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審決分類 審判 全部申し立て (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  G02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  G02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G02F
管理番号 1360487
異議申立番号 異議2018-700501  
総通号数 244 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2020-04-24 
種別 異議の決定 
異議申立日 2018-06-20 
確定日 2020-01-22 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第6248394号発明「画像表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6248394号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-6〕について訂正することを認める。 特許第6248394号の請求項1ないし3に係る特許を取り消す。 同請求項4ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6248394号の請求項1-4に係る特許についての出願(特願2013-27750号)は、平成25年2月15日に出願されたものであって、平成29年12月1日に設定登録がなされ、平成29年12月20日に特許掲載公報が発行され、その後、平成30年6月20日に、特許異議申立人鈴木美香により、その請求項1-4に係る特許に対して特許異議の申立てがなされたものである。その後の手続の経緯は以下のとおりである。

平成30年10月10日:取消理由通知(同年10月12日発送)
平成30年12月11日:訂正請求書・意見書(特許権者)
平成31年 1月23日:意見書(特許異議申立人)
令和 1年 5月 8日:取消理由通知(予告、同年5月15日発送)
令和 1年 7月16日:訂正請求書・意見書(特許権者)
令和 1年 7月29日:訂正拒絶理由通知(同年7月31日発送)
令和 1年 8月29日:意見書(特許権者)
令和 1年10月16日:意見書(特許異議申立人)

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和1年7月16日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。なお、平成30年12月11日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

特許請求の範囲の請求項1-4に、
「【請求項1】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは、3000nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムである、
画像表示装置。
【請求項2】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である、
画像表示装置(但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合を除く)。
【請求項3】
前記飛散防止フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置される、請求項1又は2に記載の画像表示装置。
【請求項4】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードである、請求項1?3のいずれかに記載の画像表示装置。」(以下、その順に「訂正前請求項1」等という。)

と記載されているのを、

「【請求項1】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置される、
画像表示装置(但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く)。
【請求項2】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置され、
前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である、
画像表示装置(但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合、及び前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く)。
【請求項3】
前記飛散防止フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置される、請求項1又は2に記載の画像表示装置(但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除く)。
【請求項4】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項3に記載の画像表示装置。」(注:下線は、特許権者が訂正箇所に付した下線である。)

に訂正することを求めるものであり、本件訂正請求は、以下の訂正事項からなる。

訂正事項1:請求項1を新たな請求項1にする訂正は、以下の訂正事項からなり、新たな請求項1を引用する請求項3についても同様に訂正する。
(ア)「前記基材フィルムは、3000nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり」と特定するものを、「前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり」にする訂正事項(以下「訂正事項1-1」という。)。
(イ)「前記飛散防止フィルムは、3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムである」と特定するものを、「前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置される」にする訂正事項(以下「訂正事項1-2」という。)。
(ウ)「(但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く)」との特定事項を追加する訂正事項(以下「訂正事項1-3」といい、「訂正事項1-1」?「訂正事項1-3」を併せて「訂正事項1」という。)。

訂正事項2:請求項2を新たな請求項2にする訂正は、以下の訂正事項からなり、新たな請求項2を引用する請求項3についても同様に訂正する。
(ア)「前記基材フィルムは配向フィルムであり」と特定するものを、「前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり」にする訂正事項(以下「訂正事項2-1」という。)。
(イ)「前記飛散防止フィルムは、3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり」と特定するものを、「前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置される」にする訂正事項(以下「訂正事項2-2」という。)。
(ウ)「(但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合を除く)」と特定するものを、「(但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合、及び前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く)。」にする訂正事項(以下「訂正事項2-3」といい、「訂正事項2-1」?「訂正事項2-3」を併せて「訂正事項2」という。)。

訂正事項3:請求項1又は2を引用する請求項3を新たな請求項1又は2を引用する請求項3にする訂正は、以下の訂正事項からなる。
「(但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除く)」との特定事項を追加する訂正事項(以下「訂正事項3」という。)。

訂正事項4:請求項1を引用する請求項4を新たな請求項1を引用する請求項4にする訂正は、以下の訂正事項からなる。
「前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである」との特定事項を追加する訂正事項(以下「訂正事項4」という。)。

訂正事項5:請求項2を引用する請求項4を新たな請求項2を引用する請求項5にする訂正は、以下の訂正事項からなる。
「前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである」との特定事項を追加する訂正事項(以下「訂正事項5」という。)。

訂正事項6:請求項3を引用する請求項4を新たな請求項3を引用する請求項6にする訂正は、以下の訂正事項からなる。
「前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである」との特定事項を追加する訂正事項(以下「訂正事項6」という。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
(1)訂正の目的
ア 訂正事項1
(ア)「訂正事項1-1」は、基材フィルムが有するリタデーションに関し「3000nm未満」であるものを「100nm以上2300nm未満」に減縮する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)「訂正事項1-2」は、飛散防止フィルムが有するリタデーションに関し「3000nm以上150000nm以下」であるものを「6000nm以上150000nm以下」に減縮するとともに、その配向主軸が偏光子の偏光軸に対して配置される角度に関し「45度±25度以下」であることを特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ウ)「訂正事項1-3」は、特定事項を追加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ 訂正事項2
(ア)「訂正事項2-1」は、基材フィルムが有するリタデーションに関し「100nm以上2300nm未満」であることを特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)「訂正事項2-2」は、飛散防止フィルムが有するリタデーションに関し「3000nm以上150000nm以下」であるものを「6000nm以上150000nm以下」に減縮するとともに、その配向主軸が偏光子の偏光軸に対して配置される角度に関し「45度±25度以下」であることを特定する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ウ)「訂正事項2-3」は、「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く」との特定事項を追加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

ウ 訂正事項3
「訂正事項3」は、特定事項を追加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

エ 訂正事項4
「訂正事項4」は、特定事項を追加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

オ 訂正事項5
「訂正事項5」は、特定事項を追加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

カ 訂正事項6
「訂正事項6」は、特定事項を追加する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項の有無
ア 明細書等の記載
本件の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面には、以下の記載がある。
(ア)「【0015】
画像表示装置は、光源側飛散防止フィルム(14)として3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを備え、光源側基材フィルム(11a)及び/又は視認側基材フィルム(12a)として配向フィルムを備えることが好ましい。本書において、3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを「高リタデーション配向フィルム」と称する。前記光源側基材フィルム(11a)及び/又は視認側基材フィルム(12a)として用いる配向フィルムのリタデーションは、特に制限されないが、3000nm未満であることが好ましい。本書において、3000nm未満のリタデーションを有する配向フィルムを「低リタデーション配向フィルム」と称する。

【0016】
低リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸(出射する偏光の振動方向と平行な軸)とが形成する角度(低リタデーション配向フィルムと偏光子とが同一平面状にあると仮定する)は、任意である。低リタデーション配向フィルムが高リタデーション配向フィルムより光源側に配置される場合は、低リタデーション配向フィルムの配向主軸を視認側偏光子の偏光軸と略平行にすることが虹斑を抑制する観点から望ましく、当該配向主軸と偏光軸とが形成する角度が略平行又は略垂直から外れるに従い、虹斑が生じやすくなる傾向にある。しかし、低リタデーション配向フィルムを高リタデーション配向フィルムより視認側に配置する場合は、そのような低リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸との関係に依存した虹斑の発生の問題は実質的にない。このような観点から、低リタデーション配向フィルムを高リタデーション配向フィルムより視認側に配置することは好ましい。
【0017】
高リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸とが形成する角度(高リタデーション配向フィルムと偏光子とが同一平面状にあると仮定する)は、特に制限されないが、虹斑を低減するという観点から、45度に近いことが好ましい。例えば、前記角度は、好ましくは45度±25度以下、好ましくは45度±20度以下である。特に、画像表示装置をサングラス等の偏光フィルムを介して斜め方向から観察する場合における虹斑の低減、低リタデーション配向フィルムの角度依存性をより小さくする観点から、前記角度は好ましくは45度±15度以下、好ましくは45度±10度以下、好ましくは45度±5度以下、好ましくは45度±3度以下、45度±2度以下、45度±1度以下、45度である。尚、本書において、「以下」という用語は、「±」の次の数値にのみかかることを意味する。即ち、前記「45度±15度以下」とは、45度を中心に上下15度の範囲の変動を許容することを意味する。

【0022】
<配向フィルムのリタデーション>
高リタデーション配向フィルムのリタデーションは、虹斑を低減するという観点から、3000nm以上150000nm以下であることが好ましい。高リタデーション配向フィルムのリタデーションの下限値は、好ましくは4500nm以上、好ましくは6000nm以上、好ましくは8000nm以上、好ましくは10000nm以上である。一方、高リタデーション配向フィルムのリタデーションの上限は、それ以上のリタデーションを有する配向フィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られず、またリタデーションの高さに応じては配向フィルムの厚みも上昇する傾向があるため、薄型化への要請に反し兼ねないという観点から、150000nmと設定されるが、更に高い値とすることもできる。画像表示装置が2枚以上の高リタデーション配向フィルムを有する場合、それらのリタデーションは同一であっても異なっていても良い。

【0025】
低リタデーション配向フィルムのリタデーションは、3000nm未満であれば特に制限されない。低リタデーション配向フィルムのリタデーションの下限値は、それを単独で用いた場合に虹斑が生じ得るという観点から、50nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、又は500nm以上である。また、低リタデーション配向フィルムのリタデーションの上限は、高リタデーション配向フィルムとの組合せで虹斑の抑制が可能であるという観点から、3000nm未満、2500nm未満、又は2300nm未満である。画像表示装置が低リタデーション配向フィルムは2枚以上有する場合、それらのリタデーションは同一であっても異なっていてもよい。低リタデーション配向フィルムのリタデーションが、2500nm以上の場合は、高リタデーション配向フィルムとのリタデーションの値の差を1800nm以上とすることが好ましい。」(注:下線は当審が付加した。以下、同様である。)
(イ)「【0094】
試験例1:虹斑の評価
下記構成を有する画像表示装置において、視認側表面に、視認側表面と平行になるように偏光フィルムを配置して白画像を表示させた。…

