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審決分類 審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1353995
審判番号 不服2018-9524  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-09-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-10 
確定日 2019-08-08 
事件の表示 特願2014-105568「画像表示装置,画像表示装置の製造方法及び画像表示装置の干渉縞改善方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年12月 7日出願公開,特開2015-219508〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
特願2014-105568号(以下「本件出願」という。)は,平成26年5月21日の出願であって,その後の手続等の経緯の概要は,以下のとおりである。
平成30年 1月16日付け:拒絶理由通知書
平成30年 3月26日提出:意見書
平成30年 3月26日提出:手続補正書
平成30年 4月 3日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年 7月10日提出:審判請求書
平成30年 7月10日提出:手続補正書
平成31年 4月23日提出:上申書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年7月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1,請求項3及び請求項4の記載は,以下のとおりである。
「【請求項1】
少なくとも,面内に複屈折率を有する光透過性基材,アンダーコート層,ハードコート層及び反射防止層がこの順に積層され,画像表示装置の表示画面側の偏光板上に配置して用いられる光学積層体を備える画像表示装置であって,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は,前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と,前記画像表示の表示画面の左右方向とが平行になるように配置され,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の進相軸方向の波長550nmにおける屈折率をnF,前記アンダーコート層の波長550nmにおける屈折率をnUC,前記アンダーコート層の膜厚をd(nm),前記ハードコート層の波長550nmにおける屈折率をnHCとしたとき,下記式(1)及び式(2)を満たし,
前記光学積層体の反射色相値が,色相a*の絶対値が3以上であるか,又は,色相b*の絶対値が3以上である
ことを特徴とする画像表示装置。
【数1】

【数2】


【請求項3】
反射防止層表面の視感度反射率Yが0.3%以下である請求項1又は2記載の画像表示装置。

【請求項4】
アンダーコート層の膜厚d(nm)が,前記アンダーコート層の波長650nmにおける屈折率をnUC650としたとき,下記式(3)を満たす請求項1,2又は3記載の画像表示装置。
【数3】



(2) 本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。なお,下線は当合議体が付したものであり,実質的な補正箇所を示す。
「少なくとも,面内に複屈折率を有する光透過性基材,アンダーコート層,ハードコート層及び反射防止層がこの順に積層され,画像表示装置の表示画面側の偏光板上に配置して用いられる光学積層体を備える画像表示装置であって,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は,面内において屈折率が大きい方向の屈折率(nx)と,遅相軸方向と直交する方向の屈折率(ny)との差nx-nyが,0.05以上,0.30以下であり,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は,前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と,前記画像表示装置の表示画面の左右方向とが平行になるように配置され,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の進相軸方向の波長550nmにおける屈折率をnF,前記アンダーコート層の波長550nmにおける屈折率をnUC,前記アンダーコート層の膜厚をd(nm),前記ハードコート層の波長550nmにおける屈折率をnHCとしたとき,下記式(1)及び式(2)を満たし,
前記アンダーコート層の膜厚d(nm)が,前記アンダーコート層の波長650nmにおける屈折率をnUC650としたとき,下記式(3)を満たし,
前記光学積層体の反射色相値が,色相a*の絶対値が3以上であるか,又は,色相b*の絶対値が3以上であり,
前記反射防止層表面の視感度反射率Yが0.3%以下である
ことを特徴とする画像表示装置。
【数1】

【数2】

【数3】



(3) 本件補正の内容
本件補正は,本件補正前の請求項4に係る発明(請求項1及び請求項3の記載を引用して記載されたもの,以下「本願発明」という。)の,発明を特定するために必要な事項である「面内に複屈折率を有する光透過性基材」を,本件出願の出願当初の明細書の【0027】の記載に基づいて,「面内において屈折率が大きい方向の屈折率(nx)と,遅相軸方向と直交する方向の屈折率(ny)との差nx-nyが,0.05以上,0.30以下であり」という要件を満たすものに限定するとともに,「装置」の欠落を正し,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)にするものである。
また,本願発明と本件補正後発明の産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である。
したがって,請求項1についてした本件補正は,特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに,同条第5項1号?3号に掲げる事項(請求項の削除,誤記の訂正及び特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。

そこで,本件補正後発明が同条第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について,以下,検討する。

2 独立特許要件についての判断
(1) 引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された,国際公開第2013/179951号(以下「引用文献1」という。)は,本件出願前に,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「技術分野
[0001]本発明は,光学積層体,偏光板,偏光板の製造方法,画像表示装置,画像表示装置の製造方法及び画像表示装置の視認性改善方法に関する。
背景技術
[0002]…(省略)…液晶表示装置には液晶セルの画像表示面側に偏光素子が配置されており,通常,取扱い時に偏光素子に傷が付かないように硬度を付与することが要求されることから,偏光板保護フィルムとして,光透過性基材上にハードコート層を設けたハードコートフィルムを利用することにより,画像表示面に硬度を付与することが一般になされている。
…(省略)…
[0005]…(省略)…ポリエステルフィルムのような面内に複屈折率を有する光透過性基材を用いた光学積層体を画像表示装置の表面に設置した場合,光学積層体の表面での反射防止性能が著しく低下し,明所コントラストが低下してしまうことがあった。
…(省略)…
発明が解決しようとする課題
[0007]本発明は,上記現状に鑑み,ポリエステルフィルムのような面内に複屈折率を有する光透過性基材を用いた場合であっても,反射防止性能と明所コントラストとに優れ,更にはニジムラも防止できる画像表示装置を得ることのできる光学積層体及び偏光板,該偏光板の製造方法,該光学積層体又は偏光板を備えた画像表示装置,該画像表示装置の製造方法,並びに,画像表示装置の視認性改善方法を提供することを目的とする。
…(省略)…上記ニジムラとは,従来のポリエステルフィルムを光透過性基材として用いた光学積層体を画像表示装置の表面に設置した場合,偏光サングラスをかけた状態で表示画面を見たときに,表示画面に生じる色の異なるムラのことを言い,表示品質が損なわれてしまう現象である。」

