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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 発明同一  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1356829
異議申立番号 異議2018-700731  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-09-07 
確定日 2019-10-03 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6290502号発明「ショウガ加工物およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6290502号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6290502号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
本件特許第6290502号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成29年8月9日(優先権主張 平成28年8月10日 日本国(JP))に出願されたものであって、平成30年2月16日にその特許権の設定登録がされ、平成30年3月7日にその特許掲載公報が発行され、その後、その請求項1ないし6に係る発明の特許について、平成30年9月7日に特許異議申立人 株式会社バスクリン により特許異議の申立てがされ、平成30年11月20日付けで取消理由が通知され、その指定期間内の平成31年1月17日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、令和元年5月7日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内の令和元年7月3日に特許権者より訂正の請求がされ、特許異議申立人に対し令和元年7月10日付けでその訂正の請求に対し意見があれば意見書を提出するように期間を指定して通知したところ、その指定期間内に特許異議申立人より意見書の提出がなかったものである。
なお、平成31年1月17日の訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

そして、特許異議申立人は特許異議申立書に添付して次の甲第1ないし7号証を提出した。
甲第1号証:特開2017-12122号公報
甲第2号証:2018年9月3日付けの特許異議申立人作成の実験成績証明書
甲第3号証:2018年9月4日付けの特許異議申立人作成の実験成績証明書
甲第4号証-1:「日本食品標準成分表2010」の「17 調味料及び香辛料類」の「しょうが」に係る項,文部科学省HP,インターネット<URL:http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/houkoku/1298713.htm>
甲第4号証-2:甲第4号証-1の一部拡大複写物
甲第5号証:特開2011-32248号公報
甲第6号証:特開2012-249553号公報
甲第7号証:特開2008-79562号公報

また、特許権者は意見書に添付して次の乙第1ないし6号証を提出した。
乙第1号証:ウェブサイト「Chemical Book」の「くえん酸」の画面の印刷物 平成31年1月7日印刷
<URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB9854361.htm>
乙第2号証:ウェブサイト「Chemical Book」の「DL-酒石酸」の画面の印刷物 平成31年1月7日印刷
<URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB5212873.htm>
乙第3号証:ウェブサイト「Chemical Book」の「DL-リンゴ酸」の画面の印刷物 平成31年1月7日印刷
<URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB7220795.htm>
乙第4号証:ウェブサイト「Chemical Book」の「フマル酸」の画面の印刷物 平成31年1月7日印刷
<URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB5852804.htm>
乙第5号証:ウェブサイト「Chemical Book」の「こはく酸」の画面の印刷物 平成31年1月7日印刷
<URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB9852802.htm>
乙第6号証:ウェブサイト「Chemical Book」の「アジピン酸」の画面の印刷物 平成31年1月7日印刷
<URL:https://www.chemicalbook.com/ChemicalProductProperty_JP_CB0718158.htm>

2 訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容
令和元年7月3日の訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである。

請求項1に係る「ショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)」を「ショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)」に訂正する。

また、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-6〕に対して請求されたものである。

(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
請求項1に係る「ショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)」は、「ショウガ以外の成分を含むもの」を選択肢として含む上位概念であるから、「ショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)」を「ショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、「ショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)」のうち、「ショウガ以外の成分を含むもの」を除くことは、本件特許に係る発明に何ら新たな技術的事項を導入するものではないし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。

3 訂正後の本件特許に係る発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし6に係る発明(以下「本件発明1ないし6」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(下線は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)であって、
6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であり、
6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上であり、
含水率が30重量%以下である、ことを特徴とするショウガ加工物。
【請求項2】
6-ジンゲロールおよび6-ショウガオールの合計含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、10mg以上である請求項1に記載のショウガ加工物。
【請求項3】
6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.5mg以上である請求項1または2に記載のショウガ加工物。
【請求項4】
含水率が10重量%以下である請求項1から3のいずれかに記載のショウガ加工物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のショウガ加工物を含有する組成物。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のショウガ加工物の製造方法であって、
原料ショウガを冷凍処理する冷凍工程と、
冷凍工程後のショウガを、ショウガに含まれるジンゲロール類の濃度より、ショウガオール類の濃度が高くなるまで、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、
蒸気加熱工程後のショウガを脱水処理する脱水工程と、を有し、脱水工程における脱水処理方法が減圧脱水処理である、
ことを特徴とするショウガ加工物の製造方法。」

