• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05B
管理番号 1360304
審判番号 不服2018-15570  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2018-11-26 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2014- 44915「表示装置の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 9月28日出願公開、特開2015-170502〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続等の経緯
本願は、平成26年3月7日の出願であって、その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。

平成30年 1月31日付け:拒絶理由通知書
平成30年 6月 7日提出:意見書
平成30年 6月 7日提出:手続補正書
平成30年10月19日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成30年11月26日提出:審判請求書
平成30年11月26日提出:手続補正書

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成30年11月26日にした手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の特許請求の範囲の請求項1及び請求項2の記載は、以下のとおりである。
「【請求項1】
複数の表示装置を製造する製造方法であって、前記複数の表示装置の各々は、表示装置本体と付加部材とを備え、前記表示装置本体は、それぞれ光を出射する複数の画素と、前記複数の画素が出射した光を前記表示装置本体の外部に向けて出射するための光出射面を含む最外層と、前記光出射面に垂直な方向から見たときに前記光出射面の外側に配置された端子部とを備え、前記付加部材は、カラーフィルタ、タッチパネルまたは円偏光板であり、且つ前記端子部を覆わずに前記光出射面に貼り合わされており、
前記製造方法は、
各々が前記表示装置本体となる予定の、配列された複数の本体予定部を含む本体用基礎構造物を作製する工程と、
各々が前記付加部材となる予定の、配列された複数の付加部材予定部と、前記複数の付加部材予定部の周囲に位置して、前記複数の付加部材予定部を一体的に保持する保持部とを含む付加部材用基礎構造物を作製する工程と、
前記本体用基礎構造物と前記付加部材用基礎構造物を重ね合わせて接合して、各々が前記表示装置となる予定の、配列された複数の表示装置予定部を含む接合構造物を作製する工程と、
前記複数の表示装置予定部が互いに分離されて複数の表示装置となるように、前記接合構造物を切断する工程とを備え、
前記接合構造物を作製する工程の前において、前記付加部材用基礎構造物の前記保持部は、前記本体用基礎構造物と前記付加部材用基礎構造物を重ね合わせたときに前記複数の本体予定部の複数の端子部に対応する位置に形成された切り欠き部を有することを特徴とする表示装置の製造方法。

【請求項2】
前記付加部材用基礎構造物を作製する工程は、
後に除去されることによって前記切り欠き部となる除去予定部を含む初期付加部材用基礎構造物であって、前記除去予定部が除去されることによって前記付加部材用基礎構造物となる初期付加部材用基礎構造物を作製する工程と、
前記初期付加部材用基礎構造物の前記除去予定部を除去する工程とを含むことを特徴とする請求項1記載の表示装置の製造方法。」

(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
なお、下線は補正箇所を示す。
「複数の表示装置を製造する製造方法であって、前記複数の表示装置の各々は、表示装置本体と付加部材とを備え、前記表示装置本体は、それぞれ光を出射する複数の画素と、前記複数の画素が出射した光を前記表示装置本体の外部に向けて出射するための光出射面を含む最外層と、前記光出射面に垂直な方向から見たときに前記光出射面の外側に配置された端子部とを備え、前記付加部材は、カラーフィルタまたはタッチパネルであり、且つ前記端子部を覆わずに前記光出射面に貼り合わされており、
前記製造方法は、
各々が前記表示装置本体となる予定の、配列された複数の本体予定部を含む本体用基礎構造物を作製する工程と、
各々が前記付加部材となる予定の、配列された複数の付加部材予定部と、前記複数の付加部材予定部の周囲に位置して、前記複数の付加部材予定部を一体的に保持する保持部とを含む付加部材用基礎構造物を作製する工程と、
前記本体用基礎構造物と前記付加部材用基礎構造物を重ね合わせて接合して、各々が前記表示装置となる予定の、配列された複数の表示装置予定部を含む接合構造物を作製する工程と、
前記複数の表示装置予定部が互いに分離されて複数の表示装置となるように、前記接合構造物を切断する工程とを備え、
前記接合構造物を作製する工程の前において、前記付加部材用基礎構造物の前記保持部は、前記本体用基礎構造物と前記付加部材用基礎構造物を重ね合わせたときに前記複数の本体予定部の複数の端子部に対応する位置に形成された切り欠き部を有し、
前記付加部材用基礎構造物を作製する工程は、
前記複数の付加部材予定部と、後に除去されることによって前記切り欠き部となる除去予定部とを含む初期付加部材用基礎構造物であって、前記除去予定部が除去されることによって前記付加部材用基礎構造物となる初期付加部材用基礎構造物を作製する工程と、
前記初期付加部材用基礎構造物の前記除去予定部を除去する工程とを含むことを特徴とする表示装置の製造方法。」

(3)本件補正の適否
本件補正は、補正前の請求項1を削除し、補正前の請求項1を引用する請求項2に係る発明において択一的に記載された「カラーフィルタ、タッチパネルまたは円偏光板」の各要素のうち「円偏光板」の要素を削除するとともに、「初期付加部材用基礎構造物」を「複数の付加部材予定部」を含むものに限定し、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)とするものである。
そして、「初期付加部材用基礎構造物」が、「複数の付加部材予定部」を含むものであることは、本願の出願当初明細書の【0081】に記載された事項である。
また、本件補正前の請求項1を引用する請求項2に係る発明と、本件補正後発明の、産業上の利用分野及び発明が解決しようとする課題は同一である(【0001】及び【0019】)。
したがって、本件補正は、特許法17条の2第3項の規定に適合するとともに、同条第5項1号及び2号に掲げる事項(請求項の削除及び特許請求の範囲の減縮)を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後発明が同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