【0092】
<画像表示装置の構成>
(1)バックライト光源:白色LED又は冷陰極管
(2)光源側偏光板:PVAとヨウ素からなる偏光子の両側の保護フィルムとしてTACフィルムを有する。
(3)画像表示セル:液晶セル
(4)視認側偏光板:PVAとヨウ素からなる偏光子の偏光子保護フィルムとしてTACフィルムが使用された偏光板。
(5)タッチパネル:下記の配向フィルムA?Fのいずれかの上にITOからなる透明導電層を設けて作成した透明導電性フィルム(視認側)と、ガラス基材の上にITOからなる透明導電層を設けたITOガラス(光源側)とを、スペーサーを介して配置した構造を有する抵抗膜方式タッチパネル。

【0097】
配向フィルムD
フィルム厚みを約65μmとした以外は配向フィルムAと同様の方法で製膜を行い、配向フィルムDを得た。リタデーション値は1500nmであった。」

【0101】
(6)飛散防止フィルム:タッチパネルの光源側の飛散防止フィルムとして下記の配向フィルム1?5のいずれかを用いた。
…」

イ 訂正事項1
(ア)訂正事項1-1:基材フィルムは低リタデーション配向フィルムであるところ、上記ア(ア)【0025】には、低リタデーション配向フィルムのリタデーションの下限値は100nm以上であること、低リタデーション配向フィルムのリタデーションの上限は2300nm未満であることが記載されている。してみると、訂正事項1-1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものである。
(イ)訂正事項1-2:光源側飛散防止フィルムは高リタデーション配向フィルムであるところ、上記ア(ア)【0022】には、高リタデーション配向フィルムとして6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを備えることが好ましい旨記載されており、また、上記ア(ア)【0017】には、高リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸とが形成する角度は好ましくは45度±25度以下であることが記載されている。してみると、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(ウ)訂正事項1-3:上記ア(ア)【0016】には、低リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸とが形成する角度は、任意であることが記載されており、また、上記ア(ア)【0017】には、高リタデーション配向フィルムの配向主軸と視認側偏光子の偏光軸とが形成する角度は好ましくは45度±25度以下であることが記載されているから、低リタデーション配向フィルムの配向主軸と高リタデーション配向フィルムの配向主軸とが形成する角度は任意であることが開示されている。そして、飛散防止フィルムの配光主軸と基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を特許を受けようとする発明から除くことは、新たな技術的事項を導入するものではない。

ウ 訂正事項2
(ア)訂正事項2-1:上記イ(ア)と同様の理由により、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(イ)訂正事項2-2:上記イ(イ)と同様の理由により、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(ウ)訂正事項2-3:上記イ(ウ)と同様の理由により、飛散防止フィルムの配光主軸と基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を特許を受けようとする発明から除くことは、新たな技術的事項を導入するものではない。

エ 訂正事項3
上記イ(ウ)と同様の理由により、飛散防止フィルムの配光主軸と基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を特許を受けようとする発明から除くことは、新たな技術的事項を導入するものではない。

オ 訂正事項4、5、6
基材フィルムは低リタデーション配向フィルムであるところ、上記ア(ア)【0025】には、低リタデーション配向フィルムのリタデーションの下限値は100nm以上であること、また、上限は、2300nm未満であることが記載されている。そして上記ア(イ)【0097】にはリタデーション値が1500nmのフィルムが開示されている。
してみると、訂正事項4、5、6は、何れも、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項1-6はいずれも、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3 一群の請求項について
訂正前請求項1-4は、特許法施行規則第45条の4で定める関係を有する一群の請求項であるところ、本件訂正請求は、一群の請求項ごとに請求するものである。

4 訂正のまとめ
本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は同項第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び第9項で準用する第126条第4項-第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項[1-6]についての訂正は認められる。

第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許発明は、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置される、
画像表示装置(但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く)。
【請求項2】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置され、
前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である、
画像表示装置(但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合、及び前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く)。
【請求項3】
前記飛散防止フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置される、請求項1又は2に記載の画像表示装置(但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除く)。
【請求項4】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項3に記載の画像表示装置。」(以下、その順に「本件発明1」等といい、本件発明1-6をまとめて「本件発明」という。)

第4 取消理由、異議申立理由の概要
請求項1-4(注:平成30年12月11日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1-4である。以下、その順に「旧請求項1」等という。)に係る特許に対して、当審が令和1年5月8日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要、及び前記取消理由(決定の予告)で採用しなかった異議申立理由(注:上記第2(1)に記載した訂正前の請求項1-4(以下、その順に「訂正前請求項1」等という。)に係る特許に対する異議申立理由である。)の概要は次のとおりである。

1 特許法第29条第2項(容易想到性):旧請求項1-4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものである。よって、旧請求項1-4に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。



(1)理由その1:甲第1号証を主引例とする取消理由
(2)理由その2:引用例2を主引例とする取消理由

刊行物等
・甲第1号証:特開2011-107198号公報
・甲第2号証:国際公開第2012/161078号
・甲第3号証:特開2008-192620号公報
・甲第4号証:国際公開第2008/047785号
・甲第5号証:オリンパス株式会社のホームページ [第2回]偏光解析の 基礎
「http://microscopelabo.jp/learn/009/」(2017年3月3
1日閉鎖)
「http://microscopelabo.jp/learn/009/index_2.html」(同上
)
・甲第6号証:韓国公開特許第10-2010-0048187号公報及び その日本語訳
・甲第7号証:韓国登録特許第10-1337005号公報及びその日本語 訳
・引用例1 :特開平4-326419号公報
・引用例2 :特開2006-251859号公報

1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
訂正前請求項1-4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、本件の訂正前請求項1-4に係る発明の特許は、取り消すべきものである。



(1)訂正前請求項1-4に係る発明は、飛散防止フィルムと基材フィルムとのリタデーション差、並びに、飛散防止フィルムの配向主軸と基材フィルムの配向主軸との方向の関係を何ら特定していない。したがって、飛散防止フィルムと基材フィルムとのリタデーション差、並びに、飛散防止フィルムの配向主軸と基材フィルムの配向主軸との方向次第では、全体のリタデーションが小さな値(例えば、3000nmより小さな値や、1800nmより小さな値。)となり、本件発明の課題を解決できないことは明らかである。よって、訂正前請求項1-4に係る発明の特許は、取り消すべきものである。

(2)飛散防止フィルムを、偏光板の吸収軸と前記飛散防止フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることは、課題解決手段の一つと解される。本件明細書の実施例においても、前記角は全て「凡そ45度」(試験No.4のみ40度であるが、他は全て45度)である。
してみると、訂正前請求項1、2、4には、課題解決手段が反映されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさない。よって、訂正前請求項1、2、4に係る発明の特許は、取り消すべきものである。

3 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)
訂正前請求項1-4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。よって、本件の訂正前請求項1-4に係る発明の特許は、取り消すべきものである。



訂正前請求項1-4に係る発明は、リタ-デーションを規定しているにも関わらず、これらのリタデーションは如何なる波長で測定したリタデーションなのか不明確である。

第5 当審の判断(特許法第29条第2項)
1 刊行物に記載された発明等
(1)引用発明
引用例2には以下の記載がある。
ア 「【請求項1】
厚み25?200μmの透明樹脂フィルムの上面に透明電極を形成した下側電極材と、透明樹脂フィルムの下面に透明電極を形成した上側電極材とをスペーサーを介して対向配置させ、下側電極材の下面全体に厚み0.4?3.0mmの透明ガラス板を貼り合わせたタッチパネルにおいて、
上記透明ガラス板の下面全体に厚み25?200μmの透明補強フィルムを貼り合わせたことを特徴とするタッチパネル。」

イ 「【0001】
本発明は、コードレス電話機、携帯電話機、電卓、サブノートパソコン、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの液晶デイスプレイを備えた携帯型電子機器やパソコンのモニタ等に搭載され、透視した画面の指示にしたがって指やペンなどで上から押圧することにより位置入力が行われるタッチパネルに関する。」

ウ 「【0012】
すなわち、下側電極材の厚み25?200μmの透明樹脂フィルムと厚み25?200μmの透明補強フィルムの間に厚み0.4?3.0mmの透明ガラス板を挟んだ状態で、これらが全面で貼り合わせられているため高強度が得られる。したがって、透明ガラス板の薄型化によるタッチパネルの軽量化が、タッチパネルの強度を維持したまま可能となる。
【0013】
また、透明ガラス板の両面が上記各フィルムで覆われているため、タッチパネルに著しく大きな入力負荷がかけられて仮に透明ガラス板が割れたとしても、ガラス破片が両面を覆うフィルム内に留まりタッチパネル周辺への飛散を完全に防止できる。」

