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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12M
管理番号 1360302
審判番号 不服2018-14843  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-07 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2015-502967「ハイドロゲル」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 9月 4日国際公開、WO2014/133027〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年2月26日(パリ条約による優先権主張 平成25年2月26日 米国)を国際出願日とする出願であって、平成30年7月31日付けで拒絶査定がなされ、同年11月7日に拒絶査定不服の審判請求がなされると同時に手続補正がなされ、令和1年8月16日付けで当審より拒絶理由が通知され、同年11月19日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明
本願の請求項1?7に係る発明は、令和1年11月19日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?7に記載されたものであり、そのうち請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものと認める。
「【請求項1】
下記工程:
キトサンとPEGとを混合すること、及び
得られた混合物に配列番号1のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドを添加することを含み、貯蔵弾性率(G’)の値が、それぞれ単独の場合と比べて増大しており、PEGが、N-ヒドロキシスクシンイミド末端化されたものである、ハイドロゲルの製造方法。」


第3 当審の拒絶理由
令和1年8月16日付けで当審が通知した拒絶理由は、この出願の請求項1、2に係る発明は、その優先日前日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない、という理由を含むものである。

引用文献1
キトサン/PEG インジェクタブルゲルの作製と機能評価,第24回高分子ゲル研究討論会 講演要旨集,2013年1月9日,1-2頁


第4 当審の判断
1.引用文献1の記載事項
引用文献1には次の記載がある。なお、下線は当審が付したものである。
(1)「【実験】
インジェクタブルゲルの作製には、Carboxymethyl chitosan(chitosan, Mw=80,000-100,000; deacetylated chitin 63.3%; degree of substitution 0.61), N-Hydroxysuccinimide-terminated 2-arm poly(ethylene glycol)(NHS-PEG, Mn=2,000, >99% NHS substitution),およびRADA16(Pura Matrix)ペプチドを用いた。 pH7.4 PBS buffer を用いて所定濃度に調整した溶液を、目的の終濃度になるようにサンプル管中で混合することによりゲルを作成した。Chitosan/PEG/RADA16 ゲルは、 Chitosan, NHS-PEG を混和した後、RADA16 を添加することで作製した。」 (1頁14?19行)


(2)「Chitosann/PEG/RADAハイドロゲル Fig.1 には、20℃におけるChitosan/PEG (1.0/1.0 wt%),RADA16 (0.25 wt%),およびChitosan/PEG/RADA16 (1.0/1.0/0.25 wt%)溶液の経時的な粘弾性変化を示す。Chitosan/PEGにおいて(Fig.1a)、所定時間経過後にG’の値は急激に増加し、明確なゲル化点(G’>G”)が観察された。これは、アミド結合による分子鎖間架橋の動的過程を示していると考えられる。実際、ゲル化点は外部温度に依存して変化したことから、動的な粘弾性の変化は、Chitosan/PEGの化学結合に基づく分子鎖間架橋に伴うゾル-ゲル転移を反映すると示唆された。
一方で、RADA16ペプチドゲルの場合、測定開始時のG’の値はG”のそれより高く、PBS中で即座にゲル化することが観察された(Fig.1b)。つまり、RADA16の分子組織化(β-sheet構造形成)に基づくゲル化は、Chitosan/PEGゲル化に比べて極めて早く起こることがわかった。
Fig.1cには、Chitosan/PEG/RADA16(1.0/1.0/0.25 wt%)の粘弾性変化を示す。G’,G”の変化は、RADA16ペプチドゲルと同様の挙動を示した。興味深いことに、Chitosan/PEG/RADA16ゲルのG’の値は、それぞれ単独の場合と比べて増大した。Chitosan/PEG ゲルと RADA16 ペプチドゲルの架橋様式、ゲル化時間の相違を考慮すると、Chitosan/PEG/RADA16ゲルはそれぞれのネットワークが独立した内部構造を形成していると考えられる。つまり、混合初期において、RADA16の組織化は迅速に起こり、引き続きRADA16繊維網目の間でChitosan/PEGの架橋が形成される。Chitosan/PEG/RADA16ゲルのG’の飛躍的な増大は、これらのゲル化タイムラグに由来する相互侵入網目(IPN)様の構造に起因すると考えられる。」(2頁7?26行)


(3)「

(訳文)図1.(a)Chitosan/PEG (1.0/1.0 wt%),(b)RADA16 (0.25 wt%),及び(c)Chitosan/PEG/RADA16 (1.0/1.0/0.25 wt%)混合物の、ゲル化中のG'(実線)及びG''(破線)の経時的変化 」 (2頁)

2.引用発明
上記1.(1)より、引用文献1には、
「カルボキシメチルキトサン(Carboxymethyl chitosan)、N-ヒドロキシスクシンイミド末端 2-アーム ポリ(エチレングリコール)(N-Hydroxysuccinimide-terminated 2-arm poly(ethylene glycol))を混和した後、RADA16ペプチドを添加する、インジェクタブルゲルの作製方法。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

3.対比・検討
本願発明と引用発明を対比する。
本願発明の「キトサン」はカルボキシメチルキトサンを含むものである(本願明細書の段落【0007】、実施例)から、引用発明の「カルボキシメチルキトサン」は、本願発明の「キトサン」に相当し、引用発明の「N-ヒドロキシスクシンイミド末端 2-アーム ポリ(エチレングリコール)」は、本願発明の「N-ヒドロキシスクシンイミド末端化された」「PEG」に相当すると認められる。
また、本願発明の「配列番号1のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチド」はペプチドRADA16である(本願明細書の段落【0016】、実施例)から、引用発明の「RADA16ペプチド」は、本願発明の「配列番号1のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチド」に相当すると認められる。
さらに、引用発明の「インジェクタブルゲル」は上記1.(2)の記載からハイドロゲルであることが分かる。

