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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1358648
異議申立番号 異議2019-700316  
総通号数 242 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-02-28 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-22 
確定日 2020-01-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第6419458号発明「苦味成分を配合したビールテイスト飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6419458号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6419458号の請求項1に係る特許についての出願は、平成26年5月30日に出願された特願2014-112924号であって、平成30年10月19日に特許権の設定登録がされ、同年11月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その発明の特許に対し、平成31年4月22日に特許異議申立人中川賢治(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和1年7月26日付けで、取消理由を通知した。それに対し、特許権者は令和1年9月26日に意見書を提出したものである。

第2 本件特許発明
特許第6419458号の請求項1に係る発明(以下「本件特許発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
麦および麦芽を原料として使用しないノンアルコールのビールテイスト清涼発泡飲料であって、
起泡剤および苦味成分が配合されてなり、
苦味成分がイソフムロン類であり、イソフムロン類の飲料中の含有量が1?30ppmであり、
起泡剤の飲料中の含有量が0.01?0.1重量%であり、
起泡剤がオクテニルコハク酸デンプン、アルギン酸プロピレングリコール、ラウリン酸デカグリセリン、大豆レシチンおよび大豆ペプチドからなる群から選択される、清涼発泡飲料。」

第3 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
請求項1に係る特許に対して、令和1年7月26日付けで当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

理由:(サポート要件)本件特許発明は、特許請求の範囲の記載が、以下のとおり不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

発明の詳細な説明の【0042】の【表5】(特に「泡持ち時間」の表)には、起泡剤である大豆ペプチド0.05%及び苦味成分であるイソフムロン30ppmを添加した場合、イソフムロンを無添加の場合より泡持ち時間が少なくなったことが示され、同様に、アルギン酸プロピレングリコールエステル0.02%及びイソフムロン30ppm、大豆レシチン0.04%及びイソフムロン1ppmを添加した場合、それぞれイソフムロンを無添加の場合より泡持ち時間が少なくなったことが示されており、それらの場合に本件特許発明の課題が解決できると当業者は認識できない。

2 当審の判断
(1)サポート要件の考え方
特許法第36条第6項は「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきであるとされる。
以下、この観点に立って、判断する。
(2)本件の発明の詳細な説明の記載
(a)「【0005】
麦や麦芽などの穀物由来の異味異臭を解決するためにこれら穀物原料を使用しないという対応も考えられるが、穀物原料の配合量を低減すると泡の安定性や泡の外観品質が損なわれてしまい、別の問題が顕在化することになる(実施例1の試験結果参照)。
【0006】
このような背景のもと本発明者らは、麦および麦芽を原料として使用しないノンアルコールのビールテイスト飲料において起泡剤と苦味成分を配合することにより、該飲料のビールテイスト飲料としての香味を確保しつつ、泡の安定化と優れた泡の外観を達成できることを見いだし本発明を完成させた。
【0007】
すなわち本発明は、麦・麦芽に由来する穀物臭がなく、かつ、安定化された泡とビール様の泡の外観を有するノンアルコールのビールテイスト飲料を提供することをその目的とする。」
(b)「【0038】
実施例2:泡質改善効果を発揮する苦味成分の添加濃度評価
実施例1で苦味成分添加時に○以上の総合評価を獲得した起泡剤6種を用い、泡質改善効果を発揮する苦味成分添加濃度を評価した。泡質改善効果の確認は以下の試験方法にしたがって行った。
【0039】
試験方法
(1)市販の起泡剤6種(オクテニルコハク酸デンプン、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ラウリン酸デカグリセリン、大豆食物繊維(大豆多糖類)、大豆レシチン、大豆ペプチド)をそれぞれ溶かした溶液に、イソフムロン(イソフムロン類30%含有の異性化ホップエキス、Hopsteiner社 Iso-extract 30%)を0ppm、1ppm、5ppm、15ppm、30ppm、50ppm(イソフムロン類濃度)添加し、飲料溶液42種を調製した。起泡剤の添加濃度は実施例1と同濃度とした。(1)の操作は20℃の室温で行った。
【0040】
以後の試験は実施例1の(2)?(7)に記載された手順にしたがって行った。
【0041】
試験結果
試験結果は表5に示される通りであった。
【0042】
【表5】


【0043】
イソフムロンを添加することで、泡量・泡持ち時間・外観品質は改善した。添加濃度が
増えるほど、改善効果は発揮されやすくなった。
【0044】
また、香味も苦味成分添加により改善効果を示したが、50ppm添加では苦味が強くなり評価がE判定となった。」
(c)「【0045】
苦味成分による泡質改善効果は表6にまとめた。記載の通り、起泡剤全般に対しては、イソフムロン類濃度が1?30ppmで泡質改善効果が発揮されることが確認された。
【表6】