エ 「【0016】
図1に示すタッチパネル1は、厚み25?200μmの透明樹脂フィルム2の上面に透明電極3を形成した下側電極材と、透明樹脂フィルム2の下面に透明電極3を形成した上側電極材とをスペーサー4を介して対向配置させ、下側電極材の下面全体に厚み0.4?3.0mmの透明ガラス板6を貼り合わせ、当該透明ガラス板6の下面全体に厚み25?200μmの透明補強フィルム8を貼り合わせたものである。
【0017】
上記上側電極材の透明樹脂フィルム2としては、入力のために可撓性を有する必要があり、一般に厚み75?250μmのポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの樹脂フィルム、それらの積層体などが用いられる。なお、上側電極材の上面にはハードコート層が形成されていてもよい。ハードコート層としては、シロキサン系樹脂などの無機材料、あるいはアクリルエポキシ系、ウレタン系の熱硬化型樹脂やアクリレート系の光硬化型樹脂などの有機材料がある。ハードコート層の厚みは、1?7μm程度が適当である。また、上側電極材は、上面に光反射防止のためにノングレア処理を施してもよい。たとえば、透明樹脂フィルムやハードコート層を凹凸加工したり、ハードコート層中に体質顔料やシリカ、アルミナなどの微粒子を混ぜたりする。
【0018】
上記下側電極材の透明樹脂フィルム2としては、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの樹脂フィルム、それらの積層体などが用いられる。フィルムの厚みが25μmに満たないと、透明ガラス板6が割れた場合、ガラス破片がフィルムを突き破るおそれがある。また、フィルムの厚みが200μmを超えると、フィルムの柔軟性に欠け、組み立て効率が悪くなる。

【0023】
上記透明補強フィルム8としては、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの樹脂フィルム、それらの積層体などが用いられる。フィルムの厚みが25μmに満たないと、透明ガラス板6が割れた場合、ガラス破片がフィルムを突き破るおそれがある。また、フィルムの厚みが200μmを超えると、フィルムの柔軟性に欠け、組み立て効率が悪くなる。
【0024】
下側電極材と透明ガラス板6、透明ガラス板6と透明補強フィルム8とはいずれも粘着材7等により全面的に接着されている。そのため、タッチパネル1に著しく大きな入力負荷がかけられて仮に透明ガラス板6が割れたとしても、ガラス破片をフィルム間に留め、タッチパネル1周辺への飛散を完全に防ぐ事が出来る。また、タッチパネル1を誤って落としたり、ぶつけたりして仮に透明ガラス板が割れたとしても、同様である。したがって、タッチパネル1やその部品の交換・清掃に手間が掛かりにくい。また、液晶パネルまたはフロントライトの表面が飛散したガラスによって傷つけられるのを防ぐことが出来、文字・画像が正しく視認出来る。粘着材4には、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤や両面接着テープ等を用いることができるが、とくに透明ガラス板6、下側電極材の透明樹脂フィルム2、透明補強フィルム8と屈折率の近似したものを用いるのがより好ましい。」

オ 図1は、以下のとおりである。

(2)以上によれば、引用例2には、以下の発明が記載されている。
「コードレス電話機、携帯電話機、電卓、サブノートパソコン、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの、液晶ディスプレイとタッチパネルを備えた携帯型電子機器であって、
前記タッチパネルは、厚み25?200μmの透明樹脂フィルムの上面に透明電極を形成した下側電極材と、透明樹脂フィルムの下面に透明電極を形成した上側電極材とをスペーサーを介して対向配置させ、下側電極材の下面全体に厚み0.4?3.0mmの透明ガラス板を貼り合わせたタッチパネルであり、
上記透明ガラス板の下面全体に厚み25?200μmの透明補強フィルムを貼り合わせ、
下側電極材の透明樹脂フィルム、上側電極材の透明樹脂フィルム、透明補強フィルムとしては、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの樹脂フィルム、それらの積層体などが用いられる、
液晶ディスプレイとタッチパネルを備えた携帯型電子機器。」(以下「引用発明」という。)

(2)甲1発明
ア 甲第1号証には以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、
バックライト光源として白色発光ダイオードを用いるとともに、
前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることを特徴とする液晶表示装置の視認性改善方法。」(下線は当審が付加した。以下同様である。)

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時、その観察角度によらず良好な視認性を確保することができる液晶表示装置の視認性改善方法、及びそれを用いた液晶表示装置に関する。」

(ウ)「【背景技術】

【0004】
ところで、日差しの強い屋外等の環境では、その眩しさを解消するために、偏光特性を有するサングラスを掛けた状態でLCDを視認する場合がある。この場合、観察者はLCDから射出した直線偏光を有する光を、偏光板を通して視認することとなるため、LCDに内装される偏光板の吸収軸と、サングラスなどの偏光板の吸収軸とがなす角度によっては画面が見えなくなってしまう。
【0005】
上記問題を解決するため、例えば、特許文献1では、LCD表面に位相差(4分の1波長)板を斜めに積層して直線偏光を円偏光に変換して偏光解消する方法が提案されている。」

(エ)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、位相差(4分の1波長)板といえども、ある特定の波長領域の光に対してのみ4分の1波長を達成するに過ぎず、広い可視光領域に渡って均一に4分の1波長を達成する材料は得られていない。そのため特許文献1の方法では、十分な視認性改善効果は得られない。

【0010】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、その目的は、サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時、その観察角度によらず高度に良好な視認性を確保することができる液晶表示装置を提供することにある。」

(オ)「【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のバックライト光源と特定のリタデーションを有する高分子フィルムとを組み合せて用いることにより、上記問題を解決できることを見出し、本発明の完成に至った。」

(カ)「【発明の効果】
【0013】
本発明の方法では、連続的で幅広い発光スペクトルを有する白色発光ダイオード光源において効率よく直線偏光を解消し、光源に近似したスペクトルが得られるため、サングラスなどの偏光板を通して液晶表示画面を観察する際でも、その観察角度によらず良好な視認性を確保できる。」

(キ)「【発明を実施するための形態】
【0015】
一般に、液晶パネルは、バックライト光源に対向する側から画像を表示する側(視認側)に向かう順に、後面モジュール、液晶セルおよび前面モジュールから構成されている。……
【0020】
本発明では、前記偏光板の視認側に特定範囲のリタデーションを有する高分子フィルムを配することを特徴とする。本発明者は複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状に着目し、本発明の着想を得たものである。すなわち、光源の発光スペクトルと複屈折体を透過した透過光による干渉色スペクトルの包絡線形状とが相似形となることで視認性が顕著に改善することを見出し、本発明に至ったものである。具体的に、本発明の構成により視認性が改善するという効果は以下の技術思想による。
【0021】
直交する2つの偏光板の間に複屈折性を有する高分子フィルムを配した場合、偏光板から出射した直線偏光が高分子フィルムを通過する際に乱れが生じ、光が透過する。透過した光は高分子フィルムの複屈折と厚さの積であるリタデーションに特有の干渉色を示す。本発明では、連続的な発光スペクトルを有する白色LEDを光源とする。このため、高分子フィルムによっても達成可能な特定のリタデーション範囲に制御することにより、干渉色を示す透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似させることが可能となる。本発明はこれにより視認性の向上を図るに至ったものである。(図3参照)
【0022】
上記効果を奏するために、本発明に用いられる高分子フィルムは、3000?30000nmのリタデーションを有していなければならない。リタデーションが3000nm未満では、サングラスなどの偏光板を通して画面を観察した時、強い干渉色を呈するため、包絡線形状が光源の発光スペクトルと相違し、良好な視認性を確保することができない。好ましいリタデーションの下限値は4500nm、より好ましい下限値は6000nm、更に好ましい下限値は8000nm、より更に好ましい下限値は10000nmである。
【0023】
一方、リタデーションの上限は30000nmである。それ以上のリタデーションを有する高分子フィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的に得られないばかりか、フィルムの厚みも相当に厚くなり、工業材料としての取り扱い性が低下するので好ましくない。」

(ク)図3は、以下のとおりである。


(ケ)「【0038】
実験例1
ここでは、高分子フィルムとしてポリカーボネートフィルムを用いた例を示す。

【0041】
次に、シュミレーションにより配向ポリカーボネートフィルムの干渉色チャートを作成した。
直交ニコル間の対角位に複屈折体を配し、バックライトとして白色光源を用いた場合に直交ニコルを透過する光を干渉色として定義すると、光の透過率は次の式(1)で表される。
I/I_(0)=1/2・sin^(2)(π・Re/λ)・・・(1)
ここで、I_(0)は直交ニコルに入射する光の強度、Iは直交ニコルを透過した光の強度、Reは複屈折体のリタデーション、を示す。このように、透過率(I/I_(0))はリタデーション、光の波長によって変化するため、リタデーションの値に特有の干渉色が観察される。
【0042】
しかしながら、高分子材料は屈折率(特に可視光の短波長領域)の波長分散性が大きく、係る波長分散性は高分子材料により異なる。複屈折に波長依存性が存在すると、複屈折が波長ごとに変化する。そこで、上記式(1)を配向ポリカーボネートに適用する場合は、ポリカーボネート特有の波長分散性を考慮し、本実験例では以下の式(2)を適用した。
I/I_(0)=1/2・sin^(2)(π・f(λ)・Re/λ)・・・(2)
ここで、f(λ)は複屈折の波長分散性を表す関数である。
【0043】
上記式(2)をもとに、配向ポリカーボネートフィルムの複屈折の波長分散性を考慮して干渉色を計算するプログラムを作成し、リタデーションと干渉色の関係を表す干渉色チャートを作成した。図2には、図1に示した白色発光ダイオードの発光スペクトルを用いて計算した、配向ポリカーボネートフィルムの干渉色チャートを示した。図1、図2より実測とシミュレーションで色は一致しており、リタデーション(Re)≧3000nm以上で干渉色の変動は著しく低下し、Re≧8000nm程度では干渉色はほぼ一定となることが判った。
【0044】
また、図3には、Re=8000nmにおいて直交ニコルを透過した光のスペクトルを示す。図中、P(λ)が光源(白色LED)の発光スペクトル、T(λ)が透過光のスペクトルである。透過光スペクトルの包絡線が光源の発光スペクトルの形状を保存した相似形を有していることから、一定となった配向ポリカーボネートフィルムの干渉色は、実効的に光源の発光スペクトルからなることが明らかとなった。また、透過光の強度は光源の強度の1/4になることが確認された。」

