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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G03G
管理番号 1360313
審判番号 不服2019-2746  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-02-28 
確定日 2020-03-05 
事件の表示 特願2015-561004「液体現像剤」拒絶査定不服審判事件〔平成27年 8月13日国際公開、WO2015/119145〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2015年(平成27年)2月4日(優先権主張 平成26年2月4日)を国際出願日とする出願であって、その手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
平成30年10月2日付け :拒絶理由通知書
平成30年11月9日 :意見書、手続補正書の提出
平成30年11月27日付け :拒絶査定(以下「原査定」という。)
平成31年2月28日 :審判請求書、手続補正書の提出

第2 補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成31年2月28日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、平成30年11月9日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。
「着色樹脂粒子がコアセルベーション法を利用して、絶縁性溶媒中で少なくとも顔料、酸基含有樹脂、及び酸基を含有しない樹脂を含むバインダー樹脂、塩基性基含有顔料分散剤及び造粒助剤からなる着色樹脂粒子を造粒させたものであり、ここで前記造粒助剤として、カルボジイミド基を少なくとも1つ有するカルボジイミド化合物を、酸基含有樹脂中の活性水素の数:カルボジイミド化合物中のカルボジイミド基の数=1:0.01以上1.00未満となるようにし、該着色樹脂粒子を粒子分散剤により、絶縁性溶媒に分散させてなる液体現像剤。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおりである。なお、下線は補正箇所を示す。
「着色樹脂粒子がコアセルベーション法を利用して、絶縁性溶媒中で少なくとも顔料、酸基含有樹脂、及び酸基を含有しないポリエステル樹脂を含むバインダー樹脂、塩基性基含有顔料分散剤及び造粒助剤からなる着色樹脂粒子を造粒させたものであり、ここで前記造粒助剤として、カルボジイミド基を少なくとも1つ有するカルボジイミド化合物を、酸基含有樹脂中の活性水素の数:カルボジイミド化合物中のカルボジイミド基の数=1:0.01以上1.00未満となるようにし、該着色樹脂粒子を粒子分散剤により、絶縁性溶媒に分散させてなる液体現像剤。」

2 補正の適否
本件補正は、本件補正前の請求項1に記載された発明を特定するために必要な事項である「酸基を含有しない樹脂」における「樹脂」を「ポリエステル樹脂」に限定する補正である。本件補正は、その補正の内容からみて、特許法36条5項の規定により請求項に記載した発明を特定するために必要な事項を限定するものである。そして、本件補正前の請求項1に記載された発明と、本件補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、同一である。そうしてみると、本件補正は、同法17条の2第5項2号に掲げる事項を目的とするものに該当する。
そこで、本件補正後の請求項1に記載される発明(以下「本件補正後発明」という。)が、同条6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について、以下、検討する。

(1) 本件補正後発明
本件補正後発明は、前記1(2)に記載したとおりのものである。

(2)引用文献1の記載
原査定の拒絶の理由において引用された国際公開第2007/061072号(平成19年5月31日国際公開、以下「引用文献1」という。)は、本願の優先権主張の日(以下「本件優先日」という。)前に、日本国内又は外国において、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった引用文献であるところ、そこには、以下の記載がある。なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。

ア 「技術分野
[0001] 本発明は、印刷機、複写機、プリンター、ファクシミリなどに用いられる電子写真あるいは静電記録用の液体現像剤に関する。」

イ 「背景技術
[0002]液体現像剤としては、一般的に、顔料などの着色剤を含有する着色樹脂粒子(以下、トナー粒子ともいう)を電気絶縁性媒体中に分散させた形態のものが使用されている。そして、このような液体現像剤を製造する方法の一つとしてコアセルベーション法がある。コアセルベーション法とは、樹脂を溶解する溶剤と、樹脂を溶解しない電気絶縁性媒体との混合液から、溶剤を除去することにより、混合液中に溶解状態で含まれていた樹脂を着色剤を内包する様に析出させ、着色樹脂粒子を電気絶縁性媒体中に分散させる方法である。
この様な方法から得られる液体現像剤は、着色樹脂粒子の形状が球形に近く、粒子径も均一であるため、電気泳動性が良好になると考えられている。」

ウ 「発明が解決しようとする課題
[0004] このように、コアセルベーション法により得られる液体現像剤であって、トナー粒子の電気泳動性や帯電特性の維持とトナー粒子の分散性を高いレベルで両立し、絶縁性が良好で、かつどの色の着色剤にも適用できる方法は未だ見出されていないというのが現状である。
そこで、本発明は、コアセルベーション法を利用して得られる電子写真あるいは静電記録用の液体現像剤において、液体現像剤の電気抵抗やトナー粒子の電気泳動性、帯電特性を十分に維持し、顔料の分散性とトナー粒子の分散安定性が良好な液体現像剤を提供する事を課題とする。」

