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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07K
管理番号 1358306
審判番号 不服2018-13390  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-10-05 
確定日 2019-12-25 
事件の表示 特願2015-525845「インターロイキン-10融合タンパク質及びその使用」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月13日国際公開、WO2014/023673、平成27年10月29日国内公表、特表2015-530983〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯、本願発明
本願は、平成25年8月5日(パリ条約による優先権主張 平成24年8月8日 欧州特許庁)を国際出願日とするものであって、平成29年6月30日付け拒絶理由通知に対して同年12月11日に意見書及び手続補正書が提出され、平成30年5月31日付けで拒絶査定がなされ、同年10月5日に拒絶査定不服の審判請求がなされたものである。
そして、本願の請求項1?21に係る発明は、平成29年12月11日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?21に記載されたものであり、そのうち請求項2に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。
「【請求項2】
IgGクラス抗体とIL-10分子との融合タンパク質であって、2つの同一の重鎖ポリペプチドと2つの同一の軽鎖ポリペプチドとを含み、
前記重鎖ポリペプチドのそれぞれが、IgGクラス抗体重鎖と、IL-10単量体と、任意選択的にペプチドリンカーとからなる、融合タンパク質。」


第2 原査定について
原査定は、この出願の請求項1?13、16?21に係る発明は、下記1?3の、この出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、という理由を含むものである。
1.国際公開第2010/005389号
2.特表2011-502137号公報
3.特表2008-505174号公報


第3 当審の判断
1.引用文献1の記載事項
原査定で引用文献1として引用された、本願の優先日前に頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2010/005389号には以下の事項が記載されている。なお、引用文献1は英文であるから、当審による翻訳文を記載する。 また、下線は当審が付したものである。

(1)「1.少なくとも1つの組織安定化因子と融合または結合した、医薬に使用される、完全酸化LDL特異的IgG。

2.IL-10、TIMP、及びTGFβの群からなる少なくとも1つの組織安定化因子と融合または結合した、医薬に使用される、完全酸化LDL特異的IgG。」(特許請求の範囲)

(2)「本発明のさらなる態様は、上記のようなアポB-100タンパク質フラグメントに対して作製された抗体に関し、この抗体は、以下からなる核酸配列の群から選択される可変重鎖領域(VH)を有する。
GAGGTGCAGCTGTTGGAGTCTGGGGGAGGCTTGGTACAGCCTGGGGGGTCCCTGAGACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTCAATAACGCCTGGATGAGCTGGGTCCGCCAGGCTCCAGGGAAGGGGCTGGAGTGGGTCTCATCCATTAGTAGTAGTAGTAGTTACATATACTACGCAGACTCAGTGAAGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGACAATTCCAAGAACACGCTGTATCTGCAAATGAACAGCCTGAGAGCCGAGGACACTGCCGTGTATTACTGTGCGAGAGTCAGTAGGTACTACTACGGACCATCTTTCTACTTTGACTCCTGGGGCCAGGGTACACTGGTCACCGTGAGCAGC (SEQ. ID. NO. 101 )
・・・・
GAGGTGCAGCTGTTGGAGTCTGGGGGAGGCTTGGTACAGCCTGGGGGGTCCCTGAGACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACCTTCAGTAACGCCTGGATGAGCTGGGTCCGCCAGGCTCCAGGGAAGGGGCTGGAGTGGGTCTCATCCATTAGTACTAGTAGTAATTACATATACTACGCAGACTCAGTGAAGGGCCGGTTCACCATCTCCAGAGACAATTCCAAGAACACGCTGTATCTGCAAAT GAACAGCCTGAGAGCCGAGGACACTGCCGTGTATTACTGTGCGAGAGTC AAGAAGTATAGCAGTGGCTGGTACTCGAATTATGCTTTTGATATCTGGGGCCAAGGTACACTGGTCACCGTGAGCTCA (SEQ. ID. NO. 131 )」
(5?10頁)

