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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 D04B |
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管理番号 | 1357715 |
異議申立番号 | 異議2019-700343 |
総通号数 | 241 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2020-01-31 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2019-04-24 |
確定日 | 2019-12-02 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6416153号発明「経編地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6416153号の請求項1?5に係る特許を取り消す。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6416153号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成28年6月2日に出願したものであって、平成30年10月12日に特許権の設定登録がされ、平成30年10月31日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 平成31年4月24日:特許異議申立人特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という。)による特許異議の申立て 令和元年6月24日付け:取消理由通知書 令和元年7月17日:特許権者による意見書の提出 令和元年8月9日付け:取消理由通知書(決定の予告) 令和元年9月10日:特許権者による意見書の提出 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1?5に係る発明(以下「本件発明1?5」という。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成している経編地において、 全てのコース間において前記非弾性糸と前記弾性糸とが同方向にアンダーラップし、 全てのコース間において前記非弾性糸のアンダーラップの針間数が同じであり、 全てのコースにおいて前記弾性糸のオーバーラップの針間数が同じであり、 前記非弾性糸のアンダーラップの前記針間数と前記弾性糸のオーバーラップの前記針間数とが同じであり、 前記弾性糸が開き目の2目編であり、 非弾性糸の編組織が10/23で弾性糸の編組織が02/31であることを特徴とする経編地。 【請求項2】 前記非弾性糸のランナー長が110cm/ラック以上である、請求項1に記載の経編地。 【請求項3】 前記弾性糸のランナー長が140cm/ラック以下である、請求項1又は2に記載の経編地。 【請求項4】 コース密度が110コース/インチ以上である、請求項1?3のいずれか1項に記載の経編地。 【請求項5】 経方向と緯方向のヒステリシスがそれぞれ0.7以上である、請求項3に記載の経編地。」 第3 当審の判断 1 取消理由の概要 令和元年8月9日付け取消理由通知(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。 (拡大先願)本件特許の請求項1?5に係る特許は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものであるから、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 <特許出願> 先願:特願2016-92612号(特開2017-201064号)(甲第2号証) 2 当審の判断 (1)本件発明1について ア 先願発明 本件特許の出願の日前の特許出願であって、本件特許の出願後に出願公開がされ、本件特許の出願の発明者が本件特許の出願前の特許出願に係る発明をした者と同一ではなく(なお、本件特許の発明者は、先願の3名の発明者に含まれているが、発明者同一とはいえない。)、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記特許出願の出願人と同一でもない先願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)には、以下の記載がある。 (ア)「【請求項1】 非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成している経編地において、 前記弾性糸が、前記非弾性糸と同方向にアンダーラップし、全コースのうち半分以上のコースで開き目の2目編となっていることを特徴とする経編地。」 (イ)「【技術分野】 【0001】 本発明は経編地及びインナーウェアに関する。 