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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61C
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61C
管理番号 1357683
異議申立番号 異議2019-700173  
総通号数 241 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-01-31 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-03-01 
確定日 2019-12-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6387386号発明「歯間清掃具の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6387386号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6387386号(以下「本件特許」という。)の請求項1?7に係る特許についての出願は、平成28年12月28日の出願であって、平成30年8月17日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月5日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その請求項1?7に係る特許に対し、平成31年3月1日に特許異議申立人 山内博明(以下「申立人1」という。)により、平成31年3月5日に特許異議申立人 芝崎公昭(以下「申立人2」という。)により特許異議の申立てがされた。
当審において令和1年5月30日付けで取消理由を通知し、令和1年8月2日に特許権者である小林製薬株式会社より意見書の提出がなされ、当該意見書に関して期間を指定し申立人1、2に意見を求め、令和1年10月1日に申立人1から、令和1年10月2日に申立人2から回答書の提出があったものである。

第2 本件特許について
本件特許の請求項1?7に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
歯間清掃具の製造方法であって、
その少なくとも一部が湾曲する形状を有するハンドル部と、前記ハンドル部の先端部に接続されており、前記ハンドル部の断面積よりも小さな断面積を有するとともに歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部と、を有する基部に対応する第1空間を有する第1金型内に合成樹脂を含む複合材料を充填することによって前記基部を成形する第1工程と、
前記軸部の周囲に歯間の清掃が可能な清掃部を形成可能でかつ前記ハンドル部の表面に滑り止め部を形成可能な第2空間を有する第2金型内に前記基部を配置した状態で当該第2金型内にエラストマーを充填することによって前記清掃部及び前記滑り止め部を形成する第2工程と、備え、
前記第1工程では、前記ハンドル部として、ベースと、前記ベースの表面から窪んだ形状を有する凹部と、前記凹部の表面のうち前記ベースと前記凹部との境界から離間した部位から隆起する隆起部と、を有するものを成形し、
前記第2工程では、前記軸部及び前記凹部に沿って前記エラストマーが流れるように前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位から前記第2空間に前記エラストマーを充填することにより、前記軸部の周囲に前記清掃部を形成するとともに前記凹部の表面に前記滑り止め部を形成する、歯間清掃具の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の歯間清掃具の製造方法において、
前記第2工程では、前記軸部の先端部に対応する位置から前記第2空間に前記エラストマーを充填する、歯間清掃具の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の歯間清掃具の製造方法において、
前記第2工程では、前記凹部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位から前記第2空間に前記エラストマーを充填する、歯間清掃具の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の歯間清掃具の製造方法において、
前記第1工程では、前記ハンドル部として、前記軸部の軸方向と直交する方向の一方側に形成されており湾曲する形状を有する背側縁部及び他方側に形成されており湾曲する形状を有する腹側縁部を有するとともに、前記ベースが前記腹側縁部の少なくとも一部を含む位置に設けられかつ前記凹部が前記背側縁部の少なくとも一部を含む位置に設けられ、前記腹側縁部の先端部における接線と前記軸部の軸方向とのなす角よりも前記背側縁部の先端部における接線と前記軸部の軸方向とのなす角の方が小さいものを成形する、歯間清掃具の製造方法。
【請求項5】
請求項2又は4に記載の歯間清掃具の製造方法において、
前記第1工程では、前記凹部が、当該凹部の特定の部位から前記軸部とは反対側に1mm変位した部位における前記エラストマーの流路面積が前記特定の部位における前記エラストマーの流路面積よりも7%以上大きくなる流路拡大領域を有し、かつ、前記隆起部の少なくとも一部が前記流路拡大領域内に位置するように当該隆起部が配置されているものを成形する、歯間清掃具の製造方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載の歯間清掃具の製造方法において、
前記第1工程では、前記複合材料として、前記合成樹脂と、ガラス繊維と、を含有するものを前記第1金型内に充填する、歯間清掃具の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の歯間清掃具の製造方法において、
前記第1工程では、前記複合材料として、二酸化チタンをさらに含有するものを前記第1金型内に充填する、歯間清掃具の製造方法。」

第3 取消理由通知書に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
令和1年5月30日付けで、当審が通知した取消理由の概要は以下のとおりである。

理由1 特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
本件発明1、3、6、7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由2 特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4号)
本件発明1、3、6、7に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

2 取消理由についての検討
(1)理由1について
ア 取消理由の内容
本件発明1?7が解決しようとする課題は、明細書の段落番号【0005】及び【0006】の記載を踏まえると、金型内にエラストマーを充填する工程において、金型内における滑り止め部を形成するための空間から、金型とハンドル基材との隙間を介して空間外にエラストマーが漏れるのを抑制可能とすることであると認められるところ、当該課題を解決するため、本件発明1?7は、ハンドル部の凹部の表面から隆起する隆起部を成形することにより、金型内にエラストマーを充填する工程において、エラストマーは凹部とベースとの境界に衝突する前に隆起部の側面に衝突し、その流速が低下することでエラストマーが凹部とベースとの境界に勢いよく衝突することが抑制され、エラストマーが金型の空間外に漏れ出すことが抑制されるものと認められる。
本件発明1、3、6、7において、エラストマーを充填する位置は「前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位」と特定されるところ、例えば申立人2の特許異議申立書第13ページ参考図1に記載された、ゲートと記された矢印位置である場合、エラストマーは隆起部の側面に衝突する前に凹部とベースとの境界に衝突するものと認められ、この場合本件発明1?7が解決しようとする課題を解決できるとはいえず、本件発明1、3、6、7の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。

