• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A24D
管理番号 1359346
審判番号 不服2018-7673  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-06-05 
確定日 2020-01-28 
事件の表示 特願2016-114072「喫煙品フィルターの改良」拒絶査定不服審判事件〔平成28年10月20日出願公開、特開2016-182130〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年5月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月3日、英国)を国際出願日とする特願2015-509499号の一部を、平成28年6月8日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年6月9日に翻訳文提出書の提出
平成28年6月10日に手続補正書の提出
平成29年4月14日付けで拒絶理由の通知
平成29年8月31日に意見書の提出
平成30年1月31日付けで拒絶査定
平成30年6月5日に拒絶査定不服審判の請求
平成30年6月20日に審判請求書の請求の理由を補正する手続補正書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年6月10日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成28年6月9日に翻訳文提出書により提出された明細書及び図面の翻訳文の記載によれば、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるものと認められるところ、本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
第1の材料から形成された無秩序に配向されている離散短繊維と、第2の材料から形成された無秩序に配向されている離散短繊維を含む喫煙品用フィルターであって、
前記第2の材料は、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、コハク酸1,4-ブタンジオールエステル重合体(PBS)、アジピン酸ブチレンとテレフタル酸ブチレンエステルの共重合体(PBAT)、澱粉を基にした材料、紙、脂肪族ポリエステル材料、多糖重合体、ナノ繊維、炭素ナノ繊維および触媒の基剤となるナノ繊維から選択された少なくとも1つの材料を含むフィルター。」

第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願の請求項1ないし3に係る発明は、引用文献1及び2に記載された事項並びに引用文献3に例証される周知技術に基いて、請求項4ないし8に係る発明は、引用文献1、2及び4に記載された事項並びに引用文献3に例証される周知技術に基いて、それぞれ、本願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特表2011-509682号公報
引用文献2:特開平9-107942号公報
引用文献3:特開2004-24242号公報
引用文献4:特表2007-527782号公報

第4 引用文献
1 引用文献1
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1には、「タバコ煙フィルター」に関し、図面と共に次の記載がある。なお、下線は当審において付したものである(以下、他の刊行物についても同様)。
ア 「【請求項1】
円周が14.0?23.2mmの実質的に均質なフィルター素材からなる円柱形プラグを有するタバコ煙フィルターまたはフィルター要素であって、前記実質的に均質なフィルター素材は、複数の不規則に配向されたステープルファイバーを有する、タバコ煙フィルターまたはフィルター要素。
【請求項2】
前記実質的に均質なフィルター素材からなるプラグは、16.0?23.2mmの円周を有する、請求項1に記載のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素。
【請求項3】
前記ステープルファイバーは、捲縮される、請求項1または2に記載のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素。
【請求項4】
前記ステープルファイバーは、天然および/または合成繊維、および/または天然植物材料から形成される繊維である、請求項1?3のいずれか一項に記載のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素。
【請求項5】
前記ステープルファイバーは、セルロースアセテート繊維またはポリプロピレン繊維である、請求項1?4のいずれか一項に記載のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素。
【請求項6】
二種類以上のステープルファイバーを含む、請求項1?5のいずれか一項に記載のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素。
【請求項7】
液体添加剤または粒状添加剤をさらに含む、請求項1?6のいずれか一項に記載のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素。
【請求項8】
前記ステープルファイバーの長さは、4mm?20mmである、請求項1?7のいずれか一項に記載のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素。」

イ 「【0001】
本発明は、シガレット、特にスリムシガレット等の喫煙具のためのフィルターおよびフィルター要素に関する。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シガレットフィルターに使用される通常のフィルター素材は、フィラメント状セルロースアセテートの連続トウであり、これをトリアセチンで可塑化し、ロッド形状に巻き上げてフィルター又フィルター要素を形成する。このような連続トウ(および該連続トウより形成されるフィルターおよびフィルター要素)において、セルロースアセテートトウのフィラメントは、その大部分が長手方向に整列される。セルロースアセテートがフェノール化合物に対する選択濾過作用を示すことはよく知られている。“スリム”シガレット用のフィルターは、当然のことながら、標準フィルターに比べてセルロースアセテートフィルター素材の包含量が少ない。すなわち、同量の煙に有効に作用する素材がより少なく、選択濾過効果は低下する。故に、スリムシガレットの喫煙者に提供されるフェノール化合物の量を潜在的に選択減少する、スリムフィルターを提供することが望ましい。」

