるCuおよびCrの含有量が下記式(1)および(2)を満足すると共に、前記溶接金属におけるCu、Cr以外の化学成分含有量が、質量%で、C:0.04?0.30%、Si:0.05?1.0%、Mn:0.1?2.0%、P:0.04%以下(0%を含まない)、S:0.04%以下(0%を含まない)、Al:0.010?0.10%、N:0.010%以下(0%を含まない)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、更に、溶接された厚鋼板の圧延面と平行な板厚の1/2位置の断面における前記溶接金属の最大幅Wmaxと最小幅Wminの差が下記式(3)を満足することを特徴とする耐食性に優れた船舶用溶接継手である。 [Cu]b×0.5と0.10%のうち大きい方≦[Cu]w≦[Cu]b×1.5・・・式(1) [Cr]b×0.5と0.01%のうち大きい方≦[Cr]w≦[Cr]b×1.5・・・式(2) Wmax-Wmin≦5mm・・・式(3) 但し、式(1)において、[Cu]wは溶接金属におけるCuの含有量(質量%)、[Cu]bは母材におけるCuの含有量(質量%)であり、式(2)において、[Cr]wは溶接金属におけるCrの含有量(質量%)、[Cr]bは母材におけるCrの含有量(質量%)である。 【0011】 前記厚鋼板が、更に、質量%で、Co:0.01?1.0%、Ni:0.01?1.0%、Mo:0.01?1.0%、W:0.01?1.0%の1種または2種以上を含有することが好ましい。 【0012】 また、前記厚鋼板が、更に、質量%で、Ti:0.001?0.05%、Zr:0.001?0.05%、Nb:0.001?0.05%の1種または2種以上を含有することが好ましい。 【0013】 また、前記厚鋼板が、更に、質量%で、Mg:0.0003?0.005%、Ca:0.0003?0.005%の1種または2種を含有することが好ましい。 【0014】 また、前記厚鋼板が、更に、質量%で、Sn:0.005?0.20%、Sb:0.005?0.20%、Se:0.005?0.20%の1種または2種以上を含有することが好ましい。 【0015】 また、前記厚鋼板が、更に、質量%で、B:0.0001?0.005%、V:0.001?0.1%の1種または2種を含有することが好ましい。」 (ウ)「【0075】 【表1】 【0076】 【表2】 ・・・ 【0079】 【表5】 【0080】 【表6】 」 (2)上記(ア)の記載から、本件発明が解決しようとする課題(以下「本件課題」という。)は、「腐食がより厳しい環境において用いても、良好な耐食性を発揮することができる耐食性に優れた船舶用溶接継手を提供すること」にあると認められる。 (3)そして、実施例である上記(ウ)の記載のうち、【表1】及び【表2】におけるB4?57の鋼材を用い、【表5】及び【表6】におけるNo.10?62の溶接金属の化学成分を有し、溶接された厚鋼板の圧延面と平行な板厚の1/2位置の断面における溶接金属の最大幅Wmaxと最小幅Wminの差が5mm以下である場合に、腐食減量、局部腐食及び接触腐食についての腐食試験結果が良好となることから、本件発明の詳細な説明の【0022】?【0037】及び【0041】?【0052】における厚鋼板及び溶接金属の化学成分組成の限定理由も踏まえれば、上記(イ)の範囲において、本件課題が解決できるものと理解できる。 3 発明との詳細な説明に記載された発明と本件発明との対比 上記(2)の本件課題を解決できると認識できる範囲と本件発明とを対比した場合に、本件発明が当該範囲を超えるものであると認めることはできない。 4 小括 以上のとおりであるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 第6 審尋について (1)本件発明は、溶接された厚鋼板の圧延面と平行な板厚の1/2位置の断面における溶接金属の最大幅Wmaxと最小幅Wminの差を小さくするものであって、「溶接金属の幅の変動をある規定値内に制御することで、優れた耐食性を発現する溶接継手が得られる」(本件明細書【0056】)ものであるところ、「厚鋼板の圧延面」の表面等ではなく、「厚鋼板の圧延面と平行な板厚の1/2位置の断面」における溶接金属の幅によって評価する技術上の意義が不明であるとして、当審は、平成31年1月29日付けで審尋を行った。 (2)これに対する平成31年4月8日付け回答書の第2頁のii)においては、「本願明細書には、「本発明者は、このような凝固偏析は、溶接時の入熱変動が大きい場合に特に顕著となることを知見し、その抑制策を検討することとした。検討の結果、溶接時には溶接の入熱に応じて母材溶融が起こるため、溶接金属の幅が変動する」ことが記載されています(段落0056)。すなわち、「厚鋼板の圧延面の表面における溶接金属の幅」を用いると、入熱の影響(母材溶融)によって溶接金属の幅が変動し、再現性を確保することが困難になるおそれがあります。「板厚の1/2位置の断面における幅」における溶接金属を用いることで、入熱の影響が少ない箇所の安定した溶接金属の幅を用いることができるため、再現性を確保することが比較的容易にできます。」と回答している。 (3)これによれば、「板厚の1/2位置」は、「入熱の影響が少ない箇所」であって、厚鋼板の圧延面の表面は、入熱の影響が大きい箇所であることを意味すると認められるから、仮に厚鋼板の圧延面の表面における溶接金属の幅の差が大きかったとしても、板厚の1/2位置における溶接金属の幅の差が5mm以内を満たしていれば、本件課題を解決できるものであると当審は理解した。 (4)なお、上記回答書の第1?2頁のi)においては、「本願明細書の実施例では、「溶接継手の溶接時の開先形状は、開先角度50°のV形」としています(段落0064)。このように、V形、U形、J形、レ形、K形、X形、I形等の一般的な開先形状においては、「板厚の1/2位置の断面における幅」における溶接金属を用いることで、厚鋼板の表面、裏面及び板厚の1/2位置の断面の3点における溶接金属の幅の平均値に近似した値を得ることができます。仮に、開先形状によって変動する「厚鋼板の圧延面の表面における溶接金属の幅」を用いると、開先形状によって異なる数式を必要とするおそれがありますが、「板厚の1/2位置の断面における幅」における溶接金属の幅を用いることで上記平均値に近似した値を得ることができるため、開先形状に関わらず一の数式で満足することができます。」とも回答している。 (5)しかしながら、例えば開先形状がリニアには変化しない場合等においても、「板厚の1/2位置の断面における幅」が、「厚鋼板の表面、裏面及び板厚の1/2位置の断面の3点における溶接金属の幅の平均値に近似した値」となるものと直ちには認められないから、当審は、上記(4)の回答を採用しない。 第7 むすび 以上のとおり、本件発明1?6は、当業者が引用文献1に記載された発明及び引用文献2?4に記載された技術的事項に基づいて、容易に発明をすることができたものではないし、本件発明1?6は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。 したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-07-12 |
出願番号 | 特願2014-216550(P2014-216550) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(C22C)
P 1 8・ 121- WY (C22C) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 川村 裕二 |
特許庁審判長 |
平塚 政宏 |
特許庁審判官 |
亀ヶ谷 明久 長谷山 健 |
発明の名称 | 耐食性に優れた船舶用溶接継手 |
代理人 | 天野 一規 |