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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G08G
管理番号 1358530
審判番号 不服2018-11696  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-02-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-08-30 
確定日 2020-01-06 
事件の表示 特願2016-216609号「障害物評価技術」拒絶査定不服審判事件〔平成29年3月30日出願公開,特開2017- 62819号〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯の概略
本願は,2013年5月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理:2012年6月6日,米国)を国際出願日とする特願2015-516065号の一部を,平成28年11月4日に新たな特許出願としたものであって,手続の経緯は,概ね以下のとおりである。
平成28年12月 5日 翻訳文提出書及び手続補正書
平成29年10月26日付け 拒絶理由通知書
平成30年 1月16日 意見書及び手続補正書
平成30年 1月24日付け 拒絶理由通知書(最後)
平成30年 5月10日 意見書
平成30年 5月17日付け 拒絶査定
平成30年 8月30日 拒絶査定不服審判請求書

第2 本願発明
本願の請求項1?15に係る発明は,平成30年1月16日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?15に記載された事項により特定される発明であるところ,そのうち請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は以下のとおりの発明である。
【請求項1】
少なくとも1つのセンサと,
少なくとも1つのプロセッサと,そして
前記少なくとも1つのプロセッサによって,
前記少なくとも1つのセンサから複数の潜在的な障害物に関連するデータを受信し,
前記受信されたデータの第1の閾値比較を含む第1の評価であって,複数の潜在的な障害物の前記少なくとも1部について当該第1の評価を行い,
前記第1の評価が前記受信されたデータの第1の閾値比較が満たされていない状態が所定期間維持されたことを示すとき,潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部が単一の非定常障害物として分類し,
前記第1の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第1の閾値比較が満たされている状態が前記所定期間内に生じたことを示すとき,潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類し,
1つ以上の環境条件が変化したと判断し,前記第1の閾値を第2の閾値に応答的に変更し,
前記受信されたデータの第2の閾値比較を含む第2の評価であって,複数の潜在的な障害物の少なくとも1部に関する当該第2の評価を実施し,
前記受信されたデータの前記第2の閾値比較が満たされていない状態が前記所定期間維持されたことを前記第2の評価が示す場合には,潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部を単一の非定常障害物として分類し,
前記第2の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第2の閾値比較が満たされている状態が前記所定期間内に生じたことを示すとき,潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類する,ように実行可能な命令を含むデータ記憶装置と,からなる車両。

第3 原査定の概要
原査定(平成30年5月17日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。すなわち,本願の請求項1?15に係る発明は,本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において,頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1?3に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(引用文献)
1 特開2012-058018号公報
2 再公表特許第2006/013689号
3 特開平08-240660号公報

第4 原査定についての判断
1 引用文献,引用発明等
(1) 引用文献1
ア 引用文献1には,以下の事項が記載されている(下線は,当審にて付与した。以下同様。)。
・「【請求項1】
時間と共に周波数が直線的に変化するように周波数変調されたレーダ波を,予め規定された測定サイクル毎に送信し,物標にて反射された該レーダ波である反射波を受信すると共に,前記レーダ波の送信信号と前記反射波の受信信号とを混合することでビート信号を生成する送受信手段と,
前記送受信手段でビート信号を生成する毎に,該ビート信号に含まれる周波数と各周波数における強度とを表すパワースペクトルを導出する周波数解析手段と,
前記周波数解析手段でパワースペクトルが生成される毎に,該パワースペクトルにて周波数における強度が極大値となる各周波数を表す周波数ピークを,物標である可能性がある物標候補として検出し,各物標候補の位置及び速度を導出する物標候補検出手段と,
前記物標候補検出手段にて1ないし複数回の測定サイクルで検出された物標候補のうち,停止している物標候補について,基点となる物標候補の位置から,設定された第一基準距離の範囲内に存在する物標候補を予め規定された方向に沿って順に接続してグループ化し,そのグループ化した物標候補の位置を接続順に結んだ領域である道路端を少なくとも含む道路形状を認識する道路形状認識手段と,
