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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B65D
管理番号 1357137
審判番号 不服2018-12527  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-01-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-19 
確定日 2019-11-14 
事件の表示 特願2017-49936「包装体」拒絶査定不服審判事件〔平成29年6月15日出願公開、特開2017-105544〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年10月27日を出願日とする特願2015-210967号の一部を、平成29年3月15日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は次のとおりである。
平成29年3月15日 上申書提出
平成30年1月23日付け 拒絶理由通知
平成30年3月30日 意見書提出
平成30年6月12日付け 拒絶査定
平成30年9月19日 本件審判請求書提出
平成31年4月9日付け 拒絶理由通知
令和元年6月17日 意見書及び手続補正書提出

第2 本願発明
本願特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」等という。)は、上記令和元年6月17日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2にそれぞれ記載された事項により特定される、次のとおりの発明である。

「【請求項1】
電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体であって、
シートと、
前記シートに設けられる光沢層とを含み、
前記光沢層は少なくともインキ剤を含み、
前記インキ剤は少なくともアルミペースト、希釈剤、および、着色剤を含み、
前記インキ剤が塗膜を構成した状態において、前記光沢層における前記アルミペーストの重量比は18.6%?37.2%の範囲に含まれ、
前記光沢層は不連続である部分を含む
包装体。
【請求項2】
前記シートにより構成される袋と、
前記袋の内部に収容される前記被加熱物とを備える
請求項1に記載の包装体。」

第3 当審が通知した拒絶の理由
当審が通知した上記平成31年4月9日付け拒絶理由の概要は、下記のとおりである。



<引 用 文 献 等 一 覧>
引用文献3.日本規格協会、「JIS工業用語大辞典 第5版」、97ページの「アルミニウムペースト」の項、2001年3月30日(平成31年1月4日提出の刊行物等提出書に添付された刊行物1)
引用文献4.特開平8-276917号公報
引用文献5.特開2006-137474号公報

1.【理由1】(明確性、特許法第36条第6項第2号)
本願特許請求の範囲の請求項1に記載された「アルミペースト」との意味内容及び技術的意味が把握できないから、請求項1に係る発明、並びに請求項1を引用する請求項2に係る発明は明確でない。

2.【理由2】(実施可能要件、特許法第36条第4項第1号)
本願明細書には、「アルミペースト」について、含有する成分や、それらの成分比率について何ら記載されておらず、また、「アルミペースト」との記載のみでは、技術常識を踏まえても、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率はもちろん、他の含有成分や、それらの成分比率について把握できるものではない。
さらに、本願明細書に記載された「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」で評価した、アルミペーストの入手先すら記載されておらず、当該アルミペーストがどのようなものなのか、把握することができない。しかも、上述のように、アルミペーストといっても、含有するアルミニウム粉の含有率は、必ずしも同じではないから、本願明細書の「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により確認される事項の技術的な意味が明らかではなく、本願発明の課題を解決するために、光沢層に「アルミペースト」をどの程度含有させればよいのか、明らかではない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及び2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。

3.【理由3】(サポート要件、特許法第36条第6項第1号)
本願特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークして包装体が劣化するおそれがあることから、「光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲(ただし4.7%?10%の範囲を除く)」としようとしたものである。
しかし、本願明細書において、「アルミペースト」が、アルミニウム粉をどの程度含有するのか記載されておらず、また「アルミペースト」との記載のみで、アルミペースト中のアルミニウム粉等の金属成分の含有比率について把握できるものではない。そして、マイクロ波に反応してスパークする原因は、アルミニウム粉等の金属成分であることは明らかであるところ、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」で評価したアルミペーストがどのようなものなのか把握することができず、結局、マイクロ波に反応してスパークする原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、どの程度含有されるようにすると、スパークせず、包装体が劣化しないのか確認されていない。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、特許請求の範囲の請求項1に係る発明は「光沢層におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲(ただし4.7%?10%の範囲を除く)」とすることにより、本願発明の課題が解決できるといえるものではない。
よって、特許請求の範囲の請求項1及び2に係る発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものではない。