(3)判断
本件特許発明の課題は、摘記(a)より、麦・麦芽に由来する穀物臭がなく、かつ、安定化された泡とビール様の泡の外観を有するノンアルコールのビールテイスト飲料を提供することであるといえる。
本件の発明の詳細な説明には、摘記(b)より、実施例の表5に(特に「泡持ち時間」の表)、起泡剤である大豆ペプチド0.05%及び苦味成分であるイソフムロン30ppmを添加した場合、イソフムロンを無添加の場合より泡持ち時間が少なくなったことが示され、同様に、アルギン酸プロピレングリコールエステル0.02%及びイソフムロン30ppm、大豆レシチン0.04%及びイソフムロン1ppmを添加した場合、それぞれイソフムロンを無添加の場合より泡持ち時間が少なくなったことが示されており、少なくとも、それらの場合は、泡持ち時間がより悪くなっていることが確認できる。
そして、当業者は、全体的な傾向として、摘記(b)より、起泡剤と1ppm以上のイソフムロンを組合せて使用することで、泡持ち時間が改善されることが把握でき、また、摘記(c)より、泡量、泡持ち時間、及び外観の項目を含む総合評価が示されており、これらの記載から、イソフムロン類の濃度である1?30ppmの全範囲において上記の課題が解決されていることを認識することができる。
そうすると、請求項において、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決する為の手段が反映されていないとはいえない。
(4)小括
上記のとおりであるから、本件特許発明は、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものである。

第4 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 特許異議申立ての理由の概要
異議理由1A:(進歩性)本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2?甲第5号証に記載された技術事項及び出願当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
異議理由1B:(進歩性)本件特許発明は、甲第3号証に記載された発明、並びに甲第1、2、4、5号証に記載された技術事項及び出願当時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
異議理由3:(実施可能要件)本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

甲第1号証:特開2011-188833号公報
甲第2号証:特開2013-179919号公報
甲第3号証:特開昭60-184372号公報
甲第4号証:北川さゆり、「ノンアルコールビール及び第3ビールにおける大豆ペプチドの役割」、月刊フードケミカル2010年6月、26(6)、第32頁?第36頁
甲第5号証:宮地秀夫「ビール醸造技術」、株式会社食品産業新聞社発行、1999年12月28日、第385頁?第386頁
(以下、それぞれを単に「甲1」、「甲2」等という。)