エ 「課題を解決するための手段
[0005] 本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、顔料を分散させるために下記の特定の分散剤を使用し、さらに酸性基を有する樹脂を使用する事により、特に顔料の種類に左右されずに液体現像剤に適用でき、かつ液体現像剤の電気抵抗やトナー粒子となる着色樹脂粒子の電気泳動性や帯電特性への悪影響を最小限に抑え、顔料の分散性、トナー粒子の分散安定性を顕著に改善し得る事を見出し、本発明を完成するに至った。本発明は、これまでに知られている酸塩基相互作用に基づく技術とは全く異なり、液体現像剤の電気抵抗やトナー粒子の電気泳動性や帯電特性への悪影響を最小限に抑え、顔料の分散性、トナー粒子の分散安定性について良好な効果を得る事を可能にするものである。
すなわち本発明は、(1)コアセルベーション法を利用して、少なくとも顔料、分散剤および樹脂からなる着色樹脂粒子を炭化水素系絶縁性媒体中に分散させてなる液体現像剤において、前記分散剤が、分子内に、塩基性窒素含有基を少なくとも1つと、カルボジイミド基との反応を介して導入されたポリエステル側鎖を少なくとも1つ有するカルボジイミド系化合物であり、かつ前記樹脂が酸性基含有樹脂であり、その樹脂の酸価が1?100である事を特徴とする液体現像剤である。
・・・(省略)・・・
[0006] 以下、本発明の液体現像剤について詳細に説明する。
本発明で使用する顔料は、無機顔料、有機顔料が挙げられ、具体的には、アセチレンブラック、黒鉛、ベンガラ、黄鉛、群青、カーボンブラックなどの無機顔料や、アゾ顔料、レーキ顔料、フタロシアニン顔料、イソインドリン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料などの有機顔料が挙げられる。
・・・(省略)・・・
[0008] 次に、本発明で使用する樹脂は、酸性基含有樹脂であり、樹脂の酸価が1?100のものである。上記樹脂としては、印刷用紙等の被着体に対して定着性を有する熱可塑性樹脂が好ましい。具体的にはエチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのオレフィン樹脂;熱可塑性飽和ポリエステル樹脂;スチレン-アクリル系共重合体樹脂、スチレン-アクリル変性ポリエステル樹脂などのスチレン系樹脂;アルキッド樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性マレイン樹脂、ロジン変性フマル酸樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂などのアクリル系樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、フッ素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール樹脂などにおいて、重合材料、付加材料としてカルボン酸化合物を用いる方法や過酸化物処理等によりカルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等の酸性基を導入したものが挙げられる。そして、これらは、1種又は2種以上を用いることができる。上記樹脂としては、カルボキシル基含有樹脂が好ましい。また、本発明で使用する樹脂として、上記酸性基含有樹脂と酸性基非含有樹脂とを併用してもかまわない。
[0009] 上記樹脂の酸価が1未満、または酸価が100を超えると、良溶媒が留去されて貧溶媒が多くなった系中において、分散剤により分散している顔料粒子が上記樹脂で包埋されにくくなり、その結果、前記系中で樹脂のみの粒子が生成するため好ましくない。また、上記酸価は、10?80であることが好ましい。
・・・(省略)・・・
[0011] 次に、本発明で使用する分散剤は、分子内に、塩基性窒素含有基を少なくとも1つと、カルボジイミド基との反応を介して導入されたポリエステル側鎖を少なくとも1つ有するカルボジイミド系化合物である。
なお、以下では、カルボジイミド化合物のカルボジイミド基に、カルボジイミド基と反応する基を有する化合物を反応させて形成される、カルボジイミド化合物に由来する部分から枝分れの状態にある鎖を「側鎖」ということがある。本発明においては、鎖の構造の大きさにかかわらず、カルボジイミド化合物に由来する部分を「主鎖」といい、主鎖から枝分れの状態にある鎖をすべて「側鎖」という。
本発明のカルボジイミド系化合物は、全てのカルボジイミド基がポリエステル側鎖や塩基性窒素含有基等を導入するために他の官能基と反応したものであってもよいし、未反応のカルボジイミド基を有するものであってもよいが、未反応のカルボジイミド基を有するものが好ましい。
[0012] 1)カルボジイミド系化合物を合成するための材料
まず、本発明のカルボジイミド系化合物の必須構成材料として、出発物質であるカルボジイミド化合物と、ポリエステル側鎖を導入するための化合物及び塩基性窒素含有基を導入するための化合物とについて説明する。
1-1)カルボジイミド化合物
本発明のカルボジイミド系化合物を得るために、出発物質として用いられるカルボジイミド化合物は、分子内にカルボジイミド基、即ち、-N=C=N-で表される基を少なくとも1つ有する化合物であり、ここでは下記(a)?(d)の好ましい形態の例示でもって、より具体的に説明する。上記カルボジイミド化合物は、形態に応じて、適宜選択して使用される。
・・・(省略)・・・
[0030]1-3)塩基性窒素含有基を導入するための材料
本発明のカルボジイミド系化合物は、更に、塩基性窒素含有基を有するものである。上記「塩基性窒素含有基」とは、水中で4級アンモニウムイオンを形成する窒素を含有する基はもとより、ルイス塩基として作用する窒素を含有する基も含むものであり、その代表的なものとしてはアミノ基や塩基性窒素含有複素環基等である。アミノ基としては、3級アミノ基が挙げられる。塩基性窒素含有基としては、3級アミノ基が好ましい。
・・・(省略)・・・
[0043] 本発明のカルボジイミド系化合物は、ポリエステル側鎖及び塩基性窒素含有基を有することによりトナー粒子の分散性にすぐれ、また、液体現像剤に用いると、絶縁性や帯電特性の維持と顔料やトナー粒子の分散性を両立することができる。