第4 当審の判断

1.【理由1】(明確性)について
(1)本願発明1について
本願発明1は、上記第2に示したとおりのものである。
それによれば、本願発明1の「包装体」は「シート」と「光沢層」を含み、その「光沢層」は、「アルミペースト」、「希釈剤」、および、「着色剤」を少なくとも含む「インキ剤」を少なくとも含み、「インキ剤が塗膜を構成した状態」において、その「光沢層」における、「アルミペーストの重量比は18.6%?37.2%の範囲」に含まれるとされる。

(2)本願発明の課題について
本願明細書段落【0004】には、本願発明が解決しようとする課題について、「包装体の美観は高いことが好まし」く、「美観を高める手段の1つとして、高い輝度を有するインキ剤を含む光沢層をシートに設ける」ことが考えられ、「光沢層に含まれるインキ剤としては、一般的にアルミペーストを含む金インキまたは銀インキが使用される」が、「その光沢層を含む包装体が電子レンジで加熱される場合、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークし、包装体が劣化するおそれがある。」と記載されている。そして当該課題を解決しようとして、「包装体」について、「美観が高く、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい」(段落【0008】)こととし、「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が4.7?37.2%の範囲に含まれる場合、包装体1が電子レンジにより加熱されたときにスパークが発生しないことが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、電子レンジにより加熱された場合でも劣化しにくい。」(段落【0032】)及び「本願発明者が実施した試験によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲に含まれる場合、より高い輝度がユーザーに与えられることが確認された。包装体1によれば、光沢層50におけるアルミペーストの重量比が37.2%であるため、より高い美観を有する。」(段落【0033】)と記載されている。

(3)アルミペーストとの関係について
ア.一般に、電子レンジで照射されるマイクロ波に反応してスパークするものが金属であることは技術常識であり、請求項1に記載された「光沢層」についてみれば、アルミペーストに含まれるアルミニウム粉等の金属成分がスパークを引き起こす要因であることが明らかである。

イ.一方、アルミペーストについて、本願明細書において、アルミニウム粉以外の含有する成分や、それらの成分の比率について記載はない。また、一般に「アルミペースト(アルミニウムペースト)」とは、「アルミニウム粉をミネラルスピリットなどに分散してペースト状にしたもの」(引用文献3)であり、「アルミニウム粉」のみを含有するものではなく、「アルミニウム粉」のほかに、アクリル樹脂や溶剤成分を含有するもの(例えば、引用文献5の段落【0035】「アルミニウムペースト中のアルミニウム微粉末の大きさは1μm?3μm、アルミニウム含有量としては60%にして、20%をアクリル樹脂、残り20%を溶剤成分としたものを用いた。」)も知られている。さらに、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比率についても、上記引用文献5においては「60%」であるが、引用文献4の段落【0052】の記載によれば、「東洋アルミニウム(株)製アルミニウムペースト(アルミニウム粉末を75重量%含有)」とあり、アルミペースト中の成分比率が「75重量%」のものも存在する。
そうすると、本願発明1の単なる「アルミペースト」との記載のみでは、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率はもちろん、他の含有成分や、それらの成分比率について把握できるものではない。しかも、上記のように、本願発明1及び2は、上記本願明細書に記載された課題の解決のために、「光沢層における前記アルミペーストの重量比は18.6%?37.2%の範囲」とするものであるから、スパークの原因となるアルミニウム粉等の金属成分が、アルミペースト中にどの程度含まれているのか明確でなければ、「アルミペーストの重量比は18.6%?37.2%の範囲」に含まれる、スパークの原因となるアルミニウム粉等の金属成分の含有量が記載されていることにならない。
よって、本願発明1の「アルミペースト」との事項の意味内容及び技術的意味が把握できないから、本願発明1、並びに本願発明1を引用する本願発明2は明確でない。

ウ.なお、「アルミペースト」が技術用語として一般的な用語であるとしても、「アルミペースト」という技術用語により、アルミペーストが含有する成分や、それらの成分比率が定まることまでは、一般的に知られているとはいえない。
また、「アルミペーストの成分及び成分比がある程度の範囲に収まる」としても、本願発明1及び2は、「アルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲」としたことにより上記課題を解決するとしたものであるから、その「アルミペースト」がどのようなものなのか定まらなければ、スパークの原因となるアルミニウム粉等の金属成分をどの程度含有しているのか把握できず、本願発明1の技術的範囲が定まらないこととなる。