2 本件補正後発明
本件補正後発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。

3 引用文献の記載及び引用発明
(1)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された、特開2006-351382号公報(以下「引用文献1」という。)は、本件出願の出願日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基板上に自発光部を形成し、前記支持基板と封止部材とを貼り合わせて形成された封止領域内に前記自発光部を配置し、該自発光部から前記封止領域の外に引き出された引出配線部が前記支持基板端部の引出領域上に形成される自発光パネルにおいて、
前記封止部材の前記引出配線部に臨む端縁は前記支持基板と前記封止部材の貼り合わせ前に加工された孔加工縁によって形成されることを特徴とする自発光パネル。
【請求項2】
前記支持基板は、複数の自発光部が形成されたマザー支持基板を切断したものであり、
前記封止部材は、前記複数の自発光部に対応した複数の封止部が配置されたマザー封止部材を切断したものであり、
前記孔加工縁は前記マザー封止部材に形成された孔加工部における内周縁の一部であることを特徴とする請求項1に記載された自発光パネル。
【請求項3】
複数の自発光部が形成されたマザー支持基板と、
前記複数の自発光部に対応した複数の封止部が配置されたマザー封止部材とを備え、
前記マザー支持基板と前記マザー封止部材との貼り合わせによって、前記複数の自発光部を前記複数の封止部に対応させて封止する封止領域を形成した自発光パネルにおいて、
前記マザー支持基板は、前記複数の自発光部から前記封止領域の外に引き出される引出配線部が形成された引出領域を有し、
前記マザー封止部材は、前記引出配線部を露出させる孔加工部を有することを特徴とする自発光パネル。
【請求項4】
マザー支持基板上に複数の自発光部を形成する工程と、
マザー封止部材に前記複数の自発光部における引出配線部に対応した孔加工部を形成する工程と、
前記マザー支持基板と前記マザー封止部材を貼り合わせて、前記引出配線部を前記孔加工部から露出させると共に、前記複数の自発光部を前記マザー封止部材の封止部に対応した封止領域内に封止する工程と、
前記孔加工部から露出した引出配線部に検査端子を接続することで前記複数の自発光部の検査を行う検査工程と、
前記マザー支持基板及び前記マザー封止部材を前記封止領域と前記引出配線部をそれぞれ有するパネル単位に切断して分割する切断・分割工程と、
を有することを特徴とする自発光パネルの製造方法。」

イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、自発光パネル、自発光パネル用封止部材、自発光パネルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EL(Electroluminescent)表示パネル,PDP(Plasma display panel),FED(Field emission display)パネルに代表される自発光パネルは、フラットパネルディスプレイや照明部材等として、各種の電子機器に採用されるものである。特に、有機ELパネルは、RGB各色で所望の輝度効率が得られるカラー表示が可能であることは勿論のこと、駆動電圧が数?数十ボルト程度と低く、斜めの角度から見ても高い視認性が得られ、表示切り換えに対する応答速度が高いという特徴を持っており、更に薄型化が可能なものとして期待されている。
【0003】
このような自発光パネルは、支持基板と封止部材との間に封止領域が形成され、その封止領域内に自発光部が形成される基本構成を備えている。有機ELパネルの場合には、自発光部の構成要素である有機EL素子が外気に曝されるとその発光特性が劣化することが知られており、支持基板上に自発光部を形成した後、支持基板と封止部材(ガラス封止基板や金属封止缶を含む)とを貼り合わせて、自発光部を封止領域で囲うことがなされている。
【0004】
このような自発光パネルの製造工程としては、生産効率を高めるために、複数の自発光部をマザー支持基板上に形成し、これを封止部材で封止した後に各パネルに切断・分割することが行われている。
・・・中略・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した従来の自発光パネル或いはその製造方法によると、図1(c)に示した切断工程において、分割片J30の端部J30eが自発光パネルJ3の引出配線部J11に接触してこれを傷つけることがあり、これによって自発光パネルJ3の引出配線に断線等の不具合が生じる問題がある。この引出配線の不具合は製造工程の末端で生じる不具合であり、パネル1個分を不良品にしてしまうので、それまでの製造工程でパネル1個分に供された資材が全く無駄になってしまう。したがって、切断工程時における引出配線の損傷は製品歩留まりを向上させて製造コストを低減させる上で重要な課題になっている。
【0010】
また、自発光部J10の封止が完了した段階で自発光部J10の動作状態を検査する検査工程が行われている。これは封止領域から引き出された引出配線部J11に対して検査端子を接続することで、点灯確認,輝度測定,色度測定等を行うものである。この検査工程は、従来は、パネルの分割がなされる前は引出配線部J11がマザー封止部材J2によって覆われているため(図1(b)参照)、各パネルに切断・分割した後に行われている。しかしながら、分割後にばらばらになった個々の自発光パネルJ3を一つ一つ取り上げて、その引出配線部J11に検査端子を接続する作業は大変手間の掛かる作業であり、製造工程全体の長時間化を招き良好な生産性を得ることができない問題があった。
【0011】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、一つには、大判を切断・分割して個々の自発光パネルを得るものにおいて、切断工程時の引出配線の損傷を防ぎ、製品歩留まりを向上させること、また一つには、同様に大判を切断・分割して個々の自発光パネルを得るものにおいて、検査工程の効率化を図り生産性の向上を図ること、等が本発明の目的である。」

