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審決分類 |
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q |
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管理番号 | 1358148 |
審判番号 | 不服2018-10270 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-07-27 |
確定日 | 2019-12-12 |
事件の表示 | 特願2017- 86951「電子決済システム、情報処理装置、および電子決済管理装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月20日出願公開、特開2017-126386〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、 平成13年5月9日(優先権主張 平成12年5月10日、平成13年2月23日)に特願2001-139164号を出願し、 その一部を、平成23年5月9日に特願2011-104326号として新たに出願し、 その一部を、平成25年5月24日に特願2013-109556号として新たに出願し、 その一部を、平成25年11月29日に特願2013-247649号として新たに出願し、 その一部を、平成27年6月10日に特願2015-117432号として新たに出願し、 その一部を、平成29年4月26日に特願2017-086951号として新たにしたものであって、以降の手続は次のとおりである。 平成30年1月30日付け:拒絶理由通知 平成30年4月 4日 :意見書、手続補正書の提出 平成30年5月 9日付け:拒絶査定 平成30年7月27日 :審判請求書、手続補正書の提出 令和 元年7月12日付け:当審拒絶理由通知 令和 元年9月13日 :意見書、手続補正書の提出 第2 本願発明 令和元年9月13日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?4には、以下の事項が記載されている(以下、「本願発明1」、「本願発明2」・・・「本願発明4」、総じて「本願発明」という。)。 「【請求項1】 情報処理装置と、 電子決済管理装置と、 を有し、 前記情報処理装置は、 ユーザからの入力に基づいて、クレジットカードによる支払、デビットカードによる支払、または電子マネーによる支払を含む複数の支払い方法の中から、一つの支払い方法を決定する決定部と、 前記電子マネーによる支払が決定された場合、前記電子マネーによる支払の決定に応じて、金額に関する情報を含む決済要求情報を前記電子決済管理装置に送信する送信部と、 前記電子決済管理装置から受信した残高読み出し要求を含む決済情報に応じた処理によって、データ記憶装置が当該データ記憶装置内の耐タンパ性メモリから読み出した残高情報を含む決済情報を当該データ記憶装置から取得し、取得した決済情報を前記電子決済管理装置に送信する処理部と、 を備え、 前記電子決済管理装置は、 前記決済要求情報を受信する受信部と、 前記決済要求情報に基づいて、残高読み出し要求を含む決済情報を生成する生成部と、 前記残高読み出し要求を含む決済情報を前記情報処理装置に送信する送信部と、 を備える、電子決済システム。 【請求項2】 前記電子決済管理装置は、 前記情報処理装置から受信した残高情報を含む決済情報から生成したログ情報を前記データ記憶装置に書き込むためのログ書き込み情報と、当該残高情報が示す金額から請求額を減算するための減算情報とを含む決済処理要求を生成し、生成した決済処理要求をセッション鍵により暗号化し、暗号化した決済処理要求に対して秘密鍵に基づく署名を付して情報処理装置に送信し、 前記情報処理装置において、前記秘密鍵に対応する公開鍵を用いて、前記決済要求情報に付与された署名の正当性が検証され、検証結果が正当である場合、データ記憶装置に記憶される残高情報が更新される、請求項1に記載の電子決済システム。 【請求項3】 前記検証結果が正当である場合、前記データ記憶装置において、共通鍵により前記決済要求情報が復号化され、復号化された前記決済要求情報に含まれる減算情報に基づいて、前記データ記憶装置に記憶された残高情報が更新される、請求項2に記載の電子決済システム。 【請求項4】 ユーザからの入力に基づいて、クレジットカードによる支払、デビットカードによる支払、または電子マネーによる支払を含む複数の支払い方法の中から、一つの支払い方法を決定する決定部と、 前記電子マネーによる支払が決定された場合、前記電子マネーによる支払の決定に応じて、金額に関する情報を含む決済要求情報を電子決済管理装置に送信する送信部と、 前記電子決済管理装置から受信した残高読み出し要求を含む決済情報に応じた処理によって、データ記憶装置が当該データ記憶装置内の耐タンパ性メモリから読み出した残高情報を含む決済情報を当該データ記憶装置から取得し、取得した決済情報を前記電子決済管理装置に送信する処理部と を備える、情報処理装置。」 