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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L |
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管理番号 | 1354930 |
異議申立番号 | 異議2018-700515 |
総通号数 | 238 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-10-25 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-06-22 |
確定日 | 2019-07-29 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6255214号発明「天ぷら用バッターミックス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6255214号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、4、5について訂正することを認める。 特許第6255214号の請求項1、3、5に係る特許を維持する。 特許第6255214号の請求項2、4に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6255214号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成25年10月29日の出願であって、平成29年12月8日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月27日に特許掲載公報が発行され、これに対して平成30年6月22日に特許異議申立人 矢部 陽子(以下、「申立人」という。)により、本件特許の請求項1?5に係る特許について特許異議の申立てがされたものである。 そして、その後の手続は以下のとおりである。 ・平成30年8月21日付け取消理由通知(発送日:平成30年8月23日) ・平成30年10月19日に特許権者による意見書の提出及び訂正の請求 ・平成30年12月18日に申立人による意見書の提出 ・平成31年2月18日付け取消理由通知<決定の予告>(発送日:平成31年2月20日) ・平成31年4月19日に特許権者による意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。) ・令和元年6月14日に申立人による意見書の提出 <証拠方法等> また、申立人及び特許権者が提出した証拠方法等は以下のとおりである。 A 申立人について 甲第1号証:香川県食糧事業協同組合のホームページの「米粉倶楽部」のサイト記事(同サイトのURL:http://www.kensyoku.or.jp/komeko/index.php)について、2012年12月4日時点の内容を示すウェブページ、[online]、ダウンロード日:2018年6月11日、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20121204072719/http://www.kensyoku.or.jp/komeko/index.php> 甲第2号証:兵庫教育大学大学院 自然・生活教育系、「米粉の物性分析報告書」、[online]、平成22年3月1日、インターネット<URL:http://www.kensyoku.or.jp/kemeko/pdf/butsu_k.pdf> 甲第3号証:特開2013-34440号公報 甲第4号証:ウェブ魚拓について解説されたウィキペディアのサイト記事、[online]、ダウンロード日:2018年5月28日、インターネット<URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%96%E9%AD%9A%E6%8B%93> 甲第5号証:平成16年(行ケ)第290号 審決取消請求事件、口頭弁論終結日 平成17年3月14日の判決文の写し 参考資料1:特開2010-104246号公報 参考資料2:特開2013-106538号公報 参考資料3:特開2012-125150号公報 参考資料4:特開2012-135225号公報 参考資料5:特開2005-168451号公報 参考資料6:特開2000-41602号公報 参考資料7:異議2018-700107の異議の決定謄本の写し B 特許権者について 乙第1号証:「ヒノヒカリについて|お米なら「久保さんちのヒノヒカリ」」のホームページの「九州のお米「ヒノヒカリ」の通販なら「久保さんちのお米」。ヒノヒカリについてのご紹介」のサイト記事について、本件出願前の内容を示すウェブページ、[online]、ダウンロード日:2018年9月19日、インターネット<URL:http://kubosantino-okome.com/introduction.html> 乙第2号証:「レーザー回折式粒子径分布測定装置 HELOS&RODOS 取扱説明書」,(株)日本レーザー応用システム部,p.1?2,92?93 乙第3号証:本件出願日前における本件特許明細書の実施例2の平均粒径(メジアン径)の分析結果を示す資料:「備考:ID:米粉C-1」の「HELOS Particle Size Analysis」による測定結果;X_(50)=33.67μm;測定者 昭和産業株式会社;測定日 2013年4月24日 乙第4号証:特開2011-103800号公報 乙第5号証:特開2017-73993号公報 乙第6号証:特開平2-167043号公報 乙第7号証:特開2014-217367号公報 乙第8号証:「別記様式2 水稲「恋の予感」 恋の予感 - 農林水産技術会議-農林水産省」,<URL:http://www.affrc.maff.go.jp/docs/research_result/norin_number/pdf/h26_rice_463.pdf>,[印刷日2019年3月19日] 乙第9号証:「農研機構/品種詳細:ホシニシキ」,<URL:http://www.naro.affrc.go.jp/collab/breed/0100/0107/001548.html>[印刷日2019年3月14日] 乙第10号証:編者 石谷孝佑,「米の事典-稲作からゲノムまで」,初版第1刷,株式会社 幸書房,2002年6月8日,表紙,奥付,p.94?97 なお、甲第1?5号証及び乙第1?10号証については、以下、それぞれ「甲1」のように略称とする。 第2 訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、4、5について訂正すること(以下、「本件訂正」という。)を求めるものであって、本件訂正の内容は以下のとおりである。 なお、先の平成30年10月19日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1の 「平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が6質量%以下である粳米粉を含有する天ぷら用バッターミックス」を、 「平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が4.0質量%以下である粳米粉 10?40質量%、及び 小麦粉 40質量%以上、 を含有する、天ぷら用バッターミックス」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3の 「請求項1又は2記載の天ぷら用バッターミックスを使用した天ぷら。」を 「請求項1記載の天ぷら用バッターミックスを使用した天ぷら。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5の 「粳米粉の損傷でん粉含有量を6質量%以下に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉を用いて、揚げたて時の天ぷら衣の食感を持続させる方法。」を、 「(A)粳米粉の損傷でん粉含有量を4.0質量%以下に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉 10?40質量%、及び(B)小麦粉 40質量%以上、を含有する、天ぷら用バッターミックスを用いて、揚げたて時の天ぷら衣の歯切れがよくサクサクとした食感を持続させる方法。