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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1354889
審判番号 不服2019-2301  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-10-25 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-20 
確定日 2019-09-25 
事件の表示 特願2015- 45259「接合方法」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 8日出願公開,特開2016-164950,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成27年3月6日を出願日とする特許出願であって,平成30年8月3日付けで拒絶理由通知がされ,同年9月28日に意見書と手続補正書が提出され,同年11月21日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成31年2月20日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,令和元年6月14日に上申書が提出されたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成30年11月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

1.(進歩性)この出願の請求項1-4に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された下記の文献1または2のいずれかに記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明と,下記の文献1ないし4に記載された技術的事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2009-238806号公報
2.特開2002-299371号公報
3.特開2006-60194号公報
4.特開2007-59538号公報

第3 本願発明
本願の請求項1-4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」-「本願発明4」という。)は,平成31年2月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-4に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
第1部材に配置された第1電極上に第1のワイヤボンディングバンプを形成する工程と,
第2部材に配置された第2電極上に,前記第1のワイヤボンディングバンプと同じ材料で第2のワイヤボンディングバンプを形成する工程と,
前記第2のワイヤボンディングバンプの先端部を平坦化して,バンプ平坦面を形成する工程と,
前記第2のワイヤボンディングバンプが前記第1のワイヤボンディングバンプよりも高温となるように,前記第1のワイヤボンディングバンプを加熱せずに前記第2のワイヤボンディングバンプを加熱する加熱工程と,
前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部と,前記加熱工程により軟化した前記第2のワイヤボンディングバンプの前記バンプ平坦面とを互いに圧着する圧着工程と
を具備し,
前記圧着工程より前に,前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部は,平坦化されない
接合方法。
【請求項2】
前記バンプ平坦面を形成する工程は,前記第2のワイヤボンディングバンプの先端部を押圧部材の平坦面に接触させることにより,前記第2のワイヤボンディングバンプの先端部を平坦化する工程を含み,
前記押圧部材の平坦面は,シリコン板の表面である
請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記第1部材に配置された第3電極上に第3のワイヤボンディングバンプを形成する工程を更に備え,
前記第1のワイヤボンディングバンプを形成する工程によって形成される前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部と,前記第3のワイヤボンディングバンプを形成する工程によって形成される前記第3のワイヤボンディングバンプの先端部とは,互いに向かい合う方向に傾いている
請求項1または2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記第1部材に配置された第3電極上に第3のワイヤボンディングバンプを形成する工程を更に備え,
前記第1のワイヤボンディングバンプを形成する工程によって形成される前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部と,前記第3のワイヤボンディングバンプを形成する工程によって形成される前記第3のワイヤボンディングバンプの先端部とは,互いに離間する方向に傾いている
請求項1または2に記載の接合方法。」

第4 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0026】
これら第1および第2のバンプ31,32は,この種の一般的なバンプであり,たとえば,ワイヤボンディング装置を用いて形成されるスタッドバンプや,メッキにより形成されるバンプである。その材質は金である。」

