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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 取り消して特許、登録 C22C
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 C22C
管理番号 1359226
審判番号 不服2019-5784  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-05-07 
確定日 2020-02-18 
事件の表示 特願2017-229851「アルミニウム合金基複合材料の製造方法及びアルミニウム合金基複合材料」拒絶査定不服審判事件〔令和 1年 6月24日出願公開,特開2019- 99850,請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成29年11月30日の出願であって,平成30年 9月20日付けで拒絶理由通知がされ,同年11月14日付けで手続補正がされ,同年11月28日付けで最後の拒絶理由通知がされ,平成31年 1月15日付けで手続補正がされたが,同年 2月 4日付けで当該補正が却下されるとともに拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ,これに対し,令和 1年 5月 7日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ,同年12月12日付けで当審拒絶理由通知がされ,同年12月27日付けで手続補正がされたものである。

第2 補正の却下の決定,原査定及び当審拒絶理由通知の概要
1 平成31年 2月 4日付けの補正の却下の決定の概要
平成31年 1月15日付けの手続補正における請求項7についての補正は限定的減縮を目的としているが,当該補正後の請求項7に係る発明は,下記の引用文献1に記載された発明に基いて,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,この補正は却下すべきものである。
引用文献1 特開平9-192819号公報

2 原査定の概要
平成31年 1月15日付けの手続補正は却下されているところ,平成30年11月14日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項7に係る発明は,上記の引用文献1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。なお,請求項1?6に係る発明については,現時点では,拒絶の理由を発見しない。

3 当審拒絶理由通知の概要
令和 1年 5月 7日付けの手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項7における,「アルミニウム合金マトリックス中に強化材であるセラミックス粉末が均一に分散、分布してなるアルミニウム合金の中に強化材であるセラミックス粉末が複合されており、」との記載は,特許を受けようとする発明が明確でないから,特許法第36条第6項第2号の規定に適合しない。

第3 本願発明
上記の当審拒絶理由に対応する令和 1年12月27日付け手続補正により,上記の下線部の記載は削除され,請求項7に係る発明は明確となった。そして,本願の請求項1?7に係る発明は,同手続補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される,次のとおりのものである(以下,それぞれ「本願発明1?7」という。)。

「【請求項1】
アルミニウム合金の中に強化材であるセラミックス粉末が複合されたアルミニウム合金基複合材料の製造方法であって、
前記セラミックス粉末を多孔質材料で形成された多孔質容器に充填し、前記多孔質容器を蓋部により密閉する充填工程と、
前記多孔質容器を金型内に設置し、前記金型内にアルミニウム合金の溶湯を流し込む工程と、
前記金型内の前記溶湯に圧力を加え、前記多孔質容器を通して内部の前記セラミックス粉末に前記溶湯を含浸させる含浸工程とを有していることを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法において、
前記多孔質容器が、カーボングラファイトで形成されていることを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法において、
前記充填工程後に、前記多孔質容器を予熱する予熱工程を有していることを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法において、
前記セラミックス粉末が、ホウ酸アルミニウムの粉末であることを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法において、
前記セラミックス粉末として、さらにSiCの粉末が添加されていることを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法において、
前記充填工程において、体積割合で前記ホウ酸アルミニウムの粉末が20に対して、前記SiCの粉末を0.5?2.0の割合で混合することを特徴とするアルミニウム合金基複合材料の製造方法。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法で得られたアルミニウム合金基複合材料であって、
アルミニウム合金マトリックス中に強化材であるセラミックス粉末が均一に分散、分布してなり、
前記セラミックス粉末が、ホウ酸アルミニウムの粉末、又は、ホウ酸アルミニウムの粉末と炭化ケイ素との混合粉末であり、
その振動減衰特性が、アルミニウムの振動減衰特性と比べて減衰が早く、且つ、減衰波形にノイズが少ないことを特徴とするアルミニウム合金基複合材料。」

第4 引用文献及び引用発明
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には,次の記載がある。下線は当審が付した。

