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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23F
管理番号 1354102
異議申立番号 異議2019-700370  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-07 
確定日 2019-07-26 
異議申立件数
事件の表示 特許第6420419号発明「高濃度の粉砕茶葉を含有する緑茶飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6420419号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6420419号の請求項1に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成29年3月6日(優先権主張 平成29年1月20日)に出願された特願2017-42237号の一部を、平成29年7月6日に新たな特許出願としたものであり、平成30年10月19日にその特許権の設定登録がされ、同年11月7日にその特許公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年5月7日に新井 勉(以下「特許異議申立人」という。)により、全請求項(請求項1)に対して特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許に係る発明は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明」ということがある。)である。
「【請求項1】
次の成分(A)及び(B):
(A)カテキン類 200?700ppm
(B)リナロール 6.0?30ppb
を含有し、かつ
(C)濁度が0.2?2.0
であり、平均粒子径20?80μmの粉砕茶葉を含有する容器詰緑茶飲料。」

第3 特許異議申立の理由の概要
特許異議申立書に記載された特許異議申立理由は、特許法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に関するものであり、その概要は次のとおりである。

1 本件明細書には、「ざらつき感」の風味に見るべき影響を与えるのが、カテキン類含有量、リナロール含有量及び濁度の三つの要素のみであることは記載されておらず、実施例の各飲料は上記三つの要素以外の成分や物性の条件を揃えたものとして記載されておらず、当該成分や物性が「ざらつき感」の風味に見るべき影響を与えるものではないことや、影響を与えるがその条件を揃える必要がないことも記載されていないことから、出願時の技術常識を考慮しても、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、カテキン類含有量、リナロール含有量、及び濁度が請求項1に規定する数値範囲にあることにより、粉砕茶葉由来のざらつき感が低減されるという風味が得られることが裏付けられていることを当業者が理解できるとはいえないから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

2 実施例14に示された飲料中の粉砕茶葉の平均粒子径は、本件明細書の定義に照らして、本件発明の「平均粒子径20?80μm」との要件を満たさないものである。よって、実施例の記載によって本件発明が効果を奏することが裏付けられていることを当業者が理解できるとはいえないから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施することができるようには記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

3 リナロールは溶解性について「水に難溶。含水エタノールに易溶。エタノールに溶ける。」であるから、これを飲料に配合させるためには含水エタノール等の溶媒に溶解させたうえで飲料に添加するのが通常であると考えられるが、含水エタノール等の溶媒を緑茶飲料に添加した場合、緑茶飲料の風味、特に香気に影響を及ぼすことは技術常識であり、溶媒が容器詰緑茶飲料の風味に与える影響は、各実施例で揃えられていないから、本件発明の効果を評価するうえで無視できるものではない。したがって、市販のリナロールを添加して製造した実施例1?12、14?15、比較例7?22の容器詰緑茶飲料は、本件発明の効果を評価するために適切なものとはいえず、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施することができるようには記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に適合しない。
また、本件発明は、発明の詳細な説明に、発明の効果を奏するように記載されたものではないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。

4 本件明細書に記載された容器詰緑茶飲料サンプル(実施例1?15)のカテキン濃度は376?501ppmであり、本件発明に規定するカテキン濃度である200?700ppmのうち一部の範囲に過ぎない。そうすると、技術常識に照らしても、本件明細書に記載のカテキン濃度の範囲を、本件発明に規定するカテキン濃度の範囲まで、拡張ないし一般化できるとは認められない。よって、本件発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
また、実施例1?15に係るカテキン濃度の範囲外であっても、本件発明の範囲内であれば、実施例1?15と同様のざらつき感低減効果を奏するのか、当業者は理解することができないから、本件明細書の記載からでは、当業者が本件発明の実施をすることができない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

5 平均粒子径が80μmである場合に、実施例に記載された濁度である0.4を、本件発明に規定する濁度の範囲である0.2?2.0まで、拡張ないし一般化できるとは認められない。よって、本件発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
また、平均粒子径が80μmである場合に、実施例に記載された濁度である0.4以外であっても、本件発明の範囲内であれば、実施例と同様のざらつき感低減効果を奏するのか、当業者は理解することができないから、本件明細書の記載からでは、当業者が本件発明の実施をすることができない。よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

6 本件明細書に記載される実施例13の容器詰緑茶飲料がどのように製造されたものであるか、本件明細書の記載からは理解することができず、本件発明に該当するものであるかが理解できない。さらに、実施例13の容器詰緑茶飲料は、含有する粉砕茶葉の平均粒子径が記されておらず、本件発明に該当するものであるかが不明である。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できるようには記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

