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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
管理番号 1356863
異議申立番号 異議2019-700683  
総通号数 240 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2019-12-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-08-29 
確定日 2019-11-22 
異議申立件数
事件の表示 特許第6476485号発明「冷凍ソース和え炒め麺及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6476485号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第6476485号の請求項1?6に係る特許についての出願は、平成26年8月22日に出願され、平成31年2月15日にその特許権の設定登録がされ、同年3月6日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和1年8月29日付けで特許異議申立人 佐藤 武史より特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件特許発明
特許第6476485号の請求項1?6に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下、これらを「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などといい、まとめて「本件特許発明」という場合もある。

「【請求項1】
以下の工程、
(1)茹で麺を炒める工程、
(2)(1)で得た炒め麺を茹で麺200質量部に対して25?100質量部のソースと和える工程、
(3)(2)で得たソース和え炒め麺を真空冷却する工程、
(4)(3)で得た冷却したソース和え炒め麺を冷凍する工程を含み、及び
(5)前記工程(1)と(2)の間に茹で麺200質量部に対して5?25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程を含む、
冷凍ソース和え炒め麺の製造方法であって、
茹で麺がスパゲティであり、ソースがナポリタンソースである、前記製造方法。
【請求項2】
前記工程(4)において、(3)で得た冷却したソース和え炒め麺にソースを上掛けする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程(3)において、真空冷却時間が60分未満である、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(5)において、添加する水分の温度が65℃以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
工程(1)において、食用油を茹で麺200質量部に対して3?10g添加する、請求項1?4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
工程(1)において、130℃から250℃の範囲に加熱した調理器具を用いて炒める、1?5のいずれか1項に記載の製造方法。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人 佐藤 武史(以下、「申立人」という。)は、証拠方法として以下の甲第1号証?甲第12号証(以下、「甲1」などという。)を提出し、異議申立の理由として、以下の取消理由を主張している。

1 取消理由
(1)取消理由1(進歩性)
本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の甲1に記載された発明並びに甲2?8、10?12に記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。
(2)取消理由2(進歩性)
本件特許発明1?6は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された以下の甲2に記載された発明並びに甲3?8、10?12に記載の技術的事項に基いて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するから取り消すべきものである。
(3)取消理由3(サポート要件)
本件特許発明1?6に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。
(4)取消理由4(実施可能要件)
本件特許発明1?6に係る特許は、その発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。
(5)取消理由5(明確性)
本件特許発明5に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当するから取り消すべきものである。

2 証拠方法
(1)甲1:「HACCPマニュアル 生めん・半生めん・ゆでめん・むし
めん・冷凍めん・調理めん 生めん類・調理めんのHACCPプラン編
」、財団法人食品産業センター、全国製麺協同組合連合会、平成13年
3月、122?123頁
(2)甲2:実願昭57-87094号(実開昭58-189791号)の
願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭
和58年12月16日特許庁発行)
(3)甲3:特開平10-150939号公報
(4)甲4:特開昭59-175854号公報
(5)甲5:“さてと...めしにするか”,[online],平成20
年9月8日,[令和1年8月27日検索],インターネット<URL:
http://satemesi.seesaa.net/artic
le/388320119.html>
(6)甲6:“マ・マー ゆでスパゲッティ・ナポリタンnapo19(2
012/08/27)”,[online],平成24年8月27日,
食ベログ,[令和1年8月27日検索],インターネット<URL:h
ttps//tabelog.com/rvwr/000073138
/diarydtl/77398/>
(7)甲7:“五木食品 くまモンのナポリタン 342g×3袋”,[o
nline],Amazon co.jpでの取り扱い開始日 平成2
6年6月20日,Amazon co.jp,[令和1年8月27日検
索],インターネット<URL:https://www.amazo
n.co.jp/%E4%BA%94%E6%9C%A8%E9%A3
%9F%E5%93%81-%E3%81%8F%E3%81%BE%
E3%83%A2%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%83
%8A%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%82%BF%E
3%83%B3-342g%C3%973%E8%A2%8B/dp/
B00L4RUH2E><https://images-na.ss
l-images-amazon.com/images/I/81B
fRN0beXL._SL1500_.jpg>
(8)甲8:特開2001-186852号公報
(9)甲9:“日本製粉 オーマイナポリタン 240g”,[onlin
e],YAHOO JAPAN ショッピング,[令和1年8月27日
検索],インターネット<URL:https://store.sh
opping.yahoo.co.jp/matsumotokiyo
shi/4902170056848.html>
(10)甲10:“キユーピーアヲハタニュース 2008/7/24 N
o.52”,[online],平成20年7月24日,キューピー株
式会社,[令和1年8月27日検索],インターネット<URL:ht
tps://www.kewpie.com/newsrelease
/archive/2008/52.html>
(11)甲11:“ニュースリリース あえるだけで、炒めた香ばしさとジ
ューシーな味わい!『カゴメ王道の味 ナポリタン』新発売?トマトケ
チャップのカゴメが考える「王道のナポリタン」が手軽に楽しめる?2
014年1月30日”,[online],平成26年1月30日,カ
ゴメ株式会社,[令和1年8月27日検索],インターネット<URL
:https://www.kagome.co.jp/compan
y/news/2014/001641.html>
(12)甲12:“【完全保存版】主食1人前の量まとめ”[online
],平成28年2月1日,NAVER まとめ,[令和1年8月27日
検索],インターネット<https://matome.naver
.jp/odai/2139123497262489301>