「【0048】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態は,上記第1実施形態に比べてバンプ31,32の接合形態および接合方法を変更したものであり,この第1実施形態との相違点を中心に述べる。図3は,本第2実施形態に係るバンプの接合構造体S2の概略断面図である。
【0049】
図3に示される本実施形態の接合構造体S2では,上記図1とは逆に,図中の上側に第1の半導体チップ10が位置し,下側に第2の半導体チップ20が位置している。そして,本接合構造体S2においても,第1のバンプ31の先端部には,第2のバンプ32側へ向かって突出する突起41が設けられており,両バンプ31,32の接合部では,突起41は第2のバンプ32の先端部に突き刺さっている。
【0050】
それにより,本実施形態においても,両バンプ31,32の先端部同士の機械的な接触状態が,突起41の第2のバンプ32への食い込みによって機械的に保持されるため,バンプサイズを大きくすることなく,当該接触時における両バンプ31,32の相対的な位置ずれが規制される。
【0051】
ここで,上記第1実施形態では,突起40は第1のバンプ31とは別体であったが,本実施形態においては,図4に示されるように,突起41は第1のバンプ31と一体に成形されたものであり,第1のバンプ31の先端部が突起41として構成されている。
【0052】
本実施形態では,第1のバンプ31は第2のバンプ32よりも硬い材料により構成されている。両バンプ31,32は金よりなるが,この金の純度を変えることにより硬さを変更できる。具体的には,第2のバンプ32の金の純度を4Nとすれば,ほぼ純金であり軟らかく,一方,第1のバンプ31をPdを1%含有する金の合金とすれば,第2のバンプ32よりも硬くなる。
【0053】
そして,この硬い第1のバンプ31の先端部を鋭利形状とすることにより,当該鋭利形状をなす先端部が突起41として構成されている。具体的には,第1のバンプ31は,第2のバンプ32側に頂部を持つ円錐状,ピラミッド状の形状とできる。そして,両バンプ31,32の接合部では,この鋭利な突起41が,平坦面となっている第2のバンプ32の先端部に突き刺さった状態となっている。
【0054】
ここで,第1のバンプ31の先端部を鋭利な突起41として成形することは,一般のバンプ形成用の治具を用いて型成形すればよい。また,第2のバンプ32の先端部を平坦面とすることは,通常の方法で形成されたバンプの先端部に対して一般的なレベリング処理を施すことにより可能である。
【0055】
このレベリング処理は,バンプの先端部を塑性変形させ平坦化さるもので,第2のバンプ32の先端部に対して,シリコンやガラスなどからなるプレートを介して荷重を加えることにより,当該先端部を塑性変形させ,平坦化するものである。
【0056】
次に,本実施形態の接合構造体S2の製造方法について,図4を参照して述べる。図4は,本製造方法における両半導体チップ10,20の接合工程をワーク断面にて示す工程図である。
【0057】
本製造方法では,まず,第1の半導体チップ10の一面11に,上記形成方法によって突起41が設けられた第1のバンプ31を形成し,一方で,第2の半導体チップ20の一面21に,先端部が上記平坦面となっている第2のバンプ32を形成する。
【0058】
そして,これら両半導体チップ10,20を,図4(a)に示されるように,互いの一面11,21を対向させて配置し,両バンプ31,32の位置あわせを行う。そして,図4(b)に示されるように,支持台K2上にて,両半導体チップ10,20を重ね荷重を加えることにより,第1のバンプ31の先端部としての突起41を第2のバンプ32の先端部に突き刺して両バンプ31,32の先端部同士を接触させる。
【0059】
これにより,両バンプ31,32同士が機械的に接触するとともに,突起41の食い込みによって,この接触状態が保持されるため,両バンプ31,32は機械的・電気的に接合される。なお,本実施形態においても,両バンプ31,32の先端部同士の接触は,加熱しない状態で行っても,加熱した状態で行ってもよい。こうして,本実施形態の接合構造体S2ができあがる。」

