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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  B41M
管理番号 1354120
異議申立番号 異議2018-700582  
総通号数 237 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-09-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-17 
確定日 2019-07-29 
異議申立件数
事件の表示 特許第6260265号発明「レーザーマーキングが可能な樹脂積層体およびその製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第6260265号の請求項1ないし3,8ないし11及び16に係る特許を取り消す。 
理由 第1 事案の概要
1 手続等の経緯
特許第6260265号の請求項1?請求項16に係る特許についての出願は,平成25年12月25日に出願され,平成29年12月22日にその特許権の設定の登録がされたものである(以下,請求項1?請求項16に係る特許を,それぞれ「本件特許1」?「本件特許16」といい,総称して「本件特許」という。)。
本件特許について,平成30年1月17日に特許掲載公報が発行されたところ,その発行の日から6月以内である平成30年7月17日に,特許異議申立人 中野和子から本件特許1?3,8?11及び16に対して,特許異議の申立てがされた。
その後の手続等の経緯は以下のとおりである。
平成30年 9月19日付け:取消理由通知書
平成30年11月22日付け:意見書(特許権者,以下「意見書(1)」という。)
平成31年 3月13日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和 元年 5月17日付け:意見書(特許権者,以下「意見書(2)」という。)

2 本件特許発明
本件特許の請求項1?3,8?11及び16に係る発明は,それぞれ本件特許の特許請求の範囲の請求項1?3,8?11及び16に記載された事項によって特定されるとおりの,以下のものである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」といい,他の請求項に係る発明についても同様とする。)。
「【請求項1】
レーザーマーキングが可能な樹脂積層体であって,
レーザーマーキング剤が樹脂中に分散したレーザーマーキング層を積層の1層として有し,
前記レーザーマーキング層は,前記レーザーマーキング剤と同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材を材料として用いられた層であり,かつ,予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように前記材料にレーザーマーキング剤が補充された層であり,
ただし,当該樹脂積層体における,レーザーマーキング層の樹脂母材の組成と,該レーザーマーキング層以外の他の全ての層の各材料の組成と,前記端材を生じた前記他の樹脂積層体における,レーザーマーキング層の樹脂母材の組成と,該レーザーマーキング層以外の他の全ての層の各材料の組成とが,互いに同一である場合を除くものとし,
当該樹脂積層体のレーザーマーキング層が前記他の樹脂積層体から生じた端材を材料として用いられた層であることに起因して,当該樹脂積層体のレーザーマーキング層の樹脂母材は,前記他の樹脂積層体のレーザーマーキング層の樹脂母材と,前記他の樹脂積層体の残る全ての層の材料とを含み,かつ,当該樹脂積層体中におけるレーザーマーキング層以外の他の全ての層の各材料とは異なる組成を有している,
前記レーザーマーキングが可能な樹脂積層体。

【請求項2】
上記他の樹脂積層体から生じた端材が,当該樹脂積層体の製造工程において,当該樹脂積層体よりも先に製造された樹脂積層体から生じた端材であり,
前記端材に起因して,当該樹脂積層体のレーザーマーキング層の樹脂母材が,当該樹脂積層体のレーザーマーキング層以外の他の全ての層の材料を含んでいる,
請求項1記載の樹脂積層体。

【請求項3】
当該樹脂積層体が3層以上の積層構造を有し,上記レーザーマーキング層が該積層構造の中間層として位置している,請求項1または2記載の樹脂積層体。

【請求項8】
当該樹脂積層体が,シート状を呈する多層樹脂製品であるか,シート成形用の材料シートであるか,または,該材料シートを用いシート成形加工によって得られた多層樹脂製品である,請求項1?3のいずれか1項に記載の樹脂積層体。

【請求項9】
レーザーマーキングが可能な樹脂積層体の製造方法であって,
レーザーマーキング剤が樹脂中に分散したレーザーマーキング層を積層の1層として含むように,前記樹脂積層体を形成する積層工程を有し,
前記積層工程では,前記レーザーマーキング層の材料として,前記レーザーマーキング剤と同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材を用い,かつ,予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように前記材料に前記レーザーマーキング剤を補充して,前記レーザーマーキング層を形成することを特徴とする,
前記製造方法。

【請求項10】
当該製造方法によって樹脂積層体を製造するための製造工程において,製造すべき樹脂積層体よりも先に該製造工程で製造された樹脂積層体から生じた端材を,該製造すべき樹脂積層体のレーザーマーキング層の材料として用いる,請求項9記載の製造方法。

【請求項11】
当該製造方法によって製造すべき樹脂積層体が3層以上の積層構造を有し,上記レーザーマーキング層が該積層構造の中間層として位置している,請求項9または10記載の製造方法。

【請求項16】
当該製造方法によって製造すべき樹脂積層体が,シート状を呈する多層樹脂製品であるか,シート成形用の材料シートであるか,または,該材料シートを用いシート成形加工によって得られる多層樹脂製品である,請求項9?11のいずれか1項に記載の製造方法。」

3 取消の理由の概要
平成31年3月13日付け取消理由通知書において通知した取消の理由は,概略,本件特許発明1?3,8?11及び16は,本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野の通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本件特許1?3,8?11及び16は,同法113条1項2号に該当し,取り消されるべきものである,というものである。
取消の理由において引用された刊行物は以下のとおりである。なお,甲1が主引用例,甲2?甲5は周知例又は副引用例,参考例1?参考例5は周知例である。
甲1:特開2011-26363号公報
甲2:特開2002-326279号公報
甲3:特開2003-236926号公報
甲4:特開昭52-108470号公報
甲5:特開2004-268554号公報
参考例1:特開2007-182030号公報
参考例2:特開2000-119417号公報
参考例3:特開平11-91757号公報
参考例4:特開2002-79570号公報
参考例5:特開2005-297344号公報

第2 取消の理由についての判断
1 甲1?甲5の記載及び甲1発明
(1) 甲1の記載
取消の理由において引用され,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1には,以下の事項が記載されている。なお,下線は当合議体が付したものであり,引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
極限粘度の維持率が95%以上のポリエステルフィルムであり,当該ポリエステルフィルム中にレーザーマーキング顔料を0.015?1重量%含有することを特徴とするポリエステルフィルム。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,レーザー光照射によってカラ-チェンジ(着色)するポリエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂への意匠性を加える方法は,レーザー感光顔料を含む樹脂へのレーザー光照射が1つ挙げられる。我々が目的とするポリエステルの世界においても,この方法はいくつか報告されている。レーザー光について敏感な顔料をポリエステルフィルムに含有させたならば,安価で,環境調和型のドライな方法による意匠性の付与ができると期待される。
【0003】
しかし,ポリエステルフィルムの製造過程の押出工程において,300℃近くの熱がかかることから,カラーチェンジ性能を出すためにレーザーマーキング顔料を多量に配合した時に,レーザーマーキング顔料が熱分解を起こしてしまう可能性が高い。そのため,フィルム外観を損ねる,そして,生産性を著しく低下させるというような問題が起こり,レーザーマーキング顔料を含有させることが難しい。
…(省略)…
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は,上記実情に鑑みなされたものであって,その解決課題は,ポリエステルフィルムの製造工程で熱安定的なレーザーマーキング顔料を選択し,含有させることで綺麗な外観を有するポリエステルフィルムを作製し,さらには,レーザー光照射により高感度にカラーチェンジを引き起こすことができるポリエステルフィルムを提供することにある。
…(省略)…
【発明の効果】
【0009】
本発明のレーザー光照射によりカラーチェンジ性能を有するポリエステルフィルムによれば,レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層でも中間層でもどちらに練り込んでも透明性が高いカラーチェンジ性能を有するポリエステルフィルムを提供することができる。本発明のポリエステルフィルムは,生産工程における何らかの目印として利用できる。また,ドライな方法で,ポリエステルフィルムへの意匠性を加えることができるため,レーザー感光着色技術を用いた環境調和型の美しい生活用品への応用が期待でき,その工業的価値は高い。」

