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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A47J
管理番号 1359596
異議申立番号 異議2019-700787  
総通号数 243 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-03-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-10-02 
確定日 2020-02-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第6496657号発明「調理器及び調理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6496657号の請求項1?8に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6496657号(以下「本件特許」という。)の請求項1?8に係る特許についての出願は、平成27年11月27日に出願され、平成31年3月15日にその特許権の設定登録がされ、平成31年4月3日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、令和元年10月2日に特許異議申立人鶴谷裕二(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
以下、本決定において、「・・・」は記載の省略を意味し、証拠は、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。

第2 本件発明
本件特許の請求項1?8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1?8」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1?8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽と、
前記調理槽を昇温させる昇温手段であって、前記調理槽を電磁誘導加熱する加熱コイルを有する前記昇温手段と、
前記調理槽内を減圧する減圧手段と、
前記昇温手段及び前記減圧手段を制御する制御部と、
前記調理槽の温度を検知する槽温度検知部と、を備え、
前記減圧手段は、前記制御部により動作が制御され、前記調理槽内の空気を吸引することにより前記調理槽内を減圧する減圧ポンプを有し、
前記制御部は、前記調理槽内が所定の調理温度の飽和蒸気圧まで減圧されるように前記減圧手段を制御し、前記調理槽内が前記飽和蒸気圧まで減圧された後に前記減圧ポンプの動作を停止させ、かつ前記調理槽が前記加熱コイルにより電磁誘導加熱されると共に前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に達するように前記昇温手段を制御し、かつ前記減圧状態において前記槽温度検知部により検知された温度が前記調理温度に維持されるように前記昇温手段を制御する、調理器。
【請求項2】
前記食材の温度を検知する食材温度検知部をさらに備えた、請求項1に記載の調理器。
【請求項3】
前記制御部は、前記食材温度検知部により検知された温度が前記調理温度に到達した時点で調理時間の計測を開始する時間計測部を含む、請求項2に記載の調理器。
【請求項4】
前記食材の調理温度及び調理時間の設定値を入力可能な入力部をさらに備えた、請求項1?3のいずれか1項に記載の調理器。
【請求項5】
前記制御部により制御可能に構成され、前記調理槽内に空気を導入する大気導入手段をさらに備え、
前記制御部は、前記調理槽内の減圧と復圧を繰り返すように前記減圧手段及び前記大気導入手段を制御する、請求項1?4のいずれか1項に記載の調理器。
【請求項6】
食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽において加熱調理する調理方法であって、
前記食材の調理温度を設定するステップと、
前記調理温度において前記食材を加熱調理するステップと、を備え、
前記加熱調理するステップでは、減圧ポンプにより前記調理槽内の空気が吸引されることにより前記調理槽内が減圧され、前記調理槽内が前記調理温度の飽和蒸気圧にまで減圧された後に前記減圧ポンプの動作が停止され、かつ前記調理槽が電磁誘導加熱されると共に前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に到達し、前記調理槽内が前記調理温度の飽和蒸気圧まで減圧された状態において、前記調理槽に設けられた槽温度検知部により検知される前記調理槽の温度が前記調理温度に維持されると共に、前記槽温度検知部により検知される前記調理槽の温度から前記食材の温度を推定する、調理方法。
【請求項7】
前記加熱調理するステップでは、前記食材の温度が前記調理温度に到達した時点から調理時間の計測が開始される、請求項6に記載の調理方法。
【請求項8】
前記加熱調理するステップの前に、前記食材の調理時間を設定するステップをさらに備えた、請求項6又は7に記載の調理方法。

第3 申立理由の概要
(理由1)本件発明1?8は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(理由2)本件発明1?8は、甲2に記載された発明及び甲3?甲11に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲1:特開2011-183017号公報
甲2:特開2008-154924号公報
甲3:特開2005-80788号公報
甲4:特開2007-222314号公報
甲5:特開2015-58108号公報
甲6:特開平2-74219号公報
甲7:特開2006-326090号公報
甲8:特開2006-333979号公報
甲9:特開2011-85318号公報
甲10:特開平7-180844号公報
甲11:特開平6-141833号公報

