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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N
管理番号 1353442
審判番号 不服2018-10121  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-24 
確定日 2019-07-12 
事件の表示 特願2017-124259「吸音構造体および吸音構造体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成30年2月22日出願公開、特開2018- 28314〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成29年6月26日(優先権主張平成28年8月12日)の出願であって、その手続は以下のとおりである。
平成29年7月25日(発送日) :拒絶理由通知書
平成29年9月8日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年12月6日(発送日) :拒絶理由通知書
平成30年1月29日 :意見書の提出
平成30年4月25日(発送日) :拒絶査定
平成30年7月24日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 平成30年7月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月24日にされた手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.本件補正について
(1)本件補正前の平成29年9月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。

「【請求項1】
被覆対象物上に、無機繊維質織布と無機繊維質集成体からなる断熱マットとがこの順番で順次隣り合って積層配置されてなり、
前記断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である
ことを特徴とする吸音構造体。」

(2)そして、本件補正により、上述の本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は、以下のとおり補正された(下線は、請求人が補正箇所を示すために付したものである。)。
「【請求項1】
車輛用排気管に用いられる吸音構造体であって、
被覆対象物上に、無機繊維質織布と無機繊維質集成体からなる断熱マットとがこの順番で順次隣り合って積層配置されてなり、
前記断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である
ことを特徴とする吸音構造体。」

2.補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「吸音構造体」について「車輛用排気管に用いられる吸音構造体であって、」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1(以下、「本件補正発明」という。)が、同法同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正発明
本件補正発明は、上記1.(2)に記載したとおりのものである。

(2) 引用文献の記載事項
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平8-177460号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「内燃機関用消音器」に関して、図面(特に、図1を参照。)とともに次の記載がある。(下線は、理解の一助のために当審が付与したものである。以下同様。)

(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は自動車等の内燃機関の排気系に用いる消音器の改良に関するものである。」

(イ)「【0004】図8の従来技術では、シェル5の端に取付けたアウタプレート6の内側にグラスウール3と、ステンレスウール4とを重ね合わせて順に配設し、多数の小孔を明けたパンチングプレート7で押さえてある。
【0005】吸音材として用いるグラスウール等のガラス繊維の加工物は繊維長が数mm?数拾mmのガラス繊維を絡ませて、ウール、クロス、マット状に成形したものである。」

(ウ)「【0021】
【実施例】図1は本発明の第1実施例で、1はシェル、2はシェル1を貫通する排気管で多数の小孔を明けたパンチングパイプからなる。8は連続したガラス長繊維で織りあげたクロスで、排気管2の外周に巻き付けてある。3は従来技術のグラスウールで、シェル1と排気管2の間の消音室のうち、ガラス長繊維のクロス8以外の部分に充填してある。
【0022】クロス3は、表2の成分(重量%)からなる連続したガラス長繊維を織成したもので、平織、綾織、又は朱子織等に織り上げ加工されている。」

(エ)図1の図示内容からみて、連続したガラス長繊維で織りあげたクロス8とグラスウール3とは、排気管2上にこの順番で順次隣り合って積層配置されているといえる。

以上から、上記引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「自動車等の内燃機関の排気系に用いられる消音器であって、
排気管2上に、連続したガラス長繊維で織りあげたクロス8とグラスウール3とがこの順番で順次隣り合って積層配置されてなる吸音構造体。」

イ 引用文献2
原査定の拒絶の理由で引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開平4-36013号公報(以下、「引用文献2」という。)には、次の記載がある。

(ア)「本発明は、内燃機関の排気管に設けられる消音器及びその製造方法に関するものである。」(2ページ左上欄2行ないし3行)

(イ)「次に、グラスウールのガラス繊維の直径としては、5?15μmのものを例示することができる。5μm未満ではガラス繊維1本当たりの強度が弱くてグラスウールフェルトにならず、15μmを超えるとガラス繊維1本当たりの強度が強くて肌に触れると痛感を生じるため、作業上の取扱いが悪くなるからである。好ましくは7?13μmのものがよい。ガラス繊維の繊維長としては、50?80mmのものを例示することができる。また、グラスウールとしては嵩密度100?200kg/m^(3)、厚さ3?15mmのものを例示することができる。嵩密度が100kg/m^(3)未満では消音効果が小さくなり、200kg/m^(3)を超えると柔軟性が失われるためグラスウールと外管との間に隙間が生じ易くなるからである。」(3ページ右上欄17行ないし左下欄11行)