イ 「課題を解決するための手段
[0008]本発明は,面内に複屈折率を有する光透過性基材の一方の面上に光学機能層を有し,画像表示装置の表面に配置して用いられる光学積層体であって,上記光透過性基材の屈折率が大きい方向である遅相軸が,上記画像表示装置の表示画面の上下方向と平行に配置されることを特徴とする光学積層体である。
上記光透過性基材は,屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,上記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上であることが好ましい。
…(省略)…
[0012]…(省略)…本発明者らは,上記壁面や床面で反射し,上記画像表示装置の表示画面に入射する光は,その多くが上記表示画面の左右方向に振動した状態となっていることに着目し,本発明の光学積層体を,上記光透過性基材の屈折率が大きい方向である遅相軸が,上記画像表示装置の表示画面の上下方向と平行に配置するものとしたのである。…(省略)…Nなる屈折率を有する基材表面の反射率Rは,
R=(N-1)^(2)/(N+1)^(2)
で表されるが,本発明の光学積層体における光透過性基材のような屈折率異方性を有する基材においては,画像表示装置において上記構成とすることにより,上記屈折率Nは,屈折率の小さい進相軸の屈折率が適用される割合が増加するからである。
…(省略)…
[0013]上記面内に複屈折率を有する光透過性基材としては…(省略)…コスト及び機械的強度において有利なポリエステル基材であることが好適である。
…(省略)…
[0014]上記ポリエステル基材は,ニジムラ発生を防止でき,視認性改善が極めて良好となることから,リタデーションが3000nm以上であることが好ましい。
…(省略)…
[0016]なお,本発明では,上記ポリエステル基材が後述するポリエチレンテレフタレート(PET)を原料とするPET基材である場合,上記nx-ny(以下,Δnとも表記する)は,0.05以上であることが好ましい。上記Δnが0.05未満であると,進相軸の屈折率が大きいため,上述した画像表示装置の明所コントラストの向上が図れないことがある。更に,上述したリタデーション値を得るために必要な膜厚が厚くなってしまうことがある。一方,上記Δnは,0.25以下であることが好ましい。0.25を超えると,PET基材を過度に延伸する必要が生じるため,PET基材が裂け,破れ等を生じやすくなり,工業材料としての実用性が著しく低下することがある。
…(省略)…
[0023]上記光学機能層は,ハードコート性能を有するハードコート層であることが好ましく,該ハードコート層は,硬度が,JIS K5600-5-4(1999)による鉛筆硬度試験(荷重4.9N)において,H以上であることが好ましく,2H以上であることがより好ましい。
上記ハードコート層は,本発明の光学積層体の表面のハードコート性を担保する層であり,例えば,紫外線により硬化する樹脂である電離放射線硬化型樹脂と光重合開始剤とを含有するハードコート層用組成物を用いて形成されたものであることが好ましい。
[0024]本発明の光学積層体において,上記電離放射線硬化型樹脂としては,例えば,アクリレート系の官能基を有する化合物等の1又は2以上の不飽和結合を有する化合物を挙げることができる。
…(省略)…
[0025]…(省略)…具体的には,本発明においては,ペンタエリスリトールトリアクリレート,ペンタエリスリトールテトラアクリレート,ポリエステル多官能アクリレートオリゴマー(3?15官能),ウレタン多官能アクリレートオリゴマー(3?15官能)等を適宜組み合わせて用いることが好ましい。
…(省略)…
[0029]…(省略)…本発明において用いる開始剤としては,ラジカル重合性不飽和基を有する電離放射線硬化型樹脂の場合は,1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトンが,電離放射線硬化型樹脂との相溶性,及び,黄変も少ないという理由から好ましい。
…(省略)…
[0031]上記ハードコート層用組成物は,溶剤を含有していてもよい。…(省略)…特に本発明においては,ケトン系の溶媒でメチルエチルケトン,メチルイソブチルケトン,シクロヘキサノンのいずれか,又は,これらの混合物を少なくとも含むことが,樹脂との相溶性,塗工性に優れるという理由から好ましい。
…(省略)…
[0041]また,本発明の光学積層体は,上記ハードコート層上に更に低屈折率層を有することが好ましい。
…(省略)…
[0048]上記低屈折率層の形成においては,低屈折率剤及び樹脂等を添加してなる低屈折率層用組成物の粘度を好ましい塗布性が得られる0.5?5mPa・s(25℃),好ましくは0.7?3mPa・s(25℃)の範囲のものとすることが好ましい。可視光線の優れた反射防止層を実現でき,かつ,均一で塗布ムラのない薄膜を形成することができ,かつ,密着性に特に優れた低屈折率層を形成することができる。
…(省略)…
[0052]本発明の光学積層体は,上記光透過性基材と光学機能層との間にプライマー層を有することが好ましい。
上記プライマー層は,上述したポリエステル基材とハードコート層の密着性向上を第一目的として設ける層であるが,該プライマー層の好ましい厚みは,上記プライマー層が設けられたことに起因した干渉縞の発生を防止する観点から,上記光透過性基材の屈折率(nx,ny),光学機能層の屈折率(nh)及びプライマー層の屈折率(np)との関係で,以下のように適宜選択される。
…(省略)…
(2)上記プライマー層の屈折率(np)が,上記光透過性基材の遅相軸方向の屈折率(nx)よりも大きく,上記光学機能層の屈折率(nf)よりも小さい場合(nx<np<nf)…(省略)…上記プライマー層の厚みは,65?125nmであることが好ましい。
…(省略)…
[0071]…(省略)…本発明の偏光板において,上記面内に複屈折率を有する光透過性基材は,上述した本発明の光学積層体と同様の理由により,リタデーションが3000nm以上であることが好ましく,屈折率が大きい方向である遅相軸方向の屈折率(nx)と,上記遅相軸方向と直交する方向である進相軸方向の屈折率(ny)との差(nx-ny)が,0.05以上であることが好ましい。
…(省略)…
発明の効果
[0085]本発明の光学積層体及び偏光板は,上述した構成からなるものであるため,ポリエステルフィルムのような面内に複屈折率を有する光透過性基材を用いた場合であっても,反射防止性能と明所コントラストとに優れる画像表示装置を得ることができる。」

