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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C07K
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 取り消して特許、登録 C07K
管理番号 1355188
審判番号 不服2018-12040  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-07 
確定日 2019-10-04 
事件の表示 特願2016-500960「融合免疫調節タンパク質及びその生産方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年10月 9日国際公開、WO2014/164427、平成28年 4月28日国内公表、特表2016-512508、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年) 3月10日(パリ条約による優先権主張2013年 3月12日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成29年10月12日付けで拒絶理由通知がなされ、それに対し、平成30年 1月17日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がされ、同年 6月 6日付けで拒絶査定され、同年 9月 7日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正されたものである。

第2 原査定の概要
原査定である平成30年 6月 6日付け拒絶査定の理由の概要は、次の1及び2のとおりである。

1 本願請求項7に係る発明の新規性欠如
本願請求項7に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない(以下、「査定理由1」という。)。

2 本願請求項1?16に係る発明の進歩性欠如
本願請求項1?16に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である下記の引用文献2?4に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない(以下、「査定理由2」という。)。

引用文献1:国際公開第2013/164694号
引用文献2:国際公開第2011/109789号
引用文献3:特開平2-163096号公報
引用文献4:FATH, S. et al.,PLOS One,(2011),Vol.6, No.3,art. no. e17596(pp.1-14)

第3 本願発明
本願の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明8」という。)は、平成30年 9月 7日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?8に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
治療効果のある融合タンパク質を調製する方法であって、前記融合タンパク質が、腫瘍標的部分及び、癌細胞の免疫寛容を弱める少なくとも1つの免疫調節分子を含み、前記腫瘍標的部分が、CTLA-4又はEGFR1に結合する抗体であり、且つ前記融合タンパク質が次のステップ:
CHO細胞での発現のために、前記融合タンパク質をコードするコドン最適化核酸であって、CG核酸含量を増加するように修飾されており、前記抗体の重鎖については配列番号1又は5、前記抗体の軽鎖については配列番号2又は6、免疫調節分子については配列番号3又は7であり、それぞれEGFR1又はCTLA4に結合する前記抗体の重鎖についての配列番号1又は5が、前記抗体の重鎖のC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチドを欠失している、コドン最適化核酸、を調製するステップ;
一過性の又は安定した発現が可能なCHO細胞で前記融合タンパク質の前記最適化核酸をクローニングするステップ;
前記宿主細胞を増殖させ且つ前記CHO細胞による前記融合タンパク質の発現を可能にするのに適した条件下で、前記CHO細胞を培地で増殖させるステップ;及び
さらなる精製のために、分泌された融合タンパク質を収集するステップ
によって調製される、方法。
【請求項2】
前記免疫調節分子が、前記融合タンパク質の二重特異的結合を可能にするのに十分な長さの、配列番号4の核酸によって発現するアミノ酸配列によって前記抗体に連結されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記免疫調節分子が、直接又はリンカーを介して、前記抗体の重鎖のN若しくはC末端、前記抗体の軽鎖のN若しくはC末端、又は両鎖のN及びC末端の両方に連結される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コドン最適化核酸が配列番号1、2、4、及び7を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記コドン最適化核酸が配列番号1、2、3、及び4を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記コドン最適化核酸が配列番号5、6、3、及び4を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
重鎖及び軽鎖をそれぞれコードする、配列番号1及び2、又は配列番号5及び6と、配列番号3又は7とを含む、核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含むベクター。」

第4 引用文献の記載事項
(1)引用文献2の記載事項
引用文献2には、記載事項2-1?2-5が記載されている。
なお、引用文献2は、英語の国際公開公報であるところ、対応する日本語公表特許公報である特表2013-521311号公報の記載を参考にして、当審で日本語に翻訳して摘記する(特に、下記記載事項2-5における各図は、引用文献2の各図に対応する上記特表2013-521311号公報の各図であって、翻訳が正確であることを当審において確認したものである。)。また、摘記中の下線は、当審が付したものである。

記載事項2-1:
「[0167]別の局面において、免疫調節部分は、標的部分のC末端に融合される。別の局面において、免疫調節部分は、標的部分のN末端に融合される。1つの局面において、融合分子は、X-Fc-Yにより表され、ここでXは標的部分であり、Fcは免疫グロブリンFc領域であり、そしてYは免疫調節部分である。別の局面において、融合分子は、Y-Fc-Xにより表され、ここでXは標的部分であり、そしてYは免疫調節部分である。1つの局面において、標的部分はさらに免疫調節部分でもあり得る。」(第47頁第6行?第12行;特表2013-521311号公報の【0109】に対応)

