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審決分類 審判 判定 同一 属さない(申立て不成立) A45D
管理番号 1354976
判定請求番号 判定2019-600006  
総通号数 238 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2019-10-25 
種別 判定 
判定請求日 2019-02-08 
確定日 2019-08-31 
事件の表示 上記当事者間の特許第5450325号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 甲号証に示す「金箔マスク」は、特許第5450325号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1 請求の趣旨と手続の経緯

本件判定請求の趣旨は,平成31年2月8日付けの判定請求書によれば,判定請求書の「5.(5)イ号の説明」に示す「24K GOLD MASK」(以下,「イ号」という。)は,特許5450325号(以下,「本件特許」という。)の請求項1及び請求項2に係る特許発明(以下,それぞれ,「本件特許発明1」及び「本件特許発明2」といい,また,それらを合わせて「本件特許発明」という。)の技術的範囲に属する,との判定を求めるものである。

また,本件特許に係る出願(特願2010-199271号)は,平成18年5月26日に出願され,同年7月12日に登録された実用新案登録第3124098号に基づいて平成21年3月26日に特許出願された特願2009-75950号の一部を平成22年9月6日に新たな特許出願としたものであって,本件に係る手続の経緯は,次のとおりである。
平成22年 9月 6日 本件特許に係る特許出願(遡及日:平成1
8年5月26日)
平成24年10月 9日付け 拒絶理由通知
平成24年11月27日 意見書,手続補正書の提出
平成24年12月25日付け 拒絶査定
平成25年 3月22日 拒絶査定不服審判請求,手続補正書の提出
平成25年 9月10日付け 拒絶理由通知
平成25年 9月20日 手続補正書の提出
平成25年11月25日付け 審決
平成26年 1月10日 本件特許登録
平成31年 2月 8日付け 本件判定請求
平成31年 4月17日付け 判定請求答弁書,証拠説明書
令和 元年 5月15日付け 審尋(請求人及び被請求人に対して)
令和 元年 6月12日付け 判定事件回答書(被請求人)
令和 元年 6月14日付け 判定事件回答書,証拠説明書(請求人)
令和 元年 7月31日付け 上申書(請求人)
令和 元年 8月 2日付け 上申書(被請求人)

第2 本件特許発明

本件特許発明は,本件特許明細書及び図面の記載からみて,特許請求の範囲の請求項1及び2に記載されたとおりのものであり,これを符号を付して構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件を「構成要件1A」などという。
(1)本件特許発明1
「1A.顔の輪郭に合わせた楕円形とし,かつ目及び口の対応部に窓孔を形成し,鼻部に切り込みを形成した金箔と,金箔の下面に補強シートを備え,
1B.補強シートは前記金箔と対応した目及び口の窓孔と前記金箔と対応した鼻部の切り込みとが形成され,補強シートは前記金箔から剥離可能で前記金箔より一回り大きい紙製でその周囲の摘み片が設けられ,
1C.この摘み片を摘み,顔面に前記金箔を当て,前記補強シートを介して前記金箔が顔の全面に密着すべく押さえ,密着が得られたら前記補強シートを前記金箔から剥離させてから適宜時間経過後,前記金箔を顔から落とす
1D.ことを特徴とする金箔による化粧方法。」
(2)本件特許発明2
「2A.顔の輪郭に合わせた楕円形とし,かつ目及び口の対応部に窓孔を形成し,鼻部に切り込みを形成した金箔と,金箔の下面に補強シートを備え,
2B.補強シートは前記金箔と対応した目及び口の窓孔と前記金箔と対応した鼻部の切り込みとが形成され,補強シートは前記金箔から剥離可能で前記金箔より一回り大きい四角形の和紙であり,
2C.この一回り大きい四角形の周囲の摘み片を摘み,顔面に前記金箔を当て,前記補強シートを介して前記金箔が顔の全面に密着すべく押さえ,密着が得られたら前記補強シートを前記金箔から剥離させてから適宜時間経過後,前記金箔を顔から落とす
2D.ことを特徴とする金箔による化粧方法。」

