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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B29C
管理番号 1355753
審判番号 不服2019-3199  
総通号数 239 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2019-11-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-07 
確定日 2019-10-29 
事件の表示 特願2015- 41031「三次元造形装置、製造方法およびコンピュータープログラム」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月 5日出願公開、特開2016-159536、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成27年3月3日の出願であって、平成30年9月6日付けで拒絶理由通知がされ、同年11月8日に意見書が提出され、同年12月6日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされ、これに対し、平成31年3月7日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の理由の概要
原査定の理由の概要は次のとおりである。

本願請求項1-8に係る発明は、以下の引用文献に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2004-230895号公報
2.特開2010-149326号公報
3.特開2005-88432号公報

なお、本願の請求項1、7、8に係る発明については、引用文献1を主引用例とし、引用文献2を副引用例としている。


第3 本願発明
本願の請求項1-8に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」-「本願発明8」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1-8に記載された事項により特定される発明であり、そのうち、いわゆる独立請求項である請求項1、7、8に係る発明は以下のとおりである。

「【請求項1】
断面体をZ方向に複数積層して三次元の物体を造形する三次元造形装置であって、
前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子毎に、前記物体の材料となる液体を吐出して前記物体を造形するヘッド部と、
前記ヘッド部を制御する制御部と、を備え、
前記単位格子は、前記Z方向に並ぶ複数の副単位格子を有し、
前記ヘッド部は、無彩色液体と、複数種類の有彩色液体とを、それぞれ、指定された量、前記各副単位格子内に吐出可能であり、
前記制御部は、前記ヘッド部を制御して、前記各副単位格子に対して、前記複数種類の有彩色液体のうち、いずれかの有彩色液体を指定した量、吐出させた場合に、前記副単位格子の空間体積が満たされない場合には、前記有彩色液体に加えて、前記無彩色液体を前記副単位格子に吐出させて、前記副単位格子の空間体積を満たす、
三次元造形装置。」

「【請求項7】
断面体をZ方向に複数積層して三次元の物体を造形する三次元造形装置によって三次元の物体を製造する製造方法であって、
前記三次元造形装置は、前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子毎に、前記物体の材料となる液体を吐出して前記物体を造形するヘッド部を備え、
前記単位格子は、前記Z方向に並ぶ複数の副単位格子を有し、
前記ヘッド部は、無彩色液体と、複数種類の有彩色液体を、それぞれ、指定された量、前記各副単位格子内に吐出可能であり、
前記ヘッド部を制御して、前記各副単位格子に対して、前記複数種類の有彩色液体のうち、いずれかの有彩色液体を指定した量、吐出させた場合に、前記副単位格子の空間体積が満たされない場合には、前記有彩色液体に加えて、前記無彩色液体を前記副単位格子に吐出させて、前記副単位格子の空間体積を満たす、
製造方法。」

「【請求項8】
断面体をZ方向に複数積層して三次元の物体を造形する三次元造形装置をコンピューターが制御して三次元の物体を製造するためのコンピュータープログラムであって、
前記三次元造形装置は、前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子毎に、前記物体の材料となる液体を吐出して前記物体を造形するヘッド部を備え、
前記単位格子は、前記Z方向に並ぶ複数の副単位格子を有し、
前記ヘッド部は、無彩色液体と、複数種類の有彩色液体を、それぞれ、指定された量、前記各副単位格子内に吐出可能であり、
前記ヘッド部を制御して、前記各副単位格子に対して、前記複数種類の有彩色液体のうち、いずれかの有彩色液体を指定した量、吐出させた場合に、前記副単位格子の空間体積が満たされない場合には、前記有彩色液体に加えて、前記無彩色液体を前記副単位格子に吐出させて、前記副単位格子の空間体積を満たす機能、
をコンピューターに実現させるためのコンピュータープログラム。」

なお、本願発明2ないし6は、何れも請求項1を直接又は間接的に引用する従属項に係る発明である。


第4 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
引用文献1には、次の事項が記載されている。(下線は合議体が付したものである。なお、引用文献2、3においても同様。)