前記物標候補検出手段にて検出された物標候補のうち,移動している物標候補について,規定回数の測定サイクルに渡って,先の測定サイクルにて検出された物標候補の位置に基づいて予測した予測位置から,設定された第二基準距離の範囲内に,次の測定サイクルにて検出された物標候補が存在すれば,該物標候補を移動物体として認識する物体認識手段と
を備え,車両に搭載して用いられるレーダ装置であって,
前記周波数解析手段で導出されたパワースペクトルにおける予め定められた規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値が,予め定められた基準閾値以上であれば,自車両が走行する道路環境を表す走行環境が,道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間であるものと推定する走行環境推定手段と,
前記走行環境推定手段での推定の結果,前記走行環境が閉空間であれば,前記道路形状認識手段で用いる第一基準距離,及び前記物体認識手段で用いる第二基準距離の少なくとも一方を,前記走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する基準距離補正手段と
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
前記物体認識手段は,
1回の測定サイクルで認識した複数の移動物体について,基点となる移動物体の位置から,予め規定された方向に沿って設定基準距離の範囲内に存在する移動物体を順に接続してグループ化し,そのグループ化した移動物体群を1つの移動物体として認識する移動物体確定手段を備え,
前記走行環境推定手段での推定の結果,前記走行環境が閉空間であれば,前記移動物体確定手段で用いる設定基準距離を,前記走行環境が開放空間である場合に比べて短縮する距離短縮手段を備えることを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。」
・「【0001】
本発明は,レーダ波の送受信信号を混合してなるビート信号を信号処理して,レーダ波を反射した物標について検出するレーダ装置に関する。」
・「【0020】
ところで,自車両の前方を走行する先行車両の中に,トラックのような大型車両が存在する場合,該大型車両の後方部で反射され,かつレーダ装置で直接受信する反射波は,複数となることがある。この場合,これらの複数の反射波それぞれに基づいて認識される個々の移動物体は,本来,1つの移動物体として検出されることが望ましい。
【0021】
そこで,本発明のレーダ装置における物体認識手段では,移動物体確定手段が,1回の測定サイクルで認識した複数の移動物体について,基点となる移動物体の位置から,予め規定された方向に沿って設定距離の範囲内に存在する移動物体を順に接続してグループ化し,そのグループ化した移動物体群を1つの移動物体として認識しても良い。」
・「【0038】
以下に本発明の実施形態を図面と共に説明する。
〈走行支援制御システムについて〉
図1は,本発明が適用されたレーダセンサを用いて構成され,自動車に搭載して用いられる走行支援制御システムの概略構成を示すブロック図である。
【0039】
走行支援制御システム1は,レーダ波を送受信することで,自車両の周辺に存在する物標を検出し,該物標に関する情報(以下,物標情報とする)を生成するレーダセンサ30と,そのレーダセンサ30にて生成された物標情報に基づいて自車両を制御する走行支援電子制御装置(以下,走行支援ECUとする)10とを備えている。なお,本実施形態の物標情報は,検出した物標の位置と,自車両と物標との間の相対速度とを少なくとも含むものである。」
・「【0042】
つまり,走行支援ECU10は,レーダセンサ30からの物標情報に基づいて,自車両の走行を支援する走行支援制御を実行するように構成されている。本実施形態における走行支援制御として,例えば,先行車両と自車両との車間距離を予め設定された距離に保持するアダプティブクルーズ制御や,自車両と先行車両との車間距離が予め設定された距離以下となると,警告を出力したり,シートベルトを巻き上げたりするプリクラッシュセーフティ制御がある。
〈レーダセンサの構成について〉
次に,レーダセンサ30は,FMCW方式のいわゆるミリ波レーダ装置として構成されたものであり,時間に対して周波数が直線的に増加する上り区間,及び周波数が直線的に減少する下り区間を有するように周波数変調されたミリ波帯の高周波信号を生成する発振器31と,発振器31が生成する高周波信号を増幅する増幅器32と,増幅器32の出力を送信信号Ssとローカル信号Lとに電力分配する分配器34と,送信信号Ssに応じたレーダ波を放射する送信アンテナ36と,レーダ波を受信するn個の受信アンテナからなる受信側アンテナ部40とを備えている。なお,受信側アンテナ部40を構成する受信アンテナには,それぞれ,チャンネルCh1?CHnが割り当てられている。
【0043】
また,レーダセンサ30は,受信側アンテナ部40を構成する受信アンテナのいずれかを順次選択し,選択された受信アンテナからの受信信号Srを後段に供給する受信スイッチ41と,受信スイッチ41から供給される受信信号Srを増幅する増幅器42と,増幅器42にて増幅された受信信号Srにローカル信号Lを混合して,送信信号Ssと受信信号Srとの周波数の差を表すビート信号BTを生成するミキサ43と,ミキサ43が生成したビート信号BTから不要な信号成分を除去するフィルタ44と,フィルタ44の出力をサンプリングしデジタルデータに変換するA/D変換器45と,ビート信号BTのサンプリングデータを用いて,レーダ波を反射した物標を検出すると共に,その物標についての物標情報を生成するメイン処理を実行する信号処理部46とを備えている。
【0044】
この信号処理部46は,少なくとも,ROM,RAM,CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され,さらに,A/D変換器45を介して取り込んだデータに対して,高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば,DSP)を備えている。
【0045】
つまり,このように構成されたレーダセンサ30では,信号処理部46からの指令に従って発振器31が振動すると,その発振器31で生成され,増幅器32で増幅した高周波信号を,分配器34が電力分配することにより,送信信号Ss及びローカル信号Lを生成し,このうち送信信号Ssを送信アンテナ36を介してレーダ波として送信する。
