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審決分類 審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する B62D
管理番号 1355146
審判番号 訂正2019-390050  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2019-04-18 
確定日 2019-09-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第4470299号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第4470299号の明細書を本件審判請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯

本件特許第4470299号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成12年8月29日に特許出願され、平成22年3月12日にその特許権の設定登録がされ、そして、平成31年4月18日付けで本件訂正審判の請求がなされたものである。


第2 請求の趣旨

本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第4470299号の明細書を、本件審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを認める、との審決を求めるものである。


第3 本件訂正内容

本件訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線部分が訂正箇所である。

1 訂正事項1

本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。さらに、図面を併せたものを「本件明細書等」という。)【0022】に、

「同図中の実線はこの際(大コラプス荷重時)の試験結果を示している」と記載されているのを、

「同図中の実線はこの際(大コラプス荷重時)の移動ストロークを示している」に訂正する。


2 訂正事項2

本件明細書【0024】に、

「図7中の破線はこの際(小コラプス荷重時)の試験結果を示しており」と記載されているのを、

「図7中の破線はこの際(小コラプス荷重時)の移動ストロークを示しており」に訂正する。


第4 当審の判断

1 訂正事項1について

(1)訂正の目的の適否について

訂正前の本件明細書等には、「この際(大コラプス荷重時)の試験結果」に関し、「試験」において用いられるステアリングコラムの形式(形態)や、荷重の大きさ、荷重をかけるための具体的方法等の条件が記載されていないので該「試験」の具体的内容が明らかでないことに加え、図7中の実線が「試験結果」による作動荷重と移動ストロークの関係を示しているものか明らかでなかったものを、訂正後に「同図中の実線は、この際(大コラプス荷重時)の移動ストローク」と訂正し、図7の内容を説明している記載に改めるものであるから、訂正事項1の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。


(2)新規事項の追加の有無について

本件明細書の段落【0022】には「コラプシブルコラム1がコラプスを開始する際、本実施形態では、第1金属球保持筒35と第2金属球保持筒37とが連結されているため、両金属球保持筒35,37は一体となって、インナコラム5の移動量の半分の移動量をもって、アウタコラム3とインナコラム5との間を前進する。これにより、アウタコラム3の内周面とインナコラム5の外周面とには、第1金属球保持筒35側の鋼球41と第2金属球保持筒37側の鋼球43とによる塑性溝がそれぞれ形成され、比較的大きな衝撃エネルギの吸収が実現されることになる。図7はアウタコラム3の移動ストロークとコラプス荷重との関係を示すグラフであり、同図中の実線はこの際(大コラプス荷重時)・・・」と記載されている。

また、本件明細書の段落【0024】には「この状態で運転者がステアリングホイール23に二次衝突すると、上述した場合と同様のプロセスにより、アウタコラム3が脱落した後、コラプシブルコラム1がコラプスを開始する。この際、第2金属球保持筒37がピストン55により係止されているため、図8に示したように、第1金属球保持筒35と伴に後退できず(係止爪等による係合力に打ち勝って両金属球保持筒35,37が分離し)、第1金属球保持筒35側の鋼球41による塑性溝のみが形成され、衝撃エネルギの吸収量が比較的小さくなる。その結果、運転者が小柄な女性等であっても、コラプシブルコラム1のコラプスが円滑に行われ、運転者の胸部や頭部に大きな衝撃が加わることがなくなる。図7中の破線はこの際(小コラプス荷重時)・・・」と記載されている。

さらに、図7には、横軸を「移動ストローク」を示すものと記載されている。

ここで、本件明細書の段落【0022】の「図7はアウタコラム3の移動ストロークとコラプス荷重との関係を示すグラフであり」との記載及び図7の横軸を示す「移動ストローク」との記載を踏まえると、図7には、縦軸上の各コラプス荷重に対して移動ストロークが実線及び破線でプロットされたグラフが示されているといえる。また、図7には、横軸上で同一の移動ストロークでは縦軸上の作動荷重に関して、破線のほうが実線より小さいことも示されている。

そうすると、本件明細書の段落【0022】に記載された「同図中の実線」は、「この際(大コラプス荷重時)」の「移動ストローク」を示しているといえる。

したがって、訂正事項1の訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。


(3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について

訂正事項1は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、新規事項を導入するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項の規定に適合するものである。