イ 判断
本件発明1?7が解決しようとする課題は、段落番号【0005】の「より具体的には、第2工程において、第2金型に設けられたゲートから当該第2金型内に射出されたエラストマーは、ハンドル基材のうち環状凹部の側面に衝突した後、第2金型とハンドル基材との隙間を介して前記空間外に漏れる場合がある。」との記載、【0006】の「本発明の目的は、金型内にエラストマーを充填する工程において、前記金型内における滑り止め部を形成するための空間から当該空間外にエラストマーが漏れるのを抑制可能な歯間清掃具の製造方法を提供することである。」との記載を踏まえると、金型内にエラストマーを充填する工程において、金型内における滑り止め部を形成するための空間から、金型とハンドル基材との隙間を介して空間外にエラストマーが漏れるのを抑制可能とすることであると認められる。
本件発明1、3、6、7は、エラストマーを充填する位置を「前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位」と特定しているところ、この点に関し、段落【0041】には「具体的に、エラストマーは、第2金型200のうち軸部40の先端部に対応する位置に形成されたゲート204から射出される。そうすると、エラストマーは、軸部40の周囲から凹部26に向かって流れる。」と記載され、段落【0043】には「その後、凹部26に沿ったエラストマーの充填が進むと、このエラストマーは、ベース24と凹部26との境界(凹部26の基端部から起立する側面)25に衝突する前に隆起部28の側面28aに衝突する。このとき、エラストマーの流速が低下する。そして、隆起部28の側面28aに衝突したエラストマーは、隆起部28を回り込むようにして前記境界25に至る。よって、エラストマーが凹部26とベース24との境界25に勢いよく衝突することが抑制される。したがって、第2工程において、エラストマーが第2金型200の第2空間から当該第2空間外に漏れ出すことが抑制される。」と記載され、段落【0052】には「例えば、第2工程におけるエラストマーの射出位置、つまり、ゲート204の位置は、上記の例に限られない。ゲート204は、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に設けられてもよい。」と記載されていることからみて、ゲート204を、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に配置した場合においても、隆起部28を設けることにより、エラストマーはゲート204から凹部26へ流入し、凹部26内をゲート204から離れる方向へ流れつつ隆起部28の側面28aに衝突し、隆起部28を回り込むように流れた後、凹部26とベース24との境界25に衝突することにより凹部26に充填されるものと認められ、また令和1年8月2日付け意見書における「異議申立書矢印位置からエラストマーが充填されたとしても、第2金型内の第2空間が完全にエラストマーで満たされるまでは、エラストマーは残留している第2空間を埋めるように流れ込むため、対向部分においてエラストマーの漏れが生じることはない。」(第6ページ第23?26行)との主張、「凹部の表面のうちベースと凹部との境界から離間した部位に隆起部を有するため、最終流入地点付近へは、エラストマーは必ず隆起部側面と衝突した後に流入する。その結果、充填圧力が緩衝されることなくエラストマーが最終流入地点付近へ勢いよく衝突して流入することを抑制し、エラストマーが金型の空間外に漏れ出すことが抑制される」(第7ページ第12?16行)との主張を踏まえると、少なくともベース24と凹部26との境界(凹部26の基端部から起立する側面)25においては金型とハンドル基材との隙間を介して空間外にエラストマーが漏れることを抑制可能としているものといえることから、エラストマーを充填する位置に関して、本件発明1、3、6、7のように「前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位」ということができない、とまではいえない。
よって、本件発明1、3、6、7は発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえることから、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(2)理由2について
ア 取消理由の内容
本件発明1、3、6、7において、エラストマーを充填する位置は「前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位」と特定されているが、エラストマーを充填する位置が、例えば申立人2の特許異議申立書第13ページ参考図1に記載された、ゲートと記された矢印位置である場合、エラストマーは隆起部の側面に衝突する前に凹部とベースとの境界に衝突し、エラストマーが金型とハンドル基材との隙間を介して空間外に漏れるおそれがあるが、いかにして漏れを抑制するのか記載されていない。
したがって、発明の詳細な説明は、本件発明1、3、6、7について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているものとはいえないため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たさない。