記載事項2-2:
「様々な局面において、免疫調節部分は、標的抗体またはFc含有融合タンパク質の重鎖のFc領域のC末端に融合されたポリペプチドである。」(第51頁下から第5行?第3行;特表2013-521311号公報の【0124】に対応)

記載事項2-3:
「実施例2
[0210]例示的な標的免疫調節抗体および融合タンパク質
[0211]抗体を含む標的部分は、TGFBR2の細胞外ドメイン由来のポリペプチドを含む免疫調節部分と接続することができる。そのような接続または共役のための架橋剤または活性化剤は、当技術分野で周知である。あるいは、本発明の融合タンパク質は、その融合タンパク質の様々な部分のコード配列を核酸レベルでひとつに連結することができる当技術分野で周知の組み換えDNA技術を用いて合成することができる。その後、本発明の融合タンパク質を、当技術分野で周知の宿主細胞を用いて生産することができる。標的免疫調節抗体および融合タンパク質の例は、図1?33に示されており、以下でそれを簡潔に解説する。
[0212]1つの態様において、本発明は、免疫調節部分に融合された標的部分を含む分子であって、標的部分が標的分子に特異的に結合し、かつ免疫調節部分が形質転換成長因子ベータ(TGF-β)に特異的に結合する分子を提供する。SEQ ID NO: 1は、抗HER2/neu抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図2)。SEQ ID NO: 2は、抗EGFR1抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図3)。SEQ ID NO: 3は、抗CD20抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図4)。SEQ ID NO: 4は、抗VEGF抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図5)。SEQ ID NO: 5は、抗ヒトCTLA-4抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図6)。SEQ ID NO: 6は、IL-2、Fcおよび形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図7)。SEQ ID NO: 7は、形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)、FcおよびIL-2を含む融合タンパク質を提供する(図7)。SEQ ID NO: 8は、抗CD25抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図8A)。SEQ ID NO: 9は、抗CD25抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図8B)。SEQ ID NO: 10は、抗CD4抗体および形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(ECD)を含む融合タンパク質を提供する(図9)。SEQ ID NO: 11は、PD-1外部ドメイン、Fcおよび形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(外部ドメイン)を含む融合タンパク質を提供する(PD-1外部ドメイン + Fc + TGFβRII外部ドメイン;図10)。SEQ ID NO: 12は、形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(外部ドメイン)、FcおよびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(TGFβRII外部ドメイン + Fc + PD-1外部ドメイン;図10)。SEQ ID NO: 13は、RANK外部ドメイン、Fcおよび形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(外部ドメイン)を含む融合タンパク質を提供する(RANK外部ドメイン + Fc + TGFβRII外部ドメイン;図11)。SEQ ID NO: 14は、形質転換成長因子ベータ受容体II(TGFβ-RII)細胞外ドメイン(外部ドメイン)、FcおよびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(TGFβRII外部ドメイン + Fc + RANK外部ドメイン;図11)。
[0213]別の態様において、本発明は、免疫調節部分に融合された標的部分を含む分子であって、標的部分が標的分子に特異的に結合し、かつ免疫調節部分がプログラム死1リガンド1(PD-L1もしくはB7-H1)またはプログラム死1リガンド2(PD-L2もしくはB7-DC)に特異的に結合する分子である分子を提供する。SEQ ID NO: 15は、抗HER2/neu抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図13)。SEQ ID NO: 16は、抗EGFR1抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図14)。SEQ ID NO: 17は、抗CD20抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図15)。SEQ ID NO: 18は、抗VEGF抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図16)。SEQ ID NO: 19は、抗ヒトCTLA-4抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図17)。SEQ ID NO: 20は、抗CD25抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図18A)。SEQ ID NO: 21は、抗CD25抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図18B)。SEQ ID NO: 22は、IL-2、FcおよびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(IL-2 + Fc + PD-1外部ドメイン;図19)。SEQ ID NO: 23は、PD-1外部ドメイン、FcおよびIL-2を含む融合タンパク質を提供する(PD-1外部ドメイン + Fc + IL-2;図19)。SEQ ID NO: 24は、抗CD4抗体およびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図20)。SEQ ID NO: 25は、RANK外部ドメイン、FcおよびPD-1外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(RANK外部ドメイン + Fc + PD-1外部ドメイン;図21)。SEQ ID NO: 26は、PD-1外部ドメイン、FcおよびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(PD-1外部ドメイン + Fc + RANK外部ドメイン;図21)。
[0214]別の態様において、本発明は、免疫調節部分に融合された標的部分を含む分子であって、標的部分が標的分子に特異的に結合し、かつ免疫調節部分がNF-κB受容体活性化因子リガンド(RANKL)に特異的に結合する分子である分子を提供する。SEQ ID NO: 27は、抗HER2/neu抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図23)。SEQ ID NO: 28は、抗EGFR1抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図24)。SEQ ID NO: 29は、抗CD20抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図25)。SEQ ID NO: 30は、抗VEGF抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図26)。SEQ ID NO: 31は、抗ヒトCTLA-4抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図27)。SEQ ID NO: 32は、抗CD25抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図28A)。SEQ ID NO: 33は、抗CD25抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図28B)。SEQ ID NO: 34は、IL-2、FcおよびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(IL-2 + Fc + RANK外部ドメイン;図29)。SEQ ID NO: 35は、RANK外部ドメイン、FcおよびIL-2を含む融合タンパク質を提供する(RANK外部ドメイン + Fc + IL-2;図29)。SEQ ID NO: 36は、抗CD4抗体およびRANK外部ドメインを含む融合タンパク質を提供する(図30)。」(第63頁第10行?第65頁最終行;特表2013-521311号公報の【0151】?【0154】に対応)

