• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H02M
管理番号 1359107
審判番号 不服2019-2466  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-22 
確定日 2020-02-12 
事件の表示 特願2017-562236「電力変換装置」拒絶査定不服審判事件〔平成29年 7月27日国際公開、WO2017/126086、請求項の数(5)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は,2016年1月21日を国際出願日とする出願であって,平成30年1月16日に手続補正がされ,平成30年8月15日付けで拒絶理由通知がされ,平成30年10月18日に意見書が提出されるとともに手続補正がされ,平成30年12月4日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,平成31年2月22日に拒絶査定不服審判の請求がされたものである。


第2 原査定の概要

原査定(平成30年12月4日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1ないし5に係る発明は,以下の引用文献1及び4に基づいて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.実願昭62-43205号(実開昭63-152262号)のマイクロフィルム
2.特開2011-36017号公報
3.特開2004-335887号公報
4.特開昭63-122296号公報


第3 本願発明

本願請求項1ないし5に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明5」などという。)は,平成30年10月18日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明であり,以下のとおりの発明である。

「 【請求項1】
交流電力が入力される交流電源入力部と、前記交流電源入力部に入力された交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路部と、前記コンバータ回路部で変換された直流電力を交流電力に変換するインバータ回路部と、前記インバータ回路部で変換された交流電力を出力する交流電源出力部と、前記交流電源入力部、前記コンバータ回路部、前記インバータ回路部、および前記交流電源出力部を電気的に接続させる導電パターンとが設けられたプリント配線板と、
前記プリント配線板の面方向と垂直となる面方向の板状形状を呈し、前記プリント配線板の面方向と垂直な方向から見た場合に前記導電パターンと重ねて配置されて、前記導電パターンに対して接する2つ以上の接続部を有するバスバーと、
前記プリント配線板のうち前記バスバーが配置される面に設けられた電子部品と、を備え、
前記バスバーの高さのほうが前記バスバーの直近に設けられる電子部品の高さよりも高いことを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
前記バスバーの厚さは、前記2つの接続部が接する前記導電パターンの幅よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項3】
前記導電パターンは、前記プリント配線板のうち前記電子部品が配置される表面と、前記表面の裏側の面である裏面の両面に形成され、
前記バスバーは、前記表面に形成された前記導電パターンと前記裏面に形成された導電パターンの両方と接していることを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
【請求項4】
前記バスバーの前記接続部は、前記コンバータ回路部と前記インバータ回路部とを結ぶ導電パターンに接することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電力変換装置。
【請求項5】
前記バスバーの前記接続部は、前記インバータ回路部と前記交流電源出力部とを結ぶ導電パターンに接することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の電力変換装置。」


第4 引用文献,引用発明等

1 引用文献1について

原査定の拒絶の理由に引用文献1として引用された実願昭62-43205号(実開昭63-152262号)のマイクロフィルムには,図面とともに次の事項が記載されている。(下線は当審により付与。以下同様。)

A 「従来の技術
従来における大電流用回路装置としては、第8図に示すように、各種電子部品を組込んだプリント基板1に大電流用パターン2を設け、この大電流用パターン2の一部の幅の狭い部分2aに取付孔3を設け、銅板より打抜かれ表面に錫メッキを施したブスバー4の接続用足5を上記プリント基板1の取付孔3に挿入し、この接続用足5を大電流用パターン2の幅の狭い部分2aに半田により接続し、大電流が流れたとき、幅の狭い部分2aとブスバー4に電流が流れて幅の狭い部分2aがジュール熱で溶断されないように構成されていた。
また、第9図に示すようにプリント基板1に2つの大電流用パターン2,2が形成される場合には、第10図に示すように2個のブスバー4,4を用いて構成していた。」(第1頁15行?第2頁10行)

B 「

第8図」

上記第8図から,上記ブスバーは,上記プリント基板の面方向に対して垂直となる面方向において板状形状をなしており,前記プリント基板の面方向と垂直な方向から見た場合に上記大電流用パターンと重ねて配置されている,ことが読み取れる。