2 訂正事項2について

(1)訂正の目的の適否について

上記1(1)で検討したのと同様に、訂正前の本件明細書等には、「この際(小コラプス荷重時)の試験結果」に関し、該「試験」の具体的内容が明らかでないことに加え、図7中の破線が「試験結果」による作動荷重と移動ストロークの関係を示しているものか明らかでなかったものを、訂正後に「図7中の破線はこの際(小コラプス荷重時)の移動ストローク」と訂正し、図7の内容を説明している記載に改めるものであるから、訂正事項2の訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものに該当する。

(2)新規事項の追加の有無について

上記1(2)における検討を踏まえると、本件明細書の段落【0024】に記載された「同図中の破線」は、「この際(小コラプス荷重時)」の「移動ストローク」を示しているといえる。
したがって、訂正事項2の訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第126条第5項の規定に適合するものである。


(3)特許請求の範囲の実質上の拡張・変更の存否について

訂正事項2は、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであり、新規事項を導入するものでもないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項の規定に適合するものである。


第5 むすび

以上のとおりであるから、本件審判の請求に係る訂正は、特許法第126条第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第5項ないし第6項の規定に適合する。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
衝撃吸収式ステアリングコラム装置
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の衝突時における乗員の二次衝突エネルギを吸収する衝突エネルギ吸収手段を備えた衝撃吸収式ステアリングコラム装置であって、前記衝突エネルギ吸収手段による前記二次衝突エネルギの吸収量を変化させるエネルギ吸収量調整手段と、前記乗員あるいは前記車両の状態を検出する少なくとも一つの運転状態検出センサと、車両の衝突を検出する衝突検出センサと、この衝突検出センサが車両の衝突を検出した時点での前記運転状態センサの検出結果に基づき、前記エネルギ吸収量調整手段を駆動制御する電気的制御手段とを備えたことを特徴とする衝撃吸収式ステアリングコラム装置。
【請求項2】
前記エネルギ吸収量調整手段は前記電気的制御手段の駆動によりガスを発生する電気点火式ガス発生手段と該電気点火式ガス発生手段の作動・非作動に応じて二次衝突エネルギの吸収量を変化させるエネルギ吸収切換機構とを含むことを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収式ステアリングコラム装置。
【請求項3】
前記ガス発生手段はごく短時間に大量の窒素ガスを発生することを特徴とする請求項2に記載の衝撃吸収式ステアリングコラム装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、衝撃吸収式ステアリングコラム装置に係り、詳しくは、ステアリングコラムのコラプス荷重を衝突時点で切り換える技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車が他の自動車や建造物等に衝突した場合、運転者が慣性でステアリングホイールに二次衝突することがある。近年の乗用車等では、このような場合における運転者の受傷を防止するべく、衝撃吸収式ステアリングシャフトや衝撃吸収式ステアリングコラム装置が広く採用されている。衝撃吸収式ステアリングコラム装置は、運転者が二次衝突した際にステアリングコラムがステアリングシャフトと共に脱落するもので、通常はステアリングシャフトと同時にコラプスし、その際に衝突エネルギの吸収が行われる。