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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H02J
管理番号 1353844
審判番号 不服2018-5725  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-04-25 
確定日 2019-08-20 
事件の表示 特願2016-569100「通信装置、電力管理装置及び電力管理方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月15日国際公開、WO2016/199815、請求項の数(9)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)6月8日(優先権主張2015年(平成27年)6月8日)を国際出願日とする出願であって、平成29年4月7日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年6月7日付けで手続補正がされ、平成29年9月1日付けで拒絶理由通知がされ、平成29年11月6日付けで手続補正がされ、平成30年1月30日付けで拒絶査定がされ、これに対して、平成30年4月25日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成31年3月8日付けで拒絶理由通知(以下、当該拒絶理由を「当審拒絶理由」という。)がされ、令和元年5月13日付けで手続補正がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年1月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1-10に係る発明は、以下の引用文献A-Bに基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
A.特開2002-152976号公報
B.特開2013-161118号公報

第3 当審拒絶理由の概要
当審拒絶理由の概要は次のとおりである。

1.本願請求項1-9に係る発明は、以下の引用文献1-2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2013-161118号公報(拒絶査定時の引用文献B)
2.特開2013-031236号公報(当審において新たに引用した文献)

2.本願は、特許請求の範囲の請求項8の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 本願発明
本願請求項1-9に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明9」という。)は、令和元年5月13日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-9に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1は以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
太陽電池から出力されるDC電力をAC電力に変換する変換装置を有する電力変換装置に設けられる通信装置であって、
需要家施設に設けられる機器の電力を管理する電力管理装置を経由せずに、前記太陽電池の出力抑制を指示する出力抑制メッセージを送配電事業者の外部サーバから受信する第1通信部と、
電力管理装置と所定フォーマットを有する所定メッセージの通信を行う第2通信部とを備え、
前記太陽電池の出力抑制は、電力系統の安定化を図るために、前記太陽電池で発電した電力のうち前記電力系統へ逆潮流させる電力量を低減させるものであって、前記変換装置によって前記出力抑制メッセージに従って行われ、
前記所定フォーマットは、前記出力抑制メッセージの取得状況に関する取得状況情報を格納可能な情報要素を含み、
前記第2通信部は、前記取得状況情報を情報要素として含む前記所定メッセージを前記電力管理装置に送信する、通信装置。」

また、本願発明2-9の概要は以下のとおりである。

本願発明2-7は、本願発明1を減縮した発明である。
本願発明8は、「通信装置」の発明である本願発明1に対応する「電力管理装置」の発明である。
本願発明9は、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「電力管理方法」の発明である。

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
当審拒絶理由で引用された引用文献1(特開2013-161118号公報)には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、特に着目した箇所を示す。以下、同様。)。

(1) 段落【0010】-【0013】
「【0010】
図1は本発明の実施の形態に係る蓄電システムが適用される施設集合体100を説明するための図である。実線は通信線を示し、点線の矢印はメールサーバ300から警報情報を送信する流れを示している。メールサーバ300はWAN(Wide Area Network)200とLAN(Local Area Network)10を介して施設集合体100に接続される。
【0011】
携帯機器400はメールサーバ300から警報情報を受信可能なものなら如何なるものでもよく、例えば携帯電話、ポータブルコンピュータ等でよい。なお、警報情報はネットワークを通じて送信可能な手段なら如何なるものでもよく、実施の形態1では電子メールを使用する。
【0012】
施設集合体100は少なくともLAN10、蓄電棟20、システムコントローラ30、そして電力管理装置40を含んでいる。蓄電棟20、システムコントローラ30、そして電力管理装置40はLAN10を介して接続される。なお、施設集合体100はLAN10に接続されていれば、複数の施設に分けて構成されてもよい。蓄電棟20はLAN10とWAN200を介してメールサーバ300に接続される。
【0013】
図2は、本発明の実施の形態1に係る蓄電棟20を説明する図面である。電力線は実線で示し、指令、警報情報の流れる方向は矢印で示している。蓄電棟20は少なくとも系統電源11、系統12、負荷13、電力計14、そして蓄電装置22を含む。ただし、図面では蓄電装置22、双方向電力変換部25をひとつしか記載していないが蓄電装置22、双方向電力変換部25が複数存在してもよい。」