ウ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図2は本発明の一実施形態に係る自発光パネルを示す説明図(同図(a)が外観斜視図、同図(b)がX-X断面図)である。自発光パネル1は、支持基板10上に自発光部12を形成し、支持基板10と封止部材11とを接着層13を介して貼り合わせて形成された封止領域S内に自発光部12を配置し、自発光部12から封止領域Sの外に引き出された引出配線部12Aが支持基板10端部の引出領域10A上に形成される基本構造を有している。
【0018】
そして、本発明の実施形態における自発光パネル1は、支持基板10及び封止部材11における自発光パネル1の外周縁を形成する端縁(支持基板10に関しては端縁10E_(1),10E_(2),10E_(3),10E_(4)、封止部材11に関しては端縁11E_(1),11E_(2),11E_(3))は、支持基板10と封止部材11を貼り合わせた後に形成された切断縁からなり、封止部材11の引出配線部12Aに臨む端縁11E_(0)は支持基板10と封止部材11の貼り合わせ前に加工された孔加工縁によって形成されている。ここで言う「切断縁」とは、切断処理によって形成された端縁であり、切断処理後に各種の表面処理を施したものも含まれる。また、「加工縁」とは、加工処理(削り取り、サンドブラスト処理、打ち抜き等)によって形成された端縁であり、その後に各種の表面処理を施したものも含まれる。
【0019】
このような実施形態に係る自発光パネル1によると、引出配線部12Aに臨む封止部材11の端縁11E_(0)が支持基板10と封止部材11の貼り合わせ前に加工された孔加工縁によって形成されているので、貼り合わせ後の切断処理の影響が引出配線部12Aには及ばないようになっている。したがって、切断・分割片が引出配線部12Aに接触したり、切り屑が引出配線部12Aの表面に付着するようなことがなく、パネル形成工程の末端で引出配線部12Aに不具合が生じることを回避することができる。
【0020】
図3は、支持基板10或いは封止部材11を貼り合わせる前の状態(マザー支持基板10L、マザー封止部材11L)を示した説明図(平面図)である。マザー支持基板10Lには、複数の自発光部12が形成されており、所望の状態で整列配置されている。また、各自発光部12には引出配線部12Aを形成する配線部が形成されている。前述の支持基板10はこのマザー支持基板10Lを自発光部12毎に切断したものである。
【0021】
マザー封止部材11Lには、マザー支持基板10Lに形成された複数の自発光部12に対応した複数の封止部11Aが配置されている。この封止部11Aは図2(b)に示すように封止領域Sが形成される凹部によって形成されるものであってもよいし、封止領域Sを区画する平面であってもよい(その場合には、支持基板10と封止部材11との間に封止領域Sを確保するスペーサ材(間隔維持材)が設けられる)。すなわち、前述した封止部材11は、このマザー封止部材11Lを封止部11A毎に切断したものである。
【0022】
そして、このマザー封止部材11Lには、マザー支持基板10Lとの貼り合わせ時にマザー支持基板10L上の引出配線部12Aの位置に対応するように、複数の孔加工部11Hが形成されている。すなわち、封止部材11における端縁11E_(0)(孔加工縁)は、孔加工部11Hの内周縁の一部として形成することができる。
【0023】
このようなマザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lは、その一方又は両方に対して、周縁に接着剤が塗布又は印刷されると共に、前述した封止領域Sを囲むように接着剤が塗布又は印刷されて、両者が貼り合わせられ、図4の断面図に示されるようなマザー自発光パネル1Lが形成される。
【0024】
図4に示したマザー自発光パネル1Lについて説明すると、複数の自発光部12が形成されたマザー支持基板10Lと、複数の自発光部12に対応した複数の封止部11Aが配置されたマザー封止部材11Lとを備え、マザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lとの貼り合わせによって、複数の自発光部12を複数の封止部11Aに対応させて封止する封止領域Sを形成している。封止部11Aの凹部には必要に応じて捕水材(乾燥手段)14が配備されている。
【0025】
このマザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lの間には、前述したように接着剤の塗布又は印刷によって形成された接着層13A,13Bが形成されており、接着層13Aによって封止領域Sが囲い込まれており、接着層13Bで周囲の貼り合わせがなされている。
【0026】
このようなマザー自発光パネル1Lにおいて、マザー支持基板10Lは、複数の自発光部12から封止領域Sの外に引き出される引出配線部12Aが形成された引出領域10Aを有している。また、マザー封止部材11Lは、引出配線部12Aを露出させる孔加工部11Hを有している。
【0027】
つまり、このマザー自発光パネル1Lにおいては、マザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lを貼り合わせて封止領域Sを形成した後で、且つこれを切断・分割する前の段階で、孔加工部11Hを介して引出配線部12Aが露出した状態になっている。したがって、この孔加工部11Hを介して矢印Pに示すように検査端子を挿入して、露出している引出配線部12Aに対して検査端子を接続させることができる。これによって、マザー自発光パネル1Lを分割・切断する前に各自発光部12に対する検査工程を施すことが可能になる。これによると、各自発光パネル1がばらばらに分割される前に検査工程を行うことができ、複数の自発光部12を一体にしてハンドリングできるので、作業効率良く各自発光部12に対する検査を行うことが可能になる。
・・・中略・・・
【0033】
また、マザー自発光パネル1Lを切断処理した場合に、図6(b)に示すように切れ端の分割片CP11?CP13が形成されるが、引出配線部12Aに対応する部分は孔加工部11Hによって開放されているので、分割片CP12,CP13の端部が引出配線部12Aに接触することはなく、切断処理時に引出配線が影響を受けることを回避することができる。更には、接着層13Cによってマザー支持基板10L側とマザー封止部材11L側の分割片が接合されるので、切れ端の分割片の除去作業を簡易に行うことが可能になる。」

