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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1360438
異議申立番号 異議2018-700948  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-11-26 
確定日 2020-01-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6334800号発明「電気化学セル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6334800号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。 特許第6334800号の請求項1?3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6334800号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成29年 7月27日(優先権主張平成28年 7月27日)を出願日とする特願2017-145547号の一部を平成29年10月24日に新たな特許出願としたものであって、平成30年 5月11日にその特許権の設定登録がなされ、同年 5月30日にその特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許について、平成30年11月27日受付(同年11月26日差出)で、特許異議申立人亀崎伸宏(以下、「申立人」という。)により、請求項1?3に係る本件特許に対して特許異議の申立てがなされ、平成31年 2月22日付けで取消理由が通知され、これに対して、同年 4月10日に意見書が提出され、令和 1年 5月10日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、これに対して、同年 7月12日付けで意見書が提出され、同年 8月 1日付けで取消理由(2回目の決定の予告)が通知され、これに対して、同年10月 4日付けで意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)に対して同年12月11日付けで申立人から意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正は、特許第6334800号の特許請求の範囲を令和 1年10月 4日付けの訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?3について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである。

(2)訂正の内容
ア 訂正事項1
請求項1に「である、電気化学セル」と記載されているのを、「であり、定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である、電気化学セル」と訂正する。
(請求項1を引用する請求項2、3も同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、及び一群の請求項について
(1)訂正事項1
ア 訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1に記載されていた「電気化学セル」について、「定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である」点で、性能に関する限定を新たに付加するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項1は、本件特許明細書の段落【0072】【表1】における、本願発明の実施例に該当する、サンプルNo.1?8,10?14,16?19において、劣化率が1.5%以下であるとの記載に基づいているので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 上記アのとおり、訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2)一群の請求項について
本件訂正によって、本件訂正前の請求項1を引用する請求項2?3が連動して訂正されるから、本件訂正前の請求項1?3は一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、上記一群の請求項についてされたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
そして、本件訂正は、請求項間の引用関係の解消を目的とするものではなく、特定の請求項に係る訂正事項について別の訂正単位とする求めもないから、本件訂正請求は、訂正後の請求項〔1?3〕を訂正単位として訂正の請求をするものである。

(3)独立して特許を受けることができるかについて
申立人による特許異議は、本件訂正前の請求項1?3の全てに対して申し立てられているので、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されず、特許出願の際独立して特許を受けることができるものでなければならないとの要件は課されない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び同条第9項において準用する同法第126条第5項、第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は適法になされたものであるから、請求項1?3に係る発明(以下、「本件発明1?3」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相とを含有し、
前記空気極に含まれる(Co,Fe)_(3)O_(4)は、CoとFeを含有し、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.5%以下であり、
定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である、
電気化学セル。
【請求項2】
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.20%以上である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記空気極の断面において、前記第二相の平均円相当径は、0.05μm以上2.0μm以下である、
請求項1又は2に記載の電気化学セル。」

第4 特許異議申立ての概要
申立人は、証拠方法として、下記甲第1?7号証を提出して、以下の申立理由1?4により、請求項1?3に係る本件特許を取り消すべきものである旨主張している。なお、各申立理由について、当審において取消理由として採用したか否かを「( )」に示している。
(1)申立理由1(不採用)
本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(2)申立理由2(不採用)
本件発明1?3は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(3)申立理由3(不採用)
本件発明1?3は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は取り消されるべきものである。
(4)申立理由4(採用)
本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

<証拠方法>
甲第1号証:F.Wang 外8名、“Influence of Water Vapor on Sulfur Distribution within La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3 )Cathode”、ECSTransactions、50(27)、2013年、143?150頁
甲第2号証:Fangfang Wang 外7名、“Sulfur Poisoning on La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3 )Cathode for SOFCs”、Journal of The Electrochemical Society、158(11)、2011年、B1391?B1397頁_( )
甲第3号証:特開2015-38856号公報
甲第4号証:特開2014-207146号公報
甲第5号証:特開2014-116072号公報
甲第6号証:特開2017-17009号公報
甲第7号証:特開2017-17011号公報

なお、甲第1号証?甲第7号証をそれぞれ甲1?甲7ということがある。

第5 取消理由の概要
平成31年 2月22日付けで通知した取消理由、令和 1年 5月10日付けで通知した取消理由、及び令和 1年 8月 1日付けで通知した取消理由において、上記申立理由4に基づいて次の取消理由が通知された。
(サポート要件)本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、同発明に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第6 当審の判断
1 甲号証の記載事項
(1)甲第1号証
(1-1)甲第1号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に外国において頒布された甲第1号証には、「Influence of Water Vapor on Sulfur Distribution within La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3) Cathode」(論文の標題。訳:La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)空気極中への硫黄供給に対する、水蒸気の影響)に関して、以下の事項が記載されている(なお、下線は当審で付与したものであり、「・・・」によって記載の省略を表す。翻訳は当審が行った。以下同様。)。

1ア 「


(143頁「Introduction」欄の1?6行目)(当審訳:水蒸気は通常、環境空気中に存在している。たとえば、相対湿度が約50%であるとき、水蒸気の分圧は、293K(20℃)において約1.2kPa(1.2%水蒸気の場合)となるところ、固体酸化物型燃料電池(SOFC)リアルスタックの運転条件において、水蒸気圧はこのような大きさとなっていることが、通常期待される。La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)(LSCF6428)のような空気極材料のいくつかの特性が水蒸気によって影響を受ける。)

1イ 「


(143頁下から3行目?144頁3行目の枠内)(当審訳:我々のこれまでの研究では、LSCF6428空気極材料の硫黄被毒挙動が、乾燥空気下において盛んに調査されている[7-10]。これらの研究結果に基づいて、LSCF6428の硫黄被毒について以下のような理解が得られた。
(1)SO_(2)はSr成分と反応してSrSO_(4)を生成し、同時にCoFe_(2)O_(4)を析出させる。この反応は、SO_(2)との反応によるLSCF6428の分解であるために、空気極の性能劣化を引き起こす。)

1ウ 「


(144頁11?14行目の枠内)(当審訳:1.2%の水蒸気が存在することは、SOFCリアルスタックの標準的な運転環境として典型的であるから、本研究では、1ppmSO_(2)下でのLSCF6428空気極の硫黄被毒挙動に対する、1.2 %の水蒸気の影響を調べた。)

1エ 「


(144頁「Experimental Procedure」欄の全行)(当審訳:Ge_(0.9)Gd_(0.1)O_(1.95)(10GDC)(阿南化成(株)、日本)粉末は円板形状とされ、390MPaでCIPされた。この円板は1673Kで5時間焼結された。研磨されたGDC10電解質(直径17.5mm、厚さ1mm)の表面に、LSCF6428(AGCセイミケミカル(株)、日本)空気極(直径10mm、厚さ30μm)が、スクリーン印刷法で塗布され、1473Kで2時間焼成された。Pt対向電極は、GDC10電解質の反対側の表面に焼成された。Pt参照電極が電解質ペレットの縁部の周囲に付着された。金のメッシュが集電体として使用された。セルのテストはT=1073Kで実施された。1ppmのSO_(2)を含有する乾燥空気、又は、1ppmのSO_(2)を含有する加湿空気が、空気極に50cm^(3)/minの流量レートで供給された。作用電極には、乾燥空気か加湿空気(P_(O2)=0.2kPa)が供給された。乾燥空気の水の分圧は0.022kPa(露点は-35℃)であることが湿度計(SeriesILD10、東陽(株)、日本)によって測定された。上記セルテストは、空気参照電極に対する空気極を-0.2Vの固定電圧にして、ポテンショ-スタティックモードにおいて実施された。セルテストの前後において、空気極は、X線粉末回折装置(XRD、UltimaIV、リガク(株)、日本)、走査型電子顕微鏡(FE-SEM、JSM-7001、JEOL、日本)、エネルギー分散型X線分析(EDX、INCA、Oxford、英国)を用いて調査された。)

1オ 「


(146頁)(当審訳:図4 (a)1ppmのSO_(2)を含有する乾燥空気と、(b)1ppmのSO_(2)を含有する1.2%加湿空気とにおける、SEMとEDXの観察結果。)

1カ 「


(147頁3?6行の枠内)(当審訳:LSCF6428/GDC10界面付近の元素分布は、図4((a)1ppmのSO_(2)を含有する乾燥空気と、(b)1ppmのSO_(2)を含有する1.2%加湿空気)に示すように、詳細に調べられた。図4a及び図4bに示すように、SrSO_(4)の生成が確認され、CoFe_(2)O_(4)は微細な析出物として検出された。)(当審注:「10GDC」は「GDC10」の誤記と認められる。)

1キ 「


(147頁9?10行目の枠内)(当審訳:大量のSrSO_(4)が生成し、初期段階でLSCF6428空気極に存在した細孔のほとんどにSrSO_(4)が充填された。)

(1-2)甲第1号証に記載された発明
ア 上記1アによれば、甲1では、固体酸化物型燃料電池(SOFC)用の空気極材料であるLa_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)(LSCF6428)に対する、運転時の水蒸気の影響が調査されている。

イ 上記1イによれば、空気極材料であるLSCF6428は硫黄被毒することが従来知られている。具体的には、乾燥空気中に含有されるSO_(2)がLSCF6428中のSr成分と反応して、SrSO_(4)を生成するとともに、CoFe_(2)O_(4)を析出させるが、この反応はLSCF6428を分解するので、空気極が性能劣化することが知られている。

ウ 上記1ウ、1エによれば、甲1において、硫黄被毒挙動における、空気中に1.2%含有される水蒸気の影響が調べられており、その実験用のセルは、研磨されたGDC10電解質の一方の表面に、LSCF6428空気極が形成され、他方の表面にPt対向電極が形成されたものである。

エ 上記1オ、1カによれば、上記ウの実験用セルにおいて、実験の後に、LSCF6428/GDC10界面付近を元素分布すると、SrSO_(4)の生成が確認され、CoFe_(2)O_(4)は微細な析出物として検出された。