(コ)「【0048】
実験例2
ここでは、高分子フィルムとして配向ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用いた例を示す。
ジメチルテレフタレートを1000部、エチレングリコールを700部、および酢酸マンガン4水塩を0.16部をエステル交換反応缶に仕込み、120?210℃でエステル交換反応を行い、生成するメタノールを留去した。エステル交換反応が終了した時点で三酸価アンチモンを0.13部、正リン酸を0.017部を加え、系内を徐々に減圧にし、75分間で133Paとした。同時に徐々に昇温し、280℃とした。この条件で70分間重縮合反応を実施し、溶融ポリマーを吐出ノズルより水中に押出し固有粘度が0.62dl/gのPET樹脂を得た。
【0049】
固有粘度が0.62dl/gのPET樹脂を水冷却した回転急冷ドラム上にフィルム形成ダイを通して押出し、未延伸フィルムを作製した。この未延伸フィルムを幅方向に100℃で4.0倍延伸した後、150℃で熱固定を行い、更に130℃から100℃に冷却しながら、幅方向に3%弛緩処理を行い、厚さ38μmの配向PETフィルム(PETフィルム-1)を得た。
【0050】
また、PETフィルム-1と同様の方法を用い、未延伸フィルムの厚みを変更することにより、厚さ200μmの配向PETフィルム(PETフィルム-2)を得た。
【0051】
PETフィルム-1と同様の方法を用いて作成した未延伸フィルムを、加熱されたロール群および赤外線ヒーターを用いて105℃に加熱し、その後周速差のあるロール群で長手方向(走行方向)に3.4倍延伸して、厚さ700μmの配向PETフィルム(PETフィルム-3)を得た。
【0052】
上記の方法で得られた配向PETフィルムの特性を表1に示した。…」

(サ)表1は、以下のとおりである。

イ 上記ア(ア)-ア(ケ)によれば、以下の発明が開示されている。
「バックライト光源と、液晶セルと、液晶セルの視認側に配した偏光板とを少なくとも有する液晶表示装置において、
サングラスなどの偏光板を通して液晶表示装置の画面を観察した時、その観察角度によらず高度に良好な視認性を確保することを目的とし、
バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを用いるとともに、
前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)を有する高分子フィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いることにより、
高分子フィルムのリタデーションに特有の干渉色を示す高分子フィルムの透過光は、そのスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルの形状を保存した相似形を有し、実効的に光源の発光スペクトルからなる、
画像を表示する液晶表示装置。」(以下「甲1発明」という。)

ウ 上記ア(コ)、(サ)によれば、「3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム」の例として「PETフィルム-1」、「PETフィルム-2」が記載され、その特性が表1に記載されている。
直交する二軸の屈折率をNx,Ny、厚さ方向の屈折率をNz、厚みをd(nm)とすると、厚さ方向リタデーション(Rth)は、(△Nxz×d)、(△Nyz×d)の平均値であるから、「PETフィルム-1」、「PETフィルム-2」の厚さ方向リタデーション(Rth)を算出するとともに、リタデーションと厚さ方向のリタデーションの比(Re/Rth)を算出すると、以下のとおりである。
(Rth) (Re/Rth)
PETフィルム-1 4389nm 0.848
PETフィルム-2 25860nm 0.832

してみると、「3000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルム」として、以下のフィルムが開示されている。
「厚み38μm、3724nmのリタデーションを有し、リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.848であるPETフィルム-1、
PETフィルム-1と同様の方法を用い、未延伸フィルムの厚みを変更して作成した、
厚み200μm、21520nmのリタデーションを有し、リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.832であるPETフィルム-2」(以下「甲1の技術事項」という。)

(3)周知技術、技術常識等
表示装置(タッチパネル)の技術分野、光学(偏光や複屈折など)の技術分野における、周知技術、技術常識について、予め、検討しておく。

ア 液晶表示装置の視認側に透明導電層が積層された基材フィルムやガラス基板を備えるタッチパネルを配置すること、そして、前記ガラス基板が破損した際に飛散を防止するフィルムを備えることは、下記(ア)-(エ)に記載されるように周知技術(以下「周知技術1」という。)である。

(ア)センサ部の構造としくみ トランジスタ技術 2009年8月号 CQ出版社 p99-106 例えば、図3(a)には、「F/G(フィルム/ガラス)」構造のタッチパネルが開示されている。図3(a)、(b)は以下のとおりである。

(イ)甲第2号証(国際公開第2012/161078号)
甲第2号証には、図15及びその説明箇所に、液晶表示パネル12の視認側に、光学用透明粘着層38、飛散防止フィルム24、タッチパネル本体(センサガラス)11、飛散防止フィルム13をこの順に配置した表示装置が開示されている。そして、図15は、以下のとおりである。


(ウ)引用例1(特開平4-326419号公報)
引用例1には、液晶パネル32の視認側に、感圧式タブレット5配置すること、感圧式タブレット5は構成する第1偏光板6、ガラス板からなる第2の抵抗シート2の表面にITO膜3を蒸着した層、タブレットスペーサ4、PETからなる第1の抵抗シート1の表面にITO膜3を蒸着した層からなることが、以下の図1とともに開示されている。

そして、「【0032】…樹脂材料からなる第1の偏光板6を利用して、この偏光板6と第2の抵抗シート2と接着層14とで安全ガラスを構成するようにしている。…外部からの衝撃で上記ガラス板からなる第2の抵抗シート2が割れる事態が発生しても、上記ガラス板の破片が飛び散ることを防止でき、操作者に危険が及ぶことを防止できる。」と記載されている。

(エ)引用例2(第5 1(イ)参照)
引用例2には、液晶ディスプレイを備えた携帯型電子機器等に搭載されるタッチパネルであって、厚み25?200μmの透明樹脂フィルム2の上面に透明電極3を形成した下側電極材と、透明樹脂フィルム2の下面に透明電極3を形成した上側電極材とをスペーサーを介して対向配置させ、下側電極材の下面全体に厚み0.4?3.0mmの透明ガラス板6を貼り合わせ、前記透明ガラス板6の下面全体に厚み25?200μmの透明補強フィルム8を貼り合わせたタッチパネルが開示されている。

イ リタデーションを有する飛散防止フィルムは、以下の(ア)-(エ)に記載されるように、周知(以下「周知技術2」という。)である。
(ア)甲第4号証
「[0029]…飛散防止フィルムに上記光学異方性の特性を持たせることにより、偏光特性を有する眼鏡等を使用しても表示が見えなくなることを防ぐことができる。」

(イ)特開2013-20135号公報
「【0010】…当該光学シートは、タッチパネル等に用いられ、タッチパネル表面を強く押下された場合や落下した場合であっても、上記位相差フィルム及びこの位相差フィルムの他方の面側に積層される粘着層によりタッチパネルのガラス基板等が破損することを防止することができる。その結果、当該光学シートは、ガラス基板の破片等が飛散するのを効果的に防止することができる。」

(ウ)特開平4-163138号公報
リタデーションが8000nm以上のポリエステルフィルムが開示されている。ガラスの破損時に破片の飛散を防止することは1頁右下欄7-8行等を参照。

(エ)特開2012-214026号公報
【0025】には、さらに好ましいものとして、リタデーションが3000nm以上のフィルムが、【0002】には飛散防止機能を持つことが開示されている。

なお、表示装置に用いる飛散防止フィルムと、窓ガラス等に用いる飛散防止フィルムは、下記a?cに記載されるように、格別相違するものではない。
a 特開2004-51706号公報
「【0006】…本発明で得られるハードコート処理物品は、基材としてプラスチックのフイルム、シート、板等を用いたハードコート処理物品として提供され、…、液晶表示装置(LCD)…等のディスプレイ、家電製品等のタッチパネル、自動車や建築物の窓ガラス等の飛散防止性、表面の硬さが高く傷が付き難いことが必要とされる物に利用されると好適である。」
b 特開2004-155188号公報
「【0008】本発明の積層フィルムは、ガラスとの接着強度が4N/10mm幅以上の粘着力を有する粘着層を有し、かつ引裂強度が50N/mm以上であるので、ガラスの破損防止および飛散防止を目的とした耐引裂性および耐衝撃性と、ガラスに貼りつけた際の視認性を両立した積層フィルムを提供することができる。特に建材用窓ガラス、車両用窓ガラス、フラットディスプレイ等の表示用ガラスの保護フィルムとして好適なガラス保護フィルムを提供できる。」
c 特開2009-216750号公報
「【0008】本発明の目的は、上記の従来技術の要望に応えんとするもので、表示画面等のディスプレイの表面保護フィルム、窓ガラスの飛散防止フィルムなどとして有効に使用できる、耐擦傷性、抗菌性、防汚性、および防湿性を向上させたハードコートフィルムを提供しようとすることにある。」

ウ 「異方体の光軸方向を平行にして二つの異方体を重ねた場合、全体のリタデーションは二つの異方体のリタデーションの和(相加)となり、異方体の光軸方向を直交して二つの異方体を重ねた場合、全体のリタデーションは二つの異方体のリタデーションの差(相滅)となり、光軸方向が平行と直交の間では、位相量の相加から相滅まで連続的(三角関数的)に減少すること。」は、以下(ア)、(イ)に記載されるように、技術常識(以下「技術常識1」という。)である。

(ア)甲第5号証には以下の記載がある。
「2.異方体の重ね合わせ
二つの異方体を対角位で重ねる時において、それぞれの異方体の速度の遅い光の振動方向(z’方向)を同じにして重ねた場合(図2-6a)と二つのz’方向を直交して重ねた場合(図2-6b)を考えてみる。
図2-6aのように二つの異方体のz’方向を同じ方向にして重ねた場合は速度の速いほうの偏光の振動方向が一致しているので、全体のレタデーションは二つの異方体のレタデーションの和となる。
R=R1+R2(R1、R2は異方体1、2のレタデーション)
この状態を相加additionという。これに対して図2-6bは一方の異方体通過後の位相差をもう一方の位相差で打ち消す事になる。このため、全体のレタデーションは二つの異方体のレタデーションの差となる。
R=R1?R2
この状態を相減substructionという。」
図2-6は、以下のとおりである。