したがって,上記引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
「第1の半導体チップ10の一面11に,ワイヤボンディング装置を用いて形成されるスタッドバンプを形成し,その後,一般のバンプ形成用の治具を用いて型成形することで,前記バンプの先端部を鋭利な突起41として成形して,該突起41が設けられた第1のバンプ31を形成する工程であって,前記第1のバンプ31は第2のバンプ32よりも硬い材料である,Pdを1%含有する金の合金により形成されている工程と,
第2の半導体チップ20の一面21に,ワイヤボンディング装置を用いて形成されるスタッドバンプを形成し,その後,前記バンプの先端部に対して,シリコンやガラスなどからなるプレートを介して荷重を加えることにより,当該先端部を塑性変形させ,平坦化することで,先端部が上記平坦面となっている第2のバンプ32を形成する工程であって,前記第2のバンプ32は,金の純度が4Nである,軟らかい,ほぼ純金により形成されている工程と,
これら両半導体チップ10,20を,互いの一面11,21を対向させて配置し,両バンプ31,32の位置あわせを行い,その後,両半導体チップ10,20を重ね荷重を加えることにより,第1のバンプ31の先端部としての突起41を第2のバンプ32の先端部に突き刺して両バンプ31,32の先端部同士を接触させ,これにより,両バンプ31,32同士が機械的に接触するとともに,突起41の食い込みによって,この接触状態が保持されるため,両バンプ31,32は機械的・電気的に接合される工程と,
を含む,電極の接合方法。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0036】実施の形態2.図3,図4はこの実施の形態2による電子装置の製造方法を示す図である。図において,7は突起電極4aの先端に形成した平坦部,8は平板である。なお,他の符号は図1と同じであるので説明は省略する。
【0037】電子装置を製造するには,まず,図3(a)に示すように,金ワイヤ3の先端に形成した金ボール3aを超音波振動6を印加しながら第1の電子部品1の金属電極1aに熱圧着し,金ワイヤを切断することで,図3(b)に示すように第1の電子部品1の金属電極1a上に金の突起電極4aを形成する。
【0038】この突起電極4aの形成は,実施の形態1と同様にして,実施の形態1と同様のアルミナ配線基板1の金属電極1a上に最大部の径が80μmの金の突起電極4aを形成すようにすればよい。なお,ここでも突起電極を8個形成することにした。
【0039】一方,図3(c)に示すように,金ワイヤ3の先端に形成した金ボール3aを超音波振動6を印加しながら第2の電子部品2の金属電極2aに熱圧着し,金ワイヤを切断することで,図3(d)に示すように第2の電子部品2の金属電極2a上に金の突起電極4bを形成する。
【0040】この突起電極4bの形成は,実施の形態1と同様にして,実施の形態1と同様のGaAs半導体素子2の金属電極2a上に最大部の径が80μmの金の突起電極4bを形成すようにすればよい。なお,ここでも突起電極を8個形成することにした。
【0041】ワイヤ,第1の電子部品,第2の電子部品は,実施の形態1で説明したものを用いてもよく,金属電極の表面はアルミやアルミの合金,銀や銀の合金,銅や銅の合金でもよい。
【0042】また,第1の電子部品1に突起電極4aを形成した後,図4(a)に示すように,第1の電子部品1に形成した突起電極4aの先端に平板8を押しつけ,突起電極4aの先端に平坦部7を形成する。平坦部7の形成は,例えば平板8を960gの荷重で5秒間押し付けて突起電極4aの先端に径63μmの平坦部7を形成すればよい。
【0043】このように,第1の電子部品1の突起電極4aの先端に平坦部7を,第2の電子部品2上に突起電極4bを形成した後,図4(b)に示すように,第1の電子部品1の突起電極4aと第2の電子部品2の突起電極4bとを位置合わせする。この位置合わせは実施の形態1と同様にすればよい。
【0044】そして,図4(c)に示すように,第1の電子部品1と第2の電子部品2とを加熱した状態で押し付け,先端に平坦部7を形成した金の突起電極4aと第2の電子部品2の金の突起電極4bとを固相接合する。電極の接合は実施の形態1と同様にすればよい。
【0045】この実施の形態では,アルミナ配線基板上の突起電極の先端をあらかじめ平坦にしているので,アルミナ配線基板にGaAs半導体素子を押し付ける際に,アルミナ配線基板上の突起電極とGaAs半導体素子上の突起電極の位置がずれても,アルミナ配線基板上の突起電極からGaAs半導体素子上の突起電極がすべり落ちにくくなる。その結果,高精度な位置合わせが不要となる。
【0046】この実施の形態では,3σで±15μm以内の位置合わせ精度で十分であり,GaAs半導体素子,アルミナ配線基板ともに,それぞれ2箇所づつ設置した認識用のパターンを各1回づつ認識するだけで達成できた。この位置合わせに要した時間は4.5秒であり,実施の形態1に比べて生産タクトが6秒短縮できた。
【0047】さらに,アルミナ配線基板上の金の突起電極の先端をあらかじめ平坦にしておくとGaAs半導体素子上の金の突起電極がくさびのようにアルミナ配線基板上の金の突起電極に食込んで接合強度が向上する効果も生じる。
【0048】先端を平坦にしない場合,突起電極あたりのシア破断強度は平均で約75gであったが,先端を平坦にした場合は突起電極あたりのシア破断強度は平均で約92gに向上した。もちろん,アルミナ配線基板の突起電極ではなくGaAs半導体素子の突起電極の先端部を平坦にしておいても同様の効果が得られる。
【0049】また,この実施の形態では,第1の電子部品(アルミナ配線基板)に形成された突起電極の先端に平坦部を形成するようにしているが,逆に,第2の電子部品(GaAs半導体素子)に形成された突起電極の先端に平坦部を形成してもよい。
【0050】また,第1の電子部品と第2の電子部品の両方の突起電極の先端部を平坦にしておいてもよい。この場合,突起電極はさらにすべり落ちにくくなり,その時,第1の電子部品または第2の電子部品の突起電極のどちらか一方の平坦部の径が他方より大きくなるように変形させておくと,平坦部径の小さい金の突起電極がくさびのように食込んで接合強度が向上する効果が生じる。」