以上から、引用文献2には次の技術(以下「引用文献2の記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「内燃機関の排気管に設けられる消音器で、嵩密度100?200kg/m^(3)のグラスウールを用いること。」

ウ 引用文献3
当審で新たに引用する、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開2016-23565号公報(以下、「引用文献3」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【0001】
本発明は、車輌用排気管および車輌用排気管の製造方法に関する。」

(イ)「【0010】
従って、本発明は、高温の排気ガスが排気用配管の内部を流通して外部に放出された場合であっても、外部への排気音、放射音および熱放射を高度に抑制し得る車輌用排気管を提供することを目的とするとともに、当該車輌用排気管を簡便に製造する方法を提供することを目的とするものである。」

(ウ)「【0036】
本発明の車輌用排気管において、無機繊維集合体としては、ガラス繊維、シリカ繊維、バサルト繊維、アルミナシリカ繊維、ムライト繊維、アルミナ繊維等からなる一種以上を含む集合体を挙げることができる。」

(エ)「【0040】
本発明の車輌用排気管において、無機繊維質集合体の嵩密度は、0.05?0.40g/cm^(3)であることが好ましく、0.08?0.35g/cm^(3)であることがより好ましく、0.10?0.30g/cm^(3)であることがさらに好ましい。」

以上から、引用文献3には次の技術(以下「引用文献3の記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「外部への排気音を抑制し得る車輌用排気管において、嵩密度が0.10?0.30g/cm^(3)の無機繊維集合体を用いること。」

エ 引用文献4
当審で新たに引用する、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、特開平9-228820号公報(以下、「引用文献4」という。)には、次の記載がある。

(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、自動車用エンジンの排気を流通する排気管に接続し、該排気中に含まれる騒音成分を減衰する消音器に関する。」

(イ)「【0018】次に、無機繊維質の吸音材は、その平均嵩密度を、0.05?0.30g/cm^(3) の範囲とすることが有利である。すなわち、平均嵩密度が0.05g/cm^(3) 未満であると、耐久性が問題になり、一方、0.30g/cm^(3) をこえると、消音効果をそれほど期待できないからである。なお、この無機繊維質の吸音材は、平均圧縮率:1%以上にて金属管と金属シェルとの間に充填することにより、ここに確実に固定できるため、自動車の振動や排気流等による、吸音材の位置ずれや粉化を回避できる。
【0019】なお、吸音材には、アルミナ、シリカ・アルミナ、ガラス、シリカの群から選ばれる1種または2種以上の繊維材料を用いて、繊維単独もしくはその他の無機及び有機材料との複合になるものが、推奨される。なぜなら、アルミナ、シリカ・アルミナ、ガラス、シリカの群から選ばれる繊維材料は、先に示した密度等の条件を満足する繊維材料の中で、最も一般的で、しかもコストが安価である。さらに、繊維材料は、その平均繊維径が1.5?20μmおよび平均繊維長が5mm以上であるものが、吸音特性上および耐久性の点で有利である。」

以上から、引用文献4には次の技術(以下「引用文献4の記載事項」という。)が記載されていると認められる。

「自動車用エンジンの排気を流通する排気管に接続し、該排気中に含まれる騒音成分を減衰する消音器において、平均嵩密度が0.05?0.30g/cm^(3)の範囲の無機繊維質の吸音材を用いること。」

(3) 引用発明との対比
本件補正発明と引用発明とを対比すると、後者の「自動車等の内燃機関の排気系」はその機能、構成及び技術的意義からみて前者の「車輛用排気管」に相当し、以下同様に、「消音器」は「吸音構造体」に、「排気管2」は「被覆対象物」に、「連続したガラス長繊維で織りあげたクロス8」は「無機繊維質織布」に、「グラスウール3」は「無機繊維質集成体からなる断熱マット」にそれぞれ相当する。