「【請求項26】
電子データから所望物体を製造するための三次元自由造形システムであって、
作製室と、
該作製室内で吐出される材料の連続的な層を分布させ、それによって前記物体を形成する可動ステージと
を備えており、前記可動ステージは、前記作製室内へ吐出される可変密度の材料を前記物体の段丘形成層の間の移行領域で前記物体の単一層内に吐出することを特徴とする三次元自由造形システム。」

「【請求項36】
三次元自由造形によって製造される物体の層を表すデータセットを処理する方法であって、
前記層をサブ層に分割すること、及び
層間の所定条件が満たされる時、前記サブ層に対してサブボクセルの加算または減算を自動的に行うこと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項37】
前記物体の対応する層を形成するために吹き付けられる吐出材料の量を変化させることによって、加算または減算サブボクセルを表すことをさらに含むことを特徴とする、請求項36に記載の方法。」

「【0001】
本発明は、三次元自由造形に関する。」

「【0015】
本発明は、三次元自由造形において、効率よく滑らかな輪郭を持つ物体を製造する方法を提供する。」

「【0019】
本明細書は、上記段丘形成効果を軽減しながら、好ましくは流体吐出技術を使用した三次元自由造形システムによって物体を形成する技法を記載する。本明細書及び添付の特許請求の範囲に使用される時、「吐出材料」という用語は、幅広い意味で使用されて、製造中の物体の一部の着色、結合または形成を行うために流体吐出ヘッドによって吐出される任意の物質を意味する。したがって、「吐出材料」には、制限的ではないが、インク、着色剤、トナー、バインダー、構成材料及び支持材料が含まれる。「インク」という用語は、自由造形システムにおける物体または構成材料に着色するための任意の材料を意味するために使用される。「インク」は、制限的ではないが、インク、印刷流体(printing fluid)、トナー、着色剤などを含む。「バインダー」という用語は、接着剤か、あるいは構成材料を選択的に互いに結合して所望の製品にするために吐出される任意の他の物質である。「構成材料」は、自由造形システムが所望の製品を形成できるようにする任意の材料であり、粉末状構成材料か、または噴射構成材料、たとえば、噴射ポリマーを含むことができる。「ボクセル」という用語は、x、y及びz座標に長さを有するアドレス指定可能な体積である体積ピクセル(volumetric pixel)のことである。「サブボクセル」という用語は、ボクセルのサブセットのことであり、ボクセルは多くのサブボクセルによって構成される。 たとえば、1つのボクセルを3軸すべてで半分に分割すると、8個のサブボクセルが生じるであろう。サブボクセルからなるボクセルは、スーパーボクセルと呼ぶこともできる。また、「小さい」及び「大きい」という用語は、互いの相対的な大きさを表し、いずれかの特定の寸法、体積、質量または形状を表すことはない。」