ウ 「【発明を実施するための形態】
【0010】
以下,本発明をさらに詳細に説明する。
本発明におけるポリエステルフィルムを構成する,ポリエステルフィルムは単層構成であっても多層構成であってもよく,2層,3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り,4層またはそれ以上の多層であってもよく,特に限定されるものではない。
【0011】
本発明におけるポリエステルフィルムにおいて使用するポリエステルは,生産コストの削減や工程作業容易化を追及した結果,ホモポリエステルであることが好ましい。
…(省略)…
【0012】
本発明におけるポリエステルフィルムの中には,易滑性の付与および各工程での傷発生防止を主たる目的として,粒子を配合することが好ましい。
…(省略)…
【0018】
なお,本発明におけるポリエステルフィルム中には,上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤,帯電防止剤,熱安定剤,潤滑剤,染料,顔料等を添加することができる。
【0019】
本発明におけるポリエステルフィルムの厚みは,フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが,通常10?350μm,好ましくは50?250μmの範囲である。」

エ 「【0020】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが,以下の製造例に何ら限定されるものではない。すなわち,先に述べたポリエステル原料を使用し,ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。
…(省略)…
【0023】
レーザーマーキング顔料の具体例としては,金属酸化物では,銅化合物,モリブデン化合物,鉄化合物,ニッケル化合物,クロム化合物,ジルコニウム化合物およびアンチモン化合物から選ばれる1種以上であることが好ましく,ジルコニウム化合物およびアンチモン化合物から選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。これらを用いる時には,さらに補助的に,無機金属化合物である酸化チタン,硫化亜鉛,酸化亜鉛,沈降性硫酸バリウム,炭酸バリウムおよび沈降性炭酸カルシウムや染料であるカーボンブラック,グラファイトおよびブラックレーキ,ロイコ染料を用途や使用環境に応じて選択して併用することが望ましい。
【0024】
上記レーザーマーキング顔料では,ポリエステルフィルムへ少量配合することでカラーチェンジ性能が付与できる。
…(省略)…
【0029】
レーザーマーキング顔料の本発明におけるポリエステルフィルム中の含有量は,0.015?1重量%の範囲である。含有量が0.015重量%未満では,フィルムの変色効果(カラーチェンジング)が劣る。一方,1重量%を超えて含有する場合,フィルム中での劣化物により,不具合が生じる。
…(省略)…
【0031】
本発明におけるレーザー照射で不可逆的にカラ-チェンジを引き起こすレーザーマーキング顔料のポリエステルへの含有方法としては,例えば練り込み方法と塗布方法が挙げられる。本発明では,着色効率を考慮して,練り込み方法を採用したが,そのポリエステルへの練り込みについて説明する。それらの化合物は,工程での汚染や熱安定性を考慮したとき,直接添加よりは,バインダーとなる樹脂に練り込んだマスターバッチとして用いる方が好ましい。本発明では,レーザーマーキング顔料をポリエステルフィルムへと5%練り込んだマスターバッチを利用した。
【0032】
本発明におけるレーザー照射によりカラーチェンジ性能を有するポリエステルフィルムについて,レーザーマーキング顔料の練り込みの層構成について説明する。レーザーマーキング顔料はホモポリエステルフィルムの表層,もしくは中間層どちらへの練り込みでも構わない。フィルム全体として,前記の含有量となるように表層あるいは中間層の含有量を調整すればよい。
…(省略)…
【0034】
本発明における,極限粘度の維持率とは,得られた加熱処理前の本発明の方法で得られたレーザーマーキング顔料を含有するポリエステルフィルムとそのポリエステルフィルムを窒素雰囲気下,280℃,20分加熱処理を行ったポリエステルの極限粘度の値の比較である。この値が90?100%の値,好ましくは93?99%の値,さらに好ましくは95?98%の値である。この極限粘度の維持率が上記値を満たすものは,熱安定で,レーザーマーキング顔料の分解などによるポリエステルフィルムの外観の悪化が起こり難い。また,熱安定が故に,生産工程におけるリサイクル原料としても利用できる。極限粘度の維持率は,加熱処理時間,加熱処理温度,顔料含有量を調整することにより調節することが可能である。」

オ 「【実施例】
【0035】
以下,本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが,本発明はその要旨を越えない限り,以下の実施例に限定されるものではない。
…(省略)…
【0044】
実施例および比較例において使用したポリエステルは,以下のようにして準備したものである。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし,触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり,反応開始温度を150℃とし,メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ,3時間後に230℃とした。4時間後,実質的にエステル交換反応を終了させた後,4時間重縮合反応を行った。
すなわち,温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方,圧力は常圧より徐々に減じ,最終的には0.3mmHgとした。反応開始後,反応槽の攪拌動力の変化により,極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し,窒素加圧下ポリマーを吐出させ,極限粘度0.63のポリエステル(A)を得た。
【0045】
<ポリエステル(B)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし,触媒として酢酸マグネシウム・四水塩を加えて反応器にとり,反応開始温度を150℃とし,メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ,3時間後に230℃とした。4時間後,実質的にエステル交換反応を終了させた。この反応混合物を重縮合槽に移し,正リン酸を添加した後,二酸化ゲルマニウム加えて,4時間重縮合反応を行った。すなわち,温度を230℃から徐々に昇温し280℃とした。一方,圧力は常圧より徐々に減じ,最終的には0.3mmHgとした。反応開始後,反応槽の攪拌動力の変化により,極限粘度0.65に相当する時点で反応を停止し,窒素加圧下ポリマーを吐出させ,極限粘度0.65のポリエステル(B)を得た。
【0046】
<ポリエステル(C)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において,エチレングリコールに分散させた平均粒子径2.0μmのシリカ粒子を0.2部を加えて,極限粘度0.66に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は,ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いて,極限粘度0.66のポリエステル(C)を得た。
【0047】
実施例1:
表層の原料として,ポリエステル(A),(B),(C)をそれぞれ85%,5%,10%の割合で混合した混合原料を用いて,
中間層の原料として,ポリエステル(A),(B)をそれぞれ95%,5%の割合で混合した混合原料とレーザーマーキング顔料である5%レーザーマーキングマスターバッチ(大日精化株式会社製 品名 PT-RM AZ MK2266 LMN;樹脂成分ポリブチレンテレフタレート:カーボンブラック14nm?18nm,DBP吸油量54ml/100g?130ml/100g)を99.55:0.45の割合で混合した混合原料を用いた。表層のポリエステルと中間層の原料を1:4の割合で2台の押出機に各々を供給し,各々290℃で溶融した後,40℃に設定した冷却ロール上に,2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し,冷却固化させて未延伸シートを得た。次いで,ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後,テンターに導き,横方向に120℃で4.0倍延伸し,225℃で熱処理を行った後,横方向に2%弛緩し,厚さ100μm(表層5μm,中間層90μm)の透明ポリエステルフィルムを得た。
…(省略)…
【0048】
実施例2:
原料と5%レーザーマーキングマスターバッチの比をそれぞれ77.5:22.5の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いること以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
…(省略)…
【0049】
比較例1:
原料と5%レーザーマーキングマスターバッチの比をそれぞれ99.75:0.25の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて,ポリエステルフィルムを得るということ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
…(省略)…
【0050】
比較例2:
原料と5%レーザーマーキングマスターバッチの比をそれぞれ70:30の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて,ポリエステルフィルムを得るということ以外は実施例1と同様の方法でフィルムを得た。
…(省略)…
【0051】
比較例3:
レーザーマーキング顔料を代表的な金属酸化物である銅,モリブデンの複合酸化物:CuO・xMoO_(3)(東罐マテリアル・テクノロジ株式会社製)にしてマスターバッチではなく,押出時に顔料の直接添加方法を用いてポリエステルフィルムの作製を試みた。
…(省略)…
【0052】
比較例4:
原料とCuO・xMoO_(3)の比をそれぞれ98.875:1.125の割合で混合した混合原料を中間層の原料として用いて,ポリエステルフィルムを得るということ以外は比較例3と同様の方法でフィルムを得た。
…(省略)…
【0053】
【表1】