・・・(省略)・・・
[0047] また、上記分散剤については、顔料やトナー粒子の表面から経時で離脱しないように、共有結合や吸着力が十分に作用することが必要であり、利用する顔料やトナー粒子を形成する樹脂に応じて、カルボジイミド当量や塩基性窒素含有基の量を調整することが好ましい。また、顔料やトナー粒子の分散安定性をより良好に保持できるという観点から、ポリエステル側鎖自体については、絶縁性炭化水素系有機溶媒に可溶である事が好ましい。
[0048] 上記カルボジイミド系化合物は、カルボジイミド当量が100?50000のものが好ましい。ここで、カルボジイミド当量とは、(カルボジイミド系化合物の数平均分子量)/(カルボジイミド系化合物分子中のカルボジイミド基の数)で表される数を意味するものである。カルボジイミド系化合物のカルボジイミド当量が高すぎると、カルボジイミド系化合物の分子全体に対する、ポリエステル側鎖の重量的な比率が少なくなり、顔料の分散安定性が低下する場合がある。一方、カルボジイミド当量が低い化合物は、カルボジイミド系化合物の分子全体に対する、ポリエステル側鎖や各機能性を有する側鎖の重量的な比率を高くすることが可能であるという点で有利であるが、カルボジイミド化合物自体の合成と、また側鎖を導入するための反応の制御が困難となる場合がある。より好ましいカルボジイミド当量としては、200以上、また、10000以下である。
[0049] 上記カルボジイミド系化合物は、本発明の液体現像剤において、1種又は2種以上を用いることができる。
・・・(省略)・・・
[0051] 次に本発明の液体現像剤の製造方法について説明する。
本発明の液体現像剤は、コアセルベーション法を用いて製造する。
「コアセルベーション法」とは、樹脂に対して良溶媒になるものと貧溶媒になるものとの混合液において、溶媒の混合比率を変化させる事により、樹脂を溶解から析出の状態に移行させる際に、樹脂中に着色剤である顔料を内包させて着色樹脂粒子を形成する方法である。
本発明においては、着色剤を分散させ、樹脂を溶解させた、前記樹脂を溶解する有機溶剤と前記樹脂を溶解しない炭化水素系絶縁性媒体との混合液から有機溶剤を除去して、着色剤を内包する様に樹脂を析出させることにより、着色樹脂粒子を炭化水素系絶縁性媒体中に分散させる方法を利用する。
具体的には、まず、顔料、分散剤、および有機溶剤の一部を混合し、アトライター、ボールミル、サンドミル、ビーズミルなどのメディア型分散機、あるいは高速ミキサー、高速ホモジナイザーなどの非メディア型分散機で顔料を分散させた顔料分散液を得る。さらに、この顔料分散液に、樹脂、残りの有機溶剤を加えた後、高速せん断攪拌装置で攪拌しながら炭化水素系絶縁性媒体を添加して、混合液を得ることができる。なお、前記顔料分散液を調製する際に、予め樹脂を添加した後に顔料を分散してもよい。
次いで、上記混合液を高速せん断攪拌装置により攪拌を行いながら、有機溶剤の留去を行うことにより、本発明の液体現像剤を得ることができる。また、得られる液体現像剤中の固形分濃度が高い場合は、要求される固形分濃度となるように更に炭化水素系絶縁性媒体を加えてもよい。さらに必要に応じて荷電制御剤などその他添加剤を加えてもよい。なお、有機溶剤の留去と炭化水素系絶縁性媒体の添加を同時に行って、本発明の液体現像剤を得てもよい。
[0052] 本発明で使用する樹脂を溶解する有機溶剤としては、SP値が8.5以上であるものが好ましく、さらに蒸留により混合液から留去しやすい低沸点溶剤が好ましく、例えば、テトラヒドロフランなどのエーテル類;メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸エチルなどのエステル類を挙げることができ、さらに、樹脂の溶解能力がある場合には、トルエン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類も使用できる。これらの有機溶剤は単独または2種以上を併用できる。
・・・(省略)・・・
[0053] 本発明で使用する炭化水素系絶縁性媒体としては、前記樹脂を溶解せず、電気絶縁性を有し、上記有機溶剤より溶解性パラメーター(SP)が低く(好ましくはSP値8.5未満であるもの)、さらに上記有機溶剤留去時に揮発しないものが好ましい。このような条件を満たす炭化水素系絶縁性媒体としては不揮発性ないし低揮発性の炭化水素類があげられ、より好ましくは脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類である。さらに前記の樹脂を溶解せず、前記SP値を満足する範囲であれば、芳香族炭化水素類やハロゲン化炭化水素類なども使用可能である。その中でも特に、臭気、無害性、コストの点から、ノルマルパラフィン系、イソパラフィン系、シクロパラフィン系、および、これらの2種またはそれ以上の混合物等の高沸点(沸点が150℃以上)パラフィンが好ましい。ノルマルパラフィン系、イソパラフィン系、シクロパラフィン系またはそれら混合物等の高沸点パラフィンの市販品として、例えば、アイソパーG、アイソパーH、アイソパーL、アイソパーM、エクソールD130、エクソールD140(以上いずれもエクソン化学社製)、シェルゾール71(シェル石油化学社製)、IPソルベント1620、IPソルベント2028、IPソルベント2835(以上いずれも出光石油化学社製)、モレスコホワイトP-40、モレスコホワイトP-55、モレスコホワイトP-80(以上いずれも松村石油研究所社製の流動パラフィン)、流動パラフィンNo.40-S、流動パラフィンNo.55-S(以上いずれも中央化成社製の流動パラフィン)などが挙げられる。
・・・(省略)・・・
[0054] 上記コアセルベーション法により得られた液体現像剤中の着色樹脂粒子の平均粒子径は、通常、0.1?5.0μmであり、0.1?3.0μmが好ましい。
・・・(省略)・・・
[0056] 本発明の液体現像剤は、電気抵抗やトナー粒子の帯電特性への悪影響を最小限に抑え、顔料の分散性とトナー粒子の分散安定性に優れたものであるので、例えば、印刷機、複写機、プリンター、ファクシミリなどに用いられる電子写真あるいは静電記録用の液体現像剤として用いることができる。」

