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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 A23L 審判 全部申し立て 2項進歩性 A23L |
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管理番号 | 1356828 |
異議申立番号 | 異議2018-700429 |
総通号数 | 240 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2019-12-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2018-05-28 |
確定日 | 2019-10-07 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第6253182号発明「トマト含有調味料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6253182号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第6253182号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6253182号の請求項1ないし3に係る特許(以下「本件特許」と総称する場合がある。)についての出願は、平成25年7月29日に出願され、平成29年12月8日にその特許権の設定登録がされ、平成29年12月27日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがあり、次のとおりに手続が行われた。 平成30年 5月28日 :特許異議申立人ヤマサ醤油株式会社(以下「申立人」という。)による請求項1ないし3に係る特許に対する特許異議の申立て 同年 9月27日付け:取消理由通知書 同年11月29日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 平成31年 1月28日 :申立人による意見書の提出 同年 3月25日付け:訂正拒絶理由通知書 同年 4月18日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出 令和 元年 5月28日付け:取消理由通知書(決定の予告) 同年 7月23日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 なお、特許権者から令和元年7月23日に提出された訂正請求書に対し、申立人からは何らの応答もなかった。 第2 本件訂正の適否 1 本件訂正の内容 令和元年7月23日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の請求は、特許第6253182号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを求めるものであって、その訂正内容は次のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。 本件訂正は、一群の請求項〔1ないし3〕に対して請求されたものである。 なお、本件訂正の請求により、平成30年11月29日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。 (1)訂正事項1 本件訂正前の請求項1に、「本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。」 と記載されているのを、 「低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 本件訂正前の請求項2に、 「本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の本醸造醤油である請求項1に記載のトマト含有調味料。」 と記載されているのを、 「低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である請求項1に記載のトマト含有調味料。」 に訂正する。 (3)訂正事項3 本件訂正前の請求項3に、 「本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された本醸造醤油である請求項1又は2に記載のトマト含有調味料。」 と記載されているのを、 「低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である請求項1又は2に記載のトマト含有調味料。」 に訂正する。 (4)訂正事項4 明細書の段落【0008】に、 「(1)本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。 (2)本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の本醸造醤油である上記(1)に記載のトマト含有調味料。 (3)本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された本醸造醤油である上記(1)又は(2)に記載のトマト含有調味料。」 と記載されているのを、 「(1)低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。 (2)低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である上記(1)に記載のトマト含有調味料。 (3)低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である上記(1)又は(2)に記載のトマト含有調味料。」 に訂正する。 2 本件訂正の適否の判断 (1)訂正事項1ないし3について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項1ないし3に係る訂正は、本件訂正前の請求項1ないし3に記載された発明を特定するために必要な事項である「本醸造醤油」について、「低HEMF本醸造醤油」であることを特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について 訂正事項1ないし3に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0015】及び【0023】の記載並びに段落【0027】表1の実施例1A、1Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」及び段落【0032】表3の実施例2A、2Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」という記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項1ないし3に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲を減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項4について ア 訂正の目的の適否について 訂正事項4は、訂正事項1ないし3に係る訂正に伴い特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 イ 新規事項の有無について 訂正事項4に係る本件訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の段落【0015】及び【0023】の記載並びに段落【0027】表1の実施例1A、1Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」及び段落【0032】表3の実施例2A、2Bの原材料欄の「低HEMF本醸造醤油」という記載に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について 訂正事項4に係る訂正は、上記アのとおり、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載との整合を図るものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 3 小括 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。 したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし3について訂正することを認める。 第3 本件訂正発明 本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下それぞれ「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明3」という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。 「【請求項1】 低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。 【請求項2】 低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である請求項1に記載のトマト含有調味料。 【請求項3】 低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である請求項1又は2に記載のトマト含有調味料」 第4 取消理由についての判断 1 取消理由の概要 本件訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和元年5月28日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は次のとおりである。 本件明細書の課題解決手段とは、トマト風味を有するケチャップやトマトソースの所定量に対し、多種類の香り成分及び多数のアミノ酸等を含む本件明細書にて特別に調整された低HEMF本醸造醤油を所定量混合することで、トマトの風味を抑えることなく、コクの強いトマト含有調味料が得られたものであると解すべきである。 特に、本件明細書の発明の詳細な説明は、醤油に含まれる多種類の香り成分や多数のアミノ酸等の呈味に寄与する成分を一定とした上で、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの含有量をそれぞれ変化させて評価試験を行っているものではないし、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの3つの成分のみによって、トマトの風味を抑制することなく、コクの強いトマト含有調味料を得られたとする作用機序についての具体的な説明も記載されてないし、そのような技術常識の存在も認められない。 以上から、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールが本件発明の数値範囲にあることにより、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得ることが裏付けられているとはいえない。 