【0046】
そして,送信アンテナ36から送出されて物標に反射されたレーダ波(即ち,反射波)は,受信側アンテナ部40を構成する全ての受信アンテナにて受信され,受信スイッチ41によって選択されている受信チャンネルCHi(i=1?n)の受信信号Srのみが増幅器32で増幅された後,ミキサ43に供給される。すると,ミキサ43では,この受信信号Srに分配器34からのローカル信号Lを混合することによりビート信号BTを生成する。そして,このビート信号BTは,フィルタ44にて不要な信号成分が除去された後,A/D変換器45にてサンプリングされ,信号処理部46に取り込まれる。」
・「【0047】

〈メイン処理の処理内容について〉
次に,レーダセンサ30にて実行されるメイン処理について説明する。
【0048】
このメイン処理は,予め規定された規定時間間隔(即ち,測定サイクル)毎に起動されるものであり,起動されると,図2に示すように,まず,発振器31を起動してレーダ波の送信を開始する(S110)。続いて,A/D変換器45を介してビート信号BTのサンプリング値を取得し(S120),必要なだけサンプリング値を取得すると,発振器31を停止することにより,レーダ波の送信を停止する(S130)。
【0049】
次に,S130にて取得したサンプリング値について周波数解析(本実施形態では,FFT処理)を実行し,受信チャンネルCH1?CHn毎かつ上り/下り区間毎にビート信号BTのパワースペクトルを求める(S140)。このパワースペクトルは,ビート信号BTに含まれる周波数と,その周波数における強度とを表したものである。
【0050】
続いて,上り区間,及び下り区間のそれぞれについて,パワースペクトル上に存在する各周波数ピークを検出する(S150)。具体的には,受信チャンネルCH毎に求められたパワースペクトルを,全ての受信チャンネルで相加平均した平均スペクトルを導出し,その平均スペクトルの中で,予め設定された設定閾値を超える周波数における強度のピーク点に対応する(即ち,周波数における強度が極大値となる)周波数を周波数ピークとして検出する。
【0051】
そして,S140で求めたパワースペクトルに基づき,物標である可能性がある物標候補が存在する方位を推定する方位解析を実行する(S160)。本実施形態における方位解析としては,半値角の狭いアンテナのヌル点を利用し,パワースペクトルから,MUSICスペクトルを求める周知のMUSIC法を用いる。このMUSIC法によれば,MUSICスペクトルのピーク点が,物標候補が存在する方位を表す指標となる。
【0052】
さらに,上り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークと,下り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークとを,同一物標にてレーダ波を反射したとみなせるもの同士でマッチングして登録するペアマッチングを実行する(S170)。具体的には,上り区間の周波数ピークと下り区間の周波数ピークとの電力差,及び角度差が予め規定された許容範囲内であるか否かを判定し,その判定の結果,電力差及び角度差が共に,許容範囲内であれば,両周波数ピークをマッチングして,そのマッチングした周波数ピークのペアを登録する。この登録された周波数ピークのペアは,それぞれ,物標候補に対応する。
【0053】
なお,本実施形態のペアマッチング(S170)では,登録された周波数ピークのペアに対して,FMCW方式のレーダ装置における周知の手法により,レーダセンサ30から物標候補までの距離,物標候補と自車両との相対速度を導出する。本実施形態では,このとき,物標候補と自車両との相対速度,及び自車両の車速に基づいて,各物標候補の速度を導出すると共に,その物標候補が,停止物であるか移動物であるかを判定する。そして,導出された距離及び相対速度(速度)に,物標候補が存在する方位を加えた情報を,物標情報として生成する。
【0054】
さらに,詳しくは後述する,走行環境判定処理(S180),道路形状認識処理(S190),履歴追尾処理(S200),物体認識処理(S210)を実行する。そして,外挿補間(S220),ゴースト修正(S230)を実行した後,選択された物体に関する物標情報を走行支援ECU10に出力する(S240)。
〈走行環境判定処理の処理内容について〉
次に,メイン処理のS180にて実行される走行環境判定処理について,図3に示すフローチャートを用いて説明する。
【0055】
この走行環境判定処理は,起動されると,まず,図4に示す平均スペクトル(パワースペクトル)において,予め規定された規定周波数域での周波数における強度を積分した積分値(以下,パワー積分値とする)を導出する(S310)。なお,本実施形態における規定周波数域は,道路の走行面の上方に存在する空間が覆われた閉空間を走行中に生成したパワースペクトルと,道路の走行面の上方に存在する空間が覆われていない開放空間を走行中に生成したパワースペクトルとのフロアレベルの差が顕著に表れるビート信号BTにおける高周波帯域(図11参照)として規定されている。本実施形態において,閉空間とは,例えば,トンネル内や,覆道(スノーシェッドや,ロックシェッド),アンダーパスといった道路環境である。

【0064】
つまり,走行環境判定処理では,S140にて求めたパワースペクトルに基づくパワー積分値が,規定時間以上継続して基準閾値以上であれば,走行環境が閉空間であるものとして判定して,閉空間フラグをセットする。一方,パワー積分値が所定時間以上継続して基準閾値未満であれば,走行環境が開放空間であるものと判定し,閉空間フラグを解除する。」
【0072】

〈履歴追尾処理の処理内容について〉
次に,メイン処理のS200にて実行される履歴追尾処理は,起動されると,図6に示すように,まず,走行環境が閉空間であるか否かを判定する(S710)。
【0073】
そのS710での判定の結果,走行環境が閉空間でなければ,即ち,開放空間であれば(S710:NO),本発明の第二基準距離に相当する追尾基準距離DR,及び本発明の設定基準距離に相当するセグメント距離DRSを,予め規定された開放距離に設定する(S720)。一方,走行環境が閉空間であれば(S710:YES),追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSを,開放距離よりも短い距離である閉塞距離に設定する(S730)。なお,S720やS730にて追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSとして設定される開放距離または閉塞距離は,同一名称の閉塞距離や開放距離であっても,追尾基準距離DR及びセグメント距離DRSに対して互いに異なる距離が設定されても良い。
