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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F25J
審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  F25J
審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  F25J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F25J
管理番号 1354914
異議申立番号 異議2018-700555  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-07-09 
確定日 2019-07-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6257656号発明「空気分離装置、アルゴンを含有する生成物を獲得する方法、及び、空気分離装置を建造する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6257656号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正することを認める。 特許第6257656号の請求項1?15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6257656号の請求項1?15に係る特許についての出願は、2014年(平成26年) 3月 5日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2013年 3月 6日 欧州特許庁(EP))を国際出願日として特許出願され、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年 1月10日に特許掲載公報が発行され、同年 7月 9日付けで特許異議申立人 小林 瞳(以下、「申立人」という。)により全ての請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、平成30年 9月19日付けで当審より取消理由が通知され、同年12月20日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、平成31年 1月 9日付けで当審より訂正拒絶理由が通知され、同年 3月 5日付けで特許権者より意見書が提出され、同年 4月 1日付けで刊行物等提出書が提出され、令和 1年 6月 4日付けで申立人より意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。

第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)が、共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送される」と記載されているのを、
「前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)が、共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送され、前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域と前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域とは、夫々、前記ポンプ(18)の吸い込み側に直接接続されている」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2?15も同様に訂正する)。

2 訂正要件の判断
(1)訂正拒絶理由(新規事項の存否)について
平成31年 1月 9日付け訂正拒絶理由通知書における訂正拒絶理由の概要は、以下のとおりである。



本件特許図面(【図1】)には、低圧塔の頂部(3)の下側領域と、粗アルゴン塔の底部(4)の下側領域は、合流した後に一つの管路でポンプ(18)の吸い込み側に接続されることが記載されているのであって、夫々、ポンプ(18)の吸い込み側に直接接続されていることが記載も示唆もされているとはいえないし、このことが、本件特許明細書の記載から自明の事項であるということもできない。
したがって、本件訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるとはいえないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合しないので、本件訂正請求は適法な訂正請求とはいえず、拒絶すべきものである。

これに対し、特許権者の意見書によれば、「ポンプの吸い込み側」には、ポンプ自体の吸い込み口だけでなく、ポンプに接続された、吸い込み作用が働く管路も包含するものと認められるから、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲、又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であると認める。
したがって、訂正拒絶理由は理由がない。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1による訂正は、空気分離装置における低圧塔の頂部の下側領域、粗アルゴン塔の底部の下側領域、及びポンプの吸い込み側の接続について、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の底部の下側領域とは、夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1による訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項2?15は、いずれも、直接的または間接的に訂正前の請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1?15は、一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、この一群の請求項について訂正の請求をするものである。
また、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。

3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第4項並びに第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?15〕について訂正を認める。

第3 本件発明
本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1?15に係る発明(以下、「本件発明1」?「本件発明15」といい、まとめて「本件発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得するために構成されている空気分離装置(100)であって、
前記空気分離装置(100)は、高圧塔(1)と、複数の部分から構成された低圧塔と、複数の部分から構成された粗アルゴン塔とを有し、
前記複数の部分から構成された低圧塔は、底部(2)と、該底部(2)から空間的に分離して配置された頂部(3)とを有し、
前記複数の部分から構成された粗アルゴン塔は、底部(4)と、該底部(4)から空間的に分離して配置された頂部(5)とを有し、
前記高圧塔(1)において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れ(d)が獲得され、
前記低圧塔において、前記酸素が富化された流れ(d)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンが富化された流れ(m)が獲得され、
前記粗アルゴン塔において、前記アルゴンが富化された流れ(m)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れ(n)が獲得される
空気分離装置(100)において、
前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)が、共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送され、前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域と前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域とは、夫々、前記ポンプ(18)の吸い込み側に直接接続されている
ことを特徴とする、空気分離装置(100)。
【請求項2】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)及び/又は前記頂部(5)は、測地的に少なくとも部分的に前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の空気分離装置(100)。
【請求項3】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)は、測地的に完全に前記低圧塔の前記頂部(3)の上方に配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の空気分離装置(100)。
【請求項4】
前記低圧塔の前記底部(2)は、垂直平面図において前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置されており、
及び/又は、
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)は、垂直平面図において前記粗アルゴン塔の前記頂部(5)に隣接して配置されている
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項5】
前記高圧塔(1)は、前記低圧塔の前記底部(2)と共に1つのコールドボックス内に配置されている
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項6】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)は、前記低圧塔の前記頂部(3)と共に1つのコールドボックス内に配置されている
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項7】
少なくとも、前記低圧塔の前記頂部(3)と、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)とを備える前記コールドボックスは、配管モジュールによって前記空気分離装置(100)の別の構成要素に接続される
ことを特徴とする、請求項6記載の空気分離装置(100)。
【請求項8】
前記高圧塔(1)と、前記低圧塔の前記底部(2)とは、1つの構造ユニットとして構成されており、かつ、主凝縮器(12)を介して互いに熱交換されるように接続されている
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項9】
前記空気分離装置(100)は、精製アルゴン塔(6)をさらに有し、
前記精製アルゴン塔の少なくとも1つの流体は、前記酸素が富化された流れ(d)によって冷却される
ことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項記載の空気分離装置(100)により、圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得する方法であって、
高圧塔(1)と、複数の部分から構成された低圧塔と、複数の部分から構成された粗アルゴン塔とを使用し、但し、前記複数の部分から構成された低圧塔は、底部(2)と、該底部(2)から空間的に分離して配置された頂部(3)とを有し、前記複数の部分から構成された粗アルゴン塔は、底部(4)と、該底部(4)から空間的に分離して配置された頂部(5)とを有し、
前記高圧塔(1)において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れ(d)を獲得し、
前記低圧塔において、前記酸素が富化された流れ(d)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンが富化された流れ(m)を獲得し、
前記粗アルゴン塔において、前記アルゴンが富化された流れ(m)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れ(n)を獲得し、
前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)を、共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送する
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)及び/又は前記頂部(5)は、測地的に少なくとも部分的に前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置されている
ことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)は、測地的に完全に前記低圧塔の前記頂部(3)の上方に配置されている
ことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項記載の空気分離装置(100)を建造する方法であって、
高圧塔(1)と、底部(2)及び頂部(3)を備える、複数の部分から構成された低圧塔と、底部(4)及び頂部(5)を備える、複数の部分から構成された粗アルゴン塔とを用意し、
さらに、共通の1つのポンプ(18)を用意し、
前記共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)を、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送する
ことを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)及び/又は前記頂部(5)を、測地的に少なくとも部分的に前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置する
ことを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)を、測地的に完全に前記低圧塔の前記頂部(3)の上方に配置する
ことを特徴とする、請求項13記載の方法。」