第3 当事者の主張

1.請求人の主張の概要
請求人は,判定請求書及び令和元年6月14日付け判定事件回答書において,おおむね次の理由により,イ号は,本件特許発明の技術的範囲に属する旨を主張している。
(1)イ号について(判定請求書「5.(5)」)
イ号は,本件特許発明に即して説明すると,次のとおりのものである。
「ア.顔に当てられる大きさを有し,かつ目及び口の対応部に窓孔を形成し,鼻部に切り込みを形成した金箔と,金箔の下面に補強シートを備え,
イ.補強シートは前記金箔と対応した目及び口の窓孔と前記金箔と対応した鼻部の切り込みとが形成され,補強シートは前記金箔から剥離可能で前記金箔より一回り大きい紙製でその周囲の摘み片が設けられ,
ウ.この摘み片を摘み,顔面に前記金箔を当て,前記補強シートを介して前記金箔が顔の全面に密着すべく押さえ,密着が得られたら前記補強シートを前記金箔から剥離させてから適宜時間経過後,前記金箔を顔から落とす,
金箔による使用方法」
(2)本件特許発明1に関して
ア.各構成要件の充足性について
(ア)構成要件1A(判定請求書「5.(6)(6-1)」,判定事件回答書「6.(4)」)
本件特許発明1とイ号は,金箔を,本件特許発明1が「顔の輪郭に合わせた楕円形状にし」ているのに対して,イ号は「顔に当てられる大きさを有し」たものとしている点で相違するが,両者は顔に置く程度の大きさである点では同じであり,金箔では顔の大きさ程度のものを一律の大きさに作ることは困難であることからすれば,両者は,実質的に同じ内容である。
(イ)構成要件1B(判定事件回答書「6.(1)?(3)」)
同じ作用効果が生じ得るものは,同じ構成(内容)であるとすることが特許法の解釈であり,本件特許発明1の紙製の補強シートとイ号の補強シートは同じ作用効果を生じる。
「紙」についての広辞苑の説明や「合成紙」についてのブリタニカ国際大百科事典の説明にあるように,「紙製」であることに合成樹脂等を含まないということはない。
イ号の補強シートは,箔工芸で伝統的にあかうつし紙と呼ばれる蝋引き紙(パラフィン紙)であると考えられる。
(ウ)構成要件1C,1D(判定事件回答書「6.(4)」)
イ号は,構成要件1Cと同じ使用をすることが明らかであり,本件特許発明1は,その使用する行為に及ぶ。
イ.均等について(判定請求書「5.(6)(6-2)」)
仮に,本件特許発明1とイ号が構成要件1Aに関する点で相違するとしても(前記「ア」参照),本件特許発明1とイ号は,均等である。
(3)本件特許発明2に関して(判定請求書「5.(7)」)
本件特許発明2の四角形の和紙の補強シートとイ号の補強シートは,作用効果が同一であり,補強シートの形状や材質の相違は,重要な要素ではなく,容易に置換可能であるなど,均等の要件を満たす。本件特許発明2とイ号は,均等である。
(4)間接侵害について(判定請求書「5.(6)(6-3)」,「5.(7)」,判定事件回答書「6(4)」)
イ号は,特許法第101条第4号及び第5号の規定に該当し,本件特許発明の間接侵害を構成する。