第4 甲号証に記載された事項
1 甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1a)「



2 甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2a)「次に、この冷凍麺類の製法の一例としてナポリタンタイプのスパゲテイについて説明する。
(1)スパゲテイを7?8分間煮沸して堅めに茹で、水冷,水切りしてから植物油で炒めるかあるいはまぶす。
(2)玉ねぎ,マシユルームその他所要の具を油で炒め、ケチヤツプ,トマトソースその他所要の調味料を加え、冷却する。
(3)上記(1)と(2)とを混合し、この混合物を薄板状体2に成形して凍結し、これを例えば3段に重ねてパツクして冷凍スパゲテイを得る。
この冷凍スパゲテイを解凍調理するには、フライパンに油をひいて加熱し、之に該冷凍スパゲテイを凍結のまま入れて水40?50mlを加え、蓋をして2分間蒸し焼きしたのち蓋を除き、箸で1分間ほどほぐしながら攪拌すれば、腰の強さを保つたスパゲテイナポリタンが得られる。」(3頁9行?4頁10行)

3 甲3には、以下の事項が記載されている。
(甲3a)「【請求項1】蒸煮処理後、水洗した麺類を、真空度700?760mmHgの環境下で麺の品温を0?30℃とし、麺の水分含量を1?3%低い値にすることを特徴とする麺類の製造方法。
【請求項2】請求項1記載の方法で得られた麺類を冷凍することを特徴とする冷凍麺類の製造方法。」

(甲3b)「【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本明細書において麺類とは、うどん、そば、ひやむぎ、そうめん、中華麺、及びスパゲティ、マカロニのようなパスタ類などをいう。また蒸煮処理とは、茹でること、又は蒸すことをいい、蒸煮処理及び水洗は常法に従って実施することができる。・・・真空下での冷却あるいは冷凍は、真空冷却機によって実施することができ、例えば特10型テスト機(日空工業(株)製)などの真空冷却機が知られている。
【0006】蒸煮処理し、次いで水洗した麺類を、真空冷却機の冷却槽内に収容して、冷却を行う。真空下では、冷却槽内に収容されている麺において、含まれている水分の沸点が低下することになり、比較的高温の麺類は、水分の蒸発により潜熱を奪われて、急速に且つ均一に冷却される。このように冷却されると同時に、麺類は表面から乾燥することになる。よって、蒸煮処理直後、高かった水分勾配が幾分低くなって、水分移行を遅延させることとなり、茹で伸びが抑制され、品質及び食味の変化が少ないおいしい麺類を得ることができる。・・・
【0007】真空冷却する際には、このような麺の水分含量値の低下を達成できるように、真空度を適宜設定して、また、麺の品温を選択する。具体的には、真空度700?760mmHgの範囲、好ましくは720?750mmHgの範囲で、麺の品温を0?30℃、好ましくは5?25℃の範囲に下げることが好適である。真空冷却する処理時間は適宜変動するが、一般的に2?20分程度である。・・・このように真空冷却して得られた麺類を、包装し、あるいは例えば焼いたり炒めたりして調理した後、包装し、一般に5?10℃で冷蔵していわゆるチルド麺として流通させることができる。また、上記のように真空冷却して得た麺類を、常法に従って冷凍し、冷凍麺類とすることができる。例えば冷凍庫等において-18?-25℃、さらにはそれ以下の温度で、好ましくは-30℃以下で冷凍する。そして冷凍保存した状態で流通させることができる。」

4 甲4には、以下の事項が記載されている。
(甲4a)「2.特許請求の範囲
茹麺線を真空中で-5?20℃に急速冷却したのち、冷凍することを特徴とする冷凍麺の製造法。」(1頁左欄4?7行)

(甲4b)「本発明によれば、茹麺線の表面部の水分を冷却過程において適量蒸発除去させることができ上記欠点を消除できるものである。」(2頁左上欄12?14行)

(甲4c)「〔実施例1〕
常法によつて製造された茹麺、すなわち、100℃で茹上げた茹麺を真空冷却装置に入れ、5分間で2℃に急速冷却した。
この時点で水分除去状態を計測したところ、17.4%の水分が除去されていた。
つぎに、-30℃の冷凍庫に格納した結果、12分で完全に凍結し、ブロツク状部分のない冷凍麺が出来上つた。
つぎに、2週間後、熱湯に入れて解凍した。解凍時間は2分間である。
上記解凍により得られた麺は茹上げ時と同様の弾力性、つや、なめらかさ及び歯ごたえが得られ、品質に老化現象が全くなく、美味であつた。」(2頁右上欄4?18行)