第4 異議申立理由の概要
申立人は、甲第1号証?甲第7号証を提示し、以下の申立理由1?申立理由7によって、本件発明1?15に係る特許を取り消すべきものである旨を主張している。
[申立人が提出した証拠方法]
甲第1号証:独国実用新案第202006004478号明細書
甲第2号証:特開2004-251569号公報
甲第3号証:Heinz-Wolfgang Haering,Industrial Gases Processing,WILEY-VHC Verlag GmbH Co. KGaA,2008,p.22-23,26,28-31,57-59
甲第4号証:特開平11-72285号公報
甲第5号証:米国特許出願公開第2003/0089126号明細書
甲第6号証:特開平6-194035号公報
甲第7号証:米国特許出願公開第2013/0139548号明細書

1 申立理由1(特許法第29条第1項)
訂正前の請求項1、2、4?8、10、11、13、14に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、又は、実質的に記載されているに等しい発明である。

2 申立理由2(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項1、2、5、8、10、11、13、14に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 申立理由3(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項1、3?8、10、12、13、15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証?甲第4号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 申立理由4(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項1、9に係る発明には、本件特許の2013年 3月 6日に係る優先権主張の効果が認められないから、新規性進歩性の判断基準日は、国際出願日である2014年 3月 5日となるものである。
そして、訂正前の請求項1、9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、本件特許の国際出願日前に発行された甲第7号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

5 申立理由5(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の優先日以前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 申立理由6(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項7に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第5号証?甲第6号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

7 申立理由7(特許法第29条第2項)
訂正前の請求項9に係る発明は、甲第2号証に記載された発明と、甲第3号証に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 取消理由の概要
平成30年 9月19日付け取消理由通知書における取消理由の概要は、以下のとおりである。

本件訂正前の請求項1?15に係る発明は、甲第2号証に記載された発明、甲第3号証?甲第6号証の記載事項及び本件特許に係る優先日の時点における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?15に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

第6 取消理由についての判断
1 甲第2号証の記載事項
本件優先日前に公知の文献である甲第2号証(特開2004-251569号公報)には、以下の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料空気圧縮機にて大気から圧縮され、吸着塔にて前処理された空気を原料とし、深冷分離法にて原料の空気から酸素、窒素またはアルゴンを分離連続生産するコールドボックスを有する深冷空気分離装置であって、
下塔、主凝縮器及び上塔の組合せからなる精留分離の主機である精留塔において前記上塔を少なくとも第1及び第2の部分に分割し、該分割された上塔の第1の部分を前記主凝縮器の上部に設け、さらに前記分割された上塔の第1の部分と第2の部分を管路で接続して構成し、前記下塔から液体窒素及び液体空気を上塔の第2の部分へ移送する管路を設けたことを特徴とする深冷空気分離装置。」

(2b)「【0022】
深冷空気分離装置(プラント)は、空気圧縮機(図示せず)等にて大気から圧縮され、吸着塔(図示せず)等にて水分除去、CO_(2)除去等を前処理された空気を原料とし、深冷分離法にて原料の空気から酸素、窒素、アルゴン等を分離連続生産するコールドボックスを有して構成される。
【0023】
まず、本発明に係る深冷空気分離装置で粗アルゴン塔が附加された精留塔の第1の実施例について説明する。
図1は、本発明に係る深冷空気分離装置で粗アルゴン塔18が附加された精留塔の第1の実施例の構成と各機器との系統を示す。図示のように精留塔の組合せは、下塔1、主凝縮器2、上塔(第2の部分)A4および上記主凝縮器2の上部に直接設置した上塔(第1の部分)B14から構成される。
【0024】
吸着塔(図示せず)等で大気中の水分とCO_(2)を除去し、熱交換器(図示せず)で冷却された原料空気22は、下塔1に供給される。下塔1内で原料空気は精留分離され、下塔1の上部では窒素濃度の高い液体窒素、下塔1の底部では液体空気となる。下塔1で精留分離された液体窒素は下塔1の上部から管路3を介して並設された上塔(第2の部分)A4へ供給される。下塔1の中部の液体窒素は管路5を介して上塔A4へ供給される。下塔1の底部の液体空気は管路6を介して上塔A4へ供給され、一部は管路7を介して粗アルゴン塔の凝縮器8へ供給される。粗アルゴン塔の凝縮器8で蒸発したガスは管路9と管路5の一部を介して上塔4へ供給される。
【0025】
下塔1から供給された液体窒素と液体空気は上塔A4で精留分離される。精留分離された高純度の窒素ガスは上塔A4の頂部から管路10を介して窒素ガス31として使用される。上塔A4の底部に蓄積される液体は高純度の酸素に分離するため管路11、ポンプ12、管路13を介して主凝縮器2の上部に設けられた上塔(第1の部分)B14に供給される。上塔B14で精留分離された液体酸素は主凝縮器2に蓄積される、主凝縮器2で蒸発したガスの一部は管路15を介して酸素ガス30として使用される。残りのガスは精留分離の上昇ガスとして上塔B14、管路16を介して上塔A4の底部に戻る。
【0026】
上塔A4の底部を粗アルゴン抽出に最適となるように(上塔の分割位置を粗アルゴン抽出位置となるように)、上塔A4と上塔B14とに分割しておけば、上塔A4の底部のガスは管路17を介して直接粗アルゴン塔18へ供給することができる。その結果、粗アルゴン塔18へ供給されたガスは精留分離されて粗アルゴン塔18の上部から粗アルゴンガス33として抽出されて使用される。粗アルゴン塔18の底部の液体は管路19を介して上塔A4の底部へもどる。
・・・
【0032】
また、本実施の形態の第3の特徴は、粗アルゴン塔18が附加された場合において、上塔の分割部(例えば上塔A4の底部)を上塔の粗アルゴン塔18への粗アルゴン抽出部にしたことにある。粗アルゴン塔18の運転において上塔A4から抽出されるガス中に窒素濃度が増えると粗アルゴン塔18の負荷が変動し、アルゴン塔18から上塔A4に戻る液体が急に増加する。この場合、この液体は直接上塔B14の精留分離部分に供給されず、上塔A4の底部に一旦蓄液され、その後上塔B14に供給配分されることになり、上塔B14の精留分離部分への負荷変動を少なくすることができる。」 (当審注:【0032】の「アルゴン塔18から上塔A4に戻る液体が急に増加する。」との記載は「粗アルゴン塔18から上塔A4に戻る液体が急に増加する。」の誤記と認める。)

(2c)「【図1】




(ア)前記(2a)によれば、甲第2号証には深冷空気分離装置に係る発明が記載されており、前記(2b)?(2c)によれば、当該深冷空気分離装置は、下塔1と、第2の部分A4及び第1の部分B14から構成された上塔と、粗アルゴン塔18とを有するものである。

(イ)また、前記深冷空気分離装置においては、原料空気は下塔1内で精留分離されて、その底部で液体空気となり、該液体空気は管路6を介して上塔の第2の部分A4へ供給され、一部は管路7を介して粗アルゴン塔の凝縮器8へ供給され、粗アルゴン塔の凝縮器8で蒸発したガスは管路9と管路5の一部を介して上塔4へ供給されるものであり、上塔A4の底部が粗アルゴン抽出に最適となるように、上塔を、上塔の第2の部分A4と上塔の第1の部分B14とに分割して、上塔の第2の部分A4の底部のガスを直接粗アルゴン塔18へ供給するものである。
そして、このとき、前記深冷空気分離装置においては、前記下塔において、原料空気が精留分離されて、その底部で液体空気となり、前記上塔において、前記液体空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの粗アルゴン抽出に最適な流れが獲得されるものといえる。