イ 判断
上記(1)イのとおり、明細書の段落【0041】、【0043】、【0052】記載を踏まえると、ゲート204を、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に配置した場合、隆起部28を設けることにより、エラストマーはゲート204から凹部26へ流入し、凹部26内をゲート204から離れる方向へ流れつつ隆起部28の側面28aに衝突し、隆起部28を回り込むように流れた後、凹部26とベース24との境界25に衝突することにより凹部26に充填されるものと認められ、また令和1年8月2日付け意見書における「異議申立書矢印位置からエラストマーが充填されたとしても、第2金型内の第2空間が完全にエラストマーで満たされるまでは、エラストマーは残留している第2空間を埋めるように流れ込むため、対向部分においてエラストマーの漏れが生じることはない。」(第6ページ第23?26行)との主張、「凹部の表面のうちベースと凹部との境界から離間した部位に隆起部を有するため、最終流入地点付近へは、エラストマーは必ず隆起部側面と衝突した後に流入する。その結果、充填圧力が緩衝されることなくエラストマーが最終流入地点付近へ勢いよく衝突して流入することを抑制し、エラストマーが金型の空間外に漏れ出すことが抑制される」(第7ページ第12?16行)との主張を踏まえると、少なくともベース24と凹部26との境界(凹部26の基端部から起立する側面)25においては金型とハンドル基材との隙間を介して空間外にエラストマーが漏れることを抑制可能としているものといえることから、発明の詳細な説明は、本件発明1、3、6、7について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない、とはいえない。
よって、発明の詳細な説明は、本件発明1、3、6、7について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることから、発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由の検討
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は、次の理由3?6である。

理由3 特許法第36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
本件発明1?7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由4 特許法第36条第4項第1号について(同法第113条第4号)
本件発明1?7に係る特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由5 特許法第36条第6項第2号について(同法第113条第4号)
本件発明1?7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

理由6 特許法第29条第2項について(同法第113条第2号)
本件発明1、3、6は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1、3、6に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。
また、本件発明7は、甲第1号証、甲第3号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明7に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2016-215648号公報
甲第2号証:意匠登録第1253392号公報
甲第3号証:特表2003-508099号公報

1 申立理由についての当審の判断
(1)理由3について
ア 申立人の主張
(ア)申立人2の主張
段落【0052】に「ゲート204は、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に設けられてもよい。このようにすれば、凹部26に沿って流れるエラストマーが隆起部28の側面28aに衝突しやすくなる。」と記載されているが、どのような理由で「凹部26に沿って流れるエラストマー」となるのか、また、どのような理由で「エラストマーが隆起部28の側面28aに衝突しやすくなる」のか、技術常識をもってしても理解できないことから、本件発明1?7に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
(イ)申立人2の主張
「金型内にエラストマーを充填する工程において、前記金型内における滑り止め部を形成するための空間から当該空間外にエラストマーが漏れるのを抑制可能な歯間清掃具の製造方法を提供することができる。」という効果を奏するためには、軸部の先端部に対応する位置に形成されたゲートからエラストマーが射出される構成、及び、凹部は、軸部の清掃部に繋がっており、かつ、ハンドル体の後端に向かって延びる構成、が必要であるが、本件発明1は当該構成を備えておらず、当該効果を奏することができないから、発明の課題を解決できない。このように、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているような発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。
(ウ)申立人1、2の主張
本件発明3について、ゲート204が、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に設けられている場合、エラストマーは、最初に凹部の境界に衝突するから、エラストマーが隆起部に衝突することによって得られるような効果は一切得られず、出願時の技術常識に照らしても、本件発明3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
よって、本件発明1?7は、サポート要件を満たさない。

イ 当審の判断
申立人2の主張(ア)に関し、技術常識を踏まえると、段落【0052】に記載される、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置にゲート204を設けた場合、エラストマーはゲート204から凹部26へ流入し、凹部26内をゲート204から離れる方向へ流れつつ隆起部28の側面28aに衝突し、隆起部28を回り込むように流れた後、凹部26とベース24との境界25に衝突することにより凹部26に充填されるものと認められる。
そうすると、エラストマーは凹部26内をゲート204から離れる方向へ流れることから、エラストマーは凹部26に沿って流れる、といえ、エラストマーの凹部26への流入が進むことにより隆起部28の側面28aに衝突することは明らかであるから、エラストマーが隆起部28の側面28aに衝突しやすくなる、ということができる。
また、申立人2の主張(イ)に関し、上記第3 2(1)イのとおり、本件発明1は発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであることから、申立人が主張するように、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載されているような発明の課題を解決するための手段が反映されていない、とはいえない。
さらに、本件発明3に関する申立人1、2の主張(ウ)は、上記第3 2(1)イのとおり、本件発明1は発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるところ、当該本件発明1を引用する本件発明3についても、発明の詳細な説明において課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲内のものであるといえる。
よって特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