7 本件明細書には、条件を変えて調製した茶飲料についてざらつき感の評価が実施されているところ、粉砕茶葉の粒子を含有する茶飲料にリナロールを添加することにより、粉砕茶葉を含有しない茶飲料と同等レベルになるということは、一定の範囲の粒径を有する茶葉粒子という物理的な対象物のテクスチャーを全く無視するものであり、出願時の技術常識からみて理解することができず、さらに、本件発明が解決しようとする課題であるざらつき感の低減を評価するための評価基準が不明確であり、理解することができず、このような評価基準に基づく実施例によっては、ざらつき感の低減という発明の効果を確認し理解することはできない。
よって、実施例の記載によって本件発明が効果を奏することが裏付けられていることを当業者が理解できるとはいえないから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではなく、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合しない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できるようには記載されておらず、特許法第36条第4項第1号に適合しない。

以上、1?7のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。

第4 当審の判断
当審は、上記特許異議申立理由はいずれも理由がないと判断する。その理由は次のとおりである。

1 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には以下の記載がある。
a)「【背景技術】
【0002】
従来、粉体を多く配合した飲料は、飲用時に粉っぽさやざらつき感を感じるという問題を抱えている。このような問題の対策として、乳化処理、均質化処理等の製造工程上の処理で改善する方法や、粉っぽさの要因となっている物質を予めより細かくする方法や、ざらつき感を低減しうる成分を配合する方法などが実施されている。
【0003】
例えば、抹茶や粉砕した緑茶葉等の粉砕茶葉を配合した緑茶飲料の場合、抹茶の粒子径をより細かくしてざらつき感を低減する方法(特許文献1)、粒子径7μm以上20μm以下の粒子の数の割合が60%?90%となるように抹茶の粒子径と分布を制御して抹茶の香り立ちを保持しながらざらつき感を低減する方法(特許文献2)、テアニン及び/又はグルタミン酸濃度を特定範囲に調整して高濃度に含有する茶葉由来粒子のざらつき感を低減する方法(特許文献3)、抹茶の粒子径を細かくし、かつグリセロ糖脂質を含有させることによりざらつき感を低減する方法(特許文献4)等が提案されている。
【0004】
・・・
【0005】
さらに、粉砕茶葉を含有する茶飲料において、飲料液中のガレート型カテキン類と酸性アミノ酸の含有量の比率をそれぞれ所定の範囲に調整することで、苦味と渋味を抑制し、緑茶飲料特有の甘味を強く感じられることが開示されている(特許文献9)。」

b)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、粉砕茶葉を高濃度で含有するにもかかわらず、該粉砕茶葉由来のざらつき感を低減した容器詰緑茶飲料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。製造上の煩雑な工程を避けるため、配合でざらつき感を低減すべく種々の成分を検討した結果、香気成分であるリナロールを含有させることにより、粉砕茶葉が高濃度に含まれていても、飲用時に口内のざらつき感を感じにくくなることを見出し、本発明を完成するに至った。」

c)「【発明の効果】
【0010】
本発明により、粉砕茶葉を高濃度で含有するにもかかわらず、好適な舌触りとのど越し感を奏し得る容器詰緑茶飲料が得られる。この容器詰緑茶飲料は、粉砕茶葉を高濃度に含有するので、粉砕茶葉が持つコクと深い味わいを十分に味わうことができる。」