第4 判断
1 甲号証の記載
(1)甲1の記載
甲1には、以下の記載が認められる。
「【請求項1】
被調理物を収納する鍋と、前記鍋内に収納された前記被調理物を加熱する加熱手段と、前記鍋の開口部を覆う蓋と、前記鍋内への空気の流入出によって前記鍋の内部を加圧または減圧する圧力加減手段と、前記鍋内の前記被調理物の温度を検知する温度検知手段と、前記加熱手段と前記圧力加減手段を制御し、少なくとも浸水工程、炊き上げ工程、蒸らし工程を含む炊飯工程を実行する制御手段とを備え、炊飯工程中の被調理物の液体が存在する間、前記鍋内の前記被調理物の液体が沸騰するように前記圧力加減手段により前記鍋の内部を加圧または減圧する炊飯器。」
「【0001】
本発明は米の吸水を短時間で確実に行なうことで短時間で炊飯できる炊飯器に関するものである。」
「【0018】
図1において、炊飯器本体14は、米や水などの被調理物を収納する鍋1を着脱自在に内部に有し、炊飯器本体14の上面及び鍋1の開口部を覆う蓋4を開閉自在に有している。蓋4は蓋ヒンジ5を中心に回動する。鍋1内に収納された被調理物は、鍋1の底面に対応して設けられた加熱コイルなどの鍋加熱手段2、鍋1の側面に対応して設けられた加熱コイルなどの鍋側面加熱手段3により加熱される。鍋温度検知手段11は鍋1の底部に接触して設けられ、鍋1の温度を検知することによって、鍋1内の被調理物の温度を検知する。」
「【0022】
蓋4には、鍋1内への空気の流入出によって鍋1の内部を加圧または減圧する圧力加減手段10である空気ポンプが配置されている。すなわち、圧力加減手段10は鍋1内への空気の排出と投入を行うことで鍋1内の圧力の減少と増大の圧力処理を行うものである。」
「【0026】
鍋加熱手段2と圧力加減手段10を制御し、少なくとも浸水工程、炊き上げ工程、蒸らし工程を含む炊飯工程を実行する制御手段13は、炊飯器本体14の前面に設けられた入力操作部15により入力された信号、および記憶手段(図示せず)に記憶された炊飯の各工程の温度、温度上昇速度、時間、圧力値に基づいて図3に示す炊飯工程を実行する。炊飯工程において、加熱制御手段13aは鍋温度検知手段11および内蓋温度検知手段12の検知信号に基づいて鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3および内蓋加熱手段8を制御して、鍋内に収納された被調理物(本実施例においては米と水)を加熱する。」
「【0031】
この浸水工程A1において、圧力調整手段9の球状の弁体9aで蒸気孔6aを密封し、鍋1内を密封状態にするとともに、圧力加減手段10を作動させ、空気を排出して鍋1内の圧力を減圧する(図1のB1?B2)。この時、鍋底温度の検知信号を基に減圧するレベルを決定し、圧力加減手段10の作動を制御する。鍋1内は沸騰して気泡が発生して米粒と水が撹拌される。減圧するレベルは図7に示す水の温度と蒸気圧の関係から決定する。
【0032】
例えば、浸水工程1での鍋温度検知手段11が検知した温度が60℃とする。水温60℃の場合、図7に示す水の蒸気圧曲線より18.5kPaで沸騰するので、鍋1内が18.5kPaに到達するまで圧力加減手段10を作動させる。その後も鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3で加熱するとともに、鍋温度検知手段11で検知した温度変動に伴って、圧力加減手段10を作動させて沸騰状態が継続するようにする(図4)。浸水工程A1で沸騰による気泡発生で重なった状態の米粒の間を水が通り、水と米の接触効率が上がって吸水が促進される。また、鍋底および鍋側面の米粒が気泡の発生によって動かされ、鍋肌付近で糊化してしまうことも防止でき、温度むらも均一化することで、米粒間の吸水状態も均一にすることができる。
・・・
【0034】
浸水工程A1を所定時間行った後、次に炊き上げ工程A2を実行する。炊き上げ工程A2では、鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3で加熱して、炊飯中の米および水の温度を大気圧における沸点、即ち100℃まで上昇させ、米の急激な吸水と糊化を生ぜしめる。また、米の糊化のための熱伝達は水が媒体となることから、米粒と水の接触効率を上げることは炊飯時間の短縮にも有効となる。よって、この工程においても水が存在して鍋内が100℃に到達するまでは沸騰による気泡発生が起こるように、圧力加減手段10を作動させる。」






以上によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「米や水などの被調理物を収納する鍋1と、
加熱コイルなどの鍋加熱手段2及び鍋側面加熱手段3と、
鍋1の内部を加圧または減圧する圧力加減手段10である空気ポンプと、
鍋加熱手段2と圧力加減手段10を制御する制御手段13と、
鍋1の底部に接触して設けられた鍋温度検知手段11と、を備え、
圧力加減手段10は鍋1内への空気の排出と投入を行うことで鍋1内の圧力の減少と増大の圧力処理を行うものであり、
浸水工程A1において圧力加減手段10を作動させ、水の温度と蒸気圧の関係から決定したレベルに鍋1内の圧力を減圧し、
その後も鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3で加熱するとともに、鍋温度検知手段11で検知した温度変動に伴って、圧力加減手段10を作動させて沸騰状態が継続するようにする
炊飯器。」