第3 当審の拒絶理由通知書の概要 当審の拒絶の理由である、令和元年7月12日付け拒絶理由通知の理由は、概略、次のとおりのものである。 この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 記 1.特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるか否かについて (略) 2.特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か(また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が優先基準日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か)について 本願明細書の発明の詳細な説明には、本願発明に関する技術分野、背景技術及び発明が解決しようとする課題について、【0001】?【0010】に鑑みると、当該発明の課題は、共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用いて、ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができるようにすることであると認められる。 当該発明の課題を解決するためには、決済管理装置3のセキュリティサーバ31及びICカードなどのデータ記憶装置20において、共通鍵KCからセッション鍵KSESが生成され、該セッション鍵KSESを用いて、決済管理装置3と情報処理装置22との間で送受信される情報、例えば、残高読み出し要求BRCを含む決済情報や残高情報BIを決済情報が、暗号・復号処理される事項を含むことが必要であると認められる。 これに対して、特許請求の範囲に記載された発明である、請求項1乃至5に係る発明は、上記技術事項を含んでいないとともに、請求項1乃至5に係る発明により、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できるとの技術常識があるとは認められないことから、上記当該発明の課題を解決するための手段が反映されているとは認められない。 また、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記事項以外に当該発明の課題は記載されておらず、また、優先基準日当時の技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、当該発明により解決される課題を認識できるとは認められない。 してみると、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のもの、或いは、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が優先基準日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。 よって、請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものでない。 第4 本願の発明の詳細な説明の記載 本願の発明の詳細な説明の記載には、以下の記載がある。 (1)「【技術分野】 【0001】 本発明は、共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用いて、ネットワークなどを用いた決済処理を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体に関する。 【背景技術】 【0002】 インターネットなどのオープンネットワークを介した電子商取引を安全に行うために、従来、PKI(Public Key Infrastructure:公開鍵インフラ)プロトコルが採用されている。 【0003】 PKIプロトコルでは、送信元で秘密鍵を用いて署名情報を作成し、送信元から送信先に、当該署名情報を伝送情報と共に送信する。そして、送信先において、当該秘密鍵に対応する公開鍵を用いて当該署名情報の検証を行うことで、受信した伝送情報が正当な送信元で作成されたものであるか否かを判断する。 【0004】 ところで、近年、IC(Integrated Circuit)カードを用いて、ネットワークを介した電子商取引を行う試みがある。ここで、通常、ICカードなどのデータ記憶装置は、共通鍵を保持しており、共通鍵暗号方式を用いて秘匿性のある情報の入出力を行う。このようなICカードなどのデータ記憶装置は、共通鍵が署名情報を作成するための鍵とはなり得ないため、ICカードなどのデータ記憶装置を紛失した場合でも、被害を小さくできるという利点がある。