「【0020】
次に図面を参照すると、特に図2では、液体吐出技術を使用した1つの三次元自由造形システムが記載されている。本発明の実施形態は、図示の自由造形システムに組み込まれることができる。上述したように、自由造形システムは、バインダー噴射システム、またはバルク噴射システムでもよい。簡単にするために、ここではバインダー噴射システムの場合で図2の三次元自由造形システム(200)を説明する。
【0021】
図2の三次元自由造形システム(200)では、バルク粉末物質(bulk powder substance)などの構成材料を使用して、所望物体の個々の層が形成される。各層を形成するために、一定量の粉末が供給室から与えられる。好ましくは可動ステージ(203)内に組み込まれたローラが、作製室(202)の上部で粉末を分散させて所望厚さまで圧縮する。
【0022】
1つの液体吐出装置(たとえば、ドロップオンデマンド液滴吐出装置(drop-on-demand liquid ejection apparatus)など)を三次元自由造形システム(200)の可動ステージ(203)内に収容することができる。あるいは、三次元自由造形システム(200)は、多数の液体吐出装置を備えて、その各々が個別に1つまたは複数の吐出流体を収容してもよい。一部の実施形態によれば、プリントヘッドを可動ステージ(203)から分離させてもよい。
【0023】
可動ステージ(203)が粉末を分配してから、流体吐出装置が接着剤またはバインダーを作製室(202)内の粉末上に二次元パターンで付着させる。この二次元パターンは、作製中の所望物体の横断面である。
【0024】
別法として、流体吐出装置が噴射ポリマーなどの構成材料を選択的に付着させて、所望製品または所望製品の横断面を形成することもできる。バインダーまたは構成材料は、インク、トナーまたは他の製品で着色して、所望製品の個々の横断面に所望の色または色パターンを設けてもよい。
【0025】
バインダーを粉末状構成材料内で用いている場合、バインダーを付着させた領域内で粉末が結合し、それによって所望製品の三次元層が形成される。作製室(202)内で新しい粉末層を前の層の上部に吹き付けるようにして、この処理が繰り返される。次に、新しい粉末層にバインダーを吐出することによって、所望製品の次の横断面を形成することができる。作製中の製品の各横断面層を形成するのに加えて、接着バインダーは隣接または連続層を互いに結合することもできる。
【0026】
バインダーを粉末状構成材料内に吐出するか、流体構成材料を吐出する場合のいずれでも、所望物体が作製室(202)内で完全に形成されるまで、処理が継続する。結合しない余剰粉末、または吐出された支持材料をすべて除去することができ、作製された物体だけが残る。ユーザが製造工程を制御できるように、ユーザインターフェースまたは操作盤(204)が設けられている。
【0027】
三次元自由造形システム(200)の可動ステージ(203)は、所望物体の層の形成または着色用に材料を吐出するために、インクジェット技術、たとえば、ドロップオンデマンド液滴吐出装置を備える場合が多い。ドロップオンデマンド滴技術(drop-on-demand technology)を用いる場合、可動ステージ(203)は、作製中の物体を形成するために、透明または着色材料滴を選択パターンで吐出するための(上述したような)1つまたは複数のドロップオンデマンドプリントヘッドを含むことができる。
【0028】
粉末状構成材料内へのバインダーの選択的吐出を使用する自由造形システムの例では、作製中の物体の層を形成しようとする構成材料の各単位体積に均一量のバインダーを吐出することが一般的なやり方であった。本明細書で使用する時の「濃度」という用語とは、構成材料の単位体積に添加するバインダーの量のことである。本明細書に開示されている原理によれば、構成材料の単位体積に添加されるバインダーの濃度は変化することができる。
【0029】
たとえば、従来型自由造形処理は、物体層のすべての位置の1平方ミリメートル当たり一定量のバインダーを吐出することができる。それから、バインダーは均一にある量の構成材料に染み込んでそれを結合する。あるいは、従来型システムは、物体層のすべての位置で一定量の構成材料を吐出することができる。本明細書に開示されている原理によれば、物体層全体に添加されるバインダーまたは構成材料の量を変化させて、段丘形成効果を軽減することができる。」

