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審決分類 審判 全部無効 特174条1項  H01L
管理番号 1359969
審判番号 無効2019-800031  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2019-04-11 
確定日 2020-02-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第5800452号発明「半導体発光素子」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件の事案の概要及び経緯
1 事案の概要
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5800452号(以下「本件特許」という。)の請求項1?9に記載された発明についての特許を無効とすることを求める事案である。

2 本件の経緯
本件特許に係る出願は、平成14年7月23日(優先権主張の日:平成13年7月24日、平成14年2月19日)を出願日とする出願である特願2002-213490
の一部を平成18年9月19日に新たな出願とした特願2006-252509号
の一部を平成21年4月21日に新たな出願としたものであって、その経緯は次のとおりである。
以下、証拠番号は、「第」及び「号証」を略して表記する。

(1)本件特許の登録までの経緯
平成21年 5月20日 :手続補正書(甲8の1)
平成23年 3月31日 :手続補正書(甲3)・上申書(甲4)
平成24年 5月 7日付け:拒絶理由通知書(甲8の2)
平成24年 7月13日 :意見書(甲8の4)・手続補正書(甲8の3)
平成25年 1月24日付け:拒絶理由通知書(甲8の5)
平成25年 4月 1日 :意見書(甲6・甲8の7)・手続補正書( 甲5・甲8の6)
平成25年10月21日付け:拒絶理由通知書(甲8の8)
平成25年12月26日 :意見書(甲8の10)・手続補正書(甲8の9)
平成26年 5月 8日付け:補正の却下の決定(甲8の12)・拒絶査定(甲8の11)
平成26年 8月 5日 :拒絶査定不服審判請求(甲8の14)・手続補正書(甲8の13)
平成27年 3月27日 :上申書(甲8の15)
平成27年 5月13日付け:拒絶理由通知書(甲8の16)
平成27年 6月 8日 :意見書(甲8の18)・手続補正書(甲8の17)
平成27年 7月22日付け:請求成立審決(甲8の19)
平成27年 9月 4日 :特許登録(甲1)

(2)本件審判事件に係る経緯
平成31年 4月11日 :本件審判請求
令和 元年 7月 8日 :答弁書
令和 元年 7月30日付け:審理事項通知書
令和 元年 8月30日 :口頭審理陳述要領書(被請求人)
令和 元年 9月18日 :口頭審理陳述要領書(請求人)
令和 元年10月 7日 :口頭審理期日
令和 元年10月21日 :上申書(請求人)
令和 元年11月 6日 :上申書(被請求人)

第2 当事者の主張の概要
1 請求人の主張及び提出した証拠方法
(1)請求人の主張の概要
平成25年4月1日提出の手続補正書(甲5・甲8の6)でした手続補正のうち、請求項1に「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下である」との事項を記載した補正(以下「本件補正」という。)は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(甲2。以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
ア 本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(甲1。以下「特許明細書等」という。)の請求項1(以下「本件特許請求項1」という。)の「前記凸部の側面の傾斜角」は、「前記サファイア基板の表面」と「凸部の側面」とがなす角度を意味するとともに、「前記サファイア基板の表面」とは、「凸部がない領域のサファイア基板の表面」を意味するとの被請求人の主張は、本件審判事件では、争わない。しかし、そのように解するならば、新規事項追加である。
(請求人口頭審理陳述要領書4頁下から11行?末行、第1回口頭審理調書の陳述の要領の請求人「7」)

イ 当初明細書等には、凸部の側面の傾斜が「テーパ角」(上面と側面とのなす角(【0026】・【0051】)で特定されていたにとどまる。当初明細書等の記載からは、凸部の側面の角度を、サファイア基板の表面と凸部の側面とのなす角である「傾斜角」という角度表現によって特定することは、導けない。凸部の側面の傾斜を「90°より大きく、160°以下」と規定するためには、その根拠となる「テーパ角」として限定される必要があり、その限定がなく、「傾斜角」が「90°より大きく、160°以下」であるとの解釈をもたらす本件補正は、新規事項追加である。
(審判請求書10頁13行?18行、請求人口頭審理陳述要領書8頁下から11行?下から7行)

ウ 当初明細書等において、凸部の側面の傾斜を「テーパ角」として特定していた理由には合理性があるから、他の角度表現に補正することはできない。
すなわち、当初明細書等は、凸部を上面のある台形とすることで、光の散乱及び回折効率を高めるものとしている(【0026】・【0051】)から、凸部の側面の傾斜を凸部の上面との関係で特定していたものである。また、当初明細書等は、凸部・凹部を半導体層に結晶欠陥を発生させない形状とすることを課題にしているところ、上面のある凸部とすることで、結晶性に優れた製品にできる(【0043】)のであるから、凸部に上面があることが当初明細書等に記載された技術的課題と不可分の関係にあり、このため、テーパ角が、側面の角度表現として一貫して用いられている。さらに、テーパ角を特定する当初明細書等の請求項22は、同請求項20(凹部の断面形状が逆台形であり、凸部の断面形状が台形であることが特定されている。)を引用しているから、当初明細書等は、断面形状が台形である凹凸を対象にテーパ角を特定している。
このように、当初明細書等が「テーパ角」をもって凸部の側面の傾斜を特定していたのは、凸部の上面が重要であるとされているからであって、このことには合理性があり、しかも、一貫しているのであって、これ以外の凹凸側面についての傾斜角度の規定はない。よって、「テーパ角」を他の角度表現に書き換えることはできない。
(審判請求書10頁下から10行?下から8行・11頁1行?13頁下から8行、請求人口頭審理陳述要領書8頁7行?14行・11頁11行?12頁2行)

エ 「テーパ角」と「傾斜角」とは、凸部の上面がサファイア基板の表面と平行でないときに、違う量を表す。このことは、当初明細書等の図5(b)からもわかる。そのため、本件補正により傾斜角が特定されたことで、傾斜角を有する全ての構成の凸部が含まれるように上位概念化がされたことになる。
(審判請求書13頁下から7行?15頁下から9行、請求人口頭審理陳述要領書26頁10行?18行)

オ 被請求人は、凸部の上面の存在を必須としない旨主張するが、凸部の側面の傾斜の基準面は、当初明細書等では、凸部の上面であったのであり、これを、サファイア基板の表面とするとみなすことはできない。被請求人は、光の散乱・回折に寄与しているのが凸部の側面及びその傾斜であり、凸部の上面が寄与していないことを主張の根拠とするけれども、そうであるならば、サファイア基板の表面も同様に寄与していない。よって、基準面として、凸部の上面を捨象し、サファイア基板の表面とする理由はない。
(請求人口頭審理陳述要領書10頁下から9行?11頁2行・11頁6行?9行)

カ 被請求人は、当初明細書等から、本件特許請求項1の「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、」が導き出される旨主張し、その根拠として、従来の平坦なサファイア基板と比較して、「平坦なサファイア基板の表面(サファイア基板の主面)から傾いた面で反射させることが必要であり、その傾きの程度に応じて入射角の変化が決まる」旨主張する。
しかし、当初明細書等は、凸部を設けることを前提としてその側面を傾斜させていたのであるから、凸部を除外する論理は短絡的である。あくまで、凸部の側面の傾斜角度が問題であり、その基準には様々な考え方があるところ、当初明細書等は、凸部に上面がある場合は凸部の上面を基準とし、または、半導体層の積層方向(基板表面と直交する方向)を基準としていたにとどまる。基準面の考え方は種々あり、どのような基準面があるのかは、当初明細書等にどのように記載されているかということに尽きる。
また、凸部の上面も平坦面であり、これと凸部がない領域のサファイア基板の表面とどのように相違するのか理解ができない。
(請求人口頭審理陳述要領書12頁4行?13頁下から5行・7頁1行?下から8行・18頁下から5行?19頁5行)

キ 被請求人は、凸部がない領域のサファイア基板の表面に対して凸部の側面を「90°より大きく、160°以下」という角度範囲とすることで凸部の側面での散乱・回折の確率を高めるという技術的事項が、当業者によって当初明細書等の記載を総合することにより導かれる旨主張する。
しかし、凸部の上面の存在を必須としないとの結論は、サファイア基板の表面の存在と比べた上で、得られたものではない。また、【0052】は、当該角度範囲を凸部の上面を基準として規定しているのであり、当該角度範囲をサファイア基板の表面を基準とする傾斜角に及ぼす理由はない。
(請求人口頭審理陳述要領書14頁10行?15頁3行)

