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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C07K
管理番号 1353706
審判番号 不服2017-10203  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-07-07 
確定日 2019-07-17 
事件の表示 特願2014-519049「セルピン融合ポリペプチド及びその使用方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 3日国際公開、WO2013/003641、平成26年 9月18日国内公表、特表2014-523900〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年6月28日(パリ条約による優先権主張 2011年6月28日 米国、2011年12月14日 米国、2011年12月19日 米国、2012年4月25日 米国)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年 4月21日付け:拒絶理由通知書
平成28年10月25日 :意見書、手続補正書の提出
平成29年 2月27日付け:拒絶査定
平成29年 7月 7日 :審判請求書、手続補正書の提出
平成30年 6月13日付け:拒絶理由通知書
平成30年12月19日 :意見書、手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明は、平成30年12月19日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
配列番号1、配列番号2、配列番号32、及び配列番号33から成る群から選択されるアミノ酸配列を含む、少なくとも1つのヒトα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチドを含む単離された融合タンパク質であって、前記AATポリペプチドが、配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む免疫グロブリンFcポリペプチドに作動できるように連結され、前記AATポリペプチド及び免疫グロブリンFcポリペプチドが、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して作動できるように連結され、前記免疫グロブリンFcポリペプチドが、Met252、Ser254、Thr256、Met428、及びAsn434から成る群から選択される位置において少なくとも1つの突然変異を含み、前記単離された融合タンパク質が、セリンプロテアーゼ阻害活性を示し、そして、AAT欠乏、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、アレルギー性喘息、嚢胞性繊維症、肺癌、虚血-再潅流損傷、心臓移植後の虚血/再潅流損傷、心筋梗塞、関節リウマチ、敗血症性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、I型及び/又はII型糖尿病、肺炎、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、創傷治癒、全身性エリテマトーデス、及び多発性硬化症から成る群から選択される対象における疾患又は障害を治療する方法において使用される、単離された融合タンパク質。」(以下、「本願発明」という。)

第3 当審の拒絶の理由の概要
本願発明は、本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用文献1及び2に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1: 特表2007-504144号公報
引用文献2: 特表2011-502126号公報

第4 当審の判断
1 引用文献の記載事項
(1)引用文献1
当審の拒絶の理由で引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付したものである。
特許請求の範囲
ア 「【請求項1】
治療を必要とする対象に、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子を示す物質またはそれらの機能的誘導体;および薬学的に許容される賦形剤を含む組成物の治療有効量を投与する段階を含む、哺乳動物における細菌感染を治療するための方法。
・・・
【請求項12】
1つまたはそれ以上の細菌徴候と関連する痛みおよび/または症状の軽減または阻害が、約10?20%、30?40%、50?60%、または75?100%の軽減または阻害のオーダーである、請求項1記載の方法。
・・・
【請求項18】