ウ 「【0008】
本明細書において、“実質的に均質なフィルター素材”という用語は、いずれの断面においてもその全域にわたって実質的に均一な物理的性質を有するフィルター素材を意味する。
【0009】
本明細書において、“ステープルファイバー”という用語は、特定の長さを有する個別の不連続な繊維を意味する。ステープルファイバーは、相互に不規則に配向させてもよい。実質的に均質なフィルター素材は、複数の不規則に配向されたステープルファイバーを有してもよく、不規則に配向されたステープルファイバーの一部は、概して円柱形プラグの長手軸線に対して横方向に延びる。実質的に均質なフィルター素材は、その重量の少なくとも10%(例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%)が円柱形プラグの長手軸線に対して実質的に横方向に延びる複数の不規則に配向されたステープルファイバーを有してもよい。
【0010】
不規則に配向されたステープルファイバーという用語は、(フィルターまたはフィルター要素内において)三次元的に不規則に配向されたステープルファイバーを意味する。不規則に配向されたステープルファイバーという用語は、本明細書では、その個々の繊維の大半が長手方向に整列された、連続するセルロースアセテートトウを意味することを意図しない(また、意味もしない)。(しかしながら、以下に述べるように、ステープルファイバーは、このようなトウから形成することができることが理解されるであろう。)不規則に配向されたステープルファイバーという用語は、本明細書では、(例えばパルプおよび/または繊維から)形成され、その後(例えば巻き上げにより)ウェブまたはシートの全体または略全体がロッド状に成形されるウェブまたはシート状のフィルター素材を意味することを意図しない(また、意味もしない)。不規則に配向されたステープルファイバーという用語は、ロール状に巻き取られる二次元の紙状加工物を意味しない。不規則に配向されたステープルファイバーという用語は、本明細書では、(例えばパルプおよび/または繊維から)形成され、その後細断されてからロッド状に成形されるウェブまたはシート状のフィルター素材を意味することを意図しない(また、意味もしない)。シートまたはウェブは、二次元的に不規則な配向を有することができるが、フィルター製造装置内で引っ張られる際にその特性を保つように(細断される場合でも)いくつかの工程(エンボス加工等)を経る。かくして、シートまたはウェブ(細断されたシートまたはウェブであっても)から作製されるフィルターまたはフィルター要素内の繊維は、その大部分がフィルターまたはフィルター要素の長手軸線に沿って並ぶので、これらは(三次元において)不規則に配向されるステープルファイバーではない。
【0011】
複数の不規則に配向されるステープルファイバーは、複雑に入り組んだ通路を提供する多孔質マトリックスを形成してもよく、これらの通路は、シガレットフィルターとして利用される場合に煙の通り道として機能する。本発明のフィルターまたはフィルター要素の性能は、既存の製品(例えば、長手方向に配向されたセルロースアセテートのフィラメントからなる連続トウをトリアセチンで可塑化し、ロッド形状に巻き上げて形成される“モノアセテート”製品)と同等であることを本出願人は知った。ところが、不規則に配向されるステープルファイバーの形状で使用すれば、必要とされるフィルター素材(セルロースアセテート等)の量が、20?30%少なくて済むということを本出願人は発見した。これにはフィルター当たりのフィルター素材の必要量が減少することに加えて、従来のスーパースリム製品に使用されるものよりも総繊度の大きなセルロースアセテートトウを使用することができるというもう一つの利点がある。従って、本出願人の発明によって(必要とされるフィルター素材の量が減少するので)重量を削減できたことによる費用節約効果に加えて、(高価で入手しづらい)総繊度の小さいトウを使用する必要性がもはやないことから、使用するトウ自体の単価を下げることもできる。
【0012】
本発明のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素は、例えば、(不規則に配向されるステープルファイバーを有しない)標準のモノアセテートフィルターまたはフィルター要素に比べて、(スリムシガレットにおける)タバコの煙に含まれるフェノール類の除去性が向上していることを、本出願人は思いがけず発見した。この予期せず発見された、本発明のフィルターおよびフィルター要素によるフェノール化合物の減少性は、フィルター素材(セルロースアセテート)の重量が少ないことを考慮すると、よりいっそう顕著である。本出願人はまた、本発明のタバコ煙フィルターまたはフィルター要素は、標準のモノアセテートフィルターまたはフィルター要素等と比べて、例えば自然環境条件下においてより容易かつ速やかに分解され得ることを思いがけず発見した。
