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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E04C
審判 全部無効 2項進歩性  E04C
管理番号 1359841
審判番号 無効2017-800139  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2017-10-19 
確定日 2020-02-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3909365号発明「梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3909365号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成13年12月 4日:優先権主張の基礎となる先の出願
(特願2001-370439号)
平成14年12月 3日:本件出願(特願2002-351706号)
平成19年 2月 2日:設定登録(特許第3909365号)
平成29年10月19日:本件審判請求
平成30年 1月 9日:被請求人より答弁書及び訂正請求書提出
平成30年 2月15日:請求人より弁駁書提出
平成30年 3月 9日:審理事項通知
平成30年 4月 4日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成30年 4月25日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成30年 5月16日:第1回口頭審理・補正許否の決定

第2 訂正請求について
1 訂正請求の内容
平成30年1月9日付けの訂正請求は、本件設定登録時の特許第3909365号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正明細書の特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものであって、次の事項を訂正内容とするものである(下線は、訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許第3909365号(以下「本件特許」という。)における特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2乃至7についてもそれぞれ同様とする)。
「【請求項1】
梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とし、前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面であることを特徴とする梁補強金具。」

(2)訂正事項2
本件特許における特許請求の範囲の請求項4の記載を以下のとおり訂正する(請求項4の記載を引用する請求項5乃至7についてもそれぞれ同様とする。)。

「【請求項4】
前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下としたことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の梁補強金具。」

2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について (下線は、訂正箇所を示す。)
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「梁補強金具」において、「フランジ部」を形成することにつき、「外周部の軸方向の片面側」と特定されているものから、「前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」ものとしたものである。
より詳細にみると、上記訂正事項1のうち、「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し」の部分は、フランジ部を形成する位置を、「外周部の軸方向の片面側」から、「外周部の軸方向の片面側の端部」と限定するものであり、また、上記訂正事項1のうち「前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」の部分は、「梁補強金具の軸方向の前記片面側の面」を、その形状につき特定がなされていないものから、「梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面」と限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否か
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「梁補強金具」における「フランジ部」の形成について限定したものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否か
「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」の事項は、本件特許の本件明細書の段落【0029】,【0031】及び【0035】並びに図3,5及び8等に記載されている。
すなわち、本件明細書の段落【0029】には、「図3は本発明の第2実施形態である梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。梁補強金具7は、前述した梁補強金具1の外周部4の軸方向の片面側に、梁2に形成された貫通孔3より外径が大きいフランジ部8を形成したものである。」と記載され、かかる構成の具体的態様として、本件特許の図3から、「前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面」が、「前記梁補強金具の内周」から「前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周」まで「平面」となるように、「フランジ部8」が梁補強金具7の軸方向の片面側の端部に形成されている構成が看て取れる。
上記構成は、フランジ部を備える他の態様である本件明細書の段落【0031】及び図5、並びに、同段落【0035】及び図8にも記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項4の「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、」という記載を「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、」(下線は訂正箇所)という記載に改めたものである。
ここで、訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正(「前記フランジ部の外周」)に伴って、請求項4が引用する訂正後の請求項1の用語との整合を図るために、訂正前の請求項4における「前記フランジ部外周」を「前記フランジ部の外周」という記載に改めたものであり、明瞭でない記載の釈明に該当するものである。

イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するか否か
訂正事項2は、訂正後の請求項1の用語との整合を図るものにすぎず、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないことは明らかである。
したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるか否か
本件明細書の「さらに、梁補強金具10においては、外周部12の最小外径部12aからフランジ部13の外周までの長さCを外周部12の最小外径d3の半分以下(より好ましくは1/4以下)とするとともに、フランジ部13の軸方向の長さFを、梁補強金具10の軸方向の長さAの半分以下としている。」(段落【0032】)等の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。

(3) 請求人の主張について
請求人は、本件訂正が適法になされたものではないとして、次のとおり主張している。
訂正前の請求項1に係る発明(本件特許発明1)の記載、本件特許明細書の記載、訂正前の請求項3に係る発明(本件特許発明3)の記載及び訂正前の請求項4に係る発明(本件特許発明4)の記載を検討すると、本件特許発明1の「フランジ部」の外周と「梁補強金具」の「外周部」とは別異の部位であると解釈できることは明らかであり(弁駁書11頁1行?27頁13行)、本件特許発明1にいう貫通孔の「周縁部」の意義は、本件特許発明1にいう「フランジ部」ではなく、本件特許発明1にいう「外周部」が溶接固定されることとの関係において規定されていることは明らかであり、溶接固定部位との関係によっても、「フランジ部」と「外周部」とは別異の部位であることは明らかであり(弁駁書12頁)、訂正事項1は、「外周部」とは別異の部位である「フランジ部」の外周を「外周部」の一部とするものであるので、特許請求の範囲を変更、すなわち、シフトさせるものである。したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない(弁駁書27頁)。また、訂正事項1が、「梁補強金具」の「外周部」とは別異の部位である「フランジ部」の外周を、同「外周部」の一部として変更するものであることは明らかであるので、実質上特許請求の範囲を変更するものである。よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同第126条第6項の規定に適合しない(弁駁書28頁)。さらに、本件明細書等の記載全体によれば、「フランジ部」の外周が「梁補強金具」の「外周部」の一部でないことが明らかであるので、訂正事項1のうち「前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周」という訂正は、特許発明の技術的範囲を明細書等の記載を越えてシフトさせるものであるので、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。よって、訂正事項1は、特許法第134条の2第9項で準用する同第126条第5項の規定に適合しない(弁駁書29頁)。

しかしながら、訂正前の請求項1には、「梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具」と記載されており、文字通り、「外周部」はリング状の梁補強金具の外周の部位を、「周縁部」は貫通孔の周縁の部位を、「溶接固定される」は(両部位が)溶接固定されることを意味していると解することができ、当該記載によって、上記解釈以上のものとなるわけではない。
そして、「フランジ部」については、「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成した・・・梁補強金具。」と記載されており、この記載からは「フランジ部」の外周と「外周部」が別異の部位であることは読みとれないし、上記したように「外周部」がリング状の梁補強金具の外周の部位を意味していることからみれば、「フランジ部」の外周は、梁補強金具の外周部の一部と解することが自然である。
また、本件特許発明1に係る明細書及び図面の記載を参酌しても、本件特許発明1の「フランジ部」の外周と「梁補強金具」の「外周部」とは別異の部位であると解釈できる記載や示唆はみあたらない。
さらに、本件特許発明3及び4並びにこれらに係る明細書及び図面の記載を参酌しても、本件特許発明1の「フランジ部」の外周と「梁補強金具」の「外周部」とは別異の部位であると解釈できる記載や示唆はみあたらない。
以上のことから、訂正前の請求項1に係る発明において、「フランジ部」の外周と「梁補強金具」の「外周部」とは別異の部位ではなく、かかる「フランジ部」の外周が「梁補強金具」の「外周部」の一部ではないともいえない。
以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することはできない。

(4)むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、結論のとおり、本件訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の訂正後の請求項1?7に係る発明(以下「本件訂正発明1」等という。)は、訂正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される次のとおりのものと認められる。(以下の分説は、請求人の弁駁書7?9頁及び被請求人の答弁書7?8頁の記載に基づくものである。)

【本件訂正発明1】
1-A:梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、
1-B:その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とし、
1-C’-1:前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、
1-C’-2:前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である
1-D:ことを特徴とする梁補強金具。
【本件訂正発明2】
2-A:前記梁補強金具の体積を、前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0?3.0倍とした
2-B:ことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。
【本件訂正発明3】
3-A:前記外周部を、軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させた
3-B:ことを特徴とする請求項1または2に記載の梁補強金具。
【本件訂正発明4】
4-A’:前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、
4-B:前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした
4-C:ことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の梁補強金具。
【本件訂正発明5】
5-A:前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした
5-B:ことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の梁補強金具。
【本件訂正発明6】
6-A:前記貫通孔の内縁部に直接当接する3以上の位置決め突起部を前記外周部に形成した
6-B:ことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の梁補強金具。
【本件訂正発明7】
7-A:柱梁接合構造を構成する梁に形成された
7-B:貫通孔の周縁部に請求項1?6のいずれかに記載の梁補強金具の外周部を溶接固定して形成した梁貫通孔補強構造であって、
7-C:前記柱と前記梁との接合位置から前記梁補強金具の軸心までの距離を前記梁の梁成の2倍以下とした
7-D:ことを特徴とする梁貫通孔補強構造。

第4 請求人の主張及び証拠方法
1 請求人の主張の概要
特許第3909365号における特許請求の範囲の請求項1?7に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠として、甲第1号証ないし甲第11号証を提出して、無効理由を主張した。当該無効理由は口頭審理において、第1回口頭審理調書記載のとおりに、以下のように整理された。

<無効理由>
[1] 訂正前の本件特許発明に対する無効理由
(1)無効理由1(甲第1号証を主引用例とした新規性欠如、進歩性欠如)
ア 本件特許発明1,2,4及び5は、本件特許出願の優先日前(以下「本件特許優先日前」という。)に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、また、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
イ 本件特許発明3は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
ウ 本件特許発明6は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
エ 本件特許発明7は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び周知技術(甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(甲第5号証を主引用例とした進歩性欠如)
ア 本件特許発明1ないし5は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第5号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
イ 本件特許発明6は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第5号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
ウ 本件特許発明7は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第5号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の請求項7の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、その特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

[2] 本件訂正発明に対する無効理由
(1)無効理由1(甲第1号証を主引用例とした進歩性欠如)
ア 本件訂正発明1,2,4及び5は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その出願前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
イ 本件訂正発明3は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
ウ 本件訂正発明6は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
エ 本件訂正発明7は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2)無効理由2(甲第5号証を主引用例とした進歩性欠如)
ア 本件訂正発明1ないし5は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第5号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
イ 本件訂正発明6は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第5号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
ウ 本件訂正発明7は、本件特許優先日前に日本国内において頒布された甲第5号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?甲第10号証)に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3(明確性要件違反)
本件訂正特許は、特許請求の範囲の請求項7の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものであり、その特許は特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきものである。

なお、平成30年2月15日付け審判事件弁駁書第33頁1行から第40頁13行及び第41頁4行から第45頁4行、並びに、平成30年4月25日付け口頭審理陳述要領書第7頁下から6行から第9頁下から5行及び第10頁9行から11頁9行における請求の理由の補正は、審理を不当に遅延させるおそれがないことが明らかなものであり、かつ訂正の請求により請求の理由を補正する必要が生じたものであるから、許可すると決定した。(第1回口頭審理調書参照。)