また、甲1には、次の発明(以下「甲1方法発明」という。)も記載されていると認められる。
「米や水などの被調理物を収納する鍋1において米に給水させる米の給水方法であって、
浸水工程A1において圧力加減手段10を作動させ、水の温度と蒸気圧の関係から決定したレベルに鍋1内の圧力を減圧し、
その後も鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3で加熱するとともに、鍋温度検知手段11で検知した温度変動に伴って、圧力加減手段10を作動させて沸騰状態が継続するようにする
米の給水方法。」

(2)甲2の記載
甲2には、以下の記載が認められる。
「【0001】
この発明は、処理槽内に収容した被加熱物を蒸気で加熱するための蒸気加熱機に関するものである。特に、処理槽内に予め貯留しておいた水を蒸発させ、その蒸気により処理槽内の被加熱物を加熱調理または滅菌処理する飽和蒸気加熱機に関するものである。」
【0017】
被加熱物は、特に問わないが、たとえば食材または食品などの被調理物とされる。この場合、飽和蒸気加熱機は、飽和蒸気調理機となる。あるいは、被加熱物は、手術用メスなどの被滅菌物とされる。この場合、飽和蒸気加熱機は、蒸気滅菌器となる。」
「【0037】
本実施例の飽和蒸気加熱機1は、被加熱物3が収容される中空構造の処理槽2と、この処理槽2内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段4と、減圧下の処理槽2内へ外気を導入する復圧手段5と、処理槽2内に設けた貯水部6の水を加熱する加熱手段7と、貯水部6に水を供給する給水手段8と、貯水部6から水を排出する排水手段9と、処理槽2内の圧力を検出する圧力センサ10と、処理槽2内に収容された被加熱物3の温度を検出する品温センサ11と、貯水部6に貯留された水の温度を検出する水温センサ12と、これら各センサ10,11,12の検出信号や経過時間などに基づき前記各手段4,5,7,8,9を制御する制御手段13とを備える。ここで、被加熱物3は、本実施例では食材または食品である。また、以下において、被加熱物3の温度を「品温」、貯水部6に貯留された水を「貯留水」、この貯留水の温度を「水温」ということがある。」
「【0053】
前述したように、処理槽2には、処理槽2内の空気や蒸気を外部へ吸引排出して、処理槽2内を減圧する減圧手段4が接続される。本実施例では、排気管路37を介して処理槽2には、真空弁38、熱交換器39、逆止弁40および水封式真空ポンプ41が順次に接続される。真空弁38は、モータバルブまたは比例制御弁などの開度調整可能な構成である。」
「【0056】
処理槽2の貯水部6には、そこに貯留される水を加熱する加熱手段7が設けられている。この加熱手段7は、たとえばシーズヒータまたはフランジヒータなどの各種ヒータ48から構成される。」
「【0060】
減圧手段4、復圧手段5、加熱手段7、給水手段8および排水手段9などは、制御手段13により制御される。この制御手段13は、それが把握する経過時間の他、圧力センサ10、品温センサ11および水温センサ12からの検出信号などに基づいて、前記各手段4,5,7,8,9を制御する制御器である。具体的には、真空弁38、真空ポンプ41、封水弁42、熱交弁43、真空解除弁46、ヒータ48、給水弁50、排水弁52の他、操作パネル15、圧力センサ10、品温センサ11および水温センサ12などは、制御器53に接続されている。そして、制御器53は、所定の手順(プログラム)に従い、処理槽2内の被加熱物3の加熱を行う。」
「【0064】
[空気排除工程]
空気排除工程S2では、減圧手段4を作動させて、処理槽2内の空気を外部へ吸引排出して、処理槽2内の減圧が図られる。具体的には、制御器53は、真空弁38および封水弁42を開いて、真空ポンプ41を作動させると共に、熱交弁43を開いて熱交換器39に対し冷却水を給排水する。
【0065】
どの圧力まで処理槽2内を減圧するかは、初期減圧設定値(設定圧力)として一応は予め設定されてはいるものの、品温センサ11による品温、水温センサ12による水温、および次工程の加熱目標温度に応じて、運転ごとに決定される。そのために、まず制御器53は、品温センサ11により品温を計測すると共に、水温センサ12により水温を計測する。そして、制御器53は、これら品温および水温と、予め設定されている次工程の加熱目標温度とに応じて、以下に述べる[A]または[B]のいずれかの処理を行う。
【0066】
[A] 空気排除工程開始時において、品温および水温の双方が、次工程の加熱目標温度より低い場合には、その品温もしくは水温、または初期減圧設定値における飽和蒸気温度の内、最も高い温度に、処理槽2内の飽和蒸気温度がなるまで、圧力センサ10により処理槽内圧力を監視しながら、減圧手段4により処理槽2内を減圧する。ここで、処理槽2内の飽和蒸気温度は、圧力センサ10による圧力を温度に換算して用いられる。