(ウ)更に、前記深冷空気分離装置においては、粗アルゴン塔18へ供給されたガスは精留分離されて粗アルゴン塔18の上部から粗アルゴンガス33として抽出されて使用され、粗アルゴン塔18の底部の液体は上塔の第2の部分A4の底部へもどるものであり、上塔の第2の部分A4の底部に蓄積される液体は、高純度の酸素に分離するため管路11、ポンプ12、管路13を介して主凝縮器2の上部に設けられた上塔の第1の部分B14に供給されるものである。
そして、このとき、前記深冷空気分離装置においては、前記粗アルゴン塔18において、前記粗アルゴン抽出に最適な流れの少なくとも一部から、少なくとも1つの粗アルゴンが獲得されるものといえ、更に、前記粗アルゴン塔18の底部の液体が前記上塔の第2の部分A4の底部へもどされ、前記上塔の第2の部分A4の底部に蓄積される液体からの流れが、ポンプ12によって、前記上塔の第1の部分B14の上側領域へと移送されるものといえる。

(エ)前記(ア)?(ウ)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲2発明」という。)。
「深冷空気分離装置であって、
前記深冷空気分離装置は、下塔と、第1の部分及び第2の部分から構成された上塔と、粗アルゴン塔とを有し、
前記下塔において、原料空気が精留分離されて、その底部で液体空気となり、
前記上塔において、前記液体空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの粗アルゴン抽出に最適な流れが獲得され、
前記粗アルゴン塔において、前記粗アルゴン抽出に最適な流れの少なくとも一部から、少なくとも1つの粗アルゴンが獲得される
深冷空気分離装置において、
前記粗アルゴン塔の底部の液体が前記上塔の第2の部分の底部へもどされ、前記上塔の第2の部分の底部に蓄積される液体からの流れが、ポンプによって、前記上塔の第1の部分の上側領域へと移送される、深冷空気分離装置。」

2 対比・判断
(1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明における「深冷空気分離装置」は、前記1(2a)?(2c)によれば、空気圧縮機等にて大気から圧縮され、吸着塔等にて水分除去、CO_(2)除去等を前処理された空気を原料とし、深冷分離法にて原料の空気から酸素、窒素、アルゴン等を分離連続生産するコールドボックスを有して構成されるものであるから、本件発明1における「圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得するために構成されている空気分離装置」に相当し、甲2発明における「下塔」は、本件発明1における「高圧塔」に相当し、甲2発明における「第1の部分及び第2の部分から構成された上塔」は、本件発明1における「複数の部分から構成された低圧塔」に相当し、甲2発明における上塔の「第1の部分」は、本件発明1における低圧塔の「底部」に相当し、甲2発明における上塔の「第2の部分」は、本件発明1における低圧塔の「該底部から空間的に分離して配置された頂部」に相当する。

(イ)甲2発明における「液体空気」は本件発明1における「酸素が富化された流れ」に相当するから、甲2発明において、下塔において原料空気が精留分離されて、その底部で「液体空気」となることは、本件発明1において「前記高圧塔において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れが獲得される」ことに相当し、甲2発明における「粗アルゴン抽出に最適な流れ」は本件発明1における「アルゴンが富化された流れ」に相当するから、甲2発明において、上塔において前記「液体空気」の少なくとも一部から少なくとも1つの「粗アルゴン抽出に最適な流れ」が獲得されることは、本件発明1において「前記低圧塔において、前記酸素が富化された流れの少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンが富化された流れが獲得される」ことに相当し、甲2発明における「粗アルゴン」は本件発明1における「アルゴンに富む流れ」に相当するから、甲2発明において、前記粗アルゴン塔において前記「粗アルゴン抽出に最適な流れ」の少なくとも一部から少なくとも1つの「粗アルゴン」が獲得されることは、本件発明1において「前記粗アルゴン塔において、前記アルゴンが富化された流れの少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れが獲得される」ことに相当する。

(ウ)更に、甲2発明における「粗アルゴン塔の底部」は本件発明1における「粗アルゴン塔」の「下側領域」に相当し、甲2発明における「上塔の第2の部分の底部に蓄積される液体からの流れ」は、本件発明1における「低圧塔の頂部の下側領域からの流れ」と、「粗アルゴン塔」の「下側領域からの流れ」とを合わせた「流れ」の少なくとも一部となる「液体流れ」に相当し、甲2発明におけるポンプは本件発明1における「共通の一つのポンプ」に相当するから、甲2発明において、前記粗アルゴン塔の底部の液体が前記上塔の第2の部分の底部へもどされ、前記上塔の第2の部分の底部に蓄積される液体からの流れが、ポンプによって前記上塔の第1の部分の上側領域へと移送されることは、本件発明1において、「低圧塔の頂部の下側領域からの流れ」と、「粗アルゴン塔」の「下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れが、共通の1つのポンプによって、前記低圧塔の底部の上側領域へと移送される」ことに相当する。

(エ)前記(ア)?(ウ)によれば、本件発明1と甲2-1発明とは、
「圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得するために構成されている空気分離装置であって、
前記空気分離装置は、高圧塔と、複数の部分から構成された低圧塔と、粗アルゴン塔とを有し、
前記複数の部分から構成された低圧塔は、底部と、該底部から空間的に分離して配置された頂部とを有し、
前記高圧塔において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れが獲得され、
前記低圧塔において、前記酸素が富化された流れの少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンが富化された流れが獲得され、
前記粗アルゴン塔において、前記アルゴンが富化された流れの少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れが獲得される、
空気分離装置において、
前記低圧塔の前記頂部の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れが、共通の1つのポンプによって、前記低圧塔の前記底部の上側領域へと移送される、空気分離装置。」である点で一致しており、以下の点で相違している。

相違点2-1:本件発明1においては、「粗アルゴン塔」が、「複数の部分から構成された粗アルゴン塔」であって、「前記複数の部分から構成された粗アルゴン塔は、底部と、該底部から空間的に分離して配置された頂部とを有」するのに対して、甲2発明においては「粗アルゴン塔」が単一の「粗アルゴン塔」である点。

相違点2-2:本件発明1においては、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の底部の下側領域とは、夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」のに対して、甲2発明においては、「粗アルゴン塔から低圧塔の頂部に戻る液体」は、「低圧塔の頂部の底部に一旦蓄液され、その後低圧塔の底部に供給配分される」点。