2 甲号証の記載
(1) 甲1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項1】
(a)ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合することにより、調合液を調製する工程と、
(b)前記工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える工程と、
を有し、
前記甘味成分が、多糖類及び水溶性食物繊維からなる群より選択される1種以上であることを特徴とするビール様発泡性アルコール飲料の製造方法。」
(1b)「【0003】
一方で、近年、ビールに続く新たなアルコール飲料として、米やコーンスターチ等の麦芽以外の原料を多く使用した発泡酒や、麦芽を一切使用しないビール様発泡性アルコール飲料(ビールのような風味を有する発泡性アルコール飲料)が開発された。しかしながら、発泡酒やビール様発泡性アルコール飲料は、ビールに比べ、香味や泡品質等が劣るという問題がある。特に、泡は、ビール類にとって重要な外観品質であり、泡持ちが劣ることは、消費者にとっての発泡酒等の魅力を半減させてしまうものであり、泡品質の改善が強く望まれている。
【0004】
発泡性アルコール飲料の泡立ちや泡持ちを改善するために、泡形成素材として、気泡剤のサポニンや、増粘効果のあるアルギン酸プロピレンエステル、オクチニルコハク酸、グリセリン糖脂肪酸エステル等を添加することが行われている。例えば、サポニンを0.0001?0.01重量%含む炭酸ガス含有飲料であって、オクチニルコハク酸澱粉、ペクチン及びタマリンドガムから選択される1種以上の起泡剤又は泡保持剤を配合する方法や(例えば、特許文献1参照。)、サポニンのほかに平均分子量20000以下のコラーゲンペプチドを配合する方法や(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。その他、泡形成素材として、タンパク質やその分解物を用いる方法もある。例えば、タンパク質分解酵素を用いて動植物性タンパク質を部分加水分解した後にpH2?6で不溶物を除去した精製タンパク分解物を、ガス入り飲料に添加する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。また、発泡剤として、大豆蛋白中の7S成分(β-コングリシニン)及び11S成分(グリシニン)を別途に加水分解し、且つ両加水分解物を含むポリペプチド(例えば、特許文献4参照。)や、SDSポリアクリルアミド電気泳動法による分析において、分子量が3,000?25,000の範囲にあり、塩濃度が乾燥重量で5.0%以下、脂溶性成分が乾燥重量で0.3%以下であることを特徴とするエンドウホエー由来の可溶性ポリペプチド(例えば、特許文献5参照。)等がある。さらに、近年、ビールの泡を形成するタンパク質の中で、シリアル脂質転移タンパク質が最も起泡性が高いことに注目し、このタンパク質を泡生成添加剤として、ビール等の発泡性飲料に添加する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。」
(1c)「【0010】
本発明の製造方法においては、ビール発酵工程を経ずに、ビール風味の発泡性アルコール飲料を製造することができる。このため、大掛かりなビール醸造設備が不要となり、大幅なコストダウンとエネルギーの節約が可能となる。また、泡形成素材として、オクチニルコハク酸エステルやグリセリン脂肪酸エステル等の合成の発泡剤ではなく、ポリペプチドを用いることにより、泡持ちが良い上に、ビールと共通する旨みを有する発泡性アルコール飲料を製造することができる。」
(1d)「【0013】
本発明のビール様発泡性アルコール飲料の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略記することがある。)は、ビールらしさを現す各種成分を混合することにより、ビール様発泡性アルコール飲料を製造する方法である。本発明の製造方法は、原料として麦汁を使用せず、かつビール発酵・醸造工程が無いため、大掛かりな仕込み・醸造設備や長期間の熟成期間が不要であり、商業上量産する上で非常に大きな利点を有する。よって、本発明の製造方法により製造されたビール様発泡性アルコール飲料(以下、「本発明のビール様発泡性アルコール飲料」)は、より市場における競争力に優れた飲料となることが期待される。」
(1e)「【0018】
これに対してタンパク質は、一般に強い気泡力を持っている。例えば、牛乳のタンパク質や卵白タンパク質、大豆タンパク質等に炭酸水を注ぐと、白い綺麗な泡が出来る。加えて、タンパク質は当然ながら旨みを有しており、よってポリペプチドから形成された泡は、コクと旨みがあり、外観上のみならず、味も良好である。すなわち、泡形成素材としてポリペプチドを用いることにより、外観と味の双方においてビールと遜色のない泡を形成することができる。さらに、飲食品の原料としては、合成物よりも天然物が好まれる傾向にあり、この点からも、オクチニルコハク酸等の合成物を用いるよりも、天然由来のポリペプチドを泡形成素材とするほうが好ましい。」
(1f)「【0023】
本発明において用いられるポリペプチドは、市販されているポリペプチドであってもよく、植物、動物、又は微生物から抽出・精製されたタンパク質であってもよく、これらのタンパク質を分解して得られるタンパク分解物であってもよい。水への溶解性がより向上することから、タンパク質よりもタンパク分解物であるほうが好ましい。タンパク分解物を得るための分解方法は特に限定されるものではなく、熱や圧力による分解、酸やアルカリによる分解、酵素による分解等の、当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。中でも、簡便であり、かつ、工程制御しやすいため、酵素による分解が好ましい。」
(1g)「【0025】
本発明において用いられるポリペプチドは、小麦タンパク質(小麦から抽出・精製されたタンパク質、以下同様。)、大麦タンパク質、大豆タンパク質、米タンパク質、とうもろこしタンパク質、又は卵白タンパク質であることが好ましく、これらのタンパク質の分解物であることがより好ましい。これらのタンパク質及びタンパク分解物は、1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。」
(1h)「【0031】
工程(a)において用いられる苦味成分は、製品であるビール様発泡性アルコール飲料において、ビールと同質若しくは近似する苦味を呈する成分であれば特に限定されるものではない。ホップ中に含まれている苦味成分であってもよく、ホップには含まれていない苦味成分であってもよい。このような苦味成分として、具体的には、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物、キニーネ、ナリンジン、ニガキ等が挙げられる。本発明において用いられる苦味成分としては、ホップの主たる苦味成分であるイソα酸又はその加工物であることが好ましく、テトライソα酸であることがより好ましい。特に、イソα酸は、ホップの主たる苦味成分であり、ビールの苦味と同質であることに加えて、ポリペプチドによる泡形成効果、特に泡持ち効果を増強し得るため好ましい。
【0032】
イソα酸やβ酸の酸化物等のホップ中に含まれている苦味成分は、例えば、ホップを水等の適当な溶媒中で煮沸することにより、抽出することができる。得られたホップ抽出物(ホップエキス)は、そのまま苦味成分として使用することもできるが、苦味の本体であるイソα酸やβ酸の酸化物等に精製したものを苦味成分として用いることが好ましい。ホップエキスをそのまま用いると、ホップ独特のヤニ臭等の好ましくない成分も添加されてしまうためである。イソα酸を更に使いやすく加工したテトライソα酸も、日光臭等の劣化臭が発生しないため好ましい。」
(1i)「【0046】
ビール様発泡性アルコール飲料中のポリペプチド濃度は、ポリペプチドの大きさや種類、他の成分とのバランス等を考慮して適宜決定することができる。例えば、重量平均分子量が300?20000であるポリペプチドを用いる場合には、ビール様発泡性アルコール飲料中のポリペプチド濃度は、1000?4000ppmであることが好ましく、1500?3500ppmであることがより好ましく、2000?3000ppmであることがさらに好ましい。
【0047】
ビール様発泡性アルコール飲料中の苦味成分の量は、苦味成分の種類、他の成分とのバランス等を考慮して適宜決定することができる。例えば、イソα酸やテトライソα酸を用いる場合には、ビール様発泡性アルコール飲料中のイソα酸等の濃度は、10?50ppmであることが好ましく、15?45ppmであることがより好ましく、20?40ppmであることがさらに好ましい。」