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 明細書の段落【0011】及び明細書の段落【0036】における「・・・「レーザー解析式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」・・・」との記載を、 「・・・「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」・・・」との記載 に訂正する。 (7)訂正事項7 明細書の段落【0017】における「本開示にて使用する粳米の品種は、特に限定されない。たとえば、ジャポニカ種、インディカ種、ジャバニカ種等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。 ちなみに、米はでん粉の組成と性質によって粳米ともち米とに分けることができる。もち米は、餅やおこわに使われる米であり、調理時に強い粘性をもつ。もち米のでん粉の大部分はアミロペクチンよりなっており、アミロース含有量はゼロかほとんど含まれない。一方、粳米のでん粉は、アミロペクチンとアミロースの両方よりなっている。本開示において、もち米以外のものを粳米という。」との記載を、 「本開示にて使用する粳米の品種は、特に限定されない。たとえば、ジャポニカ種、インディカ種、ジャバニカ種等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。 ちなみに、米はでん粉の組成と性質によって粳米ともち米とに分けることができる。もち米は、餅やおこわに使われる米であり、調理時に強い粘性をもつ。もち米のでん粉の大部分はアミロペクチンよりなっており、アミロース含有量はゼロかほとんど含まれない。一方、粳米のでん粉は、アミロペクチンとアミロースの両方よりなっている。」 に訂正する。 なお、本件訂正請求は、一群の請求項〔1?3〕と、請求項4及び請求項5に対して請求されたものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的について 訂正事項1は、粳米粉の損傷でん粉含有量を限定し、天ぷら用バッターミックス中の粳米粉の含有量及び小麦粉の含有量を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「特許明細書等」といい、明細書については「特許明細書」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること 「損傷でん粉含有量が4.0質量%以下」は、特許明細書の段落【0012】の記載及び段落【0040】の表2の実施例5の記載に基づき、「粳米粉 10?40質量%」は、特許明細書の段落【0022】の記載及び段落【0044】の表3の記載に基づき、「小麦粉 40質量%以上」は、特許明細書の段落【0024】の記載及び段落【0044】の表3の記載に基づくから、訂正事項1は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、上記アのとおり特許請求の範囲を減縮するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3は、引用する請求項の選択肢を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (4)訂正事項4について 訂正事項4は、特許請求の範囲の請求項4を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであって、特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (5)訂正事項5について ア 訂正の目的について 訂正事項5において、天ぷら用バッターミックスを用いることを特定したことについては、特許明細書の段落【0001】、【0005】?【0007】及び【0025】の記載によれば、天ぷらを揚げるのに、天ぷら用バッターミックスを用いることが明らかであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 また、訂正事項5は、粳米粉の損傷でん粉含有量を限定し、天ぷら用バッターミックス中の粳米粉の含有量及び小麦粉の含有量を限定し、天ぷら衣の食感を限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 「損傷でん粉含有量が4.0質量%以下」は、特許明細書の段落【0012】の記載及び段落【0040】の表2の実施例5の記載に基づき、「粳米粉 10?40質量%」は、特許明細書の段落【0022】の記載及び段落【0044】の表3の記載に基づき、「小麦粉 40質量%以上」は、特許明細書の段落【0024】の記載及び段落【0044】の表3の記載に基づき、「天ぷら用バッターミックスを用い」ることは、特許明細書の段落【0001】、【0005】?【0007】及び【0025】の記載に基づくから、訂正事項5は、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項5は、上記アのとおり明瞭でない記載の釈明及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (6)訂正事項6について ア 訂正の目的について 訂正事項6は、訂正前の明細書の段落【0011】及び【0036】における「レーザー解析式粒子径分布測定装置」が、「解析」という用語について明らかな誤記であったものを訂正するものであるから、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。 イ 願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項6は、明らかな誤記を訂正するものであるから、当初明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項6は、明らかな誤記を訂正するものであるから、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (7)訂正事項7 ア 訂正の目的について 訂正事項7は、訂正前の明細書の段落【0017】における「ちなみに、米はでん粉の組成と性質によって粳米ともち米とに分けることができる。もち米は、餅やおこわに使われる米であり、調理時に強い粘性をもつ。もち米のでん粉の大部分はアミロペクチンよりなっており、アミロース含有量はゼロかほとんど含まれない。一方、粳米のでん粉は、アミロペクチンとアミロースの両方よりなっている。本開示において、もち米以外のものを粳米という。」との記載から、「本開示において、もち米以外のものを粳米という。」という記載を削除することによって、粳米の定義を明瞭にするものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。 ここで、申立人は、令和元年6月14日に提出した意見書において、不明瞭な記載がどうして解消されるのか何の説明もされていない旨主張するが、一般的には、粳米はアミロースとアミロペクチンがおよそ2:8といった所定範囲の比のものであるところ、訂正前における「もち米以外のものを粳米という。」という記載によって、アミロースのアミロペクチンに対する比が一般的なものより著しく高く、若しくは低くて、「油ちょう直後の食感がよく、かつ、揚げたての天ぷら特有の、歯切れがよくサクサクとした食感を、油ちょう後長時間持続できる天ぷらの衣を提供」することができないものまで含むことになっていたのであるから、訂正事項7によって粳米の定義が明瞭になるものといえる。 イ 特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項1、5に記載の「粳米粉」に関する粳米の定義を明瞭にするものであるから、特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正である。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項7は、特許請求の範囲の請求項1、5に記載の「粳米粉」に関する粳米の定義を明瞭にするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1?3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕、4、5について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 訂正特許請求の範囲の記載は以下のとおりであり、本件訂正後の請求項1、3、5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明3」、「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3、5に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。 