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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
管理番号 1360439
異議申立番号 異議2019-700321  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2019-04-23 
確定日 2020-01-20 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6410810号発明「脳内のアミロイドβペプチド蓄積状態を評価するサロゲート・バイオマーカー及びその分析方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6410810号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、4について訂正することを認める。 特許第6410810号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6410810号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、2015年(平成27年)5月19日(優先権主張 平成26年5月22日)を国際出願日として出願され、平成30年10月5日にその特許権の設定登録がされ、同月24日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

平成31年 4月23日 :特許異議申立人 藤江 桂子 による請求項
1ないし4に係る特許に対する特許異議の申
立て
令和 元年 7月24日付け:取消理由通知
同年 9月30日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年10月31日 :特許権者による手続補正書(方式)の提出
同年12月 9日 :特許異議申立人 藤江 桂子 による意見書
の提出

以下、「特許異議申立人 藤江 桂子」を単に「申立人」という。


第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容

特許権者により令和元年9月30日にされた訂正の請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、本件訂正請求は、請求項2、4に対して請求されたものである。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項2中、「APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ:」との部分を削除する。

(2)訂正事項2

特許請求の範囲の請求項4中、「APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:
APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42);」との部分を削除する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

訂正事項1は、マーカーの選択肢のうちの一つを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について

訂正事項2は、マーカーの測定レベルの比に係る選択肢のうちの一つを削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

3 小括

上記のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項2、4について訂正することを認める。


第3 訂正後の本件発明

上記のとおり本件訂正が認められるから、本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ請求項の番号に応じて「本件特許発明1」などという。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

(本件特許発明1)
「 【請求項1】
被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、
APP669-711(配列番号7)、APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)、APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)、APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)、APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、
前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、 APP669-711、APP672-709(Aβ1-38)、APP674-711(Aβ3-40)、APP672-710(Aβ1-39)、APP672-711(Aβ1-40)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP669-711レベルの比:APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-709(Aβ1-38)レベルの比:APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP674-711(Aβ3-40)レベルの比:APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-710(Aβ1-39)レベルの比:APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42); 及び
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するOxAPP672-711(OxAβ1-40)レベルの比:OxAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程とを行い、
被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量よりも多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法。」

(本件特許発明2)
「 【請求項2】
血液試料中のAPP669-711(配列番号7)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: 及び
OxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせからなる群から選ばれる脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカー。」

(本件特許発明3)
「 【請求項3】
被験対象に由来する血液試料をAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)の測定レベルを得る測定工程を行い、
被験対象の前記APP672-713(Aβ1-42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-のAPP672-713(Aβ1-42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量より多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法。」

(本件特許発明4)
「 【請求項4】
被験対象に対して行われた医学的介入の前後において、被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、APP669-711(配列番号7)、APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)、APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)、APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)、APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、APP669-711、APP672-709(Aβ1-38)、APP674-711(Aβ3-40)、APP672-710(Aβ1-39)、APP672-711(Aβ1-40)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP669-711レベルの比:APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-709(Aβ1-38)レベルの比:APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP674-711(Aβ3-40)レベルの比:APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-710(Aβ1-39)レベルの比:APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);及び
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するOxAPP672-711(OxAβ1-40)レベルの比:OxAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程とを行い、
医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行う、脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断するための方法。」


第4 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由の概要

本件訂正前の請求項1ないし4に係る特許に対して、当審が令和元年7月24日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1) (進歩性)請求項1ないし4に係る発明は、申立人の甲第1号証に記載された発明に基いて、本件特許出願の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。

(2) (サポート要件)請求項1ないし4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、請求項1ないし4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

2 甲号証の記載

甲第1号証:James K. Lui et al.,“Plasma Amyloid-β as a Biomarker inAlzheimer's Disease: The AIBL Study of Aging”,Journal of Alzheimer's Disease,2010,Vol. 20,No. 4,p. 1233-1242 (以下「甲1」という。)
甲第2号証:Clifford R. Jack Jr. et al.,“An Operational Approach to NIA-AA Criteria for PreclinicalAlzheimer's Disease”,Annals of Neurology,2012,Vol. 71,No. 6,p. 765-775, [online],2013年3月2日,NIH Public Access AuthorManuscript,PMC,インターネット<URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3586223/pdf/nihms444053.pdf>(以下「甲2」という。)
甲第3号証:下濱 俊「アルツハイマー病の新たな診断基準」,日本老年医学会雑誌,第50巻,第1号,2013年,p.50:1?50:8(以下「甲3」という。)

(1)甲1について

ア 甲1には以下の記載がある(訳中の参考文献番号の記載は省略した。下線は当審で付加した。甲号証の記載において、以下同様。)。

(甲1ア)第1233頁1?3行(論文タイトル)
「Plasma Amyloid-β as a Biomarker in Alzheimer’s Disease: The AIBL Study of Aging」
(訳:アルツハイマー病におけるバイオマーカーとしての血漿アミロイドβ:加齢に関するAIBL研究)

(甲1イ)第1233頁下から8行?第1234頁4行
「Abstract. Amyloid-β (Aβ) plays a central role in the pathogenesis of Alzheimer’s disease (AD) and has been postulated as a potential biomarker for AD. However, there is a lack of consensus as to its suitability as an AD biomarker. The objective of this study was to determine the significance of plasma Aβ as an AD biomarker and its relationship with Aβ load and to determine the effect of different assay methods on the interpretation of Aβ levels. Plasma Aβ_(1-40), Aβ_(1-42), and N-terminal cleaved fragments were measured using both acommercial multiplex assay and a well-documented ELISA in 1032 individuals drawn from the well-characterized Australian Imaging, Biomarkers and Lifestyle (AIBL) study of aging. Further, Aβ levels were compared to Aβ load derived from positron-emission tomography (PET) with the Pittsburgh compound B (PiB). LowerAβ_(1-42) and Aβ_(1-42/1-40) ratio were observed in patients with AD and inversely correlated with PiB-PET derived Aβ load. However, assay methodology significantly impacted the interpretation of data. The cross-sectional analysis of plasma Aβ isoforms suggests that they may not be sufficient per se to diagnose AD. The value of their measurement in prognosis and monitoring of AD interventions needs further study, in addition to future longitudinal comparisons together with other predictors, which will determine whether plasma Aβ has diagnostic value in apanel of biomarkers.」
(訳:要約 アミロイドβ(Aβ)は、アルツハイマー病(AD)の発症において、中心的な役割を果たしており、ADの潜在的なバイオマーカーとみなされてきた。しかしながら、ADバイオマーカーとしての適性に関しては、コンセンサスが得られていない。本研究の目的は、ADバイオマーカーとして、そして、そのAβ蓄積との関係において血漿Aβの重要性を決定すること、およびAβレベルの解釈に対する異なるアッセイ方法の影響を決定することであった。十分に特徴づけられた加齢に関するオーストラリアにおける画像処理、バイオマーカー及びライフスタイル(AIBL)研究(AustralianImaging, Biomarkers and Lifestyle (AIBL) study of aging)から選択された1032人において、血漿Aβ_(1-40)、Aβ_(1-42)及びN末端切断断片を、市販のマルチプレックスアッセイと、十分に裏付けされているELISA法の両方を用いて測定した。さらに、Aβレベルについてピッツバーグ化合物B(PiB)を用いたポジトロン断層撮影(PET)から算出されたAβ蓄積と比較した。より低いAβ_(1-42)及びAβ_(1-42/1-40)比が、AD患者で観察され、PiB-PETから算出されたAβ蓄積と反比例した。しかしながら、アッセイ方法は、データ解釈に重大なインパクトを与えた。血漿Aβアイソフォームのクロスセクション分析は、それらがAD診断には十分ではないかもしれないことを示唆する。ADの治療介入の予後診断やモニタリングにおけるそれらの測定価値は、他の予測因子と共に、将来、長期的に比較することに加えて、血漿Aβがバイオマーカーパネルにおいて診断価値を有しているか否かを決定する、さらなる研究を必要とする。)

(甲1ウ)第1234頁下段左欄10行?下から3行
「The development of an effective and early diagnostic test for AD is essential, as it may allow detection of disease before the onset of symptoms, when damage to the brain can be reasonably expected to be minimal. Neuropsychological and clinical assessments currently distinguish between cognitively normal individuals and patients with AD with an overall accuracy of ?80% [3]. However, accuracy of diagnosis declines at the early stages of AD due to overlap in neuropsychological presentation between prodromal AD and normal aging. Amyloid-β (Aβ), intimately involvement in the pathogenesis of AD, is speculated to be a plausible biomarker for AD. A decline in Aβ levels in the cerebrospinal fluid (CSF) has been reported to help distinguish between patients with AD and normal elderly individuals [4-8]. Further, several studies using Enzyme-Linked Immuno-Sorbent Assays (ELISA) report a relationship between ratiometric levels of Aβ (Aβ_(1-42/1-40)) in CSF, compared with healthy aged controls [9,10], although with overlapping data ranges. Further, recent advances in Aβ imaging through the use of Pittsburgh compound B (PiB) coupled with positron-emission tomography (PET)[11, 12] have yielded promising data. Significant relationships have been described between PiB-PET derived Aβ load and memory and cognitive performance[13], apolipoprotein E (APOE) genotype [14,15], and CSF biomarkers [16,17].Whilst these results are promising, different sampling sources, such as blood,may be more accessible to the wider community.」
(訳:アルツハイマー病に対する効果的かつ早期の診断テストの開発が必須であり、それにより脳への損傷が最小であると合理的に期待されうる、症状の発症前の病気の発見が可能となるであろう。最近の神経心理学と医療面からの評価によれば、認知機能正常者とAD(アルツハイマー病)患者とは総体的に80%までの正確さをもって区別できるが、ADの初期段階での診断の正確性はADの前駆症状と正常老化との間での神経心理学的な見え方にオーバーラップがみられることから低下していく。アミロイドβ(Aβ)はADの発症に緊密に関与するものであって、ADの有望なバイオマーカーと考えられているものである。脳脊髄液におけるAβレベルの減少はADの患者と正常な高齢者との区別の手助けになると報告されている。さらに、いくつかのELISA法を使った研究によれば、脳脊髄液におけるAβ(AAβ_(1-42/1-40))のレベルの比の関係について、データにオーバーラップはあるものの、健常高齢者をコントロールとして比較したものが報告されている。さらに、ピッツバーグ化合物B(PiB)を用いたポジトロン断層撮影(PET)によるAβイメージングの最近の進展により期待のできそうなデータが得られている。重要な関係が、PiB-PETから算出されたAβ蓄積と記憶や認知パフォーマンス、アポリポタンパク質E(APOE)の遺伝子型、CSFバイオマーカーとの間で報告されている。これらの結果は有力ではあるが、血液のようなこれまでと違った試料のソースはより広く社会に受け入れられるだろう。)

(甲1エ)第1234頁下段右欄下から10?5行
「Here we report plasma Aβ data from baseline using two separate methodologies, a commercial multiplex assay and a well-documented ELISA technique. Additionally, in a subset of the cohort,correlations with PiB-PET derived Aβ plaque load are also reported.」
(訳:ここで、我々は、市販のマルチプレックスアッセイと十分に裏付けられているELISA法の二つの方法を用いた基準値からの血漿Aβのデータを報告した。さらに、コホートのサブセットにおいて、PiB-PETから算出されたAβプラークの蓄積との相関関係をも報告した。)

(甲1オ)第1234頁下段右欄下から4行?第1235頁右欄29行
「METHODS AND MATERIALS
The AIBL Cohort
The cohort recruitment process and neuropsychological, cognitive, and mood assessments have been described previously [35]. A clinical review panel met to discuss baseline classifications to ensure that diagnoses were made in a consistent manner according to internationally agreed criteria [36-38]. The final clinical classification of individuals, that presented with a diagnosis of AD or mildcognitive impairment (MCI) at baseline or were healthy controls who required further investigation, was based on the panels consensus diagnosis and was made prior to obtaining variables such as Aβ levels, PiB-PET imaging, or APOE genotype, determined as previously described [39]. The institutional ethic scommittees of Austin Health, St Vincent’s Health, Hollywood Private Hospital and Edith Cowan University granted ethics approval for the AIBL study. All volunteers gave written informed consent before participating in the study.