イ 判断
(ア)事案に鑑み、前記相違点2-2から検討すると、前記1(2b)(【0032】)によれば、甲2発明は、粗アルゴン塔の運転において低圧塔の頂部から抽出されるガス中に窒素濃度が増えると粗アルゴン塔の負荷が変動し、粗アルゴン塔から低圧塔の頂部に戻る液体が急に増加するが、この場合、この液体は直接「低圧塔の底部」の精留分離部分に供給されず、「低圧塔の頂部」の底部に一旦蓄液され、その後「低圧塔の底部」に供給配分されることになり、「低圧塔の底部」の精留分離部分への負荷変動を少なくすることができるものである。

(イ)そして、甲2発明において、「粗アルゴン塔の下側領域」を「ポンプの吸い込み側に直接接続」することは、「粗アルゴン塔の下側領域」からの流れを「低圧塔の底部」の精留分離部分に直接供給するものとなるから、「低圧塔の底部」の精留分離部分への負荷変動を少なくする、という甲2発明の機能を損なうものとなるので、阻害要因があるといえる。
更に、このことは、甲第3号証?甲第6号証の記載事項に左右されるものではない。

(ウ)してみれば、甲2発明において、仮に、相違点2-1について、「粗アルゴン塔」を、「底部と、該底部から空間的に分離して配置された頂部とを有」するものとすることを当業者が容易なし得るとしても、そこから進んで、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の底部の下側領域と」を、「夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」ものとして、前記相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第3号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、本件発明1を、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明2?15について
(ア)本件発明2?15は、いずれも、直接的又は間接的に本件発明1を引用するものであり、本件発明2?15と甲2発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点2-2の点で相違するものである。

(イ)そして、甲2発明において、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の底部の下側領域と」を、「夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」ものとして、前記相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第3号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないので、本件発明1を、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないことは、上記(1)イ(ウ)に記載のとおりであるから、同様の理由により、本件発明2?15も、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

3 小括
以上のとおりであるので、平成30年 9月19日付け取消理由通知書における取消理由は理由がない。

第7 異議申立理由についての判断
前記第4の異議申立理由のうち、甲第2号証を主引用例とする異議申立理由2、3、6、7は、平成30年 9月19日付け取消理由通知書における取消理由と実質的に同じものであって、前記取消理由は理由がないことは前記第6の3に記載のとおりであるから、前記異議申立理由2、3、6、7は、前記第6の3に記載したのと同様の理由により理由がない。
そこで、以下、前記第4の異議申立理由のうち、異議申立理由1、4、5について検討し、更に、刊行物等提出書に記載された理由について補足的に検討する。
1 甲第1号証を主引用例とする異議申立理由1、5について
(1)甲第1号証の記載事項
申立人が証拠方法として提出した、本件優先日前に公知の文献である甲第1号証(独国実用新案第202006004478号明細書)には、以下の記載がある。
(1a)「Schutzansprueche
1. Vorrichtung zur Tieftemperaturzerlegung von Luft mit einem Destilliersaeulen-System zur Stickstoff-Sauerstoff-Trennung, das eine Hochdrucksaeule, eine Niederdrucksaeule und eine Zusatzsaeule aufweist, die an ihrem oberen Ende mit der Niederdrucksaeule kommuniziert, mit Mitteln zur Zufuehrung von Einsatzluft in das Destilliersaeulen-System zur Stickstoff-Sauerstoff-Trennung, mit einer Rohargonsaeule, mit einer Argonuebergangsleitung zur Zufuehrung einer argonhaltigen Fraktion aus dem Destilliersaeulen-System zur Stickstoff-Sauerstoff-Trennung in die Rohargonsaeule, dadurch gekennzeichnet, dass die Zusatzsaeule mindestens teilweise als Trennwandkolonne ausgebildet ist, wobei die Argonuebergangsleitung mit einer Zwischenstelle der Zusatzsaeule verbunden ist.

2. Vorrichtung nach Anspruch 1, dadurch gekennzeichnet, dass die Zwischenstelle der Zusatzsaeule sich innerhalb des Trennwandabschnitts der Zusatzsaeule befindet.

3. Vorrichtung nach Anspruch 1 oder 2, dadurch gekennzeichnet, dass die Zusatzsaeule an ihrem oberen Ende mit einer ersten Zwischenstelle der Niederdrucksaeule und ausserdem an ihrem unteren Ende mit ein zweiten Zwischenstelle der Niederdrucksaeule kommuniziert.

4. Vorrichtung nach Anspruch 3, dadurch gekennzeichnet, dass zwischen der ersten und der zweiten Zwischenstelle der Niederdrucksaeule eine vertikale Trennwand angeordnet ist. 」
(当審訳:請求の範囲
1.高圧塔、低圧塔およびその上端で低圧塔と連通する補助塔を含む窒素-酸素分離のための蒸留塔システムを用いた空気の極低温分離のための装置であって、粗アルゴン塔で窒素-酸素分離のために蒸留塔システムからアルゴン含有画分を供給するアルゴン移送ラインを備えた粗アルゴン塔を有する窒素-酸素分離のための蒸留塔システムであり、少なくとも部分的に隔壁が形成される補助塔の中間点にアルゴン移送ラインが接続されている装置。

2.補助塔の中間点は、補助塔の隔壁部分内に位置することを特徴とする請求項1に記載の装置。

3.前記補助塔は、その上端が前記低圧塔の第1の中間点と連通し、その下端が前記低圧塔の第2の中間点と連通することを特徴とする請求項1または2に記載の装置。

4.前記低圧塔の第1中間点と第2中間点との間に、水平隔壁が配置されていることを特徴とする請求項3に記載の装置。)

(1b)「[0001] Die Erfindung betrifft ein eine Vorrichtung zur Tieftemperaturzerlegung gemaess dem Oberbegriff des Schutzanspruchs 1.

[0002]Derartige Luftzerlegungsanlagen mit mindestens zwei Saeulen zur Stickstoff-Sauerstoff-Trennung und einer Rohargonsaeule sind allgemein bekannt.・・・

[0003] Der Erfindung liegt die Aufgabe zugrunde, eine derartige Vorrichtung weiter zu verbessern.

[0004] Diese Aufgabe wird dadurch geloest, dass die Zusatzsaeule mindestens teilweise als Trennwandkolonne ausgebildet ist, wobei die Argonuebergangsleitung mit einer Zwischenstelle der Zusatzsaeule verbunden ist. Auf diese Weise dient die Zusatzsaeule nicht nur zur Erhoehung der Reinheit des Sauerstoffprodukts, sondern bewirkt auch eine Erhoehung der Argonausbeute.」
(当審訳:[0001]本発明は、請求項1の上位概念に記載の低温分離のための装置に関する。

[0002]窒素-酸素分離用の少なくとも2の塔および粗アルゴン塔を有するこの種の空気分離設備は、一般的に公知である。・・・

[0003]本発明の課題は、この種の装置をさらに改善することである。

[0004]この課題は、補助塔が少なくとも部分的に隔壁カラムとして形成され、アルゴンの移行ラインが補助塔の中間部に接続されていることによって達成される。この方法では、補助塔は酸素生成物の純度を増加させるだけでなく、アルゴンの収率を高めることもできる。」

(1c)「[0009] Ueber Leitung 1 wird verdichtete, gereinigte und abgekuehlte Einsatzluft in ein Destilliersaeulen-System zur Stickstoff-Sauerstoff-Trennung eingeleitet, das eine Hochdrucksaeule 2, eine Niederdrucksaeule 3, eine Zusatzsaeule 4 und einen Hauptkondensator 5 aufweist, ueber den Hochdrucksaeule und Niederdrucksaeule in waermetauschender Verbindung stehen. Sauerstoffangereicherte Fluessigkeit 6 vom Sumpf der Hochdrucksaeule 2 wird in die Zusatzsaeule 4 eingeleitet und zwar auf der ersten Seite einer vertikalen Trennwand 7, die mindestens einen Teil der Zusatzsaeule in zwei seitlich voneinander getrennte Rektifizierbereiche trennt.