(2)理由4について
ア 申立人の主張
(ア)申立人2の主張
段落【0052】に「ゲート204は、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に設けられてもよい。このようにすれば、凹部26に沿って流れるエラストマーが隆起部28の側面28aに衝突しやすくなる。」と記載されているが、どのような理由で「凹部26に沿って流れるエラストマー」となるのか、また、どのような理由で「エラストマーが隆起部28の側面28aに衝突しやすくなる」のか、技術常識をもってしても理解できないことから、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(イ)申立人2の主張
凹部に隆起部が設けられる場合、エラストマーが隆起部に衝突すると、エラストマーの速度は低下すると考えられるが、隆起部は、凹部内にあることから、隆起部の周囲は、樹脂の流通断面積が小さくなっている。そうすると、隆起部の周囲に流れるエラストマーの流速は速くなるから、かえって、エラストマーの漏れが生じる虞があるものの、発明の詳細な説明には、この点を説明するような記載は一切ないため、発明の詳細な説明の記載は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。
(ウ)申立人1、2の主張
本件発明3について、ゲート204が、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に設けられている場合、エラストマーは、最初に凹部の境界に衝突するから、エラストマーが隆起部に衝突することによって得られるような効果は一切得られないし、軸部及び凹部に沿ってエラストマーが流れる態様が特定できず、発明の詳細な説明を参考としても、本件発明3を実施することができない。

イ 当審の判断
申立人2の主張(ア)に関し、上記(1)イのとおり、段落【0052】の記載に基づき、エラストマーは凹部26に沿って流れるといえ、エラストマーが隆起部28の側面28aに衝突しやすくなる、ということができる。
また申立人2の主張(イ)に関し、凹部26に隆起部28を設けることにより、隆起部の周囲においてエラストマーの流速が速くなる部分があり得るものの、図2、図4に記載されるように隆起部28の下流側には再び凹部26の面積が広がる領域があることから、エラストマーが隆起部28を回り込むように流れた後、凹部26とベース24との境界25に衝突する際にはエラストマーの流速は低下しているものと認められることから、エラストマーの漏れが抑制され得る、といえる。
さらに申立人1、2の主張(ウ)に関し、ゲート204が、基部10のうち軸部40と隆起部28との間の部位に対応する位置に設けられている場合、エラストマーは、最初に凹部の境界に衝突したとしても、上記第3 2(2)イのとおり、ゲートから凹部内をエラストマーが流れ、エラストマーが隆起部に衝突することによって、金型とハンドル基材との隙間からエラストマーが漏れることは抑制可能であるといえる。また、エラストマーがゲートから凹部内を隆起部、さらに凹部とベースとの境界に向かって流れることから、エラストマーは凹部に沿って流れるといえ、ゲートを基準として凹部とベースとの境界とは反対方向に存在する軸部の先端に向かってもエラストマーは流れるものであるから、エラストマーは軸部に沿って流れるともいえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、本件発明1?7について、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載したものといえるから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

(3)理由5について
ア 申立人の主張
(ア)本件発明1は、「前記第2工程では、前記軸部及び前記凹部に沿って前記エラストマーが流れるように前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位から前記第2空間に前記エラストマーを充填することにより」という構成を有するが、凹部の形状が特定されていないことから、凹部に沿う流れを規定できず、エラストマーの流れを具体的に特定できない。
(イ)ゲートが軸部の先端部以外の部分に配置された場合に、「軸部および凹部に沿ってエラストマーが流れるように」とは、どのような流れなのかが特定できない。
よって、本件発明1は明確でなく、本件発明2?7は、同様の理由によって明確でない。

イ 判断
申立人の主張(ア)に関し、本件発明1において凹部は「ベースの表面から窪んだ形状を有する」と特定されるとともに「第2工程では、前記軸部及び前記凹部に沿って前記エラストマーが流れるように前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位から前記第2空間に前記エラストマーを充填する」と規定されている。
当該記載を踏まえると、第2工程においてエラストマーは、基部のうち隆起部よりも軸部側に位置する部位から充填され、窪んだ形状である凹部を流れることにより充填が進むものと認められることから、エラストマーは凹部に沿った流れにより充填されることは明らかである。
また申立人の主張(イ)に関し、エラストマーがゲートから凹部内を隆起部、さらに凹部とベースとの境界に向かって流れることから、エラストマーは凹部に沿って流れるといえ、ゲートを基準として凹部とベースとの境界とは反対方向に存在する軸部の先端に向かってもエラストマーは流れるものであるから、エラストマーは軸部に沿って流れるともいえる。
したがって、ゲートが軸部の先端部以外の部分に配置された場合における、軸部および凹部に沿ってエラストマーが流れる態様が特定できない、とはいえない。
よって、本件発明1は明確であるといえ、本件発明1を直接的又は間接的に引用する本件発明2?7についても同様に明確であるといえることから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

(4)理由6について
ア 甲第1号証及び甲第1号証に記載された発明について
(ア)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証(特開2016-215648号公報)には、図面とともに次の記載がある。