Sample collection and Aβ assays
Plasma Aβ was measured using a commercial kit (INNO-BIA plasma Aβ assay, Innogenetics, Inc.; Perth and Melbourne sites) and a well-documented double sandwich ELISA (Mehta ELISA) technique [6,9,24](Perth site only). Plasma was isolated from 15 mL of whole blood collected in standard EDTA tubes with added prostaglandin E1 (Sapphire Biosciences, 33.3ng/ml) and stored in liquid nitrogen prior to the analysis of all samples [35]. The INNO-BIA multiplex assay, based on the Luminex xMAP technique, allows for the simultaneous measurement of Aβ_(1-40) and Aβ_(1-42) (module A) or Aβ fragments (Aβ_(n-40) and Aβ_(n-42); module B). Both modules were run according to manufacturer’s instructions with the addition of an inter-plate probe wash step (Perth site). Assays were read on a Luminex xMAP reader system (Bio-Plex 200 System, Bio-Rad). The Mehta ELISA utilizes, as the capture assembly, the monoclonal antibody 6E10 and two different biotinylated polyclonal antibodies for the detection of Aβ_(1-40) and Aβ_(1-42).The assay was carried out as previously described [6,24] with absorbance measurements collected at 450nm (FluoroStar, BMG).

Brain imaging
A subset of 286 participants was randomly selected for PiB-PET imaging using the methodology described previously[13,40]. Briefly, 3D T1 MPRAGE and a T2 turbospin echo and FLAIR sequence MRI was acquired for screening and co-registration with the PET images. PET standardized uptake value (SUV) data acquired 40-70 min post ^(11)C-PiB injection were summed and normalized to the cerebellar cortex SUV, resulting in a region to cerebellar ratio termed the SUV ratio (SUVR). This subset of samples was assayed at both sites using the INNO-BIA assay (batch numbers were identical acrosssites) with a total of 255 individuals presenting with a complete set of data.

Statistical analysis
Statistical analyses were conducted using PASW Statistics (version 17.0.2; SPSS Inc., USA). Variables were assessed for conformation to a normal distribution with departure corrected using Box-Cox transformations [41]; in most cases where transformation was required the calculated lambda equated to a natural logarithm (ln) or ln(X+1) transformation,in the case of Aβ ratios. Continuous variables were analyzed by oneway Analysis of Variance (ANOVA) with Tukey’s HSD post-hoc analysis, whilst categorical variables were analyzed using the χ^(2)-test. Differences in Aβ levels were further assessed in an analysis of covariance (ANCOVA) that adopted ageneral linear model (GLM) procedure, adjusting for age, gender, and APOE genotype. Correlations between Aβ isoforms, between assays and between Aβlevels and SUVR were assessed using Pearson’s bivariate correlations. Estimated risk ratios for the conversion to MCI (from healthy control) or AD (from healthy control or MCI) were determined by multinomial logistic regression for standard deviation change and tertile increases in Aβ isoforms or ratios.」
(訳:方法と材料
AIBLコホート
このコホートの募集活動及び神経心理学や認知力、気分に関する評価については、以前の研究で報告されている。臨床審査委員会を開催し、国際合意基準に適合する方法で診断が行われるよう、ベースライン時の分類について検討した。ベースライン時にAD又は軽度認知障害(MCI)と診断された対象者、又は健常者コントロールに含まれ、更に調査が必要な対象者の最終的な臨床分類については、以前の研究で取り決めが報告されているとおり、委員会で合意の得られた診断に基づき、AβレベルやPiB-PETイメージング、APOE遺伝子型などの変数を取得する前に実施した。Austin Health、St Vincent’s Health、Hollywood Privae Hospital、Edith Cowan Universityの各施設の倫理委員会によって、AIBL研究に対する倫理承認がなされた。全てのボランティア参加者から、研究に参加する前に同意書の提出を受けた。

サンプル回収とAβアッセイ
血漿Aβを市販のキット (INNO-BIA plasma Aβ assay, Innogenetics, Inc.;パース及びメルボルンサイト)及び十分に裏付けされているダブルサンドイッチELISA(Mehta ELISA)技術(パースサイトのみ)を用いて測定した。血漿は、プロスタグランジンE1(Sapphire Biosciences,33ng/ml)を添加した標準EDTAチューブに回収した15mlの全血から単離し、全てのサンプルの分析まで液体窒素中で保存した。INNO-BIAマルチプレックスアッセイは、Luminex xMAP技術に基づいており、Aβ_(1-40)及びAβ_(1-42)(モジュールA)又はAβ断片(Aβ_(n-40)及びAβ_(n-42);モジュールB)の同時測定を可能にする。両方のモジュールは、プレート間プローブ洗浄工程を追加して(パースサイト)、製造者の指示書に従って実行された。アッセイはLuminex xMAP読取システム(Bio-plex 200 System,Bio-Rad)によって読み取った。Mehta ELISAは、Aβ_(1-40)及びAβ_(1-42)の検出のため、捕捉アセンブリとして、モノクローナル抗体6E10と2つの異なるビオチン化ポリクローナル抗体を使用する。アッセイは、以前述べられているとおり、450nmで収集された吸光度測定(FluoroStar,BMG)で行われた。

脳のイメージング
以前に述べられている方法によってPiB-PETイメージングを実施するため、参加者から無作為に選出し、286名からなるサブセットを構成した。スクリーニングとPET画像との位置合わせを目的として、3D T1 MPRAGEとT2 turbo spin echo及びFLAIRシーケンスMRIによる画像を短時間のうちに取得した。11C-PiBの投与後40?70分後に取得したPET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した。その結果、小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)を取得した。このサンプルのサブセットについて、両サイトにおいてINNO-BIAアッセイ(サイト間でバッチ番号は同一であった)を用いてアッセイを行い、255名から完全な一連のデータを取得できた。

統計分析
PASW Statistics(バージョン17.0.2/SPSS Inc./USA)を使用して統計分析を行った。変数は、正規分布に対する一致の度合いを評価し、逸脱をBox-Cox変換を用いて補正した。変換を必要とする大部分の事例では、計算されたラムダはAβ比に関しては自然対数(ln)又はln(X+1)変換と一致した。連続変数については、1要因分散分析(ANOVA)によってTukey’s HSD事後解析の手法を用いて解析した。一方で、カテゴリー変数については、χ^(2)検定によって解析した。Aβレベルの差異については、一般線形モデル(GLM)の手順を用いた共分散分析(ANCOVA)により、年齢、性別、APOE遺伝子型を調整して更に評価を行った。Aβアイソフォームや各アッセイ間、AβレベルとSUVRの相関関係について、ピアソンの二変量相関を用いて評価した。MCIへの転換(健常者コントロールから)又はADへの転換(健常者コントロール又はMCIから)に関しては、多項ロジスティック回帰分析によって、Aβアイソフォーム又はAβ比における標準偏差変化値と三分位増加に対するリスク比の概算値を算出した。)

(甲1カ)第1236頁中段(Table 2)
「 Table 2
Baseline plasma Aβ levels in the AIBL cohort. Plasma Aβ levels measured via the ^(1)INNO-BIA plasma Aβ assay kit (Innogenetics Inc) and the ^(2)Mehta ELISA. Plasma Aβ_(n-40 )and Aβ_(n-42) levels measured using the INNO-BIA plasma Aβ assay(Innogenetics Inc). Aβ ratios were calculated from measured plasma Aβ isoform/fragment levels. Values represent mean ± S.D. ^(3)ANOVA without covariates, ^(4)ANCOVA controlling for age, gender, and APOE genotype


(訳:表2
AIBLのコホートにおける血漿Aβレベルの基準値。INNO-BIA血漿Aβアッセイキット^(1)(Innogenetics社製)とMehta ELISA法^(2)により測定した血漿Aβのレベル。INNO-BIA血漿Aβアッセイ(Innogenetics社製)により測定した血漿Aβ_(n-40)とAβ_(n-42)とのレベル。測定された血漿Aβアイソフォーム/断片のレベルからAβ比が計算された。値は、平均±標準偏差、共変量を考慮しない分散分析(ANOVA)^(3)、年齢、性別及びAPOE遺伝子型に関して統制した共分散分析(ANCOVA)^(4)を示す。)

(甲1キ)第1236頁下段左欄1行?第1238頁下段右欄1行
「Aβ characterization using a multiplex Aβ assay and an Aβ ELISA
Plasma Aβ_(1-40), Aβ_(1-42 )and plasma Aβ fragment (Aβ_(n-40), Aβ_(n-42)) levels, measured in both assays, are presented in Table 2. Plasma Aβ_(1-40) was strongly correlated with Aβ_(1-42) (INNO-BIA assay, R = 0.470, P < 0.001, Supplemental Fig. 1 (supplement available online: http://www.j-alz.com/issues/20/vol20-4.html#supplementarydata02); ELISA, R = 0.573, P <0.001; SupplementalFig. 2). Inverse correlations for both Aβ isoforms were observed between assays(Aβ_(1-40), R = -0.185, P = 0.003; Aβ_(1-42), R =-0.172, P =0.006; Fig. 1A, B), while Aβ_(1-42/1-40) ratio did not show any correlation (R = -0.095, P =0.129; Fig. 1C).
ELISA measured plasma Aβ_(1-40)and Aβ_(1-42) levels and Aβ_(1-42/1-40) ratio were not significantly altered across groups, although Aβ_(1-40) and Aβ_(1-42)levels tended to be higher for MCI than other groups. However, significant differences were observed for Aβ levels as measured via the INNO-BIA plasma Aβassay. Aβ_(1-42) levels were decreased in both AD and MCI groups compared to HC (Tukey’s HSD: MCI>HC, P = 0.037; AD>HC, P = 0.01); however, there was no statistical difference between MCI and AD groups (Tukey’sHSD, P = 0.981). Aβ_(1-42/1-40) ratio was significantly lower in the AD group compared to the HC group (Tukey’s HSD, P = 0.008). There were no significant differences in Aβ_(1-40). Only Aβ_(1-42) levels remained significant after controlling for age, gender, and APOE genotype. High Aβ_(1-42) levels were found to be associated with a decreased risk for dementia compared to controls (Table 3); individuals in the upper tertile of both AD and MCI groups had a 2-fold decreased risk but no significant risk was attributed to comparisons between MCI and AD. Neither Aβ_(1-40) levels nor Aβ_(1-42/1-40) ratio were associated with altered risk. While controlling for age in a GLM ANCOVA, a strong main effect of age was consistently observed. When plasma Aβ isoforms and ratios were plotted against age for each group (Supplemental Fig. 3), it revealed that differences between groups are more apparent in the earlier age groups; however, these differences did not reach statistical significance.
Plasma Aβ_(n-40) was significantly elevated in both AD and MCI when compared to HC (Tukey’s HSD:AD,P <0.001; MCI, P = 0.044) with no difference observed between MCI and AD(Tukey’s HSD, P =0.504). The significance of this finding is tempered by levels of Aβ_(n-40) being significantly lower than the levels of Aβ_(1-40)(T-Test, P<0.001). In contrast, the observed decrease in Aβ_(1-42 )in AD was not accompanied by either a concomitant change in Aβ_(n-42 )levels or any statistical differences between Aβ_(n-42) and Aβ_(1-42 )within groups. However, the decreasing Aβ_(1-42/1-40) ratio was reflected by a parallel significant decrease in Aβ_(n-42/n-40) ratio, although like full-length ratios this failed to remain significant aftercontrolling for age, gender, and APOE genotype. Levels of Aβ_(n-40 )were associated with significantly altered risk for dementia (Table 3); individuals in the upper tertile had a 1.8-fold increased risk for AD. While a higher Aβ_(n-42/n-40) ratio was associated with a decreased risk for dementia compared to controls; individuals in the upper tertile had a 2-fold decreased risk.

