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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1359066
審判番号 不服2018-10138  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-07-24 
確定日 2020-01-16 
事件の表示 特願2017-144818「需給調整制御装置、その制御方法、およびプログラム、ならびに、制御装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年11月16日出願公開、特開2017-205010〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2016年(平成28年)11月24日(パリ条約による優先権主張 2016年5月10日、日本)を国際出願日とした特願2017-519353号の一部を平成29年7月26日に新たな特許出願としたものであって、その手続の経緯は、概略、以下のとおりである。
平成29年 7月26日 :上申書
平成30年 1月15日付け:拒絶理由通知
同 年 3月23日 :意見書及び手続補正書
同 年 4月11日付け:拒絶査定
同 年 7月24日 :審判請求
令和 1年 7月26日付け:拒絶理由通知
同 年 9月26日 :意見書及び手続補正書(以下、この手続補正書による手続補正を「本件補正」という。)

第2 本願発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。

「エネルギー貯蔵装置を制御する需給調整制御装置であって、
複数の前記需給調整制御装置とネットワークを介して接続される制御装置から、前記エネルギー貯蔵装置における分担電力、または、前記エネルギー貯蔵装置における調整総電力に関する需給調整情報および当該エネルギー貯蔵装置が分担する分担電力を特定する分担情報を受信する受信手段と、
分担電力に基づいて、前記エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記受信手段により前記需給調整情報および前記分担情報を受信した場合は、受信した前記需給調整情報および前記分担情報に基づいて、分担電力を算出し、算出した前記分担電力に基づいて、当該エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行い、前記受信手段により前記分担電力を受信した場合は、受信した前記分担電力に基づいて、前記エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行う、需給調整制御装置。」

第3 拒絶の理由
令和1年7月26日付けの当審が通知した拒絶理由のうちの理由1は、次のとおりのものである。
本願発明は、本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった以下の引用文献1に記載された発明及び引用文献2に記載された事項に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献1:特開2015-202044号公報
引用文献2:特開2013-212044号公報

