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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A23C
管理番号 1353885
審判番号 不服2018-6189  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-05-07 
確定日 2019-08-01 
事件の表示 特願2013- 39636「粉末状のヨーグルト材料およびヨーグルト製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月11日出願公開、特開2014-166160〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成25年2月28日に出願された特願2013-39636号であり、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
・平成29年1月16日付け拒絶理由通知
・平成29年3月27日に意見書及び手続補正書の提出
・平成29年6月27日付け拒絶理由通知
・平成29年9月7日に意見書及び手続補正書の提出
・平成30年1月29日付け拒絶査定
・平成30年5月7日に拒絶査定不服審判の請求及びその請求と同時に手続補正書の提出
・平成31年1月31日付け当審における拒絶理由通知
・平成31年4月8日に意見書及び手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成31年4月8日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。

「粉乳と、
25度以上の温度の場合に24時間以下の時間発酵させ、25度未満の温度の場合に24?48時間発酵させるための乳酸菌の株と、
を含み、
加熱しない水を加えて発酵させるとヨーグルトとなる粉末状のヨーグルト材料。」

第3 拒絶の理由の概要
平成31年1月31日付けで当審が通知した拒絶理由のうちの理由2は、概ね次のとおりのものである。

・本願の請求項1-4,6-8に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないか、又は同発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

特開2006-304725号公報

第4 引用文献について
1 引用文献の記載
当審における拒絶理由に引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-304725号公報(以下、「引用文献」という。)には、次の記載がある(下線は、当審で付した。)。
(1)「【請求項1】
乳酸菌の死菌と、乳酸菌の生菌と、酸味料とを含有する組成物からなり、牛乳、水又は豆乳を添加して、そのまま又は発酵させることにより、ヨーグルトとして食することができるようにしたことを特徴とするインスタントヨーグルト。
【請求項2】
前記組成物が所定量ずつ包装されており、1包内における乳酸菌の死菌の菌数が10億個から5兆個であり、乳酸菌の生菌の菌数が100万個以上である請求項1記載のインスタントヨーグルト。
【請求項3】
前記酸味料として、発酵乳酸パウダーとクエン酸との混合物を含有する請求項1又は2記載のインスタントヨーグルト。
【請求項4】
前記酸味料は、牛乳100mlを添加、混合したときのpHが、3.5?4.8の範囲になるように調製されている請求項1?3のいずれか1つに記載のインスタントヨーグルト。
【請求項5】
更に、脱脂粉乳、全脂粉乳、及び豆乳から選ばれた少なくとも一種を含有する請求項1?4のいずれか1つに記載のインスタントヨーグルト。
【請求項6】
乳酸菌の生菌以外の原料が顆粒化され、この顆粒と乳酸菌の生菌とが混合されている請求項1?6のいずれか1つに記載のインスタントヨーグルト。」

(2)「【0001】
本発明は、牛乳、豆乳又は水を添加して、そのまま又は発酵させることにより、ヨーグルトとして食することができるようにしたインスタントヨーグルトに関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌は、腸内細菌叢を良好な状態に保って、お腹の調子をよくするのに寄与し、免疫賦活等の生理活性効果も有していることが知られている。このため、牛乳を乳酸発酵させて得られるヨーグルトは、健康志向の飲食品として、近年注目されている。更に、各家庭においても自家製ヨーグルトを作るブームが起こり、ヨーグルトを通して乳酸菌を摂取しようという風潮が出てきている。
【0003】
例えば、グルジアの長寿村で見つけたとされるラクトコッカス・ラクティス・クレモリス菌(Lactococcus lactis ssp cremoris)他を牛乳に添加し、発酵させて得られる、いわゆるカスピ海ヨーグルトが人気を博している。」

(3)「【0006】
しかしながら、牛乳にラクトコッカス・クレモリス菌を添加し発酵して得られる、いわゆるカスピ海ヨーグルトは、食するまでに発酵作業を行う必要があり、いつでもどこでも手軽に食するわけにはいかなかった。
【0007】
また、前記特許文献1に記載されたような乳製品は、発酵させたヨーグルトを容器に充填したものであるため、日持ちがしないという問題点があった。
【0008】
したがって、本発明の目的は、日持ちがしやすく、いつでもどこでも手軽に食することができ、場合によっては、本格的なヨーグルト製品として味わうこともできるインスタントヨーグルトを提供することにある。」