予防または改善される症状が吸入炭疽の症状であり、該症状が、肺水腫、壊死性縦隔リンパ節疾患、胸水、換気機能障害、咳、発汗および悪寒、敗血症および敗血症ショックを含む、請求項12記載の方法。
・・・
【請求項20】
哺乳動物α1-抗トリプシンまたは他のセリンプロテアーゼ阻害因子の物質が融合ポリペプチドの一部であってもよく、該融合ポリペプチドは、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはα1-抗トリプシン様活性物質および該哺乳動物α1-抗トリプシンまたは他のセリンプロテアーゼ活性阻害因子の物質と相同なアミノ酸配列を含む、請求項1記載の方法。」
背景技術
イ 「【0006】
・・・通常の15%未満のα1-抗トリプシンの循環レベルを有するヒトは、若い年齢において、肺疾患、例えば、家族性肺気腫の発症に対して感受性である。家族性肺気腫は、セリンプロテアーゼ、特にエラスターゼに対するα1-抗トリプシンの低い割合と関連する。それゆえに、この阻害因子は、セリンプロテアーゼによる攻撃に対する防御メカニズムの重要な部分を担っていると考えられる。
【0007】
α1-抗トリプシンは、プロテアーゼ不均衡の臨床的治療のために現在認可されている、天然に存在する少数の哺乳動物セリンプロテアーゼ阻害因子の1つである。治療用α1-抗トリプシンは80年代の中頃以来市販されており、かつ種々の精製方法によって調製されている(例えば、Bollen et al. 米国特許第4,629,567号;Thompson et al., 米国特許第4,760,130号;同第5,616,693号;国際公開公報第98/56821号を参照されたい)。プロラスチンは、α1-抗トリプシンの精製変種の商標であり、現在Bayer社によって販売されている(米国特許第5,610,285号, Lebing et al., 1997年3月11日)。遺伝子組換え方法によって産生されたα1-抗トリプシンの組換え未改変変種または変異体変種もまた公知である(米国特許第4,711,848号);使用の方法(例えば、α1-抗トリプシン遺伝子治療/送達(French Anderson et al.への米国特許第5,399,346号))もまた公知である。」
発明の開示
ウ 「【0025】
発明の概要
本発明は、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子を示す物質またはそれらの機能的誘導体;および薬学的に許容される賦形剤を含む組成物の治療有効量を、治療を必要とする対象に投与する段階を含む、哺乳動物における細菌感染を治療するための方法を提供する。」
エ 「【0039】
別の局面において、本発明は、改善を必要とする対象における炭疽の症状を改善するための方法を提供し、この方法は、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ阻害因子を示す物質の薬学的有効量を対象に投与する段階を含み、ここで、該哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子の物質が、不活性型の大きなPAから活性型のより小さなPA分子への内因性宿主プロテアーゼの細胞表面プロセシングを阻害する。」
オ 「【0090】
炭疽毒素の作用を無効にする新規なアプローチは、細胞の内部への毒素の接近をブロックすることである。本発明者は、以前の広範囲な実験室研究において(Leland Shapiro et al. Facet 2000 vol. 15: 115-122、およびDr. Leland Shapiroの未公開データ)、細胞表面上に存在するセリンプロテアーゼが、セリンプロテアーゼ機能を阻害するいくつかの型の分子の作用によって中和され得ることを示した。セリンプロテアーゼの最も重要な天然の内因性阻害因子はα1-抗トリプシン(AAT)である。AATレベルがリンパ管で減少していること、ならびに炭疽毒素および疾患の出現がリンパ管中で生じることは注目に値する。AAT量の減少がセリンプロテアーゼ機能の増強に導く微小環境を提供するので、毒素産生がリンパ管組織において起こることが可能である。このような状態は、活性化炭疽毒素の産生を増大することが予測される。それゆえに、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子を示す物質の薬学的有効量を対象に投与することは、細胞表面上に存在する宿主由来のセリンプロテアーゼの活性をブロックすることによって、炭疽毒素の活性を減弱または無効にするために役立つ。これは、不活性型の大きなPAから活性型のより小さなPA残余物への細胞表面プロセシングを打ち消す。このように、宿主由来のセリンプロテアーゼ活性に干渉することによって、プレ細孔および最終的には細孔を形成するヘプタマーPA63の能力を破壊する。この新規なアプローチを使用して炭疽毒素を解除することによって(図4A?4Hを参照されたい)、代替的なアプローチに対していくつかの利点が得られ、これは、限定目的ではないが以下の通りである。」