オ 上記ア?エより、実験後の実験用セルに注目すると、甲1には、次の実験用セルが記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。

「研磨されたGDC10電解質の一方の表面に、LSCF6428空気極が形成され、他方の表面にPt対向電極が形成されており、
上記LSCF6428空気極とGDC10電解質の界面付近に、SrSO_(4)と、微細な析出物であるCoFe_(2)O_(4)が検出される、実験用セル」

(2)甲第2号証
(2-1)甲第2号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に外国において頒布された甲第2号証には、「Sulfur Poisoning on La_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3) Cathode for SOFCs」(論文の標題。当審訳:固体酸化物型燃料電池用のLa_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)空気極への硫黄被毒)に関して、以下の事項が記載されている。
2ア 「


(B1391頁1?2行目の枠内)(当審訳:固体酸化物型燃料電池用のLa_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)(LSCF6428)空気極の分解に対する、空気中に含まれるSO_(2)の影響が調べられた。)

2イ 「


(B1391頁「Experimental Procedure」欄の全行)(当審訳:Ge_(0.9)Gd_(0.1)O_(1.95)(10GDC)(阿南化成(株)、日本)粉末は円板形状とされ、390MPaでCIPされた。この円板は1673Kで5時間焼結された。研磨されたGDC10電解質(直径17.5mm、厚さ1mm)の表面に、LSCF6428(AGCセイミケミカル(株)、日本)空気極(直径10mm、厚さ30μm)が、スクリーン印刷法で塗布され、1473Kで2時間焼成された。Pt対向電極は、GDC10電解質の反対側の表面に焼成された。Pt参照電極が電解質ペレットの縁部の周囲に付着された。白金のメッシュが集電体として上記Pt電極に接触された。セルのテストはT=1073Kで実施された。セルのテスト中、乾燥空気、又は、SO_(2)を含有する乾燥空気が、空気極に50cm^(3)/minの流量レートで供給され、乾燥空気が上記対向電極に供給された。上記セルテストは、空気参照電極に対する空気極を-0.2Vの固定電圧にして、ポテンショ-スタティックモードにおいて実施された。セルテストの前後において、空気極は、X線粉末回折装置(XRD、UltimaIV、リガク(株)、日本)、走査型電子顕微鏡(FE-SEM、JSM-7001、JEOL、日本)、エネルギー分散型X線分析(EDX、INCA、Oxford、英国)を用いて調査された。)

2ウ 「


(B1392頁 右欄2?5行の枠内)(当審訳:我々は、また、EDXによって、0.1ppm、1ppm、100ppmのSO_(2)に曝されたLSCF6428空気極の断面における元素分布を分析した。その結果を図6?図8に示す。図6に示すように、細孔の縁部では部分的にSrとSの濃度が高くなっており、結晶粒界におけるSrSO_(4)の形成を示している。)

2エ 「


(B1392頁右欄下から1行目?1393頁左欄6行目)(当審訳:ペロブスカイト格子中のSr成分の枯渇のために、LSCF6428空気極の内部に、CoFe_(2)O_(4)のようなCo-Fe化合物が現れた。セルが100ppmのSO_(2)中でテストされたとき、図8に示すように、ほぼ全面が硫酸塩層で覆われており、また粒子内部にはSrSO_(4)(Aで示す)、Co-Fe相(Bで示す)、および、La_(2)O_(2)SO_(4)のような他の種類の硫酸塩(Cで示す)が、XRDの結果によって検出された。)

2オ 「


(B1393頁)(当審訳:図8 100ppmSO_(2)によるセルテスト後の、LSCF6428空気極の断面におけるEDX元素マッピング)

(2-2)甲第2号証に記載された発明
ア 論文の標題と上記2アによれば、甲2では、固体酸化物型燃料電池(SOFC)用のLa_(0.6)Sr_(0.4)Co_(0.2)Fe_(0.8)O_(3)(LSCF6428)空気極に対する空気中に含まれるSO_(2)の影響が調査されている。

イ 上記2イによれば、甲2では、LSCF6428空気極に対する、SO_(2)を含有する乾燥空気の影響が調べられており、その実験用のセルは、研磨されたGDC10電解質の一方の表面に、LSCF6428空気極が形成され、他方の表面にPt対向電極が形成されたものである。

ウ 上記2ウ、2エ、2オによれば、上記イの実験用セルにおいて、100ppmのSO_(2)中で実験された後に、LSCF6428空気極の内部には、SrSO_(4)と、CoFe_(2)O_(4)のようなCo-Fe相が検出された。

エ 上記ア?ウより、100ppmのSO_(2)中での実験後のセルに注目すると、甲2には、次の実験用セルが記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。)。

「研磨されたGDC10電解質の一方の表面に、LSCF6428空気極が形成され、他方の表面にPt対向電極が形成されており、
上記LSCF6428空気極の内部に、SrSO_(4)と、微細な析出物であるCoFe_(2)O_(4)が検出される、実験用セル」

(3)甲第3号証
(3-1)甲第3号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に国内において頒布された甲第3号証には、「燃料電池セル及び空気極材料」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
3ア 「【請求項1】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムを主成分とする第二相と、を含む空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.2%以下である、
燃料電池セル。」

3イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池セル及び空気極材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっている。燃料電池は、燃料電池セル及びインターコネクタ等を備える。燃料電池セルは、一般的に、燃料極と、空気極と、燃料極および空気極の間に配置される固体電解質層とを有する。空気極は、例えばLSCF((La,Sr)(Co,Fe)O_(3))、LSF((La,Sr)FeO_(3))、LSC((La,Sr)CoO_(3))などのペロブスカイト型酸化物によって構成される(例えば、特許文献1参照)。」

3ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記材料によって構成される空気極を備える燃料電池では、初期出力が低下しやすいという問題がある。本発明者らは、初期出力の低下の原因の1つが空気極内部に発生する不活性領域によるものであり、この不活性領域は空気極内部に導入される硫酸ストロンチウムの割合に関係することを新たに見出した。
【0005】
本発明は、このような新たな知見に基づくものであって、初期出力を向上可能な燃料電池セル及び空気極材料を提供することを目的とする。」

3エ 「【0010】
以下の実施形態では、燃料電池セルとして縦縞形の固体酸化物型燃料電池セル(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)を例に挙げて説明する。
【0011】
(燃料電池セル10の構成)
燃料電池セル(以下、「セル」と略称する。)10の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、セル10の構成を示す断面図である。
・・・
【0013】
セル10は、燃料極11、固体電解質層12、バリア層13および空気極14を備える。」

3オ 「【0017】
固体電解質層12は、燃料極11とバリア層13の間に配置される。固体電解質層12は、緻密質の板状焼成体である。固体電解質層12は、空気極14で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。固体電解質層12は、ジルコニウム(Zr)を含む。固体電解質層12は、Zrをジルコニア(ZrO_(2))として含んでもよい。固体電解質層12は、ZrO_(2)を主成分として含んでいてもよい。」

3カ 「【0020】
空気極14は、バリア層13上に配置される。空気極14は、セル10のカソードとして機能する。空気極14の厚みは、10μm?100μmとすることができる。
【0021】
空気極14は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相を含む。このようなペロブスカイト型酸化物には、ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物と、ランタンを含有しないペロブスカイト型複合酸化物とがある。ランタンを含有するペロブスカイト型複合酸化物としては、例えば、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト:(La,Sr)(Co,Fe)O_(3))、LSF(ランタンストロンチウムフェライト:(La,Sr)FeO_(3))、及びLSC(ランタンストロンチウムコバルタイト:(La,Sr)CoO_(3))などが挙げられる。ランタンを含有しないペロブスカイト型複合酸化物としては、例えば、SSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト:(Sm,Sr)CoO_(3))などが挙げられる。なお、本実施形態において、「AがBを主成分として含む」とは、Aの70%以上がBによって構成されていることをいうものとする。主相の密度は、5.5g/cm^(3)?8.5g/cm^(3)とすることができる。
【0022】
空気極14は、硫酸ストロンチウム(SrSO_(4))を主成分とする第二相を含む。硫酸ストロンチウム(SrSO_(4))には、主相の構成元素(例えば、LaやCoなど)が固溶していてもよい。また、第二相には、SrSO_(4)以外の不純物が含まれていてもよい。第二相の密度は、3.2g/cm^(3)?5.2g/cm^(3)とすることができる。第二相の密度は、主相の密度よりも小さくてもよい。
【0023】
空気極14の断面における第二相の面積占有率は、10.2%以下であることが好ましい。これによって、空気極14内部に発生する不活性領域が減少されるため、初期出力が低下することを抑制できる。また、通電時に第二相が主相と反応することで空気極14の劣化が進行することを抑制できる。
【0024】
なお、本実施形態において、「空気極14の断面におけるXの面積占有率」とは、空気極14の内部に含まれる気孔を除いた領域(すなわち、空気極14の固相)の全面積に対するXの総面積の割合をいうものとする。
【0025】
空気極14の断面における第二相の面積占有率は、0.20%以上であることが好ましく、0.35%以上であることがさらに好ましい。これによって、SrSO_(4)を主成分とする第二相が焼結助剤として働き、多孔質構造である空気極14の骨格を強化することができる。その結果、通電時における空気極14におけるクラック発生が抑制され、空気極14の耐久性を向上させることができる。
【0026】
空気極14の断面における第二相の構成粒子の平均円相当径は、0.05μm以上2μm以下であることが好ましい。このような範囲に制御することによって、空気極14の耐久性をより向上させることができる。なお、平均円相当径とは、第二相を構成する粒子と同じ面積を有する円の直径の算術平均値である。」

(3-2)甲第3号証に記載された発明
ア 上記3イ、3ウによれば、LSCFなどのペロブスカイト型酸化物によって構成される空気極を備える燃料電池では、初期出力が低下しやすいという問題があるが、その原因の一つが、空気極内部に発生する不活性領域によるものであり、この不活性領域は空気極内部に導入される硫酸ストロンチウムの割合に関係するとの知見が見いだされた。そこで、甲3において解決しようとする課題は、上記知見に基づいて、初期出力を向上可能な燃料電池セル及び空気極材料を提供することである(以下単に「課題」という。)。