【0067】
処理槽2内の飽和蒸気温度が、品温もしくは水温、または初期減圧設定値における飽和蒸気温度になるまで減圧されると、その時の飽和蒸気温度(維持温度という)を維持するように、制御器53は処理槽2内の圧力の維持制御を行う。この際、維持温度よりも水温が低い場合には、制御器53は、ヒータ48に通電して、貯留水を加熱する。これにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段4による処理槽2内の気体の外部への吸引排出と、処理槽2内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽2内からの空気排除が有効になされる。
【0068】
処理槽2内の圧力の維持制御は、次のようになされる。すなわち、制御器53は、圧力センサ10による処理槽内圧力に基づき真空弁38の開度を調整する。真空弁38が全開の場合においても、処理槽2内の飽和蒸気温度が上昇する場合に、制御器53はヒータ48を制御する。ヒータ48の制御は、ヒータ48への通電の有無を制御するのが簡易であるが、場合によりヒータ48への供給電力量を制御してもよい。
【0069】
以上のようにして、水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行する。
【0070】
図5は、空気排除工程S2における処理槽2内の圧力変化の基本例を示す図である。いずれの場合も、空気排除工程初期の品温および水温の双方が、次工程の加熱目標温度より低くなっている場合を示している。
【0071】
同図(a)は、空気排除工程開始時において、初期減圧設定値における飽和蒸気温度が、水温および品温よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内を初期減圧設定値まで減圧して維持する。その際、制御器53は、処理槽2内を初期減圧設定値まで減圧した段階で、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。処理槽2内の維持圧力の飽和蒸気温度まで水温が上昇すると、貯留水は蒸発し始める。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。」
「【0078】
図6は、空気排除工程S2における処理槽2内の圧力変化の他の例を示す図である。いずれの場合も、空気排除工程初期の品温および水温のいずれかでも、次工程の加熱目標温度より高くなっている場合を示している。たとえば、前回の運転により、貯留水または処理槽2が温められている場合や、既に温かい被加熱物3をさらに加熱する場合といえる。ここで、初期減圧設定値における飽和蒸気温度は、加熱目標温度より低いのが通常である。
【0079】
同図(a)は、空気排除工程開始時において、水温および品温が、加熱目標温度よりも高い場合である。この場合、制御器53は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、処理槽2内を減圧して維持する。この維持制御時には、所望により、ヒータ48に通電して貯留水を加熱する。そして、貯留水が蒸発し始めた後、設定時間経過すると、次工程へ移行する。貯留水の蒸発は、処理槽2内の飽和蒸気温度が水温を下回ると生じるので、その時点から設定時間を起算すればよいが、場合により処理槽2内の飽和蒸気圧力が加熱目標温度に達してから起算してもよい。」
「【0082】
[加熱工程]
加熱工程は、加熱目標温度にて所定時間だけ保持する工程である。そのために、その加熱目標温度まで処理槽内圧力を移行させる移行工程S3と、その後に、その加熱目標温度を維持する温度維持工程S4とに分けて実行される。そして、加熱工程は、必要に応じて、移行工程S3と温度維持工程S4とのセットを繰り返すことで、複数段階で行われる。典型的には、三段階で加熱工程を実行することができる。加熱工程を複数段階で行う場合、空気排除工程S2における加熱目標温度とは、最先に実行される一段目の加熱工程の加熱目標温度(温度維持工程S4の維持目標温度)をいう。
【0083】
各加熱工程は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、圧力センサ10の検出圧力に基づき、減圧手段4および/または加熱手段7を制御して実行される。具体的には、制御器53は、減圧手段4を作動させた状態で真空弁38の開閉または開度を調整するか、および/または、加熱手段7のヒータ48への通電の有無を制御することにより、処理槽2内の圧力を調整する。その際、処理槽2内を大気圧以上としてもよいし、大気圧以下にしてもよい。」