(2) 段落【0016】-【0020】
「【0016】
双方向電力変換部26は系統電源11から供給される交流電力を直流電力に変換する。変換した直流電力を蓄電装置22に充電する。また、蓄電装置22から放電された直流電力を交流電力に変換し、系統12に出力する。この交流電力は負荷13で消費される。
【0017】
電力変換管理部27は1つまたは複数の双方向電力変換部26の充放電制御を管理する機能を有する。電力変換管理部27はマスターコントローラ29から双方向電力変換部26の全体の充放電出力を制御する双方向電力変換部26の充放電制御指令を受ける。また、電力変換管理部27は、双方向電力変換部26の異常を示す情報を電力変換部管理データとしてマスターコントローラ29に送信する。双方向電力変換部26の異常とは双方向電力変換部26の充放電制御指令等に基づいた制御ができない異常のことで、例えば、双方向電力変換部26の停止や出力電圧低下等のハードの異常もしくは電力変換管理部27との通信ができない通信異常のことである。
【0018】
マスターコントローラ29は電力変換管理部27から受信した電力変換部管理データを異常に対する警報としてシステムコントローラ30と電力管理装置40に送信する。異常に対する警報を送信後、電力変換管理部27は異常が発生した双方向電力変換部26の停止命令を出し、異常が発生した双方向電力変換部26の停止をさせる。異常が発生した双方向電力変換部26の停止をさせた後、電力変換管理部27は異常に対処したことに対する警報をマスターコントローラ29に送信する。

・・・(中略)・・・

【0020】
サブコントローラ28は一つまたは複数の蓄電装置22の充放電制御をするもので、各蓄電装置22に設けられる。」

(3) 段落【0022】-【0028】
「【0022】
マスターコントローラ29は双方向電力変換部26の制御をしている一つまたは複数の電力変換管理部27と蓄電装置22の充放電制御をしている一つまたは複数のサブコントローラ28の充放電制御指令をするもので、全ての電力管理部27とサブコントローラ28を統括しているものである。
【0023】
マスターコントローラ29は、双方向電力変換部26、サブコントローラ28、システムコントローラ30、そして電力管理装置40との相互通信をしている。マスターコントローラ29は各サブコントローラ28から蓄電装置22の充放電電力情報を受け取り、電力管理装置40に充放電電力情報を送信する。電力管理装置40は充放電電力情報を受信したことに対してマスターコントローラ29に応答をする。

・・・(中略)・・・

【0026】
システムコントローラ30は電力管理装置40から送信される充放電電力情報から充放電計画を作成し、作成した充放電計画に従った全体充放電制御指令を生成する。充放電計画とは、負荷13の必要電力状況や蓄電装置22の状態に合わせて、適切な充放電制御を、双方向電力変換部26、サブコントローラ28にさせるものである。
【0027】
システムコントローラ30はマスターコントローラ29に全体充放電制御指令を送信する。マスターコントローラ29は全体充放電制御指令に基づいて、各サブコントローラ28と双方向電力変換部26に充放電指令を送信する。システムコントローラ30からの全体充放電制御指令は必要なときに送信されるので、送信間隔が長いときにシステムコントローラ30が動作中であるか否かを確認するための死活確認信号が、マスターコントローラ29からシステムコントローラ30に任意で定めた適当な周期で送信される。そのため、マスターコントローラ29はシステムコントローラ30から任意で定めた時間内で応答がない場合、システムコントローラ30の通信異常が発生したことに対する警報を電力管理装置40に送信できる。
【0028】
電力管理装置40は蓄電装置22に関する電力情報を管理するもので、サブコントローラ28、マスターコントローラ29と通信路で接続される。」

(4) 段落【0032】-【0058】
「【0032】
図3は、本発明の実施の形態1に係る電力管理装置40の警報の詳細内容データである警報情報を作成するための機能ブロックを示す図面である。
【0033】
電力管理装置40の警報の詳細内容データである警報情報を作成するための機能は少なくとも、警報受信部41、制御部42、格納部43そして警報情報送信部48を含む。

・・・(中略)・・・

【0044】
警報情報作成部47はテーブル情報から警報情報を作成する。警報情報としては少なくとも、緊急対応性の要・不要、発生場所、発生時刻、そして、警報対応の有無等である。
【0045】
電子メールで警報情報を送信する場合、電子メールの件名に緊急対応性の要・不要等の早急に対応できるような記載をして受信した対応者が電子メールの本文を読まなくても異常対応の判断ができるようにしても良い。
また、警報情報作成部47は送信された異常が発生したことに対して送信される警報に基づいて、あらかじめ設定された送信宛に送信する。
【0046】
警報情報送信部48は警報情報作成部47で作成した警報情報を記載した電子メール(以下、警報メール)をメールサーバ300に送信をする。