「【請求項1】 平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が4.0質量%以下である粳米粉 10?40質量%、及び 小麦粉 40質量%以上、 を含有する、天ぷら用バッターミックス。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 請求項1記載の天ぷら用バッターミックスを使用した天ぷら。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (A)粳米粉の損傷でん粉含有量を4.0質量%以下に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉 10?40質量%、及び(B)小麦粉 40質量%以上、を含有する、天ぷら用バッターミックスを用いて、揚げたて時の天ぷら衣の歯切れがよくサクサクとした食感を持続させる方法。」 第4 平成31年2月18日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1?5に係る特許に対して、当審が平成31年2月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)取消理由1(進歩性) 本件特許の請求項1?5に係る発明は、甲1?3に係る本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 (2)取消理由2(実施可能要件) 本件特許の請求項1?5に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 記 明細書の段落【0011】及び【0036】には、「レーザー回析式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」と記載されているが、「回析」という用語は意味不明であるから(「回折」の誤記と考えられる。乙2参照。)、「レーザー回析式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」が如何なる装置であるのか特定できない。 そうすると、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?5について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 2 甲1?3について (1)甲1について 取消理由通知において引用した甲1は、甲4でも説明されているように、2012年(平成24年)12月4日時点の香川県食糧事業協同組合のホームページの「米粉倶楽部」のサイト記事を表示したインターネットアーカイブ(http://web.archive.org)のサイト記事の内容であって、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったサイト記事の内容を示すものであり、次の事項が記載されている。なお、便宜上、○付きの数字は「○数字」のように表記する。 ア 「○1米粉とは…」の欄には、「米粉は、その名の通りお米(うるち米・もち米)を粉末にしたものの総称です。 ・・・ これらの新しい米粉を使った食品は、従来の小麦粉と異なる、米粉ならではの独特の食味・食感が味わえることで好評を得ており、新たな食材として幅広い料理に応用することが可能です。」と記載され、また、「香川県食糧事業協同組合では、瀬戸内で育まれた「さぬき米」を独自の加工技術により、小麦粉よりも微細な粉に加工し、新しい米粉「微細」「パン用」「麺用」を開発・製造しています。」と記載されている。 イ 「○2米粉の種類・特徴」の「◆米粉(微細)」の欄には、「浸漬した白米を湿式粉砕した米粉(微細)は粉砕時の発生熱が生じないので、デンプンの損傷が少なく、ダマになりにくいです。 平均粒径が小さく、約40ミクロンの米粉(微細)ですから、しっとり感あるケーキや、粘りのある和菓子ができます。 用途: 洋菓子、パン、麺、天ぷら粉等」と記載されている。 ウ 「○4米粉に関する試験データ」の欄には、「右側のボタンをクリックすると、詳しい資料(PDFファイル)をダウンロードすることができます。」との記載があり、その記載の最も右側に「物性 分析試験成績書ダウンロード」との記載とともに、「PDF」のマークが記載された色付きの表示がある。 (2)甲2について 取消理由通知において引用した甲2は、甲1に示される香川県食糧事業協同組合のホームページの「米粉倶楽部」のサイト記事の「物性 分析試験成績表ダウンロード」の箇所をクリックして表示されるもので、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった平成22年3月1日付け「米粉の物性分析報告書」であり、次の事項が記載されている。 ア 甲2の1頁の「1.検体」の欄には、米粉の原料としてヒノヒカリの精米を用いたことが記載されている。なお、ヒノヒカリは粳米である。 イ 甲2の1頁の「2.分析結果」の欄に掲載された表には、米粉(微細)の平均粒径は42.20μmであること、デンプンの損傷率は4.19%であることが記載されている。 (3)甲3について 取消理由通知において引用した甲3は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である特開2013-34440号公報であり、次の事項が記載されている。 ア 「【請求項1】 アミロース含量が22%以上の米粉を0.5質量%以上60質量%以下含む天ぷら用小麦粉組成物。」 イ 「【0004】 天ぷらの衣は、一般にモチモチした食感よりもサクサク、カリッとした歯切れの良い食感が良いとされている。 米粉を単に使用した天ぷら粉を使用した場合、一般的に、モチモチしたヒキのある食感となる傾向があり、サクサク感に乏しいことから天ぷらの衣の食感としては好ましくはなかった。 本発明の目的は、特定の性質を有する米粉を特定量小麦粉に配合することで、サクサク、カリッとした歯切れの良い食感の天ぷらの衣を得ることが出来る天ぷら用小麦粉組成物及びこれを使用した天ぷらを提供することである。 【課題を解決するための手段】 【0005】 本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、使用する米粉のアミロース含量に着目し、特定のアミロース含量の米粉を特定量小麦粉と併用することで、口溶けが良くカリッとした歯切れの良い食感の天ぷらの衣を得ることが出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。 従って、本発明は、アミロース含量が22%以上の米粉を0.5質量%以上60質量%以下含む天ぷら用小麦粉組成物及びこれを使用した天ぷらである。 好ましい米粉の配合量は、10質量%以上30質量%以下である。 【発明の効果】 【0006】 本発明の天ぷら用小麦粉組成物を使用することでサクサク、カリッとした好ましい食感の天ぷらの衣が得られる。」 ウ 「【0008】 小麦粉に配合する米粉の配合量は0.5質量%以上60質量%以下である。 好ましくは、10質量%以上30質量%以下である。 米粉の配合量が、0.5質量%から10質量%といった少量配合の場合は配合量の影響が大きく、米粉の配合量が40質量%以上になってくると配合量の差異が食感に与える影響は小さくなる。 米粉の配合量が、0.5質量%未満では、本発明の効果を得ることができず、米粉の配合量が60質量%を超える場合は、衣の食感が硬くなりすぎてしまう。」 エ 「【0011】 以下本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。 [試験例1?8] 「あきたこまち」を原料として、湿式気流粉砕しアミロース含量18.3%の米粉を得た。 この米粉と薄力粉を表1に示す配合で混合し、天ぷら用小麦粉組成物を得た。 この天ぷら用小麦粉組成物100gに対し冷水を150g加え、バッターを調製した。 伸ばし海老に前記バッターを付け170℃の大豆菜種油中で2分間フライして天ぷらを得た。 10名のパネラーにより以下の評価基準において評価を行った。 評価は、フライ直後と、フライして3時間経過後の2回行った。 