衝突エネルギの吸収方式としては、特公昭46-35527号公報等に記載されたように、アウタコラムとインナコラムとの間に金属球を介装させ、コラプス時にアウタコラムの内周面やインナコラムの外周面に塑性溝を形成させるボール式や、特開平7-329796号公報等に記載されように、アウタコラムとインナコラムとのいずれか一方に鋼板等のエネルギ吸収部材を保持させ、いずれか他方に保持されたしごきピン等のしごき手段によりエネルギ吸収部材をしごくしごき式等が公知となっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した衝撃吸収式ステアリングコラム装置では、所定のコラプス荷重が作用した場合にステアリングコラムがコラプスするが、このことに起因して次のような問題が生じていた。通常、コラプス荷重は、標準的な体重の運転者が所定の速度でステアリングホイールに二次衝突した際の運動エネルギを基に設定される。しかしながら、運転者が小柄な女性等である場合にはその運動エネルギが当然に小さくなるため、このような運転者が同一速度でステアリングホイールに衝突してもステアリングコラムはコラプスせず、衝突エネルギの吸収が全く行われなくなってしまう。その結果、衝撃吸収式ステアリングコラム装置は所期の作用を果たすことができず、運転者が胸部や頭部に大きな衝撃を受ける虞があった。
【0004】
このような問題に対処するべく、英国特許GB2340457Aでは、油圧シリンダ式の衝突エネルギ吸収手段を備え、電子制御手段が、車速センサや運転者体重センサ等から出力された運転パラメータに基づき目標コラプス荷重を算出して、衝突エネルギ吸収手段の油圧回路に設けられた電動弁の開閉量を調整することにより油圧シリンダの作動油流入抵抗を変化させてコラプス荷重を切り換えるものが提案されている。しかしながら、この装置においても、電子制御手段が目標コラプス荷重を算出するタイミングの点で、次のような問題を残していた。例えば、目標コラプス荷重は、衝突時点に各センサから入力した運転パラメータに基づいて算出することが望ましいが、電動弁や電磁アクチュエータを用いた場合にはこれが不可能となる。すなわち、電動弁や電磁アクチュエータはその構造上起動から作動が終了するまでに比較的長時間を要するため、衝突後に電子制御手段からの駆動電流が入力しても、車両の衝突時点から運転者の二次衝突時点までのごく短時間にコラプス荷重を切り換えることができないのである。そこで、当然のことながら、電子制御手段は衝突前に予めコラプス荷重を切り換えておくことになるが、各運転パラメータが運転状況に応じて刻々と変化することから、適正なコラプス荷重が得られない虞があった。
本発明は、上記状況に鑑みなされたもので、ステアリングコラムのコラプス荷重を衝突時点で切り換え、もって運転者の運動エネルギーの変化に拘わらず二次衝突時の衝撃吸収を可能とした衝撃吸収式ステアリングコラム装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、請求項1の発明では、上記課題を解決するべく、車両の衝突時における乗員の二次衝突エネルギを吸収する衝突エネルギ吸収手段を備えた衝撃吸収式ステアリングコラム装置であって、前記衝突エネルギ吸収手段による前記二次衝突エネルギの吸収量を変化させるエネルギ吸収量調整手段と、前記乗員あるいは前記車両の状態を検出する少なくとも一つの運転状態検出センサと、車両の衝突を検出する衝突検出センサと、この衝突検出センサが車両の衝突を検出した時点での前記運転状態センサの検出結果に基づき、前記エネルギ吸収量調整手段を駆動制御する電気的制御手段とを備えたものを提案する。
【0006】
この発明では、電気的制御手段は、例えば、衝突直後に各運転状態検出手段の検出結果に基づき運動エネルギを算出してROMに記憶させておいたマップや演算式等から目標コラプス荷重を設定し、エネルギ吸収量調整手段のアクチュエータに駆動電流を出力する。
【0007】
また、請求項2の発明では、請求項1に記載の衝撃吸収式ステアリングコラム装置であって、前記エネルギ吸収量調整手段は前記電気的制御手段の駆動によりガスを発生する電気点火式ガス発生手段と該電気点火式ガス発生手段の作動・非作動に応じて二次衝突エネルギの吸収量を変化させるエネルギ吸収切換機構とを含むことを特徴とするものを提案する。
【0008】
この発明では、例えば、電気的制御手段は、目標コラプス荷重の設定を終えると、ガス発生手段の点火剤に電流を出力し、同装置が発生したガスにコラプス荷重の切換機構を構成するピンやシリンダを駆動させる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のいくつかの実施形態を図面を参照して説明する。
