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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61J
管理番号 1358144
審判番号 不服2018-9076  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-02 
確定日 2019-12-12 
事件の表示 特願2013- 40025「人工乳首及び人工乳首を有する哺乳器」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月11日出願公開,特開2014-166267〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成25年2月28日を出願日とする出願であって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年12月20日付け:拒絶理由通知
平成29年 3月 9日 :意見書,手続補正書の提出
平成29年 8月29日付け:拒絶理由通知
平成29年11月 1日 :意見書,手続補正書の提出
平成30年 3月27日付け:拒絶査定
平成30年 7月 2日 :審判請求書の提出

第2 本願発明について
本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,平成29年11月1日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものである。

「上端にオーバーハング部を有する基部と,前記オーバーハング部の上方に形成された,乳首胴部及び乳孔を有する乳頭部とを具備し,
前記乳首胴部及び前記乳頭部が全体として略円錐形状であり,該略円錐形状の中心軸線が,前記基部の中心軸線に対して授乳時の上顎側に傾斜しており,
取付部材に対して当該人工乳首を取り付けた場合に,取付部材と前記オーバーハング部とが全周に亘って離間し,
前記基部が円筒状の首部をさらに有し,前記オーバーハング部が前記首部の上端に形成されていることを特徴とする人工乳首。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の一つは,この出願の請求項1に係る発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1及び2に記載された発明並びに引用文献5に記載された周知の技術事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

引用文献1.特表2011-527585号公報
引用文献2.特開平05-115535号公報
引用文献5.実願昭55-39770号(実開昭56-141628号)のマイクロフィルム

第4 引用文献の記載及び引用発明

1 引用文献1の記載
(1)引用文献1(平成23年11月4日公表)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0001】
本発明は,瓶,乳首,瓶開口端に乳首を固定するリングナットおよびカバーキャップを備えた哺乳瓶であって,リングナットの設置に関する。」
「【0032】
図1の配置は,ベローズ形の乳房キャリア2,括れ3,隆膨4および環状ディスク形固定エッジ5を有する乳首1である。上部で,乳首キャリア2は,乳房6を担持し,乳頭部7およびいくらか収縮された括れ8を有する。乳房6は,固定エッジ5の中心軸9にラベル付けされた傾斜軸10のように鋭角に傾けられている。乳房6は,荷重のかかっていない場合に中心軸9に対してこの傾斜角を有する。
【0033】
食物を提供するとき,乳首6の傾斜した位置合わせは効果的である。
【0034】
乳房6は,歯科矯正学的に成形される。中心軸9から間隔をおいて対向配置される乳頭部7の側面11は,わずかに凸状に湾曲しているか,あるいは大きい曲率半径を有する。乳頭部7の側面12は,中心軸9に対向して,わずかに凹状に湾曲している。上述した2つの側面11,12の間の移行領域は,より凸状に湾曲しているか,あるいは側面11から向きがそれているより小さい曲率半径を有する。
【0035】
向きがそれている側面11に飲用孔13があり,当該飲用孔13は,包囲する乳首1の内部のキャビティ14と連通している。
【0036】
一方で,乳房キャリア2はバルブ15を有し,当該バルブ15によってキャビティ14は周囲と連通させることができる。キャビティ14に負圧がかかるとき,バルブ15は開放される。バルブは,スロットバルブとして架設されることが好ましい。
【0037】
さらに,配置は,わずかに円錐形のケーシング17と瓶(図示せず)の雄ネジに対応して螺合するための雌ねじ18を有するリングナット16を備える。リングナット16は種糸によって形成可能なので,一般の瓶に密着する。
【0038】
ケーシング17の上部で,リングナット16は円形ディスク状の環状フランジ19を有し,当該環状フランジ19は,内向きに突出している。環状フランジ19は,挿入開口20の境界を構成する。乳房6および乳房キャリア2を有する乳首1は,挿入開口20に挿入され,当該挿入開口20の範囲内に括れ3が正確に配置される。さらに,リングナット16が瓶の雄ネジに螺合されるとき,固定エッジ5が環状フランジ19の下にあるので,当該環状フランジ19によって瓶開口端に固定エッジ5が圧接される。」
「【図1