(4)請求人の主張について
ア.請求人の主張
請求人は、上記令和元年6月17日提出の意見書の<理由1(特許法第36条第6項第2号)について>の欄において、次のとおり主張している。
本願明細書の段落【0004】の記載から、本願発明の光沢層に使用されるインキ剤において、アルミペーストが含まれていることは当業者にとって明らかである。ここで、光沢を有する一般的なインキ剤の場合、それに含まれるアルミペーストも一般的なものである。
そして、「アルミペースト(アルミニウムペースト)」は、技術用語として確立したものであり(引用文献3、「化学大辞典」(資料8))、さらに、光沢を有する一般的なインキ剤に含まれるアルミペーストについて、その成分及び成分比がある程度の範囲に収まることは技術常識というべきであり、一般的なアルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40%?75%の範囲内に収まるものであると理解することができる(引用文献4、引用文献5、特開平10-176120号公報(資料4)、特開平11-193362号公報(資料5)、特開2006-152259号公報(資料6)、及び、再公表特許2013/157156号(資料7))から、本願発明の「アルミペースト」とは、当業者であれば、技術常識を踏まえて、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40%?75%の範囲内に収まるアルミペーストであると把握することができる。
よって、本願発明1の『アルミペースト』がどのようなものなのか定まっていて、スパークの原因となるアルミニウム粉等の金属成分がどの程度含まれているかは、当業者の技術常識を踏まえれば把握できる事項である。
よって、本願発明1の「アルミペースト」との事項の意味内容及び技術的意味は、上記当業者の技術常識をもってすれば、把握できることから、本願発明1、2は明確である。

イ.刊行物記載事項
上記ア.の請求人が言及した引用文献4、引用文献5、資料4、資料5、資料6、及び資料7には、「アルミペースト(アルミニウムペースト)」について、大要、次の事項が記載されている。
(ア)引用文献4(特開平8-276917号公報)
「本発明は、飲料品、食品、化粧品および医薬品などの容器の熱収縮包装方法に関する。」(段落【0001】)
「・・・東洋アルミニウム(株)製アルミニウムペースト(アルミニウム粉末を75重量%含有)20重量部と・・・」を用いる。(段落【0052】)
(イ)引用文献5(特開2006-137474号公報)
「【請求項1】
少なくともシーラント層を有するメンブレン部と、少なくとも弾性シート層を有するリシール部とからなり、前記メンブレン部とリシール部とが剥離可能に積層してなるインナーシール材において、
前記メンブレン部は、容器口元部に接する最下層のシーラント層と、その上に位置するメンブレン基材とからなり、該メンブレン基材のシーラント層と接する側の周縁には、容器口元部に重なるように金属ペースト層が塗工されていることを特徴とする、インナーシール材。
・・・
【請求項3】
前記金属ペースト層を構成する金属微粉末の添加量は、20?90%の範囲であることを特徴とする、請求項1又は2記載のインナーシール材。
【請求項4】
前記導電性金属微粉末は、アルミニウム微粉末であることを特徴とする、請求項1、2又は3記載のインナーシール材。」(【特許請求の範囲】、【請求項1】、【請求項3】、【請求項4】)