結果を表1に示す。 [評価基準] 5点 非常にサクサク、カリッとした食感で非常に良い 4点 サクサク、カリッとした食感で良い 3点 普通 2点 ヒキが有りモチモチした食感で劣る 1点 非常にヒキが有りモチモチした食感で非常に劣る」 オ 「【0013】 [試験例9?16] 「コシヒカリ」を原料として、湿式気流粉砕しアミロース含量19.2%の米粉を得た。 この米粉を使用して試験例1と同様に評価を行った。」 カ 「【0015】 [試験例17?24] 「あきたこまち」、「モミロマン」を配合して、湿式気流粉砕しアミロース含量21.4%の米粉を得た。 この米粉を使用して試験例1と同様に評価を行った。」 キ 「【0017】 [試験例25?32] 「あきたこまち」、「越のかおり」を配合して、湿式気流粉砕しアミロース含量22.5%の米粉を得た。 この米粉を使用して試験例1と同様に評価を行った。」 ク 「【0023】 フライ直後、フライして3時間経過後のどちらの場合でもアミロース含量22.5%、25.9%、29.5%の米粉を使用し、米粉の配合量が0.5質量%以上60質量%の場合に優れた評価が得られた。 アミロース含量22.5%、25.9%、29.5%の米粉を使用し、米粉の配合量が10質量%以上30質量%以下の場合には特に優れた評価が得られた。」 (4)引用発明 甲2は、甲1と一体の付属書であって、甲1に記載された米粉についての物性分析報告書であるから、上記(1)及び(2)によれば、次の事項からなる各発明が認められる。 ア 引用発明1 「平均粒径が42.20μmでありかつデンプンの損傷率が4.19%であるヒノヒカリの精米を原料とする米粉を含有する、天ぷら粉。」(以下、「引用発明1」という。) イ 引用発明2 「ヒノヒカリの精米を原料とする米粉のデンプンの損傷率を4.19%に調整した、平均粒径が42.20μmのヒノヒカリの精米を原料とする米粉を含有する、天ぷら粉を用いて、米粉ならではの独特の食味・食感が味わえる天ぷらを得る方法。」(以下、「引用発明2」という。) 3 当審の判断 (1)取消理由1(特許法第29条第2項)について ア 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と引用発明1とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ・引用発明1の「平均粒径が42.20μm」であることは、本件発明1の「平均粒径が25?70μm」であることに相当し、同様に、「ヒノヒカリの精米を原料とする米粉」は「粳米粉」に相当する。 ・引用発明1の「デンプンの損傷率が4.19%である」ことと、本件発明1の「損傷でん粉含有量が4.0質量%以下である」こととは、「損傷でん粉含有量が所定の質量%である」という限りにおいて一致する。 そして、引用発明1の「平均粒径が42.20μmでありかつデンプンの損傷率が4.19%であるヒノヒカリの精米を原料とする米粉」と、本件発明1の「平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が4.0質量%以下である粳米粉」とは、「平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が所定の質量%である粳米粉」という限りにおいて一致する。 また、引用発明1の「天ぷら粉」は、本件発明1の「天ぷら用バッターミックス」に、「天ぷら用材料」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、 「平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が所定の質量%である粳米粉を含有する、天ぷら用材料。」の点で一致し、次の点で相違している。 [相違点1-1] 本件発明1は、「損傷でん粉含有量が4.0質量%以下である粳米粉 10?40質量%、及び小麦粉 40質量%以上、を含有する、天ぷら用バッターミックス」であるのに対して、引用発明1は、「デンプンの損傷率が4.19%であるヒノヒカリの精米を原料とする米粉を含有する、天ぷら粉」である点。 (イ)判断 相違点1-1について検討する。 天ぷらの衣の食感を、サクサク、カリッとした歯切れの良い食感とし、その食感をフライ後も持続させることは、天ぷらにおける普遍的な課題(上記2(3)イ、エ及びク)であるとしても、そのような課題を解決するために、粳米粉の損傷でん粉含有量を設定する技術は、甲1?3には開示も示唆もされていないし、本件特許の出願前の技術常識であるということもできないから、引用発明1において、ヒノヒカリの精米を原料とする米粉(粳米粉)を、損傷でん粉含有量が4.0質量%以下とする動機付けは認められない。 また、甲3には、上記課題を解決するために、アミロース含量が22%以上の米粉を0.5質量%以上60質量%以下含むことが記載されているものの、アミロース含量が22%以上の米粉という特定の米粉を使用することを前提とするものであるから、アミロース含量が16.7%であるヒノヒカリ(乙8)の精米を原料とする米粉を使用する引用発明1において、ヒノヒカリの精米を原料とする米粉(粳米粉)を、0.5質量%以上60質量%以下含むことの動機付けも認められない。 そうすると、その余の事項を検討を検討するまでもなく、引用発明1において、相違点1-1に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。 そして、本件発明1は、相違点1-1に係る本件発明1の構成を備えることにより、訂正後の本件特許明細書の段落【0008】に記載された「油ちょう直後の食感がよく、かつ、揚げたての天ぷら特有の、歯切れがよくサクサクとした食感を、油ちょう後長時間持続できる天ぷらの衣を提供することができる。」という効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、引用発明1及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 イ 本件発明3について 本件特許の請求項3は、本件特許の請求項1の記載を置き換えることなく引用して記載されたものである。 したがって、本件発明3は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、上記アの本件発明1の検討を踏まえると、引用発明1及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 本件発明5について (ア)対比 本件発明5と引用発明2とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。 ・引用発明2の「ヒノヒカリの精米を原料とする米粉」は、本件発明5の「粳米粉」に相当し、同様に、「平均粒径が42.20μm」であることは「平均粒径が25?70μm」であることに相当する。 ・引用発明2の「ヒノヒカリの精米を原料とする米粉のデンプンの損傷率を4.19%に調整した」ことと、本件発明5の「粳米粉の損傷でん粉含有量を4.0質量%以下に調整した」こととは、「粳米粉の損傷でん粉含有量を所定の質量%に調整した」という限りにおいて一致する。 また、引用発明2の「天ぷら粉」と、本件発明5の「天ぷら用バッターミックス」とは、「天ぷら用材料」という限りにおいて一致する。 そうすると、引用発明2の「ヒノヒカリの精米を原料とする米粉のデンプンの損傷率を4.19%に調整した、平均粒径が42.20μmのヒノヒカリの精米を原料とする米粉を含有する、天ぷら粉」と、本件発明5の「(A)粳米粉の損傷でん粉含有量を4.0質量%以下に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉 10?40質量%、及び(B)小麦粉 40質量%以上、を含有する、天ぷら用バッターミックス」とは、「粳米粉の損傷でん粉含有量を所定の質量%に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉を含有する、天ぷら用材料」という限りにおいて一致する。 ・引用発明2の「米粉ならではの独特の食味・食感が味わえる天ぷらを得る方法」と、本件発明5の「揚げたて時の天ぷら衣の歯切れがよくサクサクとした食感を持続させる方法」とは、「所定の天ぷら衣の食感を得る方法」という限りにおいて一致する。 したがって、両者は、 「粳米粉の損傷でん粉含有量を所定の質量%に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉を含有する、天ぷら用材料を用いて、所定の天ぷら衣の食感を得る方法。」