(2)上記記載から,引用文献1には,次の技術的事項が記載されているものと認められる。
ア 引用文献1は,乳首を有する哺乳瓶に関するものである(【0001】)。
イ 乳首1は,環状ディスク形固定エッジ5,括れ3,隆膨4の最大径部よりも下部(以下,「隆膨4下部」という。),隆膨4の最大径部よりも上部(以下,「隆膨4上部」という。),乳房キャリア2,乳房6を具備する(【0032】,【図1】)。乳房6は飲用孔13を有する(【0034】,【0035】)。
ウ 図1に記載されているのは断面形状のみであるが,当該断面以外の断面形状に関して特段の記載がなく,また一般に哺乳用乳首は概ね回転対称な形状であることからみて,隆膨4上部から乳房キャリア2,乳房6は全体として概ね円錐形状であるといえる(【図1】)。
エ 図1の記載から見て,固定エッジ5,括れ3,及び隆膨4下部の中心軸線は,図1に記載された固定エッジ5の中心軸9より右側に若干傾くもののほぼ中心軸9に近いものとなる一方,隆膨4上部,乳房キャリア1,及び乳房6の中心軸線についても,ほぼ傾斜軸10に近いものであることが読み取れるから,隆膨4上部,乳房キャリア1,及び乳房6の中心軸線は,固定エッジ5,括れ3,及び隆膨4下部の中心軸線に対して傾斜しているといえる(【図1】)。
オ 図1において(リングナット16に対して乳首1を取り付けた場合に),隆膨4下部は,環状フランジ19と明確に離間している。また,図1において隆膨4下部に設けられたバルブ15(【0036】)が環状フランジ19に密着していると,バルブとして機能しないことが明らかであることからも,隆膨4下部と環状フランジ19とは離間しているといえる。そして,図1の断面形状と,一般に哺乳用乳首は概ね回転対称な形状であることからみて,該離間は当然に全周に亘るものであるといえる。
カ 図1の記載から,括れ3は短い筒状で,概ね鼓のような形状であるといえ,隆膨4下部が括れ3の上端に形成されているといえる。

上記ア?カから,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「上端に隆膨4下部を有する括れ3及び環状ディスク形固定エッジ5と,前記隆膨4下部の上方に形成された,隆膨4上部,乳房キャリア2,及び飲用孔13を有する乳房6とを具備し,
前記隆膨4上部,乳房キャリア2,及び乳房6が全体として略円錐形状であり,該略円錐形状の中心軸線が,前記隆膨4下部,括れ3及び環状ディスク形固定エッジ5の中心軸線に対して傾斜しており,
リングナット16に対して当該乳首1を取り付けた場合に,リングナット16と前記隆膨4下部とが全周に亘って離間し,
前記隆膨4下部,括れ3及び環状ディスク形固定エッジ5が概ね鼓のような形状の括れ3をさらに有し,前記隆膨4下部が前記括れ3の上端に形成されている乳首1。」

2 引用文献2の記載
引用文献2(平成5年5月14日公開)には,図面とともに,次の記載がある。
「【目的】乳児の口腔に楽に適合する哺乳器用乳首を提供することを目的とする。
【構成】腕状をなす胴部3の頂部に曲線で接続された乳頭部4を有しているものにおいて,上記乳頭部4の中心線9が胴部3の中心線6に対し授乳時に上向きとなる傾角θをもって設定されている。」(【要約】)

第5 対比
1 本願発明と引用発明とを対比すると,引用発明の「隆膨4下部」は本願発明の「オーバーハング部」に相当し,以下同様に,「隆膨4下部」,「括れ3」及び「環状ディスク形固定エッジ5」は「基部」に,「括れ3」は「首部」に,「隆膨4上部」及び「乳房キャリア2」は「乳首胴部」に,「飲用孔13」は「乳孔」に,「乳房6」は「乳頭部」に,「リングナット16」は「取付部材」に,「乳首1」は「人工乳首」に,それぞれ該当する。


