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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1354517
審判番号 不服2017-15642  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-10-20 
確定日 2019-08-14 
事件の表示 特願2015-535899「構造化ワニスコーティングを有する成型容器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 4月17日国際公開、WO2014/059253、平成28年 1月21日国内公表、特表2016-501783〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2013年(平成25年)10月11日(パリ条約による優先権主張2012年(平成24年)10月11日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成29年6月12日付けで拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成29年10月20日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がなされると同時に手続補正書が提出され、その後、平成30年10月23日付けで当審から拒絶の理由が通知され、平成31年1月30日に意見書とともにさらに手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし12に係る発明は、上記平成31年1月30日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
三次元物品であって、該物品は、前記物品の表面に直接接触するワニスコーティングを備えており、前記ワニスコーティングは一つ以上の視覚的効果を生み出し、前記物品は少なくとも1つの曲面を備え、前記ワニスコーティングの少なくとも1部は前記曲面に直接接触することを特徴とする三次元物品。」

第3 拒絶の理由
平成30年10月23日付けで当審が通知した拒絶理由のうち理由2は、本件出願の請求項1?13に係る発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1及び/又は引用文献2に記載された又は利用可能となった発明に基づいて、その出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2009-122773号公報
引用文献2:特表2008-533314号公報

第4 引用文献記載の発明又は事項
当審での平成30年10月23日付けの拒絶の理由において、本願発明に実質的に対応する、平成31年1月30日付け手続補正前の請求項8に係る発明に対して引用された、本件の出願前に頒布された刊行物である引用文献1には、以下の発明が記載されていると認められる。なお、下線は当審で付したものである。

1 引用文献1
(1)引用文献1に記載された事項
引用文献1には、「金属製ケースとその製造方法及び電子機器」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。

(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】
少なくとも一部が金属基板により構成される金属製ケースにおいて、
前記金属基板の一方の面には、コーティング膜が形成され、
前記コーティング膜の一部には、ナノインプリントによる凹凸パターンが形成されてなり、
前記コーティング膜が形成された面が外側になるように構成された
ことを特徴とする金属製ケース。」

(イ)「【0001】
本発明は、偽造防止の為の印が施された金属製ケースとその製造方法、及び電子機器に関する。」

(ウ)「【0011】
本発明の金属製ケースでは、コーティング膜にナノプリントによる凹凸パターンが形成されていることにより、凹凸パターンにおいて反射された光が干渉して、所望の模様や文字、記号が構成される。
本発明でいう金属製ケースとは、一部分のみが金属基板で形成されているものでもよく、また、全部が金属基板で形成されているものでもよい。」

(エ)「【0020】
次に、モールドに形成された凹凸パターンを転写する樹脂層について説明する。ナノインプリント技術に用いられる樹脂層としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、UV硬化性樹脂が挙げられる。
熱可塑性樹脂は、樹脂をガラス転移点(Tg)以上に熱し、モールド形状を転写するものである。
熱硬化性樹脂は、樹脂にモールドを押し付けながら硬化温度まで加熱保持してモールド形状を転写するものである。
UV硬化性樹脂は、樹脂にモールドを押し付け、UV照射により樹脂を硬化させてモールド形状を転写するものである。」

(オ)「【0039】
次に、図に本発明の第3の実施形態に係る金属製ケースの製造方法における概略工程図を示す。本実施形態例は、コーティング膜として、UV硬化樹脂を用いるものである。
【0040】
図3Aに示す金属基板1には、第1及び第2の実施形態と同様に、例えばSUS基板を用いる。この金属基板1は、後述する金属製ケースを構成するものである。この金属基板1上に、コーティング膜32を形成する。本実施形態例では、コーティング膜32の材料として、UV硬化性樹脂を用いる。従って、金属基板1上にUV硬化性樹脂を塗布し、コーティング膜32を形成する。
【0041】
本実施形態例で用いられるUV硬化性樹脂としては、ラジカル重合反応タイプのウレタンアクリレート系樹脂、カチオン重合反応タイプのエポキシ系樹脂が挙げられる。
【0042】
次に、図3Bに示すように、上部にUV硬化性樹脂からなるコーティング膜32を形成した金属基板1を、ステージ4に固定する。本実施形態例に用いられるステージ4は、第1及び第2の実施形態のように加熱機構が構成されていなくてもよい。そして、金属基板1より面積の小さい、例えば格子状の凹凸パターンを有するモールド33を準備する。本実施形態例では、後の工程において、UV照射が成されるため、モールド33がUV光を透過する必要がある。本実施形態例においては、モールド33として、石英を用いる。」

