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審決分類 |
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 B60K 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B60K |
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管理番号 | 1358264 |
審判番号 | 不服2018-13518 |
総通号数 | 242 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2020-02-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2018-10-10 |
確定日 | 2019-12-26 |
事件の表示 | 特願2013-144337「逆強化学習を利用するハイブリッド車両の燃料効率向上」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月3日出願公開、特開2014-19433〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成25年(2013年)7月10日(パリ条約による優先権主張2012年7月12日(US)米国、2013年3月15日(US)米国)の出願であって、平成29年4月28日付け(発送日:同年5月9日)で拒絶理由が通知され、同年7月6日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ、また、同年12月5日付け(発送日:同年12月12日)で拒絶理由が通知され、平成30年2月13日に意見書が提出されるとともに手続補正がされたが、同年7月4日付け(発送日:同年7月10日)で拒絶査定がされた。これに対して、同年10月10日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに、手続補正がされたものである。 第2 平成30年10月10日にされた手続補正についての補正の却下の決定 [補正の却下の決定の結論] 平成30年10月10日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。 [理由] 1 本件補正について (1)本件補正後の特許請求の範囲の記載 本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線部は、補正箇所である。) 「ハイブリッド電気車両(HEV)のパワートレインを制御する方法であって、 複数の運転経路についての経路情報を収集するステップであって、 前記複数の運転経路の各々が複数の交差点によって接続される複数の道路区分を含むステップと、 前記収集した経路情報に基づいて、前記HEVが今後進みうる前記複数の道路区分についての確率分布を予測するステップと、 前記HEVの瞬間的な必要動力(Preq)のうち前記HEVのエンジンから供給される動力の割合である第1の値α1と前記HEVの電池の充電速度である第2の値α2とを決定するステップと、 前記決定したα1とα2とに基づき、使用する前記HEVのエンジン動力(Peng)の大きさと使用する前記HEVの電池電力(Pbatt)の大きさとを決定するステップと、 前記決定したPengおよびPbattを前記パワートレインに送るステップと、を含み、 前記第1の値α1と前記第2の値α2とを決定するステップは、前記HEVが今後進みうる複数の経路についての確率分布を前記収集した前記経路情報に含まれる運転者の過去の運転履歴に基づき予測するステップと、 前記確率分布に基づいて予測されるエネルギ消費を最小にするように、前記第1の値α1と前記第2の値α2とを算出するステップと、を含み、 前記運転者の過去の運転履歴は、運転経路の複数の特徴を表わす複数の行動特徴(f)の組を含み、 前記行動特徴(f)は、出て行く道路区分の特定情報、道路区分のタイプ、前記出て行く道路区分と入って来る道路区分の間における方向転換の角度、前記道路区分の高さ変化、および前記道路区分の基本方位を含む群の一つ以上の要素を含む ことを特徴とするハイブリッド電気車両のパワートレインを制御する方法。」 (2)本件補正前の特許請求の範囲 本件補正前の、平成30年2月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。 「ハイブリッド電気車両(HEV)のパワートレインを制御する方法であって、 複数の運転経路についての経路情報を収集するステップであって、 前記複数の運転経路の各々が複数の交差点によって接続される複数の道路区分を含むステップと、 前記収集した経路情報に基づいて、前記HEVが今後進みうる前記複数の道路区分についての確率分布を予測するステップと、 前記HEVの瞬間的な必要動力(Preq)のうち前記HEVのエンジンから供給される動力の割合である第1の値α1と前記HEVの電池の充電速度である第2の値α2とを決定するステップと、 前記決定したα1とα2とに基づき、使用する前記HEVのエンジン動力(Peng)の大きさと使用する前記HEVの電池電力(Pbatt)の大きさとを決定するステップと、 前記決定したPengおよびPbattを前記パワートレインに送るステップと、を含み、 前記第1の値α1と前記第2の値α2とを決定するステップは、前記HEVが今後進みうる複数の経路についての確率分布を前記収集した前記経路情報に含まれる運転者の過去の運転履歴に基づき予測するステップと、 前記確率分布に基づいて予測されるエネルギ消費を最小にするように、前記第1の値α1と前記第2の値α2とを算出するステップと、を含むことを特徴とするハイブリッド電気車両のパワートレインを制御する方法。」 2 補正の適否 本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「運転者の過去の運転履歴」について、「前記運転者の過去の運転履歴は、運転経路の複数の特徴を表わす複数の行動特徴(f)の組を含み、 前記行動特徴(f)は、出て行く道路区分の特定情報、道路区分のタイプ、前記出て行く道路区分と入って来る道路区分の間における方向転換の角度、前記道路区分の高さ変化、および前記道路区分の基本方位を含む群の一つ以上の要素を含む」との限定を付加するものであって、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法17条の2第5項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正発明」という。)が特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるか)について、以下検討する。 (1)進歩性(特許法第29条第2項)について ア 本件補正発明 本件補正発明は、上記第2の[理由]1(1)に記載したとおりのものである。 イ 引用文献、引用発明等 (ア)原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2009-29154号公報(以下「引用文献1」という。)には、「ハイブリッド車両の制御装置」に関し、図面とともに、次の記載がある。(下線は、当審において付与した。) a「【請求項1】 原動機としてエンジンとモータを含むハイブリッド車両に搭載され、バッテリの充放電を制御するハイブリッド車両の制御装置において、 車両が走行する予定の経路に含まれる道路パターンを判断する判断手段と、 前記判断手段が判断した道路パターンに応じてエンジンとモータとの出力配分を制御してバッテリの充電状態を最適に制御する制御手段と、 を有することを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。 【請求項2】 請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、 前記判断手段が経路のなかに車両が高速で定常走行する高速定常走行の区間を含むと判断した場合、前記制御手段は、車両がその高速定常走行の区間にたどり着くまでに、通常走行時におけるエンジンとモータとの出力配分よりもモータ側の負担を大きくしてバッテリの放電量を多くし、バッテリの充電状態を低下させる、 ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。 【請求項3】 請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、 前記制御手段は、高速定常走行の区間の距離に関連付けられたバッテリの放電量を放電する、 ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。 【請求項4】 請求項2に記載のハイブリッド車両の制御装置において、 前記制御手段は、バッテリの充電状態が下限値になるように放電する、 ことを特徴するハイブリッド車両の制御装置。 【請求項5】 請求項1に記載のハイブリッド車両の制御装置において、 前記判断手段が経路のなかに車両が高速で定常走行する高速定常走行の区間を含むと判断した場合、高速定常走行の区間の終了地点から経路の目的地までの間におけるモータ駆動によるバッテリの放電量を予測する予測手段を有し、 前記制御手段は、前記予測手段が予測した放電量に応じたバッテリの充電状態になるように、車両が高速定常走行の区間を走行している間にモータで発電して、バッテリの充電状態を増加させる、 ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。 b「【0002】 原動機としてエンジンとモータを搭載し、これらの原動機の出力により走行するハイブリッド車両が知られている。ハイブリッド車両には、モータに供給する電力を蓄える蓄電装置としてバッテリが搭載されている。バッテリは、必要に応じてモータに電力を供給できるように、ある程度の電力を蓄えておく必要がある。一方、回生制動時には、モータが発電した電力を充電できるようにしておく必要がある。そのため、一般的に、バッテリの充電状態(SOC:State Of Charge)が満充電の状態(100%)と全く充電されていない状態(0%)との中間付近(50?60%)になるように、バッテリの充放電が制御される。」 c「【0006】 本発明の目的は、バッテリの充放電を制御する制御装置であって、道路パターンに応じてバッテリを効率よく使用し、エネルギ効率の向上を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明は、原動機としてエンジンとモータを含むハイブリッド車両に搭載され、バッテリの充放電を制御するハイブリッド車両の制御装置において、車両が走行する予定の経路に含まれる道路パターンを判断する判断手段と、前記判断手段が判断した道路パターンに応じてエンジンとモータとの出力配分を制御してバッテリの充電状態を最適に制御する制御手段と、を有することを特徴とする。 【0008】 また、前記判断手段が経路のなかに車両が高速で定常走行する高速定常走行の区間を含むと判断した場合、前記制御手段は、車両がその高速定常走行の区間にたどり着くまでに、通常走行時におけるエンジンとモータとの出力配分よりもモータ側の負担を大きくしてバッテリの放電量を多くし、バッテリの充電状態を低下させることもできる。 【0009】 また、前記制御手段は、高速定常走行の区間の距離に関連付けられたバッテリの放電量を放電することもできる。 【0010】 また、前記制御手段は、バッテリの充電状態が下限値になるように放電することもできる。 【0011】 さらに、前記判断手段が経路のなかに車両が高速で定常走行する高速定常走行の区間を含むと判断した場合、高速定常走行の区間の終了地点から経路の目的地までの間におけるモータ駆動によるバッテリの放電量を予測する予測手段を有し、前記制御手段は、前記予測手段が予測した放電量に応じたバッテリの充電状態になるように、車両が高速定常走行の区間を走行している間にモータで発電して、バッテリの充電状態を増加させることができる。 【発明の効果】 【0012】 本発明の目的は、バッテリの充放電を制御する制御装置であって、道路環境に即してバッテリを効率よく使用し、エネルギ効率の向上を図ることができるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。」 d「【0013】 以下、本発明に係るハイブリッド車両の制御装置の実施形態について、図面に従って説明する。 【0014】 まず、ハイブリッド車両10の構成について、図1を用いて説明する。ハイブリッド車両10には、原動機としてエンジン12と、第一の電動機(以降、第一MGと記す)14と、第二の電動機(以降、第二MGと記す)16とが搭載されている。これらの原動機の動力は、動力分配統合機構20と減速機構22から成る動力伝達機構18を介して駆動輪24に伝達され、車両が走行する。なお、第一及び第二MG14,16は、次に説明するように発電機として機能する。 【0015】 第一及び第二MG14,16は、インバータ26を介してバッテリ28に接続される。バッテリ28に蓄えられた電力は、インバータ26により直流から交流に変換された後に、第一及び第二MG14,16に供給されて、これらMG14,16を駆動する。また、第一及び第二MG14,16で発電された電力は、インバータ26により交流から直流に変換された後に、バッテリ28に送られて蓄えられる。 