したがって、本件の特許請求の範囲の記載は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えて特許を請求している。 よって、請求項1ないし3に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 当審の判断 本件訂正により、本件訂正前の請求項1ないし3に記載された発明を特定するために必要な事項である「本醸造醤油」について、「低HEMF本醸造醤油」であるとされ、トマト含有調味料が「低HEMF本醸造醤油」を含有するものであることが特定された。 そして、本件訂正発明1ないし3は、低HEMF本醸造醤油の他に低HEMF本醸造醤油以外の本醸造醤油(濃口醤油等)を添加することを排除しないものとなっているところ、これが発明の詳細な説明に記載したものであるかについて、特許権者は、令和元年7月23日提出の意見書において、以下のとおり主張している。 「まず、上記『(4)本件特許明細書の記載』の段落【0014】に記載のとおり、本件特許明細書には本醸造醤油を使用することが記載されている。 次に、上記(5)に記載したとおり、低HEMF本醸造醤油とは、本醸造醤油からHEMFのみを減少させたものであり、醤油の熟成した旨味や酵母由来の複雑味をそのまま残した本醸造醤油であるから、低HEMF本醸造醤油の一部を本醸造醤油に替えても、含まれるHEMF以外の成分の量は変わらない。『HEMF』、『n-ブチルアルコール』及び『イソアミルアルコール』の量を所定の量となるように、低HEMF本醸造醤油の一部として本醸造醤油を添加しても、本願発明の課題が解決できることは明らかである。 例えば、HEMF濃度が0ppmの低HEMF本醸造醤油と、HEMF濃度が20ppmである本醸造醤油とを、1重量部ずつ混合したものと、HEMF濃度が10ppmの低HEMF濃度を2重量部用いたものは、両者ともHEMF濃度が10ppmであり、含まれるHEMF以外の成分の量も変わらない。 低HEMF本醸造醤油のHEMF濃度は0?15ppmという範囲の幅を有するから、特にHEMF濃度が0ppmに近い低HEMF本醸造醤油を用いる場合には、本醸造醤油を添加しても、全体としてのHEMF濃度は17.4ppm以下になり、その本醸造醤油の添加により、本醸造醤油に含まれるn-ブチルアルコール、イソアミルアルコール、および他の旨味やコク味を食品に付与できる成分により、本件発明の課題が解決できることは、当業者であれば明らかに理解できる。」(7ないし8ページの「(7)付記」の欄を参照。) 本件明細書には、実施例として、低HEMF本醸造醤油以外の本醸造醤油を添加する例は記載されていないが、特許権者が意見書において主張するように、HEMF濃度が特に低い(0ppmに近い)低HEMF本醸造醤油を用いる場合には、それに若干の本醸造醤油(濃口醤油)を加えても調製後のHEMF濃度が17.4ppm以下に抑え得ることは明らかであるといえる。 一方で、本件明細書には、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの3つの成分以外の成分がコクに及ぼす影響について記載されておらず、また、この3つの成分の調製のみによってトマトの風味を抑制することなくコクの強いトマト含有調味料が得られたとする作用機序について具体的な記載はないが、本件明細書の発明の詳細な説明の記載からは、少なくとも、低HEMF本醸造醤油を用い、かつ、調製後のトマト含有調味料における前記3つの成分の含有量を本件訂正発明1において特定される数値範囲とすることで、官能評価におけるコクの評点が3.0以上及びトマトの風味の評点が4.0以上となり(段落【0027】ないし【0034】等)、「トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得る」(【0006】)という本件発明の課題を解決できることが認識できるといえ、また、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの3つの成分以外にトマトの風味やコクに影響を及ぼす重要な成分があることを示す具体的な証拠もない。 そうすると、本件訂正発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものとはいえない。 以上のことから、本件訂正発明1ないし3は、発明の詳細な説明に記載したものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するから、その特許は、同法第113条第4号に該当することを理由として取り消されるべきものではない。 第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立書の申立理由の概要 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立書の申立理由(以下「申立理由1」という。)の概要は次のとおりである。 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証に記載の発明及び技術常識(甲第2ないし4号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 <甲号証一覧> 甲第1号証:国際公開第2007/116474号 甲第2号証:特開2004-33027号公報 甲第3号証:特開2012-95596号公報 甲第4号証:白石久二雄、外2名、“発酵調味液の有機酸,アミノ酸によるトリメチルアミンの抑臭効果”、日本食品工業学会誌、1982年、29巻、6号、340ないし346ページ なお、甲第1号証ないし甲第4号証を、以下、それぞれ甲1ないし甲4と略記する。 2 甲号証の記載等 (1)甲1について 甲1には、次の記載がある。(下線は理解の一助のために当審にて付したものである。以下同様。) 