2 証拠方法
甲第1号証:特開昭63-219745号公報
甲第2号証:実願平3-13144号(実開平4-103917号)のマイクロフィルム
甲第3号証:特開昭62-202155号公報
甲第4号証:特開平9-32197号公報
甲第5号証:日本建築学会論文報告集,社団法人日本建築学会,1981年3月,第301号,p.43?51
甲第6号証:JISハンドブック 配管、編集 日本規格協会、発行人 平河 喜美男、発行所 財団法人日本規格協会、2000年4月24日発行、p.1431?1437、奥付
甲第7号証:JISハンドブック 鉄鋼II 棒・形・板・帯/鋼管/線・二次製品、編集 日本規格協会、発行人 平河 喜美男、2000年4月24日発行、第420、421頁、奥付
甲第8号証:自転車用語ハンドブック、グループ木馬編、アテネ書房刊、昭和63年9月10日第1刷、第120、121、144、145頁、表紙、奥付
甲第9号証:鉄道技術用語辞典、財団法人鉄道総合技術研究所、鈴木信夫、丸善株式会社、平成9年12月25日発行、第628、629頁、奥付
甲第10号証:自動車タイヤ工学・上巻(基礎編)、V.L.ビーデルマン、(訳者貞政忠利)、林 勝平、現代工学社、1979年3月20日発行、第22?29頁、奥付
甲第11号証:判例解説(電子版)東京高判平成9年9月18日(平成8年(行ケ)第42号)

3 請求人の具体的な主張
(1)無効理由1(甲第1号証を主引用例)

請求人主張の甲第1号証に記載された発明の認定は、以下のとおり。
「構成要件1-a:梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部に厚肉鋼管2が溶接固定され、
構成要件1-b:厚肉鋼管2の軸方向の長さL1が、厚肉鋼管2の半径方向の肉厚Tの約3倍であり、
構成要件1-c:貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが、厚肉鋼管2の軸方向の片面側にて厚肉鋼管2と一体に形成される
構成要件1-d:ことを特徴とする鉄骨梁貫通孔構造用の厚肉鋼管。」
(「構成要件1-a」などは、審決で付与した。)である。(審判請求書35頁16-22行)

ア 本件訂正発明1
(ア)構成要件1-Aについて
・本件訂正発明1の構成要件1-Aにおいては、引用文献1(「3 請求人の具体的な主張」内においては、「甲第1号証」?「甲第10号証」についてそれぞれ「引用文献1」?「引用文献10」とも記載する。)の構成要件1-aに貫通孔1bの周縁部に厚肉鋼管の外周を溶接固定することを含めて、引用文献1の「厚肉鋼管」と本件特許発明1の「リング状の梁補強金具」とが対応している。(審判請求書46頁8-10行)
・本件訂正発明1の構成要件1-C’-2においては、フランジ部の外周が梁補強金具の外周部の一部となっており、この構成を仮定すると、本件訂正発明1の構成要件1-Aにおいては、フランジ部の外周を含む外周部が梁に形成された貫通孔の周縁部に溶接固定されることとなる。これに対して、引用文献3の第2頁左下欄末行?右下欄4行には、「フランジ2の外周部全周を溶接4によりウェブ右側面に固定する。そして梁貫通孔32内のスリーブ本体1の外周部の開先24を、ウェブ31の左側面側から溶接41してスリーブ本体をウェブに固定する。」と記載されており、フランジ2の外周とスリーブ本体1の外周部との両方がウェブ31に溶接されている。本件訂正発明1は、引用文献1に記載の発明に基づき、引用文献3に記載の発明に鑑みて進歩性がない。(弁駁書36頁3行-37頁2行)
(イ)構成要件1-Bについて
・引用文献1の「L1がTの約3倍」であることは、本件訂正発明1の構成要件1-Bである「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とし、」の範囲に入っている。(審判請求書46頁11-13行)
・本件特許の明細書の段落[0013]には「軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍に設定したのは、0.5倍より小さくすると強度が不十分になり、また、10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず、材料の無駄が大きくなるからである。」と記載されているが、材料の無駄を省き、かつ梁補強金具の強度を十分に得るために、梁補強金具の半径方向の肉厚に対する梁補強金具の軸方向の長さの比率を0.5倍?10.0倍に定めることは、一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化であって、設計事項に過ぎない。また、なぜ0.5や10.0といった数値が臨界的な意義を持つのかを示すデータも全く示されていない。そのため、本件訂正発明1は、その構成要件1-Bの全数値範囲において、引用文献1に鑑みて進歩性がない。(審判請求書46頁22行-47頁6行)
・本件訂正発明1の作用効果を得るための構成要件1-Bの数値範囲による臨界的意義は明確でない。(弁駁書32頁16?末行、口頭審理陳述要領書6頁下から3行?7頁8行)
(ウ)構成要件1-C’-1及び1-C’-2について
・引用文献2及び3に記載の周知技術の「フランジ部」又は「フランジ」に相当する引用文献1の裏当て体3aに、甲第6号証の図1(3)(n)及び(o)、甲第7号証のH形鋼の断面図に示すような周知技術であるフランジの一形態を採用すべく、かかる裏当て体3aを鋼管2における軸方向の片面側の端部に形成し、このとき、裏当て体3aの軸方向の片面と鋼管2の軸方向の片面とを鋼管2の内周から裏当て体3aの外周まで面一とする位置関係を選択することは、当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。(口頭審理陳述要領書9頁4-10行)
・「フランジ」は、例えば、配管継手である「フランジ継手」のように円筒形あるいは部材からはみ出すように出っ張った部分の総称である。同じような形態ではあるがまったく異なる用途のものが種々存在しており、それぞれの分野で「フランジ」と呼ばれる。これらの分野の「フランジ」は、つばのような形状をしている点では一致する。「フランジ」という用語は広範な意味で使われており、本件特許の明細書と図面の記載の形状に限定されるものではない。(甲第6号証?甲第10号証)(審判請求書23頁17行-30頁5行)
(エ)構成要件1-Dについて
本件訂正発明1の構成要素1-Dが、「鉄骨梁貫通孔構造用の厚肉鋼管」である引用文献1の構成要件1-dに対応していることは明らかである。(審判請求書46頁16-18行)
イ 本件訂正発明2?7
本件訂正発明2?7もまた、甲第1号証に記載の発明、甲第3号証に記載の発明,甲第4号証に記載の発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5?10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(弁駁書37頁7行?40頁13行、口頭審理陳述要領書9頁14-18行、調書)

(2)無効理由2(甲第5号証を主引用例)

請求人主張の甲第5号証に記載された発明は以下のとおり。
「構成要件1-a:ウェブに形成された円形孔の周縁部にスリーブ管が溶接固定され、
構成要件1-b:スリーブ管の軸方向の長さbsが、スリーブ管の半径方向の肉厚tsの9.09倍であり、
構成要件1-c’:スリーブ管が円筒形状に形成されている
構成要件1-d:ことを特徴とするスリーブ管。」
(「構成要件1-a」などは、審決で付与した。以下、「引用文献5の構成要件1-a」等という。)である。(審判請求書44頁15-19行)

ア 本件訂正発明1
(ア)構成要件1-A
引用文献5の「圧延H形鋼(のウェブ)」、「円形孔」、及び「スリーブ管」は、それぞれ、本件訂正発明1の構成要件1-Aの「梁」、「貫通孔」、及び「リング状の梁補強金具」に相当する。(審判請求書55頁12-14行)
本件訂正発明1の構成要件1-C’-2においては、フランジ部の外周が梁補強金具の外周部の一部となっており、この場合、本件訂正発明1の構成要件1-Aにおいては、フランジ部の外周を含む外周部が梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されることとなるが、このような場合においても、本件訂正発明1の構成要件1-Aは引用文献3に開示されている。(弁駁書44頁10-16行)
(イ)構成要件1-B
また、引用文献5の構成要件1-bにおいては、スリーブ管の半径方向の肉厚tsに対するスリーブ管の軸方向の長さbsの比率bs/tsが9.09倍であり、かかる比率bs/tsは、本件訂正発明1の構成要件1-Bにおいて、「0.5倍?10.0倍」と定められる「梁補強金具の半径方向の肉厚に対する梁補強金具の軸方向の長さの比率」の範囲内にある。(審判請求書55頁15-19行)
(ウ)構成要件1-C’-1及び1-C’-2について
・甲第6号証の図1(3)(n)及び(o)に示すように、パイプ等に設けられる「フランジ」がパイプの軸方向の端部に形成され、「フランジ」の片側面がパイプの軸方向の片側面と面一になることは、「フランジ」の周知の一形態に過ぎない。また、甲第7号証のH形鋼の断面図に示すように、本訂正発明の技術分野にて用いられるH形鋼において、「フランジ」がウェブの高さ方向(軸方向)の端部に形成され、かつ「フランジ」の片側面がH形鋼の高さ方向の片側面と面一になることもまた、このような「フランジ」の一形態に相当するといえる。
そして、引用文献1においては、裏当て体3aの軸方向の片面は平面となっており、かつ鋼管2の軸方向の片面もまた平面となっており、かつ引用文献3の第3図においても、フランジ2の軸方向の片面が平面となっており、かつスリーブ本体1の軸方向の片面もまた平面となっている。そのため、引用文献1?3に「裏当て体」、「フランジ部」又は「フランジ」として記載された周知技術のフランジを、引用文献5のスリーブ管に採用するに際して、フランジの周知の一形態を採用すべく、フランジをスリーブ管における軸方向の片面側の端部に形成し、このとき、フランジの軸方向の片面とスリーブ管の軸方向の片面とをスリーブ管の内周からフランジの外周まで面一にする位置関係を選択することは、当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。
引用文献1?3には、スリーブ管の軸方向の中央部に裏当て体又はフランジを設けなければならないことを裏付けるような記載はなく、また、本件訂正発明1の構成要件1-Bにて「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とし」と特定されており、例えば、本件訂正発明1における梁補強金具の軸方向の長さが、引用文献1と同様に、半径方向の肉厚の約3倍となることもある。してみると、本件訂正発明1における梁補強金具もまた梁へ取り付けた際に不安定になるので、本件訂正発明1の相違点1-2は、引用文献1?3に記載の構成と比較して、梁補強金具を梁へ取り付けた際に安定になるという有利な効果をもたらすものではない。さらに、上記相違点1-3に関連して、フランジ部を軸方向の片面側の端部に形成し、かつ梁補強金具における軸方向の片面側の面を、梁補強金具の内周からフランジ部の外周まで平面とすること特有の効果は、本件明細書等には開示されておらず、審判事件答弁書においても、被請求人により主張されていない。そのため、相違点1-3は、当業者にとって、引用文献5の構成を周知技術に基づいて変更する設計事項に過ぎない。よって、被請求人の上記主張は誤りである。(弁駁書42頁4行-44頁8行)
イ 本件訂正発明2?7
本件訂正発明2?7もまた、甲第5号証に記載の発明、甲第3号証に記載の発明,甲第4号証に記載の発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6?10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。(弁駁書44頁下から2行?45頁4行、口頭審理陳述要領書11頁4-9行、調書)

