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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1355365
審判番号 不服2018-8075  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-12 
確定日 2019-09-19 
事件の表示 特願2014-175925「無針注射器」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 4月11日出願公開、特開2016- 49246〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)8月29日を出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年10月27日付け:拒絶理由通知書
平成30年 2月27日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年 3月 6日付け:拒絶査定
平成30年 6月12日 :審判請求書、同時に手続補正書の提出
平成30年 7月26日 :手続補正書(審判請求書)の提出
平成31年 5月30日 :上申書の提出

第2 平成30年6月12日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年6月12日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について(補正の内容)
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。)
「【請求項1】
注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、
前記無針注射器の本体であって、該本体の前方端面に設けられた開口部に繋がる摺動経路を該本体の内部に有する、注射器本体と、
前記摺動経路に摺動可能に配置された保持部であって、該保持部の前方端面に前記注射目的物質を放出可能に収容するように形成された凹部である収容部を有する保持部と、
前記摺動経路において前記開口部から所定距離離れた初期位置に前記注射器本体に対して固定されて配置された前記保持部に対して、該保持部を前記開口部に向かって摺動させるためのエネルギーを付与する駆動部と、
を備え、
前記摺動経路において前記保持部が前記開口部に当たりその摺動が阻害される当接位置にあるときに、前記開口部は、前記収容部と隣接した状態となり、且つ該収容部の該開口部側の端面領域が該開口部の開口領域に含まれて重なるように配置され、
前記収容部は、前記保持部の前記開口部に面した端面で、且つ該保持部の軸方向に貫通しないように形成され、
前記初期位置にある前記保持部に対して前記駆動部によりエネルギーが付与されると、前記注射器本体に対する固定が解除されて該保持部は前記摺動経路内を摺動し前記当接位置で前記開口部に当たることで、該開口部を介して前記収容部内の前記注射目的物質が射出される、
無針注射器。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の、平成30年2月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、
前記無針注射器の本体であって、該本体の前方端面に設けられた開口部に繋がる摺動経路を該本体の内部に有する、注射器本体と、
前記摺動経路に摺動可能に配置された保持部であって、該保持部の前方端面に前記注射目的物質を放出可能に収容するように形成された凹部である収容部を有する保持部と、
前記摺動経路において前記開口部から所定距離離れた初期位置に配置された前記保持部に対して、該保持部を前記開口部に向かって摺動させるためのエネルギーを付与する駆動部と、
を備え、
前記摺動経路において前記保持部が前記開口部に当たりその摺動が阻害される当接位置にあるときに、前記開口部は、前記収容部と隣接した状態となり、且つ該収容部の該開口部側の端面領域が該開口部の開口領域に含まれて重なるように配置され、
前記収容部は、前記保持部の前記開口部に面した端面で、且つ該保持部の軸方向に貫通しないように形成され、
前記初期位置にある前記保持部に対して前記駆動部によりエネルギーが付与されると、該保持部は前記摺動経路内を摺動し前記当接位置で前記開口部に当たることで、該開口部を介して前記収容部内の前記注射目的物質が射出される、
無針注射器。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「初期位置に配置された保持部」がどのような状態であり,また,「エネルギーが付与されると」その状態がどのようになるのかにつき上記のとおり限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が同条第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1)本件補正発明
本件補正発明は、上記1(1)に記載した事項により特定されるとおりのものである。

(2)引用文献の記載事項
ア 引用文献1
(ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、国際公開第02/07803号(以下「引用文献1」という。)には、図面とともに、次の記載がある。なお,日本語訳は当審で付したものである。

a 「This invention relates to needleless syringes for use in delivering a particle into target tissue of a subject. Said particle may, for example, comprise a drug, vaccine, diagnostic agent or carrier particle coated with a genetic material (or any combination thereof).」(第1頁第4?7行)
(日本語訳:本発明は、対象の標的組織に粒子を送達するのに使用するための無針注射器に関する。そのような粒子は、例えば、薬物、ワクチン、診断薬または遺伝物質でコーティングされた担体粒子(または、それらの任意の組み合わせ)を含む。)