「[0022] 本発明によれば、醸造醤油であるにも拘らず、醤油香が少なく芳醇な香気を有する新規な醤油が得られる。また調味料として用いた場合に各種具材、調味素材の有する不快な香りを消去する(マスキング)効果を有する醤油が得られる。また後味に優れた醤油が得られる。また、汲水歩合が同一であるにも拘らず非常に淡色な醤油が得られる。」 「[1] 醤油麹を調製し、 前記醤油麹に、前記醤油麹の調製に用いられた植物種子の容積(生種子換算)に対する容積比が170?450%(V/V)となる量の食塩水を仕込んで醤油諸味を調製し、 前記醤油諸味を発酵熟成させ、 前記発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加し、前記添加後の醤油諸味を更に発酵熟成させることを特徴とする、醸造醤油の製造法。 [2] 請求項1記載の方法により得られる醸造醤油であって、全窒素1.0%(W/V)当り4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンを15.0ppm以下且つメチオノールを2.0ppm以上含有する前記醤油。」(請求の範囲) 上記から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「醤油麹を調製し、 前記醤油麹に、前記醤油麹の調製に用いられた植物種子の容積(生種子換算)に対する容積比が170?450%(V/V)となる量の食塩水を仕込んで醤油諸味を調製し、 前記醤油諸味を発酵熟成させ、 前記発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹あるいは醤油麹及び食塩水を添加し、前記添加後の醤油諸味を更に発酵熟成させる製造法により得られる醸造醤油であって、全窒素1.0%(W/V)当り4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンを15.0ppm以下且つメチオノールを2.0ppm以上含有する醸造醤油。」 (2)甲2について 甲2には、次の記載がある。 「【0002】 【従来の技術】 魚介類の生臭さ、畜肉類の獣臭、大豆の青臭さ等の不快臭はオフフレーバーとよばれ、食品の品質によくない影響を及ぼす要素の一つである。これらオフフレーバーのマスキングを目的として、飲食品の加工、調理時に清酒、ワイン、焼酎、みりん等が使用されている。これらの添加によるオフフレーバーのマスキング効果はエタノールによるところが大きいと考えられている。」 (3)甲3について 甲3には、次の記載がある。 「【請求項1】 イソアミルアルコールを15.0ppm以上および/またはβ-フェネチルアルコールを9.0ppm以上含有し、さらにクエン酸を0.2%(w/v)以上含有する醤油様調味料。 【請求項2】 クエン酸が果汁由来であることを特徴とする、請求項1に記載の醤油様調味料。 【請求項3】 果汁がトマトに由来するものを含むことを特徴とする、請求項2に記載の醤油様調味料。」 「【0002】 近年食品業界においては、消費者のグルメ志向や、食品加工技術の向上、チルド運送網の発達により、食品の風味を引き立たせ、食材本来の味、香りを消費者が感じられるような調理方法や調味料の開発が進んでいる。こうした食品の風味を引き立たせる方法の一つとして、オフフレーバーを矯臭・マスキングする方法が重要である。食品のオフフレーバーは、例えば肉の獣臭や、野菜の青臭み、魚の生臭さ、牛乳の乳臭さ等が知られている。 【0003】 オフフレーバーのマスキング方法として、日本では伝統的に清酒やみりん、醤油等の発酵調味料が用いられている。 清酒やみりんは、魚臭、魚の生臭み、に対して特に顕著なマスキング効果があり、水産練り製品に多く利用されている。みりんのマスキング効果は、香気成分のカルボニル区分に起因しており、この中にはアルデヒド類が多く含まれている。また、アルコール類、エステル類も副次的にマスキング効果に寄与していることが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかし、清酒やみりんは各種食品の調理・加工に用いられているが、喫食時に、通常直接食品につけたり、かけたりする用途(以下、「つけかけ」という)では用いられていない。 【0004】 発酵に由来するマスキング効果を有する物質として、スチレン構造を有するフェノール化合物の多量体を食品に存在させ、魚介類、畜肉製品および野菜類等、幅広い食品のオフフレーバーを除去する方法および消臭剤等が開示されている(例えば、特許文献1参照)。スチレン構造を有する化合物として4-ビニルフェノール、フェルラ酸、p-クマル酸、4-ビニルグアヤコールが例示されている。 【0005】 醤油は、大豆と小麦とで作った麹と食塩水を原料として醸造することにより得られる伝統的な調味料の一つである。醤油は製法に従って、それぞれ特有の香気、味、色を有している。濃口醤油は、色は濃厚で香りも華やかであることから、関東を中心に日本中で様々な調理の他、つけかけ用途に用いられている一方で、色や風味が食材に勝ってしまい、必ずしも食品の風味を引き立てる料理に最適とは言えない。関西では、古くから食材の風味を生かす調味料として淡口醤油が用いられており、淡い色と軽快な香りが特徴である。淡口醤油は色が淡く香りも穏やかで、調理において食品の風味を引き立てる効果はあるものの、幅広い食品に対するオフフレーバーのマスキング効果は不十分であった。」 (4)甲4について 甲4には、次の記載がある。 「一方,最近の食生活の多様化に伴い食品の旨味や風味を生み出す目的で種々のタイプの調味液が開発されており,特にそれらは食品の好ましくない匂い,あるいは特異臭をマスキングするだけでなく,その食品のもつ特徴的なフレーバーを引き立て,好ましいフレーバーに変える効果をもつことが知られている。」