「【0001】
本発明は、エラストマで被覆した清掃部を有する歯間清掃具の製造方法及び歯間清掃具に関するものである。」
「【0038】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
<歯間清掃具>
先ず、歯間清掃具1の構成について説明する。
図1?図6に示すように、歯間清掃具1は、その機能で区別すると、歯間清掃用の清掃部2と、持ち手としてのハンドル部3とを備え、その素材で区別すると、合成樹脂からなる基材部10と、エラストマからなる軟質部20とを備えている。この歯間清掃具1は、複数個の歯間清掃具1を切り離し可能に並列状に連結してなる歯間清掃具連結体1Aの形態に製作され、利用者は、歯間清掃具連結体1Aの一側から順番に歯間清掃具1を連結部13において切り離して、歯間清掃具1を順次使用することになる。なお、図1では、10個の歯間清掃具1を並列状に連結して歯間清掃具連結体1Aを構成したが、歯間清掃具連結体1Aを構成する歯間清掃具1の連結個数は任意に設定可能である。
【0039】
(基材部)
基材部10は、繊維材を添加した合成樹脂からなり、図1?図6に示すように、ハンドル部3を構成する扁平な細長い板状のハンドル基材部11と、ハンドル基材部11の先端部に連設した細長い軸状の芯基材部12と、隣接するハンドル基材部11を切り離し可能に連結する連結部13とを備えている。
【0040】
ハンドル基材部11は、扁平な細長い板状に形成したが、手で保持して歯間を清掃し易い形状であれば、扁平な細長い板状以外の任意の形状、例えば円形や楕円形や多角形などの横断面形状の棒状に形成することもできる。ハンドル基材部11の先端部は芯基材部12側へ行くにしたがって幅狭に構成されて、芯基材部12に滑らかに連設されている。ハンドル基材部11の寸法は、手で保持して歯間を清掃し易い寸法であれば任意の寸法に設定でき、図1?図6に示す形状のハンドル基材部11では、例えば長さL1は10mm?25mm、幅W1は4mm?10mm、把持部分の厚さt1は1.0mm?2.0mmに設定できる。このように、ハンドル基材部11を薄肉に構成しているので、基材部10を成形するときに、ハンドル基材部11の収縮による寸法バラツキを少なくできるとともに、ヒケを防止して、軟質部20を成形するための第2金型40、41への基材部10の装填不良を防止できる。
【0041】
芯基材部12は、略直線状の細長い軸状に形成され、芯基材部12の把持部側には外部に露出する露出部12aが形成され、芯基材部12の先端側部分にはエラストマが被覆されて歯間に挿入可能な芯本体12bが形成され、芯基材部12は先端側へ行くにしたがって縮径する緩やかなテーパ形状に形成されている。幅狭に構成されるハンドル基材部11の先端部側面のアール(湾曲部)の終点から軟質部20の被覆部20aの基端部までの芯基材部12の露出部12aの長さL2は、操作性を考慮して、例えば10mm?50mm、好ましくは10mm?25mmに設定され、清掃用軟質部21の長さL3は歯間に対する清掃性を考慮して、例えば12mm?22mmに設定されている。芯基材部12の中心線に対するテーパ形状のなす角度θは、歯間への挿入性を考慮して、0.2°?2.5°、好ましくは0.2°?1.5°に設定されている。芯本体12bの先端側部分の直径は0.4mm?0.6mmに設定され、芯本体12bの基端部の直径は0.8mm?2.0mmに設定され、また清掃用軟質部21の被覆部21aの先端部分の曲面終端部における直径Dは0.5?1.2mmに設定され、芯本体12bの先端部から少なくとも5mm以上の芯本体12bの先端側部分を確実に歯間に挿入できるように構成されている。ただし、芯基材部12のテーパ形状のなす角度θは、芯基材部12の全長にわたって同じ角度θに設定したが、芯基材部12の先端側へ行くにしたがって連続的或いは段階的に小さくなるように設定することもできる。また、露出部12aを全長にわたって同じ直径の軸状に形成し、芯本体12bのみを先端側へ行くにしたがって縮径する緩やかなテーパ形状に形成することもできる。更に、露出部12aを省略し、芯本体12bをハンドル基材部11に直接的に連設することも可能である。」
「【0045】
基材部10を構成する合成樹脂材料に対して添加する繊維材としては、ガラス繊維や炭素繊維やアラミド繊維などを採用することができる。繊維材の配合割合は、基材部10を構成する合成樹脂材料にもよるが、基本的には、12重量%未満の場合には曲り易くなって、清掃部2を歯間に挿入し難くなり、35重量%を超えると清掃部2が折れ易くなるので、12重量%以上35重量%以下に設定することが好ましく、15重量%以上35重量%以下に設定することがより好ましく、20重量%以上30重量%以下に設定することが特に好ましい。具体的には、合成樹脂材料としてポリプロピレン(PP)を用いる場合には、繊維材の配合割合を15重量%以上、35重量%以下に設定することが好ましく、ポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いる場合には、12重量%以上、35重量%以下、15重量%以上、35重量%以下に設定することが好ましい。」
