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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1360335
審判番号 不服2019-3592  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2020-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2019-03-15 
確定日 2020-03-24 
事件の表示 特願2015- 46038「ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール」拒絶査定不服審判事件〔平成28年 9月15日出願公開、特開2016-167502、請求項の数(4)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成27年3月9日の出願であって、平成30年6月21日付けで拒絶理由通知がされ、平成30年8月28日に意見書が提出され、平成30年12月7日付けで拒絶査定(原査定)がされ、これに対し、平成31年3月15日に拒絶査定不服審判の請求がされ、同時に手続補正がされた。

第2 原査定の概要
原査定の概要は次のとおりである。
本願請求項1、2、4及び5に係る発明は、引用文献1ないし3に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
また、本願請求項3に係る発明は、引用文献1ないし5に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開2007-281498号公報
2.特開2011-210822号公報
3.特開2006-294971号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2006-156975号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2002-76214号公報(周知技術を示す文献)

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、補正前の請求項1に対して、補正前の請求項2に記載の発明特定事項を全て繰り入れるものであって、当該発明特定事項は、補正前の請求項1に記載の「連結基板」について限定するものであり、また、請求項1の上記補正に伴い、補正前の請求項2を削除し、さらに、補正前の請求項3ないし5の項番を1つ繰り上げるとともに、当該請求項3ないし5が引用する請求項数を削減するものである。
したがって、請求項1、3ないし5についての補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の限定的減縮を目的とするものであり、請求項2についての補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とするものであるから、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第5項の規定に適合し、また、特許法第17条の2第3項及び第4項の規定にも適合する。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1ないし4に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるから、特許法第17条の2第6項で準用する特許法第126条第7項の規定にも適合する。

第4 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下、「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は、平成31年3月15日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。
「 【請求項1】
第1セラミックス基板の一方の面に間隔をあけて複数の回路層を接合するとともに該第1セラミックス基板の他方の面に一枚の放熱層を接合してなるパワーモジュール用基板と、ヒートシンクとを積層したヒートシンク付パワーモジュール用基板であって、
前記ヒートシンクの一方の面に第2セラミックス基板を有する連結基板を介して前記パワーモジュール用基板が接合され、前記ヒートシンクの他方の面に第3セラミックス基板を有する裏側基板が接合されてなり、
前記連結基板は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる連結側緩衝層と前記第2セラミックス基板とを積層して形成され、前記連結側緩衝層と前記ヒートシンクとが接合されているヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項2】
前記連結基板には、前記第2セラミックス基板に接合され、外部配線が接続可能な配線層が設けられており、前記配線層と前記放熱層とが接合されている請求項1に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項3】
前記裏側基板は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる裏面側緩衝層と前記第3セラミックス基板とを積層して形成され、前記裏面側緩衝層と前記ヒートシンクとが接合されている請求項1又は2に記載のヒートシンク付パワーモジュール用基板。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載の前記ヒートシンク付パワーモジュール用基板と、前記回路層の表面上に搭載された半導体素子とを備えるパワーモジュール。」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与した。

(1)「【0002】
半導体パワー素子に用いられる放熱基板は、回路板、セラミックス板および放熱板の積層体よりなる絶縁回路基板を、Al-SiC複合材よりなるヒートシンク板へAl-Si系のろう材で接合したものが特開平10-65075号公報(特許文献1)等で知られている。これらの放熱基板は、高価なヒートシンク板を使用する必要があった。」

(2)「【0003】
一方、このようなヒートシンク板を使用しないで、回路板、セラミックス板および放熱板の積層体よりなる絶縁回路基板を単体でパワーモジュールを実装する方法が特開平11-330311号公報(特許文献2)に開示されている。なお、これにはセラミックス板として窒化ケイ素が適用されている。」

(3)「【0005】
ヒートシンク板を使用しないで、回路板、セラミックス板および放熱板の積層体よりなる絶縁回路基板単体で、パワーモジュールを実装する方法には、使い勝手や信頼性に関して、次のような問題があった。」

(4)「【0013】
本発明の目的は、上記に鑑み、使い勝手が良く、低熱抵抗で高信頼性の半導体パワー素子用の絶縁回路基板の提供にある。」

(5)「【0015】
前記目的を達成する本発明の要旨は次のとおりである。」

(6)「【0016】
(1) 回路板、第1のセラミックス板、熱拡散板、第2のセラミックス板および放熱板の積層体により形成した絶縁回路基板と、前記絶縁回路基板における回路板に搭載された半導体パワー素子とを有し、前記絶縁回路基板における熱拡散板が前記半導体パワー素子の通電路を兼ねている半導体パワーモジュールにある。」

