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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A61K
管理番号 1358214
審判番号 不服2018-12697  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-09-25 
確定日 2020-01-14 
事件の表示 特願2016-234317「がん、腫瘍、および非悪性疾患を治療するためのナトリウムイオンおよびカルシウムイオンの医薬組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 3月30日出願公開、特開2017- 61554、請求項の数(6)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年12月4日(パリ条約による優先権主張 2011年12月4日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2014-546003号の一部を、平成28年12月1日に新たな特許出願としたものであり、その後の主な手続の経緯は、次のとおりである。

平成28年12月20日提出 :手続補正書
平成29年 7月11日付け :拒絶理由通知書
平成29年12月25日提出 :手続補正書及び意見書
平成30年 5月11日付け :拒絶査定
平成30年 9月25日提出 :審判請求書
平成30年 9月26日提出 :手続補足書

第2 本願発明
平成29年12月25日に提出された手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?6に係る発明は、次のとおりである(以下、請求項の順に「本願発明1」等という。)。

「【請求項1】
悪性腫瘍、がん、良性腫瘍、および非悪性疾患の腫瘍内注射治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が室温で、5.0479M?5.5MのNa^(+)、250mM?2.0MのCa^(2+)、適切な量の蒸留水、10mlのイオプロミド、20mgのアドレナリンを含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の医薬組成物において、室温の水溶液中で、Na^(+)の有効治療濃度が5.0479Mであり、Ca^(2+)の有効治療濃度が250mMであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記腫瘍内注射治療用のNa^(+)源がNaCl及び有機ナトリウム塩であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記腫瘍内注射治療用のCa^(2+)源がCaCl_(2)及び有機カルシウム塩であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記医薬組成物が、脳、甲状腺、乳房、肺、肝臓、膵臓、腎臓、結腸、直腸、卵巣、前立腺、子宮、子宮頚部、皮膚、及び皮下組織のがんからなる群から選択される悪性腫瘍およびがんの状態を有する患者の治療に使用するためのものであることを特徴とする医薬組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の医薬組成物において、前記医薬組成物が、腺腫、血管腫、粉瘤、線維腫、脂肪腫、胸腺腫、嚢胞、ポリープ、皮膚新生物、乳房線維嚢胞状変化、良性前立腺肥大症、甲状腺結節、および甲状腺機能亢進症からなる群から選択される良性腫瘍および非悪性疾患の治療に使用するためのものであることを特徴とする医薬組成物。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1?6に係る発明は、下記の引用文献1、3?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:J.Dermatol.Surg.Oncol.,1994年,Vol.20,pp.347-348(主引用例)
引用文献3:A.J.R,2005年1月,Vol.184,pp.212-219(主引用例)
引用文献4:International Journal of Pharmacology,2009年,Vol.5,No.1,pp.13-21
引用文献5:Applied Spectroscopy,2004年,Vol.58,No.1,pp.61-67
引用文献6:Drug Delivery System,1992年9月,Vol.7, No.5,pp.351-355

第4 引用文献(主引用例)の記載及び引用発明
1 引用文献1について
(1)引用文献1には、次のとおり記載されている(原文は英文のため、訳文を示す。)。

「多発性グロムス腫瘍の高張食塩水による破壊」(表題)

「背景:多発性グロムス腫瘍は、まれな皮膚の腫瘍である。…
目的:これまでに報告されていない治療法、特に高張食塩水を使用する治療法について報告する。
方法:23.4%NaClを、6か月以上の間4回腔内に注射した。
結論:連続した高張食塩水の注射は、多発性グロムス腫瘍に対する効果的な治療の選択肢のリストに追加すべきである。」(347頁、左欄の要約)

「症例報告
28歳の白人女性が、…我々のクリニックへ治療に訪れた。…グロムス血管腫と診断された。…患者の前腕にある複数のグロムス腫瘍の各箇所ごとに0.2mlの高張食塩水(23.4%)を注入した。…6ヶ月以上の間、全部で4回の注射を行ったところ、全体にわたっておよそ90%改善した(図2)。」(347頁「Case Report」の項)