(3)無効理由3
請求項7は、特許法第36条第6項第2号に違反して明確性を欠いている。請求項7に記載の特許発明は、「前記柱と前記梁との接合位置から前記梁補強金具の軸心までの距離を前記梁の梁成の2倍以下にした」ことを特徴としている(上記7-C)。すなわち、上限は規定している一方、下限は規定していない。これによれば、この距離は例えば梁成の0.1倍にもなり得る。本件特許の段落番号[0020]の記載「従来の梁貫通孔スリーブの場合、梁に形成可能な貫通孔の内径は梁成の0.5倍程度が上限であったので、配管、配線が多いときは複数の貫通孔を設ける必要があったが、梁補強金具の内径を梁成の0.8倍以下とすることにより、梁の強度低下を招くことなく、配管・配線用の孔のサイズを梁成の0.8倍までサイズアップすることが可能となるため、複数の貫通孔を設ける必要がなくなり、工数低減を図ることができる。なお、梁補強金具の内径が梁成の0.8倍を超えると、梁補強機能が低下するため、0.8倍以下が好適である。」に鑑みて、補強金具の内径を梁成の0.5倍程度はあると仮定すると、貫通孔と柱がぶつかってしまい、技術的に成り立たないので、当該特徴は明確ではない。また、両者がぶつかってしまうことは技術的にあり得ないので、それは本件特許発明7の範囲外であると善解しても、貫通孔と柱が極めて近い状況にあることは、強度上も施工上も望ましくないことは明らかであるので、いずれにしても下限が示されていない以上、技術的範囲は不明確である。(審判請求書54頁11行-55頁9行)

第5 被請求人の主張及び証拠方法
1 被請求人の主張の概要
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のとおり反論した。

2 証拠方法
乙第1号証:広辞苑第5版、新村出、株式会社岩波書店、1998年11月11日、437頁、1252頁(「外周」及び「周縁」の項)
乙第2号証:大辞林第二版新装版、松村明、株式会社三省堂、2005年6月10日、415頁、1181頁(「外周」及び「周縁」の項)

3 被請求人の具体的な主張
(1)無効理由1
ア 本件訂正発明1について
(ア)甲第1号証には、本件訂正発明1の構成要件1-B、1-C’-1及び1-C’-2が開示されていないから、本件訂正発明1と甲1発明(「3 被請求人の具体的な主張」内においては、被請求人が主張する甲第1号証に記載された発明を意味する。)とは、以下の点で相違する。(答弁書13頁1-18行)
<相違点1-1>
梁補強金具の軸方向の長さと半径方向の肉厚との比率について、
本件訂正発明1は、「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とし、」(構成要件1-B)であるのに対し、甲1発明は、厚肉鋼管2の軸方向の長さと厚肉鋼管2の半径方向の肉厚との関係については不明であり、本件訂正発明1の上記構成を備えていない点。
<相違点1-2>
梁に形成された貫通孔より外径が大きいフランジ部の形成について、
本件訂正発明1は、「フランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」(構成要件1-C’-1及び1-C’-2)であるのに対し、甲1発明は、厚肉鋼管と一体の裏当て体を当接した、ウェブの一方面のみの個所を溶接したものであって、裏当て体が厚肉鋼管の軸方向のいずれの位置に形成されるかは不明であり、本件訂正発明1の上記構成を備えていない点。

(イ)構成要件1-Bに係る構成の作用効果については、本件特許の明細書において「0.5倍より小さくすると強度が不十分になり、また、10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず、材料の無駄が大きくな」ると記載されているところ(段落【0013】)、同記載に接した当業者であれば、梁補強金具の軸方向の長さと半径方向の肉厚との比率が強度や材料の浪費に影響することは容易に理解し得るから、特段の実験値及び計算値等が明細書に明示されていなくても、本件訂正発明1が構成要件1-Bの数値範囲による作用効果を有することは理解できるものである。よって、本件訂正発明1の作用効果を得るための構成要件1-Bは明確であるから、構成要件1-B(相違点1-1)に係る構成は当業者にとって容易に想到できたと言えるものではない。(口頭審理陳述要領書25頁2-13行)

(ウ)甲第1号証の明細書の記載事項、並びに、第4図及び第5図からすれば、甲第1号証には、裏当て体3aを厚肉鋼管2の「軸方向の片面側」に形成したという構成すら記載されているとは言えず、構成要件1-C’-1及び1-C’-2は何ら記載されているとは言えない。請求人は、第4図及び第5図で裏当て体3aがわずかに左側にずれているように見えることをもって、裏当て体3aを厚肉鋼管2の「軸方向の片面側」に形成したことが開示されていると主張するようであるが、甲第1号証には、被請求人が上記答弁書で述べた程度の記載しかないのであり、裏当て体3aを厚肉鋼管2の「軸方向の片面側」に形成したという構成が開示されていると言えるものではない。したがって、甲第1号証には、構成要件1-C’-1及び1-C’-2は何ら記載されていない。(口頭審理陳述要領書25頁23-26頁8行)

(エ)甲第6号証及び甲第7号証に記載されている「フランジ」は、本件訂正発明1が属する技術分野である「各種建築構造物を構成する梁に形成された貫通孔に固定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関する」(本件特許の明細書段落【0001】)ものとは明らかに異なるから、甲1発明において甲第6号証及び甲第7号証に記載された技術的事項を採用して相違点1-2に係る構成を採用することが単なる設計事項であるとは言えない。(口頭審理陳述要領書27頁24行-28頁1行)

(オ)甲1発明を相違点1-2に係る構成に改変することについて、甲第1号証乃至甲第3号証にはいずれも、スリーブ管の軸方向の中央部に裏当て体又はフランジを設けることが開示されており、他方で、裏当て体又はフランジをスリーブ管の軸方向の端に形成することを想起させる示唆は全くないのであるから、相違点1-2に係る構成にさらに改変することが容易になし得るとは言えない。梁へ取り付けた際のスリーブ管が不安定になること等を考慮すると、当業者であればそのようなスリーブ管を構成要件1-C’-1及び1-C’-2にさらに改変することは想起し得ない。(陳述要領書28頁4行-29頁5行)

(カ)以上のとおりであり、本件訂正発明1と甲1発明との相違点1-1及び1-2はいずれも当業者にとって容易に想到できたと言えるものではないから、本件訂正発明1は特許法第29条第2項の規定に該当するものではない。(陳述要領書29頁18-20行)

イ 本件訂正発明2?6について
本件訂正発明2、本件訂正発明4及び本件訂正発明5と甲1発明とは、上記相違点1-1,相違点1-2に加えて、以下の相違点2-1、相違点4-1、及び相違点5-1が存在する。

<相違点2-1>
梁補強金具の体積と、梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部との体積に対する比率について、
本件訂正発明2は、「前記梁補強金具の体積を、前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0?3.0倍とした」(構成要件2-A)であるのに対し、甲1発明は、厚肉鋼管2の体積と、梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔の内部に形成された空間との体積との比率は不明であり、本件訂正発明2の上記構成に相当する構成を備えていない点。
(答弁書17頁21行-18頁4行)

<相違点4-1>
梁補強金具の外周部のうち最小外径部からフランジ部の外周までの長さ、及び、フランジ部の軸方向の長さについて、
本件訂正発明4は、「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、」(構成要件4-A’)及び「前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした」(構成要件4-B)であるのに対し、甲1発明は、厚肉鋼管2の外周部の最小外径部から裏当て体外周までの長さ、及び、裏当て体の軸方向の長さとの関係は不明であり、本件訂正発明4の上記構成に相当する構成を備えていない点。
(答弁書22頁6行-15行)

<相違点5-1>
梁補強金具の内径と梁の梁成との関係について、
本件訂正発明5は、「前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下とした」(構成要件5-A)であるのに対し、甲1発明は、厚肉鋼管2の内径と梁鉄骨の梁成との関係は不明であり、本件訂正発明5の上記構成に相当する構成を備えていない点。
(答弁書26頁5行-10行)

本件訂正発明2と甲1発明との相違点1-1、1-2及び2-1は、いずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。
本件訂正発明3及び6についてそれぞれ甲1発明との相違点1-1、1-2がいずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。
本件訂正発明4と甲1発明との相違点1-1、1-2及び4-1は、いずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。
本件訂正発明5と甲1発明との相違点1-1、1-2及び5-1は、いずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。
(口頭審理陳述要領書29頁下から5行-33頁7行)

ウ 本件訂正発明7
本件訂正発明7と甲1発明とは、上記相違点1-1,相違点1-2が存在する。
本件訂正発明7と甲1発明との相違点1-1、1-2がいずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。(口頭審理陳述要領書30頁下から3行-31頁5行)

(2)無効理由2について
ア 本件訂正発明1について
(ア)甲第5号証には、構成要件1-Cをさらに限定した構成要件1-C’-1及び1-C’-2は開示されていないから、本件訂正発明1と甲5発明(「3 被請求人の具体的な主張」内においては、被請求人が主張する甲第5号証に記載された発明を意味する。)とは、以下の点で相違する。(答弁書29頁下から2行-30頁10行)
<相違点1-3>
梁に形成された貫通孔より外径が大きいフランジ部の形成について、
本件訂正発明1は、「前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である」(構成要件1-C’-1及び1-C’-2)であるのに対し、
甲5発明は、スリーブ管が円筒形状に形成されたものであって、「フランジ部」を備えておらず、本件訂正発明1の上記構成を備えていない点。

(イ)甲第1号証乃至甲第3号証には、請求人の主張にかかる「ウェブの円形孔に挿入されるスリーブ管のような部材の軸方向の片面側に円形孔より外径が大きいフランジ部を形成すること」は記載されておらず、ましてや相違点1-3に係る構成要件1-C’-1及び1-C’-2が開示されているとはいえないから、本件訂正発明1は当業者が容易に想到できたとは言えない。(答弁書30頁下から4行-31頁2行)

イ 本件訂正発明2?6について
本件訂正発明2及び本件訂正発明4と甲5発明とは、上記相違点1-3に加えて、以下の相違点2-2及び相違点4-2が存在する。

<相違点2-2>
梁補強金具の体積と、梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部との体積に対する比率について、
本件訂正発明2は、「前記梁補強金具の体積を、前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0?3.0倍とした」(構成要件2-A)であるのに対し、
甲5発明は、フランジを形成したスリーブ管の体積等は不明であり、本件訂正発明2の上記構成に相当する構成を備えていない点。
(答弁書32頁下から4行-33頁4行)

<相違点4-2>
梁補強金具の外周部のうち最小外径部からフランジ部の外周までの長さ、及び、フランジ部の軸方向の長さについて、
本件訂正発明4は、「前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、」(構成要件4-A’)及び「前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とした」(構成要件4-B)であるのに対し、
甲5発明は、上記「フランジ部」に相当する構成を有しておらず、本件訂正発明4の上記構成に相当する構成を備えていない点。
(答弁書34頁下から1行-35頁8行)

本件訂正発明2と甲5発明との相違点1-3及び2-2は、いずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。
本件訂正発明3、5及び6と甲5発明との相違点1-3がいずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。
本件訂正発明4と甲5発明との相違点1-3及び4-2は、いずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。
(答弁書32頁14行-37頁3行)