第4 引用文献の記載及び引用発明
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。以下同じ。)。

(1)「【0292】
なお、アグリゲータ機器が、電力会社の要求する需給調整量P_(ES)(t)を受け取り、需要家の機器を直接制御して、需要家の機器の消費電力の総和が需給調整量P_(ES)(t)から乖離することなく該総和を需給調整量P_(ES)(t)だけ変化させようとしても、通信の遅延、中断または需要家の機器の状態の変化に起因して需要家の機器が需給調整用の指令に従えなくなると、需要家の機器の消費電力の総和が需給調整量P_(ES)(t)から乖離してしまう。以下、この点について説明する。
【0293】
アグリゲータ機器は、需要家の機器と双方向通信を行って各需要家の機器に対して需給調整の指令を行う状況下では、例えば以下のように動作する。
【0294】
アグリゲータ機器が電力会社より需給調整量P_(ES)(t)を受け取ると、アグリゲータ機器は、需給調整量P_(ES)(t)を、需要家の各機器の需給調整量P_(n)(t)に割り当てる。なお、P_(n)(t)のnは機器を示す番号で、1,2,3..と整数で表す。P_(n)(t)が正であることは、需要を増やすこと、つまり蓄電池なら充電を意味し、Pn(t)が負であることは、需要を減らすこと、つまり蓄電池なら放電を意味する。
【0295】
アグリゲータ機器は、割り当ての際、P_(ES)(t)=P_(1)(t)+P_(2)(t)+…+P_(N)(t)という制約条件の下で、各機器nの状態に応じて各機器nの需給調整量P_(n)(t)を割り当てる必要がある。なお、アグリゲータ機器が制御する全ての需要家の機器の総数をN個とする。ここで、アグリゲータ機器が各機器nの状態に応じて各機器nの需給調整量P_(n)(t)を割り当てる意味を説明する。例えば、需要家の機器が蓄電池である場合、蓄電池のSOCの飽和または枯渇が生じると、蓄電池は指令をうけても反応できない。よって、それを回避するように、アグリゲータ機器は、各機器nの状態に応じて、各機器nの需給調整量P_(n)(t)を割り当てる。
【0296】
しかし、アグリゲータ機器が、数万以上の大量の需要家の機器と双方向通信を行うと、通信の遅延や中断が発生する可能性が高くなる。
【0297】
例えば、アグリゲータ機器が、順番に需要家の機器に状態を問い合わせ、その返答に応じて各機器nの需給調整量P_(n)(t)を割り当て、その割り当て結果を配信する場合、一般のインターネットで生じる遅延時間である数十m秒が機器ごとにかかってしまう。このため、アグリゲータ機器が1万個の機器すべてと通信を終えるのに数百秒以上の時間がかかってしまう。
【0298】
もしくは、アグリゲータ機器が需要家の機器に一斉に問い合せをして、各機器が返答を行った場合、返答時に輻輳が生じ、再送に伴う通信の一時的な途絶や、大幅な遅延が生じる可能性がある。
【0299】
よって、アグリゲータ機器が数万以上の大量の需要家の機器と常に双方向通信を行うことは、通信の遅延や中断を生じさせることになり、求められる遅延の極力ない需要家の機器の制御を行う上で、アグリゲータ機器が常に双方向通信で需要家の機器を制御、例えば蓄電池なら充電電力もしくは放電電力を指令することは困難となる。
【0300】
そこで、本実施形態では、遅延なくP_(ES)(t)=P_(1)(t)+P_(2)(t)+…+P_(N)(t)を満たしつつ各機器の状態に応じた直接制御量(各機器nの需給調整量)P_(n)(t)の割当を実現するために、アグリゲータ機器と需要家の機器との間で通信される情報を、要求性能の異なる2種類の情報(具体的には「需給調整量P_(ES)(t)」と「各機器(以下、機器として「電池」を例に説明する)の分担を表す情報」)に分離し、各情報の通信手法を異ならせることで、通信の遅延や中断を抑制し、各需要家の機器の需要の変化が目標値と乖離することを低減することを可能にした。
【0301】
需要家の各機器は、直接制御量P_(n)(t)をアグリゲータ機器から受け取るのではなく、「需給調整量P_(ES)(t)」と「各電池の分担を表す情報」の2種類の情報を受け取り、2種類の情報を合わせることで、自身の直接制御量(分担量)P_(n)(t)を算出し、その算出結果に従って需給調整を行う。
【0302】
需給調整量P_(ES)(t)は、遅延なく(例えば1秒ごとに)需要家の各機器にて受け取られる必要がある一方で、需要家の各機器に対して同一の情報(需給調整量P_(ES)(t))が配信されればよく、また片方向の通信でよい。このため、需給調整量P_(ES)(t)の通信手法としては、低遅延かつ高信頼な通信手法を選択できる。例えば、需給調整量P_(ES)(t)の配信手法として、FM放送等の無線を使った配信手法や、アプリケーションレイヤ・ブロードキャスト、UDP(User Datagram Protocol)等がある。もしくは、アグリゲータ機器や需要家の各機器が系統全体の需給バランスを反映する系統周波数の基準周波数からの乖離を測定し、その測定結果をもとに需給調整量P_(ES)(t)を推定してもよい。
【0303】
一方で、「各電池の分担を表す情報」は機器の状態に応じて変化するため、アグリゲータ機器は、需要家の各機器から機器の状態を受信し、それら機器の状態に応じて「各電池の分担を表す情報」を決定し、その「各電池の分担を表す情報」を需要家の各機器に配信するため必要がある。つまり、「各電池の分担を表す情報」を決定し「各電池の分担を表す情報」を配信するためには、アグリゲータ機器と需要家の各機器とは双方向通信を用いる必要がある。
【0304】