カ 「【0117】
本発明の組成物および方法における使用のための融合タンパク質
本発明の上述の局面および態様の各々において、融合ポリペプチドもまた、本発明で特に企図される。
【0118】
1つの態様において、本発明の融合タンパク質は、組換えDNA技術によって産生される。組換え発現に対する代替として、本発明の融合ポリペプチドが、標準的なペプチド合成技術を使用して化学的に合成され得る。本発明はまた、本発明の融合ポリペプチドおよび薬学的許容される担体、賦形剤、または希釈剤を含む組成物を提供する。
【0119】
上記に列挙された方法の各々において、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子の物質は融合ポリペプチドであってもよく、ここで、この融合ポリペプチドは、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子の物質、ならびに哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子の物質に対して相同であるアミノ酸配列を含む。
【0120】
本発明の特定の融合ポリペプチドの中には、例えば、SEQ ID NO:1において以下に示されるα1-抗トリプシンのアミノ酸配列を含む融合タンパク質がある。

【0121】
本発明の融合タンパク質は、異種アミノ酸配列がヒト免疫グロブリン定常領域、例えば、ヒトIgG1定常領域(改変ヒトIgG1定常領域を含む)などを含むようなものであり、ここで、IgG定常領域はFc受容体に結合せず、および/または抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)反応を開始しない。
【0122】
特に、1つの態様において、融合タンパク質は、免疫グロブリンタンパク質ファミリーのメンバーに由来する配列である異種配列、例えば、ヒト免疫グロブリン定常領域、例えば、ヒトIgG定常領域を含む。融合タンパク質は、例えば、米国特許第5,714,147号、米国特許第5,116,964号、米国特許第5,514,582号、および米国特許第5,455,165号において開示されるように、例えば、免疫グロブリン定常領域のアミノ末端またはカルボキシ末端と融合された、哺乳動物α1-抗トリプシンまたはセリンプロテアーゼ活性阻害因子のポリペプチドの部分を含み得る。本発明のポリペプチドのすべてまたは一部が免疫グロブリンタンパク質ファミリーのメンバーに由来する配列と融合される態様において、免疫グロブリンのFcR領域は、野生型であってもよいか、または変異してもよいかのいずれかである。特定の態様において、Fc受容体と相互作用せず、およびADCC反応を開始しない免疫グロブリン融合タンパク質を利用することが所望される。このような場合において、融合タンパク質の免疫グロブリン異種配列は、このような反応を阻害するように変異され得る。例えば、米国特許第5,985,279号および国際公開公報第98/06248号を参照されたい。」

(2)引用文献2
当審の拒絶の理由で引用された引用文献2には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審にて付したものである。
特許請求の範囲
ア 「【請求項1】
親Fcポリペプチドの抗体またはイムノアドヘシンであって、前記抗体またはイムノアドヘシンは、Fc領域内に少なくとも1つの修飾を含み、前記抗体またはイムノアドヘシンは、前記親抗体またはイムノアドヘシンと比較すると、FcRnへの変性結合を呈し、前記修飾は、259I、307S、319F、319L、および434Mから成る群から選択され、付番は、KabatらのEUインデックスによるものである、抗体またはイムノアドヘシン。
【請求項2】
前記Fc領域は、246H、246S、247D、247T、248H、248P、248Q、248R、248Y、249T、249W、250E、250I、250Q、250V、251D、251E、251H、251I、251K、251M、251N、251T、251V、251Y、252Q、252Y、253L、253T、253V、254H、254L、254N、254T、254V、^254N、255E、255F、255H、255K、255S、255V、256E、256V、257A、257C、257D、257E、257F、257G、257H、257I、257K、257L、257M、257N、257Q、257R、257S、257T、257V、257W、257Y、258R、258V、279A、279D、279C、279F、279G、279H、279I、279K、279M、279N、279P、279Q、279Q、279R、279S、279T、279W、279Y、280H、^281A、^281D、^281S、^281T、282D、282F、282