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 しかしながら、ネットワークを介した電子商取引を安全に行うためには、秘密鍵を用いて署名情報を作成する必要があるが、従来の手法では、ICカードなどのデータ記憶装置が秘密鍵を保持(記憶)していないため、署名情報の作成ができないという問題がある。この場合に、ICカードなどのデータ記憶装置に秘密鍵を保持する方法も考えられるが、前述したように、秘密鍵は署名情報を作成できるため印鑑照明と同様の効力があり、ICカードなどのデータ記憶装置を紛失して悪用されたときの被害が大きすぎるという問題がある。 【0006】 また、上述したようなICカードなどのデータ記憶装置が採用する共通鍵暗号方式のみを用いて、ネットワークを介した電子商取引を行うと、取り引きを行う多数の相手先のサーバ装置などが共通鍵を持つことになり、共通鍵が盗まれたり、悪用される可能性が高くなるという問題もある。 【0007】 電子決済においては、SSL(Secure Socket Layer)やSET(Secure Electronic Transaction)が多く採用されている。しかし、SSLでは、クライアント装置と店舗装置間の通信路に対する安全性は保証されるが、店舗側の不正を検出できないという問題がある。 【0008】 また、SETでは、SSLの利点とクライアント装置、店舗装置、決済管理装置で改ざんができないという利点とを併せ持つが、各装置がPKIの証明書を持たなければならないため、煩雑であり費用がかかり、さらに署名および署名検証を何度も行わなければならず冗長であるという問題がある。 【0009】 さらに、電子商取引システムにおいては、ユーザがクライアント装置上で確認した価値情報が、実際にICカードなどのデータ記憶装置に書き込まれる価値情報と同じであるかどうかを確認する手段を持っていなかった。 【0010】 本発明は上述した問題点に鑑みてなされ、共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用いて、ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体を提供することを目的とする。」 (2)「【0058】 「電子決済システム」は、インターネットなどのオンライン通信系を介して商品やサービスの販売を行った場合に、代金決済を電子的にオンライン通信系を介して行うシステムである。オンライン通信系を介して決済を行う方法としては、クレジットカードやキャッシュカードやデビットカードによる支払い、プリペイドカードなどの電子マネーによる支払いが可能である。」 (3)「【0085】 ICカードなどのデータ記憶装置20は、例えば、プラスチックなどのカードにICチップが埋め込まれているものである。ICカードなどのデータ記憶装置20は、図2(A)に示すように耐タンパ性のICモジュール50を有し、図2(B)に示すように当該ICモジュール50内に処理回路51およびメモリ52を内蔵している。」 (4)「【0114】 「決済情報」は、決済管理装置3が店舗装置4から決済管理装置3に送信された決済要求情報に基づいて作成するもので、決済管理装置3からクライアント装置であるパーソナルコンピュータ22およびリーダライタ21を介してICカードなどのデータ記憶装置20に記憶された価値情報を増減することにより決済を行うための各種情報が含まれる。この決済情報のセキュリティは、決済管理装置3とICカードなどのデータ記憶装置20との間で共用される共通鍵により確保される。さらに、決済情報の正当性は、決済管理装置3の秘密鍵を用いて作成された第2署名を付し、クライアント装置であるパーソナルコンピュータ22がその第2署名を決済管理装置3の秘密鍵に対応する公開鍵を用いて検証することにより確保される。」 (5)「【0136】 次に、図9?図11を参照しながら、共通鍵、公開鍵、および電子署名を用いたセキュリティの高い本実施の形態にかかる電子決済システムおける商品情報伝送シーケンスおよび価値情報伝送シーケンスについて、詳細に説明する。 (中略) 【0141】 ステップST1: パーソナルコンピュータ22とネットワークサーバ40との間でSSL(Secure Socket Layer)を用いたサーバ認証または相互認証を行い、セキュアな通信路を確立する。 【0142】 ステップST2: ユーザ2が、図12に示すような商品選択画面において、パーソナルコンピュータ22のキーボードやマウスなどを操作して購入を希望する商品を決定すると、それに応じた商品決定情報がパーソナルコンピュータ22からネットワークサーバ40に送信される。 【0143】 ステップST3: ネットワークサーバ40は、パーソナルコンピュータ22から商品決定情報を受けると、その見積もり情報をパーソナルコンピュータ22に送信する。 【0144】 ステップST4: パーソナルコンピュータ22は、図13に示すように、ネットワークサーバ40から受けた見積もり情報をディスプレイに表示する。