しかしながら、「各電池の分担を表す情報」を決定し「各電池の分担を表す情報」を配信するに必要な双方向通信は、低頻度(数分以上の間隔)であり、また通信間隔より小さい数十秒?分程度以下の遅延や中断があっても構わないため、インターネット等の安価な通信を使用することが可能である。これは、需給調整に関係する機器の状態の変化は多くの機器において秒単位で変化するものではないため、分担を表す情報は低頻度でも問題がないことに起因する。」
(2)「【0305】
次に、本実施形態の構成を説明する。図17は、本実施形態の構成の例を示した図である。
【0306】
図17において、需要家施設1300内の制御装置1310は、第1制御装置の一例であり、アグリゲータ装置1200は、第2制御装置の一例である。
【0307】
電力会社1100は、需給調整容量計画部1110および需給調整量配信部1120を備えている。
【0308】
需給調整容量計画部1110は、需給調整を行うより以前、例えば前日のうちに、時刻ごと、例えば1時間単位で、必要となる需給調整容量を見積もり、その見積もりに従って、アグリゲータ装置1200や、不図示の他のアグリゲータや不図示の火力発電所等に対して、需給調整容量を割り当てる。ここで、需給調整容量とは、要求に応じて変更する需要もしくは負荷の最大値を指す。そして需給調整を行う際は、需給調整量配信部1120は、アグリゲータや不図示の火力発電所に対し、例えば1秒ごとに、割り当てに応じて規格化された需給調整量を配信する。
【0309】
アグリゲータ装置1200は、機能の観点で3つの部分からなる。
【0310】
1つ目の部分は、需給調整を行うより以前(例えば前日)に電力会社1110に提供する需給調整容量を決定する機能を実現するための、データベース1210、需給調整量見積部1220および需給調整容量契約部1230を含む。
【0311】
データベース1210には、アグリゲータと契約している需要家の機器の、各々の提供可能な需給調整容量およびその他制約(例えば蓄電池ならインバータ定格)が格納されている。
【0312】
需給調整量見積部1220は、データベース1210に格納されている情報を元に、契約している全ての需要家の機器を用いて提供可能な需給調整容量を見積もり、需給調整容量契約部1230を介してアグリゲータ1200装置が電力会社1100に提供する需給調整容量を決定する。
【0313】
2つ目の部分は、需給調整を行う際、電力会社1100より例えば1秒ごとに送られてくる需給調整量を受信し、その需給調整量を需要家の機器(電池)に配信する機能を実現するための、需給調整量受信部1240およびアグリゲータ側片方向通信部1250を含む。
【0314】
3つ目の部分は、事前に契約した需給調整容量および各需要家の機器の状態に基づき、各電池の分担を決定する割当演算部1260と、各需要家の機器の状態を収集し、各電池の分担を各需要家の機器へ送信するアグリゲータ側双方向通信部1270とを含む。
【0315】
アグリゲータ側双方向通信部1270が各需要家の機器の状態を収集し、割当演算部1260が決定した各電池の分担を各需要家の機器へ送信する一連の動作の間隔は、長い間隔、例えば10分ごとである。
【0316】
なお、アグリゲータ装置1200において、需給調整容量契約部1230は第2把握手段の一例である。アグリゲータ側片方向通信部1250は外部通信装置の一例である。割当演算部1260は処理手段の一例である。アグリゲータ側双方向通信部1270は第2通信手段の一例である。
【0317】
需要家施設1300は、制御装置1310およびアグリゲータ装置1200が制御する対象の装置の例として、蓄電池1320を備えている。
【0318】
蓄電池1320は、制御装置1310からの指令に従って充放電量を決定し、電力系統1に対して電力を放出・吸収することで需給調整を行う。
・・・(中略)・・・
【0322】
また、説明の簡略化を図るため、図17では需要家施設1300は1つしか示されていないが、需要家施設1300は、複数例えば1万戸以上存在してもよい。
【0323】
需要家施設1300内の制御装置1310は、需要家側片方向通信部1311、需要家側双方向通信部1312および需要家演算装置1313を含む。
【0324】
需要家側片方向通信部1311は、アグリゲータ側片方向通信部1250より、例えば1秒ごとに、規格化された需給調整量を受信する。
【0325】
需要家側双方向通信部1312は、需要家演算装置1313を介して各需要家の機器(本実施形態では蓄電池1320)の状態(例えばSOC)を収集し、各需要家の機器の状態をアグリゲータ側双方向通信部1270へ送信する。また、需要家側双方向通信部1312は、アグリゲータ側双方向通信部1270より、電池(蓄電池1320)の分担を受信する。なお、需要家側双方向通信部1312が実行するこの送受信動作は、長い間隔、例えば10分間隔で行われる。
【0326】
需要家演算装置1313は、短い間隔、例えば1秒ごとに受信する規格化された需給調整量と、長い間隔、例えば10分ごとに受信する分担の情報とを用いて、短い間隔、例えば1秒ごとに蓄電池1320へ指令する充放電量を決定する。
・・・(中略)・・・
【0328】
まず、アグリゲータ側片方向通信部1250より需要家側片方向通信部1311へ規格化された需給調整量を送信する手法としては、送信先となる制御装置1310の数が多いため、比較的安価かつ信頼性の高い、FM放送等の無線を使った配信や、アプリケーションレイヤ・ブロードキャスト、UDP等が使用される。
・・・(中略)・・・
【0330】
また、アグリゲータ側双方向通信部1270と需要家側双方向通信部1312の間での通信手法としては、遅延や中断に対して強いため、通常のインターネットやキャリア網を使用する通信手法が用いられる。」