記載事項2-4:
「クレーム:
1.免疫調節部分に融合された標的部分を含む分子であって、
(a)標的部分が、標的分子に特異的に結合し、かつ
(b)免疫調節部分が、
(i)形質転換成長因子ベータ(TGF-β);形質転換成長因子ベータ受容体(TGF-βR);プログラム死1リガンド1(PD-L1;B7-H1)もしくはプログラム死1リガンド2(PD-L2;B7-DC);プログラム死1(PD-1);核因子κB受容体活性化因子リガンド(RANKL);または核因子κB受容体活性化因子(RANK);および
(ii)4-1BB(CD137);4-1BBリガンド(4-1BBL;CD137L);OX40(CD134;TNR4);OX40リガンド(OX40L);グルココルチコイド誘導性腫瘍壊死因子受容体ファミリー関連遺伝子(GITR;AITR);GITRリガンド(GITRL);HVEM;LIGHT;CD27;またはCD70から選択される分子に特異的に結合する、
分子。

2.標的部分が、腫瘍細胞、腫瘍抗原、腫瘍血管系、腫瘍微小環境、または腫瘍浸潤性免疫細胞の成分に特異的に結合する抗体、抗体フラグメント、scFv、またはFc含有ポリペプチドを含む、クレーム1記載の分子。

3.免疫調節部分が、TGF-βに結合する分子を含む、クレーム2記載の分子。

4.免疫調節部分が、形質転換成長因子ベータ受容体TGF-βRII、TGF-βRIIb、またはTGF-βRIIIの細胞外リガンド結合ドメインを含む、クレーム3記載の分子。

5.免疫調節部分が、TGF-βRIIの細胞外リガンド結合ドメインを含む、クレーム4記載の分子。

6.標的部分が、HER2/neu、上皮成長因子受容体(EGFR1)、CD20、血管内皮成長因子(VEGF)、細胞傷害性Tリンパ球抗原4(CTLA-4)、CD25(IL-2α受容体;IL-2αR)、またはCD4に特異的に結合する抗体、抗体フラグメント、またはポリペプチドを含む、クレーム5記載の分子。」(第69頁第1行?第70頁第4行;特表2013-521311号公報の【請求項1】?【請求項6】に対応)

記載事項2-5:


図3
・・・

図6
・・・

図14
・・・

図17
・・・

図24
・・・

図27
」(図面の第5頁、第8頁、第17頁、第20頁、第28頁及び第31頁;特表2013-521311号公報の【図3】、【図6】、【図14】、【図17】、【図24】及び【図27】に対応)

(2)引用文献3の記載事項
引用文献3には、次の記載事項3-1?3-3が記載されている。
なお、摘記中の下線は、当審が付したものである。

記載事項3-1:
「2.特許請求の範囲
1.抗体産生細胞から分泌された抗体の不均質性を減少させる方法であって、抗体重鎖の一方または両方のカルボキシ末端のアミノ酸またはアミノ酸群を除去するか、または該末端にアミノ酸またはアミノ酸群を付加することを特徴とする方法。」(第1頁左欄第5行?第9行)