ク 被請求人は、記載事項1及び2から、「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、」との特定事項が導き出される旨主張する。
記載事項1について、「凸部の側面における光の散乱回折によって、臨界角以上の光を臨界角よりも小さな角度で基板表面に入射させて光を取り出すこと」が、当初明細書等に記載されていることは、争わない。また、記載事項2について、当初明細書等において、凸部の断面形状が、方形や台形に限定されないことも、請求人は理解する。
しかし、記載事項1及び2から上記特定事項が導き出されるという被請求人の主張は、次の点で疑義がある。第一に、凸部の上面と凸部がない領域のサファイア基板の表面とは、いずれも平坦面であることからも、また、いずれも光の散乱回折に寄与しているとも認識できないことからも、相違が理解できない。第二に、当初明細書等が、凸部の上面と連続する面を側面として、その傾斜の有用性について説明していることと整合しない。第三に、被請求人の論理構成は、凸部の各態様の共通点から結論を導いているものであるが、台形凸部が連続することにより、凸部がない領域のサファイア基板の表面が消失している構造や、三角波状・サインカーブ状の形態のような、傾斜側面を備えながらも、基板の表面を備えない構造が存在することを踏まえると、凸部がない領域の基板の表面は、傾斜角度を定めるための本質的事項ではない。
よって、凸部の側面の傾斜基準を、凸部がない領域のサファイア基板の表面であると解釈することはできない。当初明細書等にどのように記載されているのかが重要であり、当初明細書等には、テーパ角の定義も含めて、凸部の上面が傾斜基準であることが明瞭に記載されている。
(請求人口頭審理陳述要領書15頁5行?17頁下から7行・18頁3行?13行、第1回口頭審理調書の陳述の要領の請求人「9」、請求人上申書2頁3行?14行)

ケ 上記クの「第三」の点について補足すると、凸部側面の傾斜基準が、凸部がない領域のサファイア基板の表面であることを導くためには、単に上面がない凸部が実施形態に存在するだけではなく、光の散乱・回折を効率的に行うためには、サファイア基板の表面を基準とすることが「本質的」であることが求められる。ここで、「本質的」であるとするためには、当初明細書等の実施形態に限定されず、傾斜側面を有する凸部(凹部)を持つすべての同種半導体発光素子において、サファイア基板の表面が、凸部側面の傾斜基板になることが必要である。三角波状・サインカーブ状の形態や、台形凸部と逆台形凹部が連続する構成にあっては、凸部上面又は凹部下面は存在するものの、凸部がない領域のサファイア基板の表面が存在しないのであり、それにもかかわらず、これらの形態は、傾斜側面により、光の効率的な散乱・回折がなされている。よって、サファイア基板の表面を凸部側面の傾斜基準とすることは本質的ではない。
また、当初明細書等の特許請求の範囲には、サファイア基板の表面と凸部の傾斜側面との関係を規定する発明特定事項は存在しない。そして、本件補正に係る「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下である」との事項の補正の根拠となる、本件補正前の請求項9及び請求項10(甲8の3)にも、「凸部がない領域の基板の表面」との概念は存在しない。このように、当初明細書等には、「凸部がない領域の基板の表面」自体がない発明が内在されているのであり、このことからも、凸部がない領域の基板の表面を凸部側面の傾斜基準とすることは、後付けであり、本質的でないといえる。
被請求人は、凸部の実施態様として、断面半円形凸部が示されていることをもって、サファイア基板の表面が傾斜基準として着目されると主張しているが、断面半円形凸部は、傾斜側面を有しないから、当業者が、この例をもって、傾斜基準として基板表面に着目するとは考えられない。
(請求人上申書2頁17行?4頁下から2行)

コ 被請求人は、図10の開示によれば、当業者が、凹部の側面の傾斜の基準となる面が基板の主面であることを当然に理解する旨主張する。しかし、テーパ角の基準面は、凹部であれば底面であり、凸部であれば上面である。
(請求人口頭審理陳述要領書19頁下から8行?20頁2行)

サ 被請求人は、当初明細書等から、本件特許請求項1の「前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下である」との特定事項が導き出される旨主張する。しかし、当初明細書等は、角度範囲をテーパ角に基づき特定していたのであり、傾斜角に基づき特定していなかった。被請求人の主張は、後付けである。
被請求人は、当初明細書等が、あくまで、凸部の断面形状が好ましい台形であるときにテーパ角をどう定めるかを説明したにすぎず、台形でないときには、サファイア基板の表面と凸部の側面とのなす角度に着目すべき旨主張する。しかし、当初明細書等は、凸部の上面又は凹部の底面を基準としたテーパ角のみをもって角度範囲を定めており、【0031】・【0083】の「傾斜角」との文言も、テーパ角を意味するものと解される。よって、この角度範囲の記載を、「傾斜角」に差し換えることはできない。
被請求人は、凸部の上面と側面とがなす角をテーパ角とした理由について補角を排除するためであると説明しているが、そのためであるならば様々な表現があるから、被請求人の主張は後付けである。また、被請求人は、凸部や凹部の側面の傾きは、全反射を生じている基板の平坦面を基準に定めることが本質的である旨主張するが、そうであるならば、当初明細書等にそう記載すべきであった。
被請求人は、当初明細書等の【0031】に「傾斜角」との文言がある旨主張するが、この「傾斜角」は、「テーパ角」を意味しているにすぎない。
被請求人は、図9について、それ全体が凸部(又は凹部)を示すとした上で、テーパ角と傾斜角とが同一になることが開示されている旨主張する。しかし、図9は、左部分で凹部を示し、右部分で凸部を示すものである。被請求人の主張は、図9の曲解である。
被請求人は、本件補正における「90°より大きく、160°以下」という数値範囲が、断面が台形でない凸部にも適用されるという技術的事項が導かれる旨主張する。しかし、被請求人が主張する根拠は図9のみであり、この主張は失当である。
(請求人口頭審理陳述要領書20頁5行?24頁下から9行)

(2)請求人が提出した証拠方法
甲1:特許第5800452号公報(本件特許に係る公報)
甲2:特開2009-200514号公報(本件特許に係る出願公開公報)
甲3:平成23年3月31日提出の手続補正書
甲4:平成23年3月31日提出の上申書
甲5:平成25年4月1日提出の手続補正書
甲6:平成25年4月1日提出の意見書
甲7:広辞苑第七版(「段」及び「段差」)
甲8の1:平成21年5月20日提出の手続補正書
甲8の2:平成24年5月7日付け拒絶理由通知書
甲8の3:平成24年7月13日提出の手続補正書
甲8の4:平成24年7月13日提出の意見書
甲8の5:平成25年1月24日付け拒絶理由通知書
甲8の6:平成25年4月1日提出の手続補正書
甲8の7:平成25年4月1日提出の意見書
甲8の8:平成25年10月21日付け拒絶理由通知書
甲8の9:平成25年12月26日提出の手続補正書
甲8の10:平成25年12月26日提出の意見書
甲8の11:平成26年5月8日付け拒絶査定
甲8の12:平成26年5月8日付け補正の却下の決定
甲8の13:平成26年8月5日提出の手続補正書
甲8の14:平成26年8月5日提出の審判請求書
甲8の15:平成27年3月27日提出の上申書
甲8の16:平成27年5月13日付け拒絶理由通知書
甲8の17:平成27年6月8日提出の手続補正書
甲8の18:平成27年6月8日提出の意見書
甲8の19:平成27年7月22日付け審決
甲9:東京地方裁判所平成31年(ワ)第36号事件の被告第1準備書面

2 被請求人の主張及び提出した証拠方法
(1)被請求人の主張の概要
本件補正は新規事項を追加するものではないから、請求人が主張する無効理由は、成り立たない。
ア 本件特許請求項1の「前記凸部の側面の傾斜角」は、「凸部の側面」と「前記サファイア基板の表面」とがなす角度を意味し、「前記サファイア基板の表面」とは、凸部がない領域のサファイア基板の表面を意味する。
(被請求人口頭審理陳述要領書13頁下から10行?21頁4行)

イ 本件特許請求項1の「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、」は、次のとおり、当初明細書等の記載から導き出される事項である。
当初明細書等には、「従来の平坦なサファイア基板の表面に臨界角以上の角度で入射する光が全反射を繰り返すという課題を解決するために、凸部の側面における光の散乱回折によって、臨界角以上の光を臨界角よりも小さな角度で基板表面に入射させて光を取り出すこと」(記載事項1)が記載されている。(被請求人口頭審理陳述要領書30頁末行?31頁4行・31頁下から4行?35頁1行)
さらに、当初明細書等には、「凸部の断面形状は、方形や台形に限定されないこと」(記載事項2)が記載されている。(被請求人口頭審理陳述要領書31頁5行?7行・35頁2行?39頁下から7行)
記載事項1から、光の散乱・回折によって全反射を抑制するために、凸部の側面を従来の平坦なサファイア基板の表面に平行な面(サファイア基板の主面)に対して傾斜させることが導かれ、記載事項2から、凸部の側面を傾斜させる基準となるサファイア基板の主面は、凸部のない領域のサファイア基板の表面であることが導かれる。
【0050】における凸部の側面を傾斜する対象となる「半導体の積層方向」は、基板主面の全体にわたって形成された半導体層の持つ方向(基板の水平方向)であるから、この記載もまた、凸部側面を傾斜させる基準となるものが、基板主面であることを示す。(被請求人口頭審理陳述要領書31頁8行?15行・40頁3行?末行・42頁7行?13行・53頁8行?下から5行)

