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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C07C
審判 全部申し立て 特39条先願  C07C
管理番号 1354961
異議申立番号 異議2019-700441  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-05-29 
確定日 2019-09-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6451810号発明「テトラフルオロプロペンの保存方法およびテトラフルオロプロペンの保存容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6451810号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6451810号の請求項1?6に係る特許についての出願は、2013年4月19日(優先権主張2012年4月27日(JP)日本国)を国際出願日として特許出願した特願2014-512536号の一部を平成29年9月6日に新たな特許出願としたものであって、平成30年12月21日に特許権の設定登録がされ、平成31年1月16日にその特許公報が発行され、令和1年5月29日に、その請求項1?6に係る発明の特許に対し、鈴木愛子(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6451810号の請求項1?6に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で保存する方法であって、
前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満にし、かつ非凝縮性気体の含有量の合計を、温度25.0℃で1.5体積%以下にすることを特徴とするテトラフルオロプロペンの保存方法。
【請求項2】
前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする、請求項1に記載のテトラフルオロプロペンの保存方法。
【請求項3】
前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm以下にする、請求項1または2に記載のテトラフルオロプロペンの保存方法。
【請求項4】
気相と液相とを有する気液状態の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが充填され密閉された保存容器であり、
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満であり、かつ非凝縮性気体の含有量の合計が、温度25.0℃で1.5体積%以下であることを特徴とするテトラフルオロプロペンの保存容器。
【請求項5】
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満である、請求項4に記載のテトラフルオロプロペンの保存容器。
【請求項6】
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm以下である、請求項4または5に記載のテトラフルオロプロペンの保存容器。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた取消理由の概要は、以下のとおりである。

1 特許法第29条第2項(以下「理由1」という。)
本件発明1?6は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された以下の甲第1号証に記載された発明並びに甲第2?6号証に記載の技術的事項に基いて、本件優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲第1号証:国際公開第2010/098447号(以下「甲1」という。)
甲第2号証:JOURNAL OF CHEMICAL & ENGINEERING DATA, Vol.56, (2011), p.3254-3264(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開2011-85275号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:特開2001-240570号公報(以下「甲4」という。)
甲第5号証:米国特許第2,407,405号明細書(以下「甲5」という。)
甲第6号証:「補遺1及び2付きANSI/AHRI標準700 フルオロカーボン冷媒の2006標準規格」(2011年8月8日ANSIにより承認)AHRI発行(以下「甲6」という。)

2 特許法第39条第2項(以下「理由2」という。)
本件発明1?6は、同日出願された下記甲第7号証に係る出願(特願2014-512536号)の請求項1?6に係る発明と同一の発明と認められ、かつ、下記の出願に係る特許は特許されており協議をすることができないから、本件発明1?6は、特許法第39条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

甲第7号証:特願2014-512536号の特許第6377524号公報(以下「甲7」という。)

第4 当審の判断

I 理由1について

1 甲号各証の記載

(1)甲1

1a「 請求の範囲
[請求項1] ハイドロフルオロプロペン及び安定化剤を含む冷媒組成物であって、該安定化剤が、炭素数1?4でアルコール価数1?4の脂肪族アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする冷媒組成物。
[請求項2] ハイドロフルオロプロペンが、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、(Z又はE-)1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、(Z又はE-)1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、(Z又はE-)1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225zc)、及び(Z又はE-)3,3,3-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の冷媒組成物。
・・・・・
[請求項7] ハイドロフルオロプロペンを含む冷媒組成物の安定化方法であって、該冷媒組成物に、炭素数1?4でアルコール価数1?4の脂肪族アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を添加することを特徴とする安定化方法。」(請求の範囲 請求項1、2、7)