(2) 甲2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【0003】
ところで、ビールの泡には見た目の美味しさだけでなく、炭酸ガスが外へ逃げるのを抑える効果、ビールが空気に触れて風味が劣化するのを防ぐ効果、泡立ちにより香りを立てる効果等の重要な働きがある。そのため、泡持ちを良くすることや泡のキメを細かくすることは品質の良いビールを作るうえで重要な要素であり、これは、ビールの代替飲料である発泡酒、第3のビール、ビール様テイストの炭酸清涼飲料であるノンアルコールビールにおいても同様である。しかし、麦芽の使用量を抑えたビール様の代替飲料、あるいは炭酸清涼飲料であるノンアルコールビールでは、ビールに比べて泡持ちや泡のキメ細かさが劣るという課題がある。これは、ビールの泡に関与する麦芽由来の蛋白質や炭水化物が少ないためである。
【0004】
こうした課題を解決するために、特許文献1では発泡酒に泡持ち向上剤として、サポニンや増粘剤等を使う技術、特許文献2ではエンドウ豆から抽出したエンドウタンパクを泡持ち向上物質として発泡性アルコール飲料に使用する技術、特許文献3ではソルガム分解物を発泡性飲料へ使用する技術が公開されているが、いずれも泡持ち効果が不十分で泡のキメも粗いものであった。」
(2b)「【0007】
本発明は麦芽を使用した発泡性アルコール飲料、「第3のビール」と呼ばれる麦芽を含まない発泡性アルコール飲料、「ノンアルコールビール」と呼ばれるビール様テイストの炭酸清涼飲料等の発泡性飲料の泡持ちと泡のキメを改善することを課題とする。」
(2c)「【0013】
(種子蛋白原料)
本発明の泡安定剤である低フィチン酸化された種子蛋白又は種子蛋白分解物の原料には、大豆、エンドウ、緑豆、ひよこ豆等の豆類や、その他菜種、ひまわり等の一般にフィチン酸を含有する種子類の全粒物、脱脂フレーク、全脂又は脱脂した水抽出液(大豆の場合は豆乳と称する)、濃縮蛋白、分離蛋白等を用いることができるが、これらのうち、水不溶性の繊維質が除去されており、油分が少ない脱脂した水抽出液又は分離蛋白を原料とすることがより好ましい。また種子類としては、蛋白質に富む大豆が好ましい。これらの原料の形態は粉末状又は液状のいずれであってもよい。」
(2d)「【0016】
本発明における低フィチン酸化された種子蛋白または種子蛋白分解物による泡持ちと泡のキメの改善効果は、含有されるフィチン酸含量がより少ない方が効果が高く、蛋白質あたり1.5重量%以下で明確な効果が認められるが、1.2重量%以下が好ましく、1重
量%以下がより好ましく、0.5重量%以下で最大の効果が認められる。
【0017】
(泡安定剤)
以上の通り、本発明は低フィチン酸化された種子蛋白または種子蛋白分解物が発泡性飲料向けの泡安定剤としての用途に優れることを見出したものである。
本発明の泡安定剤の発泡性アルコール飲料への添加量は、酵母による発酵前の仕込み液に添加する場合には0.05?1重量%、好ましくは0.1?0.5重量%であり、発酵後液に添加する場合には0.001?0.05重量%、好ましくは0.002?0.02重量%である。
また、ビール様テイストの炭酸清涼飲料に添加する場合には0.001?0.05重量%、好ましくは0.002?0.02重量%である。泡の安定化効果は添加量を多くすることにより高くなるが、各種飲料の種類や添加のタイミングに応じて風味や物性に影響が出にくい程度に添加範囲を調節することができる。」