Correlation of plasma Aβ and PiB-PET imaging (SUVR)
The PiB-PET subset was generally representative of the entire cohort with respect to age, cognition, frequency of the APOE-ε4 allele, and gender (Table 1), with the exception that the PiB-PET control subset had a higher frequency of the APOE-ε4 allele and the PiB-PET AD subset were slightly younger. As previously reported [42], PiB-PET provided good distinction between different groups, with significant differences between all clinical classifications (Tukey’s HSD: HC Comparison of plasma Aβ levels between sites revealed absolute levels of both isoforms were higher at the Melbourne site but a strong correlation was observed between sites (Aβ_(1-40), R= 0.511,P <0.001; Aβ_(1-42), R = 0.566,P < 0.001; Aβ_(1-42/1-40), R =0.475, P < 0.001; Supplemental Fig. 4) and trends across clinical classification were similar for Aβ_(1-42) and Aβ_(1-42/1-40 )ratio. After correction for age, gender, and APOE genotype all the associationsheld, except for that of Aβ_(1-42/1-40) ratio, at the Perth site. Correlations of plasma Aβ isoforms and ratios with SUVR derived from PiB-PET imaging were consistent between sites. Negligible correlations were apparent between Aβ_(1-40) and SUVR (Fig. 2A), while Aβ_(1-42) and Aβ_(1-42/1-40 )ratio showed significant inverse correlations with SUVR (Fig. 2B and 2C). When analyzed within groups, these correlations were no longer statistically significant (Supplementary Table 1).」
(訳:マルチプレックスAβアッセイ及びAβ ELISA法を用いたAβの特性評価
血漿Aβ_(1-40)、Aβ_(1-42)、血漿Aβ断片 (Aβ_(n-40)、Aβ_(n-42))のレベルを両方のアッセイによって測定した結果を表2に示している。血漿Aβ_(1-40)とAβ_(1-42)には強い相関が認められた(INNO-BIAアッセイ、R=0.470、P<0.001、補足図1(補足資料は次のアドレスからオンラインにて入手可能。http://www.j-alz.com/issues/20/vol204.htm1#supplementary data02)、ELISA、R=0.573、P<0.001;補足図2)。両方のAβアイソフォームに関して、アッセイ間で逆相関関係が見られた(Aβ_(1-40)、R=-0.185、P=0.003;Aβ_(1-42)、R=-0.172、P=0.006;図1A、B)。一方で、Aβ_(1-42/1-40)比には相関は認められなかった(R=-0.095、P=0.129;図1C)。
ELISA法により測定した血漿Aβ_(1-40)とAβ_(1-42)のレベル及びAβ_(1-42/1-40)比については、群の間で有意な変化は認められなかったが、Aβ_(1-40)とAβ_(1-42)のレベルは、MCIが他の群より高い傾向にあった。しかしながら、INNO-BIA血漿アッセイにより測定したAβレベルには有意差が認められた。Aβ_(1-42)のレベルは、AD群とMCI群の両方で、HCと比較して減少が見られた(Tukey’s HSD:MCI>HC、P=0.037;AD>HC、P=0.01)が、MCI群とAD群間では統計的差異は認められなかった(Tukey’s HSD、P=0.981)。Aβ_(1-42/1-40)比は、HC群と比べてAD群で有意に低かった(Tukey’s HSD、P=0.008)。Aβ_(1-40)に関して、有意差は認められなかった。Aβ_(1-42)のレベルのみが、年齢、性別及びAPOE遺伝子型に関して統制した後にも有意な値を保っていた。Aβ_(1-42)の高いレベルは、コントロールと比較して認知症リスクの減少と関連することが判明した(表3)。AD群及びMCI群の両方で上位三分位に入る参加者は、リスクが2分の1に減少していたが、有意なリスク要因をMCI群とADの比較から導くことはできなかった。Aβ_(1-40)レベルもAβ_(1-42/1-40)比も、共にリスクの変化との関連は認められなかった。GLM ANCOVAにおいて年齢に関して統制を行うと、年齢による強い主作用が常に認められた。各群の年齢に対応する血漿AβアイソフォームとAβ比を図(補足図3)に示すと、群の間の差異は年齢の若いグループにおいてより顕著に見られることが判明した。しかし、こうした差異は統計的有意差には至らなかった。
血漿Aβ_(n-40)は、HCと比較してAD、MCIの両方で有意に上昇したが(Tukey’s HSD:AD、P<0.001;MCI、P=0.044)、MCIとADの間に差異は見られなかった(Tukey’s HSD、P=0.504)。この知見の意義は、Aβ_(n-40)のレベルがAβ_(1-40)のレベルと比較して有意に低いことによって薄れている(T-Test、P<0.001)。これとは対照的に、ADにおいて観察されたAβ_(1-42)の減少については、付随して起こるAβ_(n-42)のレベルの変化も、群内でのAβ_(n-42)とAβ_(1-42)との間の統計的差異も共に見られなかった。しかしながら、Aβ_(1-42/1-40)比の減少は、並行して生じたAβ_(n-42/n-40)比の有意な減少に反映された。ただしこれは全長比と同様、年齢、性別、APOE遺伝子型に関して統制した後には有意な値を保つことはなかった。Aβ_(n-40)のレベルは認知症リスクの有意な変化との関連が認められた(表3)。その上位三分位に入る参加者はADのリスクが1.8倍増加した。一方でAβ_(n-42/n-40)比の高値は、コントロール群と比較して認知症リスクの減少との関連が認められた。その上位三分位に入る参加者は、リスクが2分の1に減少した。

血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関
PiB-PETサブセットは、PiB-PETのコントロールサプセットがAPOE-ε4アレルのより高い頻度を有したことと、PiB-PETのADサブセットが多少、年齢が若かったことを除いて、年齢、認知力、APOE-ε4アレルの頻度及び性別に関して、一般的に、全コホートを代表するものであった(表1)。従前報告されているように、PiB-PETは、異なる群を適切に区別し、全ての臨床的分類間で有意差があった(Tukey’sHSD:HC<MCI(P<0.001)<AD(P<0.001);表4)。この関連性は、年齢、性別、APOE遺伝子型に関して統制した後も保たれ、年齢とAPOE遺伝子型が、強い主効果を有していた(ANCOVA、P<0.001)。血漿Aβ_(1-40)に関しては、PiB-PETサブセットは、全コホートとは対照的な結果を示し、HCに比べてADで減少した(Tukey’s HSD、P=0.049)。血漿Aβ_(1-42)は、コホート全体と同様の傾向を示し、HCに比べてMCI及びAD群において、顕著に減少したレベルであった(Tukey’sHSD:MCI、P<0.001;AD、P=0.007)。Aβ_(1-42/1-40)比における有意差は、各群の間で明らかであったが、この関連性は、MCIとHC群の間の違いによってもたらされた(Tukey’s HSD、P<0.001)。
両方のアイソフォームの絶対レベルを示した、サイト間の血漿Aβレベルの比較は、メルボルンサイトの方が高かったが、サイト間での強い相関が認められ(Aβ_(1-40), R=0.551、P<0.001;Aβ_(1-42)、R=0.556、P<0.001;Aβ_(1-42/1-40)、R=0.475、P<0.001;補足図4)、臨床的分類間の傾向は、Aβ_(1-42)及びAβ_(1-42/1-40)比において同様であった。年齢、性別及びAPOE遺伝子型の補正後も、パースサイトにおいて、Aβ_(1-42/1-40)比を除いて、全ての関係は維持された。血漿Aβアイソフォーム及び比率と、PiB-PETイメージングから算出されたSUVRとの相関は、サイト間で一致した。Aβ_(1-42)とAβ_(1-42/1-40)比がSUVRと有意な逆相関を示す(図2B及び2C)一方で、ごくわずかな相関が、Aβ_(1-40)とSUVR間で認められた(図2A)。各群内の分析では、これらの相関は統計的に有意ではなかった(補足表1)。)

(甲1ク)第1238頁中段(Table 4)
「 Table 4
Plasma Aβ levels in the PiB-PET subset. Plasma Aβ levels measured via the INNO-BIA plasma Aβ assay kit (InnogeneticsInc) at the ^(1)Perth and ^(2)Melbourne sites. Aβ_(1-42/1-40 )ratios were calculated from measured plasma Aβ isoform levels. Values represent mean ± S.D.^( 3)ANOVA without covariates, ^(4)ANCOVA controlling for age, gender, and APOE genotype


(訳:表4
PiB-PETサブセットにおける血漿Aβレベル。血漿Aβレベルは、パース^(1)とメルボルン^(2)のサイトでINNO-BIA血漿Aβアッセイキット(Innogenetics Inc)を用いて測定した。Aβ_(1-42/1-40)比は、血漿Aβアイソフォームのレベルの測定値から算出した。値は平均土標準偏差、共変量を考慮しない分散分析(ANOVA)^(3)、年齢、性別及びAPOE遺伝子型に関して統制した共分散分析(ANCOVA)^(4)を示す。)

(甲1ケ)第1239頁上段(Fig. 2)


Fig. 2. Correlation of PiB PET imaging with plasma Aβ measurements. Aβ_(1-40) (A), Aβ _(1-42) (B), and the Aβ_(1-42/ 1-40) ratio (C) as measured by the INNO-BIA plasma Aβ assay were plotted against the corresponding SUVR. Pearson’s correlations were consistent between Perth (A, B, C) and Melbourne (A’, B’, C’) sites.」
(訳:図2 血漿Aβ測定値とPiB-PETイメージングとの相関。INNO-BIA血漿Aβアッセイによって測定したAβ_(1-40)(A)、Aβ_(1-42)(B)、Aβ_(1-42/1-40)比(C)を対応するSUVRに対してプロットした。ピアソンの相関は、パース(A, B, C)サイトとメルボルン(A’, B’,C’)サイトで一致した。)

(甲1コ)第1240頁左欄第10?20行
「This study is one of the first to investigate the value of plasma Aβ in context with PiB-PET derived Aβ load. Previous significant relationships described between PiB-PET derived Aβ load and memory and cognitive performance [13] and APOE genotype [14,15] were confirmed in this study. Further, significant correlations between PiB-PET derived Aβ load and plasma Aβ were observed in this study, similar to thatreported between CSF biomarkers and Aβ load [16,17] whereby increased Aβ loadwas reflected by decreased plasma Aβ levels.」
(訳:この研究はPiB-PETから算出されたAβ蓄積に関連して、血漿Aβの値を検討した最初の研究の一つである。以前から指摘されていたPiB-PETから算出されたAβ蓄積と、記憶、認知機能及びAPOE遺伝子型との有意な関係についてはこの研究でも確認された。さらに、この研究では、PiB-PETから算出されたAβ蓄積と血漿Aβとの間の有意な相関関係が観察され、CSFバイオマーカーとAβ蓄積との間で報告されているのと同様に、増加したAβ蓄積は減少した血漿Aβレベルに反映されるものであった。)

イ (甲1ク)の表4の記載から、INNO-BIA血漿Aβアッセイキット(Innogenetics Inc) を用いて血漿Aβレベルを測定したPiB-PETサブセット255名の臨床分類の内訳は、健常者コントロール(HC)167名、軽度認知障害(MCI)51名、アルツハイマー病(AD)38名であることが読み取れる。