b 「Fig. 1 shows a first embodiment of needleless syringe in accordance with the present invention, suitable for use in delivering a particle into target tissue of a subject.
The syringe comprises an elongate, tubular barrel 1 having an upstream end (to the left as drawn) and a downstream end and a polished central bore 6, for example of 10 mm diameter. The tubular barrel 1 may be made of metal, but is preferably moulded in a structural plastics material, for example polyurethane, polyethylene, polypropylene or other suitable plastics materials.
Slidably received in the region of the upstream end of the tubular barrel is a macroprojectile 2. This macroprojectile 2 has a downstream side (the right hand side as drawn) adapted to carry the particle (not shown) to be delivered. 」(第10頁第23行?第11頁第2行)
(日本語訳:図1は、対象の標的組織に粒子を送達する使用に適した、本発明に係る無針注射器の第1の実施形態を示す。
注射器は、上流側端部(図中左側)および下流側端部と例えば直径10mmの研磨された中心孔6を有する細長い管状バレル1からなる。管状バレル1は、金属製とすることができるが、構造用プラスチック材料、例えばポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、その他の適当なプラスチック材料で成型されるのが好ましい。
微小発射体2は、管状バレルの上流側端部の領域に摺動可能に収容されている。この微小発射体2は、送達される粒子(図示せず)を担持するように適した構成を下流側(図示の右側)に有する。)

c 「In the illustrated embodiment the exterior of the upstream end of the tubular barrel 1 is provided with a thread 3, to enable the tubular barrel 1 to be threadedly attached to a driver portion 4 defining therein a driver chamber 5. Other suitable attachments are, of course, also available such as snap-fit locks, luer-type locks, detents and the like. Once again, the driver portion 4 may be made of metal but is advantageously moulded in a structural plastics material. In order to provide a rush of pressurized gas from the driver chamber 5 into the upstream end of the bore 6 provided in the tubular barrel 1, in the illustrated embodiment a rupturable membrane 7 is sandwiched, around its periphery, between an annular spacer element 8 and the shoulder of a recess provided at the upstream end of the tubular barrel 1. The sandwiching pressure is provided by the action of screwthreading the driver portion 4 onto the threads 3 provided at the upstream end of the tubular barrel 1. The rupturable membrane 7 may be made of any suitable material, for example aluminium, polycarbonate, steel or Mylar and the construction of the rupturable membrane chosen to give the membrane a predetermined rupture pressure, i.e. pressure in the driver chamber 5, at which the membrane 7 will rupture. As will be described below, by changing the thickness and/or material type of the membrane 7 the rupture pressure of this membrane, and thus the particle delivery characteristics of the syringe, can be adjusted.
Attached to the driver portion 4 at its upstream end is an energy source for use in accelerating the macroprojectile 2 along the bore 6 of the barrel 1 in the downstream direction upon operation of the syringe. 」(第11頁第19行?第12頁第10行)
(日本語訳:図示の実施形態では、管状バレル1の上流側端部の外面は、ネジ山3を備え、これにより管状バレル1は、駆動室5を内部に形成する駆動部4に螺着することができる。他の適切な取付け具として、スナップ嵌合式ロック、ルアー型ロック、戻り止め等も、もちろん利用可能である。また、駆動部4は、金属製とすることができるが、構造用プラスチック材料で成形するのが好ましい。駆動室5から管状バレル1に設けられた中心孔6の上流側端部へ加圧ガスの噴流をもたらすために、図示された実施形態においては、破裂可能な膜7の周縁部が、管状バレル1の上流側端部に設けられる凹部の肩部と環状のスペーサ部材8の間に挟持される。挟持圧力は、駆動部4を管状バレル1の上流側端部に設けられたねじ山3にねじ込む作用によってもたらされる。破裂可能な膜7は、任意の適切な材料、例えば、アルミニウム、ポリカーボネート、鉄、またはマイラーで製造することができる。破裂可能な膜の構造は、膜に所定の破裂圧力,すなわち膜7が破裂する駆動室5内の圧力を付与する。以下に説明するように、膜7の厚さ及び/又は材料の種類を変更することによって、この薄膜の破裂圧力、すなわち注射器の粒子送達特性を調整することができる。
注射器の動作時に、微小発射体2を管状バレル1の中心孔6に沿って下流方向に加速する際に使用するためのエネルギー源が,駆動部4の上流端部に装着されている。)