【0016】 第一MG14は、車両要求駆動力を満たすために必要なトルクがエンジン12から効率よく出力されるようエンジン12の回転数を制御する。このとき、第一MG14はエンジン12の出力に対して負のトルクを作用させる必要があり、この負のトルクの作用として発電し、発電された電力はバッテリ28または第二MG16に供給される。さらに、第一MG14は、エンジン12に対し正のトルクを作用させるスタータとしての機能を有する。一方、第二MG16は、エンジン12から出力されるトルクが車両要求駆動力に対して不足する分のトルクを出力する。さらに、第二MG16は、車両減速時に発電機として車軸に対して負のトルクを作用させ、それにより発電された電力でバッテリ28を充電するいわゆる回生ブレーキとしての機能を有する。 【0017】 ハイブリッド車両10は、走行状態に応じて各原動機12,14,16の出力を制御するハイブリッドECU(Electronic Control Unit)30を有している。なお、ハイブリッドECU30は、本発明に係る制御装置に対応する装置であり、これを以降、単に制御装置30と記す。制御装置30は、CPU(Central Processing Unit)とメモリを有する。CPUは、入力されるデータおよびメモリに記憶されたデータを利用して、プログラムに従って演算を行なう。これにより、制御装置30は、車両が所望の運転状態となるように、エンジン12と第一及び第二MG14,16の出力を制御することになる。 【0018】 制御装置30には、アクセルペダル32、ブレーキペダル34、シフトレバー36、車速センサ38などの各種センサが接続されている。制御装置30は、これらの各種センサからの信号に基づいて乗員の要求出力を算出する。また、制御装置30には、バッテリ28の電流を検出する電流計28aとバッテリ28の電圧を検出する電圧計28bとが接続されている。制御装置30は、電流計28aと電圧計28bが検出した信号に基づいてバッテリ28の充電状態(SOC:State Of Charge)を算出する。そして、制御装置30は、乗員の要求出力とSOCからエンジン12と第一及び第二MG14,16の出力配分(以降、原動機の出力配分と記す)を求め、エンジン12と第一及び第二MG14,16の出力を制御する。 【0019】 制御装置30は、図2(A)に示す最適出力配分マップと、図2(B)に示す発電重視出力配分マップとのいずれかに基づき原動機の出力配分を決定する。これらのマップは、制御装置30のメモリに記憶されている。SOCが中間付近(50?60%)またはそれより高いときには、最適出力配分マップが用いられ、SOCが中間付近より低いときには、発電重視出力配分マップが用いられる。 【0020】 最適出力配分マップにおいては、エンジン12の燃料消費率が悪い低速域(マップの左側)において、第二MG16のみを用いる(M)。これに対し、エンジン12の燃料消費率が良好な中高速域(マップの右側)においては、原動機の出力配分が次の3つに分けられる。すなわち、乗員の要求出力が低いとき、エンジン12の余剰出力により第一MG14で発電を行ない(E+G)、中高乗員の要求出力が中程度のとき、エンジン12のみを用い(E)、そして、乗員の要求出力が大きいとき、エンジン12に加えて第二MG16にもトルク負担を負わせる(E+M)。このように原動機の出力を配分することにより、エンジン12を高効率の回転域でのみ用いることができ、エネルギ効率の良好な運転が可能となる。」 e「【0022】 制御装置30には、現在位置から目的地まで車両が走行する予定の経路を検索して案内を行なうカーナビゲーション40が接続されている。カーナビゲーション40は、CPUと、地図情報を記憶したメモリと、画面およびスピーカを含む表示装置とを有する。カーナビゲーション40には、車速センサ38と、ジャイロセンサ42と、車両の現在位置を検知するGPS(Global Positioning System)とが接続されている。カーナビゲーション40は、これらの機器からの信号に基づいて現在位置を算出し、その位置情報を含む地図情報を表示装置に表示する。また、カーナビゲーション40は、乗員による目的地の情報の入力を受け、地図情報をもとに適切な経路を検索し、その経路の案内を行なう。地図情報には、道路パターンが含まれる。道路パターンは、例えば、車両が通常走行する一般道路、車両が高速で定常走行する高速道路、車両が勾配を走行する山岳道路を含む。現在位置と、道路パターンを含む経路の情報は、カーナビゲーション40から制御装置30に送られる。 【0023】 本発明に係る制御装置30は、車両が走行する予定の経路に含まれる道路パターンを判断し、その道路パターンに応じて原動機の出力配分を制御してSOCを最適に制御する。一般的に、車両が走行する様々な道路パターンにより、放電が頻繁に行なわれたり、逆に充電が頻繁に行なわれたりする。制御装置30は、これらの道路パターンに応じた充放電の傾向を把握し、その傾向を原動機の出力配分の制御に適用することで、SOCを最適に制御することが可能となる。この制御の詳細について次に説明する。 【0024】 SOCを制御する制御装置30の制御動作について図3を用いて具体的に説明する。図3は、経路とSOCとの関係の一例を示す図である。縦軸はSOCを示し、横軸は現在位置である出発地から目的地までの経路を示す。 【0025】 まず、制御装置30は、経路に含まれる道路パターンを判断する。本実施形態の経路に含まれる道路パターンは、図に示されるように、一般道路、高速道路、そして一般道路の順で並んでいる。 【0026】 一般道路は、平坦な道や市街地など主に低速走行を行なう道路である。このような道路においては、車両要求駆動力が低いためエンジン12の燃料消費率が悪い。そのため、SOCが中間付近またはそれより高ければ、第二MG16を主に用いて走行する。よって、一般道路においては放電が頻繁に行なわれる傾向にある。これに対し、高速道路は、高速で定常走行する道路である。このような道路においては、車両要求駆動力が高いためエンジン12の駆動力を必要とする。このとき、エンジン12を効率よく動作させるためには、エンジン12の回転数を制御する第一MG14に負のトルクを作用させる必要がある。負のトルクの作用として第一MG14で発電を行ない、その電力がバッテリ28に充電される。よって、高速道路においては充電が頻繁に行なわれる傾向にある。なお、高速道路を走行しているときに、SOCが十分に高くなりこれ以上充電することができなくなると、前述の第一MG14で発電した電力を熱として放出するか、エンジン12を効率のよい動作点から外し、すなわち効率が悪化する動作点で動作させることになる。 【0027】 このように、各道路により充放電の傾向が異なることから、制御装置30は、道路パターンを判断することにより、充放電の傾向を把握することができる。 【0028】 前述のように高速道路において充電が頻繁に行なわれる傾向にあるので、高速道路で多くの充電が期待できる。