4 令和元年5月7日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし6に係る特許に対して、当審が令和元年5月7日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。すなわち、本件特許に係る発明が解決しようとする課題は、本件特許明細書に記載された「ショウガの風味を損ねることなく、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物を提供すること」(【0015】)と認められる。そして、当該課題との関係からすると、本件特許明細書に記載されたように、「一方、ショウガオール類が富化されたショウガ加工物であっても、製造方法の違いにより、味や臭い等が異なることが経験的に知られている。特許文献2?6で開示されたショウガオール類の富化方法は、有機溶媒を使用しないため、ヒトへの安全性に優れる方法であるが、原料としてショウガ以外にも、乳酸(特許文献2)、クエン酸等の有機酸(特許文献3,4)、塩酸等の無機酸(特許文献5)、発酵液(特許文献6)等のショウガ以外の成分を必須とする。そのため、製造されるショウガ加工物には、前記ショウガ以外の成分由来の風味が必然的に付与される。そのため、得られるショウガ加工物は、ショウガ以外の成分の風味によってショウガ本来の風味が損なわれるというおそれがあった」(【0013】)ところ、「ショウガ以外の成分を添加しなくとも、ショウガに含まれるジンゲロール類を、高効率にショウガオール類に変換できることを見出し」(【0016】)たのであって、「本発明のショウガ加工物は、後述する通り、原料ショウガ以外の成分(酸や発酵液等)を使用せずに製造することができ、ショウガオール類(及びジンゲロール類)の絶対量が多いため、ショウガ本来の風味を損なわれない」(【0026】)ものである。また、発明の詳細な説明に記載された実験例1?3はショウガ以外の原料を用いるものでない。そうすると、「ショウガ以外の成分を使用しないこと」は本件特許に係る発明の課題を解決するための手段であると認められる。
しかしながら、特許請求の範囲の請求項1には、「ショウガ以外の成分を使用しないこと」は特定されているといえない。
したがって、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなる。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
同様に、「ショウガ以外の成分を使用しないこと」が特定されていない本件発明2ないし6は、発明の詳細な説明に記載したものではない。

(2)当審の判断
本件発明1は「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)」であって、本件特許に係る発明の課題を解決するための手段であると認められる「ショウガ以外の成分を使用しないこと」が特定されているといえる。
そうすると、この点において、請求項1には、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されていないとはいえず、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えることとなるとはいえない。
よって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
また、本件発明2ないし6は、少なくとも、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同じ理由により、本件発明2ないし6は、発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。

5 平成30年11月20日付け取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
訂正前の請求項1及び3ないし5に係る特許に対して、当審が平成30年11月20日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
本件特許の請求項1及び3ないし5に係る発明は、その出願の日(優先日)前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲第1号証(特開2017-12122号公報)に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであり、取り消されるべきものである。

(2)甲1発明
甲第1号証に係る特許出願(特願2015-134575号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「甲1明細書等」という。)には、以下の「甲1発明」が記載されていると認められる(特に、甲第1号証の「実施例2-1-3」に係る【0056】、【0061】の【表6】及び【0062】の記載参照。なお、当該特許出願は出願から出願の公開までの間に甲1明細書等の記載内容の補正等はなされていない。)。