[0010] Weiter an Sauerstoff angereicherte Sumpffluessigkeit 8 der Zusatzsaeule 4 wird ueber eine Pumpe 9 und Leitung 10 in einen unteren Abschnitt der Niederdrucksaeule eingeleitet, unmittelbar unterhalb einer gas- und fluessigkeitsdichten horizontalen Trennwand 11, die diesen von einem oberen Abschnitt der Niederdrucksaeule trennt. An derselben Stelle der Niederdrucksaeule wird Dampf 12 abgezogen und in den Sumpfbereich der Zusatzsaeule eingeleitet. Aus dem unteren Bereich der Niederdrucksaeule wird mindestens ein Sauerstoffprodukt abgezogen, in dem Beispiel ueber Leitung 13 in Gasform.

[0011] Das Kopfgas 14 der Zusatzsaeule 4 wird unmittelbar oberhalb der horizontalen Trennwand 11 in die Niederdrucksaeule 3 eingefuehrt und dient dort als aufsteigendes Gas. Umgekehrt wird die Ruecklauffluessigkeit der Niederdrucksaeule oberhalb der Trennwand 11 aufgefangen, ueber Leitung 15 auf den Kopf der Zusatzsaeule aufgegeben und auf die beiden Rektifizierbereiche diesseits und jenseits der Trennwand 7 verteilt. Dem aufsteigenden Dampf wird in der Niederdrucksaeule fluessiger Stickstoff als Ruecklauffluessigkeit entgegengeschickt. Vom Kopf der Niederdrucksaeule 3 werden ein gasfoermiges Stickstoffprodukt 17 und gegebenenfalls ein fluessiges Stickstoffprodukt 18 abgezogen.

[0012] Aus dem zweiten Rektifizierbereich der Zusatzsaeule, der durch die Trennwand 7 von der Einmuendung der Leitung 6 getrennt ist, wird an einer Zwischenstelle ueber eine Argonuebergangsleitung 19 eine argonhaltige Fraktion abgezogen und einer Rohargonsaeule 20 zugeleitet, die auf die bekannte Weise arbeitet und insbesondere einen Kopfkondensator 21 aufweist. Die Ruecklauffluessigkeit der Rohargonsaeule stroemt ueber Leitung 22 zurueck in die Zusatzsaeule, vorzugsweise an die Stelle der Argonuebergangsleitung 19. 」
(当審訳:[0009]ライン1を介して、圧縮され、精製され、冷却された供給空気が、高圧塔2、低圧塔3、補助塔4、および主凝縮器5を含む窒素-酸素分離蒸留塔系に導入され、高圧塔2および低圧塔3を介して熱交換接続される。高圧塔2の底部からの酸素富化液体6は、隔壁7の第一の精留領域側で、補助塔4に導入され、この隔壁7の少なくとも一部は、補助塔4の少なくとも一部を横方向に分離された精留領域に分離する。

[0010]さらに、補助塔4の酸素富化塔底液8は、ポンプ9及び導管10を介して低圧塔3の下部に導入され、低圧塔3の上部から分離した気液密の水平隔壁11の直下に導入される。低圧塔3の同じ位置で、蒸気12を除去し、補助塔4の底部領域に導入する。低圧塔3の下側領域から、少なくとも一つの酸素生成物が抜き出され、この例では、導管13を介してガス状の酸素生成物が得られる。

[0011]補助塔4の頂部ガス14は、水平隔壁11の直上で低圧塔3に導入され、上昇ガスとして作用する。逆に、低圧塔3の還流液は水平隔壁11の上方に集められ、導管15を介して補助塔4の頂部に供給され、隔壁7の両側の二つの精留領域に分配される。低圧塔3では、液体窒素が、低圧塔3内で還流液として送られる。低圧塔3の頂部から、ガス状窒素生成物17および場合によっては液体窒素生成物18が取り出される。

[0012]隔壁7によって導管6の開口部から分離されている補助塔4の第2の精留領域から、アルゴンの移行ライン19を介して中間の位置でアルゴン含有フラクションが除去され、粗アルゴン塔20に供給され、この粗アルゴン塔20は、公知の方法で作動し、特にヘッド凝縮器21を有する。粗アルゴン塔20の還流液は、ライン22を介して、好ましくはアルゴンの移行ライン19の位置で、補助塔4に戻される。」

(1d)「



(ア)前記(1a)によれば、甲第1号証には、高圧塔、低圧塔およびその上端で低圧塔と連通する補助塔を含む窒素-酸素分離のための蒸留塔システムを用いた空気の極低温分離のための装置が記載されており、前記(1b)によれば、前記装置は、窒素-酸素分離用の少なくとも2の塔および粗アルゴン塔を有する空気分離設備をさらに改善することを課題とするものであって、この課題は、補助塔が少なくとも部分的に隔壁カラムとして形成され、アルゴンの移行ラインが補助塔の中間部に接続されていることによって達成されるものであり、補助塔は酸素生成物の純度を増加させるだけでなく、アルゴンの収率を高めることもできるものである。

(イ)具体的には、前記(1c)、(1d)によれば、前記装置においては、ライン1を介して、圧縮され、精製され、冷却された供給空気が、高圧塔2、低圧塔3、補助塔4、および主凝縮器5を含む窒素-酸素分離蒸留塔系に導入されるものであり、高圧塔2の底部からの酸素富化液体6は、隔壁の第1の精留領域側で補助塔4に導入され、この隔壁7の少なくとも一部は、補助塔4の少なくとも一部を横方向に分離された精留領域に分離するものであり、さらに、補助塔4の酸素富化塔底液8は、ポンプ9及び導管10を介して、低圧塔の上部から分離した気液密の水平隔壁11の直下に導入されるものであり、低圧塔の同じ位置で、蒸気12を除去し、補助塔4の底部領域に導入するものであり、低圧塔の下側領域から、導管13を介してガス状の酸素生成物が得られるものである。