ウ 「発明を実施するための形態
[0087](明所コントラスト評価法)
…(省略)…
[0089](ニジムラの評価)
各実施例,比較例,参考例にて,上記明所コントラスト評価用に光学積層体を設置した液晶モニターを,正面及び斜め方向(約50°),50?60cm離れた位置から目視及び偏光サングラス越しに表示画像の観察を行い,ニジムラを評価した。
…(省略)…
[0090](リタデーションの測定)
光透過性基材のリタデーションは,次のようにして測定した。
まず,延伸後の光透過性基材を,二枚の偏光板を用いて,光透過性基材の配向軸方向を求め,配向軸方向に対して直交する二つの軸の波長590nmに対する屈折率(nx,ny)を,アッベ屈折率計(アタゴ社製 NAR-4T)によって求めた。ここで,より大きい屈折率を示す軸を遅相軸と定義する。光透過性基材の厚みd(nm)は,電気マイクロメータ(アンリツ社製)を用いて測定し,単位をnmに換算した。屈折率差(nx-ny)と,フィルムの厚みd(nm)の積より,リタデーションを計算した。
…(省略)…
[0093](実施例1,比較例1)
ポリエチレンテレフタレート材料を290℃で溶融して,フィルム形成ダイを通して,シート状に押出し,水冷冷却した回転急冷ドラム上に密着させて冷却し,未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機社製)にて,120℃にて1分間予熱した後,120℃にて,延伸倍率4.5倍に延伸した後,その延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.5倍にて延伸を行い,nx=1.70,ny=1.60,(nx-ny)=0.10,膜厚80μm,リタデーション=8000nmの光透過性基材を得た。
次に,光学機能層として,ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)を,MIBK溶媒に30質量%溶解させ,光重合開始剤(Irg184,BASF社製)を固形分に対して5質量%添加した光学機能層用組成物を,バーコーターにより,乾燥後の膜厚が5μmとなるように塗工し塗膜を形成した。
次いで,形成した塗膜を70℃で1分間加熱して,溶剤を除去し,塗工面に紫外線を照射することにより,固定化し,屈折率(nf)1.53の光学機能層を有する光学積層体を得た。
…(省略)…
また,反射率測定時のS偏光と光透過性基材の進相軸との関係が同じとなるように,液晶モニター(FLATORON IPS226V(LG Electronics Japan社製))の観察者側の偏光素子上に,光学機能層を観測者側となるように光学積層体を設置し,周辺照度400ルクス(明所)において,表示画面の明所コントラストを目視にて評価した。
実施例1の場合,表示画面に入射する割合の多い該表示画面に対して左右方向に振動するS偏光と,光透過性基材の進相軸を平行(光透過性基材の遅相軸が,表示画面の上下方向と平行,すなわち,光透過性基材の遅相軸と表示画面の上下方向との角度が0°)となるように設置し,比較例1の場合,S偏光と光透過性基材の遅相軸を平行(光透過性基材の遅相軸と表示画面の上下方向の角度を90°)に設置し,評価した。
…(省略)…
[0096](実施例4,比較例4)
ポリエチレンテレフタレート材料を290℃で溶融して,フィルム形成ダイを通して,シート状に押出し,水冷冷却した回転急冷ドラム上に密着させて冷却し,未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを二軸延伸試験装置(東洋精機社製)にて,120℃にて1分間予熱した後,120℃にて,延伸倍率4.0倍に延伸した後,片側にポリエステル樹脂の水分散体28.0質量部と水72.0質量部とからなるプライマー層用樹脂組成物を,ロールコーターにて均一に塗布した。次いで,この塗布フィルムを95℃で乾燥し,先の延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.8倍にて延伸を行い,nx=1.68,ny=1.63,(nx-ny)=0.05,膜厚70μm,リタデーション=3500nmのフィルム上に,屈折率(np)1.56,膜厚100nmのプライマー層を設けた光透過性基材を得た。
得られた光透過性基材を用いた以外,実施例1と同様の方法にて,屈折率(nf)1.53の光学機能層を有する光学積層体を得た。なお,光学機能層はプライマー層上に形成した。得られた光学積層体を用いて,実施例1と同様(S偏光と光透過性基材の進相軸との角度を0°)にして反射率を測定し,明所コントラストを評価したところ,実施例4光学積層体の反射率は4.38%であり,S偏光と光透過性基材の遅相軸を平行(S偏光と光透過性基材の進相軸との角度を90°)に設置して測定した比較例4の光学積層体の反射率は4.47%で,実施例4の光学積層体の方が反射防止性能に優れていた。
また,実施例1と同様にして評価した実施例4の光学積層体を用いた液晶モニターAは,比較例4の光学積層体を用いた液晶モニターBよりも表示画面の明所コントラストが特に優れていた。また,実施例4の光学積層体を用いた液晶モニターAは,ニジムラもなく,視認性改善が極めてよくされた状態であった。
…(省略)…
産業上の利用可能性
[0108]本発明の光学積層体及び偏光板は,陰極線管表示装置(CRT),液晶ディスプレイ(LCD),プラズマディスプレイ(PDP),エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD),フィールドエミッションディスプレイ(FED),タッチパネル,電子ペーパー,タブレットPC等に好適に適用することができる。」