【0074】
そして,前回の測定サイクルで登録された周波数ピークのペア(以下,前サイクルペアとする)と,今回の測定サイクルで登録された周波数ピークのペア(以下,今サイクルペアとする)との組み合わせを設定する(S740)。その組み合わせた周波数ピークのペア(以下,組合せペアと称す)のいずれか1つを取り出す(S750)。

【0077】
続いて,S770で導出した位置差分が追尾基準距離DRより小さく,かつ速度差分が予め規定された上限速度差DVよりも小さいか否かを判定する(S780)。その判定の結果,位置差分及び速度差分の両者が共に小さい場合にのみ(S780:YES),組合せペアを構成する周波数ピークのペアは履歴接続があるものとして,今サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiを,前サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiに1を加算した値へと更新する(S790)。

【0079】

〈物体認識処理の処理内容について〉
次に,メイン処理のS210にて実行される物体認識処理は,起動されると,図7に示すように,ペア登録された今サイクルペアの中から,1つの今サイクルペアを取り出す(S910)。その取り出した今サイクルペアの検出カウンタのカウント値CNTiが,予め設定された認識閾値CNTTSD(本発明の規定回数に相当)以上であるか否かを判定する(S920)。
【0080】
その判定の結果,検出カウンタのカウント値CNTiが認識閾値CNTTSD以上であれば(S920:YES),S910で取り出した今サイクルペアに対応する物標候補が,移動物体(例えば,先行車両)であることを確定して,移動物体登録を実行する(S930)。一方,検出カウンタのカウント値CNTiが認識閾値CNTTSD未満であれば(S920:NO),S930を実行することなく,S940へと進む。そして,全ての今サイクルペアについて,上述したS910?S930のステップを実行したか否かを判定し(S940),未処理の今サイクルペアがあれば(S940:NO),S910へと戻る。
【0081】
一方,全ての今サイクルペアについて,S910?S930のステップが完了していれば(S940:YES),S930にて登録された移動物体の中から,2つの移動物体を選択し,それらの選択された移動物体間の距離(以下,物体間距離と称す),及びそれらの選択された移動物体間の相対速度(以下,物体間相対速度)を導出する(S950)。その物体間距離が,先のS720またはS730にて設定されたセグメント距離DRSよりも小さく,かつ物体間相対速度が予め規定された相対速度である規定相対速度DRVよりも小さいか否かを判定する(S960)。
【0082】
そのS960での判定の結果,物体間距離がセグメント距離DRSよりも小さく,かつ物体間相対速度が規定相対速度DRVよりも小さければ(S960:YES),その物体間距離及び物体間相対速度を導出した際の2つの移動物体が,1つの移動物体であるものとして,両移動物体に対応する移動物体登録を修正する(S970)。一方,S960での判定の結果,物体間距離がセグメント距離DRS以上,または,物体間相対速度が規定相対速度DRV以上であれば(S960:NO),その物体間距離を導出した際の2つの移動物体は,それぞれ別の移動物体であるものと判断して,S970を実行することなく,S980へと進む。
【0083】
そして,移動物体の全ての組合せについて,上述したS950?S970のステップを実行したか否かを判定し(S980),未処理の移動物体の組合せがあれば(S980:NO),S950へと戻る。一方,全ての移動物体の組合せについてS950?S970のステップを実行していれば,本物体認識処理を終了して,メイン処理のS220へと進む。
【0084】
つまり,本実施形態の物体認識処理では,認識閾値CNTTSD以上の履歴接続が確認された周波数ピークのペアを移動物体として確定して登録し,さらに,登録された移動物体の中に,複数(例えば,2つ)の移動物体で1つの移動物体を構成するものがあれば,登録した移動物体を修正する。ただし,本実施形態の物体認識処理では,複数の移動物体で1つの物体を構成しているか否かの判定を行う際のセグメント距離DRSは,走行環境が開放空間であれば,開放距離に設定され,走行環境が閉空間であれば,開放距離よりも短い閉塞距離に設定されている。」
イ 上記の記載及び図面の記載からすると,次のことがわかる。
・自動車に走行支援制御システム1が搭載され(【0038】),走行支援制御システム1は,レーダ波を送受信することで,自車両の周辺に存在する物標を検出し,該物標に関する情報(物標情報)を生成するレーダセンサ30と,そのレーダセンサ30にて生成された物標情報に基づいて自車両を制御する走行支援電子制御装置10とを備えている(【0039】)。
・レーダセンサ30は,ビート信号BTのサンプリングデータを用いて,レーダ波を反射した物標を検出すると共に,その物標についての物標情報を生成するメイン処理を実行する信号処理部46を備え(【0043】),この信号処理部46は,少なくとも,ROM,RAM,CPUを備えた周知のマイクロコンピュータを中心に構成され,さらに,A/D変換器45を介して取り込んだデータに対して,高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば,DSP)を備えている(【0044】)。
・信号処理部46は,送受信に係る処理(S110?S130)(【0048】),周波数解析に係る処理(S140)(【0049】),物標候補検出処理(S150?S170)(【0050】?【0053】),走行環境推定処理(S180)(【0054】?【0064】,図3),道路形状認識処理(S190)(【0064】?【0072】,図5),履歴追尾処理(S200)(【0072】?【0079】,図6),物体認識処理(S210)(【0079】?【0085】)の順でメイン処理を実行する(図2)。