ウ そうすると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 十分に特徴づけられた加齢に関するオーストラリアにおける画像処理、バイオマーカー及びライフスタイル(AIBL)研究(Australian Imaging, Biomarkers andLifestyle (AIBL) study of aging)から選択された1032人の参加者から、PiB-PETイメージングを実施するために、無作為に選出した286名からなるサブセットを構成し、
PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)を取得し、
市販のINNO-BIA血漿Aβアッセイキット(Innogenetics Inc) を用いて血漿Aβレベルを測定し、サブセットのうちの255名から完全な一連のデータを取得し、
ここで、上記の255名の臨床分類の内訳は、健常者コントロール(HC)167名、軽度認知障害(MCI)51名、アルツハイマー病(AD)38名であり、
血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について、
・血漿Aβ_(1-42)は、HCに比べてMCI及びAD群において、顕著に減少したレベルであること、
・Aβ_(1-42/1-40)比における有意差は、各群の間で明らかであるが、この関連性は、MCIとHC群の間の違いによってもたらされたものであること、
・Aβ_(1-42)とAβ_(1-42/1-40)比がSUVRと有意な逆相関を示すこと、
・各群内の分析では、これらの相関は統計的に有意ではないこと、
を確認したこと。」

(2)甲2について

ア 甲2には以下の記載がある。

(甲2ア)第1頁1?2行(論文タイトル)
「An Operational Approach to NIA-AA Criteriafor Preclinical Alzheimer's Disease」
(訳:アルツハイマー病の前臨床についてのNIA-AAの基準への運用上のアプローチ)

(甲2イ)第1頁下から9?3行
「Results-The new criteria subdivide the preclinical phase of AD into stages 1-3. To classify our CN subjects, two additional categories were needed. Stage 0 denotes subjects with normal AD biomarkers and no evidence of subtle cognitive impairment. Suspected Non-AD Pathophysiology (SNAP) denotes subjects with normal amyloid PET imaging, but abnormal neurodegeneration biomarker studies. At fixed cut-points corresponding to 90% sensitivity for diagnosing AD and the 10th percentile of CN cognitive scores, 43% of our sample was classified as stage 0; 16% stage 1; 12 % stage 2; 3% stage 3; and 23% SNAP.」
(訳:結果一新しい基準では、ADの前臨床段階を1?3のステージに分けている。認知的に正常な被験者を区別するために、さらに2つのカテゴリーが必要であった。ステージ0は、ADバイオマーカーが正常であり、軽微な認知機能障害のエビデンスもない被験者が該当する。非AD病態生理の疑いのある被験者(SNAP)は、アミロイドPETイメージングは正常だが、異常な神経変性バイオマーカーが見られるものである。AD診断のための感度90%、及び認知的に正常な認知スコアーの10パーセンタイルに相当するカットポイントを固定したときの、サンプルの43%がステージ0に、16%がステージ1に、12%がステージ2に、3%がステージ3に分類され、そして、SNAPとしては23%が分類された。)

(甲2ウ)第2頁下3?18行
「Introduction
Studies of biomarkers for Alzheimer’sdisease (AD) have provided clear evidence for the existence of a preclinical phase of the disease. A panel commissioned by the National Institute on Agingand the Alzheimer’s Association (NIA-AA) recently proposed guidelines to define preclinical AD for research purposes [1]. The NIA-AA criteria were based on a conceptual model of the pathophysiology of AD [2] in which the biomarkers of AD become abnormal in an ordered manner [2-6]. Amyloid biomarkers (PET amyloid imaging and CSF Aβ42) become abnormal first, as early as 20 years before significant clinical symptoms appear. Biomarkers of neuronal injury and degeneration (CSF tau, FDG-PET, and anatomic MRI) become abnormal later, closer to the time when individuals become symptomatic. The NIA-AA preclinical criteria are related to this hypothetical biomarker model in Figure1. The NIA-AA criteria, therefore, identified stage 1 of preclinical AD as one of asymptomatic cerebral amyloidosis, and stage 2 as one in which evidence of synaptic dysfunction and neurodegeneration was also evident. The NIA-AA criteria further assert that subtle cognitive changes will be present in stage 3 and will precede the appearance of overt cognitive impairment.」
(訳:導入部
アルツハイマー病(AD)のバイオマーカーの研究によれば、病気には前臨床段階が存在することが明確な証拠をもって示されている。国立老化研究所とアルツハイマー学会(NIA-AA)とに委任された委員会は研究の目的のためのADの前臨床段階を定義するガイドラインを提案している。NIA-AAの基準は、ADバイオマーカーが順番に異常となるという、ADの病態生理の概念的なモデルに基づいている。アミロイドバイオマーカー(PETアミロイドイメージング及び脳脊髄液のAβ42)が最初に異常となり、それは重大な臨床的な兆候が表れる20年前から始まる。その後、神経損傷や神経変性のバイオマーカー(脳脊髄液のタウ蛋白質、F DG- P E T、解剖学的MRI)が遅れて異常を示し、発症する時点に近いものとなる。 NIA-AAの前臨床段階の基準は図1に示される仮説的なバイオマーカーのモデルに関連するものである。それゆえ、NIA-AAの基準は、ADの前臨床段階のステージ1を無症候性の脳アミロイドーシスと同定し、ステージ2をシナプスの機能不全と神経変性が明らかな状態と同定した。NIA-AA基準では、さらに、軽微な認知の変化がステージ3で見られ、それは明らかな認知障害の出現に先行するとしている。)

(甲2エ)第11頁


Figure 1.
Preclinical stages 1-3 of AD (indicated by the yellow highlighted section) in relation to our model of biomarkers of the AD pathological cascade. The horizontal axis indicates clinical stages of AD: cognitively normal, mildly impaired (MCI), and dementia. The vertical axis indicates the changing values of each biomarker - scaled from maximally normal (bottom) to maximally abnormal (top). Aβ amyloid biomarker is PET amyloid imaging (red line). Biomarkers of neuronal injury are FDG-PET or atrophy on MRI (blue line). Onset or worsening of cognitive symptoms is determined from cognitive testing scores (purple line). The horizontal “cut-points” line represents the cut-points used to operationalize preclinical staging.」
(訳:図1
ADの前臨床ステージ1?3(黄色で示された部分)はAD病理カスケードのバイオマーカーの我々のモデルに関連している。水平軸はADの臨床ステージを示しており、認知的に正常、軽微な障害(MCI)及び認知症である。垂直軸は、それぞれのバイオマーカーの変化値を示しており、完全な正常値(底部)から完全な異常値(頂部)へとスケールされている。AβアミロイドバイオマーカーはPETアミロイドイメージング(赤線)であり、神経損傷のバイオマーカーはFDG-PETあるいはMRIによる萎縮(青線)であり、認知症状の発症又は悪化は認知試験のスコアーから求めた(紫線)。水平のカットポイントの線は、前臨床の病期分類を運用可能にするためのカットポイントを示している。)

イ (甲2ア)ないし(甲2エ)の記載から、甲2には、次の技術事項(以下「甲2技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「 アルツハイマー病(AD)のバイオマーカーの研究によれば、病気には前臨床段階が存在することが明確な証拠をもって示されており、NIA-AAの基準は、ADの前臨床段階のステージ1を無症候性の脳アミロイドーシスと同定し、ステージ2をシナプスの機能不全と神経変性が明らかな状態と同定し、軽微な認知の変化がステージ3で見られ、それは明らかな認知障害の出現に先行するとしており、ステージ0は、ADバイオマーカーが正常であり、軽微な認知機能障害のエビデンスもない被験者が該当すること。」

(3)甲3について

ア 甲3には以下の記載がある。

(甲3ア)第50:1頁上段1?14行
「要約2011 年にNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA/AA)合同作業グループからアルツハイマー病(AD)の診断基準が発表された.AD を(1)AD による認知症(AD dementia),(2)ADを背景にした軽度認知障害(mild cognitive impairment dueto AD),(3)AD の発症前段階(preclinical stages of AD)の3 つの病期に分類した.近年進展の著しいMRI,FDG-PET,アミロイドイメージングを含む神経画像解析や脳脊髄液マーカー,AD 関連遺伝子検査などのバイオマーカーの知見が全面的に取り入れられた.ADdementia は,臨床診断のための主要臨床診断基準と脳脊髄液バイオマーカー(Aβ42 低下,タウとリン酸化タウ増加),MRI,FDG-PET,アミロイドイメージングなどの画像診断や,AD 関連遺伝子検査を含む研究用診断基準とに大きく分けられた.新しい診断基準ではAD は病理学的なプロセスであり,AD の発症前段階→AD を背景にしたMCI→AD 認知症のプロセスを一つのスペクトラムとして統一的にとらえ,そのステージでAD を区別している.抗アミロイド薬などのアミロイドカスケード仮説に基づいた治療薬の治験には,認知症が顕在化した臨床的AD 以前の時期が望ましいことが指摘されるようになり,早期の診断・評価が益々重要になりつつある.MCI due to AD,ひいてはpreclinicalstage of AD を同定し,超早期の介入・予防の方向性が明確になる中,臨床診断の在り方も大きく変化していることを反映した診断基準といえる.」

(甲3イ)第50:5頁下段右欄3行?第50:7頁下段左欄末行
「AD の発症前段階(preclinicalstages of AD)の定義に向けて?NIA/AA AD 診断ガイドライン作成ワークグループからの推奨^(8))
AD の病態生理学的過程は,臨床的AD が出現する何年も前から始まっていると考えられる.特に遺伝的に高リスクのコホートと高齢コホート双方で蓄積しつつあるエビデンスからは,AD の病理学的な進行過程の開始と臨床的に明確な認知機能障害の発症の間には10 年以上の時間的なずれがある可能性が示唆されている.この提言は,AD は病態生理学的過程が進行しつつある間の長い無症候期から始まり,早期のAD-P のバイオマーカー徴候を持つ人は認知行動異常やAD dementia への進行の危険性が高いという過程に立っている.現在最も早期に検出可能な病理学的変化はAβ 蓄積であると仮定して,Aβ 蓄積はAD の臨床症状の出現に必要であるが十分でない可能性がある.認知機能低下は,Aβ 蓄積に加えてシナプス機能不全と神経原線維変化や神経細胞脱落を含む神経変性の両方,もしくはいずれか一方が生じる状況において生じると思われる.MCI 以前の無症候性のAD の脳病理過程がAD の発症前段階(preclinical stagesof AD)という概念として取り入れられたわけである.AD の発症前段階は,MCI に先行し,典型的な老化過程から予期される低下を超え,元々の認知機能からのわずかな低下を呈するがまだMCI の基準を満たさないバイオマーカー陽性の個人だけでなく,発症前の常染色体優性遺伝性の変異の保因者やMDI due to AD やAD dementia への進行の危険がある無症状のバイオマーカー陽性の高齢者までを含んでいる(図1).
AD の発症前段階のバイオマーカーモデルでは,Aβ蓄積をAD の病態生理学的過程の中で鍵となる早期の事象とみなしている.Aβ の脳内蓄積のバイオマーカーはCSFAβ42 の低下とPET 画像でのアミロイドトレーサーの集積増加である.CSF タウの上昇はAD に特異的ではなく神経細胞損傷のバイオマーカーと考えられている.PET での18F 標識fluorodeoxyglucose(FDG)の取り込み低下による側頭頭頂葉の低代謝パターンはAD関連シナプス機能不全のバイオマーカーである.構造的MRI における内側側頭葉,傍辺縁系,側頭頭頂葉皮質を含む特徴的なパターンの脳萎縮はAD に関連した神経変性のバイオマーカーである(図2).
今回の提言ではAD の発症前段階の病期分類についても言及している(表10).
1)第一期:無症候性脳アミロイド沈着期
PET でのアミロイドトレーサーの滞留高値やCSFAβ42 低下のいずれか,または両方というAβ 蓄積のバイオマーカーエビデンスがあるが,神経変性あるいは軽微な認知機能低下や行動異常を示唆するさらなる脳変化のエビデンスは検出されない.
2)第二期:アミロイド陽性+シナプス機能不全および/または早期の神経変性
この病気に分類される個人はアミロイド陽性に加えて1 つ以上のAD の病態生理学的過程に関連した神経傷害のマーカー陽性を呈する.神経傷害のマーカーには,(1)CSF タウあるいはリン酸化タウ上昇,(2)FDG-PET においてAD 様パターン(後部帯状回,側頭頭頂葉皮質)の代謝低下,(3)容積定量MRI において特異的な解剖学的分布(外側および内側頭頂葉,後部帯状回,外側側頭葉)の皮質のひ白化や灰白質の体積減少,および/または海馬の萎縮である.
3)第三期:アミロイド陽性+神経変性の徴候+軽微な認知機能低下
この段階では,アミロイド蓄積と早期の神経変性バイオマーカーエビデンスに加えて軽微な認知機能低下の徴候を呈する個人はAD 発症前段階の最終段階にあり,提唱されているMCI の臨床診断基準との境界に近づきつつあるものと仮定している.この病期にあたる個人は,標準的な認知機能尺度においてはまだ正常範囲の能力を発揮するとしても自身の元来のレベルからの認知機能低下の徴候を呈していると考えられ,難易度の高いエピソード記憶評価法を用いた,より感度の高い認知機能尺度によりアミロイド陽性者において非常に軽微な認知機能障害を検出できるかもしれないというエビデンスが現れつつある.
この長い「発症前」段階は治療介入によって重要な機会をもたらす可能性があるが,そのためにはAD の段階的な病理学的進行過程と臨床症状の出現との関係をさらに明らかにする必要がある.これらの提言は専ら研究目的に意図されており,現時点では臨床的利用の含意は全くないと述べられている.発症前段階でのAD の「診断」を行うことの将来的な実現をめぐる倫理的また実際的な影響についても十分に注意深く検討されなければならないと述べられている.しかし,この提言がAD の発症前段階の研究を発展させるための共通の解釈を提供し,究極的にはなんらかの疾患修飾治療薬が最も効果のある病期における,早期の治療介入へと進んでいく助けとなる可能性を示唆する.」