(3)「本発明のさらなる態様は、上記のようなアポB-100タンパク質フラグメントに対して作製された抗体に関し、この抗体は、以下からなる核酸配列の群から選択される可変軽鎖領域(VL)を有する。
CAGTCTGTGCTGACTCAGCCACCCTCAGCGTCTGGGACCCCCGGGCAGAGGGTCACCATCTCCTGCTCTGGAAGCAGGTCCAACATTGGGAATAATTATGTATCCTGGTATCAGCAGCTCCCAGGAACGGCCCCCAAACTCCTCATCTATGGTAACAACAATCGGCCCTCAGGGGTCCCTGACCGATTCTCTGGCTCCAAGTCTGGCACCTCAGCCTCCCTGGCCATCAGTGGGCTCCGGTCCGAGGATGAGGCTGATTATTACTGTGCAGCATGGGATGACAGCCTGAATGGTCATTGGGTGTTCGGCGGAGGAACCAAGCTGACGGTCCTAGGT (SEQ. ID. NO. 102)
・・・・
CAGTCTGTGCTGACTCAGCCACCCTCAGCGTCTGGGACCCCCGGGCAGAGGGTCACCATCTCCTGCTCTGGAAGCAGCTCCAGCATTGGGAATAATTTTGTATCCTGGTATCAGCAGCTCCCAGGAACGGCCCCCAAACTCCTCATCTATGACAATAATAAGCGACCCTCAGGGGTCCCTGACCGATTCTCTGGCTCCAAGTCTGGCACCTCAGCCTCCCTGGCCATCAGTGGGCTCCGGTCCGAGGATGAGGCTGATTATTACTGTGCAGCATGGGATGACAGCCTGAATGGTTGGGTGTTCGGCGGAGGAACCAAGCTGACGGTCCTAGGT (SEQ. ID. NO. 132)」
(10?14頁)

(4)「まとめると、これらの結果は、酸化LDLに特異的な完全、一本鎖、またはFabフラグメントを用いて、ヒトの不安定なアテローム硬化性プラークを特異的に標的とする可能性を実証している。」(18頁4?6行)

2.引用発明
上記1.より、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「完全、一本鎖、またはFabフラグメントである完全酸化LDL特異的IgGと、IL-10との融合タンパク質。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明を対比する。
引用発明の「完全・・・である完全酸化LDL特異的IgG」は、本願発明の「2つの同一の重鎖ポリペプチドと2つの同一の軽鎖ポリペプチドとを含」む「IgGクラス抗体」に相当すると認められる。
そうすると、両者は、
「IgGクラス抗体とIL-10分子との融合タンパク質であって、2つの同一の重鎖ポリペプチドと2つの同一の軽鎖ポリペプチドとを含む、融合タンパク質。」である点で一致し、以下の点で相違すると認められる。
(相違点)
本願発明では「前記重鎖ポリペプチドのそれぞれが、IgGクラス抗体重鎖と、IL-10単量体と、任意選択的にペプチドリンカーとからなる」と特定され、抗体の重鎖のそれぞれにIL-10が融合されていることが特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。

上記(相違点)について検討する。
引用発明の「完全・・・である完全酸化LDL特異的IgG」とは、IgGの2つの重鎖、2つの軽鎖のそれぞれにIL-10を融合させることが可能であるが、引用発明の融合タンパク質を医薬として使用するためには、抗体部分が完全酸化LDLに特異的に結合する機能とIL-10部分の機能の両者の機能が発揮される必要があることが明らかであるから、IL-10は抗体の可変領域における、抗原(完全酸化LDL)に対する特異的な結合を妨げないように融合されること、そのためにはIL-10は抗体の可変領域から離れた部位である重鎖のC末端に融合される必要があることが理解される。そして、1種類の重鎖融合物と軽鎖を作成すれば良く、融合タンパク質の作成が簡便であること、抗体当たりのIL-10の量が多く、より高いIL-10の機能が期待できることなども考慮すると、2本の重鎖の両方にIL-10を融合することは当業者が適宜なし得ることである。また、IL-10は二量体となるものであるから(引用文献2の図8b、引用文献2の対応論文であるTrachsel et.al. Arthritis Research & Therapy (2007),Vol.9,No.1,p.1-9 の図3(a)を参照。)、2本の重鎖の両方にIL-10を融合することで、有効なIL-10活性が得られることが期待される。