(第340ページ左欄第2行ないし右欄第1行) 3 対比・判断 本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「醸造醤油」は、「全窒素1.0%(W/V)当り4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノンを15.0ppm以下」含有するものであるから、本件訂正発明1における「低HEMF本醸造醤油」に相当する。 また、甲1発明における「醸造醤油」が調味料として用いられることは明らかである。 そうすると、本件訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。 [一致点] 「低HEMF本醸造醤油を含有する調味料。」 [相違点] 本件訂正発明1は、「低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって」、「トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上である」のに対して、甲1発明は、そのような構成を特定していない点。 上記相違点について検討する。 甲1発明は調味料として用いられる(甲1の[0022]等参照。)ものであるが、トマト含有調味料に用いることについて甲1には記載も示唆もされていない。 また、低HEMF本醸造醤油をトマト含有調味料に用いて、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度を17.4ppm以下、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計を9.4ppm以上とすることについては、甲1ないし4のいずれにも記載も示唆もされていない。 そして、本件訂正発明1は、低HEMF本醸造醤油をトマト含有調味料に用いて、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度を17.4ppm以下、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計を9.4ppm以上とすることにより、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得るという効果を奏するものである。 以上を踏まえると、本件訂正発明1は、甲1発明及び甲2ないし4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 また、本件訂正後の請求項2及び3は、請求項1の記載を直接又は間接的にかつ請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件訂正発明2及び3は、本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。 したがって、本件訂正発明2及び3は、上記と同様に、甲1発明及び甲2ないし4の記載に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、上記申立理由1によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 トマト含有調味料 【技術分野】 【0001】 本発明は、トマト含有調味料に関する。 【背景技術】 【0002】 コクとは、調味料の旨味に複雑さと深みを与える味の要素である。トマトケチャップ、トマトソース、チリソースなどのトマト含有調味料は、トマトの酸味によってあっさりとした風味になってしまい、コクが弱くなってしまう。酸味を抑える方法としてトマト含有調味料をじっくりと煮込む方法があるが、トマト含有調味料を煮詰めるとコクが増すがトマトの風味が弱くなるという問題が生じる。そこで、微粉砕化卵殻を配合することで、トマトの酸味を抑えるために加熱処理してもトマトのフレッシュ感を有するトマトソース(例えば、特許文献1参照)やココア、乾燥ローストオニオン及び肉を加えてコクを付与するソース(例えば、特許文献2参照)などの技術が提案されている。 【0003】 醤油には約300種類の香り成分が含まれており、醤油特有の醸造香を持っている。具体的には、醤油の特徴香として、甘いカラメル香を有する4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン(以下、HEMFともいう)や、日本酒の香りを有するイソアミルアルコールなどの成分が挙げられる。これらの香気バランスにより醤油の特徴的な香りが生み出されている。 【0004】 醤油は、旨味やコク味を食品に付与できる調味料であるが、上記醤油特有の醸造香を持っているため、トマト含有調味料に醤油でコクを付けようとすると醤油の醸造香でトマトの風味が抑えられるという問題があった。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2009-89659号公報 【特許文献2】特開2009-11283号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 本発明は、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得ることを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、本醸造醤油を添加して、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりのHEMF濃度を17.4ppm以下、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計を9.4ppm以上とすることで、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料が得られることを知り、この知見に基づいて本発明を完成した。 