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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61K
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 A61K
管理番号 1359473
審判番号 不服2018-3010  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-03-02 
確定日 2020-02-05 
事件の表示 特願2016-043527「制御された薬物送達のためのテザー基を有するポリマー-薬物コンジュゲート」拒絶査定不服審判事件〔平成28年6月9日出願公開、特開2016-104824〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由
第1 手続の経緯

本願は、2007年12月14日(パリ条約による優先権主張、2007年1月24日、米国(US)、他1国)を国際出願日とする特願2009-541386の一部を平成25年12月13日に新たな特許出願とした特願2013-257554の一部を、平成28年3月7日に新たな特許出願としたものであって、出願後の主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成29年 2月13日付け:拒絶理由の通知
平成29年 8月16日 :意見書及び手続補正書の提出
平成29年10月30日付け:拒絶査定
平成30年 3月 2日 :審判請求書及び手続補正書の提出
平成30年 4月 9日 :手続補正書(方式)の提出

第2 平成30年3月2日提出の手続補正書による手続補正についての
補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成30年3月2日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]

1 本件補正の内容

本件補正は、特許法第17条の2第1項ただし書第4号に掲げる場合の、拒絶査定不服審判の請求と同時にされた補正であって、本件補正前の特許請求の範囲(平成29年8月16日提出の手続補正書を参照。)に記載された請求項1、即ち、

「【請求項1】
テザーによってポリマーに共有結合で連結された治療薬を含む、線状の、シクロデキストリン含有ポリマーコンジュゲートであって、ここで、該テザーは、自己環化性部分および選択性決定部分を含み、
ここで、該選択性決定部分は、該自己環化性部分と該ポリマーとの間で該自己環化性部分に結合され、そして
ここで、該選択性決定部分は、エステル結合によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該選択性決定部分と該自己環化性部分との間の結合の開裂は、該自己環化性部分の環化を発生させ、2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され、それによって該ポリマーから該治療薬を放出し、
ここで、該治療薬が、アミノ、ヒドロキシル、またはチオール基を含み、そして該治療薬が、該治療薬のアミノ、ヒドロキシル、またはチオール基によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該線状の、シクロデキストリン含有ポリマーコンジュゲートが、シクロデキストリンを含まないリンカー基およびシクロデキストリン部分を含むコポリマーを含む、
ポリマーコンジュゲート。」
(注:本件補正による変更箇所の変更前の記載に、当審合議体が下線を付した。)

を、本件補正後の特許請求の範囲(平成30年3月2日提出の手続補正書を参照。)に記載された請求項1、即ち、

「【請求項1】
テザーによってポリマーに共有結合で連結された治療薬を含む、線状の、シクロデキストリン含有ポリマーコンジュゲートであって、ここで、該テザーは、自己環化性部分および選択性決定部分を含み、
ここで、該選択性決定部分は、該自己環化性部分と該ポリマーとの間で該自己環化性部分に結合され、そして
ここで、該選択性決定部分は、エステル結合によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該選択性決定部分と該自己環化性部分との間の結合の開裂は、該自己環化性部分の環化を発生させ、2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され、それによって該ポリマーから該治療薬を放出し、
ここで、該治療薬が、エトポシド、ツブリシン、またはエポチロンを含み、そして該治療薬が、該治療薬のアミノ、ヒドロキシル、またはチオール基によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該線状の、シクロデキストリン含有ポリマーコンジュゲートが、シクロデキストリンを含まないリンカー基およびシクロデキストリン部分を含むコポリマーを含む、
ポリマーコンジュゲート。」
(注:下線部は本件補正による変更箇所であり、原文に記載のとおり。)

とする補正を含むものである。

2 本件補正の適否

本件補正のうち、上記請求項1についての補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である、ポリマーコンジュゲートを構成する治療薬について、本件補正前の請求項1では、「アミノ、ヒドロキシル、またはチオール基を含み、」として、治療薬に含まれる官能基のみを規定していたのに対し、本件補正後の請求項1では、「エトポシド、ツブリシン、またはエポチロンを含み、」として、治療薬自体を具体的に限定する補正事項を含むものであり、本件補正前の請求項1に記載された発明と本件補正後の請求項1に記載された発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載された事項により特定される発明(以下「本件補正発明」という。)が、同法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2-1 発明の詳細な説明の記載

本願明細書の発明の詳細な説明には、以下の摘記ア?ナの記載がある。
なお、下線は当審合議体が付した。

摘記ア
「【背景技術】
【0002】
発明の背景
一部の小分子治療薬の薬物送達は、それらの不良な薬理学的プロフィールのため、問題があった。これらの治療薬は、低い水溶性を有することが多く、それらの生物活性形態は、不活性形態との平衡状態で存在し、または該薬剤の高い全身濃度は、毒性副作用をもたらす。それらの送達に関する問題を回避するための幾つかのアプローチは、該薬剤を水溶性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルメタクリレート(HPMA)、ポリエチレングリコールおよびポリ-L-グルタミン酸、に直接コンジュゲートさせることであった。・・・。
【0003】
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不良な薬理学的プロフィールを有する小型治療薬の送達への新たなアプローチが、引き続き必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ポリマーコンジュゲート(治療送達用の担体として治療薬に共有結合でカップリングされたポリマー材料と定義する)の新規組成物に関する。1つの態様において、本発明は、生物学的な条件下で開裂して治療薬を放出する連結機構(attachment)によって治療薬に共有結合で連結された水溶性、生体適合性ポリマーを含む、水溶性、生体適合性ポリマーコンジュゲートを提供する。」
(段落【0002】上1行?段落【0005】)

摘記イ
「【0006】
本発明の1つの態様は、テザー(tether)によってポリマーに共有結合で連結された治療薬を含むポリマーコンジュゲートに関し、この場合のテザーは、自己環化性部分を含む。一部の実施形態において、該テザーは、選択性決定部分をさらに含む。
【0007】
・・・。ある実施形態において、該テザーは、例えばその自己環化性部分に共有結合で連結された選択性決定部分を、例えば直列に、さらに含む。
【0008】
・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、自己環化性部分とポリマーの間で自己環化性部分に結合している。本明細書に開示するようなある実施形態において、該選択性決定部分は、その選択性決定部分と自己環化性部分との間の結合の開裂における選択性を、例えば酸性条件下でまたは塩基性条件下で、促進する。・・・ある実施形態において、選択性決定部分と自己環化性部分との間の結合は、アミド、カルバメート、カーボネート、エステル、チオエステル、尿素およびジスルフィド結合から選択される。」
【0009】
・・・ある実施形態において、自己環化性部分は、選択性決定部分とその自己環化性部分との間の結合の開裂後にその自己環化性部分の自己環化が発生し、それによって治療薬が放出されるように、選択される。」
(段落【0006】?【0009】;なお、段落【0008】は平成29年8月16日提出の手続補正書により補正されている。また、上記の箇所以外にも、「選択性決定部分」と「自己環化性部分」との結合及び開裂についての概ね同様の説明が、段落【0113】?【0115】、【0146】に記載されている。以下、段落【0146】のみ摘記する。)
「【0146】
ある実施形態において、選択性決定部分は、カルボニル-ヘテロ原子結合、例えばアミド、カルバメート、カーボネート、エステル、チオエステルおよび尿素結合、によって、自己環化性部分に接続することができる。」

摘記ウ
「【0010】
・・・ある実施形態において、自己環化性部分の環化は、5または6員環を形成する。本明細書に開示するようなある実施形態において、該5または6員環は、窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む複素環である。・・・ある実施形態において、該複素環は、イミダゾリジノンである。」
「【0013】
・・・ある実施形態において、自己環化性部分は、構造:
【0014】
【化1】

(式中、
Uは、NR^(1)およびSから選択され;
Xは、O、NR^(5)、およびSから選択され;
Vは、O、SおよびNR^(4)から選択され;
R^(2)およびR^(3)は、独立して、水素、アルキルおよびアルコキシから選択され;またはR^(2)およびR^(3)は、それらが連結されている炭素原子と一緒に、環を形成し;ならびに
R^(1)、R^(4)およびR^(5)は、独立して、水素およびアルキルから選択される)
を有する。
【0015】
・・・ある実施形態において、Uは、NR^(1)であり、および/またはVは、NR^(4)であり、ならびにR^(1)およびR^(4)は、独立して、メチル、エチル、プロピルおよびイソプロピルから選択される。本明細書に開示するようなある実施形態において、R^(1)およびR^(4)は、両方ともメチルである。本明細書に開示するようなある実施形態において、R^(2)およびR^(3)は、両方とも水素である。本明細書に開示するようなある実施形態において、R^(2)およびR^(3)は、一緒に、-(CH_(2))n-となり、ここでのnは3または4である。
【0016】
・・・ある実施形態において、自己環化性部分は、
【0017】
【化2】

から選択される。
【0018】
・・・ある実施形態において、Uは、自己環化性部分に結合している。」
(段落【0010】、【0013】?【0018】;なお、上記の箇所以外にも、「自己環化性部分」ついての概ね同様の説明が、段落【0140】?【0145】に記載されている。以下、段落【0140】のみ摘記する。)
「【0140】
そのようなある実施形態において、自己環化性部分は、環化すると5または6員環、好ましくは5員環、が形成されるように、選択することができる。そのようなある実施形態において、5または6員環は、酸素、窒素または硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子、好ましくは少なくとも2つのヘテロ原子(この場合のヘテロ原子は、同じであってもよいし、または異なってもよい)を含む。そのようなある実施形態において、複素環は、少なくとも1つ、好ましくは2つの窒素原子を含有する。そのようなある実施形態において、自己環化性部分は、イミダゾリジドンを形成する。」

摘記エ
「【0011】
・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、その選択性決定部分と自己環化性部分との間の結合の酵素的(すなわち、カテプシンまたはカテプシンBによる)開裂を促進する。本明細書に開示するようなある実施形態において、該選択性決定部分は、ペプチド(例えば、ジペプチド、トリペプチドまたはテトラペプチド)を含む。本明細書に開示するようなある実施形態において、該ペプチドは、GFYA、GFLG、GFA、GLA,AVA、GVA、GIA、GVL、GVF、AVF、KFおよびFKから選択される配列を含む。
【0012】
・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、アミノアルキルカルボニルオキシアルキル部分を含む。本明細書に開示するようなある実施形態において、該選択性決定部分は、cis-アコニチルを含む。」
「【0116】
ある実施形態において、選択性決定部分は、その結合が酸性条件下で開裂されるように選択される。
【0117】
その結合が塩基性条件下で開裂されるように選択性決定部分が選択されるある実施形態において、その選択性決定部分は、アミノアルキルカルボニルオキシアルキル部分である。ある実施形態において、選択性決定部分は、構造:
【0118】
【化20】

を有する。」
「【0019】
・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、式A:
【0020】
【化3】

(式中、
Sは、ジスルフィド結合の一部である硫黄原子であり;
Jは、場合によっては置換されているヒドロカルビルである;および
Qは、OまたはNR^(3)であり、ここでR^(13)は、水素またはアルキルである)
によって表される。
【0021】
・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、式B:
【0022】
【化4】