(甲4d)「なお、上記実施例において真空冷却装置による急速冷却後、該真空冷却装置内の温度を下げて凍結を行つてもよい。また、真空中での急速冷却温度巾は麺線の太さにより調整され、-5?20℃の範囲が最適であり、急速冷却時間は4分?10分間とすることにより凍結に適した組織内水分量とすることができる。」(2頁左下欄12?18行)

5 甲5には、以下の事項が記載されている。
(甲5a)「裏の主要緒元を見ると≪ゆでソフトスパゲティ式めん≫と書かれてます。わたしが子供の頃はスパゲティと云えばこの類でした。いわゆる≪ナポリタン≫です。
・・・
裏面に記された≪調理法≫なんですが、このイラストも何だか懐かしく感じます。
<1>(決定注:原文は○の中に1)食油又バターを入れ野菜をいためる。
<2>(決定注:原文は○の中に2)スパゲティを入れ、ほぐしながら野菜といためる。
※ほぐれの悪い時は水を少々かける。
<3>(決定注:原文は○の中に3)いたまったところで火を切ってスープをふりかけよく混ぜて出来上がり。
と書かれてます。」(1頁9?27行)

6 甲6には、以下の事項が記載されている。
(甲6a)「マ・マー ゆでスパゲッティ・ナポリタン」(1頁2行)

(甲6b)「調理法は、1.サラダ油大さじ1で具材を炒め、2.麺を加え大さじ1の水を加えて炒め、3.弱火にして粉末のソースを混ぜる、という工程です。」(1頁25?26行)

(甲6c)「麺160g」(商品パッケージ裏面の右側の表示)

7 甲7には、以下の事項が記載されている。
(甲7a)「くまモンの『ナポリタン』2人前 おいしい召し上がり方(1人前)
<1>(決定注:原文は○の中に1)フライパンを程よく焼き、食油を大さじ一杯程入れます。
<2>(決定注:原文は○の中に2)肉・野菜など、お好みの具材を入れて炒めます。
<3>(決定注:原文は○の中に3)麺をよくほぐしながら入れ炒め、液体ソースをかけてよく混ぜ合わせれば出来上がり。」(商品パッケージ裏面の上部の表示)

(甲7b)「内容量 342g(めん300g)」(商品パッケージ裏面の左下の表示)

8 甲8には、以下の事項が記載されている。
(甲8a)「【請求項1】茹でパスタをソテーし、得られたソテーパスタの上にソースを添加し、次いで冷凍することを特徴とするソース入り冷凍ソテーパスタの製造方法。」

(甲8b)「【0012】茹でパスタをソテーするときに、予め茹でパスタにソースの一部を混合してもよい。予め茹でパスタにソースの一部を添加することにより、パスタがスパゲッティであれば、解凍後のソース入りソテーパスタのソテー感が向上し、パスタがマカロニであれば、解凍後のソース入りソテーパスタのソースのりが向上する(パスタにソースがからまって両者の一体感が向上する)。」

(甲8c)「【0017】実施例1
ソース入り冷凍ソテースパゲッティの製造
スパゲッティ(日清製粉(株)製「ハイブルー」)200gを2Lの沸騰水に入れ、9分間茹で上げた後、5℃に冷却して歩留まり240%の茹でスパゲッティを調製した。これとは別に、ナポリタンソース(日清製粉(株)製「マ・マーナポリタンソース」)を用意した。次いで該茹でスパゲッティ200gと該ナポリタンソース50gとを混合し、得られた混合物と10gの食用油でよく撹拌しながら強熱で2分間ソテーした。次いで、得られたソテースパゲッティを容器に充填し、その上に該ナポリタンソースをさらに50g添加して、密閉した。得られたナポリタンソース入りソテースパゲッティを-30℃の冷凍庫に入れて完全に凍結させ、ナポリタンソース入り冷凍ソテースパゲッティ(試料No.1)を製造した。
・・・
【0022】実施例2
ソース入り冷凍ソテーマカロニの製造
マカロニ(日清製粉(株)製「N-ペンネリガーテ 7-25」)100gを1Lの沸騰水に入れ、9分間茹で上げた後、5℃に冷却して歩留まり250%の茹でマカロニを調製した。これとは別に、トマトソース(日清製粉(株)製「マ・マーボンゴレロッソソース」)を用意した。次いで該茹でマカロニ100gと10gの食用油とを炒め鍋に入れて、よく撹拌しながら強熱で2分間ソテーした後、次いで、トマトソースを添加してよく混合した。得られたソテーマカロニを容器に充填し、その上に該トマトソースをさらに90g添加して、密閉した。得られたトマトソース入りソテーマカロニを-30℃の冷凍庫に入れて完全に凍結させ、トマトソース入り冷凍ソテーマカロニ(試料No.6)を製造した。」