【0013】
ステープルファイバーは、フィラメント材料から作ってもよい。当技術分野で周知のように、ステープルファイバーは捲縮してもよい。ステープルファイバーは、例えば、セルロースアセテート繊維またはポリプロピレン繊維であってもよい。ステープルファイバーは、例えばセルロースアセテートトウやポリプロピレントウ等の繊維トウから製造(形成)してもよい。ステープルファイバーは、例えば、天然繊維および/または合成繊維、天然植物材料から形成される繊維等であってもよい。ステープルファイバーは、(例えば、ハンマーミルによって繊維化された)セルロースパルプ繊維であってもよい。ステープルファイバーは、切断されたハーブ(例えば刻まれたタバコの葉)であっても、再生タバコシートから得てもよい。ステープルファイバーは、最終製品に香料および/または濾過特性を付与するものであってもよい。ステープルファイバーは、実質的に同じ長さ(実質的に均一の長さ)であってもよい。ステープルファイバーは、様々に異なる長さであっても
よい。ステープルファイバーの長さは、例えば4mm?20mmにすることができ、例えば5mm?19mm、例えば6mm?18mm、例えば7mm?16mmにしてもよい。ステープルファイバーは、その総繊度が9000m長さ当たり14,000g?55,000gであるセルロースアセテートトウ等の繊維トウから製造または形成することができ、その総繊度は例えば、9000m長さ当たり20,000g?50,000g、例えば9000m長さ当たり23,000g?45,000g、例えば9000m長さ当たり25,000g?40,000gであってもよい。
【0014】
実質的に均質なフィルター素材は、例えば、(メントール溶液等の香料(flavourant)といった)液体添加剤等の他の素材を随意に含んでもよい。不規則に配向される複数のステープルファイバーを有する実質的に均質なフィルター素材は、複数のステープルファイバーから形成してもよく、また、例えば、可塑剤、バインダー材料その他添加剤等の他の素材を随意に含んでもよい。ステープルファイバーは、(例えば可塑剤の作用により)非常に多数の接触点において互いに結合させてもよい。
【0015】
実質的に均質なフィルター素材は、バインダー材料を随意に含んでもよい。実質的に均質なフィルター素材は、水溶性バインダー材料を随意に含んでもよい。水溶性材料の例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルエーテル、デンプン、ポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール等の水溶性ポリマー材料;水溶性バインダーとトリアセチン等の可塑剤の混合物;および熱溶融性かつ水溶性の粒状バインダーが挙げられる。水溶性バインダー材料を含有することにより、フィルターまたはフィルター要素の有する、例えば自然環境条件下において容易かつ速やかに分解され得る性質をさらに向上させてもよい。
【0016】
フィルターまたはフィルター要素は、例えばフィルターまたはフィルター要素の本体内部に、一つ以上の粒状添加剤を含んでもよい。該(または各)粒状添加剤は、粉末(例えば直径50?150μmの粒子)であっても、顆粒(例えば直径0.15?1.0mmの粒子)であってもよい。適当な粒状添加剤の例としては、香料(flavourants)または吸着剤、例えば、活性炭、沸石、イオン交換樹脂(弱塩基性陰イオン交換樹脂等)、海泡石、シリカゲル、アルミナ、モレキュラーシーブ、炭素質のポリマー樹脂および珪藻土等、が挙げられる。
【0017】
フィルターまたはフィルター要素は、二種以上のステープルファイバーを含んでもよい。例えば、ハンマーミルによって繊維化された(セルロースパルプ等の)繊維であるステープルファイバーを、フィラメント状のトウから形成されるステープルファイバーに(混在させる等して)加えて、フィルター内に含んでもよい。
【0018】
ステープルファイバー(例えばセルロースアセテートトウ等の繊維トウ)は、可塑化させてもよい。換言すると、実質的に均質なフィルター素材は、可塑剤を随意に含んでもよい。可塑化されたトウの形成は、当該技術分野において広く知られている。(ステープルファイバーを可塑化する)可塑剤は、例えば、トリアセチン、トリエチレングリコールジアセテート(TEGDA)またはポリエチレングリコール(PEG)であってもよい。ステープルファイバーは、可塑化されたセルロースアセテートトウの繊維であってもよい。ステープルファイバーは、トリアセチン等によって可塑化されたセルロースアセテートトウであってもよい。」