以上,上記AないしBの記載及び検討から,上記引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「大電流用回路装置であって
各種電子部品を組込んだプリント基板に大電流用パターンを設け,この大電流用パターンの一部の幅の狭い部分に取付孔を設け,
銅板より打抜かれ表面に錫メッキを施したブスバーの接続用足を上記プリント基板の取付孔に挿入し,当該接続用足を上記大電流用パターンの上記幅の狭い部分に半田により接続し,
大電流が流れたとき,上記幅の狭い部分とブスバーに電流が流れて上記幅の狭い部分がジュール熱で溶断されないように構成されており,
上記ブスバーは,上記プリント基板の面方向に対して垂直となる面方向において板状形状をなしており,前記プリント基板の面方向と垂直な方向から見た場合に上記大電流用パターンと重ねて配置されている,
大電流用回路装置。」

2 引用文献2について

原査定の拒絶の理由に引用文献2として引用された特開2011-36017号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。

C 「【0038】
《実施形態の概要》
図1は、本発明の実施形態に係る電力変換装置の構成を示すブロック図である。この電力変換装置(1)は、交流電源(2)をコンバータ回路(110)によって整流し、その直流をインバータ回路(120)によって三相交流に変換してモータ(3)に供給するものである。このモータ(3)は、例えば、空気調和機の冷媒回路に設けられる圧縮機を駆動するものである。
・・・(中略)・・・
【0047】
《パワーデバイス等の実装》
-概要-
本実施形態では、インバータ回路(120)は、絶縁基板(20)上に形成され、コンバータ回路(110)や駆動回路(150)とともに、所定のパッケージ(図示は省略)に収容されてパワーモジュールを構成している。
【0048】
図3は、インバータ回路(120)におけるパワーデバイス(130,140)の実装状態を模式的に示す側面図である。図3では、一例として、交流の1つの相(例えばU相)に対応した部分を示している。また、図4は、パワーデバイス(130,140)の実装状態を模式的に示す斜視図である。これらの図に示すように、各パワーデバイス(130,140)は、絶縁基板(20)上に実装され、電力出力端子(30)を介して交流電力を出力する。このインバータ回路(120)は、三相交流を出力するので、三相交流の各相(U,V,W)に対応した3つの電力出力端子(30)が設けられている。
【0049】
また、本実施形態のインバータ回路(120)では、各パワーデバイス(130,140)や駆動回路(150)等は、絶縁基板(20)上のパターン配線、ワイヤ配線、及びリードフレームによって電気的に接続されている。具体的には、この絶縁基板(20)には、パターン配線として、負側パターン配線(40)、正側パターン配線(41)、及び駆動回路用パターン配線(42)が設けられている。また、このインバータ回路(120)ではワイヤ配線として、グランド側ワイヤ配線(70)及びゲート用ワイヤ配線(71)がそれぞれ複数設けられ、リードフレームとしては、後述するように電力出力端子(30)を兼ねたリードフレーム(60)が設けられている。以下ではこれらの実装について詳述する。
【0050】
-パターン配線-
この例では、負側パターン配線(40)は、平面形状が長方形をしていて、絶縁基板(20)上に1つ設けられている。この負側パターン配線(40)の一端は、コンバータ回路(110)(すなわち直流電源)の負側ノード(N)に接続されている(図4等では接続部分の図示を省略している)。
【0051】
また、正側パターン配線(41)は、図4に示すように、平面形状が長方形をしていて、絶縁基板(20)上に1つのみ設けられている。そして、正側パターン配線(41)の一端は、コンバータ回路(110)の正側ノード(P)に接続されている(この接続部分も図4等では図示を省略している)。なお、正側パターン配線(41)は、本発明の配線部材の一例である。」

3 引用文献3について

原査定の拒絶の理由に引用文献3として引用された特開2004-335887号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。

D 「【0038】
(プリント配線基板)
次に、上記プッシュプル回路を実装するプリント配線基板について説明する。図1は、上記プッシュプル回路を実装する本発明の実施形態としてのプリント配線基板101の表面のパターンを概略的に示す図である。
【0039】
ここで用いられるプリント配線基板の基材は厚さ1.6mmのFR-4材であり、厚さ70μmの銅箔が表裏両面に形成されている。この両面の銅箔をエッチング等により選択的に溶解してパターンが形成されており、部品が接続されるランド以外の部分はレジスト材で覆われている。」