イ 上記3エ、3オによれば、上記課題を解決し得る燃料電池セルは、燃料極11、固体電解質層12、バリア層13および空気極14を備え、固体電解質層12は、燃料極11とバリア層13の間に配置され、空気極14は、バリア層13上に配置されるものである。つまり、燃料電池セルは、燃料極11と、固体電解質層12と、バリア層13と、空気極14がこの順で積層されたものである。

ウ 上記3カによれば、上記空気極14は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相を含み、硫酸ストロンチウム(SrSO_(4))を主成分とする第二相を含むものである。そして、空気極14の断面における第二相の面積占有率は、空気極14内部に発生する不活性領域が減少されるため、10.2%以下であることが好ましい。また、空気極14の断面における第二相の面積占有率は、SrSO_(4)を主成分とする第二相が焼結助剤として働き、多孔質構造である空気極14の骨格を強化することができ、その結果、通電時における空気極14におけるクラック発生が抑制され、空気極14の耐久性を向上させることができるので、0.20%以上であることが好ましい。

エ 上記ア?ウより、実施形態の甲3には、次の燃料電池セルが記載されていると認められる(以下、「甲3発明」という。)。

「燃料極11と、固体電解質層12と、バリア層13と、空気極14がこの順で積層されており、
上記空気極14は、一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相と、硫酸ストロンチウムを主成分とする第二相とを含み、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.20%以上であり、10.2%以下である、
燃料電池セル。」

(4)甲第4号証
(4-1)甲第4号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に国内において頒布された甲第4号証には、「燃料電池セル」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
4ア 「【請求項1】
燃料極と、
ペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第2相と、を含有する空気極と、
前記燃料極および前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における前記第2相の面積占有率は、9.5%以下である、
燃料電池セル。」

4イ 「【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題及びエネルギー資源の有効利用の観点から、燃料電池に注目が集まっている。燃料電池は、燃料電池セル及びインターコネクタ等を備える。燃料電池セルは、一般的に、燃料極と、空気極と、燃料極および空気極の間に配置される固体電解質層と、を有している。
【0003】
ここで、空気極の原料粉体として、例えばLSCFなどのペロブスカイト型酸化物を用いることが広く知られている(例えば、特許文献1参照)。」

4ウ 「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃料電池を用いた発電を繰り返すうちに、得られる出力が低下することがある。本発明者らは、出力の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであり、この空気極の劣化は内部に導入される(Co,Fe)_(3)O_(4)の割合に関係することを新たに見出した。
【0006】
本発明は、このような新たな知見に基づくものであって、耐久性を向上可能な燃料電池セルを提供することを目的とする。」

4エ 「【0011】
以下の実施形態では、燃料電池セルの一例として固体酸化物型燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)を挙げて説明する。以下においては、いわゆる縦縞型燃料電池について説明するが、本発明はこれに限られず、いわゆる横縞型燃料電池にも適用可能である。
【0012】
《燃料電池セル10の構成》
燃料電池セル(以下、「セル」と略称する。)10の構成について、図面を参照しながら説明する。図1は、セル10の構成を示す断面図である。
【0013】
セル10は、セラミックス材料によって構成される薄板体である。セル10の厚みは、例えば300μm?3mmであり、セル10の直径は、例えば5mm?50mmである。複数のセル10がインターコネクタによって直列に接続されることによって、燃料電池が形成されうる。
【0014】
セル10は、燃料極11、固体電解質層12、バリア層13および空気極14を備える。」

4オ 「【0018】
固体電解質層12は、燃料極11とバリア層13との間に配置される。固体電解質層12は、空気極14で生成される酸素イオンを透過させる機能を有する。固体電解質層12は、ジルコニウム(Zr)を含む。固体電解質層12は、Zrをジルコニア(ZrO_(2))として含んでもよい。固体電解質層12は、ZrO_(2)を主成分として含んでいてもよい。また、固体電解質層12は、ZrO_(2)の他に、Y_(2)O_(3)及び/又はSc_(2)O_(3)等の添加剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、安定化剤として機能する。固体電解質層12において、安定化剤のZrO_(2)に対するmol組成比(安定化剤:ZrO_(2))は、3:97?20:80程度であればよい。すなわち、固体電解質層12の材料としては、例えば、3YSZ、8YSZ及び10YSZなどのイットリア安定化ジルコニアやScSZなどのジルコニア系材料を挙げることができる。固体電解質層12の厚みは、3μm?30μmとすることができる。」

4カ 「【0020】
空気極14は、バリア層13上に配置される。空気極14は、セル10のカソードとして機能する。空気極14の厚みは、10μm?100μmとすることができる。
【0021】
空気極14は、ペロブスカイト型酸化物を主相として含有する。ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物やランタンを含有しないSSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト:(Sm,Sr)CoO_(3))などが好適に用いられるが、これに限られるものではない。ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物としては、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト:(La,Sr)CoO_(3))、LSF(ランタンストロンチウムフェライト:(La,Sr)FeO_(3))、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト:(La,Sr)CoO_(3))及びLNF(ランタンニッケルフェライト:La(Ni,Fe)O_(3))などが挙げられる。ただし、空気極14は、Co(コバルト)を含有していなくてもよい。ペロブスカイト型酸化物によって構成される主相の密度は、5.5g/mm^(2)?8.5g/mm^(2)とすることができる。
【0022】
空気極14の断面における主相の面積占有率は、87.5%以上99.75%以下とすることができる。面積占有率の算出方法については後述する。
【0023】
また、空気極14は、スピネル型結晶構造を有する(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第2相を含有する。(Co,Fe)_(3)O_(4)には、Co_(2)FeO_(4)、Co_(1.5)Fe_(1.5)O_(4)及びCoFe_(2)O_(4)などが含まれる。第2相の密度は、5.2g/mm^(2)?6.2g/mm^(2)とすることができる。第2相の密度は、主相の密度よりも小さくてもよい。
【0024】
空気極14の断面における第2相の面積占有率は、9.5%以下であることが好ましい。これによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、初期出力の低下を抑制できるとともに、第2相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化の進行を抑制できる。その結果、空気極14の耐久性をより向上させることができる。
【0025】
また、第2相の面積占有率は、0.25%以上であることがより好ましい。これによって、第2相が適度に導入されて空気極14の焼結性が改善されるため、多孔質構造の骨格を強化することができる。その結果、通電時における空気極14の微構造変化が抑制され、空気極14の耐久性をより向上させることができる。
【0026】
また、第2相を構成する粒子の円相当平均径は、0.05μm以上かつ0.5μm以下であることが好ましい。このような範囲に第2相の円相当平均径を制御することによって、空気極14の劣化率をより低減させることができる。なお、円相当平均径とは、第2相を構成する粒子と同じ面積を有する円の直径の算術平均である。」

(5)甲第5号証
(5-1)甲第5号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先日前に国内において頒布された甲第5号証には、「燃料電池セル」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
5ア「【請求項1】
燃料極と、
コバルトを含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、四酸化三コバルトによって構成される第2相と、を含有する空気極と、
前記燃料極および前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における前記第2相の面積占有率は、9.8%以下である、
燃料電池セル。」

5イ「【0005】
しかしながら、燃料電池を用いた発電を繰り返すうちに、得られる出力が低下することがある。本発明者らは、出力の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであり、この空気極の劣化が内部に導入される四酸化三コバルトの割合に関係することを新たに見出した。」

5ウ「【0020】
空気極14は、バリア層13上に配置される。空気極14は、セル10のカソードとして機能する。空気極14の厚みは、10μm?100μmとすることができる。空気極14は、Co(コバルト)を含むペロブスカイト型酸化物を主相として含有する。Coを含むペロブスカイト型酸化物としては、例えば、ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物が好適に用いられるが、これに限られるものではない。ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物としては、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)やLSC(ランタンコバルタイト)などが挙げられる。
【0021】
また、空気極14は、Co_(3)O_(4)(四酸化三コバルト)によって構成される第2相を含有する。空気極14の断面における第2相の面積占有率は、後述の通り、9.8%以下であることが好ましく、0.32%以上であることがより好ましい。・・・」

5エ「【0027】
図4に示す1視野の断面において、第2相の面積占有率は、9.8%以下であることが好ましく、0.32%以上であることがより好ましい。第2相の面積占有率を9.8%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、初期出力の低下を抑制できるとともに、第2相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できる。また、第2相の面積占有率を0.32%以上とすることによって、すなわち第2相を適量導入することによって、空気極14の焼成時に焼結性を改善し、多孔質構造の骨格を強化することができる。これにより、通電時の微構造変化を抑制できるので、空気極の耐久性を向上させることができる。」

5オ「【実施例】
【0045】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0046】
[サンプルNo.1?No.25の作製]
以下のようにして、燃料極集電層を支持基板とする燃料極支持型セルのサンプルNo.1?No.25を作製した。
・・・
【0050】
ここで、サンプルNo.1?No.14及びサンプルNo.19?No.25では、LSCF空気極の成形工程において添加するCo_(3)O_(4)粉末の添加量を調整することによって、表1及び表2に示す通り、Co_(3)O_(4)によって構成される第2相の面積占有率が異なるように制御した。」

5カ「【0057】
[耐久性試験]
サンプルNo.1?No.18について、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。この後、サンプルNo.1?No.18について、1000時間当たりの電圧降下率を劣化率として測定した。出力密度として、温度が750℃で定格電流密度0.2A/cm^(2)での値を使用した。
【0058】
測定結果を表1にまとめて記載する。表1では、劣化率が1.5%以下を低劣化状態と評価されている。表1から明らかなように、Co_(3)O_(4)によって構成される第2相の面積占有率が9.8%以下のサンプルNo.1?11において、空気極の劣化率を低減させることができた。これは、第2相の面積占有率を9.8%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減され、その結果、第2相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できたためである。
【0059】
さらに、空気極の断面を観察したところ、Co_(3)O_(4)によって構成される第2相の面積占有率が0.32%以上のサンプルNo.4?11において、空気極の内部におけるクラックの発生を抑制できた。これは、第2相を適量導入することによって、空気極の焼結性が改善され、多孔質構造の骨格を強化することができたためである。
【0060】
以上より、Co_(3)O_(4)によって構成される第2相の面積占有率を適切な範囲に制御することによって、空気極の耐久性を向上できることが確認された。
【0061】
一方で、CoOによって構成される第3相を含有するサンプルNo.17及び18では、空気極の内部に微少クラックが発生した。従って、CoOによって構成される第3相の面積占有率は、0.10%未満がより好ましいことが確認された。
【0062】