ウ 本件訂正発明7について
本件訂正発明7と甲5発明とは、上記相違点1-3が存在する。
本件訂正発明7と甲5発明との相違点1-3がいずれも当業者にとって容易に想到できたといえるものではない。(答弁書37頁4-12行)

(3)無効理由3について
本件訂正発明7の構成要件7-Cは、従来、地震時において変形しやすく強度低下を招くことを理由に貫通孔の配置が避けられていた塑性化領域(柱梁接合部に近い領域(段落【0010】等))にも、貫通孔の配置が可能となることを、柱と梁との接合位置から梁補強金具の軸心までの距離の上限(梁成の2倍以内)をもって規定したものである。そして、柱梁接合部から梁補強金具の軸心までの距離の「下限」については、梁補強金具の内径の大きさや求められる強度等に応じて適宜調整すべきことは、当業者であれば当然に理解可能であるから、当業者は、「下限」が明示されていなくとも、構成要件7-Cの記載の技術的意味を十分に理解し得ることは明らかである。
したがって、構成要件7-Cは明確であって、その文言に「下限」の記載がないからといって直ちに、本件訂正発明7が不明確であるといえるものではない。 (答弁書29頁6-16行)

第6 当審の判断
1 甲各号証に記載の発明または事項
(1)甲第1号証
本件特許の優先日前(以下「本件特許優先日前」という。)に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

ア 「2 特許請求の範囲
1.梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔と、この貫通孔に挿入した厚肉鋼管と、この厚肉鋼管の外周をウェブに固着する溶接部とを備えていることを特徴とする鉄骨梁貫通孔構造。
2.溶接部は、ウェブの一面側に位置し、厚肉鋼管と一体の裏当て体を備えていることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の鉄骨梁貫通孔構造。
3.貫通孔の縁はその断面が平坦であって、厚肉鋼管の外周部との間隙を溶接部の肉がウェブの一面から他面に及び得る幅に設定してあることを特徴とする特許請求の範囲第2項記載の鉄骨梁貫通孔構造。
4.裏当て体は厚肉鋼管を被嵌したリング状であることを特徴とする特許請求の範囲第2項または第3項記載の鉄骨梁貫通孔構造。」(第1頁左下欄4-20行)

イ 「(従来の技術)
従来の鉄骨梁貫通孔構造は薄肉の鋼管を梁鉄骨のウェブに設けた貫通孔に挿入して溶接により固着し、貫通孔の周辺のウェブ両面に補強プレートを溶接により固着しているものであった。」(第1頁右下欄4-8行)

ウ 「(発明が解決しようとする問題点)
しかしながら従来例によると、薄肉の鋼管と2枚のプレートとの組合せであるので、溶接部分や鋼管、プレートの寸法精度に対する品質管理が難しく、さらにプレート加工に手間がかかっていた。そして鋼管の取付けに際して、梁ウェブと、鋼管、各プレートとそれぞれ全周まわし溶接を必要とするので、溶接長が長く、溶接量が多くなるので、このために発生する溶接変形の矯正を必要とし、それだけ取付けの作業性向上に悪影響を与えていた。本発明の目的は、溶接量と部品点数とを少なくして、加工や取付けの品質管理をしやすくし、加工や取付け作業の向上が図れる鉄骨梁貫通孔構造を提供することにある。」(第1頁右下欄下から2行?第2頁左上欄13行)

エ 「梁鉄骨1のウェブ1aには貫通孔1bを設けてある。この貫通孔には厚肉の鋼管2が貫通し、この厚肉鋼管の外周のほぼ中央部を全周にわたってウェブ1aに溶接部3によって固着してある。溶接部3はすみ肉溶接により形成されている。」(第2頁右上欄1?6行)

オ 「第4,5図に溶接部の他の実施例を示す。第4図の例では、・・・そしてウェブ1aの左面からリング状の裏当て体3aを当接してある。この例によれば、溶接作業は片側のみでよいので、溶接の際ウェブ1aの歪みが生じにくく、作業を迅速にすることができる。」(第2頁左下欄11?19行)

カ 「第5図では、開先をレ形のものを使用している。その他の構成は第4図の例と実質的に同一である。第4,5図の例に示すように溶接部が裏当て体を備える場合、裏当て体を鋳造、鍛造、圧延などの方法で肉厚鋼管と一体に形成してもよい。」(第2頁右下欄3?7行)

キ 第4図、第5図には、裏当て体3aがリング状の厚肉鋼管2から突出して設けられ、当該裏当て体3aの外径が貫通孔1bより大きい点が看て取れる。

ク 第2図、第5図には、貫通孔1bの周縁の部位(周縁部)にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着されている点が看て取れる。

上記ア?クを踏まえると、甲第1号証には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「梁鉄骨1のウェブ1aに形成された貫通孔1bの周縁部にリング状の厚肉鋼管2が溶接部3により固着され、
溶接部3は裏当て体3aを備えており、裏当て体3aが厚肉鋼管2から突出して設けられ、貫通孔1bより外径が大きい裏当て体3aが、厚肉鋼管2のほぼ中央部にて厚肉鋼管2と一体に形成され、裏当て体3aをウェブ1aの左面から当接する鉄骨梁貫通孔構造用の厚肉鋼管。」

なお、請求人は、甲第1号証の第5図に記載された鉄骨梁貫通孔構造の各種寸法比及び各種体積を図面を実測して認定しているが、当該図面は、寸法又は寸法比を正確に表現したものといえないので、図面の実測に基づいて、甲1発明を認定することはできない。

(2)甲第2号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。

ア「【0009】施工に際しては、梁等の鉄骨のウェブに設けた孔に、この鉄骨孔部補強材のスリーブ部を挿通し、フランジ部を前記ウェブの表面に沿わせる。」)

イ「【0010】
・・・
図1はこの鉄骨孔部補強材1を、H形鋼からなる鉄骨4に固定した状態を示す。鉄骨孔部補強材1は、スリーブ部2と、このスリーブ部2の軸方向中央の外周に設けた円板状のフランジ部3とからなり、全体が溶接構造用鋳鋼等で一体に鋳造されている。スリーブ部2は、外周面がテーパ状に形成されて中央部の肉厚が厚くなっており、かつフランジ部3は内周側が厚肉となるテーパ面に片面が形成されている。スリーブ部2の外径は、鉄骨4の孔5の内径に応じて、例えば直径が100?400mm程度に形成される。」

ウ 図1から、フランジ部3の外径がウェブ4aの孔5の径より大きいことが看て取れる。

エ 図1及び図3からはスリーブ部2の外周部が軸方向の端部に向かうにしたがって縮径していることが看て取れる。

上記ア?エを踏まえると、甲第2号証には、以下の事項(以下、「甲第2号証に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲第2号証に記載の事項)
・鉄骨4のウエブ4aの孔5の径よりも外径が大きく、かつスリーブ部2と一体に形成された部分が、「フランジ部」と呼ばれていること。
・孔5に挿入されるスリーブ部2の外周部が軸方向の端部に向かうにしたがって縮径していること。

(3)甲第3号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。

ア 「本発明の梁貫通スリーブは、スリーブ本体1とこのスリーブ本体の外周に位置するフランジ2とを、鍛造によって一体成形したものである。スリーブ本体1は梁貫通孔32を挿通可能であって、フランジ2,12は一側面22を梁3に当接する面としている。スリーブ本体1の外周部が両端からフランジ2,12の基部との交点部に向けて肉厚となっている。」(第2頁左上欄16行?右上欄3行)

イ 「そしてスリーブ本体1の外周部11は、フランジ2の基部に向けて本体が肉厚となり、フランジとの交点部で最大厚となっている。」(第2頁左下欄1?3行)

ウ 「そして梁貫通孔32内のスリーブ本体1の外周部の開先24を、ウェブ31の左側面側から溶接41してスリーブ本体をウェブに固定する。」(第2頁右下欄1?4行)

エ 「そして開先124には、第4図に示すように3個所に等間隔を置いて径方向に突起124aが突設してある。この突起が、梁貫通孔32に対するスリーブ本体1の位置決めを行っている。」(第2頁右下欄最終行?第3頁左上欄第4行)

オ 第1図ないし第4図には、フランジ2が、スリーブ本体1の外方に突出した状態で一体となっており、ウェブ31に当接させている点が看て取れる。

カ 第1図ないし第4図には、スリーブ本体1の外周部11が軸方向の端部に向かうにしたがって縮径していることが看て取れる。

キ 第3図、第4図には、梁貫通孔32の内縁部に直接当接する3つの位置決め突起124aが、梁貫通孔32に挿入されるスリーブ本体1の外周部11に形成されている点が看て取れる。




上記ア?キを踏まえると、甲第3号証には、以下の事項(以下、「甲第3号証に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲第3号証に記載の事項)
・スリーブに一体となっていてウェブに当接されている部位を「フランジ」と呼ぶこと。
・梁貫通孔32に挿入されるスリーブ本体の外周部11が,軸方向の端部に向かうにしたがって縮径していること。
・梁貫通孔32の内縁部に直接当接する3つの位置決め突起124aが、梁貫通孔32に挿入されるスリーブ本体1の外周部11に形成されていること。

(4)甲第4号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。

ア 「【請求項1】1対のフランジとウエブとから成る鉄骨梁のウエブに孔が穿設されかつ柱と剛接または半剛接される鉄骨有孔梁の補強構造・・・」

イ 「【0010】図13に示すように、この技術による鉄骨有孔梁216には、無補強の孔218が複数個穿設され、鉄骨有孔梁216は両端が柱220と剛接または半剛接されている。・・・」

ウ 「【0023】・・・梁成をHとする。・・・」

エ 「【0055】・・・孔位置は試験体すべて梁端から3/4Hとした。」

オ 図1には、鉄骨有孔梁10に形成された孔12の中心と、部材26と鉄骨有孔梁10との接合部分が所定の距離離れている点が看て取れる。


上記ア?オによれば、甲第4号証には、以下の事項(以下「甲第4号証に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲第4号証に記載の事項)
・無補強の孔218が複数個穿設された鉄骨有孔梁216の両端が柱220と剛接または半剛接されている点。
・孔位置は試験体すべて梁端から3/4H(「H」は梁成)としたこと。
・部材26と鉄骨有孔梁10との接合位置と孔12の中心まで、所定の距離が離れていること。

(5)甲第5号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第5号証には、次の事項が記載されている。

ア 「円形孔を有するはりの耐力と設計法」(第43頁標題)

イ 「前報^(1))では,無補強円形孔を有するH形鋼はりのせん断及びせん断+曲げ耐力に関して,実験と解析について述べた。本報では,円形孔にスリーブ管を設けて補強した場合のせん断及びせん断+曲げ耐力について報告する。」(第43頁左欄2?6行)

ウ 「試験体はFig. 1に示すように,SS41の圧延H形鋼のウェブに円形孔を設け,スリーブ管を全周すみ肉溶接したものである。寸法をTable 1に示す。」(第43頁右欄下から8行?下から6行)