d 「A macroprojectile arresting device 11 is provided at the downstream end of the tubular barrel 1. In the illustrated embodiment this device 11 takes the form of a relatively rigid annular stopping plate and an annular cushioning plate 13 to be compressed by the stopping plate upon macroprojectile impact. Both the stopping plate 12 and the cushioning plate 13 define a central aperture therein for the passage therethrough of the particle carried by the macroprojectile, the size of this central aperture being smaller than the diameter of the macroprojectile 2.」(第12頁第27行?第13頁第2行)
(日本語訳:管状バレル1の下流側端部に微小発射体拘束装置11が設けられる。図示の実施形態では、この装置11は、比較的剛性のある環状停止板と、環状のクッションプレート13の形態をとり、環状のクッションプレート13は微小発射体が衝突の際に停止版により圧縮される。停止板12とクッショングプレート13の両方は、微小発射体2によって運ばれる粒子が通過するための中央開口を規定し、この中心開口の直径は微小発射体2の直径よりも小さい。)

e 「In order to facilitate delivery of the particle on the downstream side of the macroprojectile 2, the downstream side of a macroprojectile may be provided with some means for affecting particle retention. For example, the downstream side of the macroprojectile 2 might be provided with one or more topographical features to selectively retain a particle thereon, in the manner disclosed in International Patent Application No. PCT/GB00/00932, the contents of which are hereby incorporated by way of reference. Such topographical features may comprise a plurality of bristles extending therefrom generally in the downstream direction. Figures 2 A and 2B show a macroprojectile whose downstream side is provided with three integrally moulded sets of bristles 20, the bristles of each set being arranged approximately in a circle.」(第13頁第23行?第14頁第1行)
(日本語訳:微小発射体2の下流側の粒子の送達を容易にするために、微小発射体の下流側は、粒子保持のための何らかの手段を設けることができる。例えば、国際特許出願第PCT/GB00/00932に開示されているように、微小発射体2の下流側は、その上に粒子を選択的に保持するための1つ以上の形態的特徴を備えたものであるが、その内容が本明細書に参照として組み込まれてもよい。このような形態的特徴は、一般に、下流方向に延在する複数の剛毛を含む。図2Aおよび2Bは、3個の一体成形された剛毛セット20が設けられた微小発射体の下流側を示しており、各々の剛毛セット20は、ほぼ円形に配置されている。)

f 「Fig.1.



g 「Fig.2A.



h 「Fig.2B.



(イ)上記記載から、引用文献1には、次の技術的事項が記載されているものと認められる。
a 「本発明は、対象の標的組織に粒子を送達するのに使用するための無針注射器に関する。」((ア)a)という記載から、引用文献1に記載された技術は、注射針を介することなく、粒子を対象の標的組織生体に注射する無針注射器に関するものである。

b 「注射器は、上流側端部(図中左側)および下流側端部と例えば直径10mmの研磨された中心孔6を有する細長い管状バレル1からなる。」((ア)b)、「管状バレル1の下流側端部に微小発射体拘束装置11が設けられる。」((ア)d)という記載およびFig.1.の記載から、引用文献1には、無針注射器の管状バレル1であって、該管状バレル1の下流側端部に設けられた微小発射体拘束装置11の中央開口に繋がる中心孔6を該管状バレル1の内部に有する、管状バレル1が記載されているといえる。

c 「微小発射体2は、管状バレルの上流側端部の領域に摺動可能に収容されている。この発射体2は、送達される粒子(図示せず)を担持するように適した構成を下流側(図示の右側)に有する。」((ア)b)、「図2Aおよび2Bは、3個の一体成形された剛毛セット20が設けられた微小発射体の下流側を示しており、各々の剛毛セット20は、ほぼ円形に配置されている。」((ア)e)という記載およびFig.1.、Fig.2A.B.の記載から、引用文献1には、中心孔6に摺動可能に配置された微小発射体2であって、該微小発射体2の下流側の面に粒子を放出可能に収容するように形成された剛毛セット20を有する微小発射体2が記載されているといえる。