2.被請求人の主張の概要
被請求人は,判定請求答弁書及び令和元年6月12日付け判定事件回答書において,おおむね次の理由により,イ号は,本件特許発明の技術的範囲に属しない旨を主張している。
(1)イ号について(判定請求答弁書「7.イ.(1)?(3)」,判定事件回答書「5.(1),(2)」)
イ号は,製品名「24K GOLD MASK」として被請求人が製造販売している製品であって,
転写シート上に顔に貼り付けるための金箔を接着した構成であり,
転写シートは,レーヨンやビニロンなどで構成される不織布層と,ポリエチレン層から成る積層フィルムであり,
金箔は,全体としては長方形に近い台形状となっている。
(2)本件特許発明1に関して
ア.各構成要件の充足性について
(ア)構成要件1A(判定請求答弁書「7.ウ.(2)1(1は丸数字)」,「7.ウ.(3)1(1は丸数字)」)
本件特許発明1は,金箔が楕円形であるのに対し,イ号は,長方形に近い台形状である。イ号は,金箔が楕円形であることによる本件特許発明1の作用効果も有していない。
(イ)構成要件1B(判定請求答弁書「7.ウ.(2)2(2は丸数字)」,「7.ウ.(3)2(2は丸数字)」,判定事件回答書「5.(3)」)
イ号の転写シートは,二層構造の積層フィルムであって「紙」ではなく,その目的,作用効果も本件特許発明1の補強シートとは異なる。
(ウ)構成要件1C(判定請求答弁書「7.ウ.(2)3(3は丸数字)」,「7.ウ.(3)3(3は丸数字)」)
イ号は「物」であり,イ号を化粧に用いるのはイ号を購入した消費者である。消費者は,イ号を用いて様々な化粧方法を採用することがあり得るから,イ号が構成要件Cを有することにはならない。
(エ)構成要件1D(判定請求答弁書「7.ア.(1-2)」)
イ号は,「物」であり,方法の発明である本件特許発明の技術的範囲に属さない。
イ.均等について(判定請求答弁書「7.ウ.(4)1(1は丸数字)」)
構成要件1Aについての相違点は,少なくとも均等論における第1要件,第2要件,第5要件を満たない。イ号は,本件特許発明1と均等ではない。
(3)本件特許発明2に関して
ア.各構成要件の充足性について(判定請求答弁書「7.エ.(2),(3)」)
イ号は,本件特許発明1についての理由と同様の理由により,本件特許発明2の技術的範囲に属さない。
更に,イ号の転写シートは,略円形であって,四角形の和紙からなるものではない。イ号は,補強シートを「四角形の和紙」であることによる本件特許発明2の作用効果を奏さない。
イ.均等について(判定請求答弁書「7.エ.(4)」)
補強シートが四角形の和紙であることに関するイ号と本件特許発明2の相違点は,少なくとも均等論における第1要件,第2要件,第5要件を満たさない。イ号は,本件特許発明2と均等ではない。
(4)間接侵害について(判定請求答弁書「7.ウ.(4)2(2は丸数字)」,「7.エ.(4)」)
イ号は,本件特許発明が前提としている物品とは異なり,間接侵害は成立しない。

第4 イ号

1.甲号証に記載された事項等
イ号に関し,請求人は,証拠方法として,判定請求書とともに
甲第1号証 イ号製品の写真
甲第2号証 イ号製品の包装状態の写真
甲第3号証の1 イ号製品の使用説明の写真
甲第3号証の2 イ号製品の使用説明の写真
を提出した(判定事件回答書とともに提出された甲第4号証は,請求人の上申書にも記載があるとおり,参考資料とする。)。
(1)甲第3号証の2からイ号の金色の薄片が金箔であることが理解でき,これを踏まえた上で,甲第1号証から以下の事項が看取できる。
ア.イ号は,金箔と,当該金箔の一面に付着するシートとを備える。
イ.前記金箔は,上半部に2つの孔が,中央部に1つの切り込みが,下半部に1つの孔が形成されている。
ウ.前記金箔は,その外縁が,上辺,下辺,左辺及び右辺と,上辺と左辺との間,左辺と下辺との間,下辺と右辺との間及び右辺と上辺との間の接続部とを有する。
エ.前記シートは,略円形であって,前記金箔よりも大きく,前記金箔の周囲に前記シートの余白部が存在する。
更に,金箔の加工性や加工方法を考慮すれば,甲第1号証から以下の事項も理解できる。
オ.前記シートは,前記金箔に形成された前記孔と対応した,上半部の2つの孔と下半部の1つの孔と,前記金箔に形成された前記切り込みと対応した,中央部の切り込みと,が形成されている。
被請求人も,イ号が事項オを備えない旨の主張はしていない。
(2)甲第2号証から以下の事項が看取できる。
カ.イ号の包装には「24K GOLD MASK」との表示がある。
(3)甲第3号証の1及び甲第3号証の2から,更に以下の事項が看取又は理解できる。
キ.イ号の包装にはイ号の使用方法の説明及び使用上の注意が表示されている。
なお,甲第3号証の1からは,イ号の包装には甲第3号証の2から看取できる表示以外の表示もされていることが看取できるが,当該表示の内容は看取することはできない。
ク.前記金箔は,前記金箔の上半部の2つの孔及びそれらと対応した前記シートの上半部の2つの孔が目に,前記金箔の中央部の1つの切り込み及びそれと対応した前記シートの中央部の1つの切り込みが鼻に,前記金箔の下半部の1つの孔及びそれと対応した前記シートの下半部の1つの孔が口に,それぞれ位置合わせされた状態で顔に貼り付けられる。
ケ.イ号は,前記金箔側を顔に向けて前記金箔を前記シートとともに顔に当て,前記シートを介して顔全体に前記金箔をおさえて貼り付け,前記シートを前記金箔から剥がし,10?20分経過後前記金箔を顔からとる方法で使用される。
コ.イ号は,前記金箔を顔からとるまでは,前記金箔に手を触れないように使用される。
サ.イ号の包装には「■エステ用金箔で美の追究を」「本商品はシートタイプで扱いやすく、お肌に簡単“キレイ”に貼れる、「ゴールドエステ用」金箔です。」との表示がある。