ウ 本件特許請求項1の「前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下である」との特定事項は、次のとおり、当初明細書等の記載から導き出される事項である。
(ア)記載事項1から、光の散乱・回折による全反射を抑制するために、凸部の側面がサファイア基板の主面に対してなす角に着目すべきことが導かれる。そして、記載事項2によれば、凸部の断面形状は方形や台形に限定されないから、凸部の側面の角度としては、凸部自身の上面と凸部の側面とがなす角度よりはむしろ、凸部がない領域のサファイア基板の表面と凸部の側面とがなす角度(「傾斜角」)に着目すべきことが導かれる。
【0051】・【0026】は、凸部の断面形状が好ましい台形であるときに、テーパ角をどう定めるかを説明したものにすぎず、凸部の断面形状が台形でないときは、上述のとおり、「傾斜角」に着目すべきことが当然である。そして、【0051】・【0026】が、「テーパ角」を用いた理由は、傾斜角と区別をするためではなく、その補角と誤解される危険を避けるためにすぎない。
(被請求人口頭審理陳述要領書43頁下から8行?45頁2行)

(イ)当初明細書等の【0051】・【0052】に記載されている数値範囲は、「テーパ角」に関するものとされているが、「傾斜角」にも適用されることが明らかである。
すなわち、【0053】には、テーパ角と発光出力の関係を示す図10のグラフが説明されている一方、【0031】には、このグラフについて、「傾斜角」と発光出力の関係を示すとの記載がある。
また、図9には、断面が台形である凸部について、凸部側面の傾きを示す角度として、凸部上面と凸部の側面とがなすテーパ角と、凸部がない領域のサファイア基板の表面と凸部の側面とがなす角度(傾斜角)とが示されており、両者が同一になることが教示されている。
そして、断面台形でない凸部についても、断面台形の凸部側面と同様の角度で凸部の側面がサファイア基板の主面に対して傾斜している限り、断面形状の凸部と同様の全反射抑制効果が奏されることが明らかである。
(被請求人口頭審理陳述要領書46頁6行?50頁1行)

エ 請求人は、「凸部がない領域のサファイア基板の表面」が傾斜角を定めるための本質的事項ではない旨主張する。
しかしながら、本件審判事件における争点は、本件補正が新規事項追加に該当するか否かであり、本件補正が本質的か否かではない。
そして、当初明細書等には、平坦なサファイア基板表面で全反射を繰り返すという課題が記載され、その課題解決のために平坦なサファイア基板の表面に凸部を設けることの教示がある。本来的に全反射の繰り返しを生じるのは、凸部の間の平坦面(凸部がない領域のサファイア基板の表面)であり、そのことは、図8(b)に示された断面形状が半円の例を考えても明らかである。しかるところ、凸部は、その側面における光の散乱、回折によって前記全反射の繰り返しを抑制するものであるから、凸部側面の傾きは、前記全反射を生じる平坦面を基準に定めることが、本件発明の思想に照らし、本質的である。
(被請求人上申書12頁11行?13頁6行)

オ 請求人は、光の散乱及び回折効率が凸部の上面に対する角度と因果関係がある旨主張するが、【0050】のとおり、光の散乱および回折がおきるのは凹凸部の側面であるから、散乱および回折に必要なのは凸部の側面が基板表面から傾斜していることである。よって、請求人の主張は、技術的に誤りである。
(答弁書16頁下から9行?18頁5行)

カ 請求人は、当初明細書等において、上面のある凸部を形成することは「凹部及び/又は半導体層11、13に結晶欠陥を発生させない形状とする」という課題と不可分の関係にある旨主張するが、【0027】には、「光の取り出し効率の格段の向上」を課題とし、その解決手段を「凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成し、その上に開口部を設けた全面電極を形成」し、さらに、「電極の開口部に、基板表面の凹凸の段差部が少なくとも1つ含まれる」との構成をもつ発明が記載されており、【0028】には、【0027】記載の発明の作用機序として「半導体層11、13に結晶欠陥を発生させ」るか否かに関係なく成り立つ事項が記載されている。
(答弁書18頁下から3行?21頁下から7行)

(2)被請求人が提出した証拠方法
乙1:広辞苑第七版(「凸」の欄)
乙2:特開平10-4209号公報
乙3の1:国際公開第01/41225号
乙3の2:特表2004-511080号公報(乙3の1の対応日本語公報)
乙4:特開平11-26811号公報
乙5:特開2004-247757号公報
乙6:清水透、「MIMの原理を利用した金属の三次元積層造形 -FDMによる金属造形の可能性-」、2013年、SOKEIZAI、Vol.54、No.10、28頁?32頁
乙7:大内成司ほか、「竹製接合具(竹コネクター)の試作及び耐久性試験」、平成13年度研究報告大分県産業科学技術センター、100頁?105頁
乙8:東京地方裁判所平成31年(ワ)第36号事件の訴状

第3 当審の判断
1 認定事実
(1)平成25年4月1日提出の手続補正書(甲5・甲8の6)でした手続補正は、請求項1を次のとおり補正するものである。
「繰り返しパターンに形成された複数の凸部を表面に有するサファイア基板と、
前記基板の表面に形成された、窒化ガリウム系半導体から成る複数の半導体層と、
前記複数の半導体層の上に形成された、複数の開口部を有する電極と、
を備え、前記電極側から光を取り出す発光ダイオードであって、
上面視において前記電極の各開口部に前記凸部の段差が少なくとも1つ含まれ、
断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下であることを特徴とする発光ダイオード。」(下線は、補正箇所である。)

(2)平成26年8月5日提出の手続補正書(甲8の13)でした手続補正は、請求項1を次のとおり補正するものである。
「繰り返しパターンに形成された複数の凸部を表面に有するサファイア基板と、
前記基板の表面に形成された、窒化ガリウム系半導体から成る複数の半導体層と、
前記複数の半導体層の上に形成された、複数の開口部を有する電極と、
を備え、前記電極側から光を取り出す発光ダイオードであって、
上面視において前記複数の開口部の各々に前記凸部の段差が少なくとも1つ含まれ、
断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下であることを特徴とする発光ダイオード。」(下線は、補正箇所である。)

(3)平成27年6月8日提出の手続補正書(甲8の17)でした手続補正は、請求項1を次のとおり補正するものである。
「繰り返しパターンに形成された複数の凸部を表面に有するサファイア基板と、
前記基板の表面に形成された、窒化ガリウム系半導体から成る複数の半導体層と、
前記複数の半導体層の上に形成された、複数の開口部を有する電極と、
を備え、前記電極側から光を取り出す発光ダイオードであって、
前記複数の凸部は、前記半導体層で発生した光を散乱又は回折させるものであり、
上面視において前記複数の開口部の各々に前記凸部の段差が少なくとも1つ含まれ、
断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下であることを特徴とする発光ダイオード。」(下線は、補正箇所である。)

(4)特許明細書等(甲1)には、次の記載がある。
「繰り返しパターンに形成された複数の凸部を表面に有するサファイア基板と、
前記基板の表面に形成された、窒化ガリウム系半導体から成る複数の半導体層と、
前記複数の半導体層の上に形成された、複数の開口部を有する電極と、
を備え、前記電極側から光を取り出す発光ダイオードであって、
前記複数の凸部は、前記半導体層で発生した光を散乱又は回折させるものであり、
上面視において前記複数の開口部の各々に前記凸部の段差が少なくとも1つ含まれ、
断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下であることを特徴とする発光ダイオード。」(【請求項1】)(本件補正に係る部分に下線を付した。)