(5-2)甲第5号証の記載事項の検討
ア 上記5ア?5エの記載によれば、コバルトを含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と共に、空気極に含有される第2相を構成する四酸化三コバルト(Co_(3)O_(4))は、第2相の面積占有率を9.8%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、初期出力の低下を抑制できるとともに、第2相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できるものであり、また、第2相の面積占有率を0.32%以上とすることによって、空気極14の焼成時に焼結性を改善し、多孔質構造の骨格を強化することができるものである。
つまり、空気極中に四酸化三コバルトを適量(第2相の面積占有率0.32%以上9.8%以下)含有させることによって、初期出力の低下を抑制できるとともに、焼結性が改善でき骨格構造を強化できるが、含有量が多すぎると(第2相の面積占有率が9.8%を超えると)、空気極を劣化させて燃料電池の出力を低下させてしまう。

イ 上記5オ?5カによれば、特に表1のサンプル12?14を参照すると、四酸化三コバルト(Co_(3)O_(4))によって構成される第2相の面積専有率が9.8%を超える、10.6%、12.5%、16%となると、劣化率はそれぞれ3.6、3.5、4.3と大きくなり、空気極が劣化して出力が低下することを見て取ることができる。

(6)甲第6号証
(6-1)甲第6号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張日後ではあるが、本件特許に係る出願の原出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第6号証には、「燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
6ア「【請求項1】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、酸化ストロンチウムによって構成される第二相とを含む空気極と、
前記燃料極および前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である、
燃料電池。」

6イ「【0004】
しかしながら、発電を繰り返すうちに燃料電池の出力は低下する場合がある。本発明者らは、出力の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであり、この空気極の劣化は内部に存在する酸化ストロンチウムの割合に関係することを新たに見出した。」

6ウ「【0020】
空気極50は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物を主成分として含有する。このようなペロブスカイト型酸化物としては、(La,Sr)(Co,Fe)O_(3)(ランタンストロンチウムコバルトフェライト)、(La,Sr)FeO_(3)(ランタンストロンチウムフェライト)、(La,Sr)CoO_(3)(ランタンストロンチウムコバルタイト)、La(Ni,Fe)O_(3)(ランタンニッケルフェライト)、(La,Sr)MnO_(3)(ランタンストロンチウムマンガネート)などが挙げられるが、これに限られるものではない。
【0021】
空気極50は、酸化ストロンチウム(SrO)を副成分として含有する。SrOは、立方晶系の塩化ナトリウム型結晶構造を有する。
【0022】
空気極50の断面において、主成分のペロブスカイト型酸化物によって構成される主相の面積占有率は特に制限されないが、91%以上99.95%以下とすることができる。空気極50の断面において、SrOによって構成される第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である。第二相の面積占有率を3%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、第二相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できる。また、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって、空気極50の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるため、通電時に空気極50の微構造が変化することを抑制できる。その結果、空気極50の耐久性を向上させることができる。」

6エ「【実施例】
【0052】
以下において本発明に係る燃料電池の実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0053】
(サンプルNo.1?No.12の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1?No.12に係る燃料電池を作製した。
・・・
【0060】
次に、SrOを含む材料(空気極の副成分)粉末を表1に示すペロブスカイト型酸化物材料(空気極の主成分)粉末に添加して空気極材料を作成した。この際、空気極の断面における第二相(SrO)の面積占有率が表1に示す値になるように、サンプルごとにSrOの添加量を調整した。また、第二相の平均円相当径が表1に示す値になるように、SrOの粒度を合わせて調整した。
【0061】
次に、空気極材料にテルピネオールとバインダーを混合することによって空気極用スラリーを作製した。そして、バリア層の成形体上に空気極用スラリーを塗布することによって、空気極の成形体を作製した。
【0062】
続いて、空気極の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極を形成した。
・・・
【0068】
(耐久性試験)
サンプルNo.1?No.12において、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。
【0069】
その後、1000時間当たりの電圧降下率を劣化率として測定した。出力密度として、温度が750℃で定格電流密度0.2A/cm^(2)での値を使用した。測定結果を表1にまとめて記載する。本実施例では、劣化率が1.5%以下であるサンプルが低劣化状態と評価されている。」

6オ「【0071】

【0072】
表1に示されるように、空気極における第二相(SrO)の面積占有率を0.05%以上3%以下としたサンプルでは、空気極の劣化率を1.5%以下に低減するとともに、微小クラックの発生を抑制することができた。これは、第二相の面積占有率を3%以下とすることによって空気極内部の不活性部を低減して空気極の劣化を抑制できことと、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって空気極の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化できたことによるものである。」

(6-2)甲第6号証の記載事項の検討
ア 上記6ア?6ウの記載によれば、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と共に、空気極に含有される第二相を構成する酸化ストロンチウム(SrO)は、第二相の面積占有率を3%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、第二相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できるものであり、また、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって、空気極50の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるものである。
つまり、空気極中に酸化ストロンチウムを適量(第二相の面積占有率0.05%以上3%以下)含有させることによって、出力の低下を抑制できるとともに、焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるが、含有量が多すぎると(第二相の面積占有率が3%を超えると)、空気極を劣化させて燃料電池の出力を低下させてしまう。

イ また、上記6オによれば、特に表1のサンプル12を参照すると、酸化ストロンチウム(SrO)によって構成される第2相の面積専有率が3%を超え、3.5%となると、劣化率は2.0と大きくなり、空気極が劣化して出力が低下することを見て取ることができる。

(7)甲第7号証
(7-1)甲第7号証の記載事項
本件特許に係る出願の優先権主張日後ではあるが、本件特許に係る出願の原出願の出願日前に日本国内において頒布された甲第7号証には、「燃料電池」(発明の名称)に関して、以下の事項が記載されている。
7ア「【請求項1】
燃料極と、
一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物を主成分として含む空気極と、
前記燃料極および前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極は、前記固体電解質層と反対側の表面から5μm以内の表面領域を有し、
前記表面領域は、前記ペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、酸化ストロンチウムによって構成される第二相とを含み、
前記表面領域の断面における前記第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である、
燃料電池。」

7イ「【0004】
しかしながら、発電を繰り返すうちに燃料電池の出力が低下する場合がある。本発明者らは、出力の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであり、この空気極の劣化は内部に存在する酸化ストロンチウムの割合に関係することを新たに見出した。」

7ウ「【0024】
(空気極50の構成)
空気極50は、表面領域51と内部領域52とを有する。表面領域51は、内部領域52上に配置される。・・・
【0027】
表面領域51は、酸化ストロンチウム(SrO)を副成分として含有する。表面領域51の断面において、SrOによって構成される第二相の面積占有率は、0.05%以上3%以下である。第二相の面積占有率を3%以下とすることによって、表面領域51内部の不活性部が低減されるため、第二相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できる。また、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって、表面領域51の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるため、通電時に表面領域51の微構造が変化することを抑制できる。その結果、空気極50の耐久性を向上させることができる。」

7エ「【実施例】
【0060】
(サンプルNo.1?No.12の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1?No.12に係る燃料電池を作製した。
・・・
【0067】
次に、表1に示すペロブスカイト型酸化物材料(空気極の主成分)粉末にテルピネオールとバインダーを混合することによって内部領域用スラリーを作製した。そして、バリア層上に内部領域用スラリーを塗布することによって内部領域の成形体を作製した。
【0068】
次に、SrOを含む材料(表面領域の副成分)粉末を表1に示すペロブスカイト型酸化物材料(表面領域の主成分)粉末に添加して表面領域用材料を作成した。この際、表面領域の断面における第二相(SrO)の面積占有率が表1に示す値になるように、サンプルごとにSrOの添加量を調整した。また、第二相の平均円相当径が表1に示す値になるように、SrOの粒度を合わせて調整した。
【0069】
次に、表面領域用材料にテルピネオールとバインダーを混合することによって表面領域用スラリーを作製した。そして、内部領域の成形体上に表面領域用スラリーを塗布することによって、表面領域の成形体を作製した。この際、焼成後の表面領域の厚みが5μm以下になるように塗布量を調整した。
【0070】
次に、La(NiFeCu)O_(3)粉末に水とバインダーを混合して集電層用スラリーを作製した。そして、集電層用スラリーを表面領域の成形体上に塗布することによって集電層の成形体を形成した。
【0071】
次に、内部領域、表面領域及び集電層の成形体を焼成(1100℃、1時間)して空気極及び集電層を形成した。
・・・
【0077】
(耐久性試験)
サンプルNo.1?No.12において、燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを供給しながら還元処理を3時間行った。
【0078】
その後、1000時間当たりの電圧降下率を劣化率として測定した。出力密度として、温度が750℃で定格電流密度0.2A/cm^(2)での値を使用した。測定結果を表1にまとめて記載する。本実施例では、劣化率が1.5%以下であるサンプルが低劣化状態と評価されている。」

7オ「【0080】

【0081】
表1に示されるように、表面領域における第二相(SrO)の面積占有率を0.05%以上3%以下としたサンプルでは、空気極の劣化率を1.5%以下に低減するとともに、微小クラックの発生を抑制することができた。これは、第二相の面積占有率を3%以下とすることによって表面領域内部の不活性部を低減して空気極の劣化を抑制できたことと、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって空気極の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化できたことによるものである。」

