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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1359578
異議申立番号 異議2018-701015  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-12-13 
確定日 2020-01-17 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6342691号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6342691号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第6342691号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 特許第6342691号の請求項3に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6342691号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年4月14日の出願であって、平成30年5月25日にその特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年6月13日に特許掲載公報が発行されたものである。その後、本件特許に対して、次のとおりの手続が行われた。
平成30年12月13日 :特許異議申立人 佐藤雅彦(以下、「特許異 議申立人」という。)による請求項1ないし 3に係る特許に対する特許異議の申立
平成31年 2月28日付け:取消理由通知
令和 1年 5月 7日 :特許権者 株式会社ブリヂストン(以下、
「特許権者」という。)による意見書の提出 及び訂正請求(特許法第120条の5第7項 の規定により、取り下げられたものと見なさ れる。)
令和 1年 6月17日 :特許異議申立人による意見書の提出
令和 1年 7月 9日付け:取消理由通知(決定の予告)
令和 1年 9月 5日 :特許権者による意見書の提出及び訂正請求
(以下、「本件訂正請求」という。)
令和 1年10月 4日付け:訂正拒絶理由通知
令和 1年10月16日 :特許権者による意見書及び手続補正書の提出
令和 1年11月25日 :特許異議申立人による意見書の提出


第2 訂正の拒否についての判断

1 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について付したものである。)

訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記周方向ベルト層の前記コードのヤング率をY(GPa)、該周方向ベルト層の層数をm、および50mmあたりの該コードの打ち込み本数をnとして、X=Y×m×nと定義するとき、Xが750以上である」と記載されているのを、「前記周方向ベルト層の前記コードのヤング率をY(GPa)、該周方向ベルト層の層数をm、および50mmあたりの該コードの打ち込み本数をnとして、X=Y×m×nと定義するとき、Xが750以上であり、前記インナーライナーの厚みが全体で均一である」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する。

訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1について
訂正事項1は、インナーライナーの厚みが全体で均一であることをさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、明細書の段落【0019】には、「インナーライナー18の厚みが全体で均一であってもよい。」と記載され、段落【0023】の【表1】、段落【0024】の【表2】には、インナーラーナーの厚みとして全域に亘って所定の厚みの実施例も記載されていることから、請求項1に係る訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
請求項1の記載を引用する請求項2も同様である。

訂正事項2について
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正であり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。


第3 本件発明

上記第2のとおり、訂正後の請求項[1?3]について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下、「本件発明1」ないし「本件発明2」という。)は、令和1年9月5日に提出され、令和1年10月16日に提出された手続補正書により補正された訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
1対のビード部間に跨るカーカスと、前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されるとともにタイヤ周方向に沿って延びるコードを有する少なくとも1層の周方向ベルト層からなる周方向ベルトと、前記カーカスの内側に配設されるインナーライナーと、を備える空気入りタイヤであって、
前記タイヤのサイド部の少なくとも一部における前記インナーライナーの厚みが1.5mm以上であり、
前記周方向ベルト層の前記コードのヤング率をY(GPa)、該周方向ベルト層の層数をm、および50mmあたりの該コードの打ち込み本数をnとして、X=Y×m×nと定義するとき、Xが750以上であり、
前記インナーライナーの厚みが全体で均一である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記インナーライナーの厚みが2.8mm以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。」


第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について

特許異議申立人が特許異議申立書において、請求項1?3に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。

1 甲第1号証を主引用例とする進歩性

本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 甲第2号証を主引用例とする進歩性

本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第2号証及び甲第3号証ないし甲第5号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

・甲第1号証:国際公開第2011/161854号
・甲第2号証:特開2000-203212号公報
・甲第3号証:特開平7-1924号公報
・甲第4号証:特開2013-244934号公報
・甲第5号証:特開2003-200707号公報

なお、甲第5号証は、本件特許の請求項3に係る発明に対して引用される文献である。


第5 令和1年7月9日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由について

請求項1ないし3に係る特許に対して、当審が令和1年7月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明並びに周知技術に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