d)「【0013】
「口当たり」とは、口に入れた時の感覚、舌触りを意味し、「スッキリした口当たり」とは、ざらつき感などの不快な舌触りがない感覚をいう。
「ざらつき感」とは、ざらざらとした不快な食感をいう。
【0014】
「のど越し」とは、飲用した際に喉に引っ掛かる感じを意味し、「のど越しが良い」とは喉に引っ掛かる感じが全くない感覚をいう。
「コク」とは、濃厚で深い味わいをいう。
「飲用性」とは、1回の飲用時で飲み干される飲料の容量を意味する。
【0015】
・・・
(茶飲料)
本発明は、特定量の(A)カテキン類を含有し、かつ(C)濁度が0.2?2.0である緑茶飲料を対象とする。飲料中に含まれるカテキン類の濃度は200?700ppmが好ましく、250?600ppmがより好ましく、300?500ppmがさらに好ましい。カテキン類は可溶性成分であるが、その濃度が700ppmを超えると、カテキン類由来のざらつき感が生じる場合がある。カテキン類由来のざらつき感は、飲用後に舌や歯に残るざらつきであり、後述する本発明の粉砕茶葉由来のざらつき感の低減効果が損なわれることがある。また、カテキン類が下限値の200ppm未満であると、本発明の効果が十分に得られないことがある。
【0016】
カテキン類の種類に特に制限はないが、遊離型カテキン(a1)の濃度をガレート型カテキン(a2)の濃度よりも高くする、すなわち(a1)>(a2)となるように調整することが好ましい。より好ましくは、遊離型カテキン(a1)とガレート型カテキン(a2)の比率[(a2)/(a1)+(a2)]が0.25?0.50、さらに好ましくは0.30?0.50の比率となるように調整する。上記範囲となるように調整すると、本発明のざらつき感の低減効果をより一層強く発現させることができ、よりスッキリした口当たりやのど越しを実現できる。なお、飲料中のカテキン類含量は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた方法によって、測定・定量される。
【0017】
本発明の緑茶飲料は、粉砕茶葉を高濃度で含有する。粉砕茶葉の含有度合いは、濁度を指標とすることができ、本発明の飲料における(C)濁度は0.2?2.0、好ましくは0.3?1.5、より好ましくは0.4?1.0である。なお、上記特許文献8(WO2014/055512号)の実施例には、緑茶葉の粉砕物を配合して得られる淡色茶飲料が開示されているが、本発明者らがその濁度(OD_(680))を測定したところ0.1程度であり、本発明の飲料の対象外であった。
【0018】
一般に、粉砕茶葉を含有する緑茶飲料において、粒子径は大きくなるほどそれ自体の風味を強く感じられるが、ざらつき感が強く出てしまう傾向にある。一方で、粒子径は小さくなるほど滑らかな口当たりとなるが、風味が感じられなくなる傾向にある。本発明の粉砕茶葉を含有する飲料の含有粒子径は、0.1?80μmが好ましく、0.2?65μmがより好ましく、0.5?60μmがさらに好ましい。ここで、含有粒子径が80μm以下とは、粒子の全て(100%)が80μm以下であることを要求するものではなく、飲料中に含有される粒子の90%以上、好ましくは95%以上の粒子の粒子径が80μm以下であればよい。また、含有粒子径が0.1μm以上とは、粒子の全て(100%)が0.1μm以上であることを要求するものではなく、飲料中に含有される粒子の5%以上、好ましくは10%以上の粒子の粒子径が0.1μm以上であればよい。
本発明のざらつき低減効果は、粒子径が20μm以上と比較的大きい粉砕茶葉においてより顕著な効果を発揮する。したがって、上記範囲の中でも、含有される粒子の1%以上、好ましくは5%以上の粒子が20μm以上となるように調整すると、ざらつき感が少なく、緑茶飲料の風味がより一層豊かな飲用性の高い飲料となる。ここで、粉砕茶葉の粒子径は、粒子の長径を測定したものであり、具体的にはベックマン・コールター社製のレーザ回折・散乱法粒度分布測定装置LS 13 320によって測定した値である。
【0019】
粉砕茶葉の粒子径の調整は、原材料の段階や、原料混合後の液状下で、ミル、ミキサー、ホモジナイザー、ラインミキサー、エマルダー、マイルダー、チョッパー、パルパーフィッシャー等の破砕機または摩砕機を使用することにより行うことができる。
【0020】
粉砕茶葉としては、抹茶や、煎茶、かぶせ茶、玉露等の緑茶葉の粉砕物を1以上、好ましくは複数種類を併用して用いることができる。
本発明は、高濃度の粉砕茶葉を含有する緑茶飲料において、香り成分である(B)リナロール(Linalool)を特定量含有させることで、粉砕茶葉由来のざらつき感を低減することを特徴とする。リナロールは、植物(ローズウッド、リナロエ、芳樟)の精油成分として存在しており、その香りはStrong, green floral note として表現され、スズラン系の花香を持つことが知られている成分である。リナロールが種々の飲料の香気に寄与することは知られているが、食感に影響を及ぼすことは全く知られておらず、本発明者らによって初めて見出されたことである。
【0021】
本発明の飲料中の(B)リナロール濃度は、6.0?30ppbであり、好ましくは6.0?25ppbであり、より好ましくは6.0?20ppbである。リナロールをこの濃度範囲で含有することにより、粉砕茶葉由来のざらつき感が低減され、好適な舌触りとのど越し感を奏する緑茶飲料が得られる。尚、ここでいう飲料中のリナロール濃度は容器詰緑茶飲料製造直後の濃度である。
・・・
【0022】
・・・
【0023】
・・・
(その他成分)
上述のとおり、粒子径が20μm以上となる比較的大きい粉砕茶葉を高濃度に含有する飲料は、本発明の好適な態様の一つである。この粒子径が大きい粉砕茶葉を含有する緑茶飲料では、(A)カテキン類、(B)リナロールに加えて、飲料中の特定のアミノ酸バランスが本発明の効果に影響することを見出している。
【0024】
一般に、緑茶飲料には、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、テアニン(Theanine)、グリシン(Gly)、アラニン(Ala)、セリン(Ser)、チロシン(Tyr)、トレオニン(Thr)、システイン(Cys)、メチオニン(Met)、アルギニン(Arg)、リシン(Lys)、プロリン(Pro)が含まれることが知られている。これらアミノ酸のうち、本発明のざらつき感低減効果に寄与するアミノ酸は、(D1)アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる群と、(D2)セリン、グリシン、トレオニン、アラニン、プロリン及びテアニンからなる群に分類されるアミノ酸である。(D1)はカルボキシル基(-COOH)を2つもつ酸性アミノ酸であり、(D2)は側鎖に芳香族、硫黄、分岐鎖を含まない中性アミノ酸又はテアニンである。
【0025】
ざらつき感の低減には、これら(D1)に分類されるアミノ酸の含有量と、(D2)に分類されるアミノ酸の含有量の重量比((D2)/(D1))が重要である。すなわち、本発明の茶飲料は、(D1)アスパラギン酸及びグルタミン酸からなる群から選択される1以上と、(D2)セリン、グリシン、トレオニン、アラニン、プロリン及びテアニンからなる群から選択される1以上を含有し、(D1)と(D2)の重量比((D2)/(D1))が2.0?6.0であることが好ましい。より好ましい(D1)と(D2)の重量比は2.5?5.5、さらに好ましい重量比は3.0?5.0である。ここで、(D1)の含有量をいうときは、(D1)に分類されるアミノ酸の合計量を表す。また、(D2)の含有量をいうときは、(D2)に分類されるアミノ酸の合計量を表す。
【0026】
これら(D1)及び(D2)に分類されるアミノ酸の重量比を上記範囲に調整することにより、ざらつき感の低減効果をより一層高めることができ、粒子径が大きい粉砕茶葉を含有するにもかかわらず、スッキリした口当たりとのど越しの良い緑茶飲料となる。(D1)に分類される2種類のアミノ酸、及び(D2)に分類される6種類のアミノ酸を全て含有する飲料は、最も好ましい飲料である。
【0027】
本発明のざらつき感低減効果には、(D1)と(D2)の重量比が重要であり、その含有量は特に制限されないが、通常、アミノ酸D1の総量は5?60ppm、好ましくは10?50ppm、より好ましくは12?40ppmであり、アミノ酸D2の総量は20?150ppm、好ましくは30?120ppm、より好ましくは40?100ppmである。アミノ酸は、ほぼ純品のものが食品原料として市販されているので、これを用いて茶飲料中の濃度を調整することが可能である。その他、これらの成分を多く含む食品原料を用いて調整してもよい。最も好ましいのは、緑茶葉抽出物を用いる方法である。一番茶の抽出物はアミノ酸を多く含み、(D1)及び(D2)の比率が上記範囲と近似しているため、好適に用いられる。」