したがって,上記引用文献2には次の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。
「金ワイヤ3の先端に形成した金ボール3aを超音波振動6を印加しながら第1の電子部品1の金属電極1aに熱圧着し,金ワイヤを切断することで,第1の電子部品1の金属電極1a上に金の突起電極4aを形成する工程と,
金ワイヤ3の先端に形成した金ボール3aを超音波振動6を印加しながら第2の電子部品2の金属電極2aに熱圧着し,金ワイヤを切断することで,第2の電子部品2の金属電極2a上に金の突起電極4bを形成する工程と,
第1の電子部品1に突起電極4aを形成した後,第1の電子部品1に形成した突起電極4aの先端に平板8を押しつけ,突起電極4aの先端に平坦部7を形成する工程と,
第1の電子部品1の突起電極4aと第2の電子部品2の突起電極4bとを位置合わせする工程と,
第1の電子部品1と第2の電子部品2とを加熱した状態で押し付け,先端に平坦部7を形成した金の突起電極4aと第2の電子部品2の金の突起電極4bとを固相接合する工程と,
を含む電極の接合方法。」

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【請求項1】
Auスタッドバンプを半導体チップの電極表面に形成する第1の工程と,該第1の工程を経た前記半導体チップをアニールする第2の工程と,該第2の工程を経た前記半導体チップのAuスタッドバンプ及び該半導体チップを実装する実装基板に形成された表面層がAuからなる電極をエネルギー波の照射によって活性化する第3の工程と,該第3の工程の終了後,常温の雰囲気で前記実装基板の電極と前記半導体チップのAuスタッドバンプとを圧接して接合する第4の工程とからなることを特徴とするフリップチップ実装方法。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで,従来の常温におけるフリップチップ接合では,金メッキバンプを介して行うため,実装基板側の平面度のばらつきやバンプ高さのばらつきがあった場合,接合不良が発生するという問題があった。
【0006】
この問題を解決するためにバンプ変形量の大きいAuスタッドバンプを用いれば接合不良を解決することが可能であるが,Auスタッドバンプの先部の洗浄不良や先部の硬度増加のために接合強度が低いという問題があった。
【0007】
本発明は,上記の問題に鑑みて為されたもので,その目的とするところは接合不良の発生がなく,且つ接合強度も高い常温下におけるフリップチップ実装方法を提供することにある。」

「【0009】
請求項1のフリップチップ実装方法の発明によれば,変形量の大きなAuスタッドバンプを用いることで,実装基板の板厚のばらつきを吸収してその影響を無くすことができ,加えて,AuスタッドバンプをアニールすることによりAuスタッドバンプの先部の硬度を低下させているので,圧接時にAuスタッドバンプが容易に変形するようになり,これにより半導体チップのAuスタッドバンプと実装基板の電極との接合面積を増加できる。そのため,高い接合強度を確保しつつ常温下での実装基板側電極と半導体チップ側のAuスタッドバンプの接合面との圧接接合ができ,その結果電気的接続の信頼性が高い所望のフリップチップ実装が行える。」