…(省略)…
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のポリエステルフィルムは,生産工程における何らかの目印やドライな方法による,電子部品におけるレーザー感光マーカーとしての用途可能性があるばかりではなく,レーザー感光着色技術を用いた美しい生活用品への応用が期待できる。」

(2) 甲1発明
ア 甲1発明
甲1には,【0009】に記載された効果を奏する,【請求項1】に係る発明が記載されている。また,当該発明において,「極限粘度の維持率が95%以上」であることの技術的意義は,【0034】に記載のとおりのものと考えられる。
そうしてみると,甲1には,次の発明が記載されている(以下「甲1発明」という。)。
「 極限粘度の維持率が95%以上のポリエステルフィルムであって,
ポリエステルフィルム中にレーザーマーキング顔料を0.015?1重量%含有し,
レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層でも中間層でもどちらに練り込んでも透明性が高いカラーチェンジ性能を有し,
熱安定で,レーザーマーキング顔料の分解などによるポリエステルフィルムの外観の悪化が起こり難く,また,熱安定が故に,生産工程におけるリサイクル原料としても利用できる,
レーザー光照射によりカラーチェンジ性能を有するポリエステルフィルム。」

イ 甲1方法発明
上記アで述べた甲1発明は,「ポリエステルフィルム中にレーザーマーキング顔料を0.015?1重量%含有し」,「レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層でも中間層でもどちらに練り込んでも透明性が高いカラーチェンジ性能を有し」たものである。
そうしてみると,甲1には,次の発明も記載されている(以下「甲1方法発明」という。)。
「 レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層又は中間層に練り込むことにより,ポリエステルフィルム中にレーザーマーキング顔料を0.015?1重量%含有させる工程を具備する,
甲1発明のポリエステルフィルムの製造方法。」

ウ 甲1実施例1方法発明
甲1には,実施例1として,次の発明も記載されている(以下「甲1実施例1方法発明」という。)。
「 表層の原料として,ポリエステル(A),(B)及び(C)をそれぞれ85%,5%,10%の割合で混合した混合原料を用い,
中間層の原料として,ポリエステル(A)及び(B)をそれぞれ95%,5%の割合で混合した混合原料とレーザーマーキング顔料である5%レーザーマーキングマスターバッチを99.55:0.45の割合で混合した混合原料を用い,
表層のポリエステルと中間層の原料を1:4の割合で2台の押出機に各々を供給し,各々290℃で溶融した後,40℃に設定した冷却ロール上に,2種3層(表層/中間層/表層)の層構成で共押出し,冷却固化させて未延伸シートを得,
次いで,ロール周速差を利用してフィルム温度85℃で縦方向に3.4倍延伸した後,テンターに導き,横方向に120℃で4.0倍延伸し,225℃で熱処理を行った後,横方向に2%弛緩する,
厚さ100μm(表層5μm,中間層90μm)の透明ポリエステルフィルムの製造方法であって,上記ポリエステル(A),(B)及び(C)の製造方法は以下のとおりである,
透明ポリエステルフィルムの製造方法。
<ポリエステル(A)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし,触媒としてテトラブトキシチタネートを加えて反応器にとり,反応開始温度を150℃とし,メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ,3時間後に230℃とし,
4時間後,実質的にエステル交換反応を終了させた後,4時間重縮合反応を行い,すなわち,温度を230℃から徐々に昇温し280℃とし,一方,圧力は常圧より徐々に減じ,最終的には0.3mmHgとし,反応開始後,反応槽の攪拌動力の変化により,極限粘度0.63に相当する時点で反応を停止し,窒素加圧下ポリマーを吐出させた。

<ポリエステル(B)の製造方法>
テレフタル酸ジメチル100重量部とエチレングリコール60重量部とを出発原料とし,触媒として酢酸マグネシウム・四水塩を加えて反応器にとり,反応開始温度を150℃とし,メタノールの留去とともに徐々に反応温度を上昇させ,3時間後に230℃とし,
4時間後,実質的にエステル交換反応を終了させ,この反応混合物を重縮合槽に移し,正リン酸を添加した後,二酸化ゲルマニウム加えて,4時間重縮合反応を行い,すなわち,温度を230℃から徐々に昇温し280℃とし,一方,圧力は常圧より徐々に減じ,最終的には0.3mmHgとし反応開始後,反応槽の攪拌動力の変化により,極限粘度0.65に相当する時点で反応を停止し,窒素加圧下ポリマーを吐出させた。

<ポリエステル(C)の製造方法>
ポリエステル(A)の製造方法において,エチレングリコールに分散させた平均粒子径2.0μmのシリカ粒子を0.2部を加えて,極限粘度0.66に相当する時点で重縮合反応を停止した以外は,ポリエステル(A)の製造方法と同様の方法を用いた。」

エ 甲1実施例1発明
甲1には,次の発明も記載されている(以下「甲1実施例1発明」という。)。
「 甲1実施例1方法発明によって製造されてなる,
透明ポリエステルフィルム。」

(3) 甲2の記載
取消の理由において引用され,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲2には,以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 樹脂組成物から成る厚さ10?500μmの白色二軸延伸フィルムであって,上記樹脂組成物は,主として少なくとも1種の結晶性熱可塑性樹脂と,白色顔料として少なくとも1種のルチル型二酸化チタンと,少なくとも1種の光沢剤とを含有し,上記フィルムは少なくとも1つの他の機能を有することを特徴とする白色二軸延伸フィルム。
…(省略)…
【請求項16】 再生原料を含有する請求項1?15の何れかに記載のフィルム。
…(省略)…
【請求項18】 両面に外層を有する請求項1?17の何れかに記載のフィルム。
【請求項19】 主として少なくとも1種の結晶性熱可塑性樹脂と,白色顔料として少なくとも1種のルチル型二酸化チタンと,少なくとも1種の光沢剤とを含有する樹脂組成物から成る厚さ10?500μmの白色二軸延伸フィルムの製造方法であって,当該フィルムは少なくとも1つの他の機能を有しており,当該製造方法は,(a)結晶性熱可塑性樹脂,ルチル型二酸化チタン,光沢剤および必要に応じて他の機能を付与する添加剤を押出して溶融フラットシートを得る工程と,(b)得られたシートを冷却ロールを使用して冷却固化しアモルファスシートを得る工程と,(c)得られたアモルファスシートを長手方向および横方向に二軸延伸して二軸延伸フィルムを得る工程と,(d)得られた二軸延伸フィルムを200?280℃で熱固定する工程と,(e)得られた二軸延伸フィルムを冷却し巻取る工程とから成ることを特徴とする白色二軸延伸フィルムの製造方法。
…(省略)…
【請求項23】 再生材料を使用する請求項19?22に記載の製造方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は白色二軸延伸フィルムに関し,詳しくは,本発明は,耐紫外線性,耐黄変性,光酸化安定性,難燃性,シール性などの機能を1つ以上有し,フィルムの製造コストが低く,延伸性に優れ,光学および機械的特性に優れる白色二軸延伸フィルムに関する。本発明は,更に,上記フィルムの製造方法にも関する。
…(省略)…
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従って,本発明の目的は,耐紫外線性,耐黄変性,光酸化安定性,難燃性,シール性などの機能を1つ以上有し,フィルムの製造が容易で製造コストが低く,延伸性に優れ,光学および機械的特性に優れる白色二軸延伸フィルムを提供することに存する。
…(省略)…
【0010】
【発明の実施の形態】以下,本発明を詳細に説明する。本発明のフィルムは,主として少なくとも1種の結晶性熱可塑性樹脂と,白色顔料として少なくとも1種のルチル型二酸化チタンと,少なくとも1種の光沢剤とを含有する樹脂組成物から成る。本発明のフィルムは単層フィルムであっても,少なくとも1つの外層,好ましくは両面に外層を有する積層構造であってもよい。
…(省略)…
【0071】本発明において,マスターバッチ法を採用することにより,適切な予備乾燥および/または予備結晶化を行うことができ,必要であれば少量の耐加水分解剤を使用することにより,ガスの発生も無く,製造装置に原料が付着することも無くフィルムを製造することができる。フィルムの製造において,フィルムが破断すること無く,長手方向および横方向に延伸することができる。
…(省略)…
【0079】上記のように優れた性質を有する本発明のフィルムはインドアまたはアウトドアの種々の分野に応用が可能である。例えば,内装カバー,展示スタンド,宣伝用部材,ディスプレイ,プラカード,ラベル,店で使用する部材,短期間の宣伝用プラカードやラベルのような宣伝広告用部材,販売促進用積層部材,食品や飲料用の応用部材,医療用の応用部材,建築用仕切り材,アウトドア用部材,家具用フィルム,包装フィルム,食品冷凍貯蔵用セクター等に応用可能である。」