(2)上記(1)の記載によれば、引用文献1には、白人女性の多発性グロムス腫瘍内に、23.4%のNaClを含む高張食塩水を注射したところ、当該腫瘍が改善したことが記載されている。そして、引用文献1の「目的」に、「治療法について報告する」と記載されているので、当該腫瘍を「改善」することは、当該腫瘍を「治療」することである。
そうすると、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

「ヒトの多発性グロムス腫瘍を、当該腫瘍内に注射して治療するための、23.4%のNaClを含む高張食塩水。」

2 引用文献3について
(1)引用文献3には、次のとおり記載されている(原文は英文のため、訳文を示す。)。

「高張食塩水の注入による肝腫瘍の除去」(表題)

「目的:本研究の目的は、肝腫瘍の治療における高張食塩水の有効性を評価することであった。
材料及び方法:肝臓にVX2カルシノーマを接種した30匹のニュージーランド白ウサギをこの実験で用いた。これらの動物を、1つは生存時間の評価用(n=20)、もう1つは腫瘍サイズの評価用(n= 10)の2つのグループに分けた。各グループを、さらにコントロールと治療のサブグループに分けた。高張食塩水は、接種の10日後にCTガイダンスのもとで治療群の肝臓腫瘍に直接注射された。対照群の肝臓腫瘍には、生理食塩水を注射した。…
結果:治療群のウサギの生存期間(38.1 ±2.3日)は、未治療群(29.9± 2.9日)よりも有意に長かった(p<0.001)。腫瘍サイズについては、治療群(8.04 ±2.46cm^(2))と対照群(11.08 ±5.52cm^(2))の差も有意であった(p<0.05)。
結論:高張食塩水注射は、VX2カルシノーマ細胞の成長を制御し、ウサギの寿命を延ばす効果があった。」(要約)

また、引用文献3には、
(i)ウサギの肝臓のVX2カルシノーマに、高張食塩水を注射した群は、生理食塩水を注射した群に比べて、生存期間が長くなったこと(213頁右欄の「impantaion of VX2 Cancer Cells」、214頁の「Survival Time」、215頁のFig.5と「Comparison of Survival of Treatment and Control Groups」)、
(ii)ウサギの肝臓のVX2カルシノーマに、高張食塩水を注射した群のは、生理食塩水を注射した群に比べて、腫瘍の大きさが小さくなったこと(213頁右欄の「Implantaion of VX2 Cancer cells」、214頁の「Assesment of Tumor Size」、215頁の「Tumor sizes」、216頁のTABLE 1)、
(iii)36.5%の高張食塩水を少量のUrografin(ヨウ素造影剤)とともに、腫瘍の直径1mm当たり0.1mL注射して、CTガイダンスのもとで注射治療(injection therapy)を行ったところ、14日後には、腫瘍細胞の顕著な凝固壊死がみられたこと(214頁の「CT Examination」、216頁左欄8?17行)、
などが、具体的な実験結果とともに記載され、これらの実験結果を踏まえて、高濃度の高張食塩水は、肝臓腫瘍の除去に有効な剤であると結論付けている(219頁左欄の本文下から7?5行)。

(2)上記(1)の記載(特に、上記(iii))によれば、引用文献3には、ウサギの肝臓におけるVX2カルシノーマに、36.5%の高張食塩水を少量のUrografin(ヨウ素造影剤)とともに注射すると、腫瘍細胞の顕著な凝固壊死がみられたことが記載されている。
ここで、室温近辺の25℃での水へのNaClの溶解度が35.9g/100gであることを勘案すると、「36.5%」という数値は、高張食塩水の濃度として不適切であると解される。しかし、この濃度が不適切であることは、直ちに、引用文献3に記載された実験結果の信頼性を疑わせるものではない。
そうすると、引用文献3には、次の発明(以下「引用発明3」という。)が記載されていると認められる。