【背景技術】 【0002】 ガードル等のインナーウェアの裾を編地端始末すると裾に厚みが出てしまうため、それを避けるため、インナーウェアに用いられる経編地には、フリーなカッティング(折り返し縫い等の編地端始末がされていない切りっぱなしの状態)で使用できることが求められている。経編地がフリーなカッティングで使用できるためには、カット後の編地端にカールやほつれが発生しにくいことが重要である。また、インナーウェアの着脱し易さや着用感を向上させるために、インナーウェアに用いられる経編地には、高い伸度及び高い回復性が求められている。 【0003】 これらの求めに応えるため特許文献1の経編地が提案されている。この経編地は非弾性糸及び弾性糸からなる編組織を有し、弾性糸を2目編とすることにより、経伸度だけでなく緯伸度も高くしている。さらに、別の弾性糸を挿入することにより、経編地の伸度をより高めるとともに、経編地をカールしにくくしている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特許第4102829号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかし、経編地に弾性糸を挿入すると、経編地のコストが高くなる等の問題がある。 【0006】 本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、高伸度で高回復性がありフリーなカッティングで使用できる経編地及びその経編地を用いたインナーウェアを提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0007】 実施形態の経編地は、非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成している経編地において、前記弾性糸が、前記非弾性糸と同方向にアンダーラップし、全コースのうち半分以上のコースで開き目の2目編となっていることを特徴とする。」 (ウ)「【0009】 本実施形態の経編地は、非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成し、各コース間において非弾性糸と弾性糸とが同方向にアンダーラップしている経編地である。 【0010】 非弾性糸の編組織として、例えば、デンビ編組織、コード編組織、アトラス編組織が挙げられる。非弾性糸は、全てのコースで閉じ目の編み目を形成していても良いし、一部のコースで閉じ目の編み目を形成し残りのコースで開き目の編み目を形成していても良いし、全てのコースで開き目の編み目を形成していても良い。 【0011】 弾性糸の編組織は、全てのコースのうちの半分以上のコースで開き目の2目編となっている組織である。この弾性糸の編組織としては、例えば、弾性糸が全てのコースで開き目の2目編となっている組織や、開き目の2目編とそれ以外の編み目とが交互に繰り返されている組織が挙げられる。この弾性糸の編組織における、開き目の2目編以外の編み目としては、例えば、開き目の1目編や、閉じ目の1目編が挙げられる。弾性糸の編組織の1繰り返し単位あたりの振り幅は、例えば、3ウェール以上5ウェール以下である。 【0012】 本実施形態の経編地では、以上のような非弾性糸の編組織と弾性糸の編組織とが、同じコース間で同方向にアンダーラップするようにして、組み合わされている。組み合わせには様々なものがあり、例えば、非弾性糸を全てのコースで閉じ目の編組織とし、弾性糸を全てのコースで開き目の編組織とし、同じコースで閉じ目の編み目が重ならないようにしても良い。また、非弾性糸を全てのコースで閉じ目の編組織とし、弾性糸を全てのコースで開き目の2目編の編組織としても良い。図1?図4は非弾性糸10の編組織と弾性糸20の編組織との好ましい組み合わせからなる経編地の例である。 【0013】 図1の経編地では、非弾性糸10が10/12の繰り返し単位からなるデンビ編組織となり、弾性糸20が02/31の繰り返し単位からなる編組織となっている。図1からも明らかなように、弾性糸20は、全てのコースで開き目の2目編となっており、また、1繰り返し単位あたり3ウェールの振り幅となっている。非弾性糸10と弾性糸20とは、全てのコース間で同方向にアンダーラップしている。 【0014】 図2の経編地では、非弾性糸10が10/21/23/12の繰り返し単位からなるア トラス編組織となり、弾性糸20が02/24/53/31の繰り返し単位からなる編組織となっている。図2からも明らかなように、弾性糸20は、全てのコースで開き目の2目編となっており、また、1繰り返し単位あたり5ウェールの振り幅となっている。非弾性糸10と弾性糸20とは、全てのコース間で同方向にアンダーラップしている。 【0015】 図3の経編地では、非弾性糸10が10/21/23/12の繰り返し単位からなるアトラス編組織となり、弾性糸20が02/23/42/21の繰り返し単位からなる編組織となっている。図3からも明らかなように、弾性糸20は、開き目の2目編と開き目の1目編とが交互に繰り返された編組織となっており、また、1繰り返し単位あたり4ウェールの振り幅となっている。