したがって、両者は、
「下記工程:
キトサンとPEGとを混合すること、及び
得られた混合物に配列番号1のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドを添加することを含み、PEGが、N-ヒドロキシスクシンイミド末端化されたものである、ハイドロゲルの製造方法。」である点で一致し、次の点で相違すると認められる。
(相違点)
ハイドロゲルについて、本願発明では「貯蔵弾性率(G’)の値が、それぞれ単独の場合と比べて増大しており」と特定されているのに対して、引用発明では特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
まず、本願発明にいう「貯蔵弾性率(G’)の値が、それぞれ単独の場合と比べて増大しており」に関して、本願明細書には、
「【0026】
キトサン/PEG/RADAハイドロゲル
図1には、20℃におけるキトサン/PEG(1.0/1.0 wt%)、RADA16(0.25 wt%)、およびキトサン/PEG/RADA16(1.0/1.0/0.25 wt%)溶液の経時的な粘弾性変化を示す。キトサン/PEGにおいて(図1a)、所定時間経過後にG’の値は急激に増加し、明確なゲル化点(G’>G”)が観察された。これは、アミド結合による分子鎖間架橋の動的過程を示していると考えられる。実際、ゲル化点は外部温度に依存して変化したことから、動的な粘弾性の変化は、キトサン/PEGの化学結合に基づく分子鎖間架橋に伴うゾル-ゲル転移を反映すると示唆された。
【0027】
一方で、RADA16ペプチドゲルの場合、測定開始時のG’の値はG”のそれより高く、PBS中で即座にゲル化することが観察された(図1b)。つまり、RADA16の分子組織化(β-シート構造形成)に基づくゲル化は、キトサン/PEGゲル化に比べて極めて早く起こることがわかった。
【0028】
図1cには、キトサン/PEG/RADA16(1.0/1.0/0.25 wt%)の粘弾性変化を示す。G’,G”の変化は、RADA16ペプチドゲルと同様の挙動を示した。興味深いことに、キトサン/PEG/RADA16ゲルのG’の値は、それぞれ単独の場合と比べて増大した。キトサン/PEGゲルとRADA16ペプチドゲルの架橋様式、ゲル化時間の相違を考慮すると、キトサン/PEG/RADA16ゲルはそれぞれのネットワークが独立した内部構造を形成していると考えられる。つまり、混合初期において、RADA16の組織化は迅速に起こり、引き続きRADA16繊維網目の間でキトサン/PEGの架橋が形成される。キトサン/PEG/RADA16ゲルのG’の飛躍的な増大は、これらのゲル化タイムラグに由来する相互侵入網目(IPN:Interpenetrating polymer network)様の構造に起因すると考えられる。」
と記載されている。
そうすると、本願発明にいう「貯蔵弾性率(G’)の値が、それぞれ単独の場合と比べて増大しており」とは、本願の図1(摘記は省略)に示される貯蔵弾性率(G’)の結果、すなわち、図1cに示されるキトサン/PEG/RADA16ゲルのG’が、図1aに示されるキトサン/PEGゲルのG’や、図1bに示されるRADA16ゲルのG’よりも増大していることを意味すると解される。
一方、上記1.(2)(3)のとおり、引用文献1にも、本願明細書の段落【0026】、【0027】及び図1と同様の事項が記載されており、引用発明のゲルも、本願発明にいう「貯蔵弾性率(G’)の値が、それぞれ単独の場合と比べて増大しており」との特性を有していると認められる。
したがって、上記の点は実質的な相違点とはいえない。
よって、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当する。

4.審判請求人の主張
審判請求人は令和1年11月19日の意見書において、次の点を主張している。
「引用文献1には、本願の請求項1に特定される工程を含むハイドロゲルの製造方法が記載されている。
しかし、引用文献1には、PEGが、N-ヒドロキシスクシンイミド末端化されたものであることは、記載も示唆もされていない。
また、本発明は、この構成を採用することにより、キトサン、PEG、配列番号1のアミノ酸配列からなる自己組織化ペプチドを含み、貯蔵弾性率(G’)の値が、それぞれ単独の場合と比べて増大している、ハイドロゲルを製造できるという効果を奏する。
このような効果は、引用文献1には記載も示唆もないことから、当業者といえども引用文献1からは予測することができない。」

しかし、上記2.のとおり、引用文献1には『N-ヒドロキシスクシンイミド末端2-アームポリ(エチレングリコール)(N-Hydroxysuccinimide-terminated 2-arm poly(ethylene glycol))』、すなわち、N-ヒドロキシスクシンイミド末端化されたPEGが記載されており、上記3.のとおり、引用発明のゲルは本願発明にいう「貯蔵弾性率(G’)の値が、それぞれ単独の場合と比べて増大しており」との特性を有していると認められる。
したがって、審判請求人の主張は採用できない。


第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-25 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2015-502967(P2015-502967)
審決分類 P 1 8・ 113- WZ (C12M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱田 光浩  
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 常見 優
中島 庸子
発明の名称 ハイドロゲル  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人 津国  
代理人 特許業務法人 津国  

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