図1は、第1実施形態に係るステアリング装置の車室側部分を示す側面図であり、同図中の符号1はコラプシブルコラムを示している。コラプシブルコラム1は、共に鋼管製のアウタコラム3およびインナコラム5と衝突エネルギ吸収機構7とを構成要素としており、アウタコラム3を保持するアッパコラムブラケット9とインナコラム5を保持するロアコラムブラケット11とを介して車体側メンバ13に取り付けられている。尚、本実施形態では、アッパコラムブラケット9と車体側メンバ13との間にはアルミ合金製のカプセル15が介装されており、所定値以上の衝撃荷重が作用すると、アッパコラムブラケット9がアウタコラム3と伴に前方に離脱するようにしたが、カプセル方式以外の離脱機構を採用してもよい。
【0010】
コラプシブルコラム1は、図示しないベアリングを介して、アッパステアリングシャフト21を回動自在に保持している。アッパステアリングシャフト21の上端にはステアリングホイール23が取り付けられる一方、下端にはユニバーサルジョイント25を介してロアステアリングシャフト27が連結されている。図1中で、符号29はステアリングコラム1の上部を覆うコラムカバーを示し、符号31は車室とエンジンルームとを区画するダッシュボードを示し、符号33はコラプシブルコラム1のチルト操作に供されるチルトレバーを示している。尚、アッパステアリングシャフト21には、樹脂インジェクションやセレーション楕円嵌合等による公知の衝突エネルギ吸収機構が形成されており、運転者の二次衝突時に短縮しながら衝突エネルギを吸収する。
【0011】
このステアリング装置では、運転者がステアリングホイール23を回転させると、アッパステアリングシャフト21およびロアステアリングシャフト27を介して、その回転力が図示しないステアリングギヤに伝達される。ステアリングギヤ内には、回転入力を直線運動に変換するラックアンドピニオン機構等が内蔵されており、タイロッド等を介して車輪の舵角が変動して操舵が行われる。尚、ステアリングギヤには、ラックアンドピニオン式の他、ボールスクリュー式やウォームローラ式等、種々の形式が公知である。
【0012】
図2は図1中の拡大A矢視図であり、図3は図2中のB矢視図であり、図4は図2中のC-C断面図である。これらの図に示したように、衝突エネルギ吸収機構7は、アウタコラム3とインナコラム5との間に介装された第1金属球保持筒35と、この第1金属球保持筒35の前方に配設された第2金属球保持筒37と、第2金属球保持筒37の係止を行う保持筒係止装置39とを主要構成部材としている。
【0013】
第1金属球保持筒35および第2金属球保持筒37は、共に合成樹脂や焼結含油合金等を素材としており、それぞれに鋼球41,43を回転自在に保持する鋼球保持孔45,47を有している。本実施形態の場合、第1金属球保持筒35と第2金属球保持筒37とは図示しない係合爪により所定の係合力で結合しているが、樹脂製剪断ピン等により結合されていてもよい。
【0014】
鋼球41,43は、その外径がアウタコラム3とインナコラム5との間隙より所定量大きく設定されており、アウタコラム3とインナコラム5とが軸方向に相対移動する際に両コラム3,5の内周面や外周面に塑性溝を形成する。第1金属球保持筒35側の鋼球保持孔45と第2金属球保持筒37側の鋼球保持孔47とは回転方向で角度位相が異なっており、両鋼球41,43は互いに異なった角度位置に塑性溝を形成する。
【0015】
保持筒係止装置39は、アウタコラム3に固着されたアルミ合金や合成樹脂を素材とするハウジング51と、ハウジング51内のシリンダ53に摺動自在に保持されたピストン55と、ハウジング51の後部にねじ込まれてECU(電子制御装置)57に点火制御される電気点火式ガス発生装置(以下、インフレータと記す)59等からなっている。第2金属球保持筒37には貫通孔61が形成されており、図3の係止状態では、この貫通孔61にピストン55の中央に突設された係止ピン部63が嵌入している。図2中、符号65はハウジング51に形成されたガス通路を示しており、インフレータ59とピストン55の前面とを連絡している。
【0016】
ECU57には、シートポジションセンサ67の他、体重センサ69、車速センサ71、乗員位置センサ73、シートベルト着用センサ75等、少なくとも一つの運転状態検出センサと、衝突検出センサ77とが接続されている。衝突検出センサ77は、SRSエアバックシステム等に用いられるものを流用してもよいし、SRSエアバックシステムから直に検出信号を受けるようにしてもよい。また、衝突検出センサ77の衝突信号に、運転手の状況(シートベルト着用状態、体重、位置)や車速の検出信号を併用し、検出精度を向上させるようにしてもよい。