2 以上のことから,本願発明と引用発明とは以下の【一致点】で一致し,【相違点1】及び【相違点2】で一応相違する。

【一致点】
「上端にオーバーハング部を有する基部と,前記オーバーハング部の上方に形成された,乳首胴部及び乳孔を有する乳頭部とを具備し,
前記乳首胴部及び前記乳頭部が全体として略円錐形状であり,該略円錐形状の中心軸線が,前記基部の中心軸線に対して傾斜しており,
取付部材に対して当該人工乳首を取り付けた場合に,取付部材と前記オーバーハング部とが全周に亘って離間し,
前記基部が首部をさらに有し,前記オーバーハング部が前記首部の上端に形成されていることを特徴とする人工乳首。」である点。

【相違点1】
略円錐形状の中心軸線の,基部の中心軸線に対する傾斜の方向が,本願発明は「授乳時の上顎側」であるのに対し,引用発明は,どの側であるのか明らかではない点。

【相違点2】
首部の形状が,本願発明は「円筒状」であるのに対し,引用発明は「概ね鼓のような形状」である点。

第6 判断
1 以下,相違点について検討する。
(1)【相違点1】について
略円錐形状の中心軸線の,基部の中心軸線に対する傾斜が,授乳時にどの向きとなるのかは,使用者の保持の態様によって決まることであって,人工乳首それ自体としては構成に差異があるものと認められない。
よって,上記相違点1は実質的には相違点でない。
なお,仮に本願発明が使用態様をも特定するものであったとしても,引用文献2には,乳頭部を授乳時に上向きとなる傾斜角をもって設定する点が記載されており,これに倣って,引用発明において上記傾斜の方向を「授乳時の上顎側」とすることは,当業者が容易になし得たことである。

(2)【相違点2】について
引用発明は,「当該挿入開口20の範囲内に括れ3が正確に配置される」(【0038】)ようにするものであるが,括れ3の形状は図1において曲線で記載されており,上下の部材である固定エッジ5,隆膨4下部との境界がはっきりしないこと,開口20の内面と点接触することから,括れ3の配置に際して接触状態が安定しないことが技術的に見て明らかである。
一方で,一般に人工乳首の技術分野において,首部の形状を「円筒状」とすることは,引用文献5(昭和56年10月26日公開,明細書第2ページ第20行?第3ページ第3行の「環状溝15」との記載及び第1図の記載参照。)をはじめ,特開平6-304231号公報(【0008】の「円筒状の凹陥部1d」との記載,図1及び図3の記載参照。),特表2008-504095号公報(図1の記載参照。),特開平9-56787号公報(図1,図3?5の記載参照。)にも記載されているように,従来周知である。そして,「円筒状」の首部は,上下の部材との境界も明らかであり,開口の内面とは線接触することから,首部を開口内に配置するに際して接触状態が安定し,確実に配置が行えることが明らかである。
そうすると,「当該挿入開口20の範囲内に括れ3が正確に配置される」(【0038】)ようにするものである引用発明において,例えば,括れ3の部分をより確実に開口内に配置しようとする目的で上記周知の形状を採用し,括れ3を「円筒状」とすることは,当業者が容易になし得たことである。

(3)そして,これらの相違点を総合的に勘案しても,本願発明の奏する作用効果は,引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

2 したがって,本願発明は,本願の出願前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献1に記載された発明及び周知の技術事項に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許を受けることができないから他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-10-10 
結審通知日 2019-10-15 
審決日 2019-10-28 
出願番号 特願2013-40025(P2013-40025)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A61J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 胡谷 佳津志  
特許庁審判長 林 茂樹
特許庁審判官 寺川 ゆりか
莊司 英史
発明の名称 人工乳首及び人工乳首を有する哺乳器  
代理人 伊藤 健太郎  
代理人 青木 篤  
代理人 伊藤 公一  
代理人 三橋 真二  

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