エ 「以上の実験で,次の事柄が認識された。
1)曲げに対する補強に関しては,スリーブ管により容易に無孔部以上の耐力を有することが出来る。
2)Fig.6には,ほぼ同じ孔径で無補強のもの(HW-4;2R=200mm)^(1))と,スリーブ管補強したもの(WHS-5)のせん断実験におけるV-γ曲線を比較したものである。厚肉のかなり大きなスリーブ管なら,せん断補強効果は相当にあることが分かる。
3)Fig.7には,WHS-5,6,7のV_(y)/V_(p)をスリーブ管幅b_(s)にたいしプロットした(●印)。なお比較のため,無補強の場合の実験値(HW-4^(1)))もb_(s)=0としてプロットした(○印)。これにより,肉厚を等しくしてb_(s)のみを拡げても,補強効果は比例的には増大しないことが分る。」(第46頁左欄18行?右欄6行)

オ 甲第5号証のFig. 1及びTable 1は下に示すようなものである。


Fig. 1及びTable 1のWHS-1を参照すると、
スリーブ管の軸方向の長さbs=52.1(mm)、
スリーブ管の半径方向の肉厚ts=5.73(mm)
であり、この場合、
bs/ts=52.1(mm)/5.73(mm)≒9.09
となる。
Fig. 1及びTable 1のWHS-1?WHS-15を参照すると、
圧延H形鋼の梁成Hに対するスリーブ管の内径2Rの比率2R/H
≒0.30?0.59
となっている。

カ Fig. 1に、スリーブ管が円筒形状であり、スリーブ管の外径縁が、ウェブの円形孔内に挿入され、設置されている点が看て取れる。

上記ア?カを踏まえると、甲第5号証には、以下の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲5発明)
「はりのウェブに形成された円形孔にスリーブ管の全周がすみ肉溶接され、
スリーブ管の軸方向の長さbsが、スリーブ管の半径方向の肉厚tsの9.09倍であり、
スリーブ管が円筒形状に形成されており、
スリーブ管の外径縁が、その径を一定とするように形成されており、
スリーブ管の内径2Rが、H(梁成)の0.30倍?0.59倍であり、
円形孔内に挿入されるスリーブ管の外径縁が円形に形成されている
ことを特徴とするはり補強用のスリーブ管。」

(6)甲第6号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、次の事項が記載されている。
ア 「1 適用範囲 この規格は,リングガスケットを用いるボルト締め管フランジ(以下,フランジという。)の応力設計の基準について規定する。・・・
備考1.・・・
(2)使用中に,接続する配管系から伝えられる外力
・・・
2.この規格は,ガスケット締付時及び使用状態のいずれの場合においても,ボルト穴の中心円の外側でフランジ面どうしが接触する場合には適用できない。」(第1431頁3-16行)

イ 「3.2 フランジの種類 ここで取り上げるフランジの種類は、次による。
(1) ルーズ形フランジ
(a) ラップジョイント形フランジ[図1(a),(b)]スタブエンドと組み合わせて使用するフランジ。
(b) 差込み形フランジ[図1(c),(d),(e)]フランジを管にねじ込むか又は差し込んで図1(d),(e)のように溶接で取り付けるもの。
(2) 一体形フランジ[図1(f),(g),(h),(i),(j)]フランジを管と一体に若しくは鍛造したもの、又は図1(g)?(j)のようにフランジと管とが一体となるように完全溶込み溶接したもの。
(3) 任意形フランジ[図1(k),(l),(m),(n),(o)] フランジを図1(k)?(o)のように管に溶接で取り付けたもの。」(第1443頁21-29行)

ウ 図1から、配管の長手方向一端にて、配管の径方向中心から外方に向かう方向につき出す部分を「フランジ」と称していること、フランジが、パイプ端部で面一になっていること(図1(1)(n)や(o)参照)、パイプ端部からセットバックしていること(図1(1)(a)や(b)参照)、パイプ端部から突出していること(図1(1)(d)参照)が看て取れる。

[図1]





上記ア?ウを踏まえると、甲第6号証には、以下の事項(以下「第6号証に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲第6号証に記載の事項)
・配管の長手方向一端にて配管の径方向中心から外方に向かう方向につき出す部分が「フランジ」と呼ばれること。
・接続される配管において、ボルト穴を有するフランジが配管に設けられたこと。
・フランジは、パイプ端部で面一になっていたり、パイプ端部からセットバックしていたり、パイプ端部から突出していたり、各種の形態があるということ。

(7)甲第7号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、次の事項が記載されている。
ア 「フランジ」及び「(t_(2))」、「ウェブ」及び「(t_(1))」(421頁の表4(H形鋼の形状及び寸法の許容差)の「区分」列の「厚さ」項目)
イ 421頁の表4の備考の一番上の図


上記図から、H形鋼の横一本に当たる部分(厚さ「t_(1)」で表記された部分である「ウェブ」)の左右から縦に突き出した部分(厚さを「t_(2)」で表記された部分である「フランジ」)の外側面が、面一に形成されている点が看て取れる。

上記ア?イを踏まえると、
甲第7号証には、以下の事項(以下「甲第7号証に記載の事項」という。)が記載されていると認められる。
(甲第7号証に記載の事項)
・H形鋼において、横1本にあたる部分を「ウェブ」、ウェブから縦に突き出した部分を「フランジ」と呼ぶこと。
・「フランジ」の外側面が、面一に形成されていること。

(8)甲第8号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証には、次の事項が記載されている。
ア 「フランジ(flange) スポークを通す穴のあるバブのつば。


」(144頁)

イ「ハブ(hub) 車輪の中心で滑らかな回転の機能を受けもっている。ホイールの要に当たる。


」(120頁)
ウ「ハブオフセット ハブ振り分け中心とハブつば間隔の中心との距離。


」(120頁)
エ 上記ア?ウの図から、スポークをハブに接続するための円形つば状の突起が、両端部からセットバックされた位置に形成された点が看て取れる。

(9)甲第9号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。
ア「フランジ【車輪の】(フランジ)・・・車輪がレール上を回転しながら進む際、脱輪しないように誘導するために,車輪の外周に連続して設けられた突起部分(輪縁)。」(628頁左欄第29-33行)

(10)甲第10号証
本件特許優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。
ア「アーチタイヤ用リムは(図-24,b),種々の構造のものがあるが,どのタイプでもビート部を,リムのフランジと横締めリングまたはそれに相応する横締めリングに代る部品との間で締付けられるようになっている。」(25頁27-29行)
イ 24頁の(図-23)普通の自動車リム


ウ 26頁の(図-24)特殊自動車タイヤ用リム



2 無効理由1(甲第1号証を主引用例とした進歩性欠如)
(1)本件訂正発明1
ア 本件訂正発明1と甲1発明の対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「梁鉄骨1」は、本件訂正発明1の「梁」に相当し、
以下同様に
「貫通孔1b」は、「貫通孔」に、
「周縁部」は、「周縁部」に、
「溶接部3により固着」は、「溶接固定」にそれぞれ相当する。
また、
「裏当て体3a」は、「厚肉鋼管2から突出して設けられ」ていることからみて、「フランジ部」であるといえるから、「貫通孔1bより外径が大きい裏当て体」は、「貫通孔より外径が大きいフランジ部」に相当する。
また、「厚肉鋼管2」は「リング状」の金具であり、「厚肉鋼管2」は「裏当て体3a」と一体となって、梁を補強することは明らかであるから、「厚肉鋼管2」と「裏当て体3a」とからなるものは、「リング状梁補強金具」に相当する。
また、甲1発明の「厚肉鋼管2」と「裏当て体3a」とが一体となったものにおいて、「裏当て体3a」は、当該一体となったものの外周部に形成されていることから、前記「裏当て体3a」が形成されている「外周部」は、本件訂正発明1の「フランジ部」が形成されている「前記外周部(リング状の梁補強金具の外周部)」に相当する。
そうすると、本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、
前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部に形成してある梁補強金具。

<相違点1>
本件訂正発明1が、軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍としているのに対して、甲1発明は、そのような特定がなされていない点。
<相違点2>
貫通孔より外径が大きいフランジ部を、本件訂正発明1では、外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面であるのに対して、甲1発明では、外周部のほぼ中央部に形成している点。

イ 判断
(ア)相違点1について
甲第5号証において、梁補強金具に関して、軸方向の長さを半径方向の肉厚の9.09倍としたものであると認定したように、半径方向の肉厚に対する軸方向の長さの倍率を本件訂正発明1のように「0.5倍?10.0倍」程度とすることは、当業者が適宜設定しうる数値範囲であり格別のこととは言えず、また、「0.5倍?10.0倍」には格別の臨界的意義も認められない。したがって、甲1発明に記載された梁補強金具の半径方向の肉厚に対する軸方向の長さの倍率を、本件訂正発明1のように「0.5倍?10.0倍」のものとすることは、当業者が容易に想到することができるものである。

(イ)相違点2について
本件訂正発明1の、貫通孔より外径が大きいフランジ部を、外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である、との構成は、甲第2号証、甲第3号証、甲第5?10号証のいずれにも記載も示唆もされていない。
また、甲1発明の裏当て体3a(フランジ部)が厚肉鋼管2と一体に形成される部位は、厚肉鋼管2のほぼ中央部であるから、甲1発明には、裏当て体3a(フランジ部)を梁補強金具の外周部の軸方向の片面側の端部に形成する格別の理由はなく、相違点2に係る構成とする動機付けはないというべきである。
そして、甲1発明に対して、仮に甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?第10号証)を適用したとしても、甲第3号証に記載されたフランジは甲1発明と同じくフランジの位置が中央部であるので、相違点2に係る構成にはならない。また、甲第6号証に記載されたフランジはボルト締め用の管フランジであり、甲第7号証に記載されたものは一般的なH形鋼のフランジにすぎず、甲1発明とは前提となる構造及び技術分野が異なるから、甲第6号証、甲第7号証にフランジを端部に形成することが記載されていると認定したとしても、その構成を甲1発明に適用する動機付けはなく、その他の甲号証をみても上記のとおり相違点2に係る本件訂正発明1の構成が記載も示唆もされていないのであるから、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることはできない。

ウ 請求人の主張
請求人は、「引用文献2及び3に記載の周知技術の「フランジ部」又は「フランジ」に相当する引用文献1の裏当て体3aに、甲第6号証の図1(3)(n)及び(o)、甲第7号証のH形鋼の断面図に示すような周知技術であるフランジの一形態を採用すべく、かかる裏当て体3aを鋼管2における軸方向の片面側の端部に形成し、このとき、裏当て体3aの軸方向の片面と鋼管2の軸方向の片面とを鋼管2の内周から裏当て体3aの外周まで面一とする位置関係を選択することは、当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。」(口頭審理陳述要領書9頁4-10行)と主張する。
しかしながら、甲1発明には裏当て体3a(フランジ部)を梁補強金具の外周部の軸方向の片面側の端部に形成するという技術思想がないところ、甲1発明に対して、仮に甲第3号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5号証?第10号証)を適用したとしても、相違点2に係る本件訂正発明1の構成とすることはできないことは上記イで説示したとおりである。
なお、請求人は、甲第6号証、甲第7号証においてフランジの一形態が示されているとの指摘をしているが、上記のように甲第6号証、甲第7号証に記載されたものは、甲1発明とは前提となる構造及び技術分野が異なるから、甲1発明の裏当て体3a(フランジ部)を梁補強金具の外周部の軸方向の片面側の端部に形成する動機付けとはならず、請求人が指摘した事項をふまえたとしても、相違点2の本件訂正発明1の構成とすることができないということに変わりはない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