(イ)特開2007-11280号公報には以下の記載がある。
「【0107】
図14Aは第1,第2の2枚の位相差フィルム61,62の積層体でなる位相差板の製造方法を説明する図である。位相差フィルム61の面内の主屈折率をn1x,n1y、位相差フィルム62の面内の主屈折率をn2x,n2yで示している。n1xおよびn2xは各位相差フィルム61,62の遅相軸すなわち光学軸であり、n1yおよびn2yは各位相差フィルム61,62の進相軸を表している。

【0110】
図14Bに示したように、第1の位相差フィルム61に対する第2の位相差フィルム62の回転角度θ1が大きくなるにしたがって、フィルム全体の面内位相差量が三角関数的に減少することがわかる。ここで、θ1が0のとき、即ち第1,第2の位相差フィルム61,62の各々の遅相軸n1x,n2xがそれぞれ同一方向に配向されているときは、フィルム全体の位相差量は個々のフィルムがもつ位相差量の総和(7nm+7nm=14nm)となる。一方、θ1が90度のとき、即ち第1,第2の位相差フィルム61,62の各々の遅相軸n1x,n2xが互いに直交する場合は、個々のフィルムがもつ位相差量の差(7nm-7nm=0nm)となる。また、位相差量は積層する光学軸の角度を変えることにより任意に調整可能である。」
図14は以下のとおりである。

2 対比・判断(引用例2を主引例とする容易想到性)
事案に鑑み、はじめに、引用例2を主引例とする容易想到性について検討し、次に、甲第1号証を主引例とする容易想到性について検討する。

(1)本件発明1
ア 本件発明1と引用発明を対比する。
(ア)コードレス電話機、携帯電話機、電卓、サブノートパソコン、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの電子機器に搭載される液晶ディスプレイが、一般に、バックライト光源、液晶表示セル、前記液晶表示セルよりも視認側に配置される偏光子を備えることは技術常識である。してみると、引用発明の液晶ディスプレイは、バックライト光源、液晶表示セル、前記液晶表示セルよりも視認側に配置される偏光子を備える。

(イ)引用発明の透明補強フィルムは、引用例2の【0013】、【0024】の記載によれば、透明ガラス板が割れた際に、ガラス破片の飛散を防止する機能を有している。してみると、引用発明の「透明補強フィルム」は、本件発明1の飛散防止フィルムに相当する。

(ウ)引用発明の「透明樹脂フィルムの上面に透明電極を形成した下側電極材」、あるいは「透明樹脂フィルムの下面に透明電極を形成した上側電極材」は、本件発明1の「透明導電層が積層された基材フィルム」に相当する。

(エ)引用発明の「液晶ディスプレイとタッチパネルを備えた携帯型電子機器」は、本件発明1の「画像表示装置」に相当する。

(オ)以上によれば、本件発明1と引用発明は、
「(1)光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有する、
画像表示装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1:光源に関し、本件発明1は、「連続的な発光スペクトルを有する白色光源」であるのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。
相違点2:飛散防止フィルムに関し、本件発明1は、「前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置され」るのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。
相違点3:基材フィルムに関し、本件発明1は、「前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであ」るのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。
相違点4:本件発明1は、「但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く」のに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1-4をまとめて検討する。
引用発明は、コードレス電話機、携帯電話機、電卓、サブノートパソコン、PDA(パーソナル・デジタル・アシスタント)、デジタルカメラ、ビデオカメラなどの、液晶ディスプレイとタッチパネルを備えた携帯型電子機器であるところ、これらの電子機器は、一般に、屋外などにおいて偏光サングラスなどの偏光板を通して視認することが想定されるから、引用発明に甲1発明を組み合わせること、すなわち、バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを用いて上記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項となすとともに、液晶ディスプレイが当然に備える偏光板の視認側に、6000?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用い、偏光サングラスなどの偏光板を通して液晶ディスプレイの画面を観察した時、その観察角度によらず高度に良好な視認性を確保することは、当業者が容易に想到し得ることである。そしてその際、引用発明の透明補強フィルムは、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの樹脂フィルム、それらの積層体などが用いられ、一般にこれらのフィルムは位相差を有するフィルムであること、そして、飛散防止フィルムとしてリタデーションを有するものは周知であること(周知技術1)から、薄型化を図るという表示装置の技術分野における一般的な課題を解決する目的で、透明補強フィルムのリタデーションを6000?30000nmにするとともに、その遅相軸と偏光板の吸収軸とのなす角を凡そ45度として上記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項となすことに困難性はない。
また、引用発明の「下側電極材の透明樹脂フィルム」、あるいは、「上側電極材の透明樹脂フィルム」は、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリエーテルケトン系等のエンジニアリングプラスチック、アクリル系、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系などの樹脂フィルム、それらの積層体などが用いられ、これらのフィルムも一般に位相差フィルムでありリタデーションを有するところ、一般に、タッチパネルのリタデーションは1500nm未満(例えば特開2004-170875号公報の【0003】参照。)であるから、引用発明の下側電極材の透明樹脂フィルムあるいは上側電極材の透明樹脂フィルムが有するリタデーションとして100nm以上2300nm未満は一般的な値に過ぎない。よって、上記相違点3に係る本件発明1の発明特定事項となすことに困難性はない。
そして、透明補強フィルムと下側電極材の透明樹脂フィルムあるいは上側電極材の透明樹脂フィルムのリタデーション差は3000nm以上あるから、透明補強フィルム、下側電極材の透明樹脂フィルム、そして上側電極材の透明樹脂フィルムの全体のリタデーションは、上記技術常識に照らし、3000nm以上である。そうすると、引用発明に甲1発明を組み合わせる際、引用発明の透明補強フィルムが有する配向主軸と、「下側電極材の透明樹脂フィルム」あるいは「上側電極材の透明樹脂フィルム」が有する配向主軸のなす角度は何ら限定されるものではないから、前記角度が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除いて上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項となすことは、当業者が適宜なし得ることである。
そして、本件発明1が奏する作用効果は、引用発明、甲1発明、周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に予測し得るものである。
してみると、本件発明1は、引用発明、甲1発明、周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

(イ)意見書の主張について
a 特許権者は、令和1年7月16日付け意見書において、以下の主張をする。
(a)引用発明に甲1発明を組み合わせるとすれば、引用発明の「透明補強フィルム」ではなく、「透明樹脂フィルム」として甲1発明の3000nm?30000nmのリタデーションを有する高分子フィルムを採用する筈である。
(b)2枚の配向フィルムの配向主軸は平行となるように配置する筈であり、敢えて、全体の厚みや重みが増すような角度で配置することは考えられず、「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く」ことは当業者が容易になし得たことではない。
(c)低リタデーション配向フィルムと高リタデーション配向フィルムの配置順序によっては全体のリタデーションが3000nm以上であっても虹斑が生じるところ、本件発明の構成とすることにより解消できることは、予測し得ない顕著な作用効果である。

b 以下、上記主張について検討する。
(a)はじめに、甲1発明がサングラスなどの偏光板を通して液晶表示装置を観察した際、視認性を改善できる解決原理について検討する。
甲1発明は、「前記偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)を有する高分子フィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いる」構成を備える。この構成によれば、偏光板から出射した直線偏光の光は、その偏光方向が、高分子フィルムの遅相軸に対して凡そ45度の角度で高分子フィルムに入射する。高分子フィルムに入射した直線偏光の光は、光の偏光状態を、直線偏光 → 楕円偏光 → 円偏光 → 楕円偏光 → 直線偏光(もとの方向に対して直角) → … と変化させながら高分子フィルムを通過(例えば、富山小太郎訳 「ファインマン物理学II 光 熱 波動」岩波書店 1996年2月15日 p87-p90に記載されるように、技術常識である。)し、高分子フィルムを出射する際の光の偏光状態は、光の波長と高分子フィルムのリタデーションに応じて決まる。偏光サングラスに入射する光のうち、偏光サングラスを通過できる偏光状態(円偏光等)の光は、可視光の波長範囲に多数存在し、甲第1号証の図3に示されるように、透過光のスペクトルの包絡線形状が光源の発光スペクトルに近似することにより、視認性が改善する。このような解決原理は、甲第1号証のみならず、特開平6-258634号公報(例えば、請求項1、図2参照。)、特開2004-170875号公報(請求項1、2、図4-6参照。)、特開2005-157082号公報(【0045】-【0056】、図4、図5参照。)等にも開示され、周知の解決原理である。
(b)上記周知の解決原理によれば、高リタデーションフィルムを用いて視認性を改善するには、偏光板から出射した直線偏光の光を、その偏光方向が、高分子フィルムの遅相軸に対して凡そ45度の角度となるように高分子フィルムに入射させることが必要である。仮に、視認側偏光子と高リタデーションフィルムの間に低レタデーションフィルムが配置されると、視認側偏光子から出射する直線偏光の光は、低リタデーションフィルムを通過することで偏光状態が直線偏光から例えば楕円偏光に変換され、楕円偏光の光が高リタデーションフィルムに入射することとなり、上記解決原理が損なわれる。してみると、引用発明に甲1発明を組み合わせる際、当業者であれば、甲1発明の解決原理が損なわれないように、すなわち、液晶ディスプレイ(視認側の偏光板)から出射する直線偏光の光が、高リタデーションフィルムの遅相軸となす角が凡そ45度で入射するように、視認側偏光子に最も近い位置に高リタデーションフィルムを配置するから、引用発明の透明補強フィルムを高リタデーションのフィルムと為すことは、当業者が当然に考慮することである。してみると、特許権者の上記主張(a)は採用できない。
(c)また、上記解決原理によれば、高リタデーションフィルムに直線偏光が入射することが必要であるから、高リタデーションフィルムを配する位置が課題解決に影響するであろうこと、すなわち、視認側偏光子、高リタデーションフィルム、低リタデーションフィルムの順に配置することで視認性が改善するのに対し、視認側偏光子、低リタデーションフィルム、高リタデーションフィルムの順に配置すれば視認性改善効果が劣るであろうことは、上記解決原理に照らし容易に予測できることであり、予想外の効果とは言えない。よって、特許権者の上記主張(c)は採用できない。
(d)上記周知の解決原理によれば、凡そ45度に配した高リタデーションフィルムにより、視認性の改善が図られている。高リタデーションフィルムの配向主軸と低リタデーション配向主軸を平行に配置する場合は、全体のリタデーションが大きくなり、視認性改善の点で好ましいものの、各配向主軸が平行からずれていたとしてもリタデーション差が3000nm以上であり、視認性が改善する。してみると、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除いたとしても、視認性は改善するのであるから、そのように為すことに困難性はない。よって、特許権者の上記主張(b)は採用できない。
なお、本件明細書には、
「【0021】
画像表示装置は、低リタデーション配向フィルムを2枚以上備えていても良い。画像表示装置が、低リタデーション配向フィルムを2枚以上備える場合、少なくとも1枚の低リタデーション配向フィルムが光源側又は視認側の基材フィルムとして使用される限り、残りの低リタデーション配向フィルムが設けられる位置は特に制限されない。特に好ましくは、2枚以上の低リタデーション配向フィルムの配向主軸が互いに略平行(2枚の低リタデーション配向フィルムが同一平面状にあると仮定する)で、かつ高リタデーション配向フィルムの配向主軸とも略平行(全ての配向フィルムが同一平面状にあると仮定する)の関係になる場合である。」
との記載がある、上記記載によれば、低リタデーション配向フィルムと高リタデーション配向フィルムの全ての配向主軸が略平行であることが好ましいことが理解できる。そうすると、本件発明1が「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下…である場合を除く」ことは、好ましい態様を除くものである。