「ウサギの肝臓におけるVX2カルシノーマを、当該カルシノーマに注射して腫瘍細胞を凝固壊死させるための組成物であって、高張食塩水とヨウ素造影剤を含む、組成物。」

第5 当審の判断
1 本願発明1について
(1)引用文献1に記載された発明に基づく進歩性について
ア 対比
本願発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「多発性グロムス腫瘍」は、本願発明1の「悪性腫瘍、がん、良性腫瘍、および非悪性疾患の腫瘍」のうちの「良性腫瘍」に相当する。
引用発明1の「高張食塩水」は、治療するためのものであるから、本願発明1の「医薬組成物」に相当する。
引用発明1の「NaClを含む高張食塩水」と本願発明1とは、「Na^(+)」と「適切な量の」「水」を含むものである点で軌を一にする。
そうすると、本願発明1と引用発明1との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「悪性腫瘍、がん、良性腫瘍、および非悪性疾患の腫瘍内に注射治療に使用するための医薬組成物であって、前記医薬組成物が、Na^(+)、適切な量の水を含む、医薬組成物。」
<相違点1>
本願発明1は、Na^(+)とCa^(2+)を含み、それぞれの濃度が、「室温で、5.0479M?5.5MのNa^(+)、250mM?2.0MのCa^(2+)」と特定されているのに対し、引用発明1は、Na^(+)を含むがCa^(2+)を含んでおらず、「23.4%のNaCl」を含む点。
<相違点2>
本願発明1は、「10mlのイオプロミド、20mgのアドレナリン」を含むのに対し、引用発明1は、これらの成分を含んでいない点。
<相違点3>
本願発明1は、「水」を蒸留水と特定しているのに対し、引用発明1は、蒸留水か否か不明である点。

イ 相違点1についての判断
(ア)本願発明1は、Na^(+)とCa^(2+)を含むのに対し、引用発明1は、Na^(+)は含むがCa^(2+)を含まないものであるから、まず、引用発明1において、Ca^(2+)を併用することが容易であったかについて、以下検討する。

(イ)引用文献4について
引用文献4には、エーリッヒ腹水がんを有するマウスに対して、塩化カルシウム水溶液を腫瘍内に投与(i.p.)することにより、50、100、200mg/kg/dayの塩化カルシウムを与えたところ、いずれの用量においても腫瘍は壊死し、腫瘍サイズは縮小したが、平均生存期間は、50、100、200mg/kg/dayの処置群で、それぞれ22.50日、16.29日、14.86日であったことが記載されている(14頁の「Animal stock」「Dose and mode of administration」、16頁右欄下から8行?17頁の右欄下から5行、18頁左欄1行?右欄下から4行)。

そして、上記の結果を踏まえて、「薬理学的に有効でかつ非毒性である用量を決定するため、十分な個数の低用量塩化カルシウムを用いて、更なる実験を行う必要がある。」(20頁左欄下から4?1行)と結論付けている。

引用文献4の上記記載に接した当業者は、CaCl_(2)をマウスのエーリッヒ腹水がんへ所定濃度で投与すると、腫瘍は壊死し腫瘍サイズが小さくなることが理解できるといえる。

引用発明1と引用文献4の実験とは、いずれも腫瘍に対して無機塩の水溶液を投与して腫瘍の生存率を低下させる点で共通している。
しかし、引用発明1における多発性グロムス腫瘍と引用文献4のエーリッヒ腹水がんとは、腫瘍の種類が異なるから、引用発明1におけるヒトの多発性グロムス腫瘍の治療のために、引用文献4のCaCl_(2)を敢えて併用する動機付けは見出せない。