(7-2)甲第7号証の記載事項の検討
ア 上記7ア?7ウの記載によれば、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物を主成分と共に、空気極の表面領域に含有される、第二相を構成する酸化ストロンチウム(SrO)は、第二相の面積占有率を3%以下とすることによって、表面領域内部の不活性部が低減されるため、第二相と主相の反応によって通電時に空気極の劣化が進行することを抑制できるものであり、また、第二相の面積占有率を0.05%以上とすることによって、表面領域51の焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるものである。
つまり、空気極の表面領域に、酸化ストロンチウムを適量(第二相の面積占有率0.05%以上3%以下)含有させることによって、出力の低下を抑制できるとともに、焼結性を改善して多孔質構造の骨格を強化することができるが、含有量が多すぎると(第2相の面積占有率が3%を超えると)、空気極を劣化させて燃料電池の出力を低下させてしまう。

イ また、上記7エ、7オによれば、特に表1のサンプル12を参照すると、酸化ストロンチウム(SrO)によって構成される第2相の面積専有率が3%を超え、3.8%となると、劣化率は2.1と大きくなり、空気極が劣化して出力が低下することを見て取ることができる。

2 取消理由として採用した申立理由4(サポート要件)について

ア 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ サポート要件の取消理由について上記アの手法に従って検討するにあたり、まず、本件特許明細書の記載を確認する。本件特許明細書には次の記載がある。

a「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
・・・発電を繰り返すうちに燃料電池の出力が低下する場合がある。本発明者らは、出力の低下の原因の1つが空気極の劣化によるものであり、この空気極の劣化は内部に導入されるSrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)の合計割合に関係することを新たに見出した。
【0006】
本発明は、このような新たな知見に基づくものであって、出力の低下を抑制可能な電気化学セルを提供することを目的とする。」

b「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る電気化学セルは、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置される固体電解質層とを備える。空気極は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相とを含有する。空気極の断面における第二相の面積占有率は、10.5%以下である。」

c「【0010】
(燃料電池10の構成)
燃料電池10の構成について、図面を参照しながら説明する。燃料電池10は、いわゆる固体酸化物型燃料電池(SOFC:SolidOxideFuelCell)である。燃料電池10は、縦縞型、横縞型、燃料極支持型、電解質平板型、或いは円筒型などの形態を取りうる。
【0011】
燃料電池10は、燃料極20、固体電解質層30、バリア層40および空気極50を備える。」

d「【0019】
空気極50は、バリア層40上に配置される。空気極50は、燃料電池10のカソードとして機能する。空気極50は、多孔質体である。空気極50の気孔率は特に制限されないが、20%?60%とすることができる。空気極50の厚みは特に制限されないが、2μm?100μmとすることができる。
【0020】
空気極50は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物を主相として含有する。ペロブスカイト型酸化物としては、例えば、ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物やランタンを含有しないSSC(サマリウムストロンチウムコバルタイト:(Sm,Sr)CoO_(3))などが好適に用いられるが、これに限られるものではない。ランタン含有ペロブスカイト型複合酸化物としては、LSCF(ランタンストロンチウムコバルトフェライト:(La,Sr)(Co,Fe)O_(3))、LSF(ランタンストロンチウムフェライト:(La,Sr)FeO_(3))、LSC(ランタンストロンチウムコバルタイト:(La,Sr)CoO_(3))及びLNF(ランタンニッケルフェライト:La(Ni,Fe)O_(3))などが挙げられる。ペロブスカイト型酸化物によって構成される主相の密度は、5.5g/cm^(3)?8.5g/cm^(3)とすることができる。」

e「【0022】
空気極50は、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相を含有する。第二相において、SrSO_(4)と(Co,Fe)_(3)O_(4)とは、混合された状態で存在している。具体的には、「SrSO_(4)と(Co,Fe)_(3)O_(4)とが混在する」とは、SrとSとOとが検出されるEDXスペクトルと、CoとFeとOとが検出されるEDXスペクトルとが異なる位置で別々に取得され、かつ、SrSO_(4)と(Co,Fe)_(3)O_(4)とが文字通り混在(=いりまじって存在すること(広辞苑第二版補訂版、昭和54年10月15日第四刷発行))している状態を意味する。(Co,Fe)_(3)O_(4)には、Co_(2)FeO_(4)、Co_(1.5)Fe_(1.5)O_(4)及びCoFe_(2)O_(4)などが含まれる。第二相の密度は、5.2g/cm^(3)?6.2g/cm^(3)とすることができる。第二相の密度は、主相の密度よりも小さくてもよい。
【0023】
空気極50の断面における第二相の面積占有率は、10.5%以下である。第二相の面積占有率は、SrSO_(4)の面積占有率と(Co,Fe)_(3)O_(4)の面積占有率の総和である。具体的に、第二相の面積占有率には、SrSO_(4)によって構成される粒子の面積占有率と、(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される粒子の面積占有率と、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)の混合物によって構成される粒子の面積占有率と、主相の粒子中に混在するSrSO_(4)及び/又は(Co,Fe)_(3)O_(4)の面積占有率とが含まれている。
【0024】
第二相の面積占有率を10.5%以下とすることによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、通電中に燃料電池10の出力が低下してしまうことを抑制できる。
【0025】
空気極50の断面における第二相の面積占有率は、0.2%以上であることがより好ましい。これによって、適度に導入された第二相によって空気極50の焼結性が改善されるため、多孔質の骨格構造を強化することができる。その結果、空気極50の微構造が変化することを抑制できるため、通電中に空気極50内にクラックが発生することを抑制できる。
【0026】
第二相の面積占有率のうち、SrSO_(4)の面積占有率と(Co,Fe)_(3)O_(4)の面積占有率との割合は特に制限されないが、空気極50の骨格構造の強化には、SrSO_(4)よりも(Co,Fe)_(3)O_(4)を添加した方が効果的である。そのため、(Co,Fe)_(3)O_(4)の面積占有率は、SrSO_(4)の面積占有率より大きいことが好ましい。空気極50の断面におけるSrSO_(4)の面積占有率は、5%以下とすることができ、空気極50の断面における(Co,Fe)_(3)O_(4)の面積占有率は9.5%以下とすることができる。」

f「【0030】
また、空気極50の断面における第二相の平均円相当径は特に制限されないが、0.05μm以上2.0μm以下であることが好ましい。これによって、通電中に燃料電池10の出力が低下してしまうことをより抑制できる。平均円相当径とは、無作為に選出した50個の第二相それぞれと同じ面積を有する円の直径を算術平均した値である。円相当径の測定対象である50個の第二相は、空気極50の断面上における5箇所以上のFE-SEM画像(倍率10000倍)から無作為に選出することが好ましい。なお、平均円相当径の算出のために選出される第二相は、SrSO_(4)と(Co,Fe)_(3)O_(4)の両方を含む領域、SrSO_(4)だけを含む領域、或いは、(Co,Fe)_(3)O_(4)だけを含む領域のいずれであってもよい。
【0031】
また、空気極50は、上述した主相及び第二相とは異なる第三相を含有していてもよい。第三相を構成する成分としては、Co_(3)O_(4)(四酸化三コバルト)、CoO(酸化コバルト)、SrO(酸化ストロンチウム)、及び主相の構成元素の酸化物などが挙げられるが、これに限られるものではない。空気極50の断面における第三相の合計面積占有率は、10%未満が好ましい。」

g「【0041】
(空気極材料)
空気極50を構成する空気極材料としては、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト型酸化物原料粉末にSrSO_(4)原料粉末と(Co,Fe)_(3)O_(4)原料粉末を添加した混合材料を用いることができる。
【0042】
ペロブスカイト型複合酸化物原料粉末としては、LSCF、LSF、LSC、LNF、SSCなどの原料粉末が挙げられる。(Co,Fe)_(3)O_(4)としては、Co_(2)FeO_(4)、Co_(1.5)Fe_(1.5)O_(4)及びCoFe_(2)O_(4)などの原料粉末が挙げられる。
【0043】
空気極材料に添加されるSrSO_(4)原料粉末と(Co,Fe)_(3)O_(4)原料粉末の合計添加量は、9.5重量%以下である。これによって、空気極50の断面における第二相の面積占有率を10.5%以下に制御することができる。
【0044】
空気極材料におけるSrSO_(4)と(Co,Fe)_(3)O_(4)の合計添加量は、0.18重量%以上であることが好ましい。これによって、空気極50の断面における第二相の面積占有率を0.2%以上に制御することができる。
【0045】
なお、SrSO_(4)原料粉末と(Co,Fe)_(3)O_(4)原料粉末の状態や、各原料粉末の粒度を調整することによって、第二相の面積占有率を微調整することができる。
【0046】
また、SrSO_(4)原料粉末と(Co,Fe)_(3)O_(4)原料粉末の粒度を調整することによって、空気極50の断面における第二相の平均円相当径を調整することができる。SrSO_(4)原料粉末と(Co,Fe)_(3)O_(4)原料粉末の粒度調整には、気流式分級機を用いることが好ましい。これによって、粒径の上限値及び下限値を含む精密な分級が可能となる。」

h「【0055】
上記実施形態では、本発明に係る空気極50を燃料電池10に適用した場合について説明したが、本発明に係る空気極は、燃料電池のほか、固体酸化物型の電解セルを含む固体酸化物型の電気化学セルに適用可能である。」