(2)本件発明2(引用例2を主引例とする容易想到性)
ア 本件発明2と引用発明を対比する。
本件発明2は、
(ア)本件発明1に「前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である」との特定事項を追加し、
(イ)本件発明1の画像表示装置から、さらに「但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合」を除くとともに、
(ウ)本件発明1が「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く」としているものを「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く」とする、
発明である。してみると、本件発明2と引用発明は、
「(1)光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有する、
画像表示装置。」
の点で一致し、相違点1、2、3及び以下の相違点5、6で相違する。
相違点5:本件発明2は、「前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である」のに対し、引用発明はそのようなものなのか否か不明である点。
相違点6:本件発明2は、本件発明2の画像表示装置から「前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合」を除くのに対し、引用発明はそのようなものなのか否か不明である点。
相違点7:本件発明2は、「但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く」のに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1、2、3の判断は、上記(1)イと同様である。
(イ)相違点5について
引用発明の透明補強フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート系の樹脂フィルムであって良いから、甲1の技術事項である「厚み38μm、3724nmのリタデーションを有し、リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.848であるPETフィルム-1」、あるいは、PETフィルム-1と同様の方法を用い、未延伸フィルムの厚みを変更して作成した、「厚み200μm、21520nmのリタデーションを有し、リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.832であるPETフィルム-2」を用い、上記相違点5に係る本件発明2の発明特定事項となすことは当業者に容易である。
(ウ)相違点6について
甲1発明は、「3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)を有する高分子フィルム」を1枚用いて視認性を改善する発明である。引用発明に甲1発明を組み合わせたとしても、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層されることにはならない。よって、上記相違点6に係る本件発明2の発明特定事項となすことに困難性はない。
(エ)相違点7について
上記(1)イ(ア)の判断と同様の理由により、引用発明に甲1発明を組み合わせる際、引用発明の透明補強フィルムが有する配向主軸と、「下側電極材の透明樹脂フィルム」あるいは「上側電極材の透明樹脂フィルム」が有する配向主軸のなす角度は何ら限定されるものではないから、前記角度が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除いて上記相違点7に係る本件発明2の発明特定事項となすことは、当業者が適宜なし得ることである。
(オ)してみると、本件発明2は、引用発明、甲1発明、甲1の技術事項、周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

(3)本件発明3
ア 本件発明3と引用発明を対比する。
本件発明3は、本件発明1、2を引用する発明であり、
(ア)飛散防止フィルムの配向主軸が偏光子の偏光軸に対して配置される角度に関し、本件発明1、2では「45度±25度以下」と特定するものを「45度」に減縮するとともに、
(イ)本件発明1では「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合」を除き、本件発明2では「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合」を除くことに替えて、「前記飛散防止フィルムの配光主軸と前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合」を除く発明である。してみると、本件発明3と引用発明は、
「(1)光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有する、
画像表示装置。」
の点で一致し、上記相違点1、3及び以下の相違点8、9で相違する。

相違点8:飛散防止フィルムに関し、本件発明3は、「前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置され」るのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。
相違点9:本件発明3は、「但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除く」のに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。

イ 判断
(ア)相違点1、3の判断は、上記(1)イと同様である。
(イ)相違点8について
甲1発明は、「偏光板の視認側に、3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)を有する高分子フィルムを、前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配」するものである。してみると、引用発明に甲1発明を組み合わせ、上記相違点8に係る本件発明3の発明特定事項となすことに困難性はない。
(ウ)相違点9について
上記(1)イ(ア)の判断と同様に、引用発明に甲1発明を組み合わせる際、引用発明の透明補強フィルムが有する配向主軸と、「下側電極材の透明樹脂フィルム」あるいは「上側電極材の透明樹脂フィルム」が有する配向主軸のなす角度は何ら限定されるものではないから、前記角度が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除いて上記相違点9に係る本件発明3の発明特定事項となすことは、当業者が適宜なし得ることである。
(エ)してみると、本件発明3は、引用発明、甲1発明、甲1の技術事項、周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

(4)本件発明4
ア 対比
本件発明4は、本件発明1を引用する発明であり、
(ア)連続的な発光スペクトルを有する白色光源を、「白色発光ダイオード」に特定し、
(イ)基材フィルムのリタデーションを「1500nm以上2300nm未満」に減縮する発明である。してみると、本件発明4と引用発明は、
「(1)光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有する、
画像表示装置。」
の点で一致し、上記相違点2、4及び以下の相違点10、11で相違する。
相違点10:光源に関し、本件発明4は、「連続的な発光スペクトルを有する白色光源」である「白色発光ダイオード」であるのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。
相違点11:基材フィルムに関し、本件発明4は、「前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであ」るのに対し、引用発明は、そのようなものなのか否か不明である点。

イ 判断
(ア)相違点2、4の判断は、上記(1)イと同様である。
(イ)相違点10について
甲1発明は、「バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを用いる」ものである。してみると、引用発明に甲1発明を組み合わせ、上記相違点10に係る本件発明4の発明特定事項となすことに困難性はない。
(ウ)相違点11について
a はじめに、相違点11に係る本件発明4の発明特定事項が有する技術的意義について検討する。
(a)本件明細書には、以下の記載がある。
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
…現在流通しているフィルムの多くは、リタデーションの値が3000nm未満のフィルムであり、前記方法では、そのようなフィルムを画像表示装置に使用することができないという問題がある。そこで、本発明は、リタデーションの値が3000nm未満のような汎用される配向フィルムの使用を可能にしながら、サングラス等の偏光フィルムを介して視認した際の干渉色(即ち、虹斑)による視認性の低下を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記問題を解決すべく日夜研究を重ねたところ、リタデーションが特段制御されていない配向フィルムとリタデーションが3000nm以上150000nm以下に制御された配向フィルムとを組み合わせることにより、上記課題の解決が可能であることを見出した。そして、本発明者等は、画像表示装置の光源側飛散防止フィルムとして3000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムを採用し、タッチパネルの透明導電層が積層された基材フィルムとしてリタデーションが制御されていない配向フィルムを採用するという発想に至った。」
「【0025】
低リタデーション配向フィルムのリタデーションは、3000nm未満であれば特に制限されない。低リタデーション配向フィルムのリタデーションの下限値は、それを単独で用いた場合に虹斑が生じ得るという観点から、50nm以上、100nm以上、200nm以上、300nm以上、400nm以上、又は500nm以上である。また、低リタデーション配向フィルムのリタデーションの上限は、高リタデーション配向フィルムとの組合せで虹斑の抑制が可能であるという観点から、3000nm未満、2500nm未満、又は2300nm未満である。画像表示装置が低リタデーション配向フィルムは2枚以上有する場合、それらのリタデーションは同一であっても異なっていてもよい。低リタデーション配向フィルムのリタデーションが、2500nm以上の場合は、高リタデーション配向フィルムとのリタデーションの値の差を1800nm以上とすることが好ましい。」
「【実施例】

【0097】
配向フィルムD
フィルム厚みを約65μmとした以外は配向フィルムAと同様の方法で製膜を行い、配向フィルムDを得た。リタデーション値は1500nmであった。」