1b「[0007] そこで本発明者は、ハイドロフルオロプロペンについての安定性を評価したところ、空気(酸素)共存下での安定性に問題が認められた。具体的には、冷媒組成物の実際の使用で到達すると考えられる温度域でも酸化分解が進行し、CF_(3)COOH、HFなどの酸の生成が確認された。そのため、システム内の腐食や冷凍能力の低下、キャピラリーの閉塞等の問題が予想された。
[0008] 一般に、モバイルエアコンのように工場で冷媒が充填される装置であれば、施工管理がなされているため空気(酸素)の混入の可能性はほとんどない。しかしながら、定置式空調機等の装置の場合は、現場での冷媒充填施工が必要である。該冷媒充填施工は、施工業者の管理能力に委ねられており、これまでも冷凍能力低下等の不具合やトラブルの主原因として、空気(酸素)の混入が考えられた。
[0009] 従来のHFC冷媒では、このような不具合が発生した場合に冷媒の入れ替えのみで対応可能であったが、ハイドロフルオロプロペンを含む冷媒の場合には冷媒の酸化分解により大量の酸を生成するため、システムの金属腐食等が生じるおそれがあり、それに伴い機器の交換の必要も考えられる。このように、ハイドロフルオロプロペンを含む冷媒を用いる場合には、据え付け作業及びメンテナンス等の問題が発生する可能性がある。そのため、ハイドロフルオロプロペンを冷媒組成物の成分として用いる場合には、該冷媒組成物について空気(酸素)共存下における安定性を高める技術が必要である。
・・・・・
[0011]・・・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0012] 本発明は、地球温暖化係数(GWP)が低いハイドロフルオロプロペンを含む冷媒組成物であって、空気(酸素)共存下においても安定な状態を長期間維持できる安定化された冷媒組成物を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0013] 本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、炭素数1?4でアルコール価数1?4の脂肪族アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤(酸化防止剤)を含む冷媒組成物が、空気(酸素)共存下においても安定な状態を長期間維持できることを見出した。かかる冷媒組成物は、家庭用エアコン等の定置型空調機の冷媒充填施工時に空気(酸素)が混入しても、長期にわたって安定性が保持できる。」

1c「[0036] これに対して、本発明の安定性評価方法は、密閉容器中で、酸素の存在下及び/又は不存在下に、冷媒組成物を加熱処理した後、処理後の冷媒組成物の酸分を分析することを特徴とする。
[0037] 酸素不存在下の分析結果(酸素不存在下で酸が発生しないことの確認)と酸素存在下での分析結果との差を比較することにより、安定化剤の効果及びその程度を確実に評価することができる。
[0038] 密閉容器としては、シールドチューブ(例えば、シールドされたパイレックス(登録商標)ガラス製チューブ等)が用いられる。本発明の評価方法は、いわゆる加速試験に相当するため、例えば加熱温度は90?200℃の範囲から設定できる。また、加熱処理時間は72?720時間の範囲から設定できる。処理後の冷媒組成物の酸分の分析方法については、実施例に記載の方法により実施することができる。」

1d「[0046] 実施例1?10及び比較例1?10
(冷媒組成物の調製)
冷媒として次のものを用意した。
X:HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)
Y(比較品):HFC-32(CF_(2)H_(2)ダイキン工業製)
Z:HFO-1225ye(CF_(3)CH=CF_(2)ダイキン工業製)
・・・・・
[0048] 下記表1に示す組成となるように各冷媒組成物を調製した。
[0049]

[0050]試験例1
パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に表1に示される計20種類(実施例1?10、比較例1?10)の冷媒組成物(冷媒+安定化剤)を入れ、更に表1に示される酸素濃度になるよう空気を入れて調整し封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱する加速試験を行った。
[0051](酸分の分析方法)
加速試験後のシールドチューブを液体窒素にてガスを完全に凝固させた。その後開封し、徐々に解凍し気化したガスをテドラーバッグに回収した。テドラーバッグに純水5gを注入し回収ガスとよく接触させ酸分を抽出し、抽出液をイオンクロマトグラフィーにてフッ化物イオン(F^(-))及びトリフルオロ酢酸イオン(CF_(3)COO^(-))の含有量(重量ppm)を測定した。
[0052](冷凍機油の全酸価分析)
JIS K-2211(冷凍機油)の全酸価分析方法に準拠した方法で、ガス回収後の冷凍機油全酸価値の測定を行った。加速試験後の冷凍機油を秤量し、トルエン/イソプロパノール/水混合溶媒に溶解させ、指示薬としてα-ナフトールベンゼインを用いて1/100N-KOH・エタノール溶液にて中和滴定し、滴定量から冷凍機油全酸価(mg・KOH/g)を測定した。
[0053]比較例の結果を下記表2に示し、実施例の結果を下記表3に示す。