エ 結論
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5?10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、その特許を無効とすることができない。

(2)本件訂正発明2?7
ア 本件訂正発明2?6は、本件訂正発明1の構成をすべて含み、さらに発明特定事項を限定するものであるから、上記と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5?10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、その特許を無効とすることができない。
イ 本件訂正発明7は、本件訂正発明1の構成をすべて含み、さらに発明特定事項を限定するものであって、しかも、甲第4号証には、上記相違点1および相違点2に係る本件訂正発明1の構成が記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明7は、甲第1号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び周知技術(甲第2号証、甲第3号証、甲第5?10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、その特許を無効とすることができない。

3 無効理由2(甲第5号証を主引用例とした進歩性欠如)
(1)本件特許発明1
ア 本件訂正発明1と甲5発明の対比
本件訂正発明1と甲5発明とを対比すると、
甲5発明の「円筒形状」、「はり補強用のスリーブ管」は、それぞれ本件訂正発明1の「リング状」、「梁補強金具」に対応するから、甲5発明の「円筒形状のはり補強用のスリーブ管」は、本件訂正発明1の「リング状の梁補強金具」相当し、
同様に、「はりのウェブに形成された円形孔」は、「梁に形成された貫通孔」に相当する。
また、甲5発明の「スリーブ管の全周」は、本件訂正発明1の「梁補強金具の外周部」に対応し、また甲5発明の「すみ肉溶接」は、スリーブ管の全周と「円形孔」の周縁の部位すなわち周縁部を溶接して固定させていることが明らかであるから、甲5発明の「円形孔」に「スリーブ管の全周がすみ肉溶接され」は、本件訂正発明1の「貫通孔の周縁部」に「(梁補強金具の)外周部が溶接固定され」に相当する。
さらに、甲5発明の「スリーブ管の軸方向の長さbs」と「スリーブ管の半径方向の肉厚ts」との比率は、本件訂正発明1の「その(リング状の梁補強金具の)軸方向の長さ」と「半径方向の肉厚」との比率に対応し、甲第5号証の「9.09倍」は、本件訂正発明1の「0.5倍?10.0倍」に含まれるから、甲5発明の「スリーブ管の軸方向の長さbsが、スリーブ管の半径方向の肉厚tsの9.09倍」は、本件訂正発明1の「その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍」に相当する。

そうすると、本件発明と甲5発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、
その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とする梁補強金具

<相違点3>
本件訂正発明1が、貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面である構成を有しているのに対して、甲5発明は、そのような構成を備えていない点。

イ 判断
相違点3について検討する。
甲第1号証?甲第3号証には、梁補強金具の外周にフランジ部を設けることが記載されているが、甲5発明はそもそも梁補強金具の外周にフランジ部がないものを前提とした技術であるから、上記甲第1号証?甲第3号証に記載された事項を適用してフランジ部を設ける動機付けはないというべきである。
また、仮に甲第1号証?甲第3号証に記載された構成を甲5発明に適用して、フランジ部を設けたとしても、甲第1号証?甲第3号証に記載されたフランジ部は梁補強金具の中央部に設けたものであるので、そのフランジ部を相違点3に係る構成のように梁補強金具の端部に配置する動機付けはない。
さらに、甲第6号証に記載されたフランジはボルト締め用の管フランジであり、甲第7号証に記載されたものは一般的なH形鋼のフランジにすぎず、甲5発明とは前提となる構造及び技術分野が異なるから、甲第6号証及び甲第7号証にフランジの片側面が面一になることが記載されていると認定したとしても、甲5発明に適用する動機付けはなく、その他の甲号証をみても相違点3に係る本件訂正発明1の構成とすることはできない。

ウ 請求人の主張
請求人は、「甲第6号証の図1(3)(n)及び(o)に示すように、パイプ等に設けられる「フランジ」がパイプの軸方向の端部に形成され、「フランジ」の片側面がパイプの軸方向の片側面と面一になることは、「フランジ」の周知の一形態に過ぎない。また、甲第7号証のH形鋼の断面図に示すように、本訂正発明の技術分野にて用いられるH形鋼において、「フランジ」がウェブの高さ方向(軸方向)の端部に形成され、かつ「フランジ」の片側面がH形鋼の高さ方向の片側面と面一になることもまた、このような「フランジ」の一形態に相当するといえる。
そして、引用文献1においては、裏当て体3aの軸方向の片面は平面となっており、かつ鋼管2の軸方向の片面もまた平面となっており、かつ引用文献3の第3図においても、フランジ2の軸方向の片面が平面となっており、かつスリーブ本体1の軸方向の片面もまた平面となっている。そのため、引用文献1?3に「裏当て体」、「フランジ部」又は「フランジ」として記載された周知技術のフランジを、引用文献5のスリーブ管に採用するに際して、フランジの周知の一形態を採用すべく、フランジをスリーブ管における軸方向の片面側の端部に形成し、このとき、フランジの軸方向の片面とスリーブ管の軸方向の片面とをスリーブ管の内周からフランジの外周まで面一にする位置関係を選択することは、当業者にとって単なる設計事項に過ぎない。」(弁駁書42頁4行-43頁6行)と主張する。
甲5発明には、フランジ部を用いて補強するという技術思想がないところ、甲5発明に対して、仮に甲第1号証?甲第3号証に記載された発明を適用したとしても甲第1号証?甲第3号証に記載されたフランジ部は中央部に設けたものであるので、相違点3に係る本件訂正発明1の構成に想到することはできないことは上記イで説示したとおりである。
なお、請求人は、甲第6号証、甲第7号証においてフランジの一形態が示されているとの指摘をしているが、上記のように甲第6号証、甲第7号証に記載されたものは、甲5発明とは前提となる構造及び技術分野が異なるから甲5発明に適用する動機付けはないということができるし、甲第6号証及び甲第7号証にフランジの片側面が面一になることが記載されていると認定したとしても、その構成を、既に説示したようにフランジ部を有していない甲5発明に適用することは当業者が容易に想到しうることとはいえない。
よって、請求人の主張を採用することはできない。

エ 結論
したがって、本件訂正発明1は、甲第5号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?第10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、その特許を無効とすることができない。

(2)本件訂正発明2?7
ア 本件訂正発明2?6は、本件訂正発明1の構成をすべて含み、さらに発明特定事項を限定するものであるから、上記と同様の理由により、甲第5号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?第10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、その特許を無効とすることができない。
イ 本件訂正発明7は、本件訂正発明1の構成をすべて含み、さらに発明特定事項を限定するものであって、しかも、甲第4号証には、上記相違点3に係る本件訂正発明1の構成が記載も示唆もされていない。
したがって、本件訂正発明7は、甲第5号証に記載された発明、甲第3号証に記載された発明、甲第4号証に記載された発明及び周知技術(甲第1号証?甲第3号証、甲第6号証?第10号証)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、その特許を無効とすることができない。