なお、上記記載に係る請求項1(本件特許請求項1)の記載は、上記(3)で認定した請求項1の記載と同じである。

(5)当初明細書等(甲2)には、次の記載がある。
「また、基板にはサファイア基板、SiC基板又はスピネル基板を用いることができる。例えば、上記基板には、C面(0001)を主面とするサファイア基板を用いることができる。・・・」(【0022】)、
「次に、凹凸の断面形状については、図9に示すように、凸部であれば台形、凹部であれば逆台形であることが好ましい。このような断面形状とすることにより、光の散乱及び回折効率を高めることができる。尚、凹凸の断面形状は、幾何学的に完全な台形又は逆台形である必要はなく、加工上等の理由から角が丸みを帯びていても良い。凹凸側面のテーパ角θは、図9に示すように、凸部であれば上面と側面のなす角をいい、凹部であれば底面と側面のなす角をいう。例えば、テーパ角θが90°の時に、凹凸の断面が方形となり、180°の時に、凹凸が全くない平らな状態となる。半導体層によって凹凸を埋めるためには、凹凸のテーパ角θが少なくとも90°以上であることが必要である。また、散乱又は回折による出力向上の観点からは、凹凸のテーパ角θが90°より大きいことが好ましく、望ましくは105°以上、より望ましくは115°以上とする。一方、凹凸のテーパ角θがあまり大き過ぎると、却って散乱又は回折の効率が低下し、また、半導体層のピットが発生し易くなる。そこで、テーパ角θは、好ましくは160°以下、より好ましくは150°以下、さらに好ましくは140°以下とする。
尚、凹凸側面が傾斜している場合、凹凸の大きさと相互の間隔は、基板最表面(=凸部であれば凸部の底面、凹部であれば基板の平坦面)における長さで定義されるものとする。」(【0026】)、
「また、本件発明に係る発光素子では、開口部を有する金属膜を形成してオーミック電極とすることが好ましい。即ち、本発明のように、凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成し、その上に開口部を設けた全面電極を形成すると、両者の相乗的な効果によって光の取り出し効率は格段に向上する。特に、電極の開口部に、基板表面の凹凸の段差部が少なくとも1つ含まれるようにすることが好ましい。」(【0027】)、
「これは、次のような理由によると推定される。
まず第1に、凹凸基板を用いた発光素子の輝度を正面から観測すると、基板凹凸の段差部付近の輝度が、基板平坦部の輝度よりも高くなる。このため、基板凹凸の段差部上方に電極の開口部を設けることにより、出力が各段に向上する。
また、第2に、基板上に凹凸を設けた発光素子では、発光領域で発生した光のうち、本来は側方や下方に向かう光を凹部及び凸部において散乱又は回折することによって上方に取出すことができる。しかし、通常の透光性電極を全面に設けた構成では、散乱や回折を経て上方に達した光が透光性電極によって一部吸収されてしまい、光の強度が小さくなってしまう。そこで、凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成する場合には、透光性電極に開口部を設ける、又は高反射率の開口部を有する非透光性電極を設けて一部半導体層が露出する部分を設けることで、散乱や回折を経て上方に達した光が外部に取り出されやすくなり、光の取出し効率が格段に向上する。」(【0028】)、
「従来の平坦な基板を有する半導体発光素子の場合、図7(a)に示されるように、発光領域12からの光がp型半導体層13と電極との界面又は基板10表面に臨界角以上で入射すると、導波路内に捕捉されて横方向に伝搬していた。」(【0046】)、
「これに対し、本例の半導体発光素子ではp型半導体層13と電極との界面又は基板10表面に対して臨界角以上の光は、図7(b)に示されるように、凹部20によって散乱又は回折され、臨界角よりも小さな角度でもってp型半導体層13と電極との界面又は基板10表面に対して入射し、取り出すことができる。」(【0047】。当審注:「凹部21によって散乱又は回折され」の「凹部21」は、「凹部20」の明らかな誤記であると認められるので、誤記を正した上で認定した。)、

【図7】

「p型半導体層13上のコンタクト電極が透光性電極の場合はFU(フェイスアップ)、反射電極の場合はFD(フェイスダウン)のどちらの場合にも効果がある。尚、反射電極であっても、電極に開口又は切込みが形成されている場合には、FU(フェイスアップ)に使用される。その場合、特に顕著な効果がある。」(【0048】)、
「図8は本発明に係る半導体発光素子の他の実施形態を示す。図8(a)に示される実施形態では凹部20の段面を傾斜して形成している。また、図8(b)に示される実施形態では基板10の表面部分に凹部20ではなく、凸部21を形成しており、この例では断面半円形状の凸部21を形成している。さらに、図8(c)に示される実施形態ではn型半導体層11、発光領域12及びp型半導体層13が凹部20の影響を受けて凹状をなしている。」(【0049】)、

【図8】

「図7(c)、(d)は、図8(a)及び(c)に示される実施形態における光の伝搬の例を示す。いずれにしても光が効率よく取り出せることが分かる。特に図8(a)のように、半導体層の成長安定面に対してほぼ平行な面と交叉する直線(本件では、多角形の構成辺とも称している)を境界として凸部の表面及び凹部の表面とに連続している面(=凹部又は凸部の側面)を半導体の積層方向に対して傾斜して形成することで、光の散乱又は回折の効果は顕著に増し、光の取り出し効率は格段に向上する。この1つの要因としては、傾斜して設けることで、凹部の表面及び凸部の表面とに連続している面(=凹部又は凸部の側面)の表面積が増えることで、光の散乱又は回折の起こる回数が増えるからと考えられる。」(【0050】)、
「換言すれば、凹凸の断面形状については、図9に示すように、凸部であれば台形、凹部であれば逆台形であることが好ましい。このような断面形状とすることにより、伝播する光が散乱及び回折を起こす確率が高まり、光の伝播時の吸収ロスを低減することができる。凹凸側面のテーパ角θは、図9に示すように、凸部であれば上面と側面のなす角をいい、凹部であれば底面と側面のなす角をいう。例えば、テーパ角θが90°の時に、凹凸の断面が方形となり、180°の時に、凹凸が全くない平らな状態となる。」(【0051】)、

【図9】

「半導体層によって凹凸を埋めるためには、凹凸のテーパ角θが少なくとも90°以上であることが必要である。また、散乱又は回折による出力向上の観点からは、凹凸のテーパ角θが90°より大きいことが好ましく、望ましくは105°以上、より望ましくは115°以上とする。一方、凹凸のテーパ角θがあまり大き過ぎると、却って散乱又は回折の効率が低下し、また、半導体層にピットが発生し易くなる。そこで、テーパ角θは、好ましくは160°以下、より好ましくは150°以下、さらに好ましくは140°以下とする。」(【0052】)、
「図10は、凹部側面のテーパ角とLED出力の関係をシミュレーションしたグラフである。尚、これは凸部側面のテーパ角と見ても同様の傾向がある。図10のグラフの縦軸は、平坦な基板(=テーパ角θが180°)を用いた場合のLED出力を1とした場合の出力比を表しており、グラフの横軸は、凹部側面のテーパ角を表している。図示されるように、凹部側面のテーパ角(=凹部の底面と側面のなす角)を90度から180度の間で変化させることによって、LED出力が大きく変化する。」(【0053】)、

【図10】

「(1)電極形状と材料
[1] 開口電極
半導体発光素子の表面には、半導体層上に電極を設ける必要があるが、p型窒化物半導体層のような、比較的比抵抗が高く、その層で電流拡散が行われにくい半導体層上には、例えば半導体層表面の全面に、透光性電極を形成することが一般的である。しかしながら、透光性電極-半導体層-基板によって構成される導波路内を光が伝播する際、反射光の「しみ出し」の影響により、半導体層だけでなく、透光性電極や基板によっても発光が吸収・減衰してしまう。特に、透光性電極は、その一般的な構成材料(例えば、Au/Ni等)の短波長域における光吸収率が高いため、発光の減衰への影響が大きい。」(【0057】)、
「そこで、本件発明に係る発光素子では、開口部を有する金属膜を形成して電極とすることが好ましい。特に、電極の開口部に、基板表面の凹凸の段差部が少なくとも1つ含まれるようにすることが好ましい。このように半導体層表面に形成する電極を、開口部を有する電極とすることで、開口部から光が外部に取り出され、また電極で吸収する光の割合が減少するため好ましい。開口部は、金属膜中に複数設けることが望ましく、また開口部の面積はできるだけ大きく設けることが光取り出し効率を向上するという点で好ましい。(このような電極には、好ましくは外部と発光素子を電気的に接続させるパッド電極を設ける。)」(【0058】)

(6)上記(5)で認定した当初明細書等の記載によれば、当初明細書等には、次の技術的事項が記載されていると認められる。
ア 従来の平坦な基板を有する半導体発光素子の場合、図7(a)に示されるように、基板10表面に臨界角以上で入射した光は、導波路内に捕捉されて横方向に伝搬していた。(【0046】)