(7)「【0022】
また、回路板と放熱板の間に、両面にセラミックス板を設けた熱拡散板を少なくとも1層以上介在させることにより、熱抵抗や信頼性を損なうことなく、絶縁回路基板単体のトータル厚さを従来品より厚くすることができる。」

(8)「【0023】
その結果、絶縁回路基板単体のトータル厚さを2mm以上と厚くすることも可能となり、絶縁回路基板の反りを抑制し、かつ、剛性を増加させることができ、ヒートシンク板を使用しないパワーモジュール実装時の使い勝手が向上した。」

(9)「【0031】
図1は本実施例の半導体パワー素子用の絶縁回路基板の一例を示す模式断面図である。絶縁回路基板は回路板1、第1のセラミックス板2、熱拡散板3、第2のセラミックス板4および放熱板5を積層した構造のもので、これらの積層体は活性金属やAl合金系のろう材6を用いて接合されている。」

(10)「【0035】
本絶縁回路基板における熱拡散板3の効果は後述するように、回路板1上に実装した半導体パワー素子の熱を熱拡散板3で横方向に広げることにより絶縁回路基板自体の熱抵抗を低減できる。」

(11)「【図1】



上記(1)によれば、半導体パワー素子に用いられる放熱基板は高価なヒートシンク板を使用する必要があり、また、上記(2)及び(3)によれば、ヒートシンク板を使用しないで、回路板、セラミックス板および放熱板の積層体よりなる絶縁回路基板単体で、パワーモジュールを実装する方法には、使い勝手や信頼性に関して問題があった旨記載されている。
このような問題に対し、上記(4)によれば、本発明は、使い勝手が良く、低熱抵抗で高信頼性の半導体パワー素子用の絶縁回路基板を提供することを目的としている。
そして、上記(5)、(6)及び(9)によれば、上記の目的を達成するために、回路板、第1のセラミックス板、熱拡散板、第2のセラミックス板および放熱板の積層体により絶縁回路基板を形成している。
また、上記(11)によれば、絶縁回路基板には、回路板が間隔をあけて2つ積層されており、当該2つの回路板、第1のセラミックス板、熱拡散板、第2のセラミックス板および放熱板が順に上から積層されることが見てとれる。
さらに、上記(10)によれば、熱拡散板は、回路板上に実装した半導体パワー素子の熱を横方向に広げるものであり、また、半導体パワー素子は回路板上に実装される。
ここで、上記(7)によれば、回路板と放熱板の間に、両面にセラミックス板を設けた熱拡散板を少なくとも1層以上介在させることにより、熱抵抗や信頼性を損なうことなく、絶縁回路基板単体のトータル厚さを従来品より厚くすることができ、(8)によれば、その結果、ヒートシンク板を使用しないパワーモジュール実装時の使い勝手が向上した旨が記載されている。

したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「 間隔をあけた2つの回路板、第1のセラミックス板、熱拡散板、第2のセラミックス板及び放熱板が順に上から積層された積層体よりなる絶縁回路基板であって、
回路板上に半導体パワー素子が実装され、
熱拡散板は半導体パワー素子の熱を横方向に広げ、
ヒートシンク板を使用しないパワーモジュール実装時の使い勝手が向上した絶縁回路基板。」

2.引用文献2について
引用文献2には、【0020】ないし【0026】によれば、ヒートシンク2の上面側に第1金属部材3、セラミックスで構成される第1絶縁部材4、半導体素子6がはんだ付けされる金属基板5が積層され、また、ヒートシンク2の下面側に第2金属部材7及びセラミックスで構成される第2絶縁部材8が積層された冷却装置が記載されている。

3.引用文献3について
引用文献3には、【0053】ないし【0063】によれば、配線層11と絶縁性セラミック製の絶縁基板12と放熱層13とからなる絶縁回路基板10と、ヒートシンク20と、絶縁基板12に対してヒートシンク20を間に挟んで対称に配置される拘束部材30を備えたパワーモジュール用基板1が記載されている。

4.引用文献4について
引用文献4には、【0013】によれば、二つのAL回路基板2、3の間に、絶縁セラミックス層(セラミックス層)5が挟まれて接合された第一接合体(接合体、パワーモジュール用基板)6及び第二接合体(接合体)7と、第二接合体7のAL回路基板2に配線されたSiチップ(大電力半導体素子)8とを備えているパワーモジュール1が記載されている。

5.引用文献5について
引用文献5には、【0033】によれば、第1のセラミックス基板1aと、第2のセラミックス基板1bと、これら第1および第2のセラミックス基板を接合する接合層5とを有する絶縁基板10が記載されている。また、各セラミックス基板は、窒化アルミニウム層2a及び2bと、窒化アルミニウム層の第1の表面に位置する銅製導電層3a及び3bと、第1の表面と反対側の第2の面に位置する銅製導電層4a及び4bとを有することが記載されている。