2.乙号証に記載された事項等
イ号に関し,被請求人は,証拠方法として,判定事件回答書とともに
乙第5号証 被請求人従業員中山健治氏の陳述書
を提出した(判定事件回答書とともに提出された乙第4号証は,被請求人の上申書にも記載があるとおり,参考資料とする。)。
そして,乙第5号証において,被請求人従業員中山健治氏は,イ号製品のシートはレーヨンやビニロンなどで構成される不織布層とポリエチレン層から成る積層フィルムである旨陳述しているが,その陳述の内容を裏付ける他の証拠は提出されていない。

3.イ号
前記「第3 1.(1)」に記載したとおり,請求人は,イ号は「金箔による使用方法」である旨主張している。
一方,前記「1」に示した甲号証から看取又は理解できる事項からは,被請求人が製造・販売しているイ号は,金箔の一面にシートが付着された金箔マスクであることが理解できる。
そして,判定請求書の「5.(1)」には,判定請求の必要性として,「本件判定請求人は,被請求人(株式会社箔一)がイ号を製造・販売していることを確認したので,イ号が本件特許の技術的範囲に属するか否かについて特許による判定を求める。」(下線は,当審が付加した。)と記載されている。
したがって,当審では,甲号証に示すイ号を,「物」として,以下のとおり認定する。
「a.外縁が上辺,下辺,左辺及び右辺と,上辺と左辺との間,左辺と下辺との間,下辺と右辺との間及び右辺と上辺との間の接続部とを有し,かつ顔への貼付時に目に位置合わせされる2つの孔と口に位置合わせされる1つの孔とを形成し,及び顔への貼付時に鼻に位置合わせされる1つの切り込みを形成した金箔と,当該金箔の一面に付着するシートとを備え,
b.前記シートは,前記金箔に形成された前記2つの孔と対応し,顔への貼付時に目に位置合わせされる2つの孔及び前記金箔に形成された前記1つの孔と対応し,顔への貼付時に口に位置合わせされる1つの孔と,前記金箔に形成された前記切り込みに対応し,顔への貼付時に鼻に位置合わせされる切り込みとが形成され,前記シートは,前記金箔から剥離可能で,前記金箔よりも大きく前記金箔の周囲に余白部が存在する略円形である,
d.金箔マスク。」
なお,甲第3号証の2に表示されたイ号製品の使用方法の説明には「台紙」との用語も用いられているが,これはイ号のシートの形態が紙と同様の薄片であって,金箔の土台となっていることが理解されるにとどまり,この記載のみをもって,イ号のシートの材質が紙であるということはできず,甲第1号証ないし甲第3号証の2からは,イ号のシートが紙製であるとは認定できない。

第5 対比・判断

1.本件特許発明1に関して
本件特許発明1は,「金箔による化粧方法」に係る発明であるから,「方法の発明」である。一方,イ号は,「金箔マスク」なる「物」である。すなわち,イ号である「金箔マスク」は,本件特許発明1とはカテゴリーが異なる。
したがって,その余について検討するまでもなく,イ号は,本件特許発明1の技術的範囲に属しない。

2.本件特許発明2について
本件特許発明2も,本件特許発明1と同様に,「金箔による化粧方法」に係る方法の発明である。
そうすると,前記「1」において本件特許発明1について検討した理由と同様の理由により,イ号は,本件特許発明2の技術的範囲に属しない。

3.間接侵害
間接侵害に関しては,本件判定の対象外であるので,判断しない。

第6 むすび

以上のとおりであるから,イ号は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
よって,結論のとおり判定する。

第7 イ号の使用方法についての予備的検討

前記「第3 1.(1)」に記載したとおり,請求人は,判定請求書「5.(5)」において,イ号は「金箔による使用方法」である旨主張している。
そこで,甲号証から把握される「イ号の使用方法」が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かについて,以下,予備的に検討する。