記載事項3-2:
「この不均質性の生化学的な根拠は、抗体重鎖のカルボキシ末端に結合している余分のアミノ酸または酸群の存在に起因する。抗体遺伝子のDNA配列から導かれる推定のアミノ酸配列は余分のアミノ酸を含んでいるので、通常、末端のアミノ酸は内部でのプロセッシングまたは細胞からの抗体の分泌の間に除去されるという可能性が最も高い。3種の不均質な形態のうちの1つは、重鎖のどちらにも余分の末端アミノ酸を含んでいない抗体である。3種の別個の不均質な形態のうちの第2のものは重鎖の一方に余分のアミノ酸を含んでおり、第3の形態は重鎖の両方に余分のアミノ酸を含んでいる。」(第2頁右下欄第4行?第16行)。

記載事項3-3:
「本発明実施のさらに別の方法は、免疫グロブリン重鎖をコードしている遺伝子から、カルボキシ末端のリジンまたはリジン群をコードしているコドンまたはコドン群を選択的に除去することからなる。」 (第5頁右下欄第3行?第7行)。

第5 当審の判断
1 査定理由1(新規性欠如)について
査定理由1(新規性欠如)は、第2の1のとおり、拒絶査定時の本願請求項7に係る発明を対象としたものである。しかしながら、平成30年 9月 7日に提出された手続補正書による補正により、上記拒絶査定時の本願請求項7は削除された。
そのため、査定理由1によって本願を拒絶することはできない。

2 査定理由2(進歩性欠如)について
(1)本願発明1について
ア 引用文献2に記載の発明の認定
引用文献2の記載事項2-4における「免疫調節部分に融合された標的部分を含む分子」の例として、記載事項2-3に種々の融合タンパク質が列挙されているところ、列挙された融合タンパク質のうち、標的部分が、標的分子であるEGFR1又はCTLA-4に結合する抗体(重鎖及び軽鎖)を含む融合タンパク質は、記載事項2-3において当審が下線を施したものである。そして、これら下線を施したEGFR1又はCTLA-4の抗体を含む融合タンパク質は、記載事項2-5の各図に示されるものであるところ、これら融合タンパク質はいずれも、EGFR1又はCTLA-4に特異的に結合する、抗EGFR1重鎖抗体及び抗EGFR1軽鎖抗体、又は抗CTLA-4重鎖抗体及びCTLA-4軽鎖抗体を含み、上記抗EGFR1重鎖抗体又は抗CTLA-4重鎖抗体のC末端にリンカーを介して各図において太字体で示されるアミノ酸配列が結合されたものである。ここで、この太字のアミノ酸配列の部分は、記載事項2-3のとおり、形質転換成長因子ベータ(TGF-β)、プログラム死1リガンド1、プログラム死1リガンド2、又はNF-κB受容体活性化因子リガンド(RANKL)に特異的に結合する分子であるから、記載事項2-4でいう「免疫調節部分」の分子に該当する。
そうすると、記載事項2-3?2-5(特に記載事項2-5の各図)を踏まえると、引用文献2には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明2」という。)。

「免疫調節部分に融合された腫瘍標的部分を含む融合タンパク質として、
標的部分が、標的分子であるEGFR1又はCTLA-4に特異的に結合する、抗EGFR1重鎖抗体及び抗EGFR1軽鎖抗体、又は抗CTLA-4重鎖抗体及びCTLA-4軽鎖抗体を含み、かつ
免疫調節部分の分子が、上記抗EGFR1重鎖抗体又は抗CTLA-4重鎖抗体のC末端にリンカーを介して結合されたものである、融合タンパク質であって、
記載事項2-5の各図のいずれかに示される、重鎖抗体、軽鎖抗体及び免疫調節部分の分子のアミノ酸配列を含む融合タンパク質を、
宿主細胞を用いて生産する方法。」

イ 本願発明1と引用発明2との対比
本願発明1と引用発明2とを対比する。
本願発明1と引用発明2とは、ともに、
「融合タンパク質を調製する方法であって、前記融合タンパク質が、腫瘍標的部分及び、免疫調節分子を含み、前記腫瘍標的部分が、CTLA-4又はEGFR1に結合する抗体であり、且つ前記融合タンパク質が宿主細胞を用いることによって調製される、方法。」
である点で一致するものの、次の5点で相違する(以下、それぞれ「相違点1」?「相違点5」という。)。