「【0053】
本明細書で記載するRET方法は、概念的には分解能エンハンスメント技法(たとえば、参照によって本明細書に援用される米国特許第5,650,858号)を含む書き込みシステムに似ている。しかし、Z軸分解能エンハンスメント技法(ZRET)の場合、エンハンスメントはZ方向である。
【0054】
制御コンピュータから三次元自由造形システム(200、図2)へのデータ転送速度の制約のため、あるいは(たとえば、ラスタ化、カラーマッピングまたはハーフトーン中の)システム(100、図1)自体内部でのデータ転送限界から、ZRETの1つの適用例は、高分解能物体データセットを低分解能データ転送で送出することを含む。
【0055】
多くの三次元図面パッケージは、高速プロトタイピング用のファイル(STLが高速プロトタイピング用の一般的なファイルフォーマットである)、あるいは、インターネット用のファイル(VRMLがインターネット用の一般的なファイルフォーマットである)の作成時に、データセットを自動的に妥協させる。低分解能データセットは、ファイル圧縮の結果として段丘形成効果を誇張するであろう。したがって、段丘形成効果を自動的に軽減するために、ZRETを適用することができる。しかし、ZRETは、任意のデータセットに、また、物体表面をさらに改善するために高分解能のデータセットにも使用することができる。上記ZRET技法を実行することによって、大幅なデータの節減を行うことができるが、ZRETはデータ圧縮に制限されない。ZRETは、任意の三次元自由造形データセットをさらに向上させるために使用することができる。
【0056】
図6a?図6dを参照すると、1つのZRETの説明が示されている。図6aは、物体(600)の低分解能ボクセルデータ表示を示す。図6aの物体(600)は、第1、第2及び第3層(602、604、606)を含み、これらはそれぞれ高さが1ボクセルである)。3層の間の段は非常に目立ち、粗く個別に見える層を生じるであろう。したがって、上記ZRET技法によれば、三次元自由造形システム(200、図2)は、低分解能データセットに伴う段丘形成効果を自動的に軽減するようにプログラムすることができる。たとえば、3層(602/604/606)を自動的にスライスして、図6bに示されているようなサブ層にすることができる。任意数のサブ層を形成することができるが、図6bの例示的実施形態は、各層(602/604/606)に対して2つのサブ層(a及びb)だけを示す。
【0057】
三次元自由造形システム(200)は次に、任意の所定パラメータに従って、層またはサブ層から一定のサブボクセルを加算または減算することができる。システム(200)は、親ボクセルに対して一定のサブボクセルを加算するか、減算するか、あるいは否かを決定するために、段丘に関するデータを考慮に入れるようにプログラムすることができる。たとえば、図6cの実施形態によれば、第1及び第2サブボクセル(608及び610)を第1及び第2層(606及び604)のサブ層(b)に加え、第3サブボクセル(612)を第2層(604)のサブ層(a)から削除する。したがって、一定のサブボクセルの加算及び/または減算によって、段丘形成効果が軽減され、結果的に図6dに示された最終物体(600)が得られる。
【0058】
三次元自由造形システム(200、図2)は、所定のパラメータでプログラムされて、それにより、層間の段丘形成部を測定して、層間のパラメータが満たされる時、一定層の一定サブボクセルを加算または減算する。それにより、薄い層を詳述する追加データを必要としないで、結果的に得られる物体(600)の分解能が大幅に向上するであろう。また、上述したように、高分解能データセットでも、ZRETを実行して物体の一定サブボクセルを加算または減算することによって、さらに向上させることができる。場合によってはZRETの実行によってデータの節減を行うことができるが、ZRETは、データの節減または圧縮をまったく行わないで、得られる物体の分解能を向上させるためだけに適用することもできる。」





















以上の記載を総合すると、引用文献1には次の発明が記載されていると認める。

「所望物体の層を複数積層して三次元の物体を造形する三次元自由造形システムであって、
x、y及びz座標に長さを有するアドレス指定可能な体積であるボクセル毎に所望の色に着色した接着剤またはバインダーを吐出し製品の三次元層を形成する流体吐出装置と、
前記流体吐出装置を制御する制御コンピュータと、を備え、
前記ボクセルは、高さ方向にスライスされたサブボクセルを有し、
三次元自由造形システムは、層間の段丘形成部を測定して、層間のパラメータが満たされる時、一定層の一定サブボクセルを加算または減算し、液体吐出装置から吐出するバインダーまたは構成材料の量を変化させる、
三次元自由造形システム。」(以下、「引用文献1システム発明」という。)

「所望物体の層を複数積層して三次元の物体を造形する三次元自由造形システムによって、三次元の物体を製造する製造方法であって、
上記システムは、x、y及びz座標に長さを有するアドレス指定可能な体積であるボクセル毎に所望の色に着色した接着剤またはバインダーを吐出し製品の三次元層を形成する流体吐出装置と、
前記流体吐出装置を制御する制御コンピュータと、を備え、
前記ボクセルは、高さ方向にスライスされたサブボクセルを有しており、
層間の段丘形成部を測定して、層間のパラメータが満たされる時、一定層の一定サブボクセルを加算または減算し、液体吐出装置から吐出するバインダーまたは構成材料の量を変化させる、
製造方法。」(以下、「引用文献1製法発明」という。)

「所望物体の層を複数積層して三次元の物体を造形する三次元自由造形システムをコンピュータが制御して三次元の物体を製造するためのコンピュータプログラムであって、
上記システムは、x、y及びz座標に長さを有するアドレス指定可能な体積であるボクセル毎に所望の色に着色した接着剤またはバインダーを吐出し製品の三次元層を形成する流体吐出装置と、
前記流体吐出装置を制御する制御コンピュータと、を備え、
前記ボクセルは、高さ方向にスライスされたサブボクセルを有しており、
層間の段丘形成部を測定して、層間のパラメータが満たされる時、一定層の一定サブボクセルを加算または減算し、液体吐出装置から吐出するバインダーまたは構成材料の量を変化させる機能、
をコンピュータに実現させるためのコンピュータプログラム。」(以下、「引用文献1プログラム発明」という。)