イ これに対し、基板10の表面部分に凹部20を形成した半導体発光素子では、基板10表面に対して臨界角以上で入射した光は、凹部20の側面によって散乱又は回折されるので、取り出すことができる。基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子でも同様であり、基板10表面に対して臨界角以上で入射した光は、凸部21の側面によって散乱又は回折されるので、取り出すことができる。(【0047】・【0049】・【0050】・図7(b)・図8)
[上記のとおり認定できる理由は、次のとおりである(下線は当審が付した。以下同じ。)。
「基板10の表面部分に凹部20を形成した半導体発光素子」及び「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」との文言は、【0049】の「図8は本発明に係る半導体発光素子の他の実施形態を示す。図8(a)に示される実施形態では凹部20の段面を傾斜して形成している。また、図8(b)に示される実施形態では基板10の表面部分に凹部20ではなく、凸部21を形成しており、この例では断面半円形状の凸部21を形成している。」から導くことができる。
「基板10の表面部分に凹部20を形成した半導体発光素子」の作用機序は、【0047】・【0050】に記載されている。そして、かかる半導体発光素子において、臨界角以上で入射した光が散乱又は回折される位置が「凹部20の側面」であることは、【0050】第2文(「特に図8(a)のように?」)の「凹部・・・の側面・・・を半導体の積層方向に対して傾斜して形成することで、光の散乱又は回折の効果は顕著に増し、・・・」との記載と、第3文(「この1つの要因としては、?」)の「・・・凹部・・・の側面・・・の表面積が増えることで、光の散乱又は回折の起こる回数が増えるからと考えられる。」との記載から認定できる。なお、【0050】第2文及び第3文の「凸部の表面及び凹部の表面とに連続している面」とは、図8(a)に示される断面図が二次元的にみれば「凹部」と「凸部」が繰り返されたようにみえることから、同図における高い方の表面を「凸部の表面」と便宜的に称し、低い方の表面を「凹部の表面」と便宜的に称した上で、これら両方の表面に「連続している面」のことを述べていると解される。また、【0050】第2文及び第3文で、当該「連続している面」を「凹部又は凸部の側面」と称しているのは、当該「連続している面」が、図8(a)の断面図において、二次元的にみれば「凸部」とみえる部分に着目すると「凸部」の側面となり、また、同図において、二次元的にみれば「凹部」とみえる部分に着目すると「凹部」の側面となることを意味していると解される。
他方、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」の作用機序は、【0047】・【0050】には明記されていない。しかし、その作用機序が凹部20を形成した半導体発光素子の作用機序と同様であることは、物理的にみて明らかであるし、また、【0047】の後にある【0049】が、特段の断りなく凸部21を形成した半導体発光素子について説明していることからも、明らかである。このようにして、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」において、臨界角以上で入射した光が散乱又は回折される位置が「凸部21の側面」であることが認定できる。]

ウ 基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子では、凸部21の側面が、半導体の積層方向に対して傾斜して形成されることで、光の散乱又は回折の効果は顕著に増し、光の取り出し効率は格段に向上する。この1つの要因は、傾斜して設けることで、凸部21の側面の表面積が増え、光の散乱又は回折が起こる回数が増えることにある。(上記イ・【0050】)

エ 基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子では、断面形状は、台形が好ましい。このような断面形状とすることにより、伝播する光が散乱及び回折を起こす確率が高まり、光の伝播時の吸収ロスを低減することができる。凹凸側面のテーパ角θは、図9に示すように、凸部であれば上面と側面のなす角をいい、凹部であれば底面と側面のなす角をいうところ、半導体層によって凹凸を埋めるためには、凹凸のテーパ角θが少なくとも90°以上であることが必要であり、凹凸のテーパ角θがあまり大き過ぎると、却って散乱又は回折の効率が低下し、また、半導体層にピットが発生し易くなるから、テーパ角θは、好ましくは160°以下である。(上記イ・【0051】・【0052】)

2 判断
(1)はじめに
ア 請求人が主張する無効理由は、本件補正が新規事項を追加したというものである。
よって、当審が判断すべきは、本件補正が、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないか否かである。

イ ところで、本件特許に係る出願(甲2)は、本件補正(甲5・甲8の3)の後にも2回の手続補正(甲8の13と甲8の17)がなされた(上記1(2)及び(3))上で、特許された。そして、本件補正に係る特定事項(以下「本件特定事項」といい、「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下である」である。)は、本件特許請求項1に依然として存在する。

ウ そこで、事案にかんがみ、当審は、次の手順で、検討を行うこととする。
まず、本件特定事項の意義を、特許明細書等の記載に基づいて理解する。
その上で、本件特定事項を追加することが、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないといえるか否かについて検討する。
その結果、本件特定事項を追加することが新たな技術的事項を導入しないとなれば、本件補正が新規事項を追加したという無効理由は成り立たないとの結論に至る。逆に、本件特定事項を追加することが新たな技術的事項を導入しないといえないのであれば、本件補正により新規事項が追加されたか、又は、本件補正以後の補正により新規事項が追加されたことになる。

(2)本件特定事項の意義
本件特定事項は、前掲(上記(1)イ)のとおり、「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下である」というものである。
しかるところ、当該「前記凸部の側面の傾斜角」の意義が、ただちに明らかではない。すなわち、当該「前記凸部の側面の傾斜角」が、(断面視における)「前記凸部の側面」と「何らかの面」とのなす角を意味していることまでは、「前記凸部の側面の傾斜角」との文言に照らし明らかである。しかし、かかる「何らかの面」がどの面なのかは、ただちに明らかではない。
そこで、以下、検討する。

ア 「前記凸部の側面の傾斜角」が(断面視における)「前記凸部の側面」とどの面とのなす角を意味しているのかについて
「前記凸部の側面の傾斜角」との記載は、「傾斜」との文言を含むところ、その記載の直前には、「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており」との記載が存在する。
このように、本件特定事項には、「傾斜」との文言が連続して表記されている。しかるに、この点に照らすと、「前記凸部の側面の傾斜角」における「傾斜」は、その直前にある「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており」における「傾斜」と同じ意味であると解するのが自然である。そして、特許明細書等には、その理解に反する記載は存在しない。
よって、「前記凸部の側面の傾斜角」とは、(断面視における)「前記凸部の側面」と「前記サファイア基板の表面」とのなす角を意味すると解される。
なお、本件審判事件において、請求人は、「前記凸部の側面の傾斜角」が、(断面視における)「前記凸部の側面」と「前記サファイア基板の表面」とのなす角と解されることにつき、争っていない(第1回口頭審理調書の陳述の要領の請求人「7」)。

イ 「前記サファイア基板の表面」がどの面なのかについて
(ア)上記アのとおり、「前記凸部の側面の傾斜角」とは、(断面視における)「前記凸部の側面」と「前記サファイア基板の表面」とのなす角である。しかるに、「前記サファイア基板の表面」は、「前記凸部の側面の傾斜角」を観念するに当たっての基準となる面(基準面)であるといえる。すなわち、本件特定事項には、「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、」との文言があるところ、この文言によれば、「前記凸部の側面」は「傾斜」しており、そして、「前記サファイア基板の表面」は、このように「傾斜」した「前記凸部の側面」に「対して」いるものとして位置づけられている。そうすると、「前記サファイア基板の表面」は、(「前記凸部の側面」とは異なり、)「傾斜」していないと解するのが自然である。よって、「前記サファイア基板の表面」は、「前記凸部の側面の傾斜角」を観念するに当たっての基準となる面(基準面)であるといえる。
しかしながら、そのような基準面たる「前記サファイア基板の表面」がどこに存在する面なのかは、ただちに明らかではない。すなわち、「前記サファイア基板の表面」は、基準面である以上、「凸部の側面」の下方に接続する位置に存在する面か、又は、「凸部の側面」の上方に接続する位置に存在する面かのいずれかであることが考えられるけれども、そのいずれなのかが明らかでない(次図は、図6(a)に基づき、当審が作成したもの)。


(イ)そこで検討すると、「前記サファイア基板の表面」とは、以下のとおり、「凸部の側面」の下方に接続する位置に存在する面である、言い換えれば、「凸部」がない領域に存在する「サファイア基板」の「表面」である、と解される。
a まず、本件特許請求項1には、「複数の凸部を表面に有するサファイア基板」との特定事項が存在する。この特定事項には、「『サファイア基板』の『表面』」との文言が含まれているところ、この特定事項の文言に加えて、「凸部」の字義が「物の表面が部分的に出ばっている」(乙1)部位であると解されることにも照らせば、「『サファイア基板』の『表面』」と称されている面が、「凸部」がない領域に存在することが、自然に理解される。
そして、「凸部」がない領域に存在する「『サファイア基板』の『表面』」には、「前記基板の表面に形成された、窒化ガリウム系半導体から成る複数の半導体層」が存在している(本件特許請求項1)のであるから、「凸部」がない領域に存在する「『サファイア基板』の『表面』」が、「窒化ガリウム系半導体から成る複数の半導体層」が「形成され」る程度には平坦であることが理解される。

b このように、「凸部」がない領域に存在する「『サファイア基板』の『表面』」は、相当程度に平坦なのであり、そして、上記(ア)のとおり、「傾斜」していない。
そうすると、「凸部」がない領域に存在する「『サファイア基板』の『表面』」は、「凸部の側面」に係る角度を決める際の基準面たり得るということができる。

c 他方で、基準面たる「前記サファイア基板の表面」が、「凸部の側面」の上方に接続する位置に存在する面であるとは、次のとおり、解し難い。
本件特定事項の文言は、「前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており」となっているのであって、「前記凸部の側面は前記凸部の上面に対して傾斜しており」などの文言、すなわち、「前記凸部の側面の傾斜角」を観念する際の基準面が前記凸部それ自体に存在することを明記する文言、とはなっていない。
しかるに、このような文言において、「前記凸部の側面の傾斜角」を観念する際の基準面が前記凸部それ自体に存在するとは解し難い。すなわち、上記aのとおり、「凸部」の字義は、「物の表面が部分的に出ばっている」部位であるから、「凸部の側面」に係る角度を決める際の基準面は、(「凸部」それ自体にではなく、)「凸部」の周囲に存在するのが通常である。この点からすれば、当該基準面を「凸部」それ自体に属させるのは例外的といえる。そうだとすれば、このような例外的な意味を表現するのであれば、その基準面が「凸部」それ自体に属していることを明言することが自然であるといえるところ、本件特定事項の文言は、そのような明言をしない。
よって、基準面たる「前記サファイア基板の表面」が、「凸部の側面」の上方に接続する位置に存在する面であるとは、解し難いのである。

d 以上によれば、「前記凸部の側面の傾斜角」を観念する際の基準面である「前記サファイア基板の表面」は、「凸部」がない領域に存在する「『サファイア基板』の『表面』」である(前述の図でいえば、「凸部の側面」の下方に接続する位置に存在する面である。)と解するのが相当である。
なお、本件審判事件において、請求人は、「前記サファイア基板の表面」を、「凸部」がない領域における「サファイア基板の表面」であると解することにつき、争っていない(第1回口頭審理調書の陳述の要領の請求人「7」)。