「ショウガ粉末(「ショウガ末」:香栄興業(株)製、粒径355μm以下(42メッシュパス)、乾燥減量5%)と、クエン酸粉末(「無水クエン酸パウダー」:昭和化工(株)製、d50[μm]=57、d90[μm]=81、乾燥減量3%以下)との乾燥粉末同士を混合した混合粉末を平皿に移し、115℃で4時間の加熱処理を行い得た、ジンゲロールの含有量が低減され、ショーガオールの含有量が増加しているショウガ粉末加工物であって、
ショーガオールの含有量がショウガ粉末加工物の0.68%であり、
ショーガオール量/ジンゲロール量が5.5である、ショウガ粉末加工物。」

(3)当審の判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ジンゲロールの含有量が低減され、ショーガオールの含有量が増加している」態様は本件発明1の「ショウガオール類が富化された」態様に相当する。また、甲1明細書等の段落【0027】の記載からすると、甲1発明の「ジンゲロール」及び「ショーガオール」はそれぞれ「6-ジンゲロール」及び「6-ショーガオール」を指すから、甲1発明の「ショーガオールの含有量がショウガ粉末加工物の0.68%であ」る態様は本件発明1の「6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であ」る態様に相当し、甲1発明の「ショーガオール量/ジンゲロール量が5.5である」態様は本件発明1の「6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上である」態様に相当する。
そして、甲1発明の「ショウガ粉末(「ショウガ末」:香栄興業(株)製、粒径355μm以下(42メッシュパス)、乾燥減量5%)と、クエン酸粉末(「無水クエン酸パウダー」:昭和化工(株)製、d50[μm]=57、d90[μm]=81、乾燥減量3%以下)との乾燥粉末同士を混合した混合粉末を平皿に移し、115℃で4時間の加熱処理を行い得た」ものは、技術常識からするとショウガ抽出物ではなく、「クエン酸粉末(「無水クエン酸パウダー」:昭和化工(株)製、d50[μm]=57、d90[μm]=81、乾燥減量3%以下)」は「クエン酸」であるところ、甲1発明の加熱処理したショウガ粉末加工物は、化学反応等により「クエン酸」及び他の「ショウガ以外の成分」を含まないものになっていると直ちにいえるわけではないから、結局、本件発明1の「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)」及び「ショウガ加工物」と甲1発明の「ショウガ粉末(「ショウガ末」:香栄興業(株)製、粒径355μm以下(42メッシュパス)、乾燥減量5%)と、クエン酸粉末(「無水クエン酸パウダー」:昭和化工(株)製、d50[μm]=57、d90[μm]=81、乾燥減量3%以下)との乾燥粉末同士を混合した混合粉末を平皿に移し、115℃で4時間の加熱処理を行い得た、ジンゲロールの含有量が低減され、ショーガオールの含有量が増加しているショウガ粉末加工物」及び「ショウガ粉末加工物」とは「ショウガの加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)」の限りで一致している。
そうすると、両者は、
「ショウガオール類が富化されたショウガの加工物(但し、ショウガ抽出物を除く。)であって、
6-ショウガオールの含有量が、ショウガの加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であり、
6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上である、ショウガの加工物。」
で一致し、次の相違点で一応相違する。

[相違点1-1] ショウガの加工物に関し、本件発明1では、「ショウガ以外の成分を含むものを除く」のに対し、甲1発明では「ショウガ粉末(「ショウガ末」:香栄興業(株)製、粒径355μm以下(42メッシュパス)、乾燥減量5%)と、クエン酸粉末(「無水クエン酸パウダー」:昭和化工(株)製、d50[μm]=57、d90[μm]=81、乾燥減量3%以下)との乾燥粉末同士を混合した混合粉末を平皿に移し、115℃で4時間の加熱処理を行い得た」ものであり、ショウガ以外の成分を含まないものであるか否か明らかでない点。