・信号処理部46は,ビート信号BTのパワースペクトルに基づき,上り区間,及び下り区間のそれぞれについて,パワースペクトル上に存在する各周波数ピークを検出し(S150)(【0050】),上り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークと,下り区間のビート信号BTから求められた周波数ピークとを,同一物標にてレーダ波を反射したとみなせるもの同士でマッチングして,マッチングした周波数のピークを物標候補として登録し(S170)(【0052】),物標候補のうち,移動している物標候補について,規定回数の測定サイクルに渡って,前の測定サイクルにて検出された物標候補(前サイクルペア)の物標情報に基づいて予測した予測位置及び予測速度と次の測定サイクルにて検出された物標候補(今サイクルペア)から導出された位置及び速度との位置差分及び速度差分が,設定された追尾基準距離DR及び上限速度差DVより小さければ,該物標候補を移動物体として登録する(【0079】,【0080】)。
・走行環境判定処理(S180)で,パワースペクトルに基づくパワー積分値が,規定時間以上継続して基準閾値以上であれば,走行環境が閉空間であるものとして判定し,所定時間以上継続して基準閾値未満であれば,走行環境が開放空間であるものと判定する(【0064】,図3)。
・走行環境が開放空間であれば(S710:NO),セグメント距離DRSを開放距離に設定し(S720),走行環境が閉空間であれば(S710:YES),セグメント距離DRSを閉塞距離に設定する(S730)(【0073】,図6)。
・物体認識処理(S210)において(【0079】?【0085】),登録された移動物体の中から選択された2つの移動物体について,物体間距離がセグメント距離DRSよりも小さく,かつ,物体間相対速度が規定相対速度DRVよりも小さいか否かを判定し(S960),その判定の結果,物体間距離がセグメント距離DRSよりも小さく,かつ物体間相対速度が規定相対速度DRVよりも小さければ(S960:YES),当該2つの移動物体が,1つの移動物体であるものと判断し(S970),その判定(S960)の結果,物体間距離がセグメント距離DRS以上,又は,物体間相対速度が規定相対速度DRV以上であれば(S960:NO),当該2つの移動物体は,それぞれ別の移動物体であるものと判断する(【0081】?【0082】,図7)。
ウ 上記の記載及び図面の記載からみて,引用文献1には,次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。
(引用発明)
「少なくとも,ROM,RAM,CPUを備えたマイクロコンピュータを中心に構成され,高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば,DSP)を備え,ビート信号BTのサンプリングデータを用いて,移動物体を検出すると共に,その移動物体に関する物標情報を生成するメイン処理を実行する信号処理部46を有し,レーダ波を送受信することで,自車両の周辺に存在する移動物体を検出し,該移動物体に関する物標情報を生成するレーダセンサ30を搭載し,
前記信号処理部46は,
物標候補に関するビート信号BTを受信し(S110?S130),ビート信号BTのパワースペクトルを求めた後(140),物標候補検出処理(S150?S170),走行環境推定処理(S180),道路形状認識処理(S190)を行った後,移動している物標候補を移動物体として登録する物体認識処理(S210)を行い,
前記走行環境判定処理(S180)で,前記パワースペクトルに基づくパワー積分値が,規定時間以上継続して基準閾値以上であれば,走行環境が閉空間であるものとして判定し,所定時間以上継続して基準閾値未満であれば,走行環境が開放空間であるものと判定し,
走行環境が開放空間であれば(S710:NO),セグメント距離DRSを開放距離に設定し(S720),走行環境が閉空間であれば(S710:YES),前記セグメント距離DRSを閉塞距離に設定し(S730),
前記物体認識処理(S210)で,規定回数の測定サイクルに渡って,前の測定サイクルにて検出された物標候補(前サイクルペア)の物標情報に基づいて予測した予測位置及び予測速度と次の測定サイクルにて検出された物標候補(今サイクルペア)から導出された位置及び速度との位置差分及び速度差分が,設定された追尾基準距離DR及び上限速度差DVより小さければ,該物標候補を移動物体として登録し(S930),登録された移動物体の中から選択された2つの移動物体の物体間距離が前記セグメント距離DRSよりも小さく,かつ,物体間相対速度が規定相対速度DRVよりも小さいか否かを判定し(S960),
その判定(S960)の結果,前記物体間距離が前記セグメント距離DRSよりも小さく,かつ前記物体間相対速度が規定相対速度DRVよりも小さければ(S960:YES),前記2つの移動物体が,1つの移動物体であるものと判断し,移動物体登録を修正し(S970),
その判定(S960)の結果,前記物体間距離が前記セグメント距離DRS以上,又は,前記物体間相対速度が前記規定相対速度DRV以上であれば(S960:NO),前記2つの移動物体は,それぞれ別の移動物体であるものと判断する,ように前記メイン処理を行う,
自動車。」

(2) 引用文献3
引用文献3には,以下の事項が記載されている。
・「【請求項1】 対照物に向けての信号の送信および受信により自車に対する対照物の前後方向および横方向距離を検出可能な距離センサ(1)を備える車両において,距離センサ(1)による今回の検出データのうち相互に第1の所定距離内に在る検出データをブロックラベルを付したブロックに纏めるブロックラベリング処理と,同一のブロックラベル毎にブロックデータの前回値および今回値の比較を行なうことにより自車に対する各ブロックの相対速度を演算する処理と,今回のブロックデータのうち相互に第2の所定距離内に在るとともに前記相対速度の差が設定値以内に在るブロックをグループラベルを付したグループに纏めるグループラベリング処理とを実行し,グループデータにより対照物を識別することを特徴とする車両における対照物認識方法。」