甲第1号証:国際公開第2011/161854号
甲第3号証:特開平7-1924号公報


第6 当審の判断

1 取消理由についての検討

(1) 甲第1号証および甲第3号証の記載について

ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明について

甲第1号証には、次の記載がある。

「【請求項1】
一対のビード部間でトロイダル状に跨る、ラジアル配列コードのプライからなるカーカスのタイヤ径方向外側に1層以上のベルト層からなるベルト、トレッドを順に備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記タイヤの断面幅Wと外径Lとの比W/Lが0.25以下であり、
前記ベルトとトレッドとの間に、高剛性のベルト補強層を有することを特徴とする、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」

「【請求項3】
前記ベルト補強層は、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなり、前記コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、前記ベルト補強層をm層として、
X=Y×n×m
と定義するとき、
X≧750
であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」

これらの記載から見て、甲第1号証には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「一対のビード部間でトロイダル状に跨る、ラジアル配列コードのプライからなるカーカスのタイヤ径方向外側に1層以上のベルト層からなるベルト、トレッドを順に備えた、乗用車用空気入りラジアルタイヤであって、
前記タイヤの断面幅Wと外径Lとの比W/Lが0.25以下であり、
前記ベルトとトレッドとの間に、高剛性のベルト補強層を有し、
前記ベルト補強層は、タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層からなり、前記コードのヤング率をY(GPa)、打ち込み数をn(本/50mm)とし、前記ベルト補強層をm層として、
X=Y×n×m
と定義するとき、
X≧750
である、乗用車用空気入りラジアルタイヤ。」

イ 甲第3号証に記載された事項

甲第3号証には、次の記載がある。

「【0008】本発明は、乗心地を損なうことなくタイヤの通過騒音を低減することによって、車両の騒音を低下しうる空気入りラジアルタイヤの提供を目的としている。」

「【0011】
【作用】トレッド部はカーカスに加えて2枚のベルトプライによって形成されるベルト層を配し、しかも各ベルトプライのコードは互いに交差する向きに配しており、ベルトコードはカーカスのカーカスコードと協同して三角構成をなし、トレッド部の剛性を著しく高め、タイヤ走行時におけるトレッド部における振動の発生を抑制し、タイヤの通過騒音を低減しうる。
【0012】又サイドウォール部においてインナーライナの内壁面に規制された範囲においてゴム組成物からなるライニングストリップを貼着している。このようなライニングストリップを貼着することによって、タイヤ本体の共振状態における振動モードが変化する。」

「【0023】
【実施例】以下本発明の一実施例を図面に基づき説明する。図において、空気入りラジアルタイヤ1は、トレッド部2とその両側からタイヤ半径方向内方にのびる一対のサイドウォール部3、3と該サイドウォール部3の内方にのびるビード部4とを有し、図1には、正規のリムJにリム組みし、正規内圧を充填した正規状態を示している。
【0024】又空気入りラジアルタイヤ1には、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4に至る本体部6aにビードコア5の周りをタイヤ軸方向内側から外側に向かって折返す折返し部6bを具えるカーカス6と、該カーカス6の外側かつトレッド部の内方に配されるベルト層7と、前記ビードコア5の半径方向外向き面からカーカス6の本体部6aと折返し部6bとの間を立上がるビードエーペックス8とを具える。」