(カ)「【0043】
続いて、図3Cに示すように、透明なモールド33を、金属基板1上のUV硬化性樹脂層に矢印aで示すように押し付ける。モールド33の押し付けは、0.1MPaから1MPa程度で圧力印加するのが好ましい。
【0044】
そして、図3Dに示すように、モールド33をUV硬化性樹脂からなるコーティング膜32に押圧しながらUV光16をモールド33の上部から照射する。
モールド33を圧力印加した状態で、UV硬化性樹脂からなるコーティング膜32が硬化したらUV照射を停止し、圧力印加を停止する。
【0045】
最後に、図3Eに示すように、モールド33を硬化したコーティング膜32から、矢印bに示す方向に引き剥がす。
【0046】
以上のようにして、本実施形態例においてもUV硬化樹脂からなるコーティング膜32にモールド33の微細な凹凸パターン11が転写される。」

(キ)「【0047】
次に、図4A,Bに、上述した第1?第3の実施形態を用いて形成された金属製ケース10を示す。図4Bは、図3AにおけるA-A断面構成である。図4Aに示す金属製ケース10は、全体が金属基板1で形成され、金属基板1の外側全体が、コーティング膜2,21,32により被覆されている。金属製ケース10の内部には空間9が保持されており、この空間9に例えば電子記憶媒体等が収納される。
【0048】
図4Bに示すように、第1?第3の実施形態の製造方法を用いて形成された金属製ケース10では、金属基板1上に形成されたコーティング膜2,22,32の一部に微細な凹凸パターン11が形成されている。この微細な凹凸パターン11により偽造防止が図られる。以下に詳述する。」

(ク)「【0049】
図5に、金属製ケース10において、コーティング膜2,22,32上に凹凸パターン11が形成された部分の断面構成図を示す。図5に示すように、コーティング膜2,22,32上に形成された凹凸パターン11はナノスケールの微細構造である。入射光の波長よりも凹凸パターン11が微細である場合、構造色が発色される。そして、この構造色は、見る角度により異なる色や模様を構成する。
従って、この微細な凹凸パターン11を所望の構造色が発色するように設計して、正規品であることがわかるようにすることにより、偽造品と差別化を図ることができる。
【0050】
また、ナノインプリントによって形成されたナノオーダーの凹凸パターン11においては、その微細構造のアスペクト比を大きく形成することができる。微細構造のアスペクト比を大きく形成することにより、摩耗によるパターン消失に対して、優れた耐久性を有する構成となる。また、格子状に形成された凹凸パターンにおいて、格子状の間隔を変化させることにより、微細構造によって反射される色を変化させることができる。」

(ケ)「【0051】
第1?第3の実施形態例を用いて形成される金属製ケース10は、ケースを構成する金属基板1上にコーティング膜2,22,32を設け、コーティング膜2,22,32上に偽造防止の為の凹凸パターンを直接加工することができる。このため、このような金属製ケースを偽造するのが困難であり、また、ナノスケールの凹凸パターン11を偽造することも困難である。」

(コ)「【0052】
図4に示した金属製ケース10は、ケース全体がコーティング膜2,22,32により被覆された例を示した。・・・」

(2)引用文献1発明
(サ)上記記載事項(オ)の「金属基板1は、後述する金属製ケースを構成するものである。この金属基板1上に、コーティング膜32を形成する」との記載を、図3の図示内容と併せ考えれば、「コーティング膜32」は、「金属製ケース10」の“表面に直接接触”しているものと認められる。

(シ)上記記載事項(ク)に、「コーティング膜2,22,32上に形成された凹凸パターン11は・・・入射光の波長よりも凹凸パターン11が微細である場合、構造色が発色される。そして、この構造色は、見る角度により異なる色や模様を構成する。従って、この微細な凹凸パターン11を所望の構造色が発色する」とあり、また、上記記載事項(ウ)に「凹凸パターンにおいて反射された光が干渉して、所望の模様や文字、記号が構成される」とあることから、「コーティング膜32」は“一つ以上の視覚的効果を生み出”すものと認められる。