(2) 引用発明
引用文献1には,実施例1([0093])の記載を援用して記載された実施例4([0096])の光学積層体を用いた液晶モニターAが記載されている。
ここで,[0093]及び[0096]に記載の「光学機能層」は,その材料及び製造工程からみて,ハードコート層として機能するものである([0023]?[0031]の記載からも確認される。)。また,[0090]の記載からみて,屈折率等の測定波長は,590nmである。
そうしてみると,引用文献1には,次の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。なお,「MIBK」及び「Irg184」を,それぞれ「メチルイソブチルケトン」及び「イルガキュア184」に書き改めた。
「 ポリエチレンテレフタレート材料からなる未延伸フィルムを作製し,延伸倍率4.0倍に延伸した後,ポリエステル樹脂の水分散体と水からなるプライマー層用樹脂組成物を塗布,乾燥し,先の延伸方向とは90度の方向に延伸倍率1.8倍にて延伸を行い,波長590nmでnx=1.68,ny=1.63,(nx-ny)=0.05,膜厚70μm,リタデーション=3500nmのフィルム上に,屈折率np=1.56,膜厚100nmのプライマー層を設けた光透過性基材を得,
次に,光学機能層として,ペンタエリスリトールトリアクリレートをメチルイソブチルケトン溶媒に溶解させ,光重合開始剤としてイルガキュア184を添加した光学機能層用組成物を,乾燥後の膜厚が5μmとなるように塗工し塗膜を形成し,形成した塗膜を加熱して溶剤を除去し,塗工面に紫外線を照射することにより固定化し,屈折率nf=1.53の,ハードコート層として機能する光学機能層を有する光学積層体を得,
なお,光学機能層はプライマー層上に形成し,
表示画面に入射する割合の多い,表示画面に対して左右方向に振動するS偏光と,光透過性基材の進相軸を平行となるように液晶モニターの観察者側の偏光素子上に,光学機能層を観測者側となるように光学積層体を設置してなる,
光学積層体の反射率が4.38%であり,
明所コントラストが特に優れ,ニジムラもなく,視認性改善が極めてよくされた状態である液晶モニターA。」

(3) 引用文献2
原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2013/088836号(以下「引用文献2」という。)は,本件出願前に,日本国内又は外国において電気通信回線を通じて利用可能となった発明が記載されたものであるところ,そこには,以下の記載がある。
ア 「技術分野
[0001] 本発明は,タッチパネルや液晶ディスプレイなどに用いられる反射防止部材に関するものである。
背景技術
…(省略)…
[0003] 従来,屈折率の異なる複数の層が積層された構造を有する種々の反射防止部材が提供されている(例えば,特許文献1参照)。
…(省略)…
発明が解決しようとする課題
[0005] 上記のような反射防止部材において,ウェット方式でより低反射化を図るためには,中屈折率層,高屈折率層,低屈折率層の三層を積層する方法が知られている。
[0006] しかし,このような三層の反射防止部材では,反射率が低くなるものの,短波長側の光(青色,波長λ=400?500nm),長波長側の光(赤色,λ=600?800nm)の反射率が,中波長領域の光(黄色,λ=500?600nm)よりも相対的に高くなってしまうため,紫色の反射色が強く着色し,外観上の問題となることが多かった。
[0007] 本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり,低反射率特性とニュートラルな色目とを両立した反射防止部材を提供することを目的とするものである。」

イ 「課題を解決するための手段
[0008]…(省略)…
[0010] 本発明の第3の態様に係る反射防止部材では,第1又は第2の態様において,
標準C光源による透過色の,CIE 1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間によるa^(*)が-0.5以上0.0以下の範囲,そのb^(*)が0.2以上0.8以下の範囲であり,標準C光源による反射色の,CIE 1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間によるa^(*)が-8.0以上9.0以下の範囲,そのb^(*)が-9.0以上3.0以下の範囲である。
…(省略)…
[0018] 本発明にあっては,最小反射率が0.5%以下,平均視感反射率が0.7%以下,全光線透過率が94%以上であることが好ましい。
…(省略)…
発明の効果
[0027] 本発明は,反射防止部材の低反射率特性とニュートラルな色目とを両立したものである。」