(3) 甲3には、以下の事項が記載されている。
(3a)「本発明者らは、鋭意研究の結果、動植物性たん白質を動植物または菌体由来のたん白分解酵素を用いて部分加水分解し、pH2?6で不溶物を除去した精製たん白分解物をガス入り飲料に添加することにより、そそいだ際の泡立ちがきわめてすぐれ、かつ部分加水分解の程度を変えることにより適当な時間泡を保持後、すみやかに消泡したり、数分間安定起泡を保持するガス入り飲料が得られることを見い出した。」(第2頁左上欄第19行?右上欄第17行)
(3b)「基質となる動植物性たん白質としては、大豆たん白、小麦たん白、卵白、カゼイン、ゼラチン等が使用できる。」(第2頁左下欄第4行?第6行)
(3c)「得られた精製たん白分解物は必要に応じて濃縮や乾燥を行った後、飲料にたん白濃度として5?1000ppm添加する。すみやかに消泡させる場合の添加量ば5ppm以上150ppm未満好ましくは20?100ppmが適当であり、泡沫安定性を良くさせる場合には150?1000ppm好ましくは200?500ppmが適当である。」(第2頁右下欄第10行?第16行)
(3d)「本発明によるガス入り飲料は、この精製たん白分解物を微量含むもので、通常のガス入り飲料と外観および風味は全く変わらないが、コップやその他の容器にそそいだ場合の泡立ちの量はきわめて多く、ビール以上である。その泡はビールの泡同様、細かく均一にそろっており、外観的にもきわめて美しいもので、そそいでから短時間、通常的5秒間泡を保持した後、すみやかに消泡させたり、数分間安定に起泡を保持させることができるものである。」(第3頁左上欄第7行?第16行)
(3e)「このすぐれた泡立ち性と独特な消泡性により、本来、ガス入り飲料の持っている清涼感は倍増され、ファッション性や遊びの楽しみも加味され、従来にない新規なガス入り飲料を得ることができる。」(第3頁左上欄第16行?第20行)
(3f)「実施例3
アルコール洗浄濃縮大豆たん白1kgに水19kgを加えかく拌しながら塩酸でpH2.0に調整し、温度は55℃の恒温状態にした。これに、含糖ペプシン(天野製薬株式会社)2gを添加し、10時間加水分解した後、80℃で15分間加熱してペプシンを失活させた。この分解液を水酸化ナトリウムでpH3.0に調整した後、遠心分離を行い、不溶物を除去した。この上澄液を水酸化ナトリウムで中和後、噴霧乾燥し、精製たん白分解物(TCA可溶率62.0%)480gを得た。
常法の透明炭酸飲料の製造法にしたがって、糖類とともに、この精製たん白分解物を300ppmになるように添加し、ガス圧2.8kg/cm^(3)、20℃の条件下で200mlビン入り透明炭酸飲料を作った。対照試料として、精製たん白分解物無添加の他は全く同じ方法で透明炭酸飲料を作った。
本発明品と対照を比べたところ、どちらも清澄な透明の液体で外観からは全く区別がつかなかったが、200ml入りのビンから1000mlの大型グラスに200mlすべてをそそぐと、表-3に示したように、本発明品の泡立ちと泡沫安定性は対照に比べてきわめてすぐれていることがわかった。具体的には、本発明品の方は、細かく均一にそろった泡が多量に発生し、そそぎ終わってから10分後もほとんど泡が保持されていたのに対し、対照の方は、大きな泡が少量発生したが、瞬時にはじけるように消泡した。
表-3透明炭酸飲料の泡立ち試験

」(第4頁下から4行?左下欄第4行及び表3)

(4) 甲4には、以下の事項が記載されている。
(4a)「大豆ペプチドは、分離大豆たんぱく或いは脱脂ダイズ抽出物をプロテアーゼで分解したものである。・・・(略)・・・中でも飲料用途に推奨しているハイニュートDC6では、発酵培地用途推奨タイプと比べて若干分解度を抑え、なおかつ旨味が出ないようなプロテアーゼ組成にするなどの工夫をしている。」(第32頁左欄第16行?右欄第15行)
(4b)「また、DC6添加により、ビールらしさを演出する特徴の一つである、泡保持性も向上することが確認された(写真1)。ビールの泡は、麦芽中の高分子タンパク質とホップの成分であるイソフムロンが結合して安定化させているが、疎水性の強い8?18kDaのポリペプチドも相乗効果があるとされている。ハイニュートDC6は、発酵培地用途の製品と比較して、高分子画分の残存量が多いため、これが泡保持効果に寄与していると考えられる。」(第34頁左欄第3行?第12行)