以上によれば、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「食材または食品である被加熱物3が収容される処理槽2と、
各種ヒータ48から構成され、処理槽2内に設けた貯水部6の水を加熱する加熱手段7と、
処理槽2内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段4と、
減圧手段4、加熱手段7を制御する制御手段13と、
被加熱物3の温度を検出する品温センサ11と、貯水部6に貯留された水の温度を検出する水温センサ12と、を備え、
減圧手段4は、真空ポンプ41を備え、
空気排除工程S2では、減圧手段4を作動させて、処理槽2内の飽和蒸気温度が、初期減圧設定値における飽和蒸気温度になるまで減圧し、その時の飽和蒸気温度を維持するように処理槽2内の圧力の維持制御を行い、貯留水を加熱することにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段4による処理槽2内の気体の外部への吸引排出と、処理槽2内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽2内からの空気排除が有効になされ、
水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行し、
加熱工程は、加熱目標温度まで処理槽内圧力を移行させる移行工程S3と、加熱目標温度を維持する温度維持工程S4とに分けて実行され、各加熱工程は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、圧力センサ10の検出圧力に基づき、加熱手段7を制御して、処理槽2内の圧力を大気圧以下に調整する、
飽和蒸気調理機。」

また、甲2には、次の発明(以下「甲2方法発明」という。)も記載されていると認められる。
「食材または食品である被加熱物3が収容される処理槽2を備えた飽和蒸気調理機による調理方法であって、
空気排除工程S2では、減圧手段4を作動させて、処理槽2内の飽和蒸気温度が、初期減圧設定値における飽和蒸気温度になるまで減圧し、その時の飽和蒸気温度を維持するように処理槽2内の圧力の維持制御を行い、貯留水を加熱することにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段4による処理槽2内の気体の外部への吸引排出と、処理槽2内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽2内からの空気排除が有効になされ、
水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行し、
加熱工程は、加熱目標温度まで処理槽内圧力を移行させる移行工程S3と、加熱目標温度を維持する温度維持工程S4とに分けて実行され、各加熱工程は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、圧力センサ10の検出圧力に基づき、加熱手段7を制御して、処理槽2内の圧力を大気圧以下に調整する、
調理方法。」

(3)甲3の記載
甲3には、以下の記載が認められる。
「【請求項1】
処理槽内を減圧する減圧手段と、
処理槽内へ蒸気供給する給蒸手段と、
処理槽内に収容される食材の解凍に加えて、処理槽内に収容される食材の真空冷却、処理槽内に収容される食材への液体成分の真空含浸及び処理槽内に収容される食材の蒸煮のうち少なくとも1つを実行可能に構成され、減圧手段と給蒸手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする真空蒸気調理機。」
「【0044】
(3)蒸煮制御
図5及び図6は、本実施例の真空蒸気調理機を用いた蒸煮制御フローの一例を示す図であり、処理槽2内の圧力変化を示している。図5は、加圧蒸煮の場合を示し、図6は、真空蒸煮の場合を示している。
【0045】
図5の加圧蒸煮の場合、減圧手段を作動させて処理槽内を所定の第三圧力P3まで減圧した後、減圧手段の作動を停止し、給蒸手段を作動させて処理槽2内へ蒸気を供給する。・・・このようにして、処理槽2内を所望温度で所望時間だけ保持した後、処理槽給蒸弁15を閉じて本工程を終了する。
【0047】
一方、図6の真空蒸煮の場合、減圧手段を作動させて処理槽2内を所定の第三圧力P3まで減圧した後、減圧手段の作動を停止し、給蒸手段を作動させて処理槽内へ蒸気を供給して、所定の第四圧力P4まで復圧して保持する。」

2 理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「米や水などの被調理物を収納する鍋1」は、密閉可能であることは明らかであるから、本件発明1の「食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽」に相当する。
甲1発明の「加熱コイルなどの鍋加熱手段2及び鍋側面加熱手段3」は、本件発明1の「前記調理槽を昇温させる昇温手段であって、前記調理槽を電磁誘導加熱する加熱コイルを有する前記昇温手段」に相当する。
甲1発明の「鍋1の内部を加圧または減圧する圧力加減手段10」は、本件発明1の「調理槽内を減圧する減圧手段」に相当する。
甲1発明の「鍋加熱手段2と圧力加減手段10を制御する制御手段13」は、本件発明1の「前記昇温手段及び前記減圧手段を制御する制御部」に相当する。
甲1発明の「鍋1の底部に接触して設けられた鍋温度検知手段11」は、本件発明1の「前記調理槽の温度を検知する槽温度検知部」に相当する。
甲1発明の「圧力加減手段10」が、「空気ポンプ」であって、「鍋1内への空気の排出と投入を行うことで鍋1内の圧力の減少と増大の圧力処理を行うもの」であり、「制御手段13」により制御されることは、本件発明1の「前記減圧手段は、前記制御部により動作が制御され、前記調理槽内の空気を吸引することにより前記調理槽内を減圧する減圧ポンプを有」することに相当する。
甲1発明の「浸水工程A1」における「水の温度」は、本件発明1の「所定の調理温度」に相当し、同じく、「水の温度と蒸気圧の関係から決定したレベル」は、「所定の調理温度の飽和蒸気圧」に相当する。そうすると、甲1発明の「浸水工程A1において圧力加減手段10を作動させ、水の温度と蒸気圧の関係から決定したレベルに鍋1内の圧力を減圧し」は、圧力加減手段10が制御手段13により制御されることを踏まえれば、本件発明1の「前記制御部は、前記調理槽内が所定の調理温度の飽和蒸気圧まで減圧されるように前記減圧手段を制御し」に相当する。
甲1発明の「その後も鍋加熱手段2、鍋側面加熱手段3で加熱するとともに、鍋温度検知手段11で検知した温度変動に伴って、圧力加減手段10を作動させて沸騰状態が継続するようにする」ことは、上記「決定したレベル」に減圧した圧力を維持して沸点を一定に保つことにより、鍋温度検知手段11で検知した温度変動を抑制するように制御することを意味しているから、本件発明1の「前記調理槽が前記加熱コイルにより電磁誘導加熱され」かつ「前記減圧状態において前記槽温度検知部により検知された温度が前記調理温度に維持されるように」「制御する」ことに相当する。
甲1発明の「炊飯器」は、本件発明1の「調理器」に相当する。
よって、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽と、
前記調理槽を昇温させる昇温手段であって、前記調理槽を電磁誘導加熱する加熱コイルを有する前記昇温手段と、
前記調理槽内を減圧する減圧手段と、
前記昇温手段及び前記減圧手段を制御する制御部と、
前記調理槽の温度を検知する槽温度検知部と、を備え、
前記減圧手段は、前記制御部により動作が制御され、前記調理槽内の空気を吸引することにより前記調理槽内を減圧する減圧ポンプを有し、
前記制御部は、前記調理槽内が所定の調理温度の飽和蒸気圧まで減圧されるように前記減圧手段を制御し、かつ前記調理槽が前記加熱コイルにより電磁誘導加熱され、かつ前記減圧状態において前記槽温度検知部により検知された温度が前記調理温度に維持されるように制御する、調理器。」