「【0033】サイドウォール部3におけるインナーライナ11の内壁面10には、ライニングストリップ9が嵌着される。
【0034】ライニングストリップ9は、ビード部4の底面4aを通るタイヤ軸に平行な直線であるビードベースラインLから半径方向外方にタイヤ断面高さHの0.20?0.30倍の距離HLを隔てる内壁面10上の点である内方点Aと、前記ビードベースラインから半径方向外方に、タイヤ断面高さHの0.70?0.85倍の距離を隔てる外方点Bとの間で、前記インナーライナ11に密着させて貼着される。
【0035】ライニングストリップ9は、本実施例では、略均一の厚さをなす主部9Aと、この主部9Aのタイヤ半径方向上下の端部域に形成される厚さを除々に減じたテーパ状部9Bとから構成されるものを例示している。又テーパ状部9Bは、ラインニングストリップ9の前記内方点A、外方点Bから、夫々ライニングストリップの全長(HU-HL)に対して10?30%のタイヤ半径方向の長さTPで形成することが望ましい。
【0036】前記テーパ状部9Bの長さTPが、ライニングストリップ9の全長(HU-HL)の10%未満とすると、テーパ状部9Bの剛性変化が著しく操縦安定性を損なう傾向にある一方、30%を越えると振動抑制効果を低下させる傾向にあるため、10?30%とすることが好ましい。
【0037】又前記ライニングストリップ9は、タイヤ最大巾WTの位置Mにおける厚さTを、インナーライナを含むサイドウォール部の厚さtの0.15倍以上かつ0.55倍以下としている。前記厚さTがサイドウォール部の厚さtのが0.15倍未満とすると、振動抑制効果を低下させる一方、0.55倍を越えると、乗心地を損なうからである。」





(2) 本件発明1ないし2と引用発明との対比・判断

ア 本件発明1について

本件発明1と引用発明とを対比する。

引用発明の乗用車用空気入りラジアルタイヤは、「カーカスのタイヤ径方向外側に1層以上のベルト層からなるベルト、トレッドを順に備えた」ものであるとともに、「ベルトとトレッドとの間に、高剛性のベルト補強層を有する」ものであり、かつ、ベルト補強層は、「タイヤ周方向に延びるコードのゴム引き層」からなるものである。してみると、引用発明の「ベルト補強層」は、本件発明1の「周方向ベルト層」に相当するものといえる。そして、引用発明の「1層以上のベルト層」及び「ベルト補強層」をあわせたものは、本件発明1の「少なくとも1層の周方向ベルト層からなる周方向ベルト」に相当する。

したがって、両者は、
「1対のビード部間に跨るカーカスと、前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されるとともにタイヤ周方向に沿って延びるコードを有する少なくとも1層の周方向ベルト層からなる周方向ベルトと、を備える空気入りタイヤであって、
前記周方向ベルト層の前記コードのヤング率をY(GPa)、該周方向ベルト層の層数をm、および50mmあたりの該コードの打ち込み本数をnとして、X=Y×m×nと定義するとき、Xが750以上である、空気入りタイヤ。」
で一致し、以下の点で相違する。

・相違点1
本件発明1は、カーカスの内側に「インナーライナー」が配設されるものであって、インナーライナーの厚みが「1.5mm以上」であるととともに、「インナーライナーの厚みが全体で均一」であることを特定するのに対して、引用発明はそのような特定事項を有しない点。

以下、相違点1について判断する。

甲第3号証の記載を総合すると、甲第3号証は、インナーライナにおいて、サイドウォール部にライニングストリップを設けること、つまり、サイドウォール部のインナーライナの厚みを増大させることにより、タイヤの通過騒音を低減するとの技術を開示するものである。
そうすると、引用発明のような「乗用車用空気入りラジアルタイヤ」の技術分野において、カーカスの内側にインナーライナーを設けることは、周知(以下、「周知技術」という。)であるところ、引用発明に、甲第3号証に記載された技術事項を適用すると、サイドウォール部のインナーライナーを増大させるものとなり、「インナーライナーの厚みが全体に均一」とはなり得ない。
また、特開2014-31038号公報(甲第6号証)、特許第5342684号公報(甲第7号証)にあるように、インナーライナーの厚みとして均一のものが本件の出願時に知られているとしても、本件発明1は、インナーライナーの厚みを「1.5mm以上」かつ「厚みが全体で均一」とすることにより、「カーカスラインに影響を与えること無く80から100Hzの車内騒音を低減しながら、転がり抵抗の増大も抑制し得る」(段落【0009】)との予測できない効果を奏するものであるといえる。