(式中、
Wは、NR^(14)、S、Oから選択され;
Jは、独立して、およびそれぞれの存在について、ヒドロカルビルまたはポリエチレングリコールであり;
Sは、硫黄であり;
Qは、OまたはNR^(13)であり、ここでR^(13)は、水素またはアルキルであり;ならびに
R^(14)は、水素およびアルキルから選択される)
によって表される。
・・・
【0027】
式Aに従って・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、
【0028】
【化5】

である。
【0029】
式Bに従って・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、
【0030】
【化6】

および
【0031】
【化7】

から選択される。
【0032】
・・・ある実施形態において、選択性決定部分は、構造:
【0033】
【化8】

(式中、
Arは、置換または非置換ベンゾ環であり;
Jは、場合によっては置換されているヒドロカルビル(例えば、上のいずれかの箇所で定義したとおり)であり;および
Qは、OまたはNR^(13)であり、ここでR^(13)は、水素またはアルキルである)
を有する。
【0034】
・・・ある実施形態において、Arは、非置換である。・・・ある実施形態において、Arは、1,2-ベンゾ環である。そのようなある実施形態において、選択性決定部分は、
【0035】
【化9】

である。」
(段落【0011】?【0012】、【0116】?【0118】、【0019】?【0035】;なお、上記の箇所以外にも、「選択択性決定部分」のうち「式A」で表されるものについての概ね同様の説明が、段落【0122】?【0138】に記載されている。)

摘記オ
「【0147】
ある実施形態において、治療薬は、共有結合で互いに連結されている選択性決定部分と自己環化性部分とを含むテザーによって、ポリマーに共有結合で連結されている。ある実施形態において、自己環化性部分は、選択性決定部分とその自己環化性部分との間の結合の開裂後にその自己環化性部分の環化が発生し、それによって治療薬が放出されるように、選択される。説明図のように、ABCは、選択性決定部分であり得、DEFGHは、自己環化性部分であり、ならびにABCは、酵素YがCとDの間を開裂させるように、選択することができる。CとDの間の結合の開裂がある点まで進行すると、DはHのほうに環化し、それによって治療薬Xまたはそのプロドラッグが放出されることとなる。
【0148】
【化29】

ある実施形態において、治療薬Xは、開裂発生後にその分子の残部から自然に解離する追加の介在成分(別の自己環化性部分または脱離基リンカー、例えば、CO_(2)またはメトキシメチルを含むが、これらに限定されない)をさらに含むことがある。」
(段落【0147】?【0148】)

摘記カ
「【0037】
ある実施形態において、ポリマーコンジュゲートは、式Iの構造を有する:
【0038】
【化10】

(式中、
Pは、モノマー部分であり;
Aは、それぞれの存在について独立して、選択性決定部分または直接結合であり;
Bは、それぞれの存在について独立して、自己環化性部分であり;
L^(1)、L^(2)、L^(3)およびL^(4)は、それぞれの存在について独立して、リンカー基であり;
DおよびD’は、独立して、治療薬またはそのプロドラッグであり;
TおよびT’は、独立して、標的化リガンドまたはその前駆体であり;
yおよびy’は、独立して、1?10の整数であり;
x、x’、zおよびz’は、独立して、0?10の整数であり;ならびに
hは、2?30,000の整数(例えば、2、3、4、5もしくは8?約25、50、100、500、1,000、5,000、10,000、15,000、20,000もしくは25,000、または例えば、2、3もしくは4?5もしくは10)であり;
この場合、xまたはx’いずれかの少なくとも一方の存在は、0より大きい整数である)。
【0039】
ある実施形態において、Aは、選択性決定部分である。
【0040】
ある実施形態において、L^(1)、L^(2)、L^(3)およびL^(4)は、独立して、アルキル鎖、ポリエチレングリコール(PEG)鎖、ポリコハク酸無水物、ポリ-L-グルタミン酸、ポリ(エチレンイミン)、オリゴ糖、およびアミノ酸鎖から選択される。
【0041】
ある実施形態において、L^(1)、L^(2)、L^(3)およびL^(4)のいずれかは、独立して、1つ以上のエチレン基が基Yにより場合によっては置換されている(但し、いずれのY基も互いに隣接していないことを条件とする)アルキル鎖であり、それぞれのYは、それぞれの存在について独立して、アリール、ヘテロアリール、カルボシクリル、ヘテロシクリル、または-O-、C(=X)(式中、Xは、NR^(1)、OもしくはSである)、-OC(O)-、-C(=O)O、-NR^(1)-、-NR^(1)CO-、-C(O)NR^(1)-、-S(O)n-(式中、nは、0、1もしくは2である)、-OC(O)-NR^(1)、-NR^(1)-C(O)-NR^(1)-、-NR^(1)-C(NR^(1))-NR^(1)-、および-B(OR^(1))-から選択され;ならびにR^(1)は、それぞれの存在について独立して、Hまたは低級アルキルである。
【0042】
ある実施形態では、選択性決定部分がその選択性決定部分と自己環化部分の間の開裂における選択性を促進するように、Aが選択される。
【0043】
ある実施形態では、AとBの間の結合が開裂されると、Bは自己環化して治療薬を放出することができる。」
(段落【0037】?【0043】)

摘記キ
「【0044】
1つの態様において、本発明は、式Cによって表される化合物を提供するものである:
【0045】
【化11】

(式中、
Pは、ポリマー鎖を表し;
CDは、環状部分を表し;
L_(1)、L_(2)およびL_(3)は、それぞれの存在について独立して、不在である場合もあり、またはリンカー基を表す場合もあるが、但し、L_(2)の複数の存在が、生物学的な条件下で開裂可能なリンカーを表すことを条件とし;
Dは、それぞれの存在について独立して、エトポシド、ツブリシン(tubulysin)、エポチロン(epothilone)、またはそれらの類似体もしくは誘導体から選択され;
Tは、それぞれの存在について独立して、標的化リガンドまたはその前駆体を表し;
a、mおよびvは、それぞれの存在について独立して、1?10の範囲の整数を表し;
nおよびwは、それぞれの存在について独立して、0?約30,000の範囲の整数を表し;ならびに
bは、1?約30,000の範囲の整数を表し;ならびに
Pはそのポリマー鎖にシクロデキストリン部分を含むか、またはnは少なくとも1である)。
【0046】
ある実施形態において、該化合物は、式C’によって表される:
【0047】
【化12】

(式中、
CDは、シクロデキストリン部分、またはその誘導体を表し;
L_(4)、L_(5)、L_(6)およびL_(7)は、それぞれの存在について独立して、不在である場合もあり、またはリンカー基を表す場合もあり;
DおよびD’は、それぞれの存在について独立して、エトポシド、ツブリシン、エポチロン、またはそれらの類似体もしくは誘導体から選択され;
TおよびT’は、それぞれの存在について独立して、同じまたは異なる標的化リガンドまたはその前駆体を表し;
fおよびyは、それぞれの存在について独立して、1?10までの範囲の整数を表し;
gおよびzは、それぞれの存在について独立して、0?10までの範囲の整数を表し;ならびに
hは、2?30,000の範囲の整数(例えば、2、3、4、5もしくは8?約25、50、100、500、1,000、5,000、10,000、15,000、20,000もしくは25,000、または例えば、2、3もしくは4?5もしくは10)である)。
【0048】
ある実施形態において、該化合物は、式Dによって表される:
【0049】
【化13】

(式中、
γは、シクロデキストリン部分を含むポリマーのモノマーユニットを表し;
Tは、それぞれの存在について独立して、標的化リガンドまたはその前駆体を表し;
L_(6)、L_(7)、L_(8)、L_(9)およびL_(10)は、それぞれの存在について独立して、不在である場合もあり、またはリンカー基を表す場合もあり;
CDは、それぞれの存在について独立して、シクロデキストリン部分、またはその誘導体を表し;
Dは、それぞれの存在について独立して、エトポシド、ツブリシン、エポチロン、またはそれらの類似体もしくは誘導体から選択され;
mは、それぞれの存在について独立して、1?10の範囲の整数を表し;
oは、2?30,000の整数(例えば、2、3、4、5もしくは8?約25、50、100、500、1,000、5,000、10,000、15,000、20,000もしくは25,000、または例えば、2、3もしくは4?5もしくは10)であり;ならびに
p、nおよびqは、それぞれの存在について独立して、0?10の範囲の整数を表し;
この場合、CDおよびDは、それぞれ、この化合物中に少なくとも1回は存在する)。」
(段落【0044】?【0049】;なお、上記の箇所以外にも、化合物C?Dについての概ね同様の説明が、段落【0070】?【0076】、【0150】?【0156】に記載されている。)

摘記ク
「【0050】
本発明の1つの態様は、リンカーによって治療薬に共有結合でカップリングされたポリマーに関し、ここでのリンカーは、ホスフェート基を含む。
【0051】
本発明の1つの態様は、リンカーによって治療薬に共有結合でカップリングされたポリマー、例えば上に記載したいずれかのポリマーに関し、ここでの治療薬は、エトポシド、ツブリシン、エポチロン、またはそれらの類似体もしくは誘導体から選択される。」
「【0056】
ある実施形態において、リンカー基は、1つ以上のメチレン基が、基Yにより場合によっては置換されている(但し、いずれのY基も互いに隣接していないことを条件とする)ヒドロカルビレン基を表し、この場合、それぞれのYは、それぞれの存在について独立して、置換もしくは非置換アリール、ヘテロアリール、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、または-O-、C(=X)(式中、Xは、NR_(1)、OもしくはSである)、-OC(O)-、-C(=O)O、-NR_(1)-、-NR_(1)CO-、-C(O)NR_(1)-、-S(O)n-(式中、nは、0、1もしくは2である)、-OC(O)-NR_(1)、-NR_(1)-C(O)-NR_(1)-、-NR_(1)-C(NR_(1))-NR_(1)-、および-B(OR_(1))-から選択され;ならびにR_(1)は、それぞれの存在について独立して、Hまたは低級アルキルを表す。
【0057】
ある実施形態において、リンカー基、例えば、治療薬とポリマーの間のリンカー基は、自己環化性部分を含む。ある実施形態において、リンカー基、例えば、治療薬とポリマーの間のリンカー基は、選択性決定部分を含む。
【0058】
・・・ある実施形態において、リンカー基、例えば、治療薬とポリマーの間のリンカー基は、自己環化性部分および選択性決定部分を含む。
【0059】
ある実施形態において、リンカー基は、アミノ酸もしくはペプチド、またはそれらの誘導体を表す。
【0060】
・・・ある実施形態において、治療薬または標的化リガンドは、生体加水分解性結合(例えば、エステル、アミド、カーボネート、カルバメートまたはホスフェート)によってリンカー基に共有結合している。」
「【0077】
ある実施形態において、治療薬またはそのプロドラッグをポリマーに接続する少なくとも1つのリンカーは、式:
【0078】
【化17】

(式中、
Pは、リンであり;
Oは、酸素であり;
Eは、酸素またはNR^(40)を表し;
Kは、ヒドロカルビルを表し;
Xは、OR^(42)またはNR^(43)R^(44)から選択され;ならびに
R^(40)、R^(41)、R^(42)、R^(43)、およびR^(44)は、独立して、水素または場合によっては置換されているアルキルを表す)
によって表される基を含む。
【0079】
ある実施形態において、Eは、NR^(40)であり、R^(40)は水素である。
【0080】
ある実施形態において、Kは、低級アルキレン(例えば、エチレン)である。
【0081】
ある実施形態において、少なくとも1つのリンカーは、
【0082】
【化18】