(相違点1)
制御部の制御に関し、本件発明1が「前記調理槽内が前記飽和蒸気圧まで減圧された後に前記減圧ポンプの動作を停止させ」、「前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に達するように前記昇温手段を制御し」、調理温度に維持されるように「前記昇温手段を」制御するのに対し、甲1発明は、鍋1内の圧力を減圧した後も「圧力加減手段10を作動させて沸騰状態が継続する」ものであって、圧力加減手段10の作動中に水の温度は浸水工程A1における温度に達しており、「圧力加減手段10」を作動させて沸騰状態が継続するように制御している点。

イ 判断
甲3には、減圧手段を作動させて処理槽内を所定の圧力まで減圧した後、減圧手段の作動を停止するとの技術事項が開示されている。
しかし、当該技術事項は、真空蒸気調理機における加圧蒸煮あるいは真空蒸煮についての制御であって、甲1発明の炊飯器における浸水工程とは、調理の種類が全く異なるものである。
しかも、甲1発明は、鍋1内の圧力を減圧した後も、圧力加減手段10を作動させて沸騰状態が継続するようにするものであるところ、これは、沸騰による気泡発生で重なった状態の米粒の間を水が通り、水と米の接触効率が上がって吸水が促進されるという技術上の意義を有するものであり(甲1【0032】)、圧力加減手段10を停止した場合には上記吸水が促進されないという不都合を生じる。
よって、甲1発明に上記甲3に記載された技術事項を採用することが動機付けられるとはいえず、甲1発明において圧力加減手段10を停止することが設計事項であるともいえない。
また、甲2には、処理槽内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、処理槽内を減圧することが示され(【0079】)、甲4には、被調理物の温度を温度センサにより計測することが示され(【0036】)、甲5には、被調理物の温度を所定温度に維持することが示され(【0023】)、甲6には、調理入力キーや各種設定値を修正する修正スイッチを設けた加減圧調理器が示され(3ページ右上欄3?7行)ているが、いずれも、上記相違点1に係る本件発明1の構成を開示ないし示唆するものではない。
よって、相違点1に係る本件発明1の構成は、甲1発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明6について
本件発明6と甲1方法発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
(相違点2)
本件発明6が「前記調理槽内が前記調理温度の飽和蒸気圧にまで減圧された後に前記減圧ポンプの動作が停止され」、「前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に到達」するのに対し、甲1方法発明は、鍋1内の圧力を減圧した後も「圧力加減手段10を作動させて沸騰状態が継続する」ものであって、圧力加減手段10の作動中に水の温度は浸水工程A1における温度に達している点。

上記相違点2に係る本件発明6の構成は、前記(1)で検討した相違点1に係る本件発明1の「前記調理槽内が前記飽和蒸気圧まで減圧された後に前記減圧ポンプの動作を停止させ」、「前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に達するように前記昇温手段を制御し」との構成と実質的に同じであるから、その判断も同様である。
したがって、本件発明6は、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明7、8について
本件発明7、8は、本件発明6をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明6と同様に、甲1に記載された発明及び甲2?甲6に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