(2)上記(1)及び図面の記載から分かること
ア 上記(1)アないしウ並びに図1及び2の記載によれば、引用文献1には、タバコ煙フィルターが記載されていることが分かる。

イ 上記(1)ア及びウ(特に、【請求項1】及び段落【0009】及び【0013】の記載)によれば、タバコ煙フィルターは、4mm?20mmの長さの不連続な繊維であるステープルファイバーを含むことが分かる。

ウ 上記(1)ア及びウ並びに図1及び2の記載(特に、【請求項1】及び段落【0009】ないし【0011】の記載)によれば、タバコ煙フィルターは、複数の不規則に配向されたステープルファイバーを含むことが分かる。

エ 上記(1)ア及びウ(特に、【請求項6】及び段落【0017】の記載)によれば、タバコ煙フィルターは、二種類以上のステープルファイバーを含むことが分かる。

(3)引用発明
上記(1)及び(2)を総合すると、引用文献1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「4mm?20mmの長さを有する不連続な繊維である、複数の不規則に配向された二種類以上のステープルファイバーを含むタバコ煙フィルター。」

2 引用文献2
(1)引用文献2の記載
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物であって、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2には、「たばこフィルター用素材およびそれを用いたたばこフィルター」に関し、図面と共に次の記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、湿潤時の崩壊性、たばこ有害成分の濾過性能及び喫味に優れるたばこフィルター用シート状素材、この素材を用いたたばこフィルター、およびこのフィルターを備えたたばこに関する。
【0002】
【従来の技術】たばこ煙中の有害成分(タール類など)を除去し、喫味に優れるたばこ煙用フィルターとして、セルロースアセテートの繊維束をトリアセチンなどの可塑剤を用いて成型したフィルタープラグが広く使用されている。しかし、このフィルタープラグは、可塑剤により繊維同士が部分的に融着しているため、使用後に廃棄すると、環境中で形状が崩壊するまでに長時間を要し、環境汚染の一因となる。
【0003】一方、クレープ状に加工した木材パルプシートを用いた紙製のたばこ煙フィルターや、再生セルロース繊維束からなるたばこ煙用フィルターも知られている。これらのフィルターは、セルロースアセテート繊維束からなるフィルタープラグと比較して、湿潤時の崩壊性が若干高く、環境汚染をある程度軽減できる。しかし、たばこの喫味が劣ると共に、セルロースアセテートと比較して、フィルターに要求されるフェノール類の選択除去性が極端に低い。
【0004】湿潤時の崩壊性を高めるためには、セルロースエステル短繊維を主成分とし、必要に応じて叩解パルプなどの他の成分を含む抄紙構造のシート状素材が有用であると思われる。しかし、セルロースエステル短繊維を単独で用いると、繊維同士の絡み合いが少なく、シート形成能が乏しい。また、前記パルプやバインダーを用いてシート化しても、シート強度が劣る。そのため、巻上げに先だってクレープ化ロールなどで加工すると、シートが損傷するとともに、シートを棒状に成形する過程において、装置との接触や巻き上げによりセルロースエステル短繊維などが脱落しやすい。また、喫味を向上させるため、セルロースエステル短繊維の含有量を多くすると、シートの強度が低下するとともに、巻き上げなどによる成形速度を低下させる必要があり、フィルターの生産性が大きく制約される。
・・・
【0006】特開昭53-45468号公報には、表面積の大きなセルロースエステル小繊維5?35重量%とセルロースエステル短繊維65?95重量%とを含む不織繊維状シートを用いたシートが開示されている。前記セルロースエステル小繊維は、表面積5m2/g以上、長さ1000μm以下、直径0.5?50μmのセルロース繊維状物質である。また、この先行文献には、セルロースエステル小繊維とセルロースエステル短繊維との混合物に木材パルプを混合してもよいことも記載されている。しかし、前記セルロースエステルはフィブリル化しにくいため、表面積の大きな前記小繊維を得るためには、特殊な方法を採用する必要があるだけでなく、フィルター材料の崩壊性が十分ではなく、環境汚染の虞れが高い。
【0007】このように、従来のフィルター素材では、たばこの喫味、有害成分の濾過性能、巻上げなどによる成形時の繊維の脱落、シート強度などのフィルター素材として特性と、湿潤時の崩壊性とを両立させることが困難である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的は、湿潤時の高い崩壊性と、たばこ有害成分に対する高い濾過性能および喫味とを両立できるシート状素材、これを用いたたばこフィルターおよびたばこを提供することにある。・・・
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討した結果、セルロースエステル短繊維に対して結合能を有する繊維(例えば、適度にフィブリル化しているセルロース系繊維、水により膨潤する繊維又は一部が水に溶解する繊維など)を用いて湿式抄造すると、これらの繊維をセルロースエステル短繊維のバインダーとして有効に機能させることができ、喫味、濾過性能を低下させることなく、シート強度を向上し、繊維の脱落を防止できることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】すなわち、本発明のたばこフィルター用シート状素材は、(1)セルロースエステル短繊維と、(2)多糖類又はその誘導体及び生分解性高分子から選択され、かつ前記短繊維に対して結合能を有する繊維(以下、単にバインダー繊維という場合がある)とで構成されており、抄紙構造を有している。このシート状素材は、(1)セルロースエステル短繊維を主成分として含む場合が多く、(2)バインダー繊維としては、セルロース誘導体を含むセルロース系繊維を用いる場合が多い。」