「【特許請求の範囲】
【請求項1】 鋳造品の内部に耐摩耗性の優れた耐摩耗材を鋳ぐるみにした耐摩耗性複合材鋳造品の製法において、前記の耐摩耗材を溶湯の熱量で溶ける金属製包被材により包被し、これを鋳型内の所定の位置に配置し、次いで溶湯を鋳込むことを特徴とする耐摩耗性複合材鋳造品の製造方法。
【請求項2】 耐摩耗材が粒子形状である請求項1記載の耐摩耗性複合材鋳造品の製造方法。」

「【0005】
【課題を解決するための手段】 本発明者は、鋭意検討した結果、実験により、鋳鋼と異なった耐摩耗性固体金属を鋳ぐるむ場合、固体金属の熱容量および熱伝達によって接合部分付近にある溶融金属から多量の熱量を奪い、これによって、前記鋳込み湯と耐摩耗性固体金属との溶着が不良となると共に、密着性が悪くなり、耐摩耗性固体金属が欠落することを確認した。そしてさらに検討を重ねて、こうした不具合の発生を防止するためには、溶湯の熱量で溶融する金属製包被材により耐摩耗材を包被することが有効であることを見出した。」

「【0008】 本発明に使用する耐摩耗材を包被する金属製包被材は、鋳込む溶湯と同種の金属でよく、たとえば、ステンレス鋼、軟鋼などである。また、包被材の形状は、金網、穴を打ち抜いた薄い金属板、または穴のない薄い金属板などがある。好ましくは格子状の金網にサンドイッチ状に包む。本発明は耐摩耗材を金属製包被材で包み、これを鋳型内に配置することにより、鋳型内に注入された溶湯の熱量でその金属包被材を溶融させ、湯の回りをよくし、また包被材の溶融金属が耐摩耗材を包み、注入された溶湯がさらにそれを包み込むことにより耐摩耗材が確実に溶着され、密着性よく鋳ぐるむことができる。本発明において耐摩耗材を金属製包被材で包む場合、鋳型内で行ってもよく、また鋳型の外部で包んでもよい。」

「【0010】 本発明に使用するする耐摩耗材は、とくに制限はなく、また、その形状にもとくに制限はないが、好ましくは粒子形状である。粒子状の形状は、粒子が金網に等間隔に配置でき、溶湯によって均一に鋳込まれる形状であれば凹凸をした異形でもよく、特に球形状は最適である。」

(2)上記(1)の摘示よりみて,引用文献1には次の発明が記載されていると認められる。

(引用発明)
「耐摩耗性の優れた耐摩耗材を溶湯の熱量で溶ける金属製包被材により包被し、これを鋳型内の所定の位置に配置し、次いで溶湯を鋳込む、耐摩耗性複合材鋳造品の製造方法で得られた、耐摩耗性複合材鋳造品」

2 引用文献2について
前置報告に引用された特開2011-137186号公報(以下「引用文献2」という。)には,次の記載がある。

「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材に金属を、強化材にセラミックスを用いた金属-セラミックス複合材料の製造方法に関する。」

「【0010】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであって、その目的は、セラミックス粒子の充填の均一性及び充填率を高めることができる金属-セラミックス複合材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するため、
セラミックス粒子を強化材とするプリフォームに基材の金属を含浸させて得られる金属-セラミックス複合材料の製造方法において、
前記プリフォームの形成方法が、
セラミックス粒子を、水を分散媒としてバインダーと共に混合することで、静置状態で非流動性の混合物を得る工程と、
前記混合物を型に投入し振動を加えることで流動性を発現させて混合物中のセラミックス粒子を沈降させ、セラミックス粒子、水及びバインダー成分を含む成形体を得る工程と、
前記成形体を型ごと冷凍硬化させた後に、脱型して硬化体を得る工程と、
前記硬化体を大気雰囲気中で焼成してセラミックス粒子とバインダーと気孔からなるプリフォームを得る工程と、を含むことを特徴とする金属-セラミックス複合材料の製造方法を提供する。」