・「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,対照物に向けての信号の送信および受信により自車に対する対照物の前後方向および横方向距離を検出可能な距離センサを備える車両において,距離センサで検出したデータに基づいて対照物を認識する方法に関する。」
・「【0004】本発明は,かかる事情に鑑みてなされたものであり,自車に対する相対運動が異なる複数の対照物を正確に識別し得るようにした車両における対照物認識方法を提供することを目的とする。」
・「【0007】
【作用】上記請求項1記載の発明の構成によれば,距離センサの検出データのうち相互に第1の所定距離内に在るものをブロック化することにより,自車に対する対照物の距離や対照物の状態変化を吸収して対照物データを安定して得ることが可能であり,しかも各ブロックの自車に対する相対速度およびブロック相互の相対距離に基づくグループ化を行うことにより,自車に対する相対運動が異なる対照物を正確に識別することが可能となる。」
・「【0010】先ず図1において,車両Vの前部には,自車の前方に在る対照物に向けての信号の送信および受信により,自車に対する対照物の前後方向(Y軸方向)および横方向(X軸方向)距離を検出可能な距離センサ1が搭載される。この距離センサ1としては,1度に複数の対照物の位置情報を検出できるマルチビーム,スキャンビーム方式等のレーダが用いられる。」
・「【0013】先ず第1ステップS1では,距離センサ1で得た複数の検出データをブロックラベルを付したブロックに纏めるブロックラベリング処理を実行する。すなわち距離センサ1による今回の検出データのうち相互に第1の所定距離内に在る検出データをブロックラベルを付したブロックに纏めることになる。」
・「【0014】第2ステップS2では,ブロックデータの時系列対応付け処理を実行する。すなわちブロックデータの前回値から所定の移動予測範囲を定め,ブロックデータの今回値がその移動予測範囲内に在るブロックに同一のブロックラベルを付し,同一ブロックラベルのブロックデータの前回値および今回値に基づいて自車に対するブロックの相対速度を演算する。」
・「【0026】…第3ステップS3では,ブロックラベリング処理で得た複数のブロックをグループラベルを付したグループに纏めるグループラベリング処理を実行する。すなわち複数のブロックのうち相互に第2の所定距離内に在るとともに自車に対する相対速度が設定値内に在るもの,すなわち相互に近接した位置でほぼ同じ動きをしているブロックを1つのグループとして纏めることになる。」
・「【0027】第4ステップS4では,グループデータの時系列対応付け処理を実行する。すなわちブロックデータの時系列処理と同様にして,グループデータの時系列処理を実行し,各グループラベル毎にグループの自車に対する相対速度を求めることになる。この際,前回まで同一グループであったものが今回複数に別れてしまった場合には,相対速度が近い方のブロックにそのグループラベルを付し,複数のブロックが1つのグループを形成している場合にはそれらのブロックの相対速度の平均値をグループの相対速度とする。次いで,相互に近傍にあって相対速度が比較近い状態が一定時間以上持続するグールプ(審決注:「グループ」の誤記)を,同一対照物と判断し得るとして一纏めにするが,その際,一纏めにしたときに幅が極めて大きくなってしまう場合(道路上を走行し得ない程大きくなる場合,すなわち車両として存在し得ない程大きな場合)には一纏めにはしない。」

2 対比及び判断
(1) 対比
ア 本願発明と引用発明とを,その有する機能に照らして対比してみるに,引用発明の「レーダセンサ30」は「レーダ波を送受信することで,自車両の周辺に存在する移動物体を検出し,該移動物体に関する物標情報を生成する」ものであってセンサ機能を有するから,引用発明は,本願発明と同様に,「センサ」を有するものである。
イ 引用発明の「レーダセンサ30」は「少なくとも,ROM,RAM,CPUを備えたマイクロコンピュータを中心に構成され,高速フーリエ変換(FFT)処理等を実行するための演算処理装置(例えば,DSP)を備え,ビート信号BTのサンプリングデータを用いて,移動物体を検出すると共に,その移動物体に関する物標情報を生成するメイン処理を実行する信号処理部46」を有するから,引用発明は,本願発明と同様に,「プロセッサ」を有するものである。
ウ 請求項1には,「潜在的な障害物」,「潜在的な非定常障害物」,「非定常障害物」と記載されているところ,その異同は必ずしも明確ではないが,いずれについても,自車両の前方を走行するような車やトラックなどの車両が想定されていることは,本願明細書の記載に照らしても,明らかである。
他方,引用発明も「移動物体を検出すると共に,その移動物体に関する物標情報を生成するメイン処理を実行する信号処理部46を有し,レーダ波を送受信することで,自車両の周辺に存在する移動物体を検出し,該移動物体に関する物標情報を生成する」ものであって,「移動物体」として,トラックのような大型車両を含めた先行車両を想定しているから(【0020】,【0042】,【0080】),引用発明の「移動物体」は,本願発明の「潜在的な障害物」,「潜在的な非定常障害物」,「非定常障害物」に相当する。
エ 引用発明は,「登録された移動物体の中から選択された2つの移動物体」について,「物体間距離」を「開放距離」又は「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」と比較し,「2つの移動物体」を「1つの移動物体」又は「それぞれ別の移動物体」と判断している。これは,「物体間距離」を当該「セグメント距離DRS」と比較することで,「2つの移動物体」について「1つの移動物体」であるか否かを評価しているということができる。
そうすると,引用発明においては,一旦,移動物体として登録されても,仮登録された2つの移動物体の物体間距離に基づいて1つの移動物体か2つの移動物体かの確認が行われるから,引用発明おける「移動物体」として登録された情報は,本願発明の「潜在的な障害物に関連するデータ」に相当するといえ,引用発明は,「移動物体」として登録された情報を受けてその後の処理を行うから,本願発明と,「複数の潜在的な障害物に関連するデータを受信」する点で共通する。