「【0047】
(軟質部)
軟質部20は、図1?図6に示すように、エラストマ材料を用いて基材部10に一体成形したもので、芯基材部12に外装した清掃用軟質部21を備えている。ただし、軟質部20として、芯本体12bの基端部に歯間への挿入を規制する環状の挿入規制部を設けたり、ハンドル基材部11に滑り止め部を設けたりすることも可能である。挿入規制部や滑り止め部は、清掃用軟質部21とは独立に成形することも可能であるが、金型構造が複雑になるので、清掃用軟質部21の基部に連なるように形成することが好ましい。」
「【0053】
<製造方法>
次に、歯間清掃具1の製造方法について説明する。
この歯間清掃具1の製造方法は、図7?図12に示すように、第1金型30、31の第1成形空間32に合成樹脂材料を充填して基材部10を製作する基材部成形工程と、第1金型30、31にて成形した基材部10を第2金型40、41の第2成形空間42にセットした後、該第2成形空間42にエラストマ材料を充填して軟質部20を成形する軟質部成形工程とを備えている。
【0054】
(基材部成形工程)
基材部成形工程では、図7?図9に示すように、第1金型30、31の第1成形空間32に繊維材を添加した合成樹脂材料を充填して基材部10を製作する。より具体的には、第1金型30、31として、芯基材部成形部32aとハンドル基材部成形部32bとからなる第1成形空間32を複数並列状に形成し、隣接するハンドル基材部成形部32b間にそれに連通する1対の連結部成形部35をそれぞれ形成するとともに、これら複数の第1成形空間32の基端側にランナ33を形成し、ゲート34を通じて複数の第1成形空間32をランナ33に連通したものを用い、ランナ33へ繊維材を添加した合成樹脂材料を供給することで、ゲート34を通じて複数の第1成形空間32内に繊維材を添加した合成樹脂材料を充填して、複数の基材部10を同時成形することになる。そして、複数の基材部10とランナ部37とゲート部36と連結部13とを有する一次成形品10Aを製作する。なお、基材部10は1つずつ成形することも可能であるが、複数個の基材部10を同時に成形することで、生産性を向上できるとともに、成形されたランナ部37を保持して、複数個の基材部10を同時に移載でき、作業性を向上できるので好ましい。また、ゲート34は、第1成形空間32の芯基材部成形部32aとは反対側の基端部側、より好ましくは連結部成形部35よりも第1成形空間32の芯基材部成形部32aとは反対側の基端部側であれば、任意の位置に形成することができるが、第1成形空間32の基端部にゲート34としてサイドゲートを形成すると、第2金型40、41に一次成形品10Aを装填する際に、一次成形品10Aのゲート部36が第2金型40、41間に挟み込まれるリスクを低減できるので好ましい。また、第1金型30、31に、コールドランナからなるランナ33に代えてホットランナを設けることも可能であるが、第1金型30、31が大型になるとともに製作コストが高くなるので、コールドランナからなるランナ33を設けることが好ましい。また、ランナ部37により複数の基材部10を安定性良く連結できるので、一次成形品10Aを第2金型40、41に移載するときに、一次成形品10Aのハンドリング性を向上できるので好ましい。更に、ゲート34として例えば円柱形様若しくは紡錘形様で直径0.1?1.5mmの範囲にあるピンゲートを採用すると、コールドランナを採用でき、ゲート34の間隔を狭くして成形品を小型に構成できるので好ましい。」
「【0062】
(軟質部成形工程)
軟質部成形工程では、図11、図12に示すように、第1金型30、31にて成形した一次成形品10Aを第2金型40、41の第2成形空間42にセットした後、該第2成形空間42にエラストマ材料を充填して軟質部20を成形し、複数の歯間清掃具1を並列状に連設した歯間清掃具連結体1Aを得ることになる。
【0063】
先ず、軟質部成形工程で用いる第2金型40、41について説明すると、第2金型40、41には、第1金型30、31にて成形した一次成形品10Aの複数の基材部10に対応する位置に複数の第2成形空間42が形成されるとともに、一次成形品10Aのランナ部37と複数のゲート部36と連結部13とに適合する嵌合空間43、44、45が形成されている。第2金型40、41と基材部10間には第2成形空間42として、芯基材部12を取り囲む清掃用軟質部成形部46が形成されている。清掃用軟質部成形部46の先端側において第2金型40、41の合わせ面40a、41aには、清掃用軟質部成形部46の先端部に開口するゲート47がそれぞれ形成され、これら複数のゲート47は第2金型40、41に形成した共通のランナ48に連通され、共通のランナ48から複数のゲート47を経て複数の第2成形空間42にエラストマ材料が供給されるように構成されている。なお、ゲート47の直径は0.1mm以上1.0mm以下に設定することが好ましい。」
「図2