「【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下本発明を実施形態により説明する。
【0032】
(実施形態1)
本実施形態のフリップチップ実装方法は,図1に示すように第1工程(I)から第4工程(IV)までの4つの工程からなり,第1工程(I)はSiチップからなる半導体チップ1の表面に形成した薄膜の電極2の表面にAuスタッドバンプ3を形成するスタッドバンプ形成工程である。
【0033】
ここでAuスタッドバンプ3は切断性を保つために若干の不純物を含むが,99%以上,望ましくは99.99%以上のAuを含むワイヤを用いて形成する。ここで本実施形態では,例えば図2に示すように直径がφ25μmのワイヤを用い,基部の高さ(厚さ)が20?30μm,その直径が90±10μm,全高が70?120μmとなるAuスタッドバンプ3を形成している。
【0034】
次の第2工程(II)では,Auスタッドバンプ3を形成した半導体チップ1を窒素ガス(N_(2))等不活性ガス8が満たされているチャンバー9内に入れ,300℃に30分間加熱してアニール処理を行い,その後徐々に冷却し,Auの硬度の軟化,特にAuスタッドバンプ3の先端部(先部)3aの軟化を図る。
【0035】
この第2工程(II)では300℃にAuスタッドバンプ3が加熱されるため,Auが電極2へ拡散して電極2と半導体チップ1との密着強度が低下する恐れがある場合には,電極2の材料をCr,Ti,Ni,W等Auの拡散を抑制する金属材料から形成するか,或いは電極2と半導体チップ1との間にCr,Ti,Ni,W等Auの拡散を抑制する金属材料を介在させる。」

「【0048】
(実施形態3)
本実施形態の方法は,図4に示すように第1工程(I)から第5工程(V)までの5つの工程からなり,第1工程(I)はSiチップからなる半導体チップ1の表面に形成した薄膜の電極2の表面にAuスタッドバンプ3を形成するスタッドバンプ形成工程である。ここで,Auスタッドバンプ3は,実施形態1と同様に形成している。
【0049】
次の第2工程(II)は第1工程で形成した各Auスタッドバンプ3の先端部3aを押圧材たるレベリング材4によって押圧することで押潰し,高さが揃い且つ面積が増加した平坦な接合面5を形成する。このレベリング材4でAuスタッドバンプ3の先端部3aを押圧するバンプ1個当りの荷重は上記図2の例の場合には20gf/bump?80gf/bump程度とする。図5の(a)は20gf/bump,(b)は40gf/bump,(c)は80gf/bumpの荷重をかけた場合の接合面5の高さ位置を示す。表面粗さを所定以下とするために荷重を大きくした場合にはバンプ全体が潰れてしまうため,上記範囲が適正な範囲である。勿論Auスタッドバンプの大きさなどによって,荷重の適正範囲は変わる。
【0050】
ここでレベリング材4のAuスタッドバンプ3の先端部3aを押圧する押圧面の表面粗さ(Ra)を数10nm以下とすることで,該押圧面の粗さが転写される接合面5の表面の粗さを減少させることができ,そのため接合面積を増加させることで,後述する実装基板6の電極7との接合強度を増加させることができる。
【0051】
またレベリング材4でAuスタッドバンプ3の先端部3aを押圧する際に超音波発振器のホーンをレベリング材4に当てて超音波を印加すれば超音波振動によるAuスタッドバンプ3の接合面5の表面粗さを減少させることができ,上述のレベリング材4の押圧面の表面粗さ(Ra)を数10nm以下とすることと併せることで,実装基板6の電極7との接合強度を更に増加させることができる。
【0052】
さて,次の第3工程(III)では,Auスタッドバンプ3に上述のように接合面5を形成した半導体チップ1を窒素ガス(N_(2))等不活性ガス8が満たされているチャンバー9内に入れ,300℃に30分間加熱してアニール処理を行い,その後徐々に冷却し,Auの高度の軟化を図る。
【0053】
この第3工程(III)では300℃にAuスタッドバンプ3が加熱されるため,Auが電極2へ拡散して電極2と半導体チップ1との密着強度が低下する恐れがある場合には,電極2の材料をCr,Ti,Ni,W等Auの拡散を抑制する金属材料から形成するか,或いは電極2と半導体チップ1との間にCr,Ti,Ni,W等Auの拡散を抑制する金属材料を介在させる。
【0054】
次の第4工程(IV)では,上述のようにアニール処理が施された半導体チップ1及び実装基板6を減圧雰囲気に配置してArプラズマ若しくは高速原子ビームの様なエネルギー波を矢印で示すように照射する。この場合(a)に示す半導体チップ1ではAuスタッドバンプ3の接合面5に向けて照射し,接合面5の活性化(清浄化)を図る。また(b)に示す実装基板6の場合には表面にAuメッキ層7aを形成した薄膜の電極7側に向けて照射し,Auメッキ層7aの表面の活性化(清浄化)を図る。
【0055】
第5工程(V)では上述のように活性化処理された半導体チップ1のAuスタッドバンプ3の接合面5を活性化処理された実装基板6の電極7表面のAuメッキ層7aに(a)のように当接して矢印の方向に加圧(例えば1バンプ当りの荷重100?300gf/bump)すると,(b)のようにAuメッキ層7aに対しAuスタッドバンプ3の接合面が圧接して接合されることになる。つまり半導体チップ1がフリップチップ接合により実装基板6に実装されることになる。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には,図面とともに次の事項が記載されている。
「【0027】
まず,バンプ形成方法について述べる。なお,図2では,第1の接合部材11の一面11aに対して,第1のバンプ21を形成する場合を示しているが,第2の接合部材12に対する第2のバンプ22の形成方法も,これと同様である。
【0028】
図2(a)に示されるように,ボンディング装置におけるキャピラリ100の内部に挿入されたワイヤ110において,キャピラリ100の先端から導出された部分の先端に,放電加工などによりボール部111を形成する。
【0029】
次に,図2(b)に示されるように,このボール部111を,キャピラリ100を介して,第1の接合部材11の一面11a上の第1のパッド31に押し当てて変形させるとともに,熱や超音波振動を加えながら接合する。
【0030】
そして,キャピラリ100の先端部を引き上げて(図2(c)参照),キャピラリ100の先端部を,変形したボール部111の先端部に沿って,やや斜め下方に向けて動かすことにより(図2(d)参照),ワイヤ110をカットする(図2(e)参照)。
【0031】
こうして,図2(e)に示されるように,第1のバンプ21が作られる。このとき,バンプ21の先端面21aは,ワイヤ110をカットするときにキヤピラリ100が移動する方向に傾斜した傾斜面となる。
【0032】
第2のバンプ22も同様の方法によって,第2の接合部材22の一面22aに形成されるが,このようにして形成される両バンプ21,22の個々の形状は,一般的なものであり,たとえば,根元部すなわちパッド31,32側の部位から先端面21a,22aに向かって次第に細くなった円柱形状をなすものになる。
【0033】
このようなバンプ形成方法によって,第1の接合部材11の一面11aに複数個の第1のバンプ21を設け,第1の接合部材11の一面11aに対向させるべき第2の接合部材12の一面12aのうちそれぞれの第1のバンプ21と対向する位置に第2のバンプ22を設ける。」