9 甲9には、以下の事項が記載されている。
(甲9a)「日本製粉 オーマイ ナポリタン 240g」(1頁右欄2行)

(甲9b)「原料・成分等
野莱(玉ねぎ、にんじん、ピーマン)、トマトペースト、砂糖、植物油脂、醸造酢、マッシュルーム水煮、食塩、ラード、にんにくペースト、チキンエキス、ベーコン風味調味料、香辛料、増粘剤(加工でん粉)、調味料(アミノ酸等)、香料、(原材料の一部に小麦、大豆、豚肉、りんごを含む)」(2頁下から8?6行)

10 甲10には、以下の事項が記載されている。
(甲10a)「『あえるパスタソース』シリーズは、ゆでたパスタにあえるだけで、ソースを温める必要がないため、簡単・便利なソースとして2002年春の発売以来、ご好評いただいています。」(1頁12?13行)

(甲10b)「

」(1頁の表)

(甲10c)「○粘度を調整し、よりあえやすくなりました。」(2頁3行)

11 甲11には、以下の事項が記載されている。
(甲11a)「■ 商品概要
商品名 区分 容量・・・
カゴメ王道の味 ナポリタン 新商品 100g(1人分)・・・
■ 商品特長
◇ あえるだけで、トマトケチャップと具材を炒めたときのような香ばしい香りと、ジューシーな味わいの両方が楽しめる、
個食タイプのナポリタン用パスタソース。」(2頁下から7行?3頁4行)

12 甲12には、以下の事項が記載されている。
(甲12a)「主食1人前の量まとめ
・・・
乾麺パスタはゆでると約2.5倍の重量になります
・・・
乾麺100g→ゆでパスタ250g」(1頁1行?2頁10行)

第5 当審の判断
1 取消理由1(進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
甲1の上記(甲1a)123頁の焼きそば・焼きうどんの製造工程フロー図からみて、甲1には、めんの製造工程について、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「めん(むしめん)(うどん)を炒める工程、
ソース・調味料と混合する工程、
真空冷却する工程を含む、
焼きそば・焼きうどんの製造方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「めん(むしめん)(うどん)を炒める工程」は、本件特許発明1の「(1)茄で麺を炒める工程」と「(1)麺を炒める工程」である点で共通する。
甲1発明の「ソース・調味料と混合する工程」は、本件特許発明1の「(2)(1)で得た炒め麺を茄で麺200質量部に対して25?100質量部のソースと和える工程」と「(2)(1)で得た炒め麺をソースと和える工程」である点で共通する。
甲1発明の「真空冷却する工程」は、本件特許発明1の「(3)(2)で得たソース和え炒め麺を冷凍する工程」に相当する。
甲1発明の「焼きそば・焼きうどんの製造方法」は、本件特許発明1の「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」と「ソース和え炒め麺の製造方法」である点で共通する。
そうすると、両発明は、「以下の工程、(1)麺を炒める工程、(2)(1)で得た炒め麺をソースと和える工程、(3)(2)で得たソース和え炒め麺を真空冷却する工程を含む、ソース和え炒め麺の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1-1:麺の種類について、本件特許発明1は、「茄で麺」であり、「茄で麺」が「スパゲティ」であるのに対して、甲1発明は、「めん(むしめん)(うどん)」であり「焼きそば・焼きうどん」である点。

相違点1-2:炒め麺とソースの和える割合について、本件特許発明1は、茹で麺「200質量部」に対して「25?100質量部」のナポリタンソースと和えるのに対して、甲1発明には、炒めめんとソース・調味料の和える割合について記載されていない点。

相違点1-3:本件特許発明1は、「(4)(3)で得た冷却したソース和え炒め麺を冷凍する」「冷凍ソース和え炒め麺」であるのに対して、甲1発明には、真空冷却しためんを冷凍することについて記載されていない点。

相違点1-4:本件特許発明1は、「(5)前記工程(1)と(2)の間に茄で麺200質量部に対して5?25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程」を含むのに対して、甲1発明には、炒める工程とソース・調味料と混合する工程の間に水分を添加して更に麺を炒める工程について記載されていない点。