オ 「発明の効果
[0057] 本発明の分散剤及び樹脂を使用する事により、あらゆる顔料を使用した液体現像剤にも適用でき、液体現像剤の電気抵抗やトナー粒子の電気泳動性、帯電特性への悪影響を最小限に抑え、顔料の分散性とトナー粒子の分散安定性が改善された液体現像剤が得られる。」

カ 「発明を実施するための最良の形態
[0058] 以下、実施例によって、本発明の液体現像剤をさらに詳細に説明するが、本発明はその趣旨と適用範囲を逸脱しない限りこれらに限定されるものではない。なお、以下の記述中において、特に断りのない限り、「部」および「%」は、それぞれ「質量部」及び「質量%」を意味する。
<顔料>
顔料としては、MA285(三菱化学社製、カーボンブラック)を用いた。
[0059] 合成例1
<分散剤1>
還流冷却管、窒素ガス導入管、攪拌棒、温度計を備えた四つ口フラスコに、イソシアネート基を有するカルボジイミド当量316のポリカルボジイミド化合物のトルエン溶液(固形分50%)132.6部、N-メチルジエタノールアミンを12.8部仕込み、約100℃で3時間保持して、イソシアネート基と水酸基とを反応させた。次いで末端にカルボキシル基を有する数平均分子量1600の12-ヒドロキシステアリン酸自己重縮合物169.3部を仕込み、約80℃で2時間保持して、カルボジイミド基とカルボキシル基とを反応させた後、減圧下でトルエンを留去して数平均分子量約9300、塩基性窒素含有基量0.4188mmol、カルボジイミド当量2400の顔料分散剤1(固形分100%)を得た。
[0060] 合成例2
<分散剤2>
末端にカルボキシル基を有する数平均分子量1600の12-ヒドロキシステアリン酸自己重縮合物を、末端にカルボキシル基を有する数平均分子量2000のポリカプロラクトンの開環物に変更した以外は合成例1と同様の方法により、数平均分子量11492、塩基性窒素含有基の量0.3386mmol/g、カルボジイミド当量2786の顔料分散剤2(固形分100%)を得た。
・・・(省略)・・・
[0062] <樹脂>
表1に示すような組成(モル比)のモノマーをそれぞれ重合反応させる事により、樹脂1?4を得た。
[0063] [表1]