エ 「【0034】
図7は、本発明の実施形態に係る自発光パネルの製造方法を説明する説明図である。
【0035】
自発光部形成工程S01では、マザー支持基板10L上に複数の自発光部12が形成される。自発光部12の形成は、自発光部を構成する発光素子等の種類に応じて各種の形成方法が採用される。
【0036】
有機EL素子からなる自発光部を形成する場合の一例を示すと、ガラス製等のマザー支持基板10Lに対して洗浄及び必要な表面処理、被膜処理(TFT基板の場合の平坦化膜形成を含む)を行って、そのマザー支持基板10L上に、下部電極及び引出配線を形成する材料(ITO等)を蒸着,スパッタリング等の成膜方法で薄膜として形成し、フォトリソグラフィ等によって所望の形状にパターニングする。次に、下部電極上の発光領域を絶縁膜で区画して、スピンコーティング法,ディッピング法等の塗布法,スクリーン印刷法,インクジェット法等の印刷法等のウェットプロセス、又は、蒸着法,レーザ転写法等のドライプロセスで発光領域上に有機発光機能層を形成する。詳しくは、正孔輸送層,発光層,電子輸送層等の各材料を蒸着にて順次積層する。そして、その上に陰極となる金属薄膜によって上部電極を蒸着やスパッタリング等の成膜法で形成し、上部電極及び下部電極で有機発光機能層を挟持した構造の有機EL素子を形成する。
【0037】
封止部材加工・準備工程S02では、ガラス製等のマザー封止部材11Lに対して前述した封止部11Aを形成する。封止部11Aは凹部を形成する場合には、形成部を開口したマスクを表面に被せてサンドブラスト等の加工処理を施して所望の凹部を形成する。平面で封止部11Aを形成する場合は特にこのような加工は必要ない。また、前述した孔加工部11Hを引出配線部12Aに対応した位置に形成する。この孔加工部11Hの形成箇所を開口したマスクを表面に被せてサンドブラスト等の加工処理によって形成することができる。そして、有機ELパネルの場合には、封止部11A内に捕水剤(乾燥手段)14を配備する。
【0038】
封止工程S1は貼り合わせ工程S11とその後の硬化処理工程S12からなる。貼り合わせ工程S11は、マザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lとを前述した接着層(13A,13B,13C)を介して貼り合わせる。接着剤の塗布又は印刷による接着層の形成は、マザー支持基板10L側、マザー封止部材11L側のどちらに行っても良く、またこれらの両方に行っても良い。この貼り合わせによって、マザー支持基板10L上の自発光部12が封止領域S内に囲まれると共に、マザー支持基板10L上の引出配線部12Aがマザー封止部材11Lの孔加工部11Hから露出することになる。硬化処理工程S12では、接着層(13A,13B,13C)への紫外線照射或いは加熱処理を行って接着層を硬化させる。
【0039】
検査工程S2では、孔加工部から露出した引出配線部12Aに検査端子を接続させることで、複数の自発光部12の検査を行う。検査の内容としては、点灯検査、色度検査、輝度検査等を行うことができる。この際、各自発光部12毎に検査端子を接続して個々の検査を行っても良いし、複数の自発光部12の引出配線部12Aに対応する複数の検査端子を用意して、これらを同時に接続することで、複数の自発光部12を同時に検査することも可能である。何れの場合も、切断・分割した後に個々の自発光パネル1と取り扱う場合と比較してハンドリングが良好になり、検査作業を効率よく行うことができる。
【0040】
切断・分割工程S3では、前述したようなカット線に沿って切断処理を行い、マザー支持基板10L及びマザー封止部材11Lを封止領域Sと引出配線部12Aをそれぞれ有するパネル単位に切断・分割する。
【0041】
この際、前述したように、切断・分割工程の一工程は、マザー封止部材11Lの孔加工部11Hにおける内周縁の一部を含むカット線に沿って行われる。これによって、切れ端の分割片が形成される場合にも、孔加工部11Hの存在によって分割片の端部が引出配線部12Aに接触することがない。これによって、製造工程末端における切断・分割工程で、引出配線部12Aに断線等の不具合が起きることを未然に防止することができる。
【0042】
この切断・分割工程S4によって切り分けられた個々の自発光パネル1に対しては、駆動部(ICチップやフレキシブル基板)の実装がなされ(駆動部実装工程S4)、これによって製品パネルの製造が完了することになる(S5)。」
(当合議体注:【0042】の「切断・分割工程S4」は「切断・分割工程S3」の誤記であるため、以下では「切断・分割工程S3」と解して検討を進める。)