【0008】 すなわち、本発明は次に示すトマト含有調味料である。 (1)低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。 (2)低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である上記(1)に記載のトマト含有調味料。 (3)低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である上記(1)又は(2)に記載のトマト含有調味料。 【発明の効果】 【0009】 本発明によれば、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料が得られる。 【発明を実施するための形態】 【0010】 本発明のトマト含有調味料は、本醸造醤油を添加して、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりのHEMF濃度を17.4ppm以下、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計を9.4ppm以上になるように調整することにより得られる。 【0011】 本発明におけるトマト含有調味料の無塩可溶性固形分とは、可溶性固形分から食塩分を差し引いて得た値である。ここで、可溶性固形分は、20℃においてBrix計の示度を読み取り、その値をパーセントで表したものである。また、食塩分は、電位差滴定法により塩分濃度計で測定した値を使用した。 【0012】 本発明におけるトマトとは、完熟した赤色の又は赤みを帯びたトマトの果実をいう。トマト含有調味料の製造に使用するトマトは、トマトの果実を切断、破砕、搾汁、裏ごし、濃縮などの処理を行って加工したものを使用すればよい。また、トマトジュース、トマトミックスジュース、トマトケチャップ、トマトソース、チリソース、トマト果汁飲料、固形トマト、トマトピューレー、トマトペースト及び濃縮トマトなどのトマト加工品をトマト含有調味料の原料として使用してもよい。 【0013】 本発明のトマト含有調味料には、本醸造醤油及びトマトのほかに、用途に合わせて、食酢や柑橘果汁などの酸味料、糖類などの甘味料、食塩、香辛料、蛋白加水分解物、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸、核酸、増粘剤など通常の調味料に使用する原料を添加してもよい。更に、トマト以外の野菜や畜肉のミンチなどの具材を加えてもよい。 【0014】 本発明における本醸造醤油とは、しょうゆの日本農林規格における本醸造方式による醤油をいう。すなわち、本醸造方式による醤油とは、大豆若しくは大豆及び麦、米等の穀類を蒸煮その他の方法で処理し、麹菌を接種培養して得られる醤油麹、若しくは、米を蒸煮、膨化又は麹菌により糖化して該醤油麹に加えたものに、食塩水又は生揚げを加えて発酵熟成させて得られる清澄な液体調味料である。また、本醸造方式による醤油を火入れ(加熱殺菌)して、本発明の本醸造醤油として使用してもよい。 【0015】 本発明のトマト含有調味料に添加する本醸造醤油の成分は、全窒素1.5w/v%以上、全窒素1.0w/v%当たりのHEMF濃度が15.0ppm以下の本醸造醤油を使用することで、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料が得られる。 また、トマト含有調味料のトマト由来の色合いを活かすために、本発明で使用する本醸造醤油の色は淡色であることが望ましく、具体的には、醤油の標準色18番以上が好ましく、22番以上がより好ましい。 【0016】 上記の成分を持つ本醸造醤油は、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる。酵母発酵を抑制せずに、HEMFの生成蓄積を抑制する醸造方法により、前記の成分を持つ本醸造醤油を製造することができる。 【0017】 トマト含有調味料の無塩可溶性固形分あたりのHEMF濃度、n-ブチルアルコール濃度及びイソアミルアルコール濃度を調整することにより、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料を得ることができる。本発明のトマト含有調味料のHEMF濃度、n-ブチルアルコール濃度及びイソアミルアルコール濃度は、本醸造醤油を添加することで調整できる。本発明のトマト含有調味料に使用する本醸造醤油の配合量は、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分に合わせて調整する。 【0018】 トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりのHEMF濃度は、17.4ppm以下が好ましく12.0ppm以下がより好ましい。トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりのHEMF濃度が17.4ppmを超えるとトマト含有調味料のトマトの風味は抑制されてしまう。 【0019】 また、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計は、9.4ppm以上が好ましく10.1ppm以上がより好ましい。トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm未満では、コクを強くする効果が得られない。 【0020】 以下、実施例を示して本発明の効果をより具体的に説明する。 