(ウ)また、補助塔4の頂部ガス14は、水平隔壁11の直上で低圧塔3に導入され、上昇ガスとして作用し、逆に、低圧塔の還流液は水平隔壁11の上方に集められ、導管15を介して補助塔4の頂部に供給され、隔壁7の両側の二つの精留領域に分配されるものであり、低圧塔3では、液体窒素が、低圧塔内で還流液として送られ、低圧塔3の頂部から、ガス状窒素生成物17および場合によっては液体窒素生成物18が取り出されるものであり、隔壁7によって導管6の開口部から分離されている補助塔4の第2の精留領域から、アルゴンの移行ライン19を介して中間の位置でアルゴン含有フラクションが除去され、粗アルゴン塔20に供給され、粗アルゴン塔20の還流液は、ライン22を介して、好ましくはアルゴンの移行ライン19の位置で、補助塔4に戻されるものである。

(エ)上記(ア)?(ウ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる(以下、「甲1発明」という。)。
「高圧塔、低圧塔およびその上端で低圧塔と連通する補助塔を含む窒素-酸素分離のための蒸留塔システムを用いた空気の極低温分離のための装置であって、
前記装置においては、圧縮され、精製され、冷却された供給空気が、高圧塔、低圧塔、補助塔、および主凝縮器を含む窒素-酸素分離蒸留塔系に導入され、高圧塔の底部からの酸素富化液体は、隔壁の第1の精留領域側で、補助塔に導入され、この隔壁の少なくとも一部は、補助塔の少なくとも一部を横方向に分離された精留領域に分離するものであり、さらに、補助塔の酸素富化塔底液は、ポンプを介して低圧塔の上部から分離した気液密の水平隔壁の直下に導入され、低圧塔の同じ位置で、蒸気を除去し、補助塔の底部領域に導入し、低圧塔の下側領域からガス状の酸素生成物が得られるものであり、
補助塔の頂部ガスは、水平隔壁の直上で低圧塔に導入され、上昇ガスとして作用し、逆に、低圧塔の還流液は水平隔壁の上方に集められ、補助塔の頂部に供給され、隔壁の両側の二つの精留領域に分配され、低圧塔では、液体窒素が、低圧塔内で還流液として送られ、低圧塔の頂部から、ガス状窒素生成物および場合によっては液体窒素生成物が取り出され、
隔壁によって分離されている補助塔の第2の精留領域から、アルゴンの移行ラインを介して中間の位置でアルゴン含有フラクションが除去され、粗アルゴン塔に供給され、粗アルゴン塔の還流液は、アルゴンの移行ラインの位置で、補助塔に戻される、装置。」

(2)対比・判断
(2-1)本件発明1について
ア 対比
(ア)本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「高圧塔、低圧塔およびその上端で低圧塔と連通する補助塔を含む窒素-酸素分離のための蒸留塔システムを用いた空気の極低温分離のための装置」は、本件発明1における「圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得するために構成されている空気分離装置」に相当し、甲1発明における「高圧塔」は、本件発明1における「高圧塔」に相当する。
また、甲1発明における「低圧塔」は、本件発明1における「低圧塔の底部」に相当し、甲1発明における「補助塔」の「第1の精留領域」は、本件発明1における「低圧塔の底部」から「空間的に分離して配置された頂部」に相当し、甲1発明は、「低圧塔」が、「底部」と、「該底部から空間的に分離して配置された頂部」とを有する、「複数の部分から構成された低圧塔」である点で本件発明1と合致する。
更に、甲1発明における「補助塔」の「第2の精留領域」は、本件発明1における「粗アルゴン塔の底部」に相当し、甲1発明における「粗アルゴン塔」は、本件発明1における「粗アルゴン塔の底部」から「空間的に分離して配置された頂部」に相当し、甲1発明は、「粗アルゴン塔」が、「底部」と、「該底部から空間的に分離して配置された頂部」とを有する、「複数の部分から構成された粗アルゴン塔」である点で本件発明1と合致する。

(イ)甲1発明において「高圧塔の底部からの酸素富化液体」が得られることは、本件発明1において「前記高圧塔において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れが獲得され」ることに相当し、甲1発明において、「補助塔の酸素富化塔底液は、ポンプを介して低圧塔の上部から分離した気液密の水平隔壁の直下に導入され」ることは、本件発明1において、「低圧塔の頂部の下側領域からの流れと、粗アルゴン塔の底部の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れが、共通の1つのポンプによって、前記低圧塔の底部へと移送される」ことに相当する。

(ウ)前記(ア)?(イ)によれば、本件発明1と甲1発明とは、
「圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得するために構成されている空気分離装置であって、
前記空気分離装置は、高圧塔と、複数の部分から構成された低圧塔と、複数の部分から構成された粗アルゴン塔とを有し、
前記複数の部分から構成された低圧塔は、底部と、該底部から空間的に分離して配置された頂部とを有し、
前記複数の部分から構成された粗アルゴン塔は、底部と、該底部から空間的に分離して配置された頂部とを有し、
前記高圧塔において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れが獲得される
空気分離装置において、
前記低圧塔の前記頂部の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れが、ポンプによって、前記低圧塔の前記底部へと移送される
空気分離装置。」である点で一致しており、以下の点で相違している。

相違点1-1:本件発明1においては、「低圧塔において、酸素が富化された流れの少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンが富化された流れが獲得され」るのに対して、甲1発明においては、低圧塔から蒸気が除去され、ガス状の酸素生成物が得られ、還流液が補助塔の頂部に供給され、低圧塔の頂部からガス状窒素生成物及び場合によっては液体窒素生成物が取り出される点。

相違点1-2:本件発明1においては、「粗アルゴン塔において、アルゴンが富化された流れの少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れが獲得される」のに対して、甲1発明においては、粗アルゴン塔において、アルゴンが富化された流れの少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れが獲得されることが明確でない点。

相違点1-3:本件発明1においては、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の底部の下側領域とが、夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」のに対して、甲1発明においては、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の底部の下側領域」とが、部分的に隔壁カラムとして形成される補助塔として構成され、補助塔の酸素富化塔底液が、ポンプを介して移送される点。

イ 判断
(ア)本件発明1と甲1発明とは前記相違点1-1?1-3の点で相違することは、前記ア(ウ)に記載のとおりであるから、本件発明1が甲第1号証に記載された発明であるとも、甲第1号証に実質的に記載されているに等しい発明であるともいえない。
また、このことは、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2、4?8、10、11、13、14についても同様であるから、異議申立理由1は理由がない。

(2-2)本件発明3について
(ア)本件発明3は本件発明1を引用するものであり、本件発明3と甲1発明とを対比すると、少なくとも前記相違点1-1?1-3の点で相違する。

(イ)そこで、事案に鑑み、前記相違点1-3から検討すると、甲1発明における「補助塔」の「第1の精留領域」は、本件発明3における「低圧塔の頂部」に相当し、甲1発明における「補助塔」の「第2の精留領域」は、本件発明3における「粗アルゴン塔の底部」に相当し、甲1発明において、「補助塔の酸素富化塔底液は、ポンプを介して低圧塔の上部から分離した気液密の水平隔壁の直下に導入され」ることは、本件発明3において、「低圧塔の頂部の下側領域からの流れと、粗アルゴン塔の底部の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れが、共通の1つのポンプによって、前記低圧塔の底部へと移送される」ことに相当する。