したがって、本件発明1は、引用発明及び甲第3号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件発明1は、引用発明及び甲第3号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2もまた、引用発明及び甲第3号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


2 採用しなかった異議申立理由について

(1) 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった異議申立理由の概略は次のとおりである。

ア 本件発明1ないし3について、甲第1号証を主引用例とし、甲第4号証を副引用例とする進歩性の欠如

イ 本件発明1ないし3について、甲第2号証を主引用例とし、甲第3号証あるいは甲第4号証を副引用例とする進歩性の欠如

(2) 甲第2号証、甲第4号証及び甲第5号証の記載について

ア 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明について

甲第2号証には、次の記載がある。

「【請求項1】 一対のビード間にわたって形成されるカーカスのクラウン部外周側に位置するベルト層の全幅を覆って配置されるベルト補強層を備えたラジアルタイヤであって、ベルト補強層がタイヤ周方向に延びるコードで補強された少なくとも一層のゴム層よりなり、少なくともベルト補強層幅方向中央部のコードがポリエチレン-2,6-ナフタレートコードからなり、ベルト幅方向両端部のコードが引張弾性率9.8GPa以上の有機繊維コードからなることを特徴とするラジアルタイヤ。」

「【0026】次に、図1を参照して、本発明にかかるラジアルタイヤの一例を説明する。1対のビード1,1′間にわたってカーカス2が配置され、そのクラウン部3には、スチールコードにより補強された2枚のベルト層4、4′が配置され、その外側でかつトレッド5の内側に、ベルト補強層6(図2(a)の構造を例示)が形成されている。」

「【0037】
【実施例】本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって限定されない。
【0038】各実施例および各比較例において、タイヤサイズ195/65R14のタイヤを作製した。なお、タイヤの加硫条件は180℃×13分であり、ポストキュアインフレーション条件は内圧0.25MPa、26分である。また、カーカスコードはポリエチレンテレフタレートコードを使用した。
【0039】供試タイヤ構造は、チューブレス構造であり、ベルトはスチールコードで補強した2層(第1ベルト幅150mm、第2幅140mm)とした。そのスチールコードは1×5×0.23構造、打込み数34.0本/5cmであり、第1ベルト層の角度は周方向に対して左22度、第2ベルト層の角度は周方向に対して右22度とした。
【0040】さらに、ベルト補強層は、補強コードがタイヤ周方向に対して、0?5℃に配列されており、構造およびコード種は表2および3に示すとおりである。なお、ベルト補強層は、所定の有機繊維コード5?20本をゴム引きし、5?20mm幅のストリップとし、これを、タイヤ周方向にラセン状に巻きつけて、上記コード方向で形成された。
【0041】ベルト補強層の補強コードである、ポリエチレン-2,6-ナフタレートコード、アラミド繊維コード、ポリエチレンケトン繊維コードは、1670dtex/2で使用し、コード打込み数は、各コード共に50本/5cmである。」

「【0042】上記の各タイヤにつき、下記の測定・評価を行った。
引張弾性率の測定方法
未走行新品時のタイヤから、ベルト補強層コードを傷つけることなく、注意深く取り出し、コードに付着している余分なゴムをはさみにより注意深くそぎ落とした後、JIS LlO17に従い、オートグラフ(島津製作所製)にて室温(25±2℃)で引張荷重-伸度曲線を描く。この荷重-伸長曲線の荷重軸を引張前の総デシテックス数で除した値に換算することにより、応力-伸度曲線に書き直し、この曲線の7.94mN/dtex荷重点に接線を引き、この接線の傾きを求める。この値に〔0.981×繊維の比重〕を乗じた値がここでいう引張弾性率(GPa)である。」


「【0045】
【表1】



「【0046】
【表2】







これらの記載、特に請求項1、段落【0041】の記載から見て、甲第2号証には以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認める。