1.イ号の使用方法
前記「第4 1」に示した甲号証から看取又は理解できる事項から,イ号の使用方法について,以下のとおり認定することができる。
「a.外縁が上辺,下辺,左辺及び右辺と,上辺と左辺との間,左辺と下辺との間,下辺と右辺との間及び右辺と上辺との間の接続部とを有し,かつ顔への貼付時に目に位置合わせされる2つの孔と口に位置合わせされる1つの孔とを形成し,及び顔への貼付時に鼻に位置合わせされる1つの切り込みを形成した金箔と,当該金箔の一面に付着するシートとを備え,
b.前記シートは,前記金箔に形成された前記2つの孔と対応し,顔への貼付時に目に位置合わせされる2つの孔及び前記金箔に形成された前記1つの孔と対応し,顔への貼付時に口に位置合わせされる1つの孔と,前記金箔に形成された前記切り込みに対応し,顔への貼付時に鼻に位置合わせされる切り込みとが形成され,前記シートは,前記金箔から剥離可能で,前記金箔よりも大きく前記金箔の周囲に余白部が存在する略円形であり,
c.前記金箔側を顔に向けて,前記金箔を前記シートとともに顔に当て,前記シートを介して顔全体に前記金箔をおさえて貼り付け,前記シートを剥がし,10?20分経過後前記金箔を顔からとる,
d.金箔マスクの使用方法。」
なお,被請求人は,イ号を購入した消費者はイ号を用いて様々な化粧方法を採用することがあり得る旨主張しているが(前記「第3 2.(2)ア.(ウ)」参照),本段は,甲号証から看取できる使用説明に沿ってイ号を使用する方法についての予備的検討であるから,被請求人の前記主張は採用しない。