[相違点1-2] ショウガの加工物の含水率に関し、本件発明1では、「30重量%以下である」のに対し、甲1発明では不明である点。

上記相違点1-1について検討すると、甲1発明は、「ショウガ粉末(「ショウガ末」:香栄興業(株)製、粒径355μm以下(42メッシュパス)、乾燥減量5%)と、クエン酸粉末(「無水クエン酸パウダー」:昭和化工(株)製、d50[μm]=57、d90[μm]=81、乾燥減量3%以下)との乾燥粉末同士を混合した混合粉末を平皿に移し、115℃で4時間の加熱処理を行い得た」のであって、甲1明細書等に「ショウガ粉末加工物において、有機酸の含有量は、好ましくは0.5?50質量%、より好ましくは2?45質量%、さらに好ましくは4?35質量%である」(段落【0030】)と記載されていることからすると、生成物がクエン酸や他のショウガ以外の成分を含むことを否定できないから、結局、甲1明細書に「ショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)」が実質的に記載されているということはできず、相違点1-1は実質的な相違点である。
したがって、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は甲1明細書等に記載された発明と同一ではないから、上記取消理由は理由がない。

イ 本件発明3ないし5について
本件発明3ないし5は、少なくとも、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲1明細書等に記載された発明と同一ではないので、上記取消理由は理由がない。

6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人は、特許異議申立書において、本件訂正前の本件特許に係る発明について、概略、(1)発明の詳細な説明は一般的解決手段を示していないことによる実施可能要件違反、(2)発明の詳細な説明は特定の「含有量」及び「比」しか開示していないことによるサポート要件違反及び実施可能要件違反、(3)優先権失効を主張した甲第1号証に基づく新規性進歩性違反、及び(4)甲第6号証に基づく新規性進歩性違反を主張するので、以下に検討する。

(1)発明の詳細な説明は一般的解決手段を示していない(実施可能要件違反)との主張について
ア 特許異議申立人の主張の要点
請求項1に係る発明は、「6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上」、「6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上」、「含水率が30重量%以下」という特徴で特定されている。これらの特徴は、当該特許に係るショウガ加工物の製造方法による「達成すべき結果」であるところ、請求項1は「達成すべき結果によって物を特定しようとする記載を含む請求項」である。
ここで、請求項1に係る発明について、発明の詳細な説明に具体的に記載されているショウガ加工物は、実験例1?3に記載の製造方法で得られたショウガ加工物のみである(表1)。また、実験例4?7に記載の製造方法では請求項1に係る発明が得られないことが示されており(表1)、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識を考慮しても、請求項に係る発明に含まれる他の部分についてはその実施をすることができないとする十分な理由がある。
したがって、発明の詳細な説明の記載が当業者が請求項1に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、請求項2?5に係る発明についても同様である。

イ 当審の判断
上記特許異議申立人の主張は次のとおり理由がない。
本件発明1は、ショウガ加工物という物の発明について、具体的な組成を特定しているから、達成すべき結果によって物を特定しようとする発明ということはできないし、発明の詳細な説明には、上記組成を得るための手段が具体的に記載され、実際に得られた旨の実施例の記載もあるから、実施可能要件は満たしている。
よって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

(2)発明の詳細な説明は特定の「含有量」及び「比」しか開示していない(サポート要件違反及び実施可能要件違反)との主張について
ア 特許異議申立人の主張の要点
請求項1に係る発明は、「6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上」、「6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上」、「含水率が30重量%以下」という特徴で特定されている。
6-ショウガオールの含有量について、本件特許明細書に具体的に実態をもって記載されているのは、実験例1?3のショウガ加工物の製造方法で得られたショウガ加工物のみであり、それぞれ7.8mg、6.9mg及び6.0mgである(表1)。したがって、6-ショウガオールを7.8mgよりも多く含有するショウガ加工物については、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものともいえない。
また、6-ジンゲロールに対する6-ショウガオールの含有量の比についても同様であり、実験例1?3で示した比(それぞれ2.00、2.09及び2.14)(表1)を超えるような発明については、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、また、発明の詳細な説明において裏付けられた範囲を超える発明を含むものであるから、発明の詳細な説明に記載された発明を記載したものともいえない。
また、請求項2?5に係る発明も同様である。