(4)「【0009】
上記目的を達成するため、本発明は、乳酸菌の死菌と、乳酸菌の生菌と、酸味料とを含有する組成物からなり、牛乳、水又は豆乳を添加して、そのまま又は発酵させることにより、ヨーグルトとして食することができるようにしたことを特徴とするインスタントヨーグルトを提供するものである。
【0010】
本発明によれば、乳酸菌の死菌と、乳酸菌の生菌と、酸味料とを含有する組成物からなるので、例えば粉末状等の乾燥物として調製することにより、従来のヨーグルトに比較して長期保存が可能となる。
【0011】
また、これに牛乳、水又は豆乳を添加することにより、乳酸菌を含有し酸味のあるヨーグルト様の飲食品を作ることができ、ヨーグルト様の飲食品をいつでもどこでも手軽に食することができる。
【0012】
この場合、乳酸菌の死菌を配合したことにより、比較的低コストで、ヨーグルトと同様な数の乳酸菌を含有させることができる。そして、前記特許文献2に示されるように、乳酸菌は、生菌に限らず死菌であっても、免疫賦活作用を有していることが知られているため、通常のヨーグルトと同様な生理活性効果も期待できる。
【0013】
更に、牛乳を添加して、そのまま乳酸発酵に適した温度に保温しておけば、数時間?数十時間発酵して本格的なヨーグルト製品とすることもできる。すなわち、消費者の好みや、その場の状況に応じて、牛乳や水を加えただけのインスタントヨーグルトとして食することもできるし、そのまま発酵させて本格的なヨーグルトとして食することもできる。
【0014】
本発明においては、前記組成物が所定量ずつ包装されており、1包内における乳酸菌の死菌の菌数が10億個から5兆個であり、乳酸菌の生菌の菌数が100万個以上であることが好ましい。これによれば、1包の組成物に牛乳、豆乳又は水を加えるだけで、死菌及び生菌の合計数として、1食分のヨーグルトに含まれる乳酸菌数に匹敵する乳酸菌を補うことができる。また、そのまま発酵させるのに十分な量の生菌も確保することができる。
【0015】
また、本発明においては、前記酸味料として、発酵乳酸パウダーとクエン酸との混合物を含有することが好ましい。これによれば、発酵乳酸パウダーによってヨーグルトの風味が付与されると共に、クエン酸による酸味が付与されるため、深みのある特有な酸味を作り出すことが出来る。その結果、牛乳、豆乳又は水を添加して発酵させずにそのまま食する場合でも、ヨーグルトらしい風味を味わうことができる。
【0016】
更に、前記酸味料は、牛乳100mlを添加、混合したときのpHが、3.5?4.8の範囲になるように調製されていることが好ましい。これによれば、発酵させずにそのまま食する場合には、牛乳100ml程度を添加して適度な酸味のあるインスタントヨーグルトとして食することができ、発酵させる場合には、例えば市販の1L又は500mlパックの牛乳又は豆乳に添加することにより、pHが6.0?6.3程度になるので、低pHによって乳酸発酵が妨げられることを防止できる。
【0017】
本発明においては、更に、脱脂粉乳及び/又は全脂粉乳を含有することが好ましい。これによれば、水を添加するだけでも、十分にヨーグルトらしい風味の飲食品を得ることができる。また、牛乳を使わずに水を加えるだけで乳酸発酵させることが可能となる。
【0018】
更に、乳酸菌の生菌以外の原料が顆粒化され、この顆粒と乳酸菌の生菌とが混合されていることが好ましい。これによれば、乳酸菌の生菌以外の原料を顆粒化することにより、製造工程において、生菌が高温に曝されることがないので、生菌を生きた状態に保つことができ、また、酸味料と乳酸菌の生菌との接触面積を小さくすることができるので、保存中に生菌が死んでしまうことを防止できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、消費者の好みや、その場の状況に応じて、牛乳や豆乳や水を加えただけのインスタントヨーグルトとして食することもできるし、そのまま発酵させて本格的なヨーグルトとして食することもできる。また、乳酸菌の死菌を配合したことにより、比較的低コストで、ヨーグルトと同様な数の乳酸菌を含有させることができ、通常のヨーグルトと同様な生理活性効果が期待できる。」