4 引用文献4について

原査定の拒絶の理由に引用文献4として引用された特開昭63-122296号公報には,図面とともに次の事項が記載されている。

E 「以下、図により本発明の実施例について説明する。
第2図は本発明が適用される制御ユニットの概略構成図である。本発明においては、ケースyをプラスチックにより形成し、この中に第5図の電磁接触器A、整流用ダイオードB、平滑コンデンサC、回生用トランジスタD、トランジスタインバータE等のパワー部品vを収容し、ケース底面に形成したリブに取付ける。また、パワー部品v以外の抵抗a、ヒューズb、リレーコイルc、コンデンサd等の制御部品は、プリント配線板xに予め所定位置に形成しておき、プリント配線板の両面には銅箔eからなる配線パターンを設け、電解メッキ等を施したスルーホールfにより接続する。
このようにして形成されたプリント配線板の係合孔wをケースyに突設したファスナーuに挿入して両者を固定し、パワー部品vに取付けられた通電端子とプリント基板の裏面に形成された銅箔とを接触させて通電路が得られるようにする。また、ケースyの下部には放熱フィン2が取付けられる。」(第2頁左下欄11行?右下欄12行)


第5 対比・判断

1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。

ア 引用発明の「プリント基板」,「大電流用パターン」,「取付孔」,「ブスバー」,「電子部品」は,それぞれ本願発明1における「プリント配線板」,「導電パターン」,「接続部」,「バスバー」,「電子部品」に相当する。

イ 引用発明の「大電流用パターンを設け」た「プリント基板」と,本願発明1の「交流電力が入力される交流電源入力部と、前記交流電源入力部に入力された交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路部と、前記コンバータ回路部で変換された直流電力を交流電力に変換するインバータ回路部と、前記インバータ回路部で変換された交流電力を出力する交流電源出力部と、前記交流電源入力部、前記コンバータ回路部、前記インバータ回路部、および前記交流電源出力部を電気的に接続させる導電パターンとが設けられたプリント配線板」とは,“導電パターンが設けられたプリント配線板”である点で共通する。

ウ 引用発明の「上記プリント基板の面方向に対して垂直となる面方向において板状形状をなしており,前記プリント基板の面方向と垂直な方向から見た場合に上記大電流用パターンと重ねて配置されて」おり,「接続用足を上記プリント基板の取付孔に挿入し,当該接続用足を上記大電流用パターンの上記幅の狭い部分に半田により接続」された「ブスバー」は,本願発明1の「前記プリント配線板の面方向と垂直となる面方向の板状形状を呈し、前記プリント配線板の面方向と垂直な方向から見た場合に前記導電パターンと重ねて配置されて、前記導電パターンに対して接する2つ以上の接続部を有するバスバー」に相当する。

エ 引用発明の「プリント基板」に「組込」まれた「各種電子部品」と,本願発明1の「前記プリント配線板のうち前記バスバーが配置される面に設けられた電子部品」とは,“前記プリント配線板の面に設けられた電子部品”である点で共通する。

オ 引用発明である「大電流用回路装置」と,本願発明1である「電力変換装置」とは,“電力装置”である点で共通する。

上記アないしオの対比によれば,本願発明1と引用発明とは,次の点で一致し,そして相違する。

(一致点)
「導電パターンが設けられたプリント配線板と,
前記プリント配線板の面方向と垂直となる面方向の板状形状を呈し,前記プリント配線板の面方向と垂直な方向から見た場合に前記導電パターンと重ねて配置されて,前記導電パターンに対して接する2つ以上の接続部を有するバスバーと,
前記プリント配線板の面に設けられた電子部品と,を備えた
電力装置。」

(相違点1)
プリント配線板に関し,
本願発明1は,「交流電力が入力される交流電源入力部と、前記交流電源入力部に入力された交流電力を直流電力に変換するコンバータ回路部と、前記コンバータ回路部で変換された直流電力を交流電力に変換するインバータ回路部と、前記インバータ回路部で変換された交流電力を出力する交流電源出力部と、前記交流電源入力部、前記コンバータ回路部、前記インバータ回路部、および前記交流電源出力部を電気的に接続させる」導電パターン「と」が設けられたプリント配線板を備えるのに対して,
引用発明は,「プリント基板」についてそのような特定はなされていない点。