「例えば、インスタントコーヒーやインスタントパウダー等の粉末状、顆粒状の内容物を収容するガラス製等の容器の開口部を密封するインナーシール材」において、「剥離層(23)」の裏面に「容器口元部(2)のサイズに合わせてアルミニウムペーストを乾燥後の厚みが25μmになるように塗工し、金属ペースト層(13)であるアルミニウムペースト層を形成した。アルミニウムペースト中のアルミニウム微粉末の大きさは1μm?3μm、アルミニウム含有量としては60%にして、20%をアクリル樹脂、残り20%を溶剤成分としたものを用いた。」(段落【0001】、【0034】、【0035】)
(ウ)資料4(特開平10-176120号公報)
「本発明は、主として自動車等の車両、建築物等の窓材として車内や室内に太陽光がもたらす熱線(IR)を遮蔽して暑さ等を緩和するとともに紫外線(UV)を遮蔽して人や内装材の日焼けを防止する有用な熱線反射紫外線吸収プライマー塗料及び透明体に関する。」(段落【0001】)
「実施例1
まず、上記で得られたプライマー塗料に、紫外線吸収剤として2,4-ジヒドロキシベンゾフェノンを熱硬化型アクリル塗料中の固形分100重量部に対して13重量部添加溶解し、ノンリーフィングタイプのアルミペースト(シルバーライン社製、商品名:SS-6246AR、平均厚さ0.2μm、平均直径16.0μm、色相シルバー、アルミ粉末量64重量%)・・・」(段落【0031】)
「実施例2
実施例1で使用した紫外線吸収剤が添加されているプライマー塗料にグリーン色の有機顔料をアルミ片に化学的に付着させた、ノンリーフィングタイプのアルミペースト(シルバーライン社製、商品名:LEPC-2027、平均厚み0.7μm、平均直径17μm、アルミ粉末量54重量%)・・・」(段落【0035】)
(エ)資料5(特開平11-193362号公報)
「本発明は、マーキングペン、筆ペン等の筆記具または塗布具に充填して使用する、非吸収面への筆跡定着性が良好な水性光沢インキ組成物に関する。」(段落【0001】)
「・・・市販されているアルミニウムペーストとしては、スーパーファインNo.22000WN(アルミニウム粉末含有率:70%)、同No.18000WN(アルミニウム粉末含有率:70%)(以上、大和金属粉工業((株)製)、WB0230(アルミニウム粉末含有率:60%)、WXM0630(アルミニウム粉末含有率:68%)(以上、東洋アルミニウム(株)製)などがある。・・・」(段落【0010】)
(オ)資料6(特開2006-152259号公報)
「・・・近年、揮発性有機化合物の環境に与える影響が問題となっており、従来塗料分野において通常に配合されてきたトルエン、キシレン等の有機溶剤は環境汚染物質として規制対象物質・・・とされ、塗料及び希釈シンナーともにこれら有機溶剤を削減或いは実質的に含まないことが求められている。」(段落【0004】)
「本発明の目的は、規制されている揮発性有機化合物を実質的に含むことなく塗装作業性や仕上がり性が良好で、しかも耐水性、付着性等に優れた塗膜を形成するのに適する塗料組成物を提供することにある。」(段落【0007】)
「ベース塗料の作成・・・反応容器に「アルミペーストMC-606」(商品名、旭化成メタルズ社製、アルミペースト、アルミニウム粉/ミネラルスピリット/C9級芳香族炭化水素系有機溶剤重量比=60/19.5/19.5、アミン1%)・・・」(段落【0059】)
(カ)資料7(再公表特許2013/157156号)
「本発明は、吸湿発熱性を利用した保温性に優れる多層シート及びその製造方法と、その多層シートを構成要件のすべて又は一部とする、寝具や防寒衣料等の保温用構造物に関する。」(段落【0001】)
「・・・アルミニウムペーストである林化学工業社製アルミペーストA2を混合したもの(試料b用の組成物)、及びセルロース加水分解物の粉末とアルミニウムペーストの両者を混合したもの(試料c用の組成物)を使用した。なお、アルミニウムペーストのアルミニウム含有率は75質量%であり、・・・」(段落【0093】)

ウ.当審の判断
ここで、本願発明1が属する技術分野は、「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体」であるところ、上記ア.の請求人が言及した刊行物(引用文献4、5、及び、資料4?7)に記載されたアルミペースト(アルミニウムペースト)が用いられる技術分野は、資料4に記載されたものは「プライマー塗料」、資料5に記載されたものは「非吸収面への筆跡定着性が良好な水性光沢インキ組成物」、資料6に記載されたものは「塗装作業」に用いる「塗料組成物」、資料7に記載されたものは「寝具や防寒衣料等の保温用構造物」であって、そもそも、包装の分野ですらない。
引用文献4に記載されたものは、包装体についてのものではあるものの、「熱収縮包装」に用いるものであって、「電子レンジで加熱される」ものではない。引用文献5に記載されたものも、包装体についてのものではあるが、アルミペーストは、「該メンブレン基材のシーラント層と接する側の周縁」に、「容器口元部に重なるように」塗工されている「金属ペースト層」である「インナーシール材」として用いるものであって、本願発明1の「アルミペースト」のように、インキ剤に含まれるものではない。
そして、上記イ.に示した引用文献5の記載から、引用文献5には、アルミニウム微粉末の添加量が20?90%の範囲であるアルミペーストが記載されていると理解できる。