そして,引用発明の「開放距離」,「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」は,それぞれ,本願発明の「第1の閾値」,「第2の閾値」に相当するといえ,「開放距離」又は「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」との比較は,それぞれ,本願発明の「第1の閾値比較」,「第2の閾値比較」に相当するといえる。
さらに,引用発明の「2つの移動物体」に関する「開放距離」又は「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」との比較を含む判断は,それぞれ,本願発明の「前記受信されたデータの第1の閾値比較を含む第1の評価であって,複数の潜在的な障害物の前記少なくとも1部について当該第1の評価を行(う)」点,「前記受信されたデータの第2の閾値比較を含む第2の評価であって,複数の潜在的な障害物の少なくとも1部に関する当該第2の評価を実施(する)」点に相当する。
オ 引用発明の「開放距離」又は「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」との比較を含む判断は,「2つの移動物体」とされていたものについて,当該「セグメント距離DRS」以上となる,といった「2つの移動物体」である(「それぞれ別の移動物体」である)ことの条件が満たされているか否かを基準に判断をしているということができる。
よって,引用発明において,「物体間距離」が当該「セグメント距離DRS」より小さい(当該「セグメント距離DRS」以上となる条件が満たされていない)状態は,本願発明の「第1の閾値比較が満たされていない状態」又は「第2の閾値比較が満たされていない状態」に相当し,「物体間距離」が当該「セグメント距離DRS」以上である(当該「セグメント距離DRS」以上となる条件が満たされている)状態は,本願発明の「第1の閾値比較が満たされている状態」又は「第2の閾値比較が満たされている状態」に相当する。
そして,引用発明は,本願発明と,「前記第1の評価が前記受信されたデータの第1の閾値比較が満たされていない状態」を示すとき,「潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部が単一の非定常障害物として分類し」,「前記第1の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第1の閾値比較が満たされている状態」を示すとき,「潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類」する点で共通する。
また,同様に,引用発明は,本願発明と,「前記受信されたデータの前記第2の閾値比較が満たされていない状態」を「前記第2の評価」が示す場合には,「潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部を単一の非定常障害物として分類し」,「前記第2の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第2の閾値比較が満たされている状態」を示すとき,「潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類する」点で共通する。
カ 引用発明における「開放空間」,「閉空間」は環境条件といえるから,引用発明は,本願発明と同様に,「1つ以上の環境条件が変化したと判断し,前記第1の閾値を第2の閾値に応答的に変更」するものである。
キ 引用発明は,「信号処理部46」は,プロセッサにより「メイン処理」を実行していることは技術的に明らかである。
また,「ROM,RAM」を備えるものであるから,本願発明と同様に,「メイン処理」の実行命令を含む「データ記憶装置」を有することも技術的に明らかである。
そして,引用発明の「自動車」は,本願発明の「車両」に相当する。
ク 以上を総合すると,本願発明と引用発明とは,次の点で一致し,相違することがわかる。
(一致点)
「少なくとも1つのセンサと,
少なくとも1つのプロセッサと,そして
前記少なくとも1つのプロセッサによって,
複数の潜在的な障害物に関連するデータを受信し,
前記受信されたデータの第1の閾値比較を含む第1の評価であって,複数の潜在的な障害物の前記少なくとも1部について当該第1の評価を行い,
前記第1の評価が前記受信されたデータの第1の閾値比較が満たされていない状態を示すとき,潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部が単一の非定常障害物として分類し,
前記第1の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第1の閾値比較が満たされている状態を示すとき,潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類し,
1つ以上の環境条件が変化したと判断し,前記第1の閾値を第2の閾値に応答的に変更し,
前記受信されたデータの第2の閾値比較を含む第2の評価であって,複数の潜在的な障害物の少なくとも1部に関する当該第2の評価を実施し,
前記受信されたデータの前記第2の閾値比較が満たされていない状態を前記第2の評価が示す場合には,潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部を単一の非定常障害物として分類し,
前記第2の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第2の閾値比較が満たされている状態を示すとき,潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類する,ように実行可能な命令を含むデータ記憶装置と,からなる車両。」
(相違点)