d 「微小発射体2は、管状バレルの上流側端部の領域に摺動可能に収容されている。この発射体2は、送達される粒子(図示せず)を担持するように適した構成を下流側(図示の右側)に有する。」((ア)b)、「注射器の動作時に、微小発射体2を管状バレル1の中心孔6に沿って下流方向に加速する際に使用するためのエネルギー源が,駆動部4の上流端部に装着されている。」((ア)c)という記載、およびFig.1.において、微小発射体2が、初期の位置として微小発射体拘束装置11の中央開口から離れた位置に配置されているのが看取できるので、引用文献1には、前記中心孔6において前記微小発射体拘束装置11の中央開口から離れた初期位置に配置された該微小発射体2に対して、該微小発射体2を前記微小発射体拘束装置11の中央開口に向かって摺動させるためのエネルギーを付与する駆動部4が記載されているといえる。

e 「管状バレル1の下流端に微小発射体拘束装置11が設けられる。図示の実施形態では、この装置11は、比較的剛性のある環状停止板と、環状のクッションプレート13の形態をとり、環状のクッションプレート13は微小発射体が衝突の際に停止版により圧縮される。停止板12とクッショングプレート13の両方は、微小発射体2によって運ばれる粒子が通過するための中央開口を規定し、この中心開口の直径は微小発射体2の直径よりも小さい。」((ア)d)という記載およびFig.1.、Fig.2A.B.の記載からから、引用文献1には、中心孔6において微小発射体2が微小発射体拘束装置11の中央開口に当たりその摺動が阻害される当接位置にあるときに、微小発射体拘束装置11の中央開口は、剛毛セット20と隣接した状態となり、且つ該剛毛セット20の該開口部側の端面領域が該微小発射体拘束装置11の中央開口の開口領域に含まれて重なるように配置されていることが記載されているといえる。

f 「図2Aおよび2Bは、3個の一体成形された剛毛セット20が設けられた微小発射体の下流側を示しており、各々の剛毛セット20は、ほぼ円形に配置されている。」((ア)e)およびFig.2A.B.の記載から、引用文献1には、剛毛セット20は、微小発射体2の微小発射体拘束装置11の中央開口に面した端面で、且つ該微小発射体2の軸方向に貫通しないように形成されていることが記載されているといえる。

g 「管状バレル1の下流端に微小発射体拘束装置11が設けられる。図示の実施形態では、この装置11は、比較的剛性のある環状停止板と、環状のクッションプレート13の形態をとり、環状のクッションプレート13は微小発射体が衝突の際に停止版により圧縮される。停止板12とクッショングプレート13の両方は、微小発射体2によって運ばれる粒子が通過するための中央開口を規定し、この中心開口の直径は微小発射体2の直径よりも小さい。」((ア)d)という記載およびFig.1.、Fig.2A.B.の記載からから、引用文献1には、前記初期位置にある前記微小発射体2に対して前記駆動部4によりエネルギーが付与されると、前記微小発射体2は前記中心孔6内を摺動し前記当接位置で前記微小発射体拘束装置11の中央開口に当たることで、該微小発射体拘束装置11の中央開口を介して前記剛毛セット20内の前記粒子が射出されることが記載されているといえる。

(ウ)上記(ア)、(イ)から、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「注射針を介することなく、粒子を対象の標的組織生体に注射する無針注射器であって、
前記無針注射器の管状バレル1であって、該管状バレル1の下流側端部に設けられた微小発射体拘束装置11の中央開口に繋がる中心孔6を該管状バレル1の内部に有する、管状バレル1と、
前記中心孔6に摺動可能に配置された微小発射体2であって、該微小発射体2の下流側の面に前記粒子を放出可能に収容するように形成された剛毛セット20を有する微小発射体2と、
前記中心孔6において前記微小発射体拘束装置11の中央開口から離れた初期位置に配置された該微小発射体2に対して、該微小発射体2を前記微小発射体拘束装置11の中央開口に向かって摺動させるためのエネルギーを付与する駆動部4と、
を備え、
前記中心孔6において前記微小発射体2が前記微小発射体拘束装置11の中央開口に当たりその摺動が阻害される当接位置にあるときに、前記微小発射体拘束装置11の中央開口は、前記剛毛セット20と隣接した状態となり、且つ該剛毛セット20の該開口部側の端面領域が該微小発射体拘束装置11の中央開口の開口領域に含まれて重なるように配置され、
前記剛毛セット20は、前記微小発射体2の前記微小発射体拘束装置11の中央開口に面した端面で、且つ該微小発射体2の軸方向に貫通しないように形成され、
前記初期位置にある前記微小発射体2に対して前記駆動部4によりエネルギーが付与されると、前記微小発射体2は前記中心孔6内を摺動し前記当接位置で前記微小発射体拘束装置11の中央開口に当たることで、該微小発射体拘束装置11の中央開口を介して前記剛毛セット20内の前記粒子が射出される、
無針注射器。」