・・・(中略)・・・

【0058】
メールサーバ300に送信された警報メールは警報情報作成部47で設定された送信先に送信される (S18) 。異常に対応する者はメールサーバ300から受信した警報メールの内容から異常対応の判断をする。」

よって、上記各記載事項を関連図面に照らし、下線部に着目すれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。

「 施設集合体100において、蓄電棟20、システムコントローラ30、電力管理装置40はLAN10を介して接続され、蓄電棟20はLAN10とWAN200を介してメールサーバ300に接続されるものであって、
蓄電棟20は少なくとも系統電源11、系統12、負荷13、電力計14、そして蓄電装置22を含み、
さらに、蓄電棟20の双方向電力変換部26は、系統電源11から供給される交流電力を直流電力に変換して、変換した直流電力を蓄電装置22に充電し、また、蓄電装置22から放電された直流電力を交流電力に変換し、系統12に出力するものであり、
蓄電棟20の電力変換管理部27は、1つまたは複数の双方向電力変換部26の充放電制御を管理する機能を有するとともに、マスターコントローラ29から双方向電力変換部26の全体の充放電出力を制御する双方向電力変換部26の充放電制御指令を受け、また、双方向電力変換部26の異常を示す情報を電力変換部管理データとしてマスターコントローラ29に送信するものであって、
ここで、双方向電力変換部26の異常とは双方向電力変換部26の充放電制御指令等に基づいた制御ができない異常のことで、例えば、双方向電力変換部26の停止や出力電圧低下等のハードの異常もしくは電力変換管理部27との通信ができない通信異常のことであり、
蓄電棟20のマスターコントローラ29は、電力変換管理部27から受信した電力変換部管理データを異常に対する警報としてシステムコントローラ30と電力管理装置40に送信し、異常に対する警報を送信後、電力変換管理部27は異常が発生した双方向電力変換部26の停止命令を出し、異常が発生した双方向電力変換部26の停止をさせ、
一方、システムコントローラ30は電力管理装置40から送信される蓄電装置22の充放電電力情報から充放電計画を作成し、作成した充放電計画に従った全体充放電制御指令を生成して、マスターコントローラ29に全体充放電制御指令を送信し、
マスターコントローラ29は、全体充放電制御指令に基づいて、蓄電装置22の充放電制御をする各サブコントローラ28と、双方向電力変換部26に充放電指令を送信するとともに、全体充放電制御指令の送信間隔が長いときにシステムコントローラ30が動作中であるか否かを確認するための死活確認信号をシステムコントローラ30に任意で定めた適当な周期で送信し、システムコントローラ30から任意で定めた時間内で応答がない場合、システムコントローラ30の通信異常が発生したことに対する警報を電力管理装置40に送信するものであって、
電力管理装置40は充放電電力情報を受信し、蓄電装置22に関する電力情報を管理するものであって、さらに、受信した警報の詳細内容データである警報情報を作成し、警報情報を記載した電子メール(警報メール)をメールサーバ300に送信し、メールサーバ300から、設定された送信先の携帯機器400に警報メールが送信されることで、異常に対応する者は受信した警報メールの内容から異常対応の判断をすることができる、
ことを特徴とする施設集合体100。」

2.引用文献2について
当審拒絶理由で引用された引用文献2(特開2013-031236号公報)には、図面とともに、以下の記載がある(下線は、特に着目した箇所を示す。以下、同様。)。

(1) 段落【0002】
「【0002】
近年、一般家庭等の需要家において、太陽電池(PV)に限らず、蓄電池、或いは、燃料電池などの電力供給装置を備える電力制御システムが普及しつつある。」

(2) 段落【0025】
「【0025】
なお、系統側管理装置50は、電力事業者が需要家10から電力系統20に逆潮流された逆潮流電力量を管理するために設けられている。本実施形態において、系統側管理装置50は、外部装置を構成する。また、系統側管理装置50は、電力事業者によって管理されるCEMS(Community Energy Management System)と称される装置であってもよい。なお、広域通信網80は、専用回線網でもよいし、インターネットでもよい。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1) 対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