【0017】
ハウジング51には、コーン状の先端がピストン55の後面に係合する一対の移動防止ピン81と、移動防止ピン81をピストン55側に付勢するコイルスプリング83とが保持されており、ピストン55が不用意に移動しないように係止状態に保持している。図中、符号85で示した部材はコイルスプリング83を保持するプラグ、符号87で示した部材はピストン55の脱落を防止するプラグであり、共にハウジング51に圧入・固着されている。
【0018】
本実施形態の場合、ハウジング51には位置決め突起89が形成されており、この位置決め突起89の内側端がアウタコラム3に形成された係止孔(図示せず)に嵌入することにより、ハウジング51のアウタコラム3に対する位置決めおよび回転防止がなされる。尚、アウタコラム3へのハウジング51の固定にあたっては、ハウジング51をその内径がアウタコラム3の外径より所定量小さい円筒形状としたうえで、アウタコラム3に圧入する方法を採ってもよい。
【0019】
以下、第1実施形態の作用を述べる。
自動車が走行中に他の自動車や路上の障害物に衝突すると、ECU57には、衝突検出センサ77からの衝突信号と、前述した運転状態検出センサ67,69,71,73,75からの各種運転状態パラメータとが入力される。この際、運転者の体重が比較的大きい場合や、運転者の体重が比較的小さくても車速が大きい場合、衝突時における運転者の運動エネルギが大きくなる。そのため、ECU57は、ROM内に記憶したマップあるいは所定の演算式に基づき目標コラプス荷重を大きく設定し、保持筒係止装置39のインフレータ59に点火電流を供給する。
【0020】
ECU57から点火電流が供給されると、インフレータ59がごく短時間に大量の窒素ガスを発生させ、その窒素ガスがガス通路65を通過してピストン55の前面に流入する。すると、ピストン55は、図5に示したように、コイルスプリング83に付勢された移動防止ピン81を押しのけて瞬時に後退し、ピストン55の係止ピン部63と第2金属球保持筒37の貫通孔61との係合が外れて解除状態となる。
【0021】
一方、自動車の衝突時には、運転者が慣性によってステアリングホイール23に二次衝突し、その衝撃によって先ずアッパコラムブラケット9がアウタコラム3と伴に前方に脱落する。その後、運転者の運動エネルギによりステアリングホイール23が前方に押し付けられ、図6に示したように、インナコラム5がアウタコラム3内に進入することでコラプシブルコラム1がコラプスを開始する。尚、上述した保持筒係止装置39の作動はごく短時間で行われるため、コラプシブルコラム1がコラプスを開始する時点においては、ピストン55と第2金属球保持筒37との係合は完全に外れて解除状態となっている。
【0022】
コラプシブルコラム1がコラプスを開始する際、本実施形態では、第1金属球保持筒35と第2金属球保持筒37とが連結されているため、両金属球保持筒35,37は一体となって、インナコラム5の移動量の半分の移動量をもって、アウタコラム3とインナコラム5との間を前進する。これにより、アウタコラム3の内周面とインナコラム5の外周面とには、第1金属球保持筒35側の鋼球41と第2金属球保持筒37側の鋼球43とによる塑性溝がそれぞれ形成され、比較的大きな衝撃エネルギの吸収が実現されることになる。図7はアウタコラム3の移動ストロークとコラプス荷重との関係を示すグラフであり、同図中の実線はこの際(大コラプス荷重時)の移動ストロークを示している。
【0023】
また、運転者が比較的体重の小さい小柄な女性等の場合、衝突時における運転者の運動エネルギは比較的小さくなる。そのため、ECU57は目標コラプス荷重を小さく設定し、インフレータ59に点火電流を供給せず、図3に示したように、ピストン55の係止ピン部63が第2金属球保持筒37の貫通孔61と係合した係止状態のままとなる。
【0024】
この状態で運転者がステアリングホイール23に二次衝突すると、上述した場合と同様のプロセスにより、アウタコラム3が脱落した後、コラプシブルコラム1がコラプスを開始する。この際、第2金属球保持筒37がピストン55により係止されているため、図8に示したように、第1金属球保持筒35と伴に後退できず(係止爪等による係合力に打ち勝って両金属球保持筒35,37が分離し)、第1金属球保持筒35側の鋼球41による塑性溝のみが形成され、衝撃エネルギの吸収量が比較的小さくなる。その結果、運転者が小柄な女性等であっても、コラプシブルコラム1のコラプスが円滑に行われ、運転者の胸部や頭部に大きな衝撃が加わることがなくなる。図7中の破線はこの際(小コラプス荷重時)の移動ストロークを示しており、小コラプス荷重が大コラプス荷重に対して有意に小さくなることが判る。