上記図17に図示された、アグリゲータ装置1200と需要家施設1300との間に引かれた矢印と、上記記載事項(2)の記載とを照合・整理すると、該矢印はアグリゲータ装置1200と需要家施設1300内にある制御装置1310の間で通信される通信の存在を示しており、該通信で用いられる通信手法は、記載事項(2)の通信される情報を記載した【0324】および【0325】や、通信に使用される手法を記載した【0328】-【0329】と照合すると、アグリゲータ側片方向通信部1250から需要家側片方向通信部1311への規格化された需給調整量の通信を示す図17中央の下矢印ではアプリケーションレイヤ・ブロードキャスト、UDPが使用され、アグリゲータ側双方向通信部1270と需要家側双方向通信部1312との間の双方向通信のうち、需要家側双方向通信部1312が受信する蓄電池1320の分担を示す図17右側の下方向矢印ではインターネットやキャリア網を使用することが記載および図示されている。

2 引用発明
上記1からみて、引用文献1には以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「需要家施設1300内にある蓄電池1320の充放電を制御する、需要家施設1300に含まれる制御装置1310であって、
前記需要家施設1300は前記蓄電池1320および前記制御装置1310を含み複数個あり、
前記制御装置1310は各々、アグリゲータ装置1200から規格化された需給調整量をアプリケーションレイヤ・ブロードキャストやUDPにて受信する需要家側片方向通信部1311と、前記アグリゲータ装置1200から蓄電池1320の分担をインターネットを介して受信する需要家側双方向通信部1312と、需要家側演算装置1313とを備え、
前記需要家側演算装置1313は、前記規格化された需給調整量と、蓄電池1320の分担の情報とを用いて、前記蓄電池1320へ指令する充放電量を決定するものである
制御装置1310。」

第5 対比
本願発明と引用発明を対比すると、以下のとおりとなる。
引用発明の「需要家施設1300内にある蓄電池1320」、「規格化された需給調整量」、「蓄電池1320の分担」、「制御装置1310」は、各々本願発明の「エネルギー貯蔵装置」、「エネルギー貯蔵装置における調整総電力に関する需給調整情報」、「当該エネルギー貯蔵装置が分担する分担電力を特定する分担情報」、「需給調整制御装置」に相当する。
また、引用発明の「アグリゲータ装置1200」は、「需要家施設1300に含まれる制御装置1310」が「備え」る「需要家側片方向通信部1311」と「需要家側双方向通信部1312」との間に「通信」との名称が用いられていることから見て、接続されたことが理解できるので、本願発明でいう複数の需給調整制御装置と接続される「制御装置」に相当する。
ただし、本願発明では「制御装置」が「複数の需給調整装置とネットワークを介して」接続される旨特定するのに対して、引用発明の接続がネットワークを介するか否かの点では相違する。
また、引用発明の「需要家施設1300に含まれる制御装置1310」が「備え」る「需要家側片方向通信部1311」と「需要家側双方向通信部1312」は、両通信部1311,1312がそれぞれ「需給調整量」および「蓄電池1320の分担」を「受信する」のであるから、本願発明の「前記エネルギー貯蔵装置における調整総電力に関する需給調整情報および当該エネルギー貯蔵装置が分担する分担電力を特定する分担情報を受信する受信手段」に相当する。
また、引用発明の「前記蓄電池1320へ指令する充放電量」と本願発明の「分担電力」とは、どちらも蓄電池を充放電させるための指令値に当たるため両者は一致するから、引用発明の「前記需要家側演算装置1313は、前記規格化された需給調整量と、分担の情報とを用いて、前記蓄電池1320へ指令する充放電量を決定する」ことは、決定の主体が「演算装置」とされているところから見て、本願発明の「前記受信手段により前記需給調整情報および前記分担情報を受信した場合」に「受信した前記需給調整情報および前記分担情報に基づいて、分担電力を算出し、算出した前記分担電力に基づいて、当該エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行」うことに相当する。
そうすると、引用発明の「需要家側演算装置1313」は、本願発明の「分担電力に基づいて、前記エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行う制御手段」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明とは、
「エネルギー貯蔵装置を制御する需給調整制御装置であって、
複数の前記需給調整制御装置と接続される制御装置から、前記エネルギー貯蔵装置における調整総電力に関する需給調整情報および当該エネルギー貯蔵装置が分担する分担電力を特定する分担情報を受信する受信手段と、
分担電力に基づいて、前記エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行う制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記受信手段により前記需給調整情報および前記分担情報を受信した場合は、受信した前記需給調整情報および前記分担情報に基づいて、分担電力を算出し、算出した前記分担電力に基づいて、当該エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行う、需給調整制御装置」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点
需給調整制御装置が備える「受信手段」へ「需給調整情報」および「分担情報」を送る「制御手段」に関し、本願発明では、複数の前記需給調整制御装置と「ネットワークを介して」接続されるとの特定がされているのに対して、引用発明の「アグリゲータ装置1200」と「需要家施設1300」が備える「需要家側片方向通信部1311」および「需要家側双方向通信部1312」とは、後者の「需要家側双方向通信部1312」については「インターネットを介する」(すなわち「ネットワーク」を介する)とされているものの、前者の「需要家側片方向通信部1311」の通信手段が「ネットワーク」を介するか直接明らかでない点。