ウ 「【0080】
【実施例】以下,本発明を実施例により更に詳細に説明するが,本発明はその要旨を超えない限り,以下の実施例に限定されるものではない。
…(省略)…
【0111】実施例7:厚さ50μmのABA型3層共押出しフィルムを作成した。B層は,PETを主成分とし,6.0重量%のルチル型二酸化チタン(粒径0.2μm,KerrMcGee社製)と,20ppmの実施例1で使用した光沢剤とから成り,30.0重量%の製造工程における再生材料を含有していた。二酸化チタン及び光沢剤はマスターバッチ法で計量されて添加された。マスターバッチはPET,50重量%の二酸化チタン(ルチル型)及び0.016重量%の光沢剤から成っていた。
【0112】外層Aは厚さ1μmのシール性層であり,78モル%のエチレンテレフタレート単位および22モル%のエチレンイソフタレート単位から成り,マンガン(100ppm)を触媒としたエステル交換法によって製造された共重合体から成っていた。さらに,この外層は,97.75重量%の上記共重合体と,1.0重量%のSylobloc 44Hと,1.25重量%のAerosil(登録商標) TT 600(ヒュームドシリカ,Degussa社製,耐ブロッキング剤)とから成るマスターバッチ3.0重量%から成っていた。
【0113】外層Cは厚さ1μmの非シール性層であり,PETと3.0重量%の外層Aで使用したマスターバッチとから成っていた。
…(省略)…
【0124】
【発明の効果】本発明の白色二軸延伸フィルムは,耐紫外線性,耐黄変性,光酸化安定性,難燃性,シール性などの機能を1つ以上有し,フィルムの製造が容易で製造コストが低く,延伸性に優れ,光学および機械的特性に優れる。」

(4) 甲3の記載
取消の理由において引用され,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲3には,以下の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 共押出によって少なくとも3層のポリエステルが積層されたフィルムであって,その中間層に実質的にポリエステルに溶解する染料を含有する二軸配向ポリエステルフィルムを製造するに当たり,フレーク化したスクラップをベント付き二軸押出機に直接投入して中間層原料として使用することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項2】 フレーク化したスクラップ中に含まれる染料が,中間層に含有する染料と同一であることを特徴とする請求項1記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。
【請求項3】 フレーク化したスクラップを,中間層を構成する原料の1?60重量%の範囲内で使用することを特徴とする請求項2記載の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は,自動車の窓・建築物の窓等のガラスに貼り合わせをして使用される窓貼り用フィルムに好適な二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に関する。
…(省略)…
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の解決課題は,着色されていてかつ透明性の優れるフィルムを製造するに当たり,製膜時に発生する製品とならないフィルムを効率良くリサイクル使用し,フィルムの色調が変化することが少ない二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記実情に鑑み,特定の積層構成を有する着色フィルムを効率よく製造する方法を知見し,本発明を完成するに至った。
【0005】すなわち,本発明の要旨は,共押出によって少なくとも3層のポリエステルが積層されたフィルムであって,その中間層に実質的にポリエステルに溶解する染料を含有する二軸配向ポリエステルフィルムを製造するに当たり,フレーク化したスクラップをベント付き二軸押出機に直接投入して中間層原料として使用することを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法に存する。」