H、282I、282T、283F、283I、283L、283Y、284H、284K、284P、284Q、284R、284S、284Y、285S、285V、286D,286#、286L、287H、287S、287V、287Y、288H、288Q、288S、305H、305T、306F、306H、306I、306N、306T、306V、306Y、307D、307P、307Q、307S、307V、307Y、308C、308D、308E、308F、308G、308H、308I、308K、308L、308M、308N、308Q、308P、308R、308S、308W、308Y、309F、309H、309N、309Q、309V、309Y、310K、310N、310T、311L、311P、311T、311V、311W、312H、313Y、315E、315G、315H、315Q、315S、315T、317H、317S、339P、340P、341S、374H、374S、376H、376L、378H、378N、380A、380T、380Y、382H、383H、383K、383Q、384E、384G、384H、385A、385C、385F、385H、385I、385K、385L、385M、385N、385P、385Q、385S、385T、385V、385W、385Y、386E、386K、387#、387A、387H、387K、387Q、389E、389H、426E、426H、426L、426N、426R、426V、426Y、427I、428F、428L、429D、429F、429K、429N、429Q、429S、429T、429Y、430D、430H、430K、430L、430Q、430Y、431G、431H、431I、431P、431P、431S、432F、432H、432N、432S、432V、433E、433P、433S、434A、434F、434H、434L、434M、434Q、434S、434Y、435N、436E、436F、436L、436V、436W、437E、437V、438H、および438Kから成る群から選択される少なくとも1つの付加的修飾を含み、^は、表示した位置後の挿入であり、#は、表示した位置の欠失である、請求項1に記載の抗体またはイムノアドヘシン。」
発明の概要
イ 「【0018】
本出願は、ポリペプチドのFc領域内の少なくとも1つの修飾を含む、親ポリペプチドのFc変異体を対象とする。さまざまな実施形態では、変異ポリペプチドは、親ポリペプチドと比較して、FcRnへの変更された結合を呈する。」
ウ 「【0041】
別の変化では、本発明は、本出願に記載する修飾に従い、Fcを修飾して抗体およびイムノアデヘシンの半減期を増加させる方法を含む。」
発明を実施するための形態
エ 「【0043】
本発明は、FcRn受容体への増加した結合を有し、抗体、Fc融合、および免疫接着に見られるものを含む、Fcドメインの新しい変異体の産出を開示する。本出願に記載するとおり、FcRnへの結合は、より長い血清の生体内の滞留がもたらされる。」
オ 「【0093】
抗体融合
【0094】
一実施形態では、本発明の抗体は、抗体融合タンパク質(本明細書において、「抗体共役体」と称する場合もある)である。抗体融合の1つの種類は、Fc領域を共役相手に結合させるFc融合を含む。本出願に使用する「Fc融合」は、1つ以上のポリペプチドが機能し得るようにFc領域に結合される、タンパク質を意味する。本出願において、Fc融合は、従来の技術(Chamow et al.,1996,Trends Biotechnol 14:52-60、Ashkenazi et al.,1997,Curr Opin Immunol 9:195-200、ともに参照することによりその全体が組み込まれる)に使用されるとおり、「イムノアドヘシン」、「Ig融合」、「Igキメラ」、および「受容体グロブリン」(時々ダッシュがつく)という用語と同義語である。一般的に、Fc融合は、免疫グロブリンのFc領域と、いかなるタンパク質または小分子であってもよい融合相手を組み合わせる。事実上、いかなるタンパク質または小分子も、Fcに結合して、Fc融合を生成してもよい。タンパク質融合相手は、抗体の可変領域、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、ケモカインまたは別のタンパク質またはタンパク質ドメインをも含むが、それらに限定されない。小分子融合相手は、Fc融合を治療用標的に誘導するいかなる治療剤を含んでもよい。そのような標的は、いかなる分子、好適には、疾患を担う細胞外受容体であってもよい。したがって、IgG変異体は、1つ以上の融合相手に結合することができる。1つの代替的実施形態では、IgG変異体は、別の治療化合物に共役または機能し得るように結合する。治療化合物は、細胞毒性剤、化学療法剤、毒素、放射線同位体、サイトカイン、または他の治療的活性剤であってもよい。IgGは、さまざまな非タンパク質の性質のポリマー、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシアリキレン、またはポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコールの共ポリマーの1つに結合されてもよい。