2.引用文献2について
引用文献2には、次の事項が記載されている。

「【請求項1】
中間転写体と、
外部からの刺激により硬化する硬化性樹脂を少なくとも含む硬化性溶液を前記中間転写体上に供給する供給手段と、
前記供給手段によって前記硬化性溶液が前記中間転写体上に供給されることにより該中間転写体上に形成された硬化性溶液層にインクを吐出する第1の吐出手段と、
前記硬化性溶液層に硬化性溶液層表面凹凸調整液を吐出する第2の吐出手段と、
前記インク及び前記硬化性溶液層表面凹凸調整液の吐出された前記硬化性溶液層を記録媒体に接触させ、前記中間転写体から前記記録媒体に前記硬化性溶液層を転写する転写手段と、
前記硬化性溶液層を硬化させる前記刺激を前記硬化性溶液層に供給する刺激供給手段と、
画像データに基づいて、該画像データの画像の各画素に応じたドットを記録するためのインクを吐出するように前記第1の吐出手段を制御すると共に、該インクの吐出によって前記硬化性溶液層上に形成される画像領域以外の非画像領域に前記硬化性溶液層表面凹凸調整液を吐出するように前記第2の吐出手段を制御する制御手段と、
を備えた記録装置。」

「【0006】
本発明は、中間転写体から記録媒体への硬化性溶液層の転写における密着性と、画像乱れの抑制と、の双方の実現された記録装置を提供することを目的とする。」

「【0186】
?硬化性溶液層表面凹凸調整液?
以下、硬化性溶液層表面凹凸調整液の詳細について説明する。
硬化性溶液層表面凹凸調整液としては、上述のように、インク液14Aによって形成される画像領域Tの色相に影響を与えない色相であり(例えば、白色や透明等)被硬化層12Bに吐出することで該被硬化層12Bの表面凹凸状態を調整する液体であればよいが、好ましくは、被硬化層12Bの硬化性溶液層表面凹凸調整液15Aに対する膨潤度が、被硬化層12Bのインク滴14Aに対する膨潤度と、同じであることが好ましい。」

「【0229】
硬化性溶液層表面凹凸調整液データ作成部41において上記ステップ200?ステップ224の処理が実行されることで硬化性溶液層表面凹凸調整液データが作成される。
そして、上述のように、画像記録部40において、記録データ作成部42で作成されたYMCKの記録データに従って、各色インクジェット記録ヘッド14のノズルからインク滴14Aが吐出されることで、被硬化層12B上には形成対象の画像の画素に応じたドットが形成されて画像領域Tが形成される。
そして、該被硬化層12B上の画像領域T、及び画像領域T以外の非画像領域Bの双方に、記録データ作成部42に設けられた硬化性溶液層表面凹凸調整液データ作成部41で作成された硬化性溶液層表面凹凸調整液データに従って、硬化性溶液層表面凹凸調整液吐出ヘッド15のノズルから硬化性溶液層表面凹凸調整液15Aが、上記ステップ222で設定された吐出量X吐出される。
【0230】
このため、図9に示すように中間転写ベルト10上に形成された被硬化層12B上の、インク滴14Aの吐出によって形成された画像領域T及び非画像領域Bの各々の各画素に対応する各領域には、吐出されるインク滴14A及び硬化性溶液層表面凹凸調整液15Aの総量が画像領域Tのインク最大吐出量Mとなるように、インク滴14A、またはインク滴14A及び硬化性溶液層表面凹凸調整液15Aが吐出されることとなる。
【0231】
この被硬化層12Bのインク滴14A及び硬化性溶液層表面凹凸調整液15Aの吐出された領域は、中間転写ベルト10の回動によって転写装置16の設けられた位置に達すると、上述のように、加圧ロール16A及び16Bによって挟み込んで圧力をかけられて、その後、支持ロール10C及び支持体22によって挟まれた位置(剥離位置)までは、被硬化層12Bが中間転写ベルト10及び記録媒体Pの両方に接触した状態が維持される。そして、刺激供給装置18によって、中間転写ベルト10及び記録媒体Pの両方に接触した状態の被硬化層12Bに、中間転写ベルト10を介して刺激が供給されることで、被硬化層12Bが硬化する。そして、剥離位置において被硬化層12Bが中間転写ベルト10から剥離されることにより、インク滴14Aによる画像領域Tの形成された硬化性樹脂層(画像層)が記録媒体Pに形成される。」