「図7


「図11


段落【0039】の「図1?図6に示すように、ハンドル部3を構成する扁平な細長い板状のハンドル基材部11と、ハンドル基材部11の先端部に連設した細長い軸状の芯基材部12」との記載、段落【0040】の「図1?図6に示す形状のハンドル基材部11では、例えば長さL1は10mm?25mm、幅W1は4mm?10mm、把持部分の厚さt1は1.0mm?2.0mmに設定できる。」との記載及び図2から芯基材部12はの幅はハンドル基材部11の幅より狭いことが見て取れることから、芯基材部12はハンドル基材部11の先端部に連設され、その断面積はハンドル基材部11の断面積より小さい、といえる。
また、段落【0041】に「芯基材部12は、略直線状の細長い軸状に形成され、芯基材部12の把持部側には外部に露出する露出部12aが形成され、芯基材部12の先端側部分にはエラストマが被覆されて歯間に挿入可能な芯本体12bが形成され」と記載されていることから、芯基材部12の先端側部分には歯間に挿入可能な芯本体12bが形成される、といえる。
さらに、段落【0039】に「基材部10は、繊維材を添加した合成樹脂からなり、図1?図6に示すように、ハンドル部3を構成する扁平な細長い板状のハンドル基材部11と、ハンドル基材部11の先端部に連設した細長い軸状の芯基材部12と、隣接するハンドル基材部11を切り離し可能に連結する連結部13とを備えている。」と記載されていることから、基材部10はハンドル基材部11及び芯基材部12を備える、といえる。

(イ)甲第1号証に記載された発明
上記(ア)より、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
【甲1発明】
「歯間清掃具の製造方法であって、
扁平な細長い板状のハンドル基材部11と、ハンドル基材部11の先端部に連設され、その断面積はハンドル基材部11の断面積より小さく、先端側部分には歯間に挿入可能な芯本体12bが形成される芯基材部12と、ハンドル基材部11及び芯基材部12を備える基材部10を有するとともに、基材部10に対応する第1成形空間32を有する第1金型30、31内に合成樹脂材料を充填することによって前記基材部10を成形する基材部成形工程と、
前記芯基材部12の周囲に歯間の清掃が可能な軟質部20を形成可能な第2成形空間42を有する第2金型40、41内に前記基材部10を配置した状態で当該第2金型40、41内にエラストマ材料を充填することによって前記軟質部20を形成する軟質部成形工程と、備え、
基材部成形工程では、基材部10を成形し、
軟質部成形工程では、軟質部20を成形する、歯間清掃具の製造方法。」

イ 甲第2号証及び甲第2号証に記載された技術について
(ア)甲第2号証に記載された事項
甲第2号証(意匠登録第1253392号公報)には、図面とともに次の記載がある。
「【意匠に係る物品の説明】本物品は、合成樹脂製の柄の一端に毛束が植立されたヘッド部が形成されていて、柄の中間部位及び端部には略全周に亘る溝が設けられていて、その溝にエラストマ製の滑り止めが一体的に取り付けられた構成となっており、またブラシの向きの確認や変更がし易いように、柄の中間部位に設けられた滑り止めにはその周囲に略90度毎に柄の長手方向と平行な比較的長めの凸条部が形成されており、更に歯に当接させるブラシの先端部側を確認できるように正面図に示す柄の中間部位の凸条部間にのみ突起部が形成されている歯ブラシである。」
「正面図


「背面図


「平面図



(イ)甲第2号証に記載された技術
上記(ア)より、甲第2号証には次の技術(以下「甲2技術」という。)が記載されていると認められる。
【甲2技術】
「歯ブラシの柄の中間部位及び端部には略全周に亘る溝が設けられていて、その溝にエラストマ製の滑り止めが一体的に取り付けられた技術。」

ウ 甲第3号証及び甲第3号証に記載された技術について
(ア)甲第3号証に記載された事項
甲第3号証(特表2003-508099号公報)には、図面とともに次の記載がある。
「【0035】
歯ブラシ本体のポリマー組成物には、炭酸カルシウム、酸化防止剤、顔料(例えば二酸化チタン)、染料、UV増白剤、及びそれらの組み合わせを含む他の様々な成分も含めることができる。」

(イ)甲第3号証に記載された技術
上記(ア)より、甲第3号証には次の技術(以下「甲3技術」という。)が記載されていると認められる。
【甲3技術】
「歯ブラシ本体のポリマー組成物には、二酸化チタンを含む技術。」