の点で一致し、次の点で相違している。 [相違点5-1] 本件発明5の方法は、「(A)粳米粉の損傷でん粉含有量を4.0質量%以下に調整した」、「粳米粉 10?40質量%、及び(B)小麦粉 40質量%以上、を含有する、天ぷら用バッターミックスを用いて」いるのに対して、引用発明2の方法は、「ヒノヒカリの精米を原料とする米粉のデンプンの損傷率を4.19%に調整した」、「ヒノヒカリの精米を原料とする米粉を含有する、天ぷら粉を用いて」いる点。 [相違点5-2] 本件発明5は、「揚げたて時の天ぷら衣の歯切れがよくサクサクとした食感を持続させる方法」であるのに対して、引用発明2は、「米粉ならではの独特の食味・食感が味わえる天ぷらを得る方法」である点。 (イ)判断 相違点5-1は、上記ア(ア)で示した相違点1-1と実質的に同じであるから、上記ア(イ)で示した理由と同様の理由により、相違点5-1に係る本件発明5の構成とすることは,当業者が容易に想到し得たことではない。 そうすると、相違点5-2を検討するまでもなく、本件発明5は、引用発明2及び甲3に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 エ まとめ 上記ア?ウのとおりであるから、本件発明1、3及び5は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。 したがって、本件特許の請求項1、3及び5に係る特許は、取消理由1により取り消すことができない。 (2)取消理由2(特許法第36条第4項第1号)について 本件訂正後の明細書の段落【0011】及び【0036】において、「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」と記載されたことにより、当該装置を特定できるものとなった。 これにより、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明1、3及び5の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、本件特許の請求項1、3及び5に係る特許は、取消理由2により取り消すことができない。 第5 平成31年2月18日付け取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由 申立人は、特許異議申立書において、次の特許異議申立理由を主張する。 ・本件特許明細書には、平均粒径について、段落0011、0036に「株式会社日本レーザー社製「レーザー解析式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて乾式で測定する」ことが記載されているのみであり、その算出方法が特定されていない。 一方、甲5の判決文には、「平均粒径については,個数平均径,長さ平均径,体積平均径等複数の種類があり,当然それらの計算式は異なるものである(6頁下から12?11行)」こと,「平均粒径の定義・意味、測定方法を特定しなければ,平均粒径の意義は明確でない,と認められる(7頁14?15行)」ことが記載されている。 レーザー解析式粒子径分布測定装置によって求められる平均粒径には、計算方法によって、中央値、最頻値、体積平均値の3つの算出方法があり、算出方法が異なると結果も変わってくることは、当業者にとって知られていることである。 したがって、どの算出方法によって求められた平均粒径であるかが、本件特許明細書には記載されていないので、本件の特許請求の範囲における粒径の規定は明確ではない。 よって、本件の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に違反している。 2 当審の判断 請求項1及び5において、「平均粒径が25?70μm」と記載されているところ、「平均粒径」について定義する記載はないが、「平均粒径」を説明する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。 ・「【0011】 本開示の粳米粉の「平均粒径」の測定方法は、株式会社日本レーザー社製「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて乾式で測定する。」 ・「【0036】 <米粉の平均粒径の測定方法> 各実験で使用した米粉の「平均粒径(μm)」は、株式会社日本レーザー社製「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて乾式で測定した。」 これら記載から、平均粒径の測定を株式会社日本レーザー社製「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて乾式で測定したことが理解できる。 そして、甲2において、特許権者ではない「兵庫教育大学大学院 自然・生活教育系」が作成した平成22年3月1日付けの「米粉の物性分析報告書」の「2.分析結果」において、単に「平均粒径」と記された項目において、米粉(微細)について「42.20μm」となっているところ、「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて計測した3つ目の結果において、中央下には「x50= 42.20μm」と記されていること(細目、中目についても同様。)及び乙2にはx50がメジアン径であることが示されていることから、米粉を「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて計測した結果において、単に「平均粒径」と記した場合は、メジアン径を意味することが普通であると理解できる。 そうすると、本件特許の請求項1、3及び5における「平均粒径」はメジアン径を意味するものと理解できるから、本件発明1、3及び5は明確である。 したがって、本件特許の請求項1、3及び5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、同法第113条第4号に該当せず、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由により取り消すことができない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、3及び5に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1、3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、本件特許の請求項2及び4は、本件訂正により削除された。 これにより、本件特許の請求項2及び4に対して申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 天ぷら用バッターミックス 【技術分野】 【0001】 本発明は、天ぷら用バッターミックス及びこれを使用して製造された天ぷらに関する。 【背景技術】 【0002】 天ぷらは、小麦粉を水に溶かしてバッターを調製し、これを種(具材)の表面に付着させて油で揚げて製造されている。このバッターを使用した天ぷらの衣は、揚げたてのときには歯切れがよく、適度な硬さがありサクサクとしたよい食感であるが、時間の経過と共にやわらかい食感となったり、ヒキが出て歯切れが悪くなったりする。 実際、一般家庭において個々によって食事の時間が異なる場合があり、油ちょう直後ではなく、時間を経過してから食することがある。また、近年では外食・中食化が進み、弁当や惣菜として販売されている天ぷらを購入し、これを食する場合には、油ちょう後に時間が経過してから食することになる。 このため、油ちょう直後の食感がよく、かつ、その揚げたて特有の食感が長時間持続できるような天ぷら用バッターミックスが望まれている。 【0003】 一般に油ちょう後に天ぷら衣にサクミのある食感を出すために、天ぷら用バッターミックスに加工澱粉や膨張剤、乳化剤等を添加することが行われている。 例えば、特許文献1には、膨潤度が4?15で、且つ、溶解度が10重量%以下である架橋澱粉を20重量%以上含有することを特徴とする揚げ物用衣材が提案されている。 