したがって、両者は、
「車輛用排気管に用いられる吸音構造体であって、
被覆対象物上に、無機繊維質織布と無機繊維質集成体からなる断熱マットとがこの順番で順次隣り合って積層配置されてなる吸音構造体。」
である点で一致し、次の点で相違する。

[相違点]
前者は「断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である」であるのに対し、後者のグラスウール3は、嵩密度についての特定がない点。

(4) 判断
相違点について検討する。
引用文献2の記載事項は以下のとおりである。
「内燃機関の排気管に設けられる消音器で、嵩密度100?200kg/m^(3)のグラスウールを用いること。」

引用文献3の記載事項は以下のとおりである。
「外部への排気音を抑制し得る車輌用排気管において、嵩密度が0.10?0.30g/cm^(3)の無機繊維集合体を用いること。」

引用文献4の記載事項は以下のとおりである。
「自動車用エンジンの排気を流通する排気管に接続し、該排気中に含まれる騒音成分を減衰する消音器において、平均嵩密度が0.05?0.30g/cm^(3)の範囲の無機繊維質の吸音材を用いること。」

引用文献2ないし引用文献4の記載事項からみて、車両用排気管に用いられる吸音構造体において、無機繊維質集成体の嵩密度を考慮すること、及び嵩密度が100?200kg/m^(3)である無機繊維質集成体を採用することは、本願の優先日前における周知技術といえる。そして、相違点に係る本件補正発明の発明特定事項である嵩密度が110?140kg/m^(3)である無機繊維集成体は、当該周知技術である無機繊維集成体に含まれるものである。
また、本願の発明の詳細な説明の記載をみても、無機繊維集成体の嵩密度を110?140kg/m^(3)とすることに、格別な技術的意義あるいは臨界的意義を見出すことはできない。加えて、審判請求書における審判請求人の主張は、「第4」において後述する理由により採用できない。
そうすると、引用発明において、当該周知技術を踏まえ、当業者の通常の創作能力に範囲で相違点に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、容易になし得たことである。

また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び周知技術から予測し得ない格別な効果を奏するものではない。

したがって、本件補正発明は、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成30年7月24日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし4に係る発明は、平成29年9月8日の手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1.(1)に記載のとおりのものである。

2.原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし4に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その出願前に発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献
1.特開平8-177460号
2.特開2003-336517号公報(周知技術を示す文献)
3.特開平4-36013号公報(周知技術を示す文献)

3.引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及び引用文献3並びに引用文献1及び引用文献3の記載事項は、前記第2[理由]2.(2)に記載したとおりである。