ウ 「【0006】
【発明の実施の形態】以下,本発明をさらに詳細に説明する。
…(省略)…
【0013】ところで通常二軸配向ポリエステルフィルムを製造する際には,押出機で溶融押出しした未延フィルムを,縦方向に延伸し,さらに横方向へ延伸する方法が一般的に良く用いられる方法である。この工程をもう少し説明すると,縦延伸には加熱して周速差を付けた複数のロール群を通すことにより,フィルムを延伸する。これに続く横延伸では,フィルムの長手方向の端部をクリップで把持して,テンターオーブン内で加熱しながらフィルムの幅方向に延伸を行う方法が一般的に良く用いられる。これらの延伸工程のうち,横延伸の際にクリップで把持した端部は延伸されることがないため,両端部を切断して所定の横延伸がなされた部分のみが製品フィルムとして扱われ,切断された端部はスクラップとなる。また,何らかの原因で縦延伸時あるいは横延伸時等にフィルムが破れてしまい,所定の長さの製品が採取できないことも珍しくない。この場合にも,途中まで巻き取ったフィルムは短尺品として利用されない限り,やはり同様にスクラップとなる。
【0014】上記スクラップは一般的な無色透明なポリエステル,あるいは熱的に安定な無機あるいは有機の微粒子が添加されている程度であれば,再度溶融押出しを行い再ペレット化した後,通常のバージンペレットと一緒に再利用されることになる。しかしながら,本発明の対象とする二軸配向ポリエステルフィルムは,3層構成の中間層に主として有機化合物で構成されている染料が添加されているため,上記と同様の方法でスクラップを溶融押出しして再ペレット化し,これを再度リサイクル原料として利用することは,その染料の熱安定性やリサイクル原料の添加量によっても異なるが,多くの場合リサイクル品を添加したものと添加しないもので,最終的に得られた着色フィルムの色調が微妙に異なることが多い。
【0015】したがって,本発明においては,二軸配向ポリエステルフィルムを製造する際に,上記のスクラップを機械的に粉砕してフレークとした後,溶融押出しを行って再ペレット化することなしに,製膜時に用いる中間層用押出機にフレークのまま直接投入する必要がある。こうすることにより,再ペレット化のための溶融押出しによる染料への熱的ダメージを軽減することが可能となる。またこの際には,中間層用押出機に投入するフレーク量は,1?60重量%,さらには5?40%とすることにより,着色フィルムの色調変化を少なくすることができる。
…(省略)…
【0018】本発明の二軸配向ポリエステルフィルムを製造する際には,フィルム全体のスクラップが中間層に添加されるため,3層構造のフィルム中の表層粒子も中間層へ添加されることとなる。この時,リサイクルフィルムを含有するフィルム全体のヘーズが6.0%以下,さらには4.0%以下,特に3.0%以下であることが好ましい。フィルムヘーズが6.0%を超える場合には,前述したようにフィルムに濁りがあることが目立ち,窓ガラスに貼り付けた場合に透明性が損なわれることがある。次に本発明の積層ポリエステルフィルムの製造方法について具体的に説明するが,本発明のフィルムは以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0019】まず,バージンのポリエステル原料だけを使用して,製膜運転が安定した後に横延伸時にクリップで把持していた部分や製膜中の破断等で所定長さに満たないスクラップを,乾式粉砕機を用いてフレークとして,専用タンクに貯める。このフレークがある程度の量となったところで,フレークを中間層用押出機に添加してバージン原料はその分を調整して添加する。具体的には,同じ色調で同じ光線透過率のフィルムを作成する際には,フレーク中の表層に相当する染料が不足するため,染料マスターバッチを必要量追添加する。また,同じ色調で異なる光線透過率のフィルムを作成する際には,それに応じて染料マスターバッチと希釈原料の配合量を調節して添加する。
…(省略)…
【0022】
【実施例】以下,本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが,本発明はその要旨を超えない限り,以下の実施例に限定されるものではない。
…(省略)…
【0027】以下の実施例および比較例で用いたポリエステル原料の製造方法は次のとおりである。
<ポリエステルA>ジメチルテレフタレート100部,エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり,加熱昇温するとともにメタノールを留去し,エステル交換反応を行い,反応開始から4時間を要して230℃に昇温し,実質的にエステル交換反応を終了した。次いで,エチルアシッドフォスフェート0.04部,三酸化アンチモン0.04部を添加した後,100分で温度を280℃,圧力を15mmHgとし,以後も徐々に圧力を減じ,最終的に0.3mmHgとした。4時間後,系内を常圧に戻し,実質的に微粒子を含まないポリエステルAを得た。このポリエステルの固有粘度は0.70であった。
【0028】<ポリエステルB>ジメチルテレフタレート100部,エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり,加熱昇温するとともにメタノールを留去し,エステル交換反応を行い,反応開始から4時間を要して230℃に昇温し,実質的にエステル交換反応を終了した。次いで,平均粒径1.5μmのシリカ粒子を2.0部含有するエチレングリコールスラリーを反応系に添加し,さらにエチルアシッドフォスフェート0.04部,三酸化アンチモン0.04部を添加した後,100分で温度を280℃,圧力を15mmHgとし,以後も徐々に圧力を減じ,最終的に0.3mmHgとした。4時間後,系内を常圧に戻しポリエステルBを得た。得られたポリエステルBのシリカ粒子含有量は1.0重量%であった。またこのポリエステルの固有粘度は0.70であった。
【0029】<ポリエステルC>ポリエステルAをベント付き二軸押出機に供して,三菱化学(株)製ダイアレジンレッドHS 3.5重量%,同ブルーH3G 5.0重量%,および同イエローF 1.5重量%の各濃度となるように混合して添加し,溶融混練りを行ってチップ化を行い,染料マスターバッチ ポリエステルCを作成した。
…(省略)…
【0031】実施例1?3
ポリエステルA,Cの各チップを80:20の割合で,中間層用レジンとして中間層用押出機に投入した。これとは別に,ポリエステルA,Bの各チップを90:10の割合で表層用レジンとして表層用押出機に投入した。それぞれの押出機はいずれも2つの真空ベントを有する同方向二軸押出機であり,レジンは乾燥すること無しに290℃の溶融温度で押出しを行い,その後溶融ポリマーをフィードブロック内で合流して積層した。その後,静電印加密着法を用いて表面温度を40℃に設定した冷却ロール上で冷却固化して3層構成の積層未延伸シートを得た。得られたシートを85℃で3.5倍縦方向に延伸した。次いで,フィルムをテンターに導き105℃で3.7倍横方向に延伸した後,230℃にて熱固定を行い,さらに幅方向に200℃で5%弛緩処理を行って,二軸配向フィルムを作成した。このフィルムの各層の厚みは2/21/2μmの構成で,総厚みは25μmであった。このフィルムのL*値は35.0(可視光線透過率は約8%)であり,フィルムヘーズは2.2%,表面粗さRaは両面共0.020μmであった。
【0032】このフィルムの製膜時に発生した製品とならない両端部を,乾式粉砕機を用いてフレーク状としてフレークタンクに貯めた。ある程度フレークが貯まったところで,この再生フレークを加熱乾燥せずにそのまま中間層に添加した。添加した再生フレーク量は,中間層用原料全体の5%(実施例1),20%(実施例2),50%(実施例3)として添加し,さらにフィルムのL*値は全て35.0(可視光線透過率は約8%)となるように各々微調整しながら,ポリエステルA,Cを添加した。その後は上記の製膜と全く同様に行って,総厚み25μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。これらのフィルムと,再生フレークを添加する前に製膜したフィルムの光学特性を比較した結果を下記表1に示すが,再生原料を中間層に50%添加しても,色調の変化が少なく良好であった。
…(省略)…
【0036】
【発明の効果】上述した本発明によれば,着色されていてかつ透明性の優れるフィルムを製造するに当たり,製膜時に発生する製品とならないフィルムを効率良くリサイクル使用し,フィルムの色調が変化することが少ない二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができ,その工業的価値は高い。」

(5) 甲4の記載
取消の理由において引用され,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲4には,以下の事項が記載されている。
ア 1頁左欄4?12行
「2.特許請求の範囲
(1)着色剤を混練した単層の熱可塑性樹脂フイルムと,透明な熱可塑性樹脂フイルムとを熱溶着して成る積層着色フイルム。
(2)着色剤を混練した単層の熱可塑性樹脂フイルムは,着色剤を混練した熱可塑性樹脂フイルム製品の破損品を原料として成形した再生熱可塑性樹脂フイルムである特許請求の範囲第一項記載の積層着色フイルム。」

イ 1頁左欄13行?2頁左上欄4行
「3.発明の詳細な説明
…(省略)…しかしながら,きわめて多量に用いられる包装袋等についてはその有色剤の経費も可成な額となり,また,その着色剤の混入により強度が低下する等のおそれが生じる。
本発明は,その顔料等の着色剤の使用量を減少せしめて省資源に寄与せしめるとともに該着色フイルムと透明フイルムを熱溶着して強度の向上を図るようにしたものである。
…(省略)…
さらにまた,着色剤を混練した熱可塑性樹脂フイルム製品の破損品は,これを再溶融して再生しフイルムを作製してもその強度が低下し,そのためそのフイルムのままでは使用範囲か限られていたが,本発明はその再生フイルムを他の新フイルムと積層することによりその強度低下を補い,あわせてプラスチツクの回収とともに高価な着色剤の節減を図り,もつて省資源を期するものである。」

ウ 2頁左上欄5?左下欄15行
「本発明は以上の目的に沿うものであつて,着色剤を混練した単層の熱可塑性樹脂フイルムもしくは着色剤を混練した熱可塑性樹脂フイルム製品の破損品を原料として成形した再生熱可塑性樹脂フイルムと,透明な熱可塑性樹脂フイルムと熱溶着して成る積層着色フイルムをその要旨とするものである。
…(省略)…
本発明による着色フイルムは相異なる性状のフイルムを積層して一体に熱溶着し,そのうちの単層を着色したものであるから,高価な着色剤を節減でき,しかも種々の特性を付与させることかできる。
また,その着色された単層のフイルムは,別の着色フイルムの破損品を再溶融して成形して得られる再生着色フイルムを用いるようにしてその着色剤をさらに節減するとともに,その再生による強度低下を他の新フイルムとの積層により補うことができる等の種々な著効を得ることができる。」

(6) 甲5の記載
取消の理由において引用され,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲5には,以下の事項が記載されている。なお,明らかな誤記を断りなく修正している。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
共押出多層積層樹脂フィルムからなり,更に,該共押出多層積層樹脂フィルムを構成する少なくとも一層が,樹脂をビヒクルの主成分とし,更に,レ-ザ-光線照射により発色する発色剤を含み,かつ,そのレ-ザ-光線照射により発色する発色剤の含有量が,0.01重量%?50.0重量%からなる樹脂組成物によるレ-ザ-光線照射発色フィルム層からなることを特徴とする多層積層樹脂フィルム。
…(省略)…
【請求項7】
透明ないし半透明の樹脂層が,膜厚1μm?50μmからなることを特徴とする上記の請求項1?6のいずれか1項に記載する多層積層樹脂フィルム。」