[0055](結 果)
比較例1?7は、いずれも安定化剤を用いていない。
[0057] 比較例1?3はそれぞれHFO-1234yf、HFC-32、HFO-1225yeからなり、いずれも無酸素状態での安定性を評価しており、特に分解の兆候(酸の発生)は認められていない。
[0058] 比較例4?6は、それぞれ比較例1?3に酸素を共存させたものである。比較例4及び6ではハイドロフルオロプロペンであるHFO-1234yf、HFO-1225yeにおいて酸分の生成が大幅に増加している。これは、ハイドロフルオロプロペンの酸素共存下における安定性が、従来HFC冷媒(HFC-32)のそれと比較して極めて低いことを示している。
[0059] 比較例7ではHFO-1234yfとHFC-32の混合物と酸素を共存させているが、酸分生成量はHFO-1234yf(比較例4)に対しほぼ80%と組成比に比例している。
[0061] 実施例1?9における酸分は、比較例4?9と比べると低い値を示しており、ハイドロフルオロプロペンの酸素による酸化が抑制されていることが分かる。」

(2)甲2
訳文にて示す。

2a「要約:2,3,3,3-テトラフルオロー1ーエン(R1234yf)のp-ρ-T挙動を、2シンカーデジメータを用いて10MPaまでの圧力でT=(232から400まで)Kで測定した。」(3254頁 要約 1?2行)

2b「R1234yfの熱安定性の研究を2つの異なる試験系で行った。第1の試験系は、Widegren及びBrunoのプロトコールに従い、ステンレス製アンプル反応器中約0.3mLの容量でT=250℃又はT=150℃で(16?23)時間流体を加熱した。T=250℃及びT=150℃での最初の2つのテストでは、反応器を充填前真空にしなかった。両方の場合とも重合反応が認められた。3番目の150℃でのテストでは、反応器を充填前完全に真空にし、重合反応は検出されなかった。このように、空気はR1234yfの重合を進行させる。」(3256頁 左欄 1?10行)

(3)甲3
3a「(57)【要約】
【課題】冷凍サイクル内で冷媒に由来する重合物の析出を抑制し、冷凍サイクル内の膨張弁の詰まりなどの劣化を抑えて、長期間に渡って安定的に動作可能にする。
【解決手段】ハイドロフルオロオレフィンを含有してなる冷媒を封入した冷凍装置であって、当該冷凍装置の冷媒循環経路内に、ペンタエリスリトールと炭素数7?9の脂肪酸を反応させて得られる合成エステル(A)及びネオペンチルグリコールまたはトリメチロールプロパンと炭素数7?9の脂肪酸を反応させて得られる合成エステル(B)とを有する冷凍機油を含有している。この構成により、ハイドロフルオロオレフィンが酸素存在下で重合してできた生成物を溶解することができ、冷凍サイクル内で重合物が析出して詰まりを生じることがなくなる。」

3b「【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素原子を含まず、炭素と炭素間に二重結合を有するハイドロフルオロオレフィンを冷媒として用い、冷凍機油を封入した圧縮機、凝縮器、膨張機構ならびに蒸発器を備えた冷凍装置に関する。」

3c「【0024】
図3は2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを空気存在下で175℃2週間、オートクレーブ内で加熱試験を実施した後に発生した粘凋性の物質のFT-IRスペクトルである。・・・なお、エアコンの場合は通常、現場での施工があるため作業状況によっては冷凍サイクルに空気が混入する可能性がある。そのためオートクレーブ内で生成したような重合物が冷凍サイクル内で生成する。」

(4)甲4
4a「(57)【要約】
【課題】 テトラフルオロエチレンの取り扱いに関して、自己重合が起こる可能性を一層かつより簡単に減らす方法を提供する。
【解決手段】 液体のテトラフルオロエチレンに伝熱面を介して熱を加えてテトラフルオロエチレンを気化させるに際して、テトラフルオロエチレン側の伝熱面の温度を25℃以下に維持する。」