3 理由2について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「処理槽2」は、「食材または食品である被加熱物3が収容される」とともに、「貯水部6の水」も収容されるものであって、密閉可能であることは明らかであるから、本件発明1の「食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽」に相当する。
甲2発明の「各種ヒータ48から構成され、処理槽2内に設けた貯水部6の水を加熱する加熱手段7」と、本件発明1の「前記調理槽を昇温させる昇温手段であって、前記調理槽を電磁誘導加熱する加熱コイルを有する前記昇温手段」とは、「前記調理槽を昇温させる昇温手段」との限りで一致する。
甲2発明の「処理槽2内の気体を外部へ吸引排出する減圧手段4」は、本件発明1の「調理槽内を減圧する減圧手段」に相当する。
甲2発明の「減圧手段4、加熱手段7を制御する制御手段13」は、本件発明1の「前記昇温手段及び前記減圧手段を制御する制御部」に相当する。
甲2発明の「被加熱物3の温度を検出する品温センサ11と、貯水部6に貯留された水の温度を検出する水温センサ12」と、本件発明1の「前記調理槽の温度を検知する槽温度検知部」とは、「温度を検知する温度検知部」との限りで一致する。
甲2発明の「減圧手段4」が、「真空ポンプ41を備え」、「処理槽2内の気体を外部へ吸引排出する」ものであり、「制御手段13」により制御されることは、本件発明1の「前記減圧手段は、前記制御部により動作が制御され、前記調理槽内の空気を吸引することにより前記調理槽内を減圧する減圧ポンプを有」することに相当する。
甲2発明の「飽和蒸気温度」は、甲2の「飽和蒸気温度は、圧力センサ10による圧力を温度に換算して用いられる」(【0066】)との記載を踏まえると、本件発明1の「飽和蒸気圧」に相当する。
そして、甲2発明の「空気排除工程S2では、減圧手段4を作動させて、処理槽2内の飽和蒸気温度が、初期減圧設定値における飽和蒸気温度になるまで減圧し」と、本件発明1の「前記制御部は、前記調理槽内が所定の調理温度の飽和蒸気圧まで減圧されるように前記減圧手段を制御し」とは、前者の減圧手段4が制御手段13により制御されることを踏まえると、「前記制御部は、前記調理槽内が所定の飽和蒸気圧まで減圧されるように前記減圧手段を制御し」との限りで一致する。
甲2発明の「加熱目標温度」は、本件発明1の「調理温度」に相当し、甲2発明の「各加熱工程は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、圧力センサ10の検出圧力に基づき、加熱手段7を制御して、処理槽2内の圧力を大気圧以下に調整する」と、本件発明1の「前記減圧状態において前記槽温度検知部により検知された温度が前記調理温度に維持されるように前記昇温手段を制御する」とは、「前記減圧状態において前記温度検知部により検知された温度が調理温度に維持されるように前記昇温手段を制御する」との限りで一致する。
甲2発明の「飽和蒸気調理機」は、本件発明1の「調理器」に相当する。
よって、本件発明1と甲2発明との一致点、相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
食材及び調理液が収容される密閉可能な調理槽と、
前記調理槽を昇温させる昇温手段と、
前記調理槽内を減圧する減圧手段と、
前記昇温手段及び前記減圧手段を制御する制御部と、
温度を検知する温度検知部と、を備え、
前記減圧手段は、前記制御部により動作が制御され、前記調理槽内の空気を吸引することにより前記調理槽内を減圧する減圧ポンプを有し、
前記制御部は、前記調理槽内が所定の飽和蒸気圧まで減圧されるように前記減圧手段を制御し、かつ前記減圧状態において前記温度検知部により検知された温度が調理温度に維持されるように前記昇温手段を制御する、調理器。

(相違点3)
本件発明1の昇温手段は、「調理槽を電磁誘導加熱する加熱コイルを有する」ものであるのに対し、甲2発明の加熱手段7は、「各種ヒータ48から構成され」るものである点。
(相違点4)
温度検知部が、本件発明1では、「調理槽の温度を検知する槽温度検知部」であるのに対し、甲2発明では、「被加熱物3の温度を検出する品温センサ11と、貯水部6に貯留された水の温度を検出する水温センサ12」である点。
(相違点5)
調理槽内が所定の飽和蒸気圧まで減圧されることに関し、本件発明1は、「所定の調理温度」の飽和蒸気圧まで減圧されるのに対し、甲2発明は、「初期減圧設定値」まで減圧される点。
(相違点6)
所定の飽和蒸気圧まで減圧した後の制御に関し、本件発明1が「前記調理槽内が前記飽和蒸気圧まで減圧された後に前記減圧ポンプの動作を停止させ、かつ前記調理槽が前記加熱コイルにより電磁誘導加熱されると共に前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に達するように前記昇温手段を制御」するのに対し、甲2発明は、「飽和蒸気温度を維持するように処理槽2内の圧力の維持制御を行い、貯留水を加熱することにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段4による処理槽2内の気体の外部への吸引排出と、処理槽2内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽2内からの空気排除が有効になされ、水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行し、加熱工程は、加熱目標温度まで処理槽内圧力を移行させる移行工程S3と、加熱目標温度を維持する温度維持工程S4とに分けて実行され」、「各加熱工程は、処理槽2内の飽和蒸気温度が加熱目標温度になるように、圧力センサ10の検出圧力に基づき」加熱手段7を制御する点。