e)「【実施例】
【0032】
以下、実施例を示して本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
(飲料中の香気成分の定量方法)
・・・
(カテキン類濃度の定量方法)
・・・
(アミノ酸濃度の定量方法)
・・・
1.粉砕茶葉含有液の調製
碾茶を石臼で挽いて製造された抹茶を約20倍量の水に懸濁させ、この懸濁液を高圧ホモジナイザーにより10MPaの圧力で処理した後に遠心分離(6000rpm、10分)を行って粗大な粉砕茶を除去して、平均粒子径が20μm以下となる粉砕茶葉懸濁液を得た。さらに、これに20重量部の煎茶粉砕物(20μm以上の粒子を含む)を配合して、平均粒子径が20μmとなるような粉砕茶葉含有液を調製した(粉砕茶葉含有液B)。
2.茶飲料のベースとなる緑茶葉抽出液の調製
煎茶葉の乾燥重量に対して30重量部の水を抽出溶媒として用いた。60℃の水で5分間抽出した後、茶葉を分離し、さらに遠心分離処理(6000rpm、10分)して粗大な粉砕茶組織や茶粒子などの固形分を除去して、緑茶葉抽出液を得た(緑茶葉抽出液A)。
3.評価
以下の茶飲料について、専門パネラー3人で飲用し評価した(評価は、協議の上決定した)。
[比較例1?6]
緑茶抽出液Aに、種々の割合で粉砕茶葉含有液Bを添加して濁度が異なる6種類の茶飲料を調製した(配合割合は表1?5に記載。以下、表中の緑茶抽出液もしくは粉砕茶葉含有液の表中の単位はg/Lとする)。500mLずつをPETボトルに充填し、容器詰緑茶飲料を得た。目視によると、粉末茶葉無添加の比較例1は濁りがなく、比較例2?6は濁りを有する茶飲料であった。これら茶飲料について濁りのない比較例1を対照として、ざらつき感を評価した。
<評価基準>
◎:ざらつき感を感じない(対照と同程度)
〇:少しざらつき感を感じる
×:ざらつき感がある
表1から明らかなとおり、リナロール濃度が3.7?4.4ppbの場合、粉末茶葉に由来するざらつき感を低減することはできず、のど越しの悪い飲料であった。
【0033】
【表1】