(5) 甲5には、以下の事項が記載されている。
(5a)「ホップ添加により泡持ちが向上する。α-酸、イソ-α-酸とフルポン(β-酸)は高い泡持ち効果がある。しかしフムリン酸、phloroisovalerophenoneとphloroglucinolは泡持ち効果は少ない。Bamfoth(1993)によれば泡ポリペプチド群(親水性A)、疎水性(4)(5)群にイソフムロン40ppmまで泡持ち効果(HRV)が認められる。
泡の付着性はイソフムロンが20ppmで最高となる。これは、ホップ樹脂の疎水性基鎖により付着性を高めている。浅野ら(1976)負電荷のイソフムロンが正電荷のポリペプチドとイオン結合するためとしている。メラノイデン及びアルギン酸もポリペプチドと同じ結合する。」(第385頁下から4行?第386頁第3行)

3 当審の判断
(1) 異議理由1A(進歩性)について
ア 甲1に記載された発明
甲1には、「泡は、ビール類にとって重要な外観品質であり、泡持ちが劣ることは、消費者にとっての発泡酒等の魅力を半減させてしまうものであり、泡品質の改善が強く望まれている。」(摘記(1b))という課題を解決するため、「(a)ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合することにより、調合液を調製する工程と、(b)前記工程(a)により得られた調合液に炭酸ガスを加える工程と、を有」する「ビール様発泡性アルコール飲料の製造方法」が記載されており(摘記(1a))、「本発明の製造方法は、原料として麦汁を使用せず、かつビール発酵・醸造工程が無い」ことも示されている(摘記(1d))。
また、「苦味成分として、具体的には、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物、キニーネ、ナリンジン、ニガキ等が挙げられる」(摘記(1h))こと、また「イソα酸やテトライソα酸を用いる場合には、ビール様発泡性アルコール飲料中のイソα酸等の濃度は、10?50ppmであることが好ましく、15?45ppmであることがより好ましく、20?40ppmであることがさらに好ましい。」(摘記(1i))ことも記載されている。
さらに、「本発明において用いられるポリペプチドは、小麦タンパク質(小麦から抽出・精製されたタンパク質、以下同様。)、大麦タンパク質、大豆タンパク質、米タンパク質、とうもろこしタンパク質、又は卵白タンパク質であることが好ましく、これらのタンパク質の分解物であることがより好ましい。これらのタンパク質及びタンパク分解物は、1種のみで用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。」(摘記(1g))、「ビール様発泡性アルコール飲料中のポリペプチド濃度は、ポリペプチドの大きさや種類、他の成分とのバランス等を考慮して適宜決定することができる。例えば、重量平均分子量が300?20000であるポリペプチドを用いる場合には、ビール様発泡性アルコール飲料中のポリペプチド濃度は、1000?4000ppmであることが好ましく、1500?3500ppmであることがより好ましく、2000?3000ppmであることがさらに好ましい。」(摘記(1i))ことが記載されている。
したがって、甲1には、下記の発明が記載されている。
「原料として麦汁を使用しないビール様発泡性アルコール飲料であって、
ポリペプチドと、苦味成分と、甘味成分と、アルコールとを混合し、その調合液に炭酸ガスを加えてなり、
苦味成分がイソα酸、テトライソα酸であり、その濃度を10?50ppmとし、
ポリペプチドとして、大豆タンパク質を1000?4000ppmとした、
ビール様発泡性アルコール飲料」(以下、「甲1発明」という。)
イ 本件特許発明と甲1発明との対比
甲1発明における「ビール様」、「大豆タンパク質」は、本件特許発明における「ビールテイスト」、「大豆レシチン、大豆ペプチド」に相当し、甲1発明における「ポリペプチド」は、摘記(1c)、摘記(1e)、摘記(1f)等から、本件特許発明における「起泡剤」に相当しする。
また、甲1には、「麦汁を使用しない」ことに加え、麦を原料とすることについても記載されていないから、甲1発明は、「麦および麦汁を原料として使用しない」ものといえる。
さらに、甲1発明における「イソα酸」と、本件特許発明における「イソフムロン類」はどちらも多くの化合物を含む用語であるが、甲5の記載、本件の発明の詳細な説明【0017】及び実施例の【0025】をみると、両者は同様の化合物群を示すための用語と理解するのが自然である。
そうすると、本件特許発明と甲1発明とは、
「麦および麦芽を原料として使用しないビールテイスト発泡飲料であって、
起泡剤および苦味成分が配合されてなり、
苦味成分がイソフムロン類であり、
起泡剤が、大豆レシチンおよび大豆ペプチドからなる群から選択される、ビールテイスト発泡飲料。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点1:本件特許発明は、ノンアルコール飲料であるのに対し、甲1発明は、アルコール飲料である点。