(相違点2)
電子部品に関し,
本願発明1は,前記プリント配線板の「うち前記バスバーが配置される」面に設けられた電子部品であるのに対して,
引用発明は,「電子部品」の設置面について明示的に言及されていない点。

(相違点3)
本願発明1は,「バスバーの高さのほうが前記バスバーの直近に設けられる電子部品の高さよりも高い」のに対して,
引用発明は,そのような特定はなされていない点。

(相違点4)
本願発明1は,「電力変換装置」であるのに対して,
引用発明は,「大電流用回路装置」である点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて,上記相違点3について先に検討する。

上記相違点3に係る構成である「バスバーの高さのほうが前記バスバーの直近に設けられる電子部品の高さよりも高い」ことは,それにより,「電子部品11,12の高さ寸法よりもバスバー1の高さ寸法を大きくすることで、バスバー1を冷却する空気の流れが阻害されにくくなる。送風機からの冷却風を吹き付けてプリント配線板7を強制的に冷却している場合には、バスバー1に冷却風が当たりやすくなるため、冷却能力の向上を図ることができる。また、送風機を利用した強制冷却を行っていない場合でも、バスバー1から放出された熱が周囲の電子部品11,12に与える影響を少なくできるため、電子部品の温度上昇を抑えることができる。なお、電子部品11,12のうち、少なくともバスバー1に直近の電子部品の高さ寸法よりもバスバー1の高さ寸法を大きくしておけば、バスバーの冷却能力の向上を図ることができる」(【0030】)との効果を奏するものであるから,上記相違点3に係る構成は,バスバーへの通電で生じる温度上昇を抑制するという課題を解決するものであると認められる。
それに対し,引用発明は,「大電流が流れたとき,上記幅の狭い部分とブスバーに電流が流れて上記幅の狭い部分がジュール熱で溶断されないように構成」することを前提とするものであって,ブスバー(バスバー)への通電で生じる温度上昇を抑制するという課題について何ら言及はされておらず,また仮に,ブスバーに電流が流れれば温度が上昇することが周知の事実であるとしても,温度上昇による影響の度合いは構成によって様々であって,引用発明のような構成を前提とするブスバー(バスバー)が上記のような課題を当然に有すると言いうる根拠はないから,この点において引用発明に対し上記相違点3に係る構成を採用する動機づけを認めることはできず,また,他に引用発明に対し上記相違点3に係る構成を採用する動機づけも見出すことはできない。
したがって,引用発明に基づいて,相違点3に係る本願発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得ることであるとはいえない。

したがって,本願発明1は,他の相違点を検討するまでもなく,当業者であっても引用発明,引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2ないし5について
本願発明2ないし5は,本願発明1を更に限定したものであるので,本願発明1と同様の理由により,引用発明,引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。


第6 原査定についての判断

(1)特許法第29条第2項について

平成30年10月18日付けの手続補正により,補正後の請求項1ないし5は,「バスバーの高さのほうが前記バスバーの直近に設けられる電子部品の高さよりも高い」という技術的事項を有するものとなった。そして,上記第5の1(2)でも示したとおり,引用発明において,相違点3に相当する上記技術的事項を採用する動機づけは認められないから,本願発明1ないし5は,当業者であっても,原査定における引用文献1ないし4に基づいて容易に発明できたものではない。
したがって,原査定の理由を維持することはできない。


第7 むすび

以上のとおり,本願発明1ないし5は,当業者が引用発明,引用文献1ないし4に記載された技術的事項に基づいて容易に発明することができたものではない。
したがって,原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-01-24 
出願番号 特願2017-562236(P2017-562236)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H02M)
最終処分 成立  
前審関与審査官 山崎 雄司小林 秀和  
特許庁審判長 千葉 輝久
特許庁審判官 仲間 晃
白井 亮
発明の名称 電力変換装置  
代理人 高村 順  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