【0095】
Fc融合の他に、抗体融合は、1つ以上の融合相手(ここでも、いかなる抗体の可変領域も含む)を有する重鎖の定常領域融合を含み、他の抗体融合は、融合相手と実質的または完全に完全長抗体である。一実施形態では、融合相手の役割とは、標的結合を介在することであり、したがって、機能的に、抗体の可変領域に類似する(および、実際類似してもよい)。事実上、いかなるタンパク質または小分子も、Fcに結合して、Fc融合(または抗体融合)を生成してもよい。タンパク質融合相手は、受容体の標的結合領域、接着分子、リガンド、酵素、サイトカイン、キモカインを含むが、それらに限定されず、いくつかの他のタンパク質またはタンパク質ドメイン小分子融合相手は、Fc融合を治療標的に誘導するいかなる治療剤を含んでもよい。そのような標的は、いかなる分子、好適には、疾患を担う細胞外受容体であってもよい。
【0096】
共役相手は、タンパク質性質または非タンパク質性質であってもよく、一般的に、後者は、抗体および共役相手上の官能基を使用して生成される。例えば、リンカーは、当該技術分野において周知であり、例えば、ホモ-ヘテロ-二機能リンカーは、周知である(1994 Pierce Chemical Company catalog、technical section on cross-linkers,pages 155-200参照。参照することにより本出願に組み込まれる)。」
実施例
カ 「(実施例8:さまざまなFcドメイン内のFcRn変異体)
【0211】
本発明の変異体は、分子生物学および本出願に記載の精製技術(実施例1に記載の技術を含む)を使用して、いかなる定常領域に組み込まれてもよい。図2に記載するとおりIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4定常ドメインのアミノ酸配列を使用してもよい。」
キ 「図2a

図2b

図2c



2 判断
(1)引用発明の認定
上記1(1)のア、ウ?オによれば、引用文献1は、哺乳動物α1-抗トリプシン(AAT)をセリンプロテアーゼ阻害因子として使用することを特徴とする発明を開示するものであって、同カに記載された態様に基づけば、引用文献1には次のとおりの発明が記載されているということができる。
「以下に示されるアミノ酸配列のα1-抗トリプシン(AAT)ポリペプチドがヒト免疫グロブリン定常領域と連結されてなり、セリンプロテアーゼ阻害活性を示し、細菌感染を治療する方法において使用される、融合タンパク質。

」(以下、「引用発明」という。)

(2)対比
本願発明において、配列番号2は完全長のヒトAATポリペプチドのアミノ酸配列であって、その反応部位ループである配列番号1のアミノ酸配列を含むものである(本願明細書の段落【0008】、【0010】)。一方、引用発明のAATポリペプチドのアミノ酸配列は、1?23位のアミノ酸配列を余分に含んでいる以外は本願発明の配列番号2と完全に一致するものであり、上記1?23位のアミノ酸配列はヒトAATのリーダー配列であること(必要ならば、特表2004-537970号公報の28頁表10を参照。)に照らすと、本願発明の配列番号1、2のアミノ酸配列を含むヒトα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチドに当たる。そして、引用文献1において引用発明の融合タンパク質は単離されたものと解することができ、本願発明の「免疫グロブリンFcポリペプチド」と引用発明の「免疫グロブリン定常領域」は同義であることから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりのものと認められる。
一致点: 配列番号1、配列番号2のアミノ酸配列を含む、少なくとも1つのヒトα1アンチトリプシン(AAT)ポリペプチドを含む単離された融合タンパク質であって、前記AATポリペプチドが、免疫グロブリンFcポリペプチドに作動できるように連結され、セリンプロテアーゼ阻害活性を示し、疾患又は障害を治療する方法において使用される、単離された融合タンパク質。
相違点1: 免疫グロブリンFcポリペプチドが、本願発明では、「配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含」み、「Met252、Ser254、Thr256、Met428、及びAsn434から成る群から選択される位置において少なくとも1つの突然変異を含」むものであるのに対して、引用発明では、ヒト由来のものであると特定されているだけである点。