イ 「【0011】
【発明の実施の形態】シート状素材は、(1)セルロースエステル短繊維と、(2)前記短繊維に対して結合能(バインダーとしての機能)を有する特定の繊維とで構成されている。バインダー繊維は、セルロースエステル短繊維に対して、絡み合いなどによる物理的結合能、接着、親和力などによる化学的結合能又は物理化学的結合能を有していればよい。
【0012】[セルロースエステル短繊維]前記セルロースエステルとしては、例えば、セルロースアセテート、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどの有機酸エステル;硝酸セルロース、硫酸セルロース、燐酸セルロースなどの無機酸エステル;セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートフタレート、硝酸酢酸セルロースなどの混酸エステル;およびポリカプロラクトングラフト化セルロースアセテートなどのセルロースエステル誘導体などが例示される。これらのセルロースエステルは、単独でまたは二種以上混合して使用できる。」

ウ 「【0017】前記バインダー繊維には、適度にフィブリル化した繊維、水で膨潤又は一部溶解する繊維が含まれる。さらに、バインダー繊維は、喫味を損なうことがなく、口に直接触れるたばこフィルターに要求される安全性の高い繊維であるのが好ましい。バインダー繊維には、揮発性で異臭又は悪臭のモノマー又はオリゴマー成分を含まず、経口的に安全な生分解性高分子、多糖類又はその誘導体であるのが好ましい。生分解性高分子には、脂肪族ポリエステル、例えば、ポリ乳酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリグリコール酸などの脂肪族オキシカルボン酸の単独又は共重合体、ポリカプロラクトンなどのラクトンの開環重合体など、C_(2-10)程度の脂肪族ジオールとC_(2-12)程度の脂肪族ジカルボン酸とのポリエステルなどが例示できる。多糖類又はその誘導体の繊維には、例えば、天然セルロース繊維、繊維状でんぷん、再生セルロース繊維、キチン又はキトサンの繊維などが含まれる。これらの生分解性高分子は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。」

第5 対比
本願発明と引用発明とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者における「4mm?20mmの長さを有する不連続な繊維である、複数の不規則に配向された」「ステープルファイバー」は、前者における「無秩序に配向されている離散短繊維」に相当し、同様に、「タバコ煙フィルター」は「喫煙品用フィルター」に相当する。

・後者における「4mm?20mmの長さを有する不連続な繊維である、複数の不規則に配向された二種類以上のステープルファイバーを含む」は、前者における「第1の材料から形成された無秩序に配向されている離散短繊維と、第2の材料から形成された無秩序に配向されている離散短繊維を含む」に、「無秩序に配向されている二種類の離散短繊維を含む」という限りにおいて一致する。