(3)引用発明との対比
ア 本件補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)本件補正発明と引用発明とを対比すると,その構造または機能からみて,引用発明の「粒子」は,本件補正発明の「注射目的物質」に相当し,以下同様に,「対象の標的組織生体」は「生体の注射対象領域」に,「管状バレル1」は「無針注射器の本体」に,「下流側端部」は本体の「前方端面」に,「微小発射体拘束装置11の中央開口」は「開口部」に,「中心孔6」は「摺動経路」に,「微小発射体2」は「保持部」に,「下流側の面」は保持部の「前方端面」に,「駆動部4」は「駆動部」に,それぞれ相当する。

(イ)本件補正発明の「凹部である収容部」と,引用発明の「剛毛セット20」とは,「収容部」という限りにおいて共通する。

(ウ)本件補正発明の「前記開口部から所定距離離れた初期位置に前記注射器本体に対して固定されて配置された前記保持部」と,引用発明の「前記中心孔6において前記微小発射体拘束装置11の中央開口から離れた初期位置に配置された該微小発射体2」とは,「前記開口部から離れた初期位置に前記注射器本体に対して配置された前記保持部」という限りにおいて共通する。

(エ)本件補正発明の「前記駆動部によりエネルギーが付与されると、前記注射器本体に対する固定が解除されて該保持部は前記摺動経路内を摺動し」と,引用発明の「前記駆動部4によりエネルギーが付与されると、前記微小発射体2は前記中心孔6内を摺動し」とは,「前記駆動部によりエネルギーが付与されると、該保持部は前記摺動経路内を摺動し」という限りにおいて共通する。

イ 以上のことから、本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、
前記無針注射器の本体であって、該本体の前方端面に設けられた開口部に繋がる摺動経路を該本体の内部に有する、注射器本体と、
前記摺動経路に摺動可能に配置された保持部であって、該保持部の前方端面に前記注射目的物質を放出可能に収容するように形成された収容部を有する保持部と、
前記摺動経路において前記開口部から離れた初期位置に配置された前記保持部に対して、該保持部を前記開口部に向かって摺動させるためのエネルギーを付与する駆動部と、
を備え、
前記摺動経路において前記保持部が前記開口部に当たりその摺動が阻害される当接位置にあるときに、前記開口部は、前記収容部と隣接した状態となり、且つ該収容部の該開口部側の端面領域が該開口部の開口領域に含まれて重なるように配置され、
前記収容部は、前記保持部の前記開口部に面した端面で、且つ該保持部の軸方向に貫通しないように形成され、
前記初期位置にある前記保持部に対して前記駆動部によりエネルギーが付与されると、該保持部は前記摺動経路内を摺動し前記当接位置で前記開口部に当たることで、該開口部を介して前記収容部内の前記注射目的物質が射出される、
無針注射器。」

【相違点1】
「収容部」について、本件補正発明は、「凹部である収容部」であるのに対し、引用発明は、「剛毛セット20」である点。

【相違点2】
「保持部」について,本件補正発明は,「前記開口部から所定距離離れた初期位置に前記注射器本体に対して固定されて配置された前記保持部」であって,駆動部によりエネルギーが付与されると、「前記注射器本体に対する固定が解除されて該保持部は前記摺動経路内を摺動」するものであるのに対して,引用発明は「所定距離離れた初期位置に注射器本体に対して固定されて配置され」ているか,また,「注射器本体に対する固定が解除され」るものか否か不明な点。