[0064] なお、表1中の記号は、St:スチレン、BzMA:ベンジルメタクリレート、SMA:ステアリルメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、AA:アクリル酸、Mw:重量平均分子量、Av:酸価を表す。
[0065] <液体現像剤の製造>
実施例1
MA285の10部、分散剤として上記分散剤1の1部、上記分散剤2の1部、テトラヒドロフラン(SP値9.1、以下「THF」と称する)88部を混合し、直径5mmのスチールビーズを用いてペイントシェーカーで15分間混練後、直径0.5mmのジルコニアビーズを用いて、アイガーモーターミルM-250(アイガージャパン社製)によりさらに2時間混練した。この混練物の50部に、樹脂1の8部を添加し、さらにTHF42部で希釈した。その希釈物をモレスコホワイトP-40(松村石油化学研究所社製、SP値8.5未満、沸点260℃)86部で希釈しながら攪拌し、混合液を得た。次いで、密閉式攪拌槽よりなるホモジナイザーに溶剤留去装置(減圧装置に接続)を接続した装置を用い、混合液をホモジナイザーで高速攪拌(回転数5,000rpm)しながら減圧装置により混合液温が50℃になるように減圧し、THFを密閉式攪拌槽より完全に留去して実施例1の液体現像剤(固形分濃度14%)を得た。
・・・(省略)・・・
[0071] <評価方法>
以下のような評価方法により各液体現像剤を評価した。それらの結果を表2に示す。
[0072] (粘度)
25℃における粘度をE型粘度計(東機産業社製、50rpm)にて60秒後の粘度として測定した。
[0073] (粒子サイズ)
光学顕微鏡BH-2(オリンパス社製)を用い、目視にて粒子サイズ(着色樹脂粒子の平均粒子径)の測定を行った。
[0074] (帯電性及び電気泳動性)
泳動セルを用いて粒子の観察を行った(条件:電極間距離:80μm、印加電圧:200V)。
○:粒子が凝集することなくスムーズに泳動する
△:粒子が凝集体を形成しながら泳動する
×:粒子が電極間で凝集し動かない
帯電性については、泳動セルに電圧をかけた時に、-電極側に90%以上のトナー粒子が泳動した場合、帯電性を「+」とし、+電極側に90%以上のトナー粒子が泳動した場合、帯電性を「-」とし、それ以外の場合を「±」と評価した。
なお、比較例2に関しては、凝集がひどいため、帯電性の評価はできなかった。
[0075] [表2]



(3)引用発明
前記(2)より、引用文献1にはコアセルべーション法によって製造された液体現像剤であって、具体的には「実施例1」に記載された製造方法によって製造された液体現像剤として、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されている。
「コアセルベーション法を利用して、少なくとも顔料、分散剤及び樹脂からなる着色樹脂粒子を炭化水素系絶縁性媒体中に分散させてなる液体現像剤であって、顔料としてMA285(三菱化学社製、カーボンブラック)を10部、分散剤として以下の分散剤1を1部及び以下の分散剤2を1部並びにテトラヒドロフラン(SP値9.1、以下「THF」という。)88部を混合し、混練することにより混練物を得て、当該混合物50部に、以下の表1に示される組成(モル比)のモノマーをそれぞれ重合反応させる事により得られた樹脂1を8部添加し、さらにTHF42部で希釈し、当該希釈物を炭化水素系絶縁性媒体としてモレスコホワイトP-40(松村石油化学研究所社製、SP値8.5未満、沸点260℃)86部で希釈しながら攪拌し、混合液を得て、次いで、混合液を攪拌しながら減圧し、THFを完全に留去することにより、得られた液体現像剤(固形分濃度14%)。

分散剤1
還流冷却管、窒素ガス導入管、攪拌棒、温度計を備えた四つ口フラスコに、イソシアネート基を有するカルボジイミド当量316のポリカルボジイミド化合物のトルエン溶液(固形分50%)132.6部、N-メチルジエタノールアミンを12.8部仕込み、約100℃で3時間保持して、イソシアネート基と水酸基とを反応させ、次いで末端にカルボキシル基を有する数平均分子量1600の12-ヒドロキシステアリン酸自己重縮合物169.3部を仕込み、約80℃で2時間保持して、カルボジイミド基とカルボキシル基とを反応させた後、減圧下でトルエンを留去することにより得られた数平均分子量約9300、塩基性窒素含有基量0.4188mmol、カルボジイミド当量2400の分散剤1(固形分100%)。