「一対のビード間にわたって形成されるカーカスのクラウン部外周側に位置するベルト層の全幅を覆って配置されるベルト補強層を備えたラジアルタイヤであって、ベルト補強層がタイヤ周方向に延びるコードで補強された少なくとも一層のゴム層よりなり、少なくともベルト補強層幅方向中央部のコードがポリエチレン-2,6-ナフタレートコードからなり、ベルト幅方向両端部のコードが引張弾性率9.8GPa以上の有機繊維コードからなり、そのコード打ち込み数が50本/5cmである、ラジアルタイヤ。」

イ 甲第4号証の記載事項

甲第4号証には次の記載がある。

「【請求項1】
一方のビードコアと他方のビードコアとの間に跨るカーカスと、
前記カーカスのタイヤ軸方向外側に配置されるビードフィラーと、
前記カーカスのタイヤ内面側に配置され、前記ビードフィラーと対向する部分の耐酸素透過性能が、前記ビードフィラーと対向しない他の部分の耐酸素透過性能よりも大きく設定されたインナーライナーと、
を有する空気入りタイヤ。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに係り、特にはビード部の耐久性を向上させた空気入りタイヤ関する。」

「【0016】
図1を用いて、本発明の一実施形態に係る空気入りタイヤ10について説明する。
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ10は、一対のビードコア12間を跨がる第1のカーカスプライ13、及び第2のカーカスプライ14からなるカーカス16を備えている。
第1のカーカスプライ13、及び第2のカーカスプライ14は、何れも互いに平行に配列した有機繊維等からなる複数本のコードをゴム被覆した一般的な構造のものである。」

「【0027】
空気入りタイヤ10の内面には、サイドゴム層22を形成するゴム、及びトレッドゴム層44を形成するゴムよりも空気不透過性に優れるゴムからなるインナーライナー50が設けられている。インナーライナー50には、空気入りタイヤにおいて一般的に用いられるブチル系のゴム組成物が用いられている。」

「【0037】
図1、及び図2に示すように、本実施形態のインナーライナー50は、トレッド部42、及びショルダー部52、及びタイヤサイド部20と対向する部分の厚みが一定であり、第2ビードフィラー48と対向する部分の厚みのみが、トレッド部42、及びショルダー部52、及びタイヤサイド部20と対向する部分よりも厚く形成されている。」

「【0041】
本実施形態では、気体不透過強化部54の耐酸素透過性能を、インナーライナー50のうちで第2ビードフィラー48と対向しない部分の耐酸素透過性能の1.2倍以上とするために、インナーライナー50の気体不透過強化部54の厚みt1を、インナーライナー50の他の部分(例えば、タイヤ赤道面CL上)の厚みt2の1.2倍以上に設定している。
なお、インナーライナー50の気体不透過強化部54の厚みt1の上限は、インナーライナー50の他の部分の厚みt2の2.0倍以下に設定することが好ましい。
【0042】
ここで、空気入りタイヤ10がライト(軽)トラック用である場合、インナーライナー50の気体不透過強化部54以外の部分の厚みt2は、例えば、1.0?2.5mmの範囲内とすることが好ましい。」

「【0043】
(作用)
本実施形態の空気入りタイヤ10のインナーライナー50は、第2ビードフィラー48と対向する気体不透過強化部54の厚みt1を、第2ビードフィラー48と対向しない他の部分の厚みt2の1.2倍以上に設定したので、気体不透過強化部54の耐酸素透過性能が第2ビードフィラー48と対向しない他の部分の耐酸素透過性能の1.2倍以上となり、タイヤ内に充填した空気中の酸素がインナーライナー50を透過して第2ビードフィラー48に到達することが抑えられる。
【0044】
これにより、タイヤ内に充填した空気中の酸素による第2ビードフィラー48の劣化を抑えることができ、空気入りタイヤ10のビード部24の耐久性が確保される。」