イ 「【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,多層積層樹脂フィルムに関し,更に詳しくは,レ-ザ-光線照射により,そのエネルギ-を吸収し,炭化,発色して鮮明なレ-ザ-印字が可能であると共に印字後の印字画像が外的影響を受けることなく,その改変,偽造等を防止することができ,例えば,籤,カ-ド,ラベル,その他等の用途に適する多層積層樹脂フィルムに関するものである。
…(省略)…
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら,上記で提案されているレ-ザ-光線照射によるマ-キング方法において,レ-ザ-印字画像は,プラスチック成形品部材等の表面にレ-ザ-印字されるものであることから,レ-ザ-印字画像の表面を擦過することにより,レ-ザ-印字画像を容易に消去し,その改変,偽造等を行うことができるという問題点を有するものである。
例えば,溶剤,希釈剤等を含浸した織布,不織布等でレ-ザ-印字画像の表面を擦過すると,レ-ザ-印字画像を容易に消去し,改変することができるものであり,信頼性等の観点から非常に問題視されるものである。
そこで本発明は,レ-ザ-光線照射により,そのエネルギ-を吸収し,炭化,発色して鮮明なレ-ザ-印字が可能であると共に印字後の印字画像が外的影響を受けることなく,その改変,偽造等を防止することができ,例えば,籤等の用途に適する多層積層樹脂フィルムを提案することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
…(省略)…
【0006】
すなわち,本発明は,共押出多層積層樹脂フィルムからなり,更に,該共押出多層積層樹脂フィルムを構成する少なくとも一層が,樹脂をビヒクルの主成分とし,更に,レ-ザ-光線照射により発色する発色剤を含み,かつ,そのレ-ザ-光線照射により発色する発色剤の含有量が,0.01重量%?50.0重量%からなる樹脂組成物によるレ-ザ-光線照射発色フィルム層からなることを特徴とする多層積層樹脂フィルム,更には,上記の多層積層樹脂フィルムにおいて,レ-ザ-光線照射発色フィルム層が,その一方または両方の表面の面に,樹脂をビヒクルの主成分とする樹脂組成物による透明ないし半透明の樹脂層を積層することを特徴とする多層積層樹脂フィルムに関するものである。」

ウ 「【0007】
【発明の実施の形態】
以下,上記の本発明にかかる多層積層樹脂フィルムについて図面等を用いて更に詳しく説明する。
…(省略)…
【0008】
まず,本発明にかかる多層積層樹脂フィルムAとしては,図1に示すように,共押出多層積層樹脂フィルム1からなり,更に,該共押出多層積層樹脂フィルム1を構成する少なくとも一層2が,樹脂をビヒクルの主成分とし,更に,レ-ザ-光線照射により発色する発色剤を含み,かつ,そのレ-ザ-光線照射により発色する発色剤の含有量が,0.01重量%?50.0重量%からなる樹脂組成物によるレ-ザ-光線照射発色フィルム層2aからなる構成を基本構造とするものである。
…(省略)…
【0041】
而して,本発明において,上記で製造される包装製品は,本発明にかかる多層積層樹脂フィルムが,前述のように,その一方の面からレ-ザ-光線を照射すると,該レ-ザ-光線は,一方の透明ないし半透明の樹脂層を透過し,その下に位置しているレ-ザ-光線照射発色フィルム層に到達し,その部分のレ-ザ-光線照射発色フィルム層でそのレ-ザ-光線によるエネルギ-を吸収し,そのレ-ザ-光線照射部分において,炭化,発色して,例えば,文字,数字,記号,図柄,その他等からなるレ-ザ-印字画像を極めて鮮明に形成し得るものであるから,これに日付印字,番号印字,文字印字,記号ないし絵柄印字,その他等の印字が可能なものであり,これを利用して,製品の偽造防止,籤の付与,その他等の付加価値を付けた包装製品の製造を可能とするものである。」

エ 「【0042】
【実施例】
次に,本発明について実施例を挙げて更に具体的に説明する。
実施例1
(1).まず,下記の(イ)?(ハ)の樹脂組成物を調製した。
(イ).(第一層)にシングルサイト系触媒(メタロセン触媒)を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体〔三井化学株式会社製,商品名,エボリュ-SP2020,密度,0.916g/m^(3),メルトフロ-レ-ト(MFR),1.5/10分〕100.0重量部と,合成シリカ0.5重量部と,エルカ酸アミド0.05重量部と,エチレンビスオレイルアミド0.05重量部とを十分に混練して,第1層を構成する樹脂組成物を調製した。
(ロ).(第二層)にシングルサイト系触媒(メタロセン触媒)を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体〔三井化学株式会社製,商品名,エボリュ-SP2020,密度,0.916g/m^(3),メルトフロ-レ-ト(MFR),1.5/10分〕99.5重量部と,YAGレ-ザ-発色顔料〔メルクジャパン株式会社製,商品名,イリオジンLS-825〕0.5重量部とを十分に混練して,第2層を構成する樹脂組成物を調製した。
(ハ).(第三層)にシングルサイト系触媒(メタロセン触媒)を使用して重合したエチレン-α・オレフィン共重合体〔三井化学株式会社製,商品名,エボリュ-SP2020,密度,0.916g/m^(3),メルトフロ-レ-ト(MFR),1.5/10分〕100.0重量部と,合成シリカ0.5重量部と,エルカ酸アミド0.05重量部と,エチレンビスオレイルアミド0.05重量部とを十分に混練して,第3層を構成する樹脂組成物を調製した。
(2).次に,上記で調製した(イ)?(ハ)の樹脂組成物を使用し,これらを,インフレ-ション共押出機を用いて,(イ)の樹脂組成物による層を20μm,(ロ)の樹脂組成物による層を30μm,(ハ)の樹脂組成物による層を20μmにそれぞれ共押出して3層からなる総厚70μmの未延伸の多層積層樹脂フィルムを製造した。
上記で製造した多層積層樹脂フィルムについて,その第一層〔上記の(イ)の樹脂組成物による層〕の表面からYAGレ-ザ-を照射したところ,明瞭な文字が浮き出てきて,レ-ザ-印字画像を形成し得ることを確認した。
なお,印字において,煙は発生せず,穴開きも認められなかった。
…(省略)…
【0054】
【発明の効果】
…(省略)…本発明においては,透明体を透過する性質を持ち,炭酸ガスレ-ザ-と異なり,製品部材を切削することがないため,例えば,本発明にかかる多層積層樹脂フィルムをシ-ラント材として使用して包装材料を製造すると,該包装材料においては,バリア性維持の観点からも非常に大きな利点を有するものである。」

2 対比及び判断
(1) 本件特許発明1について
甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,「レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層でも中間層でもどちらに練り込んでも透明性が高いカラーチェンジ性能を有し」ている。
ここで,甲1発明の「ポリエステルフィルム」の材料は,その名のとおり,「ポリエステル」に分類される「樹脂」である。また,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,「表層」及び「中間層」を有するものと理解されるから,「積層体」ということができる。
そうしてみると,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,本件特許発明1の「樹脂積層体」に相当する。

加えて,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,「レーザー光照射によりカラーチェンジ性能を有する」。
そうしてみると,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,本件特許発明1の「レーザーマーキングが可能な」という要件を満たすものである。