イ 当審の判断
上記特許異議申立人の主張は次のとおり理由がない。
本件特許明細書に記載された「ショウガは、生で未加工の状態では、・・・(略)・・・ジンゲロール類が多く、ショウガオール類はわずかしか存在しないが、ジンゲロール類から水を脱離させる脱水反応によりショウガオール類を得ることができる」(【0003】)ことからすれば、減圧脱水及び冷凍冷蔵処理を重ねるにつれて、すなわち、ショウガ加工物とすることによって、発明の詳細な説明に記載されているように6S/6Gを2.00、2.09、2.14(実験例1?3)と高めることができると当業者は認識できるから、本件発明1が、これらの実施例で裏付けられた6-ジンゲロールに対する6-ショウガオールの含有量の比の範囲を超える発明を含むものであるとまではいえない。そして、特許請求の範囲の記載は、この6S/6Gの比の特定に加え、6-ショウガオールの含有量も「ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上」のものに発明を特定して限定しているということである。したがって、本件発明1は、上記特許異議申立人の主張に関して、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えているとはいえないし、明細書の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないともいえない。
よって、特許異議申立人のかかる主張は、採用することができない。

(3)優先権失効を主張した甲第1号証に基づく新規性進歩性に係る主張について
ア 特許異議申立人の主張の要点
特許異議申立人は、本件発明1の「6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上」であること、及び、「6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上」であることの特定事項は、優先権主張の基礎とされた出願(特願2016-157534号。以下「先の出願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載された事項の範囲内のものではない旨主張し、本件特許の優先権失効を主張する。

イ 当審の判断
上記特許異議申立人の主張は次のとおり理由がない。
先の出願の当初明細書等の記載事項について検討すると、先の出願の当初明細書等には、明細書の【0069】の【表4】には実施例2の欄に、6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.9mg(すなわち6.0mg以上)であり、6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2.1(すなわち2以上)であり、含水率が5.2重量%(すなわち30重量%以下)である、ショウガ加工物が開示されている。
また、【0070】には「特に塊状のショウガを使用した実施例2の方法では、6-ショウガオールの絶対量が2倍以上含まれており、加工中の6-ショウガオールの蒸散が抑制され、大量の6-ショウガオールを含むショウガ加工品が得られることが確認された。」と記載されている。
そうすると、本件発明1の「6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上」であること、及び、「6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上」であることの特定事項は、先の出願の当初明細書等に記載された事項の範囲内のものではないとはいえない。
よって、特許異議申立て人の本件特許の優先権失効に係る主張は採用できず、新規性進歩性に係る主張も採用できない。

(4)甲第6号証に基づく新規性進歩性に係る主張について
ア 甲6発明
甲第6号証には、以下の「甲6発明」が記載されていると認められる。なお、より具体的には、【0031】の【表1】中の「実施例1-7」、「実施例1-9」及び「実施例1-11」並びに【0035】の【表2】中の「実施例2-1」、「実施例2-2」及び「実施例2-3」についてであって、ショウガオールの固形物換算での含有率(重量%)は、順に、0.271、0.180、0.247、0.244、0.180及び0.237である(特に、甲第6号証の【0013】、【0014】、【0022】、【0028】、【0031】、【0033】及び【0035】の記載参照。)。

「ショウガ乾燥物を120℃?250℃で加熱処理することで、効率よくショウガオールを増大させ、かつ、ショーガオールをジンゲロールより多く含有させたショウガ加工物であって、
ジンゲロール(G)に対するショウガオール(S)の含有量の比(S/G)が2以上であるショウガ加工物。」