相違点2:イソフムロン類の含有量について、本件特許発明は、1?30ppmであるのに対し、甲1発明は、10?50ppmである点。

相違点3:起泡剤の濃度について、本件特許発明は0.01?0.1重量%、であるのに対し、甲1発明は、1000?4000ppm(0.1?0.4%)である点。

ウ 相違点1についての判断
一般にビールテイスト発泡飲料の技術分野では、アルコールが含まれるものと含まれないものではアルコールによってその風味が全く異なったものとなり、単にアルコールを除いただけではそれ以外の成分が同じであってもその風味が異なったものとなり、同じような風味のものを提供することは困難となる。
甲2には、「ノンアルコールビール」と呼ばれるビール様テイストの炭酸清涼飲料に関する発明であって(摘記(2b))、低フィチン酸化された種子蛋白等を用いた泡持ちと泡のキメを改善する技術が記載されている(摘記(2a)?摘記(2c))。甲3には、大豆たんぱく等を含んだ安定起泡を保持するガス飲料が記載されている(摘記(3a)?摘記(3f))。甲4には、ビールの泡は高分子タンパク質とイソフムロンが結合して安定化させており、大豆ペプチドにも高い泡持ち向上効果があること、大豆ペプチドのハイニュートDC6は、ビールらしさを演出する泡保持特性も向上させることが記載されている(摘記(4a)及び摘記4(b))。甲5には、ホップ添加により泡持ちが向上すること、イソα酸には高い泡持ち効果があることが記載されている。
そうすると、甲2や甲4に記載されたとおり、アルコールを含まないビール自体は知られており、その際に、甲3や甲5も併せてみると種々のタンパク質やイソα酸等によって泡持ちが良くなることは知られていたとはいえる。しかし、上記のとおり、アルコールを単純に除いただけでは同様な風味のものを得ることは困難であることから、甲1発明のアルコール飲料において、アルコールを単に除いたアルコール飲料を提供しようとすることは、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
エ 小括
上記のとおりであるから、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲1発明、並びに甲2?甲5に記載された技術事項及び出願当時の技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2) 異議理由1B(進歩性)について
ア 甲3に記載された発明
甲3には、「精製たん白分解物をガス入り飲料に添加することにより、そそいだ際の泡立ちがきわめてすぐれ、かつ部分加水分解の程度を変えることにより適当な時間泡を保持後、すみやかに消泡したり、数分間安定起泡を保持するガス入り飲料が得られることを見い出した」(摘記(3a))こと、「本発明によるガス入り飲料は、この精製たん白分解物を微量含むもので、通常のガス入り飲料と外観および風味は全く変わらないが、コップやその他の容器にそそいだ場合の泡立ちの量はきわめて多く、ビール以上である。その泡はビールの泡同様、細かく均一にそろっており、外観的にもきわめて美しいもので、そそいでから短時間、通常的5秒間泡を保持した後、すみやかに消泡させたり、数分間安定に起泡を保持させることができる」(摘記(3d))ことが記載されている。
また、「基質となる動植物性たん白質としては、大豆たん白」(摘記(3b))が挙げられ、実施例にはこれを利用したものとして、「この精製たん白分解物を300ppmになるように添加し、ガス圧2.8kg/cm^(3)、20℃の条件下で200mlビン入り透明炭酸飲料を作った」(摘記(3f))旨の記載がされている。
したがって、甲3には、下記の発明が記載されている。
「大豆たん白の精製たん白分解物を300ppm(0.03%)含んでなるガス入り飲料。」(以下、「甲3発明」という。)
イ 本件特許発明と甲3発明との対比
甲3発明の「ガス入り飲料」は、ガスを含んでいるから発泡性であり、アルコールを含んでいないから清涼飲料であるので、本件特許発明の「清涼発泡飲料」に相当する。また、甲3発明の「大豆たん白の精製たん白分解物」は、泡立ちがきわめてすぐれたものにするために用いられるから、本件特許発明における「起泡剤」といえ、摘記(3b)、摘記(3f)から「大豆ペプチド」に相当する。
そうすると、本件特許発明と甲3発明とは、
「ノンアルコールの清涼発泡飲料であって、
起泡剤配合されてなり、
起泡剤の飲料中の含有量が0.03%であり、
起泡剤が大豆ペプチドからなる群から選択される、清涼発泡飲料。」
の点で一致し、下記の点で相違する。