から選択される基を含む。
【0083】
ある実施形態において、Xは、OR^(42)である。
【0084】
ある実施形態において、リンカー基は、アミノ酸もしくはペプチド、またはそれらの誘導体を含む。
【0085】
・・・ある実施形態において、リンカーは、治療薬に、その治療薬上のヒドロキシル基(例えば、フェノール性ヒドロキシル基)によって接続される。」
(段落【0050】?【0051】、【0056】?【0060】、【0077】?【0084】;なお、上記の箇所以外にも、「リンカー基」についての概ね同様の説明が、段落【0169】、【0173】?【0184】に記載されている。)

摘記ケ
「【0107】
本発明は、1つ以上の治療薬が共有結合で連結されているポリマーコンジュゲート、例えば、シクロデキストリン含有ポリマーコンジュゲートを含む。ポリマーとしては、線状または分岐シクロデキストリン含有ポリマー、およびシクロデキストリンがグラフトされているポリマーが挙げられる。本明細書に記載するように修飾することができる例示的シクロデキストリン含有ポリマーは、米国特許第6,509,323号および同第6,884,789号、ならびに米国特許公開出願第2004-0109888号および同第2004-0087024号(これらは、それら全体が本明細書に参照として取り入れられている)において教示されている。これらのポリマーは、小分子治療送達用の担体として有用であり、ならびにインビボで使用するときの薬物の安定性および溶解度を改善することができる。」
(段落【0107】)

摘記コ
「【0162】
ある実施形態において、治療薬は、アミノ、ヒドロキシルまたはチオール基を含有し得る。そのようなある実施形態において、治療薬は、アミノ、ヒドロキシルまたはチオール基によって自己環化性部分に連結することができる。そのようなある実施形態において、治療薬は、ヒドロキシル含有薬剤であり、それらとしては、サリチル酸、アセトアミノフェン、モルヒネ、エトポシド、ツブリシン(好ましくは、ツブリシンA、ツブリシンB、またはツブリシンC)、エポチロン、カンプトテシン、ゲルダナマイシン、ラパマイシンもしくはバンコマイシン、またはこれらの類似体または誘導体が挙げられるが、それらに限定されない。」
(段落【0162】)

摘記サ
「【0203】
式Vのさらなるツブリシン誘導体は、式Vaによって表すことができる:
【0204】
【化41-1】

【0205】
【化41-2】

【0206】
【化41-3】

一部の実施形態において、式Vaのツブリシン誘導体は、1つ以上のヘテロ原子を含む官能基、例えば、ヒドロキシ、チオール、カルボキシ、アミノおよびアミド基、例えば式VaまたはR^(1)のカルボキシル基、の存在によって、本発明のポリマーに共有結合で連結される。
【0207】
さらなるツブリシン誘導体および/または類似体は、式VIによって表すことができる:
【0208】
【化42】

一部の実施形態において、式VIのツブリシン誘導体は、1つ以上のヘテロ原子を含む官能基、例えば、ヒドロキシ、チオール、カルボキシ、アミノおよびアミド基、の存在によって、例えば、式VIに描かれているフェノール基またはカルボキシル基によって、本発明のポリマーに共有結合で連結される。」
(段落【0203】?【0208】)

摘記シ
「【0227】
ある実施形態において、エポチロンの誘導体および/または類似体は、式XIIによって表すことができる:
【0228】
【化51】

(式中、
Rは、OR^(1)、NHR^(1)、アルキル、アルケニル、アルキニルおよびヘテロアルキル(例えば、CH_(2)OR^(1)またはCH_(2)NHR^(1))から選択され;および R^(1)は、水素、C_(1?4)アルキルおよびC_(1?4)ヘテロアルキルから選択され、好ましくは水素である)。
【0229】
ある実施形態において、Rは、メチル、CH_(2)OH、およびCH_(2)NH_(2)から選択される。
【0230】
一部の実施形態において、式XIIのエポチロン誘導体は、1つ以上のヘテロ原子を含む官能基、例えば、ヒドロキシ、チオール、カルボキシ、アミノおよびアミド基、例えば、式XIIに描かれているヒドロキシ基、の存在によって、本発明のポリマーに共有結合で連結される。」
(段落【0227】?【0230】)

摘記ス
「【0231】
ある実施形態において、選択性決定部分は、GFLGまたはKFまたはFKであり得、自己環化性部分は、イミダゾリドン形成性部分であり得、および治療薬は、エトポシドを含む(しかし、これらに限定されない)、ヒドロキシル含有物質であり得る。例えばGFLGのためにエトポシドを放出するカスケードは、下に示すように図解することができる:
【0232】
【化52】

KFまたはFKをGFLGの代わりに選択性決定部分として用いるとき、同様のカスケードが考えられる。
【0233】
ある実施形態において、選択性決定部分は、cis-アコニチルであり得、自己環化性部分は、イミダゾリドン形成性部分であり得、および治療薬は、エトポシドを含む(しかし、これらに限定されない)、ヒドロキシル含有物質であり得る。エトポシドを放出するこのカスケードは、下に示すように図解することができ、この場合、cis-アコニチルのいずれのアイソフォームを用いてもよい。
【0234】
【化53】

ある実施形態において、選択性決定部分は、塩基性条件下で開裂可能であり得、自己環化性部分は、イミダゾリドン形成性部分であり得、および治療薬は、エトポシドを含む(しかし、これらに限定されない)、ヒドロキシル含有物質であり得る。エトポシドを放出するこのカスケードは、下に示すように図解することができる。
【0235】
【化54】

・・・。」
(段落【0231】?【0235】)

摘記セ
「【0236】
本発明の1つの実施形態は、上で論じたようなシクロデキストリン含有ポリマーに特定の疎水性小分子治療薬を共有結合でコンジュゲートさせることによって、それらの改善された送達を提供する。そのようなコンジュゲーションは、治療薬の水溶性、従って、バイオアベイラビリティを改善する。従って、本発明の1つの実施形態において、治療薬は、0.4より大きい、0.6より大きい、0.8より大きい、1より大きい、2より大きい、3より大きい、4より大きい、またはさらに5よりも大きいlogPを有する疎水性化合物である。」
(段落【0236】)

摘記ソ
「【0423】
実施例1:CDP-PEG-GFLG-MEDA-ETOPの合成
FMOC-PEG-GFLG-MEDAの合成
【0424】
【化61】

Fmoc-PEG-酢酸(5.7g、13mmol)、HBTU(4.9g、13mmol)、HOBT(2.0g、13mmol)およびDIPEA(3.4g、26mmol)をDMF(25mL)に溶解した。GFLG-MEDA-Z(5.1g、8.8mmol)をDMF(13mL)およびDIPEA(3.7g、29mmol)に溶解し、先に調製した溶液に添加した。その反応混合物を1.5時間、室温で攪拌した。DMFを減圧下で除去し、得られた残留物を200mLのCH_(2)Cl_(2)に溶解し、その溶液を0.1NのHCl(200mL)で2回洗浄し、続いて水(200mL)で洗浄した。その後、MgSO_(4)で乾燥させ、CH_(2)Cl_(2)を減圧下で除去して、粗生成物を得た。その後、フラッシュカラムクロマトグラフィーによってそれを精製して、白色の固体生成物、FMOC-PEG-GFLG-MEDA-Z(6.2g、72%)を得た。
【0425】
FMOC-PEG-GFLG-MEDA-Z(3.0g、3.0mmol)を、0.2Mの2-ブロモ-1,3,2-ベンゾジオキサボロール(2.4g、1.2mmol)のCH_(2)Cl_(2)(60mL)に溶解した。その反応混合物を一晩、室温で攪拌した。MeOH(10mL)の添加によって反応を停止させた。溶媒を真空下で除去した。得られた残留物を少量のメタノールに溶解し、冷ジエチルエーテル中で沈殿させて、生成物を得た(2.6g、>99%)。ESI/MS(m/z)期待値860.01;実測値882.76[M+Na]。
【0426】
PEG-GFLG-MEDA-ETOPの合成
【0427】
【化62】

FMOC-PEG-GFLG-MEDA(2.6g、2.8mmol)、Etop-NP(2.7g、3.6mmol)、DIPEA(0.70g、5.5mmol)およびDMAP(34mg、0.28mmol)をDMF(60mL)に溶解し、1.5時間、60℃で攪拌した。DMFを真空下で溶解した。得られた残留物をCH_(2)Cl_(2)(150mL)に溶解した。その後、0.1NのHCl(150mL)で2回洗浄し、続いて水(150mL)で洗浄した。それをMgSO4で乾燥させ、真空下で減少させて、粗生成物を得た。その粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、生成物、FMOC-PEG-GFLG-MEDA-ETOPを得た(3.2g、80%)。ESI/MS(m/z)期待値1474.6;実測値1497.16[M+Na]。
【0428】
FMOC-PEG-GFLG-MEDA-ETOP(100mg、0.068mmol)をDMF中20%のピペリジン(1.2mL)に溶解した。その反応混合物を3分間、室温で攪拌した。その生成物をジエチルエーテル(50mL)中で沈殿させ、洗浄して、生成物を得た(60mg、70%)。ESI/MS(m/z)期待値1252.32;実測値1274.87[M+Na]。
【0429】
CDP-PEG-GFLG-MEDA-ETOPの合成
【0430】
【化63】

シクロデキストリン系ポリマー(CDP)(1.8g、0.36mmol)を乾燥DMF(35mL)に溶解した。その混合物を、完全に溶解するまで攪拌した。DIPEA(0.94g、7.3mmol)、EDC(0.70g、3.6mmol)およびNHS(420mg、3.6mmol)を上の溶液に添加した。PEG-GFLG-MEDA-ETOP(1.4g、1.1mmol)をDMF(10mL)に溶解し、そのポリマー溶液に添加した。その溶液を4時間攪拌し、その後、そのポリマーを酢酸エチル(150mL)中で沈殿させた。その沈殿物をDMF(15mL)に溶解し、アセトン(75mL)中で沈殿させた。その沈殿生成物をpH4の水(80mL)に溶解した。25K MWCO膜(Spectra/Por 7)を使用して、その溶液を透析した。それを0.2μmフィルター(Nalgene)によって濾過し、凍結乾燥させて、白色の固体を得た(1.1g、61%)。283nmでのUV-Vis Spectroscopyにより、エトポシドの負荷量は10% w/wであると測定された。」
(段落【0423】?【0430】)

摘記タ
「【0431】
実施例2:CDP-カルバメート-S-S-エトポシドの合成
エトポシドの4-ニトロフェニル炭酸エステルの合成
【0432】
【化64】

乾燥した100mLの丸底フラスコの中で、エトポシド(1.0g、1.7mmol)およびTEA(2.5g、25mmol)を無水THF(35mL)にアルゴン下で溶解した。その溶液に、無水THF(15mL)中のクロロギ酸4-ニトロフェニル(0.39g、1.95mmol)を30分かけて1滴ずつ添加した。その反応混合物をさらに2時間、室温で攪拌した。その混合物を濾過し、減圧下で濃縮して、黄色の固体を得た。その固体をフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、淡黄色の固体(0.75g、59%)を得た。
【0433】
エトポシドの4-ピリジルチオールシステアミンカルバメートの合成
【0434】
【化65】