ア 引用発明の「蓄電装置22」は、本願発明1の「太陽電池」と、分散電源である点で共通し、引用発明の「蓄電装置22から放電された直流電力を交流電力に変換し、系統12に出力する」「双方向電力変換部26」は、本願発明1の「太陽電池から出力されるDC電力をAC電力に変換する変換装置」と、分散電源「から出力されるDC電力をAC電力に変換する変換装置」である点で共通する。
また、引用発明の「双方向電力変換部26」を有する「蓄電棟20」は、本願発明1の「変換装置を有する電力変換装置」に相当する。
さらに、引用発明の「双方向電力変換部26」は、「電力変換管理部27」と通信し、「電力変換管理部27」は「マスターコントローラ29」と通信することから、引用発明の「蓄電棟20」の「電力変換管理部27」及び「マスターコントローラ29」は、本願発明1の「電力変換装置に設けられる通信装置」に相当する。

イ 引用発明の「蓄電棟20」は「蓄電装置22を含」んでおり、「蓄電棟20」は施設といえるから、引用発明の「充放電電力情報を受信し、蓄電装置22に関する電力情報を管理する」「電力管理装置40」は、本願発明1の「需要家施設に設けられる機器の電力を管理する電力管理装置」と、「施設に設けられる機器の電力を管理する電力管理装置」である点で共通する。

ウ 引用発明の「蓄電棟20のマスターコントローラ29は」、「システムコントローラ30」から、「蓄電装置22の充放電電力情報」に基づいて作成された「充放電計画」「に従った全体充放電制御指令」を受信し、当該「全体充放電制御指令に基づいて、蓄電装置22の充放電制御をする各サブコントローラ28と、双方向電力変換部26に充放電指令を送信する」ところ、「全体充放電制御指令」は、蓄電装置の充放電、及び、系統への電力の出力制御を指示するメッセージであると言い換えることができる。
そして、系統への電力の出力制御には、出力を抑制する制御も当然に含まれることから、引用発明の「全体充放電制御指令」は、本願発明1の「太陽電池の出力抑制を指示する出力抑制メッセージ」に対応し、引用発明の「全体充放電制御指令」を受信する「蓄電棟20のマスターコントローラ29」は、本願発明1の、「電力変換装置に設けられる通信装置であって、需要家施設に設けられる機器の電力を管理する電力管理装置を経由せずに、太陽電池の出力抑制を指示する出力抑制メッセージを」「受信する第1通信部」と、「電力変換装置に設けられる通信装置であって、」「施設に設けられる機器の電力を管理する電力管理装置を経由せずに、」分散電源「の出力抑制を指示する出力抑制メッセージを」「受信する第1通信部」である点で共通する。
また、引用発明では「全体充放電制御指令に基づいて」「双方向電力変換部26に充放電指令」が送信されることから、系統への出力抑制などの出力制御は、双方向電力変換部によって、全体充放電制御指令に従って行われるといえ、本願発明1の「太陽電池の出力抑制は、」「前記変換装置によって前記出力抑制メッセージに従って行われ」ることと、分散電源「の出力抑制は、」「前記変換装置によって前記出力抑制メッセージに従って行われ」る点で共通する。
さらに、引用発明の「全体充放電制御指令」を「マスターコントローラ29」へ送信する「システムコントローラ30」は、ネットワークを介して、出力抑制メッセージを第1通信部へ送信する点で、本願発明1の「送配電事業者の外部サーバ」と共通する。

エ 引用発明の「マスターコントローラ29は」、「全体充放電制御指令の送信間隔が長いときに」「死活確認信号をシステムコントローラ30に任意で定めた適当な周期で送信し、システムコントローラ30から任意で定めた時間内で応答がない場合、システムコントローラ30の通信異常が発生したことに対する警報を電力管理装置40に送信する」ことから、マスターコントローラ29と電力管理装置40とは、何らかの通信フォーマットに従って、警報、すなわち所定メッセージの通信を行っていることは明らかである。
そして、この警報は、システムコントローラ30の通信異常が発生したことに対する警報であるから、システムコントローラ30から全体充放電制御指令が送信されない、という“出力抑制メッセージの取得状況に関する取得状況情報”が含まれたものといえる。
したがって、引用発明の「システムコントローラ30の通信異常が発生したことに対する警報」は、本願発明1の「出力抑制メッセージの取得状況に関する取得状況情報を格納可能な情報要素を含」む「所定フォーマット」を有する「所定メッセージ」に相当し、引用発明の「警報を電力管理装置40に送信する」「マスターコントローラ29」は、本願発明1の「電力管理装置と所定フォーマットを有する所定メッセージの通信を行う第2通信部」に相当する。