イ 相違点についての判断
事案に鑑み相違点1-4について検討する。
相違点1-4に関して、甲5には、スパゲティを入れ、ほぐしながら野菜といためる時に、ほぐれの悪い時は水を少々かける旨(上記(甲5a))、甲6には、ゆでスパゲッティ・ナポリタンを調理する際に、麺(160g)に対して大さじ1の水(15g)を加えて炒める旨(上記(甲6a)?(甲6c))、それぞれ記載されている。
確かに、調理後すぐ食べる一般的なスパゲティの調理方法として、甲5及び甲6に記載されたことは知られているといえる。
しかしながら、相違点1-4の工程は、単にスパゲティ等の麺類を調理するだけでなく、「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」に関するものである。そして、甲5及び甲6には、調理したものを冷凍することに関しては、何ら記載ないし示唆されていない。
そうであれば、「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」に用いる相違点1-4の工程のために、甲5及び甲6に記載された技術的事項を適用する動機付けを認めることはできない。
そして、この相違点1-4により、本件特許発明1は、本件特許明細書段落【0025】の試験例3の【表4】に示された実施例2及び3のとおり、食感、炒め感、食味いずれも非常に良好であるという効果を奏するものであり、この点は、甲1発明及び甲5及び甲6の記載からは、当業者が予測できない格別顕著な効果である。
また、更に、上記甲2?甲4、甲7?甲8、甲10?甲12のいずれに記載された技術的事項を組み合わせたとしても、相違点1-4について、記載ないし示唆するものがなく、相違点1-4を導くことができない。
したがって、本件特許発明1は、相違点1-1?相違点1-3について検討するまでもなく、甲1発明を主発明とし甲2?甲8、甲10?甲12を組み合わせたとしても当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6はいずれも、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。
そうすると、本件特許発明1が、甲1発明を主発明とし甲2?甲8、甲10?甲12を組み合わせたとしても当業者が容易に発明できたものとはいえない以上、本件特許発明2?6も、同様の理由により当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6は、甲1に記載された発明並びに甲2?甲8、甲10?甲12に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

2 取消理由2(進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
甲2の上記(甲2a)からみて、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「(1)スパゲテイを7?8分間煮沸して堅めに茹で、水冷,水切りしてから植物油で炒めるかあるいはまぶす工程、
(2)玉ねぎ,マシユルームその他所要の具を油で炒め、ケチヤツプ,トマトソースその他所要の調味料を加え、冷却する工程、及び
(3)上記(1)と(2)とを混合し、この混合物を薄板状体に成形して凍結し、これを例えば3段に重ねてパツクして冷凍スパゲテイを得る工程を含む、
ナポリタンタイプのスパゲッティである冷凍麺類の製造方法。」

(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「(1)スパゲテイを7?8分間煮沸して堅めに茹で、水冷,水切りしてから植物油で炒めるかあるいはまぶす工程」は、本件特許発明1の「(1)茄で麺を炒める工程」に相当する。
甲2発明の「(2)玉ねぎ,マシユルームその他所要の具を油で炒め、ケチヤツプ,トマトソースその他所要の調味料を加え、冷却する工程、及び(3)上記(1)と(2)とを混合」する工程は、本件特許発明1の「(2)(1)で得た炒め麺を茄で麺200質量部に対して25?100質量部のソースと和える工程」と「(2)(1)で得た炒め麺をソースと和える工程」である点で共通する。
甲2発明の「この混合物を薄板状体に成形して凍結し、これを例えば3段に重ねてパツクして冷凍スパゲテイを得る工程」は、本件特許発明1の「(4)(3)で得た冷却したソース和え炒め麺を冷凍する工程」と「(4)ソース和え炒め麺を冷凍する工程」である点で共通する。
甲2発明の「ナポリタンタイプのスパゲッティである冷凍麺類の製造方法」は、本件特許発明1の「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法であって、茹で麺がスパゲティであり、ソースがナポリタンソースである、前記製造方法」に相当する。
そうすると、両発明は、「以下の工程、(1)茹で麺を炒める工程、(2)(1)で得た炒め麺をソースと和える工程、(4)ソース和え炒め麺を冷凍する工程を含む、冷凍ソース和え炒め麺の製造方法であって、茹で麺がスパゲティであり、ソースがナポリタンソースである、前記製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点2-1:炒め麺とソースの和える割合について、本件特許発明1は、茹で麺「200質量部」に対して「25?100質量部」のソースと和えるのに対して、甲2発明には、炒め麺と具及び調味料の和える割合について記載されていない点。

相違点2-2:本件特許発明1は、「(3)(2)で得たソース和え炒め麺を真空冷却する」のに対して、甲2発明には、「上記(1)と(2)とを混合」したものを真空冷却することについて記載されていない点。

相違点2-3:本件特許発明1は、「(5)前記工程(1)と(2)の間に茄で麺200質量部に対して5?25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程」を含むのに対して、甲2発明には、(1)と(3)の間に水分を添加して更に麺を炒める工程について記載されていない点。

イ 相違点についての判断
(ア)事案に鑑みまず相違点2-3について検討する。
上記1(2)イのとおり、調理後すぐ食べる一般的なスパゲティの調理方法として、甲5及び甲6に記載されたことは知られているといえる。
しかしながら、相違点2-3の工程は、単にスパゲティ等の麺類を調理するだけでなく、「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」に関するものである。そして、甲5及び甲6には、調理したものを真空冷却することに関しては、何ら記載ないし示唆されていない。
そうであれば、「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」に用いる相違点2-3の工程のために、甲5及び甲6に記載された技術的事項を適用する動機付けを認めることはできない。
そして、この相違点2-3により、本件特許発明1は、本件特許明細書段落【0025】の試験例3の【表4】に示された実施例2及び3のとおり、食感、炒め感、食味いずれも非常に良好であるという効果を奏するものであり、この点は、甲2発明及び甲5及び甲6の記載からは、当業者が予測できない格別顕著な効果である。
また、更に、上記甲3?甲4、甲7?甲8、甲10?甲12のいずれに記載された技術的事項を組み合わせたとしても、相違点2-3について、記載ないし示唆するものがなく、相違点2-3を導くことができない。