3.引用文献3について
引用文献3には、次の事項が記載されている。

「【0001】
本発明は、三次元造形物の製造方法及びこれに使用する製造装置に関し、更に詳しくは、対象とする三次元造形物を平行な複数の断面により切断した断面形状を逐次積層することにより三次元造形物を製造する方法及びこれに使用する製造装置に関する。」

「【0009】
本発明は、短時間にかつ低コストで、強度に優れ、表面光沢度や透明性が高く、着色された外観を有する三次元造形物を製造する方法及びこの方法に使用する製造装置を提供することを目的としている。」

「【0023】
図3は第2ステップで生成される格子状に細分化された断面データの一例を示す平面図である。図3において、斜線を付した格子が結合剤の吐出される領域である。このとき、造形物の最外層に位置する格子点の吐出倍率を上記の範囲内で高くする。途中の断面形状では外表面に相当する輪郭格子点に内部格子点よりも多量の結合剤を吐出させる。輪郭格子点に隣接する数格子分の隣接格子点にまで吐出倍率を高くしてもよい。隣接する数格子とは、1?10格子分であることが好ましく、1?5格子分とすることがより好ましい。
吐出倍率の調節は、1回の吐出量を変化すること、及び/又は、同じ格子点への吐出回数を多くすることにより、可能である。」

【0082】
本発明おいて造形物の外表面に彩色するためには、断面形状の輪郭に上記のYMC結合剤による着色画像を形成し、この着色画像の直下に白色反射層を設けることが好ましい。白色反射層は、例えばカラープリントにおける下地に相当する役割を有し、白色顔料を含む結合剤(白色結合剤)を着画像のすぐ内側に使用することが好ましい。
白色顔料の具体例としては、塩基性炭酸鉛(2PbCO_(3)Pb(OH)_(2)、いわゆる、シルバーホワイト)、酸化亜鉛(ZnO、いわゆる、ジンクホワイト)、酸化チタン(TiO_(2)、いわゆる、チタンホワイト)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO_(3)、いわゆる、チタンストロンチウムホワイト)などが利用可能である。」






第5 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
引用文献1システム発明の「三次元自由造形システム」は、流体吐出装置や制御コンピュータを含む装置で構成されるものであるから、本願発明1の「三次元造形装置」に相当する。
また、引用文献1システム発明の「所望物体の層」、「複数積層」すること、「接着剤またはバインダー」、「制御コンピュータ」はそれぞれ、本願発明1の「断面体」、「Z方向に複数積層」すること、「物体の材料となる液体」、「制御部」に相当する。
次に、引用文献1システム発明の「ボクセル」は、x、y及びz座標に長さを有するアドレス指定可能な体積、つまり、単位体積であるといえるから、結局のところ、本願発明1の「前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子」に相当する。さらに、引用文献1システム発明の「サブボクセル」はボクセルを高さ方向(本願発明1の「Z方向」に相当)にスライスしたものであるから、本願発明1の「副単位格子」に相当するとともに、引用文献1システム発明の「ボクセル」は高さ方向にスライスしたサブボクセルの集合からなるもの、つまり、本願発明1の「Z方向に並ぶ複数の副単位格子」からなるものと同旨であるといえる。

したがって、本願発明1と引用文献1システム発明とを対比すると、両者は、

「断面体をZ方向に複数積層して三次元の物体を造形する三次元造形装置であって、
前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子毎に、前記物体の材料となる液体を吐出して前記物体を造形するヘッド部と、
前記ヘッド部を制御する制御部と、を備え、
前記単位格子は、前記Z方向に並ぶ複数の副単位格子を有する、
三次元造形装置。」