そして、本願明細書の発明の詳細な説明をみても、本願発明において引用文献1の記載から予測できない効果が奏されたとは認められない。

なお、本願明細書には「本発明のIgG-IL-10融合タンパク質は、公知の抗体断片に基づく(例えばscFv、ダイアボディ、Fab)IL-10融合タンパク質に対して、改善された生産しやすさ、安定性、血清半減期及び驚くべきことに、標的抗原との結合による生物活性の著しい増加を含むいくつかの利点を有する。」(段落【0012】)と記載され、IgG-IL-10融合タンパク質は、抗体断片-IL-10融合タンパク質よりも改善された利点を有することが記載されている。そして、本願明細書の実施例には、FAPに特異的な抗体である4G8及び4B9に基づく、IgG-IL-10融合タンパク質とFab-IL-10融合タンパク質を複数のドナー単球に対して用いた実験データが示されており、「構成(b)」なる実験方法では、IL-6などのサイトカイン生成の抑制などにおいて、IgG-IL-10融合タンパク質が、抗体断片(Fab)-IL-10融合タンパク質よりも利点を有する場合があることは読み取れる。
しかし、上記の利点は、IgGクラス抗体としてFAPに特異的な4G8や4B9を用い、「構成(b)」という特定の実験方法による場合のものに過ぎない。本願発明にはIgGクラス抗体がそのような抗体に特定などされていないところ、実施例に示された上記の利点、すなわち、4G8や4B9という特定のタンパク質に融合された融合タンパク質の効果が、IL-10に融合されるIgGクラス抗体が4G8や4B9以外である場合などにも同様に奏されるとはいえない。

したがって、本願発明は引用文献1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.審判請求人の主張について
審判請求人は審判請求書において、概ね以下の点を主張している。
ア 引用文献1はコンジュゲートの具体的な構造、コンジュゲートの作成方法などについて記載していない。引用文献1はIgGに加えてscFv及びFab結合分子も記載し、IL-10だけでなく、TIMP、及びTGFα及びTGFβも記載している。融合部位に関して、抗体-薬剤コンジュゲートの設計は様々である。

イ 本願発明の融合タンパク質は、望まない副産物なしに産生されるものである。

ア について
引用文献1には融合タンパク質の[完全酸化LDL特異的IgG]部分として『完全抗体』、[組織安定化因子]部分として『IL-10』が明記されているから、融合タンパク質の[LDL特異的IgG]部分、[組織安定化因子]部分としてこれらを特定することに格別の困難性はない。そして、上記3.で述べたとおり、抗体の2本の重鎖それぞれにIL-10を融合することは当業者が適宜になし得ることである。
また、上記1.の(2)、(3)のとおり、引用文献1には重鎖と軽鎖の可変領域について具体的な塩基配列が示されており、これらの可変領域に加えて周知の定常領域を有する抗体の2本の重鎖それぞれにIL-10が融合した融合タンパク質を、分子生物学的手法など周知の方法で作成することは当業者が容易になし得ることである。

イ について
分子生物学的手法によりタンパク質を製造すれば得られることが予測できる効果であり、格別顕著な効果であるとは認められない。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明について言及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-25 
結審通知日 2019-07-30 
審決日 2019-08-13 
出願番号 特願2015-525845(P2015-525845)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上村 直子  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 中島 庸子
高堀 栄二
発明の名称 インターロイキン-10融合タンパク質及びその使用  
代理人 園田・小林特許業務法人  

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