相違点2: 本願発明では、「AATポリペプチド及び免疫グロブリンFcポリペプチドが、ヒンジ領域、リンカー領域、又はヒンジ領域とリンカー領域の両方を介して作動できるように連結され」ているのに対して、引用発明ではそのような特定がなされていない点。
相違点3: 疾患又は障害が、本願発明では「AAT欠乏、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、アレルギー性喘息、嚢胞性繊維症、肺癌、虚血-再潅流損傷、心臓移植後の虚血/再潅流損傷、心筋梗塞、関節リウマチ、敗血症性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、I型及び/又はII型糖尿病、肺炎、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、創傷治癒、全身性エリテマトーデス、及び多発性硬化症から成る群から選択される」ものであるのに対して、引用発明では「細菌感染」である点。

(3)判断
ア 相違点1について
引用文献1には、引用発明が、どのような目的でAATポリペプチドを免疫グロブリン定常領域と連結して融合タンパク質としたのかについて明示的な記載はなく、一態様として、Fc受容体に結合せず抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)反応を開始しないような免疫グロブリン定常領域を用いることが挙げられているだけである(上記1(1)カ)。しかし、本願優先日当時、生理活性ポリペプチドの生体内半減期を延長させるために免疫グロブリン定常領域と連結して融合タンパク質とすること、その目的のために用いる免疫グロブリン定常領域はADCCなどのエフェクター機能を抑制したものが好ましいことが、当業者に周知であったので(例えば、特表2007-537992号公報、特表2008-506635号公報及び特表2007-505643号公報を参照。)、引用文献1に接した当業者であれば、引用発明はAATの生体内半減期を延長させる目的で融合タンパク質としたものであると理解するのが自然である。
一方、引用文献2は、Fc領域内の特定の位置のアミノ酸に突然変異を導入してFcRnへの結合親和性を増加させることにより、抗体やイムノアドヘシンといったFc領域を含むタンパク質の生体内半減期を延長させることを開示するものである(上記1(2)ア?エ)。そして、用いるFc領域として例示されたヒトIgG4の定常領域のアミノ酸配列(上記1(2)キの配列番号4)は、本願発明の配列番号6のアミノ酸配列と98.1%の同一性を有し、突然変異を導入する位置として、本願発明の突然変異の位置と一致する252位、254位、256位、428位及び434位が挙げられ(上記1(2)ア)、それらの位置は上記ヒトIgG4の定常領域のアミノ酸配列においてそれぞれMet、Ser、Thr、Met及びAsnであることが見て取れる(上記1(2)キの配列番号4)から、引用文献2には、本願発明のうち上記相違点1に係る構成が、イムノアドヘシン(任意のタンパク質とFc領域との融合タンパク質のこと。上記1(2)オ)を形成するFc領域として記載されているといえる。
上述のとおり、引用発明は、セリンプロテアーゼ阻害活性という生理活性を有するAATの生体内半減期を延長するためにヒト免疫グロブリン定常領域と連結して融合タンパク質としたものと理解されるのだから、用いるヒト免疫グロブリン定常領域として、それ自体の生体内半減期が延長するように突然変異を導入された引用文献2記載のものを採用することは、当業者が容易に推考し得ることである。
イ 相違点2について
生理活性ポリペプチドと免疫グロブリン定常領域とを連結して融合タンパク質にする際に、リンカーやヒンジを介在させることは、周知技術であり(例えば、上記1(2)オ、特表2007-537992号公報、特表2008-506635号公報及び特表2007-505643号公報を参照。)、当業者が必要に応じて適宜変更しうる設計的事項にすぎない。
ウ 相違点3について
本願発明は、治療する疾患又は障害として「敗血症」を含むものである。一方、引用発明は「細菌感染」を治療対象とするところ、細菌が炭疽の場合には症状として敗血症が含まれるものであるから(上記1(1)ア)、本願発明と引用発明とは治療対象とする疾患又は障害が「敗血症」の点で重複するといえ、上記相違点3は実質的な相違ではない。
また、引用文献1自体にも記載されているとおり(上記1(1)イ))、本願優先日当時、AATをAAT欠乏を治療するために用いることは当業者に周知であったのだから、引用文献1に接した当業者にとって、引用発明の融合タンパク質が細菌感染の治療のみならず、AAT欠乏にも有用なものであることは自明である。したがって、本願発明において対象とする疾患又は障害が「AAT欠乏」の場合についても、当業者が容易に発明をすることができたものであると認める。
エ 効果について