(イ)加えて相違点2-2についても検討する。
相違点2-2に関して、甲3には、蒸煮処理し、次いで水洗した麺類を、真空冷却機で冷却を行う旨(上記(甲3a)?(甲3b))、甲4には、茹麺を真空冷却装置で急速冷却する旨(上記(甲4a)?(甲4d))、それぞれ記載されている。
確かに、冷凍麺類を製造する方法として、甲3及び甲4に記載されたことは知られているといえる。
しかしながら、相違点2-2の工程は、単に冷凍麺類を製造するだけでなく、「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」に関するものである。そして、甲3及び甲4には、茹で麺を真空冷却する前に炒めること及び炒めた麺をソースと和えることに関しては、何ら記載ないし示唆されていない。
そうであれば、「冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」に用いる相違点2-2の工程のために、甲3及び甲4に記載された技術的事項を適用する動機付けを認めることはできない。
そして、この相違点2-2により、本件特許発明1は、本件特許明細書段落【0023】の試験例2の【表3】に示された実施例1のとおり、食感、炒め感、食味いずれも良好であるという効果を奏するものであり、この点は、甲2発明及び甲3及び甲4の記載からは、当業者が予測できない格別顕著な効果である。なお、上記試験例2は本件特許発明1の工程(5)を有さない製造方法による結果であるが、炒めた麺とソースとを和えた温かい状態のソース和え炒め麺についての冷却手段の違いによる評価である点で、炒める途中で特定量の水分を添加するか否かに係わらず同様な結果となることが推認できる。
また、更に、上記甲5?8、甲10?甲12のいずれに記載された技術的事項を組み合わせたとしても、相違点2-2について、記載ないし示唆するものがなく、相違点2-2を導くことができない。
したがって、本件特許発明1は、相違点2-1について検討するまでもなく、甲2発明を主発明とし甲3?甲8、甲10?甲12を組み合わせたとしても当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(3)本件特許発明2?6について
本件特許発明2?6はいずれも、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものである。
そうすると、本件特許発明1が、甲2発明を主発明とし甲3?甲8、甲10?甲12を組み合わせたとしても当業者が容易に発明できたものとはいえない以上、本件特許発明2?6も、同様の理由により当業者が容易に発明できたものとはいえない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6は、甲2に記載された発明並びに甲3?甲8、甲10?甲12に記載の技術的事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件特許発明1?6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号により取り消すべきものではない。

3 取消理由3(サポート要件)及び取消理由4(実施可能要件)について
(1)取消理由3(サポート要件)について
ア 本件特許発明の解決しようとする課題
本件特許発明1?6の解決しようとする課題は、本件特許明細書【0004】からみて、「麺とソースが馴染んで一体感があり、また麺のプリッとした弾力、適度な柔らかさ、歯ごたえの調和が優れ、麺に香ばしさと炒めた風味のある冷凍ソース和え炒め麺の製造方法」を提供することにあると認められる。

イ 判断
(ア)本件特許明細書には、次のように記載されている。
・ 「そこで本発明者等は、茹で麺を炒める工程、炒め麺をソースと和える工程を含む方法でソース和え炒め麺を製造し、ソース和え炒め麺を真空冷却後に冷凍することで麺とソースが馴染んで一体感があり、また麺のプリッとした弾力、適度な柔らかさ、歯ごたえの調和が優れ、麺に香ばしさと炒めた風味のある冷凍ソース和え炒め麺を製造することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。」(【0005】)
・ 「本発明の冷凍ソース和え炒め麺の製造方法は、茹で麺を炒めてから別途調理した具材やソースと合わせる方法、つまり茹で麺を炒める工程、炒め麺をソースと和える工程を含む方法でソース和え炒め麺を製造し、ソース和え炒め麺を真空冷却した後に冷凍することで麺とソースが馴染んで一体感があり、また麺のプリッとした弾力、適度な柔らかさ、歯ごたえの調和が優れ、麺に香ばしさと炒めた風味のある冷凍ソース和え炒め麺を製造することができる。」(【0006】)
・ 「本発明の冷凍ソース和え炒め麺の製造方法は、茹で麺を炒める工程、炒め麺をソースと和える工程を含む方法でソース和え炒め麺を製造し、ソース和え炒め麺を真空冷却後に冷凍することを特徴とする。」(【0007】)
・ 「本発明の製造方法において、ソース和え炒め麺の製造方法は茹で麺を炒めてから別途調理した具材やソースと合わせる方法、つまり(1)茹で麺を炒める工程、(2)工程(1)で得た炒め麺をソースと和える工程を含む方法であれば特に限定されない。この方法により麺自体に香ばしさと炒めた風味を付与することが出来る。」(【0011】)
・ 「本発明の製造方法において、前記(1)茹で麺を炒める工程に続いて、水分を添加して更に麺を炒める工程を含むことが好ましい。添加する水分量は茹で麺200質量部に対して0?35質量部が好ましく、より好ましくは5?25質量部さらに好ましくは5?15質量部である。35質量部を超えると、麺への吸水量が多くなり、麺が柔らかくなりすぎ、弾力感が損なわれる。」(【0014】)
・ 「真空冷却すると、ソース和え麺の表面水分が気化してソースの流動性が低下し、ソースが麺にしっかりと付着した状態になると共に麺の締りが良くなる。真空冷却しないと、水分が気化しないのでソースの流動性が高いため、ソース垂れし易く、麺とソースの一体感が損なわれ、また、ソースの水分が麺に吸水されて麺が柔らかくなる。」(【0016】)
これら、本件特許明細書の記載から、本件特許発明1?6の課題は、本件特許発明1で特定される、(1)?(5)の工程を含む製造方法により製造することにより解決できることが理解できる。