イ (甲3ア)及び(甲3イ)の記載から、甲3には、次の技術事項(以下「甲3技術事項」という。)が記載されていると認められる。

「 AD の病態生理学的過程は、臨床的AD が出現する何年も前から始まっていると考えられ、
NIA/AA AD 診断ガイドライン作成ワークグループからの推奨では、MCI 以前の無症候性のAD の脳病理過程がAD の発症前段階(preclinical stages of AD)という概念として取り入れられ、
AD の発症前段階の病期分類には、第一期:無症候性脳アミロイド沈着期、第二期:アミロイド陽性+シナプス機能不全および/または早期の神経変性、第三期:アミロイド陽性+神経変性の徴候+軽微な認知機能低下、があり、
長い「発症前」段階は治療介入によって重要な機会をもたらす可能性があること。」

3 当審の判断

(1)特許法第29条第2項について

ア 本件特許発明1について

(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「サブセットのうちの255名」は、本件特許発明1の「被験対象」に相当する。

b 甲1発明の「Aβ_(1-42)」は、本件特許発明1の「APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)」に相当する。

c 甲1発明の「Aβ_(1-40)」は、本件特許発明1の「APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)」に相当する。

d 甲1発明の「測定し」た「血漿Aβレベル」に、「血漿Aβ_(1-42)レベル」及び「血漿Aβ_(1-40)レベル」が含まれることは明らかである。

e 甲1発明の「完全な一連のデータ」に、「Aβ_(1-42/1-40)比」が含まれることは明らかである。

f 甲1発明の「Aβ_(1-42/1-40)比」と、本件特許発明1の「APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)」とは、「APP672-713(Aβ1-42)レベルとAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比」で共通する。

g 上記aないしfを踏まえると、
甲1発明の「市販のINNO-BIA血漿Aβアッセイキット(Innogenetics Inc) を用いて血漿Aβレベルを測定し、サブセットのうちの255名から完全な一連のデータを取得」することと、
本件特許発明1の「被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、
APP669-711(配列番号7)、APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)、APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)、APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)、APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、
前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、 APP669-711、APP672-709(Aβ1-38)、APP674-711(Aβ3-40)、APP672-710(Aβ1-39)、APP672-711(Aβ1-40)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP669-711レベルの比:APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-709(Aβ1-38)レベルの比:APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP674-711(Aβ3-40)レベルの比:APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-710(Aβ1-39)レベルの比:APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42); 及び
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するOxAPP672-711(OxAβ1-40)レベルの比:OxAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程とを行」うこととは、
「被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、
APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)とを含むマーカーの検出に供して、
前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、APP672-711(Aβ1-40)との各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルとAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比を求める算出工程とを行」うことで共通する。

h 甲1発明の「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)」は、本件特許発明1の「被験対象の脳内Aβの蓄積量」に相当する。

i 上記hを踏まえると、甲1発明の「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)を取得し」、「血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について」、「Aβ_(1-42/1-40)比がSUVRと有意な逆相関を示すこと」「を確認したこと」と、本件特許発明1の「被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量よりも多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法」とは、「被験対象の前記比と被験対象の脳内Aβの蓄積量とを関連付けること」で共通する。

(イ)上記(ア)の対比から、本件特許発明1と甲1発明とは、

「被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、
APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)とを含むマーカーの検出に供して、
前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、APP672-711(Aβ1-40)との各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルとAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比を求める算出工程とを行い、
被験対象の前記比と被験対象の脳内Aβの蓄積量とを関連付けること。」

の発明である点において一致し、次の相違点1及び2において相違する。

(相違点1)
APP672-713(Aβ1-42)レベルとAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比が、本件特許発明1においては、「APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)」であるのに対し、甲1発明においては、「Aβ_(1-42/1-40)比」である点。

(相違点2)
被験対象の前記比と被験対象の脳内Aβの蓄積量とを関連付けることが、本件特許発明1においては、「被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量よりも多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法」であるのに対し、甲1発明においては、「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)を取得し」、「血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について」、「Aβ_(1-42/1-40)比がSUVRと有意な逆相関を示すこと」「を確認したこと」であり、「脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-の前記各比を基準レベルとして」「脳内のAβ蓄積状態を判断する」ことは特定されていない点。

(ウ)事案に鑑み、最初に上記相違点2について検討する。

甲1発明は、血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について、Aβ_(1-42/1-40)比における有意差は、各群の間で明らかであるが、この関連性は、MCIとHC群の間の違いによってもたらされたものであること、及び、Aβ_(1-42/1-40)比がSUVRと有意な逆相関を示すことを確認しているが、脳アミロイドの沈着がない健常者コントロール(HC)と、脳アミロイドの沈着があるHCとの間で、Aβ_(1-42/1-40)比に有意差があることは確認していない。
また、甲1には、HCについて、脳アミロイドの沈着の有無に関する差異があることは記載されていない。
その点、甲2技術事項及び甲3技術事項から、アルツハイマー病(AD)の脳病理過程には、軽度認知障害(MCI) 以前の無症候性の発症前段階があり、当該発症前段階は、第一期の脳アミロイドの沈着から始まること、それ以前の脳アミロイドの沈着がない状態とは区別されることが理解できる。
そして、甲3技術事項の「長い「発症前」段階は治療介入によって重要な機会をもたらす可能性があること」から、ADの発症前段階であることを認識することには意義があるといえる。
しかしながら、甲2及び甲3には、血漿Aβをマーカーとして脳アミロイドの沈着を判定することにより、ADの発症前段階であるか否かを判断できることは記載も示唆もない。
さらに、血漿Aβ測定値とPiB-PETイメージングとの相関を示す甲1の図2C及びC’を参照すると、Aβ_(1-42/1-40)比について、HCを表す白抜きの四角のプロットは、SUVRが1に近い範囲において高い値を示すものが散見されるものの、標準以下の値を示すものも多数あること、MCI及びADも含めてSUVRの全範囲にわたってAβ_(1-42/1-40)比の値が類似していることから、甲2及び甲3に接した当業者といえども、甲1の記載から、血漿Aβ_(1-42/1-40)比により脳アミロイドの沈着のないHCと他者とを区別できること、すなわち、脳アミロイドの沈着のないHCの血漿Aβ_(1-42/1-40)比を基準として脳アミロイドの沈着状態を判断することを想起し得たとはいえない。

(エ)したがって、上記相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件特許発明2について

(ア)本件特許発明2と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「血漿Aβ_(1-42)」は、本件特許発明2の「血液試料中の」「APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)」に相当する。

b 甲1発明の「Aβ_(1-42/1-40)比」は、「血漿Aβ_(1-42)」と「血漿Aβ_(1-40)」の比であるから、甲1発明の「Aβ_(1-42/1-40)比」と、本件特許発明2の「血液試料中のAPP669-711(配列番号7)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ: 及び
OxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ」とは、「血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)とその他のAβ様ペプチドとの組み合わせ」で共通する。

c 甲1発明の「SUVRと有意な逆相関を示す」「Aβ_(1-42/1-40)比」と、本件特許発明2の「脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカー」とは、「脳内のAβ蓄積状態と関連するもの」で共通する。

(イ)上記(ア)の対比から、本件特許発明2と甲1発明とは、

「血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)とその他のAβ様ペプチドとの組み合わせである脳内のAβ蓄積状態と関連するもの。」

の発明である点において一致し、次の相違点3及び4において相違する。

(相違点3)
血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と組み合わせる血液試料中のその他のAβ様ペプチドが、本件特許発明2においては、「APP669-711(配列番号7)」、「APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)」、「APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)」、「APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)」又は「OxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)」であるのに対し、甲1発明においては、「Aβ_(1-40)」である点。

(相違点4)
脳内のAβ蓄積状態と関連するものが、本件特許発明2においては、「脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカー」であるのに対し、甲1発明においては、「SUVRと有意な逆相関を示すこと」は確認しているものの、「SUVR」を判断するマーカーとすることは特定されていない点。

(ウ)上記相違点3について検討する。

(甲1キ)には、「Aβ_(n-40)のレベルは認知症リスクの有意な変化との関連が認められた」との記載はあるものの、甲1全体の記載を見ても、Aβ_(n-40)とSUVRとの関連性に言及する記載は見当たらない。
また、甲2及び甲3にも、血液試料中のAβ1-42とAβ1-40以外のAβ様ペプチドとの組合せと、脳内のAβ蓄積状態の関連性を開示又は示唆する記載は見当たらない。
そうすると、SUVRとの逆相関が確認されている甲1発明の「Aβ_(1-42/1-40)比」に代えて「Aβ_(1-42)」と「Aβ_(1-40)以外のAβ様ペプチド」との比を採用する動機付けがあるとはいえない。

(エ)したがって、上記相違点4について検討するまでもなく、本件特許発明2は、甲1発明及び甲2及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件特許発明3について

(ア)本件特許発明3と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「サブセットのうちの255名」は、本件特許発明3の「被験対象」に相当する。

b 甲1発明の「Aβ_(1-42)」は、本件特許発明1の「APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)」に相当する。

c 甲1発明の「測定し」た「血漿Aβレベル」に、「血漿Aβ_(1-42)レベル」が含まれることは明らかである。

d 上記aないしcを踏まえると、
甲1発明の「市販のINNO-BIA血漿Aβアッセイキット(Innogenetics Inc) を用いて血漿Aβレベルを測定し、サブセットのうちの255名から完全な一連のデータを取得」することと、
本件特許発明3の「被験対象に由来する血液試料をAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)の測定レベルを得る測定工程を行」うこととは、
「被験対象に由来する血液試料をAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)の測定レベルを得る測定工程を行」うことで共通する。

e 甲1発明の「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)」は、本件特許発明3の「被験対象の脳内Aβの蓄積量」に相当する。

f 上記eを踏まえると、甲1発明の「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)を取得し」、「血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について」、「Aβ_(1-42)」「がSUVRと有意な逆相関を示すこと」「を確認したこと」と、本件特許発明3の「被験対象の前記APP672-713(Aβ1-42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-のAPP672-713(Aβ1-42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量より多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法」とは、「被験対象の前記APP672-713(Aβ1-42)の測定レベルと被験対象の脳内Aβの蓄積量とを関連付けること」で共通する。