4 明確性要件違反に関する無効理由3について
請求人は、本件訂正発明7は、「前記柱と前記梁との接合位置から前記梁補強金具の軸心までの距離を前記梁の梁成の2倍以下とした」ことを特徴としており、「梁成」に対する「柱と梁との接合位置から梁補強金具の軸心までの距離」の割合の下限が特定されていない。このため、場合によっては、貫通孔と柱がぶつかってしまい、技術的に成り立たたなくなるため当該特徴は明確でなく、また、両者がぶつかってしまうことは技術的にあり得ないので、そのような場合は本件訂正発明7の範囲外であると善解しても、貫通孔と柱が極めて近い状況にあることは、強度上も施工上も望ましくないことは明らかであるので、技術的範囲は不明確である旨主張している。(審判請求書54頁11行-55頁9行)
しかしながら、本件訂正発明7の構成要件7-Cは、従来、地震時において変形しやすく強度低下を招くことを理由に貫通孔の配置が避けられていた塑性化領域にも、貫通孔の配置が可能となる梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造を提供することにあり(段落【0009】,【0010】等)、そのために、柱と梁との接合位置から梁補強金具の軸心までの距離の上限(梁成の2倍以内)をもって規定したものと解される。
そして、柱梁接合部から梁補強金具の軸心までの距離は、梁補強金具の内径の大きさや、構造体に求められる強度等の条件に応じて適宜調整されるものであり、柱梁接合部から梁補強金具の軸心までの距離の「下限」は、前記条件に応じて適宜調整されることは、当業者が当然に理解可能なことである。例えば、「柱と梁との接合位置から梁補強金具の軸心までの距離」の設定の仕方によって、貫通孔と柱がぶつかってしまうような不具合が生じる場合、その不具合を避けるために、貫通孔の内径を小さくしたり、あるいは上記距離を長くするなど、具体的に実施する場面において、規定された事項の範囲内で適宜調整し、不具合を回避できるものと解される。
よって、当業者は、「下限」が明示されていなくとも、当業者にとって構成要件7-Cの記載の技術的意味を十分に理解し得ることは明らかである。
したがって、構成要件7-Cは明確であって、本件訂正発明7が不明確であるといえるものではない。
以上のとおりであるから、請求人の主張を採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、訂正後の請求項1?7に記載された発明についての特許を無効にすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とし、前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側の端部に形成し、前記梁補強金具の軸方向の前記片面側の面は、前記梁補強金具の内周から前記梁補強金具の前記外周部の一部である前記フランジ部の外周まで平面であることを特徴とする梁補強金具。
【請求項2】
前記梁補強金具の体積を、前記梁形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0?3.0倍としたことを特徴とする請求項1に記載の梁補強金具。
【請求項3】
前記外周部を、軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させたことを特徴とする請求項1または2に記載の梁補強金具。
【請求項4】
前記外周部の最小外径部から前記フランジ部の外周までの長さを前記外周部の最小外径の半分以下とし、前記フランジ部の軸方向の長さを当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下としたことを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の梁補強金具。
【請求項5】
前記梁補強金具の内径を前記梁の梁成の0.8倍以下としたことを特徴とする請求項1?4のいずれかに記載の梁補強金具。
【請求項6】
前記貫通孔の内縁部に直接当接する3以上の位置決め突起部を前記外周部に形成したことを特徴とする請求項1?5のいずれかに記載の梁補強金具。
【請求項7】
柱梁接合構造を構成する梁に形成された貫通孔の周縁部に請求項1?6のいずれかに記載の梁補強金具の外周部を溶接固定して形成した梁貫通孔補強構造であって、前記柱と前記梁との接合位置から前記梁補強金具の軸心までの距離を前記梁の梁成の2倍以下としたことを特徴とする梁貫通孔補強構造。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種建築構造物を構成する梁に形成された貫通孔に固定され当該梁を補強する梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
H形鋼やI形鋼等は建築構造物の梁として多数使用されている。このような建築構造物においては、その内部に設けられている配管や配線を通過させるため、梁のウェブ部に1または2以上の貫通孔を形成することがある。この場合、梁の強度低下を防止する手段として、貫通孔に取り付ける補強用のスリーブ部材(例えば、特許文献1参照。)や補強プレート(例えば、特許文献2参照。)などがある。
【0003】
特許文献1には、図11に示すような梁貫通スリーブ83が記載されている。この梁貫通スリーブ83は、スリーブ本体80と、このスリーブ本体80の外周部に位置するフランジ81とを、梁82に溶接可能な材料で一体成形されたものであり、スリーブ本体80の肉厚は、少なくともその内周面側が、スリーブ本体80の両端からスリーブ本体80とフランジ81との交接部に向かって徐々に厚くなるように形成されている。このような構成とすることにより、配管84を斜め方向から挿通しても梁貫通スリーブ83の端部に接触して配管84が損傷することがなくなるという効果がある。
【0004】
特許文献2には、貫通孔が形成された梁ウェブ部の両面に、平板状の開口プレートを高力ボルト止めによって接合することを特徴とする貫通孔補強構造が記載されている。これによって、鉄骨加工工数の少ない合理的経済的な梁貫通孔の補強が可能となる。
【0005】
【特許文献1】
特公平4-63942号公報(第1-2頁、第1図)
【特許文献2】
実開平5-57149号公報(第3-4頁、第1図)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献1に記載されている梁貫通スリーブ83は、梁82のフランジ部85の幅より少し短い筒状の部材であるため、肉厚の調整によって形成できる内径の変化量にも限界があり、梁貫通スリーブ83の挿通角度にも限界がある。このため、さらに配管84の取付けの自由度が高い補強部材が求められている。
【0007】
また、特許文献2に記載されている貫通孔補強構造は、2枚の開口プレートを必要とするため部品点数が多くなり、梁のウェブ部の両面に配置される2枚の開口プレートをボルトで締結する際の位置決めが困難であるなどの問題がある。
【0008】
一方、近年のインテリジェントビルに代表されるように、建築構造物の設備機能の複雑化が進み、さらに設計対象である建築物が将来的にも建築計画上および建築設備上、十分に機能するように配慮する必要がある。このため、建築構造物内部の各種配管、配線類は柱梁接合構造において柱、言い換えれば、梁の接合端部に接近した領域に集約することが望ましいため、前記貫通孔も柱梁接合構造の柱に近い位置に形成したいという要請がある。
【0009】
しかしながら、柱に接近した梁の端部は塑性化領域と呼ばれ、大地震時において地震エネルギを吸収して大変形する部位であり、このような領域に貫通孔を設置すると柱梁接合構造の著しい強度低下を招き、それを補うことのできる補強手段もないので、一般に、塑性化領域における貫通孔の設置は避けられている。したがって、配管や配線の面からは不都合な場所である、柱から離れた部位、即ち梁の塑性化領域から離れた部位に貫通孔を形成せざるを得ないのが実状である。
【0010】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、梁に開設された貫通孔に対する配管の取り付けの自由度を高めるとともに大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ、柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置を可能とする梁補強金具と、前記梁補強金具を用いた梁貫通孔補強構造とを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するため、本発明の梁補強金具は、梁に形成された貫通孔の周縁部に外周部が溶接固定されるリング状の梁補強金具であって、その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍とし、前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を前記外周部の軸方向の片面側に形成したものである。
【0012】
梁に外力が加わったとき貫通孔の周縁部に生じる応力は、ウェブ部から貫通孔の中心軸に沿って離れるに従って徐々に小さくなるため、所定以上の軸方向長さは材料の無駄になる。そこで、梁補強金具の形状をリング状とし、その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍(より好ましくは0.5倍?5.0倍)に規制することによって、大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ、また、梁の貫通孔に対して配管を斜めから挿通しても梁補強金具に当接することがなくなり、配管の取り付けの自由度が高まる。
【0013】
この場合、軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍に設定したのは、0.5倍より小さくすると強度が不十分になり、また、10.0倍より大きくすると軸方向長さの増大の割には梁補強金具の強度が大きくならず、材料の無駄が大きくなるからである。
【0014】
また、前記梁補強金具の体積を、前記梁に形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0倍?3.0倍にすることも可能である。ここで、空間部の体積は、貫通孔の開口面積にウェブ部の厚みを乗じることにより求めることができる。
【0015】
前記梁補強金具の体積を、空間部の体積の1.0倍?3.0倍にしたのは、1.0倍より小さいと、貫通孔が形成されていない梁(以下「無孔梁」という。)より強度が小さくなり、また、3.0倍より大きいと梁の無孔部より強度が大きくなるので品質過剰になり、また、重量が大きくなり過ぎるからである。このような構成とすることによって、大きさが異なる貫通孔に対して所定の強度で補強が行われる。
【0016】
また、本発明の梁補強金具では、前記貫通孔より外径が大きいフランジ部を外周部の軸方向の片面側に形成している。梁補強金具は、貫通孔の軸方向の片方の面側から嵌入されて取り付けられるが、このとき、梁補強金具のフランジ部が、貫通孔周囲の梁ウェブ部に当接するまで嵌入することにより軸方向の位置決めを正確に行うことができる。
【0017】
また、前記外周部を、軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させることも可能である。かかる構成によって、梁補強金具を貫通孔に嵌入させる作業が容易化されて作業時間が短縮される。
【0018】
一方、前記外周部の最小外径部からフランジ部外周までの長さを、前記外周部の最小外径の半分以下とし、フランジ部の軸方向の長さを、当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とすることが望ましい。このような構成を有する梁補強金具を、梁の貫通孔に溶接接合すると、その優れた補強作用により、貫通孔が形成されていない梁、いわゆる無孔梁と同等の強度が得られるので、柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔設置が可能となる。
【0019】
また、前記梁補強金具の内径を梁成の0.8倍以下とすることが望ましい。ここで、梁成とは、梁の重力方向の寸法、例えば、H形鋼を用いた梁であれば片方のフランジ部表面から他方のフランジ部表面までの寸法をいう。
【0020】
従来の梁貫通孔スリーブの場合、梁に形成可能な貫通孔の内径は梁成の0.5倍程度が上限であったので、配管、配線が多いときは複数の貫通孔を設ける必要があったが、梁補強金具の内径を梁成の0.8倍以下とすることにより、梁の強度低下を招くことなく、配管・配線用の孔のサイズを梁成の0.8倍までサイズアップすることが可能となるため、複数の貫通孔を設ける必要がなくなり、工数低減を図ることができる。なお、梁補強金具の内径が梁成の0.8倍を超えると、梁補強機能が低下するため、0.8倍以下が好適である。
【0021】
また、前記貫通孔に直接当接する3以上の位置決め突起部を外周部に形成することも可能である。このような構成とすることにより、貫通孔と梁補強金具の形状の誤差を吸収して中心位置を合わせることができる。
【0022】
次に、本発明の梁貫通孔補強構造は、柱梁接合構造を構成する梁に形成された貫通孔の周縁部に、前述したいずれかの梁補強金具の外周部を溶接固定して形成したものであって、柱と梁との接合部から梁補強金具の軸心までの距離を梁成の2倍以下としたことを特徴とする。
【0023】
このような構成とすることにより、建築構造物内部の各種配管、配線類を通すために梁に形成される貫通孔を、柱梁接合構造の柱に接近した位置に配置することができるようになるため、配管、配線の集約化を図ることが可能となり建築物の設計上好都合であり、配管・配線の施工性も大幅に向上する。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
(第1実施形態)
図1(a)は本発明の第1実施形態である梁補強金具の使用状態を示す側断面図であり、(b)は前記梁補強金具が取り付けられる梁の貫通孔を示す側断面図であり、図2は前記梁補強金具の使用状態を示す斜視図である。
【0025】
図1に示すように、梁補強金具1は、例えばH形鋼からなる梁2に形成された内径Rの大きさの円形の貫通孔3に嵌入され、貫通孔3の周縁部に外周部4が溶接固定されるリング状の補強部材である。梁補強金具1の外径d1は、貫通孔3の内部に形成された内径Rの円形の空間部6に嵌入可能な大きさであり、その軸方向長さAは、梁2のウェブ部2wの厚みt1より厚く形成されている。また、梁補強金具1の内径d2は、その内側に配管5を挿通可能な大きさであって、梁2の重力方向の高さである梁成Hの0.8倍以下に形成している。