ウ 小括
上記ア及びイによれば、本件特定事項は、(断面視における)凸部の側面と凸部がない領域におけるサファイア基板の表面とのなす角である傾斜角が、90°より大きく、160°以下であることを意味する。

(3)本件特定事項を追加することが新たな技術的事項を導入しないといえるか否かについて
上記(2)ウで認定した本件特定事項の解釈を踏まえ、本件特定事項を追加することが当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないといえるか否かについて判断する。
ア 本件特定事項を含む本件特許請求項1は(「凹部」ではなく)「凸部」を特定するものである。よって、当審は、まず、凸部21を基板10の表面部分に形成した半導体発光素子(上記1(6)イ)について、当業者が、当初明細書等の記載に基づき、どのように理解するのか、について検討する。

イ そこで、基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子の技術的意義を当初明細書等の記載に基づいて把握すると、上記1(6)ア?ウによれば、次のとおりであると認められる。
従来の平坦な基板を有する半導体発光素子の場合、図7(a)に示されるように、基板10表面に臨界角以上で入射した光は、導波路内に捕捉されて横方向に伝搬していたという課題があった(同ア)。そこで、その課題を解決するために、基板10の表面部分に凸部21を形成した(同イ)。このようにしたことによって、基板10表面に対して臨界角以上で入射した光が、凸部21の側面によって散乱又は回折されるので、取り出される(同イ)。さらに、凸部21の側面が、半導体の積層方向に対して傾斜して形成されることで、凸部21の側面の表面積が増えるため、光の取り出し効率が格段に向上する(同ウ)。

ウ 上記イで認定した技術的意義によれば、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」の作用機序は、第一に、基板10表面に対して臨界角以上で入射した光が、凸部21の側面によって散乱又は回折されるので取り出されるということであり、第二に、凸部21の側面が、半導体の積層方向に対して傾斜して形成されることで、凸部21の側面の表面積が増えるため、光の取り出し効率が格段に向上するということである、と認められる。
しかるに、このような作用機序が、「基板10表面」と凸部21の側面に由来することは、明らかである。
ところで、当該作用機序によれば、「基板10表面」は、凸部21が設けられていなければ、臨界角以上で入射した光を導波路内に捕捉してしまうという作用を奏する面といえるから、以下、当該「基板10表面」との文言を用いる際には、「光捕捉面」という文言を、適宜付記することにする。

エ 上記ウのとおり、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」の作用機序は、「基板10表面」(光捕捉面)と凸部21の側面に由来する。そこで、次に、「基板10表面」(光捕捉面)が具体的にどの面であるのかを確認する。
(ア)従来の平坦な基板を有する半導体発光素子の場合、図7(a)に示されるように、基板10表面に臨界角以上で入射した光は、導波路内に捕捉されて横方向に伝搬していた(上記1(6)ア)。
よって、従来の半導体発光素子における「基板10表面」(光捕捉面)は、図7(a)に見て取れる基板10の表面(以下「従来平坦面」という。)である(次図は、図7(a)に基づき、当審が作成した。)。


(イ)基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子では、基板10表面に対して臨界角以上で入射した光が、凸部21の側面によって散乱又は回折されるので、取り出される(上記1(6)イ)。
しかるに、文脈上、ここでいう「臨界角」は、従来の半導体発光素子における「臨界角」(上記(ア))と同じであると解される。よって、基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子の「基板10表面」(光捕捉面)は、従来平坦面及びそれと平行な面であると解される。
そこで、具体的にどの面が従来平坦面及びそれと平行な面であるのかについて確認するべく当初明細書等の記載をみると、図6(a)及び図9には、「凸部」の最上部に存在する平坦面(以下「上方平坦面」という。)と「凸部」の最下部に接続する面(以下「下方平坦面」という。)とが存在し、これらの面が従来平坦面及びそれと平行な面であると解される(次図は、図6(a)及び図9に基づき、当審が作成した。)。

このように、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」における「基板10表面」(光捕捉面)は、上方平坦面及び下方平坦面である。

(ウ)a もっとも、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」のうち、図8(b)に係る半導体発光素子は、上記(イ)とは異なる。すなわち、図8(b)では、「基板10の表面部分に・・・、凸部21を形成しており、この例では断面半円形状の凸部21を形成している」(【0049】)のであるから、上方平坦面がなく、下方平坦面のみが存在すると解される(次図は、図8(b)に基づき、当審が作成した。)。

よって、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」における「基板10表面」(光捕捉面)は、下方平坦面のみであってもよい。

b ところで、図8(b)は、「凸部」が断面半円形状であるなどといった特徴も備えるけれども、図8(b)に接した当業者は、これらの点を捨象して、「基板10表面」(光捕捉面)という概念に着目して、それが、下方平坦面のみであってもよいことを理解できる。なぜならば、当業者は、上記イで認定した技術的意義を認識した上で、図8(b)に接するからである。すなわち、「基板10表面」(光捕捉面)は、凸部21が設けられていなければ、臨界角以上で入射した光を導波路内に捕捉してしまうという作用を備えた面であるところ、かかる面は、上記イで説示した課題(従来の平坦な基板を有する半導体発光素子は、基板10表面に臨界角以上で入射した光が、導波路内に捕捉されてしまうこと)に直結しているから、それ自体重要であり、よって、当業者は、かかる面それ自体に着目するといえるし、しかも、当該作用が、凸部の形状とは関係しないことも明らかである。したがって、上記イで認定した技術的意義を認識した当業者は、図8(b)について、「凸部」が断面半円形状であることを捨象しつつ、「基板10表面」(光捕捉面)という概念にもっぱら着目して、「基板10表面」(光捕捉面)が下方平坦面のみであってもよいと理解できるのである。

(エ)このように、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」における「基板10表面」(光捕捉面)は、上方平坦面及び下方平坦面であるが、それに限られるわけではなく、下方平坦面のみであってもよい。

オ 以上を踏まえ、上記イで認定した技術的意義を認識した当業者が、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」(上記1(6)イ)について、どのような構成を理解できるかについて検討する。
「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」では、「基板10表面」(光捕捉面)は、下方平坦面のみであってよく(上記エ(ウ)a)、また、光の取り出し効率が向上するという作用機序は、「基板10表面」(光捕捉面)と凸部21の側面に由来する(上記イ)のである。そうすると、当業者は、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」を、「基板10表面」が下方平坦面のみであってよいとともに、凸部21の側面が存在する構造を有する半導体発光素子として、理解できるといえる。
このようにして、当業者は、当初明細書等の記載から、「基板10の表面部分に凸部21を形成した半導体発光素子」のうち、凸部21の側面と下方平坦面があれば足りる構造(以下、この構造を「凸部側面及び下方平坦面構造」という。)を設けた半導体発光素子を導き出すことができる。

カ かかる「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子について、当業者は、以下のとおり、理解する。
(ア)a 「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子においても、上記イで認定した技術的意義ないし上記ウで認定した作用機序のとおり、凸部21の側面が、半導体の積層方向に対して傾斜して形成されることで、凸部21の側面の表面積が増えるため、光の取り出し効率が格段に向上する。
このように、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子において光の取り出し効率に影響するものは、「凸部21の側面が、半導体の積層方向に対して傾斜」している程度である。よって、当業者は、当該半導体発光素子につき、凸部21の側面が傾斜している程度に着目することができ、その程度を、「半導体の積層方向」を基準として理解する。

b そこで、上記の「半導体の積層方向」(【0050】に存在する文言である。)の意味が問題となる。
(a)「半導体の積層方向」とは、その文言によれば、「半導体」を「積層」する「方向」を意味するところ、「積層」の字義は、「層」を「積」むことであると解される。よって、「半導体の積層方向」とは、図7・図8でいえば上下方向であると解するのが自然である。これを「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子に存在する下方平坦面(「基板10表面」であり、光捕捉面でもある。)との関係で表現し直せば、「半導体の積層方向」とは、下方平坦面の上に半導体を積層していく方向、すなわち、下方平坦面の法線方向であると解される。
そして、この理解は、【0050】における「半導体の積層方向」との文言の直後に存在する記載、つまり、「(半導体の積層方向に対して)傾斜して設けることで、凹部の表面及び凸部の表面とに連続している面(=凹部又は凸部の側面)の表面積が増える」との記載、に整合する。すなわち、当該記載は、「(=凹部又は凸部の側面)の表面積が増える」としているから、「半導体の積層方向」に対する「傾斜」が存在しないときであっても、「凹部の表面及び凸部の表面とに連続している面(=凹部又は凸部の側面)」ないしその表面積が観念できることを前提としていると解される。この点、「半導体の積層方向」を下方平坦面の法線方向と解すれば、「半導体の積層方向」に対する「傾斜」が存在しないとき(凸部の断面形状が、例えば、矩形状となる。)であっても、「・・・凹部又は凸部の側面・・・」ないしその表面積をたやすく観念できる。しかし、「半導体の積層方向」を、例えば、下方平坦面の水平方向と解するならば、「半導体の積層方向」に対する「傾斜」が存在しないとき(凸部が存在しないことになる。)に、「・・・凹部又は凸部の側面・・・」ないしその表面積を観念しがたいのである。