例えば、特許文献2には、原料小麦粉を温度50℃以上70℃以下かつ相対湿度70%以上100%以下の雰囲気中で湿熱処理することにより品温45℃以上65℃以下かつ含有水分10%以上16%以下の範囲内に到達させて得た変性小麦粉が組成物全量の5?95重量%、酸化澱粉と植物性蛋白の合計量が組成物全量の5?60重量%、乳化剤が組成物全量の0.01?5重量%となるよう配合し、酸化澱粉と植物性蛋白の重量比を4/1?2/1の範囲内とすることを特徴とする揚げ物衣用小麦粉組成物の製造法が記載されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開平9-215478号公報 【特許文献2】特開平11-75749号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 そこで、本発明は、油ちょう直後の食感がよく、かつ、揚げたての天ぷら特有の、歯切れがよくサクサクとした食感を、油ちょう後長時間持続できる天ぷらの衣を提供しようとするものである。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明者は、鋭意検討した結果、平均粒径を特定の範囲とし、かつ、損傷でん粉を特定量にした粳米粉を調製し、この調製された粳米粉を使用することによって、油ちょう直後の食感がよく、かつ揚げた後一定時間経過しても、揚げたてのときのような歯切れがよくサクミのよい食感を有する天ぷら衣を製造できることを見出し、本発明を完成させた。 【0007】 すなわち、本発明は、平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が6質量%以下である粳米粉を含有する天ぷら用バッターミックスを提供するものである。 また、本発明は、平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が6質量%以下である粳米粉を含有する天ぷら用バッターミックスを使用して製造された天ぷらを提供するものである。 【発明の効果】 【0008】 本発明によれば、油ちょう直後の食感がよく、かつ、揚げたての天ぷら特有の、歯切れがよくサクサクとした食感を、油ちょう後長時間持続できる天ぷらの衣を提供することができる。 【発明を実施するための形態】 【0009】 本開示の天ぷら用バッターミックスは、平均粒径が特定の範囲であり、かつ損傷でん粉含有量が特定量以下である粳米粉を含有するものである。 【0010】 本開示の粳米粉の平均粒径は、25?70μmであるのが好適である。当該特定の範囲内とすることにより、揚げたての天ぷら特有の衣の良好な食感を油ちょう後長時間持続することができる。粳米粉の平均粒径が70μmより大きいと、衣の硬さは維持されるが、ザクザクとした硬い食感となり、天ぷらとして好ましくない食感となる。また、25μmより小さいと、油ちょう直後は、サクサクとした好ましい食感の天ぷらが得られるが、油ちょう後時間が経過すると軟らかくなる。 前記粳米粉の平均粒径は、好ましくは30?60μmであり、より好ましくは30?50μmである。これにより、揚げたての天ぷら特有の歯切れがよくサクサクとした食感を油ちょう後長時間持続できる。 【0011】 本開示の粳米粉の「平均粒径」の測定方法は、株式会社日本レーザー社製「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて乾式で測定する。 【0012】 本開示の粳米粉の損傷でん粉含有量は、6質量%以下であるのが好適である。当該特定の含有量であることにより、衣と具材との間の層のぬめりが少ない良好な食感を得ることができる。 前記粳米粉の損傷でん粉含有量は、より好ましくは4質量%以下である。これにより、揚げたての天ぷら特有の歯切れがよくサクサクとした食感を油ちょう後長時間持続できると共に、油ちょう後も内層のぬめりが少ないといった良好な食感を得ることができる。 【0013】 本開示の「損傷でん粉(「DS」ともいう)含有量」とは、米粉全量中の、損傷を受けたでん粉の含有量である。当該「損傷でん粉」とは、米を粉砕する時の圧力や衝撃等により、でん粉粒が機械的な損傷を受けたでん粉のことをいう。 なお、本開示の「損傷でん粉含有量」は、AACC Method 76-31に従って測定することができる。具体的には、試料中に含まれている損傷でん粉のみをカビ由来α-アミラーゼでマルトサッカライドと限界デキストリンに分解し、次いでアミログルコシダーゼでグルコースにまで分解し、生成されたグルコースを定量することにより測定する。また、市販のキット(例えば、MegaZyme製,Starch Damage Assay Kit)を用いて測定してもよい。 【0014】 ここで、小麦粉、でん粉及び膨張剤等を水で溶いた従来のバッター(以下、「従来のバッター」ともいう)を用いて得られた天ぷらの衣は、油ちょう直後は歯切れがよくサクサクとした好ましい食感であるが、揚げた後一定時間を経ると歯切れが悪くなり、サクミがなくなり、ベタついた食感となるので、好ましい食感を維持することができない。 また、乳化剤等含有の組成物を提案している特許文献2では油ちょう後に時間が経過した後の食感も検討がされている。しかし、この揚げ物衣用小麦粉組成物は、特定の変性小麦粉を調製し、かつ、この特定の変性小麦粉、酸化澱粉と植物性蛋白質、及び乳化剤を特定量に調整する必要があるので、この組成物の製造方法は簡便とは言えず、煩雑であり、作業性の点で好ましくない。 また、後記比較例に示すように、天ぷら用バッターミックスの原料として市販されている米粉(以下、「市販の天ぷら用米粉」ともいう)を用いた場合には、この天ぷら衣の食感は米菓のようなザクザクとしてクリスピーな食感となり、従来のバッターにて得られる天ぷら衣の揚げたて直後の食感とは大きく異なる食感となってしまう。また、この市販の天ぷら用米粉を用いた場合、油ちょう後一定時間を経過したときの天ぷら衣は、硬さは維持できるものの、ザクザクとして非常に硬く、歯切れも悪く、好ましくない食感であった。 後記比較例に示すように、菓子の原料として市販されている米粉(以下、市販の「菓子用米粉」ともいう)を用いた場合、この天ぷら衣は、揚げた後一定時間を経ると食感が柔らかく良好なサクミと言えず、歯切れも悪く好ましくない食感であった。また、従来、米粉を細かく粉砕すると作業時の粉舞が強い、バッター調製時の水解けが悪いなどの問題があると言われていた。 このように市販の天ぷら用米粉及び菓子用米粉を天ぷら用バッターミックスに配合しても、油ちょう直後の食感がよい、かつ、揚げたての天ぷら特有の衣の良好な食感を油ちょう後長時間持続することができる天ぷらの衣を得ることができなかった。 【0015】 また、後記比較例に示すように、損傷でん粉含有量が6質量%超の場合には、揚げたての天ぷら特有の食感を長時間持続できる天ぷらの衣を得ることができなかった。特に、内層のぬめりが強く、また揚げたての天ぷら特有の歯切れの良さを長時間維持できないので、好ましい食感ではなかった。 また、後記実施例及び比較例に示すように、25?70μmの特定の範囲に該当する米粉であっても、損傷でん粉含有量によっては、油ちょう直後の食感がよい、かつ、揚げたての天ぷら特有の衣の良好な食感を油ちょう後長時間持続できる天ぷら衣を得ることが、できない場合があった。 さらに、後記比較例に示すように、もち米を粉砕して得られたもち米粉を用いた場合、油ちょう直後の好ましい食感を得ることができず、揚げたての天ぷら特有の食感を長時間持続できる天ぷらの衣を得ることができなかった。特に歯切れが悪く、サクミが弱くて柔らかく、好ましい食感ではなかった。 【0016】 以上のことより(a)粳米であること、(b)米粉の平均粒径が25?70μmという特定の範囲内であること、(c)米粉の損傷でん粉含有量が6質量%以下という特定量以下であることによって、油ちょう直後の食感がよく、かつ、揚げたての天ぷら特有の、歯切れがよくサクサクとした食感を、油ちょう後長時間持続できる天ぷらの衣を得ることができ、またこの天ぷらの衣は油ちょう後も内層のぬめりが少ない食感の良好な天ぷらの衣を得ることができた。すなわち、揚げたての天ぷら特有の衣の良好な食感を油ちょう後長時間持続することができる天ぷらの衣を得るためには、これら(a)?(c)の全てを満たす米粉を天ぷら用バッターミックスに含有させることが重要である。 【0017】 本開示にて使用する粳米の品種は、特に限定されない。たとえば、ジャポニカ種、インディカ種、ジャバニカ種等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上組み合わせて用いてもよい。 ちなみに、米はでん粉の組成と性質によって粳米ともち米とに分けることができる。もち米は、餅やおこわに使われる米であり、調理時に強い粘性をもつ。もち米のでん粉の大部分はアミロペクチンよりなっており、アミロース含有量はゼロかほとんど含まれない。一方、粳米のでん粉は、アミロペクチンとアミロースの両方よりなっている。 【0018】 本開示で用いられる粳米粉は、前記粳米を粉砕して粉末化したものである。