【0025】
図9は、本発明の第2実施形態に係るステアリング装置を示す要部側面図である。第2実施形態は、上述した第1実施形態と略同様の構成を採っているが、保持筒係止装置39の構成が異なっている。すなわち、本実施形態では、第1実施形態とは逆に、初期状態においてピストン55と第2金属球保持筒37とが係合しておらず、インフレータ59の作動時にピストン55が前進して係止ピン部63が貫通孔61と係合するようになっている。第2実施形態の作用は、ECU57が低コラプス荷重時に点火電流をインフレータ59に供給する以外、第1実施形態と全く同様である。
【0026】
図10は、本発明の第3実施形態に係る衝撃吸収式ステアリングコラム装置を示す側面図であり、図11は同装置を示す平面図(図10中のD矢視図)であり、図12は図10中の拡大E-E断面図である。これらの図に示したように、ステアリングコラム101は、鋼管製のコラムチューブ103の略中央部に鋼板製のアッパディスタンスブラケット(以下、アッパブラケットと略称する)105を溶接接合し、同前部(図10,図11中の左方)にこれも鋼板製のロアディスタンスブラケット(以下、ロアブラケットと略称する)107を溶接接合することにより製作されている。
【0027】
アッパブラケット105は、車体側メンバ13に固着された鋼板溶接構造品のチルトブラケット111に挟持されており、チルトブラケット111を貫通するチルトボルト113とナット115とにより所定の締結力で挟圧・固定されている。アッパブラケット105には後方に開口する略U字形状の切欠き117が形成されており、チルトボルト113はこの切欠き117の前端側に嵌挿されている。図12において符号121,123で示した部材は公知のチルトカムであり、ステアリングコラム101の所定角度での固定に供される。また、符号125で示した部材はチルトカム121を回転駆動するチルトレバーであり、符号127で示した部材はチルトボルト113の頭部113aとチルトレバー125との間に介装されたスラスト軸受である。
【0028】
一方、ロアブラケット107は、車体側メンバ13に固着された鋳造品のピボットブラケット131に挟持されており、ピボットブラケット131を貫通するピボットボルト133とナット135とにより固定されている。ピボットブラケット131には前方に開口する略U字形状の切欠き137が形成されており、ピボットボルト133はこの切欠き137の後端側に嵌挿されている。尚、ステアリングコラム101は、ピボットボルト133を軸に揺動可能となっており、チルトレバー125を操作することにより運転者は所定の範囲でステアリングホイール23の上下位置を調整することができる。
【0029】
本実施形態の場合、衝突エネルギ吸収手段は、チルトボルト113に保持されたエネルギ吸収プレート141と、ステアリングコラム101に固着された可変しごき装置143とから構成されている。エネルギ吸収プレート141は、前方に開いた略U字形状の鋼板であり、後端部近傍をチルトボルト113が貫通している。
【0030】
可変しごき装置143は、図12に示したように、コラムチューブ103に溶接された鋼板プレス成形品のベースプレート145と、ベースプレート145にボルト締めされたハウジング147と、ハウジング147内に摺動自在に保持されたスライドブロック149と、ハウジング147に保持されてECU57に点火制御されるインフレータ59と、インフレータ59に連通する貫通孔151が穿設されたシリンダ153と、シリンダ153内に摺動自在に保持されたピストン155等から構成されている。
【0031】
ピストン155は、前面中央部にロッド部157が突設されており、ロッド部157の先端がスライドブロック149に係合・連結されている。尚、ECU57には、第1実施形態と同様に、シートポジションセンサ73の他、体重センサ74、車速センサ75、乗員位置センサ76、シートベルト着用センサ77等、少なくとも一つの運転状態検出センサと、衝突検出センサ77とが接続されている。
【0032】