(ウ)引用文献5について
引用文献5には、細胞が生存し成長するのに重要な要素であるCa^(2+)とMg^(2+)についての実験を行い、インビトロで成長している肺がん細胞株へCaCl_(2)又はMgCl_(2)を添加した場合に、FT?IRスペクトルの変化が両方において生じたが、CaCl_(2)を添加した場合にのみ細胞死が増加したことから、3つの細胞株におけるFT-IRスペクトルの変化は、細胞死よりもイオン的変化によるものであることが確認されたことが記載されている(61頁の要約)。
そして、具体的な実験として、肺がん細胞株である3株を、0.9%NaCl(D_(2)O中)の溶液で1時間培養した後、最終濃度が0.05MとなるようにCaCl_(2)又はMgCl_(2)を添加して更に1時間培養した場合の、細胞の生存率を測定したところ、3株とも、CaCl_(2)処置群の生存率は顕著に低下したが、MgCl_(2)処置群の生存率は、0.9%NaCl(D_(2)O中)処置群と同程度に高いままであったことが記載されている(61頁の「要約」、63頁の「Addition of CaCl_(2) and MgCl_(2) to Lung Cancer Cells.」「Cell Viability.」)。

引用文献5の上記記載に接した当業者は、肺がん細胞株を、0.9%NaCl溶液に最終濃度が0.05M(50mM)となるようCaCl_(2)を添加した培養条件では、0.9%NaCl溶液で培養した場合よりも、生存率が低下することが理解できるといえる。

しかしながら、引用文献5に記載された肺がん細胞株の培養条件についての実験から、生体における肺がんに対してCaCl_(2)を注入した場合に、肺がん細胞株を用いた実験と同等の作用効果が得られるのか否かは不明であるし、引用発明1における多発性グロムス腫瘍と引用発明5の肺がんとは腫瘍の種類が異なるので、引用発明1のNaClの高張食塩水に加えてCaCl_(2)を注入した場合の作用効果は予測できないから、引用発明1におけるヒトの多発性グロムス腫瘍の治療のために、引用文献5のCaCl_(2)を併用する動機付けがあるとはいえない。

(エ)引用文献6について
引用文献6には、マウスのルイス肺癌における実験結果に基づいて、「高濃度のエピネフリンの腫瘍内投与は生命に危険であるが、比較的低い濃度でも抗癌剤の局所効果を増強させ」ることが記載されている(354頁右欄15?17行)。
引用文献6には、Ca^(2+)と腫瘍との関係については記載されていない。

(オ)したがって、引用発明1において、NaClを含む高張食塩水に加えて、CaCl_(2)等のCa^(2+)を併用する動機付けはなく、相違点1に係る本願発明1の構成に想到することが当業者において容易であったとはいえない。

ウ 効果について
本願発明1は、本願明細書の実施例に記載されているように、ヒト患者の悪性腫瘍を含め様々な腫瘍を治療できるという顕著な効果を奏する。

エ 小括
以上によれば、相違点2、3について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献1、4?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)引用文献3に記載された発明に基づく進歩性について
ア 対比
本願発明1と引用発明3とを対比すると、引用発明3の「ウサギの肝臓におけるVX2カルシノーマ」は、本願発明1の「悪性腫瘍、がん、良性腫瘍、および非悪性疾患の腫瘍」のうちの「悪性腫瘍」に相当する。
引用発明3と本願発明1とは、「Na^(+)」と「適切な量の」「水」を含むものである点で軌を一にする。
引用発明3の「ヨウ素造影剤」と本願発明1の「イオプロミド」とは、「造影剤」である限りにおいて一致する。
そうすると、本願発明1と引用発明3との一致点及び相違点は、次のとおりである。