そこで、経路に高速道路が含まれると判断した制御装置30は、高速道路にたどり着くまでに、バッテリ28の放電を積極的に行なうようにする。具体的には、制御装置30は、通常走行時における原動機の出力配分よりも第二MG16側の負担を大きくしてバッテリ28の放電を積極的に行なうようにする。第二MG16側の負担を大きくするということは、乗員の要求出力のうちエンジン12側の負担を小さくすることである。エンジン12の負担を軽減することにより、高速道路にたどり着くまでの最初の一般道路におけるエンジン12の燃料消費率を改善することができる。また、最初の一般道路においてSOCが低下したとしても、次に高速道路を走行することにより充電が頻繁に行なわれるので、SOCの回復が可能となる。 【0029】 制御装置30は、最初の一般道路においてバッテリ28の放電を行なうとき、高速道路で充電される予定の充電量に対応する放電量を放電する。これにより、最初の一般道路で低下したSOCを高速道路で適切に回復させることが可能となる。高速道路で充電される予定の充電量は、高速道路の距離に応じて変化する。具体的には、高速道路の距離が長いほど充電量が多くなり、逆に高速道路の距離が短いほど充電量が少なくなる。よって、最初の一般道路における放電量は高速道路の距離に関連付けられる。なお、SOCに下限値(例えば20%)が設定されている場合においては、高速道路にたどり着くまでにSOCがその下限値になるように放電してもよい。下限値は、停車時から発進の際に第二MG16を駆動できる最低限の容量とすることができる。 【0030】 次に、制御装置30は、高速道路の終了地点から目的地まで間、すなわち最後の一般道路におけるバッテリ28の放電量を予測する。具体的には、制御装置30が、最後の一般道路の距離と、予め記憶された一般道路における第二MG16の負荷(駆動力)とに基づいて第二MG16の駆動による放電量を予測する。そして、制御装置30は、予測した放電量に対応可能なSOCになるように、高速道路で充電してSOCを増加させる。これにより、最後の一般道路の途中において、SOCが下限値まで低下してしまうことを抑制することができる。また、SOCの低下により、前述したようなエネルギ効率が悪い発電重視の原動機の出力配分になってしまうことを抑制することができる。結果として、バッテリ28を有効に利用することができ、エネルギ効率の向上が可能となる。なお、目的地に到着するときにSOCが下限値になるように、高速道路においてSOCを増加させることが好適である。」 f 上記aの【請求項1】及び上記dの段落【0020】の記載を併せてみれば、エンジンとモータとの出力配分とは、エンジンの出力割合とモータの出力割合で、両割合の合計は1であることは明らかであるから、エンジンの出力割合が決まれば、モータの出力割合が導き出せることも自明である。 g SOCについて、上記bの記載を踏まえると、SOCを決定することは、満充電に対する割合を決定することということができる。 h 引用文献1のハイブリッド車両の「制御装置」は、その制御工程について注目すれば、「制御する方法」が開示されているといえる。 これら記載事項及び図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献1には次の発明(以下「引用発明1」という。)が記載されている。 「ハイブリッド車両の動力伝達機構18を制御する方法であって、 車両が走行する予定の経路についての一般道路か、高速道路か、山岳道路かの道路パターンを含む経路の情報が送付され、 前記ハイブリッド車両の乗員の要求出力のうち前記ハイブリッド車両のエンジンの出力割合、及び、前記ハイブリッド車両のバッテリの最適な満充電に対する割合を決定し、 前記決定した出力割合と前記最適な満充電に対する割合とに基づき、前記ハイブリッド車両のエンジンの出力とモータの出力とを決定し、 前記決定したエンジンの出力及びモータの出力を動力伝達機構18に送り、 エネルギ効率の良好な運転が可能となる最適出力配分となるように、前記出力割合と、走行する予定の道路における充放電量を予測し、予測した充放電量に対応可能な前記最適な満充電に対する割合とを算出する、 ハイブリッド車両の動力伝達機構18を制御する方法。」 (イ)同じく、原査定の拒絶の理由で引用された本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献である、特開2010-264791号公報(以下「引用文献2」という。)には、「ハイブリッド車両の駆動制御装置及びプログラム」に関し、図面とともに、次の記載がある。 a「【発明が解決しようとする課題】 【0006】 特許文献1及び2に記載された技術は、特定の目的地を予測し、この目的地に対して経路や将来の交通状況を予測してバッテリの充放電を制御する。このため、予測した経路及び将来の交通状況の信頼性が高い場合は問題がない。しかし、それらの信頼性が低く、それらの予測が頻繁に外れる場合、バッテリの充電量(SOC:State Of Charge)を上限値及び下限値の間の中心値から最適な範囲内に制御しようとすると、充放電の機会を逃してしまうという問題がある。また、充電状態を最大値や最小値に必要以上に設定すると、バッテリの充放電寿命の低下につながってしまう。 【0007】 また、特許文献3は、予測した目的地までの経路を予測し、実際の走行経路が予測した経路から離脱した場合に、目的地及び経路を再度予測するが、離脱後の交通状態が当初の予測と大きく異なる場合に、充放電の最適値からのずれが大きくなってしまう問題がある。 【0008】 本発明は、上述した課題を解決するために提案されたものであり、バッテリを効率よく充放電して燃料消費を抑制することができるハイブリッド車両の駆動制御装置及びプログラムを提供することを目的とする。」 b「【0022】 [第1の実施形態] 図1は、本発明の第1の実施形態に係るハイブリッド車両の駆動制御装置の構成を示す図である。ハイブリッド車両の駆動制御装置は、エンジン32及びモータ34の少なくとも1つの駆動力に基づいて駆動されるハイブリッド車両(以下「自車」という。)に搭載されている。 【0023】 ハイブリッド車両の駆動制御装置は、自車の現在位置(緯度及び経度)を計測するために衛星からのGPS信号を受信するGPS受信機11と、現在位置から目的地までの経路を探索するナビゲーション装置12と、交通状況情報(例えばVICS(登録商標))を受信する受信部13と、自車の過去の走行経路の履歴情報を記憶する情報記憶部14と、バッテリ40の現在の充電量(SOC:State Of Charge)を検出する現在充電量検出部15と、を備えている。 【0024】 ナビゲーション装置12は、地図データが記録された記録媒体、演算回路、表示部を有している。演算回路は、記録媒体の地図データを用いて、GPS受信機11で受信されたGPS信号に基づく現在位置から目的地までの経路を演算し、その経路と共に自車の現在位置を表示部に表示する。 