ハウジング147には、スライドブロック149の両側面に隣接して、左右一対のガイドプレート161,163が保持されており、エネルギ吸収プレート141はこれらガイドプレート161,163とスライドブロック149との間に嵌挿されている。両ガイドプレート161,163は、略中央部と後部との内側にそれぞれU字状凹部165,167を有しており、これらU字状凹部165,167にエネルギ吸収プレート141に形成された前後のU字曲げ部171,173が嵌入している。
【0033】
エネルギ吸収プレート141には、前部U字曲げ部171に固定側しごきピン175が嵌入する一方、後部U字曲げ部173に移動側しごきピン177が嵌入している。ハウジング147には移動側しごきピン177を保持する左右一対の長孔181,183が形成されており、これら長孔181,183内を移動側しごきピン177が左右方向に所定量移動可能となっている。
【0034】
以下、第3実施形態の作用を説明する。
第3実施形態の場合、衝突時における運転者の運動エネルギが大きい場合、ECU57は目標コラプス荷重を小さく設定し、インフレータ59に点火電流を供給しない。これにより、ピストン155に連結されたスライドブロック149は後退したままとなり、その後部側面が移動側しごきピン177の内側に位置することによって、移動側しごきピン177の内側への移動を規制することになる。
【0035】
この状態で運転者が慣性によってステアリングホイール23に二次衝突すると、その衝撃によって、アッパブラケット105がチルトブラケット111から前方に離脱する一方、ロアブラケット107がピボットブラケット131から前方に離脱し、ステアリングコラム101が脱落して前進を始める。そして、ステアリングコラム101の前進に伴って、車体メンバ3側のチルトボルト113に保持されたエネルギ吸収プレート141に対して、ステアリングコラム101側の可変しごき装置143が前進する。
【0036】
すると、エネルギ吸収プレート141では、U字状凹部165と固定側しごきピン175との間に嵌入した前部U字曲げ部171と、U字状凹部167と移動側しごきピン177との間に嵌入した後部U字曲げ部173とが前進することになる。その結果、エネルギ吸収プレート141は左右4箇所で両しごきピン175,177に順次巻き回されるかたちでしごかれ、比較的大きな衝突エネルギの吸収が実現される。
【0037】
一方、運転者が比較的体重の小さい小柄な女性等の場合、衝突時における運転者の運動エネルギが比較的小さくなる。すると、ECU57は、インフレータ59に点火電流を供給する。ECU57から点火電流が供給されると、インフレータ59がごく短時間に大量の窒素ガスを発生させ、その窒素ガスがシリンダ153の貫通孔151からピストン55の後部に流入する。これにより、図13に示したように、ピストン155がスライドブロック149と伴に瞬時に前進し、移動側しごきピン177は長孔181,183内を自由に移動可能となる。
【0038】
この状態で自動車が他の自動車や路上の障害物に衝突すると、上述した場合と同様のプロセスにより、ステアリングコラム101が脱落して前進し、エネルギ吸収プレート141に対して可変しごき装置143が前進する。ところが、この場合には移動側しごきピン177がスライドブロック149により拘束されていないため、エネルギ吸収プレート141の後部U字曲げ部173は、U字状凹部167から前進・離脱する際に移動側しごきピン177を内側に押圧して移動させ、しかる後に消失する。
【0039】
その結果、エネルギ吸収プレート141は左右2箇所の固定側しごきピン175だけにしごかれることになり、衝突エネルギの吸収量が小さくなると共に、運転者が小柄な女性等であっても、ステアリングコラム101の前進が円滑に行われ、運転者の胸部や頭部に大きな衝撃が加わることがなくなるのである。
【0040】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態に限られるものではない。例えば、第1実施形態では、第2金属球保持筒をピストンによりアウタコラムに係合させて、第1金属球保持筒と第2金属球保持筒とを分離させてコラプス荷重を2段階に変化させるようにしたが、インフレータやピストン、金属球保持筒等を複数組設けることでコラプス荷重を3段階以上に変化させることが可能である。その他、ステアリングコラム装置および吸収エネルギ可変手段の具体的構成等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0041】
【発明の効果】
