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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 B01J 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B01J |
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管理番号 | 1357102 |
審判番号 | 不服2018-16245 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-12-06 |
確定日 | 2019-12-03 |
事件の表示 | 特願2015-191821「硫化水素ガス吸着材」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 4月 6日出願公開、特開2017- 64613、請求項の数(3)〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成27年9月29日の出願であって、平成30年2月15日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年3月15日付けで手続補正がされ、平成30年5月30日付けで最後の拒絶理由通知がされ、平成30年7月24日付けで手続補正がされ、平成30年8月30日付けで平成30年7月24日付けの手続補正が却下されるとともに拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、平成30年12月6日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がされたものである。 第2 平成30年8月30日付けの補正の却下の決定及び原査定の概要 1.平成30年8月30日付けの補正の却下の決定の概要は以下のとおりである。 平成30年7月24日付けの補正は、特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするためのものであるが、当該補正後の本願請求項1-3に係る発明は、引用文献10及び引用文献1-9に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、独立特許要件を満たさないから、平成30年7月24日付けの補正は却下すべきものである。 引用文献等一覧 10.特開2014-87723号公報 1.特開昭58-166931号公報(周知技術を示す文献) 2.特開2002-249348号公報(周知技術を示す文献) 3.特開2014-54629号公報(周知技術を示す文献) 4.特開平9-103673号公報(周知技術を示す文献) 5.特表2013-536071号公報(周知技術を示す文献) 6.米国特許出願公開第2002/0052291号明細書(周知技術を示す文献) 7.特開2014-200706号公報(周知技術を示す文献) 8.特開2013-56324号公報(周知技術を示す文献) 9.特開昭63-224715号公報 (周知技術を示す文献) 2.原査定(平成30年8月30日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。 (1)本願の平成30年3月15日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1-3に係る発明は、上記引用文献10及び引用文献1-9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 (2)本願の平成30年3月15日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1-3に係る発明は、具体的にどのようにすることで「pHが10以下」となり、また、「硫化水素ガスの最大吸着容量(吸着材量0.1g、硫化水素ガス容量2リットル、硫化水素ガス初期濃度10,500ppmのとき、48時間後までに吸着材100g当たりが吸着した硫化水素ガスの質量、試験温度25℃一定)が32g以上」に該当する硫化水素ガス吸着材が得られるのかが明確に把握できないから、特許法第36条第6項第2号の規定により特許を受けることができない。 第3 原査定の理由(1)について 1.本願発明 本願請求項1-3に係る発明は、平成30年12月6日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1-3に記載された事項により特定される発明(以下、それぞれ「本願発明1」、「本願発明2」、「本願発明3」という。)