乾燥した25mLの丸底フラスコの中で、エトポシドの4-ニトロフェニル炭酸エステル(100mg、0.13mmol)、塩酸4-ピリジルチオールシステアミン(35mg、0.16mmol)、DIPEA(34mg、0.27mmol)をDMF(5mL)に溶解した。その反応混合物を室温で15時間攪拌した。DMFを減圧下で溶解して、淡黄色の固体を得た。CH_(2)Cl_(2)(25mL)を添加し、それを0.1NのHCl(10mL)で二回洗浄した。その後、それをMgSO_(4)で乾燥させ、濃縮して、淡黄色の固体を得た。その固体をフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製して、黄色の固体を得た(51mg、48%)。
【0435】
エトポシドのシスタミンカルバメートの合成
【0436】
【化66】

10mLの丸底フラスコの中で、エトポシドの4-ピリジルチオールシステアミンカルバメート(50mg、0.0625mmol)および塩酸システアミン(6.4mg、0.057mmol)をMeOH(2mL)に溶解した。その混合物を1時間、室温で攪拌した。その溶液を真空下で濃縮し、ジエチルエーテル(5mL)を添加して、白色の固体を沈殿させた。その固体を濾過し、MeOH(0.5mL)に再び溶解し、CH_(2)Cl_(2)(15mL)中で沈殿させた。その固体を濾過し、真空下で乾燥させて、白色の固体を得た。その後、それを分取HPLCによって精製して、白色の固体を得た(19mg、38%)。ESI/MS(m/z)期待値767.84;実測値767.29[M]+。
【0437】
CDP-カルバメート-S-S-エトポシドの合成
【0438】
【化67】

CDP(96mg、0.020mmol)を乾燥N,N-ジメチルホルムアミド(2mL)に溶解した。その混合物を20分間攪拌した。エトポシドのシスタミンカルバメート(35mg、0.044mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(5.6mg、0.044mmol)、塩酸N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N’-エチルカルボジイミド(11mg、0.059mmol)、およびN-ヒドロキシスクシンイミド(5.0mg、0.044mmol)をそのポリマー溶液に添加し、4時間攪拌した。そのポリマーを酢酸エチル(50mL)で沈殿させた。その沈殿物を脱イオン水(10mL)に溶解した。25K MWCO膜(Spectra/Pro 7)を使用して、その溶液を透析した。それを0.2μmフィルター(Nalgene)によって濾過し、凍結乾燥させて、白色の固体を得た(57mg、59%)。283nmでの紫外-可視分光分析(UV-Vis Spectroscopy)により、エトポシドの負荷量は12.5% w/wであると測定された。」
(段落【0431】?【0438】)

摘記チ
「【0439】
実施例3:CDP-EDA-リン酸エステル-エトポシドの合成
【0440】
【化68】

100mLの丸底フラスコの中で、エトポホスフェート(720mg、1.1mmol)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(96mg、0.72mmol)、N-ヒドロキシスクシンイミド(83mg、0.72mmol)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(140mg、2.3mmol)を無水DMF(10mL)に溶解した。その溶液を45分間、室温で攪拌した。EDA官能基化CDP(1.5g、0.60mmol)およびN,N-ジイソプロピルエチルアミン(160mg、2.3mmol)を別の100mL丸底フラスコで無水DMF(10mL)に溶解した。この反応混合物を室温にて、前の混合物に添加し、4時間、室温で攪拌した。その混合物を10mLに濃縮し、酢酸エチル(500mL)中で沈殿させた。そのポリマーを脱イオン水(150mL)に溶解し、25K MWCO膜(Spectra/Pro 7)を使用して、26時間、それを透析した。その後、それを0.2μmフィルター(Nalgene)によって濾過し、凍結乾燥させて、白色の固体を得た(1.1g、73%)。283nmでの紫外-可視分光分析により、エトポシドの負荷量は8.3% w/wであると測定された。」
(段落【0439】?【0440】)

摘記ツ
「【0441】
実施例4:CDP-PEG-SS-ツブリシン
CDP-PEG-SS-Pyの合成
公表されている手順(Bioconjugate Chem.2003,14,1007)に従って合成したCDP-PEG(2g、0.43mmole)、ピリジンジチオエチルアミン塩酸塩(384mg、1.73mmole)、EDC(333mg、1.73mmole)およびNHS(198mg、1.73mmole)の混合物を、200mLの丸底フラスコの中で真空下で一晩乾燥させた。その後、無水DMF(40mL)を添加し、続いてDIEA(0.3mL、1.73mmole)を添加した。その反応混合物をアルゴン下、室温で4時間攪拌した。その後、ジエチルエーテル(300mL)をその混合物に添加して、ポリマーを沈殿させた。その粗生成物をH2O(400mL)に溶解し、25K MWCO膜(Spectra/Pro 7)を使用して、その溶液を水に対して透析した。その透析水を24時間を通して2回交換し、その後、そのポリマー含有溶液を0.2μmの濾過膜によって濾過し、凍結乾燥させて、1.64gのCDP-PEG-SS-Pyを白色固体として得た(収率82%)。
【0442】
CDP-PEG-SHの合成
CDP-PEG-SS-Py(155mg、0.032mmole)のPBS(6.8mL)溶液に、DTTの水(1mL)溶液を添加し、それによって20mg/mLのポリマー濃度を生じさせた。その反応混合物を室温で3時間攪拌し、その後、脱気EDTA(1mM、2L)水溶液中で25K MWCO膜によって透析した。その透析水は、24時間を通して2回交換した。0.2μmの濾過膜での濾過後、その溶液を凍結乾燥させて、白色固体(109g)を定量的収率で生じさせた。
【0443】
ツブリシンSS-Pyの合成
無水DMF(1.5mL)中のピリジンジチオエチルアミン塩酸塩(15.8mg、0.071mmole)の溶液に、DIEA(25μL、0.142mmole)を添加し、続いて、無水DMF(0.5mL)中のツブリシンA(40mg、0.047mmole)の溶液を添加した。反応混合物をアルゴン下、室温で2時間攪拌した。その後、その混合物を真空下で蒸発させた。その粗生成物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(CH_(2)Cl_(2)/MeOH、15/1)によって精製して、白色の固体を定量的収率で得た(54mg)。
【0444】
CDP-PEG-SS-ツブリシン(「CDP-S-S-Tub」)の合成
CDP-PEG-SS-Py(43mg、0.0094mmole)を脱気MeOH(1.8mL)に溶解し、Tub-S-S-pyr(9.5mg、0.0094mmole)のメタノール溶液(0.35mL)をそれに添加して、2.15mLの総反応量にした。得られた黄色混合物をアルゴン下、室温で4時間攪拌した。その後、N-エチルマレイミド(118mg。0.94mmole)を添加して反応を停止させ、その結果、透明で無色の溶液を得た。25K MWCO膜を使用してこの溶液を透析し、その透析水を24時間を通して1回交換した。その後、その溶液を0.2μmの濾過膜によって濾過し、凍結乾燥させて、ターゲットポリマー(27mg、収率45%)を白色の固体として得た。
【0445】
【化69】

【0446】
【化70】

・・・」
(段落【0441】?【0446】)

摘記テ
「【0446】
・・・
実施例5:エトポシド誘導体のインビトロ試験
薬物-ポリマーコンジュゲートおよびリンカー-薬物前駆体の細胞毒性を、ヒト卵巣癌細胞系統A2780において判定した。10%ウシ胎仔血清(FBS)を含有するRPMI 1640培地中で細胞を成長させた。1ウエルあたり10,000個の細胞を96ウエルプレートに播種し、37℃で24時間インキュベートし、この時点で、三重反復試験ウエルに薬物を様々な濃度で添加した。薬物の存在下、37℃で72時間のインキュベーションの後、細胞をPBSで洗浄し、1時間、MTS溶液と共にインキュベートし、製造業者の説示(CellTiter 96 one solution cell proliferation assay、ウィスコンシン州、マディソンのPromega)に従って分析した。4パラメータフィットを用いて、細胞の50%を死滅させる薬物の濃度(IC_(50))を決定した(表1参照)。
【0447】
【表1】


(段落【0446】?【0447】【表1】)

摘記ト
「【0447】
・・・
実施例6:CDP-PEG-SS-ツブリシンのインビボ試験
CDP-PEG-SS-ツブリシン(CDP-S-S-Tub)の抗増殖活性を、複数のヒト癌細胞系統(NCI-H1299 肺癌、HT-29 大腸癌、およびA2780 卵巣癌)においてインビトロで評価し、ツブリシンA(Tub A)および硫黄誘導体化ツブリシンA(Tub-SH)と比較した(表2)。データは、このコンジュゲートが高い抗増殖活性を維持することを示している。
【0448】【表2】


(段落【0447】【表1】の下1行?【0448】【表2】)

摘記ナ
「【0461】
実施例9:CDP-PEG-SS-ツブリシンの特性付けおよび放出試験
負荷量は、HPLCにより12%であると判定された。親ポリマーの粒径は、9?10nmであると測定されたが、CDP-PEG-SS-ツブリシンは、127nmの粒径を有するナノ粒子に自己組織化した。水へのツブリシンAの溶解度は、中性pHで0.1mg/mLであると判定されたが、CDP-PEG-SS-ツブリシンは、100倍高いことが判明した。
【0462】
PBSとヒト血漿の両方の中でCDP-PEG-SS-ツブリシンをインキュベートすることによって放出試験を行った。24時間の時点でのこのポリマーコンジュゲートからのツブリシンの放出動態は、pH5.5のPBSへの4.5%放出、pH7.4のPBSへの48%の放出、およびpH7.5のヒト血漿への75%の放出を示した。48時間の時点で、放出動態は、pH5.5のPBSへは9.2%の放出、pH7.4のPBSへは68%の放出、およびpH7.5のヒト血漿へは82%の放出であると判定された。」
(段落【0461】?【0462】)

2-2 有機化合物中の窒素原子と酸素原子の違いに関する技術常識
について

(1)文献1:「加藤明良(他1名)著,『有機化学のしくみ』,三共出版,2001.04.01,10-13頁」には、以下のア及びイの事項が記載されている。

ア 「N原子は基底状態で2s^(2)2p^(3)の最外殻電子配置をとるため,sp^(3)混成軌道を形成した際に3本の共有結合しか形成することができない。・・・。
・・・
...。N原子はC原子の場合と同ように,sp^(3),sp^(2),sp混成軌道をとることができる。・・・。
・・・
・・・。O原子は基底状態で2s^(2)2p^(4)の最外殻電子配置をとるため,sp^(3)混成軌道を形成した際に2本の共有結合しか形成することができない。・・・。
・・・
・・・。O原子はsp^(2)混成軌道をとることができ,例としてカルボニル化合物(carbonyl compound)があげられる。」
(10-11頁)