分散剤2
末端にカルボキシル基を有する数平均分子量1600の12-ヒドロキシステアリン酸自己重縮合物を、末端にカルボキシル基を有する数平均分子量2000のポリカプロラクトンの開環物に変更した以外は分散剤1と同様の方法により得られた、数平均分子量11492、塩基性窒素含有基の量0.3386mmol/g、カルボジイミド当量2786の顔料分散剤2(固形分100%)。

表1


なお、表1中の記号は、St:スチレン、BzMA:ベンジルメタクリレート、SMA:ステアリルメタクリレート、MMA:メチルメタクリレート、AA:アクリル酸、Mw:重量平均分子量、Av:酸価を表す。


(4)対比
本件補正後発明と引用発明とを対比する。
ア 絶縁性溶媒
引用発明における「モレスコホワイトP-40」は、「炭化水素系絶縁性媒体」として用いられている(当合議体注:流動パラフィンである。)。そして、「炭化水素系絶縁性媒体」という文言及びその機能からみて、引用発明の「モレスコホワイトP-40」は、「絶縁性」を有する「溶媒」と理解される。
したがって、引用発明における「炭化水素系絶縁性媒体」は、本件補正後発明の「絶縁性溶媒」に相当する。

イ 顔料
引用発明における「MA285(三菱化学社製、カーボンブラック)」は、「着色樹脂粒子」を形成する「顔料」として用いられているものであり、本件補正後発明における「顔料」に相当する。

ウ バインダー樹脂
引用発明における「樹脂1」は、「表1」に示されるようにAv、すなわち酸価が50である。本件補正後発明における「酸基含有樹脂」は、本願明細書段落【0019】の記載から「酸価が0mgKOH/gを超えて250mgKOH/g以下の範囲のもの」であるところ、引用文献1には酸価の単位が具体的に記載されていない。この点について、酸価の単位は1gの試料を中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数としてmgKOH/gで表されることが技術常識であり慣用されている(例えば、特開2013-97294号公報段落【0082】、【0085】及び特開2004-340982号公報段落【0015】参照。)ことから、引用発明における酸価も50mgKOH/gを示していると認められる。そうしてみると、引用発明における「樹脂1」は、「酸価が0mgKOH/gを超えて250mgKOH/g以下の範囲」を満たすものである。
したがって、引用発明における「樹脂1」は、本件補正後発明の「酸基含有樹脂」「を含むバインダー樹脂」に相当する。

エ 塩基性基含有顔料分散剤及び造粒助剤
引用発明における「分散剤1」及び「分散剤2」は、「分散剤」として用いられており、「塩基性窒素含有基量」が「0.4188mmol」あるいは「0.3386mmol/g」となっていることから「塩基性窒素含有基」を有するものである。そして、引用発明の「分散剤1」及び「分散剤2」は、その文言及び機能からみて、「顔料」を「分散」させる「剤」と理解される。
したがって、引用発明の「分散剤1」及び「分散剤2」は、いずれも、本件補正後発明の「塩基性基含有顔料分散剤」に相当する。
また、引用発明における「分散剤1」及び「分散剤2」は、「カルボジイミド当量」が「2400」あるいは「2786」となっていることから「カルボジイミド基を少なくとも1つ有するカルボジイミド化合物」であると認められる。
加えて、本願明細書には「造粒助剤」について「着色樹脂粒子の均一性を向上させるもの」と記載されるところ(本願明細書段落【0016】)、引用発明における「分散剤1」及び「分散剤2」についても、引用文献に記載の実施例1と比較例2との間の粒子サイズや泳動性の比較によれば着色樹脂粒子の均一性が向上されているものと認められる。
以上より、引用発明における「分散剤1」及び「分散剤2」は、いずれも、本件補正後発明の「造粒助剤」に相当する。
そこで、以下では、引用発明における「分散剤1」を本件補正後発明の「塩基性基含有顔料分散剤」に、引用発明における「分散剤2」を本件補正後発明の「造粒助剤」にそれぞれ相当するものとして検討する。

オ 酸基含有樹脂中の活性水素の数とカルボジイミド化合物中のカルボジイミド基の数との比
引用発明における「樹脂1」は表1に記載されるAv(酸価)を有するものであり、上記ウにおいて記載したように、引用発明における酸価はmgKOH/gで表されると認められる。そして、酸価1KOHmg/gの樹脂1g中の活性水素の数は、KOH 1mgのKOHの数に相当すると考えられることから以下の式で表される。

(N_(A)はアボガドロ定数である、以下同じ。)
したがって、酸価Avの樹脂1g中の活性水素の数は

となる。
また、分散剤1g中のカルボジイミド基の数は

で表されるところ、引用文献1には、カルボジイミド当量が「(カルボジイミド系化合物の数平均分子量)/(カルボジイミド系化合物分子中のカルボジイミド基の数)で表される数」と記載されている(引用文献1段落[0048])ことから