【0034】
[実施例1?4、比較例7?8]
比較例1?6に市販のリナロール(和光純薬工業株式会社製;型番126-00993)を添加して500mLずつをPETボトルに充填し、リナロール濃度6.0ppbの容器詰緑茶飲料を得た。目視によると、粉末茶葉無添加の比較例7は濁りがなく、実施例1?4及び比較例8は濁りを有する茶飲料であった。これら茶飲料について、濁りのない比較例7を対照としてざらつき感を評価した。濁度が0.2?2.0となる粉末茶葉を含有する飲料では、該粉末茶葉由来のざらつき感は、6ppbのリナロールを含有させることで低減させることができ、スッキリしたのど越しを有する飲料であった。特に、濁度が0.40?0.80の茶飲料ではざらつき感がより低減されており、対照と同等レベルであった。一方、濁度が2.5となると、リナロールでのざらつき感低減効果は十分でなく、のど越しの悪い飲料であった。
【0035】
【表2】

【0036】
[実施例5?12、比較例9?18]
さらに、リナロールを添加して、リナロール濃度20ppb、30ppb及び35ppbの容器詰緑茶飲料を得た。目視によると、粉末茶葉無添加の比較例9、11及び13は濁りがなく、粉末茶葉を添加した飲料は濁りを有する茶飲料であった。これら茶飲料について、表3は比較例9、表4は比較例11、表5は比較例13を各々対照として、ざらつき感を評価した。結果を表3?5に示す。
【0037】
濁度が0.2?2.0となる粉末茶葉を含有する飲料では、リナロールを20ppb又は30ppbの濃度で含有させることで粉末茶葉由来のざらつき感を低減させることができた。濁度が0.40?0.80の茶飲料ではざらつき感がより低減されており、対照(比較例9及び11)と同等レベルであった。一方、濁度が2.5となると、リナロールでのざらつき感低減効果はあるものの、それ以上に粉末茶葉を配合することによるざらつき感が増長され、飲用し難い飲料であった。リナロール量を35ppb含有する飲料は、濁度に関わらずざらつき感の低減効果はみられなかった。
【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
【表5】

【0041】
[実施例13]
次の方法により、容器詰緑茶飲料を製造した。緑茶飲料の原料として、緑茶葉抽出液、粉砕茶葉懸濁液を用いた。緑茶葉抽出液は、リナロール含有茶葉8gを、70℃の湯で5分間抽出した後、遠心分離機を用いて固液分離して調製した。粉砕茶葉含有液は、実施例1で用いたものと同様にして調製した。前記緑茶葉抽出液、粉砕茶葉含有液を任意の割合で混合し、濁度:0.49、リナロール:8.5ppbとなる緑茶飲料を製造した。
【0042】
得られた茶飲料について、カテキン類及びアミノ酸類を分析するとともに、その香味を評価した。カテキン類の総量は、440ppmであった。このうち遊離型カテキン(a1)は270ppm、ガレート型カテキン類(a2)は170ppmであり、その比率[(a2)/(a1)+(a2)]は0.39であった。また、アミノ酸の分析結果を表6に示す。表中の値はppmである。
【0043】
【表6】

【0044】
この茶飲料は、粉砕茶葉を高濃度で含有するにもかかわらず、好適な舌触りとのど越し感を奏し得る緑茶飲料であった。粉砕茶葉を高濃度に含有するので、粉砕茶葉が持つコクと深い味わいを十分に味わうことができ、3名のパネラー全員が従来にない美味しさと評価した。以上より、カテキン類濃度が200?700ppmであり、(D1)と(D2)の重量比((D2)/(D1))が2.0?6.0である茶飲料は、本発明の好適な態様の一つであることが示唆された。
【0045】
[実施例14、比較例19?20]
ここでは、新たに別の粉砕茶葉含有液を調製した。
碾茶を石臼で挽いて製造された抹茶を約20倍量の水に懸濁させ、この懸濁液を高圧ホモジナイザーにより10MPaの圧力で処理した後に遠心分離(6000rpm、10分)を行って粗大な粉砕茶を除去して、平均粒子径が20μm以下となる粉砕茶葉懸濁液を得た。さらに、これに20重量部の煎茶粉砕物(20μm以上の粒子を含む)を配合して、平均粒子径が80μmとなるような粉砕茶葉含有液を調製した(粉砕茶葉含有液D)。
【0046】
また、茶飲料のベースとなる緑茶葉抽出液も新たに調製した。
上記とは異なる煎茶葉を用い、煎茶葉の乾燥重量に対して30重量部の水を抽出溶媒として用いた。60℃の水で5分間抽出した後、茶葉を分離し、さらに遠心分離処理(6000rpm、10分)して粗大な粉砕茶組織や茶粒子などの固形分を除去して、緑茶葉抽出液を得た(緑茶葉抽出液C)。
【0047】
緑茶抽出液Cに、種々の割合で粉砕茶葉含有液Dを添加して濁度が異なる3種類の茶飲料を調製した(配合割合は表7に記載)。市販のリナロール(和光純薬工業株式会社製;型番126-00993)を添加して500mLずつをPETボトルに充填し、リナロール濃度20.0ppbの容器詰緑茶飲料を得た。目視によると、粉末茶葉無添加の比較例19は濁りがなく、実施例14と比較例20は濁りを有する茶飲料であった。これら茶飲料について飲用し、濁りのない比較例19を対照としてざらつき感を評価した。
【0048】
本例においても、濁度が0.4である粉末茶葉を含有する飲料では、リナロールを20ppbの濃度で含有させることで粉末茶葉由来のざらつき感が低減され、対照(比較例19)と同等レベルであった。
【0049】
【表7】