(b)これに対し、被請求人は、「半導体の積層方向」が、基板の水平方向を意味すると主張し、その根拠として、「積層方向」という文言が「水平方向」を指すこともある(乙6・乙7)ことを挙げる(被請求人口頭審理陳述要領書53頁8行?14行)。しかしながら、乙6及び乙7は、LEDとの技術分野との関連性がないため、このような証拠が2つあるだけでは、上記の認定を左右しない。
さらに、被請求人は、【0050】に記載された凸部側面を傾斜する意義が、光の散乱・回折にあることに鑑みれば、凸部側面の傾斜の基準である「半導体の積層方向」が、「基板の水平方向」であることは明らかである旨も主張する(被請求人口頭審理陳述要領書53頁下から8行?下から5行)。しかし、上記(a)のとおり、「半導体の積層方向」を上下方向であると解することに問題はなく、むしろ、それこそが【0050】に整合的であり、他方で、水平方向と解することは、【0050】に整合しない。被請求人の主張は採用できない。

c このように、当業者は、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子について、凸部21の側面が傾斜している程度として、下方平坦面の法線方向を基準として凸部21の側面がどの程度傾斜しているのかという程度(以下「法線方向基準傾斜程度」という。)に着目する。

(イ)一方、上記1(6)エのとおり、凸部21の断面形状が台形のときは、上面と側面のなす角であるテーパ角θが、少なくとも90°以上であると半導体層によって凹凸を埋めることができ、また、テーパ角θは、散乱又は回折の効率が低下することや半導体層にピットが発生し易くなることを防ぐために、好ましくは160°以下である。
ここで、「テーパ角」は、半導体発光素子に対する断面視において、観念される概念である。


(ウ)上記(ア)及び(イ)を踏まえて、当業者が、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子をどのように理解するかについて検討する。
a 当業者は、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子について、上記(ア)のとおり、凸部21の側面が傾斜している程度として、法線方向基準傾斜程度に着目している。

b 他方、当業者は、上記(イ)のテーパ角θの角度範囲に係る作用機序に接したとき、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子には上方平坦面が存在しないことから、上面と側面のなす角であるテーパ角を観念できないことを認識する。しかし、当業者であれば、このようなときに、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子が上記(イ)のテーパ角θの角度範囲に係る作用機序を奏し得ないとただちに結論づけることはなく、当該半導体発光素子を上記(イ)のテーパ角θの角度範囲に係る作用機序を奏するように理解できるかを、技術常識に照らして確認することができる。

c しかるに、上記(イ)のテーパ角θの角度範囲に係る作用機序は、技術的にみれば、テーパ角(上面と側面のなす角)のみならず、(当業者が着目している)法線方向基準傾斜程度にも妥当する。
すなわち、「テーパ角θが、少なくとも90°以上であると半導体層によって凹凸を埋めることができ」るとの作用機序について、半導体層によって凹凸を埋められるか否かが問題となる場所は、テーパ角θが90°未満のときに発生する、凸部21の側面と下方平坦面とに上下方向でみて挟まれた空間であると解される。よって、この作用機序は、凸部の側面と下方平坦面に関係し、上方平坦面とは関係がないように理解できる。
「散乱又は回折の効率が低下する」との作用機序について、当該効率が低下するか否かが問題となる場所は、凸部21の側面であるから(上記1(6)イ)、上方平坦面とは関係がないように理解できる。
「半導体層にピットが発生し易くなることを防ぐ」との作用機序について、テーパ角θとの関係で、「半導体層にピットが発生し易くなる」か否かが問題となる場所は、凸部の側面21近傍であるから、上方平坦面とは関係がないように理解できる。

このように、上記(イ)のテーパ角θの角度範囲に係る作用機序は、上方平坦面とは関係がなく、もっぱら、凸部21の側面と下方平坦面に関係する。そして、法線方向基準傾斜程度とは、下方平坦面の法線方向を基準として凸部21の側面がどの程度傾斜しているのかという程度である(上記(ア)c)のだから、やはり、もっぱら、凸部21の側面と下方平坦面に関係する。
よって、当業者は、当該作用機序が、法線方向基準傾斜程度にも妥当すると理解できる。

d そして、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子を、法線方向基準傾斜程度で考えるならば、断面視において、テーパ角として特定された数値から90°を減じた値として得られる角をもって、上記(イ)の作用機序が妥当することが明らかである。

e このようにして、当業者は、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子についても、上記(イ)の作用機序を踏まえて理解することができる。
すなわち、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子は、断面視において、凸部21の側面と下方平坦面の法線方向とのなす角が、少なくとも0°以上であると半導体層によって凹凸を埋めることができ、また、好ましくは70°以下とすると散乱又は回折の効率が低下することや半導体層にピットが発生し易くなることを防げると、当業者は理解する。

キ 上記カ(ウ)eで説示した当業者の理解は、「断面視において、凸部21の側面と下方平坦面の法線方向とのなす角」に着目したものであったけれども、これを、「断面視において、凸部21の側面と下方平坦面とのなす角」として表現し直しても、両者は、表現ぶりが異なるだけであって、その意味するところは異ならない。
すなわち、上記カ(ウ)eで説示した当業者の理解は、「凸部側面及び下方平坦面構造」を備えた半導体発光素子において、「断面視において、凸部21の側面と下方平坦面とのなす角」が、少なくとも90°以上であると半導体層によって凹凸を埋めることができ、また、好ましくは160°以下とすると散乱又は回折の効率が低下することや半導体層にピットが発生し易くなることを防げることと、同義である。
そして、「断面視において、凸部21の側面と下方平坦面とのなす角」は、「傾斜角」にほかならない。また、下方平坦面は、凸部がない領域における基板の表面にほかならず、「基板」は、サファイアからなるものであってよい(【0022】)。

ク 以上によれば、「断面視において、前記凸部の側面は前記サファイア基板の表面に対して傾斜しており、前記凸部の側面の傾斜角は90°より大きく、160°以下である」という本件特定事項を追加することは、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないというべきである。

(4)請求人の主張について
これに対し、請求人は種々主張するが、以下のとおり失当である。
ア 請求人は、当初明細書等の記載が、凸部の側面の角度を、台形上面と凸部の側面とのなす角であるテーパ角として表現した理由について、凸部の側面の角度が、光の散乱及び回折効率との関係で、台形上面に対する角度と重要な因果関係をもつことにある旨主張する。(審判請求書11頁4行?12頁10行、請求人口頭審理陳述要領書11頁10行?12頁2行)
この点、当初明細書等の【0026】は、「次に、凹凸の断面形状については、図9に示すように、凸部であれば台形、凹部であれば逆台形であることが好ましい。このような断面形状とすることにより、光の散乱及び回折効率を高めることができる。・・・」と記載し、【0051】も、「凹凸の断面形状については、図9に示すように、凸部であれば台形、凹部であれば逆台形であることが好ましい。このような断面形状とすることにより、伝播する光が散乱及び回折を起こす確率が高まり、光の伝播時の吸収ロスを低減することができる。」と記載する。そして、【0052】は、この記載の直後に、「・・・また、散乱又は回折による出力向上の観点からは、凹凸のテーパ角θが90°より大きいことが好ましく、望ましくは105°以上、より望ましくは115°以上とする。・・・」と記載する。
このような記載からみれば、一見、光の散乱及び回折効率を高めるためには、凸部の断面形状を台形とする必要があり、だからこそ、上面と側面とのなす角であるテーパ角をもって、角度を特定したようにも解されるし、また、角度についての具体的な数値も、凸部の断面形状が台形であることを前提に、設定されているようにも解される。
しかしながら、【0026】・【0051】・【0052】は、凸部の断面形状が台形でなければならないとまで述べているのではなく、「好ましい」としているにとどまる。実際、図8(b)及び【0049】は、凸部の断面形状が、台形ではなく、半円形状である例を記載している。さらに、【0050】の記載からすれば、光の散乱及び回折効率が、凸部の側面の表面積に依存するという作用機序が理解されるのであり、この作用機序が、凸部の断面形状が台形であることに関係するとも、(断面形状)台形の上面に関係するとも、解されない。
よって、当初明細書等に記載された技術的事項が、凸部に(断面形状台形の)上面が存在することを前提としているとは解されないし、また、凸部の側面の傾斜角度を、光の散乱及び回折効率との関係で、(断面形状台形の)上面に対する角度と因果関係をもつとしているとも解されない。
請求人の主張は失当である。