(イ)上記(ア)の対比から、本件特許発明3と甲1発明とは、

「被験対象に由来する血液試料をAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)の測定レベルを得る測定工程を行い、
被験対象の前記APP672-713(Aβ1-42)の測定レベルと被験対象の脳内Aβの蓄積量とを関連付けること。」

の発明である点において一致し、次の相違点5において相違する。

(相違点5)
被験対象の前記APP672-713(Aβ1-42)の測定レベルと被験対象の脳内Aβの蓄積量とを関連付けることが、本件特許発明3においては、「被験対象の前記APP672-713(Aβ1-42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-のAPP672-713(Aβ1-42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量より多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法」であるのに対し、甲1発明においては、「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)を取得し」、「血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について」、「Aβ_(1-42)がSUVRと有意な逆相関を示すこと」「を確認したこと」であり、「脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-のAPP672-713(Aβ1-42)のレベルを基準レベルとして」「脳内のAβ蓄積状態を判断する」ことは特定されていない点。

(ウ)上記相違点5について検討する。

甲1発明は、血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について、血漿Aβ_(1-42)は、HCに比べてMCI及びAD群において、顕著に減少したレベルであること、及び、Aβ_(1-42)がSUVRと有意な逆相関を示すことを確認しているが、脳アミロイドの沈着がない健常者コントロール(HC)と、脳アミロイドの沈着があるHCとの間で、Aβ_(1-42)に有意差があることは確認していない。
また、甲1には、HCについて、脳アミロイドの沈着の有無に関する差異があることは記載されていない。
その点、甲2技術事項及び甲3技術事項から、アルツハイマー病(AD)の脳病理過程には、軽度認知障害(MCI) 以前の無症候性の発症前段階があり、当該発症前段階は、第一期の脳アミロイドの沈着から始まること、それ以前の脳アミロイドの沈着がない状態とは区別されることが理解できる。
そして、甲3技術事項の「長い「発症前」段階は治療介入によって重要な機会をもたらす可能性があること」から、ADの発症前段階であることを認識することには意義があるといえる。
しかしながら、甲2及び甲3には、血漿Aβをマーカーとして脳アミロイドの沈着を判定することにより、ADの発症前段階であるか否かを判断できることは記載も示唆もない。
さらに、血漿Aβ測定値とPiB-PETイメージングとの相関を示す甲1の図2B及びB’を参照すると、Aβ_(1-42)について、HCを表す白抜きの四角のプロットは、SUVRが1に近い範囲において高い値を示すものが散見されるものの、標準以下の値を示すものも多数あること、MCI及びADも含めてSUVRの全範囲にわたってAβ_(1-42)の値が類似していることから、甲2及び甲3に接した当業者といえども、甲1の記載から、血漿Aβ_(1-42)レベルにより脳アミロイドの沈着のないHCと他者とを区別できること、すなわち、脳アミロイドの沈着のないHCの血漿Aβ_(1-42)レベルを基準として脳アミロイドの沈着状態を判断することを想起し得たとはいえない。

(エ)したがって、本件特許発明3は、甲1発明及び甲2及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件特許発明4について

(ア)本件特許発明4と甲1発明とを対比する。

a 甲1発明の「サブセットのうちの255名」は、本件特許発明4の「被験対象」に相当する。

b 甲1発明の「Aβ_(1-42)」は、本件特許発明4の「APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)」に相当する。

c 甲1発明の「Aβ_(1-40)」は、本件特許発明4の「APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)」に相当する。

d 甲1発明の「Aβ_(1-40)」と、本件特許発明4の「APP669-711(配列番号7)、APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)、APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)、APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)、」「及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)」とは、「Aβ様ペプチド」で共通する。

e 甲1発明の「測定し」た「血漿Aβレベル」に、「血漿Aβ_(1-42)レベル」及び「血漿Aβ_(1-40)レベル」が含まれることは明らかである。

f 甲1発明の「完全な一連のデータ」に、「Aβ_(1-42/1-40)比」が含まれることは明らかである。

g 甲1発明の「Aβ_(1-42/1-40)比」と、本件特許発明4の「APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP669-711レベルの比:APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-709(Aβ1-38)レベルの比:APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP674-711(Aβ3-40)レベルの比:APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-710(Aβ1-39)レベルの比:APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);及び
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するOxAPP672-711(OxAβ1-40)レベルの比:OxAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)」とは、「APP672-713(Aβ1-42)レベルとその他のAβ様ペプチドレベルの比」で共通する。

h 上記aないしgを踏まえると、
甲1発明の「市販のINNO-BIA血漿Aβアッセイキット(Innogenetics Inc) を用いて血漿Aβレベルを測定し、サブセットのうちの255名から完全な一連のデータを取得」することと、
本件特許発明4の「被験対象に対して行われた医学的介入の前後において、被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、APP669-711(配列番号7)、APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)、APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)、APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)、APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、APP669-711、APP672-709(Aβ1-38)、APP674-711(Aβ3-40)、APP672-710(Aβ1-39)、APP672-711(Aβ1-40)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP669-711レベルの比:APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-709(Aβ1-38)レベルの比:APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP674-711(Aβ3-40)レベルの比:APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-710(Aβ1-39)レベルの比:APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);及び
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するOxAPP672-711(OxAβ1-40)レベルの比:OxAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程とを行」うこととは、
「被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、その他のAβ様ペプチドとを含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、その他のAβ様ペプチドとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルとその他のAβ様ペプチドレベルの比を求める算出工程とを行」うことで共通する。

i 甲1発明の「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)」は、本件特許発明4の「脳内のAβ蓄積状態」に相当する。

j 上記iを踏まえると、甲1発明の「PET画像のStandardized Uptake Value(SUV)のデータを積算し、小脳皮質のSUVに対して標準化した小脳領域に対する比率を表すSUV比(SUVR)を取得し」、「血漿AβとPiB-PETイメージング(SUVR)との相関について」、「Aβ_(1-42/1-40)比がSUVRと有意な逆相関を示すこと」「を確認したこと」と、本件特許発明4の「医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行う、脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断するための方法」とは、「被験対象の前記比と被験対象の脳内のAβ蓄積状態とを関連付けること」で共通する。

(イ)上記(ア)の対比から、本件特許発明4と甲1発明とは、

「被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、その他のAβ様ペプチドとを含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、その他のAβ様ペプチドとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルとその他のAβ様ペプチドレベルの比を求める算出工程とを行い、
被験対象の前記比と被験対象の脳内のAβ蓄積状態とを関連付けること。」

の発明である点において一致し、次の相違点6ないし8において相違する。

(相違点6)
APP672-713(Aβ1-42)レベルとその他のAβ様ペプチドレベルの比について、本件特許発明4においては、「その他のAβ様ペプチド」が「APP669-711」、「APP672-709(Aβ1-38)」、「APP674-711(Aβ3-40)」、「APP672-710(Aβ1-39)」又は「OxAPP672-711(OxAβ1-40)」であり、「比」が「APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するその他のAβ様ペプチドレベルの比:その他のAβ様ペプチド/APP672-713(Aβ1-42)」であるのに対し、甲1発明においては、「その他のAβ様ペプチド」が「Aβ_(1-40)」であり、「比」が「Aβ_(1-42/1-40)比」である点。

(相違点7)
測定工程及び算出工程を行う時期について、本件特許発明4においては、「被験対象に対して行われた医学的介入の前後」に特定されているのに対し、甲1発明においては、医学的介入との関係は特定されていない点。

(相違点8)
被験対象の前記比と被験対象の脳内のAβ蓄積状態とを関連付けることが、本件特許発明4においては、「医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行う、脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断するための方法」であるのに対し、甲1発明においては、「SUVRと有意な逆相関を示すこと」は確認しているものの、「医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行う」ことで「脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断する」ことは特定されていない点。

(ウ)上記相違点6について検討する。

(甲1キ)には、「Aβ_(n-40)のレベルは認知症リスクの有意な変化との関連が認められた」との記載はあるものの、甲1全体の記載を見ても、Aβ_(n-40)とSUVRとの関連性に言及する記載は見当たらない。
また、甲2及び甲3にも、血液試料中のAβ1-42とAβ1-40以外のAβ様ペプチドとの組合せと、脳内のAβ蓄積状態の関連性を開示又は示唆する記載は見当たらない。
そうすると、SUVRとの逆相関が確認されている甲1発明の「Aβ_(1-42/1-40)比」に代えて「Aβ_(1-42)」と「Aβ_(1-40)以外のAβ様ペプチド」との比を採用する動機付けがあるとはいえない。

(エ)したがって、上記相違点7及び8について検討するまでもなく、本件特許発明4は、甲1発明及び甲2及び甲3の記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 小括

よって、取消理由通知に記載した取消理由1によって、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。

(2)特許法第36条第6項第1号について

ア 取消理由通知において当審が認定した、本件の発明が解決しようとする課題及びその解決手段は、以下のとおりである。

(本件の発明の課題)
血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のAβ及びAβ様ペプチドを指標とした脳内のAβ蓄積状態を評価するバイオマーカー及びその分析方法を提供すること。

(課題解決手段)
脳内のAβ蓄積状態を評価するバイオマーカーとして血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来の特定のAβ及びAβ様ペプチドを用いるとともに、それらの測定について、6E10のF(ab’)を結合した磁気ビーズと、4G8のF(Fab’)を結合した磁気ビーズを血漿サンプルに混合させ、それぞれの抗体固定化ビーズに血漿サンプル中のAβ及びAβ様ペプチドを捕捉し、その後抗体固定化ビーズから捕捉されたAβ及びAβ様ペプチドを溶出させ、Linear TOF MS用の試料とし、当該試料中Aβ及びAβ様ペプチドを測定し、さらに、血漿中Aβ及びAβ様ペプチドの測定値はLinear TOFで測定された4wellから得られる内部標準ペプチド(SIL-Aβ1-38)に対する各Aβ及びAβ様ペプチドのピーク強度比を平均化した値を用い、その際、MSピーク強度のシグナル変動を補正するために、1回の免疫沈降からは4つのマススペクトルが取得され、結果的に1つのペプチドに対して4つのピーク強度比が得られ、あるペプチドにおける4つのピーク強度比の中央値の0.7?1.3倍の間から外れたピーク強度比は外れ値とみなして、平均化のデータ処理には用いないこととし、もし、平均化に用いるピーク強度比のデータ数が3つ未満であった場合、その時の免疫沈降において、そのピークの強度比は検出不可(N/D)であると定義して測定を実施すること。

そして、当審では、課題解決手段に係る測定手順又はそれによる測定値が反映されていないため、請求項1ないし4に記載された発明は発明の詳細な説明に記載したものでない旨の取消理由を通知した。

