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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 F16J |
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管理番号 | 1356522 |
審判番号 | 不服2018-16667 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-13 |
確定日 | 2019-11-19 |
事件の表示 | 特願2015-33126号「ゴム組成物、及びオイルシール」拒絶査定不服審判事件〔平成28年9月1日出願公開、特開2016-156404号、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年2月23日の出願であって、平成30年6月29日付けで拒絶の理由が通知され、同年9月3日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月21日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という。)がされた。これに対して、同年12月13日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1及び2に係る発明は、平成30年9月3日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、「本願発明1」及び「本願発明2」という。)。 [本願発明1] 「フッ素ゴムと、炭素繊維とを含み、 前記炭素繊維の含有比率は、7?21質量% 前記炭素繊維は、平均直径が7±0.2μm 前記炭素繊維は、平均繊維長が30?150μm 前記炭素繊維のアスペクト比は2?30である ことを特徴とするオイルシール用ゴム組成物。」 [本願発明2] 「請求項1に記載のゴム組成物を用いて加硫成形して得られたオイルシール。」 第3 原査定の概要 原査定の概要は次のとおりである。 本願発明1及び2は、以下の引用文献1に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の記載により特許を受けることができない。 引用文献1:国際公開第2014/024661号 第4 当審の判断 1 引用文献1に記載された事項及び発明 原査定で引用された、引用文献1(国際公開第2014/024661号)には、「フッ素ゴム組成物」に関し、次の記載がある(下線は当審で付した。)。 「[0001] 本発明は、フッ素ゴム組成物に関する。さらに詳しくは、オイルシール等の回転摺動用シール製品の成形材料などとして有効に用いられるフッ素ゴム組成物に関する。」 「[0010] 本発明の目的は、オイルシールの使用初期から摩耗後に到るまで、オイルポンプ量の増加によってシール性を維持しつつ、低フリクション化を達成せしめることを可能とするシール材料として好適に用いられるフッ素ゴム組成物を提供することにある。」 「[0011]かかる本発明の目的は、フッ素ゴム100重量部当り、平均粒子径が5μm以下、平均粒子長が40?60μmで、かつアスペクト比が10?12の針状充填剤または繊維状充填剤を1?100重量部含有せしめたフッ素ゴム組成物によって達成される。」 「[0013] フッ素ゴムとしては、ポリオール加硫可能なフッ素ゴム、パーオキサイド架橋可能なフッ素ゴムのいずれをも用いることができるが、好ましくはポリオール加硫可能なフッ素ゴムが用いられる。」 「[0020] これらのフッ素ゴムには、平均粒子径(レーザー散乱法により測定;繊維状にあっては平均繊維径)が5μm以下、好ましくは3?5μm、平均粒子長(光学顕微鏡で測定;繊維状物にあっては平均繊維長)が40?60μmで、かつアスペクト比が10?12の針状充填剤または繊維状充填剤が、フッ素ゴム100重量部当り1?100重量部、好ましくは30?60重量部の割合で配合される。これらの充填剤の量がこれより少ないと本発明の目的とする使用による摩耗後のシール性を維持することができず、一方これより多い割合で用いられると、ゴム硬度が上昇し、シールの追随性を損なうようになるため好ましくない。また、平均粒子径がこれ以上のものを用いると、摺動面からの充填剤の脱落により隙間漏れが生じるおそれがあり、その結果使用による摩耗後のトルク値は維持できるものの、シール性が低下することがあり、平均粒子長がこれ以外のものを用いると、摩耗後のトルク値が悪化するようになる。 [0021] なお、前記各特許文献には、種々の平均粒子径および平均繊維長を有する充填剤をフッ素ゴムに配合したフッ素ゴム組成物が記載されており、それぞれ所期の目的を達成せしめてはいるが、後記各比較例に示されるように、平均粒子径および/または平均粒子長が本発明で規定する範囲を外れる場合には、摺動トルク値、ポンプ量および密封試験結果で示される所望のシール性の確保は難しくなる。また、アスペクト比が本発明で規定する範囲を外れる場合にも、同様にシール性の確保が難しくなる。 [0022] ここで、針状充填剤または繊維状充填剤としては、例えばウォラストナイト、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、繊維状セピオライト、チタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカー、塩基性硫酸マグネシウム等が挙げられ、好ましくはウォラストナイトが用いられる。」 