となる。
ここで、引用発明における「樹脂1」と「分散剤2」との質量比は、混練物100部に対して分散剤2が1部混合しており、この混練物50部に対して樹脂8部を添加していることから16:1となる。また、樹脂1の酸価は50であり、分散剤2のカルボジイミド当量は2786である。
以上より、引用発明における酸基含有樹脂中の活性水素の数とカルボジイミド化合物中のカルボジイミド基の数との比を計算すると1:0.0252となる。
したがって、引用発明の「分散剤2」は、本件補正後発明の「造粒助剤」における、「カルボジイミド基を少なくとも1つ有するカルボジイミド化合物を、酸基含有樹脂中の活性水素の数:カルボジイミド化合物中のカルボジイミド基の数=1:0.01以上1.00未満となるように」するという要件を満たすものである。

カ 着色樹脂粒子
引用発明における「着色樹脂粒子」は、「コアセルベーション法を利用して」形成されたものであり、また、「少なくとも顔料、分散剤及び樹脂からなる」ものである。ここで、「コアセルべーション法」とは、「樹脂を溶解する溶剤と、樹脂を溶解しない電気絶縁性媒体との混合液から、溶剤を除去することにより、混合液中に溶解状態で含まれていた樹脂を着色剤を内包する様に析出させ、着色樹脂粒子を電気絶縁性媒体中に分散させる方法」(引用文献1段落[0002])であることは技術常識であるから、引用発明における「着色樹脂粒子」は、「炭化水素系絶縁性媒体中」で造粒されたものといえる。
したがって、引用発明における「着色樹脂粒子」は、本件補正後発明における「着色樹脂粒子」に相当し、また、本件補正後発明の「着色樹脂粒子」における、「コアセルベーション法を利用して、絶縁性溶媒中で少なくとも顔料、酸基含有樹脂」「を含むバインダー樹脂、塩基性基含有顔料分散剤及び造粒助剤からなる着色樹脂粒子を造粒させたもの」という要件を満たすものである。

キ 液体現像剤
引用発明における「液体現像剤」は、「着色樹脂粒子を炭化水素系絶縁性媒体中に分散させてなる」ものである。したがって、引用発明における「液体現像剤」は、本件補正後発明における「液体現像剤」に相当し、また、本件補正後発明における「着色樹脂粒子を」「絶縁性溶媒に分散させてなる」という要件を満たすものである。

(5) 一致点及び相違点
ア 一致点
以上のことから、本件補正後発明と引用発明とは、次の構成で一致する。
「着色樹脂粒子がコアセルベーション法を利用して、絶縁性溶媒中で少なくとも顔料、酸基含有樹脂を含むバインダー樹脂、塩基性基含有顔料分散剤及び造粒助剤からなる着色樹脂粒子を造粒させたものであり、ここで前記造粒助剤として、カルボジイミド基を少なくとも1つ有するカルボジイミド化合物を、酸基含有樹脂中の活性水素の数:カルボジイミド化合物中のカルボジイミド基の数=1:0.01以上1.00未満となるようにし、該着色樹脂粒子を、絶縁性溶媒に分散させてなる液体現像剤。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は、以下の点で相違する。
(ア)相違点1
本件補正後発明は、「バインダー樹脂」として「酸基含有樹脂、及び酸基を含有しないポリエステル樹脂を含む」のに対して、引用発明は、「バインダー樹脂」として「酸基含有樹脂を含む」ものとなっているものの、「酸基を含有しないポリエステル樹脂」を含むものではない点。

(イ)相違点2
本件補正後発明は、「該着色樹脂粒子を粒子分散剤により、絶縁性溶媒に分散させてなる」のに対して、引用発明は、この構成を具備しない点。

(6)判断
ア 相違点1について
引用文献1では「本発明で使用する樹脂として、上記酸性基含有樹脂と酸性基非含有樹脂とを併用してもかまわない。」との記載があり(引用文献1段落[0008])、「酸性基非含有樹脂」を含めてもよいことが示唆されている。また、酸価を有しない樹脂としてポリエステル樹脂は本件優先日前に周知であり、それをトナー粒子のバインダー樹脂として酸価を有する樹脂と組み合わせて用いることも本件優先日前において周知の技術である(例えば、特開2004-340982号公報段落【0015】参照。)。そして、引用文献1において樹脂に含めることが示唆された「酸性基非含有樹脂」として、当該周知技術に基づいてポリエステル樹脂を採用し、「バインダー樹脂」として「酸基を含有しないポリエステル樹脂」を「酸基含有樹脂」に加えて含めることは当業者が容易に想到し得たことである。