よって、本願発明1と引用発明との一致点・相違点は、次のとおりであるといえる。

[一致点]
「 分散電源から出力されるDC電力をAC電力に変換する変換装置を有する電力変換装置に設けられる通信装置であって、
施設に設けられる機器の電力を管理する電力管理装置を経由せずに、前記分散電源の出力抑制を指示する出力抑制メッセージを受信する第1通信部と、
電力管理装置と所定フォーマットを有する所定メッセージの通信を行う第2通信部とを備え、
前記分散電源の出力抑制は、前記変換装置によって前記出力抑制メッセージに従って行われ、
前記所定フォーマットは、前記出力抑制メッセージの取得状況に関する取得状況情報を格納可能な情報要素を含み、
前記第2通信部は、前記取得状況情報を情報要素として含む前記所定メッセージを前記電力管理装置に送信する、通信装置。」

[相違点1]
分散電源に関して、本願発明では「太陽電池」であるのに対して、引用発明では“蓄電装置22”である点。

[相違点2]
電力管理装置が管理する機器が設けられる施設に関して、本願発明1では「需要家施設」であるのに対して、引用発明では“蓄電棟20”である点。

[相違点3]
第1通信部が受信する出力抑制メッセージに関して、本願発明1では「送配電事業者の外部サーバ」から受信するのに対して、引用発明では“システムコントローラ30”から受信する点。

[相違点4]
分散電源の出力抑制に関して、本願発明1では、「電力系統の安定化を図るために、前記太陽電池で発電した電力のうち前記電力系統へ逆潮流させる電力量を低減させるもの」であるのに対して、引用発明では、“負荷13の必要電力状況や蓄電装置22の充放電状態に合わせて、適切な充放電制御をするために行われる”点。

(2) 相違点についての判断
事案に鑑みて、分散電源の出力抑制に関連する、上記相違点1、3-4について先にまとめて検討する。

本願発明1は、本願発明1の上記相違点1、3-4に係る、「前記太陽電池の出力抑制を指示する出力抑制メッセージを送配電事業者の外部サーバから受信」し、「電力系統の安定化を図るために、前記太陽電池で発電した電力のうち前記電力系統へ逆潮流させる電力量を低減させる」こと(以下、「本願発明1の上記相違点1、3-4に係る構成」という。)により、本願明細書の段落【0020】に記載されるように、「系統の安定化を図ることができる」との効果を有するものである。

しかし、上記引用文献1-2のいずれも、電力系統の安定化を図ることを考慮したものではなく、本願発明1の上記相違点1、3-4に係る構成について、上記引用文献1-2のいずれにも記載も示唆もされておらず、また、この構成が周知技術であるともいえない。

したがって、本願発明1は、上記相違点2を検討するまでもなく、当業者であっても、引用発明、引用文献1-2に記載された技術に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

2.本願発明2-9について
上記「第4」のとおり、本願発明2-7は、本願発明1を減縮した発明であり、本願発明8は、「通信装置」の発明である本願発明1に対応する「電力管理装置」の発明であり、本願発明9は、本願発明1に対応する、カテゴリ表現が異なる「電力管理方法」の発明であって、本願発明1の上記相違点1、3-4に係る構成と実質的に同一の構成を備えるものである。

よって、本願発明1と同じ理由により、本願発明2-9も、当業者であっても、引用発明、引用文献1-2に記載された技術に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定についての判断
令和元年5月13日付けの手続補正で補正された請求項1-9は、上記「第6」のとおり、本願発明1の上記相違点1、3-4に係る構成を備えるものであり、当該構成は、原査定における引用文献A-Bには記載されておらず、本願優先日前における周知技術でもないので、本願発明1-9は、当業者であっても、原査定における引用文献A-Bに基づいて容易に発明できたものではない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 当審拒絶理由の理由2について
当審では、請求項8の「電力管理装置」の構成が不明瞭であるとの拒絶の理由2を通知しているが、令和元年5月13日付けの補正において、「前記需要家施設の電力情報を表示するように表示装置を制御する制御部と、前記電力管理装置を経由せずに太陽電池の出力抑制を指示する出力抑制メッセージを送配電事業者の外部サーバから受信する通信装置及び前記太陽電池から出力されるDC電力をAC電力に変換する変換装置を備える電力変換装置に対して、所定フォーマットを有する所定メッセージの通信を行う通信部とを備え、」と補正された結果、この拒絶の理由2は解消した。

第9 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-08-05 
出願番号 特願2016-569100(P2016-569100)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H02J)
P 1 8・ 121- WY (H02J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 野元 久道  
特許庁審判長 ▲吉▼田 耕一
特許庁審判官 白井 亮
梶尾 誠哉
発明の名称 通信装置、電力管理装置及び電力管理方法  
代理人 キュリーズ特許業務法人  

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