【0050】
[実施例15、比較例21?22]
緑茶抽出液Aに、種々の割合で粉砕茶葉含有液Dを添加して濁度が異なる3種類の茶飲料を調製した(配合割合は表8に記載)。市販のリナロール(和光純薬工業株式会社製;型番126-00993)を添加して500mLずつをPETボトルに充填し、リナロール濃度20.0ppbの容器詰緑茶飲料を得た。目視によると、粉末茶葉無添加の比較例21は濁りがなく、実施例15と比較例22は濁りを有する茶飲料であった。これら茶飲料について飲用し、濁りのない比較例21を対照としてざらつき感を評価した。
【0051】
本例においても、濁度が0.4である粉末茶葉を含有する飲料では、リナロールを20ppbの濃度で含有させることで粉末茶葉由来のざらつき感が低減され、対照(比較例21)と同等レベルであった。
【0052】
【表8】



2 第3に示した各理由について
(1)1について
本件明細書全体の記載、特に、【0008】の記載からみて、本件発明の課題は、「粉砕茶葉を高濃度で含有するにもかかわらず、該粉砕茶葉由来のざらつき感を低減した容器詰緑茶飲料を提供すること」にあると認める。
そして、【0009】の記載からみて、当該課題は、香気成分であるリナロールを含有させることにより解決したものということができる。
発明の詳細な説明の実施例、比較例について、比較例1?6は、概要、緑茶葉抽出液Aに種々の割合で粉砕茶葉含有液Bを添加してなる茶飲料をPETボトルに充填した、濁度が0.02?2.5である容器詰緑茶飲料に関するものであり、粉砕茶葉含有液Bを一定量配合した比較例2?6は「ざらつき感がある」と評価されている(比較例1は粉砕茶葉含有液Bが添加されていない。)。
一方、比較例2?5の茶飲料のそれぞれに市販のリナロールを添加して、リナロール濃度を6ppbとした実施例1?4の容器詰緑茶飲料のそれぞれは、「ざらつき感を感じない」又は「少しざらつき感を感じる」と評価されており、当該記載からは、比較例2?5のものに比較して、ざらつき感が低減されたことが理解できる。
実施例5?12、比較例14?17には、さらに、リナロールを添加して、リナロール濃度20ppb、30ppb及び35ppbの容器詰緑茶飲料を得たことが記載されており、実施例5?12の容器詰緑茶飲料は「ざらつき感を感じない」又は「少しざらつき感を感じる」と評価されているのに対し、比較例14?17では、「ざらつき感がある」と評価されている(比較例7、9、11、13の容器詰緑茶飲料は、粉砕茶葉含有液Bを含有しないので、ざらつき感が問題にならないと解され、比較例8、10、12、18は濁度が本件発明の範囲外であり、「ざらつき感がある」と評価されている。)。
これらの実施例、比較例の記載からみて、容器詰緑茶飲料にリナロールを本件発明で特定される量配合することで、粉砕茶葉を含有する容器詰緑茶飲料のざらつき感が低減されることが理解できるといえる。
また、実施例14、15についても、リナロールを20ppbの割合で添加することによって、粉末茶葉由来のざらつき感が低減されることが記載されている。
そして、上記実施例、比較例において、比較例1?6のそれぞれと比較例7、実施例1?4、比較例8のそれぞれ、比較例1?6のそれぞれと比較例9、実施例5?8、比較例10のそれぞれ、比較例1?6のそれぞれと比較例11、実施例9?12、比較例12のそれぞれ、比較例1?6のそれぞれと比較例13?18のそれぞれとは、いずれも後者の例の容器詰緑茶飲料にリナロールが添加されている以外は同じ(リナロールの添加以外の条件は同じ)茶飲料であると認められる。
してみると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、粉砕茶葉を高濃度で含有する容器詰茶飲料にリナロールを所定量配合することによって当該茶飲料のざらつき感を低減することができることを認識できるといえるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、この点において、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。