本願発明は,「前記少なくとも1つのセンサから潜在的な障害物に関連するデータを受信し」,「前記第1の評価が前記受信されたデータの第1の閾値比較が満たされていない状態が所定期間維持されたことを示すとき,潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部が単一の非定常障害物として分類し」,「前記第1の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第1の閾値比較が満たされている状態が前記所定期間内に生じたことを示すとき,潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類し」,「前記受信されたデータの前記第2の閾値比較が満たされていない状態が前記所定期間維持されたことを前記第2の評価が示す場合には,潜在的な非定常障害物の前記少なくとも1部を単一の非定常障害物として分類し」,「前記第2の評価が前記受信されたデータの少なくとも1つの第2の閾値比較が満たされている状態が前記所定期間内に生じたことを示すとき,潜在的な障害物の前記少なくとも1部を2つの別々の非定常障害物として分類する」のに対し,引用発明は,「物標候補に関するビート信号BTを受信し」,「ビート信号BT」を処理した後の「移動物体」として登録された情報をもとに,2つの移動物体の物体間距離が,「開放距離」又は「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」よりも小さくなるか否かを条件に判断をしているものであって,センサから当該判断に係る情報を受信するものではなく,所定期間に関する点は明らかでない点。

(2) 判断
ア そこで,前記相違点についてみる。
(ア) 引用発明は,「センサ30」がセンサの機能と受信した情報を処理し判断を行う機能を併せ持つものであるから,センサから移動物体として登録した情報を受信し,その情報をもとに1つの移動物体であるか2つの移動物体あるかの判断を行ったと解する余地もある上,移動している物標候補を移動物体として登録する処理までを,センサに行わせ,プロセッサによって,センサからその登録情報を受信し,受信したデータに基づいて当該判断を行うことも,当業者が適宜になし得た事項であって,格別のことではない。
(イ) 引用文献3には,距離センサで検出したデータに基づいて対象物を認識する車両に関し,相互に近傍にあって相対速度が比較近い状態が一定時間以上持続するグループ(相互に所定距離内にある検出データを纏めたブロックデータをさらに纏めたもの)を,同一対照物と判断し,一纏めにし,一の車両と判断する点が記載されている(前記1(2))。
ところで,所定の状態を示しているか否かを条件に分類し判断を行う場合に,分類精度や判断の正確性,その判断に基づく制御の安定性などを考慮して,その状態が所定期間維持されたことを条件に含めることは,制御技術における技術常識ともいえ,当業者が適宜になし得た事項といえる。この点,引用発明においても,走行環境判定処理(S180)で,パワースペクトルに基づくパワー積分値が,規定時間以上継続して基準閾値以上であれば,走行環境が閉空間であるものとして判定し,所定時間以上継続して基準閾値未満であれば,走行環境が開放空間であるものと判定しているところ,これも,このような技術常識に基づくものと理解することができる。
そうすると,引用発明には,「2つの移動物体」とされていたものについて,「1つの移動物体」と分類し判断することをより正確に行うために,「物体間距離」が「開放距離」又は「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」より小さい(「開放距離」又は「閉塞距離」に設定された「セグメント距離DRS」以上となる条件が満たされていない)状態が,所定期間維持されたことを示すとき,2つの移動物体とされていたものについて,2つの移動物体ではなく,1つの移動物体であるものと判断し,そうでなければ,それぞれ別の移動物体であると判断するように構成することについて,十分に動機付けが認められる。
(ウ) 以上を総合すると,引用発明において引用文献3に記載された事項を適用し,前記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものと認められる。
本願発明の効果をみても,引用発明及び引用文献3に記載された事項から当業者が予測し得る範囲内のものであって格別ではない。
イ 請求人は,引用文献1に記載された,ビート信号を周波数解析することで導出したパワースペクトルに基づくパワー積分値が規定時間以上継続して基準閾値以上であれば,走行環境が閉空間であるものと判定するという構成は,走行環境が閉空間であるかどうかを判定する構成にすぎず,より正確に判断するために,規定時間以上継続して閾値以上である場合に,特定の状況下にあると判断する構成が開示されているとすることはできないから,さらには引用文献3に開示された構成を考慮したとしても,前記相違点に係る本願発明の構成に想到することはできない旨主張している(審判請求書)。
しかしながら,既に述べたとおり,所定の状態を示しているか否かを条件に分類し判断を行う場合に,分類精度や判断の正確性,その判断に基づく制御の安定性などを考慮して,その状態が所定期間維持されたことを条件に含めることは,制御技術における技術常識で,当業者が適宜になし得た事項といえ,引用文献1に記載された走行環境が閉空間であるかどうかを判定する構成も,このような技術常識に基づくものと理解することができる。
このような事情を踏まえた上で,さらには引用文献3に開示された構成を考慮すれば,引用発明において,前記相違点に係る本願発明の構成とすることは,当業者にとって格別困難なことではない。

(3) そうすると,本願発明は,引用発明及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用発明及び引用文献3に記載された事項に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-30 
結審通知日 2019-07-31 
審決日 2019-08-22 
出願番号 特願2016-216609(P2016-216609)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G08G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平野 貴也  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 久保 竜一
窪田 治彦
発明の名称 障害物評価技術  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 佐藤 睦  

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