(5)「【0020】
本発明において、乳酸菌としては、食品として利用可能なものであれば、特に限定されず、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus、例えばATCC 4356、ATCC 4357、ATCC 11975)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis、例えばATCC 14869)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri、例えばATCC 4005)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei、例えばATCC 393)、ラクトバチルス・デルブリュッキイ(Lactobacillus delbrueckii、例えばATCC 11842)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum、例えばATCC 14931)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus、例えばATCC 15009)、ラクトバチルス・ケフィア(Lactobacillus kefir、例えばNRIC 1693)、ラクトバチルス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei、例えばNCDO 151)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum、例えばATCC 14917)、ラクトバチルス・ラムノーサス(Lactobacillus rhamnosus、例えばATCC 7469)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius、例えばATCC 11741)、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus、例えばATCC 14485、NCDO 821、ATCC 19987)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis 、例えばATCC 19257)、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス、(Lactococcus lactis ssp cremoris、例えばATCC 3427)、ラクトコッカス・プランタラム(Lactococcus plantarum、例えばATCC 43199)、ラクトコッカス・ラフィノラクティス(Lactococcus raffinolactis 、例えばATCC 43920)、ロイコノストック・ラクティス(Leuconostoc lactis 、例えばATCC 119256)、ロイコノストック・メセンテロイデス(Leuconostoc mescenteroides、例えばATCC 19254)、エンテロコッカス・フェーカリス(Enterococcus faecalis 、例えば、ATCC 19433、ATCC 14508、ATCC 23655)、エンテロコッカス・フェシウム(Enterococcus faecium 、例えばATCC 19434)などを用いることができる。乳酸菌の生菌としては、上記のような乳酸菌を含有するヨーグルトスターターなどを用いることもできる。更に、上記乳酸菌の組み合わせ以外にもケフィアグレイン、テンペパウダーなどの多くの細菌群の混合物を用いることも
出来る。
【0021】
乳酸菌の死菌は、上記のような乳酸菌を常法に従って培養して得られた培養物から、例えば、濾過、遠心分離等の方法により菌体を回収し、水洗後、水等に懸濁して80?120℃、3秒?30分間加熱処理した後、必要に応じて濃縮、乾燥することにより調製できる。この場合、上記乳酸菌の中でも、特にエンテロコッカス・フェーカリスの加熱処理菌体が好ましく用いられる。エンテロコッカス・フェーカリスの加熱処理による殺菌菌体粉末は、例えば「EC-12」(商品名、コンビ株式会社製)のように市販されているので、このような市販品を用いることもできる。
【0022】
本発明のインスタントヨーグルトは、所定量ずつ、好ましくは牛乳、豆乳又は水を100ml程度加えたときに、ヨーグルトと同様な風味となって食することができるような量ずつ、包装されていることが好ましい。そして、1包内における乳酸菌の死菌の菌数が10億個から5兆個であり、乳酸菌の生菌の菌数が100万個以上であることが好ましい。それによって、牛乳、水又は豆乳を100ml程度加えて、ヨーグルト様食品とし、そのまま食する場合であっても、通常のヨーグルト同様な乳酸菌数を含有する飲食品として食することができる。また、牛乳、豆乳又は水を加えて乳酸発酵させる場合でも、発酵に必要な生菌数を確保することができる。なお、乳酸菌数の測定は、常法により行うことができ、例えばエンテロコッカス・フェーカリスの死菌体の場合には、コンビ株式会社製の「EFアッセイ」(商品名)などを用いることもできる。
【0023】
本発明において、酸味料としては、発酵乳酸パウダーとクエン酸との混合物を含有することが好ましい。ここで、発酵乳酸パウダーは、糖や乳等を原料として乳酸菌を発酵させて得られた発酵物を、スプレードライなどの方法で粉末化したものを意味する。好ましくは、砂糖などの糖質を原料として乳酸発酵させて得られるL型乳酸発酵液をパウダー化したものが用いられる。この場合、発酵乳酸は、発酵乳酸ナトリウム、発酵乳酸カルシウム等の塩類となっていてもよい。このような発酵乳酸パウダーとしては、例えばピューラック・ジャパン株式会社から販売されている市販品を用いることもできる。
【0024】
前記酸味料の添加量は、前述したように、牛乳100mlを添加、混合したときのpHが、3.5?4.8の範囲になるように調整されることが好ましい。これにより、そのまま食する場合にはヨーグルトに近い酸味となり、例えば1L又は500mlパックの牛乳又は豆乳に添加して発酵させる場合には、乳酸菌の増殖を阻害しない程度のpH、例えばpH6以上にすることができる。
【0025】
本発明においては、更に、脱脂粉乳、全脂粉乳及び豆乳から選ばれた少なくとも1種を含有することが好ましい。脱脂粉乳、全脂粉乳及び豆乳から選ばれた少なくとも1種を含有することにより、水を加えるだけでも、ヨーグルトと同様な風味を有する飲食品を得ることができる。また、水を加えるだけで発酵させて本格的なヨーグルトにすることが可能となる。
【0026】
本発明のインスタントヨーグルトには、上記の他に、砂糖、ガラクトオリゴ糖末(ヤクルト薬品工業製)、フラクトオリゴ糖末(明治製菓製)、キシロオリゴ糖末(サントリー製)、乳果オリゴ糖末(塩水港精糖製)、ラフィノース(日本甜菜糖製)、大豆オリゴ糖末(カルピス製)、ラクチトール(ピューラックジャパン製)、ポリデキストロース(ダニスコジャパン製)、難消化性デキストリン(商品名「パインファイバー」、松谷化学製)等の糖類や不溶性食物繊維(結晶セルロース、コーンファイバー、プルーン搾りかす等)、粉末果汁、天然色素、カルシウム剤、ビタミン類、コエンザイムQ10、イソフラボン、カルニチン、αリポ酸、香料などを添加してもよい。
【0027】
本発明のインスタントヨーグルトは、発酵乳酸パウダー2.0?20質量%、クエン酸0.1?5.0質量%、糖類20?90質量%、香料0.01?0.5質量%を含有することがより好ましい。
【0028】
本発明のインスタントヨーグルトは、上記各原料を粉末の状態で混合し、所定量ずつ包装することによって製造することができる。この場合、乳酸菌の生菌以外の原料を予め造粒して顆粒化し、この顆粒と乳酸菌の生菌とを混合することが好ましい。これによれば、造粒工程において、生菌が高温に曝されることがないので、生菌を生きた状態に保つことができ、また、酸味料と乳酸菌の生菌との接触面積を小さくすることができるので、保存中に生菌が死んでしまうことを防止できる。
【0029】
本発明のインスタントヨーグルトは、牛乳や豆乳や水を、例えば100ml程度加えて、かき混ぜるだけで、ヨーグルト風味の飲食品とすることができ、そのまま美味しく食することができる。このとき、乳酸菌の死菌が入っていることにより、生菌の数が少なくても、死菌を合せた合計の乳酸菌数は、通常のヨーグルトと同様にすることができるので、乳酸菌による生理活性効果が期待できる。
【0030】
また、本発明のインスタントヨーグルトは、牛乳や水を加えて発酵させることにより、本格的なヨーグルトとすることもできる。この場合、1L又は500mlパックの牛乳又は豆乳に本発明のインスタントヨーグルト1包分を加え、ヨーグルトメーカーを用いて加温したり25℃以上の温度を維持する場所に置いたりして、加温することが好ましい。これによって、数時間?数十時間で十分に発酵して、ヨーグルトとなる。」