当該粳米粉は生のままの粳米の粉を用いるのが望ましい。 本開示で用いられる粳米粉は、公知の粉砕方法を用いて、前記粳米を所望の平均粒径及び損傷でん粉含有量になるように粉砕して得ることができる。粉砕後に、所望の篩或いは分級によって粳米粉の平均粒径を整えることができる。このとき、粳米粉の損傷でん粉の含有量、並びに粳米粉の平均粒径は、上述の「損傷でん粉の含有量」の測定方法、上述の「平均粒径」の測定方法にて測定すればよい。ちなみに、前記粳米を粉砕して粳米粉にすると、粉砕時の圧力や衝撃などにより、少なくとも損傷でん粉が生じるため、損傷でん粉含有量は0質量%超になる。 【0019】 前記粉砕方法としては、一般的に食品製造等に用いられている粉砕装置を用いるものであればよく、例えば、ロール粉砕、気流粉砕、衝撃式粉砕、摩擦粉砕、せん断粉砕等が挙げられる。 また、複数の粉砕方法を組み合わせて用いることもできる。特に、気流粉砕や衝撃式粉砕を用いるのが、損傷でん粉含有量が上がりにくいため好ましい。 【0020】 前記粳米粉の平均粒径は、ロール粉砕法、せん断粉砕法、摩擦粉砕法、衝撃式粉砕法、気流粉砕法等の公知の粉砕方法から選ばれる1種又は2種以上により製粉することによって、調整することが可能である。 また、前記粳米粉の平均粒径は、篩を通過して所望の粒径以下となるような目開きの細かい篩を用いて調整することが可能である。 前記粳米粉の平均粒径は、一定質量の粳米粉を複数の異なるメッシュを用いて、粗いメッシュの篩から順次かけていき、各篩上に残った画分及び全ての篩を通過した画分の配合割合を調整することによっても調整が可能である。 【0021】 本開示の特定範囲の平均粒径と損傷でん粉の特定含有量を有する粳米粉は、油ちょう直後の食感がよく、かつ、揚げたての天ぷら特有の衣の良好な食感を油ちょう後長時間持続することができ、良好なサクミと適度な硬さの食感を有する天ぷらの衣を提供でき、また、油ちょう直後の食感がよく、かつ、揚げたて時の天ぷら衣の食感を持続させた天ぷら衣を提供することができる。 このため、本開示の粳米粉は、前記好適な食感の天ぷら衣の提供を目的として使用することが可能であり、当該本開示の粳米粉を含有させて、前記好適な食感の天ぷら衣を得るための食感改良剤として、使用することも可能である。 また、本開示の粳米粉をそのまま食感改良剤として又は本開示の粳米粉を有効成分として含有する食感改良剤を、食感が改善された天ぷらの衣及び天ぷらを製造する際に又は製造するために、使用することができる。 また、本開示の天ぷらの衣又は天ぷらの食感改良剤は、本開示の粳米粉以外に任意の成分を含有させてもよい。当該任意の成分として、特に限定されないが、例えば、でん粉、加工でん粉、タンパク、卵成分、食物繊維、増粘剤、乳化剤、油脂等が挙げられる。 本開示の粳米粉を用いることで、乳化剤や加工でん粉等の食品添加物の使用量をなくすか又は低減することができる点でも、本開示の粳米粉の利点と言える。 【0022】 本開示の粳米粉の含有量は、特に限定されないが、天ぷら用バッターミックス中、好ましくは5?60質量%、より好ましくは10?40質量%である。これにより、揚げたての天ぷら特有の衣の良好な食感を油ちょう後長時間持続することができ、なおかつ、油ちょう直後の天ぷらの食感も良好である。また、天ぷら製造時の作業性も良好である。 【0023】 本開示の天ぷら用バッターミックスは、本開示の粳米粉の他に、小麦粉、でん粉、膨張剤、穀粉(小麦粉、本開示の米粉を除く)等から選ばれる1種又は2種以上のものを含有することが好ましい。 前記穀粉として、例えば、トウモロコシ、ソルガム、大麦、大豆等を粉末状にしたものが挙げられる。 前記でん粉として、特に限定されないが、トウモロコシでん粉、小麦でん粉、馬鈴薯でん粉、タピオカでん粉、甘藷でん粉及びこれらを加工した加工でん粉(エーテル化、エステル化、架橋、酸化等)から選択される1種又は2種以上のものが挙げられる。 膨張剤として、特に限定されないが、炭酸水素塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム等)、酒石酸塩、フマル酸塩、リン酸塩、グルコノデルタラクトン等が挙げられる。 【0024】 前記小麦粉の含有量は、特に限定されないが、天ぷら用バッターミックス中、好ましくは40?95質量%、より好ましくは50?80質量%である。 前記でん粉の含有量は、特に限定されないが、天ぷら用バッターミックス中、好ましくは1?20質量%、より好ましくは5?15質量%である。 前記膨張剤の含有量は、特に限定されないが、天ぷら用バッターミックス中、好ましくは0.1?5質量%である。 【0025】 本開示の天ぷらは、本開示の天ぷら用バッターミックスを使用して製造されるものである。より詳細には、本開示の天ぷらは、本開示の天ぷら用バッターミックス、水、さらに必要に応じて卵等を加えて混合してバッターを調製し、当該バッターを種(具材)の表面に付着させ、油ちょうして得られるものである。 【0026】 前記バッターを調製する際に、本開示の天ぷら用バッターミックス100質量部に対して水50?200質量部であればよい。 【0027】 前記具材として、特に限定されないが、エビ、イカ、白身魚、アサリ等の魚介類;タマネギ、ニンジン、インゲン、サツマイモ、カボチャ等の野菜類等が挙げられる。また、具材は、薄力粉等にて打ち粉をされてもよい。 【0028】 バッター付きの具材を揚げる際の、油ちょう温度、油ちょう時間は、特に限定されない。例えば、油ちょう温度は150?200度で油ちょう時間1?5分間で行えばよい。 【0029】 本開示の天ぷらは、揚げたての天ぷら特有の衣の良好な食感を油ちょう後長時間持続することができる。当該天ぷらは、歯切れがよくサクミがあり、内層のぬめりが少ないといった良好な食感が、揚げた後に長時間持続できるので、好適である。 【0030】 本技術は、以下の構成を採用することも可能である。 〔1〕 平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が6質量%以下である粳米粉を含有する天ぷら用バッターミックス。 〔2〕 前記粳米粉の含有量が、5?50質量%である前記〔1〕記載の天ぷら用バッターミックス。 〔3〕 前記粳米粉の損傷でん粉含有量が0超である前記〔1〕又は〔2〕記載の天ぷら用バッターミックス。 〔4〕 前記粳米粉及びでん粉を含有する前記〔1〕?〔3〕の何れか1項記載の天ぷら用バッターミックス。 〔5〕 前記でん粉の含有量が、1?10質量%である前記〔1〕?〔4〕の何れか1項記載の天ぷら用バッターミックス。 〔6〕 前記〔1〕?〔5〕の何れか1項記載の天ぷら用バッターミックスを使用して製造された天ぷら。 〔7〕 前記〔1〕?〔5〕の何れか1項記載の天ぷら用バッターミックスを使用する天ぷらの製造方法。 〔8〕 前記バッターミックス及び水を混合して調製したバッターを付着させた種を揚げる前記〔7〕記載の天ぷらの製造方法。 〔9〕 平均粒径が25?70μmかつ損傷でん粉含有量が6質量%以下である粳米粉を含有する、揚げたて時の天ぷら衣の食感を持続させる天ぷら用食感改良剤。 〔10〕粳米粉の損傷でん粉含有量を6質量%以下に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉を用いて、揚げたて時の天ぷら衣の食感を持続させる方法。 【実施例】 【0031】 以下、実施例によって本発明(本開示)を詳細に説明するが、本発明(本開示)はこれらの実施例に限定されるものではない。 【0032】 <実施例1-6及び比較例1-8:米粉の検討> 表1の参考例に示す配合で、小麦粉、でん粉、ベーキングパウダー、卵黄粉を含有させた天ぷら用バッターミックスを調製し、これを参考例の天ぷら用バッターミックスとした。 表2に示す実施例1-6及び比較例1-8の各米粉を使用して、米粉含有の天ぷら用バッターミックスをそれぞれ調製した。このバッターミックスは、表1の実施例・比較例のバッターミックス組成配合で調製したものである。これらを、実施例1-6及び比較例1-8記載の各天ぷら用バッターミックスとした。 表2に示す実施例1-6及び比較例1-8の各米粉は、以下の<米粉の製造方法>にて製造した。なお、比較例1は市販品の菓子用米粉、比較例7は市販品のバッター・衣用米粉を購入し、平均粒径(μm)及びDS(質量%)を測定後に、使用した。 各米粉の平均粒径(μm)及びDS(質量%)は、以下の<米粉の平均粒径の測定方法>及び<米粉のDSの測定方法>に従って測定した。得られた値を表2に示す。 【0033】 参考例、実施例1-6及び比較例1-8の各天ぷら用バッターミックスを用いて、以下に示す<天ぷらの製造方法>に従って、参考例、実施例1-6及び比較例1-8の各天ぷらを得た。 