(ウ)そして、前記(1)(1b)([0004])によれば、甲1発明は、「補助塔」を、内部に「低圧塔の頂部」と「粗アルゴン塔の底部」とを備える隔壁カラムとして形成するものであり、「低圧塔の頂部の下側領域からの流れ」と、「粗アルゴン塔の底部の下側領域からの流れ」は、「補助塔」内で混ぜられて、「低圧塔の底部へと移送される」ものであって、甲1発明は、そのような「補助塔」を備えることにより、空気分離設備をさらに改善する、との課題を達成し、更に、酸素生成物の純度を増加させるだけでなく、アルゴンの収率を高めることもできるものである。

(エ)一方、甲1発明において、「低圧塔の頂部の下側領域」と「粗アルゴン塔の底部の下側領域」とを、「夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続する」場合、「補助塔」を、内部に「低圧塔の頂部」と「粗アルゴン塔の底部」とを備える隔壁カラムとして形成することはできないし、「低圧塔の頂部の下側領域からの流れ」と、「粗アルゴン塔の底部の下側領域からの流れ」を、「補助塔」内で混ぜて、「低圧塔の底部へと移送」することもできないから、甲1発明において、「低圧塔の頂部の下側領域」と「粗アルゴン塔の底部の下側領域」とを、「夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続する」ことは、前記(ウ)に記載される甲1発明の機能を損なうものとなるので、阻害要因があるといえる。

(オ)してみれば、甲1発明において、空気分離装置の構成を、「低圧塔の頂部の下側領域」と「粗アルゴン塔の底部の下側領域」とが、「夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」ものとして、前記相違点1-3に係る本件発明3の発明特定事項とすることを、当業者が容易になし得るとはいえないので、本件発明3を甲第1号証に記載された発明及び本件特許の優先日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
したがって、異議申立理由5は理由がない。

(3)小括
以上のとおりであるので、異議申立理由1、5はいずれも理由がない。

2 甲第2号証を主引用例とする異議申立理由4について
(1)本件発明1について
(ア)本件発明1と甲2発明とを対比すると、前記相違点2-1、2-2の点で相違することは、前記第6の2(1)ア(ウ)に記載のとおりである。
また、甲2発明において、「粗アルゴン塔の下側領域」を「ポンプの吸い込み側に直接接続」することは、「粗アルゴン塔の下側領域」からの流れを「低圧塔の底部」の精留分離部分に直接供給するものとなるから、「低圧塔の底部」の精留分離部分への負荷変動を少なくする、という甲2発明の機能を損なうものとなるので、阻害要因があるといえ、このことは、甲第3号証?甲第6号証の記載事項に左右されるものではないこと、このため、甲2発明において、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の底部の下側領域と」を、「夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」ものとして、前記相違点2-2に係る本件発明1の発明特定事項とすることを、甲第3号証?甲第6号証の記載事項に基づいて当業者が容易になし得るとはいえないことは、前記第6の2(1)イ(イ)?(ウ)に記載のとおりである。

(イ)そして、前記(ア)の事項は、甲第7号証の記載事項にも左右されるものでもないから、仮に、本件発明1には2013年 3月 6日に係る優先権主張の効果が認められないとしても、前記第6の2(1)イ(イ)?(ウ)に記載したのと同様の理由により、本件発明1を、甲第2号証に記載された発明及び甲第7号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(2)本件発明9について
(ア)本件発明9は、本件発明1を直接的又は間接的に引用するものであり、本件発明9と甲2発明とを対比すると、少なくとも前記相違点2-2の点で相違する。

(イ)してみれば、前記(1)(ア)、(イ)に記載したのと同様の理由により、本件発明9を、甲第2号証に記載された発明及び甲第7号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

(3)小括
以上のとおりであるので、異議申立理由4は理由がない。

3 申立人意見書について
(1)申立人意見書の主張の概要
(ア)甲第2号証の特許請求の範囲の請求項5、【0017】、【0020】、【0032】、【0035】の記載から、甲2発明においては、粗アルゴン塔(18)の底部の液体は、管路(19)を介して上塔A(4)の底部に送られ、上塔A(4)の底部にはリボイラーがないので、上塔A(4)の底部にある液体と粗アルゴン塔(18)の底部から送られた液体は単に混合されるだけである。

(イ)すなわち、甲2発明においては、粗アルゴン塔(18)の底部の液体は上塔A(4)の底部に送られ、上塔A(4)の底部の液体とともにポンプへ送られる構成であって、まさに、中間工程なしに直接送られていると理解でき、上塔A(4)の底部にリボイラーが備えられていないので、該底部は分離塔の一部を構成しているものの、ポンプ(18)による吸い込み作用が実質的に生じている管路領域と同じものである。

(ウ)そして、特許権者は、平成31年 3月 5日付け意見書において、「ポンプの吸い込み側」とは、「ポンプに直接接続されていて、ポンプによる吸い込み作用が実質的に生じている管路領域」を含むことを主張しており、このことと、前記(ア)、(イ)によれば、甲2発明は、ポンプ(12)の吸い込み側に、粗アルゴン塔(18)の底部の液体と、上塔A(4)の底部にある液体とが直接接続されている構成を開示しているから、本件訂正請求が認められたとしても、本件発明1?15は進歩性を有しない。

(2)当審の判断
(ア)甲2発明においては、「粗アルゴン塔の下側領域」が直接接続されるのは「低圧塔の頂部の下側領域」である。
そして、「低圧塔の頂部の下側領域」は、たとえリボイラー等を有しないとしても、精留分離により空気の分離操作を行う「低圧塔」の一部を構成するものであって、管路領域を構成するものとはいえないから、甲2発明において、「低圧塔の頂部の下側領域と粗アルゴン塔の下側領域」とが、「夫々、ポンプの吸い込み側に直接接続されている」とはいえない。

(イ)また、甲2発明において、「粗アルゴン塔の底部の下側領域」を「ポンプの吸い込み側に直接接続」することは、「粗アルゴン塔の底部の下側領域」からの流れを「低圧塔の底部」の精留分離部分に直接供給するものとなるから、「低圧塔の底部」の精留分離部分への負荷変動を少なくする、という甲2発明の機能を損なうものとなるので、阻害要因があるといえること、このことは、甲第3号証?甲第6号証の記載事項、及び甲第7号証の記載事項に左右されるものではないことは、前記第6の2(1)イ(イ)、前記2(1)(イ)に記載のとおりである。

(ウ)したがって、本件発明を、甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証?甲第7号証の記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、申立人意見書における申立人の主張は採用できない。