「【0019】
強化材のセラミックス粒子としては、アルミナ(Al_(2)O_(3))、ホウ酸アルミニウム(9Al_(2)O_(3)・2B_(2)O_(3))、シリカ、ムライト等の酸化物、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化チタン、窒化ジルコニウム等の窒化物、炭化珪素(SiC)、炭化ホウ素(B_(4)C)、炭化チタン、炭化ボロン等の炭化物、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン等のホウ化物等を用いることができる。なかでも炭化珪素、炭化ホウ素、アルミナ、ホウ酸アルミニウムが好ましい。炭化珪素は、安価であること、軽量、高剛性、低熱膨張率、高熱伝導度といった特性を兼ね備えており、機械部品として付加価値の高いものとなるので、金属-セラミックス複合材料の強化材として好適に用いることができる。また、炭化ホウ素は、炭化珪素よりもさらに軽量で、高剛性であり、また耐衝撃性、中性子吸収性に優れており、このような特性が求められる金属-セラミックス複合材料の強化材に用いることができる。アルミナは、安価でかつ耐プラズマ性が高く、高強度であることから汎用部材として好適である。またホウ酸アルミニウムは耐摩耗性に極めて優れており、これを強化材とした金属-セラミックス複合材料は摺動部材等に用いることができる。」

「【0034】
加圧含侵は、加圧により溶融したアルミニウム等をプリフォームの気孔に強制的に含侵させる方法である。プリフォームに浸透させる金属は、アルミニウムまたはアルミニウム合金を用いることが好ましい。具体的には、例えば純度99.0%以上の純アルミニウムや金型鋳物、砂型鋳物に用いられるAC3A、AC8Aや、ダイカスト用のADC12等、一般的に用いられている合金を用いることができる。」

第5 対比・判断
1 事案に鑑み,まず,本願発明7について検討する。
(1)本願発明7は,「請求項1から6のいずれか一項に記載のアルミニウム合金基複合材料の製造方法で得られたアルミニウム合金基材料」であるところ,請求項1の記載を引用すると,本願発明7は次のとおりである(以下「本願発明7’」という。)。

「アルミニウム合金の中に強化材であるセラミックス粉末が複合されたアルミニウム合金基複合材料の製造方法で得られたアルミニウム合金基複合材料であって、
前記製造方法が、
前記セラミックス粉末を多孔質材料で形成された多孔質容器に充填し、前記多孔質容器を蓋部により密閉する充填工程と、
前記多孔質容器を金型内に設置し、前記金型内にアルミニウム合金の溶湯を流し込む工程と、
前記金型内の前記溶湯に圧力を加え、前記多孔質容器を通して内部の前記セラミックス粉末に前記溶湯を含浸させる含浸工程とを有するものであって、
アルミニウム合金マトリックス中に強化材であるセラミックス粉末が均一に分散、分布してなり、
前記セラミックス粉末が、ホウ酸アルミニウムの粉末、又は、ホウ酸アルミニウムの粉末と炭化ケイ素との混合粉末であり、
その振動減衰特性が、アルミニウムの振動減衰特性と比べて減衰が早く、且つ、減衰波形にノイズが少ないことを特徴とするアルミニウム合金基複合材料。」

(2)本願発明7’と引用発明とを対比すると,両者はともに,金属複合材料である点で共通する。
そして,引用発明において,金属製包被材により包被した「耐摩耗材」を「鋳型内の所定の位置に配置」し,次いで「溶湯を鋳込む」ことは,本願発明7’において,「セラミック粉末」を充填し密閉した容器を「金型内に設置し」,前記金型内にアルミニウム合金の「溶湯を流し込む」ことに相当するといえる。
よって,本願発明7’と引用発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「充填工程と、
溶湯を流し込む工程と、
溶湯を含浸させる含浸工程とを有する、複合材料の製造方法で得られた、金属複合材料」である点。