「【0036】
本実施形態では,図3,図4に示されるように,複数個の第1のバンプ21からなるバンプ群において,個々の第1のバンプ21の先端面21aを,複数個の第1のバンプ21の重心Gと当該個々の第1のバンプ21とを結ぶ方向に沿って傾斜した傾斜面としている。そして,個々の傾斜面は,その傾斜の方向が各第1のバンプ21間で重心Gに向かって同じとなっている。
【0037】
本例では,図4(a)に示されるように,個々の第1のバンプ21の先端面21aについては,その傾斜の方向は,各先端面21aにおける重心G側の端部が,それとは反対側の端部よりも高くなる方向となっている。つまり,傾斜面としての各第1のバンプ21の先端面21aは,複数個の第1のバンプ21の重心Gとは反対方向を向いた外向きの傾斜構成となっている。
【0038】
一方,本実施形態では,図4(a)に示されるように,複数個の第2のバンプ22からなるバンプ群においても,個々の第2のバンプ22の先端面22aを,複数個の第2のバンプ22の重心Gと当該個々の第2のバンプ22とを結ぶ方向に沿って傾斜した傾斜面としている。そして,個々の傾斜面は,その傾斜の方向が各第2のバンプ22間で重心Gに向かって同じとなっている。
【0039】
つまり,本実施形態では,複数個の第1のバンプ21からなるバンプ群,複数個の第2のバンプ22からなるバンプ群のそれぞれにおいて,個々のバンプ21,22の先端面21a,22aは,その重心Gを中心として対称的な形状にて重心Gに向かって傾斜したものとなっている。以下,このようなバンプ群の構成を,「重心Gに対称な傾斜面構成」ということにする。
【0040】
ここで,本例では,個々の第2のバンプ22の先端面22aについては,その傾斜の方向は,各先端面22aにおける重心G側の端部が,それとは反対側の端部よりも低くなる方向となっている。つまり,第2のバンプ22における傾斜面としての各先端面22aは,本例の第1のバンプ21とは反対に,複数個の第2のバンプ22の重心Gの方を向いた内向きの傾斜構成となっている。」