であり、以下のとおりのものと認められる。 「【請求項1】pH11?14、湿潤密度1.1?2.0g/ml、含水比30?100%の生コンスラッジと、生コンスラッジ1m^(3)あたり28.8kg以上の硫酸第一鉄・一水塩を混合、開放状態で14日間以上養生してなり、生コンスラッジ由来のセメント水和物と硫酸第一鉄由来のFe_(2)O_(3)を含み、pHが10以下であるとともに、硫化水素ガスの最大吸着容量(吸着材量0.1g、硫化水素ガス容量2リットル、硫化水素ガス初期濃度10,500ppmのとき、48時間後までに吸着材100g当たりが吸着した硫化水素ガスの質量、試験温度25℃一定)が32g以上であることを特徴とする硫化水素ガス吸着材。 【請求項2】さらに、高分子凝集剤を含むことを特徴とする請求項1記載の硫化水素ガス吸着材。 【請求項3】さらに、無機粉末を含むことを特徴とする請求項1又は2記載の硫化水素ガス吸着材。」 2.引用文献、引用発明等 原査定の拒絶の理由に引用された引用文献10には次の事項が記載されている。 (1)「【0001】本発明は、生コンスラッジの中性化処理方法及び中性化処理材に関する。」 (2)「【0002】生コンスラッジ(生コンクリートスラッジ)は、生コンクリート工場のミキサーやアジテータ車からの洗い水、現場で打ち込まないで残ったコンクリート(以下、残コンという。)や荷卸し検査に不合格となって生コン会社に戻されるコンクリート(以下、戻りコンという。)を処理した排水に含まれる固形分である。生コンスラッジには、主に未反応のセメント粒子、セメント水和生成物、骨材微粒子が含まれている。」 (3)「【0018】本発明の生コンスラッジの中性化処理方法は、生コンスラッジに、硫酸第一鉄と、高分子凝集剤と、無機粉末とを添加して混合する混合工程と、この混合工程により得られた混合物を養生する養生工程とを備えたものである。 【0019】一般的な生コンスラッジは、pH11?14、湿潤密度1.1?2.0g/ml、含水比30?100%である。」 (4)「【0026】ここで、硫酸第一鉄は、酸性化成分として作用して生コンスラッジと中和反応する。そして、これと同時に、生コンスラッジに含まれる六価クロムが三価クロムに還元される。一方、硫酸第一鉄の二価鉄は三価鉄に酸化され、この三価鉄の生成により、混合物の色が暗緑色から暗茶色を経て茶色に変化する。さらに、混合物を撹拌し養生することにより二価鉄から三価鉄への空気酸化が促進され、最終的には粘性土の色である黄褐色に至る。また、積極的に酸化を促進させる場合は酸化剤、例えば次亜塩素酸、過酸化水素、過マンガン酸塩などを添加する方法もある。 【0027】養生工程における養生時間は、14日以上とするのが好ましいが、この期間中3日に1回位の頻度で養生物全体をバックホゥなどで撹拌混合し、空気接触を多くする事が好適である。更に養生時間を14日以上とすることにより、中和反応が十分に進んで混合物のpHが中性付近に達する。」 (5)「【0031】更に、本発明の中性化処理後の処理土は、生コンスラッジ構成成分である骨材粒子やケイ酸カルシウムなどの他に、中和副成分として硫酸カルシウム、鉄酸四カルシウムやケイ酸塩と鉄などの複塩が含まれているものと予想される。」 (6)「【実施例1】 【0033】灰白色、pH12.78(20?25℃)、湿潤密度1.6062g/cm^(3)、含水比60.7%の生コンスラッジを用いて、以下の中性化処理を行った。 【0034】中性化処理材として、硫酸第一鉄・一水塩60質量%、ポリアクリルアミド0.4質量%、シリカ粒子3.6質量%、フライアッシュ36質量%を配合した処理材A、硫酸第一鉄・一水塩96質量%、ポリアクリルアミド0.4質量%、シリカ粒子3.6質量%を配合した処理材B、硫酸第一鉄・一水塩100質量%からなる処理材Cを用意した。 【0035】そして、生コンスラッジを予め均一に混合した後、所定量のスラッジを採取し、生コンスラッジ1m^(3)あたり以下の表に示す添加量の処理材を添加してスパーテルで30秒間混合し、造粒性の状態を観察した。その後、開放状態で養生し、pHの経時変化を測定した。なお、pHはJIS 0211、含水比はJIS A 1203に準拠して測定した。造粒性の状態は目視により観察して評価し、pH0日後は混合1時間後に測定した。また、表中、硫酸鉄とあるのは、硫酸第一鉄・一水塩の添加量である。その結果を以下の表に示す。また、処理剤Aを用いた場合のpHの経時変化をグラフ化したものを図1に、処理剤Bを用いた場合のpHの経時変化をグラフ化したものを図2に、処理剤Cを用いた場合のpHの経時変化をグラフ化したものを図3に示す。 