「[請求項1] フッ素ゴム100重量部当り、平均粒子径が5μm以下、平均粒子長が40?60μmで、かつアスペクト比が10?12の針状充填剤または繊維状充填剤を1?100重量部含有せしめたフッ素ゴム組成物。 [請求項2] 平均粒子径が3?5μmの針状充填剤または繊維状充填剤が用いられた請求項1記載のフッ素ゴム組成物。 [請求項3] 針状充填剤または繊維状充填剤が、ウォラストナイト、炭素繊維、ガラス繊維、アルミナ繊維、繊維状セピオライト、チタン酸カリウムウィスカー、炭化ケイ素ウィスカー、窒化ケイ素ウィスカーまたは塩基性硫酸マグネシウムである請求項1または2記載のフッ素ゴム組成物。 [請求項4] 請求項1または2記載のフッ素ゴム組成物から加硫成形されたシール材。 [請求項5] エンジン用オイルシールとして用いられる請求項4記載のシール材。」 以上の記載から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 [引用発明] 「フッ素ゴム100重量部当り、平均繊維径が5μm以下、平均繊維長が40?60μmで、かつアスペクト比が10?12の繊維状充填剤を1?100重量部含有せしめたエンジンオイルシール用フッ素ゴム組成物であって、 繊維状充填剤の平均繊維径が3?5μmであり、 繊維状充填剤が炭素繊維である、 エンジンオイルシール用フッ素ゴム組成物。」 2 対比・判断 (1)対比 本願発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「エンジンオイルシール用フッ素ゴム組成物」は、本願発明1の「オイルシール用ゴム組成物」に相当する。 引用発明の「フッ素ゴム」及び「炭素繊維」は、本願発明1の「フッ素ゴム」及び「炭素繊維」に相当するから、引用発明の「フッ素ゴム100重量部当り」、「繊維状充填剤を1?100重量部含有せしめたエンジンオイルシール用フッ素ゴム組成物であって」、「繊維状充填剤が炭素繊維である」ことは、本願発明1の「フッ素ゴムと、炭素繊維を含」むことに相当する。 そうしてみると、本願発明1と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「フッ素ゴムと、炭素繊維を含んだ、オイルシール用ゴム組成物。」 [相違点1] 炭素繊維の含有比率に関し、本願発明1が、「7?21質量%」であるのに対し、引用発明は、「フッ素ゴム100重量部当り」、「1?100重量部含有せしめた」ものである点。 [相違点2] 炭素繊維の平均直径に関し、本願発明1が、「7±0.2μm」であるのに対し、引用発明は、「3?5μm」である点。なお、平均繊維径が平均直径に相当することは自明である。 [相違点3] 炭素繊維の平均繊維長に関し、本願発明1が、「30?150μm」であるのに対し、引用発明は、「40?60μm」である点。 [相違点4] 炭素繊維のアスペクト比に関し、本願発明1が、「2?30」であるのに対し、引用発明は、「10?12」である点。 (2)判断 事案に鑑み、相違点2について検討する。 引用発明の炭素繊維の平均繊維径(平均直径)は、3?5μmであるところ、引用文献1の段落[0020]の「平均粒子径がこれ以上のものを用いると、摺動面からの充填剤の脱落により隙間漏れが生じるおそれがあり、その結果使用による摩耗後のトルク値は維持できるものの、シール性が低下することがあり・・・」との記載からすれば、引用発明において、炭素繊維の平均繊維径を5μm以上のものを採用することは想定しておらず、当業者にとって引用発明の炭素繊維の平均繊維径を5μm以上の7±0.2μmとする動機付けはないというべきである。 してみれば、引用発明において、相違点2に係る本願発明1の構成と成すことは、当業者であっても容易にはなし得ない。 そして、本願発明1は、かかる構成を具備することにより、本願明細書記載の「炭素繊維をマトリックス中により均一に分散させることができ、マトリックス表面から適切な状態で露出させることができる」(段落【0009】を参照。)という格別な効果を奏するものであるといえる。 したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本願発明1は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)本願発明2について 本願発明2は、本願発明1をさらに限定したものである。そして、上記(2)に説示のとおり、本願発明1が引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本願発明1をさらに限定した本願発明2も同様の理由により、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、本願発明1及び2は、引用文献1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって、原査定の理由によっては本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-11-06 |
出願番号 | 特願2015-33126(P2015-33126) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WY
(F16J)
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最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 保田 亨介、内山 隆史、羽鳥 公一 |
特許庁審判長 |
田村 嘉章 |
特許庁審判官 |
井上 信 尾崎 和寛 |
発明の名称 | ゴム組成物、及びオイルシール |
代理人 | 特許業務法人サンクレスト国際特許事務所 |