2.対比・判断
(1)本件特許発明1に関して
ア.各構成要件の充足性について
(ア)構成要件1A
本件特許発明1の「補強シート」に関し,本件特許明細書の段落0007には「装着用金箔は下面に当てた補強シートに吸着状態となることにより、装着用金箔が自着することを防ぎ、装着用金箔の伸張を維持する効果を有し、また後述の目的の顔面などへの押し当てに対しても補強材としての効果も発揮するのである。」と記載されている。更に,本件特許明細書には,本件特許発明1の実施の形態に関連して,段落0016に「補強シート4は紙、布が好ましく、特に紙は箔打ちに用いた紙を介そう(介装)した状態で利用でき、特に和紙は金箔との相性も良く好適で好都合である。 金箔3の伸張を維持し顔面などへの押し当てに対しても補強材としての作用をなすものであるから金箔3との一体性が望まれ、」と記載され,段落0019に「斯かる積層体1を例えば顔パックとして使用するには、先ず上面の剥離シート2を剥がして取り去り、下層のクッション材5を両手(大きさや貼り付け部位により片手)で下から支えて持ち上げ顔面に金箔3を当て、金箔3が顔の全面に密着すべくクッション材5と共に撫でるように押さえ、密着が得られたらクッション材5及び補強シート4を剥がし、」と記載されている。
そうすると,構成要件1Aの「補強シート」は,金箔を顔の全面に密着させる際に当該金箔を補強するものであって,更に前記金箔の下面に当てられている状況においては,前記金箔が自着することを防ぎ,前記金箔の伸張を維持する機能を有するものである。
イ号の「シート」は,前記事項ケ(前記「第4 1.(3)」参照)からみて,金箔を顔に貼り付けるにあたり,当該金箔側を顔に向けて前記金箔とともに顔に当てられ,おさえられ,その後前記金箔から剥離される。一般に金箔は非常に薄く破断しやすいことを考慮すれば,イ号の「シート」も,金箔を顔に貼り付けるにあたり,金箔を補強しているといえる。
更に,イ号は,構成aのとおり,金箔の一面にシートが付着した状態で販売されており,当該シートが,金箔が自着することを防ぎ,金箔の伸張を維持する機能を有していることは明らかである。
そうすると,イ号の「シート」は,本件特許発明1の「補強シート」に相当する。
一方で,イ号の「金箔」は,構成aのとおり,その外縁が上辺,下辺,左辺及び右辺と,上辺と左辺との間,左辺と下辺との間,下辺と右辺との間及び右辺と上辺との間の接続部とを有し,楕円形ではない。
そして,本件特許明細書及び図面を参照しても,構成要件1Aの「楕円形」が楕円形以外の形をも包含する意味であると解すべき記載はない。
してみると,イ号の使用方法は,構成要件1Aを充足しない。
この点に関し,請求人は,本件特許発明1とイ号の使用方法は,金箔が顔に置く程度の大きさである点では同じであり,金箔では顔の大きさ程度のものを一律の大きさに作ることは困難であることからすれば,両者は,実質的に同じ内容である旨主張している(前記「第3 1.(2)ア.(ア)」参照)。
しかしながら,特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものであり(特許法第70条第1項),前記のとおり,本件特許明細書及び図面を参照しても,本件特許の請求項1に記載された「楕円形」が楕円形以外の形をも包含する意味であると解すべき記載はないから,請求人の前記主張は,採用できない。
(イ)構成要件1B
本件特許明細書には,本件特許発明1の実施の形態に関連して,段落0014に「剥離シート2は合成樹脂フィルム、紙、布など適宜材質のシート状のものを選ぶことになる。」と記載されている。すなわち,本件特許明細書においては,合成樹脂フィルム,紙及び布は,材質として,互いに異なるものとして扱われている。そして,本件特許明細書には,これも本件特許発明1の実施の形態に関する直接の記載ではないが,段落0016に「補強シート4は紙、布が好ましく、」と記載され,段落0014の前記記載と比較してみれば,補強シート4の材質として好ましいものに合成樹脂フィルムは含まれていない。
そうすると,本件特許発明1の「補強シートは」「紙製で」あることに関し,補強シートが布製や合成樹脂フィルム製といった,紙製以外である場合,構成要件1Bを充足しない。
そして,前記「第4 3.」で検討したとおり,甲第1号証ないし甲第3号証の2からは,イ号のシートが紙製であることは認定できないから,イ号の使用方法が構成要件1Bを充足するとはいえない。
この点に関し,請求人は,(ア)同じ作用効果が生じ得るものは,同じ構成(内容)であるとすることが特許法の解釈であり,本件特許発明1の紙製の補強シートとイ号の使用方法の補強シートは同じ作用効果を生じる,(イ)「紙製」であることに合成樹脂等を含まないということはない,(ウ)イ号のシートは,箔工芸で伝統的にあかうつし紙と呼ばれる蝋引き紙(パラフィン紙)であると考えられる旨主張している(前記「第3 1.(2)ア.(イ)」参照)。
しかしながら,特許発明の技術的範囲は,前記「(ア)」でも述べたとおり,特許請求の範囲の記載に基づいて定めるものであり,特許請求の範囲の記載を離れて作用効果のみに着目して特許発明の技術的範囲への属否を判断することはできず,仮に同じ作用効果が生じ得たとしても,イ号のシートが,布製や合成樹脂フィルム製といった,紙製以外である場合,構成要件1Bを充足するとはいえない。
また,イ号のシートが箔工芸で伝統的にあかうつし紙と呼ばれる蝋引き紙(パラフィン紙)であるとの主張についても,請求人は当該主張を裏付ける証拠方法を何ら示しておらず,先に述べたとおり,甲第1号証ないし甲第3号証の2からは,イ号のシートが紙製であることは認定できない。
したがって,請求人の前記主張は,いずれも採用できない。
(ウ)構成要件1C