本願明細書に記載された実施例は、いずれもFc領域が配列番号3又は4のアミノ酸配列を有するものであって、本願発明の「配列番号6のアミノ酸配列と少なくとも98%同一であるアミノ酸配列を含む免疫グロブリンFcポリペプチド」及び「前記免疫グロブリンFcポリペプチドが、Met252、Ser254、Thr256、Met428、及びAsn434から成る群から選択される位置において少なくとも1つの突然変異を含み」を満たすものではないから、本願明細書から本願発明特有の効果を見出すことはできず、本願発明が引用文献1、2の記載から予測できない効果を有するものとは認めることができない。
オ 小括
以上のとおりであるから、本願発明は引用文献1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)請求人の主張について
請求人が審判請求書又は平成30年12月19日付け意見書においてする主張とそれに対する合議体の判断は、次のとおりである。
ア 請求人の主張
(ア)本願優先日当時、血清由来AATと同等の活性や薬理学的特性を有する組換えAATの製造は成功していなかったところ、本発明者らは、従来の精製法における低pH処理が不活性化をもたらすことを見出し、中性付近のpHにおける精製法を開発して、血清由来と同等の組換えAATを初めて提供した。いずれの引用文献にも適切な活性を有する組換えAATが製造できることの具体的な示唆がないのだから、当業者といえども本願発明の融合タンパク質に想到することは極めて困難である。
(イ)引用文献1には、Fc受容体と相互作用しない免疫グロブリン融合タンパク質を利用することが望ましいことが記載されている。

イ 判断
上記主張(ア)について
本願発明は、「融合タンパク質」という物の発明であって、その精製法が限定されているわけではなく、活性に関しては「セリンプロテアーゼ阻害活性を示し、そして、AAT欠乏、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)、アレルギー性喘息、嚢胞性繊維症、肺癌、虚血-再潅流損傷、心臓移植後の虚血/再潅流損傷、心筋梗塞、関節リウマチ、敗血症性関節炎、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、クローン病、乾癬、I型及び/又はII型糖尿病、肺炎、敗血症、移植片対宿主病(GVHD)、創傷治癒、全身性エリテマトーデス、及び多発性硬化症から成る群から選択される対象における疾患又は障害を治療する方法において使用される」という特定を有するにすぎないものである。
引用発明の融合タンパク質や引用文献2に記載された任意のタンパク質とFc領域との融合タンパク質は、いずれもFc領域に融合する前のタンパク質の活性が保たれるものであることが前提であって、当業者であれば引用発明の免疫グロブリン定常領域として引用文献2記載のものを採用した場合であっても、AATの活性が保たれると考えるのが自然である。実際、従来の中性付近のpHでの精製法であっても一定程度の「セリンプロテアーゼ活性を示」す融合タンパク質が得られることは、本願の図1Fからも明らかである。そして、引用文献1の記載(上記1(1)オ)に照らすと、セリンプロテアーゼ活性を示すのであれば、炭疽感染による「敗血症」などの治療効果が発揮されるものである。したがって、請求人の主張(ア)は採用の限りでない。
上記主張(イ)について
上記1(3)アのとおり、引用文献1における、Fc受容体と相互作用しない免疫グロブリン融合タンパク質を利用することが望ましい旨の記載は、ADCCなどのエフェクター機能を抑制したものが好ましいことを意味するのであって、引用発明と引用文献2記載の発明とを組み合わせる動機を与えこそすれ、妨げるものではない。引用文献2に記載されたFcRnはFc領域と相互作用する受容体ではあるが、ADCCなどのエフェクター機能ではなく、生体内半減期に関与するものであって、引用文献1で意図されるFc受容体ではない。したがって、請求人の主張(イ)は、本願発明が容易想到でないことの理由にはならない。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-02-13 
結審通知日 2019-02-19 
審決日 2019-03-05 
出願番号 特願2014-519049(P2014-519049)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 星 浩臣  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 大宅 郁治
長井 啓子
発明の名称 セルピン融合ポリペプチド及びその使用方法  
代理人 中島 勝  
代理人 三橋 真二  
代理人 青木 篤  
代理人 池田 達則  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 武居 良太郎  

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