非弾性糸10と弾性糸20とは、全てのコース間で同方向にアンダーラップしている。 【0016】 図4の経編地では、非弾性糸10が10/21/23/12の繰り返し単位からなるアトラス編組織となり、弾性糸20が02/32/42/12の繰り返し単位からなる編組織となっている。図4からも明らかなように、弾性糸20は、開き目の2目編と閉じ目の1目編とが交互に繰り返された編組織となっており、また、1繰り返し単位あたり4ウェールの振り幅となっている。非弾性糸10と弾性糸20とは、全てのコース間で同方向にアンダーラップしている。 【0017】 なお、図1?図4に示されている編組織以外にも、様々な編組織があり得る。 【0018】 本実施形態の経編地において、非弾性糸のランナー長は、90cm/ラック以上であることが好ましく、100cm/ラック以上であることがさらに好ましく、90cm/ラック以上130cm/ラック以下又は100cm/ラック以上130cm/ラック以下であることがさらに好ましい。 【0019】 また、弾性糸のランナー長は、140cm/ラック以下であることが好ましく、130cm/ラック以下であることがさらに好ましく、100cm/ラック以上140cm/ラック以下又は100cm/ラック以上130cm/ラック以下であることがさらに好ましい。ここで、1ラック=480コースである。従ってランナー長とは480コースを編むのに要する糸の長さのことである。 【0020】 また、本実施形態の経編地において、コース密度は、160コース/インチ以上であることが好ましく、170コース/インチ以上であることがさらに好ましく、160コース/インチ以上220コース/インチ以下又は170コース/インチ以上220コース/インチ以下であることがさらに好ましい。また、ウェール密度は、65ウェール/インチ以上90ウェール/インチ以下であることが好ましい。なお1インチは25.4mmである。」 (エ)「 」 (オ)先願明細書等には、「高伸度で高回復性がありフリーなカッティングで使用できる」(【0006】)ようにするために、「非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成している経編地において、前記弾性糸が、前記非弾性糸と同方向にアンダーラップし、全コースのうち半分以上のコースで開き目の2目編となっている」(【0007】)経編地が記載されており、非弾性糸の編組織と弾性糸の編組織について、「非弾性糸の編組織と弾性糸の編組織とが、同じコース間で同方向にアンダーラップするようにして、組み合わされている。組み合わせには様々なものがあり、例えば、非弾性糸を全てのコースで閉じ目の編組織とし、弾性糸を全てのコースで開き目の編組織とし、同じコースで閉じ目の編み目が重ならないようにしても良い。また、非弾性糸を全てのコースで閉じ目の編組織とし、弾性糸を全てのコースで開き目の2目編の編組織としても良い。」(【0012】)と記載されている。そうすると、先願明細書等には、「非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成している経編地において、非弾性糸を全てのコースで閉じ目の編組織とし、弾性糸を全てのコースで開き目の編組織とし、前記弾性糸が、前記非弾性糸と同方向にアンダーラップし、全コースのうち半分以上のコースで開き目の2目編となっている経編地。」が記載されているといえる。 そして、この経編地に用いる弾性糸の編組織としては、「例えば、弾性糸が全てのコースで開き目の2目編となっている組織や、開き目の2目編とそれ以外の編み目とが交互に繰り返されている組織が挙げられる。」(【0011】)と記載され、具体的には、図1?4の弾性糸20の編み組織が例示されており、そのうち、図1には、「弾性糸20が02/31の繰り返し単位からな」り、「全てのコースで開き目の2目編となっており、また、1繰り返し単位あたり3ウェールの振り幅となっている」(【0013】)編組織が記載されている。 また、この経編地に用いる「非弾性糸の編組織として、例えば、デンビ編組織、コード編組織、アトラス編組織が挙げられる。」(【0010】)と記載されており、非弾性糸を全てのコースで閉じ目の編組織として、コード編組織が記載されている。 したがって、先願明細書等には、以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されている。 「非弾性糸がコード編組織となり、弾性糸が02/31の繰り返し単位からなる編組織となっている経編地であって、 弾性糸は、全てのコースで開き目の2目編となっており、また、1繰り返し単位あたり3ウェールの振り幅となっており、 非弾性糸と弾性糸とは、全てのコース間で同方向にアンダーラップしている経編地。」 イ 対比 本件発明1と先願発明とを対比すると、 (ア)先願発明の「非弾性糸がコード編組織となり、弾性糸が02/31の繰り返し単位からなる編組織となっている経編地」は、本件発明1の「非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成している経編地」に相当する。 (イ)先願発明の「非弾性糸と弾性糸とは、全てのコース間で同方向にアンダーラップしている」態様は、本件発明1の「全てのコース間において前記非弾性糸と前記弾性糸とが同方向にアンダーラップし」ている態様に相当する。 (ウ)先願発明の「非弾性糸がコード編組織」である態様は、全てのコース間においてコード編組織である編組織の繰り返しであるから、本件発明1の「全てのコース間において前記非弾性糸のアンダーラップの針間数が同じであ」る態様に相当する。 (エ)先願発明の「弾性糸が02/31の繰り返し単位からなる編組織」である態様は、本件発明1の「全てのコースにおいて前記弾性糸のオーバーラップの針間数が同じである」態様に相当する。 (オ)先願発明の「弾性糸は、全てのコースで開き目の2目編」であることは、本件発明1の「前記弾性糸が開き目の2目編であ」ることに相当する。 (カ)先願発明の「弾性糸が02/31の繰り返し単位からなる」ことは、本件発明1の「弾性糸の編組織が02/31である」ことに相当する。 したがって、本件発明1と先願発明とは、 <一致点> 「非弾性糸と弾性糸とが編み目を形成している経編地において、 全てのコース間において前記非弾性糸と前記弾性糸とが同方向にアンダーラップし、 全てのコース間において前記非弾性糸のアンダーラップの針間数が同じであり、 全てのコースにおいて前記弾性糸のオーバーラップの針間数が同じであり、 前記弾性糸が開き目の2目編であり、 弾性糸の編組織が02/31である経編地。」 の点で一致し、以下の点で一応相違する。 <相違点1> 本件発明1は、「前記非弾性糸のアンダーラップの前記針間数と前記弾性糸のオーバーラップの前記針間数とが同じである」のに対して、先願発明は、そのように特定されていない点。 <相違点2> 本件発明1は、「非弾性糸の編組織が10/23で」あるのに対して、先願発明は、非弾性糸がコード編組織について、そのように特定されていない点。 ウ 検討 上記相違点について検討する。 コード編の編み組織のうち、オーバーラップ、アンダーラップともに3針間ずつ行う「1×2コード」が、特許権者が乙第5号証として提出した特開2010-189815号公報(特に、【0018】?【0020】、図1B参照。)に「プレーンコード組織」、以下の引用文献1、2に「プレンコード」と記載されるように、最も広く認識されている組織である。また、先願明細書等には、非弾性糸の編組織として、「1×2コード」を排除する記載もない。 文献1:江尻久治、「ラッシェルの基礎知識」、株式会社センイ・ジヤァナル、昭和39年10月1日発行、p.123?126(p.125の「(B)プレンコード」の欄参照。) 文献2:日本繊維機械学会ニット研究部会、「メリヤス技術必携(たて編篇)」、日本繊維機械学会、昭和52年4月30日発行、p.50?53(p.51?52の2.1の「B.コード」の欄参照。) そうすると、先願発明のコード編組織としては、上記「1×2コード」が含まれることは明らかであり、非弾性糸の編組織として想定されていると理解するのが自然である。そして、先願発明の非弾性糸の編組織として想定される「1×2コード」のコード編組織は、編組織が10/23であるといえ、また、非弾性糸のアンダーラップの針間数が2であり、弾性糸のオーバーラップの針間数の2に対して、非弾性糸のアンダーラップの針間数と弾性糸のオーバーラップの針間数とが同じである。 したがって、上記相違点1及び相違点2は、実質的な相違点ではないから、本件発明1は、先願発明と同一である。 仮に、先願発明のコード編組織が、「1×2コード」であるとまではいえないとしても、「1×2コード」はコード編組織中、「プレーンコード編組織(プレンコード)」とも呼ばれ、最も広く知られた組織であるから、先願発明の経編地を具体化するにあたって、コード編組織を「1×2コード」とすることは設計上適宜なし得たことである。そして、その際の経編地の編組織は当業者にとって明らかであり、その作用効果も当業者が当然に理解するものである。そうすると、新たな効果を奏するとはいえないから、先願発明において、コード編組織として「1×2コード」とすることは、具体化手段における微差であり、本願発明1は、先願発明と実質的に同一である。 ここで、特許権者は、令和元年9月10日の意見書において、コード編み組織において、10/23コードが「最も基本的な組織」とはいえないので、先願発明のコード編み組織について10/23の編み組織だと理解するのが通常であるとはいえないから、本件発明1は、先願発明と同一ではない旨主張する。 特許権者の主張するように、コード編みには、10/23コード以外にも10/34、10/45等のコード編みは存在するが、乙第5号証や上記文献1、2にも示されるように、一般に「コード編み」を説明する場合、10/23コードが記載されており、「プレーンコード編組織(プレンコード)」とも呼ばれている。 そして、先願明細書等には、10/23コードを排除する記載はなく、技術常識に照らして10/23コードが記載されていないとはいえないから、先願発明の「コード編み」としては、まずは、上記「1×2コード」であると理解するのが自然である。 