ウ 「発明を実施するための形態
[0029] 以下,本発明を実施するための形態を説明する。
[0030] 本実施形態では,反射防止部材Aは,図1に示されるように,基材4,第一層(ハードコート層)1,第二層(高屈折率層)2,及び第三層(低屈折率層)3を備える。
…(省略)…
[0109] 本発明は,低反射率特性とニュートラルな色目とを両立したものである。すなわち,従来からある一般的な低反射率の反射防止部材(反射防止フィルム)は,反射色が強くなり色目が悪くなることが知られている。しかし,本発明は,第一層1と第二層2と第三層3の3層で低反射率かつニュートラル色(白色)を実現することができる。尚,低反射率かつニュートラル色を実現する方法として,更に多層化する方法もあるが,製造コストが大幅に増大するなどのデメリットもあるため,実用上好ましくない。
[0110] 尚,「ニュートラルな色目」とは,光が反射防止部材Aを反射する場合の反射前後の光の色に,色調の変化が生じにくいことを意味している。
[0111] [画像表示機器6について]
本実施形態による反射防止部材Aは,上述のとおり,画像表示機器における反射防止用途に好ましく適用され得る。本実施形態による反射防止部材Aを備える画像表示機器6の例の概略構成を,図2に示す。
[0112] この画像表示機器6は,液晶表示装置などの画像表示装置7とタッチパネル8とを備えるタッチパネル付き画像表示装置である。
…(省略)…
[0113] この画像表示機器6におけるタッチパネル8の画像表示装置7と対向する面上に本実施形態による反射防止部材Aが固定され,この反射防止部材Aの外面と画像表示装置7とが粘着テープ12により固定されている。反射防止部材Aは,基材4の第一層1とは反対側の主面がタッチパネル8に対向し,第三層3の第二層2とは反対側の主面が画像表示装置7と対向するように,配置される。
[0114] このように構成される画像表示機器6では,画像表示装置7からタッチパネル8へ向けて照射される光は,反射防止部材Aの作用によってタッチパネル8内へ効率良く入射し,タッチパネル8で反射する光が少なくなる。このため,画像表示装置7で表示される画像や映像が,タッチパネル8を通して外部から明瞭に視認されるようになる。
…(省略)…
実施例
[0118] 以下,本発明を実施例によって具体的に説明する。
[0119] (実施例1)
基材としては,厚み100μmのポリエステルフィルム(東洋紡績株式会社製のコスモシャイン(登録商標)「A4300」,易接着処理(両面),表面反射率5.1%)を用いた。
[0120] このポリエステルフィルムの易接着処理がされた片面上に,第一層としてハードコート層を形成した。ハードコート層の形成にあたっては,アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化工業(株)製「セイカビームPET-HC301」,有効成分(固形分)60質量%)をトルエン溶媒で30質量%に希釈し,ハードコート層用のハードコート材料を得た。ハードコート材料をワイヤーバーコーター#10番でポリエステルフィルム1の上に塗布し,80℃で5分間乾燥させた後,UV照射(500mJ/cm^(2))により硬化させて形成した。このハードコート層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0121] 続いて,ハードコート層の上に第二層として高屈折率層を形成した。高屈折率層の形成にあたっては,アクリル系紫外線硬化型樹脂と高屈折率粒子の合計量に対して,アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化工業(株)製「セイカビームMD-2クリヤー」,有効成分(固形分)60質量%)を60質量%に,高屈折率粒子として酸化チタン粒子(テイカ(株)製「760T」,分散溶剤:トルエン,固形分48質量%)を40質量%となるように混合し,トルエン溶媒で固形分5質量%に希釈し,高屈折率層材料を得た。高屈折率材料をワイヤーバーコーター#4番でハードコート層の上に塗布し,80℃で5分間乾燥させた後,UV照射(500mJ/cm^(2))により硬化させて形成した。この高屈折率層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0122] 続いて,高屈折率層の上に第三層として低屈折率層を形成した。低屈折率層の形成にあたっては,低屈折層材料の全量に対して,加水分解性アルコキシシラン(三菱化学株式会社製「MS56S」)を0.6質量%,中空シリカ微粒子ゾル(日揮触媒化成株式会社製「CS60-IPA」,溶媒分散ゾル,固形分20%)を3.2質量%,0.1N硝酸を4.6質量%,イソプロピルアルコールを89.6質量%,2-ブトキシエタノールを2.0質量%混合して低屈折層材料を得た。
[0123] この低屈折率層材料をワイヤーバーコーター#4により塗布して厚み100nmのコーティング膜を形成し,さらに120℃で1分間放置して乾燥した後,コーティング膜を120℃で5分間,酸素雰囲気下で熱処理した。この低屈折率層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0124] 以上により,基材,ハードコート層,高屈折率層,及び低屈折率層が,この順番に積層している構造を有する反射防止部材を得た。
…(省略)…
[0140] (実施例5)
基材としては実施例1と同様のポリエステルフィルムを用いた。
[0141] このポリエステルフィルムの易接着処理がされた片面上に,第一層としてハードコート層を形成した。ハードコート層の形成にあたっては,実施例1と同様に行った。このハードコート層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0142] 続いて,ハードコート層の上に第二層として高屈折率層を形成した。高屈折率層の形成にあたっては,アクリル系紫外線硬化型樹脂と酸化チタン粒子の合計量に対して,アクリル系紫外線硬化型樹脂(大日精化工業(株)製「セイカビームMD-2クリヤー」,有効成分(固形分)60質量%)を30質量%,高屈折率粒子として酸化チタン粒子(テイカ(株)製「760T」,分散溶剤:トルエン,固形分48質量%)を70質量%となるように混合し,トルエン溶媒で固形分5質量%に希釈し,高屈折率層材料を得た。高屈折率材料をワイヤーバーコーター#4番でハードコート層の上に塗布し,80℃で5分間乾燥させた後,UV照射(500mJ/cm^(2))により硬化させて形成した。この高屈折率層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0143] 続いて,高屈折率層の上に第三層として低屈折率層を形成した。低屈折率層の形成にあたっては,実施例1と同様に行った。この低屈折率層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0144] 以上により,基材,ハードコート層,高屈折率層,及び低屈折率層が,この順番に積層している構造を有する反射防止部材を得た。
…(省略)…
[0155] (実施例8)
基材としては実施例1と同様のポリエステルフィルムを用いた。
[0156] このポリエステルフィルムの易接着処理がされた片面上に,第一層としてハードコート層を形成した。ハードコート層の形成にあたっては,実施例1と同様に行った。このハードコート層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0157] 続いて,ハードコート層の上に第二層として高屈折率層を形成した。高屈折率層の形成にあたっては,実施例1と同様に行った。この高屈折率層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0158] 続いて,高屈折率層の上に第三層として低屈折率層を形成した。低屈折率層の形成にあたっては,低屈折率層材料の全量に対して,加水分解性アルコキシシリルテトラフルオロカーボン(モメンティブ株式会社製「XC95-810」)を0.4質量%,中空シリカ微粒子ゾル(日揮触媒化成株式会社製「CS60-IPA」,イソプロピルアルコール溶媒分散ゾル,固形分20質量%)を3.4質量%,0.1N硝酸を4.6質量%,イソプロピルアルコールを89.6質量%,2-ブトキシエタノール2.0質量%混合して低屈折層材料を得た。低屈折率層材料をワイヤーバーコーター#4により塗布して厚み100nmのコーティング膜を形成し,さらに120℃で1分間放置して乾燥した後,コーティング膜を120℃で5分間,酸素雰囲気下で熱処理した。この低屈折率層の屈折率と厚みとを後掲の表に示す。
[0159] 以上により,基材,ハードコート層,高屈折率層,及び低屈折率層が,この順番に積層している構造を有する反射防止部材を得た。
…(省略)…
[0225] [平均視感反射率]
各反射防止部材の裏面を黒塗りした上で,測定装置として分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製,型番U-4100)を用い,光源としてC光源を用い,JIS R3106に基づいて5°の正反射での分光反射率を測定した。これにより得られた結果から,平均視感反射率を導出した。
…(省略)…
[0227] [反射色評価]
各反射防止部材に,CIEが規定する標準C光源からの光を低屈折率層側から入射した。この場合の反射防止部材からの10°視野での,反射光の色のCIE 1976L^(*)a^(*)b^(*)色空間によるL^(*),a^(*)及びb^(*)を,コニカミノルタ株式会社製分光測色計,型番CM3600Dで測定した。
…(省略)…
[0237]
[表1]