(2)2について
実施例14には、「平均粒子径が80μmとなるような粉砕茶葉含有液を調製」したことが記載されているから、この記載からは,実施例14の粉砕茶葉は、本件発明において特定される平均粒子径の範囲内である80μmの径を有するものであるといえる。
特許異議申立人は、概要、実施例14に記載の飲料の製造方法(【0045】)によれば、粉砕茶葉含有液Dを調製する際に抹茶を1g使用すると仮定すると、粉砕茶葉懸濁液中の粒子について平均粒子径は最大で20μm、重量は1g、煎茶粉砕物の重量は4.2gであり、計算によれば、煎茶粉砕物の平均粒子径は94.3μmが必要となり、粉砕茶葉全体の80重量%以上を占めることになるところ、【0018】の「含有粒子径が80μm以下とは、粒子の全て(100%)が80μm以下であることを要求するものではなく、飲料中に含有される粒子の90%以上、好ましくは95%以上の粒子の粒子径が80μm以下であればよい。」との定義に反するものであると主張する。
しかし、特許異議申立人の主張は、抹茶の使用量、粉砕茶葉懸濁液中の粒子の平均粒子径について仮定を前提としたものであり、実施例14の記載に基づくものではない。また、【0018】の記載は、「含有粒子径」に関する記載であって「平均粒子径」に関するものではないから、実施例14の粉砕茶葉の平均粒子径の記載が、【0018】の上記記載に矛盾するとはいえない。さらに、【0018】の記載は飲料中に含有される粒子の90%以上が必ず80μm以下であることを意味するものではなく、そのような事項が本件特許の請求項1において特定されるものでもない。
そして、実施例14に記載の容器詰緑茶飲料における、粉砕茶葉の平均粒子径が80μmであることは、上記したとおり、実施例14において明記されている。
したがって、この点において、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。

(3)3について
一般にリナロールが水に難溶であるとしても、本件明細書の実施例には、含水エタノール等の溶媒を用いることの記載はなく、また、「難溶」とは全く溶解しないことを意味するものではなく、実施例、比較例で添加されるリナロールはppb単位のごく僅かな量であるから、必ずしも含水エタノール等の溶媒を必要とするとは認められず、当該ごく僅かな量を容器詰緑茶飲料に添加する場合に、溶媒に溶解させたうえで添加するという本件特許の出願時の技術常識もない。
したがって、この点において、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていないということはできず、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。また、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。

(4)4について
本件明細書には、「飲料中に含まれるカテキン類の濃度は200?700ppmが好ましく、250?600ppmがより好ましく、300?500ppmがさらに好ましい。カテキン類は可溶性成分であるが、その濃度が700ppmを超えると、カテキン類由来のざらつき感が生じる場合がある。カテキン類由来のざらつき感は、飲用後に舌や歯に残るざらつきであり、後述する本発明の粉砕茶葉由来のざらつき感の低減効果が損なわれることがある。また、カテキン類が下限値の200ppm未満であると、本発明の効果が十分に得られないことがある。」(【0015】)として、一般的にではあるものの、カテキン類の濃度が700ppmを超えるとざらつき感が生じる場合があり、200ppm未満であると、本件発明の効果が十分に得られないことがあることが記載され、実施例として、カテキン類の濃度が376?501ppmである飲料について、ざらつき感が、「ざらつき感を感じない」か、「少しざらつき感を感じる」と評価されている。そして、当該実施例として記載された飲料については、そのカテキン類の濃度が本件発明で特定される200?700ppmの全範囲ではないものの、当該範囲のうちの一定の範囲において容器詰緑茶飲料のざらつき感が低減されることが確認されているといえ、カテキン類が可溶性成分であることや、上記【0015】の記載と併せ考慮すれば、本件発明で特定されるカテキン類の濃度の全範囲にわたって、容器詰緑茶飲料のざらつき感が低減されることを当業者が認識できるといえる。
してみると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本件発明において特定されるカテキン濃度の全範囲にわたって容器詰茶飲料のざらつき感を低減することができることを認識できるといえるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、この点において、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていないということはできず、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。

(5)5について
本件明細書に「本発明の緑茶飲料は、粉砕茶葉を高濃度で含有する。粉砕茶葉の含有度合いは、濁度を指標とすることができ」(【0017】)と記載されるとおり、濁度は、粉砕茶葉の含有度合いの指標であるといえる。
ここで、実施例1?4において、本件発明の濁度の全範囲である0.2?2において、容器詰緑茶飲料のざらつき感が低減されることが確認できる。このうち、実施例2の容器詰緑茶飲料において粉砕茶葉の平均粒子径が20μmであり、濁度が0.4であるところ、実施例14の容器詰緑茶飲料は粉砕茶葉の平均粒子径は80μmであり、濁度が実施例2のものと同じく0.4であるが、実施例2と実施例14の容器詰緑茶飲料はともにそのざらつき感が、「ざらつき感を感じない」と評価されている。
してみると、本件明細書に記載のとおり、濁度は粉砕茶葉の含有度合いの指標であり、粉砕茶葉の平均粒子径が20μmと80μmのものでは、その濁度が同じであれば、容器詰緑茶飲料のざらつき感は同様であるということができ、しかも、粉砕茶葉の平均粒子径が20μmのものについては、濁度が0.2?2の範囲のものについて、容器詰緑茶飲料のざらつき感が低減されることが確認できるのであるから、粉砕茶葉の平均粒子径が80μmのものについても、容器詰緑茶飲料のざらつき感が低減されることが推認できる。
してみると、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本件発明において特定される濁度の全範囲にわたって容器詰茶飲料のざらつき感を低減することができることを認識できるといえるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
したがって、この点において、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていないということはできず、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。