第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)引用発明1を主引用発明とした検討
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると,次のことがいえる。
引用発明1における「第1の半導体チップ10」,「第1のバンプ31」,「第2の半導体チップ20」及び「第2のバンプ32」は,本願発明1における「第1部材」,「第1のワイヤボンディングバンプ」,「第2部材」及び「第2のワイヤボンディングバンプ」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明1との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「第1部材に第1のワイヤボンディングバンプを形成する工程と,
第2部材に第2のワイヤボンディングバンプを形成する工程と,
前記第2のワイヤボンディングバンプの先端部を平坦化して,バンプ平坦面を形成する工程と,
前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部と,前記第2のワイヤボンディングバンプの前記バンプ平坦面とを互いに圧着する圧着工程と
を具備し,
前記圧着工程より前に,前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部は,平坦化されない
接合方法。」

<相違点>
(相違点1)本願発明1の「第1のワイヤボンディングバンプ」及び「第2のワイヤボンディングバンプ」は,いずれも「第1電極上」及び「第2電極上」に形成されているのに対して,引用発明1には,その旨の特定がないこと。

(相違点2)本願発明1では,「第1のワイヤボンディングバンプ」と「第2のワイヤボンディングバンプ」は,「同じ材料」で形成されるのに対して,引用発明1では,第1のバンプ31が第2のバンプ32よりも硬い材料である,Pdを1%含有する金の合金により形成されるとともに,第2のバンプ32は,金の純度が4Nである,軟らかい,ほぼ純金により形成されていること。

(相違点3)本願発明1が,「前記第2のワイヤボンディングバンプが前記第1のワイヤボンディングバンプよりも高温となるように,前記第1のワイヤボンディングバンプを加熱せずに前記第2のワイヤボンディングバンプを加熱する加熱工程」であって,前記加熱工程は,前記第2のワイヤボンディングバンプを「軟化」するものである工程を備えるのに対して,引用発明1は,そのような工程を備えないこと。

イ 相違点についての判断
上記相違点2及び3を,まとめて検討する。
引用発明1において,上記相違点2及び3について,本願発明1の構成とするためには,引用発明1の「第2のバンプ32」を「金の純度が4Nである,軟らかい,ほぼ純金」で形成することに替えて,「第1のバンプ31」の形成に用いられている「硬い材料である,Pdを1%含有する金の合金」を用いて形成するとともに,引用発明1の工程に,「前記第2のワイヤボンディングバンプが前記第1のワイヤボンディングバンプよりも高温となるように,前記第1のワイヤボンディングバンプを加熱せずに前記第2のワイヤボンディングバンプを加熱する加熱工程」であって,前記加熱工程は,前記第2のワイヤボンディングバンプを「軟化」するものである工程を追加することを要するといえる。
しかしながら,引用文献1ないし4のいずれにも,「金の純度が4Nである,軟らかい,ほぼ純金」を,わざわざ「硬い材料である,Pdを1%含有する金の合金」に変更した上で,再び「軟らかい」ものとするために,「前記第2のワイヤボンディングバンプが前記第1のワイヤボンディングバンプよりも高温となるように,前記第1のワイヤボンディングバンプを加熱せずに前記第2のワイヤボンディングバンプを加熱する加熱工程」であって,前記加熱工程は,前記第2のワイヤボンディングバンプを「軟化」するものである工程を施すようにする技術的事項は記載されておらず,また,このような置き換えを採用する動機を見い出すこともできない。
なお,引用文献3には,99%以上,望ましくは99.99%以上のAuを含むワイヤを用いて形成するAuスタッドバンプ3を形成した半導体チップ1を窒素ガス(N_(2))等不活性ガス8が満たされているチャンバー9内に入れ,300℃に30分間加熱してアニール処理を行い,その後徐々に冷却し,Auの硬度の軟化,特にAuスタッドバンプ3の先端部(先部)3aの軟化を図ることが記載されているが,前記記載からは,「硬い材料である,Pdを1%含有する金の合金」にアニール処理を行うことで,「金の純度が4Nである,軟らかい,ほぼ純金」よりも軟らかくなるかは明らかではない。
しかも,引用文献3の記載からも明らかなように,アニール処理には,「窒素ガス(N_(2))等不活性ガス8が満たされているチャンバー9」等の新たな設備,「300℃に30分間加熱してアニール処理を行い,その後徐々に冷却し」等に要する時間,更に,「この第2工程(II)では300℃にAuスタッドバンプ3が加熱されるため,Auが電極2へ拡散して電極2と半導体チップ1との密着強度が低下する恐れがある場合には,電極2の材料をCr,Ti,Ni,W等Auの拡散を抑制する金属材料から形成するか,或いは電極2と半導体チップ1との間にCr,Ti,Ni,W等Auの拡散を抑制する金属材料を介在させる」等の新たな制約が生じることを鑑みれば,引用発明1において,上記相違点2及び3に係る構成を採用することには阻害事由が存在するものと認められる。
したがって,他の相違点については検討するまでもなく,本願発明1は当業者であっても引用発明1と引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