【0036】 【表1】 【0037】 いずれの処理剤を添加した場合にも、pHは養生初期に大きく低下し、その後ゆるやかに低下した。また、いずれの処理剤を添加した場合にも、硫酸第一鉄・一水塩の添加量が多いほどpHの低下が大きかった。そして、生コンスラッジ1m^(3)あたりの硫酸第一鉄・一水塩の添加量が100kg以上の場合に14日間の養生後のpHが9.1以下となり、140kg以上の場合にpHが8.6以下となった。」 なお、上記引用文献10においては、「処理材」(段落0001、0034-0036)と「処理剤」(段落0035、0037)が用いられているが、段落0034及び0035の記載から、両者は同じものを意味していると認められることから、以下では「処理材」の表記に統一した。 ここで、上記引用文献10には、実施例1として次の発明が記載されていると認められる。 「pH12.78、湿潤密度1.6062g/cm^(3)、含水比60.7%の生コンスラッジと、生コンスラッジ1m^(3)あたり30kg(表1において一番上の行に記載されている中性化処理した処理土であり、以下「処理土A」という。)又は200kg(表1において下から2番目の行に記載されている中性化処理した処理土であり、以下「処理土C」という。)の硫酸第一鉄・一水塩を混合、開放状態で14日間養生してなり、pHが9.85(上記処理土A)又は8.13(上記処理土C)である中性化処理後の処理土。」 そして、上記2.(6)の段落0037には、いずれの処理材を添加した場合においてもpHは養生初期に大きく低下しその後ゆるやかに低下すること、及び硫酸第一鉄・一水物の添加量が多いほどpHの低下が大きかったことが記載されていることから、生コンスラッジ1m^(3)あたり30kgの硫酸第一鉄・一水物を混合した上記処理土Aと、生コンスラッジ1m^(3)あたり200kgの硫酸第一鉄・一水物を混合した上記処理土Cの間の量(30kg?200Kg)の硫酸第一鉄・一水物を添加した中性化処理後の処理土のpHは、上記処理土AのpHと上記処理土CのpHの間であるものと認められ、引用文献10には、生コンスラッジ1m^(3)あたり30kg?200kgの硫酸第一鉄・一水塩を混合し、開放状態で14日間養生した中性化処理後の処理土のpHは8.13?9.85の間であることが記載されていると認められる。 したがって、上記引用文献10には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「pH12.78、湿潤密度1.6062g/cm^(3)、含水比60.7%の生コンスラッジと、生コンスラッジ1m^(3)あたり30kg?200kgの硫酸第一鉄・一水塩を混合、開放状態で14日間養生してなり、pHが9.85?8.13である中性化処理後の処理土。」 3.対比・判断 (1)本願発明1について ア.対比 引用発明における「g/cm^(3)」は、本願発明1における「g/ml」に相当する。 したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点が認められる。 (一致点) 「生コンスラッジと、硫酸第一鉄・一水塩を混合、開放状態で養生」してなる組成物である点。 (相違点) (相違点1)本願発明1を特定するための事項である生コンスラッジは「pH11?14、湿潤密度1.1?2.0g/ml、含水比30?100%」であるのに対し、引用発明の生コンスラッジは「pH12.78、湿潤密度1.6062g/cm^(3)、含水比60.7%」である点。 (相違点2)本願発明1は「生コンスラッジ1m^(3)あたり28.8kg以上の硫酸第一鉄・一水塩を混合」するのに対し、引用発明は「生コンスラッジ1m^(3)あたり30kg?200kgの硫酸第一鉄・一水塩を混合」する点。 (相違点3)本願発明1は「開放状態で14日間以上養生して」いるのに対して、引用発明は「開放状態で14日間養生して」いる点。 (相違点4)本願発明1は「生コンスラッジ由来のセメント水和物と硫酸第一鉄由来のFe_(2)O_(3)を含み、pHが10以下である」のに対し、引用発明は生コンスラッジ由来のセメント水和物と硫酸第一鉄由来のFe_(2)O_(3)を含んでいるかについて明記されておらず、またpHが8.13?9.85である点。 (相違点5)本願発明1の組成物は「硫化水素ガス吸着材」であるのに対し、引用発明の組成物は「中性化処理後の処理土」である点。 (相違点6)本願発明1は、組成物の「硫化水素ガスの最大吸着容量(吸着材量0.1g、硫化水素ガス容量2リットル、硫化水素ガス初期濃度10,500ppmのとき、48時間後までに吸着材100g当たりが吸着した硫化水素ガスの質量、試験温度25℃一定)が32g以上である」のに対して、引用発明の組成物の硫化水素ガスの最大吸着容量が32g以上であるか不明である点。 