i「【実施例】
【0057】
以下において本発明に係るセルの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0058】
(サンプルNo.1?No.20の作製)
以下のようにして、サンプルNo.1?No.20に係る燃料電池を作製した。
【0059】
まず、金型プレス成形法で厚み500μmの燃料極集電層(NiO:8YSZ=50:50(Ni体積%換算))を成形し、その上に厚み20μmの燃料極活性層(NiO:8YSZ=45:55(Ni体積%換算))を印刷法で形成した。
【0060】
次に、燃料極活性層上に8YSZ層とGDC層の成形体を塗布法で順次形成して共焼成(1400℃、2時間)した。
【0061】
次に、表1に示すように、主相(LSCF、LSF又はSSC)と第二相(Sr_(S)O_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4))とを含む空気極材料を準備した。表1に示すように、第二相の添加量をサンプルごとに変更することによって、空気極における第二相の面積占有率を変更した。また、第二相の平均円相当径が表1に示す値になるように、SrSO_(4)原料粉末と(Co,Fe)_(3)O_(4)原料粉末の粒度を調整した。なお、サンプルNo.1、No.2、No.10、No.11では、(Co,Fe)_(3)O_(4)としてCo_(2)FeO_(4)を用い、サンプルNo.3?No.5、No.12、No.13、No.16では、(Co,Fe)_(3)O_(4)としてCo_(1.5)Fe_(1.5)O_(4)を用い、サンプルNo.6?No.9、No.14、No.15、No.17?No.20では、(Co,Fe)_(3)O_(4)としてCoFe_(2)O_(4)を用いた。
【0062】
次に、空気極材料と水とPVAをボールミルで24時間混合することによって空気極用スラリーを作製した。
【0063】
次に、空気極用スラリーを共焼成体のGDC層上に塗布・乾燥させた後に、電気炉(酸素含有雰囲気、1000℃)で1時間焼成することによって空気極を形成した。
【0064】
(第二相の面積占有率の測定)
まず、各サンプルの空気極の断面を精密機械研磨した後に、株式会社日立ハイテクノロジーズのIM4000によってイオンミリング加工処理を施した。
【0065】
次に、インレンズ二次電子検出器を用いたFE-SEMによって、空気極の断面の5箇所を倍率10000倍で拡大したSEM画像を取得した。SEM画像は、加速電圧:1kV、ワーキングディスタンス:3mmに設定されたFE-SEM(Zeiss社製のULTRA55)によって得た。このSEM画像では、画像の輝度を256階調に分類することによって、主相と第二相と気孔の明暗差を3値化した。
【0066】
次に、MVTec社(ドイツ)製画像解析ソフトHALCONを用いて、SEM画像を画像解析することによって、SrSO_(4)と(Co,Fe)_(3)O_(4)とが強調表示された解析画像を取得した。
【0067】
次に、この解析画像におけるSr_(S)O_(4)と(Co,Fe)_(3)O_(4)との合計面積を解析画像における固相の合計面積で除すことによって、第二相の面積占有率を5箇所それぞれで求め、それらの算術平均値を第二相の面積占有率として算出した。また、SEM画像を参照しながら第二相の位置におけるEDXスペクトルを取得することによって、第二相のうちSrSO_(4)の面積占有率と(Co,Fe)_(3)O_(4)の面積占有率とを別々に取得した。空気極の断面における第二相の面積占有率の算出結果は、表1に示す通りである。
【0068】
(第二相の平均円相当径)
面積占有率の算出に用いた5枚の解析画像から無作為に選出した50個の第二相の平均円相当径を算出した。第二相の平均円相当径の算出結果は、表1に示す通りである。
【0069】
(燃料電池の出力測定)
各サンプルの燃料極側に窒素ガス、空気極側に空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料極に水素ガスを3時間供給することによって還元処理した。
【0070】
次に、定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して、セル電圧を測定しながら1000時間発電した。そして、1000時間当たりの電圧降下率を劣化率として算出した。
【0071】
また、1000時間発電した後に、空気極の断面を電子顕微鏡で観察することによって、空気極内のクラックを観察した。表1では、燃料電池の特性への影響が小さい5μm以下のクラックが観察されたサンプルに「有(軽微)」と表示されている。」

j「【0072】



ウ サポート要件を上記アの手法を用いて検討するにあたり、次に、本件特許発明が解決しようとする課題について検討する。
上記aの記載によれば、本件発明が解決しようとする課題(以下、単に「課題」という。)は、「出力の低下を抑制可能な電気化学セルを提供すること」であると認められる。

エ 続いて、上記課題を解決できると認識できる範囲のものについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載と技術常識に基づいて検討する。
上記b、cによれば、本件発明の電気化学セルは、燃料極と、空気極と、燃料極と空気極の間に配置される固体電解質層とを備えるものである。

オ 上記dによれば、本件発明の電気化学セルを構成する空気極は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物を主相として含有するものである。

カ 上記eによれば、本件発明の電気化学セルを構成する空気極は、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相を含有するものであり、SrSO_(4)の面積占有率と(Co,Fe)_(3)O_(4)の面積占有率の総和である第二相の面積占有率を10.5%以下とすることにより、通電中に出力が低下してしまうことを抑制できる。

キ ここで、上記カで検討した、第二相の面積占有率を10.5%以下とすることにより、通電中に出力が低下してしまうことを抑制できるとされる点について、発明の詳細な説明に記載された実施例を参照して確認する。
実施例のサンプルNo.1?20について掲載された上記jの表1を参照すると、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相の面積占有率が10.5%以下である、No.1?8、10?14、16?19の劣化率(段落【0070】によれば、定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して、セル電圧を測定しながら1000時間発電した際の、発電1000時間当たりの電圧降下率のこと。)は悪くても1.5%(No.14)であり、それら評価はいずれも◎又は○であるのに対して、同面積占有率が10.5%を超える、No.9、15、20の劣化率は、それぞれ、2.4%、2.9%、2.9%であり、評価が×であるので、第二相の面積占有率が10.5%以下である電気化学セルは、出力の低下が抑制されていることが確認できる。

ク また、空気極を構成する要素としては、上記fの段落【0031】に、主相及び第二相とは異なる第三相を含有してもよく、第三相を構成する成分としては、Co_(3)O_(4)(四酸化三コバルト)、CoO(酸化コバルト)、SrO(酸化ストロンチウム)等があり、第三相の合計面積占有率は、10%未満が好ましいとされている。
ところが、これら第三相を構成する成分である、Co_(3)O_(4)(四酸化三コバルト)やSrO(酸化ストロンチウム)は、甲第5号証?甲第7号証に記載されているように、第二相を構成するSrSO_(4)や(Co,Fe)_(3)O_(4)と同様に、空気極中に適量含有させることによって焼結性が改善でき骨格構造を強化できる物質ではあるが、空気極中の含有量が多すぎると、不活性部となって空気極を劣化させるので燃料電池の出力低下の原因となる物質でもあることは、本件特許に係る出願の優先権主張日前から本件特許に係る出願の原出願の出願日前にかけて、燃料電池の技術分野における技術常識であったと認められる。
したがって、出力の低下を抑制するという課題を解決し得る本件発明の電気化学セルについて検討する際に、第三相も含めて考慮する必要があることは明らかであり、上記キで検討した実施例について、第三相も含めて改めて検討する。

ケ 上記キで検討した実施例については、その製造方法を記載した上記iの段落【0061】を参照すると、空気極を形成するにあたり、「主相(LSCF、LSF又はSSC)と第二相(SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4))とを含む空気極材料を準備」したと記載されており、主相と第二相の材料以外の他の材料を含むかについては明記されていないが、令和 1年 7月12日付けの意見書の第3頁i.に「表1に記載のサンプルNo.1?20は、第二相以外に不活性部として存在しうる他の物質を含んでいないが(段落【0061】参照)」と説明されていることも勘案すると、上記実施例のサンプルNo.1?20の空気極は、いずれも、主相と第二相のみを含み、第三相については含まないものであると認められる。
したがって、本件特許明細書において、出力の低下が抑制されることが確認された空気極は、第二相の面積占有率が10.5%以下であり、第三相の面積占有率が0%である電気化学セルのみであるといえる。

コ 次に、第三相を含む空気極を備えた電気化学セルが課題を解決し得るかについて検討する。
上記fの段落【0031】には、「空気極50は、上述した主相及び第二相とは異なる第三相を含有していてもよい。・・・空気極50の断面における第三相の合計面積占有率は、10%未満が好ましい。」と記載されているが、このことから、直ちに、「断面における第二相面積占有率が10.5%以下であり、かつ第三層面積占有率が10%未満」である空気極を備えた電気化学セルが必ずしも課題を解決するものであるとはいえない。これは次のサ、シの検討から明らかである。

サ サンプルNo.8は第二相の面積占有率が10.3%、劣化率1.4%であるのに対して、サンプルNo.9は第二相の面積占有率が11.5%、劣化率2.4%である。このことは、上記ケで検討したとおり第三相の面積占有率が0%であることを勘案すると、第二相の面積占有率が11.5%から10.3%へ1.2%減少するとともに、主相の面積占有率が88.5%(=100%-11.5%)から89.7%(=100%-10.3%)へ1.2%増加したことによって、劣化率が2.4%から1.2%に改善しているといえる。
そして、上記eの段落【0024】によれば、第二相の面積占有率を10.5%以下とすることによって空気極内部の不活性部が低減されるために、通電中に燃料電池の出力が低下してしまうことを抑制できる、と記載されているところ、空気極内部の不活性部が低減するということは、逆に言えば、活性部の面積占有率が増加することを意味するから、本件発明は、空気極内の不活性部の面積占有率を低減すると同時に活性部の面積占有率を増加することによって、燃料電池の出力低下を抑制しているものと解することができる。

シ したがって、空気極において「断面における第二相面積占有率が10.5%以下」であるとの条件を満たすように、第二相の面積占有率が減少していたとしても、第三相が含まれることによって、活性部、すなわち主相の面積占有率が変化しないか、低減するようであれば、燃料電池の出力低下を抑制することはできないといえる。
例えば、サンプルNo.9において、第二相の面積占有率を11.5%から10.3%へ1.2%減少するとともに、第三相の面積占有率を0%から1.2%へ増加した場合を考えると、「断面における第二相面積占有率が10.5%以下」との条件を満たすけれども、主相の面積占有率はサンプルNo.9の88.5%のままであり、活性部の面積占有率は増加していないから、劣化率が減少することはなく、燃料電池の出力低下を抑制しているということはできず、課題が解決できているとはいえない。
さらに例えば、サンプルNo.9において、第二相の面積占有率を11.5%から10.3%へ1.2%減少するとともに、第三相として四酸化三コバルト(Co_(3)O_(4))を含み、第三相の面積占有率が10.6%である場合には、「断面における第二相面積占有率が10.5%以下」との条件を満たすけれども、甲第5号証についての上記1(5)(5-2)イの検討を参照すれば、劣化率は少なくとも3.6となり、本件特許明細書の表1において出力低下が抑制されていないとされるNo.15、No.20の劣化率2.9よりも大きな劣化率となり、空気極が劣化して出力が低下してしまうものになるので、この場合にも課題が解決できているとはいえない。