(6)「【実施例】
【0031】
下記組成により、酸味料を調製した。この酸味料を以下「FC MIX」とする。
・ 発酵乳酸パウダー(ピューラック・ジャパン製) 600g
・ クエン酸(無水) 90g
【0032】
また、下記組成の原料(1)?(4)を混合し、流動層造粒機または遠心転動造粒機などで平均粒径95%50メッシュパスの顆粒状に造粒し、これに原料(5)を混合した後、5g/包ずつ、アルミ箔でラミネートされたフィルムからなるスティック状又は三方シール状の袋に充填し、密封して包装した。
(1)FC MIX 8.1kg
(2)粉糖 30 kg
(3)香料(小川香料製 ヨーグルトコートン) 150g
(4)殺菌乳酸菌(商品名「EC-12」、コンビ株式会社製) 500g
(5)ヨーグルトスターター(コンビ株式会社製) 1.125g
【0033】
こうして得られた本発明のインスタントヨーグルト1包を、牛乳100mlに添加し、攪拌して溶解させた。この溶解液は、pH4.7以下になり、蛋白の等電点沈殿のため、粘度を帯びて、ヨーグルト様の物性及び風味を有していて、美味しく食することができた。この溶解液100ml中には、通常のヨーグルトや乳酸菌飲料中に存在する乳酸菌数を上回る2500億個以上の乳酸菌が含有されている。
【0034】
また、上記インスタントヨーグルト1包を、1Lパックの牛乳に添加すると、pHが6以上となり、単位体積当りの乳酸菌数は、通常のヨーグルトや乳酸菌飲料の1/100程度となった。しかし、この混合物を25?45℃に保温して、16?20時間放置したところ、十分に発酵して約1Lのヨーグルトを得ることができた。このヨーグルトは、大変美味しいものであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
牛乳、水又は豆乳を添加して、そのまま又は発酵させることにより、ヨーグルトとして食することができるようにしたインスタントヨーグルトとして利用できる。」