4b「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、テトラフルオロエチレンの気化方法、より詳しくは、液体のテトラフルオロエチレンに熱を加えてテトラフルオロエチレンを気化させ、それによって高圧(例えば0.5MPa以上の圧力)のテトラフルオロエチレンを得る方法およびそのための装置に関する。
【0002】
【従来の技術】種々の場合において、高圧の気体のテトラフルオロエチレン(以下、単に「TFE」とも呼ぶ)が必要とされる場合がある。例えば、ポリテトラフルオロエチレンの製造に際しては、比較的低圧にて貯槽に保管されていた気体のTFEを昇圧機によって高圧の気体のTFEとして、それを重合反応器に連続して供給して重合させる。
【0003】TFEは、反応性に富み、その爆発範囲は広く、TFEは自己重合を起こし易い。これを考慮して、自己重合の可能性を減らすべく、特別の注意を払う必要がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従って、TFEを取り扱う際に、自己重合が起こる可能性を一層かつより簡単に減らす対策を提供することが望まれている。
【0005】
【課題を解決するための手段】発明者らは、TFEの取り扱い、特に高圧のTFEを得る際のTFEの取り扱いに関して、TFEが自己重合を抑制する対策について鋭意検討を重ねた結果、上述の課題は、液体のテトラフルオロエチレンに伝熱面を介して熱を加えてテトラフルオロエチレンを気化させるに際して、テトラフルオロエチレン側の伝熱面の温度を25℃以下に維持することを特徴とする、テトラフルオロエチレンの気化方法により解決されることを見出した。
・・・・・
【0009】本発明の気化方法において、TFEは、液体であれば必ずしも高純度である必要はなく、自己重合を引き起こし易いTFEに、本発明の方法は、特に有効である。通常、本発明の気化方法は、重合に用いる規格を満足するTFEに好適である。尚、自己重合の可能性を可及的に減らすためには、TFEの酸素濃度が小さいのが好ましく、その意味で、本発明の方法は、好ましくは100ppm以下、より好ましくは10ppm以下で酸素を含む液体TFEを気化する場合に有効である。」

4c「【0014】
【発明の効果】本発明の方法に基づいて、液体TFE側の温度を25℃以下とした状態で、液体TFEを気化させることによって、気体TFEが自己重合する可能性を容易に減らすことができ、その結果、気化TFEを安全に取り扱うことができ、また、昇圧機を使用せずに、比較的高い所定の圧力の気化TFEを得ることができる。」

(5)甲5
訳文にて示す。

5a「本発明はテトラフルオロエタンの重合を防止するための方法及びテトラフルオロエタンを含む組成物に関する。」(1欄1?4行)

5b「20ppm未満の酸素を含んでいるテトラフルオロエチレンは、室温・超大気圧で、気体又は液体として、数週間重合せずに、貯蔵又は処理することができる。」(5欄20?24行)

(6)甲6
訳文にて示す。

6a「補遺1及び2付きANSI/AHRI標準700

フルオロカーボン冷媒の2006標準規格

2011年8月8日にANSIにより承認 」(補遺1及び2付きANSI/AHRI標準700の表紙)

6b「補遺2付きANSI/AHRI標準700-2006,フルオロカーボン冷媒の規格
2010年8月
補遺2付きAHRI標準700-2006,フルオロカーボン冷媒の規格は、AHRI標準700-2006の範囲2に並びに表1A及び表1Bに、冷媒R-407F、R-417B、R-438A及びR-1234yfを加える。混乱を避けるため、2010年8月補遺2は既に発行されているAHRI標準700の2006版に組み込まれている。」(ANSI/AHRI標準700-2006の補遺2 1頁2?8行)

6c「

」(ANSI/AHRI標準700-2006の補遺2 表1Aに追加された新規冷媒の表)

6d「 認定評価
再生冷媒認証プログラムのテストにより、以下の評価が検証されている。
・・・・・
f. 非凝集性物(体積%)
・・・・・」(ANSI/AHRI標準700-2006の補遺2の次頁「認定評価」の項目)

6e「5.10 非凝縮性物
5.10.1 方法.蒸気相サンプルは非凝縮性物を決定するために使用される。非凝縮性ガスは、冷媒液相中の空気の溶解性が極めて低く、かつ、空気が液相不純物として重要でない場合に、冷媒の蒸気相中に蓄積された空気より主に構成される。非凝縮性ガスの存在は、冷媒を貯蔵タンクやシリンダーに移す際の低い品質保持を反映しているであろう。

テスト方法は、AHRI標準700の補遺Cに記載されているように熱伝導性検出器付きガスクロマトグラフィーによる。

5.10.2 限定.テストサンプルの蒸気相中の非凝縮性物の最高レベルは、23.9℃で表1A,1B,及び1Cに示される最大を超えてはいけない。」(ANSI/AHRI標準700-2006のフルオロカーボン冷媒の規格についての説明 4頁6?14行)

2 甲1に記載された発明
甲1は、「ハイドロフルオロプロペンを含む冷媒組成物の安定化方法であって、該冷媒組成物に、炭素数1?4でアルコール価数1?4の脂肪族アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤を添加することを特徴とする安定化方法」(1a 特許請求の範囲 請求項7)に関し記載するものであって、該安定化方法の加速試験として、試験例1には「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に表1に示される計20種類(実施例1?10、比較例1?10)の冷媒組成物(冷媒+安定化剤)を入れ、更に表1に示される酸素濃度になるよう空気を入れて調整し封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱する」方法(1d)が記載され、該[表1]の比較例4には「冷媒 X:HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)100重量部、酸素濃度 冷媒に対し0.185mol%(後調整)」(1d)で試験を行うことが示されている。