ス しかしながら、空気極に第三相が含有されていたとしても、当該第三相の面積占有率が小さいため、空気極内部の不活性部が大幅に増加することがなければ、その結果、燃料電池の出力低下を抑制できるような態様が存在する余地があると考えられる。
具体的には、本件特許明細書において、出力の低下が抑制されることが確認された燃料電池には、サンプルNo.1?8、10?14、16?18の燃料電池があり、これら燃料電池の劣化率は、0.37%?1.5%である。つまり、劣化率が大きくとも1.5%であるような燃料電池であれば、本件発明の課題を解決し得るものであるということができる。
したがって、劣化率が1.5%以下であること、すなわち、「定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率」が「1.5%以下」であるという条件を満たせば、空気極内に第三相が含有されていても、そのような燃料電池は本件発明の課題を解決し得るものであるということができる。

セ したがって、発明の詳細な説明に記載された発明であって、出願時の技術常識にも照らして、燃料電池の出力低下を抑制するという課題を解決し得る電気化学セルとは、空気極が、主相と第二相を含有しており、当該主相と第二相以外に第三相を含有し得るものであって、上記ケの検討から、第三相を含有しない場合には、空気極の断面における前記第二相の面積占有率が10.5%以下であり、また、上記サ、シ、スの検討から、主相及び第二相以外に第三相が含まれる場合まで考慮すると、定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下であるような電気化学セルであるといえる。

ソ また、上記eによれば、通電中に空気極内にクラックが発生することを抑制できるので、第二相の面積占有率を0.2%以上とすることが好ましい。

タ さらに、上記fによれば、特に制限されないが、本件発明の電気化学セルにおいて、空気極の断面における第二相の平均円相当径を0.05μm以上2.0μm以下とすることにより、通電中に出力が低下してしまうことをより抑制できる。

チ 上記エ?セの検討によれば、上記ウの課題を解決することのできると認識できる範囲の電気化学セルとは、次のものと認められる。

「燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相とを含有し、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.5%以下であり、
定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である、
電気化学セル。」(以下、「当審認定発明」という。)

なお、上記ソで言及した、第二相の面積占有率の下限値については、クラック発生の抑制に係るものであって、課題の解決に直接関係するものではなく、また、上記タで言及した、第二相の平均円相当径の限定については、課題解決のための任意付加的な事項であるので、当審認定発明における課題を解決するための手段として認定しなかった。

ツ 本件発明1と当審認定発明との対比と判断
本件発明1と当審認定発明とを対比すると、本件発明1は当審認定発明の全ての特定事項を備えているから、本件発明1は発明の詳細な説明に記載された発明である。
また、本件発明1は、「空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.5%以下であ」るものであるから、空気極が第三相を含有しない場合に燃料電池の出力低下を抑制するという課題を解決し得る電気化学セルであり、また、「定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である」から、空気極が主相及び第二相以外に第三相を含む場合においても、燃料電池の出力低下を抑制するという課題を解決し得る電気化学セルである。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明であって、出願時の技術常識にも照らして、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
また、請求項1を引用することによって、本件発明1の全ての特定事項を備える本件発明2、3も当審認定発明の全ての特定事項を備えているので、発明の詳細な説明に記載された発明であって、出願時の技術常識にも照らして、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

テ 以上の検討のとおり、本件発明1?3は、発明の詳細な説明の記載と技術常識に基づいて、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものである。

ト 小括
以上のとおり、取消理由通知において通知された、上記申立理由4によっては、本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由に採用しなかった申立理由について
3-1 申立理由1(甲1を主たる引用例とする新規性)についての判断
(1)本件発明1と甲1発明との対比と判断
ア 甲1発明の「GDC10電解質」と「LSCF6428空気極」は、それぞれ、本件発明1の「固体電解質層」と「空気極」に相当する。

イ 次に、「固体電解質層」に関して「空気極」の反対側にある電極に注目すると、甲1発明では「Pt対向電極」が形成されているのに対して、本件発明1では「燃料極」が形成されているので、甲1発明の「Pt対向電極」が、本件発明1の「燃料極」に相当するものであるかについて検討する。

ウ 本件特許明細書には、燃料極について次の記載がある。
「【0012】
燃料極20は、燃料電池10のアノードとして機能する。燃料極20は、図1に示すように、燃料極集電層21と燃料極活性層22とを有する。
【0013】
燃料極集電層21は、ガス透過性に優れる多孔質体である。燃料極集電層21を構成する材料としては、従来SOFCの燃料極集電層に用いられてきた材料を用いることができ、例えばNiO(酸化ニッケル)-8YSZ(8mol%のイットリアで安定化されたジルコニア)やNiO‐Y_(2)O_(3)(イットリア)が挙げられる。燃料極集電層21がNiOを含んでいる場合、燃料電池10の作動中においてNiOの少なくとも一部はNiに還元されていてもよい。燃料極集電層21の厚みは、例えば0.1mm?5.0mmとすることができる。
【0014】
燃料極活性層22は、燃料極集電層21上に配置される。燃料極活性層22は、燃料極集電層21より緻密な多孔質体である。燃料極活性層22を構成する材料としては、従来SOFCの燃料極活性層に用いられてきた材料を用いることができ、例えばNiO‐8YSZが挙げられる。燃料極活性層22がNiOを含んでいる場合、燃料電池10の作動中においてNiOの少なくとも一部はNiに還元されていてもよい。燃料極活性層22の厚みは、例えば5.0μm?30μmとすることができる。」

エ 上記ウの記載によれば、燃料極20は、燃料極集電層21と燃料極活性層22を有しており、燃料極集電層21は、ガス透過性に優れる多孔質体であって、その材料としてNiO-8YSZやNiO‐Y_(2)O_(3)が使用されているものであり、燃料極活性層22は、燃料極集電層21より緻密な多孔質体であり、その材料としてNiO‐8YSZが使用されているものである。

オ 一方、甲1発明の「Pt対向電極」は、多孔質体であると記載されていないから、燃料ガス透過性があるか不明であるし、当該「Pt対向電極」に燃料ガスである水素ガス等が供給されるものでもない。仮に、「Pt対向電極」に燃料ガスを供給した場合に、「LSCF6428空気極」から酸素イオンが「GDC10電解質」を透過してきたとしても、当該「Pt電極」において、当該酸素イオンと燃料ガスの電気化学反応が生じるものであることを示す証拠は提示されていない。また、当該「Pt電極」が燃料電極として機能しないのであれば、甲1発明の「実験用セル」は固体酸化物型燃料電池として機能するものとはいえない。

カ したがって、甲1発明の「Pt対向電極」は、本件発明1の「燃料極」に相当するものとはいえず(「相違点1」という。)、また、甲1発明の「実験用セル」は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)として機能する本件発明1の「電気化学セル」に相当するものともいえない(「相違点2」という。)。

キ そうすると、本件発明1及び甲1発明のその他の詳細な構成について検討するまでもなく、本件発明1と甲1発明は、上記相違点1及び相違点2において相違するから、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
また、請求項1を引用することによって、本件発明1の全ての特定事項を備える、本件発明2、3についても、同様に、甲1に記載された発明ではない。

ク なお、甲1発明は、GDC10電解質の一方の表面に、LSCF6428空気極が形成されている点で、固体酸化物型燃料電池(SOFC)の構造を一部模したセルであるとはいえるが、甲1には、甲1発明の実験用セルを用いたセルテストによって得られた知見に基づいて、具体的にどのような固体酸化物型燃料電池を構成するかについて、何ら記載も示唆もされていないので、甲1の記載に基づいて具体的な固体酸化物型燃料電池を想起することはできない。

(2)小括
したがって、本件発明1?3は甲1に記載された発明ではないから、上記申立理由1によっては、本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

3-2 申立理由2(甲2を主たる引用例とする新規性)についての判断
(1)本件発明1と甲2発明との対比
ア 甲2発明の「GDC10電解質」と「LSCF6428空気極」は、それぞれ、本件発明1の「固体電解質層」と「空気極」に相当する。

イ 次に、「固体電解質層」に関して「空気極」の反対側にある電極に注目すると、甲2発明では「Pt対向電極」が形成されているのに対して、本件発明1では「燃料極」が形成されているので、甲2発明の「Pt対向電極」が、本件発明1の「燃料極」に相当するものであるかについて検討するに、上記3-1(1)のウ?オと同様の理由によって、甲2発明の「Pt対向電極」は、本件発明1の「燃料極」に相当するものとはいえず(「相違点3」という。)、また、甲2発明の「実験用セル」は、固体酸化物型燃料電池(SOFC)として機能する本件発明1の「電気化学セル」に相当するものともいえない(「相違点4」という。)。

ウ そうすると、本件発明1及び甲2発明のその他の詳細な構成について検討するまでもなく、本件発明1と甲2発明は、上記相違点3及び相違点4において相違するから、本件発明1は甲2に記載された発明ではない。
また、請求項1を引用することによって、本件発明1の全ての特定事項を備える、本件発明2、3についても、同様に、甲2に記載された発明ではない。

エ なお、甲2発明は、GDC10電解質の一方の表面に、LSCF6428空気極が形成されている点で、固体酸化物型燃料電池(SOFC)の構造を一部模したセルであるとはいえるが、甲2には、甲2発明の実験用セルを用いたセルテストによって得られた知見に基づいて、具体的にどのような燃料電池を構成するかについて、何ら記載も示唆もされていないもされていないので、甲2の記載に基づいて具体的な固体酸化物型燃料電池を想起することはできない。

(2)小括
したがって、本件発明1?3は甲2に記載された発明ではないから、上記申立理由2によっては、本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