…(省略)…
[0241]
[表5]

[0242] 前掲の表から明らかなように,実施例1?34は比較例1?3に比べて,最小反射率や平均視感反射率が小さく,低反射特性を有するものである。また,実施例1?34は比較例1?5に比べて,透過色のa^(*)及びb^(*)や反射色のa^(*)及びb^(*)のばらつきが小さく,ニュートラルな色目を有するものである。
[0243] このうち,実施例1?13並びに15?28では,反射防止部材単独における反射光の色が,特にニュートラルな色目を有していた。」

(4) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりとなる。
ア 光学積層体
引用発明の「屈折率nf=1.53の,ハードコート層として機能する光学機能層を有する光学積層体」は,「リタデーション=3500nmのフィルム上に,屈折率np=1.56,膜厚100nmのプライマー層を設けた光透過性基材を得」,「光学機能層はプライマー層上に形成し」たものである。また,引用発明の「液晶モニターA」は,「液晶モニターの観察者側の偏光素子上に,光学機能層を観測者側となるように光学積層体を設置してなる」。
上記の構成からみて,引用発明の「光透過性基材」をなす「リタデーション=3500nmのフィルム」は,「プライマー層」との関係において,光透過性の基材と理解されるとともに,面内に複屈折を有する。また,引用発明の「プライマー層」は,「光学機能層」との関係において,アンダーコート層と理解される。そして,上記の層順からみて,引用発明の「光学積層体」は,「フィルム」,「プライマー層」及び「光学機能層」がこの順に積層されたものである。加えて,引用発明の「液晶モニターA」は,画像表示装置である「液晶モニター」の,表示画面側の偏光板である「観察者側の偏光素子」上に配置して用いられる「光学積層体」を備える,画像表示装置である。
したがって,引用発明の「フィルム」,「プライマー層」,「光学機能層」,「光学積層体」及び「液晶モニターA」は,それぞれ本件補正後発明の「光透過性基材」,「アンダーコート層」,「ハードコート層」,「光学積層体」及び「画像表示装置」に相当する。また,引用発明の「液晶モニターA」と本件補正後発明の「画像表示装置」は「光学積層体を備える」点で一致し,引用発明の「光学積層体」と本件補正後発明の「光学積層体」は,「面内に複屈折率を有する光透過性基材,アンダーコート層,ハードコート層」「がこの順に積層され,画像表示装置の表示画面側の偏光板上に配置して用いられる光学積層体」の点で共通する。

イ 屈折率の差
引用発明の「フィルム」は,「波長590nmでnx=1.68,ny=1.63,(nx-ny)=0.05」の,「ポリエチレンテレフタレート材料からなる」ものである。
ここで,引用発明でいう「nx」が,「フィルム」の面内において屈折率が大きい方向の屈折率を意味し,「ny」が,遅相軸方向と直交する方向の屈折率を意味することは,技術的にみて明らかである(引用文献1の[0090]の記載からも確認できる事項である。)。
また,引用発明の「フィルム」の材料は,「ポリエチレンテレフタレート」であるから,nx-nyの波長分散は負であるが,波長590nmで0.05の値が,550nmで0.30まで大きくはなることは,技術的にみてあり得ない。
したがって,引用発明の「フィルム」は,本件補正後発明の「光透過性基材」における「面内において屈折率が大きい方向の屈折率(nx)と,遅相軸方向と直交する方向の屈折率(ny)との差nx-nyが,0.05以上,0.30以下であり」という要件を満たす。
(当合議体注:特許請求の範囲に記載はないが,本件出願の明細書の【0027】及び【0028】の記載からみて,本件補正後発明のnx-nyは,波長550nmにおける測定値と推認できるため,以上のとおり対比する。)