そうすると、この試験例1で行った比較例4の試験方法に着目すると、甲1には、
「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に、冷媒X:HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)100重量部の冷媒組成物を入れ、更に冷媒に対し0.185mol%(後調整)の酸素濃度になるよう空気を入れて調整し封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱する方法」
の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。

前記甲1発明1において、試験した対象物であるものに着目すると、甲1にはさらに、
「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に、冷媒X:HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)100重量部の冷媒組成物を入れ、更に冷媒に対し0.185mol%(後調整)の酸素濃度になるよう空気を入れて調整し封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱したもの」
の発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断

(1)本件発明1について

ア 甲1発明1との対比

(ア)甲1発明1の「HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)」は、上記摘記1(1)1aの[請求項2]の記載より、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」であることが明らかであるから、本件発明1の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当する。

(イ)甲1発明1の「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)」は、甲1に「[0038]密閉容器としては、シールドチューブ(例えば、シールドされたパイレックス(登録商標)ガラス製チューブ等)が用いられる」(1c)と記載され、密閉容器といえるから、本件発明1の「密閉容器」に相当する。

(ウ)甲1発明1は、密閉容器である「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)」に「HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)100重量部の冷媒組成物を入れ」「封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱」している。
HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2))の沸点は-29.4℃である(6c)から、ガラス製チューブにHFO-1234yfを所定量入れるためには、明記されていないが、HFO-1234yfを冷却し、液化したものを加えた後、封入したと技術常識から理解できるので、甲1発明1は、密閉容器にHFO-1234yfを封入後、150℃で加熱することで、加圧状態となり、密閉容器内のHFO-1234yfは気液状態を呈しているといえる。

そして、甲1発明1の「温度150℃で1週間(168時間)加熱する方法」について、このHFO-1234yfが気液状態で封入されている密閉容器を温度150℃で1週間(168時間)加熱し、冷媒組成物の安定性を試験しており、HFO-1234yfを密閉容器内で温度150℃で1週間(168時間)状態を維持しているといえるから、保存する方法ともいえる。

そうすると、甲1発明1の「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に、冷媒X:HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)100重量部の冷媒組成物を入れ」「封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱する方法」は、上記(ア)、(イ)で述べたことも踏まえると、本件発明1の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で保存する方法」に相当する。

(エ)甲1発明1の「冷媒に対し0.185mol%(後調整)の酸素濃度になるよう空気を入れて調整」することは、空気を入れて、冷媒に対し0.185mol%すなわち1850体積ppmの酸素濃度になるよう調整することから、冷媒の気相における酸素濃度を1850体積ppmとすることといえる。
そうすると、本件発明1の「気相における酸素の濃度を、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満にする」ことと、甲1発明1の「冷媒に対し0.185mol%(後調整)の酸素濃度になるよう空気を入れて調整」することとは、気相における酸素の濃度を、特定の体積ppmにする点で共通する。

上記(ア)?(エ)より、本件発明1と甲1発明1とは、
「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で保存する方法であって、
前記気相における酸素の濃度を、特定の体積ppmにすることを特徴とするテトラフルオロプロペンの保存方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:前記気相における酸素の濃度について、本件発明1では、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満であるのに対し、甲1発明1では、1850体積ppmである点

相違点2:非凝縮性気体の含有量の合計について、本件発明1では、温度25.0℃で1.5体積%以下であるのに対し、甲1発明1では、明らかでない点

イ 判断

(ア)甲1は、ハイドロフルオロプロペンを含む冷媒は、空気(酸素)による冷媒の酸化分解により大量の酸を生成し、システムの金属腐食等が生じるおそれがあるため、空気(酸素)の共存下においても安定な状態を長期間維持できる安定化されたハイドロフルオロプロペンを含む冷媒組成物及び該冷媒組成物の安定化方法を提供することを目的とする発明に関する刊行物であり(1b[0007]?[0009]、[0012])、その目的を達成すべく検討した結果、炭素数1?4でアルコール価数1?4の脂肪族アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤(酸化防止剤)を含む冷媒組成物が、空気(酸素)の共存下においても安定な状態を長期間維持できることを見出したものである(1b[0013])。