イ 判断
相違点5及び相違点6について検討する。
甲2発明において、「初期減圧設定値」における飽和蒸気温度が加熱目標温度と等しくなるように、「初期減圧設定値」を設定すれば、その「初期減圧設定値」は、相違点5に係る本件発明1の「所定の調理温度の飽和蒸気圧」に相当するものとなる。
しかし、甲2発明は、「水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了」するものであり、空気排除工程S2では減圧手段4が動作しているから、これは、減圧手段4の動作中に水温が維持温度に達していることを意味する。ここで、維持温度とは空気排除工程S2における飽和蒸気温度のことである(甲2【0067】)。すなわち、甲2発明の「水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了」するということは、減圧手段4の動作中に水温は飽和蒸気温度に達しているということである。
そうすると、甲2発明の「初期減圧設定値」を、飽和蒸気温度が加熱目標温度と等しくなるように設定した場合、減圧手段4の動作中に水温は飽和蒸気温度すなわち加熱目標温度に達していることになるから、相違点6に係る本件発明1の「前記調理槽内が前記飽和蒸気圧まで減圧された後に前記減圧ポンプの動作を停止させ」「前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に達する」構成とはならない。
また、甲2発明において、「初期減圧設定値」を、飽和蒸気温度が加熱目標温度と等しくなるように設定した上で、上記相違点6に係る本件発明1の構成を採用し、減圧手段4の停止後に水温が飽和蒸気温度(加熱目標温度)に達するように変更するならば、空気排除工程S2では水温が飽和蒸気温度に達せず、残存空気を有効に排除できないものとなるから、そのように変更する動機付けはない。
したがって、甲2発明において、相違点5に係る本件発明1の構成と、相違点6に係る本件発明1の構成を同時に採用することは想定し得ない。
また、甲3?甲11に記載された技術事項を参照しても、甲2発明において、相違点5に係る本件発明1の構成と、相違点6に係る本件発明1の構成を同時に採用することを示唆するところはない。
申立人は、減圧調理において減圧時に飽和蒸気圧以下に減圧することは甲7、甲8に示される周知技術であり、減圧後に真空ポンプを停止してから加熱することは甲9?11に示される周知技術であることから、相違点5及び6に係る本件発明1の構成とすることは当業者が容易に想到し得た旨を主張する。
しかし、仮に上記周知技術が認められるとしても、上述のとおり、甲2発明においては、相違点5に係る本件発明1の構成と、相違点6に係る本件発明1の構成を同時に採用することは想定し得ないから、上記申立人の主張は採用できない。
よって、相違点5及び6に係る本件発明1の構成は、甲2発明及び甲3?甲11に記載された技術事項に基いて当業者が容易に想到し得たとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲3?甲11に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、本件発明1をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明及び甲3?甲11に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件発明6について
本件発明6と甲2方法発明とを対比すると、両者は少なくとも以下の点で相違する。
(相違点7)
本件発明6は、「前記調理槽内が前記調理温度の飽和蒸気圧にまで減圧された後に前記減圧ポンプの動作が停止され、かつ前記調理槽が電磁誘導加熱されると共に前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に到達」するのに対し、甲2方法発明は、「空気排除工程S2では、減圧手段4を作動させて、処理槽2内の飽和蒸気温度が、初期減圧設定値における飽和蒸気温度になるまで減圧し、その時の飽和蒸気温度を維持するように処理槽2内の圧力の維持制御を行い、貯留水を加熱することにより、貯留水の蒸発が促され、減圧手段4による処理槽2内の気体の外部への吸引排出と、処理槽2内での蒸気発生による残存空気の追い出しとにより、処理槽2内からの空気排除が有効になされ、水温が維持温度以上の状態が設定時間経過すると、空気排除工程S2を終了し、次工程の加熱工程へ移行」する点。

上記相違点7に係る本件発明6の構成は、前記(1)で検討した相違点5及び6に係る本件発明1の「所定の調理温度の飽和蒸気圧まで減圧される」及び、「前記調理槽内が前記飽和蒸気圧まで減圧された後に前記減圧ポンプの動作を停止させ、かつ前記調理槽が前記加熱コイルにより電磁誘導加熱されると共に前記停止後に前記調理槽が前記調理温度に達する」との構成と実質的に同じであるから、その判断も同様である。
したがって、本件発明6は、甲2に記載された発明及び甲3?甲11に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件発明7、8について
本件発明7、8は、本件発明6をさらに技術的に限定したものであるから、本件発明6と同様に、甲2に記載された発明及び甲3?甲11に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2020-01-30 
出願番号 特願2015-231473(P2015-231473)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A47J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 土屋 正志  
特許庁審判長 平城 俊雅
特許庁審判官 塚本 英隆
紀本 孝
登録日 2019-03-15 
登録番号 特許第6496657号(P6496657)
権利者 エスペック株式会社
発明の名称 調理器及び調理方法  
代理人 小谷 悦司  
代理人 山本 康平  
代理人 小谷 昌崇  

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