(相違点1)
金属複合材料が,本願発明7’は「アルミニウム合金の中に強化材であるセラミックス粉末が均一に分散、分布してなり」,「セラミックス粉末が、ホウ酸アルミニウムの粉末、又は、ホウ酸アルミニウムの粉末と炭化ケイ素との混合粉末であり」,かつ,「その振動減衰特性が、アルミニウムの振動減衰特性と比べて減衰が早く、且つ、減衰波形にノイズが少ない」ものであるのに対し,引用発明は「耐摩耗性の優れた耐摩耗材」に金属溶湯を鋳込んだ「耐摩耗性複合材鋳造品」であって,かつ,「振動減衰特性」については明らかでない点。

(相違点2)
充填工程が,本願発明7’は「セラミックス粉末を多孔質材料で形成された多孔質容器に充填する」のに対し,引用発明は「耐摩耗性の優れた耐摩耗材を溶湯の熱量で溶ける金属製包被材により包被」している点。

(相違点3)
含浸工程が,本願発明7’は「金型内の前記溶湯に圧力を加え、前記多孔質容器を通して内部の前記セラミックス粉末に前記溶湯を含浸させる」であるのに対し,引用発明は圧力を加えるかどうか明らかでない点。

(3)相違点1について
ア 本願発明7’は,強化材が均一に分布したアルミニウム合金基複合材料であって,軽量で,高ヤング率,高振動減衰率,高熱伝導性及び高耐摩耗製を有することから,ボンディングマシンなどのX-Yテーブル,半導体製造装置などに使用されるロボットアーム,チップマウンター,空気圧縮機用スクロール部品などの材料となるものである(段落【0014】)。

イ これに対し,引用発明は,各種産業機械や建設機械等における鋳造品の摩耗箇所の保護材あるいは補修部品として用いられる耐摩耗性複合材に関するものであり(段落【0001】),鋳込む金属も,ステンレス鋼,軟鋼などであって(段落【0008】),アルミニウムやアルミニウム合金は想定されていない。

ウ また,引用文献2には,金属-セラミックス複合材料として,金属にはアルミニウム又はアルミニウム合金が,セラミックスとしてホウ酸アルミニウムや炭化珪素が例示されているものの,その開示はもっぱらセラミックスプリフォームに関するものに止まり,振動減衰率などの複合材料の物性については記載も示唆もされていない。

エ そうすると,相違点1に係る本願発明7’の構成は,引用文献1,2のいずれにも記載も示唆もされておらず,周知技術であるともいえない。
そして,本願発明7’は,従来のアルミニウム合金基複合材料と比べて振動減衰特性に優れたものが得られるという,本願明細書に記載のとおりの効果を奏するものであり,当該効果は当業者が予測できるものではない。

オ よって,相違点2,3について検討するまでもなく,本願発明7’,すなわち本願発明7は,引用文献1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお,相違点2,3はいずれも,「アルミニウム合金基複合材料」の製造方法に関する相違点であるところ,本願において「アルミニウム合金基複合材料」という物の発明を,その物の構造又は特性により直接特定することが不可能又は非実際的である事情があることは,請求人による平成30年11月14日付け意見書に記載されるとおりである。

(4)なお,前置審査報告においては,引用文献1において,鋳造に用いられる溶湯として引用文献2にみられるよう周知の材料であるにアルミニウム合金を用い,耐摩耗材として引用文献2にみられるようにホウ酸アルミニウムを用いることは,当業者が容易に想到し得る旨が示されている。
しかしながら,引用文献2にアルミニウム合金ないしホウ酸アルミニウムの使用が開示されているとしても,振動減衰率などの複合材料の物性については記載も示唆もされていないことは,上記(3)で検討したとおりであるから,当該報告の内容を採用することはできない。

2 本願発明1?6について
(1)引用発明は,耐摩耗性複合材鋳造品をその製造方法で規定するものである。そこで,本願発明1と引用発明に係る製造方法とを対比すると,両者はともに,金属複合材料の製造方法である点で共通する。
そして,引用発明において,金属製包被材により包被した「耐摩耗材」を「鋳型内の所定の位置に配置」し,次いで「溶湯を鋳込む」ことは,本願発明1において,「セラミック粉末」を充填し密閉した容器を「金型内に設置し」,前記金型内にアルミニウム合金の「溶湯を流し込む」ことに相当するといえる。
よって,本願発明1と引用発明とは,次の一致点及び相違点を有する。