ユーザ2は、当該見積もりに同意した場合には、図14に示す画面において、支払い方法を選択する。ユーザ2が、パーソナルコンピュータ22のキーボードなどを操作して電子マネーを利用した決済を選択すると、請求額要求がネットワークサーバ40に送信される。 【0145】 ステップST5: ネットワークサーバ40は、パーソナルコンピュータ22から請求額要求を受けると、店舗装置4がユーザ2に請求する金額を示す決済要求情報と、当該決済要求情報に対して店舗装置4の秘密鍵KSHOP,Sを用いて作成した第1署名情報SIG1と、インタフェースプログラム24とをパーソナルコンピュータ22に送信する。 【0146】 ステップST6: パーソナルコンピュータ22は、図15に示すように、ステップST5でネットワークサーバ40から受信した決済要求情報が示す金額をディスプレイに表示する。 【0147】 ステップST7: ステップST6でディスプレイに表示された金額に同意したユーザ2がパーソナルコンピュータ22のキーボードなどを用いて所定の指示を出すと、ステップST5でネットワークサーバ40から受信したインタフェースプログラム24が起動される。 【0148】 そして、図16に示すような画面表示にしたがって、ユーザ2がICカードなどのデータ記憶装置20をリーダライタ21にかざすと、パーソナルコンピュータ22は、起動されたインタフェースプログラム24を用いて、決済管理装置3のアプリケーションサーバ30との間でSSLを用いたサーバ認証または相互認証を行い、セキュアな通信路を確立する。 【0149】 本実施の形態にかかる決済システムにおいて決済処理が行われている間は、パーソナルコンピュータ22のディスプレイには、図17に示すように、ユーザに待機を促すような画面が表示される。 【0150】 ステップST8: パーソナルコンピュータ22は、ステップST5で店舗装置4のネットワークサーバ40から受信した決済要求情報と、当該決済要求情報に対する第1署名情報SIG1とを含む決済要求情報を決済管理装置3のアプリケーションサーバ30に送信する。 【0151】 ステップST9: アプリケーションサーバ30は、例えば、情報管理サーバ32から読み出した店舗装置4の秘密鍵に対応する公開鍵KSHOP,Pを用いて、ステップST8で受信した第1署名情報SIG1を検証し、当該第1署名情報SIG1が店舗装置4のネットワークサーバ40において付された正当なものであると判断すると、ステップST10の処理を行う。 【0152】 なお、アプリケーションサーバ30は、第1署名情報SIG1が不正なものであると判断した場合には、例えば、パーソナルコンピュータ22に対してのその旨を通知した後、処理を終了する。 【0153】 ステップST10: 次いで、決済管理装置3のアプリケーションサーバ30は、例えば、決済要求情報をセキュリティサーバ31に送信する。 【0154】 ステップST11: セキュリティサーバ31は、ICカードなどのデータ記憶装置20から決済要求情報を受けると、アプリケーションサーバ30との間で相互認証を行い、ICカードなどのデータ記憶装置20との間で用いる共通鍵KCからセッション鍵KSESを生成する。ICカードなどのデータ記憶装置20でも、同様に、共通鍵KCからセッション鍵KSESを生成する。 【0155】 ステップST12: セキュリティサーバ31は、決済情報を生成し、これをセッション鍵KSESで暗号処理を施してアプリケーションサーバ30に出力する。その際に、セキュリティサーバ31は、決済管理装置の秘密鍵を用いて作成した第2署名を付す。 【0156】 アプリケーションサーバ30は、セキュリティサーバ31から入力した残高読み出し要求(BRC)を含む決済情報をパーソナルコンピュータ22に送信する。 【0157】 パーソナルコンピュータ22は、アプリケーションサーバ30から受信した残高読み出し要求BRCを含む決済情報をリーダライタ21を介してICカードなどのデータ記憶装置20に出力する。 【0158】 ステップST13: ICカードなどのデータ記憶装置20は、パーソナルコンピュータ22からの残高読み出し要求BRCを含む決済情報が入力されると、これをステップST11で生成したセッション鍵KSESを用いて復号する。 【0159】 そして、ICカードなどのデータ記憶装置20は、残高読み出し要求BRCを含む決済情報に応じた処理回路51の処理によって、ICカードなどのデータ記憶装置20内の耐タンパ性のメモリ52から残高情報BIを含む決済情報を読み出し、これをセッション鍵KSESを用いて暗号処理を施した後に、パーソナルコンピュータ22に出力する。 【0160】 パーソナルコンピュータ22は、ICカードなどのデータ記憶装置20からの残高情報BIを含む決済情報をアプリケーションサーバ30に送信する。 【0161】 アプリケーションサーバ30は、パーソナルコンピュータ22から受信した残高情報BIを決済情報をセキュリティサーバ31に出力する。 