(4)判断
以下、相違点について検討する。
ア 相違点1について
一般的に,「カタパルト」は,「高速で物体を投げ出す機械または装置」を意味する(必要であれば,マグローヒル科学技術用語大辞典第3版295頁参照。)ものであるところ,引用発明は,「初期位置にある微小発射体2に対して駆動部4によりエネルギーが付与されると,微小発射体2は中心孔6内をに摺動し当接位置で微小発射体拘束装置11の中央開口に当たることで,該微小発射体拘束装置11の中央開口を介して剛毛セット20内の粒子が射出される」構造を有する,粒子を標的組織生体に注射する無針注射器であるから,カタパルト式の射出形態を有するものである。
そして,一般的に収容部として凹部形状を採用することは様々な技術分野において周知技術であり,また,生体組織に物質を注入するカタパルト式の射出形態の注入器において、保持部の収容部を凹部形状とすることは公知技術である(例えば、米国特許第5371015号明細書の第8欄第52行?第9欄第2行、FIG.8a、FIG.8bにおける、「微小発射体50」(「保持部」に相当)と「前方キャビティ53」(「凹部形状の収容部」に相当)を参照)。
そして,カタパルト式の射出形態である引用発明の収容部は、保持部の前方端面から進行方向に突出する剛毛セット20から構成されることで,保持部が開口部に衝突した時に,進行方向に射出目的物質を射出するための機能を果たすための構成となっているところ,同様の機能を果たすための収容部の構成として進行方向に射出目的物質を射出することが可能な凹部を選択することは,当業者が適宜なし得ることである。
してみると、引用発明の無針注射器において、保持部の収容部を凹部とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
引用文献1の「微小発射体2は、管状バレルの上流側端部の領域に摺動可能に収容されている。」((2)ア(ア)b)という記載,「注射器の動作時に、微小発射体2を管状バレル1の中心孔6に沿って下流方向に加速する際に使用するためのエネルギー源が,駆動部4の上流端部に装着されている。」((2)ア(ア)c)という記載と,Fig.1における微小発射体2の収容状態とを総合してみて,駆動部4の作動前において,微小発射体2は,Fig.1に記載されているように管状バレル1の上流側端部の領域に適宜の手段により固定され,駆動部4の作動時において,その固定が解除されて,管状バレル1の中心孔6に沿って下流方向に加速すると認められる。
仮に,駆動部の作動前において,微小発射体2が管状バレル1と上記した適宜の手段による固定がされずに下流方向に動くような構成だとすると,上記したカタパルト式の射出形態を有する無針注射器としての機能を果たすことができないことになり不適当である。
また,引用発明の「微小発射体2」は「中心孔6の上流側端部領域」に配置されるものであるところ,開口部から常に一定の距離離れた位置に配置されているか否か不明である。しかし,引用文献1のFig.4.の実施例においては,微小発射体32を備えたカートリッジ44を注射器本体31の決められた場所にセットされるのであるから,微小発射体32が開口部から常に一定の距離離れた位置に配置されるものであることと,引用発明がカタパルト式の射出形態を有することとを鑑みると,引用発明においても,「微小発射体2」は「中心孔6の上流側端部領域」の決められた位置に配置されると認められる。
以上から,上記相違点2は実質的な相違点ではない。

また,仮に相違点2が実質的な相違点であるとしてみても,爆発式駆動装置を備えた無針式注射装置において、ピストンと一体的な推進表面体を、ハウジング内において初期位置にロックすることにより、装置が動いたときに推進表面体が意図せず移動してしまうことを防止する構成は公知技術(特表2004-500933号公報(特に、請求項2、段落【0013】-【0014】参照)である。してみると、当該公知技術をカタパルト式の射出形態を有する引用発明に適用し、上記相違点2に係る構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。

ウ そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本件補正発明の奏する作用効果は、引用発明の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

エ したがって、本件補正発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年2月27日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1に係る発明は、本願の出願前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の引用文献1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:国際公開第02/07803号

3 引用文献
原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1及びその記載事項は、前記第2の[理由]2(2)に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記注射器本体に対して固定されて」及び「前記注射器本体に対する固定が解除されて」に係る限定事項を削除したものである。
そうすると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]2(3)、(4)に記載したとおり、引用発明及び引用文献2に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-07-10 
結審通知日 2019-07-16 
審決日 2019-08-05 
出願番号 特願2014-175925(P2014-175925)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 芝井 隆  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 寺川 ゆりか
林 茂樹
発明の名称 無針注射器  
代理人 今堀 克彦  
代理人 佐貫 伸一  
代理人 丹羽 武司  
代理人 菅家 博英  

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