(イ)本件特許明細書の実施例では、「試験例1[茹で麺を炒める工程の効果の検討]」(【0022】及び【表2】)において、本件特許発明1の「(1)茹で麺を炒める工程」、「(2)(1)で得た炒め麺を茹で麺200質量部に対して20?110質量部のソースと和える工程」について、茹で麺にソースを添加して炒めた場合との比較を行い、「茹でスパゲティを先に炒めて余熱でソースを和えた実施例1は良好な食感、炒め感、食味を示した。これに対し、茹でスパゲッティをソースと共に炒めた比較例1ではスパゲッティが吸水して柔らかくなり、弾力感が損なわれ、麺自体に十分な炒め感を付与することが出来なかった。」という結果が示されている。
また、「試験例2[真空冷却の効果の検討]」(【0023】?【0024】及び【表3】)において、本件特許発明1の「(3)(2)で得たソース和え炒め麺を真空冷却する工程」について、冷却をしないか、異なる冷却手段を採用した場合との比較を行い、「実施例1は食感、炒め感、食味いずれも良好であった。冷却せずに冷凍を行った比較例2では食感、炒め感、食味いずれも従来技術によるものと差が認められなかった。風冷を行った比較例3、冷蔵を行った比較例4では、スパゲッティが吸水して柔らかくなりすぎ、弾力感及び炒め感が損なわれた。」という結果が示されている。
そして、「試験例3[炒め麺に水分を添加して更に炒める効果の検討]」(【0025】及び【表4】)において、本件特許発明1の「(5)前記工程(1)と(2)の間に茹で麺200質量部に対して5?25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程」について、水分を添加しないか、30質量部以上の水分を添加した場合との比較を行い、10又は20質量部の水分を添加した場合に、そうでない場合に比べて、食感、炒め感、食味いずれも非常に優れた結果が示されている。
すなわち、本件特許明細書の実施例で、本件特許発明1で特定される、(1)?(5)の工程を含む製造方法により製造することにより、本件特許発明1?6の課題が解決できることが具体的に示されている。

ウ まとめ
以上のとおり、本件特許発明1?6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明において、本件特許発明1?6の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるから、本件特許発明1?6が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

(2)取消理由4(実施可能要件)について
本件特許発明1?6は、茹で麺がスパゲティであり、ソースがナポリタンソースである冷凍ソース和え炒め麺の製造方法に関するところ、本件特許発明1?6において特定される(1)?(5)の各工程のそれぞれは、本件特許明細書【0012】?【0018】に各工程の説明がされている。
そして、実施例の「製造例1[冷凍ナポリタンスパゲッティの製造例]」(【0019】)に、本件特許発明1?3、5?6において特定される(1)?(4)の工程による具体的な製造方法が記載され、実施例の「試験例3[炒め麺に水分を添加して更に炒める効果の検討]」に、本件特許発明1及び4において特定される(5)の工程による製造方法が記載されている。
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細は説明の記載は、本件特許発明1?6を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえ、本件特許発明1?6が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満足しないとはいえない。