【0025】 受信部13は、渋滞情報、所定区間の所要時間、事故・工事情報、速度規制情報、車線規制情報などの交通状況情報を受信し、この交通状況情報を情報記憶部14へ供給する。 【0026】 情報記憶部14には、ナビゲーション装置12で表示された自車の走行経路、受信部13で受信された交通状況情報、現在充電量検出部15で検出された充電量などが逐次記憶される。この結果、情報記憶部14には、自車の走行経路履歴情報、交通状況履歴情報、将来交通状況情報、バッテリ40の充電量の変化が記憶される。 【0027】 また、ハイブリッド車両の駆動制御装置は、複数の目的地を推定する目的地推定部21と、現在位置から最終目的地までの各分岐点における経路の選択確率を算出する選択確率算出部22と、バッテリ40の最適な充放電制御計画を決定する最適充放電制御決定部23と、充放電制御計画に基づいてバッテリ40の充放電を制御する充放電制御部24と、を備えている。最適充放電制御決定部23は、バッテリ40の充電量が管理幅(最大SOCと最小SOCの範囲)の中心値又は中心値付近になるように充放電制御計画を決定する。 【0028】 さらに、ハイブリッド車両の駆動制御装置は、エンジン制御部31と、エンジン制御部31の制御に従って駆動されるエンジン32と、インバータ33と、モータ34と、バッテリ40と、を備えている。なお、インバータ33は、バッテリ40の直流電力を交流電力に変換してモータ34へ供給し、又は、モータ34で生成された回生電力を直流に変換してバッテリ40を充電する。 【0029】 以上のように構成されたハイブリッド車両の駆動制御装置は、次の充放電制御計画決定ルーチンを実行する。 【0030】 図2は、充放電制御計画決定ルーチンを示すフローチャートである。 【0031】 ステップS1では、最適充放電制御決定部23は、GPS受信機11で受信されたGPS信号に基づいて、自車の現在位置を検出する。さらに、最適充放電制御決定部23は、現在充電量検出部15で検出された信号に基づいてバッテリ40の現在の充電量を検出する。そして、ステップS2へ進む。 【0032】 ステップS2では、目的地推定部21は、情報記憶部14に記憶されている走行経路履歴情報に基づいて、複数の最終目的地を推定する。例えば、目的地推定部21は、情報記憶部14に記憶されている走行経路履歴情報の中から、走行経路の折り返し地点、自車が所定時間(道路上で単に停車した時間を除く。例えば30分)以上滞在した地点、などを抽出して、これらの地点を最終目的地と推定する。さらに、目的地推定部21は、現在位置から最終目的地までの間にあって通過確率の変化する地点については目的地(分岐点)として推定する。 【0033】 図3は、走行経路履歴情報から抽出された複数の目的地の一例を示す図である。ここでは、現在の自車は、地点Aへ向かっている。目的地推定部21は、現在位置からA地点を経由したケースの走行経路履歴情報を情報記憶部14から読み出し、その走行経路履歴情報の中から、折り返し地点であるB,D,E,Gをそれぞれ最終目的地として抽出し、E,Fを目的地(分岐点)として抽出する。 【0034】 また、目的地推定部21は、ドライバにより目的地又は経路が設定された場合、その情報に従って目的地を推定すると共に、ドライバの設定した目的地以降の経路についても上記と同様にして推定する。この結果、例えば、現在位置から目的地B,D,Eまでのツリー状に広がる予測経路が作成される。 【0035】 図4は、ツリー状に作成された予測経路を示す図である。同図に示すように、自車が、現在位置から目的地(分岐点)Aに到達すると、確率P1で目的地Bへ進み、確率P2で目的地(分岐点)Cへ進む。さらに、自車が、目的地(分岐点)Cに到達すると、確率P3で目的地Dへ進み、確率P4で目的地(分岐点)Eへ進む。なお、これらの確率P1?P4は選択確率であり、後述のステップで決定される。 【0036】 さらに、最適充放電制御決定部23は、各々の最終目的地B,D,EでのSOCを算出する。ここでは、最適充放電制御決定部23は、バッテリ40の最大SOCと最小SOCの中間値を最終目的地でのSOCとして算出する。そして、ステップS3に進む。 【0037】 ステップS3では、最適充放電制御決定部23は、現在位置から各最終目的地までのそれぞれの走行経路を予測する。なお、最適充放電制御決定部23は、この予測計算をナビゲーション装置12に実行させてもよい。そして、選択確率算出部22は、情報記憶部14に記憶されている走行経路履歴情報に基づいて、予測された各走行経路の各々の分岐点での選択確率を算出する。 【0038】 図5は、走行経路履歴情報として、2月の7:00-7:30の時間帯におけるA地点での経路の選択方向を示す図である。図6は、2月の7:00-7:30の時間帯におけるA地点からB地点、A地点からC地点へのそれぞれの経路の選択確率を示す図である。 【0039】 図5によると、A→Bの走行経路は、14回/18回中であるので、図6に示すように選択確率は78(=(14/18)×100)%である。また、A→Cの走行経路は、4回/18回中であり、選択確率は22(=(4/18)×100)%である。 【0040】 なお、図5及び図6では、2月の7:00-7:30の時間帯の一例を示したが、使用データの期間、時間帯は特に限定されるものではない。すなわち、目的地推定部21は、同一の分岐点であっても、日付、時刻だけでなく、更に前方の渋滞の有無などの走行状態、も考慮して、分岐点から各目的地への選択確率を算出できる。 【0041】 図7は、渋滞がない場合の経路選択確率を示す図である。図8は、A地点からB地点の間に渋滞がある場合の経路選択確率を示す図である。渋滞がない場合、A→Bが通常の選択経路であるので、A→Bの選択確率が90%、A→Cの選択確率が10%と算出される。しかし、AB間で渋滞がある場合、A→Cが迂回経路となるので、A→Bの選択確率が10%、A→Cの選択確率が90%と算出される。このようにして、分岐点での選択確率が算出されると、ステップS4へ進む。 【0042】 ステップS4では、最適充放電制御決定部23は、現在位置から直近の分岐点までの充放電制御計画を決定する。最初に、最適充放電制御決定部23は、各分岐点での選択確率を用いて、現在位置から各最終目的地に到達する確率である最終目的地到達確率を算出する。 【0043】 例えば、図3及び図4の場合、走行経路1?3の最終目的地到達確率は次のようになる。 走行経路1(現在位置→A→B) :最終目的地到達確率=P1 走行経路2(現在位置→A→C→D):最終目的地到達確率=P2×P3 走行経路3(現在位置→A→C→E):最終目的地到達確率=P2×P4 【0044】 次に、最適充放電制御決定部23は、ステップS2で算出された各最終目的地のSOCに基づいて各走行経路のSOCを逆算して、現在位置から直近の分岐点における走行経路1?3のそれぞれのSOCを予測する。