ウ 甲第5号証の記載事項

甲第5号証には次の記載がある。

「【請求項1】 ビード部と、サイド部と、トレッド部と、カーカスと、ベルトと、インナーライナーとを備えた空気入りタイヤにおいて、前記インナーライナーはポリビニルアルコール系重合体よりなる層(A)と該層(A)に隣接して配設したエラストマーを配合してなる層(B)とを含み、該層(B)の各ベルト端からビード部までの領域で、少なくとも30 mmの半径方向幅に相当する該層(B)の部分が、該層(B)のベルト」

「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は空気入りタイヤに関し、より詳細には、タイヤ重量を増加することなく、内圧保持性を改良する技術に関する。」

「【0010】
【発明の実施の形態】以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の空気入りタイヤは、空気不透過性層としてのポリビニルアルコール系重合体よりなる層(A)と該層(A)に隣接して設けた補助層としてのエラストマーを配合してなる層(B)とを含むインナーライナーを備える。ここで、タイヤ内に充填する気体としては、空気、又は窒素等の不活性なガスが挙げられる。」

「【0020】図1に本発明にかかわる空気入りタイヤの一例を示す。図示例のタイヤは、空気不透過性層2と補助層3とからなるインナーライナー1と、一対のビードコア4間に渡ってトロイド状に延在し、ビード部5、サイド部6、トレッド部7を補強するラジアルカーカス8と、ラジアルカーカス8のクラウン部の半径方向外側でトレッド部7の内側に配設した少なくとも2層よりなるベルト9とを備えてなる。補助層3は、ベルト9の各端からビード部5までの領域において、少なくとも30 mmの半径方向幅に相当する増厚部分3aを有する。増厚部分3aは、ベルト9下部に対応する補助層3の部分より0.2 mm以上厚くした部分である。」





(3) 本件発明1ないし2と引用発明との対比・判断

ア 引用発明を主引用例とし、甲第4号証を副引用例とする場合

(ア) 本件発明1について

本件発明1と引用発明との間の一致点・相違点については、「第6 1(2)ア」のとおりであり、その相違点は次のとおりである。

・相違点2(相違点1と同じ)
本件発明1は、カーカスの内側に「インナーライナー」が配設されるものであって、インナーライナーの厚みが「1.5mm以上」であるととともに、「インナーライナーの厚みが全体で均一」であることを特定するのに対して、引用発明はそのような特定事項を有しない点。

以下、相違点2について判断する。

甲第4号証は、「インナーライナー50は、第2ビードフィラー48と対向する気体不透過強化部54の厚みt1を、第2ビードフィラー48と対向しない他の部分の厚みt2の1.2倍以上に設定」すること、つまり、第2ビードフィラーと対向する気体不透過強化部のインナーライナーの厚みを増大させることにより、タイヤ内に充填した空気中の酸素がインナーライナーを透過して第2ビードフィラーに到達することを抑えるとの技術を開示するものである。
そうすると、周知技術に従って引用発明にインナーライナーを設けるにあたり、甲第4号証に記載された技術事項を適用すると、第2ビードフィラーと対向する気体不透過強化部のインナーライナーの厚みを増大させるものとなり、「インナーライナーの厚みが全体に均一」とはなり得ない。
また、特開2014-31038号公報(甲第6号証)、特許第5342684号公報(甲第7号証)にあるように、インナーライナーの厚みとして均一のものが本件の出願時に知られているとしても、本件発明1は、「第6 1(2)ア」で検討したとおり、予測できない効果を奏するものであるといえる。

したがって、本件発明1は、引用発明及び甲第4号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件発明1は、引用発明及び甲第4号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2もまた、引用発明及び甲第4号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲第2号証を主引用例とし、甲第3号証あるいは甲第4号証を副引用例とする場合