で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
三次元造形装置に関し、本願発明1では、
「ヘッド部は、無彩色液体と、複数種類の有彩色液体とを、それぞれ、指定された量、各副単位格子内に吐出可能であり、
制御部は、前記ヘッド部を制御して、前記各副単位格子に対して、前記複数種類の有彩色液体のうち、いずれかの有彩色液体を指定した量、吐出させた場合に、前記副単位格子の空間体積が満たされない場合には、前記有彩色液体に加えて、前記無彩色液体を前記副単位格子に吐出させて、前記副単位格子の空間体積を満たす」ものであるのに対して、引用文献1システム発明では、そのような特定がない点。

(2)相違点1についての判断
上記相違点1について検討する。

引用文献2には、「中間転写ベルト10上に形成された被硬化層12B上の、インク滴14Aの吐出によって形成された画像領域T及び非画像領域Bの各々の各画素に対応する各領域には、吐出されるインク滴14A及び硬化性溶液層表面凹凸調整液15Aの総量が画像領域Tのインク最大吐出量Mとなるように、インク滴14A、またはインク滴14A及び硬化性溶液層表面凹凸調整液15Aが吐出」すること(段落【0230】)が記載されている。
しかしながら、引用文献2は、中間転写体から記録媒体への硬化性溶液層の転写をするための装置に関するものであって、三次元造形装置に関するものではない。
他方、引用文献1システム発明は、三次元自由造形システム(三次元造形装置)に関するものであるから、液体を吐出する点では一見共通するように見えるものの、その用途は大きく異なるものである。
してみれば、三次元自由造形システムに関する引用文献1システム発明において、引用文献2に記載された中間転写体から記録媒体への硬化性溶液層の転写をするための装置に関する技術的事項を採用する動機付けがないから、引用文献1システム発明に引用文献2に記載された技術的事項を適用することは、当業者にとって容易に想到し得るものとはいえない。
また、仮に、引用文献1システム発明において、引用文献2の記載事項を適用する動機付けがあるとしても、引用文献1システム発明は、ボクセルをスライスした一部のサブボクセルのみに吐出し形成することにより、効率よく滑らかな輪郭を持つ物体を製造する方法を提供するものであるから、各領域(ボクセル)にインク最大吐出量となるようにする引用文献2の記載事項を適用するには、阻害要因があるものといえる。
そして、本願発明1は、その特定事項を満たすことにより、「着色された三次元物体を造形するに際し、三次元物体の見かけの解像度が低下することを抑制する」(段落【0006】)との格別の効果を奏するものである。
したがって、本願発明1は、当業者であっても引用文献1システム発明、引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

なお、引用文献3についても検討したが、引用文献3においても、三次元造形に関し、上記相違点1に関する吐出量制御についての記載を見出すこともできないから、本願発明1は、当業者であっても引用文献1システム発明、引用文献3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2.本願発明2-6について
本願発明2-6は、請求項1を直接又は間接的に引用する従属項に係る発明であるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3.本願発明7について
(1)対比
引用文献1製法発明の「三次元自由造形システム」は、流体吐出装置や制御コンピュータを含む装置を用いて三次元造形物を製造するものであるから、本願発明7の「三次元造形装置」に相当する。
また、引用文献1製法発明の「所望物体の層」、「複数積層」すること、「接着剤またはバインダー」、はそれぞれ、本願発明7の「断面体」、「Z方向に複数積層」すること、「物体の材料となる液体」に相当する。
次に、引用文献1製法発明の「ボクセル」は、x、y及びz座標に長さを有するアドレス指定可能な体積、つまり、単位体積であるといえるから、結局のところ、本願発明7の「前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子」に相当する。さらに、引用文献1製法発明の「サブボクセル」はボクセルを高さ方向(本願発明7の「Z方向」に相当)にスライスしたものであるから、本願発明7の「副単位格子」に相当するとともに、引用文献1製法発明の「ボクセル」は高さ方向にスライスしたサブボクセルの集合からなるもの、つまり、本願発明7の「Z方向に並ぶ複数の副単位格子」からなるものと同旨であるといえる。

したがって、本願発明7と引用文献1製法発明とを対比すると、両者は、

「断面体をZ方向に複数積層して三次元の物体を造形する三次元造形装置によって三次元の物体を製造する製造方法であって、
前記三次元造形装置は、前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子毎に、前記物体の材料となる液体を吐出して前記物体を造形するヘッド部を備え、
前記単位格子は、前記Z方向に並ぶ複数の副単位格子を有する、
製造方法。」