【0162】 セキュリティサーバ31は、アプリケーションサーバ30から入力した残高情報BIを含む決済情報をセッション鍵KSESを用いて復号し、ログ情報を生成する。」 第5 判断 上記第4(1)に摘記した事項によれば、本願発明は、 技術分野を、「共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用いて、ネットワークなどを用いた決済処理を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体に関する」ことにし、 発明が解決しようとする課題を、 (ア)「従来の手法では、ICカードなどのデータ記憶装置が秘密鍵を保持(記憶)していないため、署名情報の作成ができないという問題」、 (イ)「ICカードなどのデータ記憶装置に秘密鍵を保持する方法」では「秘密鍵は署名情報を作成できるため印鑑照明と同様の効力があり、ICカードなどのデータ記憶装置を紛失して悪用されたときの被害が大きすぎるという問題」、 (ウ)「ICカードなどのデータ記憶装置が採用する共通鍵暗号方式のみを用いて、ネットワークを介した電子商取引を行うと、取り引きを行う多数の相手先のサーバ装置などが共通鍵を持つことになり、共通鍵が盗まれたり、悪用される可能性が高くなるという問題」、 (エ)電子決済の多くで採用されるSSLでは、「店舗側の不正を検出できないという問題」、 (オ)電子決済の多くで採用されるSETでは、「各装置がPKIの証明書を持たなければならないため、煩雑であり費用がかかり、さらに署名および署名検証を何度も行わなければならず冗長であるという問題」及び (カ)「電子商取引システムにおいては、ユーザがクライアント装置上で確認した価値情報が、実際にICカードなどのデータ記憶装置に書き込まれる価値情報と同じであるかどうかを確認する手段を持っていなかった」ことにし、 この問題点に鑑みて、発明の目的を、「共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用いて、ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体を提供すること」にしている。 ここで、本願における発明の目的である「共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用いて、ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体を提供すること」について、「ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体を提供する」ために、「共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用い」ることを目的しているとの解釈と、「共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用い」ることを前提として、「ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体を提供すること」を目的としているとの解釈が文言上は可能である。 しかしながら、上記(イ)では、「共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用い」ても、「ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体を提供する」上で問題点があることを示していることから、前者の解釈は成り立たず、本願発明では、「共通鍵を保持したICカードなどのデータ記憶装置を用い」ることを前提として、「ネットワークを介した電子商取引を安全に行うことができる電子決済システム、決済管理装置、店舗装置、クライアント装置、ICカードなどのデータ記憶装置、コンピュータプログラムおよび記憶媒体を提供すること」を目的としている解釈するのが妥当である。 そして、上記の課題や目的に対応する事項として、発明の詳細な説明には、上記第4(5)に摘記したように、 ア パーソナルコンピュータ22と決済管理装置3との間で、SSLを用いたサーバ認証または相互認証によるセキュアな通信路が確立されること、 イ 「パーソナルコンピュータ22は」、「決済要求情報と、当該決済要求情報に対する第1署名情報SIG1とを含む決済要求情報を決済管理装置3」に送信すること、 ウ 「決済管理装置」は、「ICカードなどのデータ記憶装置20との間で用いる共通鍵KCから」生成した「セッション鍵KSESで暗号処理を施し」、「決済管理装置の秘密鍵を用いて作成した第2署名を付」した「残高読み出し要求(BRC)を含む決済情報をパーソナルコンピュータ22に送信」すること、 エ 「パーソナルコンピュータ22」は、「残高読み出し要求BRCを含む決済情報」を「セッション鍵KSESを用いて復号」し、「残高読み出し要求BRCを含む決済情報に応じた処理回路51の処理によって、ICカードなどのデータ記憶装置20内の耐タンパ性のメモリ52から残高情報BIを含む決済情報を読み出」すこと、 オ 「パーソナルコンピュータ22」は、ICカードなどのデータ記憶装置20内の耐タンパ性のメモリ52から読み出した「残高情報BIを含む決済情報」をセッション鍵KSESを用いて暗号処理を施し」て、「残高情報BIを含む決済情報を」決済管理装置に送信すること が記載されている。 