ウ 配置の方向
引用発明の「液晶モニターA」は,「表示画面に入射する割合の多い,表示画面に対して左右方向に振動するS偏光と,光透過性基材の進相軸を平行となるように液晶モニターの観察者側の偏光素子上に,光学機能層を観測者側となるように光学積層体を設置してなる」。
ここで,引用発明でいう「進相軸」及び「表示画面に対して左右方向」が,本件補正後発明でいう「光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸」及び「表示画面の左右方向」に相当することは,技術的にみて明らかである。
したがって,引用発明の「フィルム」及び「液晶モニター」の関係は,本件補正後発明の「光透過性基材」及び「画像表示装置」における,「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と,前記画像表示装置の表示画面の左右方向とが平行になるように配置され」という要件を満たす。

エ 式(1)
引用発明の「光学積層体」において,「フィルム」,「プライマー層」及び「光学機能層」の屈折率は,それぞれ「波長590nmでnx=1.68,ny=1.63」,「np=1.56」及び「nf=1.53」である。また,引用発明の「フィルム」,「プライマー層」及び「光学機能層」の材料は,それぞれ「ポリエチレンテレフタレート」,「ポリエステル」及び「ペンタエリスリトールトリアクリレート」である。
ここで,ひとまず波長の点を除いて検討すると,引用発明の「ny」,「np」及び「nf」が,それぞれ本件補正後発明の「nF」,「nUC」及び「nHC」に対応するので,式(1)の左辺及び右辺を計算すると,以下のとおりとなる。
左辺:√(ny×nf)×0.98=1.55
右辺:√(ny×nf)×1.02=1.61
そして,引用発明の「プライマー層」の屈折率は「np=1.56」であるから,波長の点を除いて検討すると,引用発明の「プライマー層」は,本件補正後発明の式(1)を満たす。

次に,波長を加味して検討すると,引用発明の「フィルム」は,その材料(ポリエチレンテレフタレート)からみて,「プライマー層」(ポリエステル)及び「光学機能層」(ペンタエリスリトールトリアクリレートの重合物)よりも強い負の波長分散を有する。ただし,波長590nmと550nmの差は40nmであるから,技術的にみて,その屈折率の変化は僅かであり,また,その材料からみて,「プライマー層」及び「光学機能層」の屈折率の変化は「フィルム」の場合よりも,さらに僅かと考えられる。
したがって,波長を加味して検討したとしても,引用発明の「プライマー層」の屈折率は本件補正後発明の式(1)を満たす。

オ 式(2)及び式(3)
引用発明の「プライマー層」は,「屈折率np=1.56,膜厚100nm」である。
ここで,ひとまず波長の点を除いて検討すると,引用発明の「np」,「np」及び「膜厚」が,それぞれ本件補正後発明の「nUC」,「nUC650」及び「d」に対応するので,式(2)及び式(3)の左辺及び右辺を計算すると,以下のとおりとなる。
式(2)の左辺:{(550/4)÷np}×0.7=62
式(2)の右辺:{(550/4)÷np}×1.3=115
式(3)の左辺:{(650/4)÷np}×0.9=94
式(3)の右辺:{(650/4)÷np}×1.1=115
そして,波長を加味しても上記の計算結果が大幅に(左辺が100を超える,又は右辺が100を下回るほど)変化することはないから,引用発明の「プライマー層」の膜厚は,本件補正後発明の式(2)及び式(3)を満たす。

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で一致する。
「面内に複屈折率を有する光透過性基材,アンダーコート層,ハードコート層がこの順に積層され,画像表示装置の表示画面側の偏光板上に配置して用いられる光学積層体を備える画像表示装置であって,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は,面内において屈折率が大きい方向の屈折率(nx)と,遅相軸方向と直交する方向の屈折率(ny)との差nx-nyが,0.05以上,0.30以下であり,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は,前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の屈折率が小さい方向である進相軸と,前記画像表示装置の表示画面の左右方向とが平行になるように配置され,
前記面内に複屈折率を有する光透過性基材の進相軸方向の波長550nmにおける屈折率をnF,前記アンダーコート層の波長550nmにおける屈折率をnUC,前記アンダーコート層の膜厚をd(nm),前記ハードコート層の波長550nmにおける屈折率をnHCとしたとき,下記式(1)及び式(2)を満たし,
前記アンダーコート層の膜厚d(nm)が,前記アンダーコート層の波長650nmにおける屈折率をnUC650としたとき,下記式(3)を満たす,
画像表示装置。
【数1】

【数2】

【数3】



イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,次の構成で相違する。
(相違点)
「光学積層体」が,本件補正後発明は,「少なくとも,面内に複屈折率を有する光透過性基材,アンダーコート層,ハードコート層及び反射防止層がこの順に積層され」,「前記光学積層体の反射色相値が,色相a*の絶対値が3以上であるか,又は,色相b*の絶対値が3以上であり」,「前記反射防止層表面の視感度反射率Yが0.3%以下である」のに対して,引用発明は,下線部の要件を満たさず,色相は明らかではなく,視感度反射率Yの要件は満たさないと考えられる(反射率が4.38%である)点。