イ号の使用方法は,「前記金箔側を顔に向けて,前記金箔を前記シートとともに顔に当て」るから,「顔面に前記金箔を当て」るといえる。
次いで,イ号の使用方法は,「前記シートを介して顔全体に前記金箔をおさえて貼り付け」る。金箔を顔におさえて貼り付ければ,当然,当該金箔は顔に密着することになり,更に,イ号の「シート」は,前記「(ア)」で検討したとおり,本件特許発明1の「補強シート」に相当するといえるから,イ号の使用方法が「前記シートを介して顔全体に前記金箔をおさえて貼り付け」ることは,「前記補強シートを介して前記金箔が顔の全面に密着すべく押さえ」ることに相当する。
更に,イ号の使用方法は,前記金箔が顔全体に貼り付けられたら,「前記シートを剥がし,10?20分経過後前記金箔を顔からとる」から,「密着が得られたら前記補強シートを前記金箔から剥離させてから適宜時間経過後,前記金箔を顔から落とす」といえる。
そして,イ号の使用方法において,前記金箔側を顔に向けて前記金箔を前記シートとともに顔に当てる際にイ号のどこを把持するのかは直ちに明らかではないが,前記金箔を顔からとるまでは前記金箔に手を触れないようにすべきであることを考慮すれば(前記「第4 1.(3)事項コ」参照),当然,前記「シート」の「余白部」を摘むといえ,当該「余白部」は,本件特許発明1の「摘み片」に相当する。
したがって,イ号の使用方法は,構成要件1Cを充足する。
エ.構成要件1D
イ号は,顔に貼って用いられるものであるから(前記「第4 1.(3)事項サ」参照),イ号の使用方法の「金箔マスクの使用方法」は,「金箔による化粧方法」であるといえる。
したがって,イ号の使用方法は,構成要件1Dを充足する。
イ.均等について
均等と判断するには,以下の(i)?(v)の5要件を全て満たすことが必要である。
(i) 特許請求の範囲に記載された構成中のイ号と異なる部分が発明の本質的な部分ではない(発明の本質的な部分)。
(ii) 前記異なる部分をイ号のものと置き換えても特許発明の目的を達成することができ,同一の作用効果を奏する(置換可能性)。
(iii) 前記異なる部分をイ号のものと置き換えることが,イ号の実施の時点において当業者が容易に想到することができたものである(置換容易性)。
(iv) イ号が特許発明の出願時における公知技術と同一又は当業者が公知技術から出願時に容易に推考できたものではない(自由技術の除外)。
(v) イ号が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外される等の特段の事情がない(禁反言:出願等の経緯の参酌)。
構成要件1Aの「顔の輪郭に合わせた楕円形とし」た金箔は,平成24年10月9日付けの拒絶理由通知書の拒絶の理由に対応して平成24年11月27日に提出された手続補正書による補正により,本件特許に係る出願の出願当初の請求項1に記載された「顔の輪郭に合わせた大きさの」金箔に代えて,請求項1に加入された事項である。
そして,前記手続補正書と同日に提出された意見書においては,「この点、本願発明は、補強シートを有するとともに、「顔の輪郭に合わせた楕円形とし、かつ目及び口の対応部に窓孔を形成し、鼻部に切り込みを形成した金箔」であることから、「この摘み片を摘み、顔面に前記金箔を当て、前記補強シートを介して前記金箔が顔の全面に密着すべく押さえ、密着が得られたら前記補強シートを前記金箔から剥離させる」ことが容易に行なえるものである。すなわち、商品部分の顔の部分に相当する箇所に指紋等を付着させたり、折り曲がったり、皺になったりすることを防止しつつ、その作業(化粧方法)を実現できるものである。」(【意見の内容】(3)(3-2))と主張されていることから,特許権者は,前記拒絶の理由を解消するために当該補正をしたものである。
更に,構成要件1Bの,補強シートは「紙製で」ある点は,平成25年9月10日付けの拒絶理由通知書の拒絶の理由に対応して平成25年9月20日に提出された手続補正書による補正により,請求項1に加入された事項である。
以上のことから,「楕円形」の金箔と「紙製」の補強シートのいずれも備えないイ号の使用方法は,本件特許発明1の技術的範囲から意識的に除外されているといえる。
したがって,その他の要件について検討するまでもなく,少なくとも前記 (v)の要件が満たされないことが明らかであるから,イ号の使用方法は,本件特許発明1とは均等とはいえない。
ウ.小括
以上のとおりであるから,イ号の使用方法は,本件特許発明1の技術的範囲に属しない。
(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は,本件特許発明1に対して,補強シートは「四角形の和紙であ」るとの構成要件を更に付加したものである。
イ号の使用方法は,本件特許発明1の技術的範囲に属しないのであるから,イ号の使用方法が本件特許発明1に対して他の構成要件を付加したものである本件特許発明2の技術的範囲に属しないことは,明らかである。

3.まとめ
以上のとおりであるから,イ号の使用方法は,本件特許発明の技術的範囲に属しない。
 
判定日 2019-08-22 
出願番号 特願2010-199271(P2010-199271)
審決分類 P 1 2・ 1- ZB (A45D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 裕之  
特許庁審判長 佐々木 芳枝
特許庁審判官 藤井 昇
久保 竜一
登録日 2014-01-10 
登録番号 特許第5450325号(P5450325)
発明の名称 金箔による化粧方法  
代理人 齋藤 拓也  
代理人 木森 有平  
代理人 芝 哲央  
代理人 小菅 一弘  
代理人 正林 真之  

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