【実施例1】 【0021】 (醤油麹の調製) 脱脂加工大豆10kg(生大豆容積換算で17L)に80℃の温水を13L加え、蒸煮圧力2kg/cm^(2)(ゲージ圧力)で20分間加圧加熱蒸煮したものに、生小麦10kg(生小麦容積換算で13L)を炒熬した後割砕した炒熬割砕小麦を混合して水分約40w/w%の製麹用原料を調製した。この製麹用原料に、アスペルギルス・オリーゼ(ATCCD14895)のフスマ種麹を約0.1w/w%接種して麹蓋に盛り込み、30℃で42時間製麹して醤油麹24kgを得た。 【0022】 (酵母高含有諸味の調製) 上記醤油麹0.8kg(生種子容積換算で1L)を仕込みタンクにとり、諸味の発酵熟成後の食塩濃度が16.0w/v%になるように食塩水2.1Lを混和して醤油諸味を調製した。該食塩水の量は、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して210v/v%であった。上記醤油諸味に醤油乳酸菌を1×10^(5)個/g諸味となるように添加し、諸味品温を15℃に保持して乳酸発酵を約1カ月間行い、次に、醤油酵母を5×10^(5)個/g諸味となるように添加した後、諸味品温20℃で通気撹拌を7日間行い、酵母高含有諸味を得た。 【0023】 (低HEMF本醸造醤油の調製) 上記酵母高含有諸味全部に、前記醤油麹の調製に従って製造した醤油麹1.6kg及び食塩水2.1Lを加えて醤油諸味を調製した。該醤油諸味に使用した食塩水の合計は4.2Lであり、醤油麹の合計2.4kgに用いられた生種子換算での植物種子の容積3Lに対して140v/v%であった。次に、該醤油諸味を品温15?25℃で2カ月間発酵、熟成を行い、常法により圧搾濾過して得られた生醤油を食塩水で調整後火入れして、醤油香の穏やかな低HEMF本醸造醤油を調製した。 なお、当該低HEMF本醸造醤油の成分分析値は、全窒素濃度1.6w/v%、食塩濃度15w/v%、エタノール濃度3.2v/v%、pH5.3、還元糖1.0w/v%、醤油の標準色31番、全窒素1.0w/v%当たりのHEMF濃度13.9ppm、全窒素1.0w/v%当たりのn-ブチルアルコール濃度1.0ppm、全窒素1.0w/v%当たりのイソアミルアルコール濃度22.7ppm、無塩可溶性固形分17.92%であった。 【0024】 (サウザンアイランドドレッシングの調製) 表1に示した原材料を混合し、サウザンアイランドドレッシングを調製した。調製したサウザンアイランドドレッシングは、50gずつフィルムパックに充填密封し、60℃で10分間湯煎による加熱処理を行った後、常温まで冷却した。フィルムパックを開封して試食し、コクとトマトの風味について官能評価を行った。また、サウザンアイランドドレッシングの成分分析を行い、分析値を表2に示した。なお、表2の項目のうち、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールは、サウザンアイランドドレッシングの無塩可溶性固形分1w/w%当たりの濃度で記載した。また、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度を(A)、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度を(B)として、(A)及び(B)の合計を(A)+(B)として表2に記載した。 サウザンアイランドドレッシングの原材料として、前記低HEMF本醸造醤油、濃口醤油(キッコーマン食品社製、本醸造醤油)、上白糖(三井製糖社製)、ケチャップ(キッコーマン食品社製)、マヨネーズ(キユーピー社製)、穀物酢(ミツカン社製)、レモン果汁(濃縮還元100%)(ミツカン社製)及び食塩を使用した。上記濃口しょうゆの無塩可溶性固形分は19.12%、穀物酢の酸度は4.2%である。なお、表1の数値の単位はグラムである。 【0025】 (成分分析) 醤油及びトマト含有調味料の成分分析は、しょうゆ試験法(財団法人日本醤油研究所編(1985))に記載されている方法に従って行った。また、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールの濃度は、ガスクロマトグラフィーを用いて分析定量した(Journal of Agricultural and Food Chemistry Vol.39,934(1991)参照)。また、可溶性固形分は、Brix計(アタゴ社製、α5000型)を用いて、スクロース換算として測定を行った。食塩分は、塩濃度測定計(METTLER TOLEDO社製、G20型)を用いて測定した。測定した可溶性固形分から食塩分を差し引いた値を無塩可溶性固形分として算出した。 【0026】 (官能検査) 試料を5名のパネルに供し、コク及びトマトの風味について官能評価した。コクについては、対照例を基準として「同じ」を1、「やや強い」を2、「強い」を3、「かなり強い」を4、「非常に強い」を5として5段階で評価した。また、トマトの風味については、対照例に比較して「非常に弱い」を1、「弱い」を2、「やや弱い」を3、「わずかに弱い」を4、「同程度」を5として5段階で評価した。 【0027】 【表1】 【0028】 【表2】 【0029】 官能評価において、コクの評点が3.0以上及びトマトの風味の評点が4.0以上のものを、本発明における、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料とした。表2に示したように、本醸造醤油を添加しない対照例1のサウザンアイランドドレッシングに比べて、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのHEMF濃度17.5ppmのサウザンアイランドドレッシング(比較例1B)では、トマトの風味についての官能評価が評点3.8となり、トマトの風味が弱くなり、トマトの風味が抑制された。