イ 請求人は、当初明細書等に記載された発明が、凹部及び/又は凸部を半導体層11、13に結晶欠陥を発生させない形状とすることを課題としたものであって、上面を備えた凸部を形成することにより、結晶性に優れたGaNを得ることができるものであるから、基板に上面のある凸部を形成することは、当初明細書等に記載された課題と不可分の関係にあり、このため、上面と側面のなす角であるテーパ角が用いられている旨主張する。(審判請求書12頁11行?末行)
しかしながら、上記アで説示したとおり、当初明細書等に記載された技術的事項は、基板に形成した凸部が(断面形状台形の)上面をもつことを前提としていない。
そして、【0057】・【0058】は、透光性電極-半導体層-基板によって構成される導波路内を光が伝播する際、反射光の「しみ出し」の影響により、半導体層だけでなく、透光性電極や基板によっても発光が吸収・減衰してしまうという課題を解決するために、開口部を有する金属膜を形成して電極とするとともに、電極の開口部に、基板表面の凹凸の段差部が少なくとも1つ含まれるようにする旨の技術的事項を記載するし、【0027】も、「本発明のように、凹凸を設けた基板上に、半導体層を形成し、その上に開口部を設けた全面電極を形成すると、両者の相乗的な効果によって光の取り出し効率は格段に向上する。特に、電極の開口部に、基板表面の凹凸の段差部が少なくとも1つ含まれるようにすることが好ましい。」と記載する。
このように、当初明細書等には、凹部及び/又は凸部を半導体層11、13に結晶欠陥を発生させない形状とすることとは異なる事項を課題とした技術的事項が、記載してあったと認められる。
よって、請求人の主張は、その前提が失当である。

ウ 請求人は、当初明細書等に記載された請求項では、請求項22がテーパ角を規定しており、しかも、請求項22は、凸部の断面形状が台形であることを特定する請求項20に従属している旨主張する。さらに、【0051】・【0052】も、テーパ角は、断面形状が逆台形又は台形の凹凸についての側面の傾斜を規定している旨主張する。(審判請求書13頁1行?6行)
しかしながら、【0051】・【0052】については、上記アで検討したとおりである。
そして、当初明細書等における請求項20及び22の記載は、請求人が主張するとおりのものであるけれども、当初明細書等に記載された技術的事項が請求項に記載された技術的事項に限定されるわけではない以上、請求人が主張する事実は、上記アの結論を左右しない。
請求人の主張は失当である。

エ 請求人は、当初明細書等に記載された「テーパ角」と本件特許請求項1の「傾斜角」とは、凸部の断面形状において、上面がサファイア基板の表面に対して傾斜している場合に異なる旨主張する。また、請求人は、サファイア基板に対する「傾斜角」との補正が許容されれば、凸部の上縁の形態が問われないこととなり、後発的にそのような形態も本件特許請求項1に係る発明の技術的範囲に属することになる旨主張する。さらに、請求人は、本件補正が、凸部の側面の傾斜角を規定することにより、傾斜角を有する全ての構成の凸部が含まれるように上位概念化したものといえる旨主張する。(審判請求書13頁下から7行?14頁下から6行・15頁12行?13行・16頁9行?16行、請求人口頭審理陳述要領書26頁10行?18行)
しかしながら、本件特定事項を追加することが当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないことは、上記(3)で判断したとおりである。

オ 請求人は、凸部の側面が湾曲している場合では、テーパ角が「側面上縁近傍の接線と上面との角度」となる一方で、傾斜角が「側面下縁近傍の接線とサファイア基板との角度」となるとした上で、テーパ角と傾斜角とが異なる場合がある旨主張する。また、請求人は、凸部の上面が、湾曲していたり、弾頭形であったりする場合にも、テーパ角と傾斜角とが一致せず、しかも、テーパ角が不定となる旨主張する。(審判請求書14頁下から5行?15頁2行)
しかしながら、「テーパ角」は、凸部であれば「上面と側面のなす角」と定義されている(【0026】・【0051】)し、「傾斜角」は、「(断面視における)凸部の側面と凸部がない領域におけるサファイア基板の表面とのなす角」である(上記(2)ウ)。このように定義ないし解釈される「テーパ角」及び「傾斜角が」、凸部の側面が湾曲している場合や凸部の上面が湾曲しているなどの場合に、具体的にどのように理解されるべきなのかは、別個の問題であり、上記(3)の判断を左右しない。

カ 請求人は、凸部側面の傾斜基準(上記(2)イ(ア)でいう「基準面」と同じ意味であると解される。)が、凸部がない領域のサファイア基板の表面であることを導くためには、上面がない凸部が実施形態にあるだけでは足りず、光の散乱・回折を効率的に行うために、サファイア基板の表面を基準面とすることが本質的であることが求められる旨主張する。(請求人上申書2頁2行?3頁下から12行)
請求人が主張するところの、凸部がない領域のサファイア基板の表面を基準面とすることが「本質的」であるとの意味は必ずしも判然としないが、請求人は、凸部がない領域のサファイア基板の表面が存在しなくても、光の散乱・回折を効率的に行うことができる例が存在するのであれば、凸部がない領域のサファイア基板の表面を基準面とすることは「本質的」ではない、と主張しているようである。
しかしながら、本件補正が新規事項を追加したものかどうかを判断するためには、上記(1)アのとおり、本件補正が、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないか否かを判断する必要があり、かつ、それで足りる。よって、請求人の主張は、かかる問題との関係がない(すなわち、請求人のいうところの、凸部がない領域のサファイア基板の表面を基準面とすることが「本質的」でない場合であっても、凸部がない領域のサファイア基板の表面を基準面とすることが、新たな技術的事項を導入しないということは、あり得るということである。)から、失当である。そして、本件補正が、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないことは、上記(3)で判断したとおりである。

キ 請求人は、当初明細書等には、「凸部がない領域の基板の表面」自体がない発明が内在されているから、凸部のない領域の基板の表面を凸部側面の傾斜基準(基準面)とすることは、後付けである旨主張する。(請求人上申書3頁下から11行?4頁8行)
しかしながら、この主張も、上記カで判断した主張と同様に、本件補正が、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないか否かという問題と関係がない(すなわち、請求人がいうところの、「凸部がない領域の基板の表面」自体がない発明が当初明細書等に内在されているとしても、凸部がない領域のサファイア基板の表面を基準面とすることが、新たな技術的事項を導入しないということは、あり得るということである。)から、失当である。

ク 請求人は、当初明細書等が、角度の範囲を、凸部であれば上面を基準とするテーパ角で特定しており、サファイア基板の表面とのなす傾斜角で特定してはいなかったから、傾斜角に着目するとの着眼点が本件特許の出願人に存在しなかったことを示しているとした上で、新規事項追加かどうかは、当初明細書等を総合して導き出される出願人の記載意図に着目して判断すべきである旨主張する。(請求人口頭審理陳述要領書20頁6行?17行)
しかしながら、この主張も、上記カで判断した主張と同様に、本件補正が、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないか否かという問題と関係がないから、失当である。

ケ 請求人は、当初明細書等の図8(b)に断面半円形凸部が示されているとしても、当該凸部は、傾斜側面を有しないから、当業者は、この例をもって、傾斜基準(基準面)として、凸部がない領域のサファイア基板の表面に着目するとはいえない旨主張する。(請求人上申書4頁10行?16行)
しかしながら、上記(3)(特に、「エ(ウ)b」を参照。)で判断したとおり、当該凸部が、「前記サファイア基板の表面に対して傾斜して」いる「側面」を有するか否かにかかわらず、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

コ よって、請求人の主張は採用できない。

(5)当審の判断の小括
以上によれば、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内でしたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしている。請求人が主張する無効理由は、成り立たない。

第4 むすび
したがって、請求人が主張する無効理由によっては、本件特許の請求項1?9に係る発明についての特許を無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-06 
結審通知日 2019-12-12 
審決日 2019-12-25 
出願番号 特願2009-103189(P2009-103189)
審決分類 P 1 113・ 55- Y (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 金高 敏康下村 一石  
特許庁審判長 井上 博之
特許庁審判官 山村 浩
野村 伸雄
登録日 2015-09-04 
登録番号 特許第5800452号(P5800452)
発明の名称 半導体発光素子  
代理人 田村 啓  
代理人 松浦 喜多男  
代理人 玄番 佐奈恵  
代理人 宮原 正志  
代理人 山本 優  
代理人 岩田 康利  
代理人 山尾 憲人  

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