イ 「それではC-H,O-H,C-O,C-Brのように同じσ結合でも異なる種類の原子どうしが結合したときはどうなるのだろうか。それは,原子によって電子を引きつける度合いが違うため,水素やエタン分子とは異なる挙動を示す。この電気を引きつける度合いを示したものが表1.3に示したPaulingの電気陰性度(electronegativity)である。

・・・
・・・。例えば,同族のハロゲン原子では電気陰性度の値はF>Cl>Br>Iの順になり,第2周期のC,N,O,FではC<N<O<Fの順となる。この電気陰性度の値を考慮すると,C-HではC原子の方に,O-HとC-OではO原子の方に,C-BrではBr原子の方に結合電子が片寄っていることがわかる。このような電子の片寄りを分極(polarization)とよぶ。・・・。
・・・
・・・。これらの結合の分極は,これから学ぶ有機化合物の性質や反応性を理解する上で大変重要である。」
(11-13頁)

(2)文献2:「伊与田正彦 編著,『基礎からの有機化学』,朝倉書店,2003.10.30,27-30頁」には、以下のア及びイの事項が記載されている。

ア 「有機化合物の性質や反応性を支配する最も重要な要因は,分子の中で起こる電子のかたよりである.異なった原子からつくられるC-H結合やC-O結合では,電子のかたよりが起こる.・・・.
・・・
・・・.しかし,二つの異なる原子から形成される共有結合では,どちらかの原子が電子を強く引き寄せるので,結合の電荷分布にはかたよりが生じる.共有電子対を強く引きつけてまわりの電子密度が高くなった原子は,部分的に負の電荷を帯びて陰性になり,一方,電子密度が少なくなった原子は正の電荷を帯びて陽性になる.これを電子の分極という.分極した結合は極性をもつ.・・・.
・・・
どちらの原子が結合電子対を強く引きつけるか,またその大きさはどの程度かを判断するのに電気陰性度の値が用いられる.表4.1にPaulingによる値を示した。
・・・・

・・・.たとえば,同族元素であるハロゲン原子の間では,電気陰性度はF>Cl>Br>Iの順であり,また,C,N,Oの間では,電気陰性度はC<N<Oの順であることがわかる.結合をつくる原子の電気陰性度の差から分極の大きさと方向が推定される.」
(27-28頁)

イ 「b.ヒドロキシ基 -OH ・・・
σ結合によってつくられているヒドロキシ基では,酸素と水素の電気陰性度の差が大きいので,O^(δ-)-H^(δ+)という分極は大きい.このため,ヒドロキシ基はイオン化傾向の大きい金属ナトリウムと反応して水素を発生する.また,酸に近い反応性を示す.
c.アミノ基 -NH_(3) ・・・
NとHとの電気陰性度の差はOとHとの差よりも小さいので,N-Hの分極はO-Hよりずっと小さく,酸としての性質は弱い.窒素原子はsp^(3)混成をしているので非共有電子対をもつ.
d.カルボニル基 >C=O ・・・
エテンの炭素原子と同様に,カルボニル基の炭素原子はsp^(2)混成で結合しているので,酸素との結合のうち1本はσ結合,もう1本はπ結合である.σ電子に比べて分極しやすいπ電子は,電気陰性度の大きな酸素原子の方に強く引きつけられるので,カルボニル基のπ結合は大きく分極している・・・.
・・・
e.シアノ基 -CN
シアノ基の炭素原子は,エチンの炭素原子と同じsp混成により窒素原子と結合している.3本の結合のうち2本はπ結合で,これらが分極している.窒素の電気陰性度は酸素より小さいので,カルボニル基ほど大きな分極ではない.」
(29-30頁)

(3)まとめ

上記(1)及び(2)に示した文献1及び文献2の記載事項によれば、窒素原子と酸素原子では、形成し得る混成軌道の種類と共有結合の数が異なっており、窒素原子より酸素原子のほうが電気陰性度が大きく、両原子が他の異種原子と結合した場合の分極の大きさにも違いが生じるため、窒素原子を含む有機化合物と酸素原子を含む有機化合物では性質や反応性が異なる、ということが本願の出願当時の技術常識であったと認められる。

2-3 薬物送達系の公知技術について

(1)文献3:「特表2005-524677号公報」には、以下のア?エの事項が記載されている。

ア 「本発明は、活性物質送達系に係り、より詳細には、活性物質に共有結合しているペプチドを含む組成物、及び共役した活性物質組成物を投与する方法に関する。」
(段落【0002】)

イ 「本発明は、ペプチドに対する活性物質の共有結合による付着を提供する。本発明は、本書でキャリアペプチドとも呼ばれているアミノ酸、オリゴペプチド又はポリペプチドの側鎖又はC末端、N末端に対して例えば薬学的薬物及び栄養素などを含む活性物質を直接共有結合させるという点で、上述の技術と区別することができる。・・・。
・・・
・・・。上部消化管内への進入の時点で、内因性酵素は、キャリアペプチドのペプチド結合を加水分解することにより体が吸収するための活性成分を放出する。」
(段落【0029】?【0030】)

ウ 「主要なペプチド結合の腸内酵素加水分解は、ペプチド担体からグルタミン酸-薬物部分を放出させる。このとき、グルタミン酸残基の新たに形成された遊離アミンは分子内アミン基転移反応を受け、かくして図1に示されているようにピログルタミン酸を同時に形成しながら活性物質を放出する。」
(段落【0108】)

エ 「


(【図1】)

(2)文献4:「BIOORGANIC & MEDICINAL CHEMISTRY, 2004.01.01, V12, PP.1853-1858」には、以下のア?エの事項が記載されている(邦訳は、当審合議体による)。

ア 「Figure 2 illustrates the release mechanism of the drug. Cleaving of the enzyme substrate from complex 1 generates a free amine group (intermediate 2) that spontaneously cyclizes to form a urea derivative 3 and active drug.」
(1854頁左欄1-5行)
(邦訳:「図2は薬剤の放出機構を示している。複合体1からの酵素基質の開裂は、遊離のアミングループ(中間体2)を生成し、これは自発的に環化して尿素誘導体3と活性な薬物を形成する。」)

イ 「


(1854頁Figure 2)
(邦訳:「図2。化学アダプター系の一般設計。酵素基質の開裂は自発的に転移して標的デバイスから薬物を放出する中間体を生成する。」)

ウ 「Next we tested whether the CPT drug can be released from conjugate 12 by the catalytic actiity of PGA. According to our design, the drug should be spontaneously released after the generation of amine 5 as illutrated in Figure 4.」
(1854頁右欄16-20行)
(邦訳:「次に我々はPGAの触媒活性によりコンジュゲート12からCPT薬物が放出されるかどうか試験した。我々の設計では、図4に示したように、アミン5の生成の後に薬物が自発的に放出されることになる。」)

エ 「


(1856頁 Figure 4)
(邦訳:「図4。トリガー酵素としてペニシリン-G-アミダーゼを用いた、HPMA-コポリマーからのCPT薬物の放出の機構。」)

(3)文献5:「CHEMISTRY-A EUROPEAN JOURNAL, 2004.03.22, VOL.10, PP.2626-2634」には、以下のア?カの事項が記載されている(邦訳は、当審合議体による)。

ア 「Two different mechanistic reactivities were used by us and others to to prepare chemical adaptor system. The first is based on a spontaneous intra-cyclization reaction to form a stable cylic molecule (Figure 2A). Cleavage of the trigger generates a free nucleophile, for example, an amine group, which undergoes intra-cyclization to release the target molecule from the handle part (e.g., a targeting antibody or a solid support synthesis).」
(2627頁右欄15-22行)
(邦訳:「2つの機構的に異なる反応性が、我々と他者が化学アダプター系を作成するのに用いられた。1つは安定な環状分子を形成する自発的な内部環化反応に基づく(図2A)。トリガーの開裂により、遊離の求核剤、例えば、アミングループが生成し、これが内部環化を受けて、把持部(例えば、標的抗体及び合成のための固体支持部)から標的分子を放出する。」)

イ 「


(2628頁 Figure 2)
(邦訳:「図2。(A)環化に基づく化学アダプター系。(B)脱離に基づく化学アダプター系。」)

ウ 「Proof of the concept was demonstrated by using etoposide as the drug, an HPMA-copolymer^([5,6]) as the targeting deice, and catalytic antibody 38C2^([7,8]) as the triggering enzyme (Scheme 1).」
(2629頁左欄4-7行)
(邦訳:「このコンセプトの証明は、薬物としてエトポシドを、標的デバイスとしてHPMA-コポリマーを、そしてトリガー酵素として触媒抗体38C2を用いて実証した(スキーム1)。」)

エ 「


(2629頁 Scheme 1)
(邦訳:「スキーム1。トリガー酵素として触媒抗体38C2を用いた、HPMA-コポリマーからのエトポシド薬物の放出の機構。」)

オ 「Similarly to the preious example, we designed a pliot system for which we chose Escherichia coli penicillin-G-amidase as the triggering enzyme. The water-soluble synthetic copolymer N-(2-hydroxypropyl)methacrylamide (HPMA) was chosen as a targeting device and camptothecin as the anticancer drug. We incubated complex 4 with PGA in PBS (pH 7.4) at 37℃ and monitord the appearance of free CPT, using an HPLC assay Scheme 2.」
(2630頁右欄8-15行)
(邦訳:「前の実施例と同様に、我々は、トリガー酵素として大腸菌ペニシリン-G-アミダーゼを選択した試験系を設計した。標的デバイスとして水溶性合成コポリマーであるN-(2-ヒドロキシプロピル)メタクリルアミド(HPMA)を、抗癌剤としてカンプトテシンを選択した。PBS(pH7.4)中で37℃で複合体4をPGAとともにインキュベートし、HPLCアッセイを用いて遊離のCPTの出現を監視した。スキーム2。)

カ 「


(2630頁 Scheme 2)
(邦訳:「スキーム2。トリガー酵素としてペニシリン-G-アミダーゼを用いた、HPMA-コポリマーからのカンプトテシン薬物の放出の機構。」)

(4)文献6:「国際公開第2004/19993号」には、以下のア及びイの事項が記載されている(邦訳は、当審合議体による)。

ア 「FIG.3 is a schematic representation of the self-immolative mechanism of a representative example of a G1-dendrimer according to the present invention (model Compound 1), initiated by a cleavage, which triggers a spontaneous cyclization followed by 1,4-quinone-methide rearrangements to release two tail units (denoted as "reporter")」
(12頁21-25行)
(邦訳:「図3は、本発明によるG1-デンドリマーの代表的実施例(モデル化合物1)の自己崩壊機構の図式表現である。この機構は開裂から始まり、それが自発的な環化反応のトリガーとなり、それに1,4-キノンメチドの転移が続き、二つの有尾ユニット(「レポーター」と表記)を放出する。」)

イ 「


(Fig. 3)

(5)まとめ

上記(1)?(4)に示した文献3?6の記載事項によれば、分子内の鎖状構造部分のアミド結合の開裂によって、1つ又は2つの窒素を含む5員のヘテロ環式環(2-ピロリドン又は2-イミダゾリジノン)が形成され、それによって治療薬を放出する薬物送達系は、本願の出願当時に、既に知られていたことが認められる。