そこで、引用文献1の上記記載事項(ア)ないし(コ)並びに上記認定事項(サ)及び(シ)を図面を参照しつつ、特に「第3実施形態」(上記記載事項(オ)?(カ))に着目して整理すると、引用文献1には以下の発明が記載されていると認められる。(以下「引用文献1発明」という。)
「金属製ケース10であって、該金属製ケース10は、前記金属製ケース10の表面に直接接触するUV硬化性樹脂からなるコーティング膜32を備えており、前記UV硬化性樹脂からなるコーティング膜32は一つ以上の視覚的効果を生み出す金属製ケース10。」

第5 対比
本願発明と引用文献1発明とを対比すると、引用文献1発明の「金属製ケース10」が本願発明の「三次元物品」又は「物品」に相当することは明らかである。

また、本願発明の「ワニス」については、本件明細書に「【0039】 本明細書で使用するとき、用語「ワニス」は、色素を含まず、通常、液体である、硬化可能な材料を指す。・・・ワニスは、通常、放射線硬化性である。好ましくは、ワニスは紫外線硬化性であり、これは紫外線を用いて硬化させることを意味する。またはワニスは電子線硬化性であり、これは電子線放射を用いて硬化させることを意味する。」とある(下線は当審で付した)。 一方、引用文献1には、「UV硬化性樹脂として」「ラジカル重合反応タイプのウレタンアクリレート系樹脂、カチオン重合反応タイプのエポキシ系樹脂」が例示されているところ(上記第4の1(1)(オ))、これらのUV硬化性樹脂は通常無色透明である。
これらを踏まえれば、引用文献1発明の「UV硬化性樹脂からなるコーティング膜32」については、本願発明の「ワニスコーティング」に相当するといえる。

したがって、本願発明と引用文献1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「三次元物品であって、該物品は、前記物品の表面に直接接触するワニスコーティングを備えており、前記ワニスコーティングは一つ以上の視覚的効果を生み出す三次元物品。」

そして、本願発明と引用文献1発明とは、以下の2点で相違する。
<相違点1>
本願発明の物品は少なくとも1つの曲面を備えるのに対し、引用文献1発明の物品(金属製ケース10)は、曲面を有するか明らかでない点。
<相違点2>
本願発明のワニスコーティングの少なくとも1部は、(物品に備わる)曲面に直接接触するのに対し、引用文献1発明はそのようなものか不明な点。

第6 相違点の検討
1 <相違点1>について
相違点1につき検討する。引用文献1発明は「金属製ケース」であるところ、一般に少なくとも1つの曲面を備える金属製ケースはごくありふれたものである。よって、引用文献1発明の金属製ケースを相違点1に係る構成とすることは、何ら困難なことではない。

2 <相違点2>について
次に相違点2につき検討する。
引用文献1発明の「視覚的効果を生み出す」「コーティング膜32」は、コーティング膜である以上、コーティング箇所が平面であれ曲面であれ、同様にコーティングするのがごく基本的な形態である。
ところで、引用文献1発明の「視覚的効果を生み出す」「コーティング膜32」は、「所望の構造色が発色するように設計して、正規品であることがわかるようにすることにより、偽造品と差別化を図ることができ」るためのものであるところ(上記第4の1(1)(ク))、「コーティング膜32」は、極端な急曲面の場合は格別、ごく一般的な曲面の場合、所望の構造色の発色がそれほど妨げられるとは考え難く、曲面箇所を避けてコーティング膜32を施さなくてはならないものとまではいえない。
これらを併せ考えれば、引用文献1発明において、コーティング膜32(ワニスコーティング)の少なくとも1部を(物品に備わる)曲面にも直接接触するようにして、相違点2に係る本願発明の構成とすることも、当業者が容易になし得たものというべきである。

3 小括
したがって、本願発明は、引用文献1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-03-12 
結審通知日 2019-03-19 
審決日 2019-04-01 
出願番号 特願2015-535899(P2015-535899)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 悟史山田 裕介  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 長屋 陽二郎
関谷 一夫
発明の名称 構造化ワニスコーティングを有する成型容器  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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