(6)6について
本件明細書には、実施例13として、上記1、e)で摘示したとおりの記載があるところ、緑茶飲料の原料として、緑茶葉抽出液と粉砕茶葉懸濁液を用いたこと、緑茶葉抽出液の具体的な調製方法、粉砕茶葉含有液は実施例1で用いたものと同様に製造したこと、緑茶葉抽出液と粉砕茶葉含有液を任意の割合で混合し、濁度:0.49、リナロール:8.5ppbとなる緑茶飲料を製造したことが記載されている。
ここで、実施例13についての当該記載では、「粉砕茶葉懸濁液」と「粉砕茶葉含有液」との異なる用語が用いられているが、実施例13に関する記載からみて、当該例における緑茶飲料は、緑茶葉抽出液と粉砕茶葉含有液を任意の割合で混合し、製造したものであり、当該粉砕茶葉含有液は実施例1で用いたものと同様に製造したものである。そして、当該粉砕茶葉含有液は実施例1で用いたものと同様に製造したものであるから、実施例1として記載のとおり、概要、抹茶を水に懸濁させ、この懸濁液を高圧ホモジナイザーによる処理等をした後、粉砕茶葉懸濁液を得て、これにさらに煎茶粉砕物を配合して調製されたものである。
したがって、実施例13の容器詰緑茶飲料の製造方法は、本件明細書の記載から理解することができる。
また、当該実施例13の容器詰緑茶飲料の粉砕茶葉含有液は実施例1で用いたものと同様に製造したものであるから、粉砕茶葉の平均粒子径は実施例1のものと同じ20μmであると理解され、本件発明の平均粒子径に該当するといえる。
そして、実施例13の容器詰緑茶飲料のカテキン類及びリナロールの濃度、濁度並びに平均粒子径はいずれも本件発明に相当するものである。
したがって、この点において、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されていないということはできず、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。

(7)7について
本件明細書全体の記載からみて、容器詰緑茶飲料のざらつき感は、主として粉砕茶葉を添加することに起因するといえ、本件発明は、リナロールを含有させることによって、粉砕茶葉が高濃度に含まれていても、飲用時に口内のざらつき感を感じにくくなるものであるといえる。また、本件明細書には、「「ざらつき感」とは、ざらざらとした不快な食感をいう。」と記載されている(【0013】)。
本件明細書に記載の実施例及び比較例において、ざらつき感は、「専門パネラー3人で飲用し評価した(評価は、協議の上決定した)。」とされるところ、当該評価は比較例1を対照として行われており、◎は「ざらつき感を感じない(対照と同程度)」、○は「少しざらつき感を感じる」、×は「ざらつき感がある」と評価されたものであって、当該比較例1の容器詰緑茶飲料は粉砕茶葉を含有しないものである。
上述のとおり、本件明細書において、「ざらつき感」とはざらざらとした不快な食感をいうところ、粒子等を含有するものであっても、それが滑らかであり、ざらざらとした不快な食感を感じなけば、ざらざらとした食感を感じないと評価されるから、粉砕茶葉の粒子を含有する茶飲料にリナロールを添加することにより、当該粒子が存在していても粉砕茶葉を含有しない茶飲料と同等レベルでざらつき感を感じないと評価されても、何ら不合理な点はない。そして、そのように評価することが、一定の範囲の粒径を有する茶葉粒子という物理的な対象物の感触を全く無視するものであるとはいえない。
また、上記評価基準は、「専門パネラー3人で飲用し評価した(評価は、協議の上決定した)。」とした上で、対照を比較例1のものとし、◎は「ざらつき感を感じない(対照と同程度)」、○は「少しざらつき感を感じる」、×は「ざらつき感がある」として、ざらつき感の程度に応じて評価が決定されており、明確である。
してみると、本件明細書の実施例、比較例の記載によって、ざらつき感の低減という効果を確認し、理解することができるといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、当業者が、本件発明の課題を解決することができることを当業者が認識できるといえるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、この点において、本件発明は発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえず、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合しないとはいえない。また、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明を当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載されていないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に適合しないとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明に係る特許は、特許異議申立人が申立てた理由及び証拠によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-07-16 
出願番号 特願2017-132747(P2017-132747)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 安居 拓哉田ノ上 拓自  
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 冨永 保
関 美祝
登録日 2018-10-19 
登録番号 特許第6420419号(P6420419)
権利者 サントリーホールディングス株式会社
発明の名称 高濃度の粉砕茶葉を含有する緑茶飲料  
代理人 宮前 徹  
代理人 小野 新次郎  
代理人 中西 基晴  
代理人 山本 修  

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