イ 本件発明1について
本件発明1と甲6発明とを対比する。
甲6発明の「効率よくショウガオールを増大させ、かつ、ショーガオールをジンゲロールより多く含有させた」態様は本件発明1の「ショウガオール類が富化された」態様に相当する。また、技術常識からすると、甲6発明の「ジンゲロール」及び「ショーガオール」はそれぞれ「6-ジンゲロール」及び「6-ショーガオール」を指すから、甲6発明の「ジンゲロール(G)に対するショウガオール(S)の含有量の比(S/G)が2以上である」態様は本件発明1の「6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上である」態様に相当する。
そして、甲6発明の「ショウガ乾燥物を120℃?250℃で加熱処理することで、効率よくショウガオールを増大させ、かつ、ショーガオールをジンゲロールより多く含有させたショウガ加工物」及び「ショウガ加工物」は、技術常識からするとショウガ抽出物ではなく、かつ、ショウガ以外の成分を含むものではないといえるから、結局、本件発明1の「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)」及び「ショウガ加工物」に相当している。
そうすると、両者は、
「ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)であって、
6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上である、ショウガ加工物。」
で一致し、次の相違点で相違する。

[相違点6-1] ショウガ加工物の6-ショウガオールの含有量に関し、本件発明1では、「ショウガの加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であ」るのに対し、甲6発明では不明である点。

[相違点6-2] ショウガ加工物の含水率に関し、本件発明1では、「30重量%以下である」のに対し、甲6発明では不明である点。

上記相違点6-1について検討すると、甲第6号証にはショウガ加工物の6-ショウガオールの含有量が「ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であ」ることは記載されておらず、記載された具体的実施例においても、最も多い値でさえ実施例1-5の0.377重量%、すなわち、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、3.77mgである。
そして、甲第1ないし7号証をみても、甲6発明をして、「6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であ」るとすることを、当業者が容易に想到し得たとする証拠は発見できない。なお、特許異議申立書(34頁20?24行)において、特許異議申立人は「6-ジンゲロール量の多いショウガを原料として用いて、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上とすることは、ショウガオールをジンゲロールから生成してショウガオール量を増やすという課題を解決するための公知材料の中からの最適材料の選択であって設計事項に過ぎない」と主張するが、ショウガオールがジンゲロールから生成する際の具体的な量に係る証拠やジンゲロール量の多いショウガの具体例に係る証拠はなく、技術常識ともいえないから、当該主張を採用することはできない。
したがって、相違点6-2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲6発明ではなく、また、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6は、少なくとも、本件発明1の特定事項を全て含むものであるから、本件発明1と同じ理由により、甲6発明ではなく、また、甲6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショウガオール類が富化されたショウガ加工物(但し、ショウガ抽出物を除き、かつ、ショウガ以外の成分を含むものを除く。)であって、
6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.0mg以上であり、
6-ジンゲロール(6G)に対する6-ショウガオール(6S)の含有量の比(6S/6G)が2以上であり、
含水率が30重量%以下である、ことを特徴とするショウガ加工物。
【請求項2】
6-ジンゲロールおよび6-ショウガオールの合計含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、10mg以上である請求項1に記載のショウガ加工物。
【請求項3】
6-ショウガオールの含有量が、ショウガ加工物1g(固形物換算)当たり、6.5mg以上である請求項1または2に記載のショウガ加工物。
【請求項4】
含水率が10重量%以下である請求項1から3のいずれかに記載のショウガ加工物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載のショウガ加工物を含有する組成物。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載のショウガ加工物の製造方法であって、
原料ショウガを冷凍処理する冷凍工程と、
冷凍工程後のショウガを、ショウガに含まれるジンゲロール類の濃度より、ショウガオール類の濃度が高くなるまで、水蒸気共存下、温度100℃以上150℃以下の条件で加熱処理する蒸気加熱工程と、
蒸気加熱工程後のショウガを脱水処理する脱水工程と、を有し、脱水工程における脱水処理方法が減圧脱水処理である、
ことを特徴とするショウガ加工物の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-09-24 
出願番号 特願2017-154102(P2017-154102)
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 536- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
P 1 651・ 113- YAA (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 中村 勇介  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 田村 嘉章
莊司 英史
登録日 2018-02-16 
登録番号 特許第6290502号(P6290502)
権利者 株式会社エヌ・エル・エー
発明の名称 ショウガ加工物およびその製造方法  
代理人 森 博  
代理人 本多 一郎  
代理人 森 博  

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