イ これに対し、特許権者は、意見書において以下のように主張する。

「本件発明1、3は、『アルツハイマー病に関して、発症前診断、発症予防介入(先制治療薬投与等)対象者のスクリーニング、及び治療薬・予防薬の薬効評価等に利用するためのマーカー及びその分析方法を提供する』(明細書段落[0013])という課題を解決するために、『アルツハイマー病の早期診断への応用を考えた場合、NC-グループと比較して、認知機能障害は現れていないけれども脳内のAβ蓄積が陽性であると判断されたNC+グループから測定レベル変動が見られる血中マーカーが重要』(明細書段落[0056])との観点から、NC-群とNC+群との間に統計的有意差を検証し、当該統計的有意差の検証された(明細書段落[0073])特定のマーカー値の比についての『脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-の前記各比』を基準レベルとして脳内のAβの蓄積状態を判断するという手段を採用することにより、『脳内のAβが過剰蓄積されていて認知機能障害も現れているアルツハイマー病進行段階のみならず、脳内のAβが過剰に蓄積されているが認知機能障害は現れていないアルツハイマー病早期段階の検出にも適用可能である。』(明細書段落[0023])という効果を奏するという技術的思想である。
また、本件発明4は、『アルツハイマー病に関して、治療薬・予防薬の薬効評価等に利用するためのマーカー及びその分析方法を提供する』(明細書段落[0013])という課題を解決するために、新規な『APP669-711』、『Aβ_(1-38)』、『Aβ_(3-40)』、『Aβ_(1-39)』、『OxAβ_(1-40)』と、『Aβ_(1-42)』との比をマーカーとして、『医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行うことにより、脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断する』という手段を採用することにより、『アルツハイマー病の治療薬、予防薬の薬効評価、あるいはその他の処置の有効性評価を行い得る』(明細書段落[0025])という効果を奏するという技術的思想である。
本件明細書には、課題を解決する手段として、本件明細書段落[0056]、[0057]、[0059]、[0060]、[0073]、[0074]により検証されたマーカーを用いて、明細書段落[0044]?[0047]に記載された方法及びマーカーが示されており、本件発明1、3、4は、明細書の記載により十分にサポートされている。また、本件発明1、3,4が明細書に記載されていない発明を含む事実もない。
よって、本件発明1、3、4は、本件明細書に記載された発明であるため、特許法36条6項1号の取消理由は存在しない。
[取消理由通知に対する反論]
取消理由通知は、本件発明1,3,4では、『血液試料中のAPP由来Aβペプチドの測定レベルを指標として脳内のAβ蓄積状態を評価する』という課題を解決するための構成として、明細書に記載された『「特定の測定方法」によって得られた測定値を解析して、発明1、3、4に特定されている血液試料中のAβ、Aβ様ペプチドの測定値に基づくマーカーによって脳内のAβ蓄積状態を示す』という構成を必須とするため、各発明1、3、4にかかる発明は、当該特定の測定方法で限定されるべきである、と判断する。
しかし、『特定の測定方法』として認定する、本件明細書段落[0056]、[0057]、[0059]、[0060]、[0073]、[0074]に記載された手順は、症例既知の血漿サンプルを使用したマーカーの探索手順及び有効性の検証手順及び結果であって、被験対象の血液試料中のAPP由来Aβペプチドの測定レベルを指標として脳内のAβ蓄積状態を評価するための方法として記載されていないため、当該特定の方法で本件発明1、3,4を限定する必要性は認められない。
一方、本件明細書に記載された『特定の測定方法』を用いることにより、極めて高精度な測定を行った結果、APP由来の血漿AΒペプチド又はペプチド様の存在量と、従来マーカーとして認識されていなかったペプチド断片が、Aβ_(1-40)、Aβ_(1-42)の組み合わせに比べてより高いマーカー性能を有することを見出した点、又は、Aβ_(1-40)、Aβ_(1-42)の組み合わせを含むマーカーにより、NC-群、NC+群との間に統計的有意差が存在することを見出した点にブレークスルーがあることは事実である。
しかし、ひとたび、特定のペプチドについて当該統計的有意差が確認できれば、本件明細書段落[0047]の記載にもある通り、そのサンドイッチ法によるELISAに使用する特異的抗体の設計等により、質量分析以外の方法によっても測定を行うことができることは、当業者であれば当然に認識することである。
また、本件発明1、3、4は、本件明細書に記載された『特定の測定方法』により得た数値そのものを基準レベルとして定義するのではなく、相対的な基準レベルの決め方を規定しているのであるから、本件明細書に記載された『特定の測定方法』と同一の方法でなくとも、被験対象の血漿中のペプチドを測定することができるのは当然である。
以上から、取消理由通知の判断は、本件明細書に記載された、症例既知の血漿サンプルを使用したマーカーの探索および有効性の検証方法と、被験対象の脳内のAβ蓄積状態を判断等するための分析方法及びマーカーとを混同して認定した結果に基づくものであり、本件発明1、3、4は、明細書に記載されていない発明を含むものでもないため、誤りである。」
「本件発明2は、『アルツハイマー病に関して、治療薬・予防薬の薬効評価等に利用するためのマーカーを提供する』(明細書段落[0013])という課題を解決するために、検証された新規な『APP669-711』、『Aβ_(1-38)』、『Aβ_(3-40)』、『Aβ_(1-39)』、『OxAβ_(1-40)』と、『Aβ_(1-42)』との組み合わせ(明細書段落[0073])を、脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカーとして提供することにより、『脳内のAβが過剰蓄積されていて認知機能障害も現れているアルツハイマー病進行段階のみならず、脳内のAβが過剰に蓄積されているが認知機能障害は現れていないアルツハイマー病早期段階の検出にも適用可能である。また、アルツハイマー病の治療薬、予防薬の薬効評価、あるいはその他の処置の有効性評価を行い得る』(明細書段落[0025])という効果を奏するという技術的思想である。
すなわち、本件発明2の請求項に記載された事項により特定される発明は、バイオマーカーの発明であって、本件明細書段落[0073]により有効性が検証されている。また、本件発明2が明細書に記載されていない発明を含む事実もない。
よって、本件発明2は、本件明細書に記載された発明であるため、特許法36条6項1号の取消理由は存在しない。
[取消理由通知に対する反論]
取消理由通知は、『本件発明2の解決しようとする課題は、被験対象由来の血液試料中のアミロイド前駆タンパク質APP由来のAβおよびAβ様ペプチドを脳内のAβ蓄積状態を評価するためのバイオマーカーとして提供することである。そして、本件明細書には、測定手順に基づく血液試料中のAβおよびAβ様ペプチドの測定値が、脳内のAβ蓄積状態を示すことが記載されている。すると、血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のAβ及びAβ様ペプチドを脳内のAβ蓄積状態を評価するためのバイオマーカーとするためには、上記本件明細書に記載の測定手順によって測定される血液試料中のアミロイド前駆タンパク質(APP)由来のAβ及びAβ様ペプチドの測定値が必要な構成要件であると認められる。
しかしながら、本件発明2には、血液試料中のAβ及びAβ様タンパク質を脳内のAβ蓄積量のバイオマーカーとすることのみが特定されており、本件明細書に記載の測定手順によって測定される血液試料中のAβ及びAβ様ペプチドの測定値が本件発明2のマーカーの構成要件として特定されていないことから、本件発明2は発明の課題を解決する手段が反映されていないため、本件明細書に記載されたものではない。』と認定する。
しかし、『本件明細書に記載の測定手順』として認定する、本件明細書段落[0056]、[0057]、[0059]、[0060]、[0073]、[0074]に記載された手順は、症例既知の血漿サンプルを使用したマーカーの探索手順及び有効性の検証手順及び結果であって、被験対象の脳内のAβ蓄積状態を評価するための方法として記載されていないため、当該測定手順で本件発明2を限定する必要性は認められない。
一方、本件明細書に記載された『特定の測定方法』を用いることにより極めて高精度な測定を行った結果、従来認識されていなかった新規なペプチド断片の測定レベルと、Aβ_(1-40)の測定レベルとの組み合わせにより、Aβ_(1-40)及びAβ_(1-42)の組み合わせに比べて高いマーカー性能を有することを見出した点にブレークスルーがあることは事実である。
しかし、ひとたび、血漿中の特定のペプチド及びペプヂド様の測定レベルの組み合わせが、脳内のAβ蓄積状態を評価するためのバイオマーカーとして有用であることが特定できれば、本件明細書段落「0047」の記載にもある通り、そのサンドイッチ法によるELISAに使用する特異的抗体の設計等により、質量分析以外の方法によっても測定レベルを得ることができることは、当業者であれば当然に認識することである。
以上から、取消理由通知の判断は、本件明細書に記載された、症例既知の血漿サンプルを使用したマーカーの探索および有効性の検証方法と、被験対象の脳内のAβ蓄積状態を判断等するためのマーカーとしての測定レベルとを混同して認定した結果に基づくものであり、本件発明2は、明細書に記載されていない発明を含むものでもないため、誤りである。」

特許権者の上記主張を要約すると、以下のとおりである。
取消理由で課題解決手段として認定した測定手順及び測定値は、症例既知の血漿サンプルを使用したマーカーの探索及び有効性の検証方法に採用したものであり、被検対象の血液試料中のAPP由来Aβペプチドの測定レベルを指標として脳内のAβ蓄積状態を評価するための方法として記載されたものではない。
本件発明は、本件特許の明細書に記載された「特定の測定方法」により得た数値そのものを基準レベルとして定義するのではなく、相対的な基準レベルの決め方を規定するものであるから、当該「特定の測定方法」と同一の方法でなくとも、被験対象の血漿中のペプチドを測定することができるのは当然である。
そして、特定のペプチドについて統計的有意差が確認できれば、本件特許の明細書段落[0047]の記載にもある通り、そのサンドイッチ法によるELISAに使用する特異的抗体の設計等により、質量分析以外の方法によっても測定を行うことができることは、当業者であれば当然に認識することである。

ウ そこで検討するに、特許権者が主張の根拠とする本件特許の明細書段落[0047]には、以下の記載がある。

「【0047】
マーカーの測定は、好ましくは、生体分子特異的親和性に基づく検査によって行われる。生体分子特異的親和性に基づく検査は、当業者によく知られた方法であり、特に限定されないが、イムノアッセイが好ましい。具体的には、ウェスタンブロット、ラジオイムノアッセイ、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)(サンドイッチイムノ法、競合法、及び直接吸着法を含む)、免疫沈降法、沈降反応、免疫拡散法、免疫凝集測定、補体結合反応分析、免疫放射定量法、蛍光イムノアッセイ、プロテインAイムノアッセイなどの、競合及び非競合アッセイ系を含むイムノアッセイが含まれる。イムノアッセイにおいては、生体由来試料中の上記マーカーに結合する抗体を検出する。」

確かに本件特許の明細書段落[0047]には、マーカーの測定をELISA等のイムノアッセイで行うことが記載されている。
イムノアッセイでは、使用する捕捉抗体及び標識抗体の結合特異性が検出精度に大きく影響するものであるところ、本件特許の明細書には、配列の大部分が共通する複数種のAPP由来Aβペプチドを区別して検出し得る抗体を特定する記載はない。そのため、上記段落[0047]の記載をもって、直ちにELISA等により請求項1ないし4で特定されるマーカーを区別して検出することができると認識することはできない。
しかしながら、甲1に市販のキット (INNO-BIA plasma Aβ assay, Innogenetics, Inc.)及びダブルサンドイッチELISA(Mehta ELISA)により複数種のAPP由来Aβペプチドの測定を行ったことが記載されていることを参酌すると、ELISA等のイムノアッセイにより請求項1ないし4で特定されるマーカーを区別して検出することができないとまではいえない。
そして、マーカーの測定方法は、測定値の精度、すなわち、本件特許発明1ないし4の奏する効果の程度に影響するものであるが、マーカーレベルの相対的な大小関係を判断するために、測定方法又は基準値を特定することが必須であるともいえない。

エ してみると、取消理由通知に記載した取消理由2によって、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。