第6 判断
上記相違点について、判断する。
1 相違点についての検討
引用発明の「需要家側片方向通信部1311」の通信に関し、「アプリケーションレイヤ・ブロードキャストやUDPにて受信する」との特定がある。
かかる「アプリケーションレイヤ・ブロードキャストやUDP」とは、いずれもネットワークを利用した送信のプロトコルを意味し、アプリケーションレイヤ・ブロードキャストは、指定したネットワーク上での同時配信を、UDPはインターネット・プロトコル(IP)においてアプリケーション同士が最小限の仕組みでデータを送受信するプロトコルである。つまり、引用発明で特定している事項は、どちらもネットワークの利用を前提とした通信プロトコルを例示しているのであり、当業者であればこれらの通信プロトコルの指定は、とりもなおさずネットワークを介した通信であると容易に理解する事項である。
そうすると、引用発明の需要家施設1300が備える「需要家側片方向通信部1311」および「需要家側双方向通信部1312」と、「アグリゲータ装置1200」との間の通信手段を、ネットワークを介して行われるようにすることは、引用文献1に接した当業者であれば容易に想到し得たと認められる。

2 効果について
そして、本願発明の奏する作用効果についてみても、引用発明及び技術常識の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書および令和1年9月26日提出の意見書の「(4)理由1(進歩性)について」において、それぞれ以下の主張を述べている。

(1)審判請求書における主張
「(ii)本願発明と引用文献記載の発明との比較
<請求項1、9、および10について>
いずれの引例にも、1つの制御装置において、「2種類の需給調整の指令」に基づいて処理が切り替わることは記載も示唆もされていません。
つまり、2種類の情報のうちのいずれの情報を受信したかで、1つの装置の中で処理を変えるという発想はないと思います。」
(2)意見書における主張
「引用文献1および2のいずれにも、本願発明の補正後の請求項1および請求項9に記載された『複数の前記需給調整制御装置とネットワークを介して接続される制御装置から、前記エネルギー貯蔵装置における分担電力、または、前記エネルギー貯蔵装置における調整総電力に関する需給調整情報および当該エネルギー貯蔵装置が分担する分担電力を特定する分担情報を受信する受信手段』、および『分担電力に基づいて、前記エネルギー貯蔵装置の蓄電池の充放電の制御を行う制御手段』に対応する構成は記載されていません。」
(3)検討
しかしながら、(1)については、当審で通知した拒絶の理由の「●理由1(進歩性)について」の備考の冒頭で述べたように、(2つのパターンを)切り替えるとの特定は請求項1には見当たらず、発明の詳細な説明中にも見当たらないのであり、かかる指摘を通知してもなお、請求人はなんら意見書で反論したり、請求項1に対して補正を行ったりしていない。
そうすると、請求人が審判請求書で挙げた主張は、特許請求の範囲(請求項1)の記載に基づかない主張であると認められる。
また(2)については、上述のとおり受信手段への補正に係る事項は、引用発明の特定事項から当業者が容易に類推、理解できる程度のものであり、また制御手段については補正されておらず、また、その発明特定事項は引用発明との対比上相違するものではない。
以上により、請求人の主張はいずれも採用できない。

第7 むすび
以上のとおり、本願請求項1に係る発明は、引用発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-11-13 
結審通知日 2019-11-19 
審決日 2019-12-02 
出願番号 特願2017-144818(P2017-144818)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
P 1 8・ 537- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 古河 雅輝  
特許庁審判長 井上 信一
特許庁審判官 酒井 朋広
石坂 博明
発明の名称 需給調整制御装置、その制御方法、およびプログラム、ならびに、制御装置  
代理人 速水 進治  

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