4.対比・判断
本願発明は前記第2[理由]2.(2)で検討した本件補正発明から、「吸音構造体」についての「車輛用排気管に用いられる吸音構造体であって、」との限定を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2[理由]2.(3)及び(4)に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 請求人の主張について
審判請求書において、請求人は「上記技術課題を解決する本件発明は、吸音構造体に関し、・・・・・・・構成要件(c)に規定する、『断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である』という技術事項を採用することにより、断熱性に優れるとともに、吸音材の一方の主表面側から入射する騒音のみならず他方の主表面側から入射する騒音も吸音することにより吸音性が特異的に向上するという、引用文献1等に記載されていない、異質かつ顕著に優れた技術的効果を発揮し得るものであります。」と主張している。この主張は、本件発明は、「構成要件(a)に規定する、『車輛用排気管』用の吸音構造体という特定の用途において、構成要件(b)に規定する、『被覆対象物上に、無機繊維質織布と無機繊維質集成体からなる断熱マットとがこの順番で順次隣り合って積層配置されて』なるという技術事項とともに、構成要件(c)に規定する、『前記断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である』という技術事項を採用する」ことにより、「引用文献1等に記載されていない、異質かつ顕著に優れた技術的効果を発揮し得るもの」であることを、表α及び図αを示しつつ釈明し、他方、引用文献1は、構成要件(b)に規定する、『被覆対象物上に、無機繊維質織布と無機繊維質集成体からなる断熱マットとがこの順番で順次隣り合って積層配置されて』なるという技術事項とともに、構成要件(c)に規定する、『前記断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である』という技術事項を採用することを開示するものではなく、異質かつ顕著に優れた技術的効果を発揮し得るものでないことを主張するものと解される。
しかしながら、本願の発明の詳細な説明の記載、特に発明を実施するための形態について記載する段落【0013】ないし段落【0062】には、「無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)」とすることは明記されていない。また、段落【0010】に「前記断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である」及び「無機繊維質織布と嵩密度が110?140kg/m^(3)である無機繊維質集成体からなる断熱マット」との記載はあるが、当該記載は平成29年9月8日の手続補正により補正されたものであり、願書に最初に添付した発明の詳細な説明には記載も示唆もされていない。そして、平成29年9月8日の意見書における、「本件当初明細書の実施例1?実施例3に嵩密度110kg/m^(3)の無機繊維質集成体からなる断熱マットが記載され、本件当初明細書の段落【0032】に断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度の上限として140kg/m^(3)が記載されていることに基づいて、『前記断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)である』を加えました。」との請求人の主張を踏まえると、「嵩密度が110?140kg/m^(3)」との限定は、単に実施例1?実施例3の嵩密度と段落【0032】に記載された嵩密度の上限を組み合わせたものであって、発明の詳細な説明の記載から、当該限定に格別な臨界的意義あるいは技術的意義を見出すことはできない。
次に、審判請求書の表α及び図αに関し、請求人は、実施例2及び3における垂直吸音率の結果を記載する図7及び図8において、さらに嵩密度を、(3)80kg/m^(3)、(4)90kg/m^(3)、(5)100kg/m^(3)、(6)140kg/m^(3)、(7)150kg/m^(3)、(8)165kg/m^(3)、(9)210kg/m^(3)に変更したものの垂直吸音率の結果を示すものが表α及び図αであり、ここから、嵩密度が110?140kg/m^(3)との特定が優れた吸音性を発揮しうる旨主張する。しかしながら、本願の発明の詳細な説明の段落【0061】には、図7及び図8から、無機繊維質集成体から成る断熱マットと無機繊維質織布が隣り合って積層配置されたものは無機繊維質織布がないものに比べて吸音特性に優れること、及び無機繊維質織布が薄い方が吸音性が高いことが分かることが記載されており、嵩密度の変化による吸音性の変化に係る記載はない。すなわち、表α及び図αと図7及び図8とでは立証しようとする事項が異なるものであるから、表α及び図αは本願の発明の詳細な説明に記載された事項が正しく妥当なものであることを示す表及び図ではない。
ここで、表α及び図αは本願の発明の詳細な説明に記載された事項が正しく妥当なものであることを示すものであるとして「嵩密度が110?140kg/m^(3)」ことの臨界的意義あるいは技術的意義を検討するに、本願の発明の詳細な説明の記載、特に段落【0011】及び【0061】の記載からみて、本願発明の効果は、比較例2で得られるような無機繊維質織布がない断熱マットに比べ吸音特性に優れることが含まれる。しかしながら、表αをみると、嵩密度が120kg/m^(3)及び140kg/m^(3)のときは、マット側から音が入射した場合の吸音率総和(B)は、織布なし場合の吸音率総和(C)より低い。すなわち、嵩密度が120kg/m^(3)及び140kg/m^(3)のときの本願発明の吸音性は、織布なしの場合より低いものといえる。してみると、「嵩密度が110?140kg/m^(3)」との特定は、本願の発明の詳細な説明の記載から理解できる効果を奏するものではない。同様に、請求人が主張する「断熱マットを構成する無機繊維質集成体の嵩密度が110?140kg/m^(3)という特定の範囲内にある場合に、断熱マット側から音を入射した場合であっても(B)、無機繊維質織布側から音を入射した場合であっても(A、D)優れた吸音性を発揮し得る」ものでもない。そうすると、表α及び図αをみても、「嵩密度が110?140kg/m^(3)」との特定が、格別な臨界的意義あるいは技術的意義を備えているとはいえない。
したがって、審判請求書における請求人の主張を採用することはできない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-08 
結審通知日 2019-05-15 
審決日 2019-05-28 
出願番号 特願2017-124259(P2017-124259)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 二之湯 正俊小笠原 恵理  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 水野 治彦
金澤 俊郎
発明の名称 吸音構造体および吸音構造体の製造方法  
代理人 特許業務法人あしたば国際特許事務所  

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