得られた各天ぷらについて、油ちょう直後および油ちょう2時間後に、以下に示す<評価基準>に基づき、喫食評価を行った。この評価結果を表2に示す。 【0034】 <米粉の製造方法> 〔実施例1、2、4の米粉〕 精米した粳米を、気流粉式砕機で湿式にて粉砕し、表2に示す実施例1、2、4の各米粉を得た。 〔実施例3〕 精米した粳米を、ロール式粉砕機で湿式にて粉砕した後、気流式粉砕機で粉砕し、表2に示す実施例3の米粉を得た。 〔実施例5〕 精米した粳米を、ボールミルで乾式にて粉砕し、表2に示す実施例5の米粉を得た。 〔実施例6〕 精米した粳米を、ハンマーミルで乾式にて粉砕し、表2に示す実施例6の米粉を得た。 【0035】 〔比較例1〕 市販品の菓子用米粉(瑞穂菓子用 熊本製粉株式会社製)を購入した。 〔比較例2、4〕 精米した粳米を、ボールミルで乾式にて粉砕し、表2に示す比較例2、4の各米粉を得た。 〔比較例3〕 精米した粳米を、気流式粉砕機で乾式にて粉砕し、表2に示す比較例3の米粉を得た。 〔比較例5、6〕 精米した粳米を、ロール式粉砕機で乾式にて粉砕し、表2に示す比較例5、6の各米粉を得た。 〔比較例7〕 市販品のバッター・衣用米粉(A3 日の本穀粉株式会社製)を購入した。 〔比較例8〕 精米したもち米を気流粉式砕機で湿式にて粉砕し、表2に示す比較例8の米粉を得た。 【0036】 <米粉の平均粒径の測定方法> 各実験で使用した米粉の「平均粒径(μm)」は、株式会社日本レーザー社製「レーザー回折式粒子径分布測定装置HELOS&RODOS」を用いて乾式で測定した。 <米粉の損傷でん粉含有量の測定方法> 各実験で使用した米粉の「損傷でん粉(DS)含有量(質量%)」は、市販のキット(MegaZyme製,Starch Damage Assay Kit)を用いて測定した。 具体的には、各米粉試料100mgに、予め40℃で10分間プレインキュベーとしたα-アミラーゼ溶液(Aspergillus oryae由来,50unit/ml)を1ml添加して、撹拌した後、40℃で10分間処理した。次いで、クエン酸-燐酸水溶液(pH2.5)を5ml添加して反応を停止させ、遠心分離(1,000g,5分)して上清を得た。この上清0.1mlにアミログルコシダーゼ溶液(Aspergillus niger由来,2unit/0.1ml)を添加して40℃で20分間処理した後、510nmで吸光度を測定し、得られた吸光度から生成したグルコース量を算出し、米粉試料中に含まれる損傷でん粉量を算出した。 【0037】 <天ぷらの製造方法> バッターミックス100gに対し、水150gを加え、バッターを調製し、このバッターを具材(エビ)表面に付けて、170℃の大豆油中で2分間油ちょうし、天ぷらを得た。 【0038】 <評価基準> 〔評価:歯切れ〕 5:全くヒキがなく、歯切れがよい、非常に好ましい状態。 4:ほとんどヒキがなく、歯切れが良い、好ましい状態。 3:若干ヒキはある状態。 2:ヒキがあり、歯切れが悪い状態。 1:ヒキが強く、非常に歯切れが悪い状態。 〔評価:硬さ〕 5:適度な硬さがあり、軽くてサクサクとした天ぷらとして非常に好ましい状態。 4:若干硬さがある、または、若干ソフトであるが、サクサクとした天ぷらとして好ましい状態。 3:硬い、またはソフトであるが、ややサクミは感じられる。 2:硬い、または軟らかく、サクミが感じられない。 1:非常に硬い、または非常に柔らかく、サクミがない。 〔評価:内層のぬめり〕 5:衣と具材の間にぬめりがなく、非常に好ましい状態。 4:衣と具材の間に若干ぬめりがあるが、好ましい状態。 3:衣と具材の間にぬめりがある。 2:衣と具材の間のぬめりがやや強い。 1:衣と具材の間のぬめりが強く、べたついた状態である。 〔評価:総合〕 歯切れ、硬さ、内層のぬめりの各評価項目の合計点(15点満点)で評価した。 【0039】 【表1】 【0040】 【表2】 【0041】 表2に示すように、米粉の平均粒径が26?66.2μm、かつ、DS2.2?5.9質量%のときに、油ちょう直後の食感がよく、揚げたて時の良好な天ぷら衣の食感を2時間経過した後でも良好に維持していた。当該数値範囲にした米粉を用いることで、油ちょう後一定期間経過後の歯切れ、硬さ、内層のぬめりの評価が良好であり、これらの総合点が10点以上とよい結果を得ることができた。特に、実施例1?3の米粉(平均粒径33?59μmかつDS2?4質量%)を用いたときに非常に良好であった。 これに対し、比較例1の市販の菓子用米粉は、油ちょう直後はサクサクとした適度な硬さであったが、油ちょう後2時間経過すると、歯切れがあまりなく、また、軟らかく内層にぬめりがあり総合評価もあまり良くなかった。また、比較例7の市販のバッター・衣用米粉は、油ちょう直後は硬い食感であり、2時間経過後も、歯切れが悪く、また硬く、内層にぬめりがあり、総合評価も低かった。さらに、他の比較例2-6及び8に関しても、揚げたて時の天ぷら衣の食感は維持できず、そもそも揚げたて時でも食感が良好でないものもあった。 このようなことから、米粉の平均粒径を単純に25?70μmにしても、求める好適な食感が得られないものが存在した。また、米粉のDSを単純に6質量%以下にしても、求める好適な食感を得られないものが存在した。このことから、米粉の平均粒径25?70μmかつ米粉のDS6質量%以下の両方を満たす必要がある。さらに、これら平均粒径及びDSの2つの範囲内に、もち米を調製したもち米粉でも、良好な食感を得ることができなかった。 このことから、油ちょう直後の食感がよく、揚げたて時の天ぷら衣の食感を持続した天ぷら衣を得ようとした場合には、平均粒径25?70μmかつDS含有量6質量%以下の粳米粉を用いることが重要である。また、平均粒径30?60μmかつDS4質量%以下のときに、油ちょう直後及びその後の食感についてより良好な食感の天ぷら衣を得ることができる。 【0042】 <実施例7-11:粳米粉の含有量> 上記実施例1の米粉を用い、表3に示す米粉の含有量に調整し、実施例7-11の天ぷら用バッターミックスを調製した。各バッターミックスを用いて、上記実施例1の天ぷらの製造方法に準じて、天ぷらを得、表3に示す評価を行った。総合評価については、歯切れ及び硬さの評価の合計点(満点10点)とした。 【0043】 〔評価:バッターの付着性〕 米粉を含有しない参考例の配合で調製したバッターを具材に付着させたときの付着性を5点とし、5段階で評価した。 【0044】 【表3】 【0045】 表3に示すように、天ぷら用バッターミックス全量中に、粳米粉をそれぞれ3、5、10、30、50質量%含有させた場合に、揚げたて時の天ぷらの食感が維持でき、またバッターの付着性も良好であった。さらに、粳米粉を10?30%含有させた場合に、より食感が良好となり、バッター付着性もよかった。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 平均粒径が25?70μmでありかつ損傷でん粉含有量が4.0質量%以下である粳米粉 10?40質量%、及び 小麦粉 40質量%以上、 を含有する、天ぷら用バッターミックス。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 請求項1記載の天ぷら用バッターミックスを使用した天ぷら。 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (A)粳米粉の損傷でん粉含有量を4.0質量%以下に調整した、平均粒径が25?70μmの粳米粉 10?40質量%、及び(B)小麦粉 40質量%以上、を含有する、天ぷら用バッターミックスを用いて、揚げたて時の天ぷら衣の歯切れがよくサクサクとした食感を持続させる方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-07-19 |
出願番号 | 特願2013-224250(P2013-224250) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L) P 1 651・ 536- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 川合 理恵 |
特許庁審判長 |
松下 聡 |
特許庁審判官 |
窪田 治彦 槙原 進 |
登録日 | 2017-12-08 |
登録番号 | 特許第6255214号(P6255214) |
権利者 | 昭和産業株式会社 |
発明の名称 | 天ぷら用バッターミックス |
代理人 | 渡邊 薫 |
代理人 | 渡邊 薫 |