さらに,甲1発明の「ポリエステルフィルム」の「表層」及び「中間層」のうち,レーザーマーキング顔料を練り込んだ方の層は,技術的にみて,レーザーマーキング顔料がポリエステル中に分散している層である。
そうしてみると,甲1発明における,レーザーマーキング顔料を練り込んだ方の層は,本件特許発明1の「レーザーマーキング剤が樹脂中に分散した」という要件を満たす「レーザーマーキング層」に相当する。また,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,本件特許発明1の「樹脂積層体」における「レーザーマーキング剤が樹脂中に分散したレーザーマーキング層を積層の1層として有し」という要件を満たす。
(当合議体注:甲1の実施例(【0047】及び【0048】)の記載や甲5の【0004】,【0008】及び【0041】の記載を考慮すると,当業者は,甲1から,レーザーマーキング顔料を適量範囲内で中間層に練り込んだポリエステルフィルムの発明も理解可能ではあるが,一応,以上のとおり対比する。)

(2) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件特許発明1と甲1発明は,次の構成で一致する。
「 レーザーマーキングが可能な樹脂積層体であって,
レーザーマーキング剤が樹脂中に分散したレーザーマーキング層を積層の1層として有している,
前記レーザーマーキングが可能な樹脂積層体。」

イ 相違点
本件特許発明1と甲1発明は,次の点で相違する。
(相違点1)
本件特許発明1において,「前記レーザーマーキング層は,前記レーザーマーキング剤と同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材を材料として用いられた層であり,かつ,予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように前記材料にレーザーマーキング剤が補充された層であり」,「ただし,当該樹脂積層体における,レーザーマーキング層の樹脂母材の組成と,該レーザーマーキング層以外の他の全ての層の各材料の組成と,前記端材を生じた前記他の樹脂積層体における,レーザーマーキング層の樹脂母材の組成と,該レーザーマーキング層以外の他の全ての層の各材料の組成とが,互いに同一である場合を除くものとし」,「当該樹脂積層体のレーザーマーキング層が前記他の樹脂積層体から生じた端材を材料として用いられた層であることに起因して,当該樹脂積層体のレーザーマーキング層の樹脂母材は,前記他の樹脂積層体のレーザーマーキング層の樹脂母材と,前記他の樹脂積層体の残る全ての層の材料とを含み,かつ,当該樹脂積層体中におけるレーザーマーキング層以外の他の全ての層の各材料とは異なる組成を有している」のに対して,甲1発明は,このような事項が特定されていない点。

(3) 判断
甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,「レーザーマーキング顔料を適量範囲内で表層でも中間層でもどちらに練り込んでも透明性が高いカラーチェンジ性能を有」するものである。ただし,甲1に開示された実施例1及び実施例2,並びに,比較例1?比較例3(【0047】?【0051】)は,いずれも,レーザーマーキング顔料を中間層のポリエステル樹脂に分散させてなるものである(レーザーマーキング顔料を中間層のポリエステル樹脂に分散させることは,甲5にも記載されているように,周知慣用技術でもある。)。
そうしてみると,甲1発明の記載や周知慣用技術を心得た当業者が,甲1発明において,レーザーマーキング顔料を中間層のポリエステル樹脂に分散させてなるものとすることは,最も自然な選択肢といえる。あるいは,当業者ならば,甲1から,レーザーマーキング顔料を適量範囲内で中間層に練り込んでなるポリエステルフィルムの発明を把握可能である。
次に,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,「熱安定が故に,生産工程におけるリサイクル原料として利用できる」ものである。ただし,甲1には,甲1発明の「ポリエステルフィルム」をどのように「生産工程におけるリサイクル原料として利用」するのか,具体的な記載はない。
そこで,当業者が心得ていると考える技術的事項を考慮すると,「リサイクル原料を,樹脂積層体の中間層(表層以外の層)に加えること」(以下「周知技術1」という。),及び「ポリエステルフィルムの表層,中間層等を,各々に求められる性能に応じた,少なくとも一部が異なる材質のものとすること」(以下「周知技術2」という。)は,いずれも,当業者における周知技術といえる(甲1?甲5においても,周知技術1や周知技術2に該当する事項が示されている。)。
また,甲1発明の「ポリエステルフィルム」を,甲1発明の「中間層」にリサイクル原料として加えるに際して,レーザーマーキング顔料を中間層用のポリエステル樹脂に補充して「適量範囲内」を維持することは,甲1発明の趣旨に合致する事項と考えられる。

以上勘案すると,甲1発明の「ポリエステルフィルム」において,レーザーマーキング顔料を練り込む層を中間層とし,表層を中間層の樹脂母材とは異なる材料を含むものとする(又は,中間層の樹脂母材とは異なる材料を含む層(例:ポリエチレンナフタレート等からなるガスバリア層)を追加する)とともに,その製造工程においてリサイクル原料を中間層に加えることは,甲1の記載内容及び周知技術を心得た当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。そして,このようにしてなるものは,相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備したものとなる。

あるいは,甲2?甲5を,周知技術を例示する文献とせずに,いわゆる副引用発明が記載された文献として検討しても,同様である。また,甲1発明に替えて,前記甲1実施例1発明のように,甲1の実施例1又は実施例2を引用発明としても,同様である。

したがって,本件特許発明1は,周知技術あるいは甲2?甲5の記載事項を心得た当業者が,甲1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

(4) 特許権者の主張について
ア 特許権者は,概略,本件特許発明1の発明に到った経緯を述べて,本件特許発明1の特殊性について主張する(意見書(1)4頁1行?6頁23行)。
ここで,本件特許の明細書の【0002】?【0012】の記載からは,概ね,特許権者が意見書(1)において主張するとおりの,本件特許発明1が発明されるまでの経緯を理解することができる。
しかしながら,本件特許発明1は,前記(3)で述べた経緯をたどることによって,当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 特許権者は,概略,[A]甲1発明でいう「ポリエステルフィルム」を,「レーザーマーキング層を含んだ積層体である」と解釈すること,及び[B]甲1の「生産工程におけるリサイクル原料としても利用できる」(【0034】)との記載を,「レーザーマーキング層を含んだ積層体をレーザーマーキング層に再利用する」と解釈することには無理があると主張する(意見書(1)8頁12行?10頁27行,12頁15行?13頁24行)。
しかしながら,以下のとおりである。
まず,上記[A]について,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,甲1発明として認定したとおり,「表層」及び「中間層」を具備する「積層体」である。また,甲1発明の「0.015?1重量%」は,甲1発明の構成,あるいは甲1の【0032】の記載から明らかなとおり,フィルム全体を基準としたものである。
なお,フィルム全体を基準にレーザーマーキング顔料の分量を規定する点については,確かに,特許権者が主張するような側面もあるが,甲1発明は,「レーザーマーキング顔料を適量範囲内で」練り込むものである。
次に,上記[B]について,当合議体は,甲1の「生産工程におけるリサイクル原料としても利用できる」(【0034】)との記載を,「レーザーマーキング層を含んだ積層体をレーザーマーキング層に再利用する」とは解釈していない。
当合議体は,甲1の「生産工程におけるリサイクル原料としても利用できる」(【0034】)との記載に基づいて,当業者が,リサイクル原料を中間層に加えることを発明することができたとの判断を示している。

ウ 特許権者は,概略,甲2?甲5について,レーザーマーキング層に関する記載はない等と主張する(意見書(1)10頁28行?12頁13行)。
しかしながら,当合議体は,甲2?甲5に,レーザーマーキング層に関する記載があるとは認定していない。
当合議体は,周知技術1及び周知技術2に該当する事項が示されている文献の例,あるいは副引用例として,甲2?甲5を挙げたものである。

エ 特許権者は,概略,周知技術1は,上位概念化されたものであると主張する(意見書(1)13頁25行?15頁7行)。
しかしながら,当合議体は,周知技術1(及び周知技術2)を認定した上で,これに該当する事項が甲1?甲5に示されていると判断したものである。
特許権者の主張は,周知技術1の周知性について争っているものとも解される。そこで,本件特許の出願時の技術水準を確認すると,参考例1の【0023】,参考例2の【0004】及び【0008】,参考例3の【0004】及び【0016】,参考例4の【0034】,並びに,参考例5の【0002】?【0005】等にも,周知技術1に該当する例が記載されている。周知技術1は,広く用いられている技術と考えられるから,当業者ならば,甲1発明の「ポリエステルフィルム」を,「熱安定が故に,生産工程におけるリサイクル原料として利用」するに際して,これを「樹脂積層体の中間層(表層以外の層)に加える」と考えられる。