(6) 判断
引用発明の「光学積層体」は「反射率が4.38%」であるから,その「光学機能層」上に反射防止層を設けることが,実用上,必要不可欠である。また,引用文献1の[0041]?[0048]には低屈折率層による反射防止層が開示されているが,本件出願の出願前の当業者ならば,より低反射率化が可能な周知技術として,引用文献2に記載されているような,第一層と第二層と第三層の3層からなる反射防止層を心得ていたし,また,ニュートラル色(白色)の実現にも配慮したと考えられる。
(当合議体注:引用文献1の[0041]?[0048]に開示された方法では,原理上,ハードコート層に起因するリップルを伴う,1つのボトムからなる波長特性の反射防止膜しか得られない。したがって,その低反射率特性やニュートラル色には限界があると考えられる。これに対して,3層からなる反射防止層(第1層がハードコート層である中屈折率層,第2層が反射防止のための高屈折率層,第3層が反射防止のための低屈折率層)ならば,ハードコート層に起因するリップルを伴いつつも,2つのボトムからなる波長特性の反射防止膜が得られる。そうしてみると,膜厚ムラを考慮しても,より良い低反射率化やニュートラル色の実現が容易になると考えられる。)
したがって,引用発明において,引用文献2に記載の反射防止膜の構成を採用すること(引用発明の「光学機能層」(ハードコート層)の上に,第2層としての高屈折率層,及び第3層としての低屈折率層からなる反射防止層を設けること)は,当業者が容易に発明をすることができたものといえる。
また,このようにしてなるものは,相違点に係る本件補正後発明の構成を,すべて具備するものになるといえる。
すなわち,引用文献2の[0237]の表1から明らかなとおり,引用発明において,引用文献2に記載の反射防止膜の構成を採用すると,平均視感度反射率については実施例5及び実施例8に開示されるように0.3%以下に達するものの,反射色については,「実施例1?13…では,反射防止部材単独における反射光の色が,特にニュートラルな色目を有していた」([0243])と評価されつつも,実施例5及び実施例8に開示されるように,色相a*の絶対値及び色相b*の絶対値が,ともに3以上となってしまう。
なお,引用文献2に記載された平均視感度反射率と本件補正後発明の視感度反射率は,参照するJISが相違するが,可視光領域においては等価と認められる。また,引用文献2においては,図1,図2及び[0111]?[0114]に記載されているような画像表示機器6が開示されているが,引用文献2に記載された反射防止部材は,このような用途に限られるものではない([0227]においては,低屈折率層側からの色相評価が行われている。)。

(7) 審判請求人の主張について
審判請求人は,審判請求書((3)(3-2)(ホ))において,「引用文献1及び2のいずれにおいても,面内に複屈折率を有する光透過性基材,アンダーコート層,ハードコート層及び反射防止層がこの順に積層された構成において,各層の界面において生じる反射をも考慮して,アンダーコート層の屈折率や膜厚を決定し,干渉縞の視認性を極めて高度に抑制するといった技術的思想,及び,視感度反射率Y及び反射色相値を制御し,網膜の色知覚細胞の感度の感受度を考慮して,干渉縞の視認性を低下させるといった技術的思想は一切開示されておりません」と主張する。
しかしながら,液晶表示装置の画像表示面側に用いられる光学積層体に,視感度上の反射防止性能及びニュートラル色性が求められることは,自明の課題である。また,引用文献1において,干渉縞の問題が考慮され([0052]),斜め方向からのニジムラ(色の異なるムラ)も評価されていること([0089])を考慮すると,引用発明に接した当業者ならば,斜め方向からの色ムラについても留意するといえる。仮に,引用文献1から,干渉縞の視認性に関する技術思想を把握できないとしても,前記(6)で述べたとおりであるから,当該技術思想を具備した物は,自ずと達成されることとなる。
また,上申書の補正案の干渉縞の低減方法として考えても,同様である。

審判請求人は,上申書((4)(ハ))において,「本願発明の構成によって得られる極めて優れた干渉縞の防止性能(例えば,実施例7のような干渉縞の評価が◎^(*))は,引用文献1及び2からは,全く予測することができません」と主張する。
しかしながら,引用文献2に記載された反射色からみて,そのような効果は,引用文献2に記載された反射防止膜が具備した効果といえる。あるいは,当業者が斜め方向からのニジムラを評価した段階で,自ずと気付く効果とも考えられる。
したがって,審判請求人の主張は採用できない。

3 補正の却下の決定についてのむすび
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって,前記[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり,本件補正は却下されたので,本件出願の請求項4に係る発明(請求項1及び請求項3の記載を引用して記載されたもの)は,前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである(本願発明)。

2 原査定の拒絶の理由
本願発明に対する原査定の拒絶の理由は,本願発明は,本件出願の出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて利用可能となった発明及び周知技術に基づいて,本件出願の出願前の当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
引用文献1:国際公開第2013/179951号
引用文献2:国際公開第2013/088836号
なお,主引用例は引用文献1であり,引用文献2は周知技術を示す文献である。

3 引用文献及び引用発明
引用文献の記載及び引用発明は,前記「第2」[理由]2(1)?(3)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,前記前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から,「前記面内に複屈折率を有する光透過性基材は,面内において屈折率が大きい方向の屈折率(nx)と,遅相軸方向と直交する方向の屈折率(ny)との差nx-nyが,0.05以上,0.30以下であり」という発明特定事項を削除したものである。
そうしてみると,本願発明の発明特定事項をすべて含み,さらに他の発明特定事項を付加したものである本件補正後発明が,前記「第2」[理由]2(4)?(7)に記載したとおり,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本件出願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-06-10 
結審通知日 2019-06-11 
審決日 2019-06-24 
出願番号 特願2014-105568(P2014-105568)
審決分類 P 1 8・ 571- Z (G02B)
P 1 8・ 572- Z (G02B)
P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 吉川 陽吾  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 樋口 信宏
河原 正
発明の名称 画像表示装置、画像表示装置の製造方法及び画像表示装置の干渉縞改善方法  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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