例えば、図3及び図4の場合、走行経路1?3のSOCを逆算すると、分岐点AのSOCは次のようになる。 【0045】 図9は、走行経路1?3をそれぞれ走行すると想定した場合のA地点到達時のSOCを示す図である。同図に示すように、走行経路1?3のそれぞれの場合のA地点到達時のSOCは、SOC_A1、SOC_A2、SOC_A3となる。ここで、想定した走行経路に基づいて、最初の分岐点(A地点)のSOCを設定したとしても、想定と異なる走行経路を自車が走行した場合、SOCの過不足が問題になる。 【0046】 例えば、自車が走行経路3を走行すると想定してA地点到達時のSOCがSOC_A3に設定された場合、自車が走行経路3を走行しても何ら問題は生じない。しかし、自車が走行経路1を走行した場合、SOCが大きく不足してしまう。この場合、モータ走行(EV走行)、モータとエンジンを併用するハイブリッド走行(HV走行)ができなくなり、エンジン走行のみが可能になるので、燃料消費が大きくなってしまう。 【0047】 そこで、最適充放電制御決定部23は、それぞれの走行経路の最初の分岐点の各々のSOCに対して、各走行経路の確率に基づいて重み付け平均を計算することで、最初の分岐点の最適なSOCを算出する。 【0048】 図10は、A地点到達時の最適なSOC_A_OPTを示す図である。ここでは、SOC_A_OPTは次の式により求められる。 【0049】 SOC_A_OPT=SOC_A1×(P1)+SOC_A2×(P2×P3)+SOC_A3×(P2×P4) 【0050】 このSOC_A_OPTであれば、自車が走行経路1?3のいずれを通過する場合であっても、SOCが大きく過剰になり又は不足することがなく、SOCを最適な状態にすることができる。そして、ステップS5に進む。 【0051】 ステップS5では、充放電制御部24は、最適充放電制御決定部23で決定された分岐点のSOCを最適化して、現在位置から直近の分岐点まで走行するようにエンジン32及びモータ34をそれぞれ制御する。 【0052】 ここでは、最適充放電制御決定部23は、受信部13で受信されて情報記憶部14に記憶された交通状況情報(例えば、道路の勾配、形状、渋滞情報)に基づいて、直近の分岐点のSOCを最適化する。特に渋滞情報は日時によって変化するので、交通状況情報から渋滞情報が得られる場合、情報記憶部14は、渋滞の長さとその渋滞を走行した場合のSOCの減少分を対応させた渋滞長-SOC減少分情報を記憶する。そして、最適充放電制御決定部23は、情報記憶部14に記憶された渋滞長-SOC減少分情報を用いてSOCを最適化すればよい。」 c 引用文献2のハイブリッド車両の「駆動制御装置」は、その制御工程について注目すれば、「駆動制御する方法」が開示されているといえる。 これら記載事項及び図示内容を総合し、本件補正発明の記載ぶりに則り整理すると、引用文献2には、以下の発明(以下「引用発明2」という。)が記載されている。 「ハイブリッド車両の駆動制御の方法であって、 複数の走行経路についての走行経路履歴情報を読み出し、 前記複数の走行経路の各々が複数の分岐点によって接続される複数の走行経路を含み、 前記読み出した走行経路履歴情報に基づいて、前記ハイブリッド車両の予測される前記複数の走行経路についての選択確率を演算し、 前記ハイブリッド車両の直近の分岐点での最適な充電量(SOC_A_OPT)を決定し、 前記決定した直近の分岐点での最適な充電量(SOC_A_OPT)に基づき、その直近の分岐点での充電量となるよう、エンジン及びモータの少なくとも1つを駆動させる制御をし、 前記直近の分岐点での最適な充電量(SOC_A_OPT)の決定は、前記ハイブリッド車両の予測される複数の走行経路についての選択確率を前記読み出した前記走行経路履歴情報に含まれる自車の走行経路の履歴に基づき算出し、 前記選択確率に基づいて、バッテリを最適充放電するように、また、燃料消費を大幅に抑制するように、前記直近の分岐点での最適な充電量(SOC_A_OPT)は算出され、 前記自車の走行経路の履歴は、走行経路の複数の走行経路履歴情報を含み、 前記走行経路履歴情報は、分岐点での経路の選択方向を含む ハイブリッド車両の駆動制御の方法。」 また、段落【0052】には、下記の技術事項(以下「引用文献2記載事項」という。)が記載されている。 「最適充放電制御決定部23は、受信部13で受信されて情報記憶部14に記憶された交通状況情報(例えば、道路の勾配、形状、渋滞情報)に基づいて、直近の分岐点のSOCを最適化する技術。」 ウ 引用発明1との対比 本件補正発明と引用発明1とを対比すると、後者の「ハイブリッド車両」は、機能、構造及び技術的意義からみて、前者の「ハイブリッド電気車両(HEV)」に相当し、以下同様に、「動力伝達機構18」は「パワートレイン」に、「車両が走行する予定の経路」は「運転経路」に、「一般道路か、高速道路か、山岳道路かの道路パターンを含む経路の情報」は「経路情報」に、「ハイブリッド車両の乗員の要求出力」は「HEVの瞬間的な必要動力(Preq)」に、「バッテリ」は「電池」に、「エンジンの出力割合」は「エンジンから供給される動力の割合である第1の値α1」に、「エンジンの出力」は「エンジン動力(Peng)の大きさ」に、「モータの出力」は「電池電力(Pbatt)の大きさ」に、それぞれ相当する。 また、本願の発明の詳細な説明には、「電池の充電速度である第2の値α2」について、「α2=0.5のとき、電池は最大電気量(Pcharging)の50%に充電される。α2=0のとき、電池はまったく充電されない。α2=1のとき、電池は最大電気量に充電される。」(段落[0032])と記載されていることを踏まえると、引用発明1の「バッテリの最適な満充電に対する割合」は、本件補正発明の「電池の充電速度である第2の値α2」に相当する。 上記相当関係、機能及び技術的意義を踏まえると、引用発明1の「ハイブリッド車両の乗員の要求出力のうち前記ハイブリッド車両のエンジンの出力割合、及び、前記ハイブリッド車両のバッテリの最適な満充電に対する割合を決定」する工程は、本件補正発明の「HEVの瞬間的な必要動力(Preq)のうち前記HEVのエンジンから供給される動力の割合である第1の値α1と前記HEVの電池の充電速度である第2の値α2とを決定するステップ」に相当し、以下同様に、「決定した出力割合と最適な満充電に対する割合とに基づき、ハイブリッド車両のエンジンの出力とモータの出力とを決定」する工程は「決定したα1とα2とに基づき、使用するHEVのエンジン動力(Peng)の大きさと使用する前記HEVの電池電力(Pbatt)の大きさとを決定するステップ」に、「決定したエンジンの出力及びモータの出力を動力伝達機構18に送」る工程は「決定したPengおよびPbattを前記パワートレインに送るステップ」に、それぞれ相当する。 