オ 特許権者は,概略,リサイクル原料をレーザーマーキング層に加えるのか,レーザーマーキング層とは別のリサイクル層に加えるのかについて考慮されていないとも主張する(意見書(1)14頁29行?15頁2行)。
しかしながら,甲1発明は,中間層が複数の中間層からなると特定されるものではない(本件特許発明1も,これを発明特定事項とするものではない。)。
なお,甲1の【0010】の記載からみて,甲1発明の表層以外の層(中間層)は,複数あっても良いと考えられる(例えば,ガスバリア層を追加することは周知である。)。しかしながら,リサイクル原料を利用するに際し,それを中間層のどれに加えるかは,試行錯誤等により決定されるべきものにすぎない。あるいは,甲1の【0023】には,酸化チタン等の顔料の併用が望ましいと記載されてり,そして,甲2?甲4を心得た当業者ならば,これら顔料及びレーザーマーキング顔料を含むリサイクル原料は,その顔料が練り込まれる中間層に加えると考えられる。他方,ガスバリア層にポリエステルを含むリサイクル原料を加えることは,あり得ないと考えられる。

カ 特許権者は,概略,当合議体の判断は,論理に飛躍があるとも主張する(意見書(1)15頁8行?17頁5行)。
しかしながら,本件特許発明1は,前記(3)で述べた経緯をたどることによって,当業者が容易に発明をすることができたものであり,そこに論理の飛躍はない。

キ 特許権者は,レーザーマーキング層を含んだ端材をレーザーマーキング層の材料として用いれば,バージン材料樹脂に投入する場合と比べて,レーザーマーキング剤の拡散が促進されることがわかったと主張する(意見書(1)6頁7?9行)。
しかしながら,レーザーマーキング剤の拡散が促進されるか否かが,前記端材のレーザーマーキング層以外の層の母材にも左右されることを勘案すると,特許権者の主張は,特許請求の範囲の記載に基づいたものではない(なお,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,表層及び中間層がいずれもポリエステルである。)。
また,リサイクル原料中の,レーザーマーキング顔料が練り込まれた層は,既に練り込みが終了しているから,その層の分だけ,あるいは,練り込み済みのレーザーマーキング顔料の分だけ,練り込みが短時間で終了することは明らかである。

ク 特許権者は,概略,レーザーマーキング層には,より高い鮮明度又は解像度を確保すべく,バージン材料の樹脂母材又はそれに類する樹脂母材が用いられており,該樹脂母材とは関係のない他の層の樹脂材料を混合するという発想は全くなかった(レーザーマーキング層の樹脂母材に他の層の材料を混合することは,レーザーマーキング技術における印字の鮮明度や解像度への要求が阻害要因になって,当業者が容易に発想し得るものではない),と主張する(意見書(2)4頁12行?5頁下から7行,6頁下から9?2行)。
しかしながら,甲1発明は,「極限粘度の維持率が95%以上のポリエステルフィルム」であるから,その表層・中間層には,ポリエステルに属する,又はポリエステルに類する,熱安定な樹脂が採用されるものと理解される。例えば,甲1発明の実施例である,実施例1(【0044】?【0047】)においては,触媒等の材料の組成においては異なるとしても,ポリエチレンテレフタレートに分類される,極限粘度の維持率が99%(【0053】)の樹脂が,表層・中間層に採用されている。
甲1発明の構成及び甲1の記載に接した当業者が,特許権者が主張するような阻害要因を認識するとは考えられない。

ケ 特許権者は,概略,当業者には,鮮明度や解像度が求められるレーザーマーキング層に,その本来の母材とは関係のない他の層の材料を混合するという発想は全くなかったから,当業者は,レーザーマーキング層とは別にリサイクル層を追加し,そこにリサイクル材を用いることしか発想できない(リサイクル材をどのように適用するかは,リサイクル層を新たに追加する態様をも含めて考慮されるべきである)と主張する(意見書(2)4頁下から8行?5頁1行,6頁下から1行?8頁5行)。
確かに,本件特許の図2に例示されるような容器の場合には,成形の際に発生するバリ等をリサイクルするリサイクル層を設けることが周知慣用されているから(特開2009-248996号公報の【0003】),このような分野の技術を前提とした場合には,既にあるリサイクル層にリサイクルすることしか発想できないと考えられる。
しかしながら,甲1発明は「容器」ではなく「ポリエステルフィルム」であり,また,甲1発明は「中間層」を具備するが「リサイクル層」を具備するものではない。甲1発明においてリサイクル層を新たに設けるには製造装置の造り変え等の煩雑な作業が必要であり,生産コストの削減や工程作業容易化(甲1の【0011】)にも反する。加えて,甲1発明の「ポリエステルフィルム」は,フィルム厚100μmのうち90μmが中間層であり,また,表層・中間層ともポリエチレンテレフタレートに分類される。
甲1発明の構成及び甲1の記載に接した当業者が,生産工程において発生した端材等を中間層にリサイクルする方法を,試行すらせず最初から排除するとは考えられない。

コ その余の特許権者の主張も,採用できない。

(5) 本件特許発明2等について
ア 本件特許発明2について
前記(3)で述べたとおりに発明してなるものが具備する構成である。
なお,特許権者は,概略,本件特許の明細書の【0020】の記載の利点を主張する(意見書(1)7頁24行?8頁10行)が,甲1?甲4に記載された技術が前提とする構成にすぎない。

イ 本件特許発明3について
前記(3)で述べたとおりに発明してなるものが具備する構成である。

ウ 本件特許発明8について
甲1発明の「ポリエステルフィルム」の用途として,自明なものである。

エ 本件特許発明9について
本件特許発明9と甲1方法発明を対比すると,両者は,
「 レーザーマーキングが可能な樹脂積層体の製造方法であって,
レーザーマーキング剤が樹脂中に分散したレーザーマーキング層を積層の1層として含むように,前記樹脂積層体を形成する積層工程を有する,
前記製造方法。」
の構成において一致し,次の点で相違する。

(相違点2)
本件特許発明9は,「前記積層工程では,前記レーザーマーキング層の材料として,前記レーザーマーキング剤と同じレーザーマーキング剤が分散したレーザーマーキング層を有する他の樹脂積層体から生じた端材を用い,かつ,予め定められた画像品質のレーザーマーキングが達成されるように前記材料に前記レーザーマーキング剤を補充して,前記レーザーマーキング層を形成する」のに対して,甲1方法発明は,このように特定されたものではない点。

しかしながら,上記相違点2ついての判断は,前記(3)で述べたのと同様である。

オ 本件特許発明10,11及び16について
本件特許発明2,3及び8と同様である。

カ 以上ア?オのとおりであるから,本件特許発明2,3,8?11及び16は,周知技術あるいは甲2?甲5の記載事項を心得た当業者が,甲1に記載された発明に基づいて,容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

3 まとめ
本件特許1?3,8?11及び16は,特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから,取り消されるべきものである。
よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-06-17 
出願番号 特願2013-267993(P2013-267993)
審決分類 P 1 652・ 121- ZC (B41M)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 樋口 祐介福田 由紀  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 河原 正
樋口 信宏
登録日 2017-12-22 
登録番号 特許第6260265号(P6260265)
権利者 味の素株式会社
発明の名称 レーザーマーキングが可能な樹脂積層体およびその製造方法  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 戸崎 富哉  
代理人 當麻 博文  
代理人 赤井 厚子  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 土井 京子  
代理人 高島 一  

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