【0026】
梁2のウェブ部2wの欠損部分である空間部6の体積V1は、
V1=R^(2)×π×t1×1/4
によって求めることができ、梁補強金具1の体積V2は、
V2=(d1^(2)-d2^(2))×π×A×1/4
によって求めることができる。本実施形態においては、梁補強金具1の体積V2を空間部6の体積V1の1.0倍?3.0倍に設定している。かかる構成によって、貫通孔3が形成された梁2の強度を無孔梁と同等にすることができる。
【0027】
また、従来の梁貫通スリーブのように、軸方向の長さを長くしても強度への影響が少ないことを考慮し、軸方向の長さAを、半径方向の肉厚B(但しB=(d1-d2)/2)の0.5倍?10.0倍(より好ましくは0.5倍?5.0倍)に設定している。かかる構成によって、空間部6の体積V1と梁補強金具1の体積V2との体積比率の設定を変えずに必要な強度を確保できるとともに梁補強金具1の軸方向の長さを短くすることができ、梁補強金具1の内部を通過する配管5の梁2に対する挿通角度を大きくすることができるので、取り付けの自由度を上げることができる。
【0028】
図1(a)に示すように、梁補強金具1は、外周部4の軸方向の両端部を、貫通孔3の周縁部に表側および裏側からそれぞれ全周にわたって溶接することによって固定されている。梁補強金具1を溶接固定した後は、図2に示すように、その内部に配管5などを挿通させることができる。
【0029】
(第2実施形態)
図3は本発明の第2実施形態である梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。梁補強金具7は、前述した梁補強金具1の外周部4の軸方向の片面側に、梁2に形成された貫通孔3より外径が大きいフランジ部8を形成したものである。梁補強金具7は、その外周部9を梁2のウェブ部2wの片面側(図3の紙面左側)から貫通孔3へ嵌入し、フランジ部8を梁2のウェブ部2wに当接した後、その外周部9と、フランジ部8の外周部とをそれぞれ梁2のウェブ部2wの表面側および裏面側にそれぞれ溶接することによって固定される。このようなフランジ部8を設けることによって、軸方向の位置決めを設置用工具なしで確実に行うことができる。
【0030】
(第3実施形態)
図4は本発明の第3実施形態である梁補強金具を示す正面図であり、図5は図4におけるX-X線断面図であり、図6は図4に示す梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。
【0031】
図4,図5に示すように、梁補強金具10においては、その外周部12の軸方向の片面側にフランジ部13を設けるとともに、外周部12をその軸方向の他面側(フランジ部13の無い面側)に向かって徐々に縮径するテーパ形状としている。ここで、梁補強金具10の各部の寸法を図5に示すような符号で表すと、梁補強金具10の体積V2は、
V2=(πT/3)×[(Q/2)^(2)+{(Q/2)×(d3/2)}+(d3/2)^(2)]+(S/2)^(2)πF-(d2/2)^(2)πAによって求めることができる。また、図6に示すように梁2のウェブ部2wに形成された貫通孔3の空間部6(図示せず)の体積V1は、図1(b)に基づいて算出した場合と同様に、
V1=R^(2)×π×t1×1/4
によって求めることができる。
【0032】
本実施形態においては、梁2の貫通孔3に溶接接合された梁補強金具10の体積V2を、空間部6の体積V1の1.0?3.0倍とし、梁補強金具10の内径d2を梁2の梁成Hの0.8倍以下としている。さらに、梁補強金具10においては、外周部12の最小外径部12aからフランジ部13の外周までの長さCを外周部12の最小外径d3の半分以下(より好ましくは1/4以下)とするとともに、フランジ部13の軸方向の長さFを、梁補強金具10の軸方向の長さAの半分以下としている。このような構成により、貫通孔3が形成された梁2の強度を無孔梁と同等にすることができる。
【0033】
図6に示すように、梁2のウェブ部2wに形成された貫通孔3と梁補強金具10との溶接部Wにおいては、梁補強金具10の外周部12を貫通孔3の内縁部3aまで溶け込み溶接することによって強固に固定されている。また、梁補強金具10の外周部12をフランジ部13の無い方の面側に向かって徐々に縮径する形状としているため、梁補強金具10の外周部12を貫通孔3へ嵌入させたとき、外周部12は貫通孔3の内縁部3aに対して傾斜した状態となる結果、外周部12が溶接開先として機能するため、溶接性が向上し、溶接不良の発生を回避することができる。
【0034】
(第4実施形態)
図7は本発明の第4実施形態である梁補強金具を示す正面図であり、図8は図7におけるY-Y線断面図であり、図9は図7に示す梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。
【0035】
図7,図8に示すように、梁補強金具20においては、その外周部12の軸方向の片面側にフランジ部13を設けるとともに、外周部12を軸方向の他面側に向かって徐々に縮径するテーパ形状としている。また、外周部12の120度おきの3カ所に、梁2の貫通孔3の内縁部3aに直接当接する位置決め突起部11を均等配置している。
【0036】
このような位置決め突起部11を設けることによって、梁2の貫通孔3の内縁部3aと梁補強金具20の外周部12との間に形状的な誤差がある場合でも、容易かつ正確に中心位置合わせを行なうことができ、これによって取り付け精度を向上させ品質向上を図るとともに作業時間も短縮することができる。
【0037】
また、外周部12は、フランジ部13のない方の面側に向かって徐々に縮径する形状としているため、図9に示すように、梁補強金具20の外周部12を貫通孔3へ嵌入させたとき、外周部12は貫通孔3の内縁部3aに対して傾斜した状態となる結果、外周部12が溶接開先として機能するため、溶接性が向上し、溶接不良の発生を回避することができる。
【0038】
さらに、梁補強金具20においては、外周部12の最小外径部12aからフランジ部13の外周までの長さCを外周部12の最小外径d3の半分以下(より好ましくは1/4以下)とするとともに、フランジ部13の軸方向の長さFを梁補強金具20の軸方向の長さAの半分以下としている。また、梁補強金具20の内径d2を、梁2の梁成Hの0.8倍以下としている。このような構成を有する梁補強金具20を、図9で示したように、梁2の貫通孔3に嵌入させ、外周部12と貫通孔3の内縁部3aとを溶接接合すると優れた補強作用を発揮し、貫通孔3が形成されていない無孔梁と同等の強度が得られる。
【0039】
ここで、図10を参照して、前述した図4などで示した梁補強金具10を用いて構築した梁貫通孔補強構造について説明する。図10に示すように、垂直な1本の柱14に対して水平な4本の梁2が4方向から90度間隔で接合された柱梁接合構造が形成され、これらの梁2のうちの互いに直線をなすように配置された2本の梁2に形成された貫通孔3に、梁補強金具10が図6で示した状態で溶接接合されている。
【0040】
図10に示す梁貫通孔補強構造においては、柱14とそれぞれの梁2との接合部16から梁補強金具10の軸心10cまでの距離17を梁2の梁成Hの2倍以下としている。このように、梁補強金具10を用いて補強することにより、貫通孔3を柱14に接近した位置に配置することができるようになるため、配管、配線の集約化を図ることが可能となって建築物の設計上好都合であり、建築構造物を構築する際の各種配管、配線類の施工性が大幅に向上する。
【0041】
一般に、梁3と柱14との接合部16から梁成Hの2倍の距離だけ離れた位置までの領域を塑性化領域15といい、通常は貫通孔3の形成を回避する領域であったが、梁補強金具10を貫通孔3の周縁部に溶接接合することによって梁2の強度低下が抑制され、無孔梁と同等の強度が得られるため、このような塑性化領域15にも貫通孔3を形成することが可能となった。
【0042】
前述のような構成を有する梁補強金具10が優れた梁補強作用を発揮する理由については、一部不明な部分もあるが、梁補強金具10の形状、各部の寸法比、体積比などを前述したように設定すれば、この梁補強金具10を梁2の貫通孔3に溶接接合することによって梁2のウェブ部2wの面外剛性が高まり、梁2に外力が加わったときのウェブ部2wの面外変形が防止されるためではないかと推測される。
【0043】
また、梁補強金具10の軸方向の長さAを、半径方向の肉厚Bの10.0倍以下にすることにより、さらに材料の無駄を省いて梁2を軽量化すると共に、配管等の設置の自由度を高めることも可能である。
【0044】
なお、図10においては梁補強金具10を用いて形成した梁貫通孔補強構造を示しているが、前述したその他の梁補強金具1,7,20を用いても同様の梁貫通孔補強構造を形成することが可能であり、いずれの場合においても梁補強金具10を用いた場合と同様の効果を得ることができる。
【0045】
【発明の効果】
本発明によって以下の効果を奏することができる。
【0046】
(1)梁補強金具の形状をリング状とし、その軸方向の長さを半径方向の肉厚の0.5倍?10.0倍(より好ましくは0.5倍?5.0倍)とすることにより、大きさの異なる貫通孔に対しても材料の無駄を省きつつ必要な強度まで補強することができ、貫通孔に対して配管を斜めから挿通しても梁補強金具に当接することがなくなり配管等の取り付けの自由度を高めることができる。
【0047】
(2)梁補強金具の体積を、梁に形成された貫通孔の内部に形成された空間部の体積の1.0倍?3.0倍にすることにより、大きさが異なる貫通孔に対しても必要な強度で補強が行われ、また、重量が大きくなり過ぎることを防止できる。
【0048】
(3)貫通孔より外径が大きいフランジ部を外周部の軸方向の片面側に形成することにより、軸方向の位置決めを正確かつ迅速に行うことができるようになる。
【0049】
(4)外周部を軸方向の他面側に向かって徐々に縮径させることにより、梁補強金具を貫通孔に嵌入させる作業を容易化して作業時間を短縮することができる。
【0050】
(5)外周部の最小外径部からフランジ部外周までの長さを、外周部の最小外径の半分以下とし、フランジ部の軸方向の長さを、当該梁補強金具の軸方向の長さの半分以下とすることにより、梁の貫通孔に溶接接合したとき優れた補強作用を発揮し、無孔梁と同等の強度が得られるので、柱梁接合部に近い塑性化領域における貫通孔の設置が可能となる。
【0051】
(6)梁補強金具の内径を梁成の0.8倍以下とすることにより、梁の強度低下を招くことなく、梁の貫通孔のサイズを梁成の0.8倍までサイズアップすることが可能となるため、複数の貫通孔を設ける必要がなくなり、工数低減を図ることができる。
【0052】
(7)梁の貫通孔の内縁部に直接当接する3以上の位置決め突起部を外周部に形成することにより、貫通孔と梁補強金具の形状の誤差を吸収して中心位置を合わせることができるため、取利付け精度が高まり品質が向上するとともに作業時間を短縮することができる。
【0053】
(8)柱梁接合構造を構成する梁の貫通孔に前記(1)?(7)のいずれかの梁補強金具を溶接接合して形成した梁貫通孔補強構造において、柱と梁との接合部から梁補強金具の軸心までの距離を梁成の2倍以下とすることにより、柱に近い位置に貫通孔を配置可能となるため、配管、配線の集約化を図ることができ、建築物の設計上好都合であり、配線・配管の施工性も大幅に向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は本発明の第1実施形態である梁補強金具の使用状態を示す側断面図であり、(b)は前記梁補強金具が取り付けられる梁の貫通孔付近を示す側断面図である。
【図2】 図1に示す梁補強金具の使用状態を示す斜視図である。
【図3】 本発明の第2実施形態である梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。
【図4】 本発明の第3実施形態である梁補強金具を示す正面図である。
【図5】 図4におけるX-X線断面図である。
【図6】 図4に示す梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。
【図7】 本発明の第4実施形態である梁補強金具を示す正面図である。
【図8】 図7におけるY-Y線断面図である。
【図9】 図7に示す梁補強金具の使用状態を示す側断面図である。
【図10】 図4に示す梁補強金具を用いて構築した梁貫通孔補強構造を示す斜視図である。
【図11】 従来技術である梁貫通スリーブを示す側断面図である。
【符号の説明】
1,7,10,20 梁補強金具
2 梁
2w ウェブ部
3 貫通孔
3a 内縁部
4 外周部
5 配管
6 空間部
8,13 フランジ部
9 外周部
10c 軸心
11 位置決め突起部
12 外周部
12a 最小外径部
14 柱
15 塑性化領域
16 接合部
17 距離
d2 梁補強金具の内径
H 梁成
W 溶接部
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2018-09-18 
結審通知日 2018-09-20 
審決日 2018-10-03 
出願番号 特願2002-351706(P2002-351706)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (E04C)
P 1 113・ 537- YAA (E04C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 住田 秀弘  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 西田 秀彦
小野 忠悦
登録日 2007-02-02 
登録番号 特許第3909365号(P3909365)
発明の名称 梁補強金具およびこれを用いた梁貫通孔補強構造  
代理人 高梨 義幸  
代理人 奥山 尚一  
代理人 高梨 義幸  
代理人 齊藤 拓史  
代理人 小川 護晃  
代理人 小勝 有紀  
代理人 松山 智恵  
代理人 松山 智恵  
代理人 齊藤 拓史  
代理人 小勝 有紀  
代理人 飯田 圭  
代理人 澤井 光一  
代理人 徳本 浩一  
代理人 澤井 光一  

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