2-4 特許法第36条第4項第1号に規定する要件(実施可能要件)
について

(1)判断の前提

特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載が適合するものでなければならない要件として、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(いわゆる「実施可能要件」)を規定している。
そして、この規定にいう「実施」とは、物の発明にあっては、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載は、その記載又は示唆及び出願当時の技術常識に基づき、当業者が、その発明に係る物を、生産をすることができ、かつ、使用をすることができる程度のものでなければならない。
また、化合物の技術分野のように、一般にその物の構造や名称からその物をどのように作り、どのように使用するかを理解することが比較的困難な技術分野に属する発明の場合には、当業者がその発明の実施をすることができるように発明の詳細な説明を記載するためには、通常、一つ以上の代表的な実施例が必要である。
以上のことを前提として、本願明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件補正発明について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)判断

ア 本件補正発明に対応する発明の詳細な説明の記載について

本件補正発明は、本件補正後の請求項1の記載からみて、「テザー」によって「ポリマー」に共有結合で連結された「治療薬」を含む線状の「シクロデキストリン」含有「ポリマーコンジュゲート」についての発明であり、該「テザー」は「自己環化性部分」及び「選択性決定部分」を含み、該「選択性決定部分」は、該「自己環化性部分」と該「ポリマー」との間で該「自己環化性部分」に結合するとされている。そして、該「選択性決定部分」及び該「自己環化性部分」ついては、次の事項により特定がなされている。

「ここで、該選択性決定部分は、エステル結合によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該選択性決定部分と該自己環化性部分との間の結合の開裂は、該自己環化性部分の環化を発生させ、2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され、それによって該ポリマーから該治療薬を放出し、」
(下線は当審合議体が付した。この特定事項を便宜的に以下「2酸素5員環形成条件」という。)

また、本件補正発明の上記「ポリマーコンジュゲート」は、「治療送達用の担体として治療薬に共有結合でカップリングされたポリマー材料」(前記2-1の摘記アを参照)と定義される「物」の発明であり、この「ポリマーコンジュゲート」は、「テザー」によって「ポリマー」に共有結合で連結された「治療薬」を含む「線状」のものであるから、本件補正発明は、「化合物」の発明であると認められる。

そこで、まず、本願明細書の発明の詳細な説明における、本件補正発明に対応する記載について検討する。

本件補正発明は、上記「2酸素5員環形成条件」を必須の発明特定事項とするものであるが、前記2-1の摘記ア?ナの事項を含めて、本願明細書の発明の詳細な説明の全体を精査しても、上記「2酸素5員環形成条件」に該当する具体的な記載は見出せない。本願明細書の発明の詳細な説明には、そもそも「2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成」との文言自体が記載されておらず、それと同旨であるが異なる表現としたような記載も存在しない。さらに、実施例を含めて、上記「2酸素5員環形成条件」を満たすようなポリマーコンジュゲートの具体的な態様は、本願明細書の発明の詳細な説明には全く記載されていない。
この点について、以下、詳述する。

本願明細書の発明の詳細な説明において、上記「2酸素5員環形成条件」を概念的に包含し得る一般的な事項として、以下の各記載が存在することは確認できる(下線は当審合議体が付した。以下同じ。)。

「・・・ある実施形態において、選択性決定部分と自己環化性部分との間の結合は、アミド、カルバメート、カーボネート、エステル、チオエステル、尿素およびジスルフィド結合から選択される。」(段落【0008】(摘記イ))

「ある実施形態において、選択性決定部分は、カルボニル-ヘテロ原子結合、例えばアミド、カルバメート、カーボネート、エステル、チオエステルおよび尿素結合、によって、自己環化性部分に接続することができる。」 (段落【0146】(摘記イ))

「・・・ある実施形態において、自己環化性部分の環化は、5または6員環を形成する。本明細書に開示するようなある実施形態において、該5または6員環は、窒素、酸素および硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含む複素環である。・・・」(段落【0010】(摘記ウ))

「そのようなある実施形態において、自己環化性部分は、環化すると5または6員環、好ましくは5員環、が形成されるように、選択することができる。そのようなある実施形態において、5または6員環は、酸素、窒素または硫黄から選択される少なくとも1つのヘテロ原子、好ましくは少なくとも2つのヘテロ原子(この場合のヘテロ原子は、同じであってもよいし、または異なってもよい)を含む。・・・」(段落【0140】(摘記ウ))

「【0147】
・・・。説明図のように、ABCは、選択性決定部分であり得、DEFGHは、自己環化性部分であり、ならびにABCは、酵素YがCとDの間を開裂させるように、選択することができる。CとDの間の結合の開裂がある点まで進行すると、DはHのほうに環化し、それによって治療薬Xまたはそのプロドラッグが放出されることとなる。
【0148】
【化29】

・・・。」(段落【0147】?【0148】(摘記オ))

しかしながら、本願明細書の発明の詳細な説明には、上記の一般的事項に次いで、それらを具体化した段階の説明としては、以下に示す事項しか記載されていない。

「【0013】
・・・ある実施形態では、自己環化性部分は、構造:
【0014】
【化1】

(式中、
Uは、NR^(1)およびSから選択され;
Xは、O、NR^(5)およびSから選択され;
Vは、O、SおよびNR^(4)から選択され;
・・・
【0016】
・・・ある実施形態において、自己環化性部分は、
【0017】
【化2】

から選択される。
【0018】
・・・ある実施形態において、Uは、自己環化性部分に結合している。」
(段落【0013】?【0018】(摘記ウ);段落【0141】?【0145】にも概ね同旨の記載がある。)

ここで、【化1】の各可変基の定義と【化2】の対応をみると、【化1】と【化2】とは左右が逆方向に表記されていて、【化2】の左末端のカルボニル基は、【化1】の右末端の「V」と「X」との間のカルボニル基に対応しており、【化1】の「X」に対応する部分は、【化2】には記載されていない。また、摘記ウには、【化1】の左末端の「U」は「自己環化性部分」に結合していると記載されているが、【化1】自身が「自己環化性部分」の実施形態であるから、該記載は矛盾しており、正しくは、「U」は「選択性決定部位」に結合するものと推定される。そうすると、【化1】の右末端の「-C(O)-X-」の部分(これは【化2】の左末端のカルボニル基に対応する。)が「治療薬」との結合部位であり、「-X-」は「治療薬」の末端基を示していると解され、摘記オの【化29】の説明図とも整合する。
そして、【化1】中の「自己環化性部分」と「選択性決定部位」との結合部位「U」の選択肢は「NR^(1)」か「S」であるから、両部分が「エステル結合」で連結された構造は採り得ず、また、「V」に「O」を選択した場合でも、「U」の選択肢には「O」がないため、自己環化が起きても「2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成」されることはない。
仮に、上記【化1】において、左末端の「U」が「治療薬」との結合部位であり、右末端の「-C(O)-X-」が「選択性決定部位」との結合部位であるとしても、「X」と「V」のいずれの選択肢にも「C」を含む基がないため、「自己環化性部分」と「選択性決定部位」が「エステル結合」で連結された構造は採り得ないし、「2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成」されることもない。

したがって、上記【化1】で規定された自己環化性部分を有するポリマーコンジュゲートは、上記「2酸素5員環形成条件」を満たしておらず、本件補正発明のポリマーコンジュゲートに該当しない。

また、実施例1?9(摘記ソ?ナ)において、製造された又は試験に用いられたポリマーコンジュゲートでは、「治療薬」として「エトポシド(ETOP)」(実施例1?3、5)又は「ツブリシン」(実施例4、6?9)が用いられているところ、各ポリマーコンジュゲートのテザーに対応する構造部分について、上記【化1】の記号を援用し、「選択性決定部位」の末端基-「U」及び「V」に対応する基を含む「自己環化性部分」-「治療薬」の末端基「X」の部分を、この順に左から右に向かって示すと、それぞれ以下のとおりである(実施例5の枝番は、当審合議体が便宜的に付与したものである。実施例3、5f及び5gのリン(P)を含んだ構造は、推測を含む。実施例7、8は前記2-1で摘記を省略している。なお、「エポチロン」については、摘記シ等に一般的な説明があるが、実施例は明細書中に記載されてない。)。

・実施例1(CDP-PEG-GFLG-MEDA-ETOP):
-C(O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-N(CH_(3))-C(O)-O-
・実施例2(CDP-カルバメート-S-S-エトポシド):
-S-S-CH_(2)-CH_(2)-NH-C(O)-O-
・実施例3(CDP-EDA-リン酸エステル-エトポシド):
-C(O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-NH-P(O)(OH)-
・実施例4(CDP-PEG-SS-ツブリシン):
-S-S-CH_(2)-CH_(2)-NH-C(O)-C(CH_(3))-
・実施例5a(CDP-GFLG-DMEDA-Etop):
-C(O)-N(CH_(3))-CH_(2)-CH_(2)-N(CH_(3))-C(O)-O-
・実施例5b(CDP-GFLG-MEDA-Etop):
-C(O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-N(CH_(3))-C(O)-O-
・実施例5c(CDP-PEG-GFLG-MEDA-Etop):
-C(O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-N(CH_(3))-C(O)-O-
・実施例5d(CDP-カーボネート-S-S-Etop):
-S-S-CH_(2)-CH_(2)-O-C(O)-O-
・実施例5e(CDP-カルバメート-S-S-Etop):
-S-S-CH_(2)-CH_(2)-NH-C(O)-O-
・実施例5f(CDP-EDA-EtopPhos):
-C(O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-NH-P(O)(OH)-
・実施例5g(CDP-EDA-EtopPhosphoester):
-C(O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-NH-P(O)(OH)-
・実施例6?9(CDP-PEG-SS-ツブリシン):
-S-S-CH_(2)-CH_(2)-NH-C(O)-C(CH_(3))-

上記いずれの実施例のポリマーコンジュゲートにおいても、「自己環化性部分」と「選択性決定部位」とは、「エステル結合」ではなく、「アミド結合」(実施例1、3、5a?5c、5f、5g)又は「ジスルフィド結合」(実施例2、4、5d、5e、6、9)で連結されており、仮に「自己環化性部分」の環化が実際に起きたとしても、生成し得るヘテロ環式環は、「2-イミダゾリジノン」(実施例1、3、5a?5c、5f、5g)、「2-チアゾリジノン」(実施例2、4、5e、6、9)又は「2-オキサゾリジノン」(実施例5d)であって、「2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環」は生成しない。

したがって、上記実施例1?9に記載されたポリマーコンジュゲートは、上記「2酸素5員環形成条件」を満たすものではなく、本件補正発明のポリマーコンジュゲートに該当しない。

なお、実施例4、6?9のポリマーコンジュゲートは、「治療薬」である「ツブリシン」の末端のカルボキシル基が、「自己環化性部分」に対応する部分と、「アミド結合」を形成しているため、この点でも、本件補正発明の「ここで、該治療薬が、エトポシド、ツブリシン、またはエポチロンを含み、そして該治療薬が、該治療薬のアミノ、ヒドロキシル、またはチオール基によって該自己環化性部分に連結されており、」
との条件を満たさない。そして、このようなポリマーコンジュゲートから、どのような反応によって「ツブリシン」が放出されるのかも不明である(ジスルフィド結合の開裂後に硫黄原子がアミド結合のカルボニル基を攻撃して自己環化が発生するのなら、放出されるツブリシンが本来のカルボキシル基を含まないものになると解される)。