甲1発明1は、甲1の特許請求の範囲に記載された「ハイドロフルオロプロペンを含む冷媒組成物の安定化方法」(1a 請求項7)についての試験例1における比較例4である。
この試験例1における冷媒組成物の各種組成が示されている[表1]をみると、冷媒としてHFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2))のみを用いている実施例1、3?7、9、10及び比較例1、4、8、10については、比較例1である空気(酸素)の不存在下の場合を除き、空気(酸素)の共存下の前記実施例及び比較例のいずれも、冷媒に対する酸素濃度が1850体積ppmになるよう空気を入れて調整・封入したものが記載されているに過ぎない。

むしろ、甲1の[表1]は、HFO-1234yfについて、酸素濃度1850体積ppmの条件下で、冷媒組成物に炭素数1?4でアルコール価数1?4の脂肪族アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の安定化剤(酸化防止剤)を含ませることで、冷媒組成物の安定化ができることを示すためのものであって、酸素濃度を、1850体積ppmから増減することによって何らかの効果が得られることについては、甲1には何ら記載されていないし示唆もされていない。

また、甲2及び甲3には、空気(酸素)の存在により2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(すなわちHFO-1234yf)の重合が進行することが記載され(2b、3c)、甲4及び5には、冷媒として、甲1発明1や本件発明1のテトラフルオロプロペンとは異なる冷媒であるが、テトラフルオロエチレンについて酸素濃度を減らすと重合を防止できることが記載され(4b、5b)、甲6には、R-1234yf(すなわち2,3,3,3-テトラフルオロプロペン-1-エン(2a))中の酸素の最大含有量は0.3体積%すなわち3000体積ppm(=1.5体積%×0.2(空気中の酸素含有率20%)であること(6c)が記載されているとしても、甲1において、酸素濃度を減らすことが記載も示唆もされていない以上、甲1発明1に、甲2?甲6に記載の技術的事項を適用する動機付けを認めることができない。

(イ)そして、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0013】に記載され、実験例1?5により裏付けられているように(【0023】?【0030】)、テトラフルオロプロペンを高純度及び高品質に維持することができ、供給バルブ等の閉塞や冷媒装置への混入のおそれがなく、低コストで保存を行うことができるという、顕著な効果を奏するものである。

(ウ)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、甲1には、ハイドロフルオロプロペンについての安定性を評価したところ、空気(酸素)共存下での安定性に問題が認められたことが記載され(1b[0007])、並びに、試験例1における比較例4及び比較例7の結果(1d[0054][表2])をみると、酸素濃度が低い比較例7は比較例4より酸分の生成が減少しており安定であることが示されていることより、ハイドロフルオロプロペンの安定性を保つために共存する酸素濃度を低下させる動機付けが、甲1には示唆されているから、甲1発明1に、甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、当業者は本件発明1を容易に想到し得た旨、主張している。

しかし、この点は上記(ア)で検討したとおり、甲1には、ハイドロフルオロプロペンの安定性を保つために共存する酸素濃度を低下させる動機付けが示唆されているとはいえない。
加えて、比較例4と比較例7については、含有する冷媒の種類が異なり、冷媒の種類が異なってもその酸分の生成が同様であるという本件優先日における技術常識もないから、両者を比較して酸素濃度の減少により安定化することが示されているということはできない。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(エ)以上より、相違点2を検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、「気相における酸素の濃度」を、それぞれ「温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする」、「温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満にする」と、さらに限定したものである。

そして、本件発明1が、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、気相における酸素の濃度をさらに限定する特定事項を含む本件発明2及び3も、同様に、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明4について

ア 甲1発明2との対比

(ア)甲1発明2の「HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)」は、前記(1)ア(ア)で述べたことを踏まえると、本件発明4の「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に相当する。

(イ)甲1発明2は、密閉容器である「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)」に、「HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)100重量部の冷媒組成物を入れ」、「封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱した」「もの」すなわち密閉容器である。
前記(1)ア(ウ)で述べたことを踏まえると、この「温度150℃で1週間(168時間)加熱したもの」について、HFO-1234yfが気液状態で封入されている密閉容器を温度150℃で1週間(168時間)加熱し、冷媒組成物の安定性を試験しており、HFO-1234yfを密閉容器内で温度150℃で1週間(168時間)状態を維持した容器といえるから、保存容器ともいえる。
そうすると、甲1発明2の「パイレックス(登録商標)ガラス製チューブ(ID8mmΦ×OD12mmΦ×L300mm)に、冷媒X:HFO-1234yf(CF_(3)CF=CH_(2)ダイキン工業製)100重量部の冷媒組成物を入れ」「封入後、温度150℃で1週間(168時間)加熱したもの」は、本件発明4の「気相と液相とを有する気液状態の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが充填され密閉された保存容器」に相当する。