(一致点)
「充填工程と、
溶湯を流し込む工程と、
溶湯を含浸させる含浸工程とを有する、複合材料の製造方法」である点。

(相違点4)
製造される複合材料が,本願発明1は「アルミニウム合金」の中に「強化材であるセラミックス粉末」が複合された「アルミニウム合金基複合材料」であるのに対し,引用発明は「耐摩耗性の優れた耐摩耗材」に金属溶湯を鋳込むことで製造される「耐摩耗性複合材鋳造品」である点。

(相違点5)
充填工程が,本願発明1は「セラミックス粉末を多孔質材料で形成された多孔質容器に充填し、前記多孔質容器を蓋部により密閉する」のに対し,引用発明は「耐摩耗性の優れた耐摩耗材を溶湯の熱量で溶ける金属製包被材により包被」している点。

(相違点6)
含浸工程が,本願発明1は「金型内の前記溶湯に圧力を加え、前記多孔質容器を通して内部の前記セラミックス粉末に前記溶湯を含浸させる」であるのに対し,引用発明は圧力を加えるかどうか明らかでない点。

(2)事案に鑑み,相違点5について検討する。
ア 本願発明1は,セラミックス粉末を多孔質材料で形成された多孔質容器に充填することにより,その後の含浸工程において,多孔質容器のポーラスな材質を介してほぼ全方位からアルミニウム合金の溶湯が均等に多孔質容器内に流入し,セラミックス粉末全体に対して均一な含浸が可能になる,というものである(段落【0014】)。

イ これに対し,引用発明は,溶湯の熱量で溶ける金属製包被材を用いることにより,引用文献1に記載されるとおり,「鋳型内に注入された溶湯の熱量でその金属包被材を溶融させ、湯の回りをよくし、また包被材の溶融金属が耐摩耗材を包み、注入された溶湯がさらにそれを包み込むことにより耐摩耗材が確実に溶着され、密着性よく鋳ぐるむことができる」というものである(段落【0008】)。よって,引用製法発明の金属製包被材は溶湯によって溶けてしまうから,容器として機能するものではない。

ウ また,引用文献2は,セラミックス粒子を強化材とするプリフォームに基材の金属を含浸させて金属-セラミックス複合材料を製造するものであり,溶湯を適用する際には,セラミックス粒子は容器に充填することなくプリフォームを形成するというものである。

エ そうすると,上記相違点5に係る本願発明1の構成は,引用文献1,2のいずれにも記載も示唆もされていない。また,当該構成は,本願出願前における周知技術でもない。
そして,本願発明1は,引用文献1,2に記載ないし示唆のない多孔質容器を採用することにより,従来の加圧鋳込み法と比べて振動減衰特性に優れた複合材料が得られるという,本願明細書に記載のとおりの効果を奏するものであって,当該効果は容易に予測できるものではない。

オ したがって,相違点4,6について検討するまでもなく,本願発明1は,引用文献1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本願発明2?6はいずれも,本願発明1を直接又は間接的に引用して特定するものであるから,引用発明との対比において,少なくとも上記相違点4?6を有する。
そして,上記(2)と同様の理由で,本願発明2?6は,引用文献1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

第7 むすび
以上のとおり,本願については,原査定の拒絶理由及び当審による拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2020-02-04 
出願番号 特願2017-229851(P2017-229851)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (C22C)
P 1 8・ 575- WY (C22C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 米田 健志  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 池渕 立
平塚 政宏
発明の名称 アルミニウム合金基複合材料の製造方法及びアルミニウム合金基複合材料  
代理人 菅野 重慶  
代理人 竹山 圭太  
代理人 近藤 利英子  
代理人 岡田 薫  

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