しかし、無塩可溶性固形分1w/w%当たりの12.0ppmサウザンアイランドドレッシング(実施例1B)では、トマトの風味についての官能評価が評点4.6で、トマトの風味は維持された。 【0030】 また、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.1ppmのサウザンアイランドドレッシング(比較例1A)では、コクについての官能評価が評点2.8で、コクの増強効果はあまり強くないが、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.7ppmのサウザンアイランドドレッシング(比較例1C)では、コクについての官能評価が評点3.8で、コクが十分に強くなっていることがわかる。 【実施例2】 【0031】 (トマトソースの調製) 表3に示した原材料を混合し、トマトソースを調製した。調製したトマトソースは、50gずつアルミラミネート袋に充填密封し、80℃で5分間湯煎による加熱処理を行った後、常温まで冷却した。アルミラミネート袋を開封して試食し、コクとトマトの風味について官能評価を行った。また、トマトソースの成分分析を行い、分析値を表4に示した。なお、表4の項目のうち、HEMF、n-ブチルアルコール及びイソアミルアルコールは、トマトソースの無塩可溶性固形分1w/w%当たりの濃度で記載した。また、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度を(A)、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度を(B)として、(A)及び(B)の合計を(A)+(B)として表4に記載した。 トマトソースの原材料として、前記低HEMF本醸造醤油、濃口醤油(キッコーマン社製、本醸造醤油)、市販のトマトソース(日本デルモンテ社製)及び食塩を使用した。なお、表3の数値の単位はグラムである。 【0032】 【表3】 【0033】 【表4】 【0034】 実施例1と同様に官能評価において、コクの評点が3.0以上及びトマトの風味の評点が4.0以上のものを、本発明における、トマトの風味が抑えられず、コクが強いトマト含有調味料とした。表4に示したように、本醸造醤油を添加しない対照例2に比べて、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのHEMF濃度が17.4ppmのトマトソース(実施例2B)では、トマトの風味についての官能評価が評点4.0で、トマトの風味が抑えられなかったが、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのHEMF濃度が19.1ppmのトマトソース(比較例2B)では、トマトの風味についての官能評価が評点2.6となり、トマトの風味が抑えられていることがわかる。 【0035】 また、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppmのトマトソース(比較例2A)では、コクについての官能評価が評点3.0で、コクの増強効果は本発明の基準をちょうど満たした。更に、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%当たりのイソアミルアルコール濃度の合計が10.1ppmのトマトソース(比較例2C)では、コクについての官能評価が評点4.0で、コクが十分に強くなっていることがわかる。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 低HEMF本醸造醤油及びトマトを含有するトマト含有調味料であって、トマト含有調味料の無塩可溶性固形分1w/w%当たりの4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン濃度が17.4ppm以下であり、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのn-ブチルアルコール濃度、及び、無塩可溶性固形分1w/w%あたりのイソアミルアルコール濃度の合計が9.4ppm以上であるトマト含有調味料。 【請求項2】 低HEMF本醸造醤油が全窒素1.5w/v%以上、醤油の標準色18番以上であり、全窒素1.0w/v%当たりの濃度が、4-ヒドロキシ-2(又は5)エチル-5(又は2)メチル-3(2H)フラノン15.0ppm以下の低HEMF本醸造醤油である請求項1に記載のトマト含有調味料。 【請求項3】 低HEMF本醸造醤油が、醤油麹の調製に用いられた生種子換算での植物種子の容積に対して170?450v/v%となる量の食塩水で仕込んだ醤油諸味を発酵熟成させ、発酵熟成途中の醤油諸味に、醤油麹、若しくは、醤油麹及び食塩水を添加して、更に発酵熟成させる醸造方法により製造された低HEMF本醸造醤油である請求項1又は2に記載のトマト含有調味料。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2019-09-27 |
出願番号 | 特願2013-156646(P2013-156646) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 千葉 直紀 |
特許庁審判長 |
山崎 勝司 |
特許庁審判官 |
大屋 静男 窪田 治彦 |
登録日 | 2017-12-08 |
登録番号 | 特許第6253182号(P6253182) |
権利者 | キッコーマン株式会社 |
発明の名称 | トマト含有調味料 |
代理人 | 榛葉 貴宏 |
代理人 | 榛葉 貴宏 |
代理人 | 須藤 晃伸 |
代理人 | 須藤 晃伸 |
代理人 | 須藤 阿佐子 |
代理人 | 鈴木 恵理子 |
代理人 | 鈴木 恵理子 |
代理人 | 須藤 阿佐子 |