オ 「【0046】
以下、図10によって、前述した自発光パネル1の具体例として有機ELパネルを例に挙げて、具体構成を説明する。
【0047】
有機ELパネル100の基本構成は、第1電極(下部電極)31と第2電極(上部電極)32との間に有機発光機能層を含む有機材料層33を挟持して支持基板110上に複数の有機EL素子30を形成したものである。図示の例では、支持基板110上にシリコン被覆層120aを形成しており、その上に形成される第1電極31をITO等の透明電極からなる陽極に設定し、第2電極32をAl等の金属材料からなる陰極に設定して、支持基板110側から光を取り出すボトムエミッション方式を構成している。また、有機材料層33としては、正孔輸送層33A,発光層33B,電子輸送層33Cの3層構造の例を示している。そして、支持基板110と封止部材111とを接着層112を介して貼り合わせることによって封止領域Sを形成し、この封止領域S内に有機EL素子30からなる自発光部を形成している。
【0048】
有機EL素子30からなる自発光部は、図示の例では、第1電極31を絶縁層34で区画しており、区画された第1電極31の下に各有機EL素子30による単位表示領域(30R,30G,30B)を形成している。また、封止領域Sを形成する封止部材111の内面には乾燥手段40が取り付けられて、湿気による有機EL素子30の劣化を防止している。
【0049】
また、支持基板110の端部に形成される引出領域110A上には、第1電極31と同材料,同工程で形成される第1の電極層121Aが、第1電極31とは絶縁層34で絶縁された状態でパターン形成されている。第1の電極層121Aの引出配線部分には、銀合金等を含む低抵抗配線部分を形成する第2の電極層121Bが形成されており、更にその上に、必要に応じてIZO等の保護被膜121Cが形成されて、第1の電極層121A,第2の電極層121B,保護被膜121Cからなる引出配線部121が形成されている。そして、封止領域S内端部で第2電極32の端部32aが引出配線121に接続されている。
【0050】
第1電極31の引出配線は、図示省略しているが、第1電極31を延出して封止領域S外に引き出すことによって形成することができる。この引出配線においても、前述した第2電極32の場合と同様に、Ag合金等を含む低抵抗配線部分を形成する電極層を形成することもできる。
【0051】
そして、封止部材111の引出配線部121に臨む端縁111E0は支持基板110と封止部材111の貼り合わせ前に加工された孔加工縁によって形成されている。
【0052】
以下、有機ELパネル100の細部について、更に具体的に説明する。
【0053】
a.電極;
第1電極31,第2電極32は、一方が陰極側、他方が陽極側に設定される。陽極側は陰極側より仕事関数の高い材料で構成され、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)等の金属膜やITO、IZO等の酸化金属膜等の透明導電膜が用いられる。逆に陰極側は陽極側より仕事関数の低い材料で構成され、アルカリ金属(Li,Na,K,Rb,Cs)、アルカリ土類金属(Be,Mg,Ca,Sr,Ba)、希土類金属等、仕事関数の低い金属、その化合物、又はそれらを含む合金、ドープされたポリアニリンやドープされたポリフェニレンビニレン等の非晶質半導体、Cr_(2)O_(3)、NiO、Mn_(2)O_(5)等の酸化物を使用できる。また、第1電極31,第2電極32ともに透明な材料により構成した場合には、光の放出側と反対の電極側に反射膜を設けた構成にすることもできる。
【0054】
引出配線部(図示の引出配線部121及び第1電極31の引出配線)には、有機ELパネル100を駆動する駆動回路部品やフレキシブル配線基板が接続されるが、可能な限り低抵抗に形成することが好ましく、前述したように、Ag合金或いはAPC,Cr,Al等の低抵抗金属電極層を積層するか、或いはこれらの低抵抗金属電極単独で形成することができる。
【0055】
b.有機材料層;
有機材料層33は、少なくとも有機EL発光機能層を含む単層又は多層の有機化合物材料層からなるが、層構成はどのように形成されていても良い。一般には、図7に示すように、陽極側から陰極側に向けて、正孔輸送層33A、発光層33B、電子輸送層33Cを積層させたものを用いることができるが、発光層33B、正孔輸送層33A、電子輸送層33Cはそれぞれ1層だけでなく複数層積層して設けても良く、正孔輸送層33A、電子輸送層33Cについてはどちらかの層を省略しても、両方の層を省略しても構わない。また、正孔注入層、電子注入層等の有機材料層を用途に応じて挿入することも可能である。正孔輸送層33A、発光層33B、電子輸送層33Cは従来の使用されている材料(高分子材料、低分子材料を問わない)を適宜選択して採用できる。
【0056】
また、発光層33Bを形成する発光材料においては、1重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(蛍光)と3重項励起状態から基底状態に戻る際の発光(りん光)のどちらを採用しても良い。
【0057】
c.封止部材;
有機ELパネル100において、有機EL素子30を気密に封止するための封止部材111としては、ガラス製,プラスチック製等による板状部材を用いることができる。ガラス製の封止基板にプレス成形,エッチング,ブラスト処理等の加工によって封止用凹部(一段掘り込み、二段掘り込みを問わない)を形成したものを用いることもできるし、或いは平板ガラスを使用してガラス(プラスチックでも良い)製のスペーサにより支持基板110との間に封止領域Sを形成することもできる。
【0058】
d.接着剤;
接着層112を形成する接着剤は、熱硬化型,化学硬化型(2液混合),光(紫外線)硬化型等を使用することができ、材料としてアクリル樹脂,エポキシ樹脂,ポリエステル,ポリオレフィン等を用いることができる。特には、加熱処理を要さず即硬化性の高い紫外線硬化型のエポキシ樹脂製接着剤の使用が好ましい。
【0059】
e.乾燥手段;
乾燥手段40は、ゼオライト,シリカゲル,カーボン,カーボンナノチューブ等の物理的乾燥剤、アルカリ金属酸化物,金属ハロゲン化物,過酸化塩素等の化学的乾燥剤、有機金属錯体をトルエン,キシレン,脂肪族有機溶剤等の石油系溶媒に溶解した乾燥剤、乾燥剤粒子を透明性を有するポリエチレン,ポリイソプレン,ポリビニルシンナエート等のバインダに分散させた乾燥剤により形成することができる。
【0060】
f.有機ELパネルの各種方式等;
本発明の実施例である有機ELパネル100としては、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種の設計変更が可能である。例えば、有機EL素子30の発光形態は、前述したように支持基板110側から光を取り出すボトムエミッション方式でも、封止部材111側から光を取り出すトップエミッション方式でも構わない(この場合封止部材111を透明材にして、乾燥手段40の配置を考慮する必要がある)。また、有機ELパネル100は単色表示であっても複数色表示であっても良く、複数色表示を実現するためには、塗り分け方式を含むことは勿論のこと、白色や青色等の単色の発光機能層にカラーフィルタや蛍光材料による色変換層を組み合わせた方式(CF方式、CCM方式)、単色の発光機能層の発光エリアに電磁波を照射する等して複数発光を実現する方式(フォトブリーチング方式)、2色以上の単位表示領域を縦に積層し一つの単位表示領域を形成した方式(SOLED(transparent Stacked OLED)方式)、異なる発光色の低分子有機材料を予め異なるフィルム上に成膜してレーザによる熱転写で一つの基板上に転写するレーザ転写方式、等を採用することができる。また、図示の例ではパッシブ駆動方式を示しているが、支持基板110としてTFT基板を採用し、その上に平坦化層を形成した上に第1電極31を形成するようにして、アクディブ駆動方式を採用したものであってもよい。
【0061】
以上説明したように、本発明の実施形態に係る自発光パネル及びその製造方法、或いは自発光パネル用封止部材によると、大判を切断・分割して個々の自発光パネル1を得るものにおいて、切断・分割工程時の引出配線の損傷を防ぎ、製品歩留まりを向上させることができる。また、同様に大判を切断・分割して個々の自発光パネルを得るものにおいて、検査工程の効率化を図り生産性の向上を図ることができる。」
(当合議体注:図2、図3及び図7は、以下の図である。)

図2:

図3:

図7:

(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1の【0034】?【0042】には、「自発光パネル1の製造方法」が記載されているところ、この「自発光パネル1」は【0017】に記載された構成のものであり、また、具体的には、「フラットパネルディスプレイ」である(【0002】及び【0046】?【0060】)。
そうしてみると、引用文献1には、次の「自発光パネル1の製造方法」の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。