エ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ハンドル基材部11」は、その文言の意味、機能または構成等からみて、本件発明1の「ハンドル部」に相当する。以下同様に、「第1成形空間32」は「第1空間」に、「第1金型30、31」は「第1金型」に、「合成樹脂材料」は「合成樹脂を含む複合材料」に、「基材部成形工程」は「第1工程」に、「軟質部20」は「清掃部」に、「第2成形空間42」は「第2空間」に、「第2金型40、41」は「第2金型」に、「エラストマ材料」は「エラストマー」に、「軟質部成形工程」は「第2工程」にそれぞれ相当する。
また、甲1発明の「歯間に挿入可能な芯本体12bが形成される」態様は、芯本体12bが歯間に挿通可能であることが明らかであるから、本件発明1の「歯間に挿通されることが可能な形状を有する」態様に相当し、甲1発明の「芯基材部12」は本件発明1の「軸部」に、甲1発明1の「基材部10」は本件発明1の「基部」に、それぞれ相当する。
さらに、甲1発明の「連設され」る態様は、本件発明1の「接続され」る態様に相当し、甲1発明の「その断面積はハンドル基材部11の断面積より小さ」い態様における「その」は「芯基材部12」を意味することから、本件発明1の「前記ハンドル部の断面積よりも小さな断面積を有する」態様に相当する。
以上より、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
歯間清掃具の製造方法であって、
ハンドル部と、前記ハンドル部の先端部に接続されており、前記ハンドル部の断面積よりも小さな断面積を有するとともに歯間に挿通されることが可能な形状を有する軸部と、を有する基部に対応する第1空間を有する第1金型内に合成樹脂を含む複合材料を充填することによって前記基部を成形する第1工程と、
前記軸部の周囲に歯間の清掃が可能な清掃部を形成可能な第2空間を有する第2金型内に前記基部を配置した状態で当該第2金型内にエラストマーを充填することによって前記清掃部を形成する第2工程と、備えた、歯間清掃具の製造方法。
【相違点1】
本件発明1のハンドル部は、少なくとも一部が湾曲する形状を有するとともに、ベースと、前記ベースの表面から窪んだ形状を有する凹部と、前記凹部の表面のうち前記ベースと前記凹部との境界から離間した部位から隆起する隆起部と、を有するのに対して、甲1発明のハンドル基材部11は、扁平な細長い板状であり、その形状が異なる点。
【相違点2】
本件発明1の第2金型は、ハンドル部の表面に滑り止め部を形成可能な第2空間を有するのに対して、甲1発明の第2金型40、41は滑り止め部を形成可能な空間を有していない点。
【相違点3】
本件発明1の第2工程では、軸部及び前記凹部に沿って前記エラストマーが流れるように前記基部のうち前記隆起部よりも前記軸部側に位置する部位から前記第2空間に前記エラストマーを充填することにより、前記軸部の周囲に前記清掃部を形成するとともに前記凹部の表面に前記滑り止め部を形成するのに対して、甲1発明の軟質部成形工程では、清掃部を形成するものであり、滑り止め部を形成するものでなく、さらにエラストマーの充填態様が明らかでない点。

(イ)判断
事案に鑑み、まず相違点3について検討すると、甲第1号証には当該相違点3に関する本願発明に係る構成の記載や示唆はなく、甲2技術においても、エラストマーが隆起部より軸部側から充填される点について、記載も示唆もされていない。また、甲2技術が周知技術であったとしても、同様にエラストマーが隆起部より軸部側から充填される点が容易に想到できたものということはできない。
そして、本件発明1は「第2工程では、軸部及び凹部に沿ってエラストマーが流れるように基部のうち隆起部よりも軸部側に位置する部位から第2空間にエラストマーを充填する」ことにより、「金型内にエラストマーを充填する工程において、前記金型内における滑り止め部を形成するための空間から当該空間外にエラストマーが漏れるのを抑制可能」(段落【0021】)との効果を奏するものであるから、単なる設計事項であるともいえない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

オ 本件発明3、6、7について
本件発明3、6、7は本件発明1の構成を全て含むものであるところ、上記 エ(ア)のとおり本件発明3、6、7と甲1発明とは、少なくとも相違点1?3で相違する。
上記 エ(イ)のとおり、甲第1号証及び甲2技術には上記相違点3に関する本件発明に係る構成の記載や示唆はなく、また甲3技術にも上記相違点3に関する記載や示唆はない。さらに、甲2技術が周知技術であったとしても、同様に、上記相違点3に関する本件発明に係る構成が容易に想到できたものということはできない。
また上記 エ(イ)のとおり、本件発明3、6、7は「第2工程では、軸部及び凹部に沿ってエラストマーが流れるように基部のうち隆起部よりも軸部側に位置する部位から第2空間にエラストマーを充填する」ことにより、「金型内にエラストマーを充填する工程において、前記金型内における滑り止め部を形成するための空間から当該空間外にエラストマーが漏れるのを抑制可能」(段落【0021】)との効果を奏するものであるから、上記相違点3に関する本件発明に係る構成は、単なる設計事項であるともいえない。
したがって、本件発明3、6は、甲1発明及び甲2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、本件発明7は、甲1発明、甲3技術及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 小括
したがって、本件発明1?7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号、同法第36条第6項第1号及び第2号の規定に違反してされたものでないから、同法第113条第4号に該当せず、また、本件発明1、3、6、7に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものでないから、同法第113条第2号にも該当しない。よって本件発明1?7に係る特許は、取り消すべきものとすることはできない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1?7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2019-11-29 
出願番号 特願2016-256516(P2016-256516)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A61C)
P 1 651・ 537- Y (A61C)
P 1 651・ 536- Y (A61C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 家辺 信太郎  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 沖田 孝裕
関谷 一夫
登録日 2018-08-17 
登録番号 特許第6387386号(P6387386)
権利者 小林製薬株式会社
発明の名称 歯間清掃具の製造方法  
代理人 小谷 昌崇  
代理人 村松 敏郎  
代理人 小谷 悦司  
代理人 荒田 秀明  

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