そうすると、本願発明1の「アルミニウムペースト」、すなわち「電子レンジで加熱される物体である被加熱物を収容可能な包装体」に用いられる「インキ剤」に含まれる「アルミペースト」は、上記請求人が言及した引用文献や資料には記載されておらず、さらに引用文献5には、上記したように「アルミニウム微粉末の添加量が20?90%の範囲であるアルミペースト」が記載されているから、本願発明の「アルミペースト」とは、当業者であれば、技術常識を踏まえて、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40%?75%の範囲内に収まるアルミペーストであると把握することができる、との請求人の主張は根拠がなく、採用することはできない。

(5)小括
以上のとおりであるから、本願発明1及び2は明確ではなく、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本願発明1及び2は特許をうけることができない。

2.【理由2】(実施可能要件)について
(1) 上記1.に示したように、本願明細書には、「アルミペースト」について、含有する成分や、それらの成分比率について何ら記載されておらず、また、「アルミペースト」との記載のみでは、技術常識を踏まえても、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率はもちろん、他の含有成分や、それらの成分比率について把握できるものではない。

(2) そして、本願明細書には、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により、アルミペーストを、資料番号1?20について評価を行っているが、そのアルミペーストの入手先すら記載されておらず、資料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか、把握することができない。しかも、上述のように、アルミペーストといっても、含有するアルミニウム粉の含有率は、必ずしも同じではないから、本願明細書の「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により確認される事項の技術的な意味が明らかではなく、上記1.(2)に示した本願発明の課題を解決するために、光沢層に「アルミペースト」をどの程度含有させればよいのか、本願明細書の発明の詳細な説明の記載からは、理解することはできない。

(3) 請求人の主張について
ア.請求人の主張
請求人は、上記令和元年6月17日提出の意見書の<理由2(特許法第36条第4項第1号)について>の欄において、次のとおり主張している。
本願明細書には、アルミペーストについて、含有する成分や、それらの成分比率についての記載がないが、上記1.(4)ア.に示したように、アルミペーストは技術用語として確立されていて、アルミペースト中のアルミニウム粉の含有比率が40%?75%の範囲内に収まるのが一般的であることは、当業者の技術常識である。そのため、「アルミペースト」の記載のみであったとしても、当業者の技術常識を踏まえれば、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比は、把握することができるというべきである。
また、本願明細書に記載された、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」に用いたアルミペーストの入手先を記載していないけれども、包装体の光沢層に使用されるインキ剤は、一般的であるため、とくに入手が困難なものではない。インキ剤が一般的なものであり、それ故に、インキ剤に含有されるアルミペーストについても一般的なものであると理解できるから、当該アルミペーストがどのようなものなのか、把握することができるといえる。しかも、上述のように、アルミペーストに含有されるアルミニウム粉の成分比は、40%?75%の範囲内というように、特定の範囲内に収まるものであるから、本願明細書の「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により確認される事項の技術的な意味は、明らかであり、本願発明1の課題を解決するために、光沢層に「アルミペースト」をどの程度含有させればよいのかは、明らかであるといえる。よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1、2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。

イ.当審の判断
(ア)上記1.(4)イ.に示したように、本願発明の「アルミペースト」とは、当業者であれば、技術常識を踏まえて、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40%?75%の範囲内に収まるアルミペーストであると把握することができる、との請求人の主張は根拠がなく採用することはできない。そうすると、当該技術常識の存在を前提とする上記ア.に示した請求人の主張も、前提において誤りであり、採用することはできない。
(イ)仮に当該技術常識が存在したとしても、上限値の75%と下限値の40%との差は2倍近くあり、その中で、前記1.(2)に摘記した課題を解決できる範囲を探すことは、当業者において過度の試行錯誤を要するものであって、やはり実施可能要件を満たすものであるとはいえない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明1及び2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえないので、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえず、本願発明1及び2は、特許をうけることができない。