3-3 申立理由3(甲3を主たる引用例とし甲4を従たる引用例とする進歩性)についての判断
(1)本件発明1と甲3発明との対比
ア 甲3発明の「燃料極11と、固体電解質層12と、バリア層13と、空気極14がこの順で積層されて」いることは、本件発明1の「燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、を備え」ていることに相当する。

イ そのため、甲3発明の「燃料極11と、固体電解質層12と、バリア層13と、空気極14がこの順で積層されて」いる「燃料電池セル」は、本件発明1の「燃料極と、空気極と、前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、を備え」ている「電気化学セル」に相当する。

ウ 甲3発明の「空気極14」が「一般式ABO_(3)で表され、Aサイトに少なくともSrを含むペロブスカイト型酸化物を主成分とする主相」を「含」むことは、本件発明1の「空気極」が「一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相」を「含有」することに相当する。

エ 甲3発明の「空気極14」が「硫酸ストロンチウムを主成分とする第二相とを含」むことと、本件発明1の「空気極」が「SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相とを含有し、前記空気極に含まれる(Co,Fe)_(3)O_(4)は、CoとFeを含有」することとは、「硫酸ストロンチウム」が「SrSO_(4)」であることを勘案すると、いずれも、「空気極」が「SrSO_(4)」を含有する「第二相とを含有」する点で共通する。

オ 甲3発明の「空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.20%以上であり、10.2%以下である」ことと、本件発明1の「空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.5%以下であ」ることは、「空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.20%以上であり、10.2%以下であ」る点で共通する。

カ そうすると、本件発明1と甲3発明との一致点と相違点は次のとおりとなる。
<一致点>
「燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、SrSO_(4)を含有する第二相とを含有し、
前記空気極に含まれる(Co,Fe)_(3)O_(4)は、CoとFeを含有し、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.20%以上であり、10.2%以下である、
電気化学セル。」

<相違点5> 「空気極」に含有される「第二相」は、本件発明1では「SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される」のに対して、甲2発明では「硫酸ストロンチウムを主成分と」している点。

<相違点6> 本件発明1では「定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である」のに対して、甲2発明ではそのような特定がなされていない点。

(2)相違点についての判断
事案に鑑みて、初めに相違点5について検討する。

ア 甲3の上記3ウには、初期出力の低下の原因の一つが空気極内部に発生する不活性領域によるものであり、この不活性領域は空気極内部に導入される硫酸ストロンチウムの割合に関係される、と記載されており、また、上記3カの【0023】には、空気極14の断面における第二相の面積占有率は、10.2%以下であることが好ましく、これによって、空気極14内部に発生する不活性領域が減少されるため、初期出力が低下することを抑制できると記載されている。つまり、空気極において、硫酸ストロンチウムを主成分とする第二相を10.2%含有することにより、硫酸ストロンチウムを原因とする空気極内部の不活性領域を減少させるので、初期出力の低下が抑制できるものである。
また、【0025】には、第二相の面積占有率は、0.20%以上であることがより好ましいとされており、これによって、SrSO_(4)を主成分とする第二相が焼結助剤として働き、多孔質構造である空気極14の骨格を強化することができ、その結果、通電時における空気極14におけるクラック発生が抑制され、空気極14の耐久性を向上させることができる、とも記載されている。

イ 一方、甲4の上記4ウには、発電を繰り返すうちに出力が低下する原因の1つが空気極の劣化によるものであり、この空気極の劣化は内部に導入される(Co,Fe)_(3)O_(4)の割合に関係することを新たに見出した、と記載されており、また、上記4カの【0021】、【0023】、【0024】には、空気極は、ペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第2相とを含有し、空気極14の断面における第2相の面積占有率は9.5%以下であることが好ましく、これによって、空気極内部の不活性部が低減されるため、初期出力の低下を抑制できると記載されている。
また、【0025】には、第二相の面積占有率は、0.25%以上であることがより好ましいとされており、これによって、第2相が適度に導入されて空気極14の焼結性が改善されるため、多孔質構造の骨格を強化することができ、その結果、空気極14の耐久性をより向上させることができる、とも記載されている。

ウ してみると、甲3発明において空気極の第二相に主成分として含有される硫酸ストロンチウムと、甲4の空気極において第二相を単独で構成する(Co,Fe)_(3)O_(4)はいずれも、燃料電池の空気極において不活性部となって初期出力を低減する原因となる物質であるから、第二相の面積占有率の上限値が定められているものであるとともに、少量含むことにより、多孔質構造の骨格を強化し、空気極14の耐久性を向上させる物質である点で共通している。

エ そこで、甲3発明の空気極に注目すると、当該空気極は、硫酸ストロンチウムを主成分とする第二相とを含み、第二相の面積占有率は、0.20%以上であり、10.2%以下としてものであるから、すでに、初期出力の低下が抑制されているものであり、多孔質構造の骨格が強化されて空気極14の耐久性が向上しているものであって、甲3における課題が解決しているものである。
そのような甲3発明において、たとえ、「第二相には、SrSO_(4)以外の不純物が含まれていてもよい」(【0022】)との示唆があり、不可避的な不純物が含まれることを許容するものであったとしても、初期出力の低下を抑制するという課題がすでに解決されているにもかかわらず、新たな初期出力の低下の原因となる物質である(Co,Fe)_(3)O_(4)を意図的に添加すると、初期出力が低下して、課題が解決しないものとなる虞があるから、甲3発明の空気極に、(Co,Fe)_(3)O_(4)を意図的に追加して添加する積極的な動機がない。
また、多孔質構造の骨格を強化して空気極の耐久性を向上させるという点においても、甲3発明は、第二相の面積占有率が0.20%以上であり、すでに耐久性が向上しているから、この観点からも(Co,Fe)_(3)O_(4)を意図的に添加する積極的な動機がない。

オ したがって、甲3発明において、甲4に記載された事項に基づいて、相違点5に係る本件発明1の特定事項とすることが当業者にとって容易になし得ることであるとはいえない。
よって、相違点6について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明と甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件発明2、3について
請求項1を引用することによって、本件発明1のすべての特定事項を備える、本件発明2、3についても、同様の理由で、甲3発明と甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)小括
したがって、本件発明1?3は、甲3発明と甲4に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、上記申立理由3によっては、本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。

4 申立人の主張について
申立人は、令和 1年12月11日付けで提出された意見書において、(1)本件発明1の「電圧降下率」は明確でなく、(2)訂正後の本件発明1?3は、依然として、サポート要件に適合するものではなく、(3)本件訂正の訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものではない、と主張しているが、以下に示すとおり、これらの意見はいずれも採用することはできない。

(1)「電圧降下率」について
ア 申立人は、本件明細書の段落【0070】には、劣化率の定義として、定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して、セル電圧を測定しながら1000時間発電した際の、1000時間当たりの電圧降下率であると説明されているが、このような定義では、「電気化学セルにおける燃料極の特性/発電時の温度条件/燃料極や空気極に供給される反応ガスの濃度や供給量が異なれば、定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して発電した場合に1000時間にどれだけ反応が起こるかが異なり、その電圧降下率も当然に異なってくる。」ので、「電圧降下率」が技術的に明確ではないと主張している。

イ しかしながら、定格電流密度が0.2A/cm^(2)に設定されているということは、当該燃料電池において、両電極において、単位時間あたり、単位面積あたり消費される燃料ガスと酸化ガスの量が決定されているということであるし、このときの電池反応に伴って発生する熱量も特定の値に決定されることを意味している。そして、両電極において上記決定されたガス量を消費するために、両電極に供給されるべきガスの濃度や供給速度は、定格電流密度が0.2A/cm^(2)になるような特定の条件を満たすことが必要であることを当業者は理解するし、上記反応に伴って発生する特定の熱量によって燃料電池セルの上昇温度も決定されるので、どれだけの反応が起こるかも特定されるものと考えられる。
したがって、本件発明1の「電圧降下率」は技術的に明確でないとする根拠は認められない。

(2)サポート要件について
サポート要件についての判断は、上記2で検討したとおりであり、本件発明1?3は、発明の詳細な説明の記載と技術常識に基づいて、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件発明1?3はサポート要件に適合している。
なお、本件発明1において、「定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下」と特定されていることにより、本件発明1の電気化学セルの出力低下が抑制されているから、空気極に含有される第三相の面積含有率は間接的に特定されているということができ、このことは、電気化学セルの定格電流密度と電圧降下率を測定することによって実際に確認することが可能であると考えられる。

(3)訂正事項1の目的要件について
訂正事項1の目的要件についての判断は、上記第2の2(1)アで検討したとおりである。本件訂正前の請求項1に「定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である」点を追加する訂正は、発明を特定するための事項を直列的に付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

5 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は適法なものである。
そして、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料極と、
空気極と、
前記燃料極と前記空気極の間に配置される固体電解質層と、
を備え、
前記空気極は、一般式ABO_(3)で表され、AサイトにLa及びSrの少なくとも一方を含むペロブスカイト型酸化物によって構成される主相と、SrSO_(4)及び(Co,Fe)_(3)O_(4)によって構成される第二相とを含有し、
前記空気極に含まれる(Co,Fe)_(3)O_(4)は、CoとFeを含有し、
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、10.5%以下であり、
定格電流密度を0.2A/cm^(2)に設定して1000時間発電した場合の電圧降下率が1.5%以下である、
電気化学セル。
【請求項2】
前記空気極の断面における前記第二相の面積占有率は、0.20%以上である、
請求項1に記載の電気化学セル。
【請求項3】
前記空気極の断面において、前記第二相の平均円相当径は、0.05μm以上2.0μm以下である、
請求項1又は2に記載の電気化学セル。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-09 
出願番号 特願2017-205186(P2017-205186)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 537- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 渡部 朋也  
特許庁審判長 中澤 登
特許庁審判官 池渕 立
土屋 知久
登録日 2018-05-11 
登録番号 特許第6334800号(P6334800)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 電気化学セル  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  
代理人 新樹グローバル・アイピー特許業務法人  

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