したがって、両者は、
「無秩序に配向されている二種類の離散短繊維を含む喫煙品用フィルター。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点]
「無秩序に配向されている二種類の離散短繊維を含む」ことに関し、本願発明においては、「第1の材料から形成された」無秩序に配向されている離散短繊維と、「第2の材料から形成された」無秩序に配向されている離散短繊維を含むものであって、「前記第2の材料は、ポリビニルアルコール(PVOH)、ポリ乳酸(PLA)、ポリ(ε-カプロラクトン)(PCL)、コハク酸1,4-ブタンジオールエステル重合体(PBS)、アジピン酸ブチレンとテレフタル酸ブチレンエステルの共重合体(PBAT)、澱粉を基にした材料、紙、脂肪族ポリエステル材料、多糖重合体、ナノ繊維、炭素ナノ繊維および触媒の基剤となるナノ繊維から選択された少なくとも1つの材料を含む」のに対して、引用発明においては、「4mm?20mmの長さを有する不連続な繊維である、複数の不規則に配向された二種類以上のステープルファイバーを含む」ものであり、二種類以上のステープルファイバーについて、種類毎に材料が異なることは特定されていない点(以下、「相違点」という。)。

第6 判断
1 相違点の検討
引用文献3(【0026】?【0028】参照。)によれば、喫煙品用フィルターにおいて、材料の異なる複数種類の繊維を含むこと、すなわち、第1の材料から形成された繊維と、第2の材料から形成された繊維を含むことは、本件特許の出願前の周知技術であると認められる。
そして、引用文献1には、セルロースパルプ等の繊維であるステープルファイバーを、フィラメント状のトウから形成されるステープルファイバーに混ぜる旨の記載があり(【0017】)、引用発明の二種類以上のステープルファイバーを種類別に異なった材料とすることが示唆されているともいえる。
そうすると、引用発明の二種類以上のステープルファイバーについて、上記周知技術を踏まえ、第1の材料から形成されたもの、及び、第2の材料から形成されたものとすることには、困難性がない。
さらに、引用文献2には、喫煙品用フィルターの材料としてポリ乳酸、ポリカプロラクトン、繊維状でんぷん、脂肪族ポリエステル、多糖類などを含むことが示されている(【0017】)。
上記引用文献2に記載された事項は、自然環境を考慮して喫煙品用フィルターの分解性を高めることを目的とするものであるところ、喫煙品用フィルターにおいて、自然環境を考慮して分解性を高めることは普遍的な課題であるとともに、引用文献1にも「フィルターまたはフィルター要素の有する、例えば自然環境条件下において容易かつ速やかに分解され得る性質をさらに向上させてもよい。」(【0015】)と記載されているように、引用発明においても内在する課題である。
そして、引用発明のステープルファイバーに関し、引用文献1には、天然繊維、合成繊維等を種々用い得ることが記載され(【0013】)、格別の制限なく、適宜の材料を選択できるものと認められる。
よって、引用発明において、引用文献2に示された上記材料を選択することは、当業者が容易に想到し得たことである。
そうすると、引用発明において、相違点に係る本願発明の構成とすることは、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易になし得たことである。

2 効果について
そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。

3 請求人の主張について
請求人は、審判請求書において、「引用文献1記載の発明における離散短繊維の材料に、引用文献1において不規則に配向されたステープルファイバーではないとされている引用文献2記載のシート状素材を適用しようとはしない」旨主張する(平成30年6月20日提出の審判請求書についての補正書4ページ34ないし36行)。
しかしながら、引用文献2記載のシート状素材が不規則に配向されたステープルファイバーではないとしても、それにより引用発明のステープルファイバーの材料として、引用文献2に記載された材料を用いることが技術的に困難であるとはいえないから、請求人の上記主張は採用することができない。

4 まとめ
したがって、本願発明は、引用発明、引用文献2に記載された事項及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-07-05 
結審通知日 2019-07-30 
審決日 2019-08-19 
出願番号 特願2016-114072(P2016-114072)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A24D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 西田 侑以  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 槙原 進
松下 聡
発明の名称 喫煙品フィルターの改良  
代理人 轟木 哲  
代理人 森田 順之  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