(ウ)本件発明4の「前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満である」ことと、甲1発明2の「冷媒に対し0.185mol%(後調整)の酸素濃度になるよう空気を入れて調整し」たものは、前記(1)ア(エ)で述べたことを踏まえると、気相における酸素の濃度が、特定の体積ppmである点で共通する。

上記(ア)?(ウ)より、本件発明4と甲1発明2とは、
「気相と液相とを有する気液状態の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが充填され密閉された保存容器であり、
前記気相における酸素の濃度が、特定の体積ppmであることを特徴とするテトラフルオロプロペンの保存容器」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点3:前記気相における酸素の濃度について、本件発明4では、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満であるのに対し、甲1発明2では、1850体積ppmである点

相違点4:非凝縮性気体の含有量の合計について、本件発明4では、温度25.0℃で1.5体積%以下であるのに対し、甲1発明2では、明らかでない点

イ 判断

相違点3は相違点1と同じであるから、前記(1)イで述べたとおりである。
したがって、相違点4を検討するまでもなく、本件発明4は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明5及び6について
本件発明5及び6は、本件発明4を引用して、「気相における酸素の濃度」を、それそれ「温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする」、「温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満にする」と、さらに限定したものである。

そして、本件発明4が、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、気相における酸素の濃度をさらに限定する特定事項を含む本件発明5及び6も、同様に、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4 まとめ
上記のとおり、本件発明1?6は、本件優先日前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載の技術的事項に基いて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

II 理由2について

1 特願2014-512536号[特許第6377524号公報(甲7)]の請求項1?6に係る発明

特願2014-512536号[特許第6377524号公報(甲7)]の請求項1?6に係る発明(以下「同日出願発明1」?「同日出願発明6」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを密閉容器内で、気相と液相とを有する気液状態で保存する方法であって、
前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満にすることを特徴とするテトラフルオロプロペンの保存方法。
【請求項2】
前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする、請求項1に記載のテトラフルオロプロペンの保存方法。
【請求項3】
前記気相における酸素の濃度を、温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満にする、請求項1または2に記載のテトラフルオロプロペンの保存方法。
【請求項4】
気相と液相とを有する気液状態の2,3,3,3-テトラフルオロプロペンが充填され密閉された保存容器であり、
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で3体積ppm以上1000体積ppm未満であることを特徴とするテトラフルオロプロペンの保存容器。
【請求項5】
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満である、請求項4に記載のテトラフルオロプロペンの保存容器。
【請求項6】
前記気相における酸素の濃度が、温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満である、請求項4または5に記載のテトラフルオロプロペンの保存容器。」

2 本件発明1について

(1)同日出願発明1との対比
本件発明1と同日出願発明1とを対比すると、以下の点で相違する。

相違点5:非凝縮性気体の含有量の合計について、本件発明1では、温度25.0℃で1.5体積%以下であるのに対し、同日出願発明1では、特定されていない点

(2)判断
甲6[補遺1及び2付きANSI/AHRI標準700 フルオロカーボン冷媒の2006年標準規格(2011年8月8日ANSIにより承認)](6a)の補遺2 表1Aに追加された新規冷媒の表及びその説明に、R-1234yf(すなわち2,3,3,3-テトラフルオロプロペン-1-エン(2a))の蒸気相中の非凝縮性物の最高レベルは23.9℃で1.5(体積%)を超えてはいけないことは記載されている(6c?6e)。
しかしながら、甲6は、米国におけるフルオロカーボン冷媒の標準規格であり、米国における要求仕様が示されているものである。米国の要求仕様として、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンの蒸気相中の非凝縮性物の最高レベルは23.9℃で1.5(体積%)を超えてはいけないことが示されているとしても、このことにより、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンを密閉容器内で気相と液相とを有する気液状態で保存する際に、気相中の非凝縮性気体の含有量の合計を、温度25.0℃で1.5体積%以下にすることが、本件優先日における技術常識であるとはいえない。また、気相中の非凝縮性気体の含有量の合計を、温度25.0℃で1.5体積%以下とすることが、本件優先日において周知・慣用技術であったともいえない。
そうすると、この技術的事項が周知・慣用技術であるとはいえない以上、この技術的事項が新たな効果を奏するものであるかどうかを検討するまでもなく、相違点5が、本件発明1の課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の不可、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であるということはできない。
さらに、相違点5が、同日出願発明1の発明特定事項を、本件発明1において上位概念として表現したことによる差異である場合でもなく、カテゴリー表現上の差異である場合でもないことは明らかである。
したがって、本件発明1と同日出願発明1とが実質的に同一であるとすることはできない。