相違点4:本件特許発明は、ビールテイスト飲料であるのに対して、甲3発明は、どのような種類の飲料であるかは特定されていない点。

相違点5:本件特許発明は、麦及び麦芽を原料として使用しないのに対して、甲3発明は、そのような限定がされていない点。

相違点6:本件特許発明は、苦味成分としてイソフムロン類を1?30ppm含むのに対し、甲3発明は、苦味成分を含むことについて特定されていない点。

ウ 相違点4についての判断
甲3には、摘記(3d)のように、泡については、ビールと比較する記載があるが、味として、ビールテイストのものを得ようとしたという記載はされていない。
また、甲3には、摘記(3e)のとおり、「このすぐれた泡立ち性と独特な消泡性により、本来、ガス入り飲料の持っている清涼感は倍増され、ファッション性や遊びの楽しみも加味され、従来にない新規なガス入り飲料を得ることができる」とされ、従来存在したビールに味を近づけようとするよりはむしろ、従来にないガス入り飲料を提供しようとしていることが把握できる。
一方で、甲1には、上記のとおり、麦および麦芽を原料として使用しないビールテイスト発泡飲料が記載されている(摘記(1a)?摘記(1i))。甲2には、「ノンアルコールビール」と呼ばれるビール様テイストの炭酸清涼飲料に関する発明であって(摘記(2b))、低フィチン酸化された種子蛋白等を用いた泡持ちと泡のキメを改善する技術が記載されている(摘記(2a)?摘記(2c))。甲4には、ビールの泡は高分子タンパク質とイソフムロンが結合して安定化させており、大豆ペプチドにも高い泡持ち向上効果があること、大豆ペプチドのハイニューとDC6は、ビールらしさを演出する泡保持特性も向上させることが記載されている(摘記(4a)及び摘記4(b))。甲5には、ホップ添加により泡持ちが向上し、イソα酸には高い泡持ち効果があることが記載されている。
そうすると、甲1、甲2、甲4のように、ビールテイストの飲料を提供する技術自体は、出願時に既に知られていたし、甲1、甲4、甲5に記載されるように、イソα酸を添加することにより、泡持ち性も向上することも知られていたといえる。
しかし、上記のように、甲3には特に味をビール様にする示唆も、動機付けとなる記載もなく、むしろ、甲3発明はファッション性や遊びの楽しみが加味された従来にない新規なガス入り飲料を提供しようとするものであるから、これをビールテイストとすることは、当業者であっても容易になし得たとはいえない。
エ 小括
上記のとおりであるから、相違点5及び6について検討するまでもなく、本件特許発明は、甲3発明、並びに甲1、2、4、5に記載された技術事項及び出願当時の技術常識から、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3) 異議理由3(実施可能要件)について
実施可能要件の考え方
物の発明について実施をすることができるとは、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。よって、「発明の実施の形態」は、これらが可能となるように、「物の発明」について明確に説明されていること、 「その物を作れる」ように記載されていること、「その物を使用できる」ように記載されていることが必要である。
イ 本件の発明の詳細な説明の記載
本件の発明の詳細な説明は、上記第3 2(2)の摘記(a)?(c)のとおり記載されている。
ウ 判断
上記(b)及び(c)のとおり、本件の発明の詳細な説明には、起泡剤に対してイソフムロンを添加することで、泡量、泡持ち時間、外観品質、味覚が改善することを把握できる。
そうすると、発明の実施の形態として、物の発明が明確に説明されており、実際に物を作っているから物を作れるように記載されており、飲料なので、それが飲めることは当然であるから、その物を使用できるように記載されているということができる。
エ 小括
上記のとおりであるから、本件特許は、明細書の記載が不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないとはいえない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由、特許異議申立書に記載した特許異議の申立の理由及び証拠によっては、本件特許を取消すことができない。
また、他に本件特許を取消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2019-12-24 
出願番号 特願2014-112924(P2014-112924)
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 関 景輔藤井 美穂  
特許庁審判長 佐々木 秀次
特許庁審判官 神野 将志
村上 騎見高
登録日 2018-10-19 
登録番号 特許第6419458号(P6419458)
権利者 キリンホールディングス株式会社
発明の名称 苦味成分を配合したビールテイスト飲料  
代理人 佐藤 泰和  
代理人 朝倉 悟  
代理人 永井 浩之  
代理人 中村 行孝  

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