2 上記1から認められること
(1)上記1(1)?(6)によれば、引用文献には、インスタントヨーグルトが記載されている。

(2)上記1(1)及び(4)(特に、請求項1並びに段落【0009】及び【0010】)によれば、インスタントヨーグルトは、乳酸菌の死菌と、乳酸菌の生菌と、酸味料とを含有する組成物からなることが記載されている。
そして、上記1(1)、(4)及び(5)(特に、請求項5並びに段落【0017】及び【0025】)によれば、インスタントヨーグルトは、更に、脱脂粉乳又は全脂粉乳を含有することが記載されている。
そうすると、インスタントヨーグルトは、脱脂粉乳又は全脂粉乳と、乳酸菌の死菌と、乳酸菌の生菌と、酸味料とを含有する組成物からなるものといえる。

(3)上記1(1)、(2)、(4)及び(5)(特に、請求項1並びに段落【0001】、【0008】、【0009】、【0013】、【0017】、【0019】、【0022】、【0025】、【0029】及び【0030】)によれば、インスタントヨーグルトは、水を添加して、そのまま又は発酵させることにより、ヨーグルトとして食することができるようにしたものといえる。

(4)上記1(4)及び(5)(特に、段落【0013】、【0022】及び【0030】)によれば、インスタントヨーグルトに含有される乳酸菌の生菌は、25℃以上の温度を維持する場所に置いたりして、加温することによって、発酵してヨーグルトとなるためのものといえる。

(5)上記1(1)、(4)及び(5)(特に、請求項6並びに段落【0010】、【0018】及び【0028】)によれば、インスタントヨーグルトは、粉末状のものといえる。

3 引用発明
上記1及び2を総合すると、引用文献には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認めることができる。
「脱脂粉乳又は全脂粉乳と、
乳酸菌の死菌と、
25℃以上の温度を維持する場所に置いたりして、加温することによって、発酵してヨーグルトとなるための乳酸菌の生菌と、
酸味料と、
を含有する組成物からなり、
水を添加して、そのまま又は発酵させることにより、ヨーグルトとして食することができるようにした粉末状のインスタントヨーグルト。」

第5 対比
本願発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者の「脱脂粉乳又は全脂粉乳」は、前者の「粉乳」に相当し、同様に、「粉末状のインスタントヨーグルト」は「粉末状のヨーグルト材料」に相当する。

・後者の「25℃以上の温度を維持する場所に置いたりして、加温することによって、発酵してヨーグルトとなるための乳酸菌の生菌」は、前者の「25度以上の温度の場合に24時間以下の時間発酵させ、25度未満の温度の場合に24?48時間発酵させるための乳酸菌の株」に、「25度以上の温度の場合に発酵させるための乳酸菌」という限りにおいて一致する。
そうすると、後者の「脱脂粉乳又は全脂粉乳と、乳酸菌の死菌と、25℃以上の温度を維持する場所に置いたりして、加温することによって、発酵してヨーグルトとなるための乳酸菌の生菌と、酸味料と、を含有する組成物からなり」は、前者の「粉乳と、25度以上の温度の場合に24時間以下の時間発酵させ、25度未満の温度の場合に24?48時間発酵させるための乳酸菌の株と、を含み」に、「粉乳と、25度以上の温度の場合に発酵させるための乳酸菌と、を含み」という限りにおいて一致する。