そして、上記実施例1?9では、ポリマーコンジュゲートを製造し、インビトロ又はインビボ試験によって、細胞毒性や治療薬の放出動態を分析しているだけであり、反応生成物等を単離して分析し確認しているわけではないから、上記各実施例のポリマーコンジュゲートにおいて、実際に、「選択性決定部分」と「自己環化性部分」の間の結合が開裂し、「自己環化性部分」の環化が発生し、ヘテロ環式環が形成され、それによって「ポリマー」から「治療薬」が放出がされたのか否かは、確認されておらず、明らかでない。
ただし、前記2-3(5)で既述したとおり、本願の出願当時、分子内の鎖状構造部分のアミド結合の開裂によって、1つ又は2つの窒素を含む5員のヘテロ環式環(2-ピロリドン又は2-イミダゾリジノン)が形成され、それによって治療薬を放出する薬物送達系は、既に知られていたことが認められるから、上記各実施例に記載のポリマーコンジュゲートのうち、少なくとも、2-イミダゾリジノンが形成され得る構造を有するものについては、上記の反応が起きている可能性があると推定される。

以上のとおり、「2酸素5員環形成条件」という発明特定事項を含む本件補正発明については、本願明細書の発明の詳細な説明に、形式的にも、実施例等の裏付けとしても、何ら記載されていないから、そのような本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、当業者が本件補正発明のポリマーコンジュゲートを製造し使用できるとはいえない。

イ 技術常識を参酌した実施可能性について

前記アにて検討したとおり、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に、形式的にも実体としても全く記載されていないものであるが、本願出願時の技術常識を参酌して、これを実施し得るか、以下、検討する。

前記アにて確認したように、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1、5b及び5cのポリマーコンジュゲートは、「-C(O)-NH-CH_(2)-CH_(2)-N(CH_(3))-C(O)-O-」の構造部分を含むものであり、実施例5aのポリマーコンジュゲートは、「-C(O)-N(CH_(3))-CH_(2)-CH_(2)-N(CH_(3))-C(O)-O-」の構造部分を含むものである。そして、後者の構造部分については、段落【0232】?【0235】(摘記ス)に図解として記載されている実施形態のスキームに示されているものと同じである。
これらの記載に接した当業者ならば、本件補正発明の上記「2酸素5員環形成条件」を満たすポリマーコンジュゲートのテザーの構造として、上記の構造部分中の「-NH-」及び「-N(CH_(3))-」を、単純に「-O-]に置換して、「-C(O)-O-CH_(2)-CH_(2)-O-C(O)-O-」という構造を想起し得る可能性があり、自己環化が起きれば、「2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環」に該当する「1,3-ジオキソラン-2-オン」(炭酸エチレン)が生成し得ると、あくまでも机上においては、想定することができるといえる。

しかしながら、 前記アで既述のとおり、上記実施例1、5a、5b及び5cのポリマーコンジュゲートでさえも、実際に自己環化が起きたか否かは確認されておらず、あくまでも推定に過ぎない。
また、前記2-2(3)で既述のとおり、窒素原子と酸素原子では、形成し得る混成軌道の種類と共有結合の数が異なっており、窒素原子よりも酸素原子のほうが電気陰性度が大きく、両原子が他の異種原子と結合した場合の分極の大きさにも違いが生じるため、窒素原子を含む有機化合物と酸素原子を含む有機化合物では性質や反応性が異なる、ということが本願の出願当時の技術常識であったと認められる。

そうすると、上記実施例1、5a、5b及び5cのポリマーコンジュゲートにおいて、実際に自己環化が起きていたとしても、そのテザーの構造部分の「-NH-」及び「-N(CH_(3))-」を、いずれも「-O-]に置換したポリマーコンジュゲートにおいて、同様の自己環化が起こり、「2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環」に該当する「1,3-ジオキソラン-2-オン」(炭酸エチレン)が生成するものとは直ちに認められず、そのことを実際に試験し確認するには、当業者において過度の試行錯誤を要するものといわざるを得ない。

なお、この実施可能要件違反は、サポート要件違反とともに、審査の最初の拒絶理由通知の段階から一貫して指摘されていることであって、上記「2酸素5員環形成条件」を充足するようなポリマーコンジュゲートを実際に過度の負担なく製造し使用することができるのならば、請求人(出願人)は、意見書提出時又は審判請求時において、実験成績証明書等を提出し、それを立証することも可能であったところ、事後的に提出した実験成績証明書が、出願当初の明細書等の瑕疵を直ちに補い得るかは措くとして、請求人(出願人)は、そのような事実に基づく主張を行わず、観念的な反論を繰り返すだけであることからも、上記「2酸素5員環形成条件」を充足するようなポリマーコンジュゲートを製造し使用することは容易でないことが窺われる。

したがって、本願出願時の技術常識を参酌したとしても、当業者が、本願明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件訂正発明のポリマーコンジュゲートを製造し使用できるとはいえない。

(3)請求人の主張について

ア 請求人の主張の内容

請求人(出願人)は、平成29年8月16日提出の意見書において、以下の(ア)?(ウ)の主張をしている。
また、請求人は、平成30年4月9日提出の手続補正書(方式)により補正された審判請求書において、以下の(エ)の主張をしている。

(ア)「開示された実施例に基づいて、2つの酸素原子を含むヘテロ環およびエステル結合特徴について発明をどのように行うのかを、当業者は理解できると思料致します。例えば、当業者は、出願当初の明細書から、容易に、実施例1から出発して、ことを理解します、当業者は、該自己開環部分のアミド結合をエステルに変更してそしてカーボネート結合を、カーボネート結合のかわりに治療薬に変更し、そして反応が環化を起こしそして治療薬を放出するであろうことを理解します。
本願明細書を考慮しますと、特許請求の範囲に記載された自己環化性部分および自己環化性部分と選択性決定部分の間のエステル結合を含むテザーを製造することは可能でありそしてこのポリマーコンジュゲートが自己環化性部分の環状化に際して治療薬を放出するであろうことが理解されると思料致します。
本願明細書の第0147段落?第0148段落および第0231段落?0235段落は反応スキームを記載し、これは、治療薬を放出するためのカスケードを実証しています。0231段落?0234段落のスキームにおいて環状化された自己環化性部分はすべて、2つの窒素原子を含む5員環です。さらに、実施例2において環状化された自己環化性部分は、同様に5員環であり、これは1つの窒素および1つの硫黄を含みます。
このように、本願出願当初の明細書中で実証された自己環化性部分は、特許請求の範囲に記載された自己環化性部分と、環状化されて2つのヘテロ原子を含む5員環を形成する点で類似します。従いまして、当業者は、特許請求の範囲に記載された自己環化性部分が、出願当初の明細書に記載されたものと同様に製造できそして同様の様式で機能するであろうことを理解します。」

(イ)「自己環化性部分の環状化に際しての治療薬の放出に関して、補正前の請求項9および請求項10に記載されていた特徴を請求項1に導入しました。この補正により、治療薬の自己環化性部分への結合点を規定しました。補正後の発明について、自己環化性部分の環状化に際して、N、OもしくはS含有結合が破断され得ますので、治療薬が放出されます。
自己環化性部分と選択性決定部分の間のエステル結合に関しましては、当業者であれば、出願当初の明細書に記載された-S-S-結合およびアミド結合を適切に改変して、エステル結合にすることを理解できると思料致します。具体的には、当業者であれば、自己環化性部分および選択性決定部分を適切に選択しそしてそれらをエステル結合を介して結合させることができます。さらに、当業者であれば、エステル結合を切断するために必要とされる条件も容易に理解することができます。
上記を考慮しますと、本願補正後の特許請求の範囲に記載されたポリマーコンジュゲートは、充分に実施可能に記載されています。なぜなら、当業者は、特許請求の範囲に記載されたテザーを容易に作製することが可能でありそして自己環化性部分の環状化に際して治療薬が放出されるであろうことを理解できます。」

(ウ)「知的財産高等裁判所の平成22年1月28日付判決(平成21年(行ケ)第10033号審決取消請求事件)においては、以下のとおり判示されています。
『当裁判所は,審決が,法36条6項1号所定の「特許請求の範囲の記載は,・・・特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」との要件を満たすためには,医薬の用途発明では「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載をする」ことが必要であると同項を解釈し,本の特許請求の範囲は,同項1号の要件を満たさないとした点には,誤りがあると判断する。
その理由は,以下のとおりである。
…(中略)…
以上検討したとおり,審決は,法36条6項1号の要件を満たすためには,常に「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」が必要であるとの前提に立って,本願では,「薬理データ又はそれと同視すべき程度の記載がないこと」のみを理由に,同条6項1号の要件を充足しないとしたものであって,審決の判断には,理由不備の違法がある。
…(中略)…
(なお,発明の詳細な説明に記載された技術的事項が確かであるか否か等に関する具体的な論証過程が開示されていない場合において,法36条4項1号所定の要件を充足しているか否かの判断をするに際しても,たとえ具体的な記載がなくとも,出願時において,当業者が,発明の解決課題,解決手段等技術的意義を理解し,発明を実施できるか否かにつき,一切の事情を総合考慮して結論を導くべき筋合いである。)』
従いまして、かりに、具体的な記載がなくても、直ちに特許法36条第4項第1号または第6項第1号違反となるものではありません。
そして本願明細書の全体を考慮すれば、当業者は、本願発明を理解できるものと思料致します。」

(エ)「審判請求と同時に提出された手続補正書において、本出願人は、特許請求の範囲を補正しました。治療薬がエトポシド、ツブリシンまたはエポチリンを含むことを記載する補正を行いました。補正後の発明は、本願明細書中の、例えば0045段落?0055段落および実施例に支持されています。具体的には、実施例1?9は、特許請求の範囲に記載されたエトポシド、ツブリシン、またはエポチロンのコンジュゲートの合成および特徴付けを説明しています。本願補正後の請求項1は、さらに、治療薬がアミノ、ヒドロキシル、またはチオール基によって自己環化部分に連結されていることを明確に記載しています。
補正後の特許請求の範囲の記載を考慮すれば、当業者は、本願明細書の開示に基づいて本願特許請求の範囲の全体の範囲に包含されるコンジュゲートを作成することができそして使用することができます。本願明細書の記載および当業者の技術常識を考慮すれば、ご指摘の点に関して、当業者は本願発明を明確に理解することができそして実施することができると思料致します。本願明細書は本願発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていると思料致します。」

イ 請求人の主張の検討

請求人(出願人)の上記各主張について検討する。

(ア)主張(ア)及び(イ)について

請求人(出願人)は、要するに、当業者ならば、摘記オの説明図及び摘記スの反応スキームを参照し、実施例等のポリマーコンジュゲートにおいて、「アミド結合」を「エステル結合」に変更するなどして、上記「2酸素5員環形成条件」を充足するポリマーコンジュゲートを製造し使用できると主張しているが、上記(2)イで検討したとおり、そのようなポリマーコンジュゲートの一態様の構造は、あくまでも机上では想定し得るものの、実施例のポリマーコンジュゲートでさえも、実際に自己環化が起きたか否か確認されておらず、推定に過ぎないし、窒素原子を含む有機化合物と酸素原子を含む有機化合物では性質や反応性が異なるという、本願出願時の技術常識も考慮すると、当業者が上記「2酸素5員環形成条件」を満たすポリマーコンジュゲートを製造し使用できたとはいえない。