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「回路板」はその「上に半導体パワー素子が実装され」るものであるから、引用発明において、「第1のセラミックス板」の上に「2つの回路板」が積層されたものは、「パワーモジュール用基板」ということができ、上記「2つの回路板」及び「第1のセラミックス板」は、本願発明1の「複数の回路層」及び「第1セラミックス基板」にそれぞれ相当する。
したがって、本願発明1と引用発明は、「パワーモジュール用基板」を備えたものである点、及び、当該パワーモジュール用基板が「第1セラミックス基板の一方の面に間隔をあけて複数の回路層を接合」してなるものである点で共通する。
ただし、本願発明1のパワーモジュール基板が、「該第1セラミックス基板の他方の面に一枚の放熱層を接合してなる」ものであるのに対して、引用発明においては、そのように構成されていない点で相違する。すなわち、引用発明は、引用文献1の【0040】及び図3に記載の従来の絶縁回路基板の構造と対比すれば明らかなように、本願発明1の「放熱層」に相当する「放熱板5」が、セラミックス板の回路板が設けられた面とは反対側の面(すなわち、他方の面)に接合されておらず、代わりに、熱拡散板3が接合され、さらに、第2のセラミックス板4及び放熱板5が順に接合されている(上記第5の1.(11)参照)。
また、本願発明1は「パワーモジュール用基板と、ヒートシンクとを積層したヒートシンク付パワーモジュール用基板」であるのに対し、引用発明の「絶縁回路基板」は「ヒートシンク板を使用しない」点で相違する。
そして、本願発明1は「前記ヒートシンクの一方の面に第2セラミックス基板を有する連結基板を介して前記パワーモジュール用基板が接合され、前記ヒートシンクの他方の面に第3セラミックス基板を有する裏側基板が接合されてなり、前記連結基板は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる連結側緩衝層と前記第2セラミックス基板とを積層して形成され、前記連結側緩衝層と前記ヒートシンクとが接合されている」のに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点で相違する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
(一致点)
「 第1セラミックス基板の一方の面に間隔をあけて複数の回路層を接合してなるパワーモジュール用基板を備えたもの。」

(相違点)
(相違点1)本願発明1の「パワーモジュール用基板」は、「第1セラミックス基板の他方の面に一枚の放熱層を接合してなる」のに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。
(相違点2)本願発明1は「パワーモジュール用基板と、ヒートシンクとを積層したヒートシンク付パワーモジュール用基板」であり、「前記ヒートシンクの一方の面に第2セラミックス基板を有する連結基板を介して前記パワーモジュール用基板が接合され、前記ヒートシンクの他方の面に第3セラミックス基板を有する裏側基板が接合されてなり、前記連結基板は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる連結側緩衝層と前記第2セラミックス基板とを積層して形成され、前記連結側緩衝層と前記ヒートシンクとが接合されている」のに対し、引用発明はそのような構成を備えていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑み、まず、上記相違点2について検討する。
引用発明は、高価なヒートシンク板を使用しないようにした発明であるから、引用発明にヒートシンク板を積層することには動機付けがない。
また、相違点2に係る本願発明1の、「パワーモジュール用基板と、ヒートシンクとを積層したヒートシンク付パワーモジュール用基板」であり、「前記ヒートシンクの一方の面に第2セラミックス基板を有する連結基板を介して前記パワーモジュール用基板が接合され、前記ヒートシンクの他方の面に第3セラミックス基板を有する裏側基板が接合されてなり、前記連結基板は、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる連結側緩衝層と前記第2セラミックス基板とを積層して形成され、前記連結側緩衝層と前記ヒートシンクとが接合されている」事項は、引用文献2及び引用文献3に記載されていない。また、引用文献4及び引用文献5にも記載されておらず、周知技術であるとも認められない。
したがって、上記相違点1について判断するまでもなく、本願発明1は、当業者であっても、引用発明と、引用文献2ないし引用文献5に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4は、本願発明1の発明特定事項を全て含むから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
本願発明1ないし4は、上記「第6 対比・判断」で説示したように、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1に記載された発明、及び引用文献2ないし引用文献5に記載された技術事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。
したがって、原査定の理由1を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。

 
審決日 2020-03-10 
出願番号 特願2015-46038(P2015-46038)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 豊島 洋介  
特許庁審判長 國分 直樹
特許庁審判官 山澤 宏
石川 亮
発明の名称 ヒートシンク付パワーモジュール用基板及びパワーモジュール  
代理人 青山 正和  

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