(b)上記記載によれば、「1500nm以上2300nm未満」の低リタデーション配向フィルムが有する技術的意義は、現在流通しているフィルムであって、単独で用いた場合に虹斑が生じ、高リタデーション配向フィルムとの組み合わせで虹斑の抑制が可能であることと解される。
本件発明4は、「飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム」が上記「1500nm以上2300nm未満」の低リタデーション配向フィルムである旨特定するものの、基材フィルムに低リタデーション配向フィルムを使用する技術的意義として、低リタデーション配向フィルムが有する上記技術的意義以上のものは認められない(発明の詳細な説明には、「透明導電層が積層された基材フィルム」をタッチパネルの基材フィルムに使用することが説明されているが、タッチパネルの基材フィルムにリタデーションが3000nm未満(1500nm以上2300nm未満」)の配向フィルムを使用する技術的意義として、低リタデーション配向フィルムが有する上記技術的意義以上のものは説明されておらず、当業者の技術常識を参酌しても不明である。)。
(c)してみると、相違点11に係る本件発明4の発明特定事項が有する技術的意義は、現在流通しているフィルムであって、単独で用いた場合に虹斑が生じ、高リタデーション配向フィルムとの組み合わせで虹斑の抑制が可能であることにあり、基材フィルム(タッチパネル)に用いたことによる格別の技術的意義は認められない。

b 次に、「1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルム」は、タッチパネルの基材フィルムとして当業者が適宜採用するものなのか否か検討する。
前記(1)イ(ア)で引用した特開2004-170875号公報【0003】には、「従来のタッチパネルは、一般にリタデーション値が1500nm未満で、光学軸が水平方向に対して大きくばらついて-50度?+50度の角度となる光学特性を有する。」との記載があることに照らせば、「1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルム」は、一般に、タッチパネルの基材フィルムとして当業者が適宜採用するものとは解されない。

c してみると、引用発明のタッチパネルが備える「下側電極材の透明樹脂フィルム」あるいは「上側電極材の透明樹脂フィルム」として「1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルム」を採用し、上記相違点11に係る本件発明4の発明特定事項と為すことは、当業者が容易に想到し得るものとは言えない。

(エ)以上によれば、本件発明4は、引用発明、甲1発明、甲1の技術事項、周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(2)本件発明5
ア 対比
本件発明5は、本件発明2を引用する発明であり、
(ア)連続的な発光スペクトルを有する白色光源を、「白色発光ダイオード」に特定し、
(イ)基材フィルムのリタデーションを「1500nm以上2300nm未満」に減縮する発明である。してみると、本件発明5と引用発明は、
「(1)光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有する、
画像表示装置。」
の点で一致し、上記相違点2、4-7、10、11で相違する。

イ 判断
相違点2、4-7、10、11の判断は、上記のとおりである。
よって、本件発明5は、引用発明、甲1発明、甲1の技術事項、周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(6)本件発明6
ア 対比
本件発明6は、本件発明3を引用する発明であり、
(ア)連続的な発光スペクトルを有する白色光源を、「白色発光ダイオード」に特定し、
(イ)基材フィルムのリタデーションを「1500nm以上2300nm未満」に減縮する発明である。してみると、本件発明6と引用発明は、
「(1)光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有する、
画像表示装置。」
の点で一致し、上記相違点3、8、9、10、11の点で相違する。

イ 判断
相違点3、8、9、10、11の判断は、上記のとおりである。
よって、本件発明6は、引用発明、甲1発明、甲1の技術事項、周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(7)小括
以上によれば、本件発明1-3は、引用発明、甲1発明、甲1の技術事項及び周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、本件発明4-6は、引用発明、甲1発明、甲1の技術事項及び周知技術1、2、及び技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

3 対比・判断(甲1発明を主引例とする容易想到性)
(1)本件発明1
ア 本件発明1と甲1発明を対比する。

(ア)甲1発明の「連続的な発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを用いる」「バックライト光源」は本件発明1の「連続的な発光スペクトルを有する白色光源」に相当する。
甲1発明の「液晶セル」と本件発明1の「画像表示セル」は、「液晶セル」の点で一致し、甲1発明の「画像を表示する液晶表示装置」と本件発明1の「画像表示装置」は「画像を表示する液晶表示装置」の点で一致する。
(イ)偏光板は偏光子を有するから、甲1発明の「液晶セルの視認側に配した偏光板」と本件発明1の「前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子」は、「(3)前記液晶表示セルよりも視認側に配置される偏光子」の点で一致する。
(ウ)本件発明1の「前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム」と甲1発明の「前記偏光板の視認側に」「配して用いる」「高分子フィルム」を対比すると、両者は、「前記偏光子よりも視認側に配置されるフィルム」の点で一致する。
(エ)本件発明1の「前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置される」ことと、甲1発明の「3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)を有する高分子フィルム」であって「前記偏光板の吸収軸と前記高分子フィルムの遅相軸とのなす角が凡そ45度となるように配して用いること」を対比する。
本件発明1の「飛散防止フィルム」と甲1発明の「高分子フィルム」は「フィルム」の点で一致する。また、本件発明1の「6000nm以上150000nm以下のリタデーション」と甲1発明の「3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)」は、「6000nm以上30000nm以下のリタデーション」の点で一致する。
してみると、両者は、「前記フィルムは、6000nm以上30000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して凡そ45度となるように配置される」点で一致する。
オ 以上によれば、本件発明1と甲1発明は、
「(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)液晶セル、
(3)前記液晶セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置されるリタデーションを有するフィルム
を有し、
前記フィルムは、6000nm以上30000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して凡そ45度となるように配置される、
画像を表示する液晶表示装置。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

相違点甲1ー1:「フィルム」に関し、本件発明1では「飛散防止フィルム」であるのに対し、甲1発明では「高分子フィルム」であり、飛散を防止するものなのか否か不明である点。

相違点甲1-2:本件発明1は、「フィルム」よりも視認側に、「透明導電層が積層された基材フィルム」を配置し、「前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであ」るのに対し、甲1発明は、そのような基材フィルムを配置する旨の特定を有しない点。

相違点甲1-3:本件発明1は、「但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く」のに対し、甲1発明はそのような特定を有しない点。

イ 以下、上記相違点について検討する。
(ア)相違点甲1-1、相違点甲1-2についてまとめて検討する。
甲1発明は偏光サングラスなどの偏光板を通して液晶表示装置の画面を見る際の課題を解決する発明であり、偏光サングラスを使用することが多い環境、すなわち、屋外での使用が想定される液晶表示装置であるところ、周知技術1を採用して甲1発明の液晶表示装置の視認側に、ガラス基板と該ガラス基板が破損した際に飛散を防止するフィルムを備えたタッチパネルを配置すること、例えば、引用例2に記載されたタッチパネルを、甲1発明の液晶表示装置の視認側に、甲第2号証に記載される如く光学用透明粘着層38を介して配置することは、当業者が容易に想到し得ることであり、その際、1枚のフィルムに複数の機能を持たせてフィルム枚数を削減し、表示装置の薄型化を図ることは周知の技術手段であること、そして、リタデーションを有する飛散防止フィルムは周知(周知技術2参照)であることを踏まえると、飛散防止フィルム(例えば、引用例2の「透明補強フィルム8」)に6000?30000nmのリタデーションを持たせ、甲1発明の「3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)を有する高分子フィルム」として機能させることに困難性はない。
そして、透明導電層が積層された基材フィルムを備えるようなタッチパネルは、一般に1500nm未満のリタデーションを有する(例えば、特開2004-170875号公報の【0003】参照。)から、「前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであ」るとの相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、透明導電層が積層された基材フィルムを備えるような一般的なタッチパネルを特定するものにすぎない。
してみると、甲1発明に、引用例2に開示される周知技術1、周知技術2を採用し、上記相違点1、2に係る本件発明1の発明特定事項となすことは、当業者が容易に想到し得たことと認められる。

(イ)相違点甲1-3
a はじめに、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項が有する技術的な意味について検討する。
技術常識1を参酌すると、飛散防止フィルムと基材フィルムの全体のリタデーションは、それぞれの配向主軸の方向が平行の場合は和(相加)、直交する場合は差(相滅)、その間の角度では相加(和)の値から相滅(差)の値まで連続的(三角関数的)に変化する。そうすると、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項である「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが、平行又は垂直である場合を除く」ことは、飛散防止フィルム基材フィルムの全体のリタデーションが、最大値や最小値の間で連続的(三角関数的)に変化する最大値と最小値の中間の値であることを意味するものと認められる。
b そこで検討すると、甲1発明に引用例2に記載されるような周知のタッチパネルを配置する際に、全体のリタデーションが3000nm?30000nmであれば課題を解決できるのであって、2枚の配向フィルムの配向主軸は、必ずしも平行、あるいは垂直(全体のリタデーションが最大値又は最小値)である必要はない。そうすると、全体のリタデーションが3000nm?30000nmとなる範囲内であって、両者の配向主軸を平行と直交の間の角度に配置すること、例えば0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除くように配置することも当業者が適宜為し得ることである。

(ウ)したがって、本件発明1は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

(2)本件発明2
ア 本件発明2と甲1発明を対比する。
(ア)本件発明1に「前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である」との特定事項を追加し、
(イ)本件発明1の画像表示装置から、さらに「但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合」を除くとともに、
(ウ)本件発明1が「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く」としているものを「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く」とする、
発明である。してみると、本件発明2と甲1発明は、
「(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)液晶セル、
(3)前記液晶セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置されるリタデーションを有するフィルム
を有し、
前記フィルムは、6000nm以上30000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して凡そ45度となるように配置される、
画像を表示する液晶表示装置。」
の点で一致し、相違点甲1-1、1-2、及び以下の相違点甲1-4、1-5、1-6で相違する。
相違点甲1-4:本件発明2は、「前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である」のに対し、甲1発明はそのようなものなのか否か不明である点。
相違点甲1-5:本件発明2は、本件発明2の画像表示装置から「前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合」を除くのに対し、甲1発明はそのようなものなのか否か不明である点。
相違点甲1-6:本件発明2は、「但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く」のに対し、甲1発明は、そのようなものなのか否か不明である点。