イ.相違点についての判断 (ア)はじめに上記相違点1-3についてまとめて検討すると、引用発明の生コンスラッジのpH、湿潤密度、含水比、及び生コンスラッジ1m^(3)あたりの硫酸第一鉄・一水塩の添加量、養生期間は、それぞれ本願発明1を特定するための事項である生コンスラッジのpH、湿潤密度、含水比、及び生コンスラッジ1m^(3)あたりの硫酸第一鉄・一水塩の添加量、養生期間に包含されるものであるため、相違点1-3は実質的な相違点ではない。 (イ)次に上記相違点4について検討すると、上記2.(2)に示したとおり、引用文献10の段落0002には生コンスラッジがセメント水和生成物を含有することが記載されていることから、引用発明の中性化処理後の処理土は生コンスラッジ由来のセメント水和生成物を含んでいるものと認められる。そして、引用発明における「セメント水和生成物」は、本願発明1における「セメント水和物」に相当する。また、上記2.(4)に示したとおり、引用文献10の段落0026には硫酸第一鉄・一水物の二価鉄は生コンスラッジとの中和反応により三価鉄に酸化されること、及び養生することにより三価鉄へ空気酸化されることが記載されていることから、引用発明の中性化処理後の処理土は硫化第一鉄・一水物由来のFe_(2)O_(3)を含んでいるものと認められる。さらに、引用発明の中性化処理後の処理土のpH8.13?9.85は、本願発明1の養生後のpHに包含されるものであるため、相違点4も実質的な相違点ではない。 (ウ)そして、上記相違点5について検討すると、生コンスラッジそのものやそれを中和化処理した処理土が硫化水素ガスを吸着するのに適したものであること、及びそれらを吸着材として使用することは、上記引用文献1-9のいずれにも記載されておらず、本願出願時の技術常識を参酌しても、本件技術分野において周知の技術的事項であるとは認められない。してみると、引用発明に係る「中性化処理後の処理土」を、「硫化水素ガス吸着材」として使用することは、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 (エ)したがって、相違点6を検討するまでもなく、本願発明1は当業者であっても引用発明及び引用文献1-9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (2)本願発明2、3について 本願発明2、3は、本願発明1に係る発明特定事項を全て含むものであることから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明及び引用文献1-9に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。 4.小括 以上で検討したとおり、審判請求時の補正によって補正された本願発明1-3に係る「硫化水素ガス吸着材」は、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献10及び引用文献1-9に基づいて、容易に発明をすることができたものとはいえない。 第4 原査定の理由(2)について 平成30年5月30日付け最後の拒絶理由で指摘された「具体的にどのようにすることで「pHが10以下」となり、また、「硫化水素ガスの最大吸着容量(吸着材量0.1g、硫化水素ガス容量2リットル、硫化水素ガス初期濃度10,500ppmのとき、48時間後までに吸着材100g当たりが吸着した硫化水素ガスの質量、試験温度25℃一定)が32g以上」に該当する硫化水素ガス吸着材が得られるのかが明確に把握できない」点は、審判請求時の補正において、請求項1において上記事項を明確に把握するための事項である生コンスラッジの特性、混合する硫酸第一鉄・一水物の量、養生の条件が明らかとなったことにより解消した。 第5 むすび 以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。 また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審決日 | 2019-11-21 |
出願番号 | 特願2015-191821(P2015-191821) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WY
(B01J)
P 1 8・ 121- WY (B01J) |
最終処分 | 成立 |
前審関与審査官 | 高橋 成典 |
特許庁審判長 |
菊地 則義 |
特許庁審判官 |
川村 裕二 服部 智 |
発明の名称 | 硫化水素ガス吸着材 |
代理人 | 牛木 護 |