(ア) 本件発明1について

本件発明1と甲2発明とを対比する。

甲2発明のラジアルタイヤは、「一対のビード間にわたって形成されるカーカスのクラウン部外周側に位置するベルト層の全幅を覆って配置されるベルト補強層を備えた」ものであり、かつ、ベルト補強層は、「タイヤ周方向に延びるコードで補強された少なくとも一層のゴム層」よりなるものである。してみると、甲2発明の「ベルト補強層」は、本件発明1の「周方向ベルト層」に相当するものといえる。そして、甲2発明の「ベルト層」及び「ベルト補強層」をあわせたものは、本件発明1の「少なくとも1層の周方向ベルト層からなる周方向ベルト」に相当する。
さらに、甲2発明の「ラジアルタイヤ」は、本件発明1の「空気入りタイヤ」に相当する。

したがって、両者は、
「1対のビード部間に跨るカーカスと、前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されるとともにタイヤ周方向に沿って延びるコードを有する少なくとも1層の周方向ベルト層からなる周方向ベルトと、を備える空気入りタイヤ。」
で一致し、以下の点で相違する。

前記周方向ベルト層の前記コードのヤング率をY(GPa)、該周方向ベルト層の層数をm、および50mmあたりの該コードの打ち込み本数をnとして、X=Y×m×nと定義するとき、Xが750以上である、空気入りタイヤ。」
で一致し、以下の点で相違する。

・相違点3
本件発明1は、カーカスの内側に「インナーライナー」が配設されるものであって、インナーライナーの厚みが「1.5mm以上」であるととともに、「インナーライナーの厚みが全体で均一」であることを特定するのに対して、甲2発明はそのような特定事項を有しない点。

・相違点4
本件発明1は、「前記周方向ベルト層の前記コードのヤング率をY(GPa)、該周方向ベルト層の層数をm、および50mmあたりの該コードの打ち込み本数をnとして、X=Y×m×nと定義するとき、Xが750以上である」が、甲2発明のラジアルタイヤは、そのような特定を有さない点。

上記相違点について検討する。
相違点3は、「第6 1(2)ア」の「相違点1」、あるいは、「第6 2(3)ア(ア)」の相違点2と同じである。
そして、副引用例として甲第3号証を用いた場合の「第6 1(2)ア」での検討、あるいは、副引用例として甲第4号証を用いた場合の「第6 2(3)ア(ア)」での検討のとおりであるから、本件発明1は、甲2発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ) 本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件発明1は、甲2発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2もまた、甲2発明及び甲第3号証ないし甲第4号証に記載された技術事項並びに周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


第7 結論

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

請求項3に係る特許は、上記のとおり、訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。

よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1対のビード部間に跨るカーカスと、前記カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されるとともにタイヤ周方向に沿って延びるコードを有する少なくとも1層の周方向ベルト層からなる周方向ベルトと、前記カーカスの内側に配設されるインナーライナーと、を備える空気入りタイヤであって、
前記タイヤのサイド部の少なくとも一部における前記インナーライナーの厚みが1.5mm以上であり、
前記周方向ベルト層の前記コードのヤング率をY(GPa)、該周方向ベルト層の層数をm、および50mmあたりの該コードの打ち込み本数をnとして、X=Y×m×nと定義するとき、Xが750以上であり、
前記インナーライナーの厚みが全体で均一である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記インナーライナーの厚みが2.8mm以下である、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-07 
出願番号 特願2014-82997(P2014-82997)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B60C)
最終処分 維持  
前審関与審査官 細井 龍史  
特許庁審判長 須藤 康洋
特許庁審判官 植前 充司
加藤 友也
登録日 2018-05-25 
登録番号 特許第6342691号(P6342691)
権利者 株式会社ブリヂストン
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 坪内 伸  
代理人 鈴木 治  
代理人 塚中 哲雄  
代理人 杉村 憲司  
代理人 坪内 伸  
代理人 鈴木 治  
代理人 杉村 憲司  
代理人 杉村 光嗣  
代理人 杉村 光嗣  

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