したがって、上記特許権者の主張は当を得ないものである。 また、特許権者は、本件発明1は、「前記非弾性糸のアンダーラップの前記針間数と前記弾性糸のオーバーラップの前記針間数とが同じである」ことにより、経編地がカールしにくくなるという効果を奏するから、本願発明1は、先願発明と実質的に同一でない旨主張する。 しかし、編地がカールする一因として、編地の表裏方向において、表側の編組織と裏側の編組織とが異なることで編地の表と裏に加わる力が異なることによるものであることは、明らかである。 また、非弾性糸のアンダーラップの前記針間数と弾性糸のオーバーラップの前記針間数とが同じであるということは、オーバーラップの針間数の点で、表側の編組織と裏側の編組織とは同じであって、編地の表と裏に加わる力も同じであると考えられるから、カールのしにくい編地であると当業者は理解する。 したがって、特許権者の主張する効果は、本件発明1の編組織から当業者が当然に理解する作用効果の範囲内のものであるから、上記のとおり、本願発明1は、先願発明と実質的に同一である。 エ まとめ したがって、本件発明1は、先願発明と同一、又は実質的に同一である。 (2)本件発明2について 本件発明2と先願発明とを対比すると、上記<相違点1>、<相違点2>及び以下の点で一応相違し、その余の点で一致する。 <相違点3> 本件発明2は、「前記非弾性糸のランナー長が110cm/ラック以上である」のに対して、先願発明は、非弾性糸のランナー長が不明である点。 相違点1及び相違点2については、上記(1)ウで述べた理由と同様である。 <相違点3について> 先願明細書等には、「非弾性糸のランナー長は、90cm/ラック以上であることが好ましく、100cm/ラック以上であることがさらに好ましく、」(【0018】)と記載されており、110cm/ラック以上とすることは、具体化手段における微差である。 したがって、本件発明2は、先願発明と実質的に同一である。 (3)本件発明3について 本件発明3と先願発明とを対比すると、上記<相違点1>、<相違点2>及び以下の点で一応相違し、その余の点で一致する。 <相違点4> 本件発明3は、「前記弾性糸のランナー長が140cm/ラック以下である」のに対して、先願発明は、弾性糸のランナー長が不明である点。 相違点1及び相違点2については、上記(1)ウで述べた理由と同様である。 <相違点4について> 先願明細書等には、「弾性糸のランナー長は、140cm/ラック以下である」こと(【請求項3】、【0019】)が記載されている。 したがって、本件発明3は、先願発明と同一、又は実質的に同一である。 (4)本件発明4について 本件発明4と先願発明とを対比すると、上記<相違点1>、<相違点2>及び以下の点で一応相違し、その余の点で一致する。 <相違点5> 本件発明4は、「コース密度が110コース/インチ以上である」のに対して、先願発明は、コース密度が不明である点。 相違点1及び相違点2については、上記(1)ウで述べた理由と同様である。 <相違点5について> 先願明細書等には、「コース密度が160コース/インチ以上であれば、経編地の伸度が高くなり、170コース/インチ以上であれば、経編地の伸度がさらに高くなる。また、糸のランナー長の好ましい範囲とコース密度の好ましい範囲との組み合わせにより、経編地の伸度及び回復性がより高くなる。」(【0034】)と記載されており、コース密度を110コース/インチ以上とすることは、具体化手段における微差である。 したがって、本件発明1は、先願発明と実質的に同一である。 (5)本件発明5について 本件発明5と先願発明とを対比すると、上記<相違点1>、<相違点2>、<相違点4>及び以下の点で一応相違し、その余の点で一致する。 <相違点6> 本件発明5は、「経方向と緯方向のヒステリシスがそれぞれ0.7以上である」のに対して、先願発明は、ヒステリシスが不明である点。 相違点1、相違点2及び相違点4については、上記(1)ウ及び(3)で述べた理由と同様である。 <相違点6について> 先願明細書等には、「経方向と緯方向のヒステリシスがそれぞれ0.7以上である」こと(【請求項6】)が記載されている。 したがって、本件発明1は、先願発明と同一、又は実質的に同一である。 第4 むすび 以上のとおり、本件発明1?5は、先願発明1と同一であるから、その特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2019-10-23 |
出願番号 | 特願2016-110685(P2016-110685) |
審決分類 |
P
1
651・
16-
Z
(D04B)
|
最終処分 | 取消 |
前審関与審査官 | 長谷川 大輔 |
特許庁審判長 |
井上 茂夫 |
特許庁審判官 |
門前 浩一 佐々木 正章 |
登録日 | 2018-10-12 |
登録番号 | 特許第6416153号(P6416153) |
権利者 | 川田ニット株式会社 |
発明の名称 | 経編地 |
代理人 | 水鳥 正裕 |
代理人 | 前澤 龍 |
代理人 | 中村 哲士 |
代理人 | 富田 克幸 |
代理人 | 蔦田 正人 |
代理人 | 有近 康臣 |