以上述べたように、請求項1の発明では、車両の衝突時における乗員の二次衝突エネルギを吸収する衝突エネルギ吸収手段を備えた衝撃吸収式ステアリングコラム装置であって、前記衝突エネルギ吸収手段による前記二次衝突エネルギの吸収量を変化させるエネルギ吸収量調整手段と、前記乗員あるいは前記車両の状態を検出する少なくとも一つの運転状態検出センサと、車両の衝突を検出する衝突検出センサと、この衝突検出センサが車両の衝突を検出した時点での前記運転状態センサの検出結果に基づき、前記エネルギ吸収量調整手段を駆動制御する電気的制御手段とを備えるようにしたため、例えば、衝突直後に各運転状態検出手段の検出結果に基づき運動エネルギを算出してROMに記憶させておいたマップや演算式等から目標コラプス荷重を設定し、エネルギ吸収量調整手段のアクチュエータに駆動電流を出力することで、衝突時における適正なコラプス荷重を得ることが可能となる。
【0042】
また、請求項2の発明では請求項1に記載の衝撃吸収式ステアリングコラム装置であって、前記エネルギ吸収量調整手段は前記電気的制御手段の駆動によりガスを発生する電気点火式ガス発生手段と該電気点火式ガス発生手段の作動・非作動に応じて二次衝突エネルギの吸収量を変化させるエネルギ吸収切換機構とを含むため、例えば、電気的制御手段が、電気点火式ガス発生手段の点火剤に電流を出力して同装置が発生したガスにコラプス荷重の切換機構を構成するピストン等を駆動させることで、コラプス荷重の切換が瞬時に行われるようになり、衝突後に最適なコラプス荷重を設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態に係るステアリング装置の車室側部分を示す側面図である。
【図2】図1中の拡大A矢視図である。
【図3】図2中のB矢視図。
【図4】図2中のC-C断面図である。
【図5】大コラプス荷重時における保持筒係止装置の作動を示す説明図である。
【図6】大コラプス荷重時における衝突エネルギ吸収機構の作動を示す説明図である。
【図7】アウタコラムの移動ストロークとコラプス荷重との関係を示すグラフである。
【図8】少コラプス荷重時における衝突エネルギ吸収機構の作動を示す説明図である。
【図9】第2実施形態に係るステアリング装置を示す要部側面図である。
【図10】第3実施形態に係る衝撃吸収式ステアリングコラム装置を示す側面図である。
【図11】図10中のD矢視図である。
【図12】図10中の拡大E-E断面図である。
【図13】少コラプス荷重時における可変しごき装置の作動を示す説明図である。
【符号の説明】
1‥‥コラプシブルコラム
3‥‥アウタコラム
5‥‥インナコラム
7‥‥衝突エネルギ吸収機構
21‥‥アッパステアリングシャフト
35‥‥第1金属球保持筒
37‥‥第2金属球保持筒
39‥‥保持筒駆動装置
41,43‥‥鋼球
55‥‥ピストン
57‥‥ECU
59‥‥インフレータ
67‥‥シートポジションセンサ
69‥‥体重センサ
71‥‥車速センサ
73‥‥乗員位置センサ
75‥‥シートベルト着用センサ
77‥‥衝突検出センサ
101‥‥ステアリングコラム
103‥‥コラムチューブ
105‥‥アッパディスタンスブラケット
107‥‥ロアディスタンスブラケット
111‥‥チルトブラケット
113‥‥チルトボルト
131‥‥ピボットブラケット
141‥‥エネルギ吸収プレート
143‥‥可変しごき装置
149‥‥スライドブロック
155‥‥ピストン
175‥‥固定側しごきピン
177‥‥移動側しごきピン
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2019-08-21 
結審通知日 2019-08-21 
審決日 2019-09-04 
出願番号 特願2000-259145(P2000-259145)
審決分類 P 1 41・ 853- Y (B62D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐々木 智洋  
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 岡▲さき▼ 潤
氏原 康宏
登録日 2010-03-12 
登録番号 特許第4470299号(P4470299)
発明の名称 衝撃吸収式ステアリングコラム装置  
代理人 松山 美奈子  
代理人 松山 美奈子  

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