3.【理由3】(サポート要件)について
(1) 上記1.(2)に示した本願発明の課題を解決するために、本願明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、光沢層に含まれるアルミペーストがマイクロ波に反応してスパークして包装体が劣化するおそれがあることから、本願発明1は、「光沢層における前記アルミペースト重量比は18.6?37.2%の範囲」と記載したものである。

(2) しかし、上記1.で述べたように、本願明細書において「アルミペースト」が、アルミニウム粉をどの程度含有するのか記載されておらず、また、「アルミペースト」との記載のみで、アルミペースト中のアルミニウム粉等の金属成分の含有比率について把握できるものではない。そして、マイクロ波に反応してスパークする原因は、アルミニウム粉等の金属成分であることは明らかであるから、本願明細書の発明の詳細な説明で、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により、アルミペーストを、資料番号1?20について評価を行っているといっても、資料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか把握することができず、結局、マイクロ波に反応してスパークする原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、どの程度含有されるようにすると、スパークせず、包装体が劣化しないのか確認されていない。
そうすると、そもそも、発明の詳細な説明の記載からは、特許請求の範囲の請求項1で「光沢層における前記アルミペーストの重量比は18.6?37.2%の範囲」とすることにより、発明の課題が解決できるといえるものではない。

(3) 請求人の主張について
ア.請求人の主張について
請求人は、上記令和元年6月17日提出の意見書の<理由3(特許法第36条第6項第1号)について>の欄において、次のとおり主張している。
本願明細書には、アルミペーストが、アルミニウム粉をどの程度含有するのか記載していない。しかし、上記1.(4)ア.に示したように、「アルミペースト」とは技術用語として確立されていて、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比についても、当業者の技術常識を踏まえれば、成分比が40%?75%といった特定の範囲内に収まるものであると理解することができる。そして、マイクロ波に反応してスパークする原因は、アルミニウム粉等の金属成分であることは明らかであるから、本願明細書の発明の詳細な説明で、「第1の評価試験」及び「第2の評価試験」により、アルミペーストを、試料番号1?20について評価を行なっているということによって、試料番号1?20のアルミペーストがどのようなものなのか把握することができ、結局、マイクロ波に反応してスパークする原因であるアルミニウム粉等の金属成分が、どの程度含有されるようにすると、スパークせず、包装体が劣化しないのかを示唆しているといえる。
したがって、「アルミペースト」に関する当業者の技術常識を踏まえれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本願発明1で「光沢層におけるアルミペーストの重量比が18.6?37.2%の範囲」とすることにより、本願発明1の課題を解決することができるといえる。
よって、特許請求の範囲の請求項1、2の記載は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。

イ.当審の判断
上記1.(4)イ.に示したように、本願発明の「アルミペースト」とは、当業者であれば、技術常識を踏まえて、アルミペースト中のアルミニウム粉の成分比が40%?75%の範囲内に収まるアルミペーストであると把握することができる、との請求人の主張は根拠がなく採用することはできない。そうすると、当該技術常識の存在を前提とする上記ア.に示した請求人の主張も、前提において誤りであり、採用することはできない。

(4)小括
以上のとおりであるから、本願発明1及び2は、本願発明の課題を解決するものであるとはいえないから、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしているとはいえないので、本願発明1及び2は、特許を受けることができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。
また、本願特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、本願は、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-09-11 
結審通知日 2019-09-17 
審決日 2019-09-30 
出願番号 特願2017-49936(P2017-49936)
審決分類 P 1 8・ 536- WZ (B65D)
P 1 8・ 537- WZ (B65D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 矢澤 周一郎  
特許庁審判長 門前 浩一
特許庁審判官 白川 敬寛
久保 克彦
発明の名称 包装体  
代理人 恩田 博宣  
代理人 恩田 誠  

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