「支持基板10上に自発光部12を形成し、支持基板10と封止部材11とを接着層13を介して貼り合わせて形成された封止領域S内に自発光部12を配置し、自発光部12から封止領域Sの外に引き出された引出配線部12Aが支持基板10端部の引出領域10A上に形成されてなる、自発光パネル1の製造方法であって、
自発光部形成工程S01では、マザー支持基板10L上に複数の自発光部12が形成され、
封止部材加工・準備工程S02では、マザー封止部材11Lに対して封止部11Aを形成し、
封止工程S1は貼り合わせ工程S11とその後の硬化処理工程S12からなり、貼り合わせ工程S11は、マザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lとを接着層(13A,13B,13C)を介して貼り合わせ、この貼り合わせによって、マザー支持基板10L上の自発光部12が封止領域S内に囲まれると共に、マザー支持基板10L上の引出配線部12Aがマザー封止部材11Lの孔加工部11Hから露出することになり、硬化処理工程S12は、接着層(13A,13B,13C)への紫外線照射或いは加熱処理を行って接着層を硬化させる工程であり、
検査工程S2では、孔加工部から露出した引出配線部12Aに検査端子を接続させることで、複数の自発光部12の検査を行い、
切断・分割工程S3では、カット線に沿って切断処理を行い、マザー支持基板10L及びマザー封止部材11Lを封止領域Sと引出配線部12Aをそれぞれ有するパネル単位に切断・分割し、
切断・分割工程S3によって切り分けられた個々の自発光パネル1に対しては、駆動部(ICチップやフレキシブル基板)の実装がなされ(駆動部実装工程S4)、これによって製品パネルの製造が完了することになり(S5)、
ここで、自発光パネル1は、フラットパネルディプレイである、
自発光パネル1の製造方法。」

4 対比及び判断
(1)対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると、以下のとおりである。

ア 複数の表示装置を製造する製造方法
引用発明は「自発光パネル1の製造方法」であるところ、その「自発光部形成工程S01では、マザー支持基板10L上に複数の自発光部12を形成し」、「封止部材加工・準備工程S02では、ガラス製等のマザー封止部材11Lに対して封止部11Aを形成し」、「貼り合わせ工程S11では、マザー支持基板10Lとマザー封止基板11Lとを接着層(13A、13B、13C)を介して貼り合わせ」、「硬化処理工程S12では、接着層(13A、13B、13C)への紫外線照射或いは加熱処理を行って接着層を硬化させ」、「検査工程S2では、孔加工部から露出した引出配線部12Aに検査端子を接続させることで、複数の自発光部12の検査を行い」、「切断・分割工程S3では、カット線に沿って切断処理を行い、マザー支持基板10L及びマザー封止部材11Lを封止領域Sと引出配線部12Aをそれぞれ有するパネル単位に切断・分割し」、「駆動部実装工程S4では、切断・分割工程S3で切り分けられた個々の自発光パネル1に対して、駆動部(ICチップやフレキシブル基板)の実装がなされ、これによって製品パネルの製造が完了する」ものである。
ここで、引用発明の「自発光パネル1は、フラットパネルディプレイである」。
上記構成からみて、引用発明の「自発光パネル1」は、本件補正後発明の「表示装置」に相当する。また、引用発明の「自発光パネル1の製造方法」は、本件補正後発明の「表示装置の製造方法」に相当するとともに、「複数の表示装置を製造する製造方法」という要件を満たす。

イ 表示装置
引用発明の「自発光パネル1は、フラットパネルディスプレイである」。
ここで、前記アで述べた製造工程から理解される引用発明の「自発光パネル1」の構成、及びフラットパネルディスプレイに関する技術常識を勘案すると、引用発明の「支持基板10」は、本件補正後発明の「表示装置本体」に相当するとともに、引用発明の「封止部材11」と本件補正後発明の「付加部材」とは、「接合部材」である点で共通する。また、引用発明の「自発光パネル1」が、本件補正後発明の「表示装置」における、「前記複数の表示装置の各々は、表示装置本体と」接合「部材とを備え、前記表示装置本体は、それぞれ光を出射する複数の画素と、前記複数の画素が出射した光を」「外部に向けて出射するための光出射面を含む」「層と、前記光出射面に垂直な方向から見た時に前記光出射面の外側に配置された端子部とを備え」ることは、明らかである(この点は、引用文献1の図2や、【0060】の記載からも確認できる事項である。)。

ウ 本体用基礎構造物を作製する工程
前記アで述べた製造工程からみて、引用発明の「自発光部形成工程S01」は、本件補正後発明の「各々が前記表示装置本体となる予定の、配列された複数の本体予定部を含む本体用基礎構造物を作製する工程」に相当する。

エ 付加部材用基礎構造物を作製する工程
前記アで述べた製造工程からみて、引用発明の「封止部材加工・準備工程S02」と、本件補正後発明の「付加部材用基礎構造物を作製する工程」とは、「各々が前記」接合「部材となる予定の、配列された複数の」接合「部材予定部と、前記複数の」接合「部材予定部の周囲に位置して、前記複数の」接合「部材予定部を一体的に保持する保持部とを含む」接合「部材用基礎構造物を作製する工程」の点において共通する。

オ 接合構造物を作製する工程
前記アで述べた製造工程からみて、引用発明の「封止工程S1」と、本件補正後発明の「接合構造物を作製する工程」とは、「前記本体用基礎構造物と前記」接合「用基礎構造物を重ね合わせて接合して、各々が前記表示装置となる予定の、配列された複数の表示装置予定部を含む接合構造物を作製する工程」の点において共通する。

カ 接合構造物を切断する工程
前記アで述べた製造工程からみて、引用発明の「切断・分割工程S3」は、本件補正後発明の「前記複数の表示装置予定部が互いに分離されて複数の表示装置となるように、前記接合構造物を切断する工程」に相当する。

キ 切り欠き部
引用発明の「貼り合わせ工程S11では、マザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lとを接着層(13A、13B、13C)を介して貼り合わせ、この貼り合わせによって、マザー支持基板10K上の自発光部12が封止領域S内に囲まれるとともに、マザー支持基板10L上の引出配線部12がマザー封止部材11Lの孔加工部11Hから露出する」。
上記の構成からみて、引用発明の「孔加工部11H」は、本件補正後発明の「切り欠き部」に相当するとともに、引用発明と本件補正後発明とは、「前記接合構造物を作製する工程の前において」、「前記本体用基礎構造物と前記」接合「部材用基礎構造物を重ね合わせたときに前記複数の本体予定部の複数の端子部に対応する位置に形成された切り欠き部を有し」という点で共通する。