で一致し、次の点で相違する。

(相違点2)
三次元造形装置によって三次元の物体を製造する製造方法に関し、本願発明7では、
「前記ヘッド部は、無彩色液体と、複数種類の有彩色液体とを、それぞれ、指定された量、前記各副単位格子内に吐出可能であり、
前記ヘッド部を制御して、前記各副単位格子に対して、前記複数種類の有彩色液体のうち、いずれかの有彩色液体を指定した量、吐出させた場合に、前記副単位格子の空間体積が満たされない場合には、前記有彩色液体に加えて、前記無彩色液体を前記副単位格子に吐出させて、前記副単位格子の空間体積を満たす」ものであるのに対して、引用文献1製法発明では、そのような特定がない点。

(2)相違点2についての判断
上記相違点2は、上記1(1)であげた相違点1と同旨である。
そして、上記1(2)の検討と同様の理由により、本願発明7は、当業者であっても引用文献1製法発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4.本願発明8について
(1)対比
引用文献1プログラム発明の「三次元自由造形システム」は、流体吐出装置や制御コンピュータを含む装置で構成されるものであるから、本願発明8の「三次元造形装置」に相当する。
また、引用文献1プログラム発明の「所望物体の層」、「複数積層」すること、「接着剤またはバインダー」はそれぞれ、本願発明8の「断面体」、「Z方向に複数積層」すること、「物体の材料となる液体」に相当する。
次に、引用文献1プログラム発明の「ボクセル」は、x、y及びz座標に長さを有するアドレス指定可能な体積、つまり、単位体積であるといえるから、結局のところ、本願発明8の「前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子」に相当する。さらに、引用文献1プログラム発明の「サブボクセル」はボクセルを高さ方向(本願発明8の「Z方向」に相当)にスライスしたものであるから、本願発明8の「副単位格子」に相当するとともに、引用文献1プログラム発明の「ボクセル」は高さ方向にスライスしたサブボクセルの集合からなるもの、つまり、本願発明8の「Z方向に並ぶ複数の副単位格子」からなるものと同旨であるといえる。

したがって、本願発明8と引用文献1プログラム発明とを対比すると、両者は、

「断面体をZ方向に複数積層して三次元の物体を造形する三次元造形装置をコンピューターが制御して三次元の物体を製造するためのコンピュータープログラムであって、
前記三次元造形装置は、前記断面体のX方向の造形解像度と、前記断面体のY方向の造形解像度と、前記断面体の前記Z方向への積層間隔とに応じて定まる単位格子毎に、前記物体の材料となる液体を吐出して前記物体を造形するヘッド部を備え、
前記単位格子は、前記Z方向に並ぶ複数の副単位格子を有し、
ヘッド部を制御すること、
をコンピューターに実現させるためのコンピュータープログラム。」

で一致し、次の点で相違する。

(相違点3)
三次元造形装置をコンピューターが制御して三次元の物体を製造するためのコンピュータープログラムに関し、本願発明8では、
「前記ヘッド部は、無彩色液体と、複数種類の有彩色液体とを、それぞれ、指定された量、前記各副単位格子内に吐出可能であり、
前記ヘッド部を制御して、前記各副単位格子に対して、前記複数種類の有彩色液体のうち、いずれかの有彩色液体を指定した量、吐出させた場合に、前記副単位格子の空間体積が満たされない場合には、前記有彩色液体に加えて、前記無彩色液体を前記副単位格子に吐出させて、前記副単位格子の空間体積を満たす機能」を有するものであるのに対して、引用文献1プログラム発明では、そのような特定がない点。

(2)相違点についての判断
上記相違点3は、上記1(1)であげた相違点1と同旨である。
そして、上記1(2)の検討と同様の理由により、本願発明8は、当業者であっても引用文献1プログラム発明、引用文献2、3に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第6 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-10-15 
出願番号 特願2015-41031(P2015-41031)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B29C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田代 吉成  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 大畑 通隆
植前 充司
発明の名称 三次元造形装置、製造方法およびコンピュータープログラム  
代理人 特許業務法人明成国際特許事務所  

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