・後者の「水を添加して、そのまま又は発酵させることにより、ヨーグルトとして食することができるようにした」は、前者の「加熱しない水を加えて発酵させるとヨーグルトとなる」に、「水を加えて発酵させるとヨーグルトとなる」という限りにおいて一致する。

したがって、本願発明と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
[一致点]
「粉乳と、
25度以上の温度の場合に発酵させるための乳酸菌と、
を含み、
水を加えて発酵させるとヨーグルトとなる粉末状のヨーグルト材料。」

[相違点]
[相違点1]
本願発明においては、「25度以上の温度の場合に24時間以下の時間発酵させ、25度未満の温度の場合に24?48時間発酵させるための乳酸菌の株」を含むのに対して、引用発明においては、「25℃以上の温度を維持する場所に置いたりして、加温することによって、発酵してヨーグルトとなるための乳酸菌」を含有する点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
本願発明においては、「加熱しない水を加えて発酵させる」のに対して、引用発明においては、「水を添加して」「発酵させる」点(以下、「相違点2」という。)。

第6 判断
1 相違点の検討
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
相違点1に係る本願発明の構成である「25度以上の温度の場合に24時間以下の時間発酵させ、25度未満の温度の場合に24?48時間発酵させるための乳酸菌の株」との事項(以下、「特定事項A」という。)は、文言上、「乳酸菌の株」を特定するものである。
そして、本願の明細書には、「乳酸菌としては、常温で発酵する株を用いる。常温とは、例えば35度以下、より好ましくは30度以下であってよい。また、発酵の下限温度としては、一例として20度以上又は25度以上であってよい。本実施形態において、乳酸菌としては、食品として利用可能なものであれば、特に限定されず、例えば、・・・ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス、・・・などを用いることができる。」(段落【0010】)との記載、及び「発酵時間は、12?24時間であってよく、18時間程度を標準とする。発酵時間は温度等の条件にも依存するが、本実施形態の製造方法によると、発酵時間を標準時間より短い12?18時間とした場合、クセと酸味を抑えた滑らかなヨーグルトを製造することができ、発酵時間を標準時間より長い18?24時間とした場合、クセと酸味を強めたヨーグルトを製造することができる。なお、上記乳酸菌は、25度未満の温度であっても発酵することができる。この場合、発酵時間は24?48時間であってよく、36時間程度を標準とする。すなわち、乳酸菌は室温で発酵する。」(段落【0018】及び【0019】)との記載がある。
これら記載を踏まえると、特定事項Aにおける「25度以上の温度の場合に24時間以下の時間発酵させ、25度未満の温度の場合に24?48時間発酵させるための」とは、常温(例えば35度以下、より好ましくは30度以下)で発酵する乳酸菌の株を用いた場合の、好適な発酵温度と時間の条件を示したものにすぎず、特定事項Aにより特定される「乳酸菌の株」とは、結局のところ、ラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス等の常温で発酵する乳酸菌の株を意味するものと認められる。
一方、引用発明も、25℃以上の温度で発酵する乳酸菌の生菌を含有するものであり、常温(例えば35度以下、より好ましくは30度以下)で発酵する乳酸菌の株を用いるものといえる。
これは、引用発明の乳酸菌の生菌として用いられる具体的な乳酸菌及びその株の例も、上記第4の1(5)に示した引用文献の段落【0020】において、本願の明細書の段落【0010】おいて例示された乳酸菌と共通するもの(例えば、カスピ海ヨーグルト用のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス、(Lactococcus lactis ssp cremoris、例えばATCC 3427)など)が記載されていることからも理解できる。
さらに、引用文献には、各家庭において作る自家製ヨーグルトとしてカスピ海ヨーグルトが人気を博していることが記載されており(上記第4の1(2)の段落【0002】及び【0003】)、また、上記のとおり、引用発明に使用可能な乳酸菌の生菌及びその株として、カスピ海ヨーグルト用のものが例示されていることから、引用発明において、乳酸菌の生菌としてカスピ海ヨーグルト用の乳酸菌の株を採用することが想定されるところ、カスピ海ヨーグルト用の乳酸菌が、25℃前後(本願の明細書の段落【0010】で説明されるところの「常温(例えば35度以下、より好ましくは30度以下)」や段落【0016】で説明されるところの「室温」の範囲)で発酵可能なものであることは、本願の出願前に技術常識(必要であれば、特開2008-102号公報(特に、段落【0004】?【0009】)、特開2005-110615号公報(特に、段落【0046】及び【0047】)、特開2004-261176号公報(特に、段落【0014】?【0016】)、実用新案登録第3101445号公報(特に、段落【0003】)、2012年11月7日のWikipediaにおける「カスピ海ヨーグルト」についての記載(https://web.archive.org/web/20121107053039/http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%83%94%E6%B5%B7%E3%83%A8%E3%83%BC%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%88)を参照。)であることからも、引用発明は、常温で発酵する乳酸菌の株を用いることが理解できる。
そうすると、引用発明で用いる乳酸菌の株は、本願発明の特定事項Aにより特定される乳酸菌の株と実質的に同じものであるから、相違点1は実質的な相違点ではない。
仮に実質的な相違点だとしても、引用文献には、牛乳又は豆乳を加えた場合ではあるが、数時間?数十時間で発酵することが記載され(上記第4の1(5)の段落【0030】を参照。)、上記第4の1(6)の段落【0034】には、「25?45℃に保温して、16?20時間放置」することが記載され、前に例示した特開2004-261176号公報(特に、段落【0016】、【0024】及び【0025】)には、「室温(25℃)で、固まるまで発酵させた(3?24時間程度)」ことが記載され、また、特開2008-283948号公報(特に、段落【0019】?【0023】及び【0031】)には、「約20℃?約50℃、更に好ましくは約25℃?約45℃の下で約6時間?約30時間、更に好ましくは約10時間?約24時間」の発酵処理を行うことが記載されており、温度と時間を調節して発酵させることは技術常識であって、25度以上の温度で24時間以下、25度未満の温度で24?48時間という条件も通常想定される範囲内と認められるから、本願発明の特定事項Aのような発酵条件とすることに困難性はない。