4 刊行物等提出書について
(1)刊行物等提出書の主張の概要
資料1:特開平11-72285号公報
資料2:特開平11-264658号公報
本件訂正請求は認められるべきではなく、仮に本件発明1が本件特許図面の【図1】に記載の構成に適法に限定されたとしても、本件発明1は、資料1に記載される発明と、資料2の【0011】、【0041】、【図1】に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)当審の判断
(ア)本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりである
そして、資料1及び資料2には、いずれにも、本件発明1の発明特定事項である、「低圧塔の頂部の下側領域からの流れと、粗アルゴン塔の底部の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れが、共通の1つのポンプによって、前記低圧塔の前記底部の上側領域へと移送され、前記低圧塔の前記頂部の下側領域と前記粗アルゴン塔の前記底部の下側領域とは、夫々、前記ポンプの吸い込み側に直接接続されている」ことは記載も示唆もされていない。

(イ)なお、資料2の【0011】、【0041】、【図1】の記載は、同一タイプの複数の低温精留ユニットを備え、建設コストが比較的低い空気精留プラントを提供すること、このとき、同一タイプの低圧部2、3の底部から共通導管18によって同じ液体酸素LOを集め、ポンプ13によって気化器/凝縮器7に供給することを開示するものであって、前記開示事項を、「低圧塔」の「頂部の下側領域からの流れ」と、「粗アルゴン塔」の「底部の下側領域からの流れ」という異なるタイプの塔からの流れに適用する合理的な動機付けは存在しない。

(ウ)したがって、本件発明1は、資料1に記載される発明と、資料2に記載される事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、刊行物等提出書における主張はいずれも採用できない。

第8 むすび
以上のとおり、異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書で通知された取消理由によっては、本件発明1?本件発明15に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?本件発明15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得するために構成されている空気分離装置(100)であって、
前記空気分離装置(100)は、高圧塔(1)と、複数の部分から構成された低圧塔と、複数の部分から構成された粗アルゴン塔とを有し、
前記複数の部分から構成された低圧塔は、底部(2)と、該底部(2)から空間的に分離して配置された頂部(3)とを有し、
前記複数の部分から構成された粗アルゴン塔は、底部(4)と、該底部(4)から空間的に分離して配置された頂部(5)とを有し、
前記高圧塔(1)において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れ(d)が獲得され、
前記低圧塔において、前記酸素が富化された流れ(d)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンが富化された流れ(m)が獲得され、
前記粗アルゴン塔において、前記アルゴンが富化された流れ(m)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れ(n)が獲得される
空気分離装置(100)において、
前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)が、共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送され、前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域と前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域とは、夫々、前記ポンプ(18)の吸い込み側に直接接続されている
ことを特徴とする、空気分離装置(100)。
【請求項2】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)及び/又は前記頂部(5)は、測地的に少なくとも部分的に前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の空気分離装置(100)。
【請求項3】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)は、測地的に完全に前記低圧塔の前記頂部(3)の上方に配置されている
ことを特徴とする、請求項1記載の空気分離装置(100)。
【請求項4】
前記低圧塔の前記底部(2)は、垂直平面図において前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置されており、
及び/又は、
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)は、垂直平面図において前記粗アルゴン塔の前記頂部(5)に隣接して配置されている
ことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項5】
前記高圧塔(1)は、前記低圧塔の前記底部(2)と共に1つのコールドボックス内に配置されている
ことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項6】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)は、前記低圧塔の前記頂部(3)と共に1つのコールドボックス内に配置されている
ことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項7】
少なくとも、前記低圧塔の前記頂部(3)と、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)とを備える前記コールドボックスは、配管モジュールによって前記空気分離装置(100)の別の構成要素に接続される
ことを特徴とする、請求項6記載の空気分離装置(100)。
【請求項8】
前記高圧塔(1)と、前記低圧塔の前記底部(2)とは、1つの構造ユニットとして構成されており、かつ、主凝縮器(12)を介して互いに熱交換されるように接続されている
ことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項9】
前記空気分離装置(100)は、精製アルゴン塔(6)をさらに有し、
前記精製アルゴン塔の少なくとも1つの流体は、前記酸素が富化された流れ(d)によって冷却される
ことを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項記載の空気分離装置(100)。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項記載の空気分離装置(100)により、圧縮及び冷却された原料空気の深冷分離によってアルゴンを含有する生成物を獲得する方法であって、
高圧塔(1)と、複数の部分から構成された低圧塔と、複数の部分から構成された粗アルゴン塔とを使用し、但し、前記複数の部分から構成された低圧塔は、底部(2)と、該底部(2)から空間的に分離して配置された頂部(3)とを有し、前記複数の部分から構成された粗アルゴン塔は、底部(4)と、該底部(4)から空間的に分離して配置された頂部(5)とを有し、
前記高圧塔(1)において、前記原料空気の少なくとも一部から、少なくとも1つの酸素が富化された流れ(d)を獲得し、
前記低圧塔において、前記酸素が富化された流れ(d)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンが富化された流れ(m)を獲得し、
前記粗アルゴン塔において、前記アルゴンが富化された流れ(m)の少なくとも一部から、少なくとも1つのアルゴンに富む流れ(n)を獲得し、
前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)を、共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送する
ことを特徴とする、方法。
【請求項11】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)及び/又は前記頂部(5)は、測地的に少なくとも部分的に前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置されている
ことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)は、測地的に完全に前記低圧塔の前記頂部(3)の上方に配置されている
ことを特徴とする、請求項10記載の方法。
【請求項13】
請求項1から9のいずれか一項記載の空気分離装置(100)を建造する方法であって、
高圧塔(1)と、底部(2)及び頂部(3)を備える、複数の部分から構成された低圧塔と、底部(4)及び頂部(5)を備える、複数の部分から構成された粗アルゴン塔とを用意し、
さらに、共通の1つのポンプ(18)を用意し、
前記共通の1つのポンプ(18)によって、前記低圧塔の前記頂部(3)の下側領域からの流れと、前記粗アルゴン塔の前記底部(4)の下側領域からの流れとを合わせた流れの少なくとも一部となる液体流れ(n)を、前記低圧塔の前記底部(2)の上側領域へと移送する
ことを特徴とする、方法。
【請求項14】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)及び/又は前記頂部(5)を、測地的に少なくとも部分的に前記低圧塔の前記頂部(3)に隣接して配置する
ことを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記粗アルゴン塔の前記底部(4)又は前記頂部(5)を、測地的に完全に前記低圧塔の前記頂部(3)の上方に配置する
ことを特徴とする、請求項13記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-07-03 
出願番号 特願2015-560582(P2015-560582)
審決分類 P 1 651・ 841- YAA (F25J)
P 1 651・ 851- YAA (F25J)
P 1 651・ 113- YAA (F25J)
P 1 651・ 121- YAA (F25J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 神田 和輝  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 金 公彦
後藤 政博
登録日 2017-12-15 
登録番号 特許第6257656号(P6257656)
権利者 リンデ アクチエンゲゼルシャフト
発明の名称 空気分離装置、アルゴンを含有する生成物を獲得する方法、及び、空気分離装置を建造する方法  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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