イ 相違点2について
液体現像剤において、粒子分散剤を含めることにより、トナー粒子を安定的に分散させることは本件優先日前において周知の技術である(例えば、特開2013-97294号公報段落【0052】?【0055】、【0091】及び【0092】参照。)。そして、引用発明において「樹脂着色粒子」を安定的に分散させるために当該周知技術を採用することは当業者が容易に想到し得たことである。

(7)発明の効果について
本件補正後発明の「粒子の均一性、保存安定性、定着性及び電気泳動性を向上させた液体現像剤が得られる。」(本願明細書段落【0012】)という効果について、引用文献1の表2によれば実施例のいずれも電気泳動性の評価について粒子が凝集することなくスムーズに泳動するものとなっており、また、引用発明は粒子の分散安定性が良好なものとなっていることから、本件補正後発明の効果は、引用発明と比べて格別有利な効果を奏するものと認めることはできない。

(8)請求人の主張について
請求人は、審判請求書において「引用文献1の実施例には、酸基を含有しない樹脂を使用していません。確かに0008段落には「酸性基非含有樹脂」を併用する旨は記載されていますが、それをポリエステル樹脂とすることまでは示唆されていません。
また引用文献2にも、酸性基非含有樹脂に関しては記載も示唆もありません。
そうすると、引用文献1及び2に記載の発明を組み合わせてみても、引用文献1に記載の発明において、酸性基非含有樹脂としてポリエステル樹脂を採用することは当業者が容易に想到できるものではありません。
その結果、本発明は引用文献1及び2に記載の発明に対して進歩性を有します。
そして、本発明によれば、泳動性のみではなく耐摩擦性も共に優れるという、引用文献1及び2に記載の発明に対して顕著な効果を発揮できます。 」と主張する。
しかしながら、上記(6)アに記載のように、「酸性基非含有樹脂」としてポリエステル樹脂を用いることは本件優先日前において周知の技術であり、引用発明における「バインダー樹脂」として「酸基を含有しないポリエステル樹脂」を「酸基含有樹脂」に加えて含めることは当業者が容易に想到し得たことである。
また、泳動性が優れるという効果については、上記(7)に記載のとおり、引用発明と比べて格別有利な効果であると認めることはできない。
さらに、耐摩擦性が優れるという効果については、本願明細書では実施例だけでなく比較例も耐摩擦性に優れたものとなっていること及び本願明細書の記載を参酌しても本願補正後発明のどの構成によって耐摩擦性が優れるものとなっているのか明らかでないことから、耐摩擦性について、本件補正後発明が引用発明と比べて格別有利な効果を奏するものとなっていると認めることはできない(なお、本願明細書の実施例におけるポリエステル樹脂は、本願明細書段落【0031】の記載によればAV:5であり、本願明細書段落【0040】等の実施例の記載からも「酸基含有樹脂」として含まれていることから、酸基を含有しない樹脂ではなく「酸基含有樹脂」であると認められる。したがって、仮に本願明細書に記載の実施例及び比較例がポリエステル樹脂を含むことによって耐摩擦性が優れたものになるということが認められることになったとしても、当該ポリエステル樹脂は「酸基を含有しないポリエステル樹脂」ではないことから、耐摩擦性が優れるという効果が本件補正後発明における「酸基を含有しないポリエステル樹脂」により奏する効果であると認めることはできない。)。
したがって、請求人の主張を採用することはできない。

(9)小括
本件補正後発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

3 まとめ
本件補正は、特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので、同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
よって、前記[補正の却下の決定の結論]に記載のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1 本願発明
以上のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成30年11月9日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1?請求項3に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記「第2」[理由]1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、本願発明は、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった国際公開第2007/061072号(引用文献1)に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用文献1の記載及び引用発明
引用文献1の記載及び引用発明は、前記「第2」[理由]2(2)及び(3)に記載したとおりである。

4 対比、判断
本願発明は、前記「第2」[理由]2で検討した本件補正後発明から、「酸基を含有しない」樹脂の特定(「ポリエステル樹脂」とすること)に係る限定事項を削除したものである。
そうしてみると、本願発明の発明特定事項を全て含み、さらに他の事項を付加したものに相当する本件補正後発明が、前記「第2」[理由]2(4)?(9)に記載したとおり、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおりであるから、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2019-12-20 
結審通知日 2020-01-07 
審決日 2020-01-23 
出願番号 特願2015-561004(P2015-561004)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G03G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福田 由紀  
特許庁審判長 樋口 信宏
特許庁審判官 早川 貴之
宮澤 浩
発明の名称 液体現像剤  
代理人 長谷部 善太郎  
代理人 山田 泰之  

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