また、本件補正発明の「複数の運転経路についての経路情報を収集するステップ」と、引用発明1の「車両が走行する予定の経路についての一般道路か、高速道路か、山岳道路かの道路パターンを含む経路の情報が送付され」る工程とは、「運転経路についての経路情報を収集するステップ」の限りにおいて一致する。 また、本件補正発明の「確率分布に基づいて予測されるエネルギ消費を最小にするように、第1の値α1と第2の値α2とを算出するステップ」と、引用発明1の「エネルギ効率の良好な運転が可能となる最適出力配分となるように、出力割合と、走行する予定の道路における充放電量を予測し、予測した充放電量に対応可能な前記最適な満充電に対する割合とを算出する」工程とは、引用発明1の「エネルギ効率の良好な運転が可能となる最適出力配分となるように」エンジン出力割合を、かつ、「走行する予定の一般道路における充放電量を予測し、予測した充放電量に対応可能な」最適な満充電に対する割合を決めることは、全体としては、予測されるエネルギ消費を最小にするように算出しているといえるから、両者は「予測されるエネルギ消費を最小にするように、第1の値α1と第2の値α2とを算出するステップ」の限りで一致する。 すると、両者は、 「ハイブリッド電気車両(HEV)のパワートレインを制御する方法であって、 運転経路についての経路情報を収集するステップと、 前記HEVの瞬間的な必要動力(Preq)のうち前記HEVのエンジンから供給される動力の割合である第1の値α1と前記HEVの電池の充電速度である第2の値α2とを決定するステップと、 前記決定したα1とα2とに基づき、使用する前記HEVのエンジン動力(Peng)の大きさと使用する前記HEVの電池電力(Pbatt)の大きさとを決定するステップと、 前記決定したPengおよびPbattを前記パワートレインに送るステップと、を含み、 予測されるエネルギ消費を最小にするように、前記第1の値α1と前記第2の値α2とを算出するステップと、を含む、 ハイブリッド電気車両のパワートレインを制御する方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1: 本件補正発明は、「複数の」運転経路についての経路情報を収集するステップであり、「複数の運転経路の各々が複数の交差点によって接続される複数の道路区分を含むステップ」を有するのに対し、引用発明1は、そのようなステップを有しない点。 相違点2: 本件補正発明は、「収集した経路情報に基づいて、HEVが今後進みうる複数の道路区分についての確率分布を予測するステップ」を有し、第1の値α1と第2の値α2は、「前記確率分布に基づいて」予測されるエネルギ消費を最小にするようにしているのに対し、引用発明1は、そのようなステップを有しない点。 相違点3: 本件補正発明は、第1の値α1と第2の値α2とを決定するステップは、「HEVが今後進みうる複数の経路についての確率分布を収集した経路情報に含まれる運転者の過去の運転履歴に基づき予測するステップ」を有しているのに対し、引用発明1は、そのようなステップを有しない点。 相違点4: 本件補正発明は、「運転者の過去の運転履歴は、運転経路の複数の特徴を表わす複数の行動特徴(f)の組を含み、前記行動特徴(f)は、出て行く道路区分の特定情報、道路区分のタイプ、前記出て行く道路区分と入って来る道路区分の間における方向転換の角度、前記道路区分の高さ変 化、および前記道路区分の基本方位を含む群の一つ以上の要素を含む」のに対し、引用発明1は、そのような構成を有しない点。 エ 判断 上記相違点について検討する。 (ア)相違点1及び2について 本件補正発明と引用発明2とを対比すると、後者の「走行経路」は、機能及び技術的意義からみて、前者の「運転経路」及び「道路区分」に相当し、以下同様に、「ハイブリッド車両」は「ハイブリッド電気車両(HEV)」及び「HEV」に、「駆動制御」は「パワートレインを制御する」ことに、「走行経路履歴情報」は「経路情報」に、「読み出し」は「収集する」に、「分岐点」は「交差点」に、「ハイブリッド車両の予測される」は「HEVが今後進みうる」に、「(複数の走行経路についての)選択確率」は「確率分布」に、「演算」は「予測」に、それぞれ相当する。 上記相当関係、機能及び技術的意義からみて、引用発明2の「複数の走行経路についての走行経路履歴情報を読み出」す工程は、本件補正発明の「複数の運転経路についての経路情報を収集するステップ」に相当し、以下同様に、「複数の走行経路の各々が複数の分岐点によって接続される複数の走行経路を含」む工程は「複数の運転経路の各々が複数の交差点によって接続される複数の道路区分を含むステップ」に、「読み出した走行経路履歴情報に基づいて、ハイブリッド車両の予測される複数の走行経路についての選択確率を演算」する工程は「収集した経路情報に基づいて、HEVが今後進みうる前記複数の道路区分についての確率分布を予測するステップ」に、それぞれ相当する。 また、本件補正発明の「確率分布に基づいて予測されるエネルギ消費を最小にするように、第1の値α1と第2の値α2とを算出するステップ」と、引用発明2の「選択確率に基づいて、バッテリを最適充放電するように、また、燃料消費を大幅に抑制するように、直近の分岐点での最適な充電量(SOC_A_OPT)は算出され」る工程とは、後者の「直近の分岐点での最適な充電量(SOC_A_OPT)」は前者の電池の充電速度である「第2の値α2」に相当し、同様に「バッテリを最適充放電するように、また、燃料消費を大幅に抑制するように、」は「予測されるエネルギ消費を最小にするように、」に相当するから、両者は少なくとも「確率分布に基づいて予測されるエネルギ消費を最小にするように、第2の値α2とを算出するステップ」の限りにおいて一致する。 これらを総合すると、引用発明2には、 「ハイブリッド電気車両(HEV)のパワートレインを制御する方法であって、 複数の運転経路についての経路情報を収集するステップであって、 前記複数の運転経路の各々が複数の交差点によって接続される複数の道路区分を含むステップと、 前記収集した経路情報に基づいて、前記HEVが今後進みうる前記複数の道路区分についての確率分布を予測するステップと、 前記確率分布に基づいて予測されるエネルギ消費を最小にするように、第2の値α2とを算出するステップ。」が含まれると言い換えることができる。 ここで引用発明1と引用発明2とは、ハイブリッド車両の制御という共通の技術分野に属し、かつ、将来の経路に必要とされる走行負荷等の予測を踏まえて、ハイブリッド車両の効率性を向上させるという共通の課題を有している。 そうすると、引用発明1において、走行する予定の道路における予測した充放電量に基づき、最適な満充電に対する割合を算出することに代えて、引用発明2の上記工程を適用して、今後進みうる複数の走行経路の選択確率に基づいて予測されるエネルギを最小にするように、最適な満充電に対する割合を決定するようにして、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を想到することは、当業者であれば、容易になし得たことといえる。 (イ) 相違点3及び4について 本件補正発明と引用発明2とを対比すると、上記(ア)の相当関係に加え、後者の「自車の走行経路の履歴」は、機能及び技術的意義からみて、前者の「運転者の過去の運転履歴」に相当する。また、後者の「走行経路の複数の走行経路履歴情報」は、運転者の過去の運転履歴、即ち、その走行経路と運転者の行動特徴の組といえるから、「運転経路の複数の特徴を表わす複数の行動特徴(f)の組」に相当する。 上記相当関係、機能及び技術的意義からみて、引用発明2の「ハイブリッド車両の予測される複数の走行経路についての選択確率を読み出した走行経路履歴情報に含まれる自車の走行経路の履歴に基づき算出」する工程は、本件補正発明の「HEVが今後進みうる複数の経路についての確率分布を収集した経路情報に含まれる運転者の自車の運転履歴に基づき予測するステップ」に相当し、以下同様に、「自車の走行経路の履歴は、複数の走行経路履歴情報を含み」は「運転者の過去の運転履歴は、運転経路の複数の特徴を表わす複数の行動特徴(f)の組を含み」に相当する。 また、「分岐点での経路の選択方向」は、ある分岐点における運転者の出ていく経路の特定の情報であるといえるから、少なくとも「出て行く道路区分の特定情報」に相当するといえるから、引用発明2の「走行経路履歴情報は、分岐点での経路の選択方向を含む」は本件補正発明の「行動特徴(f)は、出て行く道路区分の特定情報、道路区分のタイプ、前記出て行く道路区分と入って来る道路区分の間における方向転換の角度、前記道路区分の高さ変化、および前記道路区分の基本方位を含む群の一つ以上の要素を含む」に相当するといえる。 これらを総合すると、引用発明2には、 「ハイブリッド電気車両(HEV)のパワートレインを制御する方法であって、 HEVが今後進みうる複数の経路についての確率分布を収集した経路情報に含まれる運転者の過去の運転履歴に基づき予測するステップと、 運転者の過去の運転履歴は、運転経路の複数の特徴を表わす複数の行動特徴(f)の組を含み、 行動特徴(f)は、出て行く道路区分の特定情報、道路区分のタイプ、前記出て行く道路区分と入って来る道路区分の間における方向転換の角度、前記道路区分の高さ変化、および前記道路区分の基本方位を含む群の一つ以上の要素を含む」ことが含まれると言い換えることができる。 ここで、上記エの(ア)で記載した、引用発明1と引用発明2の技術分野の共通性及び解決しようとする課題の共通性を踏まえると、引用発明1において、引用発明2の上記工程を適用して、上記相違点に係る本件補正発明の発明特定事項を想到することは、当業者であれば、容易になし得たことである。 また、本件補正発明全体が奏する効果を検討しても、引用発明1及び引用発明2から、当業者であれば予測し得た範囲のものである。 なお、本件補正発明に記載の他の行動特徴については、例えば、ハイブリッド自動車の効率的な制御のために、引用発明1には、一般道及び高速道との道路区分を考慮する点が開示されており、また、引用文献2記載事項には、道路の勾配を考慮する点について開示されている等、他の行動特徴を採用することも、当業者であれば、容易想到の範囲内にすぎないものである。 オ 小括 したがって、本件補正発明は、引用発明1及び引用発明2に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 3 補正の却下の決定のむすび よって、本件補正は、前記第2の[理由]2(1)のとおり、特許法17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法159条第1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。 第3 本願発明について 1 本願発明 平成30年10月10日にされた手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし15に係る発明は、平成30年2月13日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、前記第2[理由]1(2)に記載されたとおりのものである。 2 原査定の拒絶の理由 原査定の拒絶の理由は、この出願の請求項1ないし15に係る発明は、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。 請求項1-4,7-11,14,15に対し、引用文献1,2,4 請求項5,6,12,13に対し、引用文献1-4 引用文献1: 特開2009-29154号公報 引用文献2: 特開2010-264791号公報 引用文献3: 国際公開第2011/086886号 引用文献4: 特開2009-53202号公報 3 引用文献 原査定の拒絶の理由で引用された引用文献1、引用文献2及びそれらの記載事項は、前記第2の[理由]2(2)ア及びイに記載したとおりである。 4 対比・判断 本願発明は、前記第2の[理由]2で検討した本件補正発明から、「前記運転者の過去の運転履歴は、運転経路の複数の特徴を表わす複数の行動特徴(f)の組を含み、前記行動特徴(f)は、出て行く道路区分の特定情報、道路区分のタイプ、前記出て行く道路区分と入って来る道路区分の間における方向転換の角度、前記道路区分の高さ変化、および前記道路区分の基本方位を含む群の一つ以上の要素を含む」との限定事項を削除したものである。 そうすると、本願発明と引用発明1との相違点は、前記第2の[理由]2(2)ウの相違点1及び2となり、その判断は、前記第2の[理由]2(2)エ(ア)に示すとおりである。 したがって、本願発明は、引用文献1及び引用文献2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。 第4 むすび 以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2019-10-21 |
結審通知日 | 2019-10-29 |
審決日 | 2019-11-11 |
出願番号 | 特願2013-144337(P2013-144337) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(B60K)
P 1 8・ 575- Z (B60K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 神山 貴行 |
特許庁審判長 |
金澤 俊郎 |
特許庁審判官 |
齊藤 公志郎 渋谷 善弘 |
発明の名称 | 逆強化学習を利用するハイブリッド車両の燃料効率向上 |
代理人 | 特許業務法人磯野国際特許商標事務所 |