(2)一致点及び相違点
ア 一致点
以上(1)によれば、本件補正後発明と引用発明は、次の構成で一致する。
「複数の表示装置を製造する製造方法であって、前記複数の表示装置の各々は、表示装置本体と接合部材とを備え、前記表示装置本体は、それぞれ光を出射する複数の画素と、前記複数の画素が出射した光を前記表示装置本体の外部に向けて出射するための光出射面と、前記光出射面に垂直な方向から見たときに前記光出射面の外側に配置された端子部とを備え、
前記製造方法は、
各々が前記表示装置本体となる予定の、配列された複数の本体予定部を含む本体用基礎構造物を作製する工程と、
各々が前記接合部材となる予定の、配列された複数の接合部材予定部と、前記複数の接合部材予定部の周囲に位置して、前記複数の接合部材予定部を一体的に保持する保持部とを含む接合部材用基礎構造物を作製する工程と、
前記本体用基礎構造物と前記接合部材用基礎構造物を重ね合わせて接合して、各々が前記表示装置となる予定の、配列された複数の表示装置予定部を含む接合構造物を作製する工程と、
前記複数の表示装置予定部が互いに分離されて複数の表示装置となるように、前記接合構造物を切断する工程とを備え、
前記接合構造物を作製する工程の前において、前記接合部材用基礎構造物の前記保持部は、前記本体用基礎構造物と前記接合部材用基礎構造物を重ね合わせたときに前記複数の本体予定部の複数の端子部に対応する位置に形成された切り欠き部を有する、
表示装置の製造方法。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。

(相違点1)
一致点とした「光出射面を含む層」が、本願補正後発明は、「光出射面を含む最外層」であるのに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点

(相違点2)
一致点とした「接合部材」が、本願補正後発明は、「付加部材」であり、また、これが「カラーフィルタまたはタッチパネルであり、且つ前記端子部を覆わずに前記光出射面に貼り合わされており」という構成を具備するのに対して、引用発明は、「封止部材11」であり、また、これが「カラーフィルタまたはタッチパネルであり、且つ前記端子部を覆わずに前記光出射面に貼り合わされており」という構成を具備するとは特定されていない点

(相違点3)
「切り欠き部」を有するものが、本件補正後発明は、「前記付加部材用基礎構造物の前記保持部」であり、また、「前記付加部材用基礎構造物を作製する工程」が、本件補正後発明は、「前記複数の付加部材予定部と、後に除去されることによって前記切り欠き部となる除去予定部とを含む初期付加部材用基礎構造物であって、前記除去予定部が除去されることによって前記付加部材用基礎構造物となる初期付加部材用基礎構造物を作製する工程と」、「前記初期付加部材用基礎構造物の前記除去予定部を除去する工程をを含む」ものであるのに対して、引用発明は、このように特定されたものではない点。

(3)判断
ア 複数色表示(CF方式)のトップエミッション方式の有機ELパネルに適用することの示唆
引用文献1の【0034】?【0042】、【0046】?【0048】には、引用発明の「自発光パネル1の製造方法」を「フラットパネル」に適用する際の具体例として、ボトムエミッション方式の有機ELパネルとその製造方法が記載されている。続けて、【0060】には、「有機EL素子30の発光形態は、前述したように支持基板110側から光を取り出すボトムエミッション方式でも、封止部材111側から光を取り出すトップエミッション方式でも構わない」こと、及び「有機ELパネル100は・・・複数色表示であっても良く・・・白色や青色等の単色の発光機能層にカラーフィルタや蛍光材料による色変換層を組み合わせた方式(CF方式、CCM方式)・・・を採用することができる」ことが示唆されている。

イ 複数色表示(CF方式)のトップエミッション方式の有機ELパネルに関する周知技術
「複数色表示(CF方式)のトップエミッション方式の有機ELパネルにおいて、封止基板にカラーフィルタを形成してカラーフィルタ基板とし、当該カラーフィルタ基板と素子基板とを接着性を有する層を介して貼り合わせる技術」は、本願出願前の周知技術である。(必要ならば、特開2014-35799号公報(【0042】、【0049】、【0091】及び図4)、特開2011-53582号公報(【0027】、【0034】及び図2?3)、国際公開第2012/164612号([0049]?[0052]、[0071]?[0084](特に、[0072])及び図1、8)等を参照。)

ウ 開口部を備えたカラーフィルタ付き封止基板の製造工程に関する周知技術
端子部を露出するための開口部(本願補正後発明の「切り欠き部」に相当。)を備えたカラーフィルタ付き封止基板の製造工程において、封止基板に開口部を形成する工程に先だって、カラーフィルタを形成することは、例えば、特開2010-224422号公報(請求項5、【0020】、【0065】及び図15)、特開2006-3761号公報(【0059】?【0062】及び図17?19)等に例示されるように、本願出願前の周知技術である。

以上によれば、上記イ?ウの周知技術を心得た当業者が、引用文献1の上記アの示唆にしたがって、引用発明の自発光パネル1の製造方法を、CF方式のトップエミッション型有機ELパネルの製造方法として具現化することは容易に試みることであって、その結果、当業者は上記相違点1?3に係る構成に想到することになる。その理由は、以下に示すとおりである。

相違点1に関し、トップエミッション方式の有機EL素子の最上層が、本願補正後発明の「光出射面を含む最外層」となることは技術常識から明らかである。
相違点2に関し、引用発明の「接合部材」は、「封止部材11」でもあるから、上記イの周知技術を適用して、当該「封止部材11」にカラーフィルタを形成した場合、当該「接合部材」が、本願補正後発明の「カラーフィルタまたはタッチパネルであり」との要件を満たすことになる。加えて、前記「(1)ア」で述べた製造工程からみて、当該「接合部材」が、本願補正後発明の「前記端子部を覆わずに前記光出射面に貼り合わされており」という構成を満たすことになる。
以上に加えて、本願補正後発明において、表示装置本体に貼り合わされたカラーフィルタを「付加部材」と称していることを考慮すると、結局、引用発明の「封止部材11」が、本願補正後発明の「カラーフィルタまたはタッチパネルであり、且つ前記端子部を覆わずに前記光出射面に貼り合わされており」という構成を具備することとなる。
さらに、相違点3に関し、引用発明の製造方法を有機ELパネルの製造方法として具現化するにあたり、上記ウの周知技術を心得た当業者が、引用発明の「接合部材用基礎構造物を作製する工程」において、「マザー封止部材11L」上に、まず、カラーフィルタを形成し、その後に除去されることで「切り欠き部」となる予定領域を画定し、当該予定領域を除去することで「カラーフィルタ」及び「切り欠き部」を有する「マザー封止部材11L」を作製することは容易に想到し得ることである。
この場合、「カラーフィルタ」及び「切り欠き部」を有する前記「マザー封止部材11L」が、本願補正後発明の相違点3に係る、「切り欠き部」を有する「付加部材用基礎構造物の前記保持部」を具備するものとなり、さらに、上記「予定領域を画定する」工程が、本願補正後発明の「初期」接合「部材用基礎構造物を作製する工程」に、上記「予定領域を除去」する工程が、本願補正後発明の「前記初期」接合「部材用基礎構造物の前記除去予定部を除去する工程」に、それぞれ相当する。