<一致点>
「悪性腫瘍、がん、良性腫瘍、および非悪性疾患の腫瘍内注射に使用するための組成物であって、前記医薬組成物が、Na^(+)、適切な量の水、造影剤を含む、組成物。」
<相違点1>
本願発明1は、Na^(+)とCa^(2+)を含み、それぞれの濃度が、「室温で、5.0479M?5.5MのNa^(+)、250mM?2.0MのCa^(2+)」と特定されているのに対し、引用発明3は、食塩由来のNa^(+)を含むものではあるが、Ca^(2+)を含んでおらず、Na^(+)の濃度は特定されていない点。
<相違点2>
本願発明1は、「10mlのイオプロミド」を含むのに対し、引用発明3は、「ヨウ素造影剤」を含む点。
<相違点3>
本願発明1は、「20mgのアドレナリン」を含むのに対し、引用発明3は、アドレナリンを含んでいない点。
<相違点4>
本願発明1は、「水」を蒸留水と特定しているのに対し、引用発明3は、蒸留水か否か不明である点。
<相違点5>
本願発明1は、「治療に使用するための医薬組成物」であるのに対し、引用発明3は、「腫瘍細胞を凝固壊死させる組成物」である点。

イ 相違点1の判断
(ア)本願発明1は、Na^(+)とCa^(2+)を含むのに対し、引用発明3は、Na^(+)は含むがCa^(2+)を含まないものであるから、まず、引用発明3において、Ca^(2+)を併用することが容易であったかについて、以下検討する。

(イ)引用文献4について
上記(1)イ(イ)において示したように、引用文献4の記載に接した当業者は、CaCl_(2)をマウスのエーリッヒ腹水がんへ所定濃度で投与すると、腫瘍は壊死し腫瘍サイズが小さくなることが理解できるといえる。

引用発明3と引用文献4の実験とは、いずれも腫瘍に対して無機塩の水溶液を投与して腫瘍の生存率を低下させる点で共通している。
しかし、引用発明3における肝臓のVX2カルシノーマと、引用文献4のエーリッヒ腹水がんとは、腫瘍の種類が異なるから、引用発明3における肝臓のVX2カルシノーマの腫瘍細胞を凝固壊死させるために、引用文献4のCaCl_(2)を敢えて併用する動機付けは見出せない。

(ウ)引用文献5について
上記(1)イ(ウ)において示したように、引用文献5の記載に接した当業者は、肺がん細胞株を、0.9%NaCl溶液に最終濃度が0.05M(50mM)となるようCaCl_(2)を添加した培養条件では、0.9%NaCl溶液で培養した場合よりも、生存率が低下することが理解できるといえる。

しかしながら、引用文献5に記載された肺がん細胞株の培養条件についての実験から、生体における肺がんに対してCaCl_(2)を注入した場合に、肺がん細胞株を用いた実験と同等の作用効果が得られるのか否かは不明であるし、引用発明3の肝臓のVX2カルシノーマと引用発明5の肺がんとは腫瘍の種類が異なるので、引用発明3の高張食塩水に加えてCaCl_(2)を注入した場合の作用効果は予測できないから、引用発明3における肝臓のVX2カルシノーマの腫瘍細胞を凝固壊死させるために、引用文献5のCaCl_(2)を併用する動機付けがあるとはいえない。

(エ)引用文献6について
上記(1)イ(エ)において示したように、引用文献6には、Ca^(2+)と腫瘍との関係については記載されていない。

(オ)したがって、引用発明3の高張食塩水に対して、CaCl_(2)等のCa^(2+)を加える動機付けはなく、相違点1に係る本願発明1の構成に想到することが当業者において容易であったとはいえない。

ウ 効果について
本願発明1は、本願明細書の実施例に記載されているように、ヒト患者の悪性腫瘍を含め様々な腫瘍を治療できるという顕著な効果を奏する。

エ 小括
以上によれば、相違点2?5について検討するまでもなく、本願発明1は、引用文献3、4?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 本願発明2?6について
本願発明2?6は、本願発明1の発明特定事項を更に特定したものであるから、本願発明1と同様の理由により、引用文献1、4?6に記載された発明又は引用文献3、4?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1?6に係る発明は、引用文献1、3?6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2019-12-20 
出願番号 特願2016-234317(P2016-234317)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 今村 明子  
特許庁審判長 井上 典之
特許庁審判官 藤原 浩子
前田 佳与子
発明の名称 がん、腫瘍、および非悪性疾患を治療するためのナトリウムイオンおよびカルシウムイオンの医薬組成物  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  

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