相違点1:本願発明1における融合タンパク質が「治療効果のある」と特定されているのに対し、引用発明2における融合タンパク質がそのように特定されていない点

相違点2:本願発明1における少なくとも1つの免疫調節分子が「癌細胞の免疫寛容を弱める」と特定されているのに対し、引用発明2における免疫調節分子がそのように特定されていない点

相違点3:本願発明1における方法が、「CHO細胞での発現のために、前記融合タンパク質をコードするコドン最適化核酸であって、CG核酸含量を増加するように修飾されており、前記抗体の重鎖については配列番号1又は5、前記抗体の軽鎖については配列番号2又は6、免疫調節分子については配列番号3又は7であり、コドン最適化核酸、を調製するステップ」を含むことが特定されたものであるのに対し、引用発明2における方法が、記載事項2-5の各図のいずれかに示される、重鎖抗体、軽鎖抗体及び免疫調節部分の分子のアミノ酸配列を含む融合タンパク質を調製するための宿主細胞を用いるステップを含むことが特定されたものである点

相違点4:前記相違点3に係るステップの抗体の重鎖について、本願発明1が「それぞれEGFR1又はCTLA4に結合する前記抗体の重鎖についての配列番号1又は5が、前記抗体の重鎖のC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチドを欠失している」ことが更に特定されたものであるのに対し、引用発明2のEGFR1又はCTLA-4に結合する、記載事項2-5の各図のいずれかに示される重鎖抗体が、いずれもC末端にリジン(各図中のイタリック体で表されるリンカーの直前の「K」)を有するものである点

相違点5:本願発明1における方法が、「一過性の又は安定した発現が可能なCHO細胞で前記融合タンパク質の前記最適化核酸をクローニングするステップ;前記宿主細胞を増殖させ且つ前記CHO細胞による前記融合タンパク質の発現を可能にするのに適した条件下で、前記CHO細胞を培地で増殖させるステップ;及びさらなる精製のために、分泌された融合タンパク質を収集するステップ」を含むことが特定されたものであるのに対し、引用発明2における方法が宿主細胞を用いるステップを含むことが特定されてはいるものの、具体的な細胞や、融合タンパク質を生産するまでの工程の細部は特定されていない点