(3)申立人の意見について

進歩性について

(ア)申立人は、意見書において「甲第1号証には、『さらに、いくつかのELISA法を使った研究によれば、脳脊髄液におけるAβ(Aβ_(1-42/1-40))のレベルの比の関係について、データのオーバーラップはあるものの、健常高齢者をコントロールとして比較したものが報告されている』なる記載があり、一般的に健常高齢者についてはAβの蓄積量についても正常の範囲であると考えるのが自然である。また、健常高齢者の解釈については下記(1-1-3)における検討も妥当するものであり、さらに、甲第2号証には、認知的に正常であり、バイオマーガーが異常を示している前臨床段階(Preclinical Stage)と認知的に正常であり、バイオマーカーも正常の範囲にある段階とを分けて認識しており、甲第1号証における『健常高齢者』は後者に相当すると考えることが自然である。そうであれば、甲第1号証には『健常者をコントロールとして比較する』ことが記載されており、甲第1号証における『健常者』は、甲第2号証記載の『脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者』、すなわち、本件発明におけるNC-に相当するものであるから、結局、甲第1号証には『NC-をコントロールとして比較する』ことが実質的に記載されていることとなる。」「特許権者は、甲1号証の該当箇所にはADの患者と、認知機能正常者(正常な高齢者)とを区別することの示唆があるものの、認知機能正常者の内、さらに脳内のAβの蓄積が陰性であるNC-の基準を何ら示していない、と主張する。しかしながら、甲第1号証においては、認知機能正常者(cognitively normal individual)と、正常な高齢者(normal aging)及び健常高齢者(normal elderly individual)とを使い分けていることが理解でき、上記のとおり甲第2号証では、前臨床段階としての『ADバイオマーカーが正常であり、軽微な認知機能障害のエビデンスもない』段階としてのステージ0の重要性を認識しているのであるから、甲第1号証において、コントロール、すなわち基準として用いた『正常な高齢』及び『健常高齢者』が、認知機能正常者ではなく、NC-を意味することは英語表現から見ても明らかであるから、上記特許権者の主張は誤りである。」と主張する。

(イ)しかしながら、甲1には「認知機能正常者(cognitively normal individual)」、「正常な高齢者(normal aging)」及び「健常高齢者(normal elderly individual)」と健常者コントロールとの関係やそれぞれの脳内のAβの蓄積の有無に関する記載はない。
そして、甲2には、甲1について言及する記載はなく、甲1よりも後に公知となった甲2の記載を根拠に、甲1に記載された健常者コントロールが「NC-」であると認定することはできない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。

イ サポート要件について

(ア)申立人は、意見書において「特許権者は、特定の方法として認定する手順は症例既知の血漿サンプルを使用したマーカーの探索手順及び有効性の検証手段及び結果であって、被験対象の血液試料中のAPP由来のAβペプチドの測定レベルを指標として脳内のAβ蓄積状態を評価するための方法として記載されていないため、当該特定方法で本件発明を限定する必要はないと主張する。仮に、特許権者の主張のとおりであれば、本発明の課題である、『血液中のAPP由来のAβ及びAβ様ペプチドを指標とした脳内Aβ蓄積状態を評価するバイオマーカーおよびその分析方法を提供すること』において、被験対象の血液試料中のAPP由来のAβペプチドの測定がどのようにして行われるのかが明細書には全く記載されていないことになる。しかも、本件特許明細書には、症例既知の血漿サンプルに用いた特定の方法以外の方法で被験対象の血液試料が同等に測定できる旨の実証的な記載はない。したがって、本件特許明細書には課題解決の手段が何ら記載されていないということになり、本件特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たしていないのみならず、本件特許明細書の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する実施可能要件をも満たしていないことになる。」「さらに、特許権者は、本件特許発明は、特定の測定方法により得られた数値そのものを基準レベルとして定義するのではなく、相対的な基準レベルの決め方を規定しているのであるから、特定の測定方法と同一の方法でなくとも、測定することができる旨主張する。しかしながら、本件特許発明における相対的な基準レベルとは、数値レベルの比を指すものであるから、数値レベルそのものが高精度に測定されることが相対的な基準レベルとしての比の持つ技術的意義からも前提となることは自明である。したがって、本件特許発明が相対的な基準レベルを規定しているとしても、特定の測定方法以外の方法によって得られる数値そのものが特定の測定方法と同程度に高精度に測定されていることが確認できなければ、相対的な基準レベルについてもその信ぴょう性が確認できないこととなる。したがつて、本件特許発明が相対的な基準レベルを規定しているとしても、特定の測定方法以外の方法によって得られる数値そのものが高精度で測定されていることを確認できない以上、特定の測定方法以外の方法によって得られる相対的な基準レベルについても特定の方法によって得られる相対的な基準レベルと同等のものであるかどうかは確認できない。」と主張する。

(イ)しかしながら、発明の詳細な説明に記載されたマーカーの探索手順及び有効性の検証手段を用いて、血液試料中のAPP由来のAβペプチドの測定を行うことが可能であることは自明であるから、発明の詳細な説明に課題解決の手段が何ら記載されていないとはいえない。
また、申立人が主張するように、測定精度はレベル比を求める場合にも信ぴょう性に影響するものであるが、マーカーレベルの大小関係を判定する際の測定において、その精度が、マーカーの探索及び有効性の検証に用いた測定と同等の精度でなければならないとはいえない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。


第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 申立人は、特許異議申立書において、本件特許発明1において血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)を選んだ場合の、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法に係る本件特許発明1、及び、本件特許発明3において血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)のレベルにより、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法に係る本件特許発明3は、甲1の記載、甲2の記載及び当該技術分野における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると主張する。

しかしながら、上記第4の3(1)ア及びウで検討したとおり、甲1ないし3の記載から、脳アミロイドの沈着のないHCの血漿Aβ_(1-42/1-40)比を基準として脳アミロイドの沈着状態を判断することを想起し得たとはいえないから、本件特許発明1及び3は、甲1の記載、甲2の記載及び当該技術分野における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明できたものでない。

2 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項4に係る発明において血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)を選んだ場合の、脳内のAβ蓄積状態に関して医学的介入の有効性を判断するための方法に係る訂正前の請求項4に係る発明は、甲1の記載、甲3の記載及び当該技術分野における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明できたものであると主張する。

しかしながら、本件訂正後の本件特許発明4は、「APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)」を含まないから、上記第4の3(1)エで検討したとおり、甲1の記載、甲3の記載及び当該技術分野における技術常識に基づいて、当業者が容易に発明できたものでない。

3 申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項2に係る発明において血液試料中のAβ1-40とAβ1-42との組み合わせを選んだ場合の、脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカーに係る訂正前の請求項2に係る発明は、甲1に記載された発明であると主張する。

しかしながら、本件訂正後の本件特許発明2は、脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカーとして「APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ」を含まないから、甲1に記載された発明でない。

4 申立人は、特許異議申立書において、「本件特許の発明の詳細な説明の記載からは、『血液中のAβ1-42の濃度やAβ1-42/Aβ1-40の濃度比をアルツハイマー病の診断用マーカーとして提供する』という課題に対して、当業者は『改良された免疫沈降法と質量分析装置との組み合わせにより発見され、初めて測定が可能となった血漿中のAβ及びAβ様ペプチドについて、改良された免疫沈降法と質量分析装置との組み合わせにより測定することによりアルツハイマー病の診断用マーカーとして提供すること』を認識するものであって、『改良された免疫沈降法と質量分析装置との組み合わせ』を測定手段として用いることによって初めて課題を解決したものであると認識するものである。
本件特許の発明の詳細な説明の具体的な態様の記載からは、『改良された免疫沈降法と質量分析装置との組み合わせ』として認識できるのは、実施例に記載された『抗体固定化担体を用いた免疫沈降法と質量分析装置との組み合わせ(Immunoprecipitation-Mass Spectrometry;IP-MS)』だけであって、本件特許の発明の詳細な説明にはその余の測定手段を用いても課題解決ができることについての具体的な言及がない。したがって、本件特許発明が備える『測定工程』に係る測定手段について、何ら限定のない測定手段を含む範囲まで一般化した本件特許発明は、本件特許発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲を超えていることは明らかである。
よって、本件特許発明は、発明の詳細な説明において『発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲』を超えるものである。」と主張する。

しかしながら、測定手段に係る特定を要しないことは、第4の3(2)で検討したとおりでる。

5 したがって、申立人の上記主張はいずれも採用できない。


第6 むすび

以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、
APP669-711(配列番号7)、APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)、APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)、APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)、APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、
前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、APP669-711、APP672-709(Aβ1-38)、APP674-711(Aβ3-40)、APP672-710(Aβ1-39)、APP672-711(Aβ1-40)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP669-711レベルの比:APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-709(Aβ1-38)レベルの比:APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP674-711(Aβ3-40)レベルの比:APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-710(Aβ1-39)レベルの比:APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-711(Aβ1-40)レベルの比:APP672-711(Aβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42);及び
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するOxAPP672-711(OxAβ1-40)レベルの比:OxAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程とを行い、
被験対象の前記各比が、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-の前記各比を基準レベルとして、前記各比の基準レベルよりも高い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量よりも多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法。
【請求項2】
血液試料中のAPP669-711(配列番号7)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ:APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ:APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ:APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせ:及び
OxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)とAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)との組み合わせからなる群から選ばれる脳内のAβ蓄積状態を判断するマーカー。
【請求項3】
被験対象に由来する血液試料をAPP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)を含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)の測定レベルを得る測定工程を行い、
被験対象の前記APP672-713(Aβ1-42)の測定レベルが、脳内のAβの蓄積が陰性である認知機能正常者NC-のAPP672-713(Aβ1-42)のレベルを基準レベルとして、前記基準レベルよりも低い場合に、被験対象の脳内Aβの蓄積量は、前記認知機能正常者NC-の脳内Aβの蓄積量より多いことを示す、脳内のAβ蓄積状態を判断するための分析方法。
【請求項4】
被験対象に対して行われた医学的介入の前後において、被験対象に由来する血液試料を、
APP672-713(Aβ1-42)(配列番号6)と、APP669-711(配列番号7)、APP672-709(Aβ1-38)(配列番号1)、APP674-711(Aβ3-40)(配列番号2)、APP672-710(Aβ1-39)(配列番号3)、APP672-711(Aβ1-40)(配列番号4)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)(配列番号5)からなる群から選ばれる少なくとも1つとを含むマーカーの検出に供して、前記血液試料中のAPP672-713(Aβ1-42)と、APP669-711、APP672-709(Aβ1-38)、APP674-711(Aβ3-40)、APP672-710(Aβ1-39)、APP672-711(Aβ1-40)、及びOxAPP672-711(OxAβ1-40)からなる群から選ばれる前記少なくとも1つとの各測定レベルを得る測定工程と、
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP669-711レベルの比:APP669-711/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-709(Aβ1-38)レベルの比:APP672-709(Aβ1-38)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP674-711(Aβ3-40)レベルの比:APP674-711(Aβ3-40)/APP672-713(Aβ1-42);
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するAPP672-710(Aβ1-39)レベルの比:APP672-710(Aβ1-39)/APP672-713(Aβ1-42);及び
APP672-713(Aβ1-42)レベルに対するOxAPP672-711(OxAβ1-40)レベルの比:OxAPP672-711(OxAβ1-40)/APP672-713(Aβ1-42)
からなる群から選ばれる少なくとも1つの比を求める算出工程とを行い、
医学的介入の前における被験対象の前記各比と、医学的介入の後における被験対象の前記各比との比較を行う、脳内のAβ蓄積状態に関して前記医学的介入の有効性を判断するための方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2020-01-06 
出願番号 特願2016-521119(P2016-521119)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 海野 佳子  
特許庁審判長 三崎 仁
特許庁審判官 渡戸 正義
森 竜介
登録日 2018-10-05 
登録番号 特許第6410810号(P6410810)
権利者 株式会社島津製作所 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター
発明の名称 脳内のアミロイドβペプチド蓄積状態を評価するサロゲート・バイオマーカー及びその分析方法  
代理人 阿久津 好二  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  
代理人 妹尾 明展  
代理人 阿久津 好二  
代理人 妹尾 明展  
代理人 岸本 雅之  
代理人 岸本 雅之  
代理人 妹尾 明展  
代理人 阿久津 好二  
代理人 江口 裕之  
代理人 岸本 雅之  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  

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