(2)相違点2について
次に、本願発明は、「加熱しない水を加えて発酵させる」ところ、本願の明細書における「粉末状のヨーグルト材料は、カゼインの粉末および調製粉乳を含んでいるので、水を加えて発酵させるとヨーグルトとなる。なお、粉末状のヨーグルト材料に加える水の温度は常温または人間が生活を営む室内の温度(以下、室温)であってよい。すなわち、粉末状のヨーグルト材料は、加熱しない常温または室温の水を粉末状のヨーグルト材料に加えて、常温または室温で発酵させるだけでヨーグルトを製造することができる。」(段落【0016】)との記載、及び「発酵時間が経過して固まった混合液110は、ヨーグルト112となる(S50)。このように、本実施形態の製造方法によると、粉末状のヨーグルト材料100と水102とを混ぜ合わせて常温または室温で発酵させることによりヨーグルト112を製造することができるので、ヨーグルトを製造する容器104に対して、常温よりも高い温度(例えば40度以上)に加熱するための電源を設けずにすむ。」(段落【0020】)との記載によれば、本願発明の「加熱しない水」は、加熱しない常温又は室温の水といえる。
そして、引用発明は、乳酸菌の生菌を含有し、水を添加して発酵させるところ、乳酸菌の生菌として常温で発酵する乳酸菌の株(例えば、カスピ海ヨーグルト用のラクトコッカス・ラクティス・サブスピーシーズ・クレモリス等)を用いて、常温で発酵させるのであるから、加熱しない常温又は室温の水を添加して発酵させることは、当業者が適宜なし得たことである。

2 まとめ
上記1(1)の検討によれば、相違点1は実質的な相違点とは認められず、仮にそうでないとしても、引用発明において、相違点1に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、上記1(2)の検討によれば、引用発明において、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
そして、本願発明の全体構成により奏される作用効果は、引用発明から当業者が予測し得る範囲内のものである。
したがって、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について判断するまでもなく、本願は、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-05-30 
結審通知日 2019-06-04 
審決日 2019-06-17 
出願番号 特願2013-39636(P2013-39636)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A23C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池上 文緒  
特許庁審判長 田村 嘉章
特許庁審判官 井上 哲男
槙原 進
発明の名称 粉末状のヨーグルト材料およびヨーグルト製造方法  
代理人 龍華国際特許業務法人  

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