ウ 相違点についての判断
先に相違点4について検討する。
宿主細胞を用いたタンパク質の生産に先立って、当該タンパク質をコードする核酸を調製することは、当業者が当然に行うことであるところ、引用発明2における「記載事項2-5の各図のいずれかに示される、重鎖抗体、軽鎖抗体及び免疫調節部分の分子のアミノ酸配列を含む融合タンパク質」を宿主細胞を用いて生産するために調製される核酸は、当該各図において示されている重鎖抗体のアミノ酸配列におけるC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチドを有するものである。
一方、記載事項3-1?3-3によると、引用文献3には、「抗体産生細胞から分泌された抗体のC(カルボキシ)末端のアミノ酸のプロセッシング等による除去に起因する不均質性を減少させる方法であって、重鎖抗体をコードしている遺伝子から、C末端のリジンをコードしているヌクレオチド(コドン)を選択的に除去する方法」が記載されている。
そこで、引用発明2における「記載事項2-5の各図のいずれかに示される、重鎖抗体、軽鎖抗体及び免疫調節部分の分子のアミノ酸配列を含む融合タンパク質」を宿主細胞を用いて生産するために調製される核酸における、上記「重鎖抗体のC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチド」を、引用文献3に記載の方法を適用することで除去し、相違点4に係る「EGFR1又はCTLA4に結合する抗体の重鎖のC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチドを欠失している」ようにすることを当業者が容易に想到するかについて検討する。
引用発明2における融合タンパク質は、「免疫調節部分の分子が、上記抗EGFR1重鎖抗体又は抗CTLA-4重鎖抗体のC末端にリンカーに結合されたもの」であり、重鎖抗体のC末端のリジンは、融合タンパク質のC末端には位置しないものとなるから、当該リジンは、記載事項3-2にあるようなプロセッシング等によって除去されないものである。そのため、引用発明2における融合タンパク質について、重鎖抗体のC末端のリジンに起因する不均質性の問題は生じないから、引用発明2における「記載事項2-5の各図のいずれかに示される、重鎖抗体、軽鎖抗体及び免疫調節部分の分子のアミノ酸配列を含む融合タンパク質」を宿主細胞を用いて生産するために調製される核酸における、上記「重鎖抗体のC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチド」を、引用文献3に記載の方法を適用して除去するための動機付けを見いだすことができない。したがって、引用文献3の記載に接した当業者であっても、相違点4について容易に想到するとはいえない。
加えて、引用文献4は、コドン最適化やGC含量について記載された文献であって、抗体の重鎖のC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチドを欠失させることを示唆するものではない。
したがって、引用文献3、4を考慮しても、当業者が相違点4について容易に想到するとはいえないから、当該相違点1?3及び5について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明2、及び引用文献3、4のそれぞれに記載された発明から当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ 引用文献2に重鎖抗体の定常領域末端のリジンがC末端となる融合タンパク質が記載されているかの検討
記載事項2-1には、「別の局面において、免疫調節部分は、標的部分のN末端に融合される。」との記載があり、形式上は、免疫調節部分に標的部分のN末端が融合された融合タンパク質もあるかのように記載されているので、引用文献2に、N末側に免疫調節部分があり、C末端に標的部分がある融合タンパク質であって、重鎖抗体の定常領域(Fc領域)末端のリジンがC末端となる融合タンパク質が記載されているといえるかについても検討する。
しかしながら、記載事項2-1の上記「別の局面において、免疫調節部分は、標的部分のN末端に融合される。」との記載のすぐ後に「X-Fc-Y」及び「Y-Fc-X」(Xは標的部分;FcはFc領域;Yは免疫調節部分)なる融合分子(融合タンパク質)が記載されていることからみて、標的部分のN末端に免疫調節部分を融合させる場合においても、両部分の間には必ずFc領域が介在し、Fc領域末端のリジンが融合タンパク質のC末端となるものではないと解すべきものであるといえる。
そして、引用文献2に具体的なアミノ酸配列を伴って記載されている図2?51の融合タンパク質のうち、重鎖抗体を含む全ての融合タンパク質が重鎖可変領域-Fc領域-免疫調節領域の融合タンパク質であること、及び記載事項2-2において「免疫調節部分は、標的抗体またはFc含有融合タンパク質の重鎖のFc領域のC末端に融合され」ると記載されていることは、いずれも上記「Fc領域末端のリジンが融合タンパク質のC末端となるものではないと解すべきものである」との解釈に沿ったものである。そして、引用文献2には、これら記載以外に重鎖抗体のFc領域と免疫調節部分とがどの位置で結合するかについての具体的な記載はない。
したがって、引用文献2に、重鎖抗体の定常領域末端のリジンがC末端となる融合タンパク質が記載されているといえない。

オ 小括
ア?エのとおりであるから、本願発明1は、引用文献2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(2)本願発明2?8について
本願発明2?6は、いずれも本願発明1の方法を更に特定したものであるから、本願発明1と同じ理由により、引用文献2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
また、本願発明7の核酸は、配列番号1又は5のアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸配列を含むものであるところ、この「配列番号1又は5のアミノ酸配列のいずれかをコードする核酸配列」は、本願請求項1に記載のとおり、「EGFR1又はCTLA4に結合する抗体の重鎖のC末端におけるリジンの発現のためのヌクレオチドを欠失している」ものであるから、本願発明7も、本願発明1について(1)ウに示した理由と同じ理由で、引用文献2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。加えて、本願発明8は、当該本願発明7の核酸を含むベクターであるから、本願発明7と同じ理由で、引用文献2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)まとめ
(1)及び(2)のとおりであるから、本願発明1?8は、引用文献2?4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
そのため、査定理由2によって本願を拒絶することはできない。

第6 むすび
以上のとおり、本願を、原査定の拒絶理由である査定理由1及び査定理由2のいずれによって拒絶することはできない。また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-09-24 
出願番号 特願2016-500960(P2016-500960)
審決分類 P 1 8・ 113- WY (C07K)
P 1 8・ 121- WY (C07K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 佐藤 巌  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 小暮 道明
澤田 浩平
発明の名称 融合免疫調節タンパク質及びその生産方法  
代理人 江口 昭彦  
代理人 大貫 敏史  
代理人 内藤 和彦  
代理人 稲葉 良幸  

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