これに対して、本願発明では、上記第2に摘記した事項からみて、「残高読み出し要求を含む決済情報に応じた処理によって、データ記憶装置が当該データ記憶装置内の耐タンパ性メモリから読み出した残高情報を含む決済情報を当該データ記憶装置から取得し、取得した決済情報を前記電子決済管理装置に送信する」こと、すなわち、発明の詳細な説明に記載された上記エについては特定されているものの、その他の上記ア?ウ、オについては特定されていない。 そして、内部に秘密鍵や共通鍵を保持したメモリは「耐タンパ性のメモリ」であることに鑑みると、上記エの事項は本願発明が問題とする従来技術に相当し、上記(イ)及び(ウ)の問題を内在するものであるから、上記エの事項により本願発明の課題が解決されるとは認められない。 さらに、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記した課題以外に当該発明の課題は記載されておらず、出願基準日当時の技術常識に照らしても、本願明細書の発明の詳細な説明の記載から、当該発明により解決される課題を認識できるとは認められない。 してみると、本願発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のもの、或いは、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願基準日当時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められない。 よって、本願発明は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであって、特許法36条6項1号の規定を満たしていない。 第6 審判請求人の主張の検討 1 審判請求人の主張 審判請求人は、令和元年9月13日の意見書において、 「〔4〕拒絶理由に対する意見 (中略) また、上記補正により、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により、少なくとも、「複数の支払い方法の中から選択できる(段落0058)」ことによりユーザの利便性を向上させるという効果を期待できるとともに、「耐タンパ性のICモジュール50を利用することによりセキュリティが向上する(段落0085)」という効果を期待でき、ユーザ利便性及びセキュリティの面における課題を解決できるものと思料致します。」と主張している。 2 検討 本願明細書の段落【0058】及び【0085】に記載された事項は、上記第4(2)及び同(3)に摘記された事項であって、「オンライン通信系を介して決済を行う方法としては、クレジットカードやキャッシュカードやデビットカードによる支払い、プリペイドカードなどの電子マネーによる支払いが可能である」こと、及び、「ICカードなどのデータ記憶装置20は、図2(A)に示すように耐タンパ性のICモジュール50を有」することは記載されている。 しかしながら、本願明細書には、従来の電子決済システムに「ユーザ利便性」の面で課題を有していること、或いは、電子決済システムに用いるICカードに「セキュリティ」の面で課題を有していることは記載されていないとともに、本願発明において、「クレジットカードやキャッシュカードやデビットカードによる支払い、プリペイドカードなどの電子マネーによる支払い」を可能したことでユーザ利便性を向上させ、「耐タンパ性のICモジュール50を有」するICカードを用いたことでセキュリティを向上させることができたという効果を奏したことは記載されていない。 してみると、審判請求人の上記主張は、本願発明及び本願明細書の記載に基づいた主張ではないことから、該主張を認めることはできない。 第7 むすび 以上のとおり、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-10-08 |
結審通知日 | 2019-10-15 |
審決日 | 2019-10-29 |
出願番号 | 特願2017-86951(P2017-86951) |
審決分類 |
P
1
8・
537-
WZ
(G06Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 田付 徳雄、塩田 徳彦 |
特許庁審判長 |
渡邊 聡 |
特許庁審判官 |
佐藤 聡史 石川 正二 |
発明の名称 | 電子決済システム、情報処理装置、および電子決済管理装置 |
代理人 | 特許業務法人酒井国際特許事務所 |