さらに進んで、引用発明において、上記ウの周知技術を採用することを妨げる特段の事情があるかについて、念のため検討する。

引用文献1には、カラーフィルタを形成する工程と、孔加工部を形成する工程の順序をうかがわせる記載は存在しないところ、同文献1には、引用発明の課題(目的)について、以下の記載がある。
「本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、一つには、大判を切断・分割して個々の自発光パネルを得るものにおいて、切断工程時の引出配線の損傷を防ぎ、製品歩留まりを向上させること、また一つには、同様に大判を切断・分割して個々の自発光パネルを得るものにおいて、検査工程の効率化を図り生産性の向上を図ること、等が本発明の目的である。」(【0011】)
また、引用文献1には、上記課題がいかにして解決されるのかについて、以下の記載がある。
「つまり、このマザー自発光パネル1Lにおいては、マザー支持基板10Lとマザー封止部材11Lを貼り合わせて封止領域Sを形成した後で、且つこれを切断・分割する前の段階で、孔加工部11Hを介して引出配線部12Aが露出した状態になっている。
・・・中略・・・
これによると、各自発光パネル1がばらばらに分割される前に検査工程を行うことができ、複数の自発光部12を一体にしてハンドリングできるので、作業効率良く各自発光部12に対する検査を行うことが可能になる。」(【0027】)
「また、マザー自発光パネル1Lを切断処理した場合に、図6(b)に示すように切れ端の分割片CP11?CP13が形成されるが、引出配線部12Aに対応する部分は孔加工部11Hによって開放されているので、分割片CP12,CP13の端部が引出配線部12Aに接触することはなく、切断処理時に引出配線が影響を受けることを回避することができる。更には、接着層13Cによってマザー支持基板10L側とマザー封止部材11L側の分割片が接合されるので、切れ端の分割片の除去作業を簡易に行うことが可能になる。」(【0033】)

上記各記載によれば、引用発明は、マザー支持基板とマザー封止部材との貼り合わせ後、切断前において、マザー封止部材の孔加工部(切り欠き部)から、引出配線部(端子部)が露出した状態にすることで、配線の損傷防止と検査工程の効率化という目的を達成することができるのであって、この点に引用発明の技術的意義があると解される。
そうすると、引用発明の上記技術的意義に照らすならば、引用発明において、孔加工部を形成する工程及びカラーフィルタを形成する工程のうちいずれの工程を先に行うかは、当業者が必要に応じて選択すればよい事項といえる。
したがって、引用発明において、相違点3の構成を採用することを妨げる特段の事情は見いだせない。

(4)発明の効果
本願明細書には、発明の効果について、以下の記載がある。
「本発明の表示装置の製造方法によれば、付加部材が、表示装置本体の端子部を覆わずに表示装置本体の光出射面に貼り合わされた構造の複数の表示装置を同時に製造することができるという効果を奏する。」(【0035】)
しかしながら、このような効果は、引用発明も有する効果である。
また、相違点3による効果については、上記「(3)イ」で述べたとおりである。

(5)まとめ
以上のとおりであるから、本件補正後発明は、当業者が、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 補正の却下の決定の結び
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、補正の却下の決定の結論の通り決定する。

第3 本願発明
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本件出願の請求項1?22に係る発明は、平成30年6月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明は、前記「第2」1(1)に記載されるとおりのものである(以下「本願発明」という。)。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、その出願日前に、日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

引用文献1:特開2006-351382号公報
引用文献2:特開2014-35799号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3:特開2011-53582号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4:国際公開第2012/164612号(周知技術を示す文献)
引用文献5:特開2013-28688号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6:特開2011-31429号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7:特開2010-27266号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8:特開2008-78014号公報(周知技術を示す文献)
引用文献9:特開2013-10342号公報(周知技術を示す文献)
引用文献10:特開平7-318712号公報(周知技術を示す文献)

3 引用文献及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]3に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は、前記「第2」[理由]4で検討した本件補正後発明から、「前記付加部材用基礎構造物を作製する工程は、
前記複数の付加部材予定部と、後に除去されることによって前記切り欠き部となる除去予定部とを含む初期付加部材用基礎構造物であって、前記除去予定部が除去されることによって前記付加部材用基礎構造物となる初期付加部材用基礎構造物を作製する工程と、
前記初期付加部材用基礎構造物の前記除去予定部を除去する工程とを含む」との限定事項を除いたものであり、また「付加部材」に関する択一的記載事項である「カラーフィルタまたはタッチパネル」に「円偏光板」を加えたものである。
ここで、本願発明の発明と特定するための事項を全て含み、さらに上記削除した限定事項を付加し、上記択一的記載事項を付加したものに相当する本件補正後発明は、前記「第2」[理由]4で検討したとおり、周知技術を心得た当業者が、引用文献1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
そうすると、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本件出願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。


 
審理終結日 2019-12-27 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-20 
出願番号 特願2014-44915(P2014-44915)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲うし▼田 真悟川村 大輔  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 関根 洋之
里村 利光
発明の名称 表示装置の製造方法  
代理人 城澤 達哉  
代理人 特許業務法人イトーシン国際特許事務所  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