イ 判断
(ア)相違点甲1-1、1-2の判断は、上記(1)イと同様である。
(イ)相違点甲1-4について
甲第1号証には、甲1の技術事項(「厚み38μm、3724nmのリタデーションを有し、リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.848であるPETフィルム-1、
PETフィルム-1と同様の方法を用い、未延伸フィルムの厚みを変更して作成した、 厚み200μm、21520nmのリタデーションを有し、リタデーション(Re)と厚さ方向のリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.832であるPETフィルム-2」)が開示されており、上記相違点甲1-4に係る本件発明2の発明特定事項となすことは当業者に容易である。

(ウ)相違点甲1-5について
甲1発明は、「3000?30000nmのリタデーション(より好ましいリタデーションの下限値は6000nm)を有する高分子フィルム」を1枚用いて視認性を改善する発明である。そうすると、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層されることにはならないから、上記相違点甲1-5に係る本件発明2の発明特定事項となすことに困難性はない。

(エ)相違点甲1-6について
上記(1)イ(イ)の判断と同様の理由により、甲1発明に周知のタッチパネルを採用する際、全体のリタデーションが3000nm?30000nmであれば課題を解決できるのであって、2枚の配向フィルムの配向主軸は、必ずしも平行、あるいは垂直(全体のリタデーションが最大値又は最小値)である必要はない。そうすると、全体のリタデーションが3000nm?30000nmとなる範囲内であって、両者の配向主軸を平行と直交の間の角度に配置すること、例えば、0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除くことも当業者が適宜為し得ることである。

(オ)したがって、本件発明2は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

(3)本件発明3
ア 本件発明3と引用発明を対比する。
本件発明3は、本件発明1、2を引用する発明であり、
(ア)飛散防止フィルムの配向主軸が偏光子の偏光軸に対して配置される角度に関し、本件発明1、2では「45度±25度以下」と特定するものを「45度」に減縮するとともに、
(イ)本件発明1では「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合」を除き、本件発明2では「前記飛散防止フィルムの配光主軸と、前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合」を除くことに替えて、「前記飛散防止フィルムの配光主軸と前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合」を除く発明である。してみると、本件発明3と甲1発明は、
「(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)液晶セル、
(3)前記液晶セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置されるリタデーションを有するフィルム
を有し、
前記フィルムは、6000nm以上30000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配光主軸が前記偏光子の偏光軸に対して凡そ45度となるように配置される、
画像を表示する液晶表示装置。」
の点で一致し、上記相違点甲1-1、甲1-2及び以下の相違点甲1-7で相違する。
相違点甲1-7:本件発明3は、「但し、前記飛散防止フィルムの配光主軸と前記基材フィルムの配光主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除く」のに対し、甲1発明は、そのようなものなのか否か不明である点。

イ 判断
(ア)相違点甲1-1、甲1-2の判断は、上記(1)イ(ア)の判断と同様である。
(イ)相違点甲1-7について
上記(1)イ(イ)の判断と同様の理由により、甲1発明に周知のタッチパネルを採用する際、全体のリタデーションが3000nm?30000nmであれば課題を解決できるのであって、2枚の配向フィルムの配向主軸は、必ずしも平行、あるいは垂直(全体のリタデーションが最大値又は最小値)である必要はない。そうすると、全体のリタデーションが3000nm?30000nmとなる範囲内であって、両者の配向主軸を平行と直交の間の角度に配置すること、例えば、0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除くことも当業者が適宜為し得ることである。
(ウ)したがって、本件発明3は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものと認める。

(4)本件発明4
ア 対比
本件発明4は、本件発明1を引用する発明であり、
(ア)連続的な発光スペクトルを有する白色光源を、「白色発光ダイオード」に特定し、
(イ)基材フィルムのリタデーションを「1500nm以上2300nm未満」に減縮する発明である。ここで、甲1発明は、「バックライト光源として連続的な発光スペクトルを有する白色発光ダイオードを用いる」ことを踏まえると、本件発明4と甲1発明は、相違点甲1-1、1-3で相違するとともに、以下の相違点甲1-8で相違する。
相違点甲1-8:本件発明4は、「フィルム」よりも視認側に、「透明導電層が積層された基材フィルム」を配置し、「前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであ」るのに対し、甲1発明は、そのような基材フィルムを配置する旨の特定を有しない点。

イ 判断
(ア)相違点甲1-1、1-3の判断は、上記(1)イのとおりである。
(イ)相違点1-8について
「透明導電層が積層された基材フィルム」を配置することは、上記相違点甲1-2の判断と同様に、甲1発明に周知技術1を採用し、甲1発明の液晶表示装置の視認側にタッチパネルを配置すること、例えば、引用例2に記載されたタッチパネルを、甲1発明の液晶表示装置の視認側に配置することにより当業者が容易に想到し得ることである。しかしながら、「前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであ」ることは、上記「2(4)イ(ウ)」の相違点11の判断と同様の理由により、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。
(ウ)したがって、本件発明4は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(5)本件発明5
ア 対比
本件発明5は、本件発明2を引用する発明であり、
(ア)連続的な発光スペクトルを有する白色光源を、「白色発光ダイオード」に特定し、
(イ)基材フィルムのリタデーションを「1500nm以上2300nm未満」に減縮する発明である。してみると、本件発明5と甲1発明は、相違点甲1-1、1-4、1-5、1-6、1-8で相違する。

イ 判断
(ア)相違点甲1-1、1-4、1-5、1-6、1-8の判断は上記のとおりである。
(イ)したがって、本件発明5は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(6)本件発明6
ア 対比
本件発明6は、本件発明3を引用する発明であり、
(ア)連続的な発光スペクトルを有する白色光源を、「白色発光ダイオード」に特定し、
(イ)基材フィルムのリタデーションを「1500nm以上2300nm未満」に減縮する発明である。してみると、本件発明6と甲1発明は、相違点甲1-1、1-7、1-8で相違する。

イ 判断
(ア)相違点甲1-1、1-7、1-8の判断は上記のとおりである。
(イ)したがって、本件発明6は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

(7)小括
以上によれば、本件発明1-3は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、本件発明4-6は、甲1発明、甲1の技術事項、引用例2の記載事項、周知技術1、2、技術常識1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとは言えない。

第6 当審の判断(特許法第36条第6項第1号、第2号)
1 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)
(1)本件訂正請求により、本件発明1-6は、何れも、飛散防止フィルムと基材フィルムとのリタデーションに3000nm以上の差を有するものとなった。してみると、本件発明は、本件発明の課題を解決できないとは言えず、本件の請求項1-6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。
(2)本件訂正請求により、本件発明1-6は、何れも、飛散防止フィルムの配向主軸と偏光子の偏光軸とが形成する角が、45度、あるいは45度±25度以下に特定された。してみると、本件発明は、本件発明の課題を解決できないとは言えず、本件の請求項1-6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしている。

2 特許法第36条第6項第2号(明確性要件)
乙1号証(清水他監訳 ロングマン物理化学辞典 朝倉書店 1998年2月10日 157頁 屈折率の項)によれば、「ふつう屈折率というときは、ナトリウムの橙色の光(λ=589.3nm)での空気に対する値をいう」ものと解される。そして、リタデーションは、面内の屈折率の差と厚さで決まるから、リタデーションを測定した波長が記載されていないとしても、第三者が不測の不利益を受ける程度に特許請求の範囲の記載が不明確であるとはいえない。
したがって、本件の請求項1-6の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしている。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1-3は、引用例2を主引例とする理由、及び甲第1号証を主引例とする理由により、特許法第29条第2項の規定に違反する。したがって、本件発明1-3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件発明4-6については、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明4-6に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件発明4-6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置される、
画像表示装置(但し、前記飛散防止フィルムの配向主軸と前記基材フィルムの配向主軸とが形成する角が0度±2度以下又は90度±2度以下である場合を除く)。
【請求項2】
(1)連続的な発光スペクトルを有する白色光源、
(2)画像表示セル、
(3)前記画像表示セルよりも視認側に配置される偏光子、
(4)前記偏光子よりも視認側に配置される飛散防止フィルム、及び
(5)前記飛散防止フィルムよりも視認側に配置される、透明導電層が積層された基材フィルム
を有し、
前記基材フィルムは、100nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムであり、
前記飛散防止フィルムは、6000nm以上150000nm以下のリタデーションを有する配向フィルムであり、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度±25度以下となるように配置され、
前記飛散防止フィルムのリタデーション(Re)と厚さリタデーション(Rth)の比(Re/Rth)が0.2以上2.0以下である、
画像表示装置(但し、前記偏光子より視認側に3000nm以上のリタデーションを有するフィルムが3枚以上積層される場合、及び前記飛散防止フィルムの配向主軸と前記基材フィルムの配向主軸とが形成する角が0度±5度以下又は90度±5度以下である場合を除く)。
【請求項3】
前記飛散防止フィルムが、その配向主軸が前記偏光子の偏光軸に対して45度となるように配置される、請求項1又は2に記載の画像表示装置(但し、前記飛散防止フィルムの配向主軸と前記基材フィルムの配向主軸とが形成する角が0度±10度以下又は90度±10度以下である場合を除く)。
【請求項4】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項1に記載の画像表示装置。
【請求項5】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項2に記載の画像表示装置。
【請求項6】
前記連続的な発光スペクトルを有する白色光源が、白色発光ダイオードであり、
前記基材フィルムは、1500nm以上2300nm未満のリタデーションを有する配向フィルムである、
請求項3に記載の画像表示装置。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2019-12-12 
出願番号 特願2013-27750(P2013-27750)
審決分類 P 1 651・ 121- ZDA (G02F)
P 1 651・ 537- ZDA (G02F)
P 1 651・ 841- ZDA (G02F)
最終処分 一部取消  
前審関与審査官 磯野 光司  
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 星野 浩一
小松 徹三
登録日 2017-12-01 
登録番号 特許第6248394号(P6248394)
権利者 東洋紡株式会社
発明の名称 画像表示装置  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  

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