(2)引用発明2を主引用発明とした検討
ア 対比
本願発明1と引用発明2とを対比すると,次のことがいえる。
引用発明2における「第1の電子部品1」,「金属電極1a」,「金の突起電極4a」,「第2の電子部品2」,「金属電極2a」及び「金の突起電極4b」は,本願発明1における「第2部材」,「第2電極」,「第2のワイヤボンディングバンプ」,「第1部材」,「第1電極」及び「第1のワイヤボンディングバンプ」に相当する。

したがって,本願発明1と引用発明2との間には,次の一致点,相違点があるといえる。
<一致点>
「第1部材に配置された第1電極上に第1のワイヤボンディングバンプを形成する工程と,
第2部材に配置された第2電極上に第2のワイヤボンディングバンプを形成する工程と,
前記第2のワイヤボンディングバンプの先端部を平坦化して,バンプ平坦面を形成する工程と,
前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部と,前記加熱工程により軟化した前記第2のワイヤボンディングバンプの前記バンプ平坦面とを互いに圧着する圧着工程と
を具備し,
前記圧着工程より前に,前記第1のワイヤボンディングバンプの先端部は,平坦化されない
接合方法。」

<相違点>
(相違点4)本願発明1では,「第1のワイヤボンディングバンプ」と「第2のワイヤボンディングバンプ」は,「同じ材料」で形成されるのに対して,引用発明2では,この点が特定されていない点。

(相違点5)本願発明1が,「前記第2のワイヤボンディングバンプが前記第1のワイヤボンディングバンプよりも高温となるように,前記第1のワイヤボンディングバンプを加熱せずに前記第2のワイヤボンディングバンプを加熱する加熱工程」であって,前記加熱工程は,前記第2のワイヤボンディングバンプを「軟化」するものである工程を備えるのに対して,引用発明2は,そのような工程を備えないこと。

イ 相違点についての判断
相違点5について検討する。
引用文献1ないし4のいずれにも,引用発明2において,相違点5に係る構成を採用する動機を見い出すことができない。そして,本願発明1は,上記構成を採用したことにより,発明の詳細な説明に記載した格別の効果を奏するものと認められる。
したがって,本願発明1は,当業者であっても引用発明2と,引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2-4について
本願発明2-4も,本願発明1と同一の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明1又は2,及び引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第6 原査定について
理由2(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により,本願発明1-4は「第1のワイヤボンディングバンプと同じ材料で第2のワイヤボンディングバンプを形成」および「前記第1のワイヤボンディングバンプを加熱せずに前記第2のワイヤボンディングバンプを加熱する」という事項を有するものとなっており,当業者であっても,拒絶査定において引用された引用文献1-4に基づいて,容易に発明できたものとはいえない。したがって,原査定の理由2を維持することはできない。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-10 
出願番号 特願2015-45259(P2015-45259)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小川 将之  
特許庁審判長 恩田 春香
特許庁審判官 小田 浩
加藤 浩一
発明の名称 接合方法  
代理人 狩野 芳正  

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