(3)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明1は同日出願発明1と相違点5があるが、「非凝縮性気体の含有量の合計」については、本件特許明細書の段落【0020】に記載されているのみであり、実施例で非凝縮性気体の含有量を調整する具体的な操作はなされておらず、また、非凝縮性気体の含有量の合計が、温度25.0℃で1.5体積%以下となったのか否かの確認も行われていないこと、甲6には、R-1234yfの蒸気相中の非凝縮性物の最高レベルは23.9℃で1.5(体積%)を超えてはいけないことが記載されている(6c?6e)ことから、本件発明1の「非凝縮性気体の含有量の合計を、温度25.0℃で1.5体積%以下に」することは、R-1234yfの蒸気相中の不純物含有量としての空気及び非凝縮性物の最大許容レベル以下に保つという、当業者にとっては自明の技術常識を規定しているにすぎないので、相違点5は、本件発明1の課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の不可、削除、転換等であって、新たな効果を奏するものではないもの)であり、両者は実質的に同一である旨主張している。

しかし、この点は上記(2)で検討したとおりである。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。

(4)以上より、本件発明1と同日出願発明1とは同一の発明であるとはいえない。

3 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を引用し、「気相における酸素の濃度」を、それそれ「温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする」、「温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満にする」と、さらに限定したものである。
同日出願発明2及び3も、同日出願発明1を引用し、「気相における酸素の濃度」を、それそれ「温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする」、「温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満にする」と、さらに限定したものである。

そうすると、本件発明2及び3の本件発明1に対するさらなる限定と、同日出願発明2及び3の同日出願発明1に対するさらなる限定とは、同じであるから、本件発明2及び3は、同日出願発明2及び3とは、上記2で述べた相違点5においてのみ相違する。
そして、相違点5については、上記2(2)で検討したとおりであるから、本件発明2及び3と同日出願発明2及び3とは、同一の発明であるとはいえない。

4 本件発明4について

(1)同日出願発明4との対比
本件発明4と同日出願発明4とを対比すると、以下の点で相違する。

相違点6:非凝縮性気体の含有量の合計について、本件発明4では、温度25.0℃で1.5体積%以下であるのに対し、同日出願発明4では、特定されていない点

(2)判断
相違点6は相違点5と同じであるから、前記2(2)で検討したとおりである。
したがって、本件発明4と同日出願発明4とは同一の発明であるとはいえない。

5 本件発明5及び6について
本件発明5及び6は、本件発明4を引用し、「気相における酸素の濃度」を、それそれ「温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする」、「温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満にする」と、さらに限定したものである。
同日出願発明5及び6も、同日出願発明4を引用し、「気相における酸素の濃度」を、それそれ「温度25℃で5体積ppm以上1000体積ppm未満にする」、「温度25℃で6体積ppm以上500体積ppm未満にする」と、さらに限定したものである。

そうすると、本件発明5及び6の本件発明4に対するさらなる限定と、同日出願発明5及び6の同日出願発明4に対するさらなる限定とは、同じであるから、本件発明5及び6は、同日出願発明5及び6とは、上記4で述べた相違点6においてのみ相違する。
そして、相違点6については、上記4(2)のとおりであるから、本件発明5及び6と同日出願発明5及び6とは、同一の発明であるとはいえない。

6 まとめ
上記のとおり、本件発明1?6は、同日出願発明1?6と同一の発明であるとはいえない。
よって、本件発明1?6に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-09-03 
出願番号 特願2017-170968(P2017-170968)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C07C)
P 1 651・ 4- Y (C07C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 村守 宏文  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 冨永 保
齊藤 真由美
登録日 2018-12-21 
登録番号 特許第6451810号(P6451810)
権利者 AGC株式会社
発明の名称 テトラフルオロプロペンの保存方法およびテトラフルオロプロペンの保存容器  
代理人 特許業務法人サクラ国際特許事務所  

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