(イ)主張(ウ)について

請求人(出願人)が引用した判決は、サポート要件に関するものであり、発明の詳細な説明に具体的な記載がなくても、直ちに実施可能要件違反又はサポート要件違反となるものではないことは首肯し得るが、上記(2)イにおいて説示したとおり、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が本件補正発明のポリマーコンジュゲートを製造し使用できたとはいえない。

(ウ)主張(エ)について

本件補正発明のポリマーコンジュゲートは、治療薬がエトポシド、ツブリシン又はエポチリンを含むものに限定されたとしても、上記「2酸素5員環形成条件」については、拒絶査定時から変更されておらず、上記(2)にて指摘したように、本件補正発明のポリマーコンジュゲートは、本願明細書の発明の詳細な説明に、形式的にも、実施例等の裏付けとしても、何ら記載されておらず、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が製造し使用できたものとはいえない。

(エ)まとめ

以上のとおり、請求人(出願人)の上記主張(ア)?(エ)は、いずれも採用できない。

(4)実施可能要件についての判断のまとめ

以上のとおり、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載又は示唆及び本願の出願当時の技術常識に基づいて、本件補正発明のポリマーコンジュゲートの生産及び使用をすることができることを、当業者が理解することができる程度に記載されていないから、本願明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件補正発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。
よって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件補正発明について特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-5 特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)
について

(1)判断の前提

特許法第36条第6項第1号は、特許請求の範囲の記載が適合するものでなければならない要件として、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」(いわゆる「サポート要件」)を規定している。
そして、特許請求の範囲の記載が、同要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と明細書の発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、を検討して判断すべきものである。
そこで、本件補正発明に係る請求項1の記載が、サポート要件を満たすか否か、以下、検討する。

(2)判断

本件補正発明の発明特定事項、及び、本願明細書の発明の詳細な説明における、前記2-1の摘記ア?イの記載からみて、本件補正発明が解決しようとする課題は、「生物学的な条件下で開裂して治療薬を放出する連結機構によって治療薬に共有結合で連結された水溶性、生体適合性ポリマーを含む、水溶性、生体適合性ポリマーコンジュゲートを提供する」ことであると認められる。
そして、前記2-4で検討したように、「2酸素5員環形成条件」により特定された本件補正発明のポリマーコンジュゲートは、本願明細書の発明の詳細な説明には、形式的にも、実施例等の裏付けとしても、何ら記載されておらず、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が製造し使用することができたものでないから、上記課題も解決できるとはいえない。
したがって、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。

(3)請求人の主張について

請求人(出願人)によるサポート要件についての上記意見書における主張及び上記審判請求書における主張は、上記2-4(3)で既に検討した実施可能要件についての主張と共通するものであり、上記のとおりいずれも採用できない。

(4)サポート要件についての判断のまとめ

以上のとおり、本件補正発明は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないから、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない。
よって、本件補正発明に係る請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

2-6 特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性)について

前記2-4にて検討したように、「2酸素5員環形成条件」により特定された本件補正発明のポリマーコンジュゲートは、本願明細書の発明の詳細な説明に、形式的にも、実施例等の裏付けとしても、何ら記載されておらず、本願出願時の技術常識を参酌しても、当業者が製造し使用することができたものでないため、具体的に如何なる構造のテザーならば上記「2酸素5員環形成条件」を満たすのかを、当業者が明確に把握することができない。
したがって、本件補正発明は明確でなく、同発明に係る請求項1の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件補正発明は特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 補正の却下の決定のむすび

以上のとおり、本件補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることできるものでないから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するため、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。

第3 本願発明について

1 本願発明

本件補正は上記のとおり却下されたので、本願に係る発明は、平成29年8月16日提出の手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし18に記載された事項により特定されるとおりものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
テザーによってポリマーに共有結合で連結された治療薬を含む、線状の、シクロデキストリン含有ポリマーコンジュゲートであって、ここで、該テザーは、自己環化性部分および選択性決定部分を含み、
ここで、該選択性決定部分は、該自己環化性部分と該ポリマーとの間で該自己環化性部分に結合され、そして
ここで、該選択性決定部分は、エステル結合によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該選択性決定部分と該自己環化性部分との間の結合の開裂は、該自己環化性部分の環化を発生させ、2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され、それによって該ポリマーから該治療薬を放出し、
ここで、該治療薬が、アミノ、ヒドロキシル、またはチオール基を含み、そして該治療薬が、該治療薬のアミノ、ヒドロキシル、またはチオール基によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該線状の、シクロデキストリン含有ポリマーコンジュゲートが、シクロデキストリンを含まないリンカー基およびシクロデキストリン部分を含むコポリマーを含む、
ポリマーコンジュゲート。」
(注:本件補正による変更箇所の変更前の記載に、当審合議体が下線を付した。)

2 原査定の拒絶の理由

原査定は、「この出願については、平成29年2月13日付け拒絶理由通知書に記載した理由1?3によって、拒絶をすべきものです。」というものであり、当該拒絶理由通知書に記載した理由1?3は次のとおりである。
「1.(実施可能要件)この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
2.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
3.(サポート要件)この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」

そして、原査定の「備考」欄には、上記理由1?3のいずれについても、請求項1?18を査定の対象とすることが示されており、そのうち請求項1に係る発明が上記「本願発明」である。

また、上記拒絶理由通知書及び原査定の「備考」欄には、上記理由1?3について、概略、次のことが指摘されている。

(1)理由1(実施可能要件)について

本願発明は、ポリマーコンジュゲート中のテザーに関し、「該選択性決定部分は、エステル結合によって該自己環化性部分および該ポリマーに連結されており、そしてここで、該選択性決定部分と該自己環化性部分との間の結合の開裂は、該自己環化性部分の環化を発生させ、2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され、それによって該ポリマーから該治療薬を放出し、」という特定をしているが、発明の詳細な説明には、(i)2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され得る自己環化性部分の具体的な開示はなく、(ii)そのような特定の自己環化性部分がエステル結合によって選択性決定部分に結合した構造の具体的な開示もなく、当該技術分野の技術常識を考慮しても、上記のように特定されるテザーの構造及びその製造方法が発明の詳細な説明の記載から当業者に自明であるとも、当該テザーを含む本願発明のポリマーコンジュゲートが自己環化性部分の環形成に伴って治療薬を放出できることが発明の詳細な説明の記載から当業者に自明であるとも、直ちには認められないから、発明の詳細な説明は、当業者が本願発明に係るポリマーコンジュゲートを製造し使用することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない。

(2)理由2(サポート要件)について

上記(1)で既述のとおり、当該技術分野の技術常識を考慮しても、本願発明が特定するテザーの構造、及び、当該テザーを含む本願発明のポリマーコンジュゲートが自己環化性部分の環形成に伴って治療薬を放出できることが、発明の詳細な説明の記載から当業者に自明であると、直ちには認められないから、出願時の技術常識に照らしても、本願発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。

(3)理由3(明確性)について

発明の詳細な説明の記載を参酌しても、「該選択性決定部分は、エステル結合によって該自己環化性部分および該ポリマーに連結されており、そしてここで、該選択性決定部分と該自己環化性部分との間の結合の開裂は、該自己環化性部分の環化を発生させ、2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され、それによって該ポリマーから該治療薬を放出し、」という事項によって特定されるテザーを含むポリマーコンジュゲートの構造を、当業者が把握することができないため、本願発明は明確でない。

3 当審の判断

(1)理由1(実施可能要件)について

前記第2の2で認定したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当するから、本件補正前の請求項1に記載された発明である本願発明は、本件補正発明を特定する事項を全て含むものであり、ポリマーコンジュゲートを構成する治療薬について、本件補正発明は、「エトポシド、ツブリシン、またはエポチロンを含み、」とし、治療薬自体まで具体的に限定しているのに対し、本願発明は、「アミノ、ヒドロキシル、またはチオール基を含み、」とし、治療薬に含まれる官能基を規定するに留まる。
また、
「ここで、該選択性決定部分は、エステル結合によって該自己環化性部分に連結されており、そして
ここで、該選択性決定部分と該自己環化性部分との間の結合の開裂は、該自己環化性部分の環化を発生させ、2つの酸素原子を含む5員のヘテロ環式環が形成され、それによって該ポリマーから該治療薬を放出し、」
という、「2酸素5員環形成条件」については、本件補正発明と本願発明の間で、補正による変更はなく、共通している。
そうすると、本願発明と比べて、治療薬の部分がより具体的に限定された本件補正発明について、前記第2の2の2-4で判断したように、本願明細書の発明の詳細な説明には、その記載又は示唆及び本願の出願当時の技術常識に基づいて、「2酸素5員環形成条件」で特定されたテザーを構成部分として含むポリマーコンジュゲートを生産し使用できることが当業者に理解できるように記載されていないのであるから、本件補正発明を包含する関係にあり、同じく「2酸素5員環形成条件」を特定事項とする本願発明も、本願明細書の発明の詳細な説明に、その生産及び使用をすることができることが当業者に理解できるように記載されているとはいえない。

したがって、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでなく、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

(2)理由2(サポート要件)について

本願発明と本件補正発明との関係は、上記(1)に既述のとおりである。

そして、本願発明と比べて、治療薬の部分がより具体的に限定された本件補正発明が、前記第2の2の2-5で判断したように、本願出願当時の技術常識に照らして、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、「生物学的な条件下で開裂して治療薬を放出する連結機構によって治療薬に共有結合で連結された水溶性、生体適合性ポリマーを含む、水溶性、生体適合性ポリマーコンジュゲートを提供する」、という発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものであるから、本件補正発明を包含する関係にあり、同じく「2酸素5員環形成条件」を特定事項とする本願発明も、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲を超えるものである。

したがって、本願発明は、本願明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本願発明に係る請求項1の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

(3)理由3(明確性)について

本願発明と本件補正発明との関係は、上記(1)に既述のとおりである。

そして、本願発明と比べて、治療薬の部分がより具体的に限定された本件補正発明は、前記第2の2の2-6で判断したように、「2酸素5員環形成条件」で特定されたテザーを含むポリマーコンジュゲートの構造が不明確であるから、本件補正発明を包含する関係にあり、同じく「2酸素5員環形成条件」を特定事項とする本願発明のポリマーコンジュゲートの構造も不明確である。

したがって、本願発明は明確でないから、本願発明に係る請求項1の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

第4 むすび

以上のとおり、本願については、明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、特許請求の範囲の記載が、同条第6項第1号及び第2号に規定する要件を満たしていないから、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
別掲
 
審理終結日 2019-09-11 
結審通知日 2019-09-12 
審決日 2019-09-26 
出願番号 特願2016-43527(P2016-43527)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (A61K)
P 1 8・ 575- Z (A61K)
P 1 8・ 536- Z (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 天野 貴子  
特許庁審判長 滝口 尚良
特許庁審判官 前田 佳与子
井上 典之
発明の名称 制御された薬物送達のためのテザー基を有するポリマー-薬物コンジュゲート  
代理人 山本 秀策  
代理人 森下 夏樹  

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