(3)申立人の主張について
ア 申立人は、申立書21?25頁において、サポート要件及び実施可能要件について、概略次のように主張する。
(i)本件特許発明1?6の工程(1)及び工程(5)の「炒め条件」について
本件特許発明1?6は、「(1)茹で麺を炒める工程」及び「(5)前記工程(1)と(2)の間に・・・水分を添加して更に麺を炒める工程」の2回の炒める工程が必須となっているが、それぞれにおける炒め温度や炒め時間等の「炒め条件」が特定されていないところ、炒めた風味や香ばしさ、麺の柔らかさや弾力等が炒め条件により大きく左右されることは本件特許出願時の技術常識であるから、当業者は、炒め条件がどのようなものであっても本件特許発明の効果を奏するとは理解することができない。
(ii)本件特許発明1?6の工程(2)の「25?100質量部のソース」について
甲9及び甲10の上記(甲9a)、(甲9b)、(甲10a)及び(甲10c)の記載から理解できるとおり、ナポリタンソースには野菜類のような固形の具材が含まれ、粘度を調整することで和えやすさを改善できるものであるところ、本件特許発明1?6のナポリタンソースは、水分含量や粘度、スパゲティの食味・食感に影響を及ぼす野菜のような具材の種類、配合量において広範なものが包含されるものであるから、これら全てにおいて、ナポリタンスパゲティとした際に同様の食味や食感が得られるとは想定できず、本件特許発明1?6の工程(2)で特定されたソース量の範囲内において、本件特許発明の効果を奏することができるのかどうか推定することができない。
(iii)本件特許発明5の食用油の添加量「3?10g」について
本件特許明細書の実施例の「製造例1[冷凍ナポリタンスパゲッティの製造例]」には、「3.水切り後、茹でスパゲッティ200gに対して麺線の乾燥とくっ付きを防止するため4gのサラダ油を加えて十分に混合した。4.表面温度が240℃に到達した鉄鍋に8gのサラダ油を注ぎ入れて加熱し、次いで200gの茹でスパゲッティを投入して4分間炒めた。」(【0019】)と記載されており、炒める際に添加されたサラダ油は4g+8gで12gということになるから、本件特許明細書の実施例は本件特許発明5の特定を満たしておらず、本件特許発明5の効果を確認することができない。
(iv)本件特許発明1?6の工程(1)及び工程(5)の「茹で麺を炒める工程」について
本件特許発明1?6の「(1)茹で麺を炒める工程」及び「(5)前記工程(1)と(2)の間に茹で麺200質量部に対して5?25質量部の水分を添加して更に麺を炒める工程」は、ソースを添加しないことが特定されていないから、それぞれの工程でソースを添加することが含まれるが、本件特許明細書の比較例1でソースを添加して炒めると本件特許発明の効果が得られないことが示されており、また、炒め調理にソースを添加するか否かは麺の水分状態に大きな影響を及ぼすため得られる麺の弾力や炒め感が異なることは明らかであるから、工程(1)又は工程(5)でソースを添加して炒めた場合に本件特許明細書の実施例で示されたものと同様の効果が奏されるとは当業者は理解できない。

イ そこで、申立人の主張について検討するに、本件特許発明1?6がサポート要件及び実施可能要件を満たすことは、上記(1)及び(2)で述べたとおりである。
そして、申立人も申立書で主張するように、(i)については、麺類を炒める条件によって、炒めた風味や香ばしさ、麺の柔らかさや弾力等が左右されることを当業者は理解していること、(ii)については、工程(2)の茹で麺に対するソースの量はナポリタンソースのスパゲティにおけるごく一般的な技術常識の範囲内の量であることからすると、特許請求の範囲に炒め条件やナポリタンソースの詳細が特定されていないことで、サポート要件や実施可能要件を満たさないということにはならない。
また、(iii)については、実施例の製造例1における「くっ付きを防止するため」に添加したサラダ油は、本件特許発明5が引用する本件特許発明1の「(1)茹で麺を炒める工程」で添加するものではなく、(iv)については、本件特許発明1?6の文言上からも本件特許明細書全体の記載からも、本件特許発明1?6において、工程(1)又は工程(5)でソースを添加しないことは明らかである。
よって、申立人の主張はいずれも採用することができない。

4 取消理由5(明確性)について
申立人は、請求項5の記載は、相対的な量を示すための「質量部」の量と絶対量の単位である「g」の量との比率を規定するものであるため不明確であると主張する。
そこで検討するに、本件特許明細書には、本件特許発明1の工程(2)で特定する「茹で麺200質量部に対して25?100質量部のソース」、工程(5)で特定する「茹で麺200質量部に対して5?25質量部の水分」に対応する実施例では、茹で麺200gに対して、ソースを70gや水を10gで用いており、食用油についても、茹でスパゲティ200gに対して8gのサラダ油を添加したことが記載されている(【0019】)。
そうすると、請求項5の「200質量部に対して3?10g」という記載は、いずれもが質量部(あるいはg)であることと理解でき、請求項5のこの記載が、両者の量比の関係について、本件特許明細書の記載から理解される事項から外れた他の意味と解されるともいえず、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとまではいえない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-12 
出願番号 特願2014-169300(P2014-169300)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田中 晴絵  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 中島 庸子
関 美祝
登録日 2019-02-15 
登録番号 特許第6476485号(P6476485)
権利者 日本製粉株式会社
発明の名称 冷凍ソース和え炒め麺及びその製造方法  
代理人 ▲吉▼